(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の履物は、防滑性を有し、乾燥した路面の歩行における滑りは抑制されているが、降雨時などの濡れた路面を歩行する際に、十分な防滑性が得られないことが問題であった。
そこで、本発明の目的は、耐摩耗性を損なうことなく、高い防滑性を備える靴底を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、前記課題を解決する手段について鋭意究明したところ、濡れた路面で靴が滑るのは、接地した際の靴底と路面との間に存在する水膜が原因であり、この水膜を靴底接地時に靴底外側に向けて排出することが、濡れた路面における防滑性の向上に有効であることを知見した。さらに、上記した水膜の除去について、靴底に、歩行時の足裏動作及び靴底の内から外への水流に適したパターンで溝を形成することによって、優れた防滑性及び耐摩耗性を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、
からなる靴底であって、
前記前足部は、該前足部の幅方向中間域を始点として前記中足部側から前記靴底の最前端側に傾斜して延びる傾斜溝を、前記幅方向中間域を挟む一方側及び他方側に各々少なくとも1本有する、靴底。
【0008】
(2)前記傾斜溝を、前記前足部の幅方向中間域を挟む、前記幅方向の一方側及び他方側に各々2本以上有する、上記(1)に記載の靴底。
【0009】
(3)前記傾斜溝は、少なくとも一部が湾曲して延びる、上記(1)又は(2)に記載の靴底。
【0010】
(4)前記傾斜溝は、前記始点側から延びる側へ溝幅が漸増する、上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の靴底。
【0011】
(5)前記前足部は、前記傾斜溝の少なくとも1本と交差する、細溝を1本以上有する、上記(1)〜(4)のいずれか一に記載の靴底。
【0012】
(6)足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、
からなる靴底であって、
前記後足部は、前記中足部から前記靴底の最後端の法線上に延びる縦溝を始点として、前記中足部側から前記靴底の最後端側に傾斜して延びる傾斜溝を、前記縦溝を挟む一方側及び他方側に各々少なくとも1本は有する、靴底。
【0013】
(7)前記傾斜溝は、前記後足部の周縁にて開口する、上記(6)に記載の靴底。
【0014】
(8)前記傾斜溝は、前記後足部の周縁の法線方向へ開口する、上記(6)又は(7)に記載の靴底。
【0015】
(9)前記傾斜溝を、前記縦溝を挟む、前記幅方向一方側及び他方側に各々2本以上有する、上記(6)〜(8)のいずれか一に記載の靴底。
【0016】
(10)前記傾斜溝は、少なくとも一部が湾曲して延びる、上記(6)〜(9)のいずれか一に記載の靴底。
【0017】
(11)前記傾斜溝は、前記始点側から延びる側へ溝幅が漸増する、上記(6)〜(10)のいずれか一に記載の靴底。
【0018】
(12)前記後足部は、前記傾斜溝の少なくとも1本と交差する、細溝を1本以上有する、上記(6)〜(11)のいずれか一に記載の靴底。
【0019】
(13)足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、
からなる靴底であって、
前記前足部は、該前足部の幅方向中間域を始点として前記中足部側から前記靴底の最前端側に傾斜して延びる傾斜溝を、前記幅方向中間域を挟む一方側及び他方側に各々少なくとも1本有し、
前記後足部は、前記中足部から前記靴底の最後端の法線上に延びる縦溝を始点として、前中足部側から前記靴底の最後端側に傾斜して延びる傾斜溝を、前記縦溝を挟む一方側及び他方側に各々少なくとも1本は有する、靴底。
【0020】
(14)前記前方傾斜溝を、前記前足部の幅方向中間域を挟む、前記幅方向の一方側及び他方側に各々2本以上有する、上記(13)に記載の靴底。
【0021】
(15)前記前方傾斜溝は、少なくとも一部が湾曲して延びる、上記(13)又は(14)に記載の靴底。
【0022】
