(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。
図1を参照すると、本実施形態に係るサスペンション装置は、ばね上1(車体),ばね下2(車輪)間に、懸架用コイルばね3および減衰力調整式緩衝器4(以下「緩衝器4」)が介装される。本実施形態における緩衝器4は、従来の減衰力調整機構と基本構造が同一である。よって、緩衝器4の基本構造に係る詳細な説明を省略する。
【0011】
サスペンション装置は、ばね上1の変位を検出するばね上変位センサ5(変位検出手段)と、ばね下2の変位を検出するばね下変位センサ6(変位検出手段)と、ばね上変位センサ5の検出信号とばね下変位センサ6の検出信号とに基づきアクチュエータ7を制御するサスペンション制御装置11と、を有する。アクチュエータ7は、緩衝器4の減衰力調整機構を駆動するもので、例えばソレノイドである。
【0012】
図2を参照すると、サスペンション制御装置11は、ばね上変位センサ5によって検出された時刻(t) におけるばね上1の変位Xb(t) と、ばね下変位センサ6によって検出された時刻(t) におけるばね下2の変位Xa(t) とに基づき、ばね上1,ばね下2間の時刻(t) における相対変位ΔX(t) 、いわゆる、ダンパストローク(緩衝器4のたわみ)を算出する相対変位検出部12を有する。
【0013】
なお、本実施形態では、ばね上変位センサ5およびばね下変位センサ6として、ばね上1およびばね下2の加速度を検出するばね上加速度センサおよびばね下加速度センサが用いられる。相対変位算出部12では、ばね上加速度センサの検出値(ばね上加速度)を2階積分することにより、時刻(t) におけるばね上変位Xb(t) が算出され、ばね下加速度センサの検出値(ばね下加速度)を2階積分することにより、時刻(t) におけるばね下変位Xa(t) が算出される。
【0014】
サスペンション制御装置11は、ばね下変位センサ6の検出信号に基づき、ばね下2に入力された振動の入力周波数f(t) を算出する入力周波数算出部13(入力周波数算出手段)を有する。また、サスペンション制御装置11は、入力周波数算出部13によって算出された入力周波数f(t) と、ばね上1,ばね下2間の時刻(t) における相対変位ΔX(t) とに基づき、時刻(t) におけるばね上固有振動数fb ( ΔX(t) , f(t) ) と、時刻(t) におけるばね下固有振動数fa ( ΔX(t) , f(t) ) とを算出(推定)する、共振周波数推定部14(共振周波数推定手段)を有する。
【0015】
共振周波数推定部14は、記憶部(メモリ)に格納された固有振動数マップ15に基づき、時刻(t) におけるばね上固有振動数fb ( ΔX(t) , f(t) ) 、および時刻(t) におけるばね下固有振動数fa ( ΔX(t) , f(t) ) を算出する。なお、固有振動数マップ15(データ・マッピング・ファイル)は、試験データに基づき作成される。
【0016】
サスペンション制御装置11は、共振周波数推定部14によって算出された時刻(t) におけるばね上固有振動数fb ( ΔX(t) , f(t) ) 、および時刻(t) におけるばね下固有振動数fa ( ΔX(t) , f(t) ) に基づき、緩衝器4が発生しなければならない減衰力を決定する減衰力決定部(減衰力決定手段)を有する。
【0017】
減衰力決定部は、入力周波数算出部13によって算出された入力周波数f(t) が、共振周波数推定部14によって推定されたばね上固有振動数fb ( ΔX(t) , f(t) ) を含む低周波数領域L(t) と、共振周波数推定部14によって推定されたばね下固有振動数fa ( ΔX(t) , f(t) ) を含む高周波数領域H(t) と、低周波数領域L(t) と高周波数領域H(t) との間に設けられる中間周波数領域M(t) と、高周波数領域H(t) を超える周波数領域S(t) と、のいずれかにあるかを判別する判別部17(判別手段)を有する。
【0018】
減衰力決定部は、低周波数領域L(t) 、中間周波数領域M(t) 、高周波数領域H(t) 、および高周波数領域H(t) を超える周波数領域S(t) 、の各周波数領域を定める上で基準となる各周波数、ここでは、第1基準周波数f1 ( ΔX(t) , f(t) ) 、第2基準周波数f2 ( ΔX(t) , f(t) ) 、および第3基準周波数f3 ( ΔX(t) , f(t) ) を決定する基準周波数決定部18を有する。
【0019】
減衰力決定部は、入力周波数算出部13によって算出された入力周波数f(t) が、低周波数領域L(t) にあるとき高減衰力F
H を選定し、中間周波数領域M(t) にあるとき低減衰力F
L を選定し、高周波数領域H(t) にあるとき高減衰力F
Hを選定し、高周波数領域H(t) を超える周波数領域S(t) にあるとき低減衰力F
L を選定する、減衰力選定部19(減衰力選定手段)を有する。
【0020】
そして、減衰力決定部(減衰力決定手段)は、入力周波数算出部13によって算出された入力周波数f(t) が、第1基準周波数f1 ( ΔX(t) , f(t) ) 以下であるとき、すなわち、
(1) f(t) ≦ f1 ( ΔX(t) , f(t) )
であるとき、低周波数領域L(t) にあると判別し、高減衰力F
Hを選定する。
【0021】
