特許第6986807号(P6986807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MOSIL株式会社の特許一覧

特許6986807土壌の植物生産性を改善する微生物の使用
<>
  • 特許6986807-土壌の植物生産性を改善する微生物の使用 図000005
  • 特許6986807-土壌の植物生産性を改善する微生物の使用 図000006
  • 特許6986807-土壌の植物生産性を改善する微生物の使用 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986807
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】土壌の植物生産性を改善する微生物の使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20211213BHJP
   C05F 17/20 20200101ALI20211213BHJP
   C05F 17/50 20200101ALI20211213BHJP
   A01G 7/00 20060101ALN20211213BHJP
   A01N 63/20 20200101ALN20211213BHJP
   A01N 63/22 20200101ALN20211213BHJP
   A01P 21/00 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C05F17/20ZNA
   C05F17/50
   C12N1/20 E
   !A01G7/00 605A
   !A01N63/20
   !A01N63/22
   !A01P21/00
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2021-517509(P2021-517509)
(86)(22)【出願日】2020年10月1日
(86)【国際出願番号】JP2020037476
(87)【国際公開番号】WO2021066115
(87)【国際公開日】20210408
【審査請求日】2021年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2019-182447(P2019-182447)
(32)【優先日】2019年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02974
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03025
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03026
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519357729
【氏名又は名称】MOSIL株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】宮下 紘樹
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−227323(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2017−0043768(KR,A)
【文献】 特表2018−502869(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101473853(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0143295(US,A1)
【文献】 PHEOMPHUN, Piyatida et al.,Contribution of Bacillus cereus ERBP in ozone detoxification by Zamioculcas zamiifolia plants: Effec,Ecotoxicology and Environmental Safety,2019年01月17日,2019, Vol. 171,pp. 805-812,ISSN 0147-6513
【文献】 AHMAD, Iftikhar et al.,Combined application of compost and Bacillus sp. CIK-512 ameliorated the lead toxicity in radish by,Ecotoxicology and Environmental Safety,2017年11月28日,2018, Vol. 148,pp. 805-812,ISSN 0147-6513
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
C05F 17/20
C05F 17/50
A01G 7/00
A01N 63/20
A01N 63/22
A01P 21/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CABA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−02974で寄託されている細菌株。
【請求項2】
特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03025で寄託されている細菌株。
【請求項3】
特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03026で寄託されている細菌株。
【請求項4】
