(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算部は、前記第1エネルギー分布における放射線のエネルギーの分布位置の変動量を計測し、前記変動量に基づいて、前記第1エネルギー分布におけるエネルギーの分布位置を調整する、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の放射能測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願の各実施の形態に係る放射能測定装置について、図を参照しながら以下に説明する。なお、各図において、同一または同様の構成部分については同じ符号を付しており、対応する各構成部のサイズ、縮尺はそれぞれ独立している。
また、放射能測定装置の構成は、実際にはさらに複数の部材を備えているが、説明を簡単にするため、説明に必要な部分のみを記載し、他の部分については省略している。
【0018】
実施の形態1.
以下、本願の実施の形態1による、放射能測定装置としての放射能強度分布測定装置100について図を用いて説明する。
図1は、実施の形態1による放射能強度分布測定装置100の全体の概略構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示す放射線検出部1の概略構成を示す模式図である。
なお、放射能強度分布測定装置100の構成を全て記載した
図1と、構成の一部を抜粋した他の図との間で、同一構成部分を図示する際に、同一構成部分のサイズ、縮尺等が異なっている場合もある。これは本実施の形態1以降の各実施の形態においても同様である。
【0019】
図1に示すように、放射能強度分布測定装置100は、サンプリング部10と、分析部としての放射線分析部20と、表示部30と、を備える。
サンプリング部10は、放射線の検出を行う。放射線分析部20は、サンプリング部10において検出された放射線の分析を行う。表示部30は、放射線分析部20による分析結果を表示する。
【0020】
サンプリング部10は、測定対象物としてのコンクリート片Tにドリル等で空けられた穴T1内に挿入可能な長手形状に構成される。このサンプリング部10は、伸縮部2と、この伸縮部2の先端に取り付けられた検出部としての放射線検出部1と、これら放射線検出部1および伸縮部2を覆う一定長のパイプ3と、を有する。
【0021】
伸縮部2は、コンクリート片Tの表面T2から内部への移動方向Yに対して前後に移動可能に、伸縮自在に構成され、放射線検出部1を移動方向Yの任意の位置において固定可能である。この移動方向Yは、本実施の形態においてコンクリート片Tの内部への深さ方向となるため、以降この移動方向Yを深さ方向Yと称す。
こうして放射線検出部1は、パイプ3内において、伸縮部2によりコンクリート片Tの深さ方向Yに対して任意の複数の検出位置A(A1、A2・・・AN、但しNは検出位置Aの総数)に固定され、これら複数の検出位置Aにおいてコンクリート片Tに含まれた放射性物質50から放出される放射線を検出する。
【0022】
また放射線検出部1は、穴T1の内壁に対向して、設定された所定の距離Fを穴T1の内壁との間に確保する。また、図における理解を容易にするために、コンクリート片T内の放射性物質50を丸形状にて図示した。
【0023】
以下、放射線検出部1の詳細構成について説明する。
放射線検出部1には、NaI(Tl)シンチレーション検出器が用いられる。
図2にその詳細を示すように、放射線検出部1は、シンチレータ1aと、光検出器1bと、増幅器としてのプリアンプ1cとを備える。
【0024】
シンチレータ1aは、放射線が入射されると放射線によりエネルギーを付与されることにより固有の波長を持つ蛍光を出す。発生した蛍光は、光検出器1bの光電面で電子に変換され、電気信号、例えばパルス信号に変換して出力される。光検出器1bから出力されたパルス信号は、プリアンプ1cにより増幅される。
こうして、放射線検出部1は、コンクリート片Tに含まれた放射性物質50から放出される放射線が入射すると、入射放射線のエネルギーに比例した波高を有する、検出信号としてのパルス信号Gを出力する。出力されたパルス信号Gは、後段の放射線分析部20に入力される。
【0025】
次に、放射線分析部20の各部の概要について説明する。
放射線分析部20は、サンプリング部10から出力される、放射線検出部1からのパルス信号Gを分析するために設けられる。
図1に示すように、放射線分析部20は、波形整形部21と、分析部としての波高分析部22と、演算部としての放射能強度演算部23と、格納部としての応答関数データベース24と、を備える。
【0026】
波形整形部21は、サンプリング部10から出力される放射線検出部1からのパルス信号Gに対して、増幅および波形の整形を行う。
波高分析部22は、パルス信号Gのエネルギー値ごとの計数を導出する。
応答関数データベース24は、放射線検出部1の応答関数Kを格納する。
放射能強度演算部23は、波高分析部22の出力結果に対して、後述する応答関数Kを用いた信号復元演算を行うことにより、放射性物質50の核種を弁別すると共に、弁別された放射性物質50の放射能強度を演算する。
【0027】
なお、波形整形部21は、例えば波形整形器(図示せず)と、増幅器21aと、で構成される。波高分析部22は、例えば多重波高分析器等で構成される。放射能強度演算部23は、例えば単一または複数のマイクロプロセッサで構成される。応答関数データベース24は、例えばマイクロプロセッサに接続されたメモリ等で構成される。表示部30は、例えば液晶ディスプレイ等で構成される。
【0028】
次に、本実施の形態1の要部である放射線分析部20の上記各部における詳細処理について説明する。
波形整形部21は、サンプリング部10から出力される放射線検出部1からのパルス信号Gを受信すると、このパルス信号Gに対して、増幅器21aを用いて予め設定された増幅率での増幅と、後の処理に適した形への波形の整形と、を行う。増幅され、整形されたパルス信号Gは、後段の波高分析部22に入力される。
【0029】
波高分析部22は、波形整形部21の出力を基に、以下のような波高分析を行う。
図3は、実施の形態1による波高分析部22により導出される放射線の波高分布Mの例を示す模式図である。放射線検出部1が、放射性物質50としてのセシウム−137からのガンマ線を測定した場合を示している。
【0030】
波高分析部22は、前段の波形整形部21によって増幅された放射線検出部1のパルス信号Gのうち、ピーク値が所定値以上のパルス信号Gについて、このピーク値をAD変換(Analog to Digital 変換)する。波高分析部22は、AD変換をしたパルス信号Gのピーク値に相当するエネルギー弁別範囲を有するチャンネル(エネルギー弁別段)に対して、1カウント分加算する。この動作を各パルス信号Gに対して施すことにより、波高分析部22は、各パルス信号Gのエネルギーピーク値ごとの計数を示す、第1エネルギー分布としての波高分布Mを得る。
