特許第6986885号(P6986885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986885
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】証券
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20211213BHJP
   B41M 3/06 20060101ALI20211213BHJP
   B41K 1/40 20060101ALI20211213BHJP
   B42D 25/29 20140101ALI20211213BHJP
   B42D 25/378 20140101ALI20211213BHJP
【FI】
   B41M3/14
   B41M3/06 B
   B41K1/40
   B42D25/29
   B42D25/378
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-141030(P2017-141030)
(22)【出願日】2017年7月20日
(65)【公開番号】特開2019-18507(P2019-18507A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 正太
(72)【発明者】
【氏名】豊島 幸輔
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−201026(JP,A)
【文献】 特開2004−323631(JP,A)
【文献】 特開平05−279611(JP,A)
【文献】 特開平10−044603(JP,A)
【文献】 特開平10−204363(JP,A)
【文献】 特開平07−276779(JP,A)
【文献】 特開2006−205483(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0018206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/00−99/00
B41M 1/00− 3/18
B41M 7/00− 9/04
B42D 15/02
B42D 25/00−25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンプを押印されるための証券であって、
基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
前記表面スタンプ受像層が、前記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、
前記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、前記スタンプのインキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している、
証券。
【請求項2】
前記表面スタンプ受像層が、前記証券の表面の一部にのみ形成されている、請求項1に記載の証券。
【請求項3】
前記基材層と、前記表面スタンプ受像層との間に、印刷層を更に具備している、請求項1又は2に記載の証券。
【請求項4】
前記表面スタンプ受像層上の一部に、印刷層を更に具備しており、それによって前記表面スタンプ受像層及び前記印刷層が、前記証券の表面に露出するようにされている、請求項1に記載の証券。
【請求項5】
前記表面スタンプ受像層の厚さが、0.8μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の証券。
【請求項6】
前記樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の証券。
【請求項7】
前記基材層が、非浸透性層を有し、かつ前記非浸透性層を被覆するようにして前記表面スタンプ受像層が存在している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の証券。
【請求項8】
基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
前記表面スタンプ受像層が、前記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、
前記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、ポリビニルブチラール樹脂とを含有している、
証券。
【請求項9】
スタンプと証券とのセットであって、
前記スタンプが、樹脂を含有しているインキを用いるスタンプであり、
前記証券が、
基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
前記表面スタンプ受像層が、前記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、かつ
