(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電動車両の停車中の環境予報情報を用いて、停車中に仮に前記バッテリを昇温させなかった場合に、前記電動車両の再走行前に前記バッテリが達する温度を、最低バッテリ温度として推定するバッテリ温度推定部と、
前記電動車両の再走行で予定されるルート情報に基づいて前記再走行の開始時に要求される放電可能電力を、前記要求放電可能電力として推定する要求電力推定部と、
を更に備え、
前記制御部は、
前記バッテリ温度推定部により推定された前記最低バッテリ温度と、前記要求電力推定部により推定された前記要求放電可能電力とを用いて、前記充放電制御及び前記昇温処理を実行することを特徴とする請求項3に記載の電動車両の制御装置。
前記制御部は、前記スケジュール推定部により推定された前記再走行の開始時に前記要求放電可能電力が得られるよう前記昇温処理の開始タイミングを決定することを特徴とする請求項3又は請求項4記載の電動車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電動車両の構成を示すブロック図である。
【0016】
本実施形態の電動車両1は、走行モータ11と内燃機関であるエンジン21とを有するEV又はHEV等の自動車である。エンジン21は、走行に使用されるものであっても、発電専用のものであってもよい。電動車両1は、
図1に示すように、インバータ12、高電圧バッテリ13、電気ヒータ14、発電機22、充電器23及び制御装置30を備える。制御装置30は、車両制御部31、バッテリ管理部41、交通情報通信部51及び車外情報検出部52を備える。これらのうち、高電圧バッテリ13は、本発明に係るバッテリの一例に相当する。車両制御部31は、本発明に係る制御部の一例に相当する。
【0017】
走行モータ11は、図示略の駆動輪を駆動して電動車両1を走行させる。インバータ12は、ドライバーのアクセル操作に基づき車両制御部31により制御され、走行モータ11に駆動電流を出力する。また、インバータ12は、電動車両1の制動時に走行モータ11で発生する回生電力を高電圧バッテリ13へ出力する。高電圧バッテリ13は、走行モータ11に供給される電力を蓄積する。電気ヒータ14は、バッテリ管理部41により駆動制御されて高電圧バッテリ13を昇温することができる。電気ヒータ14は、高電圧バッテリ13の電力を用いて駆動される。
【0018】
発電機22は、エンジン21の動力により発電する。充電器23は、バッテリ管理部41の制御に基づいて発電機22で発電された電力により高電圧バッテリ13を充電する。
【0019】
交通情報通信部51は、例えばDCM(Data Communication Module)であり、様々な走行ルートにおける車両速度と道路の勾配の情報、各地の天気と外気温の予報情報などを、通信により取得することができる。
【0020】
車外情報検出部52は、例えば電動車両1の周囲の映像を取得する運転支援装置の一部である。車外情報検出部52からは、映像により現在の天気の情報を取得できる。また、車外情報検出部52は、外気温センサを含み、現在の外気温を検出することができる。
【0021】
バッテリ管理部41は、高電圧バッテリ13が正常に使用されるように、高電圧バッテリ13の様々な状態(例えば、バッテリ温度、開放端電圧、放電電圧、SOC等)を監視し、高電圧バッテリ13の使用可否を管理する。さらに、バッテリ管理部41は、SOC及びバッテリ温度によって決定する充電可能電力(以下「Win」とも記す)と放電可能電力(以下「Wout」とも記す)とを超えて充電又は放電がなされないように、充放電量を制限するための管理を行う。
【0022】
また、バッテリ管理部41は、車両制御部31と連携して、電気ヒータ14のON/OFF制御と、充電器23の充電制御とを行う。なお、電気ヒータ14と充電器23との制御はバッテリ管理部41と連携して車両制御部31が行ってもよい。
【0023】
車両制御部31は、走行制御を含む電動車両1の全般的な制御を行う。例えば、車両制御部31は、走行モータ11による走行とエンジン21による走行とを切り替える制御を行う。また、車両制御部31は、ドライバーの運転操作の信号を入力し、運転操作に応じてインバータ12又はエンジン21の補機を制御することで、運転操作に応じた駆動力を電動車両1に発生させる。
【0024】
