特許第6986894号(P6986894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986894
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】管体及び既設管の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E03F 3/04 20060101AFI20211213BHJP
   F16L 55/165 20060101ALI20211213BHJP
   F16L 58/06 20060101ALI20211213BHJP
   F16L 1/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   E03F3/04 A
   F16L55/165
   F16L58/06
   F16L1/00 P
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-154384(P2017-154384)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-31862(P2019-31862A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2020年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】若林 正憲
(72)【発明者】
【氏名】金子 研一
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−015119(JP,A)
【文献】 特開2014−142045(JP,A)
【文献】 特開平11−200465(JP,A)
【文献】 特開平09−296501(JP,A)
【文献】 特開2012−219985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 3/04
F16L 55/165
F16L 58/06
F16L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の外管及びその内面に形成されていて内面が切削されたコンクリート製の内側管を備えた既設管と、
前記内側管の内周側に形成され、内面が切削される前の前記内側管の内径以上の内径を有するコンクリート製または鋼製の内管と、
前記内側管及び前記内管の間に形成された固化材層と、を積層したことを特徴とする管体。
【請求項2】
前記固化材層内には、前記内管の位置決めをするための突起部が周方向に所定間隔で設置されている請求項1に記載された管体。
【請求項3】
鋼製の外管の内面にコンクリート製の内側管が積層された既設管の補修方法において、
前記内側管の内面を切除する工程と、
前記内側管の内側に、内面を切除する前の前記内側管の内径以上の内径を有するコンクリート製または鋼製の内管を配設する工程と、
前記内側管及び内管の間の間隙に固化材を充填して固化する工程と、を備えたことを特徴とする既設管の補修方法。
【請求項4】
前記内側管または前記内管に前記間隙に突出する突起部を取り付けることで前記内管の位置決めをするようにした請求項3に記載された既設管の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化した既設の下水道管等の管体を補修(更正)してなる既設管等の管体と、既設管の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設として、例えば地中等に埋設された鋼製の外管の内周面に無筋のコンクリート製の内管を接合させた二層構造の下水道管が使用されていた。このような下水道管では、長期間の使用によって無筋コンクリート製の内管に劣化が生じる。例えば、下水中あるいは汚泥中の硫酸イオンから始まる硫酸塩還元細菌と硫黄酸化細菌等の活動により硫黄循環が生じ、硫化水素から生成する硫酸による気相部での内管の内面においてコンクリートの腐食が発生する。硫酸によるコンクリートの腐食は下水道管の破損の原因となっていた。また、下水道管の破損により、道路の陥没事故や下水の漏水による地下水や土壌汚染が生じる。
図7は既設の下水道管1の一例を示すものである。この下水道管1は、外周側に鋼製の外管2が配設され、その内側に無筋のコンクリート製の内側管3が形成された二層管で形成されている。
【0003】
ところで、下水道管の補修方法として、例えば特許文献1に記載された管更正方法が提案されている。この管更正方法は、立坑等を通して切り欠いた地中の既設管の内部に樹脂製パイプを挿入し、樹脂製パイプの雄型差し込み口と次の樹脂製パイプの雌型受け入れ口を嵌合させて連結する。樹脂製パイプの接合部を外側圧力バッグと内側圧力バッグで挟み込み、内側圧力バッグの内側に剛性リング管を設置して樹脂製パイプの位置決めをする。そして、ヒータに通電して接合部を溶着して押圧することで固めた後に、外側圧力バッグと内側圧力バッグ、剛性リング管を撤去する作業が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−25530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された下水道管の更正方法は、既設管の内側に更正のための樹脂製パイプの挿入が必要であるため、補修前よりも下水道管の内径が小さくなり下水の流量が削減するという不具合があった。しかも、下水の流量の削減を防止するためにはより高速に下水を流さなければならなかった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、既設管の内径寸法に関わらず簡単な機械設備を用いて高強度に補修できるようにした管体及び既設管の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明に係る管体は、鋼製の外管及びその内面に形成されていて内面が切削されたコンクリート製の内側管を備えた既設管と、内側管の内周側に形成されたコンクリート製または鋼製の内管と、内側管及び内管の間に形成された固化材層と、を積層して形成したことを特徴とする。
