(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、前記第1の溶媒の重水素置換体と前記第2の溶媒の重水素置換体を用いて予め蓄電装置を作製し、初期充放電を行って蓄電装置を劣化させた後、前記蓄電装置を分析することで、前記第1の電解液における前記第1の溶媒の割合を決定する蓄電装置の作製方法。
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、前記1回目の前記容器内からガスを除去する工程の後、前記電解液にビニレンカーボネートを注入する蓄電装置の作製方法。
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、前記第1の条件、前記第2の条件、または前記第3の条件による充電は、前記容器を加圧しながら行う蓄電装置の作製方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0037】
(実施の形態1)
図1は、蓄電装置の作製フローの一例を示す図である。
【0038】
まず、第1の電解液を用意する。本実施の形態では、電解質(リチウム塩)と、3種類の溶媒を混合させて第1の電解液を作製する。
【0039】
リチウム塩としては、LiPF
6、LiN(FSO
2)
2(略称 LiFSA)、LiClO
4、LiAsF
6、LiOH、LiCl、LiNO
3、Li
2SO
4、LiBF
4、LiCF
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N(略称 LiTFSA)、Li(C
2F
5SO
2)
2N(略称 LiBETA)等から選ばれる一種または複数種を用いる。
【0040】
3種類の溶媒のうち、1種類(第1の溶媒)は、高誘電率溶媒であり環状カーボネートを用いる。代表的にはエチレンカーボネートを用いる。また、他の2種類(第2の溶媒、第3の溶媒)は、鎖状カーボネートを用いる。環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられる。また、電解液全体に対して第1の溶媒(エチレンカーボネート)が50体積%以上、好ましくは70体積%以上を占めるように、リチウム塩と混合させて第1の電解液を調製する。
【0041】
次いで、電解液を収容する容器となる外装体を用意する。外装体としてフィルムを用いる構成を以下に説明する。本実施の形態ではフィルムを加工して容器を構成し、電解液、正極および負極等を収納することとする。
【0042】
図2(A)に示すように、正極集電体101の一方の面に、正極活物質層102を形成した正極111を用意し、セパレータ107と重なるように配置する。次に、
図2(B)に示すように、セパレータ107の正極111と重ならない領域が、正極111と重なるように、セパレータ107を折り曲げる。ただし、セパレータ107の配置はこれに限定されるものではない。
【0043】
そして、
図2(C)に示すように、正極111の周囲の領域107aにおいて、セパレータ107が正極111を覆うように、セパレータ107同士を接合する。セパレータ107同士の接合は、接着材などを用いて行ってもよいし、超音波溶接や、加熱による融着により行ってもよい。また、繊維を重ねて成形されたセパレータを使用する場合、機械的な加圧によって、繊維同士を絡ませることによって、セパレータ同士を接合してもよい。また、加圧することにより接合する材料からなるセパレータを使用する場合、加圧することで、セパレータ同士を接合することができる。
【0044】
本実施の形態では、セパレータ107としてポリプロピレンを用いて、正極111の周囲の領域107a(換言すると、セパレータ107において正極111と重ならない領域)を加熱することによりセパレータ107同士を接合する。このようにして、正極111をセパレータ107で覆うことができる。
【0045】
領域107aは、セパレータ107を加熱により接合する場合に限らず、他の方法で接合する場合にも使用することができる。セパレータ107を接合する方法に応じ、適切な大きさの領域107aをセパレータに設けると、セパレータ107同士を接合しやすくなり、好ましい。
【0046】
また、接合後の領域107aの厚みは、正極111の厚みよりも小さいと好ましい。
【0047】
なお、セパレータ107の接合は、連続的もしくは断続的に行ってもよいし、一定間隔毎の点状としてもよい。
【0048】
本実施の形態では領域107aの4辺を接合する例を示すが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、領域107aの1辺のみを接合してもよい。または、領域107aの2辺のみを接合してもよい。または、領域107aの3辺のみを接合してもよい。
【0049】
なお、領域107aの1辺、2辺または3辺のみを接合した場合、接合していない領域については、後の工程で接合してもよい。例えば、負極をセパレータで覆った後に、該領域を接合してもよい。また、複数の正極および複数の負極を積層した蓄電装置を製造する場合は、複数の正極および負極をそれぞれセパレータで覆い、積層した後に、該領域を接合してもよい。
【0050】
次に、
図2(D)に示すように、負極集電体105の一方の面に、負極活物質層106が形成された負極115を用意し、セパレータ107を介して正極111と重なるように配置する。また、
図3(A)に示すように、セパレータ107の負極115と重なっていない領域が、負極115に重なるように、セパレータ107を折り曲げる。
【0051】
そして、
図3(B)に示すように、負極115の周囲の領域107b(換言すると、セパレータ107において負極115と重ならない領域)において、セパレータ107同士を接合することにより、負極115をセパレータ107で覆う。
【0052】
負極115を、セパレータ107を介して正極111と重なるように配置するとき、適切な大きさの領域107bを設けると、セパレータ107を接合しやすくなり好ましい。また、セパレータ107を接合する方法に応じ、適切な大きさの領域107bをセパレータ107に設けると、セパレータ107同士を接合しやすくなり、好ましい。
【0053】
また、セパレータ107を折り曲げるときにも、適切な大きさの領域107bを設けると、セパレータ107を接合しやすくなり好ましい。
【0054】
また、接合後の領域107bの厚みは、負極115の厚みよりも小さいと好ましい。
【0055】
なお、領域107bは、領域107aと重なっていてもよく、領域107aの厚みと、領域107bの厚みの合計が、正極111の厚みと、負極115の厚みの合計よりも、小さいと好ましい。
【0056】
上述のように、折り曲げたセパレータ107同士を接合して、正極111と負極115の相対位置がずれるのを防止することにより、正極111と負極115が接触してショートするのを確実に防止することができ、好ましい。また、このような構成とすると、蓄電装置の凹凸を減少させることができる。例えば、接着テープを用いて正極111と負極115とを固定する場合、接着テープの厚みによって、電極に凹凸が生じる。一方、接着テープを使用せず、セパレータ107同士を接合することにより、電極の相対位置がずれるのを防止する場合、電極に凹凸が生じることを防ぐことができる。さらに、蓄電装置の凹凸を減少させることができる。
【0057】
電極および蓄電装置の凹凸を減少させることにより、本発明の一態様に係る蓄電装置の充放電方法を用いて蓄電装置の充電を行うとき、電極全体および蓄電装置全体に均一に圧力をかけやすくなる。また、正極と負極との間の距離を一定に保ちやすくすることができる。従って、蓄電装置の充電により蓄電装置が有する電解液が分解され、ガスが発生しても、正極と負極との間の距離がばらつくのを抑制することができる。
【0058】
また、蓄電装置の凸部に圧力が集中することにより、蓄電装置を構成する部材が損傷するのを防ぐことができる。例えば、接着テープを用いて正極111と負極115とを固定すると、蓄電装置の凹凸が増加するため、圧力が集中する凸部において正極111または負極115が有する活物質層が剥がれることがある。一方、接着テープを使用せず、セパレータ107同士の熱圧着により、正極111と負極115との位置がずれるのを防止することにより、正極111または負極115が有する活物質層が剥がれることを防ぐことができる。
【0059】
次に、
図3(C)に示すように、正極111の正極集電体において、正極活物質層が接していない領域(以下、正極タブと呼ぶ。)と、封止層121を有する正極リード141とを、電気的に接続する。また、負極115の負極集電体において、負極活物質層が接していない領域(以下、負極タブと呼ぶ。)と、封止層121を有する負極リード145とを、電気的に接続する。電気的に接続する方法は特に限られないが、例えば圧力を加えながら超音波を照射すればよい(超音波溶接)。
【0060】
次に、外装体に用いるフィルム110aを折り曲げる(
図3(D))。
【0061】
次に、折り曲げたフィルム110aで、正極111、正極リード141、負極115、負極リード145およびセパレータ107を挟む。そして、フィルム110aの一辺(
図4(A)における領域110b)において、フィルム110a同士を接着する。接着は、熱溶着により行うことができる。
【0062】
次に、フィルム110aの他の一辺(
図4(B)における領域110c)において、フィルム110a同士を接着する。そして、フィルム110aが接着されていない部分から、フィルム110aで挟まれた領域に、電解液108を注入する(
図4(B)を参照。)。
【0063】
そして真空引きを行いながら、加熱および加圧によりフィルム110aの残りの辺(
図4(C)における領域110d)を接着し、フィルム110aを封止された外装体110とする(
図4(C))。これらの操作は、グローブボックスを用いるなどして酸素や水を排除した環境にて行う。真空引きは、脱気シーラー、注液シーラー等を用いて行うとよい。またシーラーが有する加熱可能な2本のバーで挟むことにより、加熱および加圧を行うことができる。またレーザー等で外装体110を加熱することにより接着し封止してもよい。それぞれの条件は、例えば真空度は50kPa以上70kPa以下、加熱は150℃以上190℃以下、加圧は0.5MPa以上1.5MPa以下において2秒以上3秒以下とすることができる。このとき、フィルム110aの上から正極および負極を加圧してもよい。加圧により、電解液注入の際に混入した気泡を正極と負極の間から排除することができる。
【0064】
この段階で
図1に示す、第1の電解液を有する初期充放電処理前のセル99が作製できる。この段階では
図1に示すように第1の電解液中の第1の溶媒は50体積%を超える。
【0065】
