(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緻密層形成工程と前記普通層形成工程との間で、前記緻密層のうち前記普通層との境界になる面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程を更に備える、請求項1〜5の何れか1項に記載のプレキャスト部材の製造方法。
前記緻密層形成工程と前記普通層形成工程との間で、前記普通層に埋設される鉄筋を配置する鉄筋配置工程を更に備える、請求項1〜6の何れか1項に記載のプレキャスト部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の床版にとっては塩化物イオンや水が劣化因子となる。そして、上記のような劣化因子は、供用時の床版の主に上面から浸透して床版内に侵入する。また、交通荷重に起因して特に床版の上層部は摩耗等が発生しやすい。従って、劣化因子の侵入や摩耗等を抑える観点から、床版の上層部を可能な限り緻密にすることが望まれる。道路床版に限らず、この種のプレキャスト部材は、供用時において、特に上層部の緻密性が求められる場合がある。しかしながら、この種のプレキャスト部材は、主に、型枠にコンクリートを平打ちして製造されるので、その仕上げ面が部材の上層部に該当する。そして、当該上層部は、製造時におけるブリーディング、レイタンス、及び乾燥ひび割れといったような要因によって品質が左右されやすい。したがって、プレキャスト部材の上層部については品質を安定して確保し難い傾向にある。
【0005】
このような課題に鑑み、本発明は、供用時における上層部の緻密性を安定して得られるプレキャスト部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプレキャスト部材の製造方法は、プレキャスト部材が、所定のコンクリート材料からなる普通層と、コンクリート材料よりも緻密な材料からなる緻密層と、を有しており、供用時に対し上下反転した姿勢の緻密層を形成する緻密層形成工程と、緻密層形成工程で形成された緻密層を上から覆うようにコンクリート材料を打設し硬化させて普通層を形成する普通層形成工程と、を備え、供用時に対し上下反転した姿勢でプレキャスト部材が形成される。
【0007】
この製造方法によれば、供用時の姿勢のプレキャスト部材は、普通層の上に当該普通層よりも緻密な材料からなる緻密層が存在する構造をなす。従って、供用時においてプレキャスト部材の上層部には、緻密層の存在により比較的高い緻密性が得られる。製造時には、供用時に対し上下反転した姿勢でプレキャスト部材が形成されるので、供用時の上層部はコンクリート打設の仕上げ面ではない。従って、プレキャスト部材の供用時の上層部の緻密性が安定して確保される。
【0008】
また、緻密層形成工程では、予め作製された緻密層部材を供用時に対し上下反転した姿勢でコンクリート型枠内に設置して緻密層とし、普通層形成工程では、コンクリート型枠内にコンクリート材料を打設し硬化させるようにしてもよい。
【0009】
また、緻密層形成工程では、予め作製された緻密層部材を緻密層とし、普通層形成工程では、供用時に対し上下反転した姿勢の緻密層部材を埋設型枠として含むコンクリート型枠内にコンクリート材料を打設し硬化させるようにしてもよい。
【0010】
また、緻密層の材料は、普通層のコンクリート材料と比較して、圧縮強度が高い、ひび割れ発生強度が高い、引張強度が高い、ヤング係数が高い、透水係数が小さい、塩化物イオン拡散係数が小さい、凍結融解抵抗性が高い、又は、すり減り係数が小さい、のうちの少なくとも1つの特性を有するようにしてもよい。
【0011】
また、緻密層の材料は、超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルを含む材料であってもよい。
【0012】
また、本発明のプレキャスト部材の製造方法は、緻密層形成工程と普通層形成工程との間で、緻密層のうち普通層との境界になる面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程を更に備えてもよい。この構成によれば、接着剤の存在により、緻密層と普通層との付着性が向上する。
【0013】
また、本発明のプレキャスト部材の製造方法は、緻密層形成工程と普通層形成工程との間で、普通層に埋設される鉄筋を配置する鉄筋配置工程を更に備えてもよい。この構成によれば、普通層に鉄筋が埋設される。
【0014】
また、プレキャスト部材は、U字の断面形状をなし、緻密層形成工程では、緻密層が、U字の内側の縁に沿ってU字状に形成されるようにしてもよい。
【0015】
