特許第6986991号(P6986991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6986991エレベーター及びエレベーター信号の伝送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6986991
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】エレベーター及びエレベーター信号の伝送方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 3/00 20060101AFI20211213BHJP
   B66B 9/10 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B66B3/00 U
   B66B9/10
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-25638(P2018-25638)
(22)【出願日】2018年2月16日
(65)【公開番号】特開2019-142603(P2019-142603A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩通
(72)【発明者】
【氏名】野口 直昭
【審査官】 今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−110842(JP,A)
【文献】 特許第5932092(JP,B1)
【文献】 特表2013−541477(JP,A)
【文献】 特開平07−010407(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/069969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00 − 3/02
B66B 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のレーンと第2のレーンで乗りかごを上昇或いは下降させる移動機構と,前記第1のレーンと前記第2のレーンの間で乗りかごを移動させる連絡機構と,前記乗りかごに搭載される無線端末と,前記第1のレーンを移動する乗りかごの無線端末と前記第2のレーンを移動する乗りかごの無線端末が共通的に信号を授受できるように,前記第1のレーンと前記第2のレーンに沿って配置されるアンテナを有し、
前記アンテナは漏洩同軸ケーブルである、
することを特徴とするエレベーター。
【請求項2】
請求項1において,前記第1のレーンを移動する乗りかごに搭載された無線端末と,前記第2のレーンを移動する乗りかごに搭載された無線端末のいずれに対してもパケット誤率が所定値以下となるように前記アンテナが配置されることを特徴とするエレベーター。
【請求項3】
請求項2において,前記第1のレーンの乗りかごの移動範囲及び前記第2のレーンの乗りかごの移動範囲に基づいて前記アンテナの上下端位置が定められていることを特徴とするエレベーター。
【請求項4】
請求項1において,前記第1のレーンは上昇或いは下降の一方の専用レーンであり,前記第2のレーンは他方の専用レーンであることを特徴とするエレベーター。
【請求項5】
請求項4において,前記第1のレーン及び前記第2のレーンは,2つのプーリの間を牽架された駆動ベルトによりかごを移動させることで構成されることを特徴とするエレベーター。
【請求項6】
請求項1において,前記アンテナは所定の間隔を置いて離散的に設置されることを特徴とするエレベーター。
【請求項7】
請求項1において,前記第1のレーンを移動する乗りかごに搭載された無線端末と前記アンテナを介して情報を授受すると共に,前記第2のレーンを移動する乗りかごに搭載された無線端末と前記アンテナを介して情報を授受する制御装置を有し,前記制御装置は前記移動機構を制御することを特徴とするエレベーター。
【請求項8】
請求項7において,前記アンテナを介した通信は,かごID及び信号データを含むフォーマットを利用してなされることを特徴とするエレベーター。
【請求項9】