(16)前記前方傾斜溝は、前記始点側から延びる側へ溝幅が漸増する、上記(13)〜(15)のいずれか一に記載の靴底。
【0023】
(17)前記前足部は、前記傾斜溝の少なくとも1本と交差する、細溝を1本以上有する、上記(13)〜(16)のいずれか一に記載の靴底。
【0024】
(18)前記後方傾斜溝は、前記後足部の周縁にて開口する、上記(13)〜(17)のいずれか一に記載の靴底。
【0025】
(19)前記後方傾斜溝は、前記後足部の周縁の法線方向へ開口する、上記(13)〜(18)のいずれか一に記載の靴底。
【0026】
(20)前記後方傾斜溝を、前記縦溝を挟む、前記幅方向一方側及び他方側に各々2本以上有する、上記(13)〜(19)のいずれか一に記載の靴底。
【0027】
(21)前記後方傾斜溝は、少なくとも一部が湾曲して延びる、上記(13)〜(20)のいずれか一に記載の靴底。
【0028】
(22)前記後方傾斜溝は、前記始点側から延びる側へ溝幅が漸増する、上記(13)〜(21)のいずれか一に記載の靴底。
【0029】
(23)前記後足部は、前記後方傾斜溝の少なくとも1本と交差する、細溝を1本以上有する、上記(13)〜(22)のいずれか一項に記載の靴底。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、高い防滑性と耐摩耗性とを両立した靴底を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の靴底を、詳細に説明する。一般に、靴は足の表側を被覆するアッパー部と、このアッパー部を支え、かつ足裏と接触するアウトソール部から形成され、アウトソール部のうち、歩行時に路面と対向する部分に靴底を有する。この靴底について、次に示す第1〜第3の形態の各々を詳しく説明する。まず、
図1は、本発明の第1の実施形態に係る靴底を示す図である。
なお、
図1は右足に適用される靴の靴底を示すが、右足に適用される靴底と左足に適用される靴底とは線対称の関係にあるので、右足用の靴底を典型例として、以下説明する。このことは、
図2及び
図3についても同様である。
【0033】
[第1の形態]
図1において、靴底1は、足裏の踵に対応する後足部2と、足裏の土踏まずに対応する中足部3と、足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部4とからなる。ここで、足裏の踵に対応する後足部2とは、靴を履いた際に、足裏の踵が収まる部位の靴底である。同様に、足裏の土踏まずに対応する中足部3とは、靴を履いた際に、足裏の土踏まずが収まる部位の靴底部分であり、足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部4とは、上記の後足部2及び中足部3を除く部分である。
【0034】
ここで、
図1において、靴底1は、足裏の爪先側に対応する側を前方、足裏の踵側に対応する側を後方とするとき、靴底1の最後端hの法線N方向における、最後端hと最前端tとの距離を全長Lとすると、前足部4は、法線N方向において、最前端tから、長さl
1の位置にある点p1と同最前端tから長さl
2の位置にある点p2とを結ぶ線分b1よりも最前端t側の領域である。前足部4を規定する、長さl
1は、全長Lの20%〜50%であり、長さl
2は、全長Lの40%〜70%とすることが好ましい。
【0035】
第1の形態に係る靴底1において、前足部4は、前足部4の幅方向中間域を始点として中足部3側から最前端t側に傾斜して延びる前方傾斜溝を、該幅方向中間域を挟む一方側及び他方側に各々少なくとも1本有している。即ち、
図1の例では、幅方向中間域Mを挟む一方側(装着内側)に、前方傾斜溝5a〜5cを3本、同他方側(装着外側)に、前方傾斜溝6a〜6cを3本有している。
なお、靴底1の幅方向とは、最後端hの法線Nと直交する方向である。そして、前足部4の幅方向中間域Mとは、前方傾斜溝の始点を通る、靴底1の一端から他端まで幅方向に延びる線分の幅方向中心を含む領域である。