また、車両制御部31は、高電圧バッテリ13のSOC管理制御とWoutを回復するための昇温制御とを行う。車両制御部31は、CPU(Central Processing Unit)とCPUが実行する制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)とを備えたECU(Electronic Control Unit)である。車両制御部31では、ハードウェアにより又はCPUが制御ブログラムを実行することで各種の制御モジュールが実現される。制御モジュールには、走行スケジュール推定部311と、バッテリ温度推定部312と、要求放電電力推定部313と、制御判断部314とが含まれる。
【0025】
走行スケジュール推定部311は、ドライバーからの入力、あるいは、日々の走行実積の集計等から、近々の走行スケジュールを推定する。例えば、走行スケジュール推定部311は、電動車両1の走行時に、電動車両1が停車される次の到着地点、到着時刻、到着地点からその次の地点への再走行の開始時刻、再走行後の走行ルートなどを推定する。
【0026】
バッテリ温度推定部312は、次の到着地点におけるソーク期間(エンジン21及び走行モータ11が停止されての停車期間)中に高電圧バッテリ13の冷却が進んだ場合のバッテリ温度を推定する。バッテリ温度推定部312は、交通情報通信部51から得られた到着地点の天気及び外気温の予報情報、車外情報検出部52から得られた現在の天気及び外気温の情報を利用して、上記のバッテリ温度をより正確に推定するようにしてもよい。
【0027】
要求放電電力推定部313は、次の到着地点からその次の地点へ再走行を開始するときに必要な要求Woutを推定する。要求Woutの推定方法の詳細は後述する。
【0028】
制御判断部314は、高電圧バッテリ13のSOCを調整するためのSOC管理制御の実行タイミング、高電圧バッテリ13のWoutを回復するための昇温制御の実行タイミング等を判断する。
【0029】
<Woutマップ>
図2は、高電圧バッテリのWoutマップである。このWoutマップは、高電圧バッテリ13のSOC、バッテリ温度及びWoutの関係を表わし、縦軸にWout、横軸にバッテリ温度が示される。Wout(放電可能電力)は、正常な使用範囲における高電圧バッテリ13の放電電力の最大値を示す。
【0030】
高電圧バッテリ13は、
図2に示すように、45℃以上のような高温な領域を除いて、SOCが一定であれば、バッテリ温度が高くなるほどWoutが大きくなる。したがって、例えばバッテリ温度が低くてWoutが低いときには、バッテリ温度を上昇させることでWoutを回復できる。
【0031】
また、バッテリ温度とWoutとの関係を示す特性線はSOCごとに異なる値をとり、SOCが大きいほどWoutが大きくなる。さらに、各特性線は、Woutマップ内の各領域ごとに傾斜が異なり、また、SOC値を等量ずつ隔てて複数の特性線を記した場合に、Woutマップの各領域ごとに隣接する特性線の間隔が異なってくる。なお、
図2では、各特性線のSOC値は等量ずつ隔てられたものではないので、グラフ上で隣接する特性線の間隔は、SOC値を等量ずつ隔てた場合の特性線の間隔とは異なる。上記のように特性線の傾斜と間隔とが領域ごとに異なるため、バッテリ温度を上昇させてWoutを回復する場合でも、Woutマップの領域に応じてWoutの上昇率が高いところと低いところとがある。
【0032】
例えば、
図2のWoutマップから分かるように、例えば特性点A(SOC40%、温度−20℃)の状態にあるときにSOC5%の電力を用いて10℃昇温し、特性点A’(SOC35%、温度−10℃)へ移行した場合、高いWoutの上昇率が得られる。一方、特性点B(SOC25%、温度−20℃)の状態にあるときにSOC5%の電力を用いて10℃昇温し、特性点B’(SOC20%、温度−10℃)に移行した場合には、Woutの上昇量は低くなる。すなわち、温度の上昇に対するWoutの上昇率は、通常、Woutマップ内の各領域ごとに異なってくる。そこで、本実施形態では、Woutを回復する際にWoutの効率的な上昇が得られるように、それよりも前の段階でSOCを調整する制御が実行される。続いて、このような制御処理について説明する。
【0033】
<制御処理の概要>
次に、本実施形態の車両制御部31で実行される高電圧バッテリ13のSOC管理制御と、Woutを回復するための昇温処理との概要について説明する。
図3は、想定される走行スケジュールと各制御処理の実行タイミングを示すタイミングチャートである。
【0034】
以下では、
