特許第6987069号(P6987069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6987069シアノヒドリン含有液の製造方法およびシアノヒドリン含有液製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987069
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】シアノヒドリン含有液の製造方法およびシアノヒドリン含有液製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/00 20060101AFI20211213BHJP
   C07C 255/12 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C07C253/00
   C07C255/12
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-544711(P2018-544711)
(86)(22)【出願日】2017年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2017032844
(87)【国際公開番号】WO2018070166
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2020年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-199869(P2016-199869)
(32)【優先日】2016年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆典
(72)【発明者】
【氏名】青木 英雅
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/054355(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/054356(WO,A1)
【文献】 特開平03−169843(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/051987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1〜4を含む、シアノヒドリン含有液の製造方法。
工程1:原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る工程
工程2:工程1で得られた反応液を蒸留装置に供給し、該反応液を蒸留する精製工程
工程3:前記蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する工程
工程4:該計測結果に基づいて、精製工程を制御する工程であって、工程3で計測した蒸留装置内のシアノヒドリン含有液を含む液体中のカルボニル化合物およびシアン化剤から選択される少なくとも一方のモル濃度が、1000質量ppmよりも高い場合には、蒸留温度を上げる制御、および、蒸留圧力を下げる制御から選択される少なくとも一方の制御を行う工程
【請求項2】
前記蒸留装置における液体中のカルボニル化合物およびシアン化剤の含有量が、それぞれ1000質量ppm以下になるように、工程4において、精製工程を制御する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記蒸留装置における液体中のシアノヒドリンの濃度が5〜100質量%になるように、工程4において、精製工程を制御する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程4において、精製工程を制御する方法が蒸留温度を変化させることである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程2における蒸留温度が20〜60℃である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程2において、反応液を連続的に蒸留装置に供給する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記計測が、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上で行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記計測が、自動計測である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記モル濃度を、紫外線吸光光度計および屈折率計から選択される少なくとも一方を用いて計測する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記原料カルボニル化合物が式(A)で表される化合物である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
1COR2 ・・・式(A)
[式(A)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。]
【請求項11】
前記原料カルボニル化合物が、常圧における沸点が25℃以上である成分の含有量が300質量ppm以下のアセトアルデヒドである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記原料シアン化剤が式(B)で表される化合物である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
M(CN)n ・・・式(B)
[式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。]
【請求項13】
原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を供給する供給部と、
供給された原料を反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、
該反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置と、
該蒸留装置内、または、該蒸留装置から分岐した流路上に設けられた、該蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する計測器と
