【文献】
Robert G. Fassett et al.,Biomarkers in chronic kidney disease: a review,Kidney International,2011年,Vol.80,pp.806-821
【文献】
Sabine Gebauer et al.,Three-Dimensional Quantitative Structure-Activity Relationship Analyses of Peptide Substrates of the Mammalian H+/Peptide Cotransporter PEPT1,J. Med. Chem.,Vol.46, No.26,2003年,pp.5725-5734
【文献】
William L. Mock et al.,Specificity and pH Dependence for Acylproline Cleavage by Prolidase,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1990年,Vol.265, No.32,pp.19600-19605
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
定義
別段の指定がない限り、本明細書で使われる場合、下記用語は、以下の通り定義される。
【0036】
本発明の化合物は、塩の形で存在してもよい。任意の好適な有機または無機の塩が本発明に包含される。特定の実施形態では、本発明の化合物の塩は、非毒性の「薬学的に許容可能な塩」を意味する。「薬学的に許容可能な」という語句は、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題や合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触して用いるのに適しており、妥当なベネフィットリスク比に見合っている化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す語句として本明細書で用いられる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な塩」は、親化合物が酸または塩基塩を作製することにより変性されている開示化合物の誘導体を意味する。薬学的に許容可能な塩型は、薬学的に許容可能な酸性/アニオン性塩または塩基性/カチオン性塩を含む。薬学的に許容可能な塩の例には、限定されないが、アミンなどの塩基性残基の鉱物または有機酸塩;カルボン酸などの酸性残基のアルカリまたは有機塩;などが含まれる。
【0038】
例えば、このような塩としては、酢酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、ベジル酸塩、重炭酸塩、酒石酸水素塩、臭化物、カルシウムエデト酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エタンジスルホン酸塩、エストル酸塩、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレソルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、メシル酸塩、臭化メチル塩、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムコン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、フェニル酢酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロ酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、スルファミド塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオダイド塩、アンモニウム塩、ベンザチン塩、クロロプロカイン塩、コリン塩、ジエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩、メグルミン塩およびプロカイン塩が挙げられる。さらなる薬学的に許容可能な塩は、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛などの金属由来のカチオンと共に形成できる(Pharmaceutical salts,Birge,S.M.et al.,J.Pharm.Sci.,(1977),66,1−19も参照されたい)。
【0039】
本発明の薬学的に許容可能な塩は、塩基性または酸性部分を含む親化合物から通常の化学的手法により合成できる。一般に、このような塩は、遊離酸または塩基型のこれらの化合物を十分な量の適切な塩基または酸と、水中または、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、もしくはアセトニトリル、またはこれらの混合物などの有機希釈剤中で反応させて調製できる。
【0040】
前述の塩以外の他の酸の塩、例えば、本発明の化合物の精製または単離に有用なもの(例えば、トリフルオロ酢酸塩)も同様に本発明の一部を構成する。
【0041】
本発明の化合物は、異性体に特異的な合成により、または異性体混合物から分離することにより、個々の異性体として調製可能である。従来の分離技術には、光学的に活性な酸を用いて異性体対の各異性体の遊離塩基の塩を形成し(続いて分別結晶化および遊離塩基の再生を行い)、光学的に活性なアミンを用いて異性体対の各異性体の酸型の塩を形成し、(続いて分別結晶化および遊離酸の再生を行い)、光学的に純粋な酸、アミンまたはアルコールを用いて異性体対の各異性体のエステルまたはアミドを形成する(続いてクロマトグラフ分離およびキラル補助基の除去を行う)か、またはよく知られた種々のクロマトグラフ法を用いて出発材料または最終生成物の異性体混合物を分離することが含まれる。
【0042】
開示化合物の立体化学が構造により命名または示される場合、命名または示された立体異性体は、その他の立体異性体に比べて、少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、99重量%または99.9重量%の純度である。単一のエナンチオマーが構造により命名または示される場合、示されたまたは命名されたエナンチオマーは、少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、99重量%または99.9重量%の光学純度である。重量%光学純度は、エナンチオマーの重量+その光学異性体の重量に対するエナンチオマーの重量の比率である。
【0043】
