特許第6987005号(P6987005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987005
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】電縫金属管の製造設備及び方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 37/08 20060101AFI20211213BHJP
   B23K 13/00 20060101ALI20211213BHJP
   B23K 13/02 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B21C37/08 A
   B23K13/00 A
   B23K13/02
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-53044(P2018-53044)
(22)【出願日】2018年3月20日
(65)【公開番号】特開2019-162656(P2019-162656A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592260572
【氏名又は名称】日鉄めっき鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】面迫 浩次
(72)【発明者】
【氏名】秋月 誠
(72)【発明者】
【氏名】井川 茂信
(72)【発明者】
【氏名】牧原 保雅
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒太
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−126923(JP,A)
【文献】 特開昭63−317212(JP,A)
【文献】 実開昭52−125031(JP,U)
【文献】 実開昭62−025007(JP,U)
【文献】 特開2011−230141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/08
B23K 13/00
B23K 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側の側端を互いに突き合わせるように金属帯を湾曲させてオープンパイプを形成するとともに、前記オープンパイプを構成する前記金属帯の前記側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造するための電縫金属管の製造設備であって、前記側端には、前記電縫金属管の内面側に位置する内面側角部が設けられており、
前記金属帯の両側に配置され、前記側端が突き合わされる前に前記内面側角部に押し当てられて、前記内面側角部に傾斜面を形成するための一対のクラッシングロールと、
前記一対のクラッシングロールの離間距離を変更して、前記内面側角部への前記クラッシングロールの押し当て荷重を調整するためのクラッシングロール調整機構と、
前記内面側角部への前記クラッシングロールの押し当て荷重を計測するためのクラッシングロール荷重計と
を備え
前記一対のクラッシングロールは、一対のロールスタンドにそれぞれ回転自在に支持されており、
前記クラッシングロール調整機構は、
前記一対のロールスタンドにそれぞれ接続された一対の基台と、
前記一対の基台にそれぞれ取り付けられた第1及び第2軸受と、
長手方向に係る両端部が前記第1及び第2軸受によって回転自在に支持されたボールねじと
を有しており、
前記ボールねじの回転により前記基台が前記金属帯の幅方向に互いに近づく方向及び離れる方向に変位されることによって、前記クラッシングロールの離間距離が調整できるように構成されている、
電縫金属管の製造設備。
【請求項2】
前記クラッシングロール荷重計は、前記金属帯の幅方向に係る両側又は片側の前記ロールスタンドと前記基台との間に挿入されている、
請求項1に記載の電縫金属管の製造設備。
【請求項3】
両側の側端を互いに突き合わせるように金属帯を湾曲させてオープンパイプを形成するとともに、前記オープンパイプを構成する前記金属帯の前記側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造するための電縫金属管の製造方法であって、前記側端には、前記電縫金属管の内面側に位置する内面側角部が設けられており、
