(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986897
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】緊張材の中間定着具
(51)【国際特許分類】
E04C 5/12 20060101AFI20211213BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20211213BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
E04C5/12
E04G21/12 104C
E04G23/02 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-159280(P2017-159280)
(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公開番号】特開2019-39141(P2019-39141A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 裕生
(72)【発明者】
【氏名】藤原 保久
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直文
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】有川 直貴
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−184894(JP,A)
【文献】
特開2012−202115(JP,A)
【文献】
実開昭57−019251(JP,U)
【文献】
特開平07−189427(JP,A)
【文献】
実開昭57−084220(JP,U)
【文献】
特開平03−125746(JP,A)
【文献】
米国特許第09315998(US,B1)
【文献】
特開平03−156061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00−5/20
E04G 21/12
E04G 23/02
E01D 1/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すでに緊張力が導入されている緊張材の中間部分に装着され、緊張力が導入された状態を維持したまま構造物に定着する緊張材の中間定着具であって、
分離可能で対となる半割ブロックが互いに接合され、双方の半割ブロック間に前記緊張材が挿通される中空孔が形成された定着ブロックと、
これらの半割ブロックを互いに結合する結合手段と、を有し、
前記中空孔内に挿通された緊張材と前記中空孔の内周面との間に充填され、硬化した無収縮モルタルによって前記定着ブロックと前記緊張材とが結合され、
前記中空孔は全長にわたって、又は前記中空孔の一部は、前記緊張材が引っ張られる方向に向かって徐々に断面が縮小されており、
前記定着ブロックに形成された前記中空孔の内周面には、ゴム又は合成樹脂の薄層が形成されていることを特徴とする緊張材の中間定着具。
【請求項2】
前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、
前記半割ブロックの少なくとも一方は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、
前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと結合されており、
一方の前記半割ブロックの複数に分割された小ブロックのうち、少なくとも二つが他方の半割ブロックの複数に分割された小ブロックの一つ、又は分割されていない単一の半割ブロックと結合されていることを特徴とする請求項1に記載の緊張材の中間定着具。
【請求項3】
前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、
前記半割ブロックの少なくとも一方は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、
前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと結合されており、
分割された前記小ブロックのそれぞれには、緊張材の軸線方向に小孔が設けられ、
前記小孔に挿通された長ボルトによって複数の前記小ブロックが締め付けられていることを特徴とする請求項1に記載の緊張材の中間定着具。
【請求項4】
前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、