前記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、前記インキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している、スタンプと証券とのセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、証券、特にスタンプを押印されるための証券に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金券や証券等の印刷物に関しては、これらの偽造等の不正使用が問題となっているため、かかる不正使用を防止するための手段が施されていることが多い。かかる手段としては、例えば印刷物の複写を防止するための手段が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、被印刷基材上の下地印刷塗膜上に、パール顔料を含有するパールインキを用いて形成されたパール印刷塗膜が少なくとも一層以上積層されていることを特徴とするパール調印刷物が開示されている。特許文献1では、パール調印刷物は、見た目の色相とカラーコピーで再現される色相とが異なるため、カラーコピーによる偽造を防止するのに有効であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−260517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
証券の用途によっては、使用実績を示すために券面表面にスタンプで押印することにより印影を形成し、この印影の有無により使用済みであるか否か等の判断が行われることがある。しかしながら、溶剤や洗剤等を用いてこの印影を擦過することで、券面に痕跡を残さず、印影だけを消失させ、それによって証券を再利用する不正がなされることがある。このような不正は、特許文献1に記載されている偽造防止手段によっては対応できないため、印影の消失を防止するための別途の手段が必要となる。
【0006】
したがって、スタンプによる印影を消失させる行為に対応できる証券を提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈1〉 スタンプを押印されるための証券であって、
基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
上記表面スタンプ受像層が、上記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、
上記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、上記スタンプのインキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している、
証券。
〈2〉 上記表面スタンプ受像層が、上記証券の表面の一部にのみ形成されている、上記〈1〉項に記載の証券。
〈3〉 上記基材層と、上記表面スタンプ受像層との間に、印刷層を更に具備している、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の証券。
〈4〉 上記表面スタンプ受像層上の一部に、印刷層を更に具備しており、それによって上記表面スタンプ受像層及び上記印刷層が、上記証券の表面に露出するようにされている、上記〈1〉項に記載の証券。
〈5〉 上記表面スタンプ受像層の厚さが、0.9μm以下である、上記〈1〉〜〈4〉項のいずれか一項に記載の証券。
〈6〉 上記樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂である、上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の証券。
〈7〉 上記基材層が、非浸透性層を有し、かつ上記非浸透性層を被覆するようにして上記表面スタンプ受像層が存在している、上記〈1〉〜〈6〉項のいずれか一項に記載の証券。
〈8〉 基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
上記表面スタンプ受像層が、上記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、
上記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、ポリビニルブチラール樹脂とを含有している、
証券。
〈9〉 スタンプと証券とのセットであって、
上記スタンプが、樹脂を含有しているインキを用いるスタンプであり、
上記証券が、
基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
上記表面スタンプ受像層が、上記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、かつ
上記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、上記インキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している、
スタンプと証券とのセット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スタンプによる印影を消失させる行為に対応できる証券を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の証券の層構成を示す図である。
図2図2は、従来の証券にスタンプを押印した場合の概略図である。
図3図3は、本発明の証券にスタンプを押印した場合の概略図である。
図4図4は、本発明の表面スタンプ受像層の作用の説明図である。
図5図5は、表面スタンプ受像層が、証券の表面の一部にのみ形成されている証券の一つの態様の上面図である。
