(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、殺菌、防菌、防カビ、防ダニ、などの優れた作用を有する各種成分物質が知られている。例えば、ワサビの成分であるアリルイソチオシアネート(すなわちイソチオシアン酸アリル。以下、AITと略す場合もある。)は、防カビ効果及び防ダニ効果を有する。
【0003】
一方で、防カビ及び防ダニ効果を有する成分物質には、刺激臭を有するものもある。例えば、AITには、特有の強い刺激臭があり、高濃度で使用した場合に、周囲に刺激臭が付着するといった問題点がある。
このため、できるだけ少ない量で効果的に防カビ、防ダニ作用等を発揮させることが必要である。
【0004】
防カビ及び防ダニ効果を有する成分物質の蒸気にも高い防カビ、防ダニの効果が認められている。よって、そのような成分物質の蒸気を活用することによって、衣類や食品などの収納空間に対して、少ない量で防カビ及び防ダニの効果を発揮させることができる。
【0005】
しかし、防カビ及び防ダニ効果を有する成分物質の中には、揮発性が高いものもある。例えば、AITは揮発性が極めて高いため、AITをそのままの状態で使用すると、周囲環境のAITの蒸気の濃度は短時間で高くなるが、防カビ効果等は持続しない。加えて、対象空間に刺激臭が発生するため、例えば、対象空間内に保管している衣類、食品に刺激臭が付着したりする懸念がある。
【0006】
そこで、このような成分物質の蒸気の放出速度をコントロールし、対象空間中のAIT濃度を長時間にわたって所定の濃度に保つことができる製剤の開発が求められている。
【0007】
特許第3140824号明細書には、AITをシクロデキストリン(以下、CDと略す場合もある)で包接した包接物を添加することにより持続性のある防カビ効果などを有する食品が提案されている。シクロデキストリンで包接することによりAITを化学的に安定させてAITの蒸気の揮発性が抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態に係わる除湿剤の構成を示す模式的構成図である。本実施の形態では、防カビ及び防ダニの効果を有する成分物質は、AITである。CDで包接されたAITが、防カビ又は防ダニ効果を有する成分物質のシクロデキストリン包接物として用いられている。
【0018】
除湿剤1は、袋体2と、シクロデキストリン包接物としてのCD−AIT3と、潮解性物質としての塩化カルシウム(CaCl
2)4とを有して構成されている。
袋体2は、内部空間ISを形成するように、接着剤などにより非透湿性フィルム2aと透湿性フィルム2bのそれぞれの外周部を接着することにより形成されている。すなわち、シクロデキストリン包接物と潮解性物質を密閉して収容する収容体としての袋体2は、非透湿性フィルム2aと、透湿性フィルム2bとを貼り合わせて形成されている。
【0019】
実線で示す非透湿性フィルム2aは、通気性を有さない。非透湿性フィルム2aの通気度(sec/100cc)は、極めて大きく、非透湿性フィルム2aは、ほとんど水分を通さない。
【0020】
一点鎖線で示す透湿性フィルム2bは、通気性を有し、湿度、水蒸気などの水分WVを通す。透湿性フィルム2bの通気度は、30〜8000sec/100ccである。
【0021】
防カビ又は防ダニの効果を有する成分物質は、アリルイソチオシアネート(AIT)である。CD−AIT3は、アリルイソチオシアネート(AIT)のシクロデキストリン包接物である。
【0022】
塩化カルシウム(CaCl
2)4は、潮解性物質である。なお、ここでは、潮解性物質として、塩化カルシウム(CaCl
2)4を用いているが、他の潮解性を有する物質、例えば塩化マグネシウム(MgCl
2)を用いてもよい。
【0023】
CD−AIT3と塩化カルシウム4が、袋体2の内部空間IS内に封入される。よって、袋体2は、CD−AIT3と塩化カルシウム4を内部に収容する収容体である。
以上のように、本実施の形態の除湿剤1は、30〜8000sec/100ccの範囲の通気度を有する透湿性フィルムを少なくとも一部に有する収容体と、その収容体内に密閉して収納された潮解性物質と、収容体内に密閉して収納された、防カビ又は防ダニ効果を有する成分物質のシクロデキストリン包接物と、を有する製剤を含む。
【0024】
透湿性フィルムの通気度は、400〜8000sec/100ccの範囲であることが好ましい。
本実施の形態の除湿剤1は、除湿効果を発揮すると共に、AITによる防カビ及び防ダニの効果も発揮する。
【0025】
特に、所定の通気度を有する透湿性フィルム2bが袋体2の一部に用いられているため、水蒸気は、所定の通気度を有する透湿性フィルム2bの通気面を透過する。よって、CD−AITに触れる水分量を適度な量とすることによる防カビ等の効果を持続的に発揮する除湿剤が提供される。