図3に示すように、電動車両1が、次の到着点PAまで走行を行い、到着点PAで停車し(ソーク期間)、その後、再走行を開始し、その次の到着点PBまで走行を行う場合を想定する。また、環境は寒冷であり、ソーク期間は電動車両1の温度が大幅に低下するほどの時間を想定する。
【0035】
車両制御部31のバッテリ温度推定部312は、走行期間T1の任意なタイミングt11において、ソーク期間T2において仮に昇温無しとした場合に低下する高電圧バッテリ13の最低バッテリ温度を推定する。また、車両制御部31の要求放電電力推定部313は、走行期間T1の任意なタイミングt11において、再走行開始タイミングt22(ソーク期間T2後)において必要な要求Woutを推定する。
【0036】
さらに、車両制御部31は、再走行開始時点t22の少し前の期間T2aに、Woutを回復する高電圧バッテリ13の昇温処理を行う。この昇温処理は、タイミングt11で推定された必要なWoutを回復するように行われる。
【0037】
また、車両制御部31は、期間T2aの昇温処理において、高電圧バッテリ13のSOCが、Woutの高い上昇率が得られる目標SOCの値となるように、走行期間T1の一部の期間T1aにおいて高電圧バッテリ13の充放電制御を行う。
【0038】
以下、各制御処理の詳細について説明する。
【0039】
<要求Woutの推定処理>
図4は、停車後の再走行の開始時に必要な要求Woutの推定方法の一例を示す図である。
【0040】
タイミングt11の推定処理では、車両制御部31の要求放電電力推定部313は、走行スケジュール推定部311の推定結果である再走行期間T3(ソーク期間T2後)の走行ルート情報を用いて、再走行開始タイミングt22に必要な要求Woutの推定を行う。再走行期間T3のルートには、法定速度の高い道路、法定速度の低い道路、登り坂、下り坂などが含まれ、これらによって各時点の必要最小のWoutの値が変化する。例えば、法定速度の高い道路では発進時に大きな加速が必要となるので必要なWoutは大きくなり、登り坂では勾配によって大きなパワーが必要となるので必要なWoutは大きくなる。要求放電電力推定部313は、ルート情報から各地点で必要なWoutを計算することができる。
【0041】
また、再走行期間T3の初期の段階では、電動車両1の各部が冷えていることで、高電圧バッテリ13の再走行開始タイミングt22からWoutの変化はあまり生じない。しかし、再走行期間T3の途中からは電動車両1の各部が走行によって温まり、高電圧バッテリ13の温度も上昇するため、高電圧バッテリ13のWoutは再走行開始タイミングt22の値よりも大幅に上昇することが見込まれる。
【0042】
したがって、要求放電電力推定部313は、放電制限が生じる可能性がある再走行期間T3の初期T31におけるルートを、走行スケジュール推定部311の推定結果から抽出する。そして、要求放電電力推定部313は、先ず、初期T31において最も高くなる必要なWoutを算出する。
図4の例では、初期T31のルートにおいてタイミングt23に通過する登り坂があり、必要なWoutが最も高くなっている。次に、要求放電電力推定部313は、最も高い必要なWoutが生じるタイミングt23と、再走行開始タイミングt22との間の期間長L1から、期間長L1の走行により生じるバッテリ温度の上昇量を推定する。そして、要求放電電力推定部313は、タイミングt23の必要なWoutから、期間長L1のバッテリ温度の上昇に基づき生じるWoutの上昇分を指し引いたWoutの値を、再走行開始タイミングt22に必要な要求Woutとして推定する。
【0043】
<仮に昇温無しとした場合に、ソーク期間中に低下する最低バッテリ温度の推定>
タイミングt11における推定処理では、加えて、車両制御部31のバッテリ温度推定部312が、ソーク期間T2中に低下する最低バッテリ温度を推定する。バッテリ温度推定部312は、走行スケジュール推定部311の推定結果である到着点PAへの到着時刻、及び、再走行開始タイミングt22の情報から、最低バッテリ温度を推定する。加えて、バッテリ温度推定部312は、交通情報通信部51から得られる到着点PAの予報情報、車外情報検出部52から得られる現在の天気及び外気温情報を加味して、最低バッテリ温度を推定する。
【0044】