前記側端を突き合わせる前に、前記金属帯の両側に配置された一対のクラッシングロールを前記内面側角部に押し当てて前記内面側角部に傾斜面を形成する工程と、
前記一対のクラッシングロールを前記内面側角部に押し当てる前に、前記一対のクラッシングロールの離間距離を変更して、電縫溶接後の金属管の余盛に残存する傾斜面を前記内面側角部に形成するように、前記一対のクラッシングロールが前記内面側角部に押し当てられる際の押し当て荷重を調節する工程と
を含む、電縫金属管の製造方法。
【請求項4】
前記一対のクラッシングロールを前記内面側角部に押し当てる際の押し当て荷重を監視する工程をさらに含む、
請求項記載の電縫金属管の製造方法。
【請求項5】
前記金属帯が、引張強さが750MPa級の金属帯であるとき、19kN以上かつ32kN未満の押し当て荷重で前記一対のクラッシングロールを前記内面側角部に押し当てる、
請求項又は請求項に記載の電縫金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯の側端を突き合わせた後に側端を溶接して電縫金属管を製造する電縫金属管の製造設備及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種の電縫金属管の製造設備及び方法としては、例えば下記の特許文献1等に示されている構成を挙げることができる。すなわち、従来構成では、ペネトレータを溶接部から除くために、金属帯の側端にテーパ形状を付与した後に電縫溶接を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−105075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来構成のように溶接部からペネトレータを取り除いても、例えば90°曲げ等の過酷な加工を電縫溶接管に施した場合に電縫溶接管の溶接部にクラックが生じることがあった。
【0005】
溶接部のクラックを詳細に調査したところ、以下のような新たな知見を得た。すなわち、溶接部から排出された排出メタルは熱の影響により靱性が低下しており、過酷な加工により排出メタルにクラックが生じやすい。クラックが生じた溶接部を観察したところ、排出メタルに生じたクラックが余盛を通して母材に伝播していた。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、排出メタルにクラックが生じる場合であっても、母材までクラックが伝播することを回避できる電縫金属管の製造設備及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電縫金属管の製造設備は、両側の側端を互いに突き合わせるように金属帯を湾曲させてオープンパイプを形成するとともに、オープンパイプを構成する金属帯の側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造するための電縫金属管の製造設備であって、側端には、電縫金属管の内面側に位置する内面側角部が設けられており、金属帯の両側に配置され、側端が突き合わされる前に内面側角部に押し当てられて、内面側角部に傾斜面を形成するための一対のクラッシングロールと、一対のクラッシングロールの離間距離を変更して、内面側角部へのクラッシングロールの押し当て荷重を調整するためのクラッシングロール調整機構と、内面側角部へのクラッシングロールの押し当て荷重を計測するためのクラッシングロール荷重計とを備え、一対のクラッシングロールは、一対のロールスタンドにそれぞれ回転自在に支持されており、クラッシングロール調整機構は、一対のロールスタンドにそれぞれ接続された一対の基台と、一対の基台にそれぞれ取り付けられた第1及び第2軸受と、長手方向に係る両端部が第1及び第2軸受によって回転自在に支持されたボールねじとを有しており、ボールねじの回転により基台が金属帯の幅方向に互いに近づく方向及び離れる方向に変位されることによって、クラッシングロールの離間距離が調整できるように構成されている。
【0008】