請求項のいずれか1項に記載の細菌株を含む堆肥。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌を用いた、土壌の植物生産性を改善するための組成物、方法、及び堆肥、ならびに植物の抗酸化活性を増大させるための組成物、微生物、及び堆肥に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的窒素固定によって製造されるアンモニアや石灰窒素は、窒素質化学肥料やその原料であり、現代農業において、広く作物栽培に利用されている。しかしながら、工業的窒素固定は、反応基質の一部と反応に要するエネルギーを化石資源に依存しており、その持続性には限界がある。また、化石炭素の大規模な利用は、地球環境の安定性を損なう要因の一つとなっている。したがって、生物的窒素固定の農業利用を増進する技術は持続的農業体系に不可欠であることから、これまでに、植物に窒素を供給し、植物の成長を促進する微生物に関する研究が広く行われている。
【0003】
土壌の菌相は、土壌の植物生産性に影響を与えることが知られており、具体的には、リゾビウム(Rhizobiales)目やiii1−15目に属する細菌の存在比率は、土壌の植物生産性に対して正の相関性を示し、また、アキドバクテリウム(Acidobacteriales)目やソリバクテリウム(Solibacterales)目に属する細菌の存在比率は、土壌の植物生産性に対して負の相関性を示すことが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、これまでに、土壌の菌相を人為的に操作する手法については確立されておらず、それゆえ、このような手法を用いた土壌の植物生産性を改善することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wang et al., PLoS One, 13, e0204085 (2018)
【非特許文献2】Fujita et al., Soil Science and Plant Nutrition, 60, 156-161 (2014)
【非特許文献3】Kumar et al., BMC Research Notes, 5, 137 (2012)
【非特許文献4】Mohammed et al., Agronomy Journal, 109, 309-316 (2017)
【非特許文献5】Czarnik et al., Emirates Journal of Food and Agriculture, 29, 988-993 (2017)
【非特許文献6】Waraich et al., Australian Journal of Crop Science, 7, 1551-1559 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、土壌の菌相を操作することにより、土壌の植物生産性を改善すること、及び、植物の抗酸化活性を増大させることにより、植物の生産性やその収穫物の品質を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌を土壌に添加することにより、土壌の菌相が変化し、これにより、植物の生産性を有意に改善することが可能となるという驚くべき知見を見出した。さらに、本願発明者らは、バシラス(Bacillales)属、プロミクロモノスポラ(Promicromonospora)属、又はオリビバクター(Olivibacter)属に属する細菌が、植物の抗酸化活性を増大させるという驚くべき知見を見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の通りである。
[1] リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌を含む、土壌の植物生産性を改善するための組成物。
[2] 土壌の植物生産性を改善する方法であって、前記土壌にリゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌を添加することを含む、方法。
[3] 前記植物がアブラナ科植物である、2に記載の方法。
[4] 前記アブラナ科植物がカメリナ又はコマツナである、3に記載の方法。
[5] 前記土壌の植物生産性が改善することにより、植物あたりの鞘数、植物あたりの種子数、及び/又は植物体の重量が増大する、2〜4のいずれかに記載の方法。
[6] リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌、ならびに、アクチノミセス(Actinomycetales)目に属する細菌、バシラス(Bacillales)目に属する細菌、ガイエラレス(Gaiellales)目に属する細菌、ミクソコッカス(Myxococcales)目に属する細菌、iii1−15目に属する細菌、ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目に属する細菌、キサントモナス(Xanthomonadales)目に属する細菌、バークホルデリア(Burkholderiales)目に属する細菌、及びゲルマタレス(Gemmatales)目に属する細菌を含む堆肥。
[7] 前記堆肥中の前記リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌の存在比率が9%以上であり、かつ、前記iii1−15目に属する細菌の存在比率が6%以下である、6に記載の堆肥。
[8] アブラナ科植物を栽培するための、6又は7に記載の堆肥。
[9] 前記アブラナ科植物がカメリナ又はコマツナである、8に記載の堆肥。
[10] 植物の抗酸化活性を増大させるための組成物であって、バシラス(Bacillales)属、プロミクロモノスポラ(Promicromonospora)属、又はオリビバクター(Olivibacter)属に属する細菌を含む、組成物。
