(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置について説明する。
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程図である。
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、を主に有する。また、均質化工程(ST3)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を有していてもよい。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有してもよい。
【0016】
図2は、熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板製造装置を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置200と、成形装置300と、切断装置400と、を有する。熔解装置200は、熔解槽201と、清澄槽本体202と、撹拌槽203と、ガラス供給管204,205,206と、を主に有する。
なお、ガラス供給管204,205は、後述するように清澄機能を有するので、実質的に清澄槽を構成する。そこで、本実施形態では、清澄槽とは、清澄槽本体202と、ガラス供給管204,205を含むものとする。以降では、ガラス供給管204を第1清澄槽204、清澄槽本体202を第2清澄槽202、ガラス供給管205を第3清澄槽205という。
【0017】
なお、熔融ガラスの流れ方向に沿って、熔解槽201と成形装置300との間に配置された、第1清澄槽204,第3清澄槽205,ガラス供給管206、第2清澄槽202、撹拌槽203は、熔融ガラスを処理する処理装置である。これらの処理装置の本体部分は、それぞれ、熔融ガラスを収容する容器として機能し、白金族金属を含む材料から構成されている。第1清澄槽204および第3清澄槽205は円筒形状もしくは、樋形状を成している。
本明細書において、「白金族金属」は、白金族元素からなる金属を意味し、単一の白金族元素からなる金属のみならず白金族元素の合金を含む用語として使用する。ここで、白金族元素とは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)の6元素を指す。白金族金属は、高価ではあるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性にも優れている。
【0018】
熔解工程(ST1)では、熔解槽201内に供給されたガラス原料を、少なくとも電極を用いた通電加熱により熔解することで、熔融ガラスを得る。電極を用いた通電加熱の他に、図示されない火焔を用いてガラス原料を熔解して熔融ガラスを得てもよい。
【0019】
清澄工程(ST2)は、少なくとも第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205において行われる。清澄工程では、第1清澄槽204内の熔融ガラスMGが昇温されることにより、熔融ガラスMG中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2等のガス成分を含んだ泡が、清澄剤であるSnO
2の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスMGの液面に浮上して放出される。また、清澄工程では、熔融ガラスMGの温度の低下による泡中のガス成分の内圧が低下することと、SnO
2の還元反応により得られたSnOが熔融ガラスMGの温度の低下によって酸化反応をすることにより、熔融ガラスMGに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラスMG中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスMGの温度を調整することにより行われる。熔融ガラスMGの温度の調整は、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の温度を調整することにより行われる。各清澄槽の容器の温度の調整は、容器そのものへ電気を流す直接通電加熱、或いは、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の周りに配置した加熱装置あるいは冷却装置を用いて行われる。また、
図2では、清澄を行う槽が、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の3つの部分に分かれているが、さらに細分化されてもよい。
【0020】