【0031】
図3に示される波高分布Mは、複数ある検出位置Aごとに導出されるものであり、検出位置Aごとに導出される複数の波高分布Mのうち、ある一つの検出位置Aにおいて導出された波高分布Mを示す。
導出された各波高分布Mは、波高分析部22が有する図示しないメモリに、検出位置Aごとに格納されると共に、後段の放射能強度演算部23に入力される。
【0032】
なお、通常、放射線検出部1によって検出された放射線には、セシウム−137からの放射線の他にも、例えば自然放射性核種からの放射線が含まれる。したがって
図3に示した波高分布Mは、セシウム−137からの放射線と自然放射性核種からの放射線の和となっている。
【0033】
放射能強度演算部23では、波高分析部22の出力である波高分布Mを基にした放射能分析を実施する。
図4は、実施の形態1による放射能強度演算部23による放射能分析の説明に関する図であって、セシウム−137の崩壊図である。
同図のデータは、単一のエネルギーのガンマ線が放出される場合を表している。
【0034】
セシウム−137から放出されるガンマ線のエネルギーは約662keV、放出割合は85%、ということがこの崩壊図から判別できる。よって、波高分布Mにおいて、例えばチャンネルの単位が10keVである場合、セシウム−137が放射するエネルギー662keVの放射線は、660keV以上670keV以下のチャンネルに検出され、計数されることになる。つまり、波高分布Mにて計数されたチャンネルのエネルギー弁別範囲(660keV以上670keV以下)と、セシウム−137のエネルギー値(662keV)と、を利用することにより、セシウム−137の同定を実施することができる。
しかしながら、このような波高分布Mに直接基づいて放射性物質の核種を同定する方法は、以下に説明するように分析精度が低くなる場合がある。
【0035】
上記に示した波高分布Mから直接、放射性物質の核種の同定を行う場合、分析可能な放射線の最小エネルギー単位は、放射線検出部1のエネルギー分解能に左右される。放射線検出部1のエネルギー分解能が低いと、波高分布Mにて現れる放射線のエネルギーピークの幅が広がる。このとき、複数の放射性核種からの放射線が導出されている場合では、波高分布Mにおいて複数の放射線のピークが重なり、1つのエネルギーピークとして検出されてしまい、結果として分析精度が低下する。
【0036】
また、
図3に示したように、波高分析部22が導出した波高分布Mの一部は、ハッチングした部分のようにエネルギーピーク部分Mpとして検出されるが、波高分布Mの残りは、低エネルギー側において連続分布部分Mcとして検出される。これは、放射線検出部1に入射した放射線は、例えばコンプトン散乱等の様々な相互作用を放射線検出部1と起こす過程でエネルギー損失を起こす。その際、放射線検出部1に全エネルギーを落とさずに放射線検出部1の外へ出て行く放射線も存在するため、このように低エネルギー側において連続的なエネルギー分布部分Mc(連続分布部分Mc)が生じる。
通常、放射能強度は、エネルギーピーク部分Mpにおける計数のみから求められ、連続分布部分Mc部における計数は放射線の核種同定に利用出来ないため核種分析に使用されない。そのため、放射線検出部1の測定感度が確保できず、結果として分析精度が低下する。
【0037】
そこで、放射線検出部1のエネルギー分解能を確保し、且つ、放射線検出部1と放射線との相互作用による影響を除いて放射線の分析精度を向上させるために、放射能強度演算部23は、以下に説明する信号復元演算を実施する。
信号復元演算の例として、逆問題演算の一種であるアンフォールディング法がある。アンフォールディングとは、測定対象である放射線に対して、放射線検出部1との応答関数Kを一定のエネルギー間隔で予め算出しておく。そして、算出した応答関数Kを用いたアンフォールディング演算を行い、放射性物質50からの放射線の実際のエネルギー分布S(放射線源のエネルギースペクトル)を算出する方法である。
【0038】
応答関数Kは、放射線検出部1と放射線との相互作用を表すものであり、放射線検出部1の種類、放射線検出部1と測定対象物との位置関係、放射線検出部1と測定対象物との間の空気の密度、測定対象物の材質、密度、および放射線検出部1に入射する放射線のエネルギー値、に対応している。
こうして放射能強度演算部23は、応答関数データベース24から呼び出した応答関数Kを用いて、波高分析部22にて導出された波高分布Mに対し、信号復元演算を実施し、放射性物質50からの放射線の実際の線源スペクトルである、第2エネルギー分布としてのエネルギー分布Sを復元する。
【0039】
以下、この放射能強度演算部23が行う信号復元演算について、数式を用いて更に詳細に説明する。
図5は、実施の形態1による放射線検出部1が測定する検出領域Reを示す模式図である。
図5における上側が
図1におけるコンクリート片Tの穴T1の開口部側Y2であり、
図5における下側が
図1におけるコンクリート片Tの穴T1の底部側Y1になる。
【0040】
先ず、放射線検出部1が放射線を検出する各検出領域Re(Re1〜Re5)について説明する。
コンクリート片Tに含まれる放射性物質50から放射される放射線は、コンクリート片Tによる自己吸収が生じる。そのため放射線検出部1に届く放射線は、放射線検出部1を中心としたコンクリート片T内における有効体積内、すなわち
図5に示す有効半径x内かつ有効深さz内にある円柱状の有効体積内に含まれる放射性物質50から放出されたものとなる。
【0041】
ここで、放射線検出部1が測定可能な有効体積、即ち、放射線検出部1が放射線を測定する測定対象領域を深さ方向Yに対して5つに区分した各領域を、検出領域Re1、Re2、Re3、Re4、Re5とする。なお、有効体積を区分する区分数は、5に限定するものではない。また通常、各検出領域Reのそれぞれの深さ方向Yの領域幅ReHは、放射線検出部1の深さ方向Yの幅Jと同じ長さに設定される。
【0042】
次に、放射線検出部1がコンクリート片T内に挿入されて放射線を検出する状態について説明する。
図6は、実施の形態1による放射線検出部1の、コンクリート片Tの穴T1内の検出位置A(A1〜A5)ごとの検出領域Re(Re1〜Re5)と、コンクリート片Tの深さ方向Yの各深さ領域D(D1〜D5)と、を示す模式図である。
【0043】
図6の斜線部分が放射線検出部1である。放射線検出部1の深さ方向Yに対する幅Jを、検出領域Reの領域幅ReHと一致させたものを示した。しかしながら
図6における水平方向の検出領域Reの長さは、
図5に示した検出領域Reに比較して短く図示した。また、コンクリート片Tの穴T1、伸縮部2、パイプ3、放射性物質50、の図示は省略した。
