【実施例】
【0034】
例1 カメリナの栽培試験
1.1 栽培条件
カメリナ(Camelina sativa)の栽培は、2018年3月25日から6月24日にかけて群馬県渋川市(36.53N、139.01E)の畑にて行った。カメリナ品種はカレナ(Calena)を用いた。畑には後述の方法により製造した堆肥を1.5kg/m
2撒き、その他の化学肥料は使用しなかった。収穫時の鞘数、種子収量を測定し、他の栽培収穫量と比較した。試験区は15m
2、対照区は1m
2で栽培を行った。試験区の栽培密度は167株/m
2、対照区の栽培密度は169株/m
2であった。
【0035】
1.2 堆肥の製造
カメリナ栽培に用いた堆肥は、以下のとおり製造した。試験区に用いた堆肥には原料として豚糞を、副資材としておが屑を、更に添加する菌として、独自に単離・培養したリゾビウム(Rhizobiales)に属する菌を用いた。豚糞、菌培養液、及びおが屑を混合することで堆肥化を開始した。含水率はおが屑により約60%に調整し、混合物は随時撹拌を行い、三か月かけて堆肥とした。対照区に用いた堆肥も菌の添加を行わなかった点を除き同様の方法で製造した。
【0036】
1.3 栽培後の土壌の成分の分析
土壌成分はJapan Soil Association(2010)を参照し、それぞれ次に示す方法により分析した。窒素全量(N):マクロコーダー(JM1000CN)、リン酸全量(P):硝酸−過塩素酸分解、バナドモリブデン酸アンモニウム法、カリウム全量(K):硝酸−過塩素酸分解、原子吸光測光法、石灰全量(Ca):硝酸−過塩素酸分解、原子吸光測光法、マグネシウム全量(Mg):硝酸−過塩素酸分解、原子吸光測光法。
【0037】
1.4 次世代シークエンスによる栽培土壌の菌相分析
VD−250Rフリーズドライヤー(TAITEC)を用いて、栽培土壌サンプルを凍結乾燥した。Shake Master Neo(bms)を用いて、凍結乾燥サンプルを粉砕した。その後、粉砕サンプルよりMPure Bacterial DNA Extraction Kit(MP Bio)を用いて、DNAを抽出した。ライブラリー作製は2 step tailed PCR法により実施した。1次PCRは16S rRNA遺伝子の可変領域V4(約250bp)を標的として、プライマー1st_515F_MIX(5’-ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-NNNNN-GTGCCAGCMGCCGCGGTAA-3’:配列番号1)及び1st_806R_MIX(5’-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT-NNNNN-GGACTACHVGGGTWTCTAAT-3’:配列番号2)を用いた。シーケンス解析時に使用したプライマーは、品質向上を目的として、0〜5塩基の異なる長さのランダム配列が挿入された混合プライマーであった。1次PCR産物の精製後、2次PCRでは、1次PCR産物の両末端にある共通配列と結合し、サンプル識別用インデックスを付加したプライマー2nd F(5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC-Index2(TATAGCCT)-ACACTCTTTCCCTACACGACGC-3’:配列番号3)及び2nd R(5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT-Index1(GCAGCGTA)-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTG-3’:配列番号4)を用いて1次PCR産物を増幅した。各PCR産物は、Agencourt AMPure XP(BECKMAN COU-LTER)により精製した。MiSeq(Illumina)を用いて、得られたライブラリーのシーケンス解析を実施した。
【0038】
シーケンシングにより得られた塩基配列データは次のように解析した。Fastx toolkitのfastq_barcode_spliltterを用いて配列の読み始めが使用プライマーと完全一致する配列のみを抽出した。抽出された配列のプライマー配列を削除した。その後、クオリティー値が20未満の配列を取り除き、40塩基以下の長さとなった配列とそのペア配列を破棄した。ペアエンドマージスクリプトFLASHを用いて、クオリティーフィルタリングを通った配列をマージした。マージの条件は、マージ後の断片長260塩基、リードの断片長230塩基、最低オーバーラップ長10塩基とした。マージできた配列を断片長によるフィルタリングを行ない、246塩基から260塩基のみを以後の解析に用いた。全てのフィルタリングを通った配列を、usearchのuchimeアルゴリズムを用いて、キメラ配列をチェックした。データベースは菌叢解析用パイプラインQiimeに付属するGreengeneの97%OTUとし、キメラと判断されなかった全配列を抽出して以後の解析に用いた。OTU作成と系統推定は、Qiimeのワークフロースクリプトを用いた。