このセル99に以下のS101乃至S110の初期充放電等を行ってセル100を作製する。なお、初期充放電とは初回充電を含み、0.01C以上1C以下の充電速度で充放電を数サイクル行う処理を指す。具体的には、蓄電装置を構成する正極と負極との間に外部電源を接続して充電を行う。
【0066】
初期充放電としてまず、セル99に対して、第1の条件で充電を行う(S101)。具体的には0.1C未満で充電を行う。第1の条件とし、且つ、電解液において第1の溶媒が50体積%を超えるようにすると、正極および負極上で、第1の溶媒の分解の連鎖反応を長く続けることができ、第1の溶媒由来の良好な被膜を形成することができる。同時に低分子量の分解生成物の生成を低減できる。また、サイクル特性の向上を図ることができる。
【0067】
なお本明細書等において、分解生成物とは、電解液、正極および負極が有する材料が分解して生じた物質、または分解した後他の分子と化学結合して生じた物質をいう。
【0068】
また、第1の条件の充電は、セル99に対して圧力を加えながら行う。セルを加圧することで、セルが有する正極と負極の間の距離を短くすることができる。電解液の溶媒として高誘電率溶媒が50体積%を超えるほど多く含む場合、電解液の粘度が高くなりリチウムイオンが電極間を移動しづらくなるおそれがあるが、正極と負極の間の距離を短くすることで、セルの抵抗を低減することができる。
【0069】
本実施の形態で用いる加圧器具の模式図を
図5に示す。加圧器具は、平板状の支持材11、平板状の緩衝材13、平板状の支持材14、固定器具15a、固定器具15b、平板状の支持材16を有する。
図5(A)に示すように、支持材11、初期充放電処理を行うセル99、緩衝材13、支持材16、支持材14をこの順に重ね、
図5(B)に示すように固定器具15aおよび固定器具15bを用いて支持材11と支持材14との間の距離を固定することで、セル99を加圧することができる。
【0070】
セル99と平板状の緩衝材13を配置するとき、緩衝材13が、セル99が有する正極および負極を覆い、かつ外装体の一部を覆わない構成とすると、加圧器具を
図5(B)のように組み立てても、外装体の一部の領域には、圧力がかかりにくい。つまりセル99が有する正極および負極と重畳する領域は十分に加圧され、正極および負極と重畳しない領域はそれよりも弱く加圧される。従って、セル99を充放電して電解液が分解されることにより発生するガスは、該領域に流れやすくなる。従って、正極および負極と重畳する領域にガスがたまることを防ぎ、正極と負極との間の距離が変化するのを抑制することができる。
【0071】
第1の条件の充電後に1回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を行う(S102)。外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程の際には外装体110の一部を切り取って開口を形成する。この1回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程においても圧力を加えながら行うことが好ましい。また、減圧下で行うとガスをより除去しやすくなり好ましい。
【0072】
次に、第1の電解液に第3の溶媒を追加注入して、第1の溶媒の占める割合が電解液全体の40体積%以下となるように調整する。(S103)その後、注入を行った開口を封止する(S104)。封止は、セル99作製の工程と同様に行うことができ、例えばシーラーが有する加熱可能な2本のバーで外装体110を挟むことにより熱圧着して封止してもよいし、レーザー等で外装体110を加熱することにより接着し封止してもよい。電解液全体の40体積%以下に第1の溶媒の占める割合を低減することで、電解液全体の粘度を低下させ、且つ低温特性を確保することができる。
【0073】
また、第3の溶媒の追加注入の際に、さらにVCなどを追加注入してもよい。VCの他にビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどを追加注入してもよい。VCを用いることで、正極および負極により安定な被膜を形成することができる。
【0074】
次に、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら第2の条件で充電を行う(S105)。具体的には0.1C以上1C未満で充電を行う。
【0075】
第2の条件の充電後に2回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を行う(S106)。この際には外装体110の一部を切り取って開口を形成する。この2回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程においても押圧を加えながら行うことが好ましい。また、減圧下で行うとガスをより除去しやすくなり好ましい。
【0076】
2回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を行った開口を封止する(S107)。
【0077】
次に、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら第3の条件で充電を行う(S108)。具体的には0.1C以上1C未満で充電を行う。第3の条件は第2の条件の充電速度と同一でもよい。この段階で初回充電が終了する。
【0078】
次に、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら放電を行う(S109)。
【0079】
引き続き、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら満充電を行った後、放電を行う(S110)。さらに2回、満充電を行った後、放電を行い、第2の電解液を有するセル100を完成させることができる。第2の電解液中で第1の溶媒の占める割合は40体積%以下である。以上の工程をもって被膜を有する正極および被膜を有する負極を備えたセル100が完成する。この第2の電解液を有するセル100は、サイクル特性が優れ、−40℃から80℃までの温度範囲の環境で使用することができる。
【0080】
なお、本発明の一態様は、上記したようにセパレータ同士を接合することにより、正極111および負極115をそれぞれセパレータ107で覆うことに限定されない。セパレータ107は、セル100における正極111と負極115との接触を防ぐことができればよく、例えば短冊状のセパレータを正極111と負極115の間に配置する構成であってもよい。
【0081】
また、本発明の一態様は、1枚の正極111、1枚の負極115および1枚のセパレータ107を使用することに限定されない。複数の正極111、複数の負極115および複数のセパレータ107を使用して、蓄電装置を作製してもよい。
【0082】
また、本発明の一態様は、正極集電体101の一方の面に正極活物質層102を形成した正極111および負極集電体105の一方の面に負極活物質層106が形成された負極115を使用することに限定されない。正極集電体の両方の面に正極活物質層が形成された正極を用いてもよい。また、負極集電体の両方の面に負極活物質層が形成された負極を用いてもよい。また、正極集電体の両方の面に正極活物質層が形成された正極と、正極集電体の一方の面に正極活物質層が形成された正極とを、組み合わせて使用してもよい。また、負極集電体の両方の面に負極活物質層が形成された負極と、負極集電体一方の面に負極活物質層が形成された負極とを、組み合わせて使用してもよい。
【0083】
(実施の形態2)
図6は、
図1と異なる蓄電装置の作製フローの一例を示す図である。
【0084】
まず、第1の電解液を用意する。実施の形態1の作製フローでは3種類の溶媒を混合させて第1の電解液を作製したが、本実施の形態では2種類の溶媒を混合させて第1の電解液を作製する。
【0085】
リチウム塩としては、実施の形態1に記載のものを用いることができる。
【0086】
2種類の溶媒のうち、1種類(第1の溶媒)は、高誘電率溶媒である環状カーボネートを用いる。環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。ECの比誘電率は95.3であり、融点は36℃であり、融点以上では低粘性を示す。本実施の形態では第1の溶媒としてECを用いることとする。
【0087】
また、第2の溶媒としては、鎖状カーボネートを用いる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。本実施の形態では、第2の溶媒としてDECを用いることとする。ジエチルカーボネート(DEC)を混合することで、電解液全体の粘度を低くすることができる。DECをはじめとする鎖状カーボネートが第2の電解液に占める割合が多くなると、蓄電装置の低温特性が向上する傾向がある。
【0088】
第1の電解液が有する溶媒のうち第1の溶媒(EC)の割合が70体積%を超えるように、第1の溶媒、第2の溶媒およびリチウム塩を混合して第1の電解液を調製する。
【0089】
なお、本実施の形態では2種類の溶媒を混合させて第1の電解液を作製したが、本発明の一態様はこれに限らない。第1の溶媒のみで第1の電解液としてもよいし、3種以上の溶媒を混合させて第1の電解液を作製してもよい。
【0090】
3種以上の溶媒を混合させて第1の電解液を作製する場合は、上記に加えて正極および負極に安定した被膜を形成することのできる溶媒を混合することが好ましい。たとえば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどを混合してもよい。特に、VCのように炭素‐炭素二重結合を有し反応性の高い溶媒を混合すると、より効率よく被膜を形成することができる。
【0091】
電解液の割合以外の、電解液を収容する容器となる外装体、正極、負極および加圧の方法等は、実施の形態1に記載の内容を参酌することができる。
【0092】
電解液の割合を上述の条件とし、外装体、正極および負極は実施の形態1と同様のものを適用して、
図6に示す、第1の電解液を有する初期充放電処理前のセル199が作製できる。この段階では
図6に示すように、第1の電解液に、第1の溶媒が70体積%を超える割合で含まれている。
【0093】
このセル199に以下のS201乃至S211を行ってセル200を作製する。初期充放電としてまず、セル199に対して、第1の条件で充電を行う(S201)。S201は正極および負極表面に、第1の溶媒由来の安定した被膜を形成する工程であるため、充電は低いレートで行い、被膜形成のための時間を十分にとることが好ましい。具体的には0.1C未満で充電を行うことが好ましい。
【0094】
しかし、S201における充電量が多すぎると、被膜が厚くなりすぎ、充放電特性が悪化するおそれがある。そのため充電量は10mAh/g以上30mAh/g以下とすることが好ましく、15mAh/g以上25mAh/g以下とすることが特に好ましい。なお充電量は、正極活物質1gあたりの充電量で示すこととする。