【0044】
ここで、放射線検出部1が穴T1内において固定される複数の検出位置Aを、穴T1の底部側Y1から開口部側Y2に向けて、設定された検出間隔AHごとに設けられた検出位置A1、A2、A3、A4、A5の5地点であるとする。
図6では、放射線検出部1がその固定位置を、検出位置A5、A4、A3とずらしながら、各検出位置A5、A4、A3において放射線を検出する状態を示す。
なお、図において検出位置A1、A2に固定された際の放射線検出部1の図示は省略した。
【0045】
そして、
図6に示す例では、放射線検出部1の検出間隔AHは、この検出領域Reの領域幅ReH(放射線検出部1の幅J)と同じ長さに設定される。即ち、放射線検出部1は、当該放射線検出部1の深さ方向Yの幅J分ずつ、その固定位置を深さ方向Yに対してずらしながら移動する。
【0046】
放射線検出部1の深さ方向Yに対する中心を検出位置A5に固定した際には、放射線検出部1は、測定可能な有効体積内、すなわち検出領域Re1、Re2、Re3から入射する放射線を足し合わせたスペクトルを検出する。なお、検出領域Re4、Re5は、コンクリート片Tの外部となるため、放射線は検出されない。
【0047】
同様に、放射線検出部1を検出位置A4の位置に固定した際は、放射線検出部1は、検出領域Re1、Re2、Re3、Re4から入射する放射線を足し合わせたスペクトルを検出する。
同様に、放射線検出部1を検出位置A3の位置に固定した際は、放射線検出部1は、検出領域Re1、Re2、Re3、Re4、Re5から入射する放射線を足し合わせたスペクトルを検出する。
【0048】
ここで、コンクリート片Tの内部の領域を、コンクリート片Tの表面T2から深さ方向Yに対して5つに区分した各領域を、区分領域としての深さ領域D1、D2、D3、D4、D5とする。この深さ領域D1〜D5は、コンクリート片T内の深さ方向Yの放射性物質50の分布を評価する際の、深さ方向Yの単位幅であり、所望の精度の評価結果が得られるように任意の数に区分される。
【0049】
本実施の形態では、放射線検出部1が放射線を検出可能な有効体積を区分した各検出領域Reの深さ方向Yの領域幅ReHと、コンクリート片T内の領域を区分した各深さ領域Dの深さ方向Yの幅とは同じであり、それぞれの区分数も同じに設定される。
即ち、検出位置A5において、検出領域Re1〜Re3から入射する放射線を足し合わせたスペクトルが測定されると、その結果は、コンクリート片T内の深さ領域D3〜D5に含まれる放射性物質50からの放射線を足しあわせたスペクトルを測定していることになる。
【0050】
同様に、検出位置A4において、検出領域Re1〜Re4から入射する放射線を足し合わせたスペクトルが測定されると、コンクリート片T内の深さ領域D2〜D5からの放射線を足しあわせたスペクトルを測定していることになる。
また同様に、検出位置A3において、検出領域Re1〜Re5から入射する放射線を足し合わせたスペクトルが測定されると、コンクリート片T内の深さ領域D1〜D5からの放射線を足しあわせたスペクトルを測定していることになる。
【0051】
理想的には、放射線検出部1が測定するべき検出領域Reは、放射線検出部1と同じ深度に位置する検出領域Re3である。即ち、放射線検出部1が測定するべき領域は、検出位置A5に固定された際は深さ領域D5であり、検出位置A4に固定された際は深さ領域D4であり、検出位置A3に固定された際は深さ領域D3である。
【0052】
しかしながら、実際に測定を行う場合では、前述のように、放射線検出部1は、測定するべき検出領域Re3に含まれる放射性物質50からの放射線のみではなく、他の検出領域Re1、2、4、5からの放射線も測定する。そのため、各検出位置Aにおいて放射線検出部1から導出される波高分布Mの計数値は、該当する測定対象の検出領域Re3(放射線検出部1が位置する深度にある深さ領域D)からの実際の放射線の計数値に比べて過剰な値となる。
即ち、各検出位置Aに固定された放射線検出部1にて求められる波高分布Mは、測定対象の検出領域Re3にある放射性物質50からの放射線の影響と、検出領域Re3以外の検出領域Re1、2、4、5にある放射性物質50からの放射線の影響の両方の和となる。
【0053】
また、例えば検出位置A3に固定された放射線検出部1に入射した、検出領域Re3以外の検出領域Re2、Re1からの入射放射線は、検出位置A3にある放射線検出部1と様々な相互作用を起こす過程でエネルギー損失を生じ易い。その際、放射線検出部1に全エネルギーを落とさずに放射線検出部1の外に出て行く放射線も存在するため、前述のように、測定結果は
図3に示したような波形を有する波高分布Mとなる。また、この波高分布Mは、放射線検出部1のエネルギー分解能にも依存する。
【0054】
そこで本実施の形態では、放射線検出部1により導出された波高分布Mから、測定対象の検出領域Re3(放射線検出部1が位置する深度にある深さ領域D)とは異なる検出領域Re1、2、4、5(放射線検出部1が位置する深度とは異なる深度の深さ領域D)にある放射性物質50からの放射線の影響を分離し、波高分布Mにおける放射線検出部1のエネルギー分解能を補正し、更に、放射線と放射線検出部1との相互作用による影響を取り除くために、以下に示す応答関数Kを用いた信号復元演算を実施する。
即ち、応答関数K、各検出位置Aに固定された放射線検出部1から導出される波高分布M、および各検出領域Reの実際のエネルギー分布S、の関係は、行列を用いて以下の数式(1)で表される。
【0056】
上記数式(1)におけるM5、M4、M3は、放射線検出部1が、検出位置A5、A4、A3に固定された際にそれぞれ導出される波高分布Mである。
【0057】
上記数式(1)における応答関数K1・・・KVは、放射線検出部1からの距離がそれぞれ異なる各検出領域Re1・・・Re5からの放射線による放射線検出部1の応答関数である。このように、放射線検出部1の応答関数Kは、区分された全ての検出領域Re1〜Re5における放射性物質50からの放射線に対応して構成される。
【0058】
上記数式(1)におけるSI・・・SVは、放射線検出部1が検出位置A5に固定された際の、検出領域Re1・・・Re5における実際の放射線のエネルギー分布Sである。
また、SI’・・・SV’は、放射線検出部1が検出位置A4に固定された際の、検出領域Re1・・・Re5における実際の放射線のエネルギー分布Sである。
また、SI”・・・SV”は、放射線検出部1が検出位置A3に固定された際の、検出領域Re1・・・Re5における実際の放射線のエネルギー分布Sである。
このように放射線検出部1の検出位置Aごとに、検出領域Reの実際のエネルギー分布Sを定める理由は、検出位置Aごとに測定誤差が生じるためである。
【0059】
上記数式(1)の各項をそれぞれM、K、Sとおくと、以下数式(2)と表せる。