【0026】
除湿剤1は、低湿度環境下でも、塩化カルシウム4の潮解作用により、袋体内に塩化カルシウム水溶液が生成される。
図2は、塩化カルシウムの量がCD−AITに対して少なすぎると、AITが十分に放出されない状況を説明するための模式図である。
図2の透湿性フィルム2b1の透湿性が高く、
図2に示すように、塩化カルシウムの量がCD−AITに対して少なすぎると、水溶液5の生成量が少なく、AITが十分に放出されない。
【0027】
図3は、高湿度環境下で、透湿性が高い、すなわち通気度が小さいときの、AITの放出速度が速くなる状況を説明するための模式図である。
透湿性フィルム2b1の透湿性が高く、
図3に示すように、塩化カルシウムの潮解速度が速く、AITの放出速度も速くなってしまう。
【0028】
図4は、高湿度環境下で、適切な通気度のフィルムを用いたときに、AITの放出速度が適切に調整される状況を説明するための模式図である。
図4に示すように、高湿度環境下でも、適切な通気度のフィルムを用いると、塩化カルシウム4の潮解速度が調整され、AITの放出速度が適切に調整される。
【0029】
すなわち、袋体2に適切な通気度のフィルムを用いることによって、塩化カルシウム4の潮解速度が調整され、AITの放出速度が適切に調整される。その結果、除湿剤1は、防カビ等の効果を持続的に発揮する。
(実施例)
次に、本発明の除湿剤の実施例について説明する。
【0030】
図5は、本実施例で用いた通気度の異なる複数の透湿性フィルム2bと臭気の試験結果を示す。
図5は、5つの実施例と、4つの比較例を示している。
図5の表は、通気度の異なる透湿性フィルム、内容物及び臭気(効果)の項目を有する。通気度は、sec/100ccの単位で示している。内容物は、袋体2内に収容される物質を示す。臭気(効果)は、試験結果の臭気を示す。
【0031】
図6は、
図5の5つの実施例及び4つの比較例の官能評価結果の時間変化を示すグラフである。
図6は、除湿剤を所定の環境下においてから8時間内における1時間毎の評価結果をプロットしたグラフである。
【0032】
この試験に用いた袋体2の透湿性フィルム2bの通気面のサイズは、95mm×110mmである。
通気度が0から25000sec/100ccの範囲の複数の透湿性フィルム2bを用いている。
【0033】
なお、通気度は、日本工業規格(JIS)のP8117に準拠して、計測した。計測は、王研式通気度計を用いた。
この試験に用いた袋体2内には、薬剤として、塩化カルシウム4を20g(グラム)、CD−AIT3を0.05g(グラム)を密封して収容した。これらの薬剤を、上記の通気面のサイズを有する袋体2内に収容して密閉して、高湿度環境下、ここでは、室温が25℃(すなわち摂氏25度)、相対湿度が80%の環境下で、AITの揮散状況を官能評価で確認した。
【0034】
評価は、5人の被験者により臭気強度のレベルを判定し、6段階評価をして5人の平均値を評価値とした。
図3の臭気強度のレベル0は、無臭のレベルを示し、レベル1は、やっと感知できるにおいのレベルを示し、レベル2は、何のにおいであるか分かる弱いにおいのレベルを示し、レベル3は、楽に感知できるにおいのレベルを示し、レベル4は、強いにおいのレベルを示し、レベル5は、強烈な臭いのレベルを示す。
【0035】
図6において、臭気強度が1から2の範囲の臭気は、ワサビ成分特有の刺激臭による不快感をユーザに与えずに、防カビ等の効果を発揮する。
臭気強度が2から3の範囲の臭気は、ワサビ成分特有の刺激臭をユーザが感じつつもユーザに不快感を与えずに、防カビ等の効果を発揮する。
【0036】
図5の表において、実施例1は、透湿性フィルム2bの通気度が30sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。実施例1の除湿剤の臭気は、AITの臭気を感知できる強さと判定された。
【0037】
実施例2は、透湿性フィルム2bの通気度が150sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。実施例2の除湿剤の臭気は、AITの臭気を感知できる強さと判定された。
【0038】
実施例3は、透湿性フィルム2bの通気度が400sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。実施例3の除湿剤の臭気は、弱く感知されるが、長時間に亘って安定して感知される強さと判定された。
【0039】
実施例4は、透湿性フィルム2bの通気度が1500sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。実施例4の除湿剤の臭気は、弱く感知されるが、長時間に亘って安定して感知される強さと判定された。
【0040】