図1に示す例における、前足部4の幅方向中間域Mは、例えば、前方傾斜溝5aの始点を通る、靴底1の一端から他端まで幅方向に延びる線分q1の幅方向中心m1を中心とする幅D2の領域である。この幅D2は、該幅方向中心m1を中心とする、線分q1の幅D1の50%以下の領域である。さらに、前方傾斜溝5b、5c及び前方傾斜溝6a〜6cにおいても、同様に、上記線分の幅方向中心を中心とする該線分の幅の50%以下の領域を、各前方傾斜溝における、前足部4の幅方向中間域Mと称する。 なお、好適には、幅D2は、幅D1の30%以下の領域であり、前方傾斜溝5b、5c及び前方傾斜溝6a〜6cにおいても同様である。
【0036】
前方傾斜溝5a〜5cは、前足部4の幅方向中間域Mを始点として、同幅方向中間域Mを挟む一方側(装着内側)に向かって延び、靴底1の周縁1aの手前を終端とする。さらに、前方傾斜溝5a〜5cは、中足部3側から最前端t側に傾斜し、法線N方向に対して鋭角をなしている。該傾斜角度は、各前方傾斜溝5a〜5cの溝幅の中心に沿って延びる軸線の、当該溝幅方向中心点における接線が法線N方向となす挟角である。例えば、前方傾斜溝5aでは、
図1に示すとおり、該前方傾斜溝5aの軸線c1の、該溝の始点から終端までの幅方向中心点m2における接線s1と、法線Nとがなす角度θ1を、20°〜70°とすることが好ましい。前方傾斜溝5b及び5cにおいても、同様に規定する角度を20°〜70°とすることが好ましい。
さらに、前方傾斜溝5a〜5c相互間においては、上記のとおり規定する角度が、前方傾斜溝5a≦前方傾斜溝5b≦前方傾斜溝5cの関係を満足することが好適である。
【0037】
さらに、前方傾斜溝6a〜6cは、前足部4の幅方向中間域Mを始点として、同幅方向中間域Mを挟む他方側(装着外側)に向かって延び、靴底1の周縁1aの手前を終端とする。さらに、前方傾斜溝6a〜6cは、中足部3側から最前端t側に傾斜し、法線N方向に対して鋭角をなしている。該傾斜角度は、上記の前方傾斜溝5a〜5cと同様の手法にて規定され、各前方傾斜溝6a〜6cの溝幅の中心に沿って延びる軸線の、当該溝幅方向中心点における接線が法線N方向となる挟角である。前方傾斜溝6a〜6cにおいて、上記規定による角度は、10°〜60°とすることが好ましい。
さらに、前方傾斜溝6a〜6c相互間においては、上記のとおり規定する角度が、前方傾斜溝6a≦前方傾斜溝6b≦前方傾斜溝6cの関係を満足することが好適である。
なお、図示例では、幅方向中間域Mを挟む他方側(装着外側)に、線分b1から装着外側に向かって、前方傾斜溝6a〜6cと同様の傾きで延び、周縁1aの手前にて終端している、前方傾斜溝6d及び6eをさらに有している。
【0038】
上記構成の靴底1によれば、排水性が向上し、高い防滑性を実現することができる。即ち、該靴底1を適用した靴にて濡れた路面を歩行すると、該歩行の動作に伴い、前足部4は最後端hから最前端t側に向かって路面に接地する際、路面の水分は、前方傾斜溝5a〜5c及び6a〜6c(図示例では前方傾斜溝6d及び6eを含む)に取り込まれ、斜め前方への傾斜に沿って流れ、靴底1における前足部4の周縁側の開口にて排出される。
【0039】
本実施形態では、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6eが靴底1の周縁1aに開口することなく手前に終端を有するが、周縁1aまで延びて開口してもよいのは勿論である。なお、各溝の終端部と周縁1aとの幅方向離隔長さd1は、任意の長さでよいが、平均で10mm以下とすることが好ましい。
【0040】
また、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6cは、直線状又は曲線状等の任意の形状とすることができるが、溝の始点側に向かって、法線N方向に収束するように湾曲して延びることが好ましい。図示例では、前方傾斜溝5a〜5c及び6a〜6cは、幅方向中間域Mにおいて、法線N方向に沿う向きに延び、幅方向中間域Mの外側で湾曲した部分を介して、周縁1aに向かって略直線状に延びている。かように、前方傾斜溝の形状の一部を湾曲させることによって、各前方傾斜溝に取り込まれた水分の排出を促進することができる。
