【実施例】
【0039】
実施例1:糞便菌叢の変化
実験方法
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被験者
募集期間中に集まった被験者候補を対象に、試験開始2週間前に血液生化学的検査を実施し、中性脂肪値(100〜250mg/dL)でBMIが25程度の被験者を中心に、医師が動脈硬化予備軍と判定した30名を被験者として登録した。その際、薬物による脂質異常症の治療を受けている患者、コレステロール値に影響のある薬剤を服用している方、重篤な心疾患、肝疾患、腎疾患などの患者は除外した。登録された被験者はプロトコルに従い、割付責任者が試験前に無作為に試験食群20名、プラセボ群10名に群分けした。しかしながら、直前の血液検査で試験食群の3名の中性脂肪が100mg/dl未満となったため除外した。結果的に、試験食群17名(男性9名、女性8名、平均年齢41.7歳)とプラセボ群10名(男性6名、女性4名、平均年齢41.7歳)で実施した。被験者には担当医師より本研究の意義や目的を十分に説明し、インフォームド・コンセントを得た上で、ヘルシンキ宣言の精神に則り実施した。
【0040】
また、被験者はアンケートによる食生活から、試験期間中の総摂取カロリーは平均2000kcal/日以上と推測された。
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試験食
試験食は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス LKM512株(寄託番号FERM P−21998)凍結乾燥粉末を1g(生菌数は約6×10
9cfu)ずつ分包したスティックを1セットとし、1日に2包(朝、晩に一包ずつ)12週間摂取した。プラセボ用粉末は、賦形剤のみのスティックを作製して用いた。
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試験スケジュール
摂取期間12週間の無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した。試験開始前及び摂取12週後に糞便を回収した。なお、試験期間2週間前から終了時まで、乳酸菌およびビフィズス菌を含むヨーグルト、乳酸菌飲料、およびサプリメント、また腸内菌叢解析結果に著しい影響を及ぼす納豆の摂取は禁止したが、その他の食事は制限しなかった。
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腸内菌叢解析
(糞便サンプル)
糞便サンプルは、試験開始前と摂取12週後に回収した。採便シート「ナガセール」(オザックス株式会社製)を用いて、排便後、直ちに糞便を採便管に回収し、冷蔵条件下で輸送し、排便後12時間以内に−80℃で保存し、腸内菌叢解析用に処理した。すなわち、200−300mgの糞便を9倍量のダルベッコリン酸バッファー(pH7.2)(D-PBS, GIBCO社製)に均一に懸濁し、1分間の激しい撹拌後、遠心分離を行い(16000×g、10分間)、上清を除去し沈殿を得た。さらに再びD-PBSを1ml添加し、同様の作業を二度繰り返し、得られた沈殿物を菌叢解析用試料として解析時まで−80℃にて保存した。
(糞便サンプルからのDNA抽出)
DNAの抽出はMatsukiら(Matsuki, T., et al., Appl. Environ. Microbiol, 2004, 70:7220-7228)の方法の一部を改変して行った。改変点は、抽出DNAの回収をエタ沈メイト(Takara)で実施し、冷70%エタノール(1 ml)を用いて2回の遠心洗浄(15000×g、5分間)後、風乾した点である。
(IonPGMによる菌叢解析)
16S rRNA遺伝子の可変領域V1-V2をフュージョンプライマー法で増幅した。フォワードプライマーはIon Aアダプターやキー配列、バーコード配列、アダプター配列(GT)、ならびに16S rRNA特異的な27Fmodプライマー配列を有するものを使用し、リバースプライマーはIon truncated P1アダプター配列、アダプター配列(CC)、ならびに338Rプライマー配列を有するものを使用した(Kim, S. W., et al., DNA Res., 2013, 20:241-253)。PCRの反応液の組成はPlatinum(登録商標) PCR SuperMix High Fidelity (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を23.5μl、各5μMのプライマー混合液を0.5μl、DNA溶液を1μlを含む合計25μlの系を用いた。サーマルサイクラーの温度条件は、最初のDNA変性を94℃で3分間行い、その後、変性(94℃で30秒)、アニーリング(55℃で45秒)、伸長(68℃で1分間)のサイクルを25サイクル繰り返した。