特許第6986788号(P6986788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986788
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】量子回路システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/22 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   H01L39/22 K
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-538738(P2020-538738)
(86)(22)【出願日】2019年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2019038936
(87)【国際公開番号】WO2021064901
(87)【国際公開日】20210408
【審査請求日】2020年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】321011251
【氏名又は名称】才田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】才田 大輔
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0292586(US,A1)
【文献】 特表2016−509800(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0232653(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0247974(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの量子状態を表すことができる第1量子回路及び第2量子回路と、
前記第1量子回路に電磁気的に接続され、少なくともシグナル線を有する第1導波路と、
前記第2量子回路に電磁気的に接続され、少なくともシグナル線を有する第2導波路と、
誘電体又は金属で構成され、前記第1量子回路及び前記第2量子回路が形成されている主面に設けられ、前記主面の法線方向において、前記第1導波路のシグナル線及び前記第2導波路のシグナル線の高さよりも高い遮蔽物と、
を備え
前記遮蔽物は、前記主面の裏面には設けられていない、
量子回路システム。
【請求項2】
前記遮蔽物は、前記主面の法線方向において、前記第1導波路のシグナル線及び前記第2導波路のシグナル線の上を覆わない、
請求項1に記載の量子回路システム。
【請求項3】
前記遮蔽物は、前記第1導波路及び前記第2導波路に沿って延伸している、
請求項1又は2に記載の量子回路システム。
【請求項4】
前記第1導波路及び前記第2導波路は、それぞれグランド線をさらに有し
前記遮蔽物は、前記グランド線上に設けられている、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の量子回路システム。
【請求項5】
前記第1導波路及び前記第2導波路は、前記第1量子回路及び前記第2量子回路が形成される主面と交差する方向に延伸し、
前記遮蔽物は、前記第1量子回路及び前記第2量子回路が形成される主面に設けられている、
請求項1に記載の量子回路システム。
【請求項6】
前記第1導波路及び前記第2導波路は、前記第1量子回路及び前記第2量子回路が形成される主面と交差する方向に延伸し、
前記遮蔽物は、前記第1量子回路及び前記第2量子回路が形成される主面から離間した面に設けられている、
請求項1に記載の量子回路システム。
【請求項7】
前記遮蔽物は、前記第1量子回路及び前記第2量子回路を電磁気的に接続する第1結合線路を覆うように、前記主面の法線方向において、前記第1結合線路よりも高い位置に設けられている、
請求項に記載の量子回路システム。
【請求項8】
前記遮蔽物は、前記第1量子回路及び前記第2量子回路と読出回路とを電磁気的に接続する第2結合線路を覆うように、前記主面の法線方向において、前記第2結合線路よりも高い位置に設けられている、
請求項又はに記載の量子回路システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子回路システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子コンピュータの実用化に向けて研究が進められている。例えば、下記非特許文献1では、トランズモンと呼ばれる量子回路が提案された。トランズモンは、電気的ノイズ耐性が高く、比較的長い緩和時間を有する。
【0003】
また、下記特許文献1には、開口を有する導波路と、導波路内に配設される非線形量子回路と、開口に結合される電磁場源とを備える量子情報処理システムが記載されている。
【0004】
さらに、下記特許文献2には、ジョセフソン接合による中断のない細長い薄膜と、細長い薄膜の近位端と電気接触している超伝導量子干渉デバイス(SQUID)であって、3つより少ないジョセフソン接合を有する、超伝導量子干渉デバイス(SQUID)と、細長い薄膜と同一平面内にあり、細長い薄膜の遠位端と電気接触している接地面とを備え、薄膜、SQUID及び接地面が、設計された動作温度において超伝導状態になる材料を含む、量子ビットデバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jens Koch, Terri M. Yu, Jay Gambetta, A. A. Houck, D. I. Schuster, J. Majer, Alexandre Blais, M. H. Devoret, S. M. Girvin, and R. J. Schoelkopf, "Charge-insensitive qubit design derived from the Cooper pair box," Phys. Rev. A 76, 042319, 2007