【0095】
第1の電解液において第1の溶媒を、70体積%を超える割合とし、第1の条件で充電を行うと、正極および負極表面で、第1の溶媒の分解の連鎖反応を長く続けることができ、安定した被膜を形成することができる。同時に副反応により生じる、電解液中に溶出する低分子量の分解生成物の生成を抑制できる。また、サイクル特性の向上を図ることができる。
【0096】
なお本明細書等において、分解生成物とは、電解液、正極および負極が有する材料が分解して生じた物質、または分解した後他の分子と化学反応して生じた物質をいう。
【0097】
また、第1の条件の充電は、セル199に対して圧力を加えながら行うことが好ましい。セルを加圧することで、セルが有する正極と負極の間の距離を短くすることができる。第1の電解液の溶媒として高誘電率溶媒を、70体積%を超えるほど多く含む場合、第1の電解液の粘度が高くなりリチウムイオンが電極間を移動しづらくなるおそれがあるが、正極と負極の間の距離を短くすることで、セルの抵抗を低減することができる。
【0098】
加圧は、実施の形態1と同様に、たとえば
図5に示す加圧器具を用いて行うことができる。
【0099】
次に、外装体110の一部を切り取って開口を形成する。
【0100】
そして第1の条件の充電後に第1の電解液に第3の溶媒を混合する(S202)。第3の溶媒としては、鎖状カーボネートを含む溶媒を用いる。また、第1の溶媒よりも粘度の低い溶媒を用いる。鎖状カーボネートとしては第2の溶媒に用いることのできる溶媒と同じものを用いることができる。本実施の形態では、第3の溶媒としてEMCを用いることとする。
【0101】
本実施の形態では第1の電解液に1種類の溶媒を混合する例について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。第1の電解液に複数の溶媒を混合してもよい。複数の溶媒を混合する場合、他の鎖状カーボネートを混合してもよいし、VC、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどを混合してもよい。特にVCを混合すると、正極および負極により安定な被膜を形成することができ好ましい。
【0102】
次に、外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を行う(S203)。この外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程においても圧力を加えながら行うことが好ましい。また、減圧下で行うとガスをより除去しやすくなり好ましい。
【0103】
電解液に含まれるガスや、電解液の分解によって生じるガスを除去することで、ガスが正極と負極の間にとどまり、充放電を阻害するのを防ぐことができる。
【0104】
なお、S202とS203は順番を入れ替えて行ってもよい。
【0105】
その後、開口を封止する(S204)。封止は、セル199作製の工程と同様に行うことができ、例えばシーラーが有する加熱可能な2本のバーで外装体110を挟むことにより熱圧着して封止してもよいし、レーザー等で外装体110を加熱することにより接着し封止してもよい。
【0106】
次に、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら第2の条件で充電を行う(S205)。具体的には0.1C以上1C未満で充電を行う。S205における充電は、正極活物質の相転移が進む前までが好ましい。正極活物質の相転移が進んでから後述する保持工程(S206)を設けると、正極活物質の不可逆容量が増大する虞がある。コバルト酸リチウムは、リチウムを半分ほど離脱させると六方晶から単斜晶への相転移が生じる。そのため正極活物質にコバルト酸リチウムを用いる場合は、充電量は理論容量(274mAh/g)の半分以下であることが好ましい。たとえば、120mAh/gまで0.1Cで充電することができる。
【0107】
S205の後、保持工程を設ける(S206)。保持工程を設けることで、正極および負極表面の被膜の熱安定性を向上させることができる。また、高温で蓄電装置の充放電を行った場合、ガスが発生する可能性が高いが、初期充放電処理中に保持工程を設け保持工程中にガスを発生させ、その後ガスを除去する工程を設けることで、初期充放電処理の段階でガスを除去することができる。
【0108】
保持工程における保持温度は、室温より高いと、サイクル特性が向上するため好ましい。ただし保持温度が高すぎると、正極集電体にアルミニウムを用いた場合アルミニウムが腐食する、不可逆容量が増加する、またはリチウム塩が分解する等の虞がある。そのため、40℃程度に蓄電装置を保持することが好ましい。たとえば、40℃で24時間保持する工程を設けることができる。
【0109】
次に、第2の条件の充電後に2回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を行うことが好ましい(S207)。この際には外装体110の一部を切り取って開口を形成する。この2回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程においても圧力を加えながら行うことが好ましい。また、減圧下で行うとガスをより除去しやすくなり好ましい。
【0110】
そして2回目の外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を行った開口を封止する(S208)。
【0111】
なお、本実施の形態では、外装体を開封して、外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程は、第3の溶媒を混合する際と、保持工程の後の合計2回行う例について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程は、第3の溶媒を混合する際の1回のみとしてもよいし、3回以上行ってもよい。つまり、S206およびS207は行わなくてもよいし、複数回繰り返してもよい。外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を減らすことで、生産効率を向上させることができる。一方外装体に囲まれた領域からガスを除去する工程を複数回行うことで、セル中に含まれるガスをより少なくすることができる。
【0112】
次に、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら第3の条件で充電を行う(S209)。具体的には0.1C以上1C未満で充電を行う。第3の条件は第2の条件の充電速度と同一でもよい。また、CCCV、終止電圧をたとえば4.3Vとして充電してもよい。この段階で初回充電が終了する。
【0113】
ここで、CC(定電流)充電、CCCV(定電流定電圧)充電およびCC放電について説明する。
【0114】
≪CC充電≫
CC充電について説明する。CC充電は、充電期間のすべてで一定の電流を蓄電装置に流し、所定の電圧になったときに充電を停止する充電方法である。蓄電装置を、
図7(A)に示すように内部抵抗Rと蓄電装置容量Cの等価回路と仮定する。この場合、蓄電装置電圧V
Bは、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rと蓄電装置容量Cにかかる電圧V
Cの和である。
【0115】
CC充電を行っている間は、
図7(A)に示すように、スイッチがオンになり、一定の電流Iが蓄電装置に流れる。この間、電流Iが一定であるため、V
R=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rも一定である。一方、蓄電装置容量Cにかかる電圧V
Cは、時間の経過とともに上昇する。そのため、蓄電装置電圧V
Bは、時間の経過とともに上昇する。
【0116】
そして蓄電装置電圧V
Bが所定の電圧、例えば4.1Vになったときに、充電を停止する。CC充電を停止すると、
図7(B)に示すように、スイッチがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが0Vとなる。そのため、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなった分、蓄電装置電圧V
Bが下降する。
【0117】
CC充電を行っている間と、CC充電を停止してからの、蓄電装置電圧V
Bと充電電流の例を
図7(C)に示す。CC充電を行っている間は上昇していた蓄電装置電圧V
Bが、CC充電を停止してから若干低下する様子が示されている。
【0118】
≪CCCV充電≫
次に、CCCV充電について説明する。CCCV充電は、まずCC充電にて所定の電圧まで充電を行い、その後CV(定電圧)充電にて流れる電流が少なくなるまで、具体的には終止電流値になるまで充電を行う充電方法である。
【0119】
CC充電を行っている間は、
図8(A)に示すように、定電流電源のスイッチがオン、定電圧電源のスイッチがオフになり、一定の電流Iが蓄電装置に流れる。この間、電流Iが一定であるため、V
R=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rも一定である。一方、蓄電装置容量Cにかかる電圧V
Cは、時間の経過とともに上昇する。そのため、蓄電装置電圧V
Bは、時間の経過とともに上昇する。
【0120】
そして蓄電装置電圧V
Bが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、CC充電からCV充電に切り替える。CV充電を行っている間は、
図8(B)に示すように、定電圧電源のスイッチがオン、定電流電源のスイッチがオフになり、蓄電装置電圧V
Bが一定となる。一方、蓄電装置容量Cにかかる電圧V
Cは、時間の経過とともに上昇する。V
B=V
R+V
Cであるため、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rは、時間の経過とともに小さくなる。内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが小さくなるに従い、V
R=R×Iのオームの法則により、蓄電装置に流れる電流Iも小さくなる。
【0121】
そして蓄電装置に流れる電流Iが所定の電流、例えば0.01C相当の電流となったとき、充電を停止する。CCCV充電を停止すると、
図8(C)に示すように、全てのスイッチがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが0Vとなる。しかし、CV充電により内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが十分に小さくなっているため、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなっても、蓄電装置電圧V