本発明に係る電縫金属管の製造方法は、両側の側端を互いに突き合わせるように金属帯を湾曲させてオープンパイプを形成するとともに、オープンパイプを構成する金属帯の側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造するための電縫金属管の製造方法であって、側端には、電縫金属管の内面側に位置する内面側角部が設けられており、側端を突き合わせる前に、金属帯の両側に配置された一対のクラッシングロールを内面側角部に押し当てて内面側角部に傾斜面を形成する工程と、一対のクラッシングロールを内面側角部に押し当てる前に、一対のクラッシングロールの離間距離を変更して、電縫溶接後の金属管の余盛に残存する傾斜面を内面側角部に形成するように、一対のクラッシングロールが内面側角部に押し当てられる際の押し当て荷重を調節する工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電縫金属管の製造設備及び方法によれば、一対のクラッシングロールにより内面側角部に傾斜面が形成されるので、電縫溶接後の金属管の余盛に傾斜面を残存させて、排出メタルを余盛と非溶着とすることができる。これにより、排出メタルにクラックが生じる場合であっても、母材までクラックが伝播することを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1による電縫金属管の製造方法を実施するための電縫金属管製造装置を示す説明図である。
図2図1のエッジクラッシュ設備3の要部を示す正面図である。
図3図2の金属帯1の側端を拡大して示す断面図である。
図4図1のクラッシング設備4を示す正面図である。
図5図4のクラッシングロールを拡大して示す正面図である。
図6図5の金属帯1の側端を拡大して示す断面図である。
図7図1の溶接設備6による電縫溶接後の金属管の断面図である。
図8図7の金属管の溶接部を拡大して示す断面図である。
図9】電縫金属管における第2傾斜面の残存幅と押し当て荷重との関係を示すグラフである。
図10】溶接部の各部の寸法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1による電縫金属管の製造方法を実施するための電縫金属管製造装置を示す説明図である。図1の電縫金属管製造装置は、平板状の金属帯1から電縫金属管2を製造するための装置である。この電縫金属管製造装置には、エッジクラッシュ設備3、クラッシング設備4、フォーミングロール群5、溶接設備6、外面ビード切削器7及びシームアニール設備8が設けられている。
【0013】
エッジクラッシュ設備3及びクラッシング設備4は、金属帯1の側端の形状を矯正するための設備である。これらエッジクラッシュ設備3及びクラッシング設備4については、後に図面を用いて説明する。
【0014】
フォーミングロール群5は、複数のフォーミングロールによって構成されるものであり、金属帯1の搬送方向1aに係るクラッシング設備4の下流側に配置されている。エッジクラッシュ設備3及びクラッシング設備4で側端の形状が矯正された金属帯1は、フォーミングロール群5で徐々に湾曲されてオープンパイプ5aとされる。オープンパイプ5aは、金属帯1の幅方向に沿う両側の側端を互い突き合わせたものであり、それら側端が突き合わされた部分に開口を有する断面C字状の管体である。
【0015】
溶接設備6は、金属帯1の搬送方向1aに係るフォーミングロール群5の下流側に配置された設備であり、加熱コイル60及び一対のスクイズロール設備61を有している。加熱コイル60は、高周波電流が通されるコイルである。加熱コイル60の内側をオープンパイプ5aが通されるとき、オープンパイプ5aを構成する金属帯1の側端が加熱(高周波加熱)されて溶融される。スクイズロール設備61は、オープンパイプ5aの外周を拘束するための設備であり、加熱コイル60における加熱で溶融されたオープンパイプ5aにおける金属帯1の側端を互いに押し当てて接合する(溶接する)。すなわち、本実施の形態の電縫金属管製造装置では、金属帯1の側端を突き合わせた後に側端を高周波加熱により溶接して電縫金属管を製造する。
【0016】
外面ビード切削器7は、金属帯1の搬送方向1aに係る溶接設備6の下流側に配置されており、電縫溶接後の金属管(溶接設備6の直後の金属管)の外面ビードを切削するための機器である。外面ビード切削器7は、外面ビードを切削するための刃物を含む。本実施の形態の電縫金属管製造装置では、電縫溶接後の金属管の内面ビードは切削されない。
