特許第6986843号(P6986843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986843
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】シール用樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20211213BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20211213BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20211213BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20211213BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20211213BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   F16J15/10 S
   C08L23/00
   C08L53/00
   C08J3/24 Z
   C08J5/00CES
   C09K3/10 Z
   F16J15/10 X
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-24992(P2017-24992)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-132097(P2018-132097A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 芳宣
(72)【発明者】
【氏名】平田 泰浩
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−166470(JP,A)
【文献】 特開2016−182864(JP,A)
【文献】 特開2014−177163(JP,A)
【文献】 特開2016−068573(JP,A)
【文献】 特開2010−126655(JP,A)
【文献】 特表2008−540696(JP,A)
【文献】 特表2016−501974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
C08J 99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C09K 3/10−3/12
F16J 15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装着物に装着される本体部と、少なくとも1つのシール部とを備えるシール用樹脂成形品であって、
前記シール部は、前記本体部から延在する片持ち梁状又は中空筒状で、被装着物に装着された状態において該被装着物又は該被装着物の相手材に対して弾接し、
前記シール部は、オレフィンブロックコポリマー及び動的架橋型オレフィン系エラストマーのみを含有する熱可塑性エラストマーにより成形されている、シール用樹脂成形品。
【請求項2】
前記シール部を形成する熱可塑性エラストマーは、前記オレフィンブロックコポリマーを25重量%以上含有する、請求項1に記載のシール用樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被装着物に装着される本体部と、少なくとも1つのシール部とを備えるシール用樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種構造物や機械製品等には、これらを構成する部材の隙間の液密性、気密性、遮音性又は防塵性等が求められることがある。この場合、このような隙間をシール(封止)するため、シール部材を介在させることが一般的である。
【0003】
このようなシール部材として、例えば下記特許文献1がある。特許文献1のシール部材は、被装着物に装着される本体部と、少なくとも1つのシール部とを備える自動車用モール材であって、実質的にコモノマーを含んでいない高密度ポリエチレン樹脂(A)5〜50重量部と、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が90〜250、エチレン含量が60〜95モル%のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)50〜95重量部とを含むオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物により全体が成形されている。これにより、高温ゴム弾性(封止性能)に優れた自動車用モールが得られるとされている。具体的には、JIS K 6262に準拠した方法で測定した結果により、圧縮永久歪50%以下を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−171190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では封止性能をJIS K 6262に準拠した方法で測定評価している。当該JIS K 6262では、平板状のサンプル(試料)によって圧縮永久歪を測定する方法を規定している。しかし、実製品形状で圧縮永久歪を測定した場合、平板状で測定した値と異なる結果となることがある。したがって、封止性能を平板形状で測定評価しただけでは、材料レベルでは一定の品質は保証されるが、実製品レベルでは必ずしも品質(封止性能)が保証される訳ではない。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、実製品を想定した形状において封止性能を保証できるシール用樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として、本発明は、被装着物に装着される本体部と、少なくとも1つのシール部とを備えるシール用樹脂成形品である。前記シール部は、前記本体部から延在する片持ち梁状又は中空筒状で、被装着物に装着された状態において該被装着物又は該被装着物の相手材に対して弾接(弾性変形した状態で圧接)する。そのうえで、前記シール部は、オレフィンブロックコポリマー及び動的架橋型オレフィン系エラストマーのみを含有する熱可塑性エラストマーにより成形されていることを特徴とする。