前記半割ブロックの少なくとも一方は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、
前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと結合されており、
分割された前記小ブロックのそれぞれには、該小ブロック間の接合面にピン穴が設けられ、
該ピン穴には、接合される双方の小ブロックにわたって位置決めピンが挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の緊張材の中間定着具。
【請求項5】
前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、
前記半割ブロックの双方が、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、
前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと結合されており、
前記半割ブロックの一方と前記半割ブロックの他方とは、前記緊張材の軸線方向における同じ位置で複数の小ブロックに分割され、それぞれの半割ブロックが有する小ブロックが互いに結合されて小ブロック対を形成しており、
各小ブロック対に形成されている前記中空孔は、前記緊張材の軸線方向に連続して設けられ、
前記緊張材が引っ張られる方向の上流側にある小ブロック対が形成する中空孔の断面の縮小率が、下流側にある小ブロック対が形成する中空孔の断面の縮小率より大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の緊張材の中間定着具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すでに緊張力が導入され、両端部が構造物に定着されている緊張材の中間部分に取り付け、該緊張材に緊張力が導入された状態を維持したまま周囲にある構造物に定着する緊張材の中間定着具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物には埋設された緊張材の緊張力によってプレストレスが導入されているものがある。このようなコンクリート構造物は、補修、補強又は改修等のために一部の撤去が必要となる場合がある。例えば、橋桁の幅方向の一部を撤去し、残った部分で交通を維持しながら一部を新しい橋桁に架け替えることがある。また、橋桁の軸線方向の一部、例えば桁端部が劣化して補修が必要となったときに桁端部を一旦除去し、新たにコンクリートを打設して補修することがある。この他、建築物の一部を解体することもある。このようなときに、コンクリート構造物の撤去する部分と残す部分とにわたって連続する緊張材が配置され、プレストレスが導入されていると、緊張材の中間部分を露出させ、中間定着具を取り付けて残す部分のコンクリートに定着することが行われる。そして、コンクリート構造物の残す部分には緊張力が導入された状態の緊張材を維持し、撤去する部分の緊張材を切断するとともにコンクリート構造物を撤去することが行われている。
【0003】
このように緊張力が導入された状態の緊張材を中間部分で定着する中間定着具として、例えば特許文献1又は特許文献2に開示されるものがある。
特許文献1に記載の中間定着具は、緊張材が露出された部分に2つの半筒状部材を互いに結合して装着し、これらの間に膨張性グラウトを充填・硬化させて緊張材に固着させるものとなっている。そして、2つの半筒状部材からなる定着具をコンクリート構造物の残す部分と一体となった支圧層に当接させて緊張材を定着する。
特許文献2に記載の中間定着具は、2つの半割り鋼スリーブを併せてなる鋼管スリーブを露出したPC鋼材に装着し、これらの半割り鋼スリーブの周囲に複数の板状C型部材を嵌め合わせて2つの半割り鋼スリーブを互いに固定する。そして、鋼管スリーブ内に膨張材を流し込んで膨張圧により鋼管スリーブとPC鋼材とを一体化するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−101344号公報
【特許文献2】特開2007−277826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記先行技術では、次のような解決が望まれる課題がある。
上記先行技術は、筒状となった部材と緊張材との間に充填材が充填され、この充填材が硬化する時の膨張圧を利用して筒状となった部材と緊張材を一体化するものである。このため、充填材が硬化したときに適正な膨張圧が生じていなければならず、充填材の硬化時における厳重な温度管理が必要となって施工性が良好ではない。