第1のレーンと第2のレーンにおいて乗りかごが上昇或いは下降し,前記第1のレーンと前記第2のレーンの間で乗りかごが移動するエレベーターにおけるエレベーター信号の伝送方法であって,前記乗りかごに搭載される無線端末が,前記第1のレーンを移動する場合と前記第2のレーンを移動する場合とで乗りかごの無線端末と共通的に信号授受できるように前記レーンに沿って配置される漏洩同軸ケーブルであるアンテナを介して,制御装置に対して信号を送信し,前記アンテナを介して前記制御装置から信号を受信するエレベーター信号の伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エレベーター及びエレベーター信号の伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,エレベーターは,一つの昇降路に対して単一の乗りかごを配して,この単一の乗りかごを昇降させている。昇降路が単一のかごで占められるため,昇降路の利用率が比較的に低く運行効率が低かった。そのため,エレベーターの輸送能力を向上させるために,昇降路に複数の乗りかごを配して運行させるマルチカーエレベーターの実現が模索されている。
【0003】
マルチカーエレベーターの一つの形態では,昇降路内に,乗りかごを昇降させるレーンを複数設ける。そして,昇降路内で乗りかごの移動範囲を拡大するために,昇降方向の移動と水平方向の移動を組み合わせて,レーン間を乗りかごが移動できるように構成するものが知られている。このように構成することで,複数の乗りかごのうちのある乗りかごが昇降するときに,他の乗りかごが昇降路内の他のレーンで昇降されるので,乗りかごの移動の自由度が増して,利用率及び運行効率の向上が可能となる。このような技術は例えば,特開2006−111408号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−111408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレベーターでは,乗りかごと乗りかご外に設置される制御装置の間で各種信号を伝送するための伝送路が必要である。伝送路としては,一般的にテールコードあるいはトラベリングケーブルと呼ばれる多数の電線を束ねた部品により,乗りかごと制御装置とを接続するものが多い。しかしながら,マルチカー構成でテールコード等を用いた場合,他の乗りかごと干渉する恐れがある。
【0006】
そのため,各種信号をディジタルデータなどに変換して無線伝送することが考えられる。乗りかごと乗りかご外とで無線伝送を行うために,昇降路内に,乗りかごの移動方向に沿ってアンテナを配置することが考えられる。その一つの例として,昇降路と平行に漏洩同軸ケーブル(LCX)を設置するものがある。
【0007】
前述のマルチカーエレベーターにおいて,複数のレーンのそれぞれにアンテナを設置することも考えられるが,その場合,アンテナの構成が大掛かりで複雑になってしまう。
【0008】
本発明の目的は,上記問題を解消して,簡単な構成で信頼性向上が可能なエレベーター及びエレベーター信号の伝送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決するために,本発明では,第1のレーンと第2のレーンで乗りかごを上昇或いは下降させる移動機構と,前記第1のレーンと前記第2のレーンの間で乗りかごを移動させる連絡機構と,前記乗りかごに搭載される無線端末と,前記第1のレーンを移動する乗りかごの無線端末と前記第2のレーンを移動する乗りかごの無線端末が共通的に信号を授受できるように,前記第1のレーンと前記第2のレーンに沿って配置されるアンテナを有し、前記アンテナは漏洩同軸ケーブルで構成した。
【0010】
好ましくは,その一例を挙げるならば,一つの昇降路内に設置された上昇専用レーンならびに下降専用レーンと,前記上昇専用レーンと前記下降専用レーンの上端同士ならびに下端同士でそれぞれ接続する連絡路とを備え,前記上昇専用レーンならびに下降専用レーンおよび連絡路を複数の乗りかごが循環する構造とし,前記複数の乗りかごと,制御装置との間で,少なくとも制御用信号を無線伝送する手段を備えたエレベーターであって,前記無線伝送の手段は,前記複数の乗りかごのそれぞれに設置される無線端末と,前記制御装置に接続される無線端末と,前記制御装置に接続した無線端末に接続されるアンテナから構成され,さらに,前記アンテナは,前記上昇専用レーンを走行する前記乗りかごに設置された無線端末と,前記下降専用レーンを走行する前記乗りかごに設置された無線端末から,それぞれ水平面上の距離の差が所定の許容値より小さくなるように前記昇降路内の壁面に設置される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,乗りかごに搭載される無線端末との通信において簡単な構成で安定的な通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】LCXにおけるアンテナ機能の説明。