実施例5は、透湿性フィルム2bの通気度が8000sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。実施例5の除湿剤の臭気は、弱く感知されるが、長時間に亘って安定して感知される強さと判定された。
【0041】
比較例1は、透湿性フィルム2bの通気度が0sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。比較例1の除湿剤の臭気は、短期間で強度が増し、AITの臭気を強く感知されるが、臭気は持続しないと判定された。
【0042】
比較例2は、透湿性フィルム2bの通気度が13000sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。比較例2の除湿剤の臭気は、ほとんど感知しないと判定された。よって、比較例2の除湿剤は、防カビ効果等も得られない。
【0043】
比較例3は、透湿性フィルム2bの通気度が25000sec/100ccであり、内容物は、CD−AITと塩化カルシウムの場合を示している。比較例3の除湿剤の臭気は、ほとんど感知しないと判定された。よって、比較例3の除湿剤は、防カビ効果等も得られない。
【0044】
比較例4は、透湿性フィルム2bの通気度が1500sec/100ccであり、内容物は、CD−AITのみの場合を示している。比較例4の除湿剤の臭気は、全くしないと判定された。比較例4の場合、袋体2内には塩化カルシウムがないため、塩化カルシウムの水溶液が袋体2内に生成されない。よって、CDの包接力が安定的に包接されるので、包接力が弱まることがなく、AITが放出されない。
【0045】
以上のように、通気度が30〜8000sec/100ccの通気度を有する透湿性フィルム2bを用いることにより、袋体2内に入り込む水蒸気の量が調整される。袋体2内に入り込む水蒸気の量が調整されることにより、塩化カルシウムの潮解性により生成される塩化カルシウムの水溶液の量が制御される。塩化カルシウムの水溶液の量が制御されると、AITの放出量が所定の範囲内に調整される。結果として、AITの放出量が、防カビ等の効果の得られる量であると共に、かつユーザが臭気を不快に感じない範囲に調整される。
【0046】
特に、400〜8000sec/100ccの通気度を有する透湿性フィルム2bを用いると、防カビ等の効果が長時間に亘り発揮される。
次に、CD−AITの量と塩化カルシウムの量の比を変えたときのAITの揮散状況を試験した結果を説明する。
【0047】
図7は、CD−AITの量と塩化カルシウムの量の比を変えたときのAITの揮散状況の試験結果を示す。
図7の表は、CD−AITの量と塩化カルシウムの量の比、及び臭気(効果)の項目を有する。
図8は、
図7の官能評価結果の時間変化を示すグラフである。
【0048】
この試験に用いた袋体2の透湿性フィルム2bの通気面のサイズは、95mm×110mmである。
ここでは、通気度が2200sec/100ccの透湿性フィルム2bを用いている。
【0049】
また、ここでは、0.05g(グラム)のCD−AITに対して塩化カルシウムの量を調整した。
なお、通気度は、日本工業規格(JIS)のP8117に準拠して、計測した。計測は、王研式通気度計を用いた。
【0050】
袋体2内には、薬剤として、CD−AITと塩化カルシウムの混合物を密封して収容した。これらの薬剤を、上記の通気面のサイズを有する袋体2内に収容して密閉して、高湿度環境下、ここでは、室温が25℃(摂氏25度)、相対湿度が80%の環境下で、AITの揮散状況を官能評価で確認した。
評価は、7人の被験者による臭気を、6段階評価をして7人の平均値を評価値とした。
図8の臭気強度のレベルの数値は、上述した
図6の臭気強度のレベルの数値と同じである。
【0051】
表において、実施例6は、CD−AITと塩化カルシウムの比率(重量比)が1:0.5の場合を示している。実施例6の除湿剤の臭気は、時間はかかるがにおいを感じる強さと判定された。
【0052】
実施例7は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:1の場合を示している。実施例7の除湿剤の臭気も、時間はかかるがにおいを感じる強さと判定された。
実施例8は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:5の場合を示している。実施例8の除湿剤の臭気は、においを感じる強さと判定された。
【0053】
実施例9は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:10の場合を示している。実施例9の除湿剤の臭気も、においを感じる強さと判定された。