また、プレキャスト部材は、道路橋の床版を含む部材であってもよい。道路橋の床版においては、特に、雨水による上層部からの劣化因子の侵入や、交通荷重の繰返しによる疲労が懸念事項であり、上層部を緻密にすることの必要性が高く、上記のような構成が特に好適に適用され得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、供用時における上層部の緻密性を安定して得られるプレキャスト部材を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るプレキャスト部材の製造方法の実施形態について詳細に説明する。各図面では、説明に係る部位の特徴を適宜誇張して描写する場合があり、構成要素の寸法比は必ずしも実物とは一致せず、各図面の間でも必ずしも一致しない。
図1は、本実施形態に係るプレキャスト部材1が適用される道路橋100の分解斜視図であり、
図2は、プレキャスト部材1の断面図である。
【0019】
(第1実施形態)
図1に示されるように、本実施形態に係るプレキャスト部材1は、コンクリート材料からなり道路橋に用いられる。プレキャスト部材1は、道路橋の建造時に用いられてもよく、既存の道路橋の床版の取替え用として用いられてもよい。
図1に示される道路橋100は、橋軸方向に延びる複数の鋼桁102を備えている。この鋼桁102上に、複数のプレキャスト部材1が設置され、プレキャスト部材1同士が橋軸方向に配列され、例えばプレストレスの付与等によって連結されて道路構造が構築される。
【0020】
図2にも示されるように、プレキャスト部材1は、道路の床版を構成する床版部3と、高欄を構成する高欄部5とが一体に形成されたものである。すなわち、プレキャスト部材1は、平面視で橋軸直角方向に長い矩形を呈する平板状の床版部3と、当該床版部3の橋軸直角方向の両端から上方に立ち上がる高欄部5とを有し、橋軸方向から見てU字の断面形状をなしている。また、床版部3と高欄部5との継ぎ目には、ハンチ部4が設けられている。床版部3の上面上に道路の舗装層等が設けられることで、道路橋100の道路が形成される。
【0021】
道路橋100の床版にとっては塩化物イオンや水が劣化因子となる。そして、上記のような劣化因子は、供用時の床版の主に上面から浸透して床版内に侵入する。また、交通荷重の繰返しに起因して床版が疲労劣化しやすい。従って、劣化因子の侵入を抑えるとともに、疲労に対する補強をする観点から、床版の上層部(特に、かぶり部)を可能な限り緻密にすることが望まれる。
【0022】
そこで、
図2に示されるように、プレキャスト部材1では、床版部3の上層部が、他の部分に比べて緻密な緻密層13として形成されている。具体的には、床版部3が主に2層で構成されており、床版部3は、普通コンクリートからなる普通層11と、普通コンクリートよりも緻密な材料からなり普通層11の上面を覆う緻密層13とを有している。普通層11及び緻密層13は、床版部3のみならず高欄部5にまで一体的に延びており、高欄部5においては、外側に普通層11が存在し、緻密層13は普通層11の内側面を覆っている。
【0023】
緻密層13は、一体に連なった床版部3の上層部分と左右の高欄部5の内側部分とを有している。緻密層13の断面は、プレキャスト部材1のU字断面の内側の縁に沿って、やや小さいU字状をなしており、プレキャスト部材1の床版部3の上面及び高欄部5の内側面に露出するように位置している。また、緻密層13にはハンチ部4も含まれる。普通層11と緻密層13との境界面には接着剤15による接着層が設けられるが、この接着層は省略されてもよい。また、普通層11に鉄筋17が埋設されているが、この鉄筋17は省略されてもよい。また、緻密層13にも鉄筋が埋設されてもよい。
【0024】
ここで、上記の「緻密な」とは、圧縮強度が高い、ひび割れ発生強度が高い、引張強度が高い、ヤング係数が高い、透水係数が小さい、塩化物イオン拡散係数が小さい、凍結融解抵抗性が高い、又は、すり減り係数が小さい、のうちの少なくとも1つの特性を有することを言う。すなわち、緻密層13の材料は、普通層11の材料(普通コンクリート)と比較して、圧縮強度が高い、ひび割れ発生強度が高い、引張強度が高い、ヤング係数が高い、透水係数が小さい、塩化物イオン拡散係数が小さい、凍結融解抵抗性が高い、又は、すり減り係数が小さい、のうちの少なくとも1つの特性を有するものである。
【0025】