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−510497号公報
【特許文献2】特開2018−524795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランズモン等の量子回路の量子状態は、量子回路に接続された導波路に高周波電力を伝搬させることで操作されることがある。このとき、導波路を伝搬する電磁場が漏れて、他の導波路にも電力が伝搬することがあり、他の導波路に接続された量子回路の量子状態が意図せず変化してしまうことがある。
【0008】
このような意図しない量子状態の変化を訂正するために、量子エラー訂正の技術を用いることが検討されている。しかしながら、量子エラー訂正を実装するためには余分な量子回路を設ける必要があり、回路の大規模化が必要となる。
【0009】
そこで、本発明は、意図しない量子状態の変化を防止することができる量子回路システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る量子回路システムは、少なくとも2つの量子状態を表すことができる第1量子回路及び第2量子回路と、第1量子回路に電磁気的に接続された第1導波路及び第2量子回路に電磁気的に接続された第2導波路と、誘電体又は金属で構成され、第1量子回路及び第2量子回路が形成されている主面の法線方向において、第1導波路及び第2導波路の高さよりも高い遮蔽物と、を備える。
【0011】
この態様によれば、導波路の高さよりも高い遮蔽物を備えることで、漏れた電磁場を遮蔽することができ、量子回路について意図しない量子状態の変化を防止することができる。
【0012】
上記態様において、遮蔽物は、第1導波路及び第2導波路に沿って延伸していてもよい。
【0013】
この態様によれば、導波路の延伸方向を中心として広がる電磁場をより効率的に遮蔽することができる。
【0014】
上記態様において、第1導波路及び第2導波路は、それぞれグランド線及びシグナル線を含み、遮蔽物は、グランド線上に設けられていてもよい。
【0015】
この態様によれば、遮蔽物をグランド線上に設けることで、遮蔽物の高さをシグナル線より十分に高くし、シグナル線から漏れる電磁場を遮蔽することができる。
【0016】
上記態様において、第1導波路及び第2導波路は、第1量子回路及び第2量子回路が形成される主面と交差する方向に延伸し、遮蔽物は、第1量子回路及び第2量子回路が形成される主面に設けられていてもよい。
【0017】
この態様によれば、量子回路の量子状態を読み出す場合における複数の線路の干渉を抑えたり、量子回路間の相互作用の干渉を抑えたりすることができる。
【0018】
上記態様において、第1導波路及び第2導波路は、第1量子回路及び第2量子回路が形成される主面と交差する方向に延伸し、遮蔽物は、第1量子回路及び第2量子回路が形成される主面から離間した面に設けられていてもよい。
【0019】
この態様によれば、量子回路が形成される主面において生じた漏れ電磁場を遮蔽し、干渉を防ぐことができる。
【0020】
上記態様において、遮蔽物は、第1量子回路及び第2量子回路を電磁気的に接続する第1結合線路を覆うように、主面の法線方向において、第1結合線路よりも高い位置に設けられていてもよい。
【0021】
この態様によれば、第1結合線路において生じた漏れ電磁場を遮蔽し、他の回路との干渉を防ぐことができる。
【0022】
上記態様において、遮蔽物は、第1量子回路及び第2量子回路と読出回路とを電磁気的に接続する第2結合線路を覆うように、主面の法線方向において、第2結合線路よりも高い位置に設けられていてもよい。
【0023】
この態様によれば、第2結合線路において生じた漏れ電磁場を遮蔽し、他の回路との干渉を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、意図しない量子状態の変化を防止することができる量子回路システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係る量子回路システムのネットワーク構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る量子回路システムの構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態に係る量子回路の回路図の一例である。
図4a】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第1ステップを示す図である。
図4b】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第2ステップを示す図である。
図4c】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第3ステップを示す図である。
図4d】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第4ステップを示す図である。
図4e】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第5ステップを示す図である。
