(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
養殖昆布は、天然昆布よりも身が柔らかく、天然昆布と遜色のない良質な出汁をとることが出来るため、市場人気が高い。
【0003】
図6は、養殖昆布を生産するための養殖設備の一例を示すものである。この養殖設備1は、海中2に配する横材3と、該横材3の端部を支持する縦材4と、養殖昆布Kを成長させる複数の育成材6とを備え、該育成材6の各上端部を横材3に固定するようになっている。符号Sは海面である。
【0004】
通常の場合、横材3、縦材4、育成材6は、ロープを用いる。
【0005】
従来、このような養殖設備の技術としては、下記特許文献1が提案されている。
【0006】
昆布を養殖する設備であるから、横材3は、海面Sより下の海中2に位置させる。横材3は、長尺、例えば100〜200mの長さをもつので、適宜箇所に浮玉(図示せず)を配し、横材3の水平姿勢を保持させることが好ましい。
【0007】
横材3の両端部を支持する縦材4のロープは、
図7にも示すように、その下端部を、例えば、重量のあるアンカーブロック5に固定する。より好ましくは、縦材4は、逆V字状を呈する二本のロープによって支持する。海流による縦材4の動きを抑えることによって、横材3を安定させるためである。アンカーブロック5の適宜箇所(例えば上面)には、縦材4となるロープを結束/係合させる部材、例えば係合フック(図示せず)等を配しておき、当該係合フック等を介して縦材4となるロープを係着させる。
【0008】
育成材6は、通常の場合、上下方向に適当間隔をもって昆布種苗を配する。或いは、海中にある昆布種苗(遊走子;雄性配偶体/雌性配偶体)を捕捉する手段(例えば空隙のある繊維材、ネット材等)を設ける。
【0009】
また、育成材6の上端部は、横材3であるロープに対して予め結び付け(結束させ)て固定させておく。
【0010】
養殖昆布Kは、約2年ほどで収穫時期を迎える。収穫時には、早朝から船を出して、縦材4に結束してある横材3を取り外し、当該横材3を回収する。
【0011】
これにより、横材3に連結させた育成材6と、育成材6に付着する養殖昆布Kが回収される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
問題は、台風や津波によって海が荒れたときに、養殖昆布Kを護る適切な措置を講じないと、養殖昆布Kの成長に大きなダメージが生ずる点にある。これは、次の通りである。
【0014】
まず、台風や津波により海水の流動が激しくなって養殖昆布Kの全体に強い水圧が加わる場合、横材3および縦材4に引張力が作用する結果、縦材4の下端を支持するアンカーブロック5が転倒(横転)することがある。
【0015】
このため、海が荒れるとき(時化るとき)は、早めに横材3を海中の深くに下降させる等して、養殖昆布Kを護ることが望まれる。
【0016】
しかしながら、天候の急変や、予期できない津波発生など、必ずしも適切な措置を講ずることが出来ない場合もある。アンカーブロック5は、非常に大きな重量をもつので、若干の時化や津波では転倒することもないので、横材3を海中の深くに下降させるか否かの判断は容易ではない。そして、適切な判断が遅れると、甚大な被害を受けることになる。
【0017】
また、結果的にアンカーブロック5が転倒(横転)しなかった場合でも、激しく流動する海水が長時間衝突する結果として、養殖昆布Kの品質が劣化し、商品価値(市場価格)を低下させることがある。
【0018】
そこで、本発明の目的は、海面/海面近傍に配する横材を下降させる等、人為的な適宜措置を講じなくても、時化や津波に起因する、アンカーブロックの転倒や養殖昆布の品質劣化を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため、本発明に係る昆布の養殖設備は、海面に浮遊させる横材と、該横材の一端部を支持する縦材と、昆布を成長させるための複数の育成材とを備え、該育成材の各上端部を前記横材に固定する昆布の養殖設備であって、前記縦材は、前記横材の片側一端部にのみ配設し、下端部をアンカーブロックに固定した、一本のロープ材またはロープ束であり、前記横材は、一本のロープ材またはロープ束であって、当該横材を被覆する浮力体を長手方向に備え、一方の端部を前記縦材に係留し、他方の端部を非係留として浮遊動可能とする(請求項1)。
【0020】