を有する、シアノヒドリン含有液製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノヒドリン含有液の製造方法およびシアノヒドリン含有液製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノヒドリンは、カルボン酸、アミノ酸、ヒドロキシエステルなどの原料として工業的に重要である。
このようなシアノヒドリンを製造する方法として、例えば、特許文献1や2に記載の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/054355号
【特許文献2】国際公開第2009/054356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シアノヒドリンは、前記のとおり、カルボン酸、アミノ酸、ヒドロキシエステルなどの原料として有用であり、近年、これらカルボン酸等は、飲食品用材料などに用いられている。例えば、シアノヒドリンの一つであるラクトニトリルは、乳酸等を製造するための原料として有用であり、該乳酸等は、飲食品用材料等に用いられている。
【0005】
この飲食品用材料等には、近年特に、反応原料等の不純物含量が極めて少ないことが求められており、その原料であるシアノヒドリン含有液にも不純物含量が極めて少ないことが求められている。
【0006】
しかしながら、従来のシアノヒドリン含有液の製造方法では、低不純物含量のシアノヒドリン含有液を容易に得ることができなかった。
そこで、本発明は、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に製造することができる方法および該方法に適した装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、蒸留装置中の各成分のモル濃度を計測した結果を精製工程の条件制御に使うことによって、前記課題を解決できること
を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば、以下の[1]〜[13]に関する。
【0008】
[1] 下記工程1〜4を含む、シアノヒドリン含有液の製造方法。
工程1:原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る工程
工程2:工程1で得られた反応液を蒸留装置に供給し、該反応液を蒸留する精製工程
工程3:前記蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する工程
工程4:該計測結果に基づいて、精製工程を制御する工程
【0009】
[2] 前記蒸留装置における液体中のカルボニル化合物およびシアン化剤の含有量が、それぞれ1000質量ppm以下になるように、工程4において、精製工程を制御する、[1]に記載の製造方法。
【0010】
[3] 前記蒸留装置における液体中のシアノヒドリンの濃度が5〜100質量%になるように、工程4において、精製工程を制御する、[1]または[2]に記載の製造方法。
【0011】
[4] 前記工程4において、精製工程を制御する方法が蒸留温度を変化させることである、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
[5] 前記工程2における蒸留温度が20〜60℃である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
[6] 前記工程2において、反応液を連続的に蒸留装置に供給する、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
[7] 前記計測が、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上で行われる、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
[8] 前記計測が、自動計測である、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
[9] 前記モル濃度を、紫外線吸光光度計および屈折率計から選択される少なくとも一方を用いて計測する、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
[10] 前記原料カルボニル化合物が式(A)で表される化合物である、[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
1COR2 ・・・式(A)
式(A)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
【0018】
[11] 前記原料カルボニル化合物が、常圧における沸点が25℃以上である成分の含有量が300質量ppm以下のアセトアルデヒドである、[1]〜[10]のいずれか
に記載の製造方法。
【0019】
[12] 前記原料シアン化剤が式(B)で表される化合物である、[1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
M(CN)n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。
【0020】
[13] 原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を供給する供給部と、
供給された原料を反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、
該反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置と、
該蒸留装置内、または、該蒸留装置から分岐した流路上に設けられた、該蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する計測器と
を有する、シアノヒドリン含有液製造装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生産性を低下させることなく、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に得ることができ、さらに、所望濃度のシアノヒドリン含有液を容易に製造することができる。
特に、前記反応液を蒸留装置に連続的に供給する場合であっても、不純物含量の少ない所望濃度のシアノヒドリン含有液を長期間安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
≪シアノヒドリン含有液の製造方法≫
本発明に係るシアノヒドリン含有液の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、下記工程1〜4を含む。
工程1:原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る工程
