特許第6986793号(P6986793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6986793ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6986793
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20211213BHJP
   A61K 8/18 20060101ALI20211213BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20211213BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211213BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   C12Q1/686 Z
   A61K8/18
   A61Q19/00
   G01N33/53 M
   !C12N15/11 ZZNA
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2021-16864(P2021-16864)
(22)【出願日】2021年2月4日
【審査請求日】2021年9月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 凌輔
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 祐一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−528840(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0037954(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0153044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/686
A61K 8/18
A61Q 19/00
G01N 33/53
C12N 15/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取したDNA含有試料について、以下の(a1)〜(a5)の1種又は2種以上の一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、ストレスの感じ易さの遺伝的素因を判定する方法。
(a1) 配列番号1に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs74548608で特定されるSNP)
(a2) 配列番号2に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs57001330で特定されるSNP)
(a3) 配列番号3に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs6950885で特定されるSNP)
(a4) 配列番号4に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs8092883で特定されるSNP)
(a5) 配列番号5に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs2359433で特定されるSNP)
【請求項2】
請求項1に記載の方法により判定された結果に基づいて、被験者のストレスの感じ易さの遺伝的素因の程度に応じたストレスの予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を該被験者に提供する、化粧料及び/又は飲食品の提供方法。
【請求項3】
配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列において、101番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、及び/又は、配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列において、101番目の塩基を含む領域を増幅することのできるプライマーを含む、ストレスの感じ易さの遺伝的素因を判定するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定方法に関する。より詳しくは、ストレスの感じ易さに関連する一塩基多型(SNP)を検出することによる、ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定方法、及び該方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスとは生物が外部から刺激を受けた際に心身に生じる緊張状態のことをいう。ストレスには騒音や照明等の環境的要因、病気やけが等の身体的要因、不安や緊張等の心理的要因、多忙や重責等の社会的要因等が挙げられる。皮膚は、ストレスの影響を受けやすい組織であると考えられており、過度なストレスは自律神経やホルモンバランスの乱れを引き起こし、様々な皮膚トラブルの原因となる。例えば、ストレスにより皮膚内において神経関連物質サブスタンスPが分泌され、肌荒れが惹起されることが報告されている(特許文献1)。また、皮膚の色素沈着症状は紫外線だけでなく、ストレスによっても引き起こされることが明らかにされてきた(非特許文献1)。
【0003】
ストレス状態の評価方法として、被験者から採取した血液中のコルチゾールを指標とする方法(特許文献2)、被験者から採取した唾液中のα−アミラーゼ活性を指標とする方法(特許文献3)等が知られている。しかしながら、これらの手法は、被験者の現在のストレスの状態を評価するものであり、被験者が本来的に有しているストレスの感じ易さ(遺伝的素因)を評価するものではなかった。一方、うつ病等の精神神経疾患や不安神経質な性格と連関する遺伝的素因としてノルアドレナリントランスポーターやセロトニントランスポーターに関連する遺伝子多型が報告されている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−185103号公報
【特許文献2】特開2012−251857号公報
【特許文献3】特開2002−168860号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】神永博子,四宮達郎,日皮会誌,107(5):615−622,1997.
【非特許文献2】Kazuyuki I. et al, Positive Association between T-182C Polymorphism in the Norepinephrine Transporter Gene and Susceptibility to Major Depressive Disorder in a Japanese Population, 2004, Neuropsychobiology 50(4):301-4