この養殖設備は、海面に横材を浮動させ、一端部を縦材に固定(係留)し、他端を非係留とするものである。このため、台風等により海が時化た場合や、地震に起因して津波が発生しても、横材は海水の流動に応じて自由に位置変動する。
【0021】
このため、養殖昆布への海水の衝突圧力を逃がすことができ、横材および縦材への引張力を低減して、アンカーブロックの転倒を防ぐことが可能となる。
【0022】
また、養殖昆布への海水の衝突圧力も低減させることが出来るので、養殖昆布の品質劣化も生じにくい。
【0023】
非係留とする横材の端部/端部近傍に、風向きに応じて前記横材を縦材まわりに浮遊動させる端部フロートを設ける場合がある(請求項2)。
【0024】
端部フロートを設けることにより、風向きに応じて横材は風を受けにくい位置へ移動する。
【0025】
風向きと海面の水の向きは、完全には一致するわけではない。しかしながら、強風の場合は風向きと海面の水の向きには相関があるため、悪天候(時化)の場合に、海面/海面近傍の海水流動に起因する養殖昆布のダメージを緩和することが出来る。
【0026】
横材に、バックルまたは係合タングのいずれか一方を配するとともに、育成材の上端部に、係合タングまたはバックルのいずれか一方を配し、前記バックルと係合タングとを係合させることによって、前記育成材を適当間隔をもって前記横材に固定する場合がある(請求項3)。
【0027】
従来は、育成材(ロープ)の上端部を横材(ロープ)に括り付ける(結び付ける)方式であった。これに対し、バックルと係合タングを用いて育成材の上端部を横材に係合させれば、育成材の装着が容易となるだけでなく、取り外しも容易となる。
【0028】
養殖昆布の回収時には、回収した昆布を短時間のうちに天日干しすることが望ましいが、従来の方式では、横材と育成材との分離が面倒なので、全体を回収して干場において分離し、天日干しする作業を行った。
【0029】
バックルと係合タングによる係合方式を用いると、海上での取り外し作業が可能となるので、必要な本数だけ育成材を取り外して干場に運び、すばやく養殖昆布の天日干しを行うことが出来る。全体の運び込みではなく、必要分量の運び込みで済むため、作業負担が軽減される。
【0030】
また、採取から昆布を天日干しするまでの時間が短いほど、良質な乾燥昆布とすることができる。バックルと係合タングを用いて必要本数だけ育成材を干場に運ぶことにより、天日干しの処理作業を速やかに行うことが出来る。
【0031】
乾燥処理すべき分量を調節できるため、作業人員が少なくても作業を実行できる利点もある。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る昆布の養殖設備によれば、人為的な措置を講じなくても、時化や津波に起因する、アンカーブロックの転倒や養殖昆布の品質劣化を防止することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1、
図2は、本発明に係る昆布の養殖設備の第一の実施例を示すものである。
【0035】
この養殖設備10は、海面Sに浮遊させる横材11と、該横材11の一端部を支持する縦材20と、昆布Kを成長させるための複数の育成材30とを備え、育成材30の各上端部を横材11に固定するものである。
【0036】
縦材20は、横材11の片側一端部にのみ配設する。その下端部20−1は、海底に配するアンカーブロック19に固定する。縦材20は、具体的には柔軟性のある索条であり、例えば、一本のロープ材またはロープ束によって構成する。
【0037】
横材11は、具体的には柔軟性のある索条、例えば、一本のロープ材またはロープ束によって構成し、当該横材11を被覆する浮力体(フロート)40を長手方向に備える。横材11は、一方の端部11−1を縦材20の上端近傍に係留し、他方の端部11−2を非係留として浮遊動可能としてある。
【0039】
横材11は、海面Sに浮遊させるため、長手方向に浮力体40を配してある。
【0040】
浮力体40は、横材11に適宜の浮力を与えることの出来るもの、例えば、樹脂/ガラス/金属等によって成形した内部中空の筒体(無底無蓋のもの)を用いることが出来る。筒体の中央孔に横材11を挿通させ、円筒体内部の空気(その他の気体)によって横材11に十分な浮力を与えられるものであれば良い。筒体の形状は適宜設計できる。円筒形、多角形筒体、いずれであっても良い。
【0041】
横材11は、適当間隔で配した育成材30を支持し、育成材30は昆布Kを成長させるものであるから、昆布Kが成長するにつれ重量が増加し、横材11には下方への強い引っ張り力が働く。浮力体40は、昆布Kが成長したときにも横材11を海面S(または海面近傍)に浮遊させた状態を維持させる浮力を備える。