工程2:工程1で得られた反応液を蒸留装置に供給し、該反応液を蒸留する精製工程
工程3:前記蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する工程
工程4:該計測結果に基づいて、精製工程を制御する工程
【0023】
本発明者は、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を製造しようとして、反応原料の不純物含量の制御、反応の制御、精製条件の制御など、色々な方法を行ったが、不純物含量が充分に少ないシアノヒドリン含有液を製造することはできなかった。
【0024】
単に蒸留条件を設定して一定に保つ方法では、例えば、生産性等の点から採用される、前記反応液を蒸留装置に連続的に供給する場合において、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を安定的に得ることはできないことが分かった。
【0025】
本発明者が鋭意検討した結果、蒸留装置内の液体の状況を把握し、その把握した状況に基づいて精製工程を制御することで初めて、高い生産性で、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に得ることができ、さらに、所望濃度のシアノヒドリン含有液を容易に製造することができることが分かった。
【0026】
なお、本発明において、「不純物」とは、シアノヒドリン、およびシアノヒドリンやシアノヒドリン含有液の安定化等のために添加するpH調整剤などの成分以外の成分のことをいうが、特に注目する成分としては、反応原料である、カルボニル化合物およびシアン化剤である。
【0027】
<工程1>
工程1は、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る工程である。
【0028】
〔原料カルボニル化合物〕
前記原料カルボニル化合物は、カルボニル基を有する化合物であれば特に制限されない。
前記原料カルボニル化合物としては、2種以上を用いてもよいが、濃度計測や精製のし易さから1種単独で用いることが好ましい。
【0029】
前記原料カルボニル化合物としては、下記式(A)で表される化合物であることが好ましい。
1COR2 ・・・式(A)
式(A)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1〜30である。
前記脂環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは3〜30である。
前記芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6〜30である。
前記複素環基の炭素数は、好ましくは2〜30である。
【0030】
なお、前記複素環基とは、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含んで形成された環を有する基を表し、本明細書においては、芳香族性を有する複素環基は、芳香族炭化水素基ではなく、複素環基とする。
【0031】
前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、イミノ基、N−オキシド基、N−ヒドロキシ基、ジアゾ基、アジド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホ基、メルカプト基、アルキルチオ基が挙げられる。
前記置換基で置換された基は、置換基を1つ有してもよく、2つ以上有してもよい。
【0032】
前記R1およびR2としては、本方法の効果がより発揮されやすい点や、原料シアン化剤との反応性に優れる点などから、水素原子、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜14の芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基がさらに好ましく、R1が水素原子であり、かつ、R2が炭素数1〜3のアルキル基であることが特に好ましい。
前記原料カルボニル化合物としては、R1またはR2が水素原子である化合物、つまりアルデヒドが好ましく、アセトアルデヒドが最も好ましい。
【0033】
前記原料カルボニル化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等の飽和アルキルアルデヒド;アクリルアルデヒド、メタクリルアルデヒド等の不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド等の芳香族アルデヒド;ニコチンアルデヒド等の複素環基含有アルデヒド;アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−メチル−2−ブタノン、3−ペンタノン、3−ヘキサノン、2−メチル−3−ペンタノン、3−ヘプタノン、2−メチル−3−ヘキサノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、アセトフェノン、2−ノナノン、2−オクタノン、2−ヘプタノン、2−ヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン等のケトンが挙げられる。
【0034】
前記原料カルボニル化合物としては特に制限されず、工業用、研究用等で入手できる化合物でよいが、このような原料カルボニル化合物を精製すること等で得られる精製カルボニル化合物を用いることが好ましい。
【0035】
前記精製カルボニル化合物を用いることにより、得られる反応液に含まれる、カルボニル化合物由来の該カルボニル化合物より常圧における沸点が高い不純物(以下「特定不純物B」ともいう。)量を低減することができる。特定不純物Bとしては、例えば、カルボニル化合物のダイマー、トリマー、テトラマー等のオリゴマーが挙げられる。なお、原料カルボニル化合物として、2種以上のカルボニル化合物を用いる場合には、前記特定不純物Bは、用いたカルボニル化合物の中で常圧における沸点が最も低いカルボニル化合物よりも、常圧における沸点が高い、カルボニル化合物以外の成分を意味する。
該特定不純物Bが少なければ、下記工程2おいて、該特定不純物Bを除去するために反応液を高温で蒸留する必要がなくなる。シアノヒドリンは高温で分解する性質を有するため、反応液の高温での蒸留が不要となることにより、シアノヒドリンの分解が生じ難くなり、高収率で低不純物含量のシアノヒドリン含有液を容易に、高い生産性で得ることができる。
【0036】
前記原料カルボニル化合物がアセトアルデヒドの場合には、前記特定不純物Bとして、常圧での沸点が25℃以上である成分(以下「特定不純物A」ともいう。)を挙げることができる。原料アセトアルデヒドに含まれる該特定不純物Aの量は、次のような方法で求めることができる。
