特許第6987049号(P6987049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6987049鋼、前記鋼から作られた製品、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987049
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】鋼、前記鋼から作られた製品、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20211213BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20211213BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20211213BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20211213BHJP
   C21D 9/28 20060101ALI20211213BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20211213BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C22C38/00 302N
   C22C38/58
   C22C38/12
   C21D9/46 P
   C21D9/28 A
   C21D1/06 A
   C21D7/06 B
【請求項の数】33
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2018-519291(P2018-519291)
(86)(22)【出願日】2016年10月17日
(65)【公表番号】特表2018-535316(P2018-535316A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】IB2016056221
(87)【国際公開番号】WO2017064684
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年9月17日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/057939
(32)【優先日】2015年10月15日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】512072614
【氏名又は名称】アペラム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・ペラン・ゲラン
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−514056(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/008071(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/110379(WO,A1)
【文献】 特開2007−186780(JP,A)
【文献】 特開2008−088540(JP,A)
【文献】 特開2013−253277(JP,A)
【文献】 特開平01−142021(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103981436(CN,A)
【文献】 特開2004−090022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C22C 38/12
C21D 9/46
C21D 9/28
C21D 1/06
C21D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼であって、以下の組成:
‐ 10.0%≦Ni≦24.5%;
‐ 1.0%≦Mo≦12.0%;
‐ 1.0%≦Co≦18.0%;
‐ 14.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦29.0%;
‐ 21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%;
‐ 微量≦Al≦4.0%;
‐ 微量≦Ti≦0.1%;
‐ 微量≦N≦0.010%;
‐ 微量≦Si≦4.0%;
‐ 微量≦ Mn≦13.0%;
‐ 微量≦C≦0.03%;
‐ 微量≦S≦0.0020%;
‐ 微量≦P≦0.005%;
‐ 微量≦B≦0.01%;
‐ 微量≦H≦0.0005%;
‐ 微量≦O≦0.03%;
‐ 微量≦Cr≦5.0%;
‐ 微量≦Cu≦4%;
‐ 微量≦W≦6.0%;
‐ 微量≦Zr≦4.0%;
‐ 微量≦Ca≦0.1%;
‐ 微量≦Mg≦0.8%;
‐ 微量≦Nb≦4.0%;
‐ 微量≦V≦4.0%;
‐ 微量≦Ta≦4.0%;
‐ 微量≦Y≦4.0%;
‐ 0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦14.0%;
‐ 残部が鉄及び製造に由来する不純物
を重量%で有し:
前記鋼が熱間加工された部品又は熱間圧延されたシートの形態にある場合には650mmの、及び前記鋼が冷間圧延されたシートである場合には800mmの、研磨された表面上の画像解析の下で観察された介在物集団が、10μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする、鋼。
【請求項2】
前記鋼の重量%組成において、
‐ 12.0%≦Ni≦24.5%;
‐ 2.5%≦Mo≦7.0%;
‐ 4.0%≦Co≦18.0%;
‐ 15.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦27.0%;
‐ 25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%;
‐ 微量≦Al≦2.0%;
‐ 微量≦Si≦2.0%;
‐ 微量≦Mn≦4.0%;
‐ Si+Mn≧0.13%;
‐ 微量≦S≦0.0010%;
‐ 0.01%≦Cr≦5.0%;
‐ 微量≦Nb≦2.0%;
‐ 0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;
‐ Al+Cr≧0.1%;
であり、
前記鋼が熱間加工された部品又は熱間圧延されたシートの形態にある場合には650mmの、及び前記鋼が冷間圧延されたシートである場合には800mmの、研磨された表面上の画像解析の下で観察された介在物集団が、8μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
前記鋼の重量%組成において、
‐ 7.0%≦Co≦16.0%;
‐ 17.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦26.0%;
‐ 0.14%≦Mn≦4.0%;
‐ 0.1%≦Cr≦5.0%;
‐ Al+Cr≧0.17%;
である、請求項2に記載の鋼。
【請求項4】
前記鋼の重量%組成において、
‐ 8.0%≦Co≦15.0%;
である、請求項3に記載の鋼。
【請求項5】
熱間加工された鋼シート又は鋼ストリップを生産する方法であって、
求項1〜4のいずれか一項の記載に従う組成を有する鋼で電極を準備するステップと
一の又は複数の再溶融工程を使用して前記電極を再溶融し、再溶融された電極を得るステップと、
前記再溶融された電極に1050〜1300℃の温度で少なくとも1回の熱間加工を施し、熱間加工されたシート又は熱間加工されたストリップを得るステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項6】
‐ 熱処理が、前記熱間加工されたシート又は前記熱間加工されたストリップに施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記熱間加工されたシート又はストリップが、285Hv10又はそれ以上のビッカース硬度を有し、この硬度が前記熱間加工されたシート又は前記熱間加工されたストリップの断面に沿って評価されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱間加工されたシート又は前記熱間加工されたストリップが、次いで2mm以下の厚さを有するシート又はストリップを得るために、1つ以上のパスで冷間圧延されることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記シート又はストリップが、2つの冷間圧延パスの間及び/又は最後の冷間パスの後に、少なくとも1回の熱処理にかけられることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
様々なパスの前記冷間圧延の合計圧下率が少なくとも30%であることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱間加工又は冷間圧延されたシート又はストリップの少なくとも70%がマルテンサイト構造で構成されており、前記熱間加工又は冷間圧延されたシート又はストリップは、2030MPa以上の引張強度、2000MPa以上のオフセット降伏強度、及び1%以上の均一伸びを有することを特徴とする請求項5〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱間加工又は冷間圧延されたシート又はストリップが、切断されることを特徴とする請求項5〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記熱間加工又は冷間圧延され、切断されたシート又はストリップが、400〜600℃、30分〜5時間の硬化処理にかけられることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記切断されたシート又はストリップが、硬化後にその動的降伏強度を改善するために表面処理にかけられることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記表面処理が、炭化又はガス窒化又はイオン窒化又は浸炭窒化又はショットピーニングであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記熱間圧延されたシート又はストリップ、又は前記冷間圧延されたシート又はストリップの結晶粒サイズが、5ASTM又はそれより微細であることを特徴とする請求項5〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
以下の組成:
− 10.0%≦Ni≦24.5%;
− 1.0%≦Mo≦12.0%;
− 1.0%≦Co≦18.0%;
− 14.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦29.0%;
−21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%;
− 微量≦Al≦4.0%;
− 微量≦Ti≦0.1%;
− 微量≦N≦0.010%;
− 微量≦Si≦4.0%;
− 微量≦Mn≦13.0%;
− 微量≦C≦0.03%;
− 微量≦S≦0.0020%;
− 微量≦P≦0.005%;
− 微量≦B≦0.01%;
− 微量≦H≦0.0005%;
− 微量≦O≦0.03%;
− 微量≦Cr≦5.0%;
− 微量≦Cu≦4%;
− 微量≦W≦6.0%;
− 微量≦Zr≦4.0%;
− 微量≦Ca≦0.1%;
− 微量≦Mg≦0.8%;
− 微量≦Nb≦4.0%;
− 微量≦V≦4.0%;
− 微量≦Ta≦4.0%;
− 微量≦Y≦4.0%;
− 0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Zr+Y+Ti+N≦14.0%;
− 残部が鉄及び製造に由来する不純物
を重量%で有する、熱間加工された部品又は熱間圧延されたシートの650mmの研磨された表面上の画像解析の下で観察された介在物集団が、10μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする、熱間加工された鋼製品。
【請求項18】
前記鋼製品の重量%組成が、
‐ 12.0%≦Ni≦24.5%;
‐ 2.5%≦Mo≦7.0%;
‐ 4.0%≦Co≦18.0%;
‐ 15.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦27.0%;
‐ 25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%;
‐ 微量≦Al≦2.0%;
‐ 微量≦Si≦2.0%;
‐ 微量≦Mn≦4.0%;
‐ Si+Mn≧0.13%;
‐ 微量≦S≦0.0010%;
‐ 0.01%≦Cr≦5.0%;
‐ Nb≦2.0%;
‐ 0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;
‐ Al+Cr≧0.1%;
であり、
熱間加工された部品又は熱間圧延されたシートの650mmの研磨された表面上の画像解析の下で観察された介在物集団が、8μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする、請求項17に記載の鋼製品。
【請求項19】
前記鋼製品の重量%組成が、
‐ 7.0%≦Co≦16.0%;