図6図6は、表面スタンプ受像層が、証券の表面の一部にのみ形成されている証券の一つの態様の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《証券:第一の態様》
図1(a)に示すように、本発明の第一の態様の証券(100)は、スタンプを押印されるための証券であって、基材層(20)及び表面スタンプ受像層(10)を具備しており、表面スタンプ受像層(10)が、証券(100)の表面の少なくとも一部に露出しており、表面スタンプ受像層(10)が、蛍光材料と、スタンプのインキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している、証券である。この証券は、図1(b)に示すように、基材層(20)と、表面スタンプ受像層(10)との間に、印刷層(30)を更に具備していてもよい。
【0011】
上記構成によれば、スタンプによる印影を消失させる行為に対応できる、証券を提供することができる。このことを、図2〜4を参照して説明する。
【0012】
まず、スタンプのインキに含有されている樹脂と同種の樹脂を表面層が含有していない、従来の証券に関し、図2を参照して説明する。図2(a)に示すように、従来の証券(100’)の表面層(10’)上にスタンプを押印して印影(50)を付した場合、図2(b)に示すように、印影(50)は別の層として定着する。したがって、溶剤等を用いることにより、この印影(50)を擦過すると、図2(c)に示すように、印影(50)が表面層(10’)から消失する。
【0013】
次いで、スタンプのインキに含有されている樹脂と同種の樹脂を表面スタンプ受像層が含有している、本発明の証券に関し、図3を参照して説明する。本発明の証券(100)の表面スタンプ受像層(10)上にスタンプを押印して印影(50)を付した場合、図3(b)に示すように、印影(50)が表面スタンプ受像層(10)中に固定される。
【0014】
理論に拘束されることを望まないが、これは、スタンプのインキが上記の樹脂及びこの樹脂を溶解している溶剤を含有しており、この溶剤が、表面スタンプ受像層を溶解させてスタンプのインキ全体を層中に浸透させ、かつスタンプのインキのこの樹脂と表面スタンプ受像層に含有される樹脂とが親和することによるものと考えられる。なお、かかる溶剤としては、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ノルマルプロピル、乳酸イソプロピルといった乳酸アルキルエステル等の速乾性溶剤が広く用いられている。
【0015】
その結果、溶剤等を用いてこの固定された印影(50)を擦過した場合でも、図3(c)に示すように、印影(50)が表面スタンプ受像層(10)中に固定されたままで残存することとなる。したがって、溶剤等を用いて擦過を経た後であっても、証券を目視した者は、スタンプの押印が済んでいることを容易に認識できる。
【0016】
一方、図4(a)に示すように、印影(50)が表面スタンプ受像層(10)中に固定された場合でも、表面スタンプ受像層(10)が押印の際に供給されるインキの量を吸収するのに十分な厚さではない場合や、溶剤等を用いた擦過を高い強度で行った場合には、スタンプのインキにより表面スタンプ受像層が劣化し、それによって図4(b)に示すように、固定された印影が、表面スタンプ受像層の消失領域(12)ごと消失することがある。
【0017】
かかる場合でも、証券に紫外光を照射すると、表面スタンプ受像層中の蛍光材料の存在に起因して、表面スタンプ受像層が存在する部分は発光した状態(10a)となる一方で、消失領域(12)は発光しない。したがって、紫外光下で証券を目視した者は、印影を消失させる行為があったことを容易に認識できる。ここで、表面スタンプ受像層が色材を含まず、蛍光材料が無色である場合には、紫外光を照射したときのみ、不正があったことを認識できるため、器具を用いて判定を行うコバート技術として好適である。
【0018】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0019】
〈基材層〉
基材層としては、他の層を積層できる基材であれば随意の基材を用いることができる。しかしながら、基材層が、スタンプのインキを層内に浸透させない非浸透性層を有する場合、ここにはスタンプのインキが浸透せず、溶剤等でふき取ったときに、スタンプが消失しやすい。したがって、本発明の表面スタンプ受像層がより有益となるのは、非浸透性層を被覆するようにして表面スタンプ受像層が存在している場合である。
【0020】
非浸透性層としては、例えば樹脂フィルム又は樹脂コート層を用いることができ、したがって非浸透性層を有する基材層としては、コート紙等を用いることができる。
【0021】
〈表面スタンプ受像層〉
表面スタンプ受像層は、証券の表面の少なくとも一部に露出している層であり、蛍光材料と、スタンプのインキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している。
【0022】
表面スタンプ受像層の厚さは、0.9μm以下、0.7μm以下、又は0.5μm以下であることが、剥離行為によって表面スタンプ受像層を印影ごと剥離されやすくし、それによって、印影を消失させる行為があったことを、紫外線を照射したときに容易に認識できるようにする観点から好ましい。
【0023】