【0037】
攪拌機、蒸留塔、留出器を備えたガラス製フラスコに、原料アセトアルデヒドを供給し、常圧で単蒸留を行う。蒸留塔気相部の温度をみながら、フラスコの加熱を行い、気相部の温度が丁度25℃に達した時に加熱を停止し、単蒸留を終了する。単蒸留後、フラスコに残った残分を秤量し、供給した原料アセトアルデヒドの合計量に対する質量ppmを求める。
【0038】
前記原料アセトアルデヒドに含まれる前記特定不純物Aの含有量は、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下である。
【0039】
なお、原料カルボニル化合物に含まれる特定不純物Bの含有量については、気相部の温度が原料に用いたカルボニル化合物の常圧における沸点に丁度達した時に加熱を停止したこと以外は、特定不純物Aと同様の方法で求めることができ、原料カルボニル化合物に含まれる特定不純物Bの含有量は、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下である。
【0040】
該特定不純物Bまたは特定不純物Aの含有量は、上記の方法で測定することができるが、該方法で測定した時の検出限界以下であってもよい。前記特定不純物Bまたは前記特定不純物Aの含有量は、原料カルボニル化合物を精製することによって前記範囲内とすることができるが、未精製の原料カルボニル化合物の含有量が上記範囲内であれば必ずしも精製する必要はない。
【0041】
なお、前記特定不純物Bまたは前記特定不純物Aの含有量は、少なければ少ないほどよいため、その範囲の下限は特に制限されないが、強いて数値を挙げるとすれば、例えば、好ましくは特定不純物BまたはAの含有量の下限値が0.1質量ppmである。
前記特定不純物Bまたは前記特定不純物Aの含有量が前記範囲にある原料カルボニル化合物を用いることで、高温での精製を行わなくても不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に、高経済性、高生産性で得ることができる。
【0042】
前記精製カルボニル化合物を得る方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を採用することができるが、簡便な方法で容易に精製カルボニル化合物を得ることができる等の点から、原料カルボニル化合物を蒸留する方法が好ましい。
【0043】
カルボニル化合物は、特定不純物BまたはAが生じやすい。本発明者等の研究により、特に、鉄製部材と接触すると、該特定不純物の生成が促進されることが分かった。このため、より高収率で高純度のシアノヒドリン含有液を容易に得ることができ、前記特定不純物の含有量の少ないカルボニル化合物を用いる効果をより効率よく発揮させる等の点から、前記原料カルボニル化合物を精製する工程で得られた精製カルボニル化合物は、鉄製部材と接触させることなく原料シアン化剤と反応させることが好ましい。
前記鉄製部材とは、鉄、鉄鋼製の部材(パイプ、装置等)のことをいい、SUSなどの鉄合金製の部材は含まない。
【0044】
〔原料シアン化剤〕
前記原料シアン化剤としては、カルボニル化合物にシアノ基を導入できる材料であれば特に制限されないが、液体中で電離してCN-を生じる化合物であることが好ましい。
前記原料シアン化剤は、2種以上を用いてもよいが、濃度計測や精製のし易さから1種単独で用いることが好ましい。
【0045】
前記原料シアン化剤としては、下記式(B)で表される化合物であることが好ましい。
M(CN)n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。nは、通常は1〜3の整数であり、好ましくは1または2である。
【0046】
前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。前記アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0047】
前記原料シアン化剤としては、具体的には、HCN、LiCN、NaCN、KCN、RbCN、CsCN、Mg(CN)2、Ca(CN)2、Sr(CN)2、Ba(CN)2、Fe(CN)2、Fe(CN)3、CuCN、Cu(CN)2、Zn(CN)2等が挙げられ、これらの中でも、反応液のpH制御をより容易にすることや塩の副生を抑制することができるなどの点から、シアン化水素(HCN)が好ましい。
【0048】
前記原料シアン化剤としては特に制限されず、工業用、研究用等で入手できる化合物でよい。具体的には、シアン化水素の場合、アンモ酸化反応等で副生するシアン化水素を使用することも可能であり、メタン等を原料に製造することも可能である。また、シアン化ナトリウムを硫酸などの強酸と反応させて製造することも可能である。工業的には、(メタ)アクリロニトリルの製造の際に副生するシアン化水素を使用することが好ましい。
【0049】
前記原料シアン化剤は、蒸留、吸着等によって、予め精製した精製シアン化剤であってもよい。
より高純度のシアノヒドリン含有液を得ることを目的として、精製シアン化剤を用いてもよいが、通常、シアン化剤には高沸点の化合物はほとんど存在しないため、原料シアン化剤中の不純成分は、下記工程2の精製工程において除去することができる。
【0050】
〔原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応〕
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応は、次のような反応式を例示できる。
M(CN)n+nHX→nHCN+MXn
nR1COR2+nHCN→nR12C(OH)(CN)
ここで、HXは酸や水であり、M、n、R1、R2は、前述の通りである。
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させることにより、シアノヒドリンを含む反応液が得られる。該シアノヒドリンとしては、α−シアノヒドリンが好ましく、ラクトニトリルが特に好ましい。
【0051】