到着点PAに到着するまでは、電動車両1の走行により高電圧バッテリ13は比較的に高い温度範囲で推移するが、到着点PAで電動車両1が停車してからは現地の外気温及び天候に応じて高電圧バッテリ13の温度は所定の降下ラインに従って低下していく。バッテリ温度推定部312は、予め、このような降下ラインを環境条件ごとにデータテーブルとして保持するか、あるいは、環境条件に応じた関数として保持しておく。そして、バッテリ温度推定部312は、これらを用いて昇温無しとした場合のソーク期間T2に低下する最低バッテリ温度を推定する。
【0045】
<SOC管理制御>
図3の期間T1aに実行されるSOC管理制御は、ソーク期間T2の終盤の期間T2aで実行される昇温処理で、高いWoutの上昇率が得られるように、高電圧バッテリ13のSOCを調整する制御である。
【0046】
<SOC管理制御−Woutマップの制御対象範囲の決定>
図5は、Woutマップ中の制御対象範囲の一例を示す説明図である。
【0047】
先ず、SOC管理制御のために、車両制御部31は、Woutマップの中から昇温処理の際にSOCとバッテリ温度とが取り得る範囲である制御対象範囲K1を決定する。
【0048】
制御対象範囲は、次の条件1〜条件5で指定される範囲である。
・条件1.再走行開始タイミングt22に走行モータ11の走行を開始するために必要な最低限SOCの値よりもSOCが高い
・条件2、到着点PAに到着したときに取り得るSOCの最大値よりもSOCが低い
・条件3.到着点PAに到着したときのバッテリ温度の値よりもバッテリ温度が低い
・条件4.仮にソーク期間T2に昇温無しで温度低下した場合の最低バッテリ温度よりもバッテリ温度が高い
・条件5.再走行開始タイミングt22で必要な要求WoutよりもWoutが低い
【0049】
図5のWoutマップにおいて、境界線H1より下側の範囲が条件5を示し、境界線H2、H3の間が条件3と条件4を示し、領域J1が条件1により除外される範囲を示し、領域J2が条件2により除外される範囲を示す。その結果、
図5に示すように、昇温処理の際にSOCとバッテリ温度とが取り得る制御対象範囲K1が決定される。
【0050】
条件1の最低限SOCは、「再走行開始タイミングt22に走行モータ11の走行を開始するための必要な最低限SOC=強制充電が開始されるSOC+再走行開始タイミングt22で高電圧バッテリ13を0℃以上にするのに必要なSOC」のように計算される。右辺の2項目は、バッテリ温度推定部312が推定した「仮に昇温無しとした場合にソーク期間T2で低下する最低バッテリ温度」からバッテリ温度を0℃に上昇するのに必要なSOCに相当し、車両制御部31は、例えば予め関数を用意しておくなどして、バッテリ温度の差からこのSOCを計算する。上記の式により計算された走行開始に必要な最低限SOCは、再走行開始タイミングt22に、エンジン21を駆動せずに走行モータ11で走行を開始するために最低限のSOCであり、高いWoutを出力できないため放電制限が生じるSOCとなる。
【0051】
条件2のSOCは、例えば走行モータ11の駆動と、エンジン21の駆動及び高電圧バッテリ13の充電とを、高い燃費が得られるように振り分ける制御など、電動車両1の他の走行条件に基づいて計算される。車両制御部31は、電動車両1の他の走行条件に従って取り得るSOCの中から、電動車両1が到着点PAに到着したときに取り得るSOCの最大値を、条件2のSOCの値として計算する。
【0052】
条件3のバッテリ温度は、走行スケジュール推定部311が推定する走行スケジュールで電動車両1が走行した場合に、到着点PAに到着したときのバッテリ温度を推定することで得られる。
【0053】
条件4のバッテリ温度は、バッテリ温度推定部312が推定する「仮に昇温無しとした場合にソーク期間T2で低下する最低バッテリ温度」に相当する。
【0054】
条件5の要求Woutは、要求放電電力推定部313が推定する再走行開始タイミングt22で必要な要求Woutに相当する。
【0055】
<SOC管理制御−Woutマップの目標特性範囲の決定>
図6は、Woutマップ中の目標特性範囲の一例を示す説明図である。
【0056】
制御対象範囲K1を決めたら、車両制御部31は、制御対象範囲K1の中から、温度変化に対する高いWoutの上昇率が得られる目標特性範囲M1を抽出する。目標特性範囲M1は、制御対象範囲K1の中で上記の上昇率が制御対象範囲K1の平均値よりも高い範囲に相当する。具体的には、制御対象範囲K1の中で上記の上昇率が一番高くなる箇所の周辺が目標特性範囲M1として選択される。
【0057】
