特許第6987089号(P6987089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987089
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】高所作業方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 3/24 20060101AFI20211213BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20211213BHJP
   E04G 21/32 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   E04G3/24 302Z
   A62B35/00 H
   E04G21/32 B
   E04G21/32 D
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-42280(P2019-42280)
(22)【出願日】2019年3月8日
(65)【公開番号】特開2020-56289(P2020-56289A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2020年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2018-181969(P2018-181969)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509139313
【氏名又は名称】MOGコンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】森石 登
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−066054(JP,A)
【文献】 特開昭59−142872(JP,A)
【文献】 特開昭63−177875(JP,A)
【文献】 特開平09−041656(JP,A)
【文献】 特開2018−093914(JP,A)
【文献】 特開平07−076913(JP,A)
【文献】 米国特許第04674596(US,A)
【文献】 中国実用新案第206289999(CN,U)
【文献】 特開2002−152933(JP,A)
【文献】 実公平07−024529(JP,Y2)
【文献】 特開昭50−090196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 3/24
A62B 35/00
E04G 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の高所作業を行うための高所作業方法であって、
ロープネットを前記構造物の外面の作業対象領域に張る工程と、
作業者が前記ロープネットに支持されながら前記作業対象領域で高所作業を行う工程と、を備え、
前記ロープネットを前記作業対象領域に張る工程は、ウインチを用いて前記ロープネットを昇降させて、前記ロープネットを前記作業対象領域に配する工程であることを特徴とする高所作業方法。
【請求項2】
前記ロープネットは、一枚のロープネットを折り、または二枚のロープネット片を重ね、閉じた底辺を有する請求項1に記載の高所作業方法。
【請求項3】
前記ロープネットを前記作業対象領域に張る工程は、前記ロープネットにワイヤを接続し、前記ワイヤに接続された前記ウインチを用いて前記ロープネットを昇降させて前記作業対象領域にロープネットを配する工程である請求項1または2に記載の高所作業方法。
【請求項4】
前記ロープネットを前記作業対象領域に張る工程は、ロープネットを左右方向に移動させる工程を含む請求項1〜3の何れか1項に記載の高所作業方法。
【請求項5】
前記ロープネットと前記外面との間に、前記作業者が作業をするための空間を確保するためのスペーサが配されている請求項1〜4の何れか1項に記載の高所作業方法。
【請求項6】
前記作業者には自らの身体に固定された安全帯の掛け替え用のランヤードの一端が固定されており、前記作業者は前記掛け替え用のランヤードの他の一端をロープネットに固定した状態で移動または作業を行う請求項1〜5の何れか1項に記載の高所作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル等の建造物や岩盤等の構造物の高所における作業を容易にするための高所作業方法及びそれに用いられる高所作業用ロープネット製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルやマンション,橋梁、高架道路や高架鉄道等の建造物の老朽化による事故や劣化を防ぐために、建造物の表面を点検したり、補修したりすることが求められることがある。老朽化による事故や劣化としては、例えば、ビルやマンションの外壁のタイルが老朽化することにより落下することや、橋梁や高架道路の裏面が劣化してコンクリートにヒビや亀裂が生じることにより強度が低下したりすること、等が挙げられる。