図4f】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第6ステップを示す図である。
図4g】本実施形態に係る量子回路の製造プロセスの第7ステップを示す図である。
図5a】本発明の第2実施形態に係る量子回路システムの構成の一例を示す斜視図である。
図5b】本実施形態に係る量子回路システムの構成の詳細を示す図である。
図6a】本発明の第3実施形態に係る量子回路システムの構成の一例を示す上面図である。
図6b】本実施形態に係る量子回路システムの構成を示す上面図である。
図6c】本実施形態に係る量子回路システムの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る量子計算システム100のネットワーク構成を示す図である。量子計算システム100は、量子回路システム10と、ユーザ端末20とを含む。量子回路システム10及びユーザ端末20は、インターネット、ローカルネットワーク、有線ケーブル等の通信ネットワークNを介して互いに通信可能に接続される。量子計算システム100のユーザは、汎用の古典コンピュータで構成されるユーザ端末20を用いて量子回路システム10にデータを入力したり、量子回路システム10によって行われた量子計算の結果を取得したりする。
【0028】
図2は、本実施形態に係る量子回路システム10の構成の一例を示す図である。量子回路システム10は、少なくとも2つの量子状態を表すことができる第1量子回路11a及び第2量子回路11bと、第1量子回路11aに電磁気的に接続された第1導波路12a及び第2量子回路11bに電磁気的に接続された第2導波路12bと、を備える。また、量子回路システム10は、第1導波路12aに高周波電力を伝搬させて第1量子回路11aを所定の量子状態に変化させる第1高周波電源13a及び第2導波路12bに高周波電力を伝搬させて第2量子回路11bを所定の量子状態に変化させる第2高周波電源13bを備える。さらに、量子回路システム10は、誘電体又は金属で構成され、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成されている主面の法線方向において、第1導波路12a及び第2導波路12bの高さよりも高い第1遮蔽物15a及び第2遮蔽物15bを備える。図2では、第1遮蔽物15a及び第2遮蔽物15bが金属で構成されており、接地されている場合を示している。もっとも、第1遮蔽物15a及び第2遮蔽物15bは、金属で構成されてグランドプレーン上に形成されていてもよいし、誘電体で構成されていてもよい。ここで、第1導波路12a及び第2導波路12bが、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成されている主面に凸状に形成されている場合、第1遮蔽物15a及び第2遮蔽物15bは、主面の法線方向において、第1導波路12a及び第2導波路12bの上面(主面に沿って延伸し、露出している面)より高い位置に形成されていてよい。また、第1導波路12a及び第2導波路12bが、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成されている主面に凹状に形成されている場合、第1遮蔽物15a及び第2遮蔽物15bは、主面の法線方向において、第1導波路12a及び第2導波路12bの上面(主面に沿って延伸し、露出している面)より高い位置に形成されていてよい。
【0029】
さらに、量子回路システム10は、少なくとも2つの量子状態を表すことができる第3量子回路11c及び第4量子回路11dと、第3量子回路11cに電磁気的に接続された第3導波路12c及び第4量子回路11dに電磁気的に接続された第4導波路12dと、を備える。また、量子回路システム10は、第3導波路12cに高周波電力を伝搬させて第3量子回路11cを所定の量子状態に変化させる第3高周波電源13c及び第4導波路12dに高周波電力を伝搬させて第4量子回路11dを所定の量子状態に変化させる第4高周波電源13dを備える。さらに、量子回路システム10は、誘電体又は金属で構成され、第3量子回路11c及び第4量子回路11dが形成されている主面の法線方向において、第3導波路12c及び第4導波路12dの高さよりも高い第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cを備える。本例では、第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cが金属で構成されており、接地されている場合を示している。もっとも、第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cは、金属で構成されてグランドプレーン上に形成されていてもよいし、誘電体で構成されていてもよい。ここで、第3導波路12c及び第4導波路12dが、第3量子回路11c及び第4量子回路11dが形成されている主面に凸状に形成されている場合、第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cは、主面の法線方向において、第3導波路12c及び第4導波路12dの上面(主面に沿って延伸し、露出している面)より高い位置に形成されていてよい。また、第3導波路12c及び第4導波路12dが、第3量子回路11c及び第4量子回路11dが形成されている主面に凹状に形成されている場合、第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cは、主面の法線方向において、第3導波路12c及び第4導波路12dの上面(主面に沿って延伸し、露出している面)より高い位置に形成されていてよい。
【0030】