‐ 17.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦26.0%;
‐ 0.1%≦Cr≦5.0%;
‐ Al+Cr≧0.17%;
である、請求項18に記載の鋼製品。
【請求項20】
前記鋼製品の重量%組成が、
‐ 8.0%≦Co≦15.0%;
である、請求項19に記載の鋼製品。
【請求項21】
標準ASTM E112による10又はより微細なオーステナイト結晶粒サイズ値を有する結晶粒サイズを有する、請求項17〜20のいずれか一項に記載の鋼製品。
【請求項22】
前記鋼製品の少なくとも70%がマルテンサイト構造で構成されており、前記鋼製品は、2030MPa以上の引張強度、2000MPa以上のオフセット降伏強度、及び1%以上の均一伸び、285Hv10以上のビッカース硬度を有し、この硬度は前記熱間加工された製品の断面に沿って評価されていることを特徴とする請求項17〜21のいずれか一項に記載の鋼製品。
【請求項23】
以下の組成:
−10.0%≦Ni≦24.5%;
− 1.0%≦Mo≦12.0%;
− 1.0%≦Co≦18.0%;
− 14.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦29.0%;
− 21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%;
− 微量≦Al≦4.0%;
− 微量≦Ti≦0.1%;
− 微量≦N≦0.010%;
− 微量≦Si≦4.0%;
− 微量≦Mn≦13.0%;
− 微量≦C≦0.03%;
− 微量≦S≦0.0020%;
− 微量≦P≦0.005%;
− 微量≦B≦0.01%;
− 微量≦H≦0.0005%;
− 微量≦O≦0.03%;
− 微量≦Cr≦5.0%;
− 微量≦Cu≦4%;
− 微量≦W≦6.0%;
− 微量≦Zr≦4.0%;
− 微量≦Ca≦0.1%;
− 微量≦Mg≦0.8%;
− 微量≦Nb≦4.0%;
− 微量≦V≦4.0%;
− 微量≦Ta≦4.0%;
− 微量≦Y≦4.0%;
− 0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦14.0%;
‐残部が、鉄及び製造に由来する不純物;
を重量%で有し、
800mmの研磨された表面上の画像解析の下で観察された介在物集団が、10μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする鋼製の冷間圧延されたシート又はストリップ。
【請求項24】
前記シート又はストリップの重量%組成が、
‐ 12.0%≦Ni≦24.5%;
‐ 2.5%≦Mo≦7.0%;
‐ 4.0%≦Co≦18.0%;
‐ 15.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦27.0%;
‐ 25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%;
‐ 微量≦Al≦2.0%;
‐ 微量≦Si≦2.0%;
‐ 微量≦Mn≦4.0%;
‐ Si+Mn≧0.13%;
‐ 微量≦S≦0.0010%;
‐ 0.01%≦Cr≦5.0%;
‐ 微量≦Nb≦2.0%;
‐ 0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;
‐ Al+Cr≧0.1%;
であり、
800mmの研磨された表面上の画像解析の下で観察された介在物集団が、8μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする、請求項23に記載のシート又はストリップ。
【請求項25】
前記シート又はストリップの重量%組成が、
‐ 7.0%≦Co≦16.0%;
‐ 17.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦26.0%;
‐ 0.1%≦Cr≦5.0%;
‐ Al+Cr≧0.17%;
である、請求項24に記載のシート又はストリップ。
【請求項26】
前記シート又はストリップの重量%組成が、
‐ 8.0%≦Co≦15.0%;
である、請求項25に記載のシート又はストリップ。
【請求項27】
標準ASTM E112による10又はより微細な結晶粒サイズ値を有する結晶粒サイズを有することを特徴とする請求項23〜26のいずれか一項に記載のシート又はストリップ。
【請求項28】
2030MPa以上の引張強度、2000MPa以上のオフセット降伏強度、及び1%以上の均一伸びを有することを特徴とする、請求項17〜27のいずれか一項に記載の鋼製品又はシート若しくはストリップ。
【請求項29】
請求項17〜28のいずれか一項に記載のシート又はストリップに由来する鋼製品であって、最も外側の表面の硬度値が900Hv0.1より高いことを特徴とする鋼製品。
【請求項30】
タービンシャフト又は熱間加工されたトランスミッション部品であって、前記シャフト又は前記部品が、請求項17〜22のいずれか一項に記載の熱間加工された製品から成る少なくとも1つの構成要素を備えることを特徴とするタービンシャフト又は熱間加工されたトランスミッション部品。
【請求項31】
請求項23〜29のいずれか一項に記載の冷間圧延されたシート又はストリップから作られているか、又は前記シート又は前記ストリップに由来する製品から作られている少なくとも1つの構成要素を備えることを特徴とするトランスミッションベルト。
【請求項32】
CVTタイプの自動車のトランスミッションベルトであることを特徴とする請求項31に記載のトランスミッションベルト。
【請求項33】
請求項17〜22のいずれか一項に記載の鋼製品、又は請求項23〜28のいずれか一項に記載のシート又はストリップであって、前記製品又は前記シート又はストリップの結晶粒サイズが、5ASTM若しくは5ASTMより微細であることを特徴とする、鋼製品或いはシート又はストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、以下の特性:優れた機械的特性(非常に高い疲労強度、高い降伏強度、及び高い破断強度)、簡単な熱処理及びこれら処理後の寸法安定性、溶接の容易性、及び成形性の1つ以上を要求する用途において使用される、いわゆる「マルエイジング」鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
これらマルエイジング鋼は、高い機械的特性を得るために好都合な金属間相の析出を介して時効後の硬化を得るように時効され得るマルテンサイト構造によって特徴づけられる。
【0003】
従来は、硬化元素としてのTiを含む、(以下に与えられるすべての組成が重量パーセントで表される)Ni=18%、Co=9%、Ti=0.45%、残部が鉄及び製造に由来する不純物(いわゆるX2NiCoMo18−9−5)の典型的な組成を有するM250タイプのマルエイジング鋼が知られている。それらは、一体型部品(エンジンシャフト、遠心ブレード(centrifuge blades))として、及び高性能精密部品:時計用ばね、フェンシングフォイルブレード、自動車及び一般的に乗り物のための、又は工作機械若しくは他の回転機械のための、CVT(連続可変トランスミッションタイプのオートマチックトランスミッションベルト)としての両方に使用することができる、優れた特性を有する部品を形成するために特に使用される。部品が疲労を被る用途に対しては、時効に加え、部品を窒化、浸炭窒化、ショットピーニング、炭化による表面硬化処理にかけることが通常である。
【0004】
特許文献1からは、任意選択的にESR(エレクトロスラグ再溶解)と組み合わせたVIM(真空誘導溶解)タイプ及び/又はVAR(真空アーク再溶解)タイプの処理を含む方法で生産された、組成:Ni=12〜24.5%;Mo=2.5%;Co=4.17%;Al≦0.15%;Ti≦0.1%;N≦30ppm;Si≦0.1%;Mn≦0.1%;C≦50ppm;S≦10ppm;P≦50ppm;H≦3ppm;O≦10ppm;残部Fe及び製造に由来する不純物を有し、Ni+Moが20〜27%であり、Co%×Mo%が50〜200であり、Ti%×N%≦2×10−4であるTiフリーのマルエイジング鋼が知られている。これら鋼は、次いで薄い厚さ(例えば1mm以下)のストリップを得るために熱間加工及び冷間加工される。部品が成形された後、部品にその中核的機械的特性を与える析出硬化が行われ、続いて表面処理が疲労応力、静的摩擦、動的摩耗に耐えるためのさらに高い表面特性を付与することができる。
【0005】
約18%のNi、9%のCo、5%のMo、0.5%のTi、及びいくらかのAlを含む既知のマルエイジング鋼と比較すると、特許文献1のこれら鋼は、(エイジングされ、窒化された状態で)制御された介在物集団(inclusion population)及び疲労耐性に関する高い疲労強度によって秀でている。より詳細には、冷間圧延された製品の目標とする機械特性は、Ar>2.5%、Rp0.2<1140MPa、Rm<1480MPaであり、エイジングされた状態ではRp0.2<1770MPa、Rm>1800MPaであり、最終的に、窒化された状態では目標とする特性はAr>1%、Rm>1930MPaである。
【0006】
また、特許文献2からは、CVTベルト用を意図された高い疲労強度及び引張強度を有するマルエイジング鋼が知られており、C≦100ppm、Si≦0.1%、Mn≦0.1%、P≦0.01%、S≦50ppm、Ni=17〜22%、Cr=0.1〜4.0%、Mo=3.0〜7.0%、Co=10.0〜20.0%、Ti≦0.1%、Al≦0.05%、N≦300ppm、O≦50ppm、0<B≦0.01%、任意に0.01%までのCa、0.005%までのMg、0.01%までのZrが存在し、残部がFe及び8.0〜15.0%のCo/3+Mo+4Alを有する不純物の組成を有する。好ましくは、適用される熱処理及び加工熱処理が、ASTM10又はそれより微細な、非常に微細なグレインを与える。
【0007】
また、特本願の出願人による特許献3からは、低炭素濃度を有する組成と、1〜25%のCo濃度及び1〜12%のMo濃度を有する制御された介在物集団と、を組み合わせたマルエイジング鋼が知られている。それらに硬化元素を添加され得る、Mo+Coの合計は20〜29%であり、Ni+Co+Moの合計は少なくとも29%である。ここで最も推奨される高価な元素の含有量は、それにもかかわらず高いままに維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第1339880号明細書
【特許文献2】欧州特許第2180073号明細書
【特許文献3】国際特許出PCT/IB2015/052975号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高い機械特性を有する、可能な限り低価格である材料を有する新しいタイプのマルエイジング鋼を提案することである。言い換えると、最終製品が特に疲労を被る用途のために、この鋼は、比較的低い材料コストと非常に良好な固有の機械的性能との間の最良の妥協の可能性とともに、例えば上述された鋼に比較して窒化挙動に関して優れた表面特性を示す。前述の用途に対して十分な引張強度及び/又は疲労強度は、改善された表面特性、特に窒化された層、浸炭窒化された層、炭化された層、ショットブラストされた層、又は他の層を形成するための表面処理中の性質と組み合わされた望ましい特性である。この層は、表面層の圧縮を通じた繰り返し負荷の下で、遅延クラックを可能にする表面の残留応力を提供することが可能でなければならない。表面処理の効果は、例えば製品の表面に与えられる硬度、残留応力の相対的レベル、及び形成される相のタイプを介して評価することができる。
【0010】
この目的のために、本発明の対象は、重量パーセントで以下の組成:
‐ 10.0%≦Ni≦24.5%、好ましくは12.0%≦Ni≦24.5%;
‐ 1.0%≦Mo≦12.0%、好ましくは2.5%≦Mo≦7.0%;
‐ 1.0%≦Co≦18.0%、好ましくは4.0%≦Co≦18.0%;より好ましくは7.0%≦Co≦16.0%、さらに好ましくは8.0%≦Co≦15.0%
‐ 14.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+≦29.0%、好ましくは15.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦27.0%、より好ましくは17.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦26.0%;
‐ 21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%、好ましくは25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%;
‐ 微量≦Al≦4.0%、好ましくは微量≦Al≦2.0%;
‐ 微量≦Ti≦0.1%;
‐ 微量≦N≦0.010%;
‐ 微量≦Si≦4.0%、好ましくは≦2.0%;
‐ 微量≦Mn≦13.0%、好ましくは微量≦Mn≦4.0%、より好ましくは0.14%≦Mn≦4.0%;
‐ 好ましくはSi+Mn≧0.13%;
‐ 微量≦C≦0.03%;
‐ 微量≦S≦0.0020%、好ましくは微量≦S≦0.0010%;
‐ 微量≦P≦0.005%;
‐ 微量≦B≦0.01%;
‐ 微量≦H≦0.0005%;
‐ 微量≦O≦0.03%;
‐ 微量≦Cr≦5.0%、好ましくは0.01%≦Cr≦5.0%、より好ましくは0.1%≦Cr≦5.0%;
‐ 微量≦Cu≦4.0%;