Bはほとんど降下しない。
【0122】
CCCV充電を行っている間と、CCCV充電を停止してからの、蓄電装置電圧V
Bと充電電流の例を
図8(D)に示す。CCCV充電を停止しても、蓄電装置電圧V
Bがほとんど降下しない様子が示されている。
【0123】
≪CC放電≫
次に、CC放電について説明する。CC放電は、放電期間のすべてで一定の電流を蓄電装置から流し、蓄電装置電圧V
Bが所定の電圧、例えば2.5Vになったときに放電を停止する放電方法である。
【0124】
CC放電を行っている間の蓄電装置電圧V
Bと放電電流の例を
図9に示す。放電が進むに従い、蓄電装置電圧V
Bが降下していく様子が示されている。
【0125】
次に、放電レート及び充電レートについて説明する。放電レートとは、電池容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、単位Cで表される。定格容量X(Ah)の電池において、1C相当の電流は、X(A)である。2X(A)の電流で放電させた場合は、2Cで放電させたといい、X/5(A)の電流で放電させた場合は、0.2Cで放電させたという。また、充電レートも同様であり、2X(A)の電流で充電させた場合は、2Cで充電させたといい、X/5(A)の電流で充電させた場合は、0.2Cで充電させたという。
【0126】
次に、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら放電を行う(S210)。たとえばCC放電、終止電圧2.5Vで行うことができる。
【0127】
引き続き、
図5の加圧器具を用いて加圧しながら満充電を行った後、放電を行う(S211)。さらに2回、満充電を行った後、放電を行い、セル200を完成させることができる。たとえば充電はCCCV、終止電圧4.3Vで行い、放電はCC、終止電圧2.5Vで行うことができる。また、充放電レートはたとえば0.2Cで行うことができる。
【0128】
セル200は第2の電解液を有する蓄電装置である。第2の電解液が有する溶媒のうち、第1の溶媒の占める割合は60体積%以下であることが好ましい。第2の電解液全体の60体積%以下に第1の溶媒の占める割合を低減することで、第2の電解液全体の粘度を低下させ、且つ低温特性を確保することができる。つまりセル200は、サイクル特性が優れ、−40℃から80℃までの温度範囲の環境で使用することができる。
【0129】
なお、本発明の一態様は、上記したようにセパレータ同士を接合することにより、正極111および負極115をそれぞれセパレータ107で覆うことに限定されない。セパレータ107は、セル200における正極111と負極115との接触を防ぐことができればよく、例えば短冊状のセパレータを正極111と負極115の間に配置する構成であってもよい。
【0130】
また、本発明の一態様は、1枚の正極111、1枚の負極115および1枚のセパレータ107を使用することに限定されない。複数の正極111、複数の負極115および複数のセパレータ107を使用して、蓄電装置を作製してもよい。
【0131】
また、本発明の一態様は、正極集電体101の一方の面に正極活物質層102を形成した正極111および負極集電体105の一方の面に負極活物質層106が形成された負極115を使用することに限定されない。正極集電体の両方の面に正極活物質層が形成された正極を用いてもよい。また、負極集電体の両方の面に負極活物質層が形成された負極を用いてもよい。また、正極集電体の両方の面に正極活物質層が形成された正極と、正極集電体の一方の面に正極活物質層が形成された正極とを、組み合わせて使用してもよい。また、負極集電体の両方の面に負極活物質層が形成された負極と、負極集電体一方の面に負極活物質層が形成された負極とを、組み合わせて使用してもよい。
【0132】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて適用することができる。
【0133】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1および実施の形態2で説明した蓄電装置を電子機器に実装する例について説明する。
【0134】
蓄電装置をその他の電子機器に実装する例を
図10に示す。蓄電装置を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0135】
また、蓄電装置を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0136】
図10(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、蓄電装置7407を有している。
【0137】
図10(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている蓄電装置7407も湾曲される。また、その時、曲げられた蓄電装置7407の状態を
図10(C)に示す。蓄電装置7407は薄型の蓄電装置である。蓄電装置7407は曲げられた状態で固定されている。なお、蓄電装置7407は集電体7409と電気的に接続されたリード電極7408を有している。
【0138】
図10(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び蓄電装置7104を備える。また、
図10(E)に曲げられた蓄電装置7104の状態を示す。蓄電装置7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して蓄電装置7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものが曲率半径であり、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または蓄電装置7104の主表面の一部または全部が変化する。蓄電装置7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。
【0139】
また、可撓性を有し、外部から力を加えて曲げることができる蓄電装置は、様々な電子機器において空間効率よく搭載することができる。例えば
図10(F)に示すストーブ7500は、本体7512にモジュール7511が取り付けられ、モジュール7511は、蓄電装置7501、モーター、ファン、送風口7511a、熱電発電装置を有する。ストーブ7500では、開口部7512aから燃料を投入、着火した後、蓄電装置7501の電力を用いてモジュール7511のモーターとファンを回転させ、送風口7511aから外気をストーブ7500の内部に送ることができる。このように外気を効率よく取り込めるため火力の強いストーブとすることが可能である。さらに、燃料の燃焼に得た熱エネルギーを用いて、上部のグリル7513において調理することが可能である。また該熱エネルギーをモジュール7511の熱電発電装置により電力に変換し、蓄電装置7501に充電することができる。さらに、蓄電装置7501に充電された電力を外部端子7511bより出力することができる。
【0140】
また、
図11に示すようなウェアラブルデバイスに実施の形態1で説明した蓄電装置を搭載することができる。
【0141】
例えば、
図11(A)に示すような眼鏡型デバイス400に搭載することができる。眼鏡型デバイス400は、フレーム400aと、表示部400bを有する。湾曲を有するフレーム400aのテンプル部に蓄電装置を搭載することで、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス400とすることができる。
【0142】
また、ヘッドセット型デバイス401に搭載することができる。ヘッドセット型デバイス401は、少なくともマイク部401aと、フレキシブルパイプ401bと、イヤフォン部401cを有する。フレキシブルパイプ401b内やイヤフォン部401c内に蓄電装置を設けることができる。
【0143】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス402に搭載することができる。デバイス402の薄型の筐体402aの中に、蓄電装置402bを設けることができる。
【0144】
また、衣服に取り付け可能なデバイス403に搭載することができる。デバイス403の薄型の筐体403aの中に、蓄電装置403bを設けることができる。
【0145】
また、腕時計型デバイス405に搭載することができる。腕時計型デバイス405は表示部405aおよびベルト部405bを有し、表示部405aまたはベルト部405bに、蓄電装置を設けることができる。
【0146】
表示部405aには、時刻だけでなく、メールや電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0147】
また、腕時計型デバイス405は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康維持に役立てることができる。
【0148】
また、ベルト型デバイス406に搭載することができる。ベルト型デバイス406は、ベルト部406aおよびワイヤレス給電受電部406bを有し、ベルト部406aの内部に、蓄電装置を搭載することができる。
【0149】
図11(B)は、情報処理装置200の外観の一例を説明する投影図である。本実施の形態で説明する情報処理装置200は、演算装置210と入出力装置220と、表示部230と、蓄電装置250とを有する。
【0150】
情報処理装置200は、通信部を有し、通信部は、ネットワークに情報を供給し、ネットワークから情報を取得する機能を備える。また、通信部を用いて特定の空間に配信された情報を受信して、受信した情報に基づいて、画像情報を生成してもよい。例えば、学校または大学等の教室で配信される教材を受信して表示して、教科書に用いることができる。または、企業等の会議室で配信される資料を受信して表示することができる。
【0151】
また、本実施の形態は実施の形態1と自由に組み合わせることができる。
【0152】
(実施の形態4)
本実施の形態では、車両に実施の形態1で説明した蓄電装置を搭載する例を示す。
【0153】
また、蓄電装置を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0154】
図12(A)に示す自動車8400は、蓄電装置8402を有しているハイブリッド車(HEV)の例である。蓄電装置8402は、車両の駆動のための電源、またはヘッドライト8401などの電源として用いられる。
【0155】