立体化学を示すことなく、開示化合物が構造により命名または示され、その化合物が少なくとも1つのキラル中心を有する場合、名称または構造は、対応する光学異性体を含まない1つのエナンチオマー、化合物のラセミ混合物および対応する光学異性体に比べて1種のエナンチオマーが濃縮された混合物を包含することを理解されたい。
【0044】
立体化学を示すことなく、開示化合物が構造により命名または示され、少なくとも2つのキラル中心を有する場合、名称または構造は他のジアステレオマーを含まないジアステレオマー、他のジアステレオマー対を含まない1対のジアステレオマー、ジアステレオマーの混合物、ジアステレオマー対の混合物、他のジアステレオマー(単一または複数)に比べて1つのジアステレオマーが濃縮されたジアステレオマーの混合物および他のジアステレオマー対(単一または複数)に比べて1つのジアステレオマー対が濃縮されたジアステレオマー対の混合物を包含することを理解されたい。
【0045】
1つまたは複数の立体中心を有する化合物が、少なくとも1つの立体中心に対して特定の立体化学で示される場合、本発明はまた、対応する立体中心(単一または複数)に逆立体化学を有する化合物および対応する立体中心(単一または複数)に特定の立体化学を有さない化合物も含む。
【0046】
状態または疾患を「治療すること」は、その状態または疾患の少なくとも1つの症状を治癒ならびに回復させることを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、任意の動物を意味するが、好ましくは、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、非ヒト霊長類、ラット、マウス、雌ウシ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、またはウサギなどである。さらにより好ましくは、対象はヒトである。
【0048】
本明細書で使用される場合、「有効量」は、対象において目的の生物学的応答を誘発する活性な配合剤の量を意味する。このような応答には、治療される疾患または障害の症状の軽減が含まれる。このような治療方法での本発明の化合物の有効量は、約0.01mg/kg/日〜約1000mg/kg/日または約0.1mg/kg/日〜約100mg/kg/日である。
【0049】
本明細書で使用される場合、「糖尿病」は、インスリン分泌または作用、または両方の不足に起因する高血糖(グルコース)値を特徴とする一連の代謝疾患を意味する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「2型糖尿病」は、2つの主要な糖尿病の種類の内の1つで、膵臓のベータ細胞は、少なくともこの疾患の初期段階ではインスリンを産生するが、身体の細胞がインスリンの作用に対して抵抗性であるために、身体がそれを効果的に使用できない種類である。この疾患の後期では、ベータ細胞はインスリン産生を停止する場合がある。2型糖尿病はインスリン抵抗性糖尿病、インスリン非依存性糖尿病および成人発症型糖尿病としても知られる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」という用語は、第1の表現型を有する(例えば、疾患を有する)対象または対象群からの生物試料中に、第2の表現型を有する(例えば、疾患を有してない)対象または対象群からの生物試料と比較して、示差的に存在する(すなわち、増加または減少した)化合物、好ましくは、代謝物を意味する。バイオマーカーは、任意のレベルで示差的に存在し得るが、一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、もしくはそれ以上増加したレベルで存在するか、または一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは100%(すなわち、存在しない)減少したレベルで存在する。バイオマーカーは、好ましくは、統計的に有意なレベル(例えば、ウェルチのT検定またはウィルコクソンの順位和検定のいずれかを用いて決定したとき、0.05未満のp値および/または0.10未満のq値)で示差的に存在する。あるいは、バイオマーカーは、腎機能との相関を示す。可能な相関の範囲は、負(−)1と正(+)1との間である。負(−)1の結果は、完全な負の相関を意味し、正(+)1の結果は、完全な正の相関を意味し、0は相関が全くないことを意味する。「実質的に正の相関」は、障害または臨床的測定値(例えば、mGFR)と+0.25〜+1.0の相関を有するバイオマーカーを意味し、一方、「実質的に負の相関」は、所定の障害または臨床的測定値と−0.25〜−1.0の相関を有するバイオマーカーを意味する。「実質的に正の相関」は、所定の障害または臨床的測定値(例えば、mGFR)と+0.5〜+1.0の相関を有するバイオマーカーを意味し、一方、「実質的に負の相関」は、所定の障害または臨床的測定値と−0.5〜−1.0の障害の相関を有するバイオマーカーを意味する。
【0052】
本発明の化合物または1つまたは複数の追加のバイオマーカーの「レベル」とは、試料で測定されたバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度を意味する。
【0053】
「試料」または「生物試料」とは、対象から単離された生体物質を意味する。生物試料は、目的のバイオマーカーを検出するのに好適な任意の生体物質を含有し得、また、対象からの細胞および/または非細胞物質を含み得る。試料は、任意の好適な生体組織または体液、例えば、腎臓組織、血液、血漿、血清、尿、唾液、または脳脊髄液(CSF)などから単離可能である。生物試料は血液、血漿、血清、唾液または尿であるのが好ましい。別の好ましい実施形態では、生物試料は血清または血漿である。
【0054】
「基準レベル」とは、特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如、ならびに疾患状態、表現型、またはそれらの欠如の組合せを示す本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)のレベルを意味する。「基準レベル」は、本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の絶対的または相対的な量または濃度、本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の存在または不在、本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の量または濃度の範囲、本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の最小および/または最大の量または濃度、本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の平均の量または濃度、および/または本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)のメジアンの量または濃度であり得、さらに、本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の組合せの「基準レベル」もまた、2つ以上のバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度の相互に対する比であり得る。