‐ 微量≦W≦6.0%;
‐ 微量≦Zr≦4.0%;
‐ 微量≦Ca≦0.1%;
‐ 微量≦Mg≦0.8%;
‐ 微量≦Nb≦4.0%、好ましくはNb≦2.0%;
‐ 微量≦V≦4.0%;
‐ 微量≦Ta≦4.0%;
‐ 微量≦Y≦4.0%;
‐ 好ましくは、微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦14.0%、より好ましくは、微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;さらに好ましくは、0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;
‐ 好ましくは、Al+Cr≧0.1%、より好ましくは≧0.17%;
‐ 残部は鉄及び製造に由来する不純物;
を有することを特徴とする鋼であり、鋼が熱間加工された部品又は熱間圧延されたロール状シートの形態の場合には、650mmの、また鋼が冷間圧延されたシートである場合には、800mmの、研磨された表面上における画像解析によって観察された介在物集団は、10μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まず、好ましくは8μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まない。
【0011】
本発明のさらなる課題は、鋼製品を生産するための方法であって、
‐ 再溶融電極が、上述された組成に従う組成を有する鋼中で準備され;
‐ この電極が、再溶融された電極を得るために、単一又は複数の再溶融プロセスを使用して再溶融され;
‐ 再溶融された電極が、熱間加工されたシート又は熱間加工されたストリップを得るために、1050℃〜1300℃の温度で少なくとも1回の熱間加工にかけられ、;
‐ 任意選択的に、前記熱間加工されたシート又は前記熱間加工されたストリップが熱処理にかけられる
ことを特徴とする。
【0012】
前記熱間加工されたシートまたはストリップは、任意選択的に熱処理されて、285Hv10以上のビッカース硬度を有し、この硬度は熱間加工された部品又はシートの断面に沿って評価される。
【0013】
前記熱間加工されたシートまたは前記熱間加工されたストリップは次いで、2mm以下、好ましくは1mm以下の厚さを有するシート又はストリップを得るために、1つ以上のパスで冷間圧延される。
【0014】
このシート又はストリップは、2回の冷間圧延パスの間及び/最後の冷間圧延パスの後に少なくとも1回の熱処理にかけることができる。
【0015】
様々なパスの累積冷間圧延率は、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%である。
【0016】
前記熱間又は冷間圧延され、任意選択的に熱処理されたシート又はストリップは、少なくとも70%のマルテンサイト構造、2030MPa以上の引張強度、2000MPa以上のオフセット降伏強度、及び1%以上の均一伸びを有することができる。
【0017】
前記熱間又は冷間圧延され、任意選択的に熱処理されたシート又はストリップは、切断し、任意選択的に成形することができる。
【0018】
前記熱間又は冷間圧延され、任意選択的に熱処理され、切断され、任意選択的に成形されたシート又はストリップは、400〜600℃で30分〜5時間、好ましくは420〜550℃で30分〜2時間の硬化処理にかけることができる。
【0019】
前記任意選択的に熱処理され、切断され、任意選択的に成形されたシート又はストリップは、硬化の後に、その動的降伏強度を改善するために表面処理にかけることができる。
【0020】
前記表面処理は、浸炭、又はガス窒化、又はイオン窒化、又は浸炭窒化、又はショットピーニングとすることができる。
【0021】
任意選択的に熱処理された、熱間圧延されたシート又はストリップ、又は任意選択的に熱処理された、冷間圧延されたシート又はストリップの結晶粒サイズは、5ASTM又はそれより微細、好ましくは10ASTM又はそれより微細である。
【0022】
本発明のさらなる対象は、熱間加工され、任意選択的に熱処理された鋼製品であり、以下組成:
− 10.0%≦Ni≦24.5%、好ましくは12.0%≦Ni≦24.5%;
− 1.0%≦Mo≦12.0%、好ましくは2.5%≦Mo≦7.0%;
− 1.0%≦Co≦18.0%、好ましくは4.0%≦Co≦18.0%、より好ましくは7.0%≦Co≦16.0%、さらに好ましくは8.0%≦Co≦15.0%;
− 14.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦29.0%、好ましくは15.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦27.0%、より好ましくは17.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦26.0%;
− 21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%、好ましくは25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%
− 微量≦Al≦4.0%、好ましくはAl≦2.0%;
− 微量≦Ti≦0.1%;
− 微量≦N≦0.010%;
− 微量≦Si≦4.0%、好ましくは、≦2.0%;
− 微量≦Mn≦13.0%、好ましくは微量≦Mn≦4.0%;
− 微量≦C≦0.03%;
− 微量≦S≦0.0020%、好ましくは微量≦S≦0.0010%;
− 微量≦P≦0.005%;
− 微量≦B≦0.01%;
− 微量≦H≦0.0005%;
− 微量≦O≦0.03%;
− 微量≦Cr≦5.0%、好ましくは0.01%≦Cr≦5.0%;より好ましくは0.1%≦Cr≦5.0%;
− 微量≦Cu≦4.0%;
− 微量≦W≦6.0%;
− 微量≦Zr≦4.0%;
− 微量≦Y≦4%;
− 微量≦Ca≦0.1%;
− 微量≦Mg≦0.8%;
− 微量≦Nb≦4.0%;好ましくはNb≦2.0%;
− 微量≦V≦4.0%;
− 微量≦Ta≦4.0%;
− 微量≦Y≦4.0%;
− 好ましくは微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Y+Ti+N≦14,0%、より好ましくは微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Y+Ti+N≦8.0%;さらに好ましくは0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;
− 好ましくはAl+Cr≧0.1%、より好ましくは≧0.17%;
− 残部Fe及び製造に由来する不純物;
を重量%で有するとともに、熱間加工された部品又は熱間圧延されたシートの、650mm2の研磨された表面における画像解析によって観察された介在物集団が、好ましくは8μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする。
【0023】
本発明のさらなる対象は、前述のタイプの熱間加工を受け、任意選択的に熱処理された鋼製品であり、少なくとも70%のマルテンサイト構造、2030MPa以上の引張強度、2000MPa以上のオフセット降伏強度、及び1%以上の均一伸びを有するとともに、285Hv10以上のビッカース硬度を有し、この硬度は熱間加工された製品の断面に沿って評価されていることを特徴とする。
【0024】
本発明のさらなる対象は、鋼の冷間圧延されたシート又はストリップであって、以下の組成:
− 10.0%≦Ni≦24.5%、好ましくは12.0%≦Ni≦24.5%;
− 1.0%≦Mo≦12.0%、好ましくは2.5%≦Mo≦7.0%;
− 1.0%≦Co≦18.0%、好ましくは4.0%≦Co≦18.0%、より好ましくは7.0%≦Co≦16.0%、さらに好ましくは8.0%≦Co≦15.0%;
− 14.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦29.0%、好ましくは15.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦27.0%、より好ましくは17.0%≦Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Y+Ta+Cr+C+Al+B+Ti+N≦26.0%;
− 21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%、好ましくは25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%;
− 微量≦Al≦4.0%、好ましくはAl≦2.0%;
− 微量≦Ti≦0.1%;
− 微量≦N≦0.010%;
− 微量≦Si≦4.0%、好ましくは≦2.0%;
− 微量≦Mn≦13.0%、好ましくは微量≦Mn≦4.0%;
− 微量≦C≦0.03%;
− 微量≦S≦0.0020%、好ましくは微量≦S≦0.0010%;
− 微量≦P≦0.005%;
− 微量≦B≦0.01%;
− 微量≦H≦0.0005%;
− 微量≦O≦0.03%;
− 微量≦Cr≦5.0 %、好ましくは0.01%≦Cr≦5.0%;より好ましくは0.1%≦Cr≦5.0%;
− 微量≦Cu≦4.0%;
− 微量≦W≦6.0%;
− 微量≦Zr≦4.0%;
− 微量≦Y≦4%;
− 微量≦Ca≦0.1%;
− 微量≦Mg≦0.8%;
− 微量≦Nb≦4.0%;好ましくはNb≦2.0%;
− 微量≦V≦4.0%;
− 微量≦Ta≦4.0%;
− 微量≦Y≦4.0%;
− 好ましくは、微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦14.0%、より好ましくは微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;さらに好ましくは0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%;
− 好ましくは、Al+Cr≧0.1 %、より好ましくは≧0.17%;
− 残部は鉄及び製造に由来する不純物;
を重量%で有するとともに、800mm2の研磨された表面における画像解析によって観察された介在物集団が10μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まず、好ましくは8μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まないことを特徴とする。
【0025】
それは、冷間圧延の後に、少なくとも1回の熱処理にかけられていてもよい。
【0026】
任意選択的に熱処理された、前記熱間又は冷間圧延されたシート又はストリップは、2030MPa以上の引張強度、2000MPa以上のオフセット降伏強度、及び1%以上の均一伸びを有する。他方で、二相グレードは熱処理の調整を必要とする場合があり、いくつかの熱サイクル後に、より劣った機械特性を示す場合がある。しかし、これら、グレードは、使用時に(ひずみ硬化および相変化を介して)強化された窒化と組み合わされたときに、動的な応力下における改善された性能を維持する。
【0027】
本発明のさらなる対象は鋼製品であり、任意選択的に形成された、前述のタイプの熱間圧延又は冷間圧延されたシート又はストリップから得られることを特徴とし、かつ、表面割れの開始をもたらす場合のある動的応力に対する耐性を改善するために、表面処理を受けていることを特徴とする。
【0028】
前記表面処理は、炭化、ガス窒化、イオン窒化、浸炭窒化、ショットピーニングの中から選択することができる。
【0029】
本発明のさらなる対象はタービンシャフト又は熱間加工されたトランスミッションの部品であり、前記シャフト又は前記部品が、前述のタイプの熱間加工された製品から形成された少なくとも1つの構成要素を備えることを特徴とする。
【0030】
本発明のさらなる対象はトランスミッションベルトであり、前述のタイプの冷間圧延されたシート又はストリップから生産された、又は前記シート又はストリップに由来する少なくとも1つの構成要素を備えることを特徴とする。
【0031】
これは、自動車用のCVTタイプのトランスミッションベルトとすることができる。
【0032】
本発明のさらなる対象は、前述のタイプの熱間加工され、任意選択的に熱処理された鋼製品、又は前述のタイプの任意選択的に熱処理された、冷間圧延されたシート又はストリップであり、前記製品又はシート或いはストリップの結晶粒サイズが5ASTM又はそれより微細であり、好ましくはASTM10又はそれより微細である。
【0033】
理解されるように、既知の従来技術に比べて目標とする節約を得るために、本発明は、Co及びMoのようないくつかの元素の必須な又は好ましい最大量を上述の提案に関連して低下させ、この低下を規定量のCu、Nb、Mn、Si、Al、Ta、V、Wのタイプの硬化元素及び通常は系統的には使用されない他の硬化元素の強制的な存在を通じて相殺する。これらグレードは、典型的なマルエイジング鋼が得られる大部分がマルテンサイト構造を、又はオーステナイト‐フェライト混合構造をもまた可能にする。本発明は、材料コストと機械的性能との間の妥協策であり、鋼の組成及び適用された熱機械的処理又は熱処理による機械的性能と、数、分散度、粒度分布、及び組成の特定の基準に合致する非金属介在物(本質的には酸化物、硫化物、窒化物)の制御された集合との組み合わせによって可能とされている。
【0034】
