(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
定義
「アルカン」という語は、一般式C
nH
2n+2で表される直鎖または分岐の飽和炭化水素を指す。
【0009】
本明細書において用いられる「アルケニル」という語は、アルケンから1個の−Hを取り除くことにより誘導される置換基を指す。アルケンは、少なくとも1個の二重結合を含む任意の非環状炭化水素とすることができる。総じて、アルケニルは、一般式−C
nH
2n−1で表されるであろう。
【0010】
「アルキル」という語は、アルカンから1個のHを取り除くことにより誘導される置換基を指す。
【0011】
本明細書において用いられる「アルキニル」という語は、アルキンから1個の−Hを取り除くことにより誘導される置換基を指す。アルキンは、少なくとも1個の三重結合を含む任意の非環状炭化水素とすることができる。総じて、アルキニルは、一般式−C
nH
2n−3で表されるであろう。
【0012】
本明細書において用いられる「アミノ」という語は、一般式:
【化1】
で表される置換基を指す。波線は置換基の結合手を表す。したがって、アミノは、例えば、−NH
2または−NH−で表すことができる。
【0013】
本明細書において用いられる「アレーン」という語は、芳香族単環または多環式炭化水素を指す。
【0014】
「芳香族」という語は、次に示す特徴を有する化学置換基を指す:
・最も一般的には単結合および二重結合が交互に位置する、非局在化したπ共役系を含み、
・共平面構造を有し、環構造の形成に寄与している全ての原子が同一平面上にあり、
・環構造の形成に寄与している原子は、1個以上の環内に位置し、
・複数個の非局在化したπ電子を含み、その個数は4の倍数ではない偶数である。
【0015】
本明細書において用いられる「芳香族炭素原子」という語は、芳香族部分の形成に寄与している炭素原子を指す。したがって、「非芳香族炭素原子」は、芳香族部分の一部を構成していない炭素原子である。したがって、非芳香族炭素原子は、任意選択的に共有結合によって芳香族部分に結合していてもよい。一例を挙げると、フェニル基の炭素原子は全て「芳香族炭素原子」と見なされるが、フェニルに共有結合しているアルキル基の炭素原子は「非芳香族炭素原子」と見なされる。
【0016】
本明細書において用いられる「アリール」という語は、アレーンの環内のCから1個の−Hを取り除くことにより誘導される置換基を指す。本発明に使用するのに有用なアリールの例としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニルおよびピレニルが挙げられる。
【0017】
本明細書において用いられるハロゲンという語は、−F、−Cl、−Brおよび−Iからなる群から選択される置換基を指す。
【0018】
本明細書において用いられる「ヘテロアリール」は、ヘテロアレーンの環構造内の原子から1個の−Hを取り除くことにより誘導される置換基を指す。ヘテロアレーンは、環構造内に1個以上のヘテロ原子を含む単環または多環式芳香族化合物である。前記ヘテロ原子は、好ましくはS、NおよびOからなる群から選択される。本発明に使用するのに有用なヘテロアリールの非限定的な例として、アゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、フラニルおよびチオフェニルが挙げられる。
【0019】
「非芳香族ヘテロ環」という語は、環構造内に1種以上のヘテロ原子を含む芳香族ではない単環または多環式化合物を指す。前記ヘテロ原子は、好ましくはS、NおよびOからなる群から選択される。非芳香族ヘテロ環の例としては、これらに限定されるものではないが、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリンおよびチオモルホリンが挙げられる。
【0020】
本明細書において用いられる「ホスフィニル」という語は、一般構造:
【化2】
で表される置換基を指す。波線は置換基の結合手を表す。したがって、ホスフィニルは−PH
3であってもよい。
【0021】
本明細書において用いられるpK
aという語は、所与の溶媒中の酸の解離定数K
aの負の常用対数を指す:pK
a=−Log
10K
a。K
aは、酸解離定数とも呼ばれ、
【数1】
で表される反応(式中、Sは、溶媒を表し、HAは、解離してA
−(酸の共役塩基としても知られる)および水素イオン(これが溶媒分子と結合する)となる酸を表す)に関して、
【数2】
と定義される。溶媒分子の濃度を一定と見なすことができる場合、K
aは、
【数3】
で表される。
【0022】
本明細書において、化合物に関連して用いられる「置換された」とは、水素基が他の部分に置換されていることを指す。したがって、本明細書において用いられる化合物に関連する「Xで置換された」とは、水素基がXに置換されていることを指す。同様に、「置換されたX」とは、1個の水素基が他の部分に置換されたXを指す。一例を挙げると、「置換されたアルキル」とは、アルキル−R(ここで、Rは−H以外の任意の部分である)を指す。