特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如に対する本発明の化合物または追加のバイオマーカー(単一または複数)の適切な基準レベルは、1体または複数の適切な対象中の本発明の化合物または目的のバイオマーカーのレベルを測定することにより決定され得、また、そのような基準レベルは、特定の対象集団に合わせて調整され得る(例えば、特定の年齢の対象由来の試料中のバイオマーカーレベルと、特定の年齢群の特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如に対する基準レベルと、の間で比較が行えるように、基準レベルは、年齢を一致させ得る)。「陽性」基準レベルとは、特定の疾患状態または表現型を示すレベルを意味する。「陰性」基準レベルとは、特定の疾患状態または表現型の欠如を示すレベルを意味する。例えば、「CKD陽性基準レベル」とは、対象においてCKDの陽性診断を示す本発明の化合物または追加のバイオマーカーのレベルを意味し、「CKD陰性基準レベル」とは、対象においてCKDの陰性診断(すなわち、正常腎機能、CKDの不在)を示す本発明の化合物または追加のバイオマーカーのレベルを意味する。同様に、「腎機能基準レベル」とは、対象に存在する腎機能の程度を示すものであり得る。例えば、「正常腎機能基準レベル」とは、対象において正常腎機能を示す本発明の化合物または追加のバイオマーカーのレベルを意味し、「中程度低下の腎機能基準レベル」とは、中程度の腎機能低下を示す本発明の化合物または追加のバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「重度低下の腎機能基準レベル」とは、対象において重度の腎機能低下を示す本発明の化合物または追加のバイオマーカーのレベルを意味する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「基準試料」は、基準レベルのバイオマーカーを含む試料を意味する。例えば、基準試料は、CKDまたは急性腎傷害などの特定の疾患、病態または表現型を有さない対象から得ることができる。
【0056】
「非バイオマーカー化合物」とは、第1の表現型を有する(例えば、第1の疾患を有する)対象または対象群由来の生物試料中に、第2の表現型を有する(例えば、第1の疾患を有していない)対象または対象群からの生物試料と比較して、示差的に存在しない化合物を意味する。しかしながら、そのような非バイオマーカー化合物は、第1の表現型(例えば、第1の疾患を有する)または第2の表現型(例えば、第1の疾患を有していない)と比較して、第3の表現型を有する(例えば、第2の疾患を有する)対象または対象群由来の生物試料中のバイオマーカーであり得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、「代謝物」または「小分子」という用語は、細胞中に存在する有機および無機の分子を意味する。この用語は、大きなタンパク質(例えば、2,000,3,000、4,000,5,000、6,000,7,000、8,000,9,000、または10,000を超える分子量を有するタンパク質)、大きな核酸(例えば、2,000、3,000,4,000、5,000,6,000、7,000,8,000、9,000、または10,000を超える分子量を有する核酸)、大きな多糖(例えば、2,000、3,000,4,000、5,000,6,000、7,000,8,000、9,000、または10,000を超える分子量を有する多糖)などの大きな高分子を含まない。細胞の小分子は、一般的には、細胞質または他のオルガネラ、例えば、ミトコンドリアの溶液中に遊離状態で見出され、そこでは、さらに代謝可能なまたは高分子と呼ばれる大分子の生成に使用可能な中間体のプールを形成する。「小分子」という用語は、シグナル伝達分子および食料に由来するエネルギーを使用可能な形態に変換する化学反応の中間体を含む。小分子の例としては、糖、脂肪酸、アミノ酸、ヌクレオチド、細胞プロセスで形成される中間体、および細胞内に見いだされる他の小分子が挙げられる。
【0058】
「糸球体濾過量」または「GFR」とは、単位時間あたり腎糸球体毛細血管からボーマン嚢内に濾過される体液の体積である。GFRは、腎機能の尺度であり、特定の閾値以上のGFRは、正常腎機能の指標となり、閾値未満のGFRは、腎機能が損なわれているか障害されていることを示す。一般的には、高いGFR値は、より良好な腎機能の指標となり、一方、低いGFRは、腎機能障害(例えば、慢性腎疾患、急性腎傷害)を示す。
【0059】
「測定糸球体濾過量」または「mGFR」は、イヌリン、イオタラメートまたはイオヘキソールなどの濾過マーカーを用いて決定された実際の糸球体濾過量を意味する。mGFRは臨床現場で実施され、腎機能の最も正確な測定値である。
【0060】
「推定糸球体濾過量」または「eGFR」は、実際の糸球体濾過量の計算推定量を意味する。計算値は、1つまたは複数のバイオマーカーのレベルをベースにしてよく、人口統計学的情報(例えば、年齢、性別)などの他の変数を含んでもよい。eGFRを計算するための1つの現行法は、血清クレアチニン濃度をベースにしている。eGFRを計算するためのその他の現行法は、シスタチンCの量を、単独でまたは血清クレアチニン量と組み合わせて使用する。一般的には、低いeGFR値は、腎機能低下に関連付けられる。
【0061】
「SrCr eGFR」または「eGFRscr、eGFRcr」は、血清クレアチニンレベルをベースにしたeGFR推定値を意味する。
【0062】
「CKD−EPI」または「慢性腎疾患疫学コラボレーション」は、eGFRを計算するために導出された2つの式である。1つの式は、次の通りである。CKD−EPIcr GFR=141 x min(SCr/κ,l)
α X max(SCr/κ,l)
−1.209 x 0.993
年齢 x 1.018[女性の場合] x 1.159[黒人の場合];式中、SCrは血清クレアチニン(mg/dL)、κは0.7(女性)および0.9(男性)、αは−0.329(女性)および−0.411(男性)、minは、SCr/κまたは1の内の最小値を示し、maxは、SCr/κまたは1の内の最大値を示す。二つ目の式(CKD−EPIcrcys eGFR)は、SCr量および人口統計学的変数に加えて、シスタチンCの量を含む。
【0063】
「MDRD」または「成人患者用の腎臓病への蛋白制限と血圧管理の効果を調べた米国の無作為化比較試験eGFR」は、eGFRを計算するための別の式である。式は、次のとおりである。MDRDcr eGFR=186 x (Scr)