【0061】
ゆえに、各検出領域Reにおけるエネルギー分布Sを求める場合は、数式(2)の逆変換を、以下の数式(3)のように行う。逆変換には例えば一般逆行列を用いる。
【0063】
上記数式(3)を解くことにより、波高分布Mにおける放射線検出部1のエネルギー分解能が補正され、また、放射線と放射線検出部1との相互作用等による影響が取り除かれる。さらに、放射線検出部1から導出されたそれぞれの波高分布Mから、放射線検出部1の測定対象の検出領域Re3(放射線検出部1が位置する深度にある深さ領域D)と異なる検出領域Re1、2、4、5(放射線検出部1が位置する深度とは異なる深度の深さ領域D)からの放射線による影響が取り除かれる。
こうして、放射能強度演算部23による上記演算により、各検出領域Reにある放射性物質50から放出される放射線の実際のエネルギー情報のみを含むエネルギー分布Sの情報がそれぞれ抽出される。
【0064】
なお、入射する放射性核種がL種類ある場合、導出される波高分布Mは、以下数式(4)のように放射性核種毎の放射能強度を加重積算した結果に相当する。
【0066】
図7は、
図3に示された波高分布Mに対して、本実施の形態の応答関数Kを用いた信号復元演算を実施して復元された、放射性物質50のエネルギー分布Sである。
このエネルギー分布Sは、検出領域Reごとに復元される。
図7に示すように、復元されたエネルギー分布Sでは、測定対象のセシウム−137の放射線のエネルギー(662keV)と、他の自然放射性核種からの放射線のエネルギーとがそれぞれ区別されて復元されていることが判る。
【0067】
次に、放射能強度演算部23は、復元された各検出領域Reにおけるエネルギー分布Sに基づいて、セシウム−137から放射される放射線の放射能強度Iを、検出領域Reごとに演算する。
以下、放射能強度演算部23による放射能強度Iの演算の詳細について説明する。
【0068】
放射能強度演算部23には、各核種の放射線放出率等の情報が記録されている。
放射能強度演算部23は、信号復元演算で求められたエネルギー分布Sから、セシウム−137のガンマ線の本数(計数)を測定時間で除する。これにより、コンクリート片Tから単位時間当たりに放射されるセシウム−137のガンマ線の本数が得られる。更に、放射能強度演算部23は、得られたガンマ線の本数を、セシウム−137が壊変する際に特定のガンマ線を放射する割合である放射線放出率Raで除する。これにより、セシウム−137の放射能強度Iが得られる。
【0069】
次に、放射能強度演算部23は、演算された各検出領域Reにおける放射能強度Iに基づいて、コンクリート片Tの各深さ領域Dの放射能強度Iを以下のように演算する。
前述のように、各検出領域Reの深さ方向Yの領域幅ReHと、コンクリート片T内の各深さ領域Dの深さ方向Yの幅と、それぞれの区分数とは同じに設定される。よって、数式(1)について数式(3)を用いて求められた各検出領域Reのエネルギー分布S(SI〜SV、SI’〜SV’、SI”〜SV”)は、測定対象のコンクリート片Tにおける各深さ領域D1〜D5のエネルギー分布S1〜S5で記載すると以下数式(5)のようになる。
【0071】
上記数式5の右辺の行列の各列において同一深さ領域Dのエネルギー分布Sが出てくるが、通常、測定誤差等を含むため、値としては一致しない。そこで同一の深さ領域Dのエネルギー分布Sの平均を取ったものを、その深さ領域Dの演算結果とする。
例えば、各列における深さ領域D3のエネルギー分布S3を合計したものを行列の列数3で割ると、深さ領域D3のエネルギー分布S3の平均値が算出される。
このように、放射能強度演算部23は、測定誤差の影響を低減するために、演算された検出位置Aごとの各検出領域Reにおける放射能強度Iから、各検出領域Re(各深さ領域D)の放射能強度Iの平均値を算出する。
【0072】
こうして、コンクリート片Tの内部における、セシウム−137の深さ方向Yに対する放射能強度Iの分布評価が得られる。
なお、放射能強度演算部23は、各検出領域Re(コンクリート片Tの各深さ領域D)における放射能強度Iの平均値を算出するものを示したが、平均値を都度算出するものに限定するものではない。平均値を算出する前の、数式(5)から導出される各検出領域Re(各深さ領域D)の放射能強度Iを用いて、深さ方向Yに対する放射能強度の分布評価を行ってもよい。
【0073】
次に放射能強度演算部23は、演算された各検出領域Reにおけるエネルギー分布Sに基づいて、単位容積中に含まれているセシウム−137の放射能の量を示す放射能濃度Wを算出する。即ち、放射能強度演算部23は、各検出領域Re(各深さ領域D)に含まれるセシウム−137の放射能濃度Wを、各検出領域Re(各深さ領域D)の体積Vと、セシウム−137の放射線放出率Raと、を用いることにより、以下の数式(6)のように算出する。
【0075】
こうしてコンクリート片Tの内部において、深さ方向Yに対するセシウム−137の放射能濃度Wの分布評価が得られる。
なお、複数の検出位置Aおよび検出間隔AHは、放射能強度分布測定装置100の外部から設定可能な構成となっている。そのため、測定時に作業者が放射能強度分布測定装置100のそばで、表示部30に表示された測定結果を確認しながら、検出位置Aおよび検出間隔AHを調整することも可能である。
【0076】
以上、放射線検出部1が、当該放射線検出部1の深さ方向Yの幅J分ずつ、その固定位置をずらしながら移動する例を示した。
以下、放射線検出部1が、当該放射線検出部1の深さ方向Yの幅Jよりも小さい距離ずつ、その固定位置を深さ方向Yに対してずらしながら移動する例を示す。
【0077】
図8は、実施の形態1による放射線検出部1の、コンクリート片Tの穴T1内における検出位置A(A1〜A9)ごとの検出領域Re(Re1〜Re5)と、コンクリート片Tの深さ方向Yの各深さ領域D(D1〜D10)と、を示す模式図である。
放射線検出部1がその固定位置を、深さ方向Yに対して検出位置A9、A8、A7とずらしながら測定する状態を示す。
【0078】
図8に示す放射線検出部1の検出間隔AHの距離は、
図6に示した検出間隔AHの距離の半分に設定される。即ち、放射線検出部1は、当該放射線検出部1の深さ方向Yの幅Jの半分の距離ずつ、その固定位置を深さ方向Yに対してずらしながら移動する。
また、深さ領域D(D1〜D10)の深さ方向Yの幅は、各検出領域Reの深さ方向Yの幅の半分に設定される。
【0079】
この場合においても放射能強度演算部23は、上記数式(1)に基づいて、各検出領域Reにある放射性物質50から放出される放射線の実際のエネルギー情報のみを含むエネルギー分布Sの情報を抽出する。
そして放射能強度演算部23は、演算された各検出領域Reにおける放射能強度Iに基づいて、コンクリート片Tの各深さ領域D(D1〜D10)の放射能強度Iを演算する。
