(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2のような電動式直動アクチュエータにおいて、例えば、電動ブレーキ装置のような高速・高精度の応答が求められる用途に用いる場合、車両の限られた搭載スペース内で所望の出力を得ることが困難となる場合がある。
特に、前述の電動ブレーキ装置の場合、周辺のホイールおよび懸架装置等に干渉しないよう構成したうえで、所望のアクチュエータ推力(即ちトルク)および出力を得る必要がある。このとき、一般に一定値として定められる最大モータ電流において高出力を発揮しようとする場合、モータサイズが大きくなり、搭載スペースおよびコストの増加が問題となる場合がある。
【0005】
この発明の目的は、電動モータの小型化を図り、省スペースで高出力なモータ制御を行うことが可能となる電動式直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電動式直動アクチュエータDAは、電動モータ4と、この電動モータ4の回転運動を直動部14の直進運動に変換する直動機構6と、前記電動モータ4を制御する制御装置2とを備えた電動式直動アクチュエータにおいて、
前記制御装置2は、
前記電動モータ4の角速度を推定する角速度推定機能部20bと、
前記電動モータ4に通電する電流を定められた最大値に制限する電流制限機能部23aと、
前記角速度推定機能部20bで推定された角速度が定められた角速度よりも大きくなると、前記電流制限機能部23aによって制限する電流の最大値を増加させる最大電流調整機能部24と、を有する。
前記定められた最大値、前記定められた角速度は、それぞれ設計等によって任意に定める最大値、角速度であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な最大値、角速度を求めて定められる。
【0007】
この構成によると、角速度推定機能部20bは電動モータ4の角速度を推定する。電流制限機能部23aは、電動モータ4に通電する電流を定められた最大値(最大電流値)に制限する。最大電流調整機能部24は、推定された角速度(推定角速度)が定められた角速度よりも大きくなっているか否かを判断する。推定角速度が定められた角速度以下のとき、定められた最大電流値が維持される。最大電流調整機能部24は、推定角速度が定められた角速度よりも大きいとき、最大電流値を一時的に増加させる。
【0008】
このように電動モータ4の角速度が大きい領域で最大電流値を増加させることで、モータ出力が増加し、高速な応答が可能となる。したがって、電動モータ4の小型化を図り、省スペースで高出力なモータ制御を行うことが可能となる。
例えば、電動ブレーキ装置1のような位置(荷重)制御を行うアクチュエータにおいて、モータ角速度が比較的大きくなるのはパニックブレーキまたはアンチスキッド制御等の限定された状況であるため、電動モータ4に通電する電流を一時的に増加させても、電動モータ4への熱負荷は軽微であり、耐久性に支障はない。
【0009】
前記制御装置2は、前記角速度推定機能部20bで推定された角速度が定められた角速度よりも大きくなると、回転座標系上の直交軸においてベクトル成分として変換された軸電流につき、推定された角速度が定められた角速度以下のときの軸電流ベクトルの位相と比較して、前記電動モータ4における回転子の磁界ベクトル位相から反転した方向へと前記軸電流ベクトルの位相を変化させる電流ベクトル制御機能を有し、
前記最大電流調整機能部24は、
前記電動モータ4の電流の最大値に相当するノルムとなる前記軸電流ベクトルの最大電流軌跡について、
推定された角速度が略零であるときに電流当たりのトルクが最も大きくなる最大電流ベクトルとなる点を通過し、前記回転子の磁界と略一致するベクトル方向を長手方向とする非真円の楕円状軌跡となるよう、最大電流を増加させてもよい。
【0010】
この構成によると、電流ベクトル制御機能では、推定角速度が大きくなると、軸電流ベクトルをdq軸上の位相で−180度の方向にずらす弱め界磁制御が用いられる。この場合に、最大電流調整機能部24が、最大電流に相当する軸電流ベクトルの最大電流軌跡をd軸を略長手方向とする楕円状軌跡とする。これにより、モータ角速度が大きい領域で最大電流値を増加させることで、モータ出力が増加し、高速な応答が可能となる。
【0011】