【0017】
シームアニール設備8は、金属帯1の搬送方向1aに係る外面ビード切削器7の下流側に配置されており、金属管の溶接部にアニール処理(焼きなまし処理)を施すための設備である。アニール処理では、溶接部の内部ひずみを除去するように溶接部が加熱される。
【0018】
本実施の形態の電縫金属管2は、シームアニール設備8にてアニール処理を受けた後の金属管である。図示はしないが、金属管の大きさ及び形状を矯正する矯正設備がシームアニール設備8の後段に設けられていてもよい。矯正設備が設けられる場合、矯正設備における矯正後の金属管が電縫金属管2に相当する。
【0019】
次に、図2図1のエッジクラッシュ設備3の要部を示す正面図であり、図3図2の金属帯1の側端を拡大して示す断面図である。図2に示すように、エッジクラッシュ設備3には、金属帯1の側端の形状を矯正するための一対のエッジクラッシュロール30が設けられている。エッジクラッシュロール30は、金属帯1の幅方向1bに互いに離間して配置されている。幅方向1bは、搬送方向1aに直交する方向である。金属帯1は、エッジクラッシュロール30の間を通される。
【0020】
エッジクラッシュロール30には、エッジクラッシュロール30の回転軸に対して傾斜して延在されたエッジクラッシュ面30aが設けられている。金属帯1がエッジクラッシュロール30の間を通されるとき、エッジクラッシュ面30aが金属帯1の側端に押し当てられて金属帯1の側端に第1傾斜面101図3参照)が形成される。
【0021】
図3に示すように、金属帯1には、電縫金属管2の内周面を構成する内周側表面11と、電縫金属管2の外周面を構成する外周側表面12とが設けられている。第1傾斜面101は、外周側表面12側で金属帯1の幅方向1bに係る外側に位置するとともに、内周側表面11側で幅方向1bに係る内側に位置するように、金属帯1の板厚方向1cに対して傾斜して延在されている。このような第1傾斜面101が金属帯1の側端に形成されていることで、金属帯1が湾曲された際の内周面と外周面との周長差が補正されて、金属帯1の側端がより確実に突き合わせられる。第1傾斜面101は、内周側表面11と外周側表面12との間の全側端に形成されていることが好ましい。
【0022】
次に、図4図1のクラッシング設備4を示す正面図であり、図5図4のクラッシングロールを拡大して示す正面図であり、図6図5の金属帯1の側端を拡大して示す断面図である。図4に示すように、クラッシング設備4には、一対のロールスタンド40、一対のクラッシングロール41、クラッシングロール調整機構42及びクラッシングロール荷重計43が設けられている。
【0023】
一対のロールスタンド40は、金属帯1の幅方向1bに互いに離間して配置されており、クラッシングロール41をそれぞれ回転自在に支持している。金属帯1は、クラッシングロール41の間を通される。
【0024】
図5に特に表れているように、クラッシングロール41には、クラッシングロール41の回転軸に対して傾斜して延在されたクラッシング面41aが設けられている。クラッシングロール41の回転軸に対するクラッシング面41aの傾斜角度は、エッジクラッシュロール30の回転軸に対するエッジクラッシュ面30aの傾斜角度(すなわち、金属帯1の板厚方向1cに対する第1傾斜面101の傾斜角度)よりも大きくされている。
【0025】
図6において二点鎖線で示すように、クラッシングロール41の間を通される前の金属帯1の内周側表面11の縁には、電縫金属管2の内面側に位置する内面側角部11aが設けられている。金属帯1がクラッシングロール41の間を通されるとき、内面側角部11aにクラッシング面41aが押し当てられて金属帯1の側端に第2傾斜面102図6参照)が形成される。第2傾斜面102は、金属帯1の幅方向1bに沿う幅Wを有しており、金属帯1の内周側表面11に対して角度θだけ傾斜して延在されている。金属帯1の側端に第2傾斜面102が形成されることで、後に図8等を用いて説明するように電縫溶接後の金属管の余盛102aと排出メタル101aとを非溶着としやすくなる。
【0026】