−1.154 x (年齢)
−0.203 x (0.742、女性の場合) x (1.212、黒人の場合);式中、Scrは、血清クレアチニン(mg/dL)である。現在では、MDRDcr eGFRは通常、eGFRを計算するための標準治療法と見なされている。
【0064】
「尿中アルブミン」とは、尿中のアルブミン量を測定する検査のことであり、腎疾患を検出するためにも使用される。
【0065】
「血清クレアチニン」または「SCr」とは、血清中のクレアチニンの測定値を意味し、通常、GFRを推定するために使用される。
【0066】
「血中尿素窒素」または「BUN」とは、尿素の形態の血中窒素量の測定値を意味する。BUNは、腎機能を測定するために使用される検査である。
【0067】
「慢性腎疾患」または「CKD」は、腎臓に損傷を与えて生体から老廃物を除去する腎臓の能力を低下させる結果として、体内に高レベルの老廃物を生成し、疾病および高血圧、貧血、栄養健康不良、神経損傷などの合併症の発症のリスクの増加に繋がる状態を含む。少なくとも3ヶ月間にわたり腎機能の異常を有する患者は、CKDと診断され得る。CKDに起因する腎障害は、永続的である。
【0068】
「急性腎傷害」または「AKI」とは、腎機能の急速な低下を生じる状態を意味する。AKIに起因する腎障害は、可逆的であり得る。
【0069】
「慢性腎疾患ステージ」または「CKDステージ」とは、測定または推定の糸球体濾過量(mGFR、eGFR)を用いて現在評価される腎障害の程度を意味する。臨床的には、CKDの5つのステージが一般に認知されており、ステージ1(GFR>90)は正常、ステージ2(GFR60〜89)は最小低下、ステージ3Aおよび3B(GFR30〜59)は中程度低下、ステージ4(GFR15〜29)は重度低下、ステージ5(GFR<15または透析導入)は確定腎不全とも呼ばれるかなり重度または末期の腎不全とみなされる腎機能である。腎機能ステージは、任意の期間にわたり存在する腎障害(すなわち、AKIまたはCKDに起因する腎障害)を意味するように使用され得る。
【0070】
本発明は、以下の詳細説明と、本発明の非限定的実施形態を例示することを意図した実施例とを参照することによりさらに完全に理解され得る。
【0071】
化合物および組成物
本発明は、新規化合物、組成物ならびに診断方法および治療方法におけるそれらの使用を提供する。
【0072】
第1の実施形態では、本発明は、次式:
により表される化合物またはその塩を提供する。
【0073】
特定の実施形態では、第1の実施形態の式(I)の化合物は、次式:
で表されるかまたはその塩である。
【0074】
一実施形態では、式(II)の化合物またはその塩は、少なくとも60%の光学純度、少なくとも70%の光学純度、少なくとも80%の光学純度、少なくとも90%の光学純度、少なくとも95%の光学純度、または少なくとも99%の光学純度であり得る。
【0075】
種々の実施形態では、本明細書に記載の本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)で表される化合物またはその塩)は、不純物を実質的に含まない。
【0076】
種々の実施形態では、本明細書に記載の本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)で表される化合物またはその塩)は、少なくとも60%の純度、少なくとも70%の純度、少なくとも80%の純度、少なくとも90%の純度、少なくとも95%の純度、または少なくとも99%の純度であり得る。
【0077】
特定の実施形態では、本明細書に記載の本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)で表される化合物またはその塩)は、同位体標識される。一実施形態では、式(I)または(II)の化合物またはその塩は、トリチウム(
3H)または炭素14(
14C)などで放射標識される。別の実施形態では、式(I)または(II)の化合物またはその塩は、重水素、炭素13(
13C)、または窒素15(
15N)、またはこれらの組み合わせで標識される。本発明の化合物の同位体標識のために任意に好適な方法を採用できる。
【0078】
本明細書で使用される場合、本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)で表される化合物またはその塩)は、同位体標識される場合、同位体標識を保持する位置は、天然の存在量よりも、少なくとも10倍、50倍、100倍、または1000倍高い存在量で指定同位体を有することを意味する。例えば、本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)で表される化合物またはその塩)が炭素13(
13C)で標識される場合、
13C標識を保持する位置は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%のその位置での
13Cの組み込みを有する。同様に、本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)で表される化合物またはその塩)が重水素で標識される場合、重水素を保持する位置は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%のその位置での重水素の組み込みを有する。
【0079】
式(I)または(II)の化合物またはその塩(例えば、薬学的に許容可能なそれらの塩)などの上記化合物は、本明細書記載の方法のいずれかで使用できる。例えば、本発明の化合物は、対象の腎機能を評価するために、対象の糸球体濾過量の推定値を計算するために、対象をモニターして腎機能の変化(例えば、急性腎傷害または初期CKDを示し得る機能の低下)を検出するために、腎機能の程度(例えば、正常、軽度低下、中程度低下、重度低下、末期腎不全)に従って対象を分類するために、およびCKDと診断されていない対照対象に対してCKDを有する対象を区別するために、使用され得る。さらに、化合物は、経時的にまたは薬剤治療、疾患(例えば、2型糖尿病)、もしくは生活習慣介入(例えば、食事、運動)に対する反応で腎機能の変化をモニターするために、ならびに薬物療法および/または腎移植に好適な候補として対象を特定または除外するために、使用され得る。
【0080】
本明細書に記載の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩(例えば、薬学的に許容可能なそれらの塩))に特異的に結合する抗体または抗体断片も同様に本発明に含まれる。小分子に特異的に結合する抗体を生成する方法は、当技術分野において既知である。抗体誘導体、例えば、上記抗体のV
HおよびV
L配列を含むポリペプチドも含まれる。特定の実施形態では、ポリペプチドは融合タンパク質である。本発明はまた、抗体または抗体断片および本明細書に記載の抗体誘導体を産生する細胞も含む。一実施形態では、細胞は、真核細胞である。