PCR産物はPureLink PCR Purification Kit (Invitorogen)を用いて精製した。サンプルのDNA濃度はQuant dsDNA HS Assay Kit (Invitrogen)とQubit 2.0 Flourometer (Invitrogen)を用いて定量し、各サンプルが等量となるように混合した。DNA混合液は2.0%TAEアガロースゲルにて電気泳動し、目的産物のバンドを切り出し精製した。精製したDNAはBioanalyzer(Agilent)を用いて精製産物のピークと濃度を確認した。エマルジョンPCRとライブラリービーズの回収はIon PGM Template OT2 400 Kit(ThermoFisher Scientific)を用い、シークエンスはIon PGM Sequencing 400 Kit (ThermoFisher Scientific)とIon 318 Chip V2(ThermoFisher Scientific)を用いた。いずれもThermoFisher Scientificのプロトコルに従って行った。シークエンスはIon PGM System(ThermoFisher Scientific)を用いて行った。
(シークエンスデータの解析方法)
Ion PGMのシークエンスデータはfastq形式で取得し、Qiimeソフトウェアー(Caporaso, J. G., et al., Bioinformatics, 2010, 26:266-267)を用いて解析した。出力された配列データより、バーコード、フォワードプライマー、リバースプライマー配列部位のミスマッチが無く、かつ平均のクオリティースコアが20以上の配列を抽出した。抽出した配列は、uclust方法(Edgar, R. C., Bioinformatics, 2010, 26:2460-2461)とfarthest neighbor アルゴリズムを用いて97%の相同性となるようにoperational taxonomic units(OTUs)にクラスター化した。各OTUの内、最も頻度の高い配列を代表配列として抽出した。代表配列はPyNASTアルゴリズム(Caporaso, J. G., et al., Bioinformatics, 2010, 26:266-267)を用いてアライメントした。キメラ配列はChimeraSlayerアルゴリズムを用いて確認し、解析に用いる配列から削除した。配列の系統分類はRDP classifier(Wang, Q., et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, 73: 5261-5267)を用い、confidence cutoff値を80に設定して行った。
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統計解析
糞便菌叢の検出菌群の相対存在量の比較はSPSS(IBM)を用いてKolmogorov-Smirnov の正規性検定を行い、正規分布が否定された菌群の独立2群比較についてはマン・ホイットニーのU検定、各群内の摂取前後の結果の比較についてはウィルコクソンの符号順位検定を行った。正規分布している菌群の独立2群比較はF検定後、スチューデントのt検定、あるいはウェルチのt検定にて解析し、各群内の摂取前後の結果の比較は対応のあるt検定(paired t-test)で実施した。
【0041】
結果/糞便菌叢の変化
動脈硬化症と腸内菌叢に関する研究は少ないが、最近、食事由来フォスファチジルコリン、コリンやカルニチンが腸内常在菌によりトリメチルアミン(TMA)に変換され吸収後、肝臓でトリメチルアミン−N−オキシド(TMAO)に変換され、このTMAOがアテローム性動脈硬化を促進することが注目されている(非特許文献4、5)。このコリンからTMAへの変換は、コリンが炭素−窒素結合(C-N bond)切断によりTMAとアセトアルデヒドが生じる反応に起因し、それに関与しているcholine utilization(cut)遺伝子クラスターがデスルフォビブリオ・デスルフリカンス(Desulfovibrio desulfuricans)ゲノムから発見されている(Craciun, S. and Balskus, E. P., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 2012, 109:21307-21312)。この遺伝子と相同性が高い遺伝子を有し、コリンからTMAへ変換する可能性が高いとリストアップされた菌(Craciun, S. and Balskus, E. P., 同上)と本実験で変動した腸内細菌を比較した。その結果、試験12週目に試験食群がプラセボ群と比較し有意に低くかったクロストリジア(Clostridia)綱およびクロストリジアレス(Clostridiales)目(共に試験食群66.6%、プラセボ群77.5%、p<0.01)に属する細菌が24菌種(表1のリストのNo. 3, 4, 5, 7, 8, 9, 10, 11, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31の菌種)、ラクノスピラセアエ(Lachnospiraceae)科(試験食群53.7%、プラセボ群60.9%、p<0.05)に属する細菌が4菌種含まれていた(表1のリストNo. 4, 5, 9, 23の菌種)(