図2】本発明の第一の実施例におけるエレベーターの全体構成。
図3】本発明の第一の実施例における制御装置の構成。
図4】本発明の第一の実施例における信号伝送フォーマットの説明。
図5】本発明の第一の実施例におけるアンテナの平面設置条件の説明。
図6】本発明の第一の実施例におけるアンテナの平面設置条件の説明
図7】本発明の第一の実施例におけるアンテナの平面設置条件の説明
図8】本発明の第一の実施例におけるLCXの設置範囲の説明。
図9】本発明の第一の実施例における電磁波の放射角度の説明。
図10】本発明の第二の実施例におけるエレベーターの全体構成。
図11】本発明の第二の実施例における制御装置の構成。
図12】本発明の第二の実施例における信号伝送フォーマットの説明。
図13】本発明の第三の実施例におけるエレベーターの全体構成
図14】本発明の第三の実施例におけるアンテナの平面設置条件の説明。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,図面を用いて実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の第一の実施例として,循環型マルチカーエレベーターにおいて,LCXを用いて乗りかごと制御装置間の通信をする場合の構成例を示す。
【0015】
まず,本実施例のエレベーターを正面(乗り場方向)および側面からみた場合の全体構成について図2及び図3を用いて説明する。
【0016】
図2において,エレベーター1は,1つ以上の昇降路2と,昇降路2の外部に設けられた機械室10を備える。
【0017】
昇降路2の内部の上端および下端にはプーリ5が設置される(これらを昇降路2に固定するための構造部材類については図示を省略する。以下の構成要素についても同様)。プーリ5には,それぞれ環状の駆動ベルト4が1組掛けられ,駆動ベルト4には乗りかご3a,3bが締結される。なお,1組の駆動ベルトに締結される乗りかごの数は,本実施例において2台に限定される必要はない。
【0018】
駆動ベルト4は,例えば磁性体を含んで構成する。駆動手段12として,例えばリニアモータ等の,駆動ベルト4に誘導作用で推力を与えるものが用いられる。駆動ベルト4は駆動手段12によって推力を与えられ,プーリ5に巻き掛かりながら回転する。それに伴い,駆動ベルト4に締結された乗りかご3a,3bが昇降路内を昇降する。上方階に移動する乗客と下方階に移動する乗客を分け,運行をスムーズにする目的で,乗りかごを原則として一方向のみに回転させるよう,制御装置11により駆動手段12を制御することとする。これにより,昇降路2内では,上昇用のレーンと下降用のレーンが分離される。
【0019】
上昇用レーンの上端及び下降用レーンの下端に到達した乗りかごは,駆動ベルト4とともにプーリ5に巻き掛かりながら他方のレーンに移動し,昇降方向が反転する。
【0020】
機械室10には制御装置11が設置される。図3に制御装置11の詳細構成を示す。制御装置11は,運行制御部110,駆動制御部111,安全回路112を具備する。また,運用形態に合わせて,群管理部113及び監視・管制部114を具備する場合がある。運行制御部110は,乗り場からの呼びまたは乗りかご内の乗客からの行き先指定または後述する群管理部113からの配車指令に基づいて乗りかご3a,3bの移動目標階とそこへ向けた目標速度を決定し,前記目標速度を得るための推力指令を駆動制御部111へ伝達する。前記目標速度と推力指令は,乗りかご3a,3bの位置と速度を監視しながら時々刻々更新される。また,乗りかご3a,3bが目標階に到着した場合は,乗降動作のため,乗りかごのドア開閉指令などを駆動制御部111へ伝達する。
【0021】
駆動制御部111は,信号線及び給電線により駆動手段12と接続され,運行制御部110からの推力指令に従って駆動ベルト4に推力を与えるため,駆動手段12への出力電力を生成する。また,ドア開閉指令に従い,当該乗りかごのドアの開閉速度及び目標トルクを生成する。
【0022】