図4に戻り、クラッシングロール調整機構42は、一対のクラッシングロール41の離間距離を変更して、内面側角部11aへのクラッシングロール41の押し当て荷重を調整するための機構である。本実施の形態のクラッシングロール調整機構42は、一対の基台420、第1及び第2軸受421,422、ボールねじ423及びハンドル424を有している。
【0027】
基台420は、クラッシングロール荷重計43を介してロールスタンド40に接続されている。ロールスタンド40及びクラッシングロール41は、クラッシングロール荷重計43を介して基台420と一体に変位可能とされている。
【0028】
第1及び第2軸受421,422は、基台420に取り付けられている。第1軸受421は、ボールねじ423の先端部423aを回転自在に支持している。第2軸受422は、ボールねじ423の基端部423bを回転自在に支持している。先端部423a及び基端部423bは、ボールねじ423の長手方向に係る一端及び他端を含む部分である。本実施の形態のボールねじ423は、長手方向に係る両端部を回転自在に支持されている。
【0029】
ハンドル424は、作業者が把持可能な部材であり、ボールねじ423の基端部423bに取り付けられている。ハンドル424が回転操作されてボールねじ423が回転されることで、基台420が金属帯1の幅方向1bに沿って互いに近づく方向及び離れる方向に変位される。基台420が変位されることで、クラッシングロール41の離間距離が変更される。クラッシングロール41の離間距離が狭くなるほど、内面側角部11aへのクラッシングロール41の押し当て荷重が大きくなる。
【0030】
本実施の形態では、ボールねじ423の回転によりクラッシングロール41の離間距離が調整できるように説明している。しかしながら、クラッシングロール調整機構42は、例えばアクチュエータによりロールスタンド40を個々に変位させてクラッシングロール41の離間距離を変更する等の他の態様を有していてもよい。
【0031】
クラッシングロール荷重計43は、内面側角部11aへのクラッシングロール41の押し当て荷重を計測するためのセンサである。クラッシングロール荷重計43は、その計測軸が金属帯1の幅方向1bに沿うように配置されている。クラッシングロール荷重計43の計測値は、表示器に表示できるとともに記録装置に記録できる。
【0032】
本実施の形態のクラッシングロール荷重計43は、金属帯1の幅方向1bに係る両側のロールスタンド40と基台420との間に挿入されており、金属帯1の幅方向1bに係る両側で押し当て荷重を計測する。しかしながら、本実施の形態の基台420はボールねじ423により連結されているため、金属帯1の幅方向1bに係る一方のクラッシングロール41の押し当て荷重は、金属帯1の幅方向1bに係る他方のクラッシングロール41の押し当て荷重の反力となる。このため、クラッシングロール荷重計43は、金属帯1の幅方向1bに係る片側のロールスタンド40と基台420との間に挿入されて、金属帯1の幅方向1bに係る片側のみで押し当て荷重を計測してもよい。クラッシングロール荷重計43が挿入されていない側のロールスタンド40と基台420との間は、例えば棒軸等のクラッシングロール荷重計43の代わりとなる部材で接続される。各ロールスタンド40が個々に変位される態様では、クラッシングロール荷重計は、金属帯1の幅方向1bに係る両側のクラッシングロール41の押し当て荷重をそれぞれ計測することが好ましい。
【0033】
なお、電縫金属管2の製造に用いる金属帯1はより大きな金属帯から切り出されることがあり、金属帯1の切り出し時に側端にバリ及びダレが生じることがある。側端にバリ及びダレが生じている場合、第1及び第2傾斜面101,2を安定的に形成するため、バリ側が内周側表面11とされることが好ましい。
【0034】
次に、図7図1の溶接設備6による電縫溶接後の金属管の断面図であり、図8図7の金属管の溶接部を拡大して示す断面図である。図7及び図8に示すように、電縫溶接後の金属管の溶接部100には、接合部101と熱影響部102とが含まれている。接合部101は、溶融された金属帯1の側端が互いに接合されている部分である。熱影響部102は、側端の溶融時の加熱の影響を受けた部分である。接合部101及び熱影響部102は、熱の影響により非熱影響部103から組織が変わっている。
【0035】