図1)。また、試験期間中にプラセボ群でのみ有意に増加したクロストリジアセアエ(Clostridiaceae)科に属するクロストリジウム(Clostridium)属(ハンガテラ(Hungatella)含む)(試験前0.07%、12週目0.47%、p<0.05)の細菌が6菌種(表1のリストNo. 3, 7, 8, 10, 11, 13の菌種)、有意差は認められなかったが試験期間中に試験食群で減少傾向を示したクレブシエラ(Klebsiella)属(試験前0.00056%、12週目0.00107%、p=0.087)の細菌が4菌種(表1のリストNo. 32, 33, 34, 35の菌種)含まれていた。
【0042】
これらの結果は、平均約2000 kcal/日以上の生活をしている被験者は12週間の試験期間中においてもプラセボ群はTMAを産生し易い菌叢に変化しているのに対し、同様の食事をしていてもプロバイオティクス微生物摂取がコリンからTMAへの変換に関与する腸内細菌の増加を抑えたことを示している。
【0043】
同様に、カルニチンからTMAが合成される腸内細菌の研究も始まっており、Rieske-type oxygenase/reductase(CntAB)およびその関連遺伝子を有する菌グループの関連が示唆されている(Zhu, Y., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 2014, 111:4268-4273)。これらの遺伝子を有していると推測される菌として本実験の被験者からも検出されたガンマプロバクテリア(Gammaproteobacteria)綱に属するクレブシエラ(Klebsiella)属、エスチェリチア(Escherichia)属、シトロバクター(Citrobacter)属等が挙げられており、この内クレブシエラ属に関しては、プラセボ群では有意な変動が無かったが試験食群で減少傾向(p=0.087)が示された。この結果は、プロバイオティクス摂取はカルニチンからのTMA合成に関与する腸内細菌の増加を抑えたことを示している。
【0044】
したがって、プロバイオティクス微生物の摂取は、アテローム性動脈硬化症と関連がある腸内菌叢の改善に有用である。
【0045】
実施例2:糞便中トリメチルアミンの測定
実験方法
実施例1で回収した糞便を9倍量の生理的リン酸緩衝液に懸濁し、1分間の激しい撹拌を2回繰り返し(1回目と2回目の撹拌の間は、5分間氷上で静置)、遠心分離(9,100 g×10分間、4℃)した上清を糞便抽出液としてTMA濃度の測定に供した。TMA濃度測定はBainら(Analytical Biochemistry, 2004, 334:403-405)の方法で、一部改変して以下の方法で実施した。200μLの糞便抽出液に300μLの0.01M HClを加えて30秒懸濁し、10mLガラスバイアルに移した。サンプルは氷上に置き、500μLの100mM KOHを加えsilicon/PTFEの蓋ですぐに封をした。バイアルは50℃で5分間加熱した後、Carboxen-polydimethylsiloxane (75μm) SPME fiber (Supelco, Pennsylvania, USA)を挿入し、ヘッドスペース法でガスを吸着させ、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS QP2010、島津製作所)で解析した。インジェクションはスプリットレス注入法にて行い、インジェクター温度250℃とした。Rtx-1(30 m × 0.32 mm × 4.0 mm )キャピラリーカラム(Restek Corporation, Pennsylvania, USA)を使用し、カラム温度は80℃で4.5分間保温した後、180℃まで30℃/分の速度で上昇させのち、180℃で5分間保温した。ヘリウムガスをキャピラリーガスとして使用し、流速は4.8mL/分とした。
【0046】
結果/糞便中トリメチルアミン濃度
試験12週後の糞便中TMA濃度は、LKM512摂取群78.6±8.6μMに対し、プラセボ摂取群は175.2±60.7μMと、LKM512摂取群がプラセボ群と比較し有意に低かった(
図2)。
【0047】
すなわち、プロバイオティクス微生物、特にビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスLKM512を摂取することで、大腸内のTMA産生に関わると考えられる菌種が減少し、大腸内のTMA濃度が減少することが確認された。