換言すれば、Woutマップに示されるSOCを一定としたときのバッテリ温度とWoutとの関係を示す特性線の傾きが最も大きく、かつ、SOCの変化量に対する上記の特性線の変化量が最も小さいところが、上記の上昇率が一番高くなる。したがって、SOCの値を等間隔に隔てて複数の特性線をWoutマップに記したときに、隣接する特性線の間隔が最も狭く、かつ、特性線の傾きが最も高くなるSOCの値を特定し、このSOCの値の周辺(例えばマージン5%を加算した範囲)を目標特性範囲M1として決定することができる。
【0058】
車両制御部31は、このような計算をその都度行う。あるいは、車両制御部31は、予めこのような計算により得られたWoutの上昇率が高くなる範囲を順番付けしたデータを記憶しておく。そして、車両制御部31は、制御対象範囲K1が決まったときに、記憶されたデータに基づいて、この中で上昇率が一番高くなる範囲を目標特性範囲M1として決定してもよい。
【0059】
車両制御部31は、目標特性範囲M1を決定したらその中で最も高いSOCの値を目標SOCとして定める。すなわち、制御対象範囲K1の中で最もWoutの上昇率が高くなるSOCの値にマージン5%を加えた値が目標SOCとなる。
【0060】
<SOC管理制御−充放電制御>
目標SOCが決まったら、車両制御部31は、到着点PAに到達するまでに、高電圧バッテリ13のSOCが目標SOCになるように、走行期間T1において充放電制御を行う。車両制御部31は、走行期間T1の全域においてSOCが目標SOCに維持されるように充放電制御を行ってもよいし、走行期間T1の終盤においてSOCが目標SOCに収束するように充放電制御を行ってもよい。車両制御部31は、例えば、エンジン21の駆動により高電圧バッテリ13を充電する期間、回生ブレーキの利用により高電圧バッテリ13を充電する期間、走行モータ11を駆動する期間を増減することで、高電圧バッテリ13のSOCを調整することができる。
【0061】
このようなSOC管理制御によって、高電圧バッテリ13のSOCの値は、目標特性範囲M1中の目標SOCに調整された状態で、電動車両1が到着点PAに到着し、ソーク期間T2の停車を開始することとなる。
【0062】
<昇温処理>
続いて、ソーク期間T2の終盤に行われる昇温処理について説明する。昇温処理は、ソーク期間T2にバッテリ温度が低下して要求Woutが得られなくなるような場合に、再走行開始タイミングt22よりも前に高電圧バッテリ13を昇温してWoutを回復させる処理である。
【0063】
車両制御部31は、先ず、バッテリ温度推定部312が推定した最低バッテリ温度と、要求放電電力推定部313が算出した再走行開始タイミングt22の要求Woutとから、バッテリ温度をどれだけ上昇させれば要求Woutに達するかを計算する。この計算結果は、Woutマップから得られ、ここではX℃と記す。
【0064】
次に、車両制御部31は、電気ヒータ14を駆動してバッテリ温度をX℃上昇させるのに必要な所要時間を計算する。この所要時間は、電気ヒータ14の熱量と高電圧バッテリ13の熱容量等によって決まり、予めこれらの関係を示した関数あるいはデータテーブルを用意しておくことで、車両制御部31は所要時間を計算できる。
【0065】
車両制御部31は、再走行開始タイミングt22から所要時間前になったら、電気ヒータ14を駆動し、高電圧バッテリ13を昇温させる。これにより、Woutマップの目標特性範囲M1においてバッテリ温度とWoutとが上昇する。すなわち、バッテリ温度の上昇により高いWoutの上昇率が得られる。そして、このように効率的にWoutが上昇され、再走行開始タイミングt22において、要求放電電力推定部313が推定した要求Woutが得られる状態となる。
【0066】
<ソーク期間後の再走行>
上記のような昇温処理により、ソーク期間T2の後の再走行期間T3において、ドライバーは、高電圧バッテリ13の放電制限が行われることなく、走行モータ11の駆動によって、電動車両1を走行させることができる。
【0067】
<制御処理1>
続いて、上述した車両制御部31のSOC管理制御の処理手順について詳細に説明する。
図7は、車両制御部により実行されるSOC管理制御の処理手順を示すフローチャートである。
図8は、
図7のステップS4の目標SOC決定処理の詳細を示すフローチャートである。
【0068】
SOC管理制御は、ソーク期間T2より前の走行期間T1の任意のタイミングで車両制御部31により開始される。SOC管理制御は、例えば、ドライバーの操作で開始されるようにしてもよいし、走行スケジュール推定部311が推定する走行期間T1の中盤から終盤のタイミングで自動的に開始されるようにしてもよい。