【0081】
方法
第2の実施形態では、本発明は、対象における本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)のレベルを決定する方法を提供し、該方法は、(1)対象から生物試料得ること、および(2)化合物のレベルを決定すること、を含む。
【0082】
試料中の本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)のレベルを決定するために、任意の好適な方法を用いて生物試料を分析し得る。好適な方法としては、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(例えば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的技術、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0083】
一実施例では、生物試料は、質量分析の前に液体クロマトグラフィー(LC)に供せされ得る。LC法としては、例えば、超高速LC(UHPLCまたはUPLC)が挙げられる。いくつかの実施例では、UPLCは、逆相カラムクロマトグラフシステム、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、イオン交換クロマトグラフィー、または混合相カラムクロマトグラフシステム(mixed phase column chromatographic system)を用いて行い得る。
【0084】
質量分析は、さらなる分析用の分画試料のイオン化および荷電分子生成のためのイオンソースを含む質量分析計を用いて実施される。試料のイオン化は、例えば、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI−II)によって実施し得る。試料はポジティブまたはネガティブモードでイオン化し得る。
【0085】
試料をイオン化後、正または負に荷電したイオンを分析し、質量電荷比を決定してもよい。質量電荷比を決定するために好適する代表的分析計には、四重極分析計、イオントラップ分析計、フーリエ変換質量分析(FTMS)分析計、および飛行時間分析計が挙げられる。
【0086】
分析結果は、タンデム型MSにより生成されたデータを含み得る。いくつかの実施例では、タンデム型MSは、精密質量タンデムMSであり得る。例えば、精密質量タンデム質量分析は、四重極飛行時間(Q−TOF)分析計を使用し得る。その他の実施例では、タンデムMSは、FTMSであり得る。タンデムMSは、錯体混合物中の化学成分の親−娘関連性を表すデータ構造を生成可能とする。この関連性は、親イオンと娘イオンの相互の関連性を示す樹状構造により表し得、娘イオンは親イオンのサブコンポーネントである。
【0087】
さらに、本発明の化合物のレベルは、例えば、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて測定が望まれる本発明の化合物のレベルと相関する化合物(または複数の化合物)のレベルを測定するアッセイを用いることにより、間接的に測定し得る。
【0088】
第3の実施形態では、本発明の化合物は、対象において腎機能の評価(または評価支援)を行うために使用可能である。本発明の化合物は、任意の対象を評価するために使用することができ、これらの評価には、無症状の対象において、症状の存在またはリスク因子(例えば、高血圧、糖尿病、CKD家族歴、特定の化学/環境条件への暴露など)に起因してCKDまたはAKIのリスクのある対象において、および組成物または治療的介入(例えば、腎移植、生活習慣改善)に反応する対象において、腎機能を評価することが含まれることは理解されよう。対象は、1種または複数の腎機能の評価を受け得ることがさらに理解されよう。
【0089】
代表的方法では、対象の腎機能の評価は、対象から得た生物試料中の、式(I):
の化合物またはその塩のレベルを決定することを含み、基準レベルと比較した、生物試料中の化合物の上昇したレベルが、対象における腎機能低下の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0090】
このような方法を用いて腎機能の評価支援を行う場合、その方法の結果は、対象が正常腎機能を有するか障害のある腎機能(急性腎傷害(AKI)またはCKDから生じ得る)を有するか、さらには腎機能レベル(例えば、正常、軽度障害、中程度障害、重度障害、末期腎不全)の臨床判断に有用な他の方法(またはその結果)および/または患者メタデータと一緒に使用され得る。
【0091】
特定の実施形態では、潜在的腎提供者である対象における腎機能の正確な評価は、潜在的提供者が腎臓の提供に適しているかを医師が決定するのを支援するであろう。
【0092】
第4の実施形態では、本発明の化合物は、対象における腎機能低下を発症する素因を判定する方法に使用できる。一実施形態では、該方法は、対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定することを含み、基準レベルと比較した、生物試料中の化合物の上昇したレベルが、対象における腎機能低下を発症する素因の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0093】
第5の実施形態では、本発明の化合物は、腎機能のレベル(例えば、正常、軽度低下、中程度低下、重度低下、末期腎不全)に応じて対象を分類する方法に使用できる。一実施形態では、該方法は、対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定することを含み、基準レベルと比較した、生物試料中の化合物のレベルが、腎機能のレベルに応じて対象を分類するために使用される。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0094】
第6の実施形態では、本発明の化合物は、対象の腎機能のモニターする方法に使用できる。一実施形態では、該方法は、(1)第1の時点で対象から得た第1の生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定すること、および(2)第2の時点で対象から得た第2の生物試料中の該化合物またはその塩のレベルを決定すること、を含み、第2の時点は第1の時点より後であり、第2の生物試料中の該化合物のレベルの、第1の生物試料中のレベルからの変化が、腎機能の変化の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0095】