この集合は、様々な生産プロセス及びオペレータによって制御された条件の組み合わせの手段によって、液体金属の注意深い準備の後に得ることができる。特に、新しい若しくはほとんど劣化していない溶融炉及び金属処理用取鍋のような容器用の耐火ライニングを使用すること、及び再酸化及び再窒化を防止する目的で、金属が空気に暴露されるか又は暴露される場合があり得るときに、液体金属と大気との間の接触を、真空処理及び中性保護ガス(アルゴン)の使用を通じて回避することが望ましい。介在物のデカンテーションを、特に耐火ライニングの腐食によって結果的に生じる酸化された又は他の不純物を捕獲すること又は液体金属の周囲のスラグからはがれた不純物を捕獲すること無しに加速するために、生産用容器中の液体金属の撹拌もまた(電磁的手段を使用して、又は、特に中性ガスの注入を介して)制御されるべきである。これら注意事項は当業者には本質的に既知であるが、本発明において究明されたような、最終製品における酸化物、窒化物、又は硫化物の介在物に対する許容可能な閾値を超えることを回避するために、当業者が最良の既知の従来技術に倣って本発明を適用することが重要である。
【0035】
本発明の鋼は、特にそれらが高いCr又はMn含有量を有する、又は特に高いCrとMnとの含有量を有する場合に、特にこれら鋼がCVTトランスミッションベルトの構成要素を生産するために好ましく使用される場合に、重要な利点を提供する機械的挙動(低い塑性変形能力)を有する窒化された層を続いて得ることが特に良く役立つ。この観点から、Cu及びNbもまた好ましい。
【0036】
本発明は、添付の図を参照しつつ以下の説明を読むことによってより良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】薄片の透過型電子顕微鏡による、ガス窒化後のサンプルInv15に得られた硬化析出物を示す電子顕微鏡写真である。
図2】参照サンプルと、本発明による鋼のサンプルとに行われた、表面のマイクロ硬度のレベルの測定による窒化された層の特性評価を示す図である。
図3】参照サンプルと本発明による鋼のサンプルとに行われた、表面残留応力の測定による窒化された層の特性評価示す図である。
図4】窒化された状態における本発明の2つのサンプルにスクラッチ試験を行った時の窪み深さ及び残留深さにおける窒化された層の弾性挙動を示す図である。
図5図4におけるのと同じサンプルへの増加する荷重下でスクラッチ試験を行った時の音響放射における変化を示す図である。
図6】すべてが窒化された状態にある、本発明の4つのサンプル及び1つの参照サンプルにスクラッチ試験を行った時の弾性挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
鋼の組成(重量%で示された)は、以下の考察によって生じた。
【0039】
Ni含有量は10.0〜24.5%、好ましくは12.0〜24.5%である。条件は:
‐ 第1に、通常の熱処理を介して、全面的なマルテンサイト構造が得られる、すなわち、顕微鏡写真において見るときに、構造の表面の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%を示し;他の元素に対して必要とされる含有量と組み合わされた24.5%以上のNi含有量によって、適用された熱処理とは無関係に前記構造が得られることはない。
‐ 第2に、析出硬化の後に、延性、膨張、降伏強度、K1C強度(K1C tenacity)という特に好ましい特性が、想定される用途に対して得られ;既定の比率のCo、Mo、及び他の金属元素に関連して10.0%の最小Ni含有量が、そのような特性を得るために適用され;12.0%の最小Ni含有量が、この効果の満足のいく獲得のためにさらに好ましい。
である。
【0040】
Mo含有量は1.0〜12.0%である。この元素は、エイジング時の、Fe2Mo、MoNi3及び微小かつ分散された他の金属間化合物の形成を通じた構造的硬化を可能にする。任意選択的に、Mo含有量は、非常に重要なMo効果と、機械的特性の均一性を確実にするための最適なサイズの金属間化合物と、の両方を得るために2.5〜7.0%である。Moの上限は、時効硬化が可能である、ほとんどがマルテンサイト構造を維持するという要求によって決定される。
【0041】
この元素は高価であり、構造的硬化へのその影響は他のより経済的な元素によって部分的に確保することができるので、必要以上の量を添加しないことが有益である。
【0042】
また、Moは、窒化条件に依存する異なるタイプの微細かつ分散された析出物(Mo2N、FexMoyNz・・・タイプの析出物)を含有する窒化された層の形成及び特性に関与する。
【0043】
Co含有量は1.0〜18.0%である。この元素はマルテンサイト構造を安定化し、固相線温度を上昇させ、金属間化合物の析出を促進することによって硬化に間接的に関与する。使用されるCoの割合が18.0%より高いと、添加は高コスト(Coの高いコスト)となり、鋼の特性は、同時に他の元素の含有量が本発明の限界値内に留まる場合には、大きく変化する場合がある。好ましくは、Co含有量は4.0〜18.0%、より好ましくは7.0〜16.0%、さらに好ましくは8.0〜15.0%である。
【0044】
Co及びMoが、通常の量に比べて比較的少ない、制御された含有量を有する場合には、それらの作用は、この明細書の他のどこかで特定されている限界値内の1つ以上の硬化元素、Si、Mn、Cu、W、V、Nb、Zr、C、Al、B、Y、Ta、Cr、Ti、Nの添加を通じて達成されるに違いない。それは、本発明による態様の1つであり、それによって、特にこれら代替の硬化元素がそれらの最小限のコストの中で選択される場合には、構造的硬化による高いレベルの特性を維持しつつ、鋼のコストを低減することができる。同じ課題は、Moに対して上述したのと同様に当てはまる。
【0045】
十分な量のCoを有する必要に関するこの要求がもたらす結果は、硬化元素Mo+Co+Si+Mn+Cu+W+V+Nb+Zr+Ta+Cr+C+Al+B+Y+Ti+Nの合計が、14.0〜29.0%、好ましくは15.0〜27.0%、より好ましくは17.0〜26.0%にあるということである。このことは、Co含有量が少なくとも1%、好ましくは少なくとも4%であるので、添加は、Moが12%より高いことは決してなく、好ましくは7.0%より高くないという事実に関して、Si、Mn、Cu、W、V、Nb、Zr、Ta、Cr、C、Al、Y、及びB(どこかで推奨される限界値内で)の中から選択された少なくとも1つの元素から構成されなければならないということを暗示する。
【0046】
この合計に対する14.0%という下限は、十分な硬化効果の獲得によって正当化される。29.0%を上回ると、磁性及び材料の使用の条件が大幅に変わる。好ましくは、経済的なグレードを保ちつつ、最も厳しい想定される用途に対して通常の評価を得るためには、下限値は15.0%、好ましくは17.0%である。
【0047】
また、Ni、Co、Moの含有量は互いに依存し、
‐ Niは延性(特に低温における)を改善し、制御された膨張及び弾性係数を可能にし、また、靭性及びRe/Rm比へ影響を及ぼし、その含有量は、引用された好ましい特性(一般に合金の5%以降)から利益を得るための下限、及びそのガンマジェニックな性質によってマルテンサイト変態を阻害しないための上限に制限され、この効果のためにCo及びMoの影響もまた考慮に入れなければならない。
‐ Moは、金属間化合物の析出を介した構造硬化の目的のために添加され、マルエイジンググレードの破壊特性を得るためには、時効マルテンサイト構造が望ましく、Moは上述(1%以降)のようにこの硬化に関与するとともに、提案された添加元素(例えばNb)とともに構造硬化に関与することができ;Moは、その窒素に対する親和性(数%以降)を介して表面の窒化にも寄与し、最終的に、局所的な偏析に関連する場合のある弱化相(ラーベス相、σ、μ、θ、δ・・・)の形成における限界値に直面し、その上限は12.0%である。
【0048】
最終的に、時効マルテンサイト構造の形成に関しては、元素Co及びMoが硬化相の析出に関して共同して作用するが、フェライト構造の安定に関しては別々に作用する。これら傾向を統一するために、好ましくは大気温度より上のMs温度を保証する数式が提案される:
21.5%≦Ni+Co+Mo≦47.5%、好ましくは25.0%≦Ni+Co+Mo≦40.0%
【0049】
Al含有量は、微量〜4.0%、好ましくは微量〜2.0%である。Alは必ずしも添加されるわけではないが、機械的性能に関して低いCo含有量を相殺するために使用することができるこれら元素に属する。その存在は、生産中に液体金属の最初の脱酸のために添加する必要があったであろう量、又は特定の特性を得るために行われた場合のあるAlの自発的添加の量から結果的にもたらされる残部元素の量を減少させることができる。適切なコストのために、Alは弾力性を増加させるとともに、構造的硬化に関与することができる。また、それは、液体金属を準備するとき及び凝固した金属を加工するときに酸化を制限する。しかし、大きなサイズの介在物の形成は、高温プロセス(アルミニウム‐含有窒素及び酸素タイプ)の場合には、疲労強度及び弾力性を廉価させないように回避されるに違いない。Alの存在をこの好ましい含有量、2.0%未満に限定することによって、このリスクを制限することができる。いずれにしても、Alの大量の存在は、注意深い準備の条件と並行して行われなければならず、それは液体金属の主な再酸化を回避し、脱酸及び再酸化からもたらされたであろうアルミナ介在物のすべてのクラスタのスラグの中へのデカンティング及びトラッピングを促進する。
【0050】
Tiと同様に、アルミナは窒化を促進するが、形成された相の容易な制御を可能にすることはない。したがって、サイズが制御されていない析出物が液体状の鋼の生産及び凝固した半製品の熱間加工の様々なステップにおいて形成される場合があり、それらは疲労特性に劇的な効果を有する場合がある。
【0051】
したがって、Ti含有量は微量〜0.1%である。大量のTiの存在(本発明のマルエイジング鋼とは対照的に他のマルエイジング鋼によって必要とされる)を避けることによって、液体金属の凝固中の、最終製品の疲労強度を低下させるTi窒化物の形成を防止することが模索されている。本発明では、望ましい構造的硬化が他の手段によって得られる。
【0052】
最大で0.010%であるN含有量が、液相における窒化物の形成をできるだけ防止するために、窒化しやすい添加元素(Al、Tiタイプ)の存在下において低レベルで必要とされる。これらの場合を除くと、又は最も有害な窒化物を準備及び鋳造の時にデカンティングによって確実に取り除くことができる場合には、0.010%以下の許容N含有量が、原材料、生産プロセス、及び液体金属の鋳造の品質を通じて単に受動的に得られる場合が多い。
【0053】
Si含有量は微量〜4.0%である。Siは、液体金属の準備中にその脱酸のために使用することができ、比較的低いCo含有量を相殺するために使用することができる元素に属する。また、Siの存在は、Alの存在下にあってさえ、溶存酸素の一部の捕獲に貢献することができ、したがって、アルミナの有害な大きなクラスタを形成は殆どされ得ない。しかし、大きなSi含有酸化物の形成が最終的な凝固鋼において回避されなければならず、したがって、好ましい上限は2.0%である。Siはいくつかの元素の溶解度を増加させ、それによって構造を均一化する。最終的に、それは降伏強度を改善する。この比較的高いSi含有量は、介在物集団を得るという必要な事前の注意の本発明に対する確認が生産及び鋳造の時に行われる限りにおいて、許容可能である。
【0054】
Mn含有量は、微量〜13%、好ましくは微量〜4.0%、より好ましくは0.14%〜4.0%である。Mnは、固相における窒素の溶解度を増加させるので、窒化を改善する。また、Mnは遊離硫黄を補足し、それによって熱間加工時の弱点を制限する。さらに、Mnは効果的な脱酸剤であり、この点でSiと相乗的に作用することができ、Mnによる溶存酸素の一部の捕獲は、Si及びCr(以下参照)によるのと同様に、Al以外の様々な元素間における溶存酸素の分散を可能にし、それによって、アルミナ介在物の大きなクラスタの形成のリスクを制限する。しかし、その含有量は、機械的特性に対して有害な相の形成を防止するため、及びオーステナイトの比率の大幅な増加を防止するために、好ましくは4.0%に制限される。Mnは、調整されるべき特性を有する、フェライト‐オーステナイトの二相グレード(70%未満のマルテンサイトを含有する)の安定化を促進する。この明細書では、その比率の調整は、結果的な相変化及び特性への精密な制御を得るために、熱処理及び機械的変形のための条件でなければならないので、微調整されなければならない13.0%を超える含有量は、大きなサイズの、高Mn含有量を有する介在物又は相の形成、及び機械的特性を低下させる場合がある大きな比率のオーステナイトをもたらす危険がある。
【0055】
0.14%という最小値は、上述したMnの利点からの大きな利益を得始めるのに好適とすることができる。
【0056】
好ましくは、及びSi及びMnに対してここに説明された好ましい条件から独立して、Si+Mnの合計は少なくとも0.13%である。この優先事項によって、まず、存在し得るAl以外の少なくとも1つの脱酸元素のかなりの量があることが保証され、この他の脱酸剤(Crのような)は、大きなアルミナのクラスタの形成のリスクを有するAlによって捕捉されるOの量を制限することに貢献し;第2に、Si及びMnが、本発明にしたがって好ましく添加されてCo及びMoを部分的に置換する硬化元素に属し、それらが低コストであり、特定の範囲内で有害な二次的効果を有さないので、それら両方が(共同で使用される場合にはもっと)目標とする構造硬化に到達するための高い経済的利益の手段であることが保証される。
