特許第6986825号(P6986825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6986825燃料電池用冷却液収容容器及び燃料電池用冷却液の保管方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986825
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】燃料電池用冷却液収容容器及び燃料電池用冷却液の保管方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20211213BHJP
【FI】
   H01M8/04 N
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-225551(P2015-225551)
(22)【出願日】2015年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-97958(P2017-97958A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年8月3日
【審判番号】不服2020-15205(P2020-15205/J1)
【審判請求日】2020年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】江川 浩司
【合議体】
【審判長】 佐々木 芳枝
【審判官】 長馬 望
【審判官】 木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−310549(JP,A)
【文献】 特開2006−321508(JP,A)
【文献】 特開2008−80594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で構成される厚さが7〜30μmの内層、及び該内層の外側表面に設けられた厚さが7〜25μmの金属層を有する燃料電池用冷却液収容容器に燃料電池用冷却液を収容し、燃料電池用冷却液を単純保管する、燃料電池用冷却液の保管方法。
【請求項2】
前記金属層の外側に更に他の層を有する、請求項1記載の燃料電池用冷却液の保管方法。
【請求項3】
前記樹脂がポリオレフィン樹脂又はポリエステル樹脂である、請求項1又は2記載の燃料電池用冷却液の保管方法。
【請求項4】
水、又は水とグリコール類及び/若しくはアルコール類とを含有する燃料電池用冷却液が収容されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用冷却液の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用冷却液収容容器及びそれを用いた燃料電池用冷却液の保管方法に関する。より詳細には、保管後の燃料電池用冷却液の電気伝導率の上昇が小さく、初期の電気伝導率を維持することができる燃料電池用冷却液収容容器及びそれを用いた燃料電池用冷却液の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般に発電単位である単セルを多数積層した構造のスタックとして構成されている。発電時にはスタックから熱が発生するので、このスタックを冷却するために数セル毎に冷却板が挿入されている。この冷却板内部には冷却液通路が形成されており、この通路を冷却液が流れることにより、スタックが冷却される。
【0003】
燃料電池用冷却液(以下、単に「冷却液」という。)は、発電を実行しているスタック内を循環してスタックを冷却する。よって、冷却液の電気伝導率が高いと、スタックで生じた電気が冷却液側へと流れて電気を損失し、当該燃料電池における発電力を低下させる。そこで、従来の冷却液には導電率が低い、換言すれば電気絶縁性が高い純水が使用されている。また、冷却液には通常、凍結防止のためのグリコール類又はアルコール類が添加されている。このような水系の冷却液を運搬及び保管する場合、金属製容器では錆が生じるおそれがある。この弊害を避けるため、従来、冷却液は、ポリエチレン等の樹脂製容器に収容して運搬及び保管されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却液の製造から使用までの期間は状況によって様々である。例えば、燃料電池搭載車のディーラー及び自動車修理工場では、必要に応じて冷却液の補充が行われることから、冷却液がストックされている。このような所では、冷却液の購入から補充までの期間が長くなることもあり、その結果、冷却液の保管が長期間に及ぶことがある。一方、燃料電池搭載車等の製造現場では、通常、冷却液は短期間のうちに使用される。しかし、コスト等の観点から、冷却液の長期保管が可能であることが望ましい。
【0005】
本発明者らは、冷却液の保管後の性質について研究する過程で、保管中に冷却液の電気伝導率が高くなる現象が認められることを新たに確認した。その結果、本発明者らは、冷却液の長期保管により、冷却液の電気伝導率の上昇に起因して燃料電池における発電力が低下するおそれがあるという技術的課題があることを新たに見出した。
【0006】