【0003】
建造物の高所は足場を組んで建造されるが、完成後の足場は撤去される。そのために、完成後に長年の使用期間を経て、建造物の高所の外面を点検、補修しようとした場合、その表面に直接アクセスすることが困難になり、点検においては、遠所からの目視で済ませたりすることも多かった。このような遠所からの目視では、点検の精度が不十分であることが多く、また、補修することはできなかった。
【0004】
また、別の方法としては、地面から足場を再度組み立て、組み上げられた足場に作業者が上って建造物の高所に近づいて作業するような方法も行われていた。しかし、足場を再度組み立てることはコスト負担が大きく、また、建造物の高さによっては、足場を再度組み立てられないこともあった。
【0005】
このような問題を解決するために、種々の手段が提案されている。例えば、下記特許文献1は、竿と、竿に固定された空気より軽い気体を充填された気球と、を備える橋梁下面作業用竿を準備する工程と、橋梁下面作業用竿に沿って第一の線状体を配する工程と、橋梁下面作業用竿を橋梁の第一の路側部から橋梁の下方向に水平姿勢を保持させながら下降させる工程と、下降させた後、第一の線状体を配された橋梁下面作業用竿の一端を支持しながら他の一端を回動させて橋梁の第二の路側部の方向に該他の一端を移動させる工程と、第二の路側部から第一の線状体の一端を受け取る工程と、を備える橋梁下面作業方法を開示する。また、特許文献1は、このような方法によれば、人が立ち入れない高さの峡谷にかけられた橋のように下面の位置が高すぎたり、地面の状況がわるいために下面の下に足場を組めなかったりするような橋梁であっても、橋梁の幅方向にロープ等の線状体を渡すことができ、そのロープを用いて橋梁の裏面に直接アクセスすることができることを開示する。
【0006】
また、下記非特許文献1は、SRT(シングルロープテクニック)と呼ばれる、竪穴洞くつ探検のために考案された技術をルーツとする、一本のメインロープに支えられた作業者が建造物の人が直接アクセスしにくい箇所にアクセスする、ロープアクセス技術と呼ばれる手段を開示する。下記非特許文献1は、このようなロープアクセス技術によれば、一本のメインロープに支えられた訓練された作業者がその技量を用いて、人が直接アクセスしにくい建造物や岩盤等の難所・高所に、左右方向や水平方向も組み合わせた複雑な移動を安全・迅速・的確に行いながらアクセスすることができる、橋梁点検や高層建造物や岩壁・急峻斜面・法面などの調査・点検に適した高所作業方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6189560号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ロープアクセス技術協会のウェブサイト"https://www.rope-access-association.org/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示されたロープアクセス技術は、高度な訓練を受けた作業者自身が高所・難所にアクセスして近接目視・直接観察する手段として活用されている。しかし、このような技術を用いる場合には、作業者は高度な訓練を受けて技能を習得しなければならなかった。そのために、一般的な作業者に容易に共有される技術ではなかった。
【0010】
本発明は、高度な訓練を受けて技能を習得する必要がなく、通常の作業者が簡単な訓練を受けた後、容易に、建造物や岩盤の高所において、上下方向や左右方向に移動しながら作業するための高所作業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面は、構造物の高所作業を行うための高所作業方法であって、ロープネットを構造物の外面の作業対象領域に張る工程と、作業者がロープネットに支持されながら作業対象領域で高所作業を行う工程と、を備え、ロープネットを作業対象領域に張る工程は、ウインチを用いてロープネットを昇降させて、ロープネットを作業対象領域に配する工程である高所作業方法である。このような高所作業方法によれば、構造物の外面の作業対象領域に張られた2次元的な広がりを有するロープネットに作業者が支えられながら、構造物の高所において、ロープネットを上下方向や左右方向に移動させながら、または、ロープネットに支えられた作業者自らがロープネット内を上下方向や左右方向に移動することにより、容易に高所作業を行うことができる。また、このような高所作業方法は、作業者に高度な技術の習得を要求せず、作業者に簡単な訓練を受けさせるだけで高所作業の技術を習得させることができる。また、ロープネットを作業対象領域に張る工程が、ウインチを用いてロープネットを昇降させて、ロープネットを作業対象領域に配する工程であることにより、ロープネットを所定の領域に容易に張ることができる。