【0023】
本明細書において化合物に関連して用いられる「置換基」という語は、水素原子の替わりに置換している原子または原子群を指す。
【0024】
本明細書において用いられる「強力な電子吸引性置換基」という語は、Hansch(1991)に記載されているハメットのメタ置換基定数が0.5を超える置換基、および/または連結原子が酸素との二重結合を有する置換基を指す。
【0025】
本明細書において用いられる「チオアルキル」という語は、一般式−S−アルキルで表される置換基を指す。
【0026】
本明細書において用いられる「チオアリール」という語は、一般式−S−アリールで表される置換基を指す。
【0027】
「遷移金属触媒」という語は、化学反応を触媒することができる化合物であって、遷移元素または遷移元素のイオンを含む化合物を指す。遷移元素とは、その原子のd軌道が閉殻していないか、またはd軌道が閉殻していない陽イオンを生じることができる元素である。
【0028】
アリール化アミンを調製するための方法
本発明は、1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを調製するための方法を提供する。特に、本発明の方法は、遷移金属触媒の非存在下でさえ実施することができる。
【0029】
一実施形態において、本発明は、1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを調製するための方法であって、
a.ピペラジンを準備するステップと、
b.1,2−ジフルオロベンゼン、2−クロロフルオロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−クロロベンゼンおよび2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼンからなる群から選択される求電子剤を準備するステップと、
c.塩基、例えば本明細書において「塩基」項に後述するいずれかの塩基であってもよい塩基を準備するステップと、
d.有機溶媒、例えば、本明細書において「溶媒」項に後述するいずれかの溶媒であってもよい有機溶媒を準備するステップと、
e.前記有機溶媒中、前記ピペラジンを前記求電子剤と塩基の存在下かつ遷移金属触媒の非存在下で反応させ、それにより、
i.1−[2−フルオロフェニル]ピペラジンもしくは1−[2−クロロフェニル]ピペラジン、または
ii.1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを得るステップと、
f.ステップe.において1−[2−フルオロフェニル]ピペラジンまたは1−[2−クロロフェニル]ピペラジンを得た場合、前記1−[2−フルオロフェニル]ピペラジンまたは1−[2−クロロフェニル]ピペラジンを1−スルファニル−2,4−ジメチルベンゼンと反応させ、それによって1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを得るステップと、
g.任意選択的に、1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを精製するステップと
を含み、
ステップa.、b.、c.およびd.は、任意の順序で実施され得る、方法に関する。
【0030】
ステップa.、b.、c.およびd.は、任意の好適な順序で実施することができる。一実施形態において、ステップe.は、
i)前記求核剤を前記塩基と反応させるサブステップと、
ii)サブステップi)の生成物を前記求電子剤と反応させるサブステップと
を含み、サブステップi)およびii)は、指示された順序で実施される。これは、特に本発明の実施形態において強塩基、例えば、対応する酸のpK
aが45を超える塩基、例えば49を超える塩基が使用される場合に該当するであろう。
【0031】
前記2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−クロロベンゼンまたは2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼンは、クロスカップリング反応により得られるものであってもよい。例えば、前記2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−クロロベンゼンまたは2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼンは、
i.1,2−ジフルオロベンゼン、2−クロロフルオロベンゼンまたは1,2−ジクロロベンゼンを、
ii.2,4−ジメチルフェニルスルファニルと
反応させることによって得られたものとすることができる。
【0032】
前記反応は、塩基および有機溶媒の存在下で実施することができる。前記塩基は、本発明のN−アリール化反応に使用される塩基よりも穏和な塩基であってもよい。
【0033】