「圧縮強度」とは、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」で規定された試験方法で測定される値である。「ひび割れ発生強度」とは、例えば、JISA 1113「コンクリートの割裂引張強度試験方法」で規定された試験方法で測定される値である。「引張強度」とは、例えば、JSCE-G552「鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法」で規定された試験方法で測定された値を逆解析による引張軟化曲線から算出される値である。「ヤング係数」とは、JISA 1149「コンクリートの静弾性係数試験方法」で規定された試験方法で測定される値である。「透水係数」とは、例えば、RILM TC116-PCD「Permeability, of concrete as acriterion of its durability」で規定された試験方法から算出した透気係数から換算される値である。「塩化物イオン拡散係数」とは、JSCE-G572「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)で規定された試験方法で測定される値である。「凍結融解抵抗性」とは、JISA 1148(A法)「コンクリートの凍結融解試験法」で規定された試験方法で測定される値(耐久性指数)である。「すり減り係数」とは、(財)電力中央研究所で考案されたO式(奥田式)すり減り試験で規定された試験方法で測定される値である。
【0026】
本実施形態では、道路橋の床版部3の上層部に望まれる特性に鑑み、緻密層13の材料は、普通層11の材料(普通コンクリート)に比較して、少なくとも、圧縮強度が高い、且つ透水係数が小さい、且つ塩化物イオン拡散係数が小さい材料が採用される。このような特性をもつ緻密層13の材料としては、例えば、超高強度繊維補強コンクリート(UFC;Ultra high strength Fiber reinforcedConcrete)又は高強度繊維補強モルタルが採用されることが好ましい。
【0027】
緻密層13の材料として採用され得る超高強度繊維補強コンクリートの性状の一例を以下説明する。この超高強度繊維補強コンクリートは、例えば、セメントと、骨材と、練混ぜ水と、コンクリート用化学混和剤と、補強用繊維とを含む混合物が硬化してなるものである。上記のセメントは、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、又は低熱ポルトランドセメントである。
【0028】
一例として、前述の骨材は、粒径2.5mm以下、絶乾密度2.5g/cm
3以上、吸水率3.0%以下、粘土塊量1.0%以下、微粒分量2.0%以下、NaCl含有量0.02%以下、の骨材である。この骨材は、JISA 1105に規定された細骨材の有機不純物試験方法による有機不純物の試験結果が「淡い」とされたものである。また、この骨材は、JIS A 1122に規定された硫酸ナトリウムでの骨材の安定性試験方法による安定性が10%以下であって、更にJISA 5308付属書1に規定されたアルカリシリカ反応性による区分が区分Aである骨材である。
【0029】
前述の練混ぜ水は、例えば、JSCE−B 101−2005に規定された回収水以外の練混ぜ水である。前述のコンクリート用化学混和剤は、JISA 6204に規定された高性能減水剤である。また、前述の補強用繊維は、直径0.1〜0.25mm、長さ10〜24mm、及び引張強度2×10
3N/mm
2以上の繊維である。前述の補強用繊維は、例えば、鋼繊維、高強度アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、又は炭素繊維であってもよい。
【0030】
緻密層13をなす超高強度繊維補強コンクリートは、例えば、マトリクスが、ポルトランドセメント、ポゾラン材、及びエトリンガイド生成系材料から成る結合材、粒径2.5mm以下の骨材、水、並びに減水剤によって構成されている。また、補強用繊維は、直径0.2mm、長さ15mm(製造誤差±2mm未満)、及び引張強度2×10
3N/mm
2以上の鋼繊維と、直径0.2mm、長さ22mm(製造誤差±2mm未満)、及び引張強度2×10
3N/mm
2以上の鋼繊維とを混合したものを1.75vol.%混入させたものであってもよい。また、超高強度繊維補強コンクリートの硬化後の特性値は、圧縮強度150N/mm
2以上、ひび割れ発生強度4N/mm
2以上、引張強度5N/mm
2以上、透水係数1×10
-11cm/s未満、塩化物イオン拡散係数0.14cm
2/年未満、すり減り係数240mm
3/cm
2未満であることが好ましい。
【0031】
また、緻密層13をなす超高強度繊維補強コンクリートの標準示方配合は、フロー値250±20mm、結合材に対する練混ぜ水の比率が15%、空気量2.0%、練混ぜ水195kg/m
3、結合材1287kg/m
3、骨材905kg/m
3、高性能減水剤32.2kg/m
3、及び補強用繊維137.4kg/m