【0042】
浮力体40は複数個に分割して、横材11の長手方向に配置することが望ましい。海面Sの複雑な変動、例えば、上下変動にも柔軟に形状を変化させて、横材11の破損を防止できるからである。横材11の端部から端部まで連続して全体を包む構成にすると、寸法が長大となり破損やダメージの可能性が増し、また取り扱いが難しくなるからである。
【0043】
横材11、縦材20は、柔軟性のあるロープを用いることが望ましい。海水の動きに柔軟に対応でき、破損の可能性が低いからである。横材11、縦材20に用いるロープ材は、一本のロープ材または複数本のロープ材を束ねたロープ束を用いる。養殖設備10の構成を単純化させ、ロープ材にかかる海水の圧力をより少なくさせるためである。金属ロープでも良いが、麻ロープなど、より柔軟性のあるロープ材を使用することが好ましい。
【0044】
育成材30は、適宜の素材を用いることが出来る。例えば、非金属性のロープ材、樹脂製のベルト材等である。この場合は、横材11の配設方向に対して育成材30を、略鉛直方向に垂下させる。育成材30は海水の動きに従動して柔軟に姿勢変動するものであることが望ましい。
【0045】
育成材30は、適宜の方法により横材11に固定する。例えば、育成材30として、一本のロープ材を用いる場合は、その上端部を横材11に結び付けて固定する等である。
【0046】
横材11には浮力体40を配するので、育成材30は、例えば、隣接する浮力体40の隙間(横材11が露出する部分)に係着させる。
【0047】
育成材30には、予め昆布種苗(遊走子;雄性配偶体/雌性配偶体)を配した部材、例えば種苗ネット等を適当間隔で固定しておくことが望ましい。種苗ネット等を予め配しておくことにより、養殖効率を高めることが出来るからである。
【0048】
縦材20は、一本のロープ材/ロープ束なので、その下端部を支持するアンカーブロック19は一個で良い。縦材20とアンカーブロック19との固定は、適宜の方法、例えば、アンカーブロック19の上面にリング材またはフック材を固定し、縦材20の下端部に係合対応するフック材/リング材を設けて、両者の係合によって縦材20の下端部を固定する。
【0049】
縦材20の上端部には、当該縦材20の位置を海上から容易に視認させるための第一フロート18を設けることが望ましい。第一フロート18は、位置確認のために設けるものであるから、外部からの視認が容易なものであれば良い。
【0050】
第一フロート18は、横材11の一方の端部の目印となるが、横材11の他方の端部(固定していない開放端部)には、第二フロート(以下、端部フロート)17を配設することが望ましい。
【0051】
この端部フロート17は、風向きに応じて横材11の開放端部を自由に浮遊動させるものである。従って、端部フロート17は、風を受けて横材11の開放端部を自由に泳がす(浮遊動させる)程度の大きさであることが望ましい。形状は問わない。従来からある球形の浮きであっても、風を受けて横材11の開放端部を動かす機能をもつ。目的が異なるので、第一フロート18と端部フロート17の大きさは同一である必要はない。
【0052】
従って、かかる構成によれば、横材11は、台風時や海が荒れたときに、上下方向および横方向に自由に位置を変えて、風や海水の圧力を逃がすことが出来る。このため、アンカーブロック19の転倒など、養殖業者にとって面倒な設備事故を確実に防止することが可能となる。
【0053】
また、横材11に固定した育成材30と、この育成材30において成長する昆布Kも、風や海水の動きの影響を受けない。このため、昆布Kの品質劣化の可能性をより低減することが出来る。
【0054】
育成材30は、
図3に示すように、複数に分岐させた分岐材35を介して横材11に固定しても良い。
【0055】
本発明に係る養殖設備10は、横材11を自由に位置変動させるものであるから、養殖場の面積との関係から、横材11を長大な構造とすることが好ましくない場合もある。
【0056】
そこで、横材11の長手寸法を短くしても、昆布Kの収量を減少させないようにするため、分岐材35を介して育成材30を設ける場合がある。
【0057】
図3では、図面を見やすくするため、符号Zで示す部位(浮力体40の隙間部分)には分岐材35を示していないが、実際には、符号Zで示す部位にも分岐材35を設け、短い横材11でも、昆布Kの収量を十分に確保することが望ましい。分岐材35は二股部材に限らず、二股以上に多数分岐させたものを使用しても良い。