本発明者らは、この技術的課題に着目して鋭意研究を重ねた結果、特定の構成の容器を用いることにより、保管後の冷却液の電気伝導率の上昇を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、保管後の冷却液の電気伝導率の上昇が小さく、初期の電気伝導率を維持することができる冷却液収容容器及びそれを用いた冷却液の保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、樹脂で構成される内層と、該内層の外側表面に設けられた金属層と、を有する冷却液収容容器及びそれを用いた冷却液の保存方法をその要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷却液収容容器及び冷却液の保存方法によれば、保管後の冷却液の電気伝導率の上昇を抑制することにより、かかる冷却液を使用した燃料電池の発電力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の容器の一例を示す図である。
図2】本発明の容器の一例を示す図である。
図3】本発明の容器の一例を示す図である。
図4】本発明の容器の一例を示す図である。
図5】本発明の容器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の冷却液収容容器及び冷却液の保存方法を更に詳しく説明する。尚、上記のように、本明細書において、特段の記載がない限り、「冷却液」は「燃料電池用冷却液」の意味である。
【0012】
本発明の冷却液収容容器の一例を図1に示す。本発明の一例の容器1aは、樹脂で構成される内層11と、該内層11の外側表面に設けられた金属層12と、を有する。
【0013】
前記内層11は、容器1の内部に面した層であり、内層表面111は、冷却液2と接する。本発明の作用効果を阻害しない限り、前記内層の構造には特に限定はない。前記内層は図1に示すように1層でもよく、図2に示すように2層以上の多層(図2の11A及び11B)で構成されていてもよい。
【0014】
前記内層を構成する樹脂の種類には特に限定はない。前記樹脂は単独重合体でもよく、共重合体でもよい。前記樹脂として具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリスチレン、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネートが挙げられる。前記ポリエチレンは、高密度ポリエチレン(比重0.92〜0.96、荷重たわみ温度 130℃以下。)、低密度ポリエチレン(比重0.91〜0.92、荷重たわみ温度100℃ 以下)超低密度ポリエチレン(比重0.9未満)、直鎖状低密度ポリエチレン(比重0.94未満)、超高分子量(例えば、分子量が100万以上)ポリエチレンのいずれでもよい。
【0015】
前記内層11は、樹脂材料で構成されるが、本発明の作用効果を阻害しない限り、内層中に他の成分を含んでいてもよい。該他の成分として具体的には、例えば、公知の樹脂添加剤が挙げられる。該樹脂添加剤として具体的には、例えば、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤、染料、顔料及び着色剤が挙げられる。
【0016】
前記内層11の厚さは、本発明の作用効果を阻害しない限り特に限定はなく、必要に応じて種々の厚さとすることができる。前記内層の厚さは通常、7〜30μmである。
【0017】
前記金属層12は、該内層11の外側表面(内側表面111の反対側の表面)に設けられた層である。前記金属層を構成する金属の種類には特に限定はない。該金属として具体的には、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0018】
本発明の作用効果を阻害しない限り、前記金属層の構造には特に限定はない。通常、前記金属層は図1に示すように1層であるが、図3に示すように2層以上の多層(図3の12A及び12B)で構成されていてもよい。また、前記金属層の厚さについても、本発明の作用効果を阻害しない限り特に限定はなく、必要に応じて種々の厚さとすることができる。前記金属層の厚さは通常、7〜25μmである。
【0019】
前記内層11の外側表面に前記金属層12を形成する手段には特に限定はない。例えば、前記金属層11を構成する金属箔を形成し、次いで、これを接着剤又はヒートシール性を有する他の樹脂フィルム等により前記内層に張り合わせてもよい。あるいは、前記内層を構成する樹脂材料(例えば、フィルム状又はシート状の樹脂材料)の表面に、化学蒸着、プラズマ蒸着、スパッタリング等により前記金属層を形成してもよい。
【0020】
また、前記内層及び金属層の形成と容器の形成の順序にも特に限定はない。前記のように、樹脂材料の一方の表面に金属層を形成した後、これを用いて容器を製造してもよい。あるいは、射出成形又はブロー成形等により、予め樹脂材料から中空容器を製造した後、プラズマ蒸着等により、該中空容器の外側表面に前記金属層を形成してもよい。
【0021】
本発明の容器は、前記内層及び金属層を有する限り、その具体的構成には特に限定はない。本発明の容器の一例を図1図5に示す。
【0022】
図1に示す容器1aは、前記内層11及び前記金属層12が各1層であり、前記金属層12が外層(外部環境と接する層)を構成している。
【0023】
図2に示す容器1bは、前記内層11が多層構造(11A及び11B)である。また、前記金属層12は1層であり、これが外層を構成している。前記内層11が多層構造の場合、少なくとも最内層(燃料電池用冷却液と接する層、図2では内層11Aに相当する。)を構成する材料が樹脂であり、本発明の作用効果を阻害しない限り、内層を構成する材料には特に限定はない。通常、内層11を構成する各層は全て樹脂層である。この場合、各樹脂層を構成する樹脂材料にも特に限定はない。該樹脂層は同じ樹脂材料でもよく、異なる樹脂材料でもよい。
【0024】