本発明は、既設管におけるコンクリート製の内側管の内面を切削して大径化した状態で、内管を配設して、コンクリート製管体と内管の間に固化材層を充填形成したため、既設管の内径を小径化することなく補修した管体が得られる。その際、内側管の内面の切削厚みの大きさによって、内管の内径を既設管と同一にしたり大径化または小径化したりすることができる。
【0008】
また、固化材層内には、内管の位置決めをするための突起部が周方向に所定間隔で設置されていることが好ましい。
突起部が固化材層内に周方向に所定間隔で設置されているため、内管の位置決めを行えることができて既設管の内側に内管を精度良く設置できる。
【0009】
本発明に係る既設管の補修方法は、鋼製の外管の内面にコンクリート製の内側管が積層された既設管の補修方法において、内側管の内面を切除する工程と、内側管の内側にコンクリート製または鋼製の内管を配設する工程と、内側管及び内管の間の間隙に固化材を充填して固化する工程と、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、既設管におけるコンクリート製の内側管の内面を切削して大径化した後、その内側に内管を配設する。そして、内側管及び内管の間に固化材を充填形成したため、既設管の内径を適宜調整することで好適な内径を有する既設管の補修を行える。
【0010】
また、内側管または内管に間隙に突出する突起部を取り付けることで内管の位置決めをするようにしてもよい。
突起部が間隙内に周方向に所定間隔で設置されているため、内管の位置決めを行えることができて既設管の内側に精度良く設置できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の管体及び既設管の補修方法によれば、
既設管におけるコンクリート製の内側管の内面を切削して大径化した後、その内側に内管を配設し、内側管と内管との間に固化材を充填形成したため、管体の内径を既設管の内径に対して小径化することなく既設管の補修を行える。また、内側管の内面の切削の程度によって、管体の内径を既設管の内径より大径化したり小径化したり同一径にしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態による下水道管の長手方向に直交する断面図である。
図2図1に示す下水道管の一部を切除した斜視図である。
図3】既設の下水道管において内側管の内面を切削した状態を示す断面図である。
図4】内側管の内側に内管を設置した状態の断面図である。
図5】第二実施形態による下水道管の断面図である。
図6図5に示す下水道管の補修工程を示すA部拡大図であり、(a)は間隙にアンカーを打設した図、(b)は間隙にモルタルを充填した図である。
図7】従来の下水道管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による下水道管の補修方法について図1図6を参照して説明する。なお、上述した従来技術と同一部分には同一の符号を用いて説明する。
図1図4は第一実施形態による補修トンネルとしての下水道管10(以下、単に下水道管10という)を示すものである。図1及び図2において、下水道管10は、外周側に鋼製の外管2が設置され、その内周側にコンクリート製の内側管3が設置されている。これら外管2と内側管3は二層の既設管であり、従来の下水道管1と略同一構成である。しかも、内側管3はその内面3aが図示しない例えばローダヘッド(自由断面掘削機)等で表面が切除された薄層の管体で構成されている。これを以下、既設管1Aという。内側管3の内面3aの切削厚さは適宜設定できる。なお、内側管3は無筋のコンクリートで形成されているものとする。
【0014】
内側管3の内側には所望の内径を有する、例えばコンクリート管からなる内管15が同軸に配設されている。内管15は例えばPCa管(プレキャストコンクリート管)であり、工場内で予め製造された鉄筋コンクリート製の量産品である。或いは、内管15は高圧縮強度コンクリートと高引張強度PC鋼材を有するPC管等でもよい。
【0015】
また、内側管3と内管15の間には充填材として例えばモルタルが充填された固化材層16が配設されている。固化材層16は略円筒状の固化材管を構成する。充填材はモルタルに限定されるものではなく、樹脂材料等の適宜の固化材を採用できる。そのため、補修された下水道管10は外管2と内側管3と固化材層16と内管15とが積層された四重管である。本実施形態による下水道管10の内径は例えば既設管1Aの内径と同一寸法に設定されている。そのためには、固化材層16と内管15の厚み分だけ内側管3を切削する必要がある。そのため、切削前の内側管3は固化材層16と内管15の厚みより大きな厚みを有している。
【0016】
本実施形態による下水道管10は上述した構成を有しており、次に下水道管10の補修(更正)方法について図3及び図4により説明する。
図3は既設のトンネルである下水道管1からなる既設管1Aを示すものである。既設管1Aは図示しない機材に位置決め保持されている。第一工程では、既設管1Aは、無筋のコンクリートからなる内側管3の内面3aを例えばローダヘッド(自由断面掘削機)等で所定の厚み分だけ切削して除去する。切削除去されたコンクリートは無筋であるため細かく細断されており、再利用可能である。内側管3は内面3aが固化材層16と内管15の厚み分だけ除去されている。
例えば、内面3aを切削する前の内側管3の厚さは200〜250mm程度であり、ローダヘッド等によって内面3aを厚さ100〜150mmに亘って均等に切削し除去する。
【0017】