【0012】
また、ロープネットは、一枚のロープネット片を折り、または二枚のロープネット片を重ね、閉じた底辺を有することが、作業者が、底辺が閉じられたロープネット内の空間で作業することにより、作業者の墜落の危険性を低減できる点から好ましい。
【0013】
また、ロープネットを作業対象領域に張る工程は、ロープネットの上辺にワイヤを接続し、ワイヤを介してロープネットを昇降させて作業対象領域にロープネットを配する工程を含むことが、ロープネットを所定の領域に張りやすい点から好ましい。
【0014】
また、ワイヤを介してロープネットを昇降させて作業対象領域にロープネットを配する工程は、ワイヤを巻き上げるまたは巻き下げるウインチを用いて行うことが、作業性に優れる点から好ましい。
【0015】
また、ロープネットを作業対象領域に張る工程は、ロープネットを左右方向に移動させる工程を含むことが、ロープネットを目的とする領域にさらに張りやすくなる点から好ましい。
【0016】
また、ロープネットに作業者が作業をするための空間を確保するためのスペーサが配されている場合には、ロープネットと構造物の外面との間にスペーサにより形成される空間が作業者の移動性や作業性を向上させる点から好ましい。
【0017】
また、ロープネットの一端に、構造物またはその周囲に一端を固定するための固定具が接続されていることが、ロープネットを構造物の高所に簡便に固定することができる点から好ましい。
【0018】
また、作業者には自らの身体に固定された安全帯の掛け替え用のランヤードの一端が固定されており、作業者は掛け替え用のランヤードの他の一端をロープネットに固定した状態で移動または作業を行うことが、墜落防止の安全性が担保される点から好ましい。
【0019】
また、安全帯は、少なくとも3本の掛け替え用のランヤードを備えることが、墜落防止の安全性が担保される点から好ましい。
【0020】
また、本発明の他の一局面は、構造物の高所作業を行うために用いられ、ロープネットと、ロープネットの一端(一辺)に接続された、構造物またはその周囲に一端を固定するための固定具とを備える高所作業用ロープネット製品である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、構造物の高所において、作業者が上下方向や左右方向に移動しながら、容易に点検作業や補修作業等の高所作業を行うことができる。また、このような高所作業方法は、高度な特殊技術の習得を要求されず、簡単な訓練を受けるだけで、作業者が高所作業の技術を習得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1実施形態の高所作業方法に用いられるロープネット製品を説明するための模式図である。
図2図2は、第1実施形態のロープネット製品の一端を建造物に固定した様子を説明する説明図である。
図3図3は、第1実施形態のロープネット製品の一端を建造物に固定する方法を説明する説明図である。
図4図4は、掛け替え用のランヤードを備える安全帯を装着した作業者を説明するための説明図である。
図5図5は、作業者がロープネット製品に安全帯の掛け替え用のランヤードを架け替えながら2次元的に広がるロープネット内を移動している様子を説明する説明図である。
図6図6は、高所作業方法の作業中の様子を説明するための説明図である。
図7図7は、第2実施形態の高所作業方法に用いられるロープネット製品を説明するための部分透過斜視模式図である。
図8図8は、第2実施形態の高所作業方法に用いられるロープネット製品を説明するための部分透過斜視模式図である。
図9図9は、第2実施形態の高所作業方法に用いられるロープネット製品の一端を建造物に固定した様子を説明する説明図である。
図10図10は、第2実施形態の高所作業方法による高所作業の様子を説明するための説明図である。
図11図11は、第3実施形態の高所作業方法による高所作業の様子を説明するための説明図である。
図12図12は、高所作業の例として、橋脚の壁面で作業する様子を説明するための説明図である。
図13図13は、高所作業の例として、ダムの壁面で作業する様子を説明するための説明図である。
図14図14は、高所作業の例として、家屋の屋根で作業する様子を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る高所作業方法は、ビル等の建造物や岩盤等の構造物の高所作業を行うための高所作業方法であって、 ロープネットを構造物の外面の作業対象領域に張る工程と、作業者がロープネットに支持されながら作業対象領域で高所作業を行う工程と、を備える。以下、図面を参照して本発明に係る高所作業方法の実施形態を詳しく説明する。