なお、図示するとおり、前方傾斜溝6d及び6eについても、幅方向中間域Mにて法線N方向に延び、かつ湾曲を介して周縁1a側に延びる形状とすることによって、靴底1の路面接地時の動作に従う水分の排出促進に寄与することができる。
【0041】
また、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6cは、始点側から周縁1a側へ溝幅が漸増することが好ましい。なお、本実施形態における漸増とは、一定の溝幅にて延在する部分を含んでいてもよい。図示例では、前方傾斜溝5a〜5cは、幅方向中間域Mにおいては、始点側から周縁1a側へ溝幅が漸増し、幅方向中間域域Mよりも一方側(装着内側)では、略一定の溝幅で延びる形状である。前方傾斜溝6a〜6cについても、幅方向中間域Mにおいては、始点から周縁1a側へ溝幅が漸増し、幅方向中間域Mよりも他方側(装着外側)では、略一定の溝幅で延びる形状である。
上記構成によれば、前足部4の幅方向中間域Mにおいて各前方傾斜溝に取り込まれた水分が、歩行時の動作に伴って、より広い溝幅側に移動し、水分の排出効果が促進される。
なお、前方傾斜溝6d及び6eについては、任意の構成とすることができ、図示例では、前方傾斜溝6dは、始点から溝幅が漸増したのち、略一定の溝幅にて延び、前方傾斜溝6eについては、始点から終端まで略一定の溝幅で延びている。
また、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6eの溝幅は、上記構成に限られず、一定の溝幅としてもよい。
【0042】
ここで、前方傾斜溝5a〜5cは、最も溝幅の狭い部分、即ち最小溝幅w1を1mmとし、最も溝幅の広い最大溝幅w2を、10mmとする、1mm〜10mmの溝幅を有することが好ましく、前方傾斜溝6a〜6eについても同様の数値範囲を満たす溝幅とすることが好ましい。上記規定によれば、靴底1の剛性低下を抑制しながら、水膜が存在する路面でも十分な排水効果を得て、防滑性を向上させることができる。より好適には、最小溝幅w1を5mmとすることにより、高い排水効果を得ることができる。
【0043】
また、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6eの深さ方向の断面形状は、矩形や半円等の任意とすることができる。なお、溝の最大深さは0.5mm以上8mm以下とすることが好ましい。上記構成によれば、0.5mm以上とすることによって、耐摩耗性と防滑性との両立が可能となり、8mm以下とすることによって、装着歩行時にバランスを維持し、歩行の安定性を向上させることができる。
【0044】
法線N方向に隣接する、前方傾斜溝5a〜5cの法線N方向における相互間隔h1は、長さl
1の10%〜40%とすることが好ましい。10%以上とすることによって、溝の形成による靴底1の剛性低下を抑制し、40%以下とすることによって、十分な排水効果を実現し、防滑性を向上させることができる。
【0045】
同様に、法線N方向に隣接する、前方傾斜溝6a〜6eの法線N方向における相互間隔h2は、長さl
2の5%〜30%とすることによって、靴底1の剛性低下の抑制と、防滑性との両立を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態では、前足部4の周縁1aに沿って延び、かつ線分b1上で連続する周溝7を有し、該周溝7と、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6cとによって陸部8aが区画されている。前足部4に、最前端tから最後端hに亘って連続する陸部8aを有することによって、安定した歩行が可能となる。即ち、路面歩行時においては、靴底1が、最後端h側から最前端t側に向かって路面に接地し、次いで、最後端h側から最前端t側の順に路面から離れる動作が繰り返される。上記動作のうち、特に、前足部4のみが路面と当接しているタイミングにおいて、靴底の前後方向へ連続する平面状の陸部8aによって路面とのグリップ力が確保され、滑り難く安定した歩行が可能となる。また、前足部4の中央に連続する陸部を有するため、靴底1の剛性低下も抑制され、耐摩耗性も向上する。