上に述べたように、本発明による方法の1つの利点は、この方法を遷移金属触媒の非存在下で実施し得ることである。したがって、ステップe.を遷移金属触媒の非存在下で実施することが好ましい。幾つかの実施形態では、この方法をあらゆる遷移金属の非存在下で実施し、特にステップe.をあらゆる遷移金属の非存在下で実施することが好ましい場合もある。特に、銅、パラジウムおよびニッケルの非存在下で実施し、特にステップe.を銅、パラジウムおよびニッケルの非存在下で実施することが好ましい場合もある。したがって、本発明の反応、特にステップe.は、好ましくは、あらゆる酸化状態およびあらゆる形態の銅、パラジウムおよびニッケルの非存在下で実施される。
【0034】
前記求核剤と前記求電子剤との反応は、任意の有用な温度で実施することができる。したがって、ステップe.は、任意の有用な温度で実施することができる。本発明の方法の1つの利点は、本発明の方法が、一般に、大規模であってさえも扱いやすい温度で実施し得ることである。したがって、前記求核剤と前記求電子剤との反応は、最大で110℃等の最大で120℃の温度で実施することができる。総じて、これよりも一層低い温度を適用することが可能である。
【0035】
前記求核剤と前記求電子剤との反応は、反応が起こるのに十分な時間にわたって実施することができる。したがって、ステップe.は、反応が起こるのに十分な時間にわたって実施することができる。本発明の方法の1つの利点は、一般に、反応に必要な時間が比較的短いことである。したがって、前記求核剤と前記求電子剤との反応は、典型的には、最大で1週間にわたって行うことができる。総じて、反応は、これよりも一層短時間であり得、したがって、本発明の幾つかの実施形態において、前記求核剤と前記求電子剤との反応は、最大で180分間等、最大で720分等の最大で900分、例えば、5〜900分または5〜720の範囲で行うことができる。
【0036】
求核剤および求電子剤
ピペラジンは、1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを調製するための本方法において求核剤として作用する。ピペラジンは、様々な無機酸または有機酸との塩の形態とすることができる。1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンが医薬用である本発明の実施形態では、前記塩は、医薬として許容される塩とすることができる。
【0037】
一実施形態において、求電子剤は、1,2−ジフルオロベンゼン、2−クロロフルオロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、2−(4,2−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼンおよび2−(4,2−ジメチルチオフェノール−イル)−クロロベンゼンからなる群から選択される。
【0038】
求電子剤は、有機合成の生成物であってもよく、したがって中間体と見なされるものであってもよい。例えば、求電子剤は、クロスカップリング反応の生成物であってもよい。
【0039】
塩基
本発明の方法は、求核剤および求電子剤を塩基の存在下で反応させることを含む。好ましくは、前記塩基は、対応する酸のDMSO中のpK
aが29を超える塩基、例えば、少なくとも30を超える塩基である。前記塩基のTHF中のpK
aが25を超え、好ましくは少なくとも26であることも好ましい場合がある。したがって、一般に、塩基は、弱塩基ではないことが好ましく、例えば、塩基は、好ましくはCs
2CO
3ではない。
【0040】
本発明の幾つかの実施形態において、塩基は、対応する酸のDMSO中のpK
aが32を超える塩基とすることができる。幾つかの実施形態において、塩基は、対応する酸のTHF中のpK
aが26を超える塩基とすることができる。
【0041】
本発明の幾つかの実施形態において、塩基は、過度に強い塩基ではないことが好ましい場合もある。したがって、幾つかの実施形態において、塩基は、対応する酸のpK
aが29〜49の範囲にある塩基、例えば、29〜45の範囲にある塩基であることが好ましい。他の実施形態において、塩基は、対応する酸のpK
aが32〜49の範囲にある塩基、例えば、32〜45の範囲にある塩基である。上述のpK
aは、好ましくはDMSO中で求めたものである。
【0042】
pK
aは、任意の従来法により求めることができる。DMSO中におけるpK
a値は、好ましくは35の値まで測定され、35を超える値は、Bordwell,Acc.Chem.Res.1988,21,456−463に記載されているように外挿することができる。
【0043】
ブチルリチウム(BuLi)に対応する酸のpK
aは50であり、したがって、幾つかの実施形態ではさほど好ましくない。したがって、幾つかの実施形態において、塩基は、対応する酸のpK
aが29を超える塩基、例えば32を超える塩基であり、但し塩基はBuLiではない。
【0044】