また、充填材を介して緊張材を保持する筒状の部材は、充填材の膨張圧に耐え得るとともに緊張材の緊張力を構造物等に伝達することができる強固なものが必要となり、鋼部材とすると重量が大きくなる。このため緊張力が導入されている緊張材の周囲に設置するときの作業性が悪くなっている。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、緊張材に装着するときの施工性が良好な中間定着具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、
すでに緊張力が導入されている緊張材の中間部分に装着され、緊張力が導入された状態を維持したまま構造物に定着する緊張材の中間定着具であって、 分離可能で対となる半割ブロックが互いに接合され、双方の半割ブロック間に前記緊張材が挿通される中空孔が形成された定着ブロックと、 これらの半割ブロックを互いに結合する結合手段と、を有し、 前記中空孔内に挿通された緊張材と前記中空孔の内周面との間に充填され、硬化した
無収縮モルタルによって前記定着ブロックと前記緊張材とが
結合され、 前記中空孔は全長にわたって、又は前記中空孔の一部は、前記緊張材が引っ張られる方向に向かって徐々に断面が
縮小されており、 前記定着ブロックに形成された前記中空孔の内周面には、ゴム又は合成樹脂の薄層が形成されている緊張材の中間定着具を提供する。
【0008】
この緊張材の中間定着具では、定着ブロックから緊張材を引き抜こうとする引張力が作用したときに、緊張材とともに硬化した
無収縮モルタルが引っ張られる。これにより、硬化した
無収縮モルタルの外周面は徐々に断面積が縮小された中空孔の周面に押し付けられ、周面から法線方向の圧縮力が作用する。したがって、緊張材から定着ブロックに力が伝達される前に緊張材と
無収縮モルタルとの間に大きな圧縮力が作用していなくても、緊張力が硬化した
無収縮モルタルを介して定着ブロックに伝達されるとともに圧縮力が作用し、緊張材が硬化した
無収縮モルタルから抜け出さないように強固に保持される。つまり、充填材として膨張性材料を用いて硬化した充填材と緊張材との間に予め圧縮力を作用させておかなくてもよく、定着ブロックの中空孔と緊張材との間に充填する充填材の管理が容易となる。
【0009】
また、この緊張材の中間定着具では、定着ブロックに形成された中空孔の内周面と硬化した充填材との間にゴム又は合成樹脂の薄層が介挿されるので、この中間定着具で緊張材を定着しようとしたときに、まず定着ブロックと硬化した
無収縮モルタルとの間で微小な相対的変位が生じる。これにともない硬化した
無収縮モルタルに中空孔の内周面からの圧縮力が作用する。したがって、硬化した
無収縮モルタルと緊張材の周面との間に確実に圧縮力が作用し、緊張材が硬化した
無収縮モルタルを介して定着ブロックによって強固に保持される。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の緊張材の中間定着具において、 前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、 前記半割ブロックの少なくとも一方は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、 前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと結合されており、
一方の前記半割ブロックの複数に分割された小ブロックのうち、少なくとも二つが他方の半割ブロックの複数に分割された小ブロックの一つ、又は分割されていない単一の半割ブロックと結合されているものとする。
【0011】
この緊張材の中間定着具では、半割ブロックが複数の小ブロックに分割されていることにより、重量が小さい小ブロックごとに緊張材の周囲に配置して定着ブロックを所定の位置に装着することができる。したがって、定着ブロックを緊張材の周囲に配置する作業の効率が向上する。
また、この緊張材の中間定着具では、対となる半割ブロックを互いに結合するための結 合手段であるボルトによって、分割された小ブロックを一体に結合することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の緊張材の中間定着具において、 前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、 前記半割ブロックの少なくとも一方は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、 前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと
結合されており、 分割された前記小ブロックのそれぞれには、緊張材の軸線方向に小孔が設けられ、 前記小孔に挿通された長ボルトによって複数の前記小ブロックが締め付けられているものとする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の緊張材の中間定着具において、 前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、 前記半割ブロックの少なくとも一方は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、 前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと
結合されており、 分割された前記小ブロックのそれぞれには、該小ブロック間の接合面にピン穴が設けられ、 該ピン穴には、接合される双方の小ブロックにわたって位置決めピンが挿入されているこものとする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の緊張材の中間定着具において、 前記結合手段は、前記緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトを有するものであり、 前記半割ブロックの双方が、前記緊張材の軸線方向に配列された複数の小ブロックに分割されており、 前記緊張材の両側に配置された少なくとも一対の前記ボルトによってそれぞれの前記小ブロックが対向する他方の半割ブロックと結合されており、 前記半割ブロックの一方と前記半割ブロックの他方とは、前記緊張材の軸線方向における同じ位置で複数の小ブロックに分割され、それぞれの半割ブロックが有する小ブロックが互いに結合されて小ブロック対を形成しており、
各小ブロック対に形成されている前記中空孔は、前記緊張材の軸線方向に連続して設けられ、 前記緊張材が引っ張られる方向の上流側にある小ブロック対が形成する中空孔の断面の縮小率が、下流側にある小ブロック対が形成する中空孔の断面の縮小率より大きくなっているものとする。
【0015】
緊張材が軸線方向における所定の長さの範囲で定着ブロックに保持されると、緊張力が作用したときに緊張材が引っ張られる方向の下流側で、緊張材と硬化した充填材との間に大きなずれようとする力が作用する。そして上流側では徐々に小さくなる。
本請求項に係る緊張材の中間定着具では、緊張材が引っ張られる方向の上流側にある小ブロック対の中空孔の断面縮小率が下流側の小ブロック対より大きくなっているので、小ブロック対が硬化した
無収縮モルタルを保持する力が下流側より作用しやすくなる。したがって、緊張材と硬化した
無収縮モルタルとの間でずれようとする力が、断面縮小率が均等である場合に比べて緊張材の軸線方向に均等に近い状態で作用する。これにより、硬化した
無収縮モルタルが緊張材を保持する耐力が増大する。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の緊張材の中間定着具では、定着ブロックと緊張材とを一体に結合する充填材の硬化時の管理が容易となり作業性が向上する。また、定着ブロックを構成する半割ブロックをさらに複数の小ブロックに分割することにより、定着ブロックを構成する個々の部材の重量を軽減し、緊張力が導入されている緊張材の周囲に設置する作業の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態である緊張材の中間定着具を示す側面図、正面図及び平面図である。
【
図2】
図1に示す緊張材の中間定着具の断面図である。
【
図3】
図1に示す緊張材の中間定着具を使用して一部を解体した橋桁の概略断面図である。
【
図4】
図1に示す緊張材の中間定着具の使用方法を示す概略断面図である。
【
図5】
図1に示す緊張材の中間定着具の使用方法を示す概略断面図である。
【
図6】
図1に示す緊張材の中間定着具を残存する構造物に定着する他の態様を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態である緊張材の中間定着具を示す平面図及び断面図である。
【
図8】
図7に示す緊張材の中間定着具における小ブロックを接合して半割ブロックとする手段を示す正面図及び平断面図である。
【
図9】
図7に示す中間定着具において定着ブロックの中空孔内面に溝を設けた状態を示す正面図ある。
【
図10】本発明の他の実施形態である緊張材の中間定着具を示す断面図である。
【
図11】本発明の他の実施形態である緊張材の中間定着具を示す側面図である。
【
図12】本発明に係る緊張材の中間定着具の他の使用例を示す概略工程図である。
【
図13】本発明に係る緊張材の中間定着具の他の使用例を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る緊張材の中間定着具を示す側面図、正面図及び平面図であり、