3(1.75vol.%)とすることができる。
【0032】
また、緻密層13の材料として採用され得る高強度繊維補強モルタルの性状の一例を以下説明する。この高強度繊維補強モルタルは、例えば、セメントと、骨材と、練混ぜ水と、コンクリート用化学混和剤と、補強用繊維とを含む混合物が硬化してなるものである。上記のセメントは、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、又は低熱ポルトランドセメントである。
【0033】
一例として、前述の骨材は、粒径2.5mm以下、絶乾密度2.5g/cm
3以上、吸水率3.0%以下、粘土塊量1.0%以下、微粒分量2.0%以下、NaCl含有量0.02%以下、の骨材である。この骨材は、JISA 1105に規定された細骨材の有機不純物試験方法による有機不純物の試験結果が「淡い」とされたものである。また、この骨材は、JIS A 1122に規定された硫酸ナトリウムでの骨材の安定性試験方法による安定性が10%以下であって、更にJISA 5308付属書1に規定されたアルカリシリカ反応性による区分が区分Aである骨材である。
【0034】
前述の練混ぜ水は、例えば、JSCE−B 101−2005に規定された回収水以外の練混ぜ水である。前述のコンクリート用化学混和剤は、JISA 6204に規定された高性能減水剤である。また、前述の補強用繊維は、直径0.1〜0.25mm、長さ10〜30mm、及び引張強度400N/mm
2以上の繊維である。前述の補強用繊維は、例えば、鋼繊維、高強度アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維又は炭素繊維であってもよい。
【0035】
緻密層13をなす高強度繊維補強モルタルは、例えば、マトリクスが、ポルトランドセメント、ポゾラン材、及びエトリンガイド生成系材料から成る結合材、粒径2.5mm以下の骨材、水、並びに減水剤によって構成されている。また、補強用繊維は、直径0.5mm、長さ20mm(製造誤差±2mm未満)、及び引張強度400N/mm
2以上のポリプロピレン繊維を2.0vol.%混入させたものであってもよい。また、高強度繊維補強モルタルの硬化後の特性値は、圧縮強度100N/mm
2以上、ひび割れ発生強度4N/mm
2以上、引張強度5N/mm
2以上、透水係数1×10
-11cm/s未満、塩化物イオン拡散係数0.14cm
2/年未満、すり減り係数240mm
3/cm
2未満であることが好ましい。
【0036】
また、緻密層13をなす高強度繊維補強モルタルの標準示方配合は、フロー値220±20mm、結合材に対する練混ぜ水の比率が18%、空気量3.0%、練混ぜ水200kg/m
3、結合材1111kg/m
3、骨材1075kg/m
3、高性能減水剤22.8kg/m
3、及び補強用繊維18.2kg/m
3(2.0vol.%)とすることができる。
【0037】
また、上記の普通層11の材料として採用され得る「普通コンクリート」の性状の一例を以下説明する。この普通コンクリートは、例えば、セメントと、骨材と、練混ぜ水と、コンクリート用化学混和剤とを含む混合物が硬化してなるものである。上記のセメントは、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント又は低熱ポルトランドセメントである。この普通コンクリートの硬化後の特性値については、前述したような超高強度繊維補強コンクリート及び高強度繊維補強モルタルの各特性値に比較して、圧縮強度の値は小さく、且つ透水係数の値は大きく、且つ塩化物イオン拡散係数の値は大きい。一般的な普通コンクリートとは、JISA 5308「レディーミクストコンクリート」における呼び強度18から60に該当するものであり、結合材に対する練混ぜ水の比率は65%から30%である。
【0038】
なお、前述のような超高強度繊維補強コンクリート及び高強度繊維補強モルタルは、上記のような普通コンクリートに比較して、圧縮強度が高い、且つ透水係数が小さい、且つ塩化物イオン拡散係数が小さい、といった特性だけではなく、更に、ひび割れ発生強度が高い、且つ引張強度が高い、且つヤング係数が高い、且つ凍結融解抵抗性が高い、且つすり減り係数が小さい、といった特性を有している。
【0039】
続いて、上述のようなプレキャスト部材1の製造方法について説明する。
【0040】
ここで、道路橋100の供用時におけるプレキャスト部材1の姿勢では、
図1及び