反応器に供給される原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤との量は、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比(原料カルボニル化合物/シアン化剤が有するシアノ基)が、通常は0.50〜2.0、好ましくは0.70〜1.5である。前記モル比の上限以下であると、過剰の原料カルボニル化合物を回収する必要がなく、また原料カルボニル化合物による副反応が起こりにくくなる。また、前記モル比の下限以上であると、過剰の原料シアン化剤を回収する必要がない。原料の転化率の観点からは、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1に近いほど好ましく、具体的には、0.95〜1.05が特に好ましい。但し、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1に近いほど、意図せぬ僅かな供給量の変化で、反応器に供給される原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤とのどちらが過剰になるかが、変化してしまう。原料カルボニル化合物が過剰の場合には、原料カルボニル化合物の回収が必要になり、原料シアン化剤が過剰の場合には、原料シアン化剤の回収が必要になり、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1に近い場合には、どちらが過剰になるかが安定しないため、両方を回収することが可能な設備が必要となる。このため、予め片方の原料をわずかに過剰に供給することも好ましい。具体的には、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1.001〜1.10が特に好ましい。また、原料シアン化剤が有するシアノ基と原料カルボニル化合物とのモル比が、1.001〜1.10であることも特に好ましい。このように、片方の原料を過剰にすることにより、該過剰となる成分を回収する設備を設ければよく、製造装置を簡略化できるため好ましい。
【0052】
前記反応は、1種または2種以上の触媒の存在下で行うことが好ましい。
前記触媒としては、前記反応を促進することができれば特に制限されないが、例えば、有機または無機の塩基性化合物が挙げられ、具体的には、アミン化合物、4級アンモニウム塩、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物および金属アルコキサイドなどの塩基性化合物が挙げられる。
該触媒は、効率よく反応が進行する等の点から、反応液のpHが下記範囲となるような量で使用することが好ましい。
【0053】
前記反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、1種または2種以上の溶媒を用いることができる。溶媒としては、水、有機溶媒のいずれも用いることができる。有機溶媒としては、アルコール、カルボン酸、エステルなどが挙げられる。溶媒としては、反応後のシアノヒドリン含有液の濃度調整が容易であり、コスト面でも優れる水を用いることが好ましい。
該溶媒は、効率よく反応が進行し、所望濃度のシアノヒドリン含有液を容易に得ることができる等の点から、反応液中の溶媒量が、5〜95質量%となる量で使用することが好ましい。
【0054】
なお、前記原料カルボニル化合物や原料シアン化剤が、使用時の温度において固体である場合、反応に対して不活性な溶媒、好ましくは水に、該原料カルボニル化合物や原料シアン化剤を溶解または懸濁させて使用することが好ましい。
【0055】
前記反応の反応温度は、原料化合物が反応すれば特に制限されないが、該反応が効率よく行われ、生成したシアノヒドリンの分解が起こり難いなどの点から、具体的には、0〜40℃が好ましく、さらに好ましくは10〜30℃である。
【0056】
また、前記反応のpH条件は、好ましくはpH3〜7、より好ましくはpH4〜6である。
前記pH範囲で反応を行うと、シアノヒドリンの生成速度が速く、高い生産性でシアノヒドリン含有液を得ることができ、さらに、生成したシアノヒドリンの分解が起こり難いため好ましい。
【0057】
前記pH範囲とするために、必要により、塩基性化合物や酸性化合物を用いてもよい。特に原料シアン化剤としてシアン化水素以外を用いた場合には、反応液のpHが高くなるため、pHを前記範囲とする目的で酸を用いることが好ましい。酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等の酸を用いることができる。
【0058】
前記反応は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法でも行うことができるが、半回分式または連続式が好ましく、連続式がより好ましい。
また、前記反応における平均滞留時間は、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とが充分に反応できればよく、特に限定は無いが、通常は0.1〜24時間、好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは1〜6時間である。
【0059】
また、前記反応の際には、反応器中の、カルボニル化合物、シアン化剤およびシアノヒドリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度を測定することが好ましく、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を測定することがより好ましい。
【0060】
特に、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との少なくとも一方を反応器に連続的に供給する場合、前記測定結果に基づいて、反応器に供給される原料カルボニル化合物および原料シアン化剤の少なくとも一方の量を制御することが好ましい。これにより、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応が効率よく行われ、工程2において取り除く未反応成分の量が低減するため好ましい。
【0061】
〔反応液〕
前記反応で得られた反応液は、そのまま蒸留装置に供給されてもよいが、シアノヒドリンの分解を抑制し、シアノヒドリンを安定化することができる等の点から、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等のpH調整剤を配合することが好ましい。該pH調整剤は、2種以上を用いてもよい。
pH調整剤の配合量は、得られる反応液のpHが、好ましくは0.0〜5.0、より好ましくは0.5〜3.0となる量である。
【0062】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた反応液を蒸留装置に供給し、該反応液を蒸留する精製工程である。
蒸留装置への供給方法は、特に制限されず、断続的に供給してもよいが、生産性等の点から、連続的に供給することが好ましい。
また、本方法による効果がより発揮され、従来の方法ではできなかった、不純物含量の少ない所望濃度のシアノヒドリン含有液を長期間安定的に容易に製造することができることからも、前記反応液を連続的に蒸留装置に供給することが好ましい。
【0063】