安全回路112は,乗客や運行の安全を確保するため,乗りかご3a,3bの内外や昇降路2の内外(機械室10を含む)の状態及び制御装置11の健全性を監視し,運行の可否を判定するように構成された電子回路ないしはソフトウェアである。安全な運行に支障がある状態が検知された場合には,乗りかご3a,3bの制止や運行動作の制限などを含む所定の安全動作を実行する。
【0023】
群管理部113は,乗客を効率的かつ快適に輸送する目的で設けられ,他の複数のエレベーター1と連動させる制御を行う。例えば,各階乗り場からの呼び状態に基づき,乗客の待ち時間を極小とするように各階への乗りかごの配車を調整して,その結果を配車指令として各エレベーターの運行制御部110に伝える。
【0024】
監視・管制部114は,エレベーター1の運行状態や各装置の健全性などの保守・保全情報を収集し,通信回線(図示せず)を介してセンタ等へ送信する。また,災害や故障などの緊急事態の際に,センタからの指令に応じた管制運転を運行制御部110と連携して実行したり,保守員の操作により,保守・点検作業で用いられる特殊な運転モードに移行したりする。
【0025】
なお,実際の設計では,制御装置11及び以上説明した運行制御部110〜監視管制部114の一部または全部が機械室10の外部,例えば昇降路2の内部や乗りかご3a,3b,またはその他の場所に設置されることがあるが,本発明の実施を妨げるものではない(以降の実施例でも同様)。
【0026】
前述した運行制御部110,駆動制御部111,安全回路112の動作に必要な信号や情報のうち,乗りかご3a,3bに関するもの(後述)は,それぞれ伝送制御部120と接続される。伝送制御部120は,前記の信号や情報を乗りかご3a,3bから取得し,また乗りかご3a,3bへ伝達するための送受信手順及びその際のデータフォーマットを管理する。
【0027】
無線アクセスポイント21は伝送制御部120と信号線で接続され,さらに,昇降路2に設置されたLCX22とも信号線で接続される。すなわち,無線アクセスポイント21と乗りかご3a,3bの無線端末30a,30bとを接続するために,昇降路内に乗りかご3a,3bの移動方向と平行に設置した漏洩同軸ケーブル(LCX/eaky oaial Cable)を用いている。
【0028】
乗りかご3a,3bの上部には,それぞれ無線端末30a,30bが搭載される。無線端末30a,30bはそれぞれ,乗りかご3a,3bに搭載される機器群(図示せず)と各々信号線で接続する。前記機器群は,例えば行先階ボタンの操作状態や,ドアの開閉状態,乗りかごの現在位置などの信号や情報を収集し,無線端末30a,30bからLCX22,無線アクセスポイント21を通じた無線通信によって,伝送制御部120へ伝送する。また,伝送制御部120からは,例えば,乗りかごドアの開閉指令や,現在階床の表示情報などの信号や情報を,無線アクセスポイント21からLCX22,無線端末30a,30bを通じた無線通信によって,前記機器群へ伝送する。
【0029】
信号伝送に適用する通信技術は,伝送対象の信号に関する要件,すなわち伝送容量や伝送遅延などに鑑みて,任意に選択してよい。例えば,IEEE802.11シリーズのいわゆる無線LANや,920MHz帯の小電力無線などが候補になりうる。LCX22は,選択した通信技術で用いる周波数に適合したものを選択する。
【0030】
無線アクセスポイント21と無線端末30a,30bとの間の信号伝送は,同一の周波数または周波数帯を用いてもよく,また,必要に応じてそれぞれ異なる周波数または周波数帯を割り当ててもよい。
【0031】
伝送制御部120は,上記に基づき選択した通信技術による通信路上で,例えば図4に示すフォーマットを用いて信号を伝送する。
【0032】
信号伝送フォーマット200は,ヘッダ201,かごID202,シーケンス番号203,伝送状態フラグ204,信号データ部205及び誤り検出/訂正符号206から構成される。
【0033】
ヘッダ201は,エレベーターの信号伝送を他の無線通信から識別するために用いる特定の値であるが,後述する無線通信技術の持つヘッダで代用してもよい。
【0034】
かごID202は,送受信手順において乗りかご3a,乗りかご3bおよび制御盤11を区別するための識別子である。
シーケンス番号203と伝送状態フラグ204は,信号伝送の状態を管理する情報であり,それぞれ,信号データの欠落や重複の検出,相手に対するエラーの通知などに利用する。
【0035】