【0058】
また、
図4に示すように、縦材20の上端部近傍に分岐連結材25を設け、この分岐連結材25を介して複数本の横材11を配しても良い。より好ましくは、分岐ロープ26を用いて、分岐連結材25と横材11とを連絡することが望ましい。分岐ロープ26は、横材11を拡開配置するよう、例えば、展張部材27を設けておくことが望ましい。展張部材27は、ロープ材、ロープ束、棒材、筒材等、適宜の構成とすることが出来る。
【0059】
図5は、育成材30を横材11に固定するための部材を例示するものである。
【0060】
通常、育成材30の上端部は横材11に結び付けるが、取り外しが面倒である。そこで、横材11に、バックル51または係合タング52のいずれか一方を配するとともに、育成材30の上端部に、係合タング52またはバックル51のいずれか一方を配し、両者を係合させることによって、簡単に係着/取り外しができるようにすることが望ましい。
【0061】
バックル51/係合タング52は、例えば、乗り物の安全ベルトを利用できる。例えば、自動車、旅客機、遊園地で使用されるシートベルト等である。
【0062】
自動車で使用される安全ベルトは、係合/係合解除も容易であり、部材の防錆処理も優れているので、海中で使用するには最も好ましい。
【0063】
バックル51と係合タング52の位置関係は、
図5とは逆でも良い。横材11に係合タング52を固定し、育成材30の上端部にバックル51を固定しても、係合/係合解除の作業性は、略同一だからである。
【0064】
自動車のシートベルトを用いる場合、バックル51と係合タング52には、ベルト材54、58が固定されている。従って、当該ベルト材54、58を、そのまま育成材30として用いて良い。
【0065】
この実施形態では、横材11にバックル51を固定するので、バックル51に固定されているベルト材54を介して固定を行うことが出来る。例えば、ベルト材54を、環状(リング状)にして横材11に巻き付け、適宜の固定金具(ビス、ネジ材等)を介して、環状のベルト材54を横材11に固定する等である。一方、係合タング52に固定されているベルト材58は、そのまま下方に垂らして育成材30として利用できる。
【0066】
シートベルトに用いるベルト材54、58は、表面が平滑なため、海中を浮遊する昆布種苗(遊走子;雄性配偶体/雌性配偶体)が付着しにくい。このため、好ましくは、ベルト材58には、予め昆布種苗を配した部材(例えば種苗ネット等)を固定しておくか、或いは、上下方向に適当間隔をもって昆布種苗が付着しやすい傷穴59を設ける。
【0067】
傷穴59は、例えば、上下3〜6cm程度の寸法で、ベルト材58(育成材30)に傷を付けて、樹脂繊維を露出させつつ、海水が流動できる程度に開口させたものである。このような傷穴59を適当間隔で設けておけば、昆布種苗の人為的な種付け作業が容易となる。また、海中にある昆布種苗(遊走子;雄性配偶体/雌性配偶体)が樹脂繊維に付着しやすく、岩場で成長する昆布(いわゆる天然昆布)と同じように成長足場を得て、昆布を成長させることが出来る。傷穴59は、昆布種苗が成長できる大きさがあれば良い。大きさは、養殖する海の環境(海水温、昆布の種類)等によって適宜設定することが望ましい。
【0068】
かかる構成によれば、育成材30(ベルト材58)の装着/取り外しが容易となる。従来のように、横材11を縦材20から取り外して、横材11と育成材30の全部を干場に運ぶ必要が無く、作業可能な本数だけ育成材30(ベルト材58)を取り外して干場に運び、天日干しすることが出来る。
【0069】
養殖昆布Kは、収穫から天日干しまでの時間が短いほど品質を良好に出来るので、短時間での作業が可能な本数だけ育成材30を干場に運ぶことによって、少人数でも短時間で乾燥処理を行うことが可能となり、品質を良好に安定させることが出来る。
【0070】
本発明で使用する浮力体40は、育成材30において成長する昆布Kの重量が増しても、横材11を海面Sに浮上させる浮力があれば良く、構造や形状は問わない。
【0071】
浮力体(40)を備える横材(11)として類似する技術としては、競泳用プールで用いるコースロープがある。しかしながら、競泳用コースロープは、競技者のタイムを伸ばすための消波性能に重点が置かれ、フロートは必然的に消波性能を向上させる複雑な構造をもつ。しかし、本発明において使用する浮力体40は、浮力を確保することが優先されるので、コースロープに較べより単純な浮力構造のものを使用することが望ましい。コストを低減させるためである。