【非特許文献3】K.P.Lesch et al., Association of anxiety-related traits with a polymorphism in the serotonin transporter gene regulatory region, 1996, SCIENCE. vol. 274.5292.1527-1531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、個人のストレスの感じ易さの遺伝的素因を正確かつ簡便に判定する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ストレスの感じ易さの遺伝的素因と関連する特定の一塩基多型(SNP)を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] 被験者から採取したDNA含有試料について、以下の(a1)〜(a5)の1種又は2種以上の一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、ストレスの感じ易さの遺伝的素因を判定する方法。
(a1) 配列番号1に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs74548608で特定されるSNP)
(a2) 配列番号2に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs57001330で特定されるSNP)
(a3) 配列番号3に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs6950885で特定されるSNP)
(a4) 配列番号4に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs8092883で特定されるSNP)
(a5) 配列番号5に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs2359433で特定されるSNP)
[2] [1]に記載の方法により判定された結果に基づいて、被験者のストレスの感じ易さの遺伝的素因の程度に応じたストレスの予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を該被験者に提供する、化粧料及び/又は飲食品の提供方法。
[3] 配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列において、101番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、及び/又は、配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列において、101番目の塩基を含む領域を増幅することのできるプライマーを含む、ストレスの感じ易さの遺伝的素因を判定するためのキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、被験者の生体試料に存在するゲノム由来のDNAに含まれる一塩基多型(SNP)のアレルを検出することにより、該被験者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有するかを正確かつ簡便に判定することができる。よって、この判定結果に基づき、ストレスの予防や改善のための対策を早期に講じることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定方法
本発明のストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定方法は、被験者から採取したDNA含有試料について、以下の(a1)〜(a5)の1種又は2種以上の一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む。
(a1) 配列番号1に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs74548608で特定されるSNP)
(a2) 配列番号2に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs57001330で特定されるSNP)
(a3) 配列番号3に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs6950885で特定されるSNP)
(a4) 配列番号4に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs8092883で特定されるSNP)
(a5) 配列番号5に示される塩基配列の101番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs2359433で特定されるSNP)
【0011】
上記の(a1)〜(a5)のSNPを含む塩基配列([]内はSNPを表す)を表1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
後述の実施例の結果に示すように、上記(a1)〜(a5)のSNPは、ストレスの感じ易さの遺伝的素因と統計学的に関連が示唆されたものである。上記(a1)〜(a5)のSNPは1種でもストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定が可能であるが、2種以上を組み合わせることにより判定精度をより高めることができる。例えば、2種の組み合わせでは、rs74548608とrs57001330、rs74548608とrs6950885、rs74548608とrs8092883、rs74548608とrs2359433との組み合わせが好ましく、rs74548608とrs57001330の組み合わせが特に好ましい。
【0014】
一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP、以下、「SNP」と記載する場合がある)とは、一般的には、遺伝子の塩基配列が1箇所だけ異なる状態及びその部位をいう。また、多型とは、一般的には、母集団中1%以上の頻度で存在する2以上の対立遺伝子(アレル)をいう。本発明における「SNP」は、当業者が自由に利用可能な公開されたデータベースである米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information :NCBI)のSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)に登録されたSNPであって、そのリファレンス番号であるrs番号により特定できる。
【0015】
本明細書において「アレル」とは、あるSNP部位において取りうる、互いに異なる塩基を有するそれぞれの型をいう。また、本明細書において「遺伝型」とは、あるSNP部位において、対立するアレルの組み合わせをいう。あるSNP部位において、前記組み合わせである遺伝型には3つの型があり、同じアレルの組み合わせをホモ型とよび、異なるアレルの組み合わせをヘテロ型という。例えば、(a1)のrs74548608で特定されるSNPにおいて対立するアレルの組み合わせである遺伝型には、C/C型、C/G型、G/G型の3つの型が存在する。
【0016】
本発明の判定方法において、「一塩基多型(SNP)のアレルを検出する」とは、そのSNPのアレルの塩基の種類を同定することを意味し、「一塩基多型(SNP)のアレルを検出する」の態様には、当該SNPの一方のアレルを検出すること、当該SNPの両方のアレルを検出すること、当該SNPの遺伝型を同定することを含むものとする。
【0017】
本発明の判定方法においては、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定する。具体的には、(a1)〜(a5)の一塩基多型(SNP)において、下記表2に示すリスクアレルが、少なくとも一方のアレルにおいて検出されれば、該リスクアレルが検出されない場合と比較して、ストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定できる。例えば、騒音や照明等の環境的要因、病気やけが等の身体的要因、不安や緊張等の心理的要因、多忙や重責等の社会的要因による身体や精神の異常や不調が発生する可能性が高いと判定できる。