図12(B)に示す自動車8500は、電気自動車(EV)であり、自動車8500が有する蓄電装置にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図12(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された蓄電装置に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された蓄電装置を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0156】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に蓄電装置の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0157】
また、車両に搭載した蓄電装置を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。
【0158】
また、
図13を用いて、本発明の一態様を用いた二輪車の一例について説明する。
【0159】
図13に示すスクータ8600は、蓄電装置8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。蓄電装置8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0160】
また、
図13に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、蓄電装置8602を収納することができる。蓄電装置8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。
【0161】
本実施の形態で用いる蓄電装置8602は、サイクル特性が優れているため、長期の使用を実現することが可能である。また、本実施の形態で用いる蓄電装置8602は、使用環境における温度範囲も広いため、有用である。
【実施例1】
【0162】
本実施例では、電解液の分解とそれに伴う被膜の形成についてより詳しい知見を得るために、電解液に用いる溶媒を選定し、その溶媒の重水素置換体を用いた蓄電装置のサンプルと、通常の溶媒を用いた蓄電装置のサンプルを比較するための分析を行った。
【0163】
具体的には、リチウムイオン二次電池の電解液の溶媒として、ECおよびDECを用いることとし、通常のECおよび通常のDECを用いたサンプル、重水素置換ECと通常のDECを用いたサンプル、通常のECと重水素置換DECを用いたサンプルの3つを作製した。そしてこれら3つのサンプルに初期充放電処理を行った後、それぞれ電解液の分解生成物や負極および正極の被膜について分析を行った。分析としては、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)および飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を行った。
【0164】
<LC/MS/MSおよびToF−SIMS用サンプル作製>
サンプル1、サンプル2、サンプル3すべてにおいて、電解液の電解質としてはLiPF
6およびLiFSAを用いた。0.8mol/L LiPF
6および0.5mol/L LiFSAとなるよう計量した。
【0165】
次に、各サンプルについて電解液の溶媒としてECとDECを計量した。そしてDECに、LiPF
6、LiFSAおよびECを混合し、撹拌し溶解させた。これを、充放電前の電解液と呼ぶこととした。
【0166】
サンプル1、サンプル2、サンプル3における電解液の溶媒の割合は下記の通りとした。
サンプル1 EC:DEC=1:1(体積比)
サンプル2 重水素置換EC(EC−dとする):DEC=1:1(体積比)
サンプル3 EC:重水素置換DEC(DEC−dとする)=1:1(体積比)
【0167】
なお、本明細書等において、重水素置換ECおよび重水素置換DECは和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。また、通常のEC、通常のDEC、LiPF
6、LiFSAおよび他の実施例で用いたVCはすべてキシダ化学株式会社製の試薬を用いた。
【0168】
サンプル1で用いたECおよびDECの構造式を化1に示す。サンプル2で用いたEC−dおよびDECの構造式を化2に示す。サンプル3で用いたECおよびDEC−dの構造式を化3に示す。
【0169】
【化1】
【0170】
【化2】
【0171】
【化3】
【0172】
また、各サンプルにおける上記以外の材料としては、正極活物質層が有する正極活物質としてLiCoO
2、正極導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、正極バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。また負極活物質層が有する負極活物質として黒鉛、負極バインダとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いた。負極集電体として厚さ18μmの銅箔を用いた。セパレータとして25μmのポリプロピレンを用いた。外装体としてアルミニウム箔を含む厚さ113μmのラミネートフィルムを用いた。
【0173】
各サンプルにおいて、正極は、正極活物質、正極導電助剤および正極バインダをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合して作製したスラリーを、正極集電体に塗布して正極活物質層を形成し、乾燥させ、所定の形状にうちぬいて正極を作製した。正極活物質が塗布された面積は20.5cm
2であった。また負極は、負極活物質、負極バインダを水と混合して作製したスラリーを、負極集電体に塗布して負極活物質層を形成し、乾燥させ、所定の形状に打ち抜いて負極を作製した。負極活物質が塗布された面積は23.8cm
2
であった。
【0174】
そして正極、セパレータおよび負極を1枚ずつ積層してラミネートフィルムで覆い、各サンプルに上述の条件の電解液を注入し、ラミネートフィルムを熱溶着して封止し、サンプル1、サンプル2およびサンプル3のセルを作製した。セルの厚みは約0.45mmであった。
【0175】
≪初期充放電処理≫
次に、上記で作製したサンプル1、サンプル2およびサンプル3のセルに初期充放電処理を行った。初期充放電処理の工程は以下の通りとした。
1.15mAh/gまで、0.01Cで充電した。
2.ラミネートフィルムを切断して開封し、ローラーで加圧してセル内部からガスを除去した。
3.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
4.120mAh/gまで、0.1Cで充電した。
5.40℃で24時間保持した。
6.ラミネートフィルムを切断して開封し、ローラーで加圧してセル内部からガスを除去した。
7.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
8.170mAh/gまで、0.1Cで充電した。
9.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
10.CCCV、4.3V、0.2Cで充電した。
11.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
12.10および11を2回繰り返した。
【0176】
なお本明細書等において、初期充放電処理における充電量、たとえば上記の工程1、工程4および工程8における充電量は、正極活物質1gあたりの充電量で示すこととする。また満充電とは、ここでは、電圧を4.3Vに制御し、電流が0.01Cとなるまで充電した状態をいうこととする。
【0177】
なお上記の初期充放電処理中の、充電工程および放電工程、たとえば工程1、工程4、工程8乃至工程12は、セルを加圧して行った。加圧は、セルが有する正極および負極が均一に加圧されるよう、加圧器具にはさんで行った。
【0178】
セルを加圧することで、充電の際に集電体から電極層がはがれる現象を抑制することができる。また、電解液に含まれるガスや、電解液の分解によって生じるガスが、正極と負極の間にとどまり、充放電を阻害するのを防ぐことができる。
【0179】
また、セルを加圧することで、セルが有する正極と負極の間の距離を短くすることができる。本実施例のように、電解液の溶媒としてECを多く含む場合、電解液の粘度が高くなりリチウムイオンが電極間を移動しづらくなるおそれがあるが、正極と負極の間の距離を短くすることで、セルの抵抗を低減することができる。
【0180】
また、セルを加圧することで正極および負極の起伏を抑制することができる。正極および負極に起伏があると、セル内で正極と負極の間の距離に差が生じてしまう。そのため起伏がある場合、正極と負極の間の距離が短い領域にリチウムイオンが集中し、負極においてリチウム析出が起こりやすくなるおそれがある。しかしセルを加圧し起伏を抑制することで、リチウム析出を防止し、セルの安全性を高めることができる。
【0181】
本実施例では、
図5に示した加圧器具を用いて、固定器具15aおよび固定器具15bとしてボルト、ナットおよび座金を用い、これらをトルクレンチで固定した。トルクの指定は0.1N・mとした。また緩衝材として硬度50°のゴム板を用いた。
【0182】
上記の初期充放電処理を終えたサンプル1、サンプル2およびサンプル3のラミネートフィルムをグローブボックス内で切断して開封し、アセトニトリルを注入して電解液を抽出した。また負極および正極を取り出し、アセトニトリルと炭酸ジメチル(DMC)により洗浄し、乾燥させた。このようにして得た電解液を、充放電後の電解液と呼ぶこととした。またこのようにして得た負極および正極を、充放電後の負極および充放電後の正極と呼ぶこととした。
【0183】
<LC/MS/MS>
サンプル1、サンプル2およびサンプル3の、充放電後の電解液および充放電前の電解液をそれぞれLC/MS/MSを用いて分析し、充放電後の電解液に含まれる分解生成物を調査した。また、LC/MS/MS分析の結果から、分解生成物の推定構造式を求めた。なお、LC/MS/MSで分析するにあたり充放電前の電解液にも、充放電後の電解液と同様にアセトニトリルを加えた。
【0184】
LCの分析条件は下記の通りとした。
装置:Acquity UPLC(ウォーターズ社製)
カラム:Acquity UPLC BEH C18(2.1×100mm 1.7μm)
カラム温度:40℃
移動相A:10mmol/L 酢酸アンモニウム水溶液
移動相B:テトラヒドロフラン:アセトニトリル(2:8 体積比)
A:B=99.5:0.5(0min)→A:B=20:80(15min)→A:B=1:99(25min)→A:B=1:99(30min)