信号データ部205は伝送される信号の本体であり,スイッチのON/OFF状態やセンサの検出値,アクチュエータへの出力指令値,表示装置への出力値などがディジタルデータの形で格納される。
【0036】
誤り検出/訂正符号206は,受信側の乗りかごあるいは制御盤において,受信した信号データの誤りを検出もしくは訂正するために用いられる確認用の値である。誤り検出/訂正符号としては,CRC,ハミング符号,畳み込み符号その他の既存技術やその組み合わせを任意に採用してよい。ただし,伝送対象信号のビット数,伝送路のビット誤り率,要求される信頼性などに基づいて前記符号のパラメータを選定する必要がある。
【0037】
次に,LCX22の配置に関して説明する。図5は,昇降路2の内部を上から見た状態の平面図である。本実施例では図示していないが,各階の乗り場は正面にのみ開口しているものとする。
【0038】
駆動ベルト4は乗りかご3a,3bの各々の対角に乗りかご締結部6によって締結され,オフセットして配置されたプーリ5にそれぞれ巻き掛けられる。
【0039】
乗りかご3a,3bの上部には,前述の通り無線端末30a,30bが設置される。本実施例では,無線端末を乗りかごの背面側端部に設置している。これは,LCX22からなるべく近くに設置することで,離隔距離による電磁波の減衰を抑えることを意図したものである。実際は,乗りかごに設置される他の機器の配置も考慮し,信号伝送に支障のない範囲で任意に決定してよい。ただし,電磁波の減衰量のばらつきを抑えるため,各乗りかごにおける無線端末の取り付け位置は揃えることが望ましい。よって,LCX22は,無線端末30a,30bの設置位置から等距離となるように設置することが最も望ましい。次に望ましい形態として,LCX22の無線端末30a,30bに対する相対的な設置位置は順を追って説明する。
【0040】
LCX22は,昇降路2の内部に,乗りかごの走行方向,すなわち鉛直方向に沿って設置する。このとき,信号伝送の速度および信頼性に関する仕様値を満たすように水平面内の設置位置を決定する必要がある。以下,その手順を説明する。
【0041】
まず,昇降路内におけるLCX22の大まかな設置位置について検討する。LCX22は一般の同軸ケーブルと類似の構造であり,図1に示すように,金属の線またはパイプの内部導体101を絶縁体102及び外部導体103,さらに,図示しない樹脂のシースで囲んだものである。同軸ケーブルの外部導体103には,スロット104と呼ばれる開口部を設けられている。LCX22に入力された電気信号が内部を伝搬していく際に,その一部がスロット104から電磁波として外部空間へ放射されることでアンテナとして機能する。外部空間へ放射される電磁波は,図9に示すように,ケーブル内での伝搬方向に対し,スロットの形状や配置及び電磁波の周波数に依存する一定の角度θをなす。
【0042】
LCX22の外部に放射される信号の強度は,LCX内を伝搬する信号の強度との比(結合損失)で表される。その値は製品設計により異なるが,典型的には,ケーブルから1.5mの離隔距離において−50〜−70dB程度とされている。また,LCX22から放射される電磁波の強度は,おおむねLCXからの離隔距離に反比例して減衰することが知られており,ケーブルからの離隔距離が2倍になるごとに受信電力は約3dB低下する。
【0043】
信号の伝送に免許が不要な小電力の電磁波を用いる場合,上記の離隔距離による減衰が無視できなくなる場合がある。例えば,改訂版802.11高速無線LAN教科書,株式会社インプレスR&D刊に示されるように,信号電力が雑音電力に対して3dB(約2倍)低下するごとに,パケット誤り率(PER)が10倍となる実測結果が示されている。すなわち,同一環境であっても,アンテナであるLCX22の配置によって信号伝送の信頼性が大きな影響を受けるということである。
【0044】
また,5GHz帯無線LANとして知られるIEEE802.11aでは,通信速度の選択肢に対してそれぞれ最小受信感度が既定されており,信号電力がそれを下回る場合にはその速度で通信することができない。例えば,6MBpsで通信する際には−82dBm以上の受信電力が必要であるのに対して,12Mbpsで通信する場合には2倍の強度となる−79dBm以上が要求される。
【0045】
従って,エレベーターの昇降路内で無線による信号伝送を行う際,十分な伝送速度や信頼性を全行程にわたって確保するためには,上り方向の乗りかごと下り方向の乗りかごで離隔距離による減衰量の偏りを可能な限り小さくする必要がある。このような観点に立ったLCXの設置位置を決定する必要がある。