例えば、深さ領域D9における放射能強度Iを演算する場合は、検出位置A9における検出領域Re3と、検出位置A8における検出領域Re3とが重なる範囲(深さ領域D9に相当)で重み付けをとって、放射能強度Iの平均をとればよい。
【0080】
また、例えば、深さ領域D5〜D9における放射能濃度Wを演算する場合は、以下に示すように、各検出領域Re3が重なる範囲で重み付けをとって、放射能濃度Wの平均をとればよい。
具体的には、
図8に示すように、検出位置A9において測定して得られた検出領域Re3の放射能濃度Wが5Bq/cm
3であり、検出領域Re2の放射能濃度Wが10Bq/cm
3であったとする。
また、検出位置A8において測定して得られた検出領域Re3の放射能濃度Wが8Bq/cm
3であり、検出領域Re2の放射能濃度Wが11Bq/cm
3であったとする。
また、検出位置A7において測定して得られた検出領域Re3の放射能濃度Wが9Bq/cm
3であり、検出領域Re2の放射能濃度Wが8Bq/cm
3であったとする。
この場合、放射能強度演算部23は、深さ領域D5〜D10の放射能濃度Wを、それぞれ以下のように導出する。
【0081】
放射能強度演算部23は、深さ領域D10の放射能濃度Wを、検出位置A9において得られた検出領域Re3の放射能濃度Wの値の5Bq/cm
3と導出する。
【0082】
放射能強度演算部23は、深さ領域D9の放射能濃度Wを、検出位置A9において得られた検出領域Re3の放射能濃度Wの5Bq/cm
3と、検出位置A8において得られた検出領域Re3の放射能濃度Wの8Bq/cm
3とを合計して2で割った6.5Bq/cm
3と導出する。
【0083】
放射能強度演算部23は、深さ領域D8の放射能濃度Wを、検出位置A9において得られた検出領域Re2の放射能濃度Wの10Bq/cm
3と、検出位置A8において得られた検出領域Re3の放射能濃度Wの8Bq/cm
3と、検出位置A7において得られた検出領域Re3の放射能濃度Wの9Bq/cm
3とを合計して3で割った9Bq/cm
3と導出する。
【0084】
放射能強度演算部23は、深さ領域D7の放射能濃度Wを、検出位置A9において得られた検出領域Re2の放射能濃度Wの10Bq/cm
3と、検出位置A8において得られた検出領域Re2の放射能濃度Wの11Bq/cm
3と、検出位置A7において得られた検出領域Re3の放射能濃度Wの9Bq/cm
3とを合計して3で割った10Bq/cm
3と導出する。
【0085】
放射能強度演算部23は、深さ領域D6の放射能濃度Wを、検出位置A8において得られた検出領域Re2の放射能濃度Wの11Bq/cm
3と、検出位置A7において得られた検出領域Re2の放射能濃度Wの8Bq/cm
3とを合計して2で割った9.5Bq/cm
3と導出する。
【0086】
放射能強度演算部23は、深さ領域D5の放射能濃度Wを、検出位置A7において得られた検出領域Re2の放射能濃度Wの値の8Bq/cm
3と導出する。
【0087】
このように放射能強度演算部23は、深さ方向Yに対する検出位置Pを任意に変更して、演算された検出位置Aごとの各検出領域Reにおける放射能強度Iあるいは放射能濃度Wから、各深さ領域Dにおける放射能強度Iあるいは放射能濃度Wを算出可能である。
そのため、検出領域Reの深さ方向Yの領域幅ReHに依存しない、コンクリート片Tの深さ方向Yの放射能分布評価を行える。
【0088】
なお、放射能強度演算部23による放射能強度Iおよび放射能濃度Wの算出は、セシウム−137のみに限定するものではなく、セシウム−137以外の放射性物質に対しても同様に算出を行える。
また、測定対象物としてコンクリート片Tを挙げたが、例えば、土壌、あるいは米などの食物でもよく、放射線検出部を内部に挿入できる測定対象物の全てに対して適用可能である。
【0089】
また、上記では、放射線検出部1の応答関数Kは、全ての検出領域Reからの放射線に対して構成されたものを示した。しかしながら、応答関数Kは、測定対象の検出領域Re3にある放射性物質50からの放射線のみに対応して構成されたものでもよい。この場合においても、放射線検出部1のエネルギー分解能を確保しつつ、放射線検出部1と放射線との相互作用による影響を除いて、コンクリート片Tの深さ方向Yに対する放射線の放射能強度Iの分布評価を実施できる。
【0090】
なお、上記では、放射線検出部1として、入射放射線のエネルギーに対応する波高を有するパルス信号Gを出力するNaI(Tl)シンチレーション検出器を示したが、これに限定するものではない。放射線検出部1は、パルス信号G以外の、入射放射線のエネルギーに対応するような検出信号を出力できるものであればよい。
【0091】
また、波高分析部22として、受信したパルス信号Gの波高ピーク値に基づいて波高分布Mを導出する多重波高分析器を示したが、これに限定するものではない。波高分析部22は、パルス信号G以外の、入射放射線のエネルギーに対応する検出信号に基づいて、入射放射線のエネルギー値ごとの計数を示すエネルギーの分布を導出できる構成のものであればよい。
【0092】
なお、図において、サンプリング部10と放射線分析部20とが結合して一体型に構成され、表示部30のみが分離して構成された例を示しているが、サンプリング部10と放射線分析部20と表示部30との全てが一体型に構成されてもよい。あるいは、放射線検出部1と放射線分析部20と表示部30とがそれぞれ分離して構成されてもよい。またあるいは、放射線検出部1のみが分離して構成され、放射線分析部20と表示部30とが一体型に構成されてもよい。
【0093】
また、1つの放射線検出部1を備えるものを示したが、これに限定するものではない。 複数の放射線検出部1を備えた場合においても、コンクリート片T内において複数の放射線検出部1を移動させながら、上記のように構成された応答関数Kを用いた上記信号復元演算を行うことで、深さ方向Yに対する放射能強度分布評価を精度よく行える。
なお、放射線検出部1を1つとすると、応答関数Kの数を少なくして信号復元演算における演算負荷を低減できる。
【0094】
上記のように構成された本実施の形態の放射能測定装置によると、放射線検出部は、測定対象物の内部への深さ方向に移動可能に構成される。そして、深さ方向に対する複数の検出位置において、測定対象物内の放射性物質から放出される放射線を検出する。
さらに、放射線検出部の応答関数は、当該放射線検出部を中心とした測定対象領域を複数に区分したそれぞれの検出領域における放射性物質から放出される放射線に対応して構成される。そして放射能強度演算部は、各検出位置において放射線検出部から導出されるそれぞれの波高分布Mに対して、この応答関数を用いた信号復元演算を行う。
【0095】