前記制御装置2は、前記角速度推定機能部20bで推定された角速度が定められた角速度よりも大きくなると、回転座標系上の直交軸においてベクトル成分として変換された軸電流につき、推定された角速度が定められた角速度以下のときの軸電流ベクトルの位相と比較して、前記電動モータ4における回転子の磁界ベクトル位相から反転した方向へと前記軸電流ベクトルの位相を変化させる電流ベクトル制御機能を有し、
前記最大電流調整機能部24は、
前記電動モータ4の電流の最大値に相当するノルムとなる前記軸電流ベクトルの最大電流軌跡について、
推定された角速度が略零であるときに電流当たりのトルクが最も大きくなる最大電流ベクトルとなる点を通過し、前記回転子の磁界と略一致するベクトル方向を頂点とする直線軌跡となるよう、最大電流を増加させてもよい。
【0012】
この構成によると、電流ベクトル制御機能では、推定角速度が大きくなると、軸電流ベクトルをdq軸上の位相で−180度の方向にずらす弱め界磁制御が用いられる。この場合に、最大電流調整機能部24が、最大電流に相当する軸電流ベクトルの最大電流軌跡をd軸上を頂点とした直線軌跡とする。これにより、モータ角速度が大きい領域で最大電流値を増加させることで、モータ出力が増加し、高速な応答が可能となる。
【0013】
前記制御装置2は、前記電動モータ4の駆動用の電力を供給する電源装置3の電圧および電流のいずれか一方または両方を用いて、前記電源装置3の電力供給能力を判断する電源監視機能部26を有し、前記最大電流調整機能部24は、前記電源監視機能部26で判断する電力供給能力が定められた値より高いとき、電流の最大値を増加させるようにしてもよい。
前記定められた値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
【0014】
この場合、電源装置3が正常であり、十分な電力供給能力がある場合に限定して、最大電流を増加させることができる。例えば、電源装置3に異常が発生した場合等において、過剰に電力を消費し、以後、電動式直動アクチュエータDAが使用できなくなることを未然に防止し得る。したがって、電動式直動アクチュエータDAの冗長性を高めることができる。
【0015】
この発明の電動ブレーキ装置1は、前記いずれかに記載の電動式直動アクチュエータDAと、この電動式直動アクチュエータDAによって操作される摩擦材9と、この摩擦材9との接触により制動力を発生させるブレーキロータ8と、を備えている。この電動ブレーキ装置1によれば、いずれかの電動式直動アクチュエータDAを備えているため、省スペースで高出力なモータ制御が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の電動式直動アクチュエータは、電動モータと、この電動モータの回転運動を直動部の直進運動に変換する直動機構と、前記電動モータを制御する制御装置とを備えた電動式直動アクチュエータにおいて、前記制御装置は、前記電動モータの角速度を推定する角速度推定機能部と、前記電動モータに通電する電流を定められた最大値に制限する電流制限機能部と、前記角速度推定機能部で推定された角速度が定められた角速度よりも大きくなると、前記電流制限機能部によって制限する電流の最大値を増加させる最大電流調整機能部と、を有する。このため、電動モータの小型化を図り、省スペースで高出力なモータ制御を行うことが可能となる。
【0017】
この発明の電動ブレーキ装置は、前記いずれかに記載の電動式直動アクチュエータと、この電動式直動アクチュエータによって操作される摩擦材と、この摩擦材との接触により制動力を発生させるブレーキロータと、を備えているため、電動モータの小型化を図り、省スペースで高出力なモータ制御を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を
図1ないし
図4と共に説明する。この電動ブレーキ装置は例えば車両に搭載される。
図1に示すように、この電動ブレーキ装置1は、電動式直動アクチュエータDAと、摩擦ブレーキBRとを備える。先ず、電動式直動アクチュエータDAおよび摩擦ブレーキBRの構造について説明する。
【0020】
<電動式直動アクチュエータDAおよび摩擦ブレーキBRの構造>
図1および
図2に示すように、電動式直動アクチュエータDAは、アクチュエータ本体AHと、電源装置3と、後述する制御装置2とを備える。アクチュエータ本体AHは、電動モータ4と、減速機構5と、直動機構6と、パーキングブレーキ装置7と、角度センサSaと、荷重センサSbとを有する。
【0021】
図1に示すように、電動モータ4は、例えば、永久磁石式の同期電動機から成る。電動モータ4として、永久磁石式の同期電動機を適用すると省スペースで高トルクとなり好適である。