第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dは、それぞれ同様の構成を有してよく、例えばトランズモンを含む量子回路であってよい。第1導波路12a、第2導波路12b、第3導波路12c及び第4導波路12dは、それぞれ同様の構成を有してよく、例えばコプレナー線路やマイクロストリップ線路等を含む導波路であってよい。第1高周波電源13a、第2高周波電源13b、第3高周波電源13c及び第4高周波電源13dは、それぞれ同様の構成を有してよく、例えば数GHzの高周波パルスを出力する電源を含んでよい。
【0031】
本明細書では、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dを含む複数の量子回路を単に量子回路11と呼ぶ。また、第1導波路12a、第2導波路12b、第3導波路12c及び第4導波路12dを含む複数の導波路を単に導波路12と呼び、第1高周波電源13a、第2高周波電源13b、第3高周波電源13c及び第4高周波電源13dを含む複数の高周波電源を単に高周波電源13と呼ぶ。さらに、第1遮蔽物15a、第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cを含む複数の遮蔽物を単に遮蔽物15と呼ぶ。
【0032】
第1導波路12aに高周波電力を伝搬させると、少なからず電磁場が漏れて、隣接する第2導波路12bに誘導電力が伝搬し、第2量子回路11bの量子状態に意図しない変化を加えてしまうおそれがある。同様に、第2導波路12bに高周波電力を伝搬させると、少なからず電磁場が漏れて、隣接する第1導波路12a及び第3導波路12cに誘導電力が伝搬し、第1量子回路11a及び第3量子回路11cの量子状態に意図しない変化を加えてしまうおそれがある。本実施形態に係る量子回路システム10は、導波路12の高さよりも高い遮蔽物15を備えることで、漏れた電磁場を遮蔽することができ、量子回路11について意図しない量子状態の変化を防止することができる。
【0033】
ここで、第1遮蔽物15a、第2遮蔽物15b及び第3遮蔽物15cは、それぞれ第1導波路12a、第2導波路12b、第3導波路12c及び第4導波路12dに沿って延伸している。これにより、導波路12の延伸方向を中心として広がる電磁場をより効率的に遮蔽することができる。
【0034】
図2では、4つの量子回路11と、4つの導波路12と、4つの高周波電源13と、3つの遮蔽物15を備える量子回路システム10を例示しているが、量子回路11、導波路12、高周波電源13及び遮蔽物15の数は任意である。高周波電源13の数が量子回路11の数より少なく、分波器等を介して量子回路11に接続される構造であってもよい。
【0035】
図3は、本実施形態に係る量子回路11の回路図の一例である。量子回路11は、ジョセフソン接合JJ及びキャパシタCを含むトランズモン111と、インダクタL及びキャパシタCを含む共振器112とを有する。高周波電源13は、入力キャパシタCinの一端に接続され、高周波電源13から出力される高周波パルスは、ゲートキャパシタCを介してトランズモン111に入力され、トランズモン111の量子状態を変化させる。ジョセフソン接合JJの数は1つとは限らず、並列に2つ接続されdc-SQUIDの構成とする場合や、サイズが異なるジョセフソン接合JJが並列に接続される場合(Flux qubit等)や、サイズが異なるジョセフソン接合JJが複数接続される場合(Fluxonium等)があり得る。このようにジョセフソン接合JJの数やサイズにより、系のエネルギーポテンシャルが目的に応じて調整されることがある。
【0036】
図4aは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第1ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第1ステップでは、金属層30の上にレジスト41,42,43がパターニングされる。
【0037】
図4bは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第2ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第2ステップでは、イオンビームエッチング、反応性イオンエッチング又は化学エッチング等により、金属層30をエッチングして、第1グランド線31、シグナル線32及び第2グランド線33を形成し、レジスト41,42,43を除去する。
【0038】
図4cは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第3ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第3ステップでは、マスク60を用いた斜め蒸着により、アルミニウム等の金属をシグナル線32に蒸着する。
【0039】
図4dは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第4ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第4ステップでは、斜め蒸着されたアルミニウム層50を自然酸化させ、酸化アルミニウム層51を形成する。ここで、酸化アルミニウム層51は絶縁層である。
【0040】
図4eは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第5ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第5ステップでは、マスク61を用いた斜め蒸着により、アルミニウム等の金属を酸化アルミニウム層51及びシグナル線32に蒸着する。