【0069】
SOC管理制御が開始されると、車両制御部31は、走行スケジュール推定部311が推定した走行スケジュールを取得する(ステップS1)。これにより、
図3の走行期間T1の到着点PAまでの走行スケジュール、ソーク期間T2のスケジュール、再走行開始タイミングt22からの再走行期間T3の走行スケジュールが取得される。
【0070】
次に、車両制御部31は、バッテリ温度推定部312により、到着点PAで停車後、ソーク期間T2において仮に昇温無しの場合に低下する最低バッテリ温度を推定する(ステップS2)。この推定処理の詳細は上述の通りであり、これにより
図5の境界線H2が決まる。
【0071】
次に、車両制御部31は、要求放電電力推定部313により、ソーク期間T2の後の再走行開始タイミングt22で必要な要求Woutを推定させる(ステップS3)。この推定処理の詳細は上述の通りであり、これにより
図5の境界線H3が決まる。
【0072】
続いて、車両制御部31は、再走行開始タイミングt22よりも前に調整される目標SOCを決定する(ステップS4)。この処理では、先ず、車両制御部31が、ステップS3で推定された最低バッテリ温度から再走行に必要な最低限SOCを算出する(ステップS21)。この算出処理の詳細は上述の通りであり、これにより
図5の領域J1と制御対象範囲K1との境界線が決まる。次に、車両制御部31は、到着点PAに到着したときに取り得るSOCの最大値からステップS21で算出した最低限SOCまでのSOCの範囲で、到着点PAに到着したときに推定されるバッテリ温度からステップS3で推定した最低バッテリ温度までの範囲を、制御対象範囲K1(
図5)として決定する(ステップS22)。さらに、車両制御部31は、制御対象範囲K1から温度対Woutの上昇率が最も高いSOCのベースラインを決定し(ステップS23)、これにマージン5%を加えて目標SOCを決定する(ステップS24)。
【0073】
目標SOCが決定されたら、車両制御部31は、ステップS5〜S8の充放電制御のループ処理に処理を移行して、高電圧バッテリ13のSOCが目標SOCになるように調整する。ループ処理では、車両制御部31は、バッテリ管理部41を介して高電圧バッテリ13の現在のSOCを取得し(ステップS5)、この値と目標SOCとを比較する(ステップS6)。比較の結果、現在のSOCの方が高ければ、車両制御部31は、放電量が充電量よりも多くなるように充放電制御を行いながら電動車両1を走行させる(ステップS7)。例えば、ステップS7において、車両制御部31は、エンジン21の駆動を少なく、走行モータ11の駆動を多くするなどして走行を行い、これにより高電圧バッテリ13のSOCを低下させる。一方、ステップS6の比較の結果、現在のSOCの方が低ければ、車両制御部31は、充電量が放電量よりも多くなるように充放電制御を行いながら電動車両1を走行させる(ステップS8)。例えば、ステップS8において、車両制御部31は、エンジン21の駆動を多く、走行モータ11の駆動を少なくするなどして走行を行い、更にエンジン21の駆動時及び回生制動時に高電圧バッテリ13に充電を行うことで、高電圧バッテリ13のSOCを上昇させる。そして、このようなループ処理を繰り返し実行することで、電動車両1が到着点PAに到着するころに、高電圧バッテリ13のSOCが目標SOCに収束する。
【0074】
<制御処理2>
次に、車両制御部31にり実行される昇温処理に関する制御処理(以下「昇温制御」と呼ぶ)について詳細に説明する。
図9は、車両制御部により実行される昇温制御の手順を示すフローチャートである。
【0075】
図9の昇温制御は、ソーク期間T2の任意なタイミング(例えば到着点PAでの停車時)に開始される。昇温制御が開始されると、先ず、車両制御部31は、昇温開始タイミングを計算する(ステップS41)。ステップS41において、車両制御部31は、前述の通りバッテリ温度を上昇させるのに必要な所要時間を計算し、推定された再走行開始タイミングt22から所要時間を差し引いて、昇温開始タイミングを計算する。
【0076】
昇温開始タイミングを計算したら、車両制御部31は、昇温開始タイミングになるまで待機する(ステップS42)。そして、このタイミングになったら再走行開始タイミングt22まで電気ヒータ14をONして、高電圧バッテリ13を昇温させる(ステップS43)。
【0077】