【0057】
炭素含有量は、微量〜0.03%である。カーバイドを生成する元素、例えばNbが添加された本発明のグレードに対しては、0.007%以下の炭素含有量がクロムの添加がない場合には好ましい場合がある。この態様では、炭素マルテンサイトが脆く、製品に必要とされる成形が許容されないので、マイルドなマルテンサイトが形成される。また、これら元素のいくつかは、カーバイドの析出を促進する傾向があるCoを置換するので、機械特性を低下する場合のある大きなカーバイドの形成を防止するために好ましい。したがって、特定された限界内での制御されたC含有量が必要とされるとともに、好ましい。
【0058】
S含有量は、多数及び大きなサイズで含まれる場合には疲労強度を低下させる硫化物の形成を回避するために、微量〜0.0020%であり、好ましくは微量〜0.0010%である。さらに、Sは、その場で分離することによって結晶粒界を弱化させ、それによって、鋼が応力に晒されるときのクラックの形成の可能性がある。したがって、溶解したSの存在は、原材料の注意深い選択及び/又は液体金属の強度の脱硫を介して回避しなければならない。正確な許容可能な最大含有量は、目的とされる用途によって、それ自体既知の態様で(上述で特定されたように、最大で0.0020%の限界値内に)調整されるべきである。
【0059】
P含有量は、Sと同様に、結晶粒界におけるPの可能性のある析出を制限するために、微量〜0.005%、好ましくはそれ未満である。
【0060】
Bは微量で存在することができるが、その自発的な添加は、好ましくは0.01%までとすることができる。この元素は構造的な精錬を促進し、結晶粒サイズを減少させる。Bは、機械的特性に対して有用であるが、延性がなくなるのを防止するために、あまりにも多く添加してはならない。
【0061】
H含有量は、水素による弱化の問題を回避するために5ppmまでに限定されている。液体金属を準備する際に1つ以上の真空処理を行うこと、並びに後続の周囲湿度、スラグによる液体金属の汚染、又はいずれかの添加された材料による汚染を回避することは、一般的にこのレベルに注意することができる。
【0062】
許容できるO含有量は、S、B、N、及び他の残部又は析出物を形成する可能性のある元素の含有量に対するように、最終製品の想定される用途に技術的に依存する。最大含有量は0.030%(300ppm)に設定され、この量は、液体金属を準備するために通常使用される方法の実施から得られる。目的は、最終製品中に、その組成、分布、およびサイズを制御することができない酸素を有することを回避することである。この目的のために、Al又は別の酸化可能な元素の、ここで決められた限度内での添加が低いO含有量(例えば、16ppm以下)を得ることに貢献し、提供される大きな酸化物の存在を回避し、生産の質が良く制御されて、雰囲気及び耐火材料によって可能な限り、液体金属の再酸化を回避する。
【0063】
Cr含有量は微量〜5.0%であり、好ましくは0.01%〜5.0%であり、より好ましくは0.1%〜5.0%である。したがって、その存在は完全に強制的なものではないが、酸化に対する耐性を増加させ、機械的特性を上げ、窒化を助けるという利点を有する。一方で、CrはMnのように、As/Af、Ms/Mf変態点を離間させることによって、オーステナイトの温度安定性領域を拡張するガンマジェニックな元素である。5%という上限は、この効果の極端な強調を避けるという要求によって正当化されている。
【0064】
また、Crは、本発明の鋼から形成された製品上に形成された可能性のある窒化された層の特性に、そのクラックの傾向を低下させるという有益な影響を有する。この効果は、大量のMnの存在で増大する。
【0065】
好ましくは、Al+Crの合計は少なくとも0.1%、より好ましくは少なくとも0.17%であり、それによって酸化物を形成する酸素はAlとCrとの間で分散され得、よって大きな介在物の形成のリスクを制限する。
【0066】
Cu含有量は微量〜4%である。Cuは、低いCo含有量を相殺するために、不純物として受動的に認識されるのではなく、任意に添加され得る元素に属する。その添加は、Cuがガンマジェニックであり、マルテンサイトの時効を低減させるので、たとえあったとしても、制限されなければならない。制御された比率での添加の場合には、Cuは、(Moと共に)硬化に関与し、酸化に対する耐性を改善する。
【0067】
W含有量は微量〜6.0%である。したがって、低いCoの含有量又はMoの含有量さえをも強要することは強制的なものではなく、望ましい場合に主に添加することができ、上述からわかるように、それによって、構造的な硬化に寄与する。
【0068】
Zr含有量は微量〜4.0%である。この元素を、脱酸に対して貢献するように、また微細な窒化物の形成に対して貢献するように添加することが好ましく、それによって、大きすぎる窒化物を生成する傾向にある元素(いずれにせよ大量のTiの存在が避けられるので、特にAl)が非常に大量に存在する場合であっても、Nは大きすぎる窒化物を形成しない。また、Zrは、Mo及びCoを代替することができる硬化元素に含まれる。
【0069】
Ca及びMgは、耐火材料の損耗及び製鋼生成物によって、酸化物又は硫化物の形で金属中に見られる場合がある。また、これら元素が脱酸に貢献し、酸化された介在物の組成全体の制御に貢献し、それによって、特にAl及びSiとの関連で、純アルミナの介在物より容易に合体し、移動することができる酸化物を形成するそれら元素の傾向を決定し、成形段階において依然として存在する場合のあるすべての介在物に展性を提供し、それらの有害性を減少させるように、これら元素を任意に添加することが望ましい場合がある。最終的な含有量は、そのサイズ及び分散を制御することができない酸化物の形成を防止するために、Caに対して0.1%、Mgに対して0.8%に制限されなければならない。
【0070】
Y、Nb、及びVは、それぞれ4.0%まで添加することができる。それらは、Co及びMoの低含有量を相殺するために使用することができる硬化元素に属する。
【0071】
さらに、Ta及びYは小さいサイズの酸化物を形成するように助け、Nb及びVは小さな炭化物の形成を促進する。したがって、これら元素は介在物のサイズに亘る制御に関して本発明の特徴を達成するのに役立つ。また、Nbは窒化された層の(低荷重の下での)弾性戻りに対して有益な影響を有する。
【0072】
最終的に、好ましくは、微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦14.0%、より好ましくは、微量≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%、さらに好ましくは、0.14%≦Al+Si+Cu+Nb+Mn+V+Ta+Cr+W+C+B+Y+Zr+Ti+N≦8.0%である。これら含有量の合計の値を制限することによって、Co及びMoに対するこれら元素の置換が有することができる硬化効果及びそれらの鋼の他の特性に対する二次効果を誇張しようとするものではない。この合計に対する少なくとも0.14%との最小値は、これら硬化元素の少なくとも1つがCo及びMoを置き換えることを任意に望まれるときに必要とされる量に対応する。
【0073】
いくつかの元素又はいくつかの元素の含有量の合計に対して「好ましくは」として条件づけられた含有量は、互いに独立するものであることが理解される。本発明から離れることなく、前記好ましい条件の1つ以上に留意し、その他に留意しないことが可能である。
【0074】
これら好ましい条件内で、最も推奨されるのは、合計Al+Cr≧0.17%かつSi+Mn≧0.13%に関するものである。これら2つの条件の少なくとも1つに注意を払うことは、介在物の制御、機械的特性、及び最終製品が使用されるときに窒化された層の良好な挙動に関する窒化可能性の望ましい結果の最適化に特に有利である。
【0075】
記載されていない元素は、せいぜい製造に由来する不純物の状態でのみ存在し、任意に添加されるものではない。
【0076】
介在物集団に関して、本発明に従って留意される基準は、鋼が熱間加工された部品又はシートの形態にある場合には650mmの研磨された表面上の画像解析の下で観察され、鋼が冷間圧延されたシートの形態にある場合には800mmの研磨された表面上の画像解析の下で観察されたこの介在物集団が、10μmより大きな相当直径を有する非金属介在物を含まない、好ましくは8μmより大きなサイズの介在物がないことである。
【0077】
熱間加工された部品又はシートに関しては、この集団は最適には熱間加工されたシートのmm当たり1.5μmより大きな相当直径を有する、2個以上、及び好ましくは1.5個以上の非金属介在物を含まず、観察は、例えば650mmの研磨された表面上において行われた、少なくとも200mmを対象とするSEM画像解析によって行われる。
【0078】
対象としている非金属介在物は、酸化物、硫化物、及び窒化物である。酸化物の集団は、生産方法の選択(特に、液体金属から最初に鋳造された電極の再溶融法を使用することによって、その後に大きな介在物をできるだけ取り除くケアが行われる液体金属の強度の脱酸)によって主に制御される。硫化物の集団は、原材料の注意深い選択及び/又は液体金属の脱硫を必要とする、非常に低いS含有量を強いることによって制御される。窒化物の集団は、例えば、液体金属を準備し、電極を再溶融するときに減圧の使用を通じて、及び金属のTi含有量を制限することを通じて、低い又は非常に低いN含有量を強いることによって制御される。
【0079】
本発明の鋼は、以下それに限られるわけではないが、以下の手段を介して準備される。
【0080】
その組成の本質的な構成成分を調整するために、最初にアーク炉の中、及び任意選択的に取鍋の中でもまた、液体状態に準備された鋼が、次いで再溶融電極の形態に鋳造される。これら電極は:
‐ 液体鋼の鋳造及び凝固の後に、インゴット、ビレット、又はスラブを形成するために、真空下で(VIMプロセス:真空誘導溶解又はそれ自体は既知のVARプロセス:真空アーク再溶解)、又はエレクトロスラグ再溶解(それ自体は既知のESRプロセス)によって1回再溶解される;又は
‐ 鋳造及び凝固の後に、インゴット又はスラブを形成するために、真空下で(VARプロセス:真空アーク再溶解)、又はエレクトロスラグ再溶解(ESR)によって数回再溶融される。
【0081】
したがって、電極の形態に準備され鋳造された後、1回の電極の再溶融又は電極の複数回の再溶融が、例えばVAR+VAR又はESR+VARで行われる。これら再溶融は、金属の高純度化を可能にし、偏析を減少させ、凝固構造を精錬することによって凝固の質を改善する。特に、ESR再溶融は、硫黄含有量の効果的な低下を可能とし、VAR再溶融は、窒素含有量の効果的な低下を可能とする。
【0082】
インゴット又はスラブは、次いで1050〜1300℃への加熱の後、典型的には1200℃の領域において熱間圧延されて、数ミリメータの厚さ、例えば約1.5〜5mmの厚さを有する熱間圧延されたシート又はストリップを得る。ガンマジェニック元素を例えば10%より高い含有量で含むグレードに対しては、マルテンサイトの形成を促進し、高すぎると判明し得るオーステナイトの量の継続する存在を防止するために、シートの冷却を制御することが適切である場合がある。これは、特にMnを含む鋼に対する場合である。実験を介して、当業者は、特定の鋼の場合に対して使用可能な設備によって、この制御された冷却が有益であるかどうかを決定することができるだろう。
【0083】
この厚さを有する熱間圧延された製品を、熱間圧延されたままで使用することができるか、又は熱間成形することができるか、又は制御された再結晶の状態で使用することができる場合がある。再結晶は、真の熱処理に匹敵する熱間圧延及びストリップのスプール巻取りの後に十分に生じている場合があるが、望ましい微細構造及び/又は機械特性が得られていない場合には、この構造を調整するために再結晶アニーリングを行うことができる。後者の場合には、当業者は、微細構造(特に結晶粒サイズ)及び望ましい機械的特性を調整するために、再結晶アニーリングのパラメータを調整することができる。
【0084】
典型的には、熱間圧延及び任意選択的な再結晶(他のタイプの熱処理を見込む)の後で、目的とするビッカース硬度の値は、285Hv10以上である。これは、950MPa以上の引張強度及び5%以上の均一伸びを示唆する。
【0085】
硬度は高温のシートの断面に沿って評価される。熱間圧延され、酸洗いされた製品の目標とする構造は好ましくは、結晶粒サイズが細かいほど、結晶粒サイズを与える数値が大きくなることが想定される、標準ASTM E112による10以上のオーステナイト結晶粒サイズ値を有する微細構造である。
【0086】
また、任意選択的に熱処理を施されたこの熱間圧延されたストリップは、直接使用されることを意図されておらず、次いで想定される用途に対する冷間成形によって、その厚さを減少させる必要がある。この場合には、それらは酸洗いされ、次いで、冷間圧延の異なるパス間に1つ以上の中間アニーリング工程を有して冷間圧延され、任意選択的に時効、再結晶、若しくは他のタイプの熱処理、又は目標とする用途に応じた適切な表面処理(後述する)のための1つの又は最終アニーリング工程を経て、2mm未満の、好ましくは1mm未満の、例えば0.4mm若しくは0.2mmの厚さを有する、冷間圧延されたストリップを得る。
【0087】
冷間圧延されたストリップの再結晶処理は、この処理の時に冷間圧延されたストリップが、30%以上、好ましくは40%以上の歪硬化率を有するように、所定の厚さで好ましくは行われる。それは、好ましくはASTM10(10μm未満の平均粒径)又はより微細(標準ASTM E112によるような)結晶粒サイズをストリップに与える。