[11] 前記バシラス(Bacillales)属に属する細菌が、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)であり、プロミクロモノスポラ(Promicromonospora)属に属する細菌が、プロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)であり、オリビバクター(Olivibacter)属に属する細菌が、オリビバクター種(Olivibacter sp.)である、10に記載の組成物。
[12] バシラス・セレウス(Bacillus cereus)が、特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−02974で寄託されている株であり、プロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)が、特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03025で寄託されている株であり、オリビバクター種(Olivibacter sp.)が、特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03026で寄託されている株である、11に記載の組成物。
[13] 特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−02974で寄託されている細菌株。
[14] 特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03025で寄託されている細菌株。
[15] 特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03026で寄託されている細菌株。
[16] 13〜15のいずれかに記載の細菌株を含む堆肥。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、土壌の植物生産性が改善され、植物あたりの鞘数、植物あたりの種子数、及び/又は植物体の重量が増大することにより、植物の収量を有意に向上させること、ならびに、植物の抗酸化活性が増大することにより、酸化ストレスに関連する植物の生産性やその収穫物の品質(例えば、機能性、耐病性、保存性など)を有意に改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)本発明に係る堆肥を用いて栽培されたカメリナの写真である。(B)収穫したカメリナの写真である。左側は試験区のものであり、右側は対照区のものである。
図2】試験区及び対照区、ならびに、以下の文献に開示される各国:日本(非特許文献2)、インド(非特許文献3)、米国(非特許文献4)、ポーランド(非特許文献5)、カナダ、フランス、オーストラリア、ドイツ及びチリ(非特許文献6)における、カメリナの収量の比較を表す。
図3】試験区及び対照区におけるコマツナの植物体重量の比較を表す。エラーバーは標準誤差を示す(n=6)。2つの区間にはスチューデントのt検定により1%水準で有意差あり。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の態様において、リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌を含む、土壌の植物生産性を改善するための組成物が提供される。
【0011】
本発明において、「土壌の植物生産性を改善する」とは、土壌が本来有する植物の成長能を促進させ、これによって、植物の収量、例えば、植物あたりの鞘数、植物あたりの種子数、及び/又は植物体の重量を増大させることを意味する。
【0012】
リゾビウム(Rhizobiales)目は、アルファプロテオバクテリア綱に属す目であり、17科130属を超える大型の目である。リゾビウム(Rhizobiales)目は、多様な種を含む。植物と共生する種の中には、根粒を形成するものもあり、これは植物に窒素を供給するため、農業的に重要である。農業的に重要なリゾビウム(Rhizobium)種としては、例えば、共生的窒素固定を介して、マメ科植物の根上に小瘤を形成することができるN2固定細菌リゾビウム(Rhizobium)種が挙げられ、大気のN2を、大気のN2とは対照的に植物によって窒素源として使用され得るアンモニアに変換する。
【0013】
本発明の組成物に含まれるリゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌の濃度は、典型的には、106CFU/g以上、好適には、107CFU/g以上、最適には、108CFU/g以上である。
【0014】
本発明の組成物は、固体でも液体であってもよく、活性成分であるリゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌以外にも、増加した安定性、湿潤性、又は分散性などの多様な特性を付与する担体を含んでよい。担体は、典型的には、農業用担体であり、土壌、植物成長培地、水、肥料、植物系油、湿潤剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
本発明の別の態様において、土壌の植物生産性を改善する方法であって、前記土壌にリゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌を添加することを含む、方法が提供される。
【0016】
リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌の土壌への添加は、例えば、上記本発明の組成物を、所望の植物の植栽に先行して行われるか、又は植栽時に土壌と混合することによって行うことができる。
【0017】