【0024】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の高所作業方法に用いられるロープネット製品10を説明するための模式図である。ロープネット製品10は、複数のロープ1aを縦方向及び横方向に均等な間隔で配置し、各ロープ1aのそれぞれの交差点1bを固定して形成される2次元的な広がりを有するロープネット1を含むロープ製品である。交差点1bの固定はロープ同士に結び目を形成したり、ロープの交差部を固定するための部材を用いたりしてもよく、固定方法は特に限定されない。また、ロープネットのネット構造は、ロープネット1に示すような正方形や長方形の格子状の他、ひし形、丸形等の格子状等、とくに限定されない。これらの中では、正方形や長方形の格子状のネット構造を有するロープネットが、作業者が足を掛けて移動しやすい点から好ましい。
【0025】
ここでロープネットとは、1次元的に上下方向にしか移動できない縄梯子のような構造ではなく、作業者が2次元的に上下方向及び左右方向に移動できるように、ネット単位構造が面状に繰り返されて形成された構造を有するロープ製品を意味する。ロープネットのネット単位構造の中心間の間隔は特に限定されないが、一例としては、10〜40cm、さらには15〜30cmであることが、作業者が梯子を上るように上下方向及び左右方向に移動しやすい点から好ましい。
【0026】
ロープネット全体の形状は特に限定されないが、長方形、または正方形であることが、取扱い性に優れる点から好ましい。また、ロープネット全体のタテ(高さ)及びヨコ(幅)の長さも特に限定されず、構造物の作業対象領域の面積等に応じて、適宜選択される。一例としては、タテ3m以上、さらには5m以上、とくには10m以上であって、ヨコ1m以上、さらには2m以上であることが、2次元的な広がりが大きいために、作業者が上下方向及び左右方向に広範囲に移動しやすく、目的とする作業対象領域にアクセスしやすくなる点から好ましい。また、タテの長さの上限も構造物の高さに応じて適宜選択されるために特に限定されないが、例えば、構造物の高さが100mの場合には100m程度、300mの場合には300m程度であってもよい。また、ヨコの長さの上限も構造物の幅や作業領域の幅に応じて適宜選択されるために特に限定されないが、例えば10m、さらには6m程度であってもよい。
【0027】
図1に示すように、ロープネット製品10には、構造物に固定されるときに上側になる一端(一辺)を形成するロープ1cに、複数の固定具2が均等な間隔で接続されている。例えば、固定具2は、ロープネットランヤード(ストラップ)2aと、ロープネット側連結フック2bと、構造物側連結フック2cとを備える。ロープネットランヤード2aの一端にロープネット側連結フック2bが固定されており、ロープネットランヤード2aの他端に構造物側連結フック2cが固定されている。そして、ロープネット側連結フック2bはロープ1cに固定されている。
【0028】
図2は、第1実施形態のロープネット製品10の一端をビルである建造物Bの高所に固定した様子を説明する説明図である。建造物としては、例えば、5m程度の低層の建物であっても、30〜300mのビルやマンション等の高層建物であってもよい。
【0029】
第1実施形態の高所作業方法の実施においては、はじめに、図2に示すように、建造物Bの屋上15bである高所に、ロープネット1の一端を固定する。具体的には、例えば、建造物Bの屋上15bに予め固定された丸環部材3に、ロープネット1の一端に接続された複数の固定具2の建造物側連結フック2cを引っかけ、丸環部材3に構造物側連結フック2cを固定する。そして、構造物側連結フック2cを丸環部材3に固定した後、ロープネット1を2次元的な広がりを有するように建造物Bの作業を行う領域を含む外面(壁面)15aに沿って降ろしていき、垂らす。このようにして、ロープネット1を構造物Bの外面の作業対象領域に張る。なお、ロープネットを構造物の外面の作業対象領域に張るとは、構造物の外面にロープネットを広げた状態で配することである。また、ロープネットは一重張りに限られず、後述するようにロープネットが複数重なった複数張りであってもよい。
【0030】
このとき、図2に示すように、ロープネット1と建造物Bの作業を行う外面15aとの間に作業者が作業するための空間を確保するためのスペーサ5を配することが好ましい。スペーサの大きさや配置、数、材質等は特に限定されず、作業者の作業性や空間の保持性を考慮して適宜配される。スペーサ5により形成されるロープネット1と建造物Bの作業を行う外面15aとの間隔は特に限定されないが、20〜100cm、さらには、30〜80cm程度であることが好ましい。このようにロープネット1と建造物Bの作業を行う外面15aとの間にスペーサ5により形成される空間は、作業者の移動性や作業性を向上させる。