化合物のレベルの経時的変化(もしあれば)(すなわち、第1の時点での対象からの第1の試料を、第2の時点で対象から得た第2の試料と比較して)は、患者における腎機能の経時的変化の指標となり得る。対象の腎機能を経時的に特徴付けるために、第1の試料中の化合物のレベル、第2の試料中の化合物のレベル、および/または第1および第2の試料中の化合物のレベルの比較の結果を、化合物の基準レベルと比較し得る。化合物のレベルが経時的に増加または減少して(例えば、第2の試料を第1の試料と比較して)、低い腎機能基準レベルにより類似してくる(または高い腎機能基準レベルへの類似が小さくなる)ことが比較から示される場合、その結果は、腎機能低下の指標となる。化合物のレベルが経時的に増加または減少して、高い腎機能基準レベルにより類似してくる(または低い腎機能基準レベルへの類似が小さくなる)ことが比較から示される場合、その結果は、正常腎機能の指標となる。例えば、対象は、第1の時点で正常腎機能を有し得るとともに(例えば、化合物のレベルは、高い腎機能基準レベルに類似しているかまたは低い腎機能基準レベルに類似していない)、第2の時点で正常な範囲内を維持することから(例えば、高い腎機能基準レベルに類似しているかまたは低い腎機能基準レベルに類似していない状態を維持することから)、腎機能の変化がないことが示される。別の例では、腎機能は、第1の時点で正常であり得るとともに(例えば、化合物のレベルは、高い腎機能基準レベルに類似しているかまたは低い腎機能基準レベルに類似していない)、その後、第2の時点で減少するが、それでもなお腎機能の正常な範囲内を維持することから、依然として正常な範囲内にあるが、腎機能が低下していることが示される。別の例では、第1の時点で正常とのボーダーライン上にある腎機能を有する対象は、第2の時点でバイオマーカーのレベルに基づいてCKDと診断され得、対象において腎機能が悪化していることが示される。
【0096】
また、化合物の相対量と基準レベルとの間の差を用いて、経時的に腎機能を評価し得る。例えば、化合物のレベルと高い腎機能基準レベルとの間の差(または化合物のレベルと低い腎機能基準レベルとの間の差)が経時的に大きくなることが比較から示される場合、その結果は、患者が腎機能低下を発症していることを示す。
【0097】
第1の試料を得た後、より後の時点で1つまたは複数の追加の試料を対象から取得し得る。一態様では、1つまたは複数の追加の試料は、第1の試料の1、2、3、4、5、6日後、またはそれよりも後で取得される。他の態様では、1つまたは複数の試料は、第1の試料のまたは組成物による治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週間後、またはそれよりも後で取得される。別の態様では、1つまたは複数の追加の試料は、第1の試料のまたは組成物による治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月後、またはそれよりも後で取得され得る。
【0098】
特定の実施形態では、化合物のレベルを用いて、腎移植患者の腎機能をモニターし得る。
【0099】
第7の実施形態では、本発明の化合物は、対象の慢性腎疾患(CKD)の診断または診断の支援方法に使用できる。本発明の化合物を、無症状の対象、CKDの存在に合致する1つまたは複数の症状を呈する対象、および/またはCKDである可能性の高い対象(例えば、慢性疾病者、薬剤治療者、コントラスト造影剤使用者など)を含む、任意の対象において、CKDの診断または診断支援方法に使用可能であることを理解されたい。一実施形態では、該方法は、対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定することを含み、基準レベルと比較した、生物試料中の化合物の上昇したレベルが、慢性腎疾患の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0100】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、腎機能を決定するための現在の標準(例えば、SCr、MDRDcr−eGFR、CKD−EPIcr−eGFR、シスタチンC、尿中アルブミン、および/またはBUNの測定値)を用いてCKDが診断され得る前に、腎機能の評価(または評価支援)を行って初期CKDを検出することを可能にする。臨床測定は、腎機能の初期変化を検出するのに十分な感度を有していない場合があり、または例えば、慢性疾病、肥満症、高齢、菜食、および/もしくは一般的筋量減少に起因して、特定の対象において不正確な場合もある。例えば、2型糖尿病の対象において、本明細書の化合物を用いて、CKDの診断または診断支援を行い得る。CKDの正確で早期の診断により、さらなる腎障害およびより重度のCKDの発症を遅延または予防し得るより早期の治療的介入が可能になり得る。
【0101】
特定の実施形態では、試料中の式(I)または(II)の化合物および場合により1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定した後、レベルをCKD陽性および/またはCKD陰性基準レベルと比較して、対象がCKDを有するかの診断または診断支援を行う。式(I)または(II)の化合物および場合により1つまたは複数の追加のバイオマーカー基準レベルのレベル(例えば、基準レベルと同じレベル、基準レベルと実質的に同じレベル、基準レベルの最小および/または最大をわずかに上回るおよび/または下回るレベル、および/または基準レベルの範囲内のレベル)は、対象におけるCKDの診断の指標となる。CKD陰性基準レベルに一致する試料中の式(I)または(II)の化合物および場合により1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベル(例えば、基準レベルと同じレベル、基準レベルと実質的に同じレベル、基準レベルの最小および/または最大をわずかに上回るおよび/または下回るレベル、および/または基準レベルの範囲内のレベル)は、対象がCKDではないという診断の指標となる。加えて、CKD陰性基準レベルと比較して、試料中に示差的に存在する(とくに統計的に有意なレベルで)式(I)または(II)の化合物および場合により1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルは、対象がCKDであるという診断の指標となる。CKD陽性基準レベルと比較して、試料中に示差的に存在する(とくに統計的に有意なレベルで)式(I)または(II)の化合物および場合により1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルは、対象がCKDでないという診断の指標となる。
【0102】