そして、再走行開始タイミングt22になって電気ヒータ14を停止したら、車両制御部31は、電動車両1が再走行となったか判別する(ステップS44)。再走行開始タイミングt22は推定されたものであり、実際には、推定された再走行開始タイミングt22よりも遅れて再走行される場合があるため、車両制御部31はここで実際に再走行されたか判別を行う。その結果、再走行が行われていれば、車両制御部31は、昇温制御を終了する。
【0078】
一方、再走行が行われていなければ、車両制御部31は、バッテリ温度が所定温度低下したか判別し(ステップS45)、低下していなければステップS44に戻り、低下していれば次に処理を進める。すなわち、推定された再走行開始タイミングt22から時間が経過して、バッテリ温度が昇温させた温度より例えば5℃以上低下してしまったら、車両制御部31は、ステップS45でYESと判別して、要求Woutが得られる温度まで再び電気ヒータ14をONする(ステップS46)。これにより、再走行までに遅れが生じた場合でも、再走行時に要求Woutが得ることができる。
【0079】
ステップS46で電気ヒータ14をONして昇温されたら、その後、電気ヒータ14がOFFされた後、車両制御部31は、ステップS46に移行して電気ヒータ14をONした回数が、所定回数(例えば2回)を上回ったか判別する(ステップS47)。その結果、所定回数を上回っていなければ、車両制御部31は処理をステップS44に戻す。一方、所定回数を上回っていれば、車両制御部31は、このまま昇温制御を終了する。再走行が遅れて、何度も繰り返し高電圧バッテリ13を昇温させていると、昇温のために高電圧バッテリ13のSOCが低下していく。このような低下を最小限に抑えるために、電気ヒータ14をONする回数を制限している。ステップS44〜S47の処理により、推定された再走行開始タイミングt22から遅れて再走行されるような場合でも、大幅に時間がずれなければ、再走行時までに高電圧バッテリ13が昇温されて、効率的にWoutが回復された要求Woutが得られる状態にすることができる。一方、大幅に時間がずれるような場合には、電気ヒータ14のON制御が多数回数行われて高電圧バッテリ13のSOCが多く消費されてしまうことが防止されるようになっている。
【0080】
なお、ステップS47でON回数が所定回数を上回ったと判別された場合に、車両制御部31は、例えば、電動車両1のモニタ装置等を用いて再走行の開始予定時刻をドライバーに尋ねる処理を行うようにしてもよい。そして、その結果、車両制御部31は、ドライバーから入力された予定時刻に要求Woutが得られるように、再度昇温処理を実行するようにしてもよい。また、車両制御部31は、ステップS43で電気ヒータ14をONした後、その後、再走行がなされるまで、要求Woutが得られるバッテリ温度を維持するように電気ヒータ14のON、OFFを切り替える制御を継続するようにしてもよい。
【0081】
以上のように、本実施形態の電動車両1及び車両制御部31によれば、ソーク期間T2に高電圧バッテリ13の温度が低下し、そのままでは再走行開始タイミングt22に要求Woutが得られないような場合でも、昇温処理によってWoutを回復できる。さらに、昇温処理より前のSOC管理制御により、高電圧バッテリ13のSOCが、温度対Woutの高い上昇率が得られる目標SOCに調整されている。したがって、昇温処理によって、効率的にWoutを回復することができ、昇温処理で使用されるSOCも少なくて済む。
【0082】
また、上記実施形態の電動車両1の車両制御部31によれば、最低限SOCよりもSOCが高く、最低バッテリ温度よりもバッテリ温度が高く、要求WoutよりもWoutが低い範囲を制御対象範囲K1として決定する。そして、車両制御部31は、制御対象範囲K1の中で、SOCを一定としたバッテリ温度とWoutの関係を示す特性線の傾きが最も高く、かつ、SOCの変化量に対する特性線の変位量が最も小さいSOCに基づいて目標SOCを決定する。すなわち、温度対Woutの上昇率が、制御対象範囲K1の平均値より高い範囲に、目標SOCが設定される。このような処理により、ソーク期間T2にバッテリ温度が大きく低下するような寒冷地又は寒冷期において、ソーク期間T2の終盤で効率的にWoutを回復させるのに適した目標SOCを設定することができる。
【0083】