当該方法により生産性が改善される植物としては、特に制限されることなく、典型的には、農作物であり、アブラナ科、イネ科、マメ科、キク科、ナス科、バラ科、ウリ科、ヒルガオ科などの植物が挙げられ、好適には、アブラナ科植物である。アブラナ科植物としては、カメリナ又はコマツナが挙げられる。とりわけ、カメリナは、油を得るために古くからヨーロッパで栽培されている作物の一つであり、高い油生産能力を有すると共に、短期の成熟、水と栄養素の低い要求性、病原体や害虫に対する耐性など農業上のいくつかの利点を有しており、近年、その油はバイオ燃料原料として注目を浴びている。実際、カメリナ油から製造されたバイオジェット燃料による戦闘機や旅客機の多くのテストフライトが行われ、性能に問題がないと報告されている。カメリナの収量を増大させるために、土壌成分や播種時期の最適化を目指した栽培試験や遺伝子組み換え試験が各国で行われており、カメリナ油は、バイオ燃料原料の有力な候補の一つとして考えられている。
【0018】
土壌の植物生産性が改善することにより、植物あたりの鞘数、植物あたりの種子数、及び/又は植物体の重量を増大させることが可能となる。
【0019】
本発明のさらに別の態様において、リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌、ならびに、アクチノミセス(Actinomycetales)目に属する細菌、バシラス(Bacillales)目に属する細菌、ガイエラレス(Gaiellales)目に属する細菌、ミクソコッカス(Myxococcales)目に属する細菌、iii1−15目に属する細菌、ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目に属する細菌、キサントモナス(Xanthomonadales)目に属する細菌、バークホルデリア(Burkholderiales)目に属する細菌、及びゲルマタレス(Gemmatales)目に属する細菌を含む堆肥が提供される。
リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌は、典型的には、Rhodoplanes属、Bradyrhizobium属、Pedomicrobium属、例えば、Rhodoplanes elegans、Methylobacterium adhaesivumに属する細菌である。アクチノミセス(Actinomycetales)目に属する細菌は、典型的には、Terracoccus属、Mycobacterium属、Streptomyces属、例えば、Actinomadura vinacea、Rathayibacter caricis、Actinoallomurus iriomotensisに属する細菌である。バシラス(Bacillales)目に属する細菌は、典型的には、Bacillus属、Rummeliibacillus属、Planifilum属、例えば、Bacillus cereus、Paenibacillus chondroitinus、Bacillus clausiiに属する細菌である。ガイエラレス(Gaiellales)目に属する細菌は、典型的には、Gaiellaceae科、AK1AB1 02E科に属する細菌である。ミクソコッカス(Myxococcales)目に属する細菌は、典型的には、Sorangium属、Plesiocystis属、Nannocystis属、例えば、Sorangium cellulosumに属する細菌である。iii1−15目に属する細菌は、典型的には、RB40科、mb2424科に属する細菌である。ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目に属する細菌は、典型的には、Conexibacter属に属する細菌である。キサントモナス(Xanthomonadales)目に属する細菌は、典型的には、Steroidobacter属、Luteimonas属、Dokdonella属、例えば、Stenotrophomonas acidaminiphila、Pseudoxanthomonas mexicanaに属する細菌である。バークホルデリア(Burkholderiales)目に属する細菌は、典型的には、Burkholderia属、Polaromonas属、Methylibium属に属する細菌である。ゲルマタレス(Gemmatales)目に属する細菌は、典型的には、Gemmata属に属する細菌である。
【0020】
堆肥中の各細菌の存在比率は、植物生産性を改善する限り特に限定されないが、前記リゾビウム(Rhizobiales)目に属する細菌の存在比率が9%以上であり、かつ、前記iii1−15目に属する細菌の存在比率が6%以下であることが好ましい。
【0021】
堆肥化は、当業者に慣習的な手法を用いて行うことができ、一般的には、汚泥、家畜糞尿、藁、枯れ草等の堆肥化原料に、これを分解する好気性微生物を混ぜ合わせ、好気性条件下で発酵させることにより行われる。堆肥化において、含水率、pH、炭素と窒素の割合(C/N比)、温度及び酸素などは、有機物分解速度に影響し、また、作物の窒素飢餓を招く要因となるため、これらの条件を調整することが重要となる。
【0022】
堆肥の含水率が約60%以上であると、仮比重が大きく、付着性も大きくなるため、袋詰や輸送が困難になる。逆に、含水率が約30%以下になると粉塵が発生するようになる。また、堆肥化が完全でないものを乾燥させると分解が停止して未熟なコンポストができてしまうため、乾燥を行うのは堆肥が完全に出来上がってから乾燥を行うことが好ましい。堆肥の含水率は、典型的には、約30〜60%であり、好適には、約25〜55%である。
【0023】
堆肥が酸性である場合には、ミネラルの過剰害やリン酸の固定、吸収障害などが起こるため、堆肥のpHは、約5.5〜8.5であることが好ましい。
【0024】
堆肥に含まれるカリウム、ナトリウム、塩素、硝酸などのイオンの量(EC)は、低い方が好ましい。バーク堆肥に対しては、約3.0dS/m以下、家畜糞尿に対しては、約5.0dS/m以下となることが好ましい。