式(I)または(II)の化合物および場合により1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルは、CKD陽性および場合によりCKD陰性基準レベルに対する生物試料中の1つまたは複数のバイオマーカーのレベルの単純比較(例えば、マニュアル比較)を含む種々の技術を用いて、CKD陽性および/またはCKD陰性基準レベルと比較し得る。また、1種または複数の統計解析(例えば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、相関分析、ランダムフォレスト、Tスコア、Zスコア)を用いて、または数学モデル(例えば、アルゴリズム、統計モデル)を用いて、生物試料中の式(I)または(II)の化合物および/または1つまたは複数のバイオマーカーのレベルをCKD陽性および/またはCKD陰性基準レベルと比較し得る。
【0103】
例えば、単一のアルゴリズムまたは複数のアルゴリズムを含む数学モデルを用いて、対象における腎機能を評価し得る。数学モデルを用いて、推定糸球体濾過量(eGFR)を計算し得る。また、数学モデルを用いて、対象がCKDを有するかを決定し得る。また、数学モデルを用いて、CKDステージ間を区別し得る。例示的な数学モデルにより、対象由来の本発明の化合物および/または任意の数(例えば、2、3、5、7、9個など)の腎機能の評価に関連する追加のバイオマーカーの測定レベルを用いて、バイオマーカーの測定レベル間の数学的関係に基づいてアルゴリズムまたは一連のアルゴリズムを使用し、対象が正常腎機能またはCKDを有するか、対象がCKDを発症する素因を有するか、対象においてCKDが進行しているか、対象が高いステージ(重度もしくはきわめて重度の腎機能低下)、中間のステージ(中程度の機能低下)、または低いステージ(軽度の機能低下)のCKDを有するかなど、を決定し得る。さまざまな例示的な数学モデルにより、対象由来の本発明の化合物および/または任意の数(例えば、2、3、5、7、9個など)の追加のバイオマーカーの測定レベルを用いて、腎機能のレベルまたはステージ(例えば、高、中、低)に基づいて対象を分類し得る。一実施例では、GFRを推定するために生成された数学モデルは、腎機能を評価するため、腎機能をモニターするため、対象がCKDもしくはAKIを有するかどうかを判定するため、CKDステージを区別するため、および/またはCKDもしくはAKIの素因を判定するために使用される。
【0104】
特定の実施形態では、本発明の方法は、以前にCKDと診断されていない対象においてCKDの診断を可能とする。例えば、CKDに関するリスク因子(例えば、60歳を超える年齢、高血圧、糖尿病、心血管疾患、および/またはCKDの家族歴など)を有する対象において、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの診断または診断支援を行い得る。
【0105】
特定の実施形態では、本発明の方法は、腎機能を決定するための現在の標準(例えば、SCr、MDRDcr−eGFR、CKD−EPIcr−eGFR、CKD−EPIcrcys、尿中アルブミン、シスタチンC、および/またはBUNの測定値)を用いてCKDが診断され得る前に、早期検出および診断を可能とする。CKDの早期診断は、さらなる腎障害およびより重度のCKDの発症を遅延または予防し得るより早期の治療的介入を可能にし得る。
【0106】
特定の実施形態では、対象のCKDを決定するための現在の標準(例えば、SCr、MDRDcr−eGFR、CKD−EPIcr−eGFR、CKD−EPIcrcys、尿中アルブミン、シスタチンC、および/またはBUNの測定値)が、例えば、対象の慢性疾病、肥満症、高齢、菜食、および/または一般的筋量減少が原因で不正確である場合、本発明の方法を用いて、患者のCKDの診断または診断支援を行い得る。例えば、2型糖尿病を有する対象に対し、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの診断または診断支援を行い得る。
【0107】
上記方法を用いてCKDの診断支援を行う場合、本方法の結果は、対象がCKDを有するかの臨床判断に有用な他の方法および測定(またはそれらの結果)および/または患者メタデータと一緒に使用され得る。対象がCKDを有するかの臨床判断に有用な方法は、当技術分野で既知である。例えば、対象がCKDを有するかの臨床判断に有用な方法は、例えば、SCr、BUN、eGFR、mGFR、尿中アルブミン、およびシスタチンCを含む。対象がCKDを有するかの決定に有用な他の測定は、例えば、β−2ミクログロブリン、β−TRACE、および/または2−C−マンノピラノシルトリプトファンを含む。対象がCKDを有するかの臨床判断に有用な患者メタデータとしては、例えば、年齢、体重、性別、および人種が挙げられる。
【0108】
第8の実施形態では、本発明の化合物は、対象の慢性腎疾患(CKD)の進行または軽減をモニターするための方法に使用できる。一実施形態では、該方法は、(1)第1の時点で対象から得た第1の生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定すること、および(2)第2の時点で対象から得た第2の生物試料中の該化合物またはその塩のレベルを決定すること、を含み、第2の時点は第1の時点より後であり、第2の生物試料中の該化合物のレベルの、第1の生物試料中のレベルからの変化が、対象の前記疾患の進行または軽減の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0109】
第9の実施形態では、本発明の化合物は、対象の急性腎傷害(AKI)の診断または診断の支援方法に使用できる。該方法は、対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定することを含み、基準レベルと比較した、生物試料中の該化合物の上昇したレベルが、AKIの指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0110】
第10の実施形態では、本発明の化合物は、対象のAKIの進行または軽減をモニターするための方法に使用できる。一実施形態では、該方法は、(1)第1の時点で対象から得た第1の生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定すること、および(2)第2の時点で対象から得た第2の生物試料中の該化合物またはその塩のレベルを決定すること、を含み、第2の時点は第1の時点より後であり、第2の生物試料中の該化合物のレベルの、第1の生物試料中のレベルからの変化が、対象の前記疾患の進行または軽減の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0111】
第11の実施形態では、本発明の化合物は、組成物または治療的介入(例えば、腎移植、生活習慣改善)に反応した対象の腎機能の評価方法に使用できる。一実施形態では、該方法は、組成物または治療的介入で治療した対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定することを含み、その組成物または治療的介入による治療のない対象中の化合物のレベルと比較した、生物試料中の該化合物の上昇したレベルが、腎機能低下の指標となる。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0112】