表面スタンプ受像層の厚さが上記の厚さである場合、図4に関して言及したように、スタンプによる印影(50)及び印影の乗っていた表面スタンプ受像層は、全て消失するが、残された表面スタンプ受像層(10)は、表面スタンプ受像層中の蛍光材料の存在により、紫外光を照射することで受像層が存在している部分が発光した状態(10a)となり、スタンプを消失させた痕跡を容易に確認できる。
【0024】
表面スタンプ受像層中の蛍光材料の固形分の含有率は、表面スタンプ受像層全体の質量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であることが、紫外線を照射した際の発光輝度を大きくする観点から好ましく、72質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であることが、表面スタンプ受像層の積層の安定性を確保する観点から好ましい。
【0025】
表面スタンプ受像層は、例えばオフセット印刷、グラビア印刷、シルク印刷、フレキソ印刷、活版印刷、凹版印刷、インクジェット印刷、コーター等により積層させることができ、中でもグラビア印刷が、生産効率の観点から好ましい。
【0026】
なお、表面スタンプ受像層は、証券の表面の一部のみに形成されていてもよい。この場合、スタンプを押印したときに、スタンプによる印影の一部が表面スタンプ受像層上に形成され、かつスタンプによる印影の他の一部が、表面スタンプ受像層がない位置に形成されるようにすることができる。したがって、擦過等によって印影を除去しようとすると、一部が消失し、一部が残存する。この場合、表面スタンプ受像層は、地紋状に形成されていてもよい。
【0027】
具体的には、図5(a)及び図6(a)に示すように、表面スタンプ受像層(10)が、証券(100)の表面の一部のみに形成されている場合、図5(b)及び図6(b)に示すように、スタンプを押印したときに、スタンプによる印影(50)の一部が表面スタンプ受像層(10)上に形成され、かつスタンプによる印影(50)の他の一部が、表面スタンプ受像層(10)がない位置に形成されるようにすることができる。したがって、擦過等によって印影(50)を除去しようとすると、図5(c)及び図6(c)に示すように、一部が消失し、一部が残存する。
【0028】
{樹脂}
表面スタンプ受像層の樹脂としては、押印に用いるスタンプのインキに含有されている樹脂に応じ、これと同種の樹脂を選択することができる。ここで、本発明において、樹脂が同種であるとは、樹脂を構成するモノマーの種類が互いに同一であることを意味する。このような樹脂を表面スタンプ受像層の樹脂として用いることにより、スタンプのインキに含有されている樹脂を溶解させるためにインキに含有されている溶剤によって、表面スタンプ受像層の樹脂を溶解させることができ、かつスタンプのインキに含有されている樹脂と表面スタンプ受像層の樹脂とが互いに相溶することとなる。
【0029】
現在広く流通しているスタンプのインキには、ポリビニルブチラール樹脂が含有されているため、この樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが、汎用性の観点から好ましい。
【0030】
(ポリビニルブチラール樹脂)
ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールにブチルアルデヒドを反応させることにより生成した(コ)ポリマーである。具体的には、この樹脂は、以下の式で表されるコポリマーである。
【化1】
【0031】
{蛍光材料}
蛍光材料としては、紫外線を照射することにより発光し、かつ表面スタンプ受像層が発光したときに、この発光を視認できる随意の蛍光材料を用いることができる。このような蛍光材料としては、有機系蛍光材料、無機系蛍光材料が挙げられる。蛍光材料は、色材として用いられている有色であるものであっても、色材としては用いられていない実質的に無色であるものであってもよい。また、蛍光材料として、実質的に無色であるものを用いることが、コバート技術としての作用の観点から好ましい。
【0032】
有機系蛍光材料としては、例えば、ウラニン、エオシン、ジアミノチルベン、チオフラビンT、ローダミンB、インターナショナルオレンジ、2,5−ビス(5−tert−ブチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン等を用いることができる。
【0033】
無機系蛍光材料としては、例えば、酸化亜鉛、タングステン酸カルシウム、鉛含有ケイ酸バリウム、ユーロピウム含有リン酸ストロンチウム、ユーロピウム含有イットリア、ユーロピウム含有銅、ユーロピウム含有銀、ユーロピウム含有マンガン、ユーロピウム含有アルミニウム、ビスマス・ユーロピウム付活バナジン酸イットリウム等を用いることができる。
【0034】
〈印刷層〉
印刷層は、基材層と、表面スタンプ受像層との間に存在することができる随意の層である。印刷層としては、パール印刷層、着色印刷層等が挙げられる。印刷層としては、これらの印刷層を単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0035】
〈印刷層:パール印刷層〉
パール印刷層は、バインダー樹脂、及びパール材を含有している印刷層であることができる。パール材は、バインダー樹脂に分散していてよい。
【0036】
パール印刷層中のパール材の含有率は、印刷層全体の質量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上であることができ、また40質量%以下、30質量%以下、又は20質量%以下であることができる。