【0018】
例えば、(a1)のrs74548608で特定されるSNPの場合は、その遺伝型がC/C型であることが、C/G型又はG/G型である場合よりもストレスを感じ易いことを示し、その遺伝型がC/G型であることが、G/G型である場合よりもストレスを感じ易いことを示す。すなわち、C/C型、C/G型、G/G型の順で、ストレスを感じ易さが高いことを示す。
【0019】
【表2】
【0020】
本発明の判定方法において、被験者の人種は、特に限定はされないが、好ましくは東アジア人、より好ましくは日本人である。ここで、東アジア人とは、日本、朝鮮、中国、台湾及びモンゴルの人々のいずれかを起源に持つ人をいう。
【0021】
本発明の判定方法において用いるDNA含有試料としては、被験者より採取されたDNAを含有する生体試料であれば、特に限定されない。DNA含有試料に含まれるDNAは、ゲノムDNAであることが好ましいが、検出するSNPが、プロモーター等の非転写領域や、イントロン等のRNAスプライシングにより除かれる領域以外の、mRNA中に存在する領域に位置するSNPである場合には、ゲノムDNAの代わりにmRNAやtotal RNAを含む生体試料を使用してもよい。DNA含有試料としては、例えば、ゲノムDNAを採取可能な任意の体液、分泌液、組織、細胞、組織や細胞の培養物等を使用することができ、具体的には、被験者の唾液、血液、尿、喀痰、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、口腔(内頬)粘膜ぬぐい液、涙腺分泌液、汗、毛髪、爪、皮膚、粘膜、皮膚付着後に剥がしたテープストリップ等が挙げられるが、容易性及び低侵襲性の点から、唾液が好ましい。当該試料は、一般的な臨床検査で行われている方法に従って採取し、公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。その際、市販のゲノムDNA抽出キットを使用することができる。
【0022】
SNPの検出及びSNPの型の判定(SNPタイピング)の方法は、特に制限されず、例えばアレル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法等により増幅し、増幅産物の多型を蛍光又は発光によって検出する方法等、公知の方法により行うことできる。例えば、PCR-RFLP (restriction fragment length polymorphism)法、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism)法、PCR-SSO (sequence specific oligonucleotide)法、ダイレクトシークエンス(direct sequencing)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、ASP-PCR(Allele Specific Primer-PCR)法、Snapshot法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、TaqMan PCR法、インベーダー法、MALDI-TOF/MS法、RNase A切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)等が挙げられる。上記方法はいずれも当業者に周知の方法であり、また、SNPの型の判定のための試薬やキットも市販されており、例えば、TaqMan SNP Genotyping Assays (Thermo Fisher Scientific社製)等を用いることができる。
【0023】
上記の判定方法により得られた結果は、被験者がストレスの予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を選択する上で有用な指標となり、例えば、ストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定された被験者に対して、ストレスを予防及び/又は改善する対策を推奨できる。よって、本発明の別の側面によれば、上記の判定方法により得られた結果に基づいて、被験者のストレスを感じ易さの遺伝的素因の程度に応じたストレスの予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を該被験者に提供する、化粧料及び/又は飲食品の提供方法もまた提供される。例えば、慢性的な心理的ストレスは多くの皮膚トラブルや皮膚疾患の発症、増悪に関与していることがわかっており、そのような症状として肌荒れ、色素沈着、蕁麻疹、大人のニキビ、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、尋常性白斑、尋常性乾癬等が挙げられる。よって、ストレスの予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品は、このような皮膚トラブルや皮膚疾患の予防及び/又は改善にも有効である。例えば、化粧料及び/又は飲食品の提供には、ストレス緩和効果を有する活性成分や香り成分を配合した化粧料及び/又は飲食品の提供のほか、気分の高揚やリラクゼーション効果等の心理的効果があるとされるメイキャップの推奨やメイキャップ方法の提供も含まれる。
【0024】
2.ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定用キット
上記のSNPの検出及びタイピング方法では、各方法に応じたプローブやプライマーが使用される。このようなプローブやプライマーもまた本発明の範囲に包含され、キットとして提供できる。
【0025】
プローブとしては、上記のSNP部位を含み、ハイブリダイズの有無によってSNP部位の塩基の種類を判別できるプローブが挙げられる。具体的には、配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列の101番目の塩基を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上の配列又はその相補配列を有するプローブが挙げられる。プローブの長さは好ましくは15〜40塩基、より好ましくは20〜35塩基である。また、プローブは、適当な標識物質で標識されていてもよく、標識物質としては、例えば、酵素(ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、蛍光物質(FITC、RITC、Cy3、Cy5等)、発光物質(ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、放射性同位元素(3H、14C、32P、125I、131I等)、ビオチン、ジゴキシゲニン、タグ配列を含むポリペプチド等が挙げられる。あるいは、蛍光物質の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。
【0026】
また、プローブは固相に固定されていてもよい(DNAアレイ)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNAをハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズを同時に検出することが可能である。よって、多数のSNP部位を同時に解析するには、DNAアレイは有用である。アレイに搭載するプローブとなるオリゴヌクレオチドは、通常in situで合成される。例えば、リソグラフィー方式(Thermo Fisher Scientific社)、インクジェット方式(Agilent社)、ビーズアレイ方式(Illumina社)等によるオリゴヌクレオチドのin situ合成法が知られている。