前記蒸留方法としては、特に制限されず、工業的に実施できる方法であればよい。具体的な方法としては、単蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留等が挙げられ、精密蒸留では、棚段塔や充填塔による方法等が挙げられる。充填塔による方法においては、規則充填物や不規則充填物を使用する方法等が挙げられる。また、蒸留する方法は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であるが、半回分式または連続式が好ましい。
【0064】
前記蒸留する際の条件についても、特に制限されないが、前記原料カルボニル化合物として、アセトアルデヒドを用い、前記原料シアン化剤として、シアン化水素を用いてラクトニトリルを得る場合には、蒸留温度は、好ましくは20〜60℃、より好ましくは30〜50℃であり、蒸留時間(滞留時間)は、好ましくは1〜300分、より好ましくは5〜150分である。蒸留圧力は、蒸留温度との関係によって決まるが、前記蒸留温度においては、好ましくは0.1〜400KPaA、より好ましくは1〜200KPaAである。
【0065】
前記温度で反応液を蒸留することで、反応液中の反応原料等の不純物を低減することができ、高収率で低不純物含量のシアノヒドリン含有液を容易に、高い生産性で得ることができる。特に、原料カルボニル化合物として、前記精製カルボニル化合物を用いることで、前記温度で反応液を精製することによる効果がより発揮される。
【0066】
また、シアノヒドリン含有液中の不純物含量をより低減するため、還流を行うことが好ましい。還流を行う際の還流比は、好ましくは0.1〜20、より好ましくは1〜10である。還流比が前記範囲内であれば、生産効率を大幅に低下させることなく、カルボニル化合物、シアン化剤、シアノヒドリン、溶媒等の各成分の分離率を向上させることができる。
【0067】
前記蒸留は、通常、蒸留装置で行われる。この際には、原料カルボニル化合物および原料シアン化剤は、シアノヒドリン含有液よりも沸点が低い傾向にあることから、目的物であるシアノヒドリン含有液は、該装置の底部に溜まる傾向にある。
前記蒸留の際には、蒸留条件をより容易に制御することができる等の点から、蒸留装置の底部からシアノヒドリン含有液を抜き出す工程を含むことが好ましい。
【0068】
<工程3>
工程3は、蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する工程である。なお、カルボニル化合物およびシアン化剤の両方のモル濃度を計測してもよいが、反応の際に、原料カルボニル化合物または原料シアン化剤の一方を過剰量で用いた場合には、通常は、過剰量で用いた一方のモル濃度を計測する。なお、蒸留装置中の液体とは、通常、蒸留装置の底部に存在するシアノヒドリン含有液を意味する。
【0069】
本方法では、この工程3において、蒸留装置内の実際の液体の中の成分のモル濃度を把握し、しかも、1種類の成分ではなく、少なくとも2種類の成分のモル濃度を把握し、その把握した状況に基づいて下記工程4を行うことを特徴とし、これらの工程を行うことで初めて前記効果を奏する。
【0070】
また、シアノヒドリンのモル濃度を計測することで、蒸留装置内の液体の実際の状況、具体的には、計測されたシアノヒドリン濃度と予想値との対比から、蒸留装置内の液体の温度等が外部制御の温度等に対し、どのような状況になっているのかを評価することができる。
【0071】
前記計測を行う計測器としては、前記各成分を計測できる機器であれば特に制限されないが、具体的には、紫外線吸光光度計、シアン計、屈折率計が挙げられる。
工程1において、原料カルボニル化合物を過剰量で用いて原料シアン化剤と反応させた場合には、前記計測器として、紫外線吸光光度計および屈折率計から選択される少なくとも一方を用いることが好ましい。反対に、工程1において、原料シアン化剤を過剰量で用いて原料カルボニル化合物と反応させた場合には、前記計測器として、シアン計および屈折率計から選択される少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0072】
前記計測器としては、紫外線吸光光度計および屈折率計、または、シアン計および屈折率計を併用して用いることがより好ましい。すなわち、例えば、紫外線吸光光度計およびシアン計から選択される少なくとも一方を用い、さらに屈折率計を用いることが好ましい。
【0073】
計測のし易さの観点から、まず紫外線吸光光度計にてカルボニル化合物を計測し、さらに屈折率計によりカルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計のモル濃度を計測し、それによって得られたカルボニル化合物のモル濃度と前記カルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計のモル濃度とからシアノヒドリンのモル濃度を算出する方法が好ましい。
【0074】
また、シアン計にてシアン化剤のモル濃度を計測し、さらに屈折率計によりシアン化剤とシアノヒドリンとの合計のモル濃度を計測し、それによって得られたシアン化剤のモル濃度と前記シアン化剤とシアノヒドリンとの合計のモル濃度とからシアノヒドリンのモル濃度を算出する方法が好ましい。
【0075】
前記計測は、蒸留装置内の液体の状況を把握できれば、どこで行ってもよいが、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上で行われることが好ましく、計測のしやすさの点や、装置の簡略化の点などから、蒸留装置から分岐した流路上で行われることがより好ましい。
蒸留装置から分岐した流路上で前記計測を行う場合には、該計測を行った後の液体を、再び蒸留装置内に流入させてもよく、蒸留装置から取り出してもよい。
【0076】
また前記計測は、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口(取り出し口)付近で行うことが好ましい。つまり、蒸留装置内で計測を行う場合には、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口付近に計測器が設置されていることが好ましく、蒸留装置から分岐した流路上で計測を行う場合には、該流路は、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口付近から分岐していることが好ましい。
前記計測を、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口付近で行うことにより、充分に精製した後の液体のモル濃度を計測することができ、蒸留条件の適否をより正確に判断することができるため好ましい。
【0077】
前記計測は、自動計測であることが好ましい。