図2は、
図1中に示すA−A線及びB−B線における断面図である。
この緊張材の中間定着具1は、緊張力が導入されている緊張材9の中間部分に装着されたものであり、二つの半割ブロック3,4からなる定着ブロック2と、二つの半割ブロック3,4を互いに結合して一体とする結合手段である複数のボルト5とを備えるものである。二つの半割ブロック3,4はいずれも鋼からなるものであり、外形がほぼ直方体となっている。そして、これらを重ね合わせたときに、これらの半割ブロック3,4の間に断面形状がほぼ円形となる中空孔6が形成されるものとなっている。
【0019】
二つの半割ブロック3,4にはそれぞれ複数のボルト孔7,8が設けられており、これらは二つの半割ブロック3,4の間に形成された中空孔6の両側に配列されている。そして、第1の半割ブロック3に設けられたボルト孔7は、結合手段であるボルト5を挿通して該ボルト4の頭部を孔内で係止することができるように内径が変化するものとなっている。また、第2の半割ブロック4には、上記ボルト5をねじ込むことができるボルト孔8、つまり内周面に雌ネジが切削されたボルト孔8が形成されている。したがって、第1の半割ブロック3側からボルト孔7に挿入したボルト5の先端部を第2の半割ブロック4に形成されたボルト孔8にねじ込み、締め付けることによって第1の半割ブロック3と第2の半割ブロック4とを一体に結合することができるものとなっている。
【0020】
上記中空孔6は、互いに結合される半割ブロック3,4の対向する面にそれぞれ断面が半円状となる溝を形成したものであり、二つの半割ブロック3,4を緊張力が導入された状態の緊張材9の両側から対向させ、緊張材9が溝内にある状態で結合することにより、中空孔6内に緊張材9が挿通された状態とすることができるものである。中空孔6の内径は、緊張材9の軸線方向に徐々に変化するものとなっており、該中間定着具1によって緊張材9を定着したときに緊張材9が引っ張られる方向(
図1中に矢印Dで示す方向)に内径が徐々に縮小されるものとなっている。
【0021】
上記中空孔6の内周面には、合成樹脂からなる被膜(図示しない)が形成されている。この被膜は、例えば液状にした合成樹脂を塗布し、硬化させることによって形成することができる。また、シート状となった合成樹脂を張り付けるものであってもよい。
上記被膜は合成樹脂に代えて合成ゴム又は天然ゴム等によって形成されるものであってもよい。
【0022】
上記中空孔6の内側には、緊張材9が挿通された状態で該緊張材9と中空孔6の内周面との間に充填材10が充填される。充填材10は充填後に硬化するものであり、無収縮モルタルを用いる。また、コンクリート部材内に埋め込まれて緊張材が挿通されたシース内に充填されるグラウト材や膨張性のグラウト材等を用いることもできるが、大きな膨張圧を期待するものではなく、厳重な温度管理等を行う必要はない。
【0023】
充填材10の充填は、第1の半割ブロック3に設けられた注入口11から注入することができる。注入口11は緊張材9が引っ張られる方向Dの下流側、つまり中空孔6の内径が小さくなっている側の端部付近に設けられている。この注入口11から直接に、又はホースを接続して自然流下又は加圧によって注入することができる。
第1の半割ブロック3の、緊張材9が引っ張られる方向Dの上流側の端部付近には、排出口12が設けられており、注入口11から充填材10を注入するときに、中空孔6内の空気を排出して充填材10が円滑に注入されるものとなっている。
【0024】
このような緊張材の中間定着具1では、定着ブロック2が二つの半割ブロック3,4からなり、これらが結合手段であるボルト5によって結合されるものとなっているので、緊張力が導入されている状態の緊張材9の中間部分に容易に装着することができる。つまり、緊張材9の両側から二つの半割ブロック3,4を互いに当接し、結合することによって形成される中空孔6に緊張材9が挿通された状態とし、この中空孔6内に充填材10を充填して緊張材9と一体に結合することができる。緊張材9に結合された定着ブロック2は構造物に固定することによって緊張材9の緊張力を、定着ブロック2を介して構造物に伝達することが可能となる。
【0025】
そして、定着ブロック2が結合された位置より後方側、つまり緊張材9が中間定着具1に対して引っ張られる方向Dの上流側で緊張材9の緊張力を解放すると、下流側に導入されている緊張力が中間定着具1を介して構造物に伝達される。