図3に示す容器1cは、前記金属層12が多層構造(12A及び12B)である。前記金属層が多層構造である場合、本発明の作用効果を阻害しない限り、各金属層を構成する金属材料には特に限定はない。該金属層は異なる種類の金属層で構成されてもよく、同じ種類の金属層で構成されていてもよい。
【0025】
図4に示す容器1dは、前記内層11が多層構造(11A及び11B)であり、且つ前記金属層12が多層構造(12A及び12B)である。前記内層11及び金属層12については、容器1B及び1Cに関する説明が妥当する。
【0026】
図5に示す容器1eは、前記金属層12の外側表面に更に他の外層13を有する。即ち、本発明の容器は、前記金属層の外側表面に更に他の外層を有していてもよい。該他の外層の材質は、本発明の作用効果を阻害しない限り特に限定はない。該他の外層は通常、樹脂層である。該樹脂層を構成する樹脂として具体的には、例えば、前記内層を構成する樹脂として例示された樹脂が挙げられる。前記内層を構成する樹脂と前記他の外層を構成する樹脂は、同じ樹脂でもよく、異なる樹脂でもよい。前記内層を構成する樹脂と前記他の外層を構成する樹脂の組み合わせとしては、例えば、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の組み合わせが挙げられる。図5に示す容器1eにおいて、通常、内層11がポリエステル樹脂であり、他の外層13がポリオレフィン樹脂であるが、逆でもよい。
【0027】
図5(a)に示すように、前記他の外層は1層でもよく、あるいは、図5(b)に示すように多層構造(13A及び13B)でもよい。前記他の外層が多層構造である場合、本発明の作用効果を阻害しない限り、各層を構成する材料には特に限定はない。通常、各層は樹脂層であるが、樹脂層と金属層との組み合わせでもよい。
【0028】
本発明の容器において、前記内層、金属層、及び他の外層が多層構造の場合、各層を一体化する方法には特に限定はない。例えば、多層構造を構成する層を、接着剤又はヒートシール性を有する他の樹脂フィルムにより一体化することができる。この場合、正確には、多層構造を構成する層の間に接着層又はヒートシール性樹脂層が形成されるが、図1図5では、このような接着層又はヒートシール性樹脂層の記載を省略している。即ち、図1図5で例示した容器には、多層構造の各層の間の少なくともいずれかに、接着層又はヒートシール性樹脂層を有する態様も含まれる。
【0029】
本発明の容器の大きさには特に限定はない。本発明の容器は用途に応じて種々の大きさにすることができる。
【0030】
本発明の保管方法は、本発明の容器に冷却液を収容する。本発明の「保管」には、単に冷却液をそのまま(冷却液を冷却液として使用しない態様で)保管する場合(単純保管)だけでなく、冷却液として使用しながら保管する場合(使用保管)の両者を含む。例えば、本発明の容器を、車両搭載用燃料電池と共に車両に搭載し、冷却液を冷却液として使用しながら保管する場合も含む。
【0031】
本発明の保管方法は、本発明の容器に冷却液を収容する限り、具体的な保管方法及び保管条件には特に限定はない。保管方法及び保管条件は、必要に応じて適宜の方法及び条件を設定することができる。また、前記冷却液の組成にも特に限定はなく、例えば、公知の冷却液を用いることができる。前記冷却液として具体的には、例えば、水(イオン交換水等)、又は水(イオン交換水等)とグリコール類及び/若しくはアルコール類とを含有する冷却液が挙げられる。
【0032】
本発明の容器及び保管方法は、特許請求の範囲に記載された範囲内で自由に変更することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0034】
実施例1〜2及び比較例の各容器の組成を表1に示す。各容器の容量はいずれも2Lである。実施例1の容器は、層がPET(ポリエチレンテレフタレート)12μm、金属層がアルミ箔9μm、層がONY(ナイロン)15μm及びLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)160μmで構成されている(最層がLLDPE)。実施例1の容器は、各層をドライラミネート法により積層して形成した。実施例2の容器は、層がPET12μm、金属層がアルミ層がPET、ONY25μm及びLLDPE180μmで構成されている(最層がLLDPE。金属層と接しているのがPET)。実施例2の容器は、PET上にアルミを蒸着させたアルミ蒸着PETを用い(厚さ12μm)、これと外層及び内層を構成する各層をドライラミネート法により積層して形成した。
【0035】
実施例1〜2及び比較例1の各容器に、燃料電池用冷却液(シーシーアイ株式会社製、エチレングリコール/イオン交換水)を2L収容した。次いで、温度50℃の条件で該冷却液を保存し、168、336、504及び672時間後の電気伝導率(μS/cm)を導電率計ES−12(株式会社堀場製作所製)により測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1より、従来の樹脂製容器(比較例)で保管された冷却液は、保管中に電気伝導率が上昇していることが分かる。特に保管から168時間(7日間)の時点で既に電気伝導率が初期の4倍程度の上昇し、672時間(28日間)の時点で初期の8倍まで上昇している。一方、本発明の容器に含まれる実施例1及び2の容器で保存された冷却液は、保管から672時間(28日間)の時点でも依然として初期の電気伝導率を維持している。よって、本発明の容器は、保管中の冷却液の電気伝導率の上昇抑制効果に著しく優れており、冷却液の保存に好適であることが分かる。
【符号の説明】
【0038】
1a〜1e;燃料電池用冷却液収容容器、11;内層、111;内層表面、12;金属層、13;他の外層、2;燃料電池用冷却液。
図1
図2
図3
図4
図5