【0027】
また、プライマーとしては、上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記SNP部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列の101番目の塩基を含む領域を増幅したり、シークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマーは、該SNP部位を含む領域のDNAを鋳型として、該SNP部位に向かって相補鎖合成を開始することができるオリゴヌクレオチドであればよく、このようなプライマーの長さは10〜30塩基が好ましく、15〜25塩基がより好ましい。プライマーは、配列番号1〜5のいずれかに示される塩基配列において、SNP部位の上流又は下流の位置に設定することができる。
【0028】
当業者であれば、SNP部位を含む周辺DNA領域の塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプローブ及びプライマーを設計することができる。また、プローブ及びプライマーとなるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホロアミダイト法、H−ホスホネート法等により、通常用いられるDNA自動合成装置を利用して合成することが可能である。
【0029】
本発明のキットには、上記のプローブ及びプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドを少なくとも含んでいればよい。また、当該キットには、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、固定化担体、標識物質、標識の検出に用いられる基質化合物、陽性や陰性の標準試料、キットの使用方法を記載した指示書等を含めることもできる。なお、キット中の試薬は溶液でも凍結乾燥物でもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)ストレスの感じ易さの遺伝的素因に関連する一塩基多型(SNP)の同定
本試験を実施するにあたり、同意書、遺伝型判定等について、自社における倫理審査委員会によって承認を受けた。同意書のサインにて同意を受けたサンプル提供者よりサンプル採取を行い、遺伝型判定及び関連解析を行った。
【0032】
(1) DNAサンプル
698人の女性被験者(日本人、平均年齢55.1歳)から唾液を採取し、Maxwell RSC Stabilized Saliva DNA Kit(プロメガ社製)を使用してゲノムDNAを抽出し、DNAサンプルを得た。
【0033】
(2) 解析したSNP
SNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)に登録されたSNPの内、rs74548608、rs57001330、rs6950885、rs8092883、rs2359433、比較としてノルアドレナリントランスポーターに関連するSNPであるrs2242446を解析の対象とした。
【0034】
(3) 遺伝型の決定
(1)で得られたDNAサンプルについて、TaqMan SNP Genotyping Assays(Applied Biosystems社製)及びSsoAdvanced Universal Probes Supermix(Bio Rad社製)を用い、CFX384 Touch Real-Time PCR Detection System(Bio Rad社製)にて上記解析対象のSNPの遺伝型の決定を行った。
【0035】
(4) 表現型データ(ストレスの感じ易さ)
ストレスの感じ易さに関するアンケート項目は、「日頃ストレスは感じますか?」という質問に対して、「1.感じない」、「2.時々感じる」、「3.強く感じる」の3つの選択肢から1つを回答するものであり、間隔尺度として扱った。
【0036】
(5) 関連解析
遺伝型データとストレスの感じ易さとの関連性について、表現型データを目的変数、遺伝型データのマイナーアレルの本数、及び年齢を説明変数とした重回帰分析を行い、前記マイナーアレルの本数の偏回帰係数のp値を評価した。6種のSNPを解析したため、第一種の過誤の増大を回避するためにボンフェローニ法により有意水準を補正し、p値が8.3E-03未満の場合に有意な関連性があるものと判断した。
【0037】
(6) 結果
解析を行った各SNPが存在する染色体番号、物理位置、アレル及びリスクアレルの塩基、回帰係数、p値を下記表3に示す。p値の欄において、それぞれのp値は10を底とする指数形式で表示され、符号Eの前後に記載された数値はそれぞれp値を指数形式で表示した際の仮数部と指数部を示す。
【0038】
【表3】
【0039】
その結果、rs74548608、rs57001330、rs6950885、rs8092883、rs2359433は、ストレスの感じ易さの遺伝的素因と有意な関連性があり、ストレスの感じ易さを判定できるSNPとして同定することができた。一方で、比較例として用いたrs2242446に関してはストレスの感じ易さとの関連は見られなかった。
【0040】
(実施例2)ストレスの感じ易さの遺伝的素因に関連する一塩基多型(SNP)による多変量解析
実施例1で同定されたSNPについて、ストレスの感じ易さの遺伝的素因の判定精度を高めることができるSNPの組み合わせについて検討を行った。具体的には、表現型データを目的変数、2つの当該SNPの遺伝型データのリスクアレルの本数を説明変数とした重回帰分析において、決定係数R2を算出し、判定精度の比較を行った。結果を下記表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4に示されるように、同定された当該SNPから2個のSNPを選択したとき、rs74548608と他の4種のSNPのいずれか1種との組み合わせで重回帰式の精度を示す指標である決定係数R2が大きくなり、rs74548608とrs57001330との組み合わせで最大になった。以上から、rs74548608とrs57001330、rs6950885、rs8092883、rs2359433のいずれかを組み合わせて、特にrs74548608とrs57001330を組み合わせて判定を行うことにより、判定精度をより効果的に向上させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の方法により、サンプル提供者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有するかどうかを正確かつ簡便に判定することができる。よって、その判定結果に基づき、サンプル提供者にカスタマイズしたストレス予防や改善のための化粧品やサプリメントを提供すること、またストレス予防、改善のためのケア方法に関するカウンセリングやアドバイスを行うことが可能となる。
【要約】
【課題】個人のストレスの感じ易さの遺伝的素因を正確かつ簡便に判定する手段を提供すること。
【解決手段】被験者から採取したDNA含有試料について、配列番号1〜5に示される塩基配列の101番目の一塩基多型(SNP)部位のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者がストレスを感じ易い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、ストレスの感じ易さの遺伝的素因を判定する方法。
【選択図】なし
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]