このとき、中空孔6内の硬化した充填材10は緊張材9に付着しており、緊張力によって緊張材9とともに定着ブロック2に対して引っ張られる。このとき、中空孔6の内周面と硬化した充填材10との間に介挿されている合成樹脂の被膜は弾性係数が小さいことによって変形し、緊張材9と硬化した充填材10とが定着ブロック2に対して微小に変位する。これにともない、内径が引っ張られる方向Dに向かって縮小されている中空孔6の内周面から硬化した充填材10に対して、中空孔6の中心方向に圧縮力が作用する。そして、緊張力が大きく作用して充填材10を介して定着ブロック2に伝達されるのにともない、さらに強い圧縮力が中空孔6の内周面から硬化した充填材10に作用し、充填材10と緊張材9との間に強い圧縮力が作用する。したがって、緊張材9から定着ブロック2に対して力が伝達される初期においては緊張材9と硬化した充填材10との間に生じずれようとする力は小さく、被膜の変形が生じて圧縮力が強く作用する状態で硬化した充填材10と緊張材9との間のずれようとする力が増大する。これにより、圧縮力の作用下で緊張材9は硬化した充填材10によって強固に把持され、緊張材9が中間定着具1から抜け出すことなく、緊張材9を構造物等に定着することができる。
【0026】
次に上記緊張材の中間定着具1を用いて、緊張力が導入されている緊張材の一部の緊張力を解放する例について説明する。
図3は、本発明に係る緊張材の中間定着具1を用いてプレストレストコンクリートからなる橋桁の一部を撤去する例を示す概略断面図である。
この橋桁20は複数の主桁21を有するものであり、これらの主桁21に支持される床版22には幅方向に横締め緊張材23が配置されている。この橋桁20を老朽化等の理由によって架け替えるものであり、幅方向の約半分を残存させて車両等の交通を維持するとともに、約半分を撤去して新たな橋桁に架け替える。そして、新たな橋桁が完成すると、交通を新たな橋桁上に切り代え、最初に残存させた部分を撤去してこの部分も新たな橋桁に架け替えるものである。橋桁20の幅方向の約半分を撤去するためには残存させる部分20aで横締め緊張材23の緊張力を維持し、撤去する部分20bではコンクリートを破砕するとともに横締め緊張材23の緊張力を解放して切断することになる。
【0027】
橋桁の一部撤去は次のような工程で行うことができる。
最初に、橋桁20の幅方向におけるほぼ中央部でコンクリートを斫り、緊張材23を露出させる。そして、
図3(a)及び
図4に示すように、この部分に本発明に係る緊張材の中間定着具1を装着する。二つの半割ブロック3,4は緊張力が導入されている緊張材23の両側から中空孔となる位置に緊張材23が挿通されるように配置し、互いに結合して支持する。
二つの半割ブロック3,4を結合して形成された中空孔6は、
図4(b)に示すように両端に板材24等を接着し、緊張材23が通過する状態で閉鎖する。そして、中空孔6内に注入口11から充填材を注入する。
【0028】
充填材が硬化した後、
図5(a)に示すように中間定着具1を埋め込むようにコンクリート25を打ち戻して残存させる部分20aのコンクリートと一体とする。打設したコンクリート25が硬化した後、
図3(b)及び
図5(b)に示すように、中間定着具1がコンクリートに埋め込まれた状態を維持したまま、撤去する部分20bの橋桁を破砕し、緊張材23は切断する。これにより緊張材23に導入されている緊張力は中間定着具1を介して残存させる部分20aのコンクリートに定着され、残存させる部分では幅方向のプレストレスが導入された状態が維持される。
なお、装着された中間定着具1を埋め込むように打設するコンクリート25に代えて、
図6に示すように残存させる部分20aと一体となり、定着ブロック2と密接するようにコンクリート26を打設してもよい。また、このように打設するコンクリート26と定着ブロック2との間には鋼プレート27等を介挿することもできる。
【0029】
図7は、本発明の他の実施形態である緊張材の中間定着具を示す平面図及び断面図である。
この緊張材の中間定着具31は、
図1及び
図2に示す中間定着具1と同様に、二つの半割ブロック33,34からなる定着ブロック32と、二つの半割ブロック33,34を互いに結合して一体とする複数のボルト35とを備えるものである。そして、この中間定着具31では二つの半割ブロック33,34が、それぞれ複数に分割されている。つまり、分割された複数の小ブロックが緊張材36の軸線方向に配列され、これらが結合されてそれぞれの半割ブロック33,34を形成している。それぞれの小ブロックは、第1の半割ブロック33と第2の半割ブロック34とで分割位置が同一となっており、同数の小ブロックがそれぞれ対となっている。
【0030】
結合手段であるボルト35は、双方の半割ブロック33,34を構成する小ブロックであって対となるもののそれぞれについて、緊張材36が挿通される位置の両側に少なくとも一本ずつが配置され、対となる小ブロック(33a,34a),(33b,34b),(33c,34c),(33d,34d)を互いに結合するものとなっている。