摩擦ブレーキBRは、車両の車輪と連動して回転するブレーキロータ8と、このブレーキロータ8と接触して制動力を発生する摩擦材9とを有する。この摩擦材9は、電動式直動アクチュエータDAによって操作される。摩擦材9を、電動式直動アクチュエータDAのアクチュエータ本体AHにより操作してブレーキロータ8に押圧し、摩擦力によって制動力を発生させる機構を用いることができる。
【0022】
減速機構5は、電動モータ4の回転を減速する機構であり、一次歯車12、中間歯車13、および三次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた一次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された三次歯車11に伝達可能としている。
【0023】
直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ矢符A1にて表記する軸方向に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦材9の押圧力に変換されることによりブレーキ力を発生させる。なお電動ブレーキ装置1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい。車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0024】
パーキングブレーキ機構7のアクチュエータ16として、例えば、リニアソレノイドが適用される。アクチュエータ16によりロック部材15を進出させて中間歯車13に形成された係止孔(図示せず)に嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15を前記係止孔から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0025】
図2に示すように、角度センサSaは、電動モータ4の回転角度を検出する。角度センサSaは、例えば、レゾルバまたは磁気エンコーダ等を用いると高精度かつ高信頼性であり好適であるが、光学式のエンコーダ等の各種センサを用いることもできる。前記角度センサSaを用いずに、後述する制御装置2において、電動モータ4の電圧と電流との関係等からモータ角度を推定する角度センサレス推定を用いることもできる。
【0026】
荷重センサSbは、直動機構6の軸方向荷重を検出する。この荷重センサSbは、例えば、直動機構6の荷重が作用する所定部材の変位または変形を検出する磁気センサ、歪センサ、圧力センサ等を用いることができる。前記荷重センサSbを用いずに、制御装置2において、例えば、モータ角度および電動ブレーキ装置剛性、またはモータ電流および電動式直動アクチュエータ効率等から荷重センサレス推定を行ってもよい。あるいは、例えばブレーキを実装する車輪のホイールトルクまたはこの電動ブレーキ装置1(
図1)を搭載した車両の前後力を検出するセンサ等、その他外部センサであってもよい。また、サーミスタ等の各種センサ類を必要に応じて別途設けてもよい。
【0027】
<制御装置2の構成>
図2は、この電動ブレーキ装置の電動式直動アクチュエータDAの制御系のブロック図である。例えば、各車輪に対応する制御装置2およびアクチュエータ本体AHが設けられている。各制御装置2は対応する電動モータ4を制御する。各制御装置2に、直流の電源装置3と、各制御装置2の上位制御手段である上位ECU17とが接続されている。電源装置3は、電動モータ4および制御装置2に電力を供給する。電源装置3は、例えば、この電動ブレーキ装置1(
図1)を搭載する車両の低圧(例えば12V)バッテリ等を適用し得る。
【0028】
上位ECU17として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit, VCU)が適用される。上位ECU17は、各制御装置2の統合制御機能を有する。上位ECU17は指令手段17aを備え、この指令手段17aは、図示外のブレーキ操作手段の操作量に応じて変化するセンサの出力に応じて、各制御装置2に目標とする荷重指令値をそれぞれ出力する。なお指令手段17aは、ブレーキ操作手段そのものであってもよく、あるいはブレーキ操作手段の操作に依ることなく、例えば、自動運転車両における制動を判断して各制御装置2に荷重指令値(ブレーキ力指令値)をそれぞれ出力することも可能である。
【0029】