接合部101からは、金属管の内方に向けて排出メタル101aが突出されている。排出メタル101aは、金属帯1の側端が互いに押し当てられた際に溶融金属が接合部101から押し出されて固化したものである。この排出メタル101aの形成は、溶融金属に含まれる酸化物(ペネトレータ)を接合部101から排出するとの役割を有している。
【0036】
熱影響部102には、余盛102aが形成されている。余盛102aは、金属帯1の側端を互いに押し当てる際に、その圧力により熱影響部102において軟化された金属が隆起した部分である。
【0037】
本実施の形態の電縫金属管の製造方法は、
溶接設備6において金属帯1の側端を突き合わせる前に、金属帯1の両側に配置された一対のクラッシングロール41を内面側角部11aに押し当てて内面側角部11aに第2傾斜面102を形成する工程と、
一対のクラッシングロール41を内面側角部11aに押し当てる前に、一対のクラッシングロール41の離間距離を変更して、図8に示すように電縫溶接後の金属管の余盛102aに残存する第2傾斜面102を内面側角部11aに形成するように、一対のクラッシングロール41が内面側角部11aに押し当てられる際の押し当て荷重を調節する工程とを含む。
余盛102aに第2傾斜面102が残存することで、排出メタル101aを余盛102aと非溶着とすることができる。
【0038】
排出メタル101aは、熱の影響により靱性が低下している。このため、電縫金属管2に例えば90°曲げ等の過酷な加工を施した際に、排出メタル101aにクラックが生じることがある。上述のように、電縫溶接後の金属管の余盛102aに第2傾斜面102が残存し、排出メタル101aを余盛102aと非溶着とすることで、排出メタル101aにクラックが生じる場合であっても、母材までクラックが伝播することを回避できる。なお、排出メタル101aは、余盛102aに溶着されていなければ、余盛102aに接していても構わない。余盛102aへの排出メタル101aの溶着の有無は、電縫溶接後の金属管における溶接部100の断面を観察することで確認できる。
【0039】
余盛102aに第2傾斜面102が残存するか否かには、第2傾斜面102の幅W(図6参照)が影響する。第2傾斜面102の幅Wが大きいほど、排出メタル101aが少ないので、第2傾斜面102が残存しやすい。内面側角部11aへのクラッシングロール41の押し当て荷重が大きいほど、第2傾斜面102の幅Wが大きくなる。しかしながら、内面側角部11aへのクラッシングロール41の押し当て荷重が大き過ぎると、第2傾斜面102の幅Wも大きくなり過ぎる。幅Wが大き過ぎると、第2傾斜面102が母材に食い込み、溶接部100の板厚が薄くなってしまう。このため、内面側角部11aへのクラッシングロール41の押し当て荷重は一定範囲に収めることが好ましい。
【0040】
クラッシングロール41を金属帯1の側端に同じ押し当て荷重で押し当てても、例えば引張強さ及び板厚等の金属帯1の特性に応じて、形成される第2傾斜面102の幅Wが変わる。このため、クラッシングロール41の押し当て荷重と形成される第2傾斜面102の幅Wとの関係を金属帯1の特性毎に把握して、金属帯1の特性に応じたクラッシングロール41の押し当て荷重となるようにクラッシングロール調整機構42によりクラッシングロール41の離間距離を変更することで、適正な第2傾斜面102を電縫溶接後の金属管の余盛102aに残存させることができる。
【0041】
また、本実施の形態の電縫金属管の製造方法は、一対のクラッシングロール41を内面側角部11aに押し当てる際の押し当て荷重を監視する工程をさらに含む。押し当て荷重を監視することにより、異常荷重の発生部を排除できるとともに、押し当て荷重を連続的に修正することができる。これにより、品質を安定させることができ、製品歩留を向上できる。
【0042】
電縫金属管の製造方法においては、先行金属帯の尾端に後続金属端の先端を接合し、電縫金属管を連続的に製造することもある。これらの金属帯の特性毎に、クラッシングロール41の押し当て荷重の設定値を変更することができる。
【0043】