これにより、放射能強度演算部は、放射線検出部によるエネルギー分解能を確保すると共に、放射線検出部と放射線との相互作用による影響を除いた、測定対象物の深さ方向に対するエネルギー分布Sを導出できる。こうして、放射能強度演算部は、測定対象物の内部において、深さ方向に対する放射性核種の同定を精度良く実施し、同定された放射性核種毎の深さ方向に対する放射性物質の放射能強度の分布を精度良く求められる。
【0096】
また従来では、複数の放射線検出部が深さ方向にそれぞれ固定されているため、検出間隔を調整して柔軟に測定を行うことができなかった。そのため、測定結果において得られる放射線の分布間隔は、放射線検出部のサイズ(領域幅)とその設置間隔に依存し、固定となっていた。よって、測定結果において得られる放射線の分布間隔が大きくなり、測定精度が低下することがあった。
【0097】
本実施の形態の放射線検出部の検出間隔は、例えば、放射線検出部の深さ方向の領域幅よりも短くなるように、任意に設定可能である。これにより、放射線検出部の領域幅と検出領域間の間隔とに依存しない放射能強度分布評価が行える。また、検出間隔を短くして検出位置を増やすことで、更に精度良い放射能強度分布評価が可能になる。
また、検出位置を任意に設定可能であるため、測定対象物内の放射能の分布の状況に合わせた柔軟な放射能強度分布評価が可能になる。
【0098】
また、従来のように多数の放射線検出部が不要となるため、放射線検出部ごと、深さ領域ごとに多数の応答関数を求める必要がない。これにより作業性が向上する。また、用いる応答関数の数を少なくして信号復元演算における演算負荷を低減すると共に、評価速度を向上できる。
【0099】
更に、放射能強度演算部は、放射線検出部から出力される検出信号の計数から、測定対象とする深さ領域とは異なる深さ領域からの放射線からの計数を差し引く処理を行うものではなく、放射線検出部から出力される検出信号(パルス信号の計数)の全てを用いて各検出領域における放射能分布をそれぞれ復元する。このように波高分布における計数の全てを用いるため、放射線検出部の高い測定感度を確保でき、測定時間を短縮できる。これにより高効率で高精度の放射能強度分布評価が実現できる。
【0100】
また、放射線検出部は、外部からの自然放射線が遮蔽あるいは減衰される測定対象物の内部において放射線測定を行う。これにより、放射性物質の放射線の検出を行う際において、外部から飛来する放射線の影響を低減でき、測定精度を向上できる。また、自然放射線を遮蔽するための遮蔽体が不要となり、小型化および軽量化を図れる。
また、放射線検出部が測定対象物の内部において放射線を検出するため、測定対象物の表面から内部の深い位置にある領域からの放射線を検出可能である。これにより、測定対象物の厚みに依らず、深さ方向の放射能強度分布評価を行える。
【0101】
また従来のようにボーリングにより測定対象物のサンプルを採取し、実験室に持ち帰り、前処理等を施して測定するものではなく、測定対象物がある現場にて直接放射能濃強度の測定ができるため、作業性が向上する。
【0102】
また、放射能強度演算部は、放射線検出部の深さ方向に対する放射能強度の分布として、各検出領域における放射能強度を演算する。このように、各検出領域における放射能強度を得ることで、深さ方向に対する放射性物質の分布を明確に把握できる。また、各検出領域における放射能強度が算出されるので、各検出領域における有効体積を用いて、精度よく単位体積毎の放射能濃度を算出できる。
【0103】
また、放射能強度演算部は、演算された各検出領域における放射性物質の放射能強度に基づいて、各深さ領域における放射性物質の放射能強度を演算する。
こうして、測定対象物を深さ方向に所望の数区分した各深さ領域ごとの放射能強度を演算でき、所望の精度の放射能強度分布評価を行える。
【0104】
また、放射能強度演算部は、検出位置ごとに、各検出領域における放射能強度をそれぞれ演算し、演算された検出位置ごとの各検出領域における放射能強度から、各検出領域における放射能強度の平均値を算出する。これにより、検出位置ごとに生じる各検出領域の放射能強度の測定誤差を低減でき、更に精度良い放射能強度分布評価が行える。
また、前記演算部は、演算された検出位置ごとの各検出領域における放射能強度から、各深さ領域における放射能強度の平均値を算出してもよい。この場合においても、検出位置ごとに生じる各検出領域の放射能強度の測定誤差を低減できる。
【0105】
さらに、放射線検出部の応答関数は、全ての検出領域の放射性物質からの放射線に対応するように構成される。放射線検出部から導出される波高分布は、測定対象の検出領域以外の放射線の影響を受けたものとなっているが、このように放射線検出部の応答関数を全ての検出領域からの放射性物質からの放射線に対応するように構成することで、信号復元演算において復元されたエネルギー分布から、放射線検出部の測定対象の検出領域以外の放射線の影響を分離できる。これにより、各検出領域における放射能強度を高精度に算出でき、高い信頼性が確保された放射能強度分布評価が行える。
【0106】
さらに、放射能強度演算部は、各検出領域におけるエネルギー分布Sを、各検出位置における放射線検出部の波高分布Mと、各検出領域に対応して構成された応答関数Kと、を用いて行列で表し、この行列に基づいて信号復元演算を行う。
このような構成とすることで、深さ方向に対する放射能分布を、逆行列を用いた簡便な解法を用いて算出できる。こうして、信号復元演算における演算量が増加する場合であっても、演算速度を確保できる。
【0107】
また、放射線検出器として、入射放射線のエネルギーに比例する波高を有するパルス信号を出力するNaI(Tl)シンチレーション検出器を用いてもよい。そして、波高分析部として、このパルス信号の波高ピーク値ごとの計数を示す波高分布Mを導出する多重波高分析器を用いてもよい。
このように、一般的に用いられているNaI(Tl)シンチレーション検出器、多重波高分析器を用いることができるため、低コスト化が可能になる。また、NaI(Tl)シンチレーション検出器は、Ge半導体検出器のような冷却器等による冷却が不要である。そのため、冷却器のメンテナンスが不要となり、装置の運用、保守管理を簡素化できる。
【0108】
更に、放射線検出器は、設定された所定の距離を設けて測定対象物に対向するように設置される。
信号復元演算を精度良く行うには、応答関数を算出する際において、放射線検出部と測定対象物との位置関係、その間にある物質の密度等が不変であることが望ましい。よって、測定対象物に対してドリル等により所定の径と深さの穴を空けることにより、放射線検出部と測定対象物との位置関係を設定された距離に固定する。これにより、放射線検出部と測定対象物との間の位置関係、およびその間にある空気の密度も変動が生じ難く、従って、不変と考えられる。このように本実施の形態の射能強度分布測定装置は、信号復元演算を適用し、解析する装置として好適である。
【0109】
実施の形態2.