流速:0.5mL/min
注入量:5μL
【0185】
MSの分析条件は下記の通りとした。
装置:Xevo QTof MS(ウォーターズ社製)
質量範囲:m/z 50−1000
イオン化法:ESI Capillary vol.:3.0kV,Cone vol.:15V
【0186】
図14に、サンプル1の充放電後の電解液および充放電前の電解液のトータルイオンクロマトグラム(TIC)を示す。
図15に、サンプル2の充放電後の電解液および充放電前の電解液のトータルイオンクロマトグラムを示す。
図16に、サンプル3の充放電後の電解液および充放電前の電解液のトータルイオンクロマトグラムを示す。
【0187】
図14、
図15、
図16中に、充放電後の電解液に含まれた、保持時間が5分以上8分以下の比較的低分子量の分解生成物のうち、特に強く観測されたものについて質量と推定組成式を示した。
図14に示すように、サンプル1の充放電後の電解液にはC
11H
18O
9と推定される分解生成物が含まれていた。また
図15に示すように、サンプル2の充放電後の電解液にはC
11H
10D
8O
9と推定される分解生成物が含まれていた。また
図16に示すように、サンプル3の充放電後の電解液には、C
11H
8D
10O
9と推定される分解生成物が含まれていた。
【0188】
サンプル1の充放電後の電解液に含まれていた、C
11H
18O
9と推定される分解生成物の推定構造式を化4に示す。サンプル2の充放電後の電解液に含まれていた、C
11H
10D
8O
9と推定される分解生成物の推定構造式を化5に示す。サンプル3の充放電後の電解液に含まれていた、C
11H
8D
10O
9と推定される分解生成物の推定構造式を化6に示す。
【0189】
【化4】
【0190】
【化5】
【0191】
【化6】
【0192】
上記の推定構造式から、保持時間が5分以上8分以下の比較的低分子量の分解生成物は、直鎖状であり、分子の両端の炭素、水素および酸素はDEC由来であり、分子の中央部の炭素、水素および酸素はEC由来であることが推測された。このことから、電解液の分解反応にDECが関与すると、溶媒の分解の連鎖反応が停止され、比較的低分子量の分解生成物が生じ、それが電解液中に溶出するものと考えられる。DECが関与しなければ、ECの分解の連鎖反応が継続し、高分子量の分解生成物が生じ、電解液中に溶出せずに被膜として堆積するものと考えられる。電解液中に溶出する比較的低分子量の分解生成物は、被膜の形成に寄与しない。よって、比較的低分子量の分解生成物の生成量は、少ないことが好ましい。
【0193】
<ToF−SIMS>
次に、サンプル1、サンプル2、サンプル3の充放電後の負極表面および充放電後の正極表面を、ToF−SIMSを用いて分析した。まず最表面の分析を行った後、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)を用いてSiO
2換算で約5nm程度スパッタして削った面の分析を行った。
【0194】
ToF−SIMSの分析条件は以下の通りとした。
装置:TOF.SIMS5−200P(ION−TOF社製)
一次イオン源:Bi
測定モード:高質量分解能
測定面積:150μm角
【0195】
≪負極≫
図17に、各サンプルの負極のCHO
2と推定される質量45のフラグメントイオン、およびCDO
2と推定される質量46のフラグメントイオンについての、負極最表面およびスパッタ後の表面のToF−SIMS分析結果を示す。
【0196】
図17に示したように、負極の被膜において、CDO
2は、DEC−dを有するサンプル3よりも、EC−dを有するサンプル2から多く検出された。そのため負極の被膜の有機成分中の水素は、DEC由来よりもEC由来の水素が多いことが明らかとなった。
【0197】
≪正極≫
図18に、各サンプルの正極のCHO
2と推定される質量45のフラグメントイオン、およびCDO
2と推定される質量46のフラグメントイオンについての、正極最表面およびスパッタ後の表面のToF−SIMS分析結果を示す。
【0198】
図18に示したように、正極においても、被膜の有機成分中の水素は、DEC由来よりもEC由来の水素が多いことが明らかとなった。
【0199】
以上より、負極および正極の被膜の有機成分は、多くがEC由来の分解生成物からなることが明らかとなった。この結果は、電解液のLC/MS/MS分析の結果と整合性が取れているものと考えられる。
【実施例2】
【0200】
本実施例では、実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池の電解液の溶媒として、ECおよびDECを用いることとし、通常のECおよび通常のDECを用いたサンプル、重水素置換ECと通常のDECを用いたサンプル、通常のECと重水素置換DECを用いたサンプルの3つを作製した。そして初期充放電処理を行った後、それぞれ充放電中に生じたガスを、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)およびガスクロマトグラフ熱伝導度検出器(GC−TCD)で分析した。
【0201】
本実施例では、充放電中に生じたガスを分析に十分な量確保するために、セルの積層数を増やし、また初期充放電処理におけるガス除去の工程を行わなかったほかは、実施例1と同じ条件で行った。
【0202】
<GC−MSおよびGC−TCD用サンプル作製>
サンプル1−GC、サンプル2−GCおよびサンプル3−GCは、それぞれ正極および負極を6枚ずつ積層したほかは、実施例1のサンプル1、サンプル2、サンプル3と同様に作製した。
【0203】
≪初期充放電処理≫
次に、サンプル1−GC、サンプル2−GCおよびサンプル3−GCのセルに初期充放電処理を行った。初期充放電処理の工程は以下の通りとした。
1.15mAh/gまで、0.01Cで充電した。
2.120mAh/gまで、0.1Cで充電した。
3.40℃で24時間保持した。
4.170mAh/gまで、0.1Cで充電した。
5.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
6.CCCV、4.3V、0.2Cで充電した。
7.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
8.6および7を2回繰り返した。
【0204】
上記の初期充放電処理を終えたサンプル1−GC、サンプル2−GCおよびサンプル3−GCのラミネートフィルムをグローブボックス内においてサンプリングバッグ内で切断して開封し、ガスをサンプリングバッグに捕集した。このようにして得たガスを、充放電中に発生したガスと呼ぶこととした。
【0205】
<GC−TCD、GC−MS>
次に、サンプル1−GC、サンプル2−GC、サンプル3−GCの充放電中に発生したガスを、それぞれGC−TCDおよびGC−MSを用いて分析した。
【0206】
GC−TCDの分析条件は下記の通りとした。
手法:GC−TCD
装置名:Agilent Technologies 7890A GC System
注入口温度:100℃
キャリアガス:Ar
GC温度条件:35℃(20min保持) →5℃/min→60℃(30min保持)
【0207】
GC−MSの分析条件は下記の通りとした。
手法:GC/MS
装置名:Agilent Technologies 7890B GC System
Agilent Technologies 5977A MSD
注入口温度:150℃
キャリアガス:He
イオン化法:EI法
GC昇温条件:40℃(5min保持)→10℃/min→280℃(11min保持)
【0208】
表1に、サンプル1−GCの充放電中に発生したガスの存在比を示す。また表2に、サンプル2−GCの充放電中に発生したガスの存在比を示す。また表3に、サンプル3−GCの充放電中に発生したガスの存在比を示す。
【0209】
【表1】
【0210】
【表2】
【0211】
【表3】
【0212】
また、これらから重水素が含まれるガス成分であるメタン、エチレン、エタンの検出の程度をまとめたものを、表4に示す。表中の二重丸は最も多く検出されたもの、丸は検出されたもの、三角はわずかに検出されたと考えられるもの、−は非検出を示す。
【0213】
【表4】
【0214】
表1乃至表4に示すように、重水素置換されたエチレンは、サンプル2−GCとサンプル3−GCのどちらからも検出されたが、サンプル2−GCの方が顕著に検出された。このことから、エチレンの主な発生源はECと考えられた。
【0215】
また重水素置換されたエタンは、サンプル2−GCとサンプル3−GCのどちらからも検出されたが、サンプル3−GCの方が顕著に検出された。このことから、エタンの主な発生源はDECと考えられた。
【実施例3】
【0216】
本実施例では、電解液に溶解させた電解質が異なる場合の被膜の形成についてより詳しい知見を得るために、電解液の電解質として1.0mol/LのLiPF
6を用いた他は、実施例1と同様に実験を行った。そして実施例1と同様に、電解液の分解生成物や正極および負極の被膜について、LC/MS/MSおよびToF−SIMSを用いて分析した。
【0217】
<サンプル作製>
サンプル4、サンプル5、サンプル6すべてにおいて、電解液の電解質としてLiPF
6を用いた。1.0mol/L LiPF
6となるよう計量した。
【0218】
サンプル4、サンプル5、サンプル6における電解液の溶媒の割合は下記の通りとした。
サンプル4 EC:DEC=1:1(体積比)
サンプル5 EC−d:DEC=1:1(体積比)
サンプル6 EC:DEC−d=1:1(体積比)
【0219】
各サンプルについて、上記の電解質以外の条件は実施例1と同様にセルを作製し、加圧しながら初期充放電処理を行った。
【0220】
そして初期充放電処理を終えたサンプル4、サンプル5、サンプル6のラミネートフィルムをグローブボックス内で切断して開封し、アセトニトリルを注入して電解液を抽出した。また負極および正極を取り出し、アセトニトリルと炭酸ジメチル(DMC)により洗浄し、乾燥させた。このようにして得た電解液を、充放電後の電解液と呼ぶこととした。またこのようにして得た負極および正極を、充放電後の負極および充放電後の正極と呼ぶこととした。
【0221】
<LC/MS/MS>
サンプル4、サンプル5、サンプル6の充放電後の電解液および充放電前の電解液を、LC/MS/MSを用いて実施例1と同様に質量分析した。
【0222】
図19に、サンプル4の充放電後の電解液および充放電前の電解液のトータルイオンクロマトグラムを示す。
図20に、サンプル5の充放電後の電解液および充放電前の電解液のトータルイオンクロマトグラムを示す。
図21に、サンプル6の充放電後の電解液および充放電前の電解液のトータルイオンクロマトグラムを示す。
【0223】
図19、
図20、