なお、図示例では上述のとおり前方傾斜溝5a〜5cと前方傾斜溝6a〜6cとの間に陸部8aが形成されているが、該陸部8aに前後方向に延びる縦溝を形成し、この縦溝に前方傾斜溝5a〜5cと、前方傾斜溝6a〜6cとが、合流するものとすることもできる。このような構成によれば、幅方向中間域Mを中心に、路面の水を効果的に各前方傾斜溝内に取り込むことができるとともに、取り込まれた水分が、縦溝を介して、幅方向中間域Mの一方側及び他方側のいずれにも流れることができるため、水分の排出が促進される。
【0047】
さらに、図示例では、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6eは、周溝7に開口しており、該開口部より、各前方傾斜溝に取り込まれた水分の排出が促進される。
なお、靴底1は、周溝7を有しない構成とすることもできるが、このとき、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6cは、周縁1aにて開口する形状とすることが好ましい。各前方傾斜溝に取り込まれた水分の排出を促進するためである。
【0048】
また、前足部4は、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6cの少なくとも1本と交差する、細溝を1本以上有することが好ましい。図示例では、細溝9a〜9dを有している。細溝9aは、線分b1に沿う周溝7から、前方傾斜溝5a〜5cと交差して延び、陸部8aにおいて最前端t側に突出する部分を経て、前方傾斜溝6a〜6eと交差している。細溝9bは、細溝9aよりも幅方向中間域M側において、周溝7から、前方傾斜溝5b及び5cと交差して延び、前方傾斜溝5aと連通している。さらに、細溝9cは、周溝7から、前方傾斜溝6b〜6eと交差して延び、前方傾斜溝6aと連通している。また、細溝9dは、前方傾斜溝5a及び6aを連通している。前足部4が路面に接地した際に、前方傾斜溝5a〜5c及び前方傾斜溝6a〜6eと、細溝9a〜9dとから形成されるエッジによって路面上の水膜を切ることができ、靴底1と路面との間に存在する水膜でのスリップが防止され、靴底1の剛性低下を抑制しながら、より滑り難い歩行を可能にする。
ここで、細溝9a〜9dは、0.3mm〜3mmの溝幅を有する、各前方傾斜溝よりも細い溝を指している。
【0049】
なお、第1の形態としては、以上の前足部4を有することが肝要であり、後足部2は任意の構造でよい。
【0050】
[第2の形態]
次に、
図2を参照して、本発明の第2の実施形態に係る靴底について説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係る靴底を示す図である。
図2において
図1と同様の構成要素は、
図1と同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0051】
図2に示すとおり、靴底1は、第1の実施形態と同様に、足裏の踵に対応する後足部2と、足裏の土踏まずに対応する中足部3と、足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部4と、からなる。後足部2は、靴底1の最後端の法線N方向における、最後端hと最前端tとの距離を全長Lとすると、後足部2は、法線N方向において、最後端hから、長さl
3の位置にある点p3と、同最後端hから、長さl
4の位置にある点p4とを結ぶ線b2よりも最後端h側の領域である。後足部2を規定する、長さl
3は、全長Lの10%〜45%であり、長さl
4は、全長Lの10%〜45%とすることが好ましい。なお、線b2は、
図2に示すとおり曲線であってもよく、直線であってもよい。
【0052】
後足部2は、中足部3側に開口し、中足部3側から靴底1の最後端h側へ、後足部2の法線N方向中間域まで延びる縦溝10を有する。縦溝10は、最後端hの法線N上に延びている。この縦溝10を始点として、中足部3側から最後端h側に傾斜して延びる後方傾斜溝を、縦溝10を挟む一方側及び他方側に各々少なくとも1本有している。