一実施形態において、塩基は、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDS)、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaHMDS)、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド(KHMDS)、リチウム2,2,6,6−tertメチルピペリジド(LiTMP)およびBuLiからなる群から選択される。
【0045】
幾つかの実施形態において、塩基は、アルカリ金属水素化物等の金属水素化物である。幾つかの実施形態において、塩基は、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化セシウム、水素化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化ナトリウムアルミニウム、水素化カリウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウムからなる群から選択される。
【0046】
幾つかの実施形態において、塩基は、非求核塩基、すなわちプロトンの引き抜きにおいてのみ求核剤として作用する塩基である。典型的な非求核塩基は、求核剤としての攻撃を阻害する立体障害の大きい嵩高い塩基である。したがって、プロトンは塩基の塩基性中心に結合することができるが、アルキル化および錯形成は阻害される。非求核塩基の例としては、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、LiTMPおよびケイ素含有アミド(LiHMDS、NaHMDS、KHMDS等)が挙げられる。一般に、非求核塩基は、立体障害が大きく嵩高い。したがって、この塩基は、Mwが少なくとも120、好ましくは少なくとも130、例えば、少なくとも140の塩基となり得る。より好ましくは、この塩基は、上に述べたMwおよび上に述べたpK
aを有する。したがって、塩基は、
・DMSO中のpK
aが29を超え、および/またはTHF中のpK
aが25を超え、かつ
Mwが少なくとも120またはMwが少なくとも140である
ことが好ましいであろう。
【0047】
他の実施形態において、塩基は、LiHMDS、NaHMDS、KHMDSおよびLiTMPからなる群から選択される。
【0048】
溶媒
本発明の方法は、溶媒中、求核剤と求電子剤とを塩基の存在下で反応させることを含む。溶媒は任意の有機溶媒とすることができる。
【0049】
一実施形態において、溶媒は具体的な反応に使用される塩基に応じて選択することができる。したがって、溶媒は、採用した反応条件下で採用した塩基の存在下において安定な有機溶媒とすることができる。
【0050】
加えて、溶媒は、反応温度で液体であることが好ましい。
【0051】
溶媒は、DMSO中のpK
aが35.1を超えるプロトンのみを含む溶媒が好ましい。一実施形態において、溶媒は、DMSO中のpK
aが32を超えるプロトンのみを含む溶媒である。一実施形態において、溶媒は、DMSOではない。したがって、溶媒がDMSOでない場合、溶媒は、DMSO中のpK
aが32を超えるプロトンのみを含む溶媒とすることができる。
【0052】
一実施形態において、溶媒は、カルボニル基を含まない溶媒である。一実施形態において、溶媒は、スルホキシド基を含まない溶媒である。
【0053】
溶媒は、例えば、エーテル、アルカン、ベンゼンおよび置換されたベンゼンからなる群から選択することができる。
【0054】
溶媒として有用なエーテルとしてあらゆるエーテルが挙げられる。特に、エーテルは、DMSO中のpK
aが32を超える、例えば35.1を超えるプロトンのみを含むエーテルとすることができる。反応温度で液体であるエーテルがさらに好ましい場合もある。エーテルがカルボニル基を含まないことがさらに好ましい場合もある。エーテルは、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−Me−THF)およびジエトキシエタンからなる群から選択することができる。
【0055】
溶媒として有用なアルカンとしてあらゆるアルカンが挙げられる。特に、アルカンは、DMSO中のpK
aが32を超える、例えば35.1を超えるプロトンのみを含むアルカンとすることができる。反応温度で液体であるアルカンがさらに好ましい場合もある。カルボニル基を含まないアルカンがさらに好ましい場合もある。アルカンは、直鎖、分岐または環状アルカン、例えば、C
4〜20直鎖、分岐または環状アルカンとすることができる。例えば、アルカンはメチルシクロヘキサンとすることができる。
【0056】
溶媒として有用な置換されたベンゼンとしては、あらゆる置換されたベンゼンが挙げられる。特に、置換されたベンゼンは、DMSO中のpK