【0025】
堆肥中の炭素と窒素の割合(C/N比)は、その値が大きすぎると土壌が窒素飢餓を起こす恐れがあるため、約10〜40であることが好ましい。しかしながら、C/N比は易分解性有機物と難分解性有機物の炭素と窒素を同時に測定するため、例えば、おが屑のC/N比は約340〜1250と非常に高く、おが屑を副資材として混合した堆肥のC/N比も大きくなる傾向にある。
【0026】
アンモニアは堆肥化の初期に発生し、悪臭や作物生育阻害の原因となるため、堆肥中のアンモニア態窒素は少ない方が良い。一方、堆肥中の無機量窒素のなかで硝酸態窒素が占める割合である硝酸態窒素割合の値は、大きい方が良い。硝酸態窒素はアンモニアを硝化して出来、この反応は主に二次発酵中に生じる。
【0027】
堆肥中の肥料成分バランス(全窒素量を1とした時のカリウムの割合)は低い方が好ましく、適正値は5以下である。また、重金属(特に銅と亜鉛)は、作物にとって必要な微量要素であるが、多すぎると作物に害を与えるため、堆肥中の重金属濃度の適正値は、銅が300ppm以下であり、亜鉛が900ppm以下である。
【0028】
本発明の堆肥は、上述した植物に対して極めて高い生産性を有する。
【0029】
本発明のさらに別の態様において、植物の抗酸化活性を増大させるための組成物であって、バシラス(Bacillales)属、プロミクロモノスポラ(Promicromonospora)属、又はオリビバクター(Olivibacter)属に属する細菌を含む、組成物が提供される。
【0030】
植物の生産性は、強光、乾燥、温度、塩、重金属、オゾンなどの非生物的、あるいは病害などの生物的な環境ストレスによって大きく低下する。このような環境ストレスが植物を枯死させる原因として、活性酸素種(ROS)の蓄積による酸化ストレス(傷害)が関係している。酸化ストレスを受けると、ROSの生成と消去のバランスに依存した細胞内レドックス状態の変化がシグナルとして作用し、環境ストレス応答時の防御系の発現をはじめ、プログラム細胞死や成長・発達などの生理現象の制御に関与することが知られているが、本発明者らは、このたび、バシラス(Bacillales)属、プロミクロモノスポラ(Promicromonospora)属、又はオリビバクター(Olivibacter)属に属する細菌が、植物の抗酸化活性を増大させるという驚くべき知見を見出した。
【0031】
前記バシラス(Bacillales)属に属する細菌は、好ましくはバシラス・セレウス(Bacillus cereus)であり、最も好ましくは特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−02974で寄託されている細菌株である。前記プロミクロモノスポラ(Promicromonospora)属に属する細菌は、好ましくはプロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)であり、最も好ましくは特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03025で寄託されている細菌株である。前記オリビバクター(Olivibacter)属に属する細菌は、好ましくはオリビバクター種(Olivibacter sp.)であり、最も好ましくは特許微生物寄託センターに受託番号NITE BP−03026で寄託されている株である。
【0032】
植物の抗酸化活性を増大させることにより、酸化ストレスに関連する植物の生産性やその収穫物の品質(例えば、機能性、耐病性、保存性など)を有意に改善することが可能となる。
【0033】
以下、実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0034】
例1 カメリナの栽培試験
1.1 栽培条件
カメリナ(Camelina sativa)の栽培は、2018年3月25日から6月24日にかけて群馬県渋川市(36.53N、139.01E)の畑にて行った。カメリナ品種はカレナ(Calena)を用いた。畑には後述の方法により製造した堆肥を1.5kg/m2撒き、その他の化学肥料は使用しなかった。収穫時の鞘数、種子収量を測定し、他の栽培収穫量と比較した。試験区は15m2、対照区は1m2で栽培を行った。試験区の栽培密度は167株/m2、対照区の栽培密度は169株/m2であった。
【0035】
1.2 堆肥の製造
カメリナ栽培に用いた堆肥は、以下のとおり製造した。試験区に用いた堆肥には原料として豚糞を、副資材としておが屑を、更に添加する菌として、独自に単離・培養したリゾビウム(Rhizobiales)に属する菌を用いた。豚糞、菌培養液、及びおが屑を混合することで堆肥化を開始した。含水率はおが屑により約60%に調整し、混合物は随時撹拌を行い、三か月かけて堆肥とした。対照区に用いた堆肥も菌の添加を行わなかった点を除き同様の方法で製造した。
【0036】
1.3 栽培後の土壌の成分の分析
土壌成分はJapan Soil Association(2010)を参照し、それぞれ次に示す方法により分析した。窒素全量(N):マクロコーダー(JM1000CN)、リン酸全量(P):硝酸−過塩素酸分解、バナドモリブデン酸アンモニウム法、カリウム全量(K):硝酸−過塩素酸分解、原子吸光測光法、石灰全量(Ca):硝酸−過塩素酸分解、原子吸光測光法、マグネシウム全量(Mg):硝酸−過塩素酸分解、原子吸光測光法。
【0037】
1.4 次世代シークエンスによる栽培土壌の菌相分析