本実施形態の熔融ガラスMGの温度の調整では、上述した方法の一つである直接通電加熱が用いられる。具体的には、第2清澄槽202に熔融ガラスMGを供給する第1清澄槽204に設けられた図示されない金属製フランジと、第2清澄槽202に設けられた金属製フランジとの間で電流を流し、さらに、第2清澄槽202に設けられた金属製フランジと、この金属フランジに対して熔融ガラスMGの下流側の第2清澄槽202の部分に設けられた金属製フランジとの間に電流を流すことにより熔融ガラスMGの温度が調整される。
【0021】
均質化工程(ST3)では、第3清澄槽205を通って供給された撹拌槽203内の熔融ガラスMGを、スターラ203aを用いて撹拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。撹拌槽203は2つ以上設けられてもよい。
【0022】
供給工程(ST4)では、ガラス供給管206を通して熔融ガラスが成形装置300に供給される。
【0023】
成形装置300では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスを板状ガラスGに成形し、板状ガラスGの流れを作る。本実施形態では、後述する成形体310を用いたオーバーフローダウンドロー法を用いる。徐冷工程(ST6)では、成形されて流れる板状ガラスGが、内部歪が生じないように冷却される。
【0024】
切断工程(ST7)では、切断装置400において、成形装置300から供給された板状ガラスGを所定の長さに切断することで、ガラス基板を得る。なお、切断工程(ST7)は、必ずしも徐冷工程(ST6)の直後に設けられなくてもよい。例えば、端面の研削・研磨を行った後に切断工程(ST7)が設けられてもよい。
【0025】
(清澄工程)
清澄工程は、脱泡工程と吸収工程とを含む。脱泡工程では、熔融ガラスMGを1630℃以上に昇温させて、清澄剤であるSnO
2が酸素を放出させ、この酸素を熔融ガラスMGの既存の泡に取り込ませ、既存の泡の泡径を拡大させる。これにより、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した泡内のガス成分の内圧上昇による泡径の拡大と、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した熔融ガラスMGの粘性の低下との相乗効果により、泡の浮上速度が高まり、脱泡が促進する。脱泡工程において、熔融ガラスの温度は、熔解工程後の温度範囲(例えば、1560〜1620℃)より高い温度範囲(例えば、1630〜1700℃)に保たれる。
吸収工程では、脱泡工程とは逆に熔融ガラスMGの温度を低下させることにより、熔融ガラスMG中の泡内の酸素を再び熔融ガラスMGに吸収させることと、熔融ガラスMGの温度低下により泡内のガス成分の内圧を低下させることとの相乗効果により、泡径を縮小させ、熔融ガラスMG中に泡を消滅させる。
【0026】
第1清澄槽204は、第2清澄槽202よりも管断面が小さく、かつ第2清澄槽202とは異なり上部開空間が気相である雰囲気空間を有していない。つまり、第1清澄槽204では、熔融ガラスMGが第1清澄槽204の内側断面全体に充填されて流れるため、第2清澄槽202と比較して効率的に熔融ガラスMGの温度を上昇させることができる。つまり、第2清澄槽202内で熔融ガラスMGの温度を1630℃以上まで昇温するよりも、第1清澄槽204内で熔融ガラスMGの温度を1630℃以上まで昇温する方が、第2清澄槽202の加熱温度を低くできるので、第2清澄槽202の容器を構成する白金族金属の揮発や熔損を抑制するという観点から好ましい。
【0027】
続いて、この熔融ガラスMGが第2清澄槽202に導入される。
第2清澄槽202は、第1清澄槽204と異なり、第2清澄槽202内部の上部開空間が気相の雰囲気空間であり、熔融ガラスMG中の泡が熔融ガラスMGの液面に浮上して熔融ガラスMGの外に放出できるようになっている。
第2清澄槽202では、第2清澄槽202の本体である容器の加熱により熔融ガラスMGは引き続き1630℃以上の高温に維持され、熔融ガラスMG中の泡は、第2清澄槽202の上方に向かって浮上して、熔融ガラスMGの液表面で破泡することにより熔融ガラスMGは脱泡される。特に、熔融ガラスMGが1630℃以上まで加熱されると(例えば1630〜1700℃になると)、SnO
2は、還元反応を加速的に起こす。ここで、第2清澄槽202の上方の上部開空間で破泡、放出されたガス成分は、図示されない、ガス放出口より、第2清澄槽202外に放出される。第2清澄槽202において、泡の浮上、脱泡によって浮上速度の速い径の大きな泡が除去された熔融ガラスMGは、第3清澄槽205に導入される。
【0028】