【0031】
なお、ロープネット1の一端を構造物に固定する方法や固定場所は、少なくとも一端を固定したロープネットを構造物の外面に2次元的な広がりを有するように張ることができ、ロープネットが落ちないように確実に固定できる限り、とくに限定されない。また、ロープネットが作業者による作業中の動作や、風等により揺れないように、ロープネット1は、より多くの点で固定されていることが安全性を確保できる点から好ましい。
【0032】
図3は、ロープネット1の一端を建造物Bに固定するいくつかの方法を例示する説明図である。例えば、図3(a)は、建造物Bの屋上15bに設置された塔屋15cの周囲にロープネット1に固定されたロープ12を複数回巻きつけた後、その付近に固定している様子を示す。また、例えば、図3(b)は、建造物Bの作業を行う領域を含む外面15aの反対面の壁面に形成されたフック15dにロープネット1に固定されたロープ12を図略の連結フックで固定している様子を示す。また、例えば、図3(c)は、ロープネット1に固定されたロープ12を建造物Bの作業を行う領域を含む外面15aの反対面の壁面を沿わせた後、さらに地面にまで降ろして地面に固定されたフック16に図略の連結フックで固定している様子を示す。ロープネットを固定する方法は作業者の重量によりロープネットが落下しない方法であれば特に限定されず、上述のように構造物に直接する固定する方法の他、アンカ等の錘の重量で固定する方法等であってもよい。
【0033】
図2に示したように、ロープネット1を2次元的な広がりを有するように垂らして張った後、作業者はロープネット1に支持されながら作業目的の場所に移動して所定の作業を行う。
【0034】
図4に示すように、作業者Pは、ベルト本体20aと、ベルト本体20aに固定された固定部21a,ランヤード部21b,連結具21cとを備える掛け替え用の安全帯ランヤード21とを備える安全帯20を装着している。図4に示した安全帯20には、掛け替え用の安全帯ランヤード21が設けられている。そして、3本の掛け替え用の安全帯ランヤード21の連結具21cをロープネット1の所定の部分に固定して、墜落防止の安全を確保した状態で移動を行う。作業者Pに装着される安全帯は、少なくとも3本の掛け替え用の安全帯ランヤード21を備える安全帯を用いることが、3点で体を支持することにより墜落防止の安全性が充分に担保される点から好ましい。
【0035】
図5は、ロープネット1に支持されながら作業者が作業目的の場所に自ら移動して所定の作業を行う工程を説明する説明図であり、(a)〜(c)の順に、移動していく様子を示している。なお、図5は建造物Bの内側から見たときの図である。
【0036】
作業者Pは、(a)〜(c)の順に、移動する場合に、ロープネット1の建造物Bの外面側において、ロープネット1の面内で安全帯20の掛け替え用の安全帯ランヤード21の連結具21cを固定する位置を徐々に移動して墜落しないように安全を確保しながら、徐々に移動する。具体的には、3本の安全帯ランヤード21のそれぞれの連結具21cのうち、一つをロープネット1に固定したまま、他の一つの連結具21cを下方に移動して固定する。そして、他の一つの連結具21cを下方に移動して固定する。そして、作業者Pが自らの手足を用いて、下方に移動する。このような作業を繰り返しながら所定の場所、例えば、(c)へ向かって移動する。
【0037】
そして、図6に示すように、目的とする作業位置に到達する。そして、目的とした作業位置で作業を開始する。作業としては、ビルの壁面のクラックの有無やタイルの接着状態等の壁面の劣化状態の近接目視観察、ビルの壁面の打音調査等の非破壊調査、ガラスの清浄状態の確認等が挙げられる。また、補修としては、ビルのクラックへのパテ埋め、タイルの交換作業、ガラスの清浄化、外壁剥離箇所の補修、外壁塗装、電気工事等が挙げられる。このようにして、第1実施形態のビルである建造物Bの高層部の所定の場所に、作業者が直接アクセスして各種作業を行うことができる。
【0038】
[第2実施形態]
第1実施形態の高所作業方法においては、建造物の屋上等に固定したロープネットを建造物の高所から建造物の外面の作業対象領域に垂らせて張る例について説明した。第2実施形態においては、建造物の屋上等に固定したワイヤでロープネットを吊り下げて、建造物の外面に張って上下方向に移動させたり、左右方向に移動させたりすることにより、建造物の外面での広い範囲の領域での作業を容易にする例について、図7図11を参照してさらに説明する。
【0039】
図7は、第2実施形態のロープネット製品30を説明するための部分透過斜視模式図である。図7中、31は閉じた底辺32を有するロープネット、31a及び31bはそれぞれ一重張りのロープネット片、32はロープネット31の底辺、32a,32b,32cは留め金具、33a,33bはワイヤ吊り下げ金具、34a,34bはワイヤ、35は側辺である。ロープネット片31aとロープネット片31bとは重ねられて、重なる底辺32をシャックル等の留め金具32a,32b,32cで固定されることにより、底辺32が閉じている。