【0039】
2.1 栽培結果
土壌生産性と相関を示す菌であるリゾビウム(Rhizobiales)目を添加した堆肥を用いて栽培を行った。
図1に栽培中のカメリナの様子及び収穫後の試験区の株及び対照区の株を示す。
図2と表1は、本発明による栽培量と国内外における栽培量を比較した結果である。この結果から、植物当たりの鞘数は、インドの栽培例を除き他栽培の数倍多い結果であることが確認できる。本発明でのPod当たりの種数については中程度であったことから、植物当たりの種子数が多くなったと考えられる。また、種子重量については他栽培結果と大きな差は見られないことから、植物当たりの種子収量が多くなったと考えられる。このことは
図1(B)の写真からも明確である。栽培密度は中程度であることから、最終的な面積当たりの収量は6.75t/haと増大したことが分かる。
図2から、この値は、国内外の栽培例の何れよりも多く、最も収量が多いフランスの2.8t/haと比較しても2.4倍以上であった。
【0040】
【表1】
【0041】
2.2 土壌菌相分析
土壌から抽出したDNAを次世代シークエンスに供することで、土壌中の菌相を分析した。試験区において今回添加した菌であるリゾビウム(Rhizobiales)目は最も多く検出され全体の9.42%であった。リゾビウム(Rhizobiales)目以外の検出量が多い菌として、アクチノミセス(Actinomycetales)目(7.61%)、バシラス(Bacillales)目(7.02%)、ガイエラレス(Gaiellales)目(6.58%)、ミクソコッカス(Myxococcales)目(4.89%)、iii1−15目(3.32%)、ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目(3.09%)、キサントモナス(Xanthomonadales)目(2.40%)、バークホルデリア(Burkholderiales)目(2.33%)、ゲルマタレス(Gemmatales)目(2.30%)が挙げられる。
【0042】
一方、対照区において検出されたリゾビウム(Rhizobiales)目は全体の5.75%であり、試験区よりも少なかった。またその他の検出量が多い菌はアクチノミセス(Actinomycetales)目(7.52%)、ガイエラレス(Gaiellales)目(7.21%)、バシラス(Bacillales)目(6.01%)、ミクソコッカス(Myxococcales)目(5.11%)、iii1−15目(3.26%)、ソリルブロバクテラレス(Solirubrobacterales)目(3.25%)、バークホルデリア(Burkholderiales)目(2.53%)、ゲルマタレス(Gemmatales)目(2.45%)、ニトロソスパエラ(Nitrososphaerales)目(2.42%)であった。
【0043】
カメリナ栽培において栽培密度の増加に伴い植物当たりの鞘数、及び種子重量は減少する傾向にあることが判明している(非特許文献5)。1株あたりの収量はインドでの栽培例が非常に高い値を示しているが、これは極端に低い密度(17.6植物/m
2)での栽培結果であり、単位面積当たりの収量は1.31t/haと低くなっている。一方、本試験において、栽培密度は中程度にも関わらず、植物当たりの鞘数は高いものとなった。その結果、単位面積当たり収量は6.75t/haと非常に高い結果となった。一方、対照区の単位面積当たり収量は既存の栽培例と大きくは違わなかった。
【0044】
堆肥を撒いた土壌の菌相分析の結果、リゾビウム(Rhizobiales)目は全体のうち9.42%と最も多く検出され、対照区と比較しても増加していた。この結果から、堆肥への菌添加が土壌中のリゾビウム(Rhizobiales)目を増加させ、土壌生産性の向上に寄与したことが推定される。
【0045】
土壌生産性に正の相関を示すリゾビウム(Rhizobiales)目とiii1−15目、及び負の相関を示すアキドバクテリウム(Acidobacteriales)目とソリバクテリウム(Solibacterales)目の4菌目に注目し、試験区及び対照区、ならびに、非特許文献1で報告されている12の地点における細菌の割合と比較した。表2はその結果である。なお、表3は、非特許文献1にて各土壌の採取地点を表すコードと緯度及び経度の対応表である。
【0046】
【表2】
【表3】
【0047】