実施例10は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:50の場合を示している。実施例10の除湿剤の臭気も、においを感じる強さと判定された。
【0054】
実施例11は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:100の場合を示している。実施例11の除湿剤の臭気も、においを感じる強さと判定された。
実施例12は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:1000の場合を示している。実施例12の除湿剤の臭気も、においを感じる強さと判定された。
【0055】
比較例5は、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:0の場合を示している。比較例5の除湿剤の臭気は、においを全く感じない強さと判定された。
以上から、CD−AITと塩化カルシウムの比率において、塩化カルシウムの量が低くても、時間が掛かってもにおいは感じされるので、防カビ等の効果はあると考えられる。
【0056】
図7の実施例6と7に示す塩化カルシウムの量が少ないものは、除湿効果は低いが、防カビ剤、あるいは防ダニ剤としては使用可能である。すなわち、防カビ又は防ダニ効果を有する成分物質と潮解性物質の重量比が、0.5から1である。
【0057】
図8においても、臭気強度が1から2の範囲の臭気は、ワサビ成分特有の刺激臭による不快感をユーザに与えずに、防カビ等の効果を発揮する臭気強度である。
臭気強度が2から3の範囲の臭気は、ワサビ成分特有の刺激臭をユーザが感じつつもユーザに不快感を与えずに、防カビ等の効果を発揮する臭気強度である。
【0058】
よって、塩化カルシウムの量が少ない実施例6と7の場合は、防カビ等の効果は、その効果が発揮されるまで時間は掛かっているが生じている。実施例8から12の場合、すなわち、CD−AITと塩化カルシウムの比率が1:5から1:1000までの場合は、防カビ等の効果は比較的早く発揮されている。
【0059】
図8から、塩化カルシウムの量が、塩化カルシウムの量がCD−AITの量の半分以上あれば、除湿剤1は、防カビ等の効果を生じ得る。
以上説明したように、所定の通気度を有する透湿性シートを少なくとも一部に有する袋体内に潮解性物質を、CD−AITと共に収容するので、潮解性物質の溶ける速度を調整することにより、一般家庭の収納空間における湿度環境において、AITを所定の速度で放出されるようにして、ユーザに臭気を感知させずに、防カビ等の効果を持続的に得ることができる。
【0060】
なお、上述した実施の形態では、シクロデキストリンにより包接される成分物質は、AITであるが、常温で揮発性があってかつ防カビ及び防ダニ効果を有する成分物質である、他の成分物質、例えば、チモール、ティーツリーオイル、ユーカリオイル、樟脳、等でもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態では、防カビ等の効果を有する除湿剤1を説明したが、上述した除湿剤1の製剤を、防カビ剤、あるいは防ダニ剤として使用してもよい。例えば、
図7に示す表の実施例6と7の製剤は、防カビ剤、あるいは防ダニ剤として使用することができる。その場合も、持続的な効果を得ることができる。
【0062】
さらにまた、上述した実施の形態では、除湿剤は、潮解性物質とCD−AITとを一緒に収容する袋体であるが、透湿性フィルムが一部に貼られた非透湿性樹脂の成型部材内に潮解性物質とCD−AITとを一緒に収容するタイプでもよい。
【0063】
図9は、非透湿性樹脂の成型部材を用いた除湿剤の構成図である。
図9の除湿剤1Aは、シクロデキストリン包接物と潮解性物質が、成型部材の容器11内に収容された除湿器である。
非透湿性樹脂の成型部材からなる容器11の内部空間IS内には、多数の小孔が形成された仕切板12が設けられている。容器11は、有底部を有し、上部に開口部を有する非透湿性樹脂の成型部材である。
【0064】
容器11の開口部に、上述した通気度を有する透湿性フィルム2bが一部に貼られている。
仕切板12の上部には、CD−AIT3と、塩化カルシウム4とが配置される。すなわち、CD−AIT3と塩化カルシウム4は、透湿性フィルム2bが一部に貼られた非透湿性樹脂の成型部材である容器11の内部空間IS内に封入され、仕切板12の上部に配置される。
【0065】
潮解性物質である塩化カルシウム4は、透湿性フィルム2bを介して水蒸気を吸収して、水溶液を生じる。潮解性物質の水溶液は、仕切板12の下部の内部空間IS1に溜まる。
よって、除湿剤、防カビ剤、あるいは防ダニ剤は、
図9に示すような構成でもよい。
【0066】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。