【0040】
高所作業においては、作業者の高所に対する心理的な不安が大きい。とくに、作業場所が高いほど、作業者に恐怖心があって高所作業に大きな支障をきたす。このような場合において、ロープネット製品30のように、一重張りのロープネット片31aに他の一重張りのロープネット片31bを重ね、底辺32を留め金具で閉じて、閉じた底辺32を形成することにより、作業者が、例え、ロープによる支持を失ったとしても、そのまま墜落することなく、閉じられた底辺32に留まる。そのために、作業者の墜落が防止されるとともに、作業者に心理的な安心感を与えることができる。
【0041】
閉じられた底辺32は、作業者が墜落しないような留め具間の間隔にするために、例えば、10〜30cm程度の間隔毎に、留め金具32a,32b,32cを留めることが好ましい。また、ロープネット製品30では、閉じた底辺32を形成したロープネット製品30を説明したが、ロープネット製品30は、底辺だけではなく、側辺35も閉じられていることが好ましい。側辺35も閉じた場合には、作業者が側辺から墜落することも防止されるために、心理的な安心感を作業者により与えることができる。
【0042】
また、図8は、ロープネット製品30の変形例であるロープネット製品40を説明するための部分透過斜視模式図である。図8中、41は一重張りのロープネットであり、ロープネット製品40は一重張りのロープネット41を中央で二つ折りにすることにより、閉じた底辺42を有する。
【0043】
以下、図9及び図10を参照して、ロープネット製品30を用いた高所作業方法について詳しく説明する。図9は、ロープネット製品30の一端を建造物Bに固定した様子を側面から見たときの様子を説明する説明図である。また、図10は、ロープネット製品30を用いた高所作業の様子を建造物Bの正面から見たときの様子を説明する説明図である。
【0044】
図9及び図10中、P1,P2は作業者、36aはワイヤ34aを巻き上げまたは巻き下げる(巻き出す)ウインチ、36bはワイヤ34bを巻き上げまたは巻き下げるウインチである。このように、第2実施形態のロープネット製品30を用いた高所作業方法においては、建造物Bの屋上に、ロープネット31に接続されたワイヤ34a,34bを巻き上げまたは巻き下げするためのウインチ36a,36bを設置する。また、37a,37bは建造物BのパラペットCを支点として、てこの原理でウインチ36a,36bを力点として、ロープネット31を吊り下げる、例えば鋼材である長尺材である。長尺材37aには滑車w1〜w3が、長尺材37bには滑車w4〜w6が設置されている。ワイヤ34aの一端は、ウインチ36aのドラムに固定されており、滑車w1,w2,w3に掛けられてロープネット31の上辺に接続されている。同様に、ワイヤ34bの一端は、ウインチ36bのドラムに固定されており、滑車w4,w5,w6に掛けられてロープネット31の上辺に接続されている。ウインチ36a,36bの巻き上げ駆動または巻き下げ駆動により、ロープネット31は上昇または下降する。具体的には、ロープネット31は、2本のワイヤ34a,34bがウインチ36a,36bで巻き上げられたときには矢印のU方向で示すように上昇し、2本のワイヤ34a,34bがウインチ36a,36bから巻き下げられたときには矢印のD方向で示すように降下する。
【0045】
また、図9を参照すれば、ウインチ36a,36bはそれぞれ、矢印のL方向及びR方向に示すように水平方向に沿って設置されたスライド部材Sが設置されている。また、ウインチ36a,36bの底部には水平方向に沿って転動する複数のコロkが設けられている。スライド部材Sは、長尺材37a,37bを摺動可能に支持する長尺の摺動部材である。スライド部材Sとしては、例えば、案内溝を有する台座に長尺材37a,37bを固定し、台座の案内溝に嵌合するレールを有する摺動部材や、ベアリング機構を備えた摺動部材等が挙げられる。ウインチ36a,36bはスライド部材Sの摺動及びコロkの転動により、矢印のL方向またはR方向である水平方向に移動自在に設置されている。
【0046】
また、作業者P1,P2の身体にはそれぞれ図略の安全帯にワイヤ39a,39bが接続されている。また、建造物BのパラペットCには、衝撃を受けたときにワイヤの巻出しをロックする巻取り式安全帯ロックリールb1,b2が固定されている。作業者P1,P2に接続されたワイヤ39a,39bの他端は、それぞれ、巻取り式安全帯ロックリールb1,b2のドラムに巻かれて固定されている。作業者P1,P2が高所から落下したときに、巻取り式安全帯ロックリールb1,b2がワイヤ39a,39bの巻出しをロックすることにより、作業者P1,P2の墜落事故を防止する。