第1の半割ブロック33に設けられてボルト35が挿通されるボルト孔37及び第2の半割ブロック34に設けられてボルト35の先端部がねじ込まれるボルト孔38は、
図1に示す中間定着具1と同様に設けられている。
【0031】
対となる小ブロック(33a,34a),(33b,34b),(33c,34c),(33d,34d)を結合するときの対向面には、それぞれ溝が形成されており、これらを互いに結合したときに、これらの対となる小ブロック(33a,34a),(33b,34b),(33c,34c),(33d,34d)の間に断面形状がほぼ円形となる中空孔39が形成されるものとなっている。そして、これらの小ブロック対を緊張力が導入されている緊張材36の両側から対向させ、結合するとともに複数の小ブロック対を緊張材36の軸線方向に連結することによって各小ブロック対に形成された中空孔39が連続し、2つの半割ブロック33,34間に形成された中空孔内に緊張材36が挿通された状態となるものである。
【0032】
小ブロック間に形成される中空孔39の径は、緊張材36が引っ張られる方向の上流側から下流側に向かって徐々に縮小されるものとなっている。そして、内周面は緊張材36の軸線方向に配列される小ブロック対の間では連続しておらず、上流側の第1の小ブロック対(33a,34a)の下流側端と下流側の第2の小ブロック対(33b,34b)の上流側端との間で段差が生じており、上流側の小ブロック対(33a,34a)の下流側端における中空孔39の内径が下流側の小ブロック対(33b,34b)の上流側端の内径より小さくなっている。また、第2の小ブロック対(33b,34b)と第3の小ブロック対(33c,34c)との間、第3の小ブロック対(33c,34c)と第4の小ブロック対(33d,34d)との間でも同様に中空孔39の内周面に段差が生じている。
【0033】
それぞれの小ブロック対(33a,34a),(33b,34b),(33c,34c),(33d,34d)に設けられた中空孔39の内径が縮小される縮小率は同一ではなく、緊張材36が引っ張れる方向の最も上流側の第1の小ブロック対(33a,34a)で大きく、下流側の小ブック対になるほど縮小率が小さくなって、最も下流側の第4の小ブロック対(33d,34d)で最も小さくなっている。
これらの小ブロック対のそれぞれに設けられた中空孔39の内周面には、
図1に示す中間定着具1と同様に合成樹脂又はゴムの薄層が形成され、中空孔39内には充填材の注入孔(図示しない)から充填材40が充填される。そして、充填材が硬化することによって二つの半割ブロック33,34からなる定着ブロック32と緊張材36とが一体に結合されるものである。
【0034】
分割された小ブロック33a−d,34a−dのそれぞれには、
図8に示すように緊張材の軸線方向に小孔41a,41bを設けておき、この小孔41a,41bに長ボルト42を挿通してナット43で締め付けることにより小ブロック33a−d,34a−dを連結してそれぞれの半割ブロック33,34とすることができる。また、小孔41a,41bとは別に、半割ブロックを構成するように接合される小ブロックの双方の接合面にピン穴44a,44b設けておき、位置決めピン45を挿入して双方の接合位置を正確に設定できるものとするのが望ましい。
【0035】
このように半割ブロック33,34のそれぞれが複数の小ブロックに分割されている中間定着具31では、小ブロック対ごとに緊張材36の両側から対向させて結合することができ、小ブロックは分割によって重量が小さくなっているので緊張材36が中空孔39に挿通されるように結合する作業を効率よく行うことが可能となる。
【0036】
図7に示すように、半割ブロックが複数の小ブロックに分割され、小ブロック対間で中空孔の内周面に段差が生じている中間定着具では、
図9に示すように、中間定着具31を緊張材36の周囲に設置したときに中空孔39の内周面の最上位となる位置に、この例では第1の半割ブロック33の中央部に緊張材36の軸線方向の溝46を形成しておくのが望ましい。この溝46は底面が緊張材の軸線方向に連続するものであり、中空孔39の内周面が急変する部分でも充填材40が充填されない部分が生じるのを回避することができる。また、
図10に示すように小ブロック対の接合面付近であって接合面の上流側にある小ブロック対(33a,34a),(33b,34b),(33c,34c)の下流端付近Eに中空孔39の内径が下流側に向かって拡大する部分を設け、内周面の段差を解消することができる。これにより小ブロック対の接合部における充填材の充填をより円滑に行うことができる。
【0037】
半割ブロックを複数の小ブロックに分割するときに、