図2の例では、縦溝10を挟む幅方向一方側(装着内側)に、後方傾斜溝11a〜11cを3本、同他方側(装着外側)に、後方傾斜溝12a〜12cを3本有している。
【0053】
後方傾斜溝11a〜11cは、後足部2の縦溝10を始点として、縦溝10を挟む幅方向一方側(装着内側)に向かって延び、靴底1の周縁1aにて開口している。さらに、後方傾斜溝11a〜11cは、中足部3側から、最後端h側に傾斜し、法線Nに対して鋭角をなしている。該傾斜角度は、各後方傾斜溝11a〜11cの溝幅の中心に沿って延びる軸線の、当該溝幅方向中心点における接線が法線N方向となす挟角である。例えば、後方傾斜溝11aでは、
図2に示すとおり、該後方傾斜溝11aの軸線c2の、該溝の始点から終端までの幅方向中心点m3における接線s2と、法線Nとがなす角度θ2を、30°〜80°とすることが好ましい。後方傾斜溝11b及び11cにおいても、同様に規定する角度を20°〜70°とすることが好ましい。
さらに、後方傾斜溝11a〜11c相互間においては、上記のとおり規定する角度が、後方傾斜溝11c≦後方傾斜溝11b≦後方傾斜溝11aの関係を満足することが好適である。
【0054】
さらに、後方傾斜溝12a〜12cは、後足部2の縦溝10を始点として、縦溝10を挟む他方側(装着外側)に向かって延び、靴底1の周縁1aにて開口している。さらに、後方傾斜溝12a〜12cは、中足部3側から最後端h側に傾斜し、法線N方向に対して鋭角をなしている。該傾斜角度は、各後方傾斜溝11a〜11cと同様の手法にて規定され、各後方傾斜溝12a〜12cの溝幅の中心に沿って延びる軸線の、当該溝幅方向中心点における接線が法線N方向となる挟角である。後方傾斜溝12a〜12cにおいて、上記規定による角度は、30°〜80°とすることが好ましい。
さらに、後方傾斜溝12a〜12c相互間においては、上記のとおり規定する角度が、後方傾斜溝12c≦後方傾斜溝12b≦後方傾斜溝12aの関係を満足することが好適である。
【0055】
上記構成の靴底1によれば、優れた防滑性及び耐摩耗性を実現することができる。即ち、後足部2と路面の間に存在する水分は、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12c内に取り込まれ、歩行時の動作に従い、溝の傾斜形状に沿って縦溝10に集束し、中足部3に臨む縦溝10の開口から排出される。よって、水分により靴が滑るのを防止することができる。なお、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12c内に取り込まれた水分の一部は、各溝の開口からも排出される。
【0056】
さらに、本実施形態では、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cは、湾曲しながら延びて、周縁1aにおいて、略法線方向へ開口している。このような構成によれば、図に示すとおり、各後方傾斜溝の開口部において、当該溝を挟む陸部の角が鋭角から直角に近づくため、歩行時の入力による陸部の角での摩耗を抑制することができる。
【0057】
また、後足部2は、最後端hを中心とする周縁1aと、後方傾斜溝11c及び12cとによって区画される、後方に向かって広がる扇形の陸部13を有し、この陸部13によって、安定した歩行が可能となる。即ち、上述のとおり、路面歩行時においては、靴底1が、最後端h側から最前端t側に向かって路面に接地し、次いで、最後端h側から最前端t側の順に路面から離れる動作が繰り返される。特に、後足部2のみが路面と当接しているタイミングにおいて、後方に向かって広がる扇形の陸部13によって路面とのグリップ力が確保され、滑り難く安定した歩行が可能となる。また、靴底1の剛性低下も抑制されることから、耐摩耗性も向上する。
【0058】
なお、後足部2は、本実施形態では、靴底1の前足部4の表面から隆起する凸部、所謂ヒールであるが、前足部4の表面と同じ高さとすることもできる。
後足部2が、前足部4の表面と同じ高さである場合、後足部2と中足部3との間の線b2は、表面から凹となる溝であることが好ましい。このような溝形状とすることにより、縦溝10が溝に開口する形状となり、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cに取り込まれた水分を、縦溝10の開口部から排出することができ、排水性が向上し、高い防滑性を得ることができる。