各制御装置2は、制御演算を行う各種制御演算機能部と、モータドライバ18とを備える。前記各種制御演算機能部は、例えば、マイクロコンピュータ等のプロセッサ、または、FPGA、ASIC等の演算器および周辺回路により構成される。前記各種制御演算機能部は、荷重推定機能部19、運動推定機能部20、電流推定機能部21、荷重制御機能部22、電流指令機能部23、最大電流調整機能部24および電流制御機能部25を備える。
【0030】
荷重推定機能部19は、荷重センサSbの出力等から、直動機構6の軸方向荷重(推定荷重)を推定する。もしくは荷重センサレス推定を行う場合、荷重推定機能部19は、モータ角度および電流等の情報を用いて直動機構6の軸方向荷重を推定するよう構成してもよい。
運動推定機能部20は、角度センサSaの出力等から、電動モータ4の回転運動状態を推定する。この運動推定機能部20は、位置・位相推定部20aと、角速度推定機能部20bとを有する。
【0031】
位置・位相推定部20aにおいて、例えば、角度センサSaとしてレゾルバまたはエンコーダのような所定の角度領域を一周期として検出するセンサを用いる場合、角度センサSaの出力から電動モータ4の回転子位相を推定し、この回転子位相の変動量の積算値を総回転角度(位置)として推定してもよい。また、角速度推定機能部20bにおいて、前記回転子位相ないし位置の微分相当値を、角速度として推定してもよい。あるいは、例えば、前述の角度センサレス推定を行う場合、電動モータ4の電圧および電流から前記位相および角速度等を推定してもよい。
【0032】
電流推定機能部21は、モータ電流を推定する。電流推定機能部21は、例えば、電動モータ4の相電流の通電経路上に設けた図示外の電流センサ等を用いてモータ電流を推定してもよい。前記電流センサとして、シャント抵抗およびアンプのような接触式センサ等、または、通電経路近傍に配置した磁気センサのような非接触式センサ等を用いることができる。
【0033】
前記電流センサは、例えば、三相のモータ相電流を検出するよう配置してもよく、三相のモータ相電流のうちの二相を検出して三相総和が零となる関係から残り一相を検出するよう配置してもよい。
もしくは、電流推定機能部21は、モータ電圧およびモータコイル特性からモータ電流を推定する電流センサレス推定としてもよく、あるいは、例えば、プラス側ないしマイナス側の一次電流を検出する電流センサ、電圧、およびモータコイル特性からモータ相電流を推定するような、電流センサおよび電流センサレス推定の併用であってもよい。
【0034】
荷重制御機能部22は、指令手段17aから与えられた目標とする荷重指令値(アクチュエータ荷重指令)に対して、荷重推定機能部19にて演算される推定荷重を追従させるよう、電動モータ4の操作量を制御する。前記操作量は、例えば、目標とするモータトルクであってもよく、あるいは電流ノルムであってもよい。特に、前記モータトルクを操作量とする場合、後述の電流指令機能部23は、トルクに対する電流変換器の機能を有していてもよい。
【0035】
電流指令機能部23は、電動モータ4の目標電流を生成する機能を有する。電流指令機能部23は、電流制限機能部23aと指令電流演算部23bとを有する。電流制限機能部23aは、電動モータ4に通電する電流の大きさを定められた最大値に制限する。この例の電流制限機能部23aは、モータ電流の大きさが所定以下となるよう目標電流を制限する機能を有する。指令電流演算部23bは、電流制限機能部23aによる制限電流の範囲内において、後述する電流制御機能部25における電流指令値を生成する機能とし得る。
【0036】
前記電流指令値は、例えば、所定の回転座標系上における直交軸上の電流ベクトルを指令値としてもよく、三相交流の電流指令値としてもよいが、特に、前者において回転子磁束と一致するd軸およびこのd軸と直交するq軸に相当する軸電流を用いると、簡潔かつ高性能な電流制御系を構成できて好ましい。
【0037】
最大電流調整機能部24は、電流指令機能部23における制限電流を、条件に応じて可変する機能とすることができる。最大電流調整機能部24は、角速度推定機能部20bで推定された角速度が定められた角速度よりも大きくなると、電流制限機能部23aによって制限する電流の最大値を増加させる機能を有する。この最大電流値を増加させる機能により電動モータ4の最大出力が向上し、電動式直動アクチュエータDAにおいて高速な応答が可能となる。
【0038】
電流制御機能部25は、前記電流指令値に対して、電流推定機能部21で推定された推定電流を追従させるよう、モータ電圧を制御する機能とすることができる。