aが32を超える、例えば35.1を超えるプロトンのみを含む置換されたベンゼンとすることができる。反応温度で液体である置換されたベンゼンがさらに好ましい場合もある。カルボニル基を含まない置換されたベンゼンがさらに好ましい場合もある。置換されたベンゼンは、一般に、反応に使用される求電子剤と異なっている。しかしながら、幾つかの実施形態では、求電子剤を溶媒として使用できる場合もある。例えば、置換されたベンゼンは、C
1〜3アルキルからなる群から選択される1種以上の置換基で置換されていてもよい。加えてまたは代替的に、ベンゼンは1個までの−Clで置換されていてもよい。置換されたベンゼンは、例えば、トルエン、キシレンおよびクロロベンゼンからなる群から選択することができる。
【実施例】
【0057】
以下に示す実施例を用いて本発明をさらに例示するが、これらが本発明を限定するものと見なすべきではない。
【0058】
実施例1
以下に示す一般的反応条件を用いて化合物1a(N−メチルピペラジン)の化合物2(1,3,5−トリフルオロベンゼン)によるN−アリール化を実施した:1a(0.2mmol)および塩基(0.5mmol)を室温下において溶媒(0.5mL)中で混合した。異なる溶媒、塩基および温度について試験を行った。
【0059】
10分後、2(0.6mmol)を加え、反応物を該当する温度で12時間加熱した。収率をHPLCで評価した。結果を下の表1に示す。
【化3】
【0060】
【表1】
【0061】
LiOtBuを塩基として使用した場合、反応の成果は認められたが、他の一部の塩基を用いた場合と比較して効果は大幅に低かった。
【0062】
実施例2
より求核性の低い第1の求核剤に続いてアミン求核剤を用いる2段階反応を行うことにより、抗うつ薬として最近上市されたボルチオキセチン(Vortioxetine)9の合成(スキーム1)が可能になることが判明した。より求核性の低い求核剤であるチオフェノールの適用に続いてピペラジンを添加することが、この手法への適用性が非常に高いと判明した。1,2−ジフルオロベンゼンから出発する、最近上市された抗うつ薬であるボルチオキセチン9の合成を例示する。これは、2−ブロモヨードベンゼンに2回のクロスカップリング反応を続けて行う現行の工業生産プロセスと比較すべきである。
【化4】
【0063】
化合物8 2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼン:
バイアルに2,4−ジメチルチオフェノール(1.0mmol)、1,2−ジフルオロベンゼン(2.0mmol)、Cs
2CO
3(2.5mmol)およびジメチルアセトアミド(2.0mL)を加えた。バイアルを密閉し、140℃で4時間撹拌した。水および飽和食塩水で反応を停止した後、Et
2Oで抽出した。蒸発させた後、生成物8をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して単離することにより透明な油状物を収率87%で得た。
1H NMR(CDCl
3)δ ppm 7.28(d,J=7.8Hz,1H),7.19−7.09(m,2H),7.09−7.03(m,1H),7.02−6.95(m,2H),6.87(td,J=7.7,1.7Hz,1H),2.37(s,3H),2.34(s,3H).
13C NMR(CDCl
3)δ ppm 160.0(d,J=245.2Hz),141.0,138.9,134.4,131.7,130.2(d,J=1.9Hz),127.7,127.6,127.5(d,J=7.5Hz),124.6(d,J=3.5Hz),124.4,115.5(d,J=21.8Hz),21.1,20.5.
【0064】
化合物9 1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン:
ピペラジン(1.25mmol)、2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼン(8)(0.25mmol)およびLiHMDS(1.0M、THF中、1.0mmol)を密閉したバイアル内で混合し加熱した。80℃で2時間後、HCl(0.01M、H
2O中)を添加することにより反応を停止し、溶媒を蒸発させ、化合物を再びCH
3CN:H
2O(1:1)に溶解した。化合物9をC18ゲル上でクロマトグラフィーに付すことによりHCl塩として単離し(0.01M HCl中CH
3CN0〜50%)、収率53%で白色固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)δ ppm 9.41(s,2H),7.33(d,J=7.8Hz,1H),7.24(d,J=1.9Hz,1H),7.16−7.07(m,3H),6.96(ddd,J=7.9,5.9,2.7Hz,1H),6.44−6.39(m,1H),3.21(s,8H),2.32(s,3H),2.24(s,3H).
13C NMR(DMSO−d
6)δ 147.8,141.6,139.3,135.7,133.3,131.7,128.1,126.8,126.0,125.8,125.1,120.2,48.1,43.3,20.7,20.1.