【0046】
なお,2点間通信で用いられるダイポール型やホイップ型などの一般的なアンテナの場合,放射される電磁波は,アンテナからの離隔距離の2乗ないし3乗に反比例して減衰することが知られている。従って,無線による信号伝送をLCXではないアンテナで行う場合であっても,アンテナの配置により,上り方向の乗りかごと下り方向の乗りかごで減衰量の偏りが生じる場合が生じる。
【0047】
LCXの配置によって,乗りかごとの無線信号伝送の速度および信頼性が全行程にわたって確保されるようにする観点から,上り方向の乗りかごと下り方向の乗りかごで電磁波の強度を平準化する。
【0048】
図5に示す昇降路レイアウトの場合,LCX22を設置できる可能性があるのは昇降路の内壁26〜28及び乗りかご3a,3bの中間スペース29のいずれかとなる。これらのうち,側面の内壁27に配置すると乗りかご3a,3bが同じ高さとなる近辺において,LCX22から見て無線端末30aが乗りかご3bの影になってしまうので(LCX22が反対側の壁面にある場合には,無線端末30bが乗りかご3aの影になる),図6のように配置することで,乗りかご3a,3bの位置によらず見通しを確保できる。側面の内壁27へ設置すると無線端末23bが乗りかご3aの影になるので,側面の内壁27への設置は採用せず,背面の内壁28にLCX22を設置することとする。
【0049】
背面の内壁28を用いる場合,障害物による遮蔽がなく,かつ,無線端末30aと無線端末30bがともにLCX22と同方向であるため,無線端末側のアンテナに適切な指向性(例えば90度。無線端末とLCXとの離隔距離に依存する)を持たせることで,乗りかごの位置によらず安定な信号伝送が可能となる。正面の内壁26でも同様であるが,LCX22が乗り場の開口部にかからないようにするため,設置位置の制約が生じる。
【0050】
また,中間スペース29を用いる場合も障害物による遮蔽は受けないが,無線端末30aと無線端末30bでは,LCX22に対する方向が逆となるため,水平面に関して無指向性のアンテナ(オムニアンテナ)か,常にLCX22の方向に電磁波を放射するように構成した指向性アンテナを無線端末に搭載する必要がある。前者は電磁波を全方向に放射するため,信号伝送に寄与する電力成分が少なく,十分な信頼性が得られない。また,後者では乗りかごの位置に合わせて指向性を変化させる機構が必要となり,無線端末が複雑化・大型化するデメリットが生じる。
【0051】
次に,詳細な設置位置を決定するため,無線端末30a,30bとの水平方向の離隔距離に関する許容値を導出する。図7において,無線端末30aと無線端末30bの中間線50を0[m]とした,背面の内壁28におけるLCX22の設置位置をx[m]とする(図右側を正方向とする)。また,無線端末30a,30bの設置位置から背面側の壁面28に下ろした垂線の位置をそれぞれx1[m]とx2(=−x1)[m],両垂線の長さをy[m]とする。
【0052】
このとき,無線端末30a,30bとLCX22との離隔距離d1[m]とd2[m]はそれぞれ,
d1=sqrt((x−x1)+y) …(式1)
d2=sqrt((x−x2)+y) …(式2)
である(sqrtは平方根)。さらに,無線アクセスポイント21の送信電力をp0[dBm],LCX22の伝送損失及び離隔距離1.5mにおける結合損失をそれぞれlt[dBm],lc[dBm]とすれば,無線端末30a,30bの設置位置における受信電力p1[dBm]とp2[dBm]はそれぞれ,
p1=p0−lt−lc−log10(d1/1.5) …(式3)
p2=p0−lt−lc−log10(d2/1.5) …(式4)
と算出される(log10は10を底とした対数)。
【0053】
さらに,無線アクセスポイント21から無線端末30a,30bへの信号伝送におけるPERが,受信電力pr[dBm]の場合にe0[−]であった場合,受信電力p1及びp2におけるPERはそれぞれ,上記で述べた関係を用いて,
e1=e0×10^((pr−p1)/3) …(式5)
e2=e0×10^((pr−p2)/3) …(式6)
と導出される。
【0054】
以上説明した各関係式の定数にある条件を設定した例において,横軸にx,縦軸をp1とp2,及びそれらに対応するPERとしてプロットしたものを図8に示す。
【0055】