【0008】
前記シール部を形成する熱可塑性エラストマーは、前記オレフィンブロックコポリマーを25重量%以上含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシール用樹脂成形品は、シール部が少なくともオレフィンブロックコポリマーを含有する熱可塑性エラストマーにより成形されていることで、実製品を想定した形状で測定しても優れた封止性能(圧縮永久歪み)を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ガラスランチャンネルの断面図である。
図2】バックドアオープニングトリムの断面図である。
図3】ルーフモールの断面図である。
図4】目地材の断面図である。
図5】片持ち梁状サンプルの試験模式図である。
図6】中空筒状サンプルの試験模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシール用樹脂成形品は、被装着物又は被装着物の相手材の液密性、気密性、遮音性又は防塵性等を確保するためのシール部材である。このようなシール用樹脂成型品としては、被装着物に装着される本体部と、少なくとも1つのシール部とを備え、シール部が本体部から延在する片持ち梁状又は中空筒状で、被装着物に装着された状態において、当該被装着物又は当該被装着物の相手材に対して弾性変形した状態で圧接するものであれば、具体的形状は特に限定されない。
【0013】
例えば、各種構造物や機械製品等において従来から一般的に使用されている公知のシール部材が挙げられる。詳しくは、自動車、建材等に使用されているシール部材として使用できる。具体例を挙げれば、自動車用のウェザーストリップ、車両用トリム材、車両用モール材、及び建材等で使用される目地材等が挙げられる。
【0014】
ウェザーストリップの一種であるガラスランチャンネル1は長尺部材であって、その基本的構成は、図1に示すように、底壁10と、底壁10の左右側縁から一体的に立設する左右の側壁11とによって構成されるU字状の本体部を有する。両側壁11の先端内縁には、それぞれ底壁10側へ向けて折り返し延在する片持ち梁状のシールリップ12が形成されている。一方、両側壁11の先端外縁には、底壁10側へ向けて折り返し延在する片持ち梁状の装飾リップ13が形成されている。また、底壁10と両側壁11の連結部外面には、それぞれ外方に向けて突設された片持ち梁状の保持リップ14が形成されている。これらシールリップ12、装飾リップ13、及び保持リップ14が、それぞれ本発明におけるシール部に相当する。
【0015】
ガラスランチャンネル1は、自動車の窓枠に沿って配される部材であり、被装着物となるドアパネル15に装着される。このとき、装飾リップ13及び保持リップ14がドアパネル15に弾接する。また、窓ガラス16を全閉すると、シールリップ12が窓ガラス16に弾接する。
【0016】
車両用トリム材は長尺部材であって、バックドアオープニングトリム、ドアオープニングトリム、サンルーフトリム等が挙げられる。例えばバックドアオープニングトリム2の基本的構成は、図2に示すように、頂壁20と、頂壁20の左右側縁から一体的に立設する左右の側壁21とによって、U字状の本体部が構成されている。符号25は、本体部を保形するための金属製芯材である。両側壁21の内面には、それぞれ片持ち梁状の保持リップ22が、高さ方向に1つ又は複数(図2では2つ)突出形成されている。また、両側壁21の外面には、それぞれ片持ち梁状の装飾リップ23が突出形成されている。さらに、頂壁20の外面には、中空筒状のシール部24が形成されている。保持リップ22、装飾リップ23及び中空筒状のシール部24が、それぞれ本発明におけるシール部に相当する。
【0017】
バックドアオープニングトリム2は、自動車のドア開口部周縁に沿って配される部材であり、被装着物となる車体パネル26に装着される。このとき、保持リップ22が車体パネル26に、装飾リップ23が内装部材27にそれぞれ弾接する。また、図外の車両ドアを閉めたとき、シール部24が相手材となる車両ドアに弾接する。
【0018】
車両用モール材も長尺部材であって、ルーフモール、ドアモール、ウインドウモール等が挙げられる。例えばルーフモール3の基本的構成は、図3に示すように、T字状の本体部30と、本体部30の支柱部30aの下端部外面から左右外方にそれぞれ突出形成されたシールリップ31とを有する。シールリップ31が、本発明におけるシール部に相当する。ルーフモール3は、被装着物となるルーフパネル35とサイドパネル36とで形成されたルーフ溝内に装着されるものであって、ルーフ溝に装着した状態において、シールリップ31がルーフパネル35とサイドパネル36に弾接する。
【0019】
目地材としては、種々の使用用途で多種多様な形状のものがあるが、その一例として、図4に示すように、T字状の本体部40と、本体部40の支柱部40aの外面から左右外方にそれぞれ突出形成された、高さ方向に1つ又は複数(図4では2つ)のシールリップ41とを有する。シールリップ41が、本発明におけるシール部に相当する。目地材4は、被装着物となる外壁パネル42,43で形成された目地に装着されるものであって、目地に装着した状態において、シールリップ41が外壁パネル42,43に弾接する。
【0020】
上記のような各種シール部材は、熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂等を押出成形又は射出成形して得られた樹脂成形品である。特に、各シール部は、少なくともオレフィンブロックコポリマーを含有する熱可塑性エラストマーにより成形されている。オレフィンブロックコポリマーは、エチレンを主体とする結晶性の重合体ブロック(ハードセグメント)と、1−オクテン及びエチレンを含む(エチレン含有量はハードセグメントより少ない)非結晶性の重合体ブロック(ソフトセグメント)とを含むブロックコポリマーであり、各ブロックが交互に2以上、好ましくは3以上繋がったマルチブロックコポリマーである。オレフィンブロックコポリマーにおけるエチレン含有量は、25〜97質量%が好ましく、40〜96質量%がより好ましく、55〜95質量%がさらに好ましい。このようなオレフィンブロックコポリマーとしては、例えばダウ・ケミカル社製の「INFUSE D9000」、「INFUSE 9100」、及び「INFUSE 9530」などが挙げられる。