【0041】
図4fは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第6ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第6ステップでは、アルミニウム層52が酸化アルミニウム層51の上に形成され、ジョセフソン接合が形成される。
【0042】
図4gは、本実施形態に係る量子回路11の製造プロセスの第7ステップを示す図である。量子回路11の製造プロセスの第7ステップでは、マスク62を用いたスパッタ法等によって、第1グランド線31及び第2グランド線33の上に絶縁層又は金属層を堆積させ、第1遮蔽物15a及び第2遮蔽物15bを形成する。他、化学気相成長法等を用いてもよい。
【0043】
このように、導波路12は、それぞれグランド線31,33及びシグナル線32を含み、遮蔽物15は、グランド線31,33上に設けられていてよい。遮蔽物15をグランド線31,33上に設けることで、遮蔽物15の高さをシグナル線32より十分に高くし、シグナル線32から漏れる電磁場を遮蔽することができる。
【0044】
シグナル線32の幅をsと表し、シグナル線32とグランド線31の間の距離(シグナル線32とグランド線33の間の距離)をgと表すとき、グランド線31,33の幅をs+g以上として、グランド線31,33上に遮蔽物15を設けることで、電磁場をより効率的に遮蔽することができる。
【0045】
また、シグナル線32の中央に中心を有する半径s+gの仮想円と交差するように遮蔽物15を設けることで、電磁場をより効率的に遮蔽することができる。
【0046】
[第2実施形態]
図5aは、本発明の第2実施形態に係る量子回路システム10aの構成の一例を示す斜視図である。また、図5bは、本実施形態に係る量子回路システム10aの構成の詳細を示す図である。本実施形態に係る量子回路システム10aは、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dを備える。また、量子回路システム10aは、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dの量子状態を読み出すための読出回路14を備える。
【0047】
量子回路システム10aは、第1量子回路11aに電気的に接続された第1同軸ケーブル113aと、読出回路14に電気的に接続された読出同軸ケーブル14aとを備える。同様に、量子回路システム10aは、第2量子回路11bに電気的に接続された第2同軸ケーブル、第3量子回路11cに電気的に接続された第3同軸ケーブル及び第4量子回路11dに電気的に接続された第4同軸ケーブルを備える(不図示)。ここで、第1同軸ケーブル113aは、高周波電力を伝搬させて第1量子回路11aを所定の量子状態に変化させる第1高周波電源に電気的に接続される。また、第2同軸ケーブル、第3同軸ケーブル及び第4同軸ケーブルは、それぞれ、高周波電力を伝搬させて第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dを所定の量子状態に変化させる第2高周波電源、第3高周波電源及び第4高周波電源に電気的に接続される。
【0048】
本実施形態において、第1同軸ケーブル113a、第2同軸ケーブル、第3同軸ケーブル及び第4同軸ケーブルは、本発明の第1導波路、第2導波路、第3導波路及び第4導波路に相当する。本実施形態において、第1導波路及び第2導波路は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成される主面と交差する方向に延伸している。より具体的には、第1導波路及び第2導波路は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成される主面と略直行する方向に延伸している。
【0049】
また、量子回路システム10aは、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dが形成される主面に設けられた第1遮蔽物15a、第2遮蔽物15b、第3遮蔽物15c及び第4遮蔽物15dを備える。このような構成により、量子回路11の量子状態を読み出す場合における複数の線路の干渉を抑えたり、量子回路11間の相互作用の干渉を抑えたりすることができる。なお、第1遮蔽物15a、第2遮蔽物15b、第3遮蔽物15c及び第4遮蔽物15dは、図5aに実線で示す配置ではなく、破線で示す配置で設けられてもよいし、実線で示す配置と破線で示す配置の両方で設けられてもよい。
【0050】
[第3実施形態]
図6aは、本発明の第3実施形態に係る量子回路システム10bの構成の一例を示す上面図である。また、図6bは、本実施形態に係る量子回路システム10bの構成を示す上面図であり、図6cは、本実施形態に係る量子回路システム10bの構成を示す断面図である。なお、図6aでは、第3金属層153を図示せず、第3金属層153に覆われている第1結合線路17及び第2結合線路18を図示している。また、図6cは、図6bに示すVIc−VIc線における断面図である。
【0051】
本実施形態に係る量子回路システム10aは、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dを備える。また、量子回路システム10aは、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dの量子状態を読み出すための読出回路14を備える。
【0052】