ここで、「自動計測」とは、計測中に、人が介在することなく機器が能動的に作動することを意味し、具体的には、被計測物である液体が自動的にサンプリングされる自動サンプリング、被計測物である液体の吸光度や屈折率等を自動的に検出する自動検出、または、被計測物である液体中の前記各成分のモル濃度を自動的に演算する自動演算、のいずれかを含むことをいう。
【0078】
前記自動計測としては、これら自動サンプリング、自動検出および自動演算のうち、2つを含むことが好ましく、全てを含むことがより好ましい。
前記計測を自動計測とすることで、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に、高生産性で安定的に得ることができる。
【0079】
前記自動サンプリングは、具体的には、人為的な操作を行わず計測器内または計測場所に被計測物である液体を送液、採取することが挙げられ、より具体的には、前記蒸留装置から分岐した流路、蒸留装置から計測器に送液する流路、または、蒸留装置と検出器との間を被計測物である液体を循環させる流路など経て該液体を送液、採取することが挙げられる。
【0080】
前記自動検出とは、被計測物である液体の検出を、人為的な操作を介さずに行うことであり、具体的には、検出器が紫外線吸光光度計の場合は、自動的にある波長の紫外線を照射し、該液体の吸光度を検出すること、検出器が屈折率計の場合は、自動的に光を照射し、液体の屈折率を検出することが挙げられる。
前記自動検出は、連続的に検出し続ける連続型であってもよく、ある一定時間ごとに自動的に検出を開始する間欠型であってもよい。
【0081】
前記自動演算とは、具体的には、人為的な操作を介さずに、検出したデータから、被計測物である液体中の各成分のモル濃度を導き出すことであり、具体的には、紫外線吸光光度計や屈折率計によって得られた、吸光度や屈折率を用いて、あらかじめ設定した演算式に基づいて演算を行い、モル濃度を自動的に算出することが挙げられる。
【0082】
前記計測器は、さらに、自動記録機能等を有していることが好ましい。
自動記録機能とは、検出したデータ、演算後のデータ、検出条件等を記録する機能である。記録は、紙面等に印刷する形式でもよく、HDD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)、CD、DVD等の記憶媒体、装置内部に設置された記憶媒体等に電子データとして記録させる形式でもよい。
【0083】
<工程4>
工程4は、工程3で得られた各成分のモル濃度の計測結果に基づいて、精製工程を制御する工程である。
通常、蒸留を行う際には、蒸留温度などの条件を設定し、生成物の状況をみてから調整するが、この調整だけでは、不純物含量が充分に少ないシアノヒドリン含有液を容易に得ることができない。このためなされたのが本発明であり、この工程4は、好ましくは、蒸留温度などを、蒸留装置内の実際の液体の状況に合わせて調整し直して制御する工程である。
前記制御を行うことにより、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に、高生産性で得ることができ、また、シアノヒドリン含有液の濃度を調整することができる。
【0084】
工程4の制御因子としては、蒸留温度、蒸留圧力および還流比から選択される少なくとも一つの因子を制御することが挙げられ、制御のし易さから蒸留温度および蒸留圧力から選択される少なくとも一つの因子を制御することが好ましく、蒸留温度を制御することがより好ましい。
具体的な制御の例としては、一般的に、カルボニル化合物およびシアン化剤は、シアノヒドリンよりも沸点が低いため、工程3で計測した蒸留装置内のシアノヒドリン含有液を含む液体中のカルボニル化合物およびシアン化剤から選択される少なくとも一方のモル濃度が、後述の上限値よりも高い場合には、蒸留温度を上げる制御、および、蒸留圧力を下げる制御から選択される少なくとも一方の制御を行うことが好ましい。これにより、蒸留装置中のカルボニル化合物およびシアン化剤から選択される少なくとも一方のモル濃度を下げることができる。
【0085】
工程4では、工程3で計測した、蒸留装置における液体中のカルボニル化合物およびシアン化剤の含有量が、それぞれ好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下になるように、精製工程を制御することが好ましい。
なお、前記カルボニル化合物およびシアン化剤の含有量は、少なければ少ないほどよく、これらは存在していないことが好ましいため、その範囲の下限は特に制限されないが、強いて数値を挙げるとすれば、例えば、それぞれ0.1質量ppmである。
【0086】
また、工程4では、工程3で計測した、蒸留装置における液体中のシアノヒドリンの濃度が、好ましくは5〜100質量%、より好ましくは10〜100質量%、さらに好ましくは50〜100質量%になるように、精製工程を制御することが好ましい。
【0087】
前記工程4は、高生産性でシアノヒドリン含有液を得ることができる等の点から、人為的な操作を介さずに、自動で精製工程を制御することが好ましい。自動制御は、具体的には、前記検出したデータ、演算後のデータ、記録後のデータ等と、前記所望のカルボニル化合物およびシアン化剤の含有量やシアノヒドリンの濃度に基づいて、蒸留条件を調整するように設定されたプログラムにより行われる。
【0088】
≪シアノヒドリン含有液製造装置≫
本発明に係るシアノヒドリン含有液製造装置(以下「本装置」ともいう。)は、原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を供給する供給部と、供給された原料を反応させてシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、該反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置と、該蒸留装置内、または、該蒸留装置から分岐した流路上に設けられた、該蒸留装置中の液体に含まれる、カルボニル化合物のモル濃度およびシアン化剤のモル濃度の少なくとも一方、ならびに、シアノヒドリンのモル濃度を計測する計測器とを有する。
このような本装置は、前述したシアノヒドリン含有液の製造方法において好適に使用することができる。
【0089】
前記供給部としては、特に制限されないが、例えば、パイプライン等が挙げられる。
この供給部としては、原料カルボニル化合物の供給部であって、該原料カルボニル化合物が精製カルボニル化合物である場合、前記鉄製ではないことが好ましい。
【0090】
前記蒸留装置は、該装置の底部にシアノヒドリン含有液の出口(取り出し口)を有することが好ましく、該出口付近に前記計測器を有することが好ましい。
前記計測器は、自動サンプリング能、自動検出能および自動演算能のいずれかを有することが好ましく、さらに、自動記録能を有することが好ましく、これらすべてを有することがより好ましい。