エレベーター1として求められる信号伝送の信頼性より,例えばPERが10^−3以下であることが必要であるならば,LCX22の設置位置xは,e1とe2がいずれも10^−3以下である領域,すなわち図8の網掛け部分で示す範囲である必要があることが導かれる。
【0056】
また,乗りかご3a,3bが行程のどこにあっても無線端末30a,30bがLCX22から放射される電磁波を受信できるようにするため,LCX22の鉛直方向の設置範囲についても条件を定める。具体的には,図9に示すように,LCX22のそれぞれ上端及び下端から,上記で述べた電磁波の放射角度θで延長した線上に,乗りかご3a,3bが最上点および最下点に達したときの無線端末30a及び無線端末30bが来るようにLCXを設置する。もちろん,LCX22の上下端を前記の範囲より広くとってもよい。
【0057】
以上説明したように,上り方向,下り方向それぞれの乗りかごに搭載される無線端末から水平面上で等距離になるようにLCX22を設置する構成とすることで,LCX22から放射される電磁波が各無線端末に達するまでの減衰量を同程度とすることができ,乗りかごの全行程にわたり,制御装置と各かごとの間で信号や情報を無線伝送する際の速度と信頼性を確保することができる。
【0058】
以上の通り,本実施例では,まず無線伝送の伝送速度および信頼性に関する仕様値を満たすように,昇降路内に設置するアンテナと乗りかごに設置される無線端末との水平方向の距離の許容値を決定する。次いで,前記乗りかごが上昇専用レーンを走行する場合と下降専用レーンを走行する場合との差が前記算出した許容値以内となるように,前記アンテナの前記昇降路内における設置位置を決定する。以上により,前記アンテナから上り方向の乗りかごと下り方向の乗りかごに対して放射される電磁波の強度の差を最小限とすることができ,乗りかごの全行程において安定した速度と信頼性で信号伝送を行うことができる。
【実施例2】
【0059】
本発明の第二の実施例として,循環型マルチカーエレベーターにおいて乗りかごの数を増やした場合の構成を以下説明する。以下に示す実施例では第一の実施例と異なる部分を説明する。よって説明が省略された部分は第一の実施例と同様である。
【0060】
図10に,第二の実施例におけるエレベーター1の全体構成を示す。基本的な構成は第一の実施例と同様であるが,プーリ5に3組の駆動ベルト4a〜4cが巻きかかっている。駆動ベルト4aには乗りかご3aと3d,駆動ベルト4bには乗りかご3bと3e,駆動ベルト4cには乗りかご3cと3fがそれぞれ締結されている。駆動手段12は駆動ベルト4a〜4cをそれぞれ独立に制御可能なように拡張されており,これにより6台の乗りかごを運行可能としている。
【0061】
図11において3組の駆動ベルトを独立に運行できるよう,制御盤11の構成も拡張される。具体的には,各駆動ベルトに対応して,運行制御部110a〜110c,駆動制御部111a〜111c,安全回路112a〜112cが設けられる。
【0062】
なお,設置される駆動ベルトは,本実施例において3組に限られるものではなく,エレベーター1として要求する輸送能力及びその他の条件に基づいて任意に決定することができる。
【0063】
伝送制御部120は,第一の実施例と同様に,上記の各機能が参照・生成する信号や情報を無線アクセスポイント21,LCX22,無線端末30a〜30fを通して乗りかご3a〜3fにそれぞれ搭載される機器群と相互に伝送するよう構成される。これらの信号伝送は,全て同一の周波数または周波数帯を用いてもよく,また,必要に応じて乗りかごごと,駆動ベルトごと,あるいはその他の基準により分割し,その各々に異なる周波数または周波数帯を割り当ててもよい。複数の周波数または周波数帯を用いる場合,その全てで1本のLCX22を共用してもよく,また,複数本のLCX22を設置し,そのそれぞれに1つ以上の周波数または周波数帯を割り当ててもよい。
【0064】
前記の信号伝送に用いるフォーマットとして,例えば図12に示すフィールド構成を採用する。ループID210のフィールドが追加されている点を除いて,第一の実施例で説明したものと同じフィールド構成を用いる。ループIDは,信号伝送を行う乗りかごがどの駆動ベルトに締結されているかを示す識別子である。前述の通り,6台の乗りかごは2台ずつ3組の駆動ベルトに締結されることから,運行制御に必要な乗りかごの位置情報やかご内機器の状態,駆動指令なども対応する駆動ベルトを単位として管理するためである。
【実施例3】
【0065】