また、上記実施形態の電動車両1の車両制御部31によれば、走行スケジュール推定部311が、次の到着点PAに停車するまでの走行スケジュール、到着点PAで停車した後のソーク期間T2、ソーク期間T2後(停車後)の再走行の走行スケジュールを推定する。そして、車両制御部31は、推定されたスケジュールに基づいて、SOC管理制御と昇温処理とを行う。したがって、車両制御部31は、走行スケジュールに適したタイミングで、高電圧バッテリ13のSOCを目標SOCに調整する充放電制御と、Woutを回復するための昇温処理とを行うことができる。
【0084】
また、上記実施形態の電動車両1の車両制御部31によれば、バッテリ温度推定部312は、交通情報通信部51から得られた環境予報情報(外気温予報情報、天気予報情報)を用いて昇温無しの場合にソーク期間T2に低下する最低バッテリ温度を推定する。また、要求放電電力推定部313は、走行スケジュール推定部311が推定した再走行後の走行スケジュールに基づいて再走行開始タイミングt22の要求Woutを推定する。したがって、最低バッテリ温度と要求Woutの推定をより正確に行うことができる。そして、これらの推定値を用いて、車両制御部31は、目標SOCを決定し、SOC管理制御と昇温処理とを実行する。このため、正確に設定された目標SOCに合わせて高電圧バッテリ13のSOCを管理でき、より正確に設定された要求Woutに合わせて高電圧バッテリ13のWoutの回復処理を実行できる。したがって、より正確に効率的な制御が行われて、ソーク期間T2の後の再走行で高電圧バッテリ13の放電制限が生じることを抑制することができる。
【0085】
また、上記実施形態の電動車両1の車両制御部31によれば、走行スケジュール推定部311により推定されたソーク期間T2後の再走行開始タイミングt22に合わせて、昇温処理の開始タイミングが決定される。したがって、再走行時に速やかに要求Woutが得られて、走行モータ11を用いた速やかな電動車両1の発進が可能となる。
【0086】
以上の本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られるものでない。例えば、上記実施形態では、再走行開始タイミングt22に要求Woutが得られるようソーク期間T2の終盤で昇温処理を行う例を示した。しかし、例えば、ドライバーが再走行のために電動車両1に乗り込んだことをトリガーとして、又は再走行のためにドライバーが電動車両1のシステムを起動したことをトリガーとして、高電圧バッテリ13の昇温処理を開始するようにしてもよい。その他、別の条件をトリガーとして再走行前又は再走行中に昇温処理を開始するようにしてもよい。この場合でも、昇温時に高効率にWoutが回復されて、速やかにスムーズな再走行に移行することが可能となる。
【0087】
また、上記実施形態では、高電圧バッテリ13のSOCを目標SOCに調整する充放電制御を、ソーク期間T2前の走行期間T1において行う例を示した。しかし、例えば、PHEVなど停車中に充電を行うことのできる電動車両であれば、電動車両の制御部は、ソーク期間T2の停車中に充放電量を調整して高電圧バッテリ13のSOCを目標SOCに調整する制御を行ってもよい。また、この場合、電動車両の制御部は、ソーク期間T2の間に十分な充電時間が得られれば、目標SOCに調整する制御を行わずに、例えば満充電に近いSOCまで充電を行うようにしてもよい。加えて、電動車両の制御部は、ソーク期間T2の間に十分な充電時間が得られない場合、あるいは、充電環境などの影響(例えば充電料金が高い等)により充電量を最小としたいような場合に、目標SOCに調整する制御を行うようにしてもよい。このような切替えは、ドライバーが選択できるようにしてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、電気ヒータ14を用いて高電圧バッテリ13を昇温する例を示した。しかし、高電圧バッテリ13を昇温する構成としては、例えば高電圧バッテリ13から何かしらの放電を行わせることで、高電圧バッテリ13の内部抵抗によってジュール熱を発生させる構成を採用してもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、車両制御部31が、1つのECUとして、その内部に走行スケジュール推定部、バッテリ温度推定部、要求放電電力推定部及び制御判断部等の機能モジュールが含まれる構成を示した。しかし、各機能モジュールは、別々のECUにより実現され、これらが連携して同様の処理を行うように構成されてもよい。例えば、バッテリ管理部41が、これらの機能モジュールの1つ又は複数を含む構成としてもよい。その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。