モータドライバ18は、電動モータ4のコイルに供給する電力を制御する。モータドライバ18は、例えば、電界効果トランジスタ(Field effect transistor;略称FET)等のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON−OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う構成とすると安価で高性能となる。あるいは、変圧回路等を設け、PAM制御を行う構成とすることもできる。
【0039】
その他、図示外の電流センサ等の構成は必要に応じて適宜設けることができる。また、各機能部は便宜上ブロックとして設けているものであり、必要に応じて統合、分割してもよく、あるいは所定機能部を適宜省略してもよい。
【0040】
<制限電流ベクトルの例>
図3は、この電動式直動アクチュエータの最大電流調整機能部によるdq軸上の電流ノルムの軌跡の例を示す図である。
図2も適宜参照しつつ説明する。
図3のd軸は、無負荷時の回転子磁束の方向と一致するものとする。
【0041】
最大電流調整機能部24は、
図3の例では、電動モータ4の電流の最大値に相当する最大電流ノルムを楕円状軌跡とする。すなわち最大電流調整機能部24は、電流当たりのトルクが最大となる最大電流位相(θmax)を通過し、概ね負のd軸方向(弱め磁束方向)を長手方向とする非真円の楕円軌跡Kdとなるよう最大電流を変更する。なお、図中の真円となる点線は、従来の最大電流(電流制限)を一定とした際の軌跡を示す。
【0042】
前記最大電流位相(θmax)は、特に表面磁石式同期モータにおいては概ね90°となり、埋込磁石式同期モータに代表される突極性を有するモータにおいては、所定の位相角となる。また、一般に軸電流ベクトルの最大電流軌跡は、d軸に対してトルクの方向が反転する対称軌跡とする場合が多いが、d軸に対して非対称な、トルクの方向によって最大電流が異なる軌跡としてもよい。あるいは、力行と回生で異なる軌跡を適用することもできる。
【0043】
この制御装置2では、角速度推定機能部20bで推定された角速度が定められた角速度よりも大きくなると、負のd軸電流を増加させて誘起電圧を抑制する制御方法(弱め磁束制御)が用いられる。換言すれば、制御装置2は、推定角速度が定められた角速度よりも大きくなると、回転座標系上の直交軸においてベクトル成分として変換された軸電流につき、推定角速度が定められた角速度以下のときの軸電流ベクトルの位相と比較して、電動モータ4における回転子の磁界ベクトル位相から反転した方向へと前記軸電流ベクトルの位相を変化させる電流ベクトル制御機能を有する。
【0044】
よって、制御装置2が前記電流ベクトル制御機能を有する場合に、本
図3のように最大電流ノルムとなる軸電流ベクトルの最大電流軌跡を楕円形とすることで、角速度が増加した際の最大電流値が増加し、モータ出力を向上することができる。
【0045】
背反として、最大電流値が増加した分、電動モータ4への熱負荷が増加する。しかしながら、例えば、電動ブレーキ装置のような、位置制御ないし荷重制御を行う電動式直動アクチュエータDAにおいて、モータ角速度の大きさが大きくなるのは例えば電動ブレーキ装置におけるパニックブレーキまたはアンチスキッド制御等の一時的な非定常状態であり、電動モータ4の熱負荷に対する耐久性を確保することは容易と考えられる。
【0046】
<システム構成例>
図4は、最大電流調整機能部を実行する例を示すブロック図である。
図2と共に説明する。
図4は、最大電流調整機能部24として、
図3の最大電流制限機能をそのまま最大電流リミッタ24aとして実装する例を示す。荷重制御機能部22として荷重制御コントローラ22aが実装され、電流指令機能部23は、目標とするモータトルクを電流に変換するトルク→電流変換器23cを含む。また電流制御機能部25として電流制御コントローラ25aが実装されている。
【0047】
前記最大電流リミッタ24aおよび後述する最大トルクリミッタ24b(
図8)は、例えば、予め解析または実測にて得られたモータ特性に応じて、各制限値のルックアップテーブル(Lookup table:略称LUT)等を用いると、演算負荷を軽減できて好適であるが、例えば、相抵抗またはインダクタンス等の前記モータ特性に基づいて演算する所定の演算式を用いることもできる。
【0048】
<作用効果について>