また、後足部2が隆起する凸部である場合、線b2側において、垂直に隆起していてもよく、テーパ状の壁面を介して隆起していてもよい。
【0059】
また、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cは、直線状又は曲線状等の任意の形状とすることができるが、溝の始点側に向かって、法線N方向に収束するように湾曲して延びることが好ましい。図示例では、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cは、開口部から、法線N方向に収束するように、溝の始点側に向かって湾曲して延びている。かように、後方傾斜溝を湾曲させることによって、各後方傾斜溝の取り込まれた水分の排出を促進することができる。
【0060】
また、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cは、始点側から周縁1a側へ溝幅が漸増することが好ましい。なお、本実施形態における漸増とは、一定の溝幅にて延在する部分を含んでいてもよい。図示例では、後方傾斜溝11a〜11cは、溝の始点側から周縁1a側へ溝幅が漸増する形状である。後方傾斜溝12a〜12cについても、溝の始点側から周縁1a側へ溝幅が漸増する形状である。
上記構成によれば、後足部2の始点側において各後方傾斜溝に取り込まれた水分の一部が、歩行時の動作に伴って、より広い溝幅側に移動し、水分の排出効果が促進される。
また、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cの溝幅は、上記構成に限られず、一定の溝幅としてもよい。
【0061】
ここで、後方傾斜溝11a〜11cは、最も溝幅の狭い部分、即ち最小溝幅w3を1mmとし、最も溝幅の広い最大溝幅w4を、10mmとする、1mm〜10mmの溝幅を有することが好ましく、後方傾斜溝12a〜12cについても同様の数値範囲を満たす溝幅とすることが好ましい。上記規定によれば、靴底1の剛性低下を抑制しながら、水膜が存在する路面でも十分な排水効果を得て、防滑性を向上させることができる。より好適には、最小溝幅w3を5mmとすることにより、高い排水効果を得ることができる。
【0062】
また、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cの深さ方向の断面形状は、矩形や半円等の任意とすることができる。なお、溝の最大深さは0.5mm以上8mm以下とすることが好ましい。上記構成によれば、0.5mm以上とすることによって、耐摩耗性と防滑性との両立が可能となり、8mm以下とすることによって、装着歩行時にバランスを維持し、歩行の安定性を向上させることができる。
【0063】
法線N方向に隣接する、後方傾斜溝11a〜11cの法線N方向における相互間隔h3は、長さl
3の10%〜40%とすることが好ましい。10%以上とすることによって、溝の形成による靴底1の剛性低下を抑制し、40%以下とすることによって、十分な排水効果を実現し、防滑性を向上させることができる。
【0064】
同様に、法線N方向に隣接する、後方傾斜溝12a〜12cの法線N方向における相互間隔h4は、長さl
4の10%〜40%とすることによって、靴底1の剛性低下の抑制と、防滑性との両立を図ることができる。
【0065】
また、後足部2は、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cの少なくとも1本と交差する、細溝を1本以上有することが好ましい。図示例では、細溝14a〜14dを有している。細溝14aは、踵の最後端hの近傍から、後方傾斜溝11a〜11cをと交差して延び、周縁1aにて開口している。細溝14bは、後方傾斜溝11cを始点として、後方傾斜溝11b及び11aと交差して、線b2にて終端している。また、細溝14cは、踵の最後端hの近傍から、後方傾斜溝12b及び12cと交差して、後方傾斜溝12aに開口している。さらに、細溝14dは、後方傾斜溝12cを始点として、後方傾斜溝12b及び12aと交差して、線b2にて終端している。上記細溝14a〜14dによれば、後足部2が路面に接地した際に、後方傾斜溝11a〜11c及び後方傾斜溝12a〜12cと、細溝14a〜14dとから形成されるエッジによって路面上の水膜を切ることができ、靴底1と路面との間に存在する水膜でのスリップが防止され、靴底1の剛性低下を抑制しながら、より滑り難い歩行を可能にする。