【0037】
{パール材}
パール材としては、通常のパール印刷で使用されるマイカをベースとしたマイカパール(例:MERCK社のIriodinシリーズ、solarflairシリーズ、日本光研工業社のPEARL GLAZEシリーズ、TWINCLE PEARLシリーズ)ガラスフレークをベースとしたガラスパール(MERCK社のMiravalシリーズ、日本板硝子社のメタシャインシリーズ)、アルミナフレークをベースとしたアルミナパール(MERCK社のXirallicシリーズ)の他に、2色性パール(MERCK社のColorstreamシリーズ、東洋アルミニウム社のコスミカラー)も使用できる。
【0038】
{バインダー樹脂}
バインダー樹脂としては、通常の印刷インキで使用される随意の樹脂を用いることができ、例えば、シェラックやマツ油、琥珀などの天然樹脂、天然樹脂の誘導体としてロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、硝化綿及び繊維素誘導体、ポリアミド樹脂、石油樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、塩素化ポリプロピレン、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂、スチレン系樹脂、マレイン酸系樹脂等、並びにこれらの共重合体を用いることができる。
【0039】
〈印刷層:着色印刷層〉
着色印刷層は、バインダー樹脂、及び色材を含有している印刷層であることができる。色材は、バインダー樹脂に分散していてよい。バインダー樹脂としては、パール印刷層に関して挙げたバインダー樹脂を用いることができる。
【0040】
着色印刷層は、ベタ印刷層であってもよく、地紋印刷層、彩紋印刷層等のパターン印刷層であってもよい。
【0041】
着色印刷層中の色材の含有率は、印刷層全体の質量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上であることができ、また40質量%以下、30質量%以下、又は20質量%以下であることができる。
【0042】
{色材}
色材としては、例えば無機顔料、有機顔料、染料、トナー用有機色素等が挙げられる。
【0043】
無機顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、グラファイト、アルミニウム粉、ベンガラ、バリウムフェライト、銅と亜鉛の合金粉、ガラス粉、カーボンブラック等が挙げられる。
【0044】
有機顔料としては、例えば、β−ナフトール系顔料、β−オキシナフトエ酸系顔料、β−オキシナフトエ酸系アニリド系顔料、アセト酢酸アニリド系顔料、ピラゾロン系顔料などの溶性アゾ顔料;β−ナフトール系顔料、β−オキシナフトエ酸アニリド系顔料、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系顔料などの不溶性アゾ顔料;銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(例えば、塩素又は臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ、アントラキノン、ペリノン、ペリレンなど)、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、キノフタロン系顔料などの多環式又は複素環式顔料などが挙げられる。
【0045】
また、有機顔料は、レーキ顔料を含むものであることができる。一般に、レーキ顔料は、染料を無機顔料又は体質顔料に染め付けることにより得られるものであり、無機顔料又は体質顔料の水不溶性に応じて、レーキ顔料も水不溶性を有する。レーキ顔料としては、例えば、BASF社から入手可能なファナル(FANAL、登録商標)カラーシリーズなどが挙げられる。
【0046】
染料としては、例えば、アゾ染料、アゾ染料とクロムの錯塩、アントラキノン染料、インジゴ染料、フタロシアニン染料、キサンテン系染料、チアジン系染料などが挙げられる。
【0047】
トナー用有機色素は、トナーに含有させることができる有機色素であり、着色剤の一般的な特性に加えて帯電性を有する。トナー用有機色素としては、染料又は有機顔料を用いることができるが、透明性及び着色力の観点から染料が好ましい。
【0048】
《証券:第二の態様》
本発明の第二の態様の証券は、基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
上記表面スタンプ受像層が、上記証券の表面の少なくとも一部に露出しており、
上記表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、ポリビニルブチラール樹脂とを含有している、
証券である。
【0049】
上記構成によれば、第一の態様の場合と同様に、ポリビニルブチラール樹脂を含有しているインキを用いるスタンプによる印影を消失させる行為に対応できる、証券を提供することができる。
【0050】
基材層、並びに表面スタンプ受像層の樹脂以外の構成及びポリビニルブチラール樹脂としては、第一の態様の証券に関して挙げたものを用いることができる。
【0051】
《セット》
本発明のセットは、スタンプと証券とのセットであって、
上記スタンプが、樹脂を含有しているインキを用いるスタンプであり、