VD−250Rフリーズドライヤー(TAITEC)を用いて、栽培土壌サンプルを凍結乾燥した。Shake Master Neo(bms)を用いて、凍結乾燥サンプルを粉砕した。その後、粉砕サンプルよりMPure Bacterial DNA Extraction Kit(MP Bio)を用いて、DNAを抽出した。ライブラリー作製は2 step tailed PCR法により実施した。1次PCRは16S rRNA遺伝子の可変領域V4(約250bp)を標的として、プライマー1st_515F_MIX(5’-ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-NNNNN-GTGCCAGCMGCCGCGGTAA-3’:配列番号1)及び1st_806R_MIX(5’-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT-NNNNN-GGACTACHVGGGTWTCTAAT-3’:配列番号2)を用いた。シーケンス解析時に使用したプライマーは、品質向上を目的として、0〜5塩基の異なる長さのランダム配列が挿入された混合プライマーであった。1次PCR産物の精製後、2次PCRでは、1次PCR産物の両末端にある共通配列と結合し、サンプル識別用インデックスを付加したプライマー2nd F(5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC-Index2(TATAGCCT)-ACACTCTTTCCCTACACGACGC-3’:配列番号3)及び2nd R(5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT-Index1(GCAGCGTA)-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTG-3’:配列番号4)を用いて1次PCR産物を増幅した。各PCR産物は、Agencourt AMPure XP(BECKMAN COU-LTER)により精製した。MiSeq(Illumina)を用いて、得られたライブラリーのシーケンス解析を実施した。
【0038】
シーケンシングにより得られた塩基配列データは次のように解析した。Fastx toolkitのfastq_barcode_spliltterを用いて配列の読み始めが使用プライマーと完全一致する配列のみを抽出した。抽出された配列のプライマー配列を削除した。その後、クオリティー値が20未満の配列を取り除き、40塩基以下の長さとなった配列とそのペア配列を破棄した。ペアエンドマージスクリプトFLASHを用いて、クオリティーフィルタリングを通った配列をマージした。マージの条件は、マージ後の断片長260塩基、リードの断片長230塩基、最低オーバーラップ長10塩基とした。マージできた配列を断片長によるフィルタリングを行ない、246塩基から260塩基のみを以後の解析に用いた。全てのフィルタリングを通った配列を、usearchのuchimeアルゴリズムを用いて、キメラ配列をチェックした。データベースは菌叢解析用パイプラインQiimeに付属するGreengeneの97%OTUとし、キメラと判断されなかった全配列を抽出して以後の解析に用いた。OTU作成と系統推定は、Qiimeのワークフロースクリプトを用いた。
【0039】
2.1 栽培結果
土壌生産性と相関を示す菌であるリゾビウム(Rhizobiales)目を添加した堆肥を用いて栽培を行った。図1に栽培中のカメリナの様子及び収穫後の試験区の株及び対照区の株を示す。図2と表1は、本発明による栽培量と国内外における栽培量を比較した結果である。この結果から、植物当たりの鞘数は、インドの栽培例を除き他栽培の数倍多い結果であることが確認できる。本発明でのPod当たりの種数については中程度であったことから、植物当たりの種子数が多くなったと考えられる。また、種子重量については他栽培結果と大きな差は見られないことから、植物当たりの種子収量が多くなったと考えられる。このことは図1(B)の写真からも明確である。栽培密度は中程度であることから、最終的な面積当たりの収量は6.75t/haと増大したことが分かる。図2から、この値は、国内外の栽培例の何れよりも多く、最も収量が多いフランスの2.8t/haと比較しても2.4倍以上であった。
【0040】
【表1】
【0041】
2.2 土壌菌相分析
土壌から抽出したDNAを次世代シークエンスに供することで、土壌中の菌相を分析した。試験区において今回添加した菌であるリゾビウム(Rhizobiales)目は最も多く検出され全体の9.42%であった。リゾビウム(Rhizobiales)目以外の検出量が多い菌として、アクチノミセス(Actinomycetales)目(7.61%)、バシラス(Bacillales)目(7.02%)、ガイエラレス(Gaiellales)目(6.58%)、ミクソコッカス(Myxococcales)目(4.89%)、iii1−15目(3.32%)、ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目(3.09%)、キサントモナス(Xanthomonadales)目(2.40%)、バークホルデリア(Burkholderiales)目(2.33%)、ゲルマタレス(Gemmatales)目(2.30%)が挙げられる。
【0042】
一方、対照区において検出されたリゾビウム(Rhizobiales)目は全体の5.75%であり、試験区よりも少なかった。またその他の検出量が多い菌はアクチノミセス(Actinomycetales)目(7.52%)、ガイエラレス(Gaiellales)目(7.21%)、バシラス(Bacillales)目(6.01%)、ミクソコッカス(Myxococcales)目(5.11%)、iii1−15目(3.26%)、ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目(3.25%)、バークホルデリア(Burkholderiales)目(2.53%)、ゲルマタレス(Gemmatales)目(2.45%)、ニトロソスパエラ(Nitrososphaerales)目(2.42%)であった。
【0043】