第3清澄槽205では、第3清澄槽205の本体である容器の冷却により、あるいは第3清澄槽205の加熱の程度を抑制することにより、熔融ガラスMGは冷却される。この冷却により熔融ガラスMGの温度が下がるので、泡の浮上、脱泡は行われず、残存した小さな泡内のガス成分の圧力は下がり、泡径は徐々に小さくなる。さらに、熔融ガラスMGの温度が1600℃以下になると、脱泡工程においてSnO
2の還元反応で得られたSnOの一部は酸素を吸収して、SnO
2に戻ろうとする。このため、泡内のガス成分である酸素は、熔融ガラスMG中に再吸収され、泡はますます小さくなり、熔融ガラスMG中に吸収されて最終的に消失する。この時、熔融ガラスMGは、1600℃から1500℃の温度範囲で冷却される。
なお、第3清澄槽205は、第2清澄槽202よりも断面が小さいため、第2清澄槽202と比較して効率的に熔融ガラスMGを冷却させることができる。つまり、第2清澄槽202内で熔融ガラスMGの温度を冷却するよりも、第3清澄槽205内で熔融ガラスMGの温度を冷却する方が、降温速度を速くできる観点から好ましい。
【0029】
ここで、清澄工程における熔融ガラスの温度は、ガラス基板製造工程の他の工程における温度よりも高い。また、脱泡工程における熔融ガラス温度は、吸収工程における熔融ガラス温度よりも高い。つまり、ガラス基板製造工程の全工程の中で、脱泡工程における熔融ガラス温度が最も高い。
【0030】
なお、上記説明では簡略化のために、第1清澄槽204では熔融ガラスMGが1630℃まで昇温され、第2清澄槽202では、熔融ガラスMGの泡の浮上、脱泡が行われ、第3清澄槽205では、熔融ガラスMGが熔融ガラスMGの降温により泡の吸収が行われるように、清澄槽毎に機能を分けて説明したが、清澄槽毎に機能が完全に分かれていなくてもよい。第2清澄槽202の長さ方向の途中までの部分が熔融ガラスMGを昇温させる構成としてもよく、第2清澄槽202の長さ方向の途中から第3清澄槽205の間を、熔融ガラスMGの降温を開始させる部分とするように構成することもできる。
【0031】
(清澄槽)
次に、
図3及び
図4を参照しながら、清澄槽の構造について具体的に説明する。
図3及び
図4は、第2清澄槽202の構造の一例を示す断面図である。
ここでは、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205のうち、代表して第2清澄槽202を例にして、その構造を説明する。
第2清澄槽202は、容器1と、被覆層2と、耐火物支持体4と、を備え、これらは内周側から外周側にこの順で配置されている。ガラス基板製造装置の運転時(操業中)には、容器1の内部に、熔融ガラスMGが供給される。なお、
図2では、第2清澄槽202として容器1のみを示したが、
図3および
図4に示したように、現実には、容器1の外周に耐火物支持体4等が存在するために、外部から容器1の外周を視認することはできない。
【0032】
容器1は、典型的には白金から構成される。容器1は、図示したように円筒形であることが好ましいが、熔融ガラスMGをその内部に収容する空間が確保されていればその形状に制限はなく、例えばその外形が直方体などであってもよい。
【0033】
被覆層2は、容器1の外周面を被覆するよう設けられた、耐火性酸化物からなる層である。被覆層2は、具体的に、溶射により容器1の外周面に形成された溶射膜である。耐火性酸化物は、第2清澄槽202の高温の動作条件に耐えられる任意の耐火性酸化物(セラミック材料)であり、例えば、Al
2O
3、ZrO
2、Cr
2O
3、TiO
2、MgOを含むものが挙げられるが、これらに限らない。また、耐火性酸化物は、Y
2O
3−ZrO
2、CaO−ZrO
2、MgO−ZrO
2などの安定化ジルコニアであってもよい。
【0034】
被覆層2の溶射方法は、ガス式溶射でもよいし、電気式溶射でもよい。ガス式溶射の例としては、フレーム溶射が挙げられる。電気式溶射の例としては、大気プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射などのプラズマ溶射が挙げられる。本発明には様々な溶射方法を適用することができ、可能な方法を採用してよい。
【0035】
耐火性酸化物は、所望の被覆厚を有する被覆層2が形成されるまで十分に溶射されるものとする。被覆層2の厚さは、溶射膜の種類と、容器1の要求耐用年数により定まる。例えば、耐用年数3年以上、被覆層2の種類として安定化ジルコニアを溶射する場合、50〜500μm程度が望ましく、100〜400μm程度がより望ましい。被覆層2の厚みがこれより薄いと、十分な揮発抑制効果が発揮できない。一方、被覆層2の厚みがこれより厚いと、被覆層2を不必要に厚くしていることになり、溶射コストが高くなると同時に、溶射膜の剥離も起き易くなる。
【0036】
高温に加熱された容器1の表面に酸素が供給され、PtO