【0088】
金属の微細な結晶粒及び/又は応力の緩和及び/又は焼準を得ることを意図したアニーリング処理は、温度及び時間のパラメータを好適に調整することによって保護雰囲気中で行われる。これらパラメータは、熱処理に対する特定の条件に依存し、当業者であればこれらパラメータをそれぞれの特定のケースに対して決定することができる。
【0089】
任意選択的に熱処理された、冷間圧延された製品の結晶粒サイズに関する好ましい要求はまた、任意選択的に熱処理にかけられた、熱間圧延された状態で使用されることを意図された製品に対しても好ましく有効である。
【0090】
ストリップの平面度を改善するため、また必要であればマルテンサイト変態を改善するために、ストリップを、1〜20%の圧下率で最終スキンパス圧延にかけることもできる。
【0091】
典型的には、冷間圧延されたストリップの硬化(時効)処理は、この処理の時に、冷間圧延されたストリップが、30%以上、好ましくは40%以上の歪硬化率を有するような所定の厚さで好ましくは行われる。
【0092】
一部がストリップから切り出され、例えばそれに行われる曲げ、溶接、及び硬化処理によって成形することができ、それによって個のストリップの一部は400〜600℃で30分〜5時間(好ましくは、420〜550℃で30分〜2時間、例えば420℃で30分又は480℃で2時間)保持される。
【0093】
また、熱間圧延された製品を、この処理からその機械的特性に従来から期待される利点を有する(典型的にはマルエイジング鋼の)硬化処理にかけることができる。
【0094】
本発明に係る、冷間圧延され、任意選択的に熱処理された、少なくとも70%マルテンサイトグレードに由来する製品は、少なくとも2030MPaの引張強度値Rm、少なくとも2000MPaの相殺された降伏強度Rp0.2、及び少なくとも1%の伸びA(5.65)に達することを可能にすることができる。他方で、二相フェライトーオーステナイトグレードに由来する製品は、所定の熱サイクルの後の劣った機械的特性を有するが、使用中の動的応力の下で増加した性能(ひずみ硬化、強化された相変化、及び窒化)を維持する。
【0095】
これら特徴は、十分な熱処理にかけられた、熱間圧延された製品に最適に達成され得る。
【0096】
この製品は、次いで(窒化、炭化、浸炭窒化、ショットピーニングによって)表面硬化されて、それらの疲労性能を高める。表面硬度Hv0.1は、典型的には当業者に知られた工程プロセス及び工程条件以外の窒化プロセス及び条件無しに少なくとも950とすることができる。
【0097】
実験が、本発明に従う鋼のサンプル(Invで示す)と参照サンプル(Refで示す)とに行われ、それらの重量%で表された組成が表1にまとめられている。残部は鉄及び検討される特性に対して重要ではない製造に由来する不純物である。記号「−」は、その元素がサンプル中に微量で、又は非常に少量でしか含まれず、金属学的な硬化を有さないことを意味する。
【0098】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0099】
表1における試料が採られる、本発明に係る鋼及び参照鋼の準備が、0.4mmの厚さを有するストリップを得るために以下のスキームに従って行われた。
【0100】
本発明の試料は、研究用真空誘導炉において、研究室で準備された。試験において、鋳造片は、試料Inv13、Inv18、Inv19、Inv24、Inv54、Inv55、Inv60、及びInv61を除いて数Kg(5〜50Kg)の重量であったが、試料Inv13、Inv18、Inv19、Inv24、Inv54、Inv55、Inv60、及びInv61は、工業用装置(数トン)で、最初にアーク炉において溶融し、続いてVIM及び再溶融VARプロセスの適用によって準備された。
【0101】
試料Ref1、Ref2、及びRef4は、工業用炉で準備された。他の参照試料Ref3、Ref5、Ref6、Ref25、Ref26、Ref50、Ref51は、研究室で準備された本発明の試料と同じ条件の下で、研究室において準備された。
【0102】
研究室での鋳造で評価された構造及び介在物集団は、同様の準備時間を通じて工業用装置で得られた構造及び介在物集団と非常に近かった。微細な介在物の密度およびサイズにおける差は、(使用されたインゴットの型を考慮して)研究室での鋳造の利益に対して20%を超えない。しかし、研究された鋳造は、前述のパラメータに関する差を相殺する方向の再溶融がないことによって特徴づけられており、研究室の試験結果を工業的な試験結果とほとんど同程度にする。インゴットは、次いでブルーミングを介して、厚みを減少するために変態され、この厚みを200〜100mmにされた。
【0103】
次いでスラブは、炉と圧延ミルとの間の移送時間を考慮して、熱間圧延が1285℃の温度から行われたことを意味する約1300℃への加熱の後に、3.5mmの厚さへ熱間圧延された。金属は続いて酸洗いされ、0.4mm以下の厚さへ冷間圧延された。オーステナイト化又は溶体化アニーリングが生産プロセスの様々なステップにおいて数回、それぞれ800〜850℃(1時間以下)、次いで850〜1200℃(10分未満継続して)及び最終的に420〜550℃で30分〜4時間、行われた。
【0104】
表2は、
‐ シートの幅の中央において取られた650mm2の試料で観察された、熱間圧延後の表1における試料それぞれ中の最も大きな介在物のサイズ;
‐ 4μmより大きな介在物に対して光学顕微鏡(OM)の下で650mm2の表面上で評価された介在物密度;及び
‐ 1.5μmより大きな介在物に対して、100〜400mm2の表面上で、工業的に準備された試料に、自動画像解析によって走査型電子顕微鏡(SEM)の下で観察された介在物密度
を与えている。
【0105】
観察された粒子の最大寸法が、「Dサークル」で示された介在物相当直径に置き換えた。
介在物の「直径」が、「相当直径」であること、すなわち円形の断面を有するであろう介在物の直径であり、観察された介在物と同じ表面積を有する場合には、介在物が単純な円形の断面より複雑な断面を有するであろうことが理解されるべきである。
【0106】
また、光学的画像解析が、色のコントラストを識別することしかできず、介在物の組成間の差を識別することはできないので、光学顕微鏡の下ではTiNがないこと、及び4μmより大きなサイズを有する介在物に対する多くの他の評価された粒子の介在物密度しか検証することができなかった。最後に、介在物集団は、200〜400mm2の表面上における、計数及び電界効果ガン(field effect gun)(MEB FEG)を有する走査型電子顕微鏡(それぞれx300、x1000、x10000の倍率で)の下での自動解析によって、より正確に明らかにされ、その表面密度が検討された。したがって、工業的に準備された試料の介在物の密度及びタイプが3.5mm厚さの熱間圧延されたストリップ上で特定された。すべての密度は表面密度(mm当たりの介在物の数)に修正された。
【0107】
【表2-1】
【表2-2】
【0108】
これら結果は、本発明の試料に対して、小さな介在物の密度及び比較的大きなサイズの介在物がないこと、すなわち熱間圧延された製品上に10μm以上の介在物がないこと及び参照試料の介在物密度のオーダー若しくはそれより低いオーダーの最適な介在密度が、材料の組成及び生産方法を調整することによって得られることを示す。そのような介在物は参照1の試料にもないが、疲労特性に有害である小さな酸化物介在物(直径5〜10μm)の数は、本発明の(例えば)工業的試料におけるよりはるかに多い。参照2の試料に関しては、この資料は非常に高い窒化物密度を有し、10μmより大きなサイズの窒化物を含む。この特性はそれだけで十分な疲労強度を達成することに対する主な障害(窒化物のサイズ、タイプ、及び形態による)となり、この資料については酸化物を検討する必要はないと考えられた。
【0109】
したがって、本発明の試料は小さな直径の介在物を少ない数(走査型電子顕微鏡の下で、装置の分解能によって検出可能な介在物の代表的数を評価するため、及び1.5μmより大きな寸法の正確な推定値を得るために必要とされる介在物の比較的微小なサイズ)しか含まない。特に、Tiがないこと及び非常に低いN含有量に特に関連し得る、Tiナイトライドがない。このケースは、参照1の試料においても同じであるが、その最も大きな介在物の介在物密度及び直径は、本発明のベストケースにおけるよりわずかに高い。参照2の試料に関しては、窒化物(主にTiナイトライド)がその中で優勢であり、ほとんど延性を有さない介在物の形態で含み、優れた疲労強度という目的を達成することを妨げる過剰なサイズを有することが多い。
【0110】
同様に、増加されたS含有量を有する参照4及び参照5、及びAl及びYそれぞれの高い含有量を有する参照3及び参照6は、熱間圧延された製品上で10μmより大きいという、大きなサイズの酸化物介在物を含む。
【0111】
光学顕微鏡下の介在物の計数は、(実施の迅速性及び容易性のために)最初に行われ、それらのリミットに(介在物の小さなサイズ及びそれらの少ない数の理由で)すぐに達する。また、酸化物、硫化物、又はその他のタイプの粒子からなる介在物に対して本発明において使用される光学顕微鏡は、計数画像が実験観察者によって適正に分類されていないと、試料準備、表面汚染等によって生じたグレーの色合い間の不明瞭さを介してアーティファクトを導入する場合がある。したがって、自動化された介在物の計数及びSEM及びEDXを使用する解析が、本発明によって生産された工業的試料における介在物の表面密度のより信頼できる説明を得るために好ましい。
【0112】
したがって、本発明の試料が参照1におけるより小さな最大サイズを有する介在物を示す場合があるとしても、本発明の試料のほとんどは、(同じ条件で評価された)参照の介在物密度より低い、走査型電子顕微鏡の下で評価された介在物密度をさらに示すということが解明された。
したがって、SEM観察下での1.5μmより大きな直径を有する介在物の密度は、参照1の介在物の密度より2倍以上低く、さらに、工業的鋳造のものに観察された最も大きな粒子のサイズは、この参照において観察されたサイズより(約1μmだけ)小さい。
【0113】
表2は、最良の組成領域が本発明の鋼の介在物集団に関して特定されるのを可能にする。
【0114】
本発明の試料Inv9〜13は、(生産方法および本発明による残部の元素の存在を制御すると)4%までのCuで、介在物の最大サイズが制御されるであろうことを示唆する。
【0115】
一方で、試料Inv14〜19は2%以下のNb含有量を有する好ましい組成、及びこの組成範囲内における、10μmを超えるサイズの炭化物の形成を防止するため、又は(Nbが存在する場合により高い炭素レベルを可能にする)Crのような他の炭化物生成元素の添加の優先性を与えるための、0.007%未満の炭素含有量を示唆する。
【0116】
試料Inv20〜24は、10μmより大きなサイズの介在物の形成を促進しないように、4%以下のマンガン含有量と、この含有量より高いと、自由な炭素の比率(好ましくは10ppm未満)に亘る精密な制御に対する必要を示唆している。
【0117】
(アルミニウム及び任意選択的なシリコン及び/又はクロムの添加を有する)低いCo含有量を有する試料、Ref25、Ref26、Inv27〜34、Inv39〜49、Inv52、Inv53、Inv56〜59、Inv61、Ref50、及びRef51は、特に16ppm以下の関連する酸素含有量を有する10μm以下の直径の介在物を有する。
【0118】
当業者は、冷間加工が、介在物のサイズが低くなる方向に、たぶんその分別を介して影響するが、いずれの状況下においてもこれら寸法を増加させることはできないことを知っている。
【0119】
本発明のグレードは、それらの固有の化学的組成を通じて、生産中にそれらが窒化物を形成せず、残存する介在物、特に酸化物のサイズ及びタイプが制御されるのを可能にする。使用される原材料の注意深い制御及び適用される工程によって、残存する元素N、S、C、及びPの低い含有量につなげ、液体金属の脱酸によって、形成される酸化物粒子のサイズが10μm以下、好ましくは8μm以下に制限されるとともに、記載された工程範囲によって得られる適切な組成を有する。鋼の組成に依存して、アルミニウム酸化物、例えばAl及びMg(この元素はスラグ及び生産装置の耐火材料に由来する)の混合された酸化物、又はアルミナのみの酸化物、またそれだけではなくSi、Ca、Mgの酸化物或いは他の混合された酸化物が形成され、時には少数の微細な硫化物又は炭化物がこれら介在物集団を支持する(underpin)。
【0120】
様々な試料の重要な機械的特性が表3、4、及び5にまとめられており、表3は熱間圧延段階における試料に関し、表4は、析出硬化を生じさせる時効アニーリング後の熱間圧延段階におけるすべての試料に関し、表5は、冷間圧延及び時効された状態(480℃で3時間の参照処理で)のすべての試料を特徴づけている。これら特性は、ストリップの圧延の方向に対して長手方向に測定されている。これら特性は、ビッカースHV10硬度(熱間圧延された試料に対して)、時効された、熱間圧延された試料に対する(MPaで表された)機械的最大抗張力、時効された状態及び時効されていない状態における冷間圧延された試料に対する相殺された降伏強度Rp0.2(MPaで表された)、均一伸びAr(%で表され、当初の断面Sの平方根の5.65倍に等しい長さLの試験片で測定された)である。
【0121】
【表3-1】
【表3-2】
【0122】
【表4-1】
【表4-2】
【0123】
【表5】
【0124】