カメリナ栽培において栽培密度の増加に伴い植物当たりの鞘数、及び種子重量は減少する傾向にあることが判明している(非特許文献5)。1株あたりの収量はインドでの栽培例が非常に高い値を示しているが、これは極端に低い密度(17.6植物/m2)での栽培結果であり、単位面積当たりの収量は1.31t/haと低くなっている。一方、本試験において、栽培密度は中程度にも関わらず、植物当たりの鞘数は高いものとなった。その結果、単位面積当たり収量は6.75t/haと非常に高い結果となった。一方、対照区の単位面積当たり収量は既存の栽培例と大きくは違わなかった。
【0044】
堆肥を撒いた土壌の菌相分析の結果、リゾビウム(Rhizobiales)目は全体のうち9.42%と最も多く検出され、対照区と比較しても増加していた。この結果から、堆肥への菌添加が土壌中のリゾビウム(Rhizobiales)目を増加させ、土壌生産性の向上に寄与したことが推定される。
【0045】
土壌生産性に正の相関を示すリゾビウム(Rhizobiales)目とiii1−15目、及び負の相関を示すアキドバクテリウム(Acidobacteriales)目とソリバクテリウム(Solibacterales)目の4菌目に注目し、試験区及び対照区、ならびに、非特許文献1で報告されている12の地点における細菌の割合と比較した。表2はその結果である。なお、表3は、非特許文献1にて各土壌の採取地点を表すコードと緯度及び経度の対応表である。
【0046】
【表2】
【表3】
【0047】
この12の地点と、試験区及び対照区の土壌中で4菌目の存在比率を比較した。試験区の土壌は14の土壌の中で、リゾビウム(Rhizobiales)目は2番目(9.42%)に、iii1−15目は8番目(3.32%)に多い。一方、アキドバクテリウム(Acidobacteriales)目は3番目(0.82%)、ソリバクテリウム(Solibacterales)目は2番目(1.02%)に少なかった。一方、対照区の土壌は、14の土壌の中で、リゾビウム(Rhizobiales)目は8番目(5.75%)に多く、試験区よりも少なかった。リゾビウム(Rhizobiales)目以外の菌の存在割合は、iii1−15目は9番目(3.26%)に多く、アキドバクテリウム(Acidobacteriales)目は4番目(1.10%)に少なく、ソリバクテリウム(Solibacterales)目は3番目(1.26%)に少なかった。いずれにせよ、試験区の土壌は極めて生産性の高い菌組成を有していると考えられる。
【0048】
上記試験では菌を添加した堆肥を用い、カメリナの栽培を行い、国内外の既存の報告と比べて単位面積当たりで2.4倍以上の収量を得ることが確認できた。土壌に含まれる菌を分析した結果、添加した菌が多く存在することが観察された。特定の菌を堆肥製造時に添加することで、栽培土壌の菌相を操作し、生産物の収量を上昇させるという手法の可能性が見出された。
【0049】
例2.コマツナの栽培試験
コマツナ栽培に用いた堆肥は、以下のとおり製造した。試験区に用いた堆肥には原料として豚糞、おが屑、更に独自に単離、培養したリゾビウム(Rhizobiales)目に属する菌の培養液を用いた。豚糞、菌培養液、及びおが屑を混合することで堆肥化を開始した。含水率はおが屑により60%に調整し、混合物は随時撹拌を行い、三か月かけて堆肥とした。対照区に用いた堆肥は菌の添加を行わなかった点を除き同様の方法で製造した。
【0050】
製造堆肥はコマツナ(Brassica rapa var.perviridis)ポット栽培試験に供した。コマツナポット栽培試験では製造堆肥と赤玉土を3:7で混合した土を用いた。またアンモニア性窒素、可溶性リン酸、水溶性カリをそれぞれ8%ずつ含む化学肥料を土1Lに対して0.84g用いた。栽培は種子から室温・蛍光灯下で行い、その生育を観察した。
【0051】
本試験ではリゾビウム(Rhizobiales)目菌を用いて堆肥を製造し、カメリナと同じアブラナ科であるコマツナにおいて栽培試験を行った。その結果、菌添加堆肥を用いたコマツナにおいて、植物体重量が約1.7倍に増加したことを観察した。
【0052】
例3.コマツナの抗酸化力の評価
3.1 バシラス・セレウス(Bacillus cereus)
コマツナに対して、出願人が単離したバシラス・セレウス(Bacillus cereus)の菌株である2764−01−S16(受託番号NITE BP−02974)を接種し、コマツナの栽培試験を行った。具体的には、菌の接種はバーミキュライトで栽培した10日目のコマツナ苗の根に菌の懸濁液を約30秒間浸漬し行った。なお対照区には滅菌水を用いた。栽培は蒸気滅菌した圃場土とバーミキュライトを1:1で混合した土を用い、液体肥料を約1週間に1回与えて行った。なお、栽培はビニールハウス内で実施した。
【0053】
上記で栽培したコマツナの可食部位を分析試料として、1cm角に切り、これを4倍の重量の水と混合し、ジューサーで破壊し、80℃で30分間加熱した後、冷却してから濾過し、試料溶液を調製した。試料溶液25μL、44.4mM 2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリドン(TMPD)50μL、2.5mM ジメチルスルホキシド(DMSO)100μL、及び55.5mM リボフラビン50μLを混合し、当該混合液に紫外線を20秒間照射した後、測定条件を、Field=336.4±5mT(磁場の範囲)、Power=3mW、Modulation Width=0.1mT、Sweep Time=1分、Time Constant=0.1秒、Amplify=250に設定した電子スピン共鳴(ESR)法によって、試料溶液の一重項酸素消去活性を測定し、コマツナの抗酸化力を評価した。
【0054】
上記の設定で得られるシグナルから、補足剤であるTMPDに補足されたラジカルの強度を測ることができる。一重項酸素消去活性(抗酸化力)を見る標準物質としてヒスチジンを用いて事前に作成した検量線からこの強度を基に実際の物質量を推定することができる。試料の抗酸化力が高ければより多くのラジカルが消され、補足剤に補足されないため、シグナルが小さくなる。