以上説明した電動式直動アクチュエータDAおよび電動ブレーキ装置1によれば、電流制限機能部23aは、電動モータ4に通電する電流を最大電流値に制限する。最大電流調整機能部24は、推定角速度が定められた角速度よりも大きくなっているか否かを判断する。推定角速度が定められた角速度以下のとき、定められた最大電流値が維持される。最大電流調整機能部24は、推定角速度が定められた角速度よりも大きいとき、最大電流値を一時的に増加させる。このように電動モータ4の角速度が大きい領域で最大電流値を増加させることで、モータ出力が増加し、高速な応答が可能となる。したがって、電動モータ4の小型化を図り、省スペースで高出力なモータ制御を行うことが可能となる。
【0049】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0050】
図5に示すように、制御装置2が電源監視機能部26を備えてもよい。この電源監視機能部26は、例えば、電源装置3の電圧を推定し、推定電圧が所定値を下回った場合には電源装置3の電力供給能力が低下したと判断してもよい。あるいは、電源監視機能部26は、電源装置3の電流を併せて推定し、電流出力時の電圧変動が所定より大きくなった場合に電源装置3電力供給能力が低下したと判断することができる。もしくは、例えば、電源装置3の電流値の積算値等から充電状態のパーセンテージである%SOC(State Of Charge)を演算するバッテリマネージャ等の上位の電流監視機能部(図示せず)を設け、電源監視機能部26は、前記上位の電流監視機能部からの通信等により電源装置3の電力供給能力を判断してもよい。
【0051】
最大電流調整機能部24により一時的に電動モータ4の最大出力を向上させることは、一時的に電源装置3の最大負荷が増加することとなる。このため、この構成では、前記電源監視機能部26を備え、電源装置3の電力供給能力が低下した際には、最大電流調整機能部24による最大電流の増加を抑制するか、あるいは実行しない処理を設けると冗長性の観点から好ましい場合がある。また、電源装置3が正常であり、十分な電力供給能力がある場合に限定して、最大電流を増加させることができる。例えば、電源装置3に異常が発生した場合等において、過剰に電力を消費し、以後、電動式直動アクチュエータDAが使用できなくなることを未然に防止し得る。したがって、電動式直動アクチュエータDAの冗長性を高めることができる。
【0052】
図6に示すように、
図3と同様の最大電流を増加させる軌跡として、最大電流調整機能部24は、概ねd軸上を頂点とする直線状の最大電流軌跡(直線軌跡)Ksを設定してもよい。なお本
図6は、最大電流軌跡Ksが一つの象限に対して一直線とする例を示すが、例えば、適宜折れ点を設けた軌跡としてもよい。
図3の楕円軌跡の手法と
図6の直線軌跡の手法とを適宜併用することもできる。例えば、所定領域を直線とし、その他所定領域を楕円とするような最大電流軌跡とすることもできる。
【0053】
図7は、
図3の例に対して、最大電流調整機能部24が、角速度の大きさ(|ω|)が所定値(|ω|=a)に達するまでは、さらに最大電流位相に従って最大電流を増加させる例を示す。一般に、モータ角速度の大きさが前記所定値に達するまでは、前記弱め磁束制御を行わずに最大電流位相において電流ベクトル制御が可能である。そこで、
図7に示すように、
図3の例に対して、最大電流調整機能部24が、角速度の大きさ(|ω|)が所定値(|ω|=a)に達するまでは、さらに最大電流位相に従って最大電流を増加させることで、一時的にモータ出力を増加させる効果をさらに積極的に利用することができる。
【0054】
なお、一般に、回転子磁束を強める正のd軸電流を用いる電流ベクトル制御(強め磁束制御)は行わないため、図示していないが、前記正のd軸電流を増加させる制御を行う場合は、例えば、前記強め磁束領域においては従来の真円状の最大電流としてもよく、楕円または直線としてもよい。
【0055】
図8は、最大電流調整機能部24を実行する他のシステム構成例を示すブロック図である。同
図8は、最大電流調整機能部24として、モータ角速度の大きさに応じてトルクを制限する最大トルクリミッタ24bを設ける例を示す。この例では、最大電流が一定である場合と比較して、角速度の大きさが増加した場合の最大トルク制限値を大きく設定することで、トルクを発揮するための電流値が増加し、結果として
図3、
図6または
図7のいずれかに示すような最大電流軌跡とすることができる。
【0056】
直動機構6の変換機構部として、遊星ローラ、ボールねじ等の各種ねじ機構、ボールランプ等の傾斜を利用した機構等を用いることができる。
【0057】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。