時効された、熱間圧延された及び/又は冷間圧延された状態の本発明の試料に得られた機械的特性は、参照との比較において僅差であり、やや改善されている。したがって、本発明のグレードは、経済的な魅力(Ti、Coの装入の減少による低い材料コストによる)を高い機械的特性と組み合わせている。合金元素Nb、Cu、Mn、W、Ta、Vのそれぞれに対して、1950MPaより高い、時効された状態の最大抗張力に、組成及び実施の方法を調整することによって到達可能である。
【0125】
表4は、時効が可能なマルテンサイト構造を得ることを可能にする添加元素の調整された含有量に対する、熱間圧延された状態でのRm>2000MPaの値を示す(例えば、Nbは関心の対象である硬化特性を、試料Inv14〜19を介して示し、他方でMnは4%以下の含有量、及び/又は優勢なオーステナイトの形成を防止するための、添加されるCr含有量の制御を示唆している)。さらに、本発明のグレードInv27〜49、Inv52及びInv61は、参照Ref1及びRef3の機械的特性に少なくとも同等である時効された状態における機械的特性を得るための、9%より高い、好ましくは15%より高いCo+Mo含有量を示唆している。
【0126】
注意深い工程条件による制御された介在物集団と組み合わされたこれら機械的特性間の妥協は、すでに本発明の革新的な本質を説明しており、改善され疲労応力にかけられる用途に対する材料の窒化後の改善された表面特性と両立する。
【0127】
時効の条件が、その最適化を得るために、熱間圧延された製品及び冷間圧延された製品に試験された。
【0128】
還元雰囲気中において850℃で1時間の溶体化アニーリングが、それぞれのグレードに既に行われ、均一な構造を付与していた。(時間‐温度の)異なる対が、目的とする用途及び準備されたグレードに適用される時効条件を特定するために、これらアニールされた材料で試験された。
【0129】
試験された、アルゴンの存在下の420℃〜550℃の下での時効条件に依存して、最適値が時効後の硬度及び存在する相の観点から特定された。
【0130】
Vを含むグレードInv1〜4が、参照1及び2に対して通常使用されている条件(例えば450℃〜500℃で≦3時間の処理)に等しい時効条件を示し、≦4%のV含有量に対して、1900MPaより高いRm値が時効された状態において得られることを可能にし、Ta含むグレードInv5〜8が、同様の時効条件下における0.5%以降のTaの添加で増大した機械的性能(Rm>1940MPa)を示した。Cuを含むグレードInv9〜13は、500℃で≦2時間(又は480℃で3時間)の処理の領域で最適化された時効条件を示し、2%より多いCuの添加で、1940MPaより高いRm値が、時効された状態において得られることを可能にし、これら時効への実績のレベルは、構造的硬化、すなわちCo+Mo+Cu+Cr+Mn<25%の含有量と共に、Cu(<2%)及びMn(<1%)の存在において増加される。Nbを含むグレードInv13〜19は、少量のNbが添加された直後の時効後におけるRef2より高い機械的性能を示し、この時効は、420℃から550℃で30分〜5時間の時効条件という広い領域に亘る。450℃〜500℃で2時間の最適な処理が提案される。
【0131】
Cr及びMnの制御された比率での添加は時効効果を増加させる。しかし、これらグレードは介在物のクラスタ又は本発明によって規定される最大値より大きなサイズを有する粒子の形成を防止するために、Nbの含有量を制御する必要がある。したがって、≦4%のNb含有量が規定される。
【0132】
相当量のMn(0.19%より高い)を含むグレードInv20〜24並びにRef25及び26は、最適な時効を達成するために主にマルテンサイト構造が得られることを必要と2相とすることができるグレードを形成する。したがって、比較的制限されたMn含有量(微量≦Mn≦4%)を有するグレードが、参照1及び2に対して通常使用される時効条件(例えば450℃〜500℃で≦3時間の処理)と同一の時効条件によってRm>1940MPaの値に達する。これら制御されたMnの比率によって、Al、Si、又はCrの制御された添加が、時効の前にマルテンサイト構造が維持される限りにおいて時効硬化を増大させる。
【0133】
グレードRef25及び26は、13.0%を超えるそれらのMn含有量の理由で本発明の外側にある。表2に記載されたようなその介在物集団は、介在物の最大サイズに関する狂できる限度を維持するとしても最適ではなく、最も大きな介在物は10μmの相当直径を有し、1.73及び1.75介在物/mm2のそれら介在物密度はこのサイズのクラスに対して最も高い。表4は、熱間圧延され、時効された状態におけるそれらのRmが率直に低いことを示している。
【0134】
参照の鋼におけるのと同様に本発明の鋼において、マルエイジング鋼の機械的特性は、Co及びMo(並びに他の添加元素)によって一緒に引き起こされる時効硬化に基づく。したがって、低含有量のCo(典型的にはCo<5%)及び/又は低含有量のMo(典型的にはMo<5%)では、時効後に1530MPaより高いRm値は得られない。高い比率のCo(5%〜16%)及び/又は高い比率のMo(3%〜9%)の使用は、高いレベルの機械的特性(引張強度、疲労耐性…)に達するのを可能にする。これら傾向は、試料Inv39〜49(2〜7%のCo含有量を有する)の特性評価によって確認され、これは、Al、Si、又はCrの添加が関連する含有量、すなわちCo:1.0〜10.0%及びMo=約5%においてRmの観点からは補償を可能にしないこと、1%までのAl、0.13%までのSi、0,1%までのTi、または0.5%までのCrの添加にかかわらず、1800MPaの時効後の最大抗張力Rmを超えることができないこと、を示す。
【0135】
本発明の目的は、介在物集団及び材料の疲労挙動、並びに低価格を悪化させることなく、所定のベースメタルに、目標とする性能に従って選択された元素Co及びMoの初期含有量を介して付与された機械的特性を調整することである。本発明の多くの例において、時効後の1900MPaより高い引張強度のRm値が、さらに、良好な疲労挙動を保証するために、規定され、制御されたサイズの介在物を有して、目標とされるとともに得られる。耐久性及び機械的特性に関する他の目標を、特に元素Co、Mo、W、Cu、V、Nb、Mn、Si、Al、Crの含有量を調整することによって、本発明の様々な変形体によって考慮し、得ることができる。
【0136】
例えば、比較的大量のW及びAlを含むグレードInv27〜38は、好ましくは0.8%より高いWの含有量及び10%より高いCo含有量を有する時効後のRef2より高い機械的性能を示すことができる。この時効後の性能は、構造的硬化と共にAl又はCrの添加によって増大する。典型的には、グレードRef1及び2に対して通常使用される時効条件と同一の時効条件が、Inv37及びInv38の組成に対する時効状態において1940MPaより高いRm値を得ることを可能にする。
【0137】
グレードInv48及びInv49が、端数の切り上げ及び分析の通常の精度のために0.1%に相当すると考えられる許容限度(0.109%)に近いTi含有量を有することに注意すべきであろう。それらは、Rm値に対する最も良い水準にランクされるわけではなく、Inv48は、在物密度の許容可能なレベルと最適ではないレベルとの境界にある最大相当介在物直径を有する。これらグレードは、Tiに対する0.1%という限界が、本発明の範囲内に入るために注意されなければならないことを示す。
【0138】
グレードRef50及びRef51は、許容可能な限度(0.002%)を超えるS含有量(0.004及び0.0053%)を有する。それらの介在物集団は、したがって最適ではない。Ref50は、それ故に許容可能の境界上にある10μmの最大相当介在物直径と、比較的平均的な0.81介在物/mm2の介在物密度と、を有する。Ref51は、小さな介在物を有するが、その数は非常に多い。熱間圧延され、時効された状態におけるそれらのRm値は、最適ではない1700〜1800MPaである。また、これらSによって引き起こされる、少し大きすぎる結晶粒界の弱化は、熱間加工を望まれるものより困難にする。
【0139】
Inv52及びInv53はRef50及びRef51に、そのS含有量が低く、本発明に適合していることを除いて匹敵する。したがって、熱間圧延され、時効された状態におけるそれらのRmはいくらか改善され、それらはより良好な疲労耐久性及びより良好な熱間加工性を有する。
【0140】
Inv54及びInv55は、それらの高いMo含有量(約9.9%及び11.8%)によって特徴づけられている。それらは優れた機械特性を有する。本発明の他の実施例より少し高い、C、Al、又はCrの含有量は、最適ではないとしても許容可能な品質/価格の比を提供する。これら実施例は機械的特性へのMoの影響を示すが、それらは本発明によって設定された経済的な目的に部分的にしか合致しない。
【0141】
Inv56は高いAl含有量を有するグレードを示している。Inv57はCrを添加されており、Inv58はCr及びZrを無視できない量で添加されている。これらの実施例は、上記された、添加された元素によって、すでに説明された好ましい含有量によって最適化することができる関心のある特性を示す。
【0142】
Inv59は高含有量のSi及びYを有する。
【0143】
Ref3は高すぎるAl含有量を有し、したがって取り除くことができない、疲労応力に晒される目標とする用途に対して有害である、大きすぎる介在物を含む。
【0144】
Ref4及びRef5は多すぎるSを含み、それによって酸化物の発生サイトとしてさらに作用する多くの硫化物を形成し、したがって熱間圧延された製品における多くの介在物の存在の原因となる。
【0145】
Ref6は、液体金属中での沈殿によって取り除くことができない大きすぎるサイズの酸化された介在物を形成する過剰なY含有量を有する。
【0146】
Inv60はCaの強力な存在を示し、Inv61はMgの強力な存在を示す。それらは、本発明においてこれら2つの脱酸剤を、耐火材料および精錬の特性に関して当業者に知られている規則に注意を払う限り、無視できない量で使用することができることを示す。
【0147】
ここで、本発明のグレードが、増大した機械的性能を可能にする時効条件と両立するが、さらにそれらが製造及び関連するコストに関して両方を容易に実施できることが特筆される。得られた特性、特に硬度の安定性は、従来のグレードに対して2〜5時間続く処理によって得られる特性と同一又は匹敵する特性を得るための短時間(典型的には30分)の時効工程の実施を可能にする。これら熱処理の簡単さ及び省力は、本発明の目的とする経済的グレードにとって特に有利である。
【0148】
本発明の新しいグレードは、剛疲労応力に晒されることを意図された、いわゆる“無制限”の耐久性のいくつかの用途に対して最適化され得る興味深い機械的特性(硬度、降伏応力、破断強度)を有する。したがって、これら時効の条件及び本発明によって最適化される介在物集団によって、例えば動的な降伏応力、疲労の下での改善された特性を達成することが、後続の表面処理(窒化、浸炭窒化、炭化、ショットピーニング)によって可能である。
【0149】
最後に、本発明のこれらグレードの改善された特性もまた表面圧縮処理後に試験された。
小さい厚さの材料に疲労をかけ、窒化処理が表面割れの開始を遅らせるための応力をかける前に行われた。この圧縮処理は、それ自体既知である態様でショットピーニングによって行うことができる。
【0150】
ガス雰囲気中(分解アンモニア雰囲気)における、420℃及び480℃、30〜90分での処理を含む様々な窒化条件が本発明のグレードに対して試験された。
【0151】
次いで窒化された層が、数十μmの特徴的な暑さを形成する、様々なコア内の窒素の拡散によって形成され、グロー放電文光法(GDS)によって化学攻撃又は深さ方向分析によって評価された。それらは、微細かつ、必要であると思われる場合に鋼の組成及び窒化条件に作用することによってその化学的特質を調整することができる、均一に分散された析出物を含む場合がある。
【0152】
図1は、薄片透過型電子顕微鏡によって420℃で30分の窒化後に試料Inv15に得られた硬化相の密度を示す。硬化析出物は、均一な分散及び80〜400μmで変化するサイズを有する、本質的にはMoNB(x=2y)である。少量のNb及びMoの炭化物も見られ、小さなサイズの窒化物は、特定の化学量論及び格子パラメータを有する。
【0153】
研究された時間及び温度の範囲に亘って、本発明のグレードは窒化の後に増加した表面特性を示す。表6は、同一の条件下(3回のHv表面測定の平均)でマイクロインデンティングを介して評価された硬度レベルの例を示す。様々な窒化条件が、分解アンモニアガス窒化の下で研究され、これら条件は、同様の特性を得るために、イオン窒化、浸炭窒化、又は他にも適用することができる。
【0154】
【表6】
【0155】
試験のこれらタイプに対する測定不確実性は、ここでの場合のような、試験が荒い表面と局所的なインプリントを有する試料に行われるときには高いことが理解されるべきである。したがって、表7における結果は一般的なトレンドとして解釈されるべきである。
【0156】
したがって、優れた機械的特性、制御された材料コスト及び制御された介在物集団に加え、本発明の試料は、参照1及び2の試料に比較して、増大された表面硬度のレベルと、増大された摩擦耐性をもたらす。結果として、参照1及び参照2と同様の最も外側の表面硬度レベルが期待でき(例えばHv0.1>900)、さらに本発明のいくつかのグレードに対して、最も外側の表面硬度50Hv0.1以上を低減された窒化時間での達成が得られる。したがって、1000Hv0.1以上(さらに1050Hv0.1でさえ)の最も外側の表面硬度レベルを、特に要求されるわけではない適切な窒化条件の下での本発明のグレードによって達成することができる。