図21中に、充放電後の電解液に含まれた保持時間が5分以上8分以下の比較的低分子量の分解生成物のうち、特に強く観測されたものについて質量と推定組成式を示した。それぞれ、サンプル1、サンプル2、サンプル3に含まれていた低分子量の分解生成物と同じものであった。
【0224】
以上より、電解液に溶解させた電解質が異なる場合でも、保持時間が5分以上8分以下の比較的低分子量の分解生成物は、直鎖状であり、分子の両端の炭素、水素および酸素はDEC由来であり、分子の中央部の炭素、水素および酸素はEC由来であると考えられた。
【0225】
<ToF−SIMS>
次に、サンプル4、サンプル5、サンプル6の充放電後の負極および充放電後の正極を、実施例1と同様にToF−SIMSを用いて分析した。
【0226】
≪負極≫
図22に、各サンプルの負極のCHO
2と推定される質量45のフラグメントイオン、およびCDO
2と推定される質量46のフラグメントイオンについての、負極最表面およびスパッタ後の表面のToF−SIMS分析結果を示す。
【0227】
図22に示したように、負極の被膜において、CDO
2は、DEC−dを有するサンプル5よりも、EC−dを有するサンプル6から多く検出された。そのため負極の被膜の有機成分の水素は、DEC由来よりもEC由来の水素が多いことが明らかとなった。
【0228】
≪正極≫
図23に、各サンプルの正極のCHO
2と推定される質量45のフラグメントイオン、およびCDO
2と推定される質量46のフラグメントイオンについての、正極最表面およびスパッタ後の表面のToF−SIMS分析結果を示す。
【0229】
図23に示したように、正極においても、被膜の有機成分中の水素は、DEC由来よりもEC由来の水素が多いことが明らかとなった。
【0230】
以上より、電解液に溶解させた電解質が異なる場合でも、負極および正極の被膜の有機成分は、多くがEC由来の分解生成物からなることが明らかとなった。
【実施例4】
【0231】
本実施例では、電解液に溶解させた電解質が異なる場合の被膜の形成についてより詳しい知見を得るために、実施例3と同様に電解液の電解質として1.0mol/LのLiPF
6を用いてサンプルを作製した。そして初期充放電処理を行った後、それぞれ充放電中に生じたガスを、GC−MSおよびGC−TCDで分析した。
【0232】
本実施例では、充放電中に生じたガスを十分量確保するために、セルの積層数を増やし、また初期充放電処理におけるガス除去の工程を行わなかったほかは、実施例3と同じ条件で行った。
【0233】
<GC−MSおよびGC−TCD用サンプル作製>
サンプル4−GC、サンプル5−GCおよびサンプル6−GCは、それぞれ正極および負極を6枚ずつ積層したほかは、実施例3のサンプル4、サンプル5およびサンプル6と同様に作製した。
【0234】
≪初期充放電処理≫
次に、サンプル4−GC、サンプル5−GCおよびサンプル6−GCのセルに初期充放電処理を行った。初期充放電処理は、実施例2と同様に行った。
【0235】
上記の初期充放電処理を終えたサンプル4−GC、サンプル5−GCおよびサンプル6−GCのラミネートフィルムをグローブボックス内においてサンプリングバッグ内で切断して開封し、ガスをサンプリングバッグに捕集した。このようにして得たガスを、充放電中に発生したガスと呼ぶこととした。
【0236】
<GC−TCD、GC−MS>
次に、サンプル4−GC、サンプル5−GC、サンプル6−GCの充放電中に発生したガスを、それぞれGC−TCDおよびGC−MSを用いて実施例2と同様に分析した。
【0237】
表5に、サンプル4−GCの充放電中に発生したガスの存在比を示す。また表6に、サンプル5−GCの充放電中に発生したガスの存在比を示す。また表7に、サンプル6−GCの充放電中に発生したガスの存在比を示す。
【0238】
【表5】
【0239】
【表6】
【0240】
【表7】
【0241】
また、これらから重水素が含まれるガス成分であるメタン、エチレン、エタンの検出の程度をまとめたものを、表8に示す。表中の二重丸は最も多く検出されたもの、丸は検出されたもの、三角はわずかに検出されたと考えられるもの、−は非検出を示す。
【0242】
【表8】
【0243】
表5乃至表8に示すように、電解液に溶解させた電解質が異なる場合でも、エチレンの主な発生源はECと考えられた。またエタンの主な発生源はDECと考えられた。
【実施例5】
【0244】
本実施例では、電解液の分解とそれに伴う被膜の形成についてより詳しい知見を得るために、電解液の溶媒の混合比を変化させたセルを比較して分析を行った。
【0245】
具体的には、リチウムイオン二次電池の電解液の溶媒として、ECおよびDECを用いることとし、ECとDECの混合比を変えたサンプルを3つ作製した。そしてこれらの3つのサンプルに初期充放電処理を行った後、それぞれ電解液の分解生成物について分析を行った。分析としては、LC/MS/MSを用いた。
【0246】
<サンプル作製>
サンプル7、サンプル8、サンプル9すべてにおいて、電解液の電解質としてはLiPF
6を用いた。1.0mol/L LiPF
6となるよう計量した。
【0247】
次に、各サンプルについて電解液の溶媒としてECとDECを計量した。そしてDECに、LiPF
6およびECを混合し、撹拌し溶解させた。電解液の溶媒の割合は下記の通りとした。
サンプル7 EC:DEC=2:8(体積比)(比較例)
サンプル8 EC:DEC=8:2(体積比)
サンプル9 EC:DEC=5:5(体積比)
【0248】
各サンプルについて、上記の溶媒の混合比以外の条件は実施例1と同様にセルを作製した。
【0249】
<充放電>
次に、上記で作製したサンプル7、サンプル8、サンプル9のセルを1サイクル充放電した。充放電の工程は以下の通りとした。
1.CCCV/4.3V、0.01Cで充電した
2.CC/2.5V、0.1Cで放電した。
【0250】
上記の充放電を終えたサンプル7、サンプル8およびサンプル9のラミネートフィルムをグローブボックス内で切断して開封し、アセトニトリルを注入して電解液を抽出した。このようにして得た電解液を、充放電後の電解液と呼ぶこととした。
【0251】
<LC/MS/MS>
サンプル7、サンプル8およびサンプル9の、充放電後の電解液をそれぞれLC/MS/MSを用いて分析した。分析条件は、実施例1と同様とした。
【0252】
図24に、サンプル7、サンプル8およびサンプル9の充放電後の電解液のトータルイオンクロマトグラムを示す。
【0253】
図24に示すように、充放電後の電解液に含まれる、保持時間が5分以上8分以下の比較的低分子量の分解生成物は、サンプル7で多く、サンプル8およびサンプル9では少なくなっていた。
【0254】
以上より、電解液のうちECの割合が50体積%を超えると、比較的低分子量の分解生成物の生成を低減できることが明らかとなった。
【0255】
リチウムイオン二次電池の負極および正極の表面に安定な被膜を形成するためには、低分子量の分解生成物が少なく、高分子量の分解生成物が多い方が好ましい。なぜならば低分子量の分解生成物は電解液中に溶出しやすく、そのような溶出した分解生成物は被膜にならないためである。
【0256】
そのため、負極または正極の表面に安定な被膜を形成するためには、電解液の溶媒のうちECの割合を50体積%より高くすることが有効であると言える。
【実施例6】
【0257】
本実施例では、実施例1乃至実施例5から得られた知見をもとに、負極および正極の表面により安定な被膜が形成されたリチウムイオン二次電池を作製し、それらのサイクル特性を評価した。
【0258】
より具体的には、リチウムイオン二次電池の第1の電解液の溶媒が有する、第1の溶媒としてEC、第2の溶媒としてDEC、第3の溶媒としてEMCを用いた。そして第1の電解液ではECの占める割合が50体積%を超えるようにして初期充放電処理を開始して、正極および負極上に安定な被膜を形成した。その後、外装体を開封してECよりも粘度の低い電解液を追加し、最終的に初期充放電処理の終了する第2の電解液ではECの占める割合を40体積%以下とした。ECよりも粘度の低い電解液としては、EMCのみ、またはEMCおよびVCを用いた。
【0259】
<サンプル作製>
サンプル10、サンプル11ともに、電解液の電解質としてはLiPF
6およびLiFSAを用いた。1.1mol/L LiPF
6および0.6mol/L LiFSAとなるよう計量した。
【0260】
サンプル10およびサンプル11の第1の電解液の溶媒の割合は下記の通りとした。
EC:DEC:EMC=7:1.5:1.5(体積比)
【0261】
各サンプルについて、上記の電解液以外の条件は実施例1と同様にセルを作製した。同条件のサンプル数n=2とした。
【0262】
<初期充放電処理>
次に、上記で作成したサンプル10およびサンプル11に初期充放電処理を行った。初期充放電処理の工程は以下の通りとした。
1.25mAh/gまで、0.01Cで充電した。
2.ラミネートフィルムを切断して開封し、手で加圧してセル内部からガスを除去した。
3.電解液を追加注入した。各サンプルにおいて追加注入した電解液については後述する。
4.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
5.120mAh/gまで、0.1Cで充電した。
6.40℃で24時間保持した。
7.ラミネートフィルムを切断して開封し、ローラーで加圧してセル内部からガスを除去した。
8.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
9.170 mAh/gまで、0.1Cで充電した。
10.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
11.CCCV、4.3V、0.2Cで充電した。
12.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
13.11および12を2回繰り返した。
【0263】
初期充放電処理の工程3において、各サンプルに追加注入した電解液は下記の通りとした。
サンプル10 EMC
サンプル11 EMCおよびVC
【0264】
上記の工程3の結果、第2の電解液は下記の通りとなった。
サンプル10 0.57mol/L LiPF
6、0.31mol/L LiFSA、EC:DEC:EMC=3.6:0.8:5.3(体積比)
サンプル11 0.55mol/L LiPF
6、0.3mol/L LiFSA、EC:DEC:EMC:VC=3.4:0.7:5.8:0.05(体積比)
【0265】
サンプル10およびサンプル11で用いたEC、DEC、EMCおよびVCの構造式を化7に示す。
【0266】
【化7】
【0267】
上記初期充放電処理中の、充電工程および放電工程、たとえば上記の工程1、工程5、工程9乃至工程13は、実施例1と同様にセルを加圧器具で加圧して行った。