なお、細溝14a〜14dは、0.3mm〜3mmの溝幅を有する、各後方傾斜溝よりも細い溝を指している。
【0066】
[第3の形態]
次に、
図3は、本発明の第3の実施形態に係る靴底を示している。
図3に示す靴底1では、前足部4は、第1の実施形態と同じ構成であり、後足部2は、第2の実施形態と同じ構成になる。各構成については、
図1及び
図2と同じ符号を付して説明を省略する。従って、第3の実施形態では、上述した前足部4及び後足部2が奏する効果を共に享受することができる。
【0067】
[ゴム組成物]
なお、上記第1の形態〜第3の形態において、靴底1は、1種以上のゴム成分を含むゴム組成物から形成することが好ましい。特に、ゴム組成物として、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びポリイソプレンゴム(IR)の3種のジエン系ゴム成分と、シリカとを含有し、シリカはゴム成分の100質量部に対して50質量部以上含まれることが好ましい。
【0068】
また、靴底1に適用されるゴム組成物には、上記のゴム成分及びシリカの他、加硫促進剤、老化防止剤、ステアリン酸、シランカップリング剤等のゴム業界で通常使用される配合剤を、本発明の目的を害しない範囲で適宜選択し配合することができる。これら配合剤は、市販品を好適に使用することができる。なお、上記ゴム組成物は、上記ゴム成分に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0069】
靴底1は、前足部4、中足部3及び後足部2を、全て同じゴム組成物によって形成しても、異なるゴム組成物から形成してもよい。例えば、前足部4及び中足部3と後足部2とのゴム組成物を異なるゴム組成物とする。
【実施例1】
【0070】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれだけに限定されるものではない。
図3に示すパターンを有する靴底(発明例)と、
図4に示すパターンとを有する靴底(比較例)とについて、防滑性及び耐摩耗性を評価した。
<防滑性>
ISO13287による試験方法に準拠して、上記靴底を適用した靴の防滑性を評価した。同国際規格に準拠した人工足を用い、床面はステンレスとした。乾燥路面と湿潤路面の両方について評価を行い、湿潤路面にはイオン交換水を用いた。なお、鉛直力は500Nである。ここで、表1に示す指数値は、乾燥路面及び湿潤路面の比較例のそれぞれの評価を100としたものであり、数値が大きいほど防滑性に優れることを表す。
<耐摩耗性>
JIS K6264―2 B法によって、ウイリアムス摩耗試験機を用い、耐摩耗性を測定した。表1では、測定結果が250cm
3/kw/h以下のものを○とする。
【0071】
【表1】
【実施例2】
【0072】
次に、上記した発明例の靴底と構成を同じくし、材質のみを表2に示す種々の配合のゴム組成物から作製して変化させた。かくして得られた供試靴底1〜7について、下記で示す方法に従って、ゴム欠けの発生及び耐摩耗性を評価した。
<ゴム欠けの発生>
靴底のゴムを金型から取り外す際に生じた、ゴム欠けの発生を目視により評価した。ゴム欠けが発生していない場合を「無し」とし、発生した場合を「有り」で表記した。なお、ゴム欠けが発生した靴底のゴムについては、製品不良として出荷することができない。
<耐摩耗試験>
各供試靴底1〜7について、JIS K6264−2 B法に準拠して、耐摩耗性を測定した。結果を表2に示す。結果は、供試靴底2の数値を100として指数表示した。指数値が大きい程、耐摩耗性が高いことを示す。
【0073】
【表2】