(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987034
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20211213BHJP
B24B 7/22 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
B24B7/22 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-169281(P2018-169281)
(22)【出願日】2018年9月11日
(65)【公開番号】特開2020-43216(P2020-43216A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2020年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 俊一
【審査官】
内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−261370(JP,A)
【文献】
特開2002−203828(JP,A)
【文献】
特開平02−069938(JP,A)
【文献】
特開2004−006630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの素子構造が形成された第1主面に弾性率が2GPa以上の表面保護膜を、前記表面保護膜の端部が波状となるように形成し、
前記半導体ウエハの前記第1主面側をステージに載置して、前記半導体ウエハの前記第1主面と反対の面である第2主面を研削する、
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記表面保護膜は、ポリイミドからなる、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記表面保護膜の形成は、前記表面保護膜の端部が前記半導体ウエハの前記第1主面の端部よりも内側に位置するように、前記表面保護膜を形成することである、
請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記表面保護膜の形成は、前記表面保護膜の端部と前記半導体ウエハの前記第1主面の端部との距離の最小値が0.1mm以上となるように、前記表面保護膜を形成することである、
請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記表面保護膜の形成は、前記表面保護膜の端部と前記半導体ウエハの前記第1主面の端部との距離の最大値が1.3mm以下となるように、前記表面保護膜を形成することである、
請求項3または請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記表面保護膜の厚みは、前記半導体ウエハの前記第1主面に形成された前記素子構造によるパターンの厚み以上である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハの研削に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリまたはマイクロプロセッサなどの半導体装置は、3次元実装等によりパッケージ内に高密度に配置される。従って、半導体ウエハの厚みを薄くすることが求められている。また、産業用または自動車用のモータ駆動に使われるインバータ回路もしくは無停電電源装置などに搭載されるIGBT、MOSFET、またはDiodeなどの電力用半導体装置においても、オン特性などの通電性能を改善するため、半導体ウエハの薄化加工が行われている。現在、半導体ウエハの薄化は数十μmまで進んでいる。
【0003】
半導体装置は、以下の手順で作成される。まず、半導体ウエハの表面に、電極と絶縁保護膜とを含む素子構造部を形成する。その後、半導体ウエハの裏面に薄化加工、化学処理、熱処理および電極形成などを行う。そして、半導体ウエハをダイシングにより個片化する。
【0004】
半導体ウエハの薄化加工は、機械的な研削により行われる。研削ステージに半導体ウエハの表面を固定し、砥石と研削ステージを回転させながら砥石を半導体ウエハに向かって下降させ、半導体ウエハの裏面を研削加工する。一般に、研削加工中に素子構造部が損傷したり、研削屑または研削水等により汚染したりすることを防ぐため、半導体ウエハの表面を保護する必要がある。