図2に示されるように、床版部3の両端から高欄部5が上方に向けて延び、床版部3においては、普通層11の上に緻密層13が位置するといった位置関係にある。これに対し、プレキャスト部材1の製造方法においては、上記のような供用時の姿勢に対して上下反転した姿勢でプレキャスト部材1が形成される。以下の説明では、プレキャスト部材1の供用時における姿勢を「供用時姿勢」と呼び、供用時の姿勢に対し上下反転した姿勢を「反転姿勢」と呼ぶ。本実施形態に係るプレキャスト部材1の製造方法は、次に説明する緻密層形成工程と、接着剤塗布工程と、鉄筋配置工程と、普通層形成工程と、を備えている。
【0041】
(緻密層形成工程)
図3(a)に示されるように、プレキャスト部材1に対応する形状の型枠25が準備される。この型枠25の内腔部は、反転姿勢のプレキャスト部材1に対応する形状をなしている。すなわち、床版部3に対応する平板状の内腔部の両端から、高欄部5に対応する内腔部が下方に向けて延びている。
【0042】
別途、緻密層13を構成する部品として、予め作製された部材23(以下「緻密層部材23」と呼ぶ)が準備される。緻密層部材23は、超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルからなるプレキャスト部材であり、緻密層13と同一形状に成形されている。すなわち、緻密層部材23は、床版部3の上層部に対応する平板部23aと、当該平板部23aの両端に立設され、左右の高欄部5の内側部分に対応する側壁部23bとを有しており、緻密層部材23の断面は、プレキャスト部材1全体のU字断面の内側の縁に沿うような小さいU字状をなしている。緻密層部材23内には鉄筋が埋設されていてもよいし、埋設される鉄筋は無くてもよい。
【0043】
この緻密層部材23が、
図3(b)に示されるように、反転姿勢で、型枠25内腔部の緻密層13に対応する部分に設置される。緻密層部材23が逆さU字状の姿勢をなし、当該U字の内側の面が、対応する型枠25の壁面に接触する。このような緻密層部材23の設置によって、型枠25内に、まず、緻密層13が形成される。なお、緻密層部材23は、必ずしも一体的なものである必要はなく、複数に分割された緻密層部材23のパーツが型枠25内に適宜敷き詰められて緻密層13が形成されてもよい。
【0044】
(接着剤塗布工程)
次に、
図4(a)に示されるように、上記のように形成された緻密層13に、接着剤15が塗布される。接着剤15が塗布される面は、緻密層13のうち普通層11との境界になる面であり、具体的には、緻密層部材23の平板部23aの上面と、両方の側壁部23bの外側面に接着剤15が塗布される。接着剤15としては、例えば、エポキシ接着剤を基本とした専用接着剤が用いられる。上記のエポキシ接着剤としては、例えば、フレッシュコンクリート打継用接着剤「KSボンドシリーズ」(株式会社ケイアールエル製)等が用いられる。
【0045】
(鉄筋配置工程)
次に、
図4(b)に示されるように、緻密層13の上に鉄筋17が配置される。鉄筋17は、型枠25内で緻密層13を除いた内腔部に配置され、プレキャスト部材1の完成後においては普通層11に埋設されるものである。
【0046】
(普通層形成工程)
次に、
図5(a)に示されるように、型枠25内で緻密層13を除いた内腔部に、普通コンクリート19が打設される。ここでは、前述の緻密層形成工程で形成された緻密層13を上から覆うように普通コンクリート19が打設される。なお、高欄部5に対応する部分と、床版部3に対応する部分との間で、コンクリートの打継ぎが発生してもよい。その後、普通コンクリート19を硬化させることで、普通層11が形成される。その後、
図5(b)に示されるように、型枠25が脱型されることで、反転姿勢のプレキャスト部材1が完成する。
【0047】
完成されたプレキャスト部材1は、道路橋100の施工現場に搬送され、
図1に示されるように供用時姿勢で、鋼桁102上に設置される。
【0048】
以上のようなプレキャスト部材1の製造方法による作用効果について説明する。上記製造方法によれば、供用時姿勢のプレキャスト部材1は、普通層11の上に当該普通層11よりも緻密な材料からなる緻密層13が存在する構成となる。従って、供用時においてプレキャスト部材1の上層部(特に、かぶり部)には、緻密層13の存在により比較的高い緻密性が得られる。その結果、プレキャスト部材1の緻密層13が存在する道路床版の上層部は、圧縮強度が比較的大きいことから、交通荷重の繰返しに起因する道路床版の疲労劣化が抑えられる。また、道路床版の上層部は、透水係数が比較的小さく、塩化物イオン拡散係数も比較的小さいので、道路床版の上面側から雨水や塩化物イオン等の劣化因子が道路床版の内部に侵入することが抑制され、道路床版の劣化が抑えられる。その結果、道路床版の耐用年数が向上し、ライフサイクルコストが低減される。
【0049】