LCXは,長手方向にわたり連続的に電磁波を放射するため,同方向における伝送品質の変動が少なく,移動体を対象とする信号伝送に適する。しかしながら,エレベーターに適用する場合,乗りかごの移動範囲全体に沿って設置する必要があるため,部材コスト高・設置コスト高となるケースがある。
【0066】
第三の実施例では,それを踏まえ,通常のアンテナを用いた構成について述べる。本実施例において「通常のアンテナ」とは,前述のLCXに対し,電磁波の放射部分が伝送範囲よりも十分小さく,高々数m以下であるものの総称として用いる。具体的には,ダイポールアンテナ,ロッド(ホイップ)アンテナ,八木アンテナ,パラボラアンテナやそれらの派生形などが想定されるが,これらに限定されない。
【0067】
通常のアンテナを用いて信号伝送系を構成したエレベーター1を図13に示す。駆動ベルト4を用いる乗りかごの駆動系,制御盤11から無線アクセスポイント21及び無線端末30a,30bによる信号伝送系は,図2に示す第一の実施例と同様である。
【0068】
本実施例における無線伝送の手段は,無線アクセスポイントに信号線を介して接続されるアンテナ24であり,前述した通常のアンテナをこれに用いる。アンテナ24はレーンに沿って鉛直方向に設けられている。図13では,アンテナ24は2つのみ記載されているが,長行程のエレベーターに適用する場合,アンテナ24を鉛直方向に3以上の複数設けて信号伝送が途切れないようにしてもよい。
【0069】
アンテナ24から放射される電磁波は,離隔距離の2乗ないし3乗に反比例して減衰するため,乗りかごがどの位置にあっても上記の最小受信感度異常となるようにアンテナ24の間隔を選定する。また,無線アクセスポイント21から最も近いアンテナ24以外については,無線アクセスポイント21が出力する電磁波あるいはその生成に用いる制御信号を信号線により中継器25へ入力し,中継器25にて前記電磁波を直接増幅するか,前記制御信号を用いて電磁波を生成して該アンテナ24に供給する。
【0070】
昇降路2内におけるアンテナ24の設置例を図14に示す。アンテナ24を設置する際の水平位置は,第一の実施例と同様に,無線端末30a,30bの設置位置から等距離となるように設置することが最も望ましい。実際の設置においては,アンテナ24を設置する際の水平位置は,第一の実施例と同様に,アンテナ24と無線端末30a,30bとの離隔距離によって求められる受信電力から各無線端末におけるPERを導出し,それがエレベーター1における信頼性要件を満たす範囲に収まるよう決定する。
【0071】
以上の説明において,構成に関して特段の断りがない機能や手段は,電気回路,電子回路,論理回路,およびそれらを内蔵した集積回路のほか,マイコン,プロセッサ,及びこれらに類する演算装置と,ROM,RAM,フラッシュメモリ,ハードディスク,SSD,メモリカード,光ディスク及びこれらに類する記憶装置と,バス,ネットワーク及びこれらに類する通信装置,及び周辺の諸装置の組み合わせによって実行されるプログラムによって実現してもよく,いずれの実現態様でも本発明は成立し得ることに留意されたい。
【0072】
また,本発明は上記した実施例に限定されるものではなく,様々な変形例が含まれる。例えば,上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり,必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また,ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり,また,ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また,各実施例の構成の一部について,他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 エレベーター
2 昇降路
3 乗りかご
4 駆動ベルト
5 プーリ
6 乗りかご締結部
10 機械室
11 制御装置
12 駆動手段
21 無線アクセスポイント
22 LCX(漏洩同軸ケーブル)
23 無線端末
24 アンテナ
25 中継装置
26〜28 昇降路内壁
29 中間スペース
50 無線端末間の中間線(設置位置基準点)
110 運行制御部
111 駆動制御部
112 安全回路
113 群管理部
114 監視・管制部
120 伝送制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14