菌を接種しなかったコマツナ株と重量及び抗酸化力を比較したところ、菌を接種しなかったコマツナ株の重量は3.15g、抗酸化力は1560μmol ヒスチジン/gであり、菌を接種したコマツナ株の重量は4.07g、抗酸化力は1890μmol ヒスチジン/gであったことから、菌を接種したコマツナ株において、重量及び抗酸化力の有意な改善が見られた。
【0055】
3.2 プロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)
コマツナに対して、出願人が単離したプロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)の菌株である27624−02−C06(受託番号NITE BP−03025)を播種し、コマツナの栽培試験を行った。具体的には、菌の接種はバーミキュライトで栽培した10日目のコマツナ苗の根に菌の懸濁液を約30秒間浸漬し行った。なお対照区には滅菌水を用いた。栽培は蒸気滅菌した圃場土とバーミキュライトを1:1で混合した土を用い、液体肥料を約1週間に1回与えて行った。なお、栽培はビニールハウス内で実施した。
【0056】
上記で栽培したコマツナの可食部位を分析試料として、1cm角に切り、これを4倍の重量の水と混合し、ジューサーで破壊し、80℃で30分間加熱した後、冷却してから濾過し、試料溶液を調製した。試料溶液50μL、5.7M 5,5−ジメチル−1−ピロリン N−オキシド(DMPO)20μL、及び2.5mM 過酸化水素90μLを混合し、当該混合液に紫外線を30秒間照射した後、測定条件を、Field=335±5mT、Power=3mW、Modulation Width=0.1mT、Sweep Time=1分、Time Constant=0.1秒、Amplify=50に設定したESR法によって、ヒドロキシラジカル消去活性を測定し、コマツナの抗酸化力を評価した。
【0057】
上記の設定で得られるシグナルから、補足剤であるDMPOに補足されたラジカルの強度を測ることができる。ヒドロキシラジカル消去活性(抗酸化力)を見る標準物質としてDMSOを用いて事前に作成した検量線からこの強度を基に実際の物質量を推定することができる。試料の抗酸化力が高ければより多くのラジカルが消され、補足剤に補足されないため、シグナルが小さくなる。
菌を接種しなかったコマツナ株と重量及び抗酸化力を比較したところ、菌を接種しなかったコマツナ株の重量は3.51g、抗酸化力は1670μmol DMSO/gであり、菌を接種したコマツナ株の重量は4.29g、抗酸化力は2350μmol DMSO/gであったことから、菌を接種したコマツナ株において、重量及び抗酸化力の有意な改善が見られた。
【0058】
3.3 オリビバクター種(Olivibacter sp.)
コマツナに対して、出願人が単離したオリビバクター種(Olivibacter sp.)の菌株である27624−02−C07(受託番号NITE BP−03026)を播種し、コマツナの栽培試験を行った。具体的には、菌の接種はバーミキュライトで栽培した10日目のコマツナ苗の根に菌の懸濁液を約30秒間浸漬し行った。なお対照区には滅菌水を用いた。栽培は蒸気滅菌した圃場土とバーミキュライトを1:1で混合した土を用い、液体肥料を約1週間に1回与えて行った。なお、栽培はビニールハウス内で実施した。
【0059】
上記で栽培したコマツナの可食部位を分析試料として、1cm角に切り、これを4倍の重量の水と混合し、ジューサーで破壊し、80℃で30分間加熱した後、冷却してから濾過し、試料溶液を調製した。試料溶液50μL、8.55M 5,5−ジメチル−1−ピロリン N−オキシド(DMPO)30μL、1.25mM ヒポキサンチン50μL、4.37mM ジメチルスルホキシド(DMSO)20μL、及び0.1U/ml キサンチンオキシダーゼ50μLを加え、攪拌して60秒間反応させた後、測定条件を、Field=335±5mT、Power=3mW、Modulation Width=0.079mT、Sweep Time=1分、Time Constant=0.1秒、Amplify=250に設定したESR法によって、スーパーオキシドラジカル消去活性を測定し、コマツナの抗酸化力を評価した。
【0060】
上記の設定で得られるシグナルから、補足剤であるDMPOに補足されたラジカルの強度を測ることができる。スーパーオキシドラジカル消去活性(抗酸化力)を見る標準物質としてスーパーオキシドジムスターゼを用いて事前に作成した検量線からこの強度を基に実際の物質量を推定することができる。試料の抗酸化力が高ければより多くのラジカルが消され、補足剤に補足されないため、シグナルが小さくなる。
菌を接種しなかったコマツナ株と重量及び抗酸化力を比較したところ、菌を接種しなかったコマツナ株の重量は3.51g、抗酸化力は122ユニット SOD/gであり、菌を接種したコマツナ株の重量は4.47g、抗酸化力は190ユニット SOD/gであったことから、菌を接種したコマツナ株において、重量及び抗酸化力の有意な改善が見られた。
【0061】
独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に2764−01−S16を受託番号NITE BP−02974で寄託した(原寄託日:2019年6月20日)。また、27624−02−C06を受託番号NITE BP−03025で寄託し(原寄託日:2019年9月20日)、27624−02−C07を受託番号NITE BP−03026で寄託した(原寄託日:2019年9月20日)。
【受託番号】
【0062】
NITE BP−02974
NITE BP−03025
NITE BP−03026
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]