2等の白金族金属の酸化物が揮発すると、容器1の薄肉化が進行するおそれがあるが、容器1の外表面に被覆層2が設けられていることで、容器1の表面に酸素が供給された場合でも、白金族金属がPtO
2等の金属酸化物となることが抑制される。これにより、容器1が薄肉化することが抑制される。
【0037】
耐火物支持体4は、被覆層2が設けられた容器1を支持するよう容器1を取り囲む。耐火物支持体4は、典型的には耐火レンガから構成される。耐火レンガは、第2清澄槽202の最外層に配置され、容器1を支持し保温し、さらには外部から加わる可能性がある物理的な力から容器1を保護する役割を担う。なお、本明細書では、慣用に従って、耐火レンガにより構成された支持体を「耐火レンガ」と簡略化して記載するが、耐火レンガは、多くの場合、複数の耐火レンガ(耐火物により構成されたレンガ個体)を所定形状に積み重ねて構成され、多くの場合はその間に耐火モルタル等の耐火充填材を塗布し固定された、複数のレンガから構成された支持体である。
【0038】
第2清澄槽202は、
図3及び
図4に示すように、さらに、被覆層2と耐火物支持体4との間に配置された不定形耐火物からなる耐火物保護層3を備えていてもよい。
不定形耐火物の種類は特に制約は設けないが、その使用条件から、最高使用温度1600℃以上、圧縮強度200kgf/cm
2以上で、緻密で、ガス透過性が小さいものが望ましい。例えば、アルミナセメントを配合した、キャスタブル耐火物が適している。
【0039】
耐火物保護層3は、被覆層2と耐火物支持体4との間の空間を挟小化し、好ましくは完全に除去するように、被覆層2と耐火物支持体4との間に充填されていることが望ましい。
【0040】
第2清澄槽202において、耐火物支持体4を構成する耐火レンガは、SiO
2含有量が2質量%以下である耐火物材料からなる。耐火レンガのSiO
2含有量がこのように少ないことによって、下記説明するように、被覆層2の減耗を抑制することができる。なお、SiO
2含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて元素分析を行うことにより測定される。
【0041】
本発明者の研究によれば、ガラス基板の製造方法を継続して行う間に、被覆層2の厚みが徐々に減り、やがて消失する場合があることが明らかにされた。そして、本発明者が検討を重ねたところ、耐火物支持体に含まれるSiO
2と、被覆層2を構成する耐火性酸化物に含まれる成分(以降、溶射膜の成分という)とが反応することで、溶射膜が徐々に薄くなり、減耗することを突き止めた。
ここで、
図5に、従来のガラス基板製造装置における被覆層の減耗を説明する図を示す。
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)は、この順に時間経過したときの第2清澄槽202の一部の様子を示している。
図5中の符号は、上記説明した第2清澄槽202の各要素の符号と対応する。
第2清澄槽202の容器1は、清澄工程を行う間、高温に加熱される。このとき、容器1が保有する熱が被覆層2、耐火物保護層3、耐火物支持体4に順次伝達され、あるいは、加熱装置により加熱されることで、これらの部材も高温になっている(
図5(a))。第2清澄槽202が高温になっていると、耐火物支持体4に含まれるSiO
2が、耐火物保護層3との界面から耐火物保護層3内に移動し、耐火物保護層3内に拡散する。このため、耐火物保護層3中のSiO
2濃度が高くなる(
図5(b))。すると、耐火物保護層3と被覆層2との界面において、溶射膜の成分が、耐火物保護層3中のSiO
2と反応し、これにより、被覆層2は徐々に薄くなり、やがて消失すると考えられる(
図5(c))。このように被覆層2が減耗すると、容器1の外周面から白金族金属の揮発が生じやすくなり、容器1の薄肉化を抑制できない。
【0042】
本実施形態では、耐火物支持体4のSiO
2含有量が2質量%以下に制限されている。このため、操業中に、耐火物保護層3内に移動する耐火物支持体4中のSiO
2が少く、耐火物保護層3中のSiO
2と溶射膜の成分との反応を効果的に抑制でき、被覆層2の減耗を抑制できる。このため、溶射膜による白金族金属の揮発抑制効果を維持でき、容器1の薄肉化を抑制できる。
一方、耐火物支持体4のSiO
2含有量が2質量%を超えると、操業中に、耐火物保護層3内に移動する耐火物支持体4中のSiO
2が多く、このため、耐火物保護層3中のSiO
2と溶射膜の成分との反応を抑制できない。なお、従来のガラス基板製造装置において、耐火物支持体4のSiO
2含有量は、一般に、5〜15質量%である。
【0043】
耐火物保護層3は、耐火物支持体4のSiO
2含有量に基づいて定められた厚さを有していることが好ましい。具体的に、耐火物保護層3の厚さは、耐火物支持体4のSiO
2含有量が少ないほど薄く、耐火物支持体4のSiO