次に、実施例を挙げる。本発明者らは、引張強さが750MPa級、板厚が4.5mm、板幅が69.5mmの金属帯1を用いて、クラッシングロール41の押し当て荷重を変更しながら、直径24.2mm、板厚4.5mmの電縫金属管2を製造した。そして、押し当て荷重ごとに、電縫金属管2における第2傾斜面102の残存幅を調べるとともに、(1)曲げ加工性の評価、(2)余盛102aに第2傾斜面102が残存するか否か、(3)排出メタル101aの安定性、(4)溶接部100の板厚確保及び(5)それらの総合評価を行った。その結果を下記の表1に示す。また、図9として、電縫金属管2における第2傾斜面102の残存幅と押し当て荷重(クラッシング荷重)との関係を示すグラフを挙げる。また、図10に、溶接部100の各部の寸法を示している。なお、第2傾斜面102の残存幅は、(溶接後の第2傾斜面102の幅−排出メタル101aの幅)/2で表すことができる。図9図10及び表1では、内容を分かりやすくするために、第2傾斜面102をクラッシング面と表記している。
【0044】
【表1】
【0045】
(1)曲げ加工性の評価について
表1では、電縫金属管2に対して1.3D曲げ加工を行った際に溶接部100が破断せず、かつ内視鏡評価で母材に亀裂伝播が生じていない場合を〇で表している。一方、破断又は亀裂伝播が確認された場合を×で表している。1.3D曲げ加工では、電縫金属管2を長さ500mmに切り出した後、電縫金属管2の外径Dに1.3を乗じた曲げ半径にて、溶接部100を外側に向けるように電縫金属管2に回転引き曲げ加工を行った。
【0046】
(2)余盛102aに第2傾斜面102が残存するか否かについて
表1では、余盛102aに第2傾斜面102が残存している場合を〇で表し、余盛102aに第2傾斜面102が残存していない場合を×で表している。
【0047】
(3)排出メタル101aの安定性について
表1では、排出メタル101aの高さ及び幅が長手方向に安定していた場合を〇で表し、排出メタル101aの高さ及び幅が長手方向に不安定であった場合を×で表している。より具体的には、高さが1.5mm以下の排出メタル101aが長手方向に延在している場合に、排出メタル101aの高さが安定していたと判断した。また、排出メタル101aが余盛102aに非溶着である状態が長手方向に続く場合に、排出メタル101aの幅が安定していたと判断した。
【0048】
(4)溶接部100の板厚確保について
表1では、素材金属板の板厚からの溶接部100の板厚変動が±0.06mm以内である場合を〇で表し、溶接部100の板厚変動が±0.06mmを超えていた場合を×で表している。
【0049】
(5)総合評価について
上述の(1)〜(4)の評価がすべて〇であった場合を〇で表し、(1)〜(4)の評価に×が含まれていた場合を×で表している。
【0050】
表1に示す結果から、クラッシングロール41の押し当て荷重を所定範囲に収めることで、特性を総合的に良好と評価できる電縫金属管2を製造できると理解される。特に、引張強さが750MPa級の金属帯1を使用するとき、クラッシングロール41の押し当て荷重を19kN以上かつ32kN未満の範囲とすることで、特性を総合的に良好と評価できる電縫金属管2を製造できると理解される。
【0051】
このような電縫金属管の製造設備及び方法では、一対のクラッシングロール41により内面側角部11aに第2傾斜面102が形成されるので、電縫溶接後の金属管の余盛102aに第2傾斜面102を残存させて、排出メタル101aを余盛102aと非溶着とすることができる。これにより、排出メタル101aにクラックが生じる場合であっても、母材までクラックが伝播することを回避できる。
【0052】
また、一対のクラッシングロール41を内面側角部11aに押し当てる際の押し当て荷重を監視するので、異常荷重の発生部を排除できるとともに、押し当て荷重を連続的に修正することができる。これにより、品質を安定させることができ、製品歩留を向上できる。
【0053】
さらに、金属帯1の引張強さが750MPa級であるとき、19kN以上かつ32kN未満の押し当て荷重で一対のクラッシングロール41を内面側角部11aに押し当てるので、金属帯1の引張強さが750MPa級であるときに特性が良好な電縫金属管2を製造できる。
【符号の説明】
【0054】
1 金属帯
102 第2傾斜面(傾斜面)
102a 余盛
2 電縫金属管
5a オープンパイプ
11a 内面側角部
41 クラッシングロール
42 クラッシングロール調整機構
43 クラッシングロール荷重計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10