量子回路システム10aは、第1量子回路11aに電気的に接続された第1同軸ケーブルと、読出回路14に電気的に接続された読出同軸ケーブルとを備える(不図示)。同様に、量子回路システム10aは、第2量子回路11bに電気的に接続された第2同軸ケーブル、第3量子回路11cに電気的に接続された第3同軸ケーブル及び第4量子回路11dに電気的に接続された第4同軸ケーブルを備える(不図示)。ここで、第1同軸ケーブルは、高周波電力を伝搬させて第1量子回路11aを所定の量子状態に変化させる第1高周波電源に電気的に接続される。また、第2同軸ケーブル、第3同軸ケーブル及び第4同軸ケーブルは、それぞれ、高周波電力を伝搬させて第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dを所定の量子状態に変化させる第2高周波電源、第3高周波電源及び第4高周波電源に電気的に接続される。
【0053】
本実施形態において、第1同軸ケーブル、第2同軸ケーブル、第3同軸ケーブル及び第4同軸ケーブルは、本発明の第1導波路、第2導波路、第3導波路及び第4導波路に相当する。本実施形態において、第1導波路及び第2導波路は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成される主面と交差する方向に延伸している。より具体的には、第1導波路及び第2導波路は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bが形成される主面と略直行する方向に延伸している。
【0054】
また、量子回路システム10bは、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dが形成される主面から離間した面に設けられている遮蔽物を備える。より具体的には、量子回路システム10bは、量子回路11が形成される主面から離間した面に設けられている第3金属層153を備える。このような構成により、量子回路11が形成される主面において生じた漏れ電磁場を遮蔽し、干渉を防ぐことができる。
【0055】
また、本実施形態において、遮蔽物は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bを電磁気的に接続する第1結合線路17を覆うように、主面の法線方向において、第1結合線路17よりも高い位置に設けられている。本実施形態では、第1結合線路17は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bと、第2量子回路11b及び第3量子回路11cと、第3量子回路11c及び第4量子回路11dと、第4量子回路11d及び第1量子回路11aと、をそれぞれ電磁気的に接続する。そして、遮蔽物である第3金属層153は、第1結合線路17を覆うように設けられている。このような構成により、第1結合線路17において生じた漏れ電磁場を遮蔽し、他の回路との干渉を防ぐことができる。
【0056】
また、本実施形態において、遮蔽物は、第1量子回路11a及び第2量子回路11bと読出回路14とを電磁気的に接続する第2結合線路18を覆うように、主面の法線方向において、第2結合線路18よりも高い位置に設けられている。本実施形態では、第2結合線路18は、第1量子回路11a及び読出回路14と、第2量子回路11b及び読出回路14と、第3量子回路11c及び読出回路14と、第4量子回路11d及び読出回路14と、をそれぞれ電磁気的に接続する。そして、遮蔽物である第3金属層153は、第2結合線路18を覆うように設けられている。このような構成により、第2結合線路18において生じた漏れ電磁場を遮蔽し、他の回路との干渉を防ぐことができる。
【0057】
本実施形態の遮蔽物は、第1金属層151、第2金属層152及び第3金属層153を含む。第1金属層151は、第1量子回路11a、第2量子回路11b、第3量子回路11c及び第4量子回路11dを囲むように矩形状に形成されている。また、第2金属層152は、2つの量子回路11と読出回路14とで形成される三角領域に三角形状に形成されている。第3金属層153は、第1金属層151と第2金属層152にまたがる部分と、第2金属層152にまたがる部分とを含む。第3金属層153のうち第1金属層151と第2金属層152にまたがる部分は、第1結合線路17を覆う。また、第3金属層153のうち第2金属層152にまたがる部分は、第2結合線路18を覆う。なお、第2金属層152は、図6aに実線で示す配置ではなく、破線で示す配置で設けられてもよいし、実線で示す配置と破線で示す配置の両方で設けられてもよい。
【0058】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…量子回路システム、10a…第2実施形態に係る量子回路システム、10b…第3実施形態に係る量子回路システム、11a…第1量子回路、11b…第2量子回路、11c…第3量子回路、11d…第4量子回路、12a…第1導波路、12b…第2導波路、12c…第3導波路、12d…第4導波路、14…読出回路、14a…読出同軸ケーブル、13a…第1高周波電源、13b…第2高周波電源、13c…第3高周波電源、13d…第4高周波電源、14…読出回路、15a…第1遮蔽物、15b…第2遮蔽物、15c…第3遮蔽物、17…第1結合線路、18…第2結合線路、20…ユーザ端末、30…金属層、31…第1グランド線、32…シグナル線、33…第2グランド線、41,42,43…レジスト、50,52…アルミニウム層、51…酸化アルミニウム層、60,61,62…マスク、100…量子計算システム、111…トランズモン、112…共振器、113a…第1同軸ケーブル、151…第1金属層、152…第2金属層、153…第3金属層
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図5a
図5b
図6a
図6b
図6c