【0005】
半導体ウエハの表面には、素子構造部の凹凸が存在する。近年、半導体ウエハが数十μm程度まで薄くなったことにより、表面の凹凸が相対的に大きくなった。そのため、研削加工時に表面の凹凸に起因して半導体ウエハが割れ易いという問題がある。この半導体ウエハの割れを抑制するため、半導体ウエハの表面に保護シートを貼り付けたうえで研削加工を行う方法が特許文献1,2で提案されている。特許文献1は、厚い粘着層を有する保護シートを用いて素子構造部の凹凸を緩和する方法を提案している。また、特許文献2は、特定の弾性率を有する中間層を設けた積層シートを用いて素子構造部の凹凸を緩和する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−196710号公報
【特許文献2】特開2001−203255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体ウエハの表面の凹凸に追従して段差を緩和するため、特許文献1の中間層または特許文献2の粘着層には、弾性率の小さい、比較的柔らかい部材を使用する必要がある。そのため、研削加工時の砥石の負荷により保護シートが変形し、ウエハが薄く加工された時に、ウエハも変形し、割れが発生するという問題があった。特に、炭化ケイ素基板またはサファイア基板等の難研削材を薄化加工する際には、半導体ウエハへの負荷が大きくなるため、保護シートに大きな負荷がかかって変形し、回転モータ負荷の不安定、砥石摩耗率の増大、ウエハ割れの発生などの問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、半導体ウエハの研削加工において割れの抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体装置の製造方法は、半導体ウエハの素子構造が形成された第1主面に弾性率が2GPa以上の表面保護膜を
、表面保護膜の端部が波状となるように形成し、半導体ウエハの第1主面側をステージに載置して、半導体ウエハの第1主面と反対の面である第2主面を研削する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、半導体ウエハの第1主面に弾性率が2GPa以上の表面保護膜を形成するため、半導体ウエハの研削加工時に砥石からの負荷による表面保護膜の変形が抑制される。従って、半導体ウエハの割れが抑制される。
また、表面保護膜の端部が波状に形成されるため、薄化加工時に半導体ウエハが砥石から受ける負荷の半径方向の変化が緩和され、半導体ウエハの端部での割れが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】半導体ウエハの第1主面上に表面保護膜を形成した状態の断面図である。
【
図2】表面保護膜の形成後の半導体ウエハの端部を示す上面図である。
【
図3】比較例の半導体ウエハの研削加工を示す図である。
【
図4】比較例の半導体ウエハの研削加工を示す図である。
【
図5】実施の形態1の半導体ウエハの研削加工を示す図である。
【
図6】比較例の半導体ウエハのウエハ保護率を示す図である。
【
図7】実施の形態1の半導体ウエハのウエハ保護率を示す図である。
【
図8】保護シートA、保護シートBおよび樹脂部材Cをそれぞれ第1主面に形成した半導体ウエハにおけるウエハ割れの発生率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<A.実施の形態1>
図1は、半導体ウエハ1の第1主面1A上に表面保護膜8を形成した状態を示す断面図である。半導体ウエハ1は、第1主面1Aと、第1主面1Aと反対側の主面である第2主面1Bとを有している。半導体ウエハ1の第1主面1Aには素子構造が形成され、素子構造による凹凸パターン9が形成されている。表面保護膜8は、半導体ウエハ1の第1主面1A上に形成される。表面保護膜8が第1主面1A上に形成されると、その表面には凹凸パターン9に起因する凹凸が生じている。しかし、その後、熱処理により表面保護膜8の表面の凹凸が緩和される。表面保護膜8は、凹凸パターン9の段差を覆うことができるだけの厚みがあれば良い。例えば、凹凸パターン9の段差を10μmとすると、表面保護膜9は、20μm程度の厚みで第1主面1Aに塗布される。表面保護膜8に弾性率が約3GPaのポリイミド樹脂が用いられる場合、200℃程度の熱処理によって