以下、本願の実施の形態2を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。
図9は、実施の形態1による放射能強度分布測定装置200aの全体の概略構成を示すブロック図である。
実施の形態1に示した放射能強度分布測定装置100では、測定時に作業者が装置のそばで測定データを確認し、放射線検出部1の検出位置Aを調整していた。そこで本実施の形態では、省力化を図るため、放射能強度分布測定装置200a自身により、測定対象物の放射性物質の分布状態に合わせて検出位置Aを自動調整する。この検出位置Aの自動調整において放射能強度分布測定装置200aは、放射線検出部1の移動範囲Qを設定し、この設定された移動範囲Q内において、設定された検出間隔ごとに設けられた検出位置Aにおいて放射線検出を行う。
【0110】
放射線分析部220aは、実施の形態1に示した放射線分析部20に対して、演算部としての判定部228と、演算部としての変更部229とを更に備える。
以下、これら判定部228、変更部229による検出位置Aの自動調整について説明する。
先ず、放射能強度演算部23は、設定された第1検出間隔AH1ごとに設けられた複数の検出位置Aにおいて検出された放射線に基づき、実施の形態1と同様に、深さ方向Yに対する放射能強度Iを演算する。放射能強度演算部23は、この演算結果を判定部228に出力する。
【0111】
判定部228は、深さ方向Yに対する放射能強度Iの演算結果に基づき、第1検出間隔AH1の変更要否を判定する。例えば、判定部228は、ある深さの深さ領域Dの放射能強度Iが第1所定値TH1を超えて高いことを検知すると、その深さ領域D付近において、より精度の高い放射能強度分布評価のために第1検出間隔AH1の変更が要であると判定する。この場合、判定部228は、放射能強度Iが高い深さ領域D付近においてのみ放射線検出部1を移動させるための、放射線検出部1の移動範囲Qの設定指示と、第1検出間隔AH1の調整指示と、を変更部229に対して与える。
【0112】
変更部229は、判定部228からの指示に従い、第1所定値TH1以上の放射能強度Iを有する深さ領域Dを移動中心とした、放射線検出部1の移動範囲Qを設定する。更に、変更部229は、この第1検出間隔AH1を短く調整した第2検出間隔AH2を設定する。
そして放射線検出部1は、設定された移動範囲Q内において、設定された第2検出間隔AH2ごとにその固定位置をずらしながら放射線を測定する。
【0113】
例えば、
図9に示す様に、コンクリート片Tの穴T1内において、穴T1の底部側Y1の放射能強度Iが高い場合、放射線検出部1は、穴T1の底部側Y1に設定された移動範囲Q内において、短い検出間隔の第2検出間隔AH2ごとに放射線の検出を行う。これにより、放射能強度Iが高い深さ領域Dにおいて高精度な放射線分布評価を行える。
【0114】
なお、上記では、放射線検出部1は、第1検出間隔AH1で深さ方向Yに対する放射能強度Iを求めた後は、放射線検出部1は、放射能強度Iが高い深さ領域D付近に設定された移動範囲Q内においてのみ移動し、移動範囲Q外においては移動しない例を示した。
しかしながらこれに限定するものではなく、放射線検出部1は、第1検出間隔AH1で深さ方向Yに対する放射能強度Iを求めた後に、移動範囲Q外においても移動して放射線検出を行ってもよい。この場合、移動範囲Q内においてのみ短い検出間隔の第2検出間隔AH2で放射線検出を行い、移動範囲Q外においては長い検出間隔の第1検出間隔AH1にて放射線検出を行うとよい。
【0115】
また、上記では、第2検出間隔AH2は第1検出間隔AH1よりも短く構成されたものを示したが、これに限定するものではない。例えば、放射性物質50の放射能強度Iが設定された下限の所定値よりも低く、大まかな評価で良い場合等では、第2検出間隔AH2は第1検出間隔AH1よりも大きく設定されてもよい。
【0116】
次に、上記に示した放射能強度分布測定装置200aとは異なる構成の放射能強度分布測定装置200bについて説明する。
放射能強度分布測定装置200bは、放射性物質50から放出されたベータ線を用いて、第1検出間隔AH1の変更要否の判定と、放射線検出部1の移動範囲Qの設定とを行う。そしてその後に、放射性物質50から放出されたガンマ線を用いて、放射性物質50の核種を弁別すると共に、弁別された該放射性物質50の放射能強度を演算する。
以下、この放射能強度分布測定装置200bの放射線分布評価の詳細を説明する。
【0117】
放射能強度分布測定装置200bは、ガンマ線検出用の放射線検出部1に加えて、更に、ベータ線検出用の放射線検出部1βを備える。
また放射線分析部220bは、
図9に示した放射線分析部220bに対して、更に、ベータ線波形整形部221aと、演算部としてのベータ線測定部221bとを備える。
【0118】
放射線検出部1βは、放射線検出部1と同様に、深さ方向Yに対して検出間隔AHごとに、コンクリート片Tに含まれた放射性物質50から放出されるベータ線を検出する。そして放射線検出部1βは、入射放射線に応じた検出信号をベータ線波形整形部221aに対して出力する。
【0119】
ベータ線波形整形部221aは、入力された検出信号の増幅および波形の整形を行い、ベータ線測定部221bに対して出力する。ベータ線測定部221bは、入力された検出信号に基づいて深さ方向Yに対する放射能強度Iを演算する。演算された深さ方向Yに対するベータ線の放射能強度Iは、判定部228に対して出力される。
【0120】
判定部228は、深さ方向Yに対するベータ線の放射能強度Iの演算結果に基づき、第1検出間隔AH1の変更要否を判定する。判定部228は、ある深さの深さ領域Dのベータ線の放射能強度Iが、ベータ線用の第1所定値TH1を超えて高い場合は、第1検出間隔AH1の変更が要であると判定する。そして判定部228は、第1検出間隔AH1を調整する変更指示と、放射線検出部1の深さ方向Yに対する移動範囲Qの設定指示とを、変更部229に対して与える。
なお、放射性物質50の放射能強度Iが設定されたベータ線用の下限の所定値よりも低く、大まかな評価で良い場合等では、第2検出間隔AH2は第1検出間隔AH1よりも大きく設定されてもよい。
【0121】
変更部229は、判定部228からの指示に従い、第2検出間隔AH2を設定するとともに、移動範囲Qを設定する。
そして放射線検出部1および放射線検出部1βは、設定された移動範囲Q内において、設定された第2検出間隔AH2ごとに設けられた検出位置Aにおいてその固定位置をずらしながら放射線を測定する。
【0122】
ベータ線は飛程が短く、測定対象内において自己吸収等が発生するため、ベータ線用検出素子である放射線検出部1βは、固定された各検出位置A付近の放射性物質50からのベータ線のみを検出する。ゆえにベータ線用検出素子である放射線検出部1βにてベータ線を測定すれば、各深さ領域Dにおける放射能強度Iの大小を判断できる。
このように、ベータ線用検出素子である放射線検出部1βと、ガンマ線用検出素子である放射線検出部1とを組み合わせて使用することによって、放射能強度Iの高い深さ領域Dの判別にはベータ線を用い、放射線核種の弁別についてはガンマ線を用いることができる。