図11に示すように二つの半割ブロック間で分割位置を異なる位置とすることもできる。この中間定着具51では、第1の半割ブロック53を3分割とし、第2の半割ブロック54を2分割としている。第1の半割ブロック53は、4対のボルト対のうちの第1のボルト対55aと第2のボルト対55bとの間及び第3のボルト対55cと第4のボルト対55dとの間で分割し、第2の半割ブロック54は、第2のボルト対55bと第3のボルト対55cとの間で分割している。したがって、この中間定着具51を緊張材52の周囲に設置するときには、まず第1の半割ブロック53の第1の小ブロック53aと第2の半割ブロック54の第1の小ブロック54aとを第1のボルト対55aによって結合し、次に第2の半割ブロック54の第1の小ブロック54aと第1の半割ブロック53の第2の小ブロック53bとを第2のボルト対55bによって結合することができる。さらに、第1の半割ブロック53の第2の小ブロック53bと第2の半割ブロック54の第2の小ブロック54bとを第3のボルト対55cによって結合し、第2の半割ブロック54の第2の小ブロック54bと第1の半割ブロック53の第3の小ブロック53cとを第4のボルト対55dによって結合することによって、複数の小ブロックを結合するとともに2つの半割ブロック53,54を結合して緊張材52の周囲に設置することが可能となる。
【0038】
なお、
図11に示す例では第1の半割ブロック53と第2の半割ブロック54との双方を複数の小ブロックに分割しているが、第1の半割ブロック又は第2の半割ブロックのいずれか一方を複数に分割し、他方を分割することなく使用するものであってもよい。このときには分割された半割ブロックの各々の小ブロックを分割されていない他方の半割ブロックに順次に結合することができる。
【0039】
以上に説明した緊張材の中間定着具は、本発明の一実施形態であって、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲内で形状、寸法、ボルトの数、材料等を変更し、他の形態で実施することができる。また、本発明の中間定着具の使用は、
図3に示すような橋桁の横締め緊張材に限定されるものではなく、
図12及び
図13に示すように橋桁の軸線方向に配置された緊張材について使用することもできる。
【0040】
図12及び
図13に示す使用例は、プレストレストコンクリートからなる橋桁61の端部が経年劣化して補修が必要になったときに、桁端部に限定して緊張材62の緊張力を解放し、桁端部を破砕して新たなコンクリートを打設するのに中間定着具71が用いられたものである。
このような使用例では、
図12に示すように橋桁61の残存させる部分61aで緊張材の周囲のコンクリート63を斫り、緊張材62を露出させる。そして、本発明の中間定着具71を緊張材62に装着し、この中間定着具71を埋め込むようにコンクリートを打設して橋桁の残存させる部分61aと一体とする。
打設したコンクリートが硬化した後、
図13(a)に示すように仮支柱64によって橋桁61を仮支持し、橋桁の端部61bのコンクリートを破砕して除去するとともに中間定着具71より端部側で緊張材62の緊張力が開放された部分を切断する。切断した緊張材62には、
図13(b)に示すように新たな緊張材65を接続して、桁端部の新たなコンクリート66を打設する。そして、硬化後に接続した緊張材64に緊張力を導入して橋桁端部の補修を完了する。
【符号の説明】
【0041】
1:緊張材の中間定着具, 2:定着ブロック, 3:第1の半割ブロック, 4:第2の半割ブロック, 5:ボルト, 6:中空孔, 7:第1の半割ブロックに設けられたボルト孔, 8:第2の半割ブロックに設けられたボルト孔, 9:緊張材, 10:充填材, 11:注入口, 12:排出口,
20:橋桁, 20a:橋桁の残存させる部分, 20b:橋桁の撤去する部分, 21
:主桁, 22:床版, 23:緊張材, 24:中空孔を閉鎖する板材, 25:中間定着具を埋め込むコンクリート, 26:定着ブロックと密接するコンクリート, 27
:鋼プレート,
31:中間定着具, 32:定着ブロック, 33:第1の半割ブロック, 34:第2の半割ブロック, 35:ボルト, 36:緊張材, 37:第1の半割ブロックに設けられたボルト孔, 38:第2の半割ブロックに設けられたボルト孔, 39:中空孔,
40:充填材, 41:小孔, 42:長ボルト, 43:ナット, 44:ピン孔,
45:位置決めピン, 46:溝,
51:中間定着具, 52:緊張材, 53:第1の半割ブロック, 54:第2の半割ブロック, 55:ボルト対,
61:橋桁, 62:緊張材, 63:定着具を露出させるために斫るコンクリート,
64:仮支柱, 65:新たに接続した緊張材, 66:桁端部に打設したコンクリート, 71:中間定着具