この12の地点と、試験区及び対照区の土壌中で4菌目の存在比率を比較した。試験区の土壌は14の土壌の中で、リゾビウム(Rhizobiales)目は2番目(9.42%)に、iii1−15目は8番目(3.32%)に多い。一方、アキドバクテリウム(Acidobacteriales)目は3番目(0.82%)、ソリバクテリウム(Solibacterales)目は2番目(1.02%)に少なかった。一方、対照区の土壌は、14の土壌の中で、リゾビウム(Rhizobiales)目は8番目(5.75%)に多く、試験区よりも少なかった。リゾビウム(Rhizobiales)目以外の菌の存在割合は、iii1−15目は9番目(3.26%)に多く、アキドバクテリウム(Acidobacteriales)目は4番目(1.10%)に少なく、ソリバクテリウム(Solibacterales)目は3番目(1.26%)に少なかった。いずれにせよ、試験区の土壌は極めて生産性の高い菌組成を有していると考えられる。
【0048】
上記試験では菌を添加した堆肥を用い、カメリナの栽培を行い、国内外の既存の報告と比べて単位面積当たりで2.4倍以上の収量を得ることが確認できた。土壌に含まれる菌を分析した結果、添加した菌が多く存在することが観察された。特定の菌を堆肥製造時に添加することで、栽培土壌の菌相を操作し、生産物の収量を上昇させるという手法の可能性が見出された。
【0049】
例2.コマツナの栽培試験
コマツナ栽培に用いた堆肥は、以下のとおり製造した。試験区に用いた堆肥には原料として豚糞、おが屑、更に独自に単離、培養したリゾビウム(Rhizobiales)目に属する菌の培養液を用いた。豚糞、菌培養液、及びおが屑を混合することで堆肥化を開始した。含水率はおが屑により60%に調整し、混合物は随時撹拌を行い、三か月かけて堆肥とした。対照区に用いた堆肥は菌の添加を行わなかった点を除き同様の方法で製造した。
【0050】
製造堆肥はコマツナ(Brassica rapa var.perviridis)ポット栽培試験に供した。コマツナポット栽培試験では製造堆肥と赤玉土を3:7で混合した土を用いた。またアンモニア性窒素、可溶性リン酸、水溶性カリをそれぞれ8%ずつ含む化学肥料を土1Lに対して0.84g用いた。栽培は種子から室温・蛍光灯下で行い、その生育を観察した。
【0051】
本試験ではリゾビウム(Rhizobiales)目菌を用いて堆肥を製造し、カメリナと同じアブラナ科であるコマツナにおいて栽培試験を行った。その結果、菌添加堆肥を用いたコマツナにおいて、植物体重量が約1.7倍に増加したことを観察した。
【0052】
例3.コマツナの抗酸化力の評価
3.1 バシラス・セレウス(Bacillus cereus)
コマツナに対して、出願人が単離したバシラス・セレウス(Bacillus cereus)の菌株である2764−01−S16(受託番号NITE BP−02974)を接種し、コマツナの栽培試験を行った。具体的には、菌の接種はバーミキュライトで栽培した10日目のコマツナ苗の根に菌の懸濁液を約30秒間浸漬し行った。なお対照区には滅菌水を用いた。栽培は蒸気滅菌した圃場土とバーミキュライトを1:1で混合した土を用い、液体肥料を約1週間に1回与えて行った。なお、栽培はビニールハウス内で実施した。
【0053】
上記で栽培したコマツナの可食部位を分析試料として、1cm角に切り、これを4倍の重量の水と混合し、ジューサーで破壊し、80℃で30分間加熱した後、冷却してから濾過し、試料溶液を調製した。試料溶液25μL、44.4mM 2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリドン(TMPD)50μL、2.5mM ジメチルスルホキシド(DMSO)100μL、及び55.5mM リボフラビン50μLを混合し、当該混合液に紫外線を20秒間照射した後、測定条件を、Field=336.4±5mT(磁場の範囲)、Power=3mW、Modulation Width=0.1mT、Sweep Time=1分、Time Constant=0.1秒、Amplify=250に設定した電子スピン共鳴(ESR)法によって、試料溶液の一重項酸素消去活性を測定し、コマツナの抗酸化力を評価した。
【0054】
上記の設定で得られるシグナルから、補足剤であるTMPDに補足されたラジカルの強度を測ることができる。一重項酸素消去活性(抗酸化力)を見る標準物質としてヒスチジンを用いて事前に作成した検量線からこの強度を基に実際の物質量を推定することができる。試料の抗酸化力が高ければより多くのラジカルが消され、補足剤に補足されないため、シグナルが小さくなる。
菌を接種しなかったコマツナ株と重量及び抗酸化力を比較したところ、菌を接種しなかったコマツナ株の重量は3.15g、抗酸化力は1560μmol ヒスチジン/gであり、菌を接種したコマツナ株の重量は4.07g、抗酸化力は1890μmol ヒスチジン/gであったことから、菌を接種したコマツナ株において、重量及び抗酸化力の有意な改善が見られた。
【0055】
3.2 プロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)