【0047】
ワイヤ34a,34bで作業者P1,P2を支持した状態のロープネット31を吊り下げたときに、ロープネット31が落下しないように、ウインチ36a,36bの総重量は、作業者とロープネットとの総重量よりも、充分に重いことが必要である。このようにロープネットの総重量が作業者とロープネットとの総重量よりも充分に重いことにより、ロープネットの落下を防止することができる。ウインチ36a,36bの総重量は、錘を付加することにより調整することができる。ウインチ36a,36bの総重量としては、長尺材37a,37bによる、てこの原理を考慮した場合、作業者とロープネットとの総重量に対して、3〜20倍、さらには、5〜15倍程度であることが好ましい。
【0048】
図9及び図10を参照すれば、ロープネット製品30を用いた高所作業方法においては、はじめに、作業対象領域の水平方向の位置を定めるために、ウインチ36a,36bを所定の位置に移動させ、その場所に据え付ける。そして、ウインチ36a,36bのドラムに巻き上げられたワイヤ34a,34bにロープネット31を連結する。そして、ロープネット31に接続されたワイヤ34a,34bを徐々に巻き下げて、ロープネット31のほぼ大半の領域を建造物Bの外面に垂らす。そして、このような状態で、ロープネット31の建造物Bの外面に垂れた部分に安全帯で墜落防止処置を確保した作業者P1,P2を配置する。作業者P1,P2は、ロープネット31の所定の位置までは、自らで移動する。
【0049】
そして、作業者P1,P2を配置した状態のロープネット31に接続されたワイヤ34a,34bをウインチ36a,36bから徐々に巻き下げて、ロープネット31を建造物Bの外面の所定の作業対象領域の高さに垂らせて張る。このようにして、ロープネット31は、ワイヤ34a,34bで吊り下げられて、建造物Bの外面の所定の作業対象領域の高さに垂らせて張られる。なお、図9及び図10においては、ロープネット31は2本のワイヤ34a,34bで吊り下げられ。二人の作業者P1,P2がロープネット31に配されているが、作業者の人数やワイヤの本数は作業者の体重や人数等を考慮して、適宜、選択される。
【0050】
そして、目的とする作業位置に到達した作業者P1,P2は、所定の作業対象領域で作業を開始する。
【0051】
[第3実施形態]
第2実施形態の高所作業方法においては、ロープネットに接続されたワイヤを巻き上げまたは巻き下げするためのウインチを建造物の屋上に設置することにより、ロープネットをワイヤで吊り下げて張って、建造物の外面に沿って上下方向に移動させたり、左右方向に移動させたりすることにより、建造物の外面での広い範囲の領域での作業を容易にする例について説明した。第3実施形態においては、ワイヤを巻き上げまたは巻き下げするためのウインチを建造物の地面または地面に近い低層に設置し、ワイヤでロープネットを建造物の外面に沿って上下方向に移動させたり、左右方向に移動させたりすることにより、建造物の外面での広い範囲の領域での作業を容易にする例について、図11を参照して説明する。
【0052】
図11は、第3実施形態のロープネット製品50を用いた高所作業方法について説明する説明図である。図11中、51は閉じた底辺を有するロープネット、52a及び52bはワイヤ固定金具、53はワイヤ、54は滑車、55a,55bは一方向に巻き上げる通常のウインチ、56は往復牽引エンドレスウィンチ、57a及び57bはガイドロープ、58a及び58bはガイドロープ固定具、59は環状フックである。また、Tはウインチ55a,55b、及び往復牽引エンドレスウィンチ56を積載する車両である。
【0053】
また、図11において、紙面左方には、ウインチ55bからガイドロープ固定具58bにガイドロープ57bが渡されて固定されており、紙面右方には、ウインチ55aからガイドロープ固定具58aにガイドロープ57aが渡されて固定されている。ガイドロープ57aとガイドロープ57bとの間隔は、ロープネット51の幅に略一致する。
【0054】
そして、ロープネット51の底辺及び上辺の中央にはそれぞれワイヤ固定金具52a,52bが固定されている。ワイヤ固定金具52a,52bには、それぞれワイヤ53の各端が結合されている。そして、ロープネット51とワイヤ53とは環を形成している。すなわち、ロープネット51の底辺のワイヤ固定金具52aにワイヤ53の始端が結合されており、ワイヤ53は往復牽引エンドレスウィンチ56のドラムの溝に巻かれた後、建造物Bの屋上に配された滑車54を通過し、ロープネット51の上辺のワイヤ固定金具52bにワイヤ53の終端が結合されて、環が形成されている。また、ロープネット51の2つの側辺の破線円で囲む部分のそれぞれには、環状フック59(59a,59b,59c,59d)が固定されている。そして、ロープネット51の紙面左方の環状フック59a,59cはガイドロープ57bを貫通させており、ロープネット51の紙面右方の環状フック59b,59dはガイドロープ57aを貫通させている。各環状フック59はガイドロープ57aまたは57bに対して遊動する。ロープネット51は、ガイドロープ57aとガイドロープ57bとによって広げられている。