【0021】
シール部を形成する熱可塑性エラストマーにおけるオレフィンブロックコポリマーの含有量は、25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、35重量%以上がさらに好ましい。オレフィンブロックコポリマーの含有量が少なすぎると、良好な封止性能を担保できないからである。
【0022】
シール部は、オレフィンブロックコポリマーのみによって形成しても良いため、オレフィンブロックコポリマーの含有量の上限は100重量%である。他の材料も混用する場合は、動的架橋型オレフィン系エラストマー(TPV)を混用することが好ましい。オレフィンブロックコポリマーと共に動的架橋型オレフィン系エラストマーを混用しても、封止性能を担保することができる。なお、動的架橋型とは、オレフィン系エラストマーを製造するための各材料を、加熱溶融しながら混練架橋させることを意味する。
【0023】
また、シール部には、必要に応じてオレフィンブロックコポリマー及びオレフィン系エラストマー以外の熱可塑性エラストマーや、熱安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤等の添加剤を添加してもよい。
【0024】
シール用樹脂成形品における本体部は、この種のシール部材において従来から使用されている公知の材料によって形成すればよい。具体的には、熱可塑性エラストマー、発泡熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、発泡熱可塑性樹脂、発泡ゴム、ソリッドゴム等が挙げられる。なお、本体部もシール部と同じ材料によって形成することもできる。本体部とシール部の材料を異ならせる場合は、本体部はシール部よりも剛性の高い材料とすることが好ましい。保形性や装着安定性が向上するからである。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の具体例を測定評価した結果について説明する。
(材料)
各実施例及び比較例には、以下の材料を使用した。
実施例1:ダウ・ケミカル社製「INFUSE D9000」(以下、単に「INFUSE」と表記する)のオレフィンブロックコポリマー100重量%
実施例2:「INFUSE」40重量%、エクソンモービル社製「サントプレン」の動的架橋型オレフィン系エラストマー(TPV)60重量%
実施例3:「INFUSE」25重量%、TPV75重量%
比較例1:TPV100重量%
【0026】
(サンプル形状)
サンプル形状A:片持ち梁状のシール部を想定して、上記実施例1〜3及び比較例1の材料によって図5(a)に示す形状のサンプルを押出成形により作製した。
サンプル形状B:中空筒状のシール部を想定して、上記実施例1〜3及び比較例1の材料によって図6(a)に示す形状(外径10mm、肉厚1.2mm)のサンプルを押出成形により作製した。
サンプル形状C:JIS K 6262に準拠し、上記実施例1〜3及び比較例1の材料によって厚み2mm、幅30mmの平板サンプルを押出成形により作製した。
【0027】
(圧縮永久歪の測定)
サンプル形状A:初期状態での各サンプルの高さh図5(a)参照)を測定した後、図5(b)に示すように各サンプルを治具に固定して初期高さhから15%圧縮した状態(圧縮高さh)において80℃で240時間保持した。その後、治具を取り外して室温(23℃)で30分放置したときの戻り高さh図5(c)参照)を測定し、下記計算式(1)により圧縮永久歪(%)を算出した。
圧縮永久歪=(h−h)/(h−h)×100・・・(1)
:初期高さ h:圧縮高さ h:戻り高さ
【0028】
サンプル形状B:初期高さh図6(a)参照)を測定した後、図6(b)に示すように各サンプルを治具に固定して初期高さhから25%圧縮した状態(圧縮高さh)において70℃で22時間保持した。その後、治具を取り外して室温(23℃)で30分放置したときの戻り高さh図6(c)参照)を測定し、サンプル形状Aと同様に上記計算式(1)により圧縮永久歪(%)を算出した。
【0029】
サンプル形状C:厚み2mm、幅30mmの平板サンプルを3枚重ねて厚み6mmにしたうえで、JIS K 6262に準拠して圧縮永久歪を測定した。なお、測定温度は70℃で行った。
【0030】
(試験結果)
各サンプル形状で得られた圧縮永久歪(%)の測定結果を表1に示す。なお、圧縮永久歪の値は小さいほど好ましい。
【表1】
【0031】
(考察)
表1の結果から、JIS K 6262に準拠した平板形状のサンプル形状Cでは、オレフィンブロックコポリマーを使用していない比較例1の方が、オレフィンブロックコポリマーを使用した実施例1〜3よりも圧縮永久歪が優れていた。これに対し、実製品を想定したサンプル形状A・Bでは、オレフィンブロックコポリマーを使用した実施例1〜3の方が、オレフィンブロックコポリマーを使用していない比較例1よりも圧縮永久歪が優れていた。これにより、JIS K 6262に準拠した測定方法では実製品の封止性能が保証される訳ではないことが確認されると共に、シール部にオレフィンブロックコポリマーを使用すれば、実製品においても優れた封止性能を担保することができることが確認された。
【符号の説明】
【0032】
1 ガラスランチャンネル
2 バックドアオープニングトリム
3 ルーフモール
4 目地材
10 底壁
11・21 側壁
12・31・41 シールリップ
13・23 装飾リップ
14 保持リップ
20 頂壁
22 保持リップ
24 (筒状)シール部
30・40 本体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6