図1に示す構造が得られる。なお、表面保護膜8は、弾性率が2GPa以上の樹脂部材であれば良く、積層構造であっても良い。
【0013】
図2は、表面保護膜8の形成後の半導体ウエハ1の端部を示す上面図である。表面保護膜8は、半導体ウエハ1の全面に形成されるわけではなく、半導体ウエハ1の端部を避けて形成される。また、表面保護膜8の端部は波状である。従って、半導体ウエハ1の端部から表面保護膜8の端部までの距離は、半導体ウエハ1の円周方向の位置によって異なり、その最小値をa、最大値をbとする。
【0014】
例えば以下のような方法で、表面保護膜8の端部を波状にすることができる。第1の方法は、樹脂を半導体ウエハ1の第1主面1Aの全面に回転塗布し、表面保護膜8を形成する。その後、半導体ウエハ1を回転させながらその外周部に除去液を吐出し、表面保護膜8を波状に溶解させる。第2の方法は、第1の方法と同様に半導体ウエハ1の第1主面1Aの全面に表面保護膜8を形成した後、半導体ウエハ1を回転させながらその第2主面1Bに除去液を吐出する。そして、半導体ウエハ1の第1主面1Aの外周部に回り込んだ除去液により、表面保護膜8を波状に溶解させる。第3の方法は、樹脂を半導体ウエハ1の第1主面1Aにディスペンサで塗布することにより、その端部を波状にする。
【0015】
半導体ウエハ1の端部から表面保護膜8の端部までの距離の最小値aは0.1mm以上、最大値bは1.3mm以下である。上述した表面保護膜8の熱処理は、表面保護膜8を形成した後、その端部を波状にする前に実施されても良いし、後に実施されても良い。
【0016】
次に、半導体ウエハ1の薄化加工について説明する。薄化加工は、表面保護膜8の形成後に行われる。まず、半導体ウエハ1の第1主面1A側を研削ステージ7に固定する。そして、研削ステージ7を回転すると共に、砥石5が取り付けられたホイール6を回転しながら下降させ、半導体ウエハ1の第2主面1Bを砥石5で研削する。
【0017】
図3は、比較例として、第1主面1Aに保護シート2が形成された半導体ウエハ1の研削加工を示している。保護シート2は、一般的に、基材シート3と粘着層4の積層構造である。基材シート3には、ポリエステル、ポリオレフィン系樹脂、またはポリイミドなどの、弾性率が1GPa以上と比較的高い材料、もしくは弾性率が1GPa以下の比較的柔らかいエチレン酢酸ビニル共重合樹脂が用いられる。粘着層4には、弾性率が1MPa程度のアクリル系樹脂が用いられる。
【0018】
第2主面1Bが研削されて半導体ウエハ1が薄くなると、
図4に示すように、砥石5からの負荷によって保護シート2が変形し、半導体ウエハ1も変形して割れが発生しやすくなる。基材シート3には、凹凸パターン9の段差を吸収するため中間層を有するものがあり、その場合、中間層の弾性率は1MPa程度である。この場合、半導体ウエハ1の変形または割れはさらに発生しやすい。また、研削加工中の砥石5からの負荷が半導体ウエハ1に直接伝わらないため、ホイール6の回転モータの負荷が不安定になったり、砥石5の摩耗率がばらついたりするといった問題が発生する。
【0019】
一方、実施の形態1の構成では、半導体ウエハ1の第1主面1Aに保護シート2ではなく表面保護膜8を形成する。表面保護膜8は弾性率が2GPa以上の高い剛性を有するため、
図5に示すように、研削加工時に砥石5からの負荷によって表面保護膜8が変形することを抑制することができる。従って、比較例において生じ得る問題が解決される。
【0020】
次に、表面保護膜8によるウエハ保護率について説明する。
図6は、比較例の半導体ウエハ1のウエハ保護率を示している。この比較例では、表面保護膜8の端部が波状ではなく、半導体ウエハ1の端部との距離が一定である。
図6のグラフの横軸は半導体ウエハ1の半径方向の位置を示し、縦軸はウエハ保護率を示している。なお、ウエハ保護率とは、半導体ウエハ1の第1主面上をその中心との距離を一定に保って一周したときの各点において、半導体ウエハ1が表面保護膜8により保護される割合を表している。比較例では、ウエハ保護率が半導体ウエハ1の半径方向に非連続的に変化するため、半導体ウエハ1の端部で割れが発生しやすい。