【0157】
しかし、疲労応力にかけられるいくつかの用途に対しては、内部界面又はもっとも外側の表面の弱化を防止するために、材料の時効されたコア(Hv10硬度)に対して高すぎるレベルの表面硬度(Hv0.1硬度)に到達しないようにすることが推奨される。この目的で、材料の深さにおける通常の拡散を有する窒素プロファイルが、表面のヘテロジーニアスな主な析出の存在をもたらすシャープな拡散プロファイルに対して好ましい。鋼では、これら領域は「化合物層」として知られており、例えばきわめて硬い、脆い鉄窒化物から形成される。この明細書では、ガス窒化条件の存在が、使用されているときの動的応力のもとで(目的とする表面硬度の領域において)割れの開始を遅れさせるための十分な表面応力を維持しつつ、もっとも外側の面における鉄窒化物の形成を防止することを可能にする本発明の試料に対して検証された。
【0158】
様々な窒化条件に対する最も外側の面で到達される最小及び最大の硬度値(Hv0.1硬度)が図2に示されている。そこでは、本発明によれば、存在する硬化元素の大きな群それぞれに対して900Hv0.1より高い、最も外側の面の硬度レベルを達成することができることを見て取ることができる。したがって、既に引用された参照の疲労に関する表面特性と少なくとも同等の疲労に関する表面特性を得ることができる。
【0159】
認定されたCrの添加量を有する、工具上に製造されたMn又はCuを有するグレードは、Crを含まない本発明のグレードと比較して、増加された窒化後の最も外側の表面硬度を示す場合があること、及び同様の効果が、硬化元素(Taのような:Inv8参照)と共に規定された比率のAlを添加することによって期待できることを確実にする。
【0160】
したがって、以下に詳述される、目的とする機械的特性を得るための十分なCoおよびMoによって、本発明は、以下:
‐ 硬化元素が0.5%より低い場合には、900Hv0.1より低い値がバナジウムを有するグレードに観察され、この値を上回る場合には、増加された硬度値が最も外側の面に期待される;
‐ 本発明によるタンタルを有するグレード(表7のInv6〜8)に対して、940Hv0.1より高い硬度値が、3%のTaの添加(調整された窒化条件とともに)により、最も外側の面に達成された;
‐ Cuを有するグレードもまた、Cr及びMnが存在する状態における2%の硬化元素の添加(Inv13)により、最も外側の面上で増加された硬度レベル(及び残留応力)を示した。Cr及びMnは、表面上の窒素溶解度を促進する;
‐ 他方で、本発明のグレード14〜18は、最も外側の(化合物層を含まない)面上の十分な硬度レベルを達成するための、2%より低いバナジウムレベルを示唆する;
‐機械的特性/介在物集団間の良好な妥協を示すMnを有するグレードは、Crの存在下(Inv24)で最も外側の表面に増加した硬度レベルを示す;
‐ WおよびAlを有するグレード(Inv38及びRef51)は、最も外側の表面に達成されるべき高い硬度レベルを可能にする窒化条件の決定がまだ成されていない;
に基づいて、グレードの群のそれぞれに対する900Hv0.1より高い最も外側の表面の硬度値を達成することができることを示す。
【0161】
最後に、これら達成可能な高い表面硬度値が、コアに対して表面の圧縮を可能にし、それによって表面割れの開始を遅延させる、制御された残留応力(X−線回折によって評価される)に付随して達成可能であることが立証された。
【0162】
図3は、例えばRef1、Ref2、及び本発明の多くの試料に対して、窒化され、圧延されたシートの表面の残中圧縮応力の定量評価を与える。それぞれの試料に対して、温度及び窒化時間のバリエーションによって行われたすべての試験に対する評価された圧縮応力の最小値及び最大値が与えられた。窒化された層内の圧縮応力の評価が、以下のパラメータ:
‐ 0°から51°で変化するChi、
‐ 測定間隔1秒、
‐ ピッチ0.1あたり0〜0.6のsin2(psi)
でX‐線回折によって、試料の表面に行われた。これら条件の下で得られた値は、Feラインの位置の変化をモニタすることによって、材料の表面上の応力レベルの決定を可能にする。本発明の試料の残留応力が、参照1の試料に観察された残留応力に比べて改善されていることを見ることができる。
【0163】
したがって、本発明を適用するときに、窒化された層の特性を制御し、それによってこの層を将来の製品の想定される使用の特敵の必要に適用することが容易である。したがって、それが好ましいと考えられるのであれば、窒化された層中の「化合物層」と一般的に称される相の最も外側の表面上における存在を避けることは容易である。これら相は、特にFeN、FeN、Fe1−xのタイプの鉄窒化物の析出物に由来する。
【0164】
いくつかの試料(参照のRef1及び本発明のInv13、Inv18、Inv21、及びInv24)の窒化された層の特性評価が、「スクレロメータ試験(sclerometer test)」に由来するとともに、低荷重であることによって「スクレロメータ試験」とは異なる、「引っかき試験」として周知の試験を行うことによって達成された。
【0165】
これら試験のために、先端での荷重の増加の下で一定のサブストレートの移動速度を適用されつつ、ロックウエルC硬度試験に対するダイアモンドチップのような球状の円錐の先端(120°の角度、100μmの先端の曲率半径)が、窒化された層/サブストレートシステムを通じて押圧された。
【0166】
荷重の適用下でのコーティングの劣化は、材料の弾性及び/又は塑性インデンティング応力(indenting stresses)、摩擦応力、及び内部残留応力の組み合わせである。
【0167】
低荷重の下では、これら応力は、それにもかかわらずサブストレートに付着し続けるコーティング表面の引張又は圧縮割れの原因となる場合がある。
【0168】
引っかき試験は、材料中の、もしあるとすれば、マイクロクラックの伝播の際の音波の検出、及び(最初に蝕知された真の表面に対する)圧入されたインデンティング工具のインデント深さの検出を可能にするとともに、試験後のインデンテーション経路上のコーティングの残留深さの評価を可能にする比較試験である。この後者の評価は、増加する低荷重の適用後のコーティング/サブストレートシステム又は表面/サブストレートシステムの弾性戻りの評価を可能にする。
【0169】
それぞれのシステムに対して、窒化された試料の表面に3回の引き続く測定が、1mmの離間距離で、窒化された表面の上10mmで、0.03Nから10Nへ増加する荷重をかけることによって行われた。
【0170】
本発明の様々な資料に対して、結果は垂直方向力又はインデント深さの評価に関して殆ど違わないが、それにもかかわらず本発明の窒化された表面のいくつかの特性は違いを示す。
【0171】
例えば、図4は、引っかき試験後の窒化された層・サブストレートシステムの弾性戻りを、窒化された試料Inv21及びInv24(それぞれガス雰囲気中で480℃及び450℃30分で処理された)上の引っかき試験後の残留深さを介して示している。
【0172】
Inv21はMn(1.970%)を含む実施例であり、Cr(0.007%)の含有量のみが使用された原材料に含まれていた不純物に由来する。Inv24は1.930%Mn、したがってInv21のMn含有量に匹敵するMn含有量を含むが、0.902%のCr含有量に関連する実施例であり、したがって非常に大量のCrの添加に相当する。これら2つの試料は、引っかき試験の層の圧縮中のインデント深さに匹敵する結果を与えるが、湾曲はInv24に対するよりもInv21に対する方がより不規則である。
【0173】
図5は、これら2つの同じ窒化された試料Inv21及びInv24上での引っかき試験中のアコースティックエミッションの関連した結果を示す。ここで、違いは明確により著しく、これらエミッションはInv21においてInv24より大幅に小さい。
【0174】
したがって、Crの添加に関連するMnの添加は、評価された深さにおいてより小さな音を示し、このことは窒化されたInv24のアコースティックエミッションにおける低下(図5)に符合する。
【0175】
そのような挙動はまた、Crを含有する本発明の他のグレードにも観察された。
【0176】
したがって、大量のCrの存在が低荷重(<10N)の適用の下での本発明のグレードの窒化された層の割れの可能性を減少させることが理解され、これは特に、使用時に局所的な摩擦、加圧、又は摩耗に晒される、疲労応力をかけられる部品に対する場合である。
【0177】
同様に、図6は、窒化された試料Inv13、Inv18、Inv21、及びInv24への引っかき試験後の層/サブストレートのアセンブリの弾性挙動を、試料Ref1との比較で示す(Inv13、Inv18、Inv21、及びRef1については、ガス雰囲気において480℃で30分処理され、Inv24については450℃で30分処理された試料それぞれに対して行われた3回の試験の平均曲線)。残留深さ曲線のX軸からの湾曲のオフセットは、試験後の残留塑性変形を示す。
【0178】
図6は、本発明の試料の窒化された層の増加された組成挙動を、Ref1に得られた窒化された層のそれとの比較で示す。インデント深さ及び残留深さの曲線間の差によって評価された弾性戻りは、Cuを含む試料(Crをも含むInv13)又はNbを含む試料(Inv18)に対して大幅に増加している。これら試料に対して約15μm厚さの高さの差があり、Mnを有するグレード(Inv21)及びMn+Crを有するグレード(いくらかのSをも含むInv24)に対しては13μm厚さの高さの差があり、したがってこれら合金元素を含まず、本発明の試験された試料のCo含有量(13%のオーダー)より高いCo含有量(16.50%)を有するRef1よりも2倍大きい。Mo含有量は、これらすべての試料で5.0〜5.30%のオーダーにある。
【0179】
さらに、評価された残留深さrdは、本発明の試料Inv13、Inv18、Inv21、Inv24に対して小さく、Ref1に対するよりわずかに良い。
【0180】
この挙動は、本発明の窒化された層に対する改善された弾性戻りの兆候であり、サブストレート/窒化された層のアセンブリの塑性変形の減少を可能とし、それによっていくつかの用途において正確な寸法取りを必要とするアセンブリの塑性変形によって生成された摩擦及び摩耗の減少を可能にするので、疲労にかけられる部品における用途に対して主な関心の対象である。
【0181】
したがって、冷間圧延されたマルエイジング鋼の重ね合わされたリングから形成され、エンジン伝達トルクによって曲げおよび引張り疲労にかけられるCVTベルトへの用途に対して、それぞれのリング間の隙間は、アセンブリの潤滑を確実とし、周期的応力の下でのリングを損傷する危険性を有する塑性変形を許容することがない。それぞれの応力サイクルの後に、本発明の窒化された材料はあまり塑性的に変形せず、長時間にわたって参照の窒化された材料の疲労寿命を悪化させる場合のある、部品の長い時間をかけて蓄積された塑性変形を誘発することがない。
【0182】
図6は、Ref1に由来する窒化された層の、本願の試料によって受けられたものに比較した、低荷重10Nの下でのより大きな塑性変形を裏付けている。これは、残留侵入深さの様々な曲線の、水平軸0からのオフセットによって示されている。
【0183】
Ref1は、引っかき試験において(それらの比較的なインデント深さによって示されているように)本発明のグレードより少ししか変形しないが、関与する変形のメカニズムは完全に同じではなく、この孵化後の残留応力は、同じ効果を生じることはないと思われる。例えば、試験中のRef1に生じる変形は(評価されたインデント深さから)より小さく、試験後のその結果は、本発明の試料に比較して、本発明によって主に目的とされた用途に対して有害である、増加した塑性成分を示すと思われる。
【0184】
本発明の試料に観察されたインデント深さは、低荷重の下での小さい弾性戻りを示すRef1とは異なり、本質的に弾性であると分かった。
【0185】
制御された介在物集団及び鋼の組成に固有の機械的特性に関連する窒化された表面のこれら挙動基準は、本発明によって懸念される一般的なタイプのマルエイジング鋼に行われた以前の研究によって、特にCVTタイプのトランスミッションベルトにおける使用の観点から明らかとなった
【0186】
一般的に、様々な窒化条件の下での本発明の鋼は、窒化された層が以下:
‐ 組成、特に化合物層が存在すること又は存在しないこと;
‐ 厚さ;
‐ 所定の窒化条件の下での達成可能な硬度レベル;
‐ 層の厚さ内の、窒素含有量の分布、析出した相の分布、そのタイプ及び分布、硬度レベル、残留応力;
‐ 低荷重応力の下での、これら窒化された層に引き起こされた塑性変形の引き起こされたレベル(実際的にはゼロ)
‐ 窒化がプラズマ窒化であるか、又はより詳細にはガス窒化であるかにかかわらず、参照のグレードの特性と同等の特性が得られる、窒化の工業的実施の容易性及び経済性に関してより容易に制御される限りにおいて、増大した経済的性能と従来技術の参照の鋼と比較して同等の及びさらに増大した役に立つ特性を示す。
【0187】
本発明の優先権主張の元になる出願は特に:
‐ 熱間圧延又は熱間形成された半製品に由来する製品:一般的にはタービンシャフト又はトランスミッション部品のためのものであるが、回転する機械(風力タービン、遠心分離機)のブレードのためのものも該当する
‐ 冷間圧延されたシート又はストリップに由来する製品:自動車のトランスミッションベルトの構成要素、又は機械工具、特にオートマティック自動車のCVTタイプのトランスミッションの構成要素
のためのものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6