2含有量が多いほど厚くなるよう設定されていることが好ましい。これにより、耐火物支持体4のSiO
2含有量が比較的多い場合であっても、耐火物保護層3が厚いことで、耐火物支持体4から移動したSiO
2によって耐火物保護層3中のSiO
2濃度が高くなることが抑えられ、溶射膜の成分とSiO
2との反応を抑制する効果が高められる。一方、耐火物支持体4のSiO
2含有量が比較的少ない場合は、耐火物保護層3を薄くできる。このような観点から、耐火物保護層3の厚さは、例えば、耐火物支持体4のSiO
2含有量(質量%)×10で計算される厚さ(mm)となるよう設定される。この場合の耐火物保護層3の好ましい厚さとして、0〜150mm、0〜100mm、0〜50mmを例示できる。耐火物保護層3の厚さを所定以上の厚さにすることにより、容器1の外周面から白金族金属の揮発(減耗)を抑制・軽減することができる。
本実施形態において、第2清澄槽202は、耐火物保護層3を備えていなくてもよい。この場合、耐火物支持体4は、被覆層2に接して配置されることで容器1を支持する。本実施形態では、耐火物支持体4のSiO
2含有量が少ないことで、上述したように、溶射膜の成分とSiO
2との反応が抑制され、被覆層2の減耗が抑制されるため、耐火物支持体4を被覆層2と接するように配置することができる。なお、耐火物支持体4中のSiO
2と溶射膜の成分との反応を抑制する効果を高める観点からは、耐火物保護層3を備えない場合の耐火物支持体4のSiO
2含有量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%である。
【0044】
耐火物支持体4に用いられる耐火物材料は、例えば、Al
2O
3、ZrO
2、MgOのうち1つ以上の成分を合計90質量%以上含むとともに、Na
2O、SiO
2、CaO、MgO、Fe
2O
3、Al
2O
3等の微量成分を合計10質量%以下含む。
耐火物支持体4に用いられる耐火レンガの材料の具体例として、アルミナ系電鋳耐火物、アルミナ−ジルコニア系電鋳耐火物が挙げられる。アルミナ系電鋳耐火物は、アルミナ(Al
2O
3)の含有量が90質量%以上である耐火物であり、アルミナ−ジルコニア系電鋳耐火物は、アルミナ(Al
2O
3)及びジルコニア(ZrO
2)の含有量の合計が90質量%以上である耐火物である。アルミナ系電鋳耐火物の好ましい具体例としては、サンゴバン・ティーエム(SAINT-GOBAIN TM)社のSCIMOSシリーズのアルミナ系電鋳耐火物が挙げられる。
【0045】
本実施形態の処理装置は、第2清澄槽202に制限されず、第1清澄槽204、第3清澄槽205、撹拌槽203、ガラス供給管206等の他の処理装置にも適用できる。例えば、第1清澄槽204は、脱泡工程を行うために高い温度に昇温されるため、第1清澄槽204において、耐火物支持体4のSiO
2含有量が2質量%以下であると、耐火物支持体4中のSiO
2と溶射膜の成分との反応が効果的に抑制され、被覆層2の減耗が抑制される。
【0046】
容器1は、通常、第1の部分と、熔融ガラスを処理するとき(操業中)に第1の部分より高温になる第2の部分と、を有している。例えば、第1清澄槽204及び第2清澄槽202のうち、上述した金属フランジやガス放出口が設けられた部分では、これらの部分で放熱が行われることで、局所的に温度が低下しやすい。このように低温になった部分(第1の部分)では、溶射膜の成分とSiO
2との反応が起こり難い。このため、一実施形態によれば、容器1のうち、高温になる部分(第2の部分)の外周側にだけ、SiO
2含有量が2質量%以下である耐火物支持体4が配置されていても、溶射膜の成分とSiO
2との反応を効果的に抑制することができる。この場合、第1の部分とは、金属フランジやガス放出口が設けられた位置を含む領域であって、熔融ガラスが流れる流れ方向に沿った容器1の長さの所定割合(例えば10%以下)の長さ領域の容器1の部分をいう。
一方で、一実施形態によれば、SiO
2含有量が2質量%以下である耐火物支持体4は、第2の部分の周りだけでなく、第1の部分の周りにも、配置されてもよい。この場合、第2の部分の周りでは、耐火物支持体のSiO
2含有量が、第1の部分の周りよりも少ないことが好ましい。このような形態によっても、溶射膜の成分とSiO
2との反応を効果的に抑制することができる。
また、SiO
2含有量が2質量%以下である耐火物支持体4が、複数の処理装置に配置される場合、一実施形態によれば、操業中の温度が低い第1の処理装置よりも、操業中の温度が高い第2の処理装置では、耐火物支持体のSiO
2含有量が、第1の処理装置よりも少ないことが好ましい。例えば、第1清澄槽204及び第2清澄槽202では、耐火物支持体4のSiO