【0065】
本発明は、活性化されていないハロベンゼン誘導体をアミノ化するための新規な方法を提供する。反応性を発現させる鍵となる要素は、適用した塩基が、適用した反応条件下において、同時にハロベンゼン求電子剤を分解することなく、アミン求核剤を十分に脱プロトン化することができる能力にある。2級脂肪族アミンを用いた場合、反応は、LiHMDS等の単純な塩基を添加することによって容易に進行し、したがって遷移金属の必要性が回避される。この反応は高い位置選択性および官能基選択性で進行する。
【0066】
参考文献
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本発明は以下の態様を含み得る。
[1]
1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンを調製
するための方法であって、
a.ピペラジンを準備するステップと、
b.1,2−ジフルオロベンゼン、2−クロロフルオロベンゼン、1,2−ジクロロベ
ンゼン、2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−クロロベンゼンおよび2−(
2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼンからなる群から選択される
求電子剤を準備するステップと、
c.DMSO中のpKaが29を超え、および/またはTHF中のpKaが25を超え
る塩基を準備するステップと、
d.DMSO中のpKaが32を超えるプロトンのみを含む有機溶媒を準備するステッ
プと、
e.前記有機溶媒中、前記ピペラジンを前記塩基の存在下かつ遷移金属触媒の非存在下
で前記求電子剤と反応させ、それにより、
i.1−[2−フルオロフェニル]ピペラジンもしくは1−[2−クロロフェニル]
ピペラジン、または
ii.1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジ
ン
を得るステップと、
f.ステップe.において1−[2−フルオロフェニル]ピペラジンまたは1−[2−
クロロフェニル]ピペラジンを得た場合、前記1−[2−フルオロフェニル]ピペラジン
または1−[2−クロロフェニル]ピペラジンを1−スルファニル−2,4−ジメチルベ
ンゼンと反応させ、それによって1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)
−フェニル]ピペラジンを得るステップと、
g.任意選択的に、前記1−[2−(2,4−ジメチルフェニルスルファニル)−フェ
ニル]ピペラジンを精製するステップと
を含み、ステップa.、b.、c.およびd.は、任意の順序で実施され得る、方法。
[2]
2−(2,4−ジメチルチオフェノール−イル)−クロロベンゼンまたは2−(2,4
−ジメチルチオフェノール−イル)−フルオロベンゼンは、
i.1,2−ジフルオロベンゼン、2−クロロフルオロベンゼンまたは1,2−ジク
ロロベンゼンを、
ii.2,4−ジメチルフェニルスルファニルと
反応させることによって得られている、請求項1に記載の方法。
[3]
ステップe.は、i)前記求核剤を前記塩基と反応させるサブステップと、ii)ステ
ップi)の生成物を前記求電子剤と反応させるサブステップとを含み、サブステップi)
およびii)は、示された順序で実施される、請求項1に記載の方法。
[4]
前記溶媒は、DMSO中のpKaが35.1を超えるプロトンのみを含む溶媒である、
先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記溶媒は、カルボニル基を含まない、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記溶媒は、スルホキシド基を含まない、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[7]
前記溶媒は、エーテル、アルカン、ベンゼンおよび置換されたベンゼンからなる群から
選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[8]
前記エーテルは、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメトキシエタン(D
ME)および2−メチルテトラヒドロフラン(2−Me−THF)からなる群から選択さ
れる、請求項7に記載の方法。
[9]
前記アルカンは、反応温度で液体であるアルカンである、請求項7に記載の方法。
[10]
前記アルカンは、メチルシクロヘキサンである、請求項7または9に記載の方法。
[11]
前記置換されたベンゼンは、C1〜3アルキルおよび−Clからなる群から選択される
1種以上の置換基で置換されたベンゼンであり、前記ベンゼンは、最大で1個の−Clで
置換される、請求項7に記載の方法。
[12]
前記置換されたベンゼンは、キシレン、トルエンおよびクロロベンゼンからなる群から
選択される、請求項7または11に記載の方法。
[13]
前記塩基は、対応する酸のTHF中におけるpKaが45未満である塩基である、先行
請求項のいずれか一項に記載の方法。
[14]
前記塩基は、LiHMDS、NaHMDS、KHMDS、LiTMPおよびBuLiか
らなる群から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[15]
前記塩基は、LiHMDS、NaHMDS、KHMDSおよびLiTMPからなる群か
ら選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[16]
ステップe.における前記反応は、最大で110℃等の最大で120℃の温度で実施さ
れる、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
[17]
ステップe.の前記反応は、最大で1週間にわたって起こる、先行請求項のいずれか一
項に記載の方法。
[18]
ステップe.の前記反応は、5〜720分等の5〜900分の範囲で起こる、先行請求
項のいずれか一項に記載の方法。
[19]
前記アリール化されたアミンは、その塩として得られる、先行請求項のいずれか一項に
記載の方法。