【0021】
一方、
図7に示すように、実施の形態1の半導体ウエハ1では、表面保護膜8の端部が波状に形成されるため、ウエハ保護率は半導体ウエハ1の半径方向に連続的に変化する。従って、薄化加工時に半導体ウエハ1が砥石5から受ける負荷の半径方向の変化が緩和され、半導体ウエハ1の端部での割れを抑制することができる。
【0022】
また、半導体ウエハ1の端部から表面保護膜8の端部までの距離の最小値aを0.1mmとすることにより、ウエハ薄化後の工程で表面保護膜8に起因する異物の発生が抑制される。また、半導体ウエハ1の端部から表面保護膜8の端部までの距離の最大値bを1.3mmとすることにより、半導体ウエハ1の端部での割れが抑制される。
【0023】
特に、炭化ケイ素基板またはサファイア基板等の難研削材を半導体ウエハ1として用いる場合、研削加工時の半導体ウエハ1に対する負荷が大きいため、上記のウエハ保護率による効果が大きい。
図8は、炭化ケイ素基板を保護シートA、保護シートB、実施の形態1の表面保護膜8に該当する樹脂部材Cで保護し、100μm以下に研削加工したときのウエハ割れの発生率を示している。なお、
図8の縦軸は、ウエハ割れの発生率を示しているが、これは保護シートAにおける値を1として正規化した値である。
【0024】
保護シートAは、基材、中間層、粘着層の積層構造であり、基材を約150μm、中間層と粘着層の合計を約80μmとしたものである。保護シートBは、基材と粘着層の積層構造であり、基材を約120μm、粘着層を約20μmとしたものである。保護シートAは、弾性率の低い中間層と粘着層が厚いため、砥石5の負荷による保護シートの変形が大きく、ウエハ割れ率が大きくなったものと考えられる。保護シートBは、粘着層が薄いため保護シートAに比べてウエハ割れ率が改善されている。また、中間層と粘着層がない樹脂部材Cは、最も変形が少なく、さらに表面保護膜8の半径方向での負荷変化を緩和するため、半導体ウエハ1の端部における割れも抑制していると考えられる。
【0025】
実施の形態1の半導体装置の製造方法では、半導体ウエハ1の素子構造が形成された第1主面1Aに弾性率が2GPa以上の表面保護膜8を形成し、半導体ウエハ1の第1主面1A側をステージ7に載置して、半導体ウエハ1の第1主面1Aと反対の面である第2主面1Bを研削する。表面保護膜8の弾性率が2GPa以上であるため、半導体ウエハ1の研削加工時に砥石5からの負荷による表面保護膜8の変形が抑制される。従って、半導体ウエハ1の変形または割れが抑制される。また、ホイール6の回転モータの負荷が安定化され、砥石5の摩耗率のばらつきが抑制される。
【0026】
また、表面保護膜8にポリイミドを用いることが可能である。ポリイミドは弾性率が約3GPaであるため、上述の効果が得られる。
【0027】
また、表面保護膜8の端部を、半導体ウエハ1の第1主面1Aの端部よりも内側に形成することによって、表面保護膜8に起因する異物が半導体ウエハ1内に発生することを抑制できる。
【0028】
また、表面保護膜8の端部を波状とすることにより、半導体ウエハ1の表面保護膜8による保護率を半導体ウエハ1の半径方向に対して連続的に変化させることができる。従って、薄化加工時に半導体ウエハ1が砥石5から受ける負荷の半径方向の変化が緩和され、半導体ウエハ1の端部での割れが抑制される。
【0029】
また、表面保護膜8の端部と半導体ウエハ1の第1主面1Aの端部との距離の最小値が0.1mm以上となるように、表面保護膜8を形成することにより、表面保護膜8に起因する異物が半導体ウエハ1内に発生することを抑制できる。
【0030】
また、表面保護膜8の端部と半導体ウエハ1の第1主面1Aの端部との距離の最大値が1.3mm以下となるように、表面保護膜8を形成することにより、半導体ウエハ1の端部での割れを抑制できる。
【0031】
表面保護膜8の厚みは、半導体ウエハの第1主面に形成された素子構造によるパターンの厚み以上とする。これにより、表面保護膜8によって素子構造の凹凸パターン9の段差を覆うことができる。
【0032】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 半導体ウエハ、1A 第1主面、1B 第2主面、5 砥石、6 ホイール、7 ステージ、8 表面保護膜。