証券が、
基材層及び表面スタンプ受像層を具備しており、
表面スタンプ受像層が、証券の表面の少なくとも一部に露出しており、かつ
表面スタンプ受像層が、蛍光材料と、インキに含有されている樹脂と同種の樹脂とを含有している、
スタンプと証券とのセットである。
【0052】
樹脂を含有しているインキを用いるスタンプは、例えば、インキ浸透印のように、インキを内部に充填するスタンプであってもよく、又は樹脂を含有しているインキを浸み込ませた朱肉を用いるスタンプであってもよい。
【0053】
セットにおける証券の各構成要素としては、第一の態様の証券に関して挙げたものを用いることができる。
【実施例】
【0054】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0055】
《サンプルの作製》
〈実施例1〉
基材層としてのコート紙(ジャンダルコート、中越パルプ工業社)上に、蛍光材料としてのビスマス・ユウロピウム付活バナジン酸イットリウムと、ポリビニルブチラール樹脂を含有している樹脂組成物とを、蛍光材料の固形分の含有率が10質量%となるように混合し、乾燥膜厚が0.5μmとなるように塗工して表面スタンプ受像層を形成し、実施例1のサンプルを得た。塗工には、メーターバー(メータバーコーティング#0、RK Print Coat Instruments社)及び塗工機(塗工機III、井元製作所社)を用いた。
【0056】
〈実施例2〉
蛍光材料の固形分の含有率を52質量%としたことを除き、実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを得た。
【0057】
〈実施例3〉
蛍光材料として酸化亜鉛を用いたことを除き、実施例1と同様にして、実施例3のサンプルを得た。
【0058】
〈実施例4〉
蛍光材料として2,5−ビス(5−tert−ブチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン(UVITEX OB、チバ・ジャパン社)を用い、蛍光材料の固形分の含有率を0.1質量%としたことを除き、実施例1と同様にして、実施例4のサンプルを得た。
【0059】
〈実施例5〜8〉
表面スタンプ受像層の乾燥膜厚を0.8μmとしたことを除き、実施例1〜4と同様にして、実施例5〜8のサンプルをそれぞれ得た。
【0060】
〈実施例9〜12〉
表面スタンプ受像層の乾燥膜厚を1.0μmとしたことを除き、実施例1〜4と同様にして、実施例9〜12のサンプルをそれぞれ得た。
【0061】
〈実施例13〜16〉
表面スタンプ受像層の乾燥膜厚を1.6μmとしたことを除き、実施例1〜4と同様にして、実施例13〜16のサンプルをそれぞれ得た。
【0062】
〈比較例1〉
表面スタンプ受像層を形成しなかったことを除き、実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを得た。
【0063】
〈比較例2〉
表面スタンプ受像層を、蛍光材料としてのビスマス・ユウロピウム付活バナジン酸イットリウムと、ポリエステルウレタン樹脂を含有している樹脂組成物(NLJ−1、櫻宮化学社)とを、蛍光材料の固形分の含有率が36質量%となるように混合し、乾燥膜厚が0.8μmとなるように塗工して形成したものに変更したことを除き、実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを得た。
【0064】
《評価》
〈印影の消去処理〉
作製したサンプルに、ポリビニルブチラール樹脂を含有しているスタンプのインキ(Xstamper(登録商標) 補充インキ チケッター用、シヤチハタ社)を充填したインキ浸透印(Xstamper(登録商標) チケッター、シヤチハタ社)を用いて捺印し、10分間放置して印影を乾燥させた。乾燥させた印影を、中性洗剤(ママレモン(登録商標)、ライオン社)を浸した綿棒を用いて擦過させた。
【0065】
〈スタンプ残存性〉
上記の処理を施したサンプルに、印影が消失しているか否かを目視で確認した。以下の表1においては、印影が消失しなかったものを○、印影が消失したものを×とした。
【0066】
〈消去処理の紫外光下での視認性〉
上記の処理を施したサンプルのうち、印影が消失したサンプルに、紫外光を照射し、消去処理の形跡の有無を確認した。形跡が見られたものを○、形跡が見られなかったものを×とした。
【0067】
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から、比較例1及び2のサンプルは、可視光下における印影及び紫外光下における消去処理の形跡のいずれも確認できなかったのに対し、実施例1〜16のサンプルは、これらの少なくともいずれかが確認できたことが理解できよう。
【0070】
より具体的には、表面スタンプ受像層の厚さが0.9μm以下である実施例1〜8のサンプルに関しては、消去処理によって印影が消失したものの、この消去処理の形跡を紫外光下で確認できたことが理解できよう。これに対し、表面スタンプ受像層の厚さが0.9μm超である実施例1〜8のサンプルに関しては、表面スタンプ受像層が剥離することなく印影を固定できることが理解できよう。
【符号の説明】
【0071】
10 表面スタンプ受像層
10’ 従来の証券の表面層
10a 発光した状態の表面スタンプ受像層
12 消失領域
20 基材層
30 印刷層
50 印影
100 証券
100’ 従来の証券
図1
図2
図3
図4
図5
図6