また、製造時には、プレキャスト部材1が反転姿勢で形成されるので、供用時のプレキャスト部材1の上層部はコンクリート打設の仕上げ面ではない。従って、プレキャスト部材1の供用時の上層部の緻密性が安定して確保される。また、仮に、プレキャスト部材1が供用時姿勢で形成されるとすれば、普通層形成工程では、緻密層部材23の下方の空間に普通コンクリートを充填する必要がある。この場合、緻密層部材23の下面には、普通コンクリート充填時の気泡が溜まり易いので、完成時には、緻密層13と普通層11との付着性が低下する虞がある。これに対し、緻密層部材23の上に普通コンクリートが打設され、プレキャスト部材1が反転姿勢で形成される方法によれば、上記の問題が回避される。
【0050】
他の製造方法としては、先に形成した普通層11の上面に緻密層部材23を接着することで、供用時姿勢でプレキャスト部材1を形成する製造方法も考えられる。しかしながら、この製造方法では、硬化したコンクリート部材同士を貼り合わせることになるので、普通層11と緻密層13との一体性が十分でない場合がある。これに対し、上述の実施形態の製造方法では、既に硬化している緻密層13の上に普通コンクリートを打設する方式であるので、十分な一体性が確保される。
【0051】
一般的に、道路床版を場所打ちコンクリートで構築する場合は、まず床版部を形成し、その後に床版部の両端部の上面に高欄部が打継がれて形成される場合がある。この場合の床版部の上面は、乾燥ひび割れやブリーディング水やレイタンス層の影響により、品質が十分でない場合がある。従って、この上面に対して高欄部が打ち継がれると、床版部と高欄部との打ち継ぎ目が水みちになり易い。そうすると、雨水や塩化物イオン等の劣化因子が、床版部上面から上記の水みちを経由して侵入し、床版部と高欄部との境界部を劣化させやすい。これに対し、プレキャスト部材1では、床版部3の上面と高欄部5の内側面とをシームレスに覆って一体的に連なるように緻密層13が形成されている。従って、床版部3と高欄部5との境界部が緻密層13によって塞がれることにより、上記の問題が回避される。
【0052】
また、接着剤塗布工程によって緻密層13と普通層11との境界面に接着剤15が存在するので、緻密層13と普通層11との付着性が向上する。従って、交通荷重の繰返し疲労により普通層11と緻密層13との一体性が低下する可能性が低減される。
【0053】
(第2実施形態)
続いて、
図6を参照しながら、プレキャスト部材1の製造方法の第2実施形態について説明する。本実施形態の製造方法で使用されるコンクリート型枠45は、緻密層部材23を埋設型枠として含む点において、第1実施形態の型枠25とは異なっている。以下では、本実施形態の製造方法における第1実施形態と異なる点について主に説明し、その他の構成については第1実施形態と同様であるので、同一又は同等の構成要素に同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0054】
(緻密層形成工程)
図6(a)に示されるように、本実施形態の緻密層形成工程では、緻密層部材23を反転姿勢で準備することにより、緻密層13が形成されることになる。次に、準備された反転姿勢の緻密層部材23の両端部に高欄部5用の型枠板27が取付けられる。更に、妻側の型枠板28が取付けられて、反転姿勢の緻密層部材23を含むコンクリート型枠45が組立てられる。この場合、緻密層部材23は、コンクリート型枠45の一部をなすと共に、埋設型枠として機能し、最終的にはプレキャスト部材1の一部である緻密層13として残留する。
図6の例では省略されているが、この後、第1実施形態と同様に緻密層部材23に接着剤15が塗布され(接着剤塗布工程)、鉄筋17が配置され(鉄筋配置工程)てもよい。
【0055】
(普通層形成工程)
その後の普通層形成工程では、
図6(b)に示されるように、コンクリート型枠45内に普通コンクリート19が打設され硬化されて普通層11が形成される。その後、
図6(c)に示されるように、型枠板27及び型枠板28が取り外されることで、反転姿勢のプレキャスト部材1が完成する。
【0056】
(第3実施形態)
続いて、
図7を参照しながら、プレキャスト部材1の製造方法の第3実施形態について説明する。本実施形態の製造方法では、緻密層13の形成方法が第1実施形態とは異なっている。以下では、本実施形態の製造方法における第1実施形態とは異なる点について主に説明し、その他の構成については第1実施形態と同様であるので、同一又は同等の構成要素に同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0057】
(緻密層形成工程)
図7(a)に示されるように、本実施形態の緻密層形成工程では、型枠25の内腔部に、緻密層用の型枠29が組立てられる。そして、