【0123】
上記のように構成された本実施の形態の放射能強度分布測定装置によると、実施の形態1と同様の効果を奏し、放射能強度演算部は、測定対象物の内部において、放射線検出部の深さ方向に対する放射性核種の同定を精度良く実施し、同定された放射性核種毎の上記配列方向に対する放射性物質の放射能強度の分布を精度良く求めることができる。
【0124】
さらに、判定部および変更部は、第1検出間隔ごとに検出された放射線に基づき演算された、深さ方向Yに対する放射能強度に基づいて、第1検出間隔を調整した第2検出間隔を設定する。
これにより、例えば、放射能強度が高い深さ領域付近においては検出間隔を小さくした放射線検出を行い、放射能強度が低い深さ領域においては検出間隔を大きくした放射線検出を自動で行える。こうして、放射線検出に要する時間を短縮しつつ、測定対象物の放射性物質の分布状態に合わせた放射能強度分布評価を行える。
また、作業者が不要となることから、測定作業者の省力化が実現できる。
【0125】
さらに、判定部および変更部は、深さ方向に対する放射能強度に基づいて、放射線検出部の深さ方向に対する移動範囲を設定してもよい。
例えば、放射能強度が高いと判定された深さ領域付近のみで放射線検出を行い、放射線強度が低いと判定された深さ領域では放射線検出を行わないことで、放射線検出に要する時間を短縮しつつ、測定対象物の放射能強度の分布状態に合わせた放射能強度分布評価が可能となる。
また、判定部および変更部が、放射能強度が第1所定値以上の深さ領域を移動中心として移動範囲を設定することで、確実に放射能強度が高い領域付近における放射能強度分布評価を行える。
【0126】
さらに、ベータ線測定用の放射線検出部を備えて、深さ方向に対する放射線強度をベータ線を用いて評価し、そして、放射線検出部が放射線検出を行う移動範囲を、この深さ方向に対するベータ線の放射能強度に基づいて設定してもよい。通常、ベータ線の放射能強度の演算には信号復元演算を用いないため、深さ方向に対する放射能強度の大小の判定に関する演算負荷を低減でき、評価に要する時間を短縮できる。
【0127】
実施の形態3.
以下、本願の実施の形態3を、上記実施の形態3と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。
図11は、実施の形態3による放射能強度分布測定装置300の全体の概略構成を示すブロック図である。
【0128】
本実施の形態では、放射線分析部320は、実施の形態1に示した放射線分析部20に対して、更に、演算部としての出力変動検出部325と、演算部としての補償係数計算部327とを備える。
より高精度な放射性物質の放射線分析を実現するためには、放射線検出部1における実測の波高分布Mと応答関数データベース24に格納している放射線検出部1における応答関数Kとの差異とを可能な限り小さくする必要がある。
放射線検出部1は、一般的に温度特性を持っている。このため、放射線検出部1は、設置場所の気温の影響を受け、出力に変動が生じる。また、放射線検出部1は、経年劣化の影響を受け、長期間の使用後、出力に変動が生じる場合がある。このように放射線検出部1の出力に変動が生じた場合、実測の波高分布Mと、応答関数データベース24に格納している応答関数Kとの間に差異が生じるようになり、測定精度に影響を及ぼす可能性がある。
【0129】
上記のような放射線検出部1の出力の変動は、波高分析部22で求められた放射線検出部1に対する波高分布Mのエネルギーの分布位置の変動、即ち、エネルギーピーク位置のずれにて判断できる。そこで、出力変動検出部325にて、波高分布Mにおける特徴的なピーク、例えばカリウム40等から放射される放射線のピークにおけるエネルギー値(第1エネルギー値)を、所定の測定環境においてモニタリングし、基準ピーク位置P0として記録する。ここで、所定の測定環境とは、例えば、基準となる気温、あるいは、放射線検出部1の性能が劣化していない使用状態等の、測定の基準となる環境、状態をいう。
【0130】
そして、出力変動検出部325は、この基準ピーク位置P0が記録された後においてモニタリングされたカリウム40のピークにおけるエネルギー値(第1エネルギー値)を、測定ピーク位置P1として記録する。
そして、出力変動検出部325は、基準ピーク位置P0と測定ピーク位置P1とから、放射線検出部1の出力の変動量を検知する。出力変動検出部325は、本来あるべきピーク位置からずれを検知した場合、本来あるべき基準ピーク位置P0の情報と現在の測定ピーク位置P1の情報とを補償係数計算部327へ入力する。補償係数計算部327は、補償係数Zを、ピーク位置比(変動量)P0/P1の関数として、以下数式(7)で算出する。
【0132】
なお、波高分析部22のチャンネルと測定放射線のエネルギーの関係が一次関数であり、その直線性が良く、誤差が極めて小さい場合は、上記数式(7)を、補償係数Z=P0/P1としても支障はない。
【0133】
補償係数計算部327により算出された補償係数Zは、波高分析部22に入力される。 そして、波高分析部22は、AD変換したパルス信号Gの計数の各ピーク位置のエネルギー値にそれぞれ補償係数Zを乗じることにより、波高分布Mの分布位置を調整して、波高分布Mの形状を本来の形状に補償する。
【0134】
上記のように構成された本実施の形態の放射能強度分布測定装置によると、実施の形態1と同様の効果を奏し、放射能強度演算部は、測定対象物の内部において、深さ方向に対する放射性核種の同定を精度良く実施し、同定された放射性核種毎の深さ方向に対する放射性物質の放射能強度の分布を精度良く求めることができる。
更に、補償係数計算部により波高分布における分布位置を調整する補償係数を算出し、この補償係数に従って、波高分析部が波高分布の分布位置を自動調整する。これにより、放射能強度分布測定装置が有する機器の使用状態、周辺の環境状態に依存せず、高精度な放射線分析を維持できる。
また、波高分布の分布位置の変動の補償を、波高分布のピーク位置に対して補償係数を直接乗算することにより行うため、波高分布の分布位置の調整精度を向上できる。
【0135】
更に、出力変動検出部は、測定対象の放射性物質のセシウム−137以外の放射性物質からの放射線の特徴的なピークの位置(第1エネルギー値)を基準ピーク位置P0として記録する。即ち、出力変動検出部は、放射性物質取扱施設の事故等により拡散されるセシウム−137以外の、例えばカリウム40等の自然界に元来存在しており、また、その絶対量が多い放射性物質を基準とするため、セシウム−137の検出有無によらず、安定した基準ピーク位置P0を設定できる。
なお、セシウム−137以外の特徴的なピークの決定条件としては、例えば、エネルギー値が既知であり、且つ、パルス信号Gがカウントされた計数が、設定された第2所定値を越えたものを特徴的なピークとするものでもよい。
【0136】
なお、出力変動検出部325と、補償係数計算部327は、実施の形態2に示した放射能強度分布測定装置200a、200bに備えてもよい。
【0137】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。