【0091】
本装置には、計測器で計測された結果に基づいて蒸留条件を自動制御するための部材、例えば、計測器と蒸留装置(蒸留温度等を制御する装置)とを結ぶ配線、蒸留条件を制御するためのシグナルを送る指令部、指令部からのシグナルに基づいて蒸留条件を制御する制御部などを有していることが好ましい。
【0092】
本装置は、前記部材以外にも、原料や生成物を貯蔵する貯蔵タンクや、反応液を蒸留装置に供給、触媒等を反応器に供給する供給部、などの従来の製造装置に用いられてきた部材を有していてもよい。
【実施例】
【0093】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
[アセトアルデヒド過剰条件で、アセトアルデヒドおよびシアン化水素を反応させた場合の、アセトアルデヒド、シアン化水素およびラクトニトリルの定量方法]
【0094】
<1.アセトアルデヒドの定量方法>
反応液または蒸留装置から抜き出した液体の一部を用い、紫外線吸光光度計でアセトアルデヒドに特有の波長330nmでの吸光度を求めた。この吸光度から、予め吸光度と反応液中のアセトアルデヒドのモル濃度との相関を求めた検量線から、前記液体中のアセトアルデヒドのモル濃度を計測した。
【0095】
<2.シアン化水素の定量方法>
反応液の一部を用い、シアン計でシアン濃度を求めた。予め前記シアン計でシアン濃度とシアン化水素濃度との相関を求めた検量線からシアン化水素のモル濃度を計測した。
【0096】
<3.検量線の作成>
液体の屈折率を求めるのに先だって以下の検量線を作成した。
1)水/ラクトニトリルの組成比を水100%、ラクトニトリル100%の間で変化させたラクトニトリル水溶液を複数作製し、各々の屈折率を測定し、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を作成した(検量線A−0)。
2)前記特定のラクトニトリル水溶液にアセトアルデヒドを加え、アセトアルデヒドの濃度が異なるアセトアルデヒド/ラクトニトリル/水の組成液を作製し、それぞれの屈折率を測定した。
3)ラクトニトリルのモル濃度が前記2)とは異なるラクトニトリル水溶液も、2)と同様に屈折率を測定した。
4)アセトアルデヒドのモル濃度が特定の同一濃度である一群のデータを用い、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を作成した(検量線A−1)。
5)アセトアルデヒドのモル濃度が4)とは異なる濃度であるもののデータについても、同一のアセトアルデヒドのモル濃度毎に、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を同様に作成した(検量線A−2〜A−X)。
【0097】
<4.ラクトニトリルの定量方法>
前記液体の紫外線吸光光度計から求めたアセトアルデヒドのモル濃度に対応する検量線を、(A−0〜A−X)から選択し、または前記検量線群から内挿させて作成し、その検量線と液体の屈折率nとから、ラクトニトリルのモル濃度を定量した。
【0098】
[実施例1]
蒸留管および冷却管を備えたフラスコに、常圧における沸点が25℃以上である成分(特定不純物A)の含有量が600質量ppmである原料アセトアルデヒドを仕込み、50KPaGの圧力下で、温度を40℃で加温して蒸留を行ったところ、特定不純物Aの含有量が160質量ppmである精製アセトアルデヒドを得た。
【0099】
なお、原料アセトアルデヒドおよび精製アセトアルデヒド中の特定不純物Aの含有量は、前述の方法で測定した。
【0100】
攪拌機および冷却器を備えたCSTR型の反応器(連続槽型反応器)に、攪拌下、得られた精製アセトアルデヒドをそのまま連続的に供給し、シアン化水素、水を、アセトアルデヒド/シアン化水素のモル比が1.05となるように連続的に供給し、反応温度を15〜20℃、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液でpHを5〜6に調整しながら、滞留時間が3時間になるように、反応液を連続で抜き出しながら反応を行った。
得られた反応液のアセトアルデヒドの転化率は99.0%、シアン化水素の転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して98.9%、供給シアン化水素量に対して100.0%であった。
【0101】
さらに反応で得られたラクトニトリル含有液に、10質量%硫酸水溶液を供給し、pH1.0に調整し、pH調整したラクトニトリル含有液を得た。
前記pH調製したラクトニトリル含有液を、蒸留塔に連続的に供給し、蒸留を行った。蒸留条件として、蒸留温度を40℃、蒸留圧力を7.5KPa、蒸留塔の滞留時間を0.5時間とし、蒸留塔の底部から分岐した流路上で、計測器が、アセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度を自動計測した。
なお、前記自動計測では、自動サンプリング、自動検出、および、自動演算を行った。また、前記計測器には、紫外線吸光光度計および屈折率計によって出力されたアセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度に対応して蒸留温度を自動で調整できる制御装置をオンラインで結合させた。
【0102】
前記自動計測した結果に基づいて、蒸留塔の底部のラクトニトリル含有液のラクトニトリル濃度が80質量%、アセトアルデヒド濃度が300質量ppm以下になるように、前記制御装置が蒸留温度を40℃±2.5℃の範囲で微調整した。
蒸留により得られたラクトニトリル含有液中のアセトアルデヒド含量は、200質量ppm±10質量ppmの範囲であり、ラクトニトリルの濃度は80質量%±0.25質量%の範囲であった。なお、反応液のシアン化水素の転化率は100.0%であったことから、蒸留後の溶液にはシアン化水素は含まれていない。
【0103】
[比較例1]
実施例1において、蒸留塔中のアセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度を計測せずに、蒸留温度、蒸留圧力および滞留時間の制御のみで前記蒸留を制御した以外は実施例1と同様にしてラクトニトリル含有液を製造した。
【0104】
蒸留により得られたラクトニトリル含有液中のアセトアルデヒド含量は、840質量ppm±200質量ppmの範囲であり、ラクトニトリルの濃度は75質量%±5質量%の範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る製造方法によって製造したシアノヒドリン含有液は、様々な化合物の出発原料としても有用であり、例えば、ラクトニトリル含有液は、乳酸、乳酸エステル、アラニン等の原料としてそのまま使用することができる。