【0268】
初期充放電処理を終えたサンプル10およびサンプル11について、サイクル特性を評価した。なお、サイクル特性の評価のための充放電は、セルを加圧せずに行った。
【0269】
図25(A)に、サンプル10およびサンプル11の放電容量維持率を示し、
図25(B)に、サンプル10およびサンプル11の放電容量を示した。それぞれの図中の破線はサンプル10、実線はサンプル11を示す。
【0270】
図25のサンプル10のグラフに示すように、リチウムイオン二次電池の電解液の溶媒として、最初はECの占める割合が50体積%を超えるようにして初期充放電処理を開始して、正極または負極にEC由来の安定な被膜を形成した後、外装体を開封してECよりも粘度の低い電解液を追加することで、サイクル特性のすぐれたリチウムイオン二次電池を作製することができた。溶媒のうちの鎖状カーボネートの割合を減らしたことにより、初期の被膜形成時においてECの分解の連鎖反応を長く続けることができ、EC由来の良好な被膜が形成されるものと考えられる。
【0271】
さらに
図25のサンプル11のグラフに示すように、追加するECよりも粘度の低いVCを用いることで、よりサイクル特性のすぐれたリチウムイオン二次電池を作製することができた。
【実施例7】
【0272】
本実施例では、実施例1乃至実施例5から得られた知見をもとに、負極および正極の表面により安定な被膜が形成された、実施例6と異なるリチウムイオン二次電池を作製し、それらのサイクル特性を評価した。
【0273】
より具体的には、サンプル12では、第1の電解液が有する第1の溶媒をEC、第2の溶媒をDECとした。まず、第1の電解液としてECの割合が70体積%を超える電解液を用いて初期充放電処理を開始し、正極および負極表面に安定な被膜を形成した。その後外装体を開封して、第3の溶媒としてEMCを追加し、第2の電解液が有する溶媒のうちECの占める割合が60体積%以下となるようにした。
【0274】
またサンプル13では比較例として、最初からECとDECだけでなくEMCが混合され、ECの占める割合が50体積%以下である電解液を用いた。そしてサンプル12と同様に初期充放電処理を行い、その後外装体を開封したが、溶媒の追加は行わなかった。
【0275】
そして上記のサンプル12とサンプル13のサイクル特性を評価した。
【0276】
なお、本実施例において、EC、DEC、EMC、LiPF
6およびLiFSAはキシダ化学株式会社製の試薬を用いた。
【0277】
<サンプル12作製>
まずサンプル12の詳細について以下に説明する。サンプル12の電解質としてはLiPF
6およびLiFSAを用いた。また第1の電解液の溶媒としてECとDECを用いた。
【0278】
まず、第1の電解液に用いる、LiPF
6、LiFSA、ECおよびDECを計量した。そしてDECに、LiPF
6、LiFSAおよびECを混合し、撹拌し溶解させた。第1の電解液が0.9mol/L LiPF
6および0.6mol/L LiFSAとなるように調製した。
【0279】
またサンプル12の第1の電解液の溶媒の割合は下記の通りとした。
EC:DEC=8:2(体積比)
【0280】
また、上記以外の材料としては、正極活物質層が有する正極活物質としてLiCoO
2、正極導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、正極バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。また負極活物質層が有する負極活物質として黒鉛、負極バインダとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いた。負極集電体として厚さ18μmの銅箔を用いた。セパレータとして25μmのポリプロピレンを用いた。外装体としてアルミニウム箔を含む厚さ113μmのラミネートフィルムを用いた。
【0281】
正極は、正極活物質、正極導電助剤および正極バインダをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合して作製したスラリーを、正極集電体に塗布して正極活物質層を形成し、乾燥させ、所定の形状に打ち抜いて正極を作製した。正極活物質が塗布された面積は20.5cm
2であった。また負極は、負極活物質、負極バインダを水と混合して作製したスラリーを、負極集電体に塗布して負極活物質層を形成し、乾燥させ、所定の形状に打ち抜いて負極を作製した。負極活物質が塗布された面積は23.8cm
2であった。
【0282】
そして正極、セパレータおよび負極を1枚ずつ積層してラミネートフィルムで覆い、上述の条件の第1の電解液を注入し、ラミネートフィルムを熱溶着して封止し、サンプル12のセルを作製した。セルの厚みは約0.45mmであった。
【0283】
≪初期充放電処理≫
上記のサンプル12に初期充放電処理を行った。初期充放電処理の工程は以下の通りとした。
1.15mAh/gまで、0.01Cで充電した。
2.ラミネートフィルムを切断して開封し、EMCを追加した。また、手で加圧してセル内部からガスを除去した。
3.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
4.120mAh/gまで、0.1Cで充電した。
5.40℃で24時間保持した。
6.ラミネートフィルムを切断して開封し、手で加圧してセル内部からガスを除去した。
7.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
8.CCCV、4.3V、0.1Cで充電した。
9.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
10.CCCV、4.3V、0.2Cで充電した。
11.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
12.10および11を2回繰り返した。
【0284】
サンプル12の第2の電解液の溶媒の割合は下記の通りとなった。
EC:DEC:EMC=5:1:4(体積比)
【0285】
なお本明細書等において、初期充放電処理における充電量、たとえば上記の工程1および工程4における充電量は、正極活物質1gあたりの充電量で示すこととする。また満充電とは、ここでは、電圧を4.3Vに制御し、電流が0.01Cとなるまで充電した状態をいうこととする。
【0286】
なお上記の初期充放電処理中の、充電工程および放電工程、たとえば工程1、工程4、工程6乃至工程10は、セルを加圧して行った。加圧は、セルが有する正極および負極が均一に加圧されるよう、加圧器具にはさんで行った。
【0287】
セルを加圧することで、充電の際に負極集電体から負極活物質がはがれる現象を抑制することができる。また、電解液に含まれるガスや、電解液の分解によって生じるガスが、正極と負極の間にとどまり、充放電を阻害するのを防ぐことができる。
【0288】
また、セルを加圧することで、セルが有する正極と負極の間の距離を短くすることができる。本実施例のように、第1の電解液の溶媒としてECを多く含む場合、電解液の粘度が高くなりリチウムイオンが電極間を移動しづらくなるおそれがあるが、正極と負極の間の距離を短くすることで、セルの抵抗を低減することができる。
【0289】
また、セルを加圧することで正極および負極の起伏を抑制することができる。正極および負極に起伏があると、セル内で正極と負極の間の距離に差が生じてしまう。そのため起伏がある場合、正極と負極の間の距離が短い領域にリチウムイオンが集中し、負極においてリチウム析出が起こりやすくなるおそれがある。しかしセルを加圧し起伏を抑制することで、リチウム析出を防止し、セルの安全性を高めることができる。
【0290】
本実施例では、
図5に示した加圧器具を用いて、固定器具15aおよび固定器具15bとしてボルト、ナットおよび座金を用い、これらをトルクレンチで固定した。トルクの指定は0.1N・mとした。また緩衝材として硬度50°のゴム板を用いた。
【0291】
<サンプル13作製>
次にサンプル13の詳細について以下に説明する。
【0292】
サンプル13の電解液の溶媒の割合は下記の通りとした。
EC:DEC:EMC=5:1:4(体積比)
【0293】
サンプル13は、上記の電解液の溶媒以外は、サンプル12と同様に作製した。
【0294】
≪初期充放電処理≫
上記のサンプル13に初期充放電処理を行った。初期充放電処理の工程は以下の通りとした。
1.15mAh/gまで、0.01Cで充電した。
2.ラミネートフィルムを切断して開封し、手で加圧してセル内部からガスを除去した。
3.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
4.120mAh/gまで、0.1Cで充電した。
5.40℃で24時間保持した。
6.ラミネートフィルムを切断して開封し、手で加圧してセル内部からガスを除去した。
7.ラミネートフィルムを熱溶着して封止した。
8.CCCV、4.3V、0.1Cで充電した。
9.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
10.CCCV、4.3V、0.2Cで充電した。
11.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
12.10および11を2回繰り返した。
【0295】
なお上記の初期充放電処理中の、充電工程および放電工程、たとえば工程1、工程4、工程6乃至工程10は、サンプル12と同様にセルを加圧して行った。
【0296】
<サイクル特性>
上記のようにして作製したサンプル12およびサンプル13についてサイクル試験を行った。サイクル試験の工程は以下の通りとした。
1.CCCV、4.3V、1Cで充電した。
2.CC、2.5V、0.2Cで放電した。
3.CCCV、4.3V、1Cで充電した後CC、2.5V、1Cで放電することを50回繰り返した。
4.1から3を繰り返した。
なおサイクル試験中はセルへの加圧は行わなかった。
【0297】
サンプル12およびサンプル13のサイクル試験の結果を
図26に示した。
図26(A)に放電容量、
図26(B)に放電容量維持率を示し、それぞれ実線がサンプル12、破線がサンプル13のグラフである。サイクル試験では上記のように1Cで50回の充放電をするごとに、0.2Cの放電を行っているため、0.2Cの放電を行ったサイクルでは放電容量が上昇した。
【0298】
図26に示すように、サンプル12はサンプル13よりも良好なサイクル特性を示した。
【0299】
以上より、最初にECの割合を高くして初期充放電処理を開始し、正極および負極表面に安定な被膜を形成した後、他の電解液を追加してECの割合を低下させることで、広い温度範囲で動作可能で、かつサイクル特性の向上したリチウムイオン二次電池を作製できることが明らかとなった。