また、減衰力決定部は、入力周波数f(t) が、第1基準周波数f1 ( ΔX(t) , f(t) ) より大きく、かつ第2基準周波数f2 ( ΔX(t) , f(t) ) 以下であるとき、すなわち、
(2) f1 ( ΔX(t) , f(t) ) < f(t) ≦ f2 ( ΔX(t) , f(t) )
であるとき、中間周波数領域M(t) にあると判別し、低減衰力F
Lを選定する。
【0022】
また、減衰力決定部は、入力周波数f(t) が、第2基準周波数f2 ( ΔX(t) , f(t) ) より大きく、かつ第3基準周波数f3 ( ΔX(t) , f(t) ) 以下であるとき、すなわち、
(3) f2 ( ΔX(t) , f(t) ) < f(t) ≦ f3 ( ΔX(t) , f(t) )
であるとき、高周波数領域H(t) にあると判別し、高減衰力F
Hを選定する。
【0023】
さらに、減衰力決定部は、入力周波数f(t) が、第3基準周波数f3 ( ΔX(t) , f(t) ) より大きいとき、すなわち、
(4) f3 ( ΔX(t) , f(t) ) < f(t)
であるとき、高周波数領域H(t) を超える周波数領域S(t) にあると判別し、低減衰力F
L を選定する。
【0024】
次に、
図3、
図4を参照して、第1基準周波数f1 ( ΔX(t) , f(t) ) 、すなわち、低周波数領域L(t) と中間周波数領域M(t) とを区切るときの境界となる周波数を決定するプロセスを説明する。ここで、
図3、
図4は、入力周波数f(t) を変化させたときの、時刻(t
A) および時刻(t
B) におけるばね上振幅の周波数特性を示す。
【0025】
図3に示されるように、時刻(t
A) におけるばね上固有振動数をfb ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) 、時刻(t
B) におけるばね上固有振動数をfb ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) とする。
ただし、fb ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) < fb ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) とする。
【0026】
ここで、振動伝達率(ばね下2からばね上1へ振動が伝達される割合)を考慮すると、入力周波数f(t) とばね上固有振動数fb ( ΔX(t) , f(t) ) との比が、√2 よりも小さい領域、すなわち、
f(t) / fb ( ΔX(t) , f(t) ) < √2
の領域では、減衰力を増加させることが、ばね上1を制振させる上で望ましい。
【0027】
他方、入力周波数f(t) とばね上固有振動数fb ( ΔX(t) , f(t) ) との比が、√2 以上の領域、すなわち、
f(t) / fb ( ΔX(t) , f(t) ) ≧ √2
の領域では、減衰力を低下させて振動伝達を断つことが、ばね上1を制振させる上で望ましい。
【0028】
よって、
図4に示されるように、時刻(t
A) における第1基準周波数f1 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) を√2・fb ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) に設定し、時刻(t
B) における第1基準周波数f1 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) を√2・fb ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) に設定する。すなわち、
f1 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) = √2・fb ( ΔX(t
A) , f(t
A) )
f1 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) = √2・fb ( ΔX(t
B) , f(t
B) )
に設定される。
【0029】
図4を参照すると、時刻(t
A) におけるばね上固有振動数fb ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) に対し、第1基準周波数f1 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) を √2・fb ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) とし、かつ時刻(t
B) におけるばね上固有振動数fb ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) に対し、第1基準周波数f1 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) を √2・fb ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) とした。これにより、入力周波数がf1 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) からf1 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) までの間の領域においては、時刻(t