【0055】
図11を参照すれば、ロープネット製品50を用いた高所作業方法においては、はじめに、作業対象領域の水平方向の位置を定めるために、建造物Bの屋上で、作業対象領域の水平方向の位置に合わせてガイドロープ固定具58a,58bを固定する。そして、ガイドロープ固定具58a,58bにそれぞれ、ガイドロープ57aまたはガイドロープ57bを固定する。そして、建造物Bの屋上からガイドロープ57a及びガイドロープ57bは、ウインチ55a及びウインチ55bにそれぞれ届くまで垂らされる。そして、ガイドロープ57aをウインチ55aに、ガイドロープ57bをウインチ55bに巻きつけて、ガイドロープ57aまたはガイドロープ57bを張る。
【0056】
一方、屋上において、ロープネット51の上辺のワイヤ固定金具52bにワイヤ53の一端を連結し、ガイドロープ57a及びガイドロープ57bに、ロープネット51の各環状フック59を挿通させ、滑車54にワイヤ53を掛けまわし、ロープネット51を徐々に下降させる。そして、ロープネット51の底辺が往復牽引エンドレスウィンチ56に届くまで降ろされた後、滑車54を経て降ろされたワイヤ53を往復牽引エンドレスウィンチ56に巻いた後、ワイヤ53の他端をロープネット51の底辺のワイヤ固定金具52aに連結する。このようにして、そして、ロープネット51とワイヤ53とを環状に連結する。
【0057】
上述のようにして、図11に示すように、ロープネット製品50を建造物Bに設置する。このようなロープネット製品50においては、往復牽引エンドレスウィンチ56のドラムを紙面時計回りに回転駆動させることにより、ロープネット51は矢印D方向に示す地面方向に下降する。また、往復牽引エンドレスウィンチ56のドラムを紙面反時計回りに回転駆動させることにより、ロープネット51は矢印U方向の屋上方向に上昇する。
【0058】
そして、建造物Bの外面に設置されたロープネット51を往復牽引エンドレスウィンチ56を駆動させることにより屋上側または地面側に配置する。そして、屋上側または地面側から、安全帯で墜落防止処置を確保した作業者P1,P2を配置する。作業者P1,P2は、ロープネット51の所定の位置までは、自らで移動する。
【0059】
そして、作業者P1,P2を配置した状態のロープネット51に接続したワイヤ53を往復牽引エンドレスウィンチ56を駆動することにより、ロープネット51を建造物Bの外面の所定の作業対象領域の高さに配する。このようにして、ロープネット51は、建造物Bの外面の所定の作業対象領域の高さに垂らせて配される。なお、車両Tの移動及びガイドロープ57a及びガイドロープ57bの設置位置を変更することにより、作業対象領域を水平方向に移動することができる。
【0060】
以上、第1実施形態〜第3実施形態において、ビルである建造物Bにおいて、高所作業を行う場合の高所作業方法について詳しく説明した。本発明に係る高所作業方法は、上述したビルに限られず、マンション,橋梁,ダム,家屋,高架道路や高架鉄道等の建造物や、岩盤等の自然構造物等、高所から2次元的な広がりを有するロープネットを垂らすことができる構造物であれば、特に限定なく適用することができる。
【0061】
例えば、図12は、第1実施形態の高所作業方法の用途の例として、橋脚Rの壁面にロープネット製品10をセットし、作業者Pが作業する様子を説明するための説明図である。また、図13は、第1実施形態の高所作業方法の例として、ダムDmの壁面にロープネット製品10をセットし、作業者Pが作業する様子を説明するための説明図である。さらに、図14は、第1実施形態の高所作業方法の例として、家屋Hの壁面にロープネット製品10をセットし、作業者Pが作業する様子を説明するための説明図である。このように、本発明に係る高所作業方法は、構造物であれば、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,31,41,51 ロープネット
2 固定具
2a ロープネットランヤード(ストラップ)
2b ロープネット側連結フック
2c 構造物側連結フック
5 スペーサ
10,30,40,50 ロープネット製品
15a 外面
20 安全帯
20a ベルト本体
21 安全帯ランヤード
21b ランヤード部
21c 連結具
31a,31b ロープネット片
32,42 底辺
34a,34b 39a,39b,53 ワイヤ
36a,36b,55a,55b,56a ウインチ
P,P1,P2 作業者
R 橋脚
図1
図2
図3
図4
図5
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