第二工程では、図4に示すように、既設管1Aの内側に、例えば鉄筋コンクリート製の内管15を図示しない簡易エレクタ等の機器によって搬送して配設する。その際、内管15が既設管1Aと同心状に位置するように図示しない仮設部材等で位置決めするとよい。内管15の内面15aは既設の下水道管1と同一内径を有している。内管15の外径は内側管3の内面3aより小径に形成されており、内側管3の内面3aと内管15の間に間隙18が形成されている。この間隙18は全周に亘って略同一厚さであることが好ましい。
なお、コンクリート製の内管15は円筒状の一体ものを用いてもよいが、重量が大きいため、適宜数に分割したものを現場で組み付けるものとする。例えば周方向に120度の長さの断面円弧状の部品を3体接合して、継目にシール材12やコーキング材等を充填して連結する(図4参照)。なお、継目の接続は、溶接等でもよいし、ボルト止め等でもよく、適宜の公知の連結構造を採用できる。
【0018】
次に第三工程として、内側管3と内管15の間に形成された間隙18に充填材(注入剤)としてモルタルを全周に亘って注入して固化させる。モルタルの固化によって固化材層16が形成され、内側管3と内管15がモルタルによって一体化する。こうして、図1及び図2に示す補修された下水道管10が得られる。
得られた下水道管10は内径が従来の下水道管1と同一であるから、下水などの流体の流量が低減されることがなく、流速も同一に設定できる。しかも、既設管1Aの内側管3の内面3aの切削や内管15の設置、間隙18へのモルタルの充填や固化等の全ての作業を下水道管10のトンネル内で行うことができる。
【0019】
上述したように本第一実施形態による下水道管10の補修方法及び補修した下水道管10によれば、既設の下水道管1の腐食等した内面3aを切削除去してモルタル等の固化材層16を介して内管15を一体に構築できるため、ローダヘッドやエレクタ等の簡単な機械設備を用いて高強度に補修できる。そのため、一次覆工である鋼製の外管2が作業中に潰れることがない。
また、補修した下水道管10は内径寸法を補修前の内径寸法と同一に維持することができるため、下水道管10を流れる下水の流量を補修前と同程度に維持できる。
【0020】
しかも、下水道管1全体を壊して再構築する工法と比較してコンクリート廃棄物の量が少なくて済み、しかも内側管3は無筋コンクリートであるから鉄を混入した廃棄物は発生しない。切削除去されたコンクリートは無筋であるため細断されており、再利用が可能である。また、トンネルである下水道全体を壊す工法と比較して投入する機械設備を小型化できる。しかも、補修作業はトンネルである下水道管10内での作業であるため安全性が高い上に、作業の補修処理と補修費用が低廉ですむ。
【0021】
以上、本発明の実施形態による下水道管10及び下水道管10の補修方法について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能である。これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の変形例等について説明するが、上述の実施形態と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0022】
上述した実施形態では、下水道管10の内管15を補修前の下水道管1と同一の内径に設定したが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、内管15の内面15aの内径を下水道管1の内径より小さく設定してもよい。この場合には、コンクリート製の内側管3の切削厚みを比較的小さく設定すればよい。また、内管15の内面15aの内径を下水道管1の内径より大きく設定するには、内側管3の切削厚みを比較的大きく設定すればよい。
【0023】
次に、本発明の第二実施形態による下水道管20とその補修方法について図5及び図6により説明する。
図5及び図6(a)に示す第一工程において、既設管1Aの無筋のコンクリートからなる内側管3の内面3aを例えばローダヘッド(自由断面掘削機)等で所定の厚み分だけ切削して除去する。そして、内側管3の内面3aに周方向とトンネルの軸方向に所定間隔で穴を掘削形成し、アンカーボルト21を打ち込む。これによって、内側管3の内面3aに所定間隔でアンカーボルト21の頭部21aが突起部として突出している。この頭部21aの高さを間隙18の幅と同程度に設定することが好ましい。
【0024】
次に、例えばPCa管からなる内管15をアンカーボルト21の頭部21aに着座するように設置する。これにより内管15は内側管3の内面3aから全周に亘って等距離の位置に設置され、内管15は外管2及び内側管3と同軸に設置されることになる。その後、第二工程として、内側管3の内面3aと内管15の間隙18内にモルタル等の充填材を充填して固化させる。これによって、アンカーボルト21の頭部21aを一体化させた固化材層16が形成され、内側管3と内管15が連結される。
【0025】
上述のように本第二実施形態による下水道管20とその補修方法によれば、内側管3の内面3aにアンカーボルト21を打ち込んで内管15を同軸に設置することで、より高精度に内管15を固定できるため、下水道管20の強度と補修精度が向上する。
【0026】
なお、アンカーボルト21の頭部21aを突起部としたが、アンカーボルト21に代えてボスを内側管3または内管15の外周面に突出させて取り付けて突起部としてもよい。
また、上述した各実施形態では、下水道管10、20等のトンネルについて説明したが、本発明は下水道管に限定されるものではなく、上水道管や工業用水、農業用水等の管きょを含む流体の配管や道路トンネル等の各所の管体と、既設管の補修方法に本発明を適用できる。本発明は、補修した下水道管10に限定されるものではなく、上述した管きょを含む新設の管体にも適用できる。その際、内側管3は無筋コンクリートに限定されることなく、鉄筋入りのコンクリート等でもよい。
【符号の説明】
【0027】
1、10、20 下水道管
1A 既設管
2 外管
3 内側管
15 内管
16 固化材層
18 間隙
21 アンカーボルト
21a 頭部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7