2含有量が、他の処理装置よりも少ないことが好ましい。さらに、第1清澄槽204及び第2清澄槽202のうち、熔融ガラスの温度が操業中の最高温度に維持される時間の長さが長い方の処理装置では、当該最高温度に維持される時間が短い方の処理装置よりも、耐火物支持体4のSiO
2含有量が少ないことが好ましい。
【0047】
本実施形態によれば、耐火物支持体4のSiO
2含有量が2質量%以下に制限されていることで、高温下でも、耐火物支持体4からSiO
2が耐火物保護層3中に移動することが抑制される。その結果、溶射膜の成分が、耐火物保護層3と界面においてSiO
2と反応することが実質的になく、被覆層2の減耗が抑制される。したがって、容器1の外表面が露出して、白金族金属が揮発することが抑制される。
また、被覆層2と耐火物支持体4との間に耐火物保護層3を設けた場合に、耐火物保護層3の厚さを薄くすることができる、あるいは、耐火物保護層3を省略することができる。
【0048】
本実施形態が適用されるガラス基板は、例えば以下の組成を含む無アルカリガラスからなる。
SiO
2:55−80質量%
Al
2O
3:8−20質量%
B
2O
3:0−18質量%
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、
R’
2O 0〜2モル%(R’
2OはLi
2O、Na
2O及びK
2Oの合量)。
【0049】
SiO
2は60〜75質量%、さらには、63〜72質量%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10質量%、CaOが0〜10質量%、SrOが0〜10質量%、BaOが0〜10質量%であることが好ましい。
【0050】
また、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0051】
また、質量%表示のB
2O
3の含有率の2倍と質量%表示のROの含有率の合計は、30質量%以下、好ましくは10〜30質量%であることが好ましい。
さらに、熔融ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5質量%含んでいることが好ましい。
AS
2O
3、Sb
2O
3、PbOを実質的に含まないことが好ましいが、これらを任意に含んでいてもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5質量%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0052】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、ポリシリコンTFTを用いた液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0053】
(実験例)
白金製の導管(容器)の外周面に、プラズマ溶射により厚さ1000μmのY
2O
3−ZrO
2の溶射膜を設け、その周りを囲むように耐火レンガを配置して耐火物支持体を形成し、さらに、溶射膜と耐火物支持体との隙間に、耐火物保護層として、アルミナセメントを配合した厚さ50mmのキャスタブル耐火物を配置することで、第2清澄槽を作製した。耐火レンガには、実施例1ではSiO
2 0.9質量%、実施例2ではSiO
2 1.5質量%、実施例3ではSiO
2 2.0質量%からなるものを用いた。この第2清澄槽を備える上記実施形態のガラス基板製造装置を用いて、ガラス基板の製造を行った(実施例1〜3)。操業中、第2清澄槽の温度は、1630〜1700℃に保たれていた。
一方、耐火レンガとして、SiO
2 4.5質量%からなるものを用い、さらに、耐火物保護層の厚さを150mmとした点を除いて実施例と同様に構成した第2清澄槽を作製し、実施例と同じ操業条件でガラス基板の製造を行った(比較例)。
なお、耐火レンガのSiO
2量は、走査型電子顕微鏡(SEM)に組み込まれたEDS装置を用いて測定した値である。
【0054】
1年操業を続けた後、実施例1〜3及び比較例の第2清澄槽を解体し、溶射膜の厚さを測定した。この結果、溶射膜の厚さは、実施例1〜3では、750〜1000μmであったのに対し、比較例では、0〜100μmであり、局部的に溶射膜が消失していた。このことから、SiO
2含有量が2質量%以下である耐火物支持体を備えることで、溶射膜の減耗を抑制できることがわかる。
しかも、実施例1〜3では、比較例よりも耐火物保護層の厚さが小さいにも関わらず、溶射膜の減耗の程度が比較例よりも小さく、溶射膜の減耗を抑制する効果が高いことがわかる。
【0055】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板の製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。