図7(b)に示されるように、この緻密層用の型枠29内に超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルが打設される。このとき打設に先立って、緻密層13に埋設される鉄筋が、型枠29内に予め配置されてもよい。打設された超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルは型枠29内で緻密層13の形状をなす。この超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルが硬化した後、
図7(c)に示されるように、型枠29が除去されて緻密層13が完成する。その後、必要に応じて接着剤塗布工程と鉄筋配置工程とが行われ、更に、普通層形成工程が行われて、反転姿勢のプレキャスト部材1が完成する。
【0058】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態及び変形例の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0059】
例えば、各実施形態における、接着剤塗布工程や鉄筋配置工程は必須の工程ではなく、必要に応じて実行されればよい。また、実施形態では、緻密層13の材料が超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルである場合を説明したが、これには限定されない。すなわち、緻密層13の材料としては、普通層11よりも緻密な他の材料が適宜選択されてもよい。
【0060】
各実施形態ではU字断面のプレキャスト部材1を製造する例について説明したが、本発明は、
図8(a)に示されるように、平板状のプレキャスト部材51の製造方法にも適用可能である。
図8(a)の例では、まず型枠25の下層に超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルからなる緻密層13が形成され、その緻密層13を上から覆うように普通コンクリートが打設されて普通層11が形成されて、プレキャスト部材51が反転姿勢で形成される。また、本発明は、
図8(b)に示されるように、L字断面のプレキャスト部材53の製造方法にも適用可能である。
図8(b)の例では、まず型枠25内の逆さL字の内側に対応する部分に超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルからなる緻密層13が形成され、その緻密層13を上から覆うように普通コンクリートが打設され普通層11が形成されて、プレキャスト部材53が反転姿勢で形成される。
図8(c)に示されるように、上記のような平板状のプレキャスト部材51やL字断面のプレキャスト部材53が適宜組み合わされて、床版部3と高欄部5とを備える道路橋の部品が構成されてもよい。
【0061】
また、各実施形態では道路橋に用いられるプレキャスト部材1を製造する例について説明したが、本発明は、
図9に示されるように、U字断面の水路60を構築するための水路用のプレキャスト部材57の製造方法にも適用可能である。この種の水路60のうち水Wに接触する内壁部には、水Wを浸透させ難いことや、水流に起因する摩耗や水Wと一緒に運ばれる砂礫に起因する摩耗を低減させ、水路壁面の粗度係数を長期的に担保し所定の水流を長期間確保することが特性として求められる。従って、プレキャスト部材57の上層部及び内壁部側に亘るように緻密層13が設けられる。緻密層13の材料としては、普通層11の材料である普通コンクリートと比較して、透水係数が小さい、且つすり減り係数が小さい材料が採用される。上記のような特性をもつ緻密層13の材料として、超高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルが採用されることが好ましい。このような水路用のプレキャスト部材57も、前述の実施形態と同様の製造方法で製造される。
【0062】
また、実施形態のプレキャスト部材1においては、緻密層13の材料が普通層11の材料に比較して、(1)圧縮強度が高い、且つ(2)ひび割れ発生強度が高い、且つ(3)引張強度が高い、且つ(4)ヤング係数が高い、且つ(5)透水係数が小さい、且つ(5)塩化物イオン拡散係数が小さい、且つ(6)凍結融解抵抗性が高い、且つ(7)すり減り係数が小さい、といった特性を有するものであったが、緻密層13の材料と普通層11の材料との特性の関係は上記の関係には限定されない。すなわち、緻密層13の材料が普通層11の材料に比較して、上記の特性(1)〜(7)のすべてを有することは必須ではなく、上記の特性(1)〜(7)のうちの少なくとも1つの特性を有する関係であればよい。