コマツナに対して、出願人が単離したプロミクロモノスポラ・シトレア(Promicromonospora citrea)の菌株である27624−02−C06(受託番号NITE BP−03025)を播種し、コマツナの栽培試験を行った。具体的には、菌の接種はバーミキュライトで栽培した10日目のコマツナ苗の根に菌の懸濁液を約30秒間浸漬し行った。なお対照区には滅菌水を用いた。栽培は蒸気滅菌した圃場土とバーミキュライトを1:1で混合した土を用い、液体肥料を約1週間に1回与えて行った。なお、栽培はビニールハウス内で実施した。
【0056】
上記で栽培したコマツナの可食部位を分析試料として、1cm角に切り、これを4倍の重量の水と混合し、ジューサーで破壊し、80℃で30分間加熱した後、冷却してから濾過し、試料溶液を調製した。試料溶液50μL、5.7M 5,5−ジメチル−1−ピロリン N−オキシド(DMPO)20μL、及び2.5mM 過酸化水素90μLを混合し、当該混合液に紫外線を30秒間照射した後、測定条件を、Field=335±5mT、Power=3mW、Modulation Width=0.1mT、Sweep Time=1分、Time Constant=0.1秒、Amplify=50に設定したESR法によって、ヒドロキシラジカル消去活性を測定し、コマツナの抗酸化力を評価した。
【0057】
上記の設定で得られるシグナルから、補足剤であるDMPOに補足されたラジカルの強度を測ることができる。ヒドロキシラジカル消去活性(抗酸化力)を見る標準物質としてDMSOを用いて事前に作成した検量線からこの強度を基に実際の物質量を推定することができる。試料の抗酸化力が高ければより多くのラジカルが消され、補足剤に補足されないため、シグナルが小さくなる。
菌を接種しなかったコマツナ株と重量及び抗酸化力を比較したところ、菌を接種しなかったコマツナ株の重量は3.51g、抗酸化力は1670μmol DMSO/gであり、菌を接種したコマツナ株の重量は4.29g、抗酸化力は2350μmol DMSO/gであったことから、菌を接種したコマツナ株において、重量及び抗酸化力の有意な改善が見られた。
【0058】
3.3 オリビバクター種(Olivibacter sp.)
コマツナに対して、出願人が単離したオリビバクター種(Olivibacter sp.)の菌株である27624−02−C07(受託番号NITE BP−03026)を播種し、コマツナの栽培試験を行った。具体的には、菌の接種はバーミキュライトで栽培した10日目のコマツナ苗の根に菌の懸濁液を約30秒間浸漬し行った。なお対照区には滅菌水を用いた。栽培は蒸気滅菌した圃場土とバーミキュライトを1:1で混合した土を用い、液体肥料を約1週間に1回与えて行った。なお、栽培はビニールハウス内で実施した。
【0059】
上記で栽培したコマツナの可食部位を分析試料として、1cm角に切り、これを4倍の重量の水と混合し、ジューサーで破壊し、80℃で30分間加熱した後、冷却してから濾過し、試料溶液を調製した。試料溶液50μL、8.55M 5,5−ジメチル−1−ピロリン N−オキシド(DMPO)30μL、1.25mM ヒポキサンチン50μL、4.37mM ジメチルスルホキシド(DMSO)20μL、及び0.1U/ml キサンチンオキシダーゼ50μLを加え、攪拌して60秒間反応させた後、測定条件を、Field=335±5mT、Power=3mW、Modulation Width=0.079mT、Sweep Time=1分、Time Constant=0.1秒、Amplify=250に設定したESR法によって、スーパーオキシドラジカル消去活性を測定し、コマツナの抗酸化力を評価した。
【0060】
上記の設定で得られるシグナルから、補足剤であるDMPOに補足されたラジカルの強度を測ることができる。スーパーオキシドラジカル消去活性(抗酸化力)を見る標準物質としてスーパーオキシドジムスターゼを用いて事前に作成した検量線からこの強度を基に実際の物質量を推定することができる。試料の抗酸化力が高ければより多くのラジカルが消され、補足剤に補足されないため、シグナルが小さくなる。
菌を接種しなかったコマツナ株と重量及び抗酸化力を比較したところ、菌を接種しなかったコマツナ株の重量は3.51g、抗酸化力は122ユニット SOD/gであり、菌を接種したコマツナ株の重量は4.47g、抗酸化力は190ユニット SOD/gであったことから、菌を接種したコマツナ株において、重量及び抗酸化力の有意な改善が見られた。
【0061】
独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に2764−01−S16を受託番号NITE BP−02974で寄託した(原寄託日:2019年6月20日)。また、27624−02−C06を受託番号NITE BP−03025で寄託し(原寄託日:2019年9月20日)、27624−02−C07を受託番号NITE BP−03026で寄託した(原寄託日:2019年9月20日)。