A) では中間周波数領域M(t
A) にあると判別されるのに対し、時刻(t
B) では低周波数領域L(t
B) であると判別される。すなわち、本実施形態では、入力条件(入力周波数および振幅)が異なる、延いてはばね上固有振動数が異なる時刻(t
A) と時刻(t
B) とで、異なる減衰力が選定される。
【0030】
なお、本実施形態では、時刻(t
A) における第3基準周波数f3 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) および時刻(t
B) における第3基準周波数f3 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) は、時刻(t
A) におけるばね下固有振動数fa (ΔX(t
A) , f(t
A) ) と時刻(t
B) におけるばね下固有振動数fa (ΔX(t
B) , f(t
B) ) とのいずれかに、√2 を乗じた値に設定される。すなわち、
f3 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) = √2・fa (ΔX(t
A) , f(t
A) )
f3 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) = √2・fa (ΔX(t
B) , f(t
B) )
f3 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) = f3 ( ΔX(t
B) , f(t
B) )
である。
【0031】
また、本実施形態では、時刻(t
A) における第2基準周波数f2 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) および時刻(t
B) における第2基準周波数f2 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) は、時刻(t
B) における第1基準周波数f1 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) と第3基準周波数f3 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) との中間点に設定される。すなわち、
f2 ( ΔX(t
A) , f(t
A) ) = f2 ( ΔX(t
B) , f(t
B) )
=( f1 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) + f3 ( ΔX(t
B) , f(t
B) ) )/ 2
である。
【0032】
ここで、従来のサスペンション制御装置では、低周波数領域、中間周波数領域、高周波数領域、および高周波数領域を超える領域、の各周波数領域が固定された領域であったため、当該固定された周波数領域に基づき、入力周波数に応じて減衰力を増減させても、期待するようなばね上の制振効果が得られないことがある。
【0033】
そこで、本実施形態では、入力条件(入力周波数および振幅)、延いてはばね上固有振動数に応じて、低周波数領域L(t) 、中間周波数領域M(t) 、高周波数領域H(t) 、および高周波数領域H(t) を超える周波数領域S(t) 、の各周波数領域を変動させ、当該入力条件に対応させた周波数領域に基づき、緩衝器4が発生しなければならない減衰力を決定するようにしたので、より適切な減衰力を選定することが可能であり、車両の乗り心地を向上させることができる。
【0034】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、車両のばね上1とばね下2との間の相対変位を検出するばね上変位センサ5およびばね下変位センサ6(変位検出手段)と、ばね上変位センサ5およびばね下変位センサ6によって検出された相対変位の周波数を算出する入力周波数算出部13(入力周波数算出手段)と、ばね上変位センサ5およびばね下変位センサ6によって検出された相対変位と入力周波数算出部13によって算出された入力周波数とに基づき、ばね上固有振動数とばね下固有振動数とを推定する共振周波数推定部14(共振周波数推定手段)と、共振周波数推定部14によって推定されたばね上固有振動数とばね下固有振動数とに基づき、発生させる減衰力を決定する減衰力決定部(減衰力決定手段)と、を備えるので、変動するばね上固有振動数とばね下固有振動数に応じた適切な減衰力を選定することができる。
【0035】
減衰力決定部は、入力周波数算出部13によって算出された入力周波数が、共振周波数推定部15によって推定されたばね上固有振動数を含む低周波数領域と、ばね下固有振動数を含む高周波数領域と、低周波数領域と高周波数領域との間に設けられる中間周波数領域と、高周波数領域を超える周波数領域と、のいずれかにあるかを判別する判別部17(判別手段)と、入力周波数が低周波数領域にあるとき高減衰力を選定し、入力周波数が中間周波数領域にあるとき低減衰力を選定し、入力周波数が高周波数領域にあるとき高減衰力を選定し、入力周波数が高周波数領域を超える周波数領域にあるとき低減衰力を選定する減衰力選定部19(減衰力選定手段)と、を備えるので、入力条件(入力周波数および振幅)に応じた適切な減衰力を選定することが可能であり、車両の乗り心地を向上させることができる。