組成物は、任意の疾患または状態を治療するために対象に投与される任意の組成物、薬剤、または治療薬であり得る。さらに、組成物は、疾患または状態を有する患者に投与される任意の組成物であり得る。一実施形態では、組成物はコントラスト造影剤である。別の実施形態では、組成物は治療薬、例えば、化学療法剤である。別の実施形態では、組成物は抗生物質である。
【0113】
特定の実施形態では、第11の実施形態で記載の方法は、腎機能を変える組成物に対する対象の反応の評価、ならびに腎機能を変える2種以上の組成物に対する相対的な患者の反応の評価を可能にする。このような評価は、例えば、特定の対象に対して癌を治療するための組成物の選択、または一連の治療もしくは臨床試験への組入れに対する対象の選択のために使用し得る。このような評価はまた、薬剤開発プロセスの前に、その全体を通して、および/またはその後に(すなわち、実行後に)、組成物に対する反応で腎機能をモニターするために使用し得る。
【0114】
特定の実施形態では、本発明の方法は、コントラスト造影剤が毒性である場合があり、その結果として、腎傷害を引き起こすことがある場合、造影剤を用いて画像検査を受けている患者において、腎機能の評価(または評価支援)を可能にする。例えば、腎機能低下(例えば、ステージ2のCKDまたはステージ3もしくはステージ3AのCKD)の患者において、腎機能の正確な測定は、患者および臨床医が画像検査のリスク対効果比を評価するのに役立ち、また、より多くの情報に基づく決断が可能になろう。
【0115】
第12の実施形態では、本発明は、慢性腎疾患(CKD)を有する対象を治療する方法を提供し、該方法は、(1)対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定すること、(2)対象が基準レベルと比較して上昇したレベルの化合物を有する場合に、慢性腎疾患の治療に好適する効果的療法を対象に投与すること、を含む。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0116】
第13の実施形態では、本発明は、慢性腎疾患(CKD)を有する対象を治療する方法を提供し、該方法は、慢性腎疾患の治療に好適する効果的療法を対象に投与することを含み、対象は、基準レベルと比較して、上昇したレベルの式(I)の化合物またはその塩を有する。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0117】
慢性腎疾患は、基礎疾患(単一または複数)または状態(単一または複数)に起因する場合が多い。例えば、高血圧(血圧上昇)または糖尿病は、慢性腎疾患を招く。慢性腎疾患の他の原因には、(1)腎疾患および感染症、例えば、多発性嚢胞腎、腎盂腎炎、および糸球体腎炎、(2)狭小化または閉塞腎動脈、(3)前立腺腫大、腎結石および癌などの状態から来る長期尿路通過障害、(4)膀胱尿管逆流(尿を腎臓に戻させる状態)、および(5)腎臓を損傷する可能性のある医薬の長期使用(例えば、セレコキシブおよびイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID))を含み得る。
【0118】
慢性腎疾患は、CKDの原因となった基礎症状または疾患に対する効果的治療薬で治療されることが多い。特定の実施形態では、CKDは、糖尿病が原因であり、第12および第13の実施形態中のCKDを治療する方法は、糖尿病の治療に好適する効果的な療法を対象に投与することを含む。糖尿病は、抗糖尿病薬で治療できる。代表的抗糖尿病薬には、限定されないが、メトホルミン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、アカルボース、テトラヒドロリプスタチン、フェンテルミン/トピラマート、ブプロピオン/ナルトレキソン、ロルカセリン、リラグルチドおよびカナグリフロジンが挙げられる。特定の実施形態では、糖尿病は生活習慣改善により治療できる。代表的生活習慣改善には、限定されないが、食事改善および/または身体活動もしくは運動の増加が含まれる。食事改善には、例えば、カロリー摂取量、一人前の分量、糖および澱粉質炭水化物含量の制限および/または低脂肪および低カロリーおよび高繊維質食の選択を含み得る。
【0119】
特定の実施形態では、CKDは、高血圧(血圧上昇)が原因であり、第12および第13の実施形態中のCKDを治療する方法は、高血圧の治療に好適する効果的な療法を対象に投与することを含む。特定の実施形態では、第12および第13の実施形態中に記載の方法は、有効量の血圧を下げる治療薬を対象に投与することを含む。代表的治療薬には、限定されないが、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤またはアンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)が含まれる。好適なACE阻害剤には、限定されないが、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリルおよびトランドラプリルが挙げられる。好適なARBには、限定されないが、カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタンおよびバルサルタンが挙げられる。特定の実施形態では、利尿薬および/または低塩分食が血圧を下げるためにも用いられる。
【0120】
特定の実施形態では、第12および第13の実施形態中に記載のCKDの治療には、生活習慣改善、例えば、食事改善および/または身体活動もしくは運動の増加が含まれる。食事改善には、低塩分食、低カリウム含量食の選択および/または毎日タンパク質摂取量の制限が含まれる。
【0121】
特定の実施形態では、第12および第13の実施形態中に記載のCKDの治療には、例えば、ビタミンD、鉄、カルシウム、カリウム、またはこれらの組み合わせなどの栄養補助食品が含まれる。
【0122】
特定の実施形態では、CKDは、末期腎不全まで進行する場合があり、これは、透析または腎移植により治療できる。
【0123】
第14の実施形態では、本発明は、急性腎傷害を罹患している対象を治療する方法を提供し、該方法は、(1)対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定すること、(2)対象が、基準レベルと比較して上昇したレベルの化合物を有する場合に、急性腎傷害の治療に好適する効果的療法を対象に投与すること、を含む。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0124】
第15の実施形態では、本発明は、急性腎傷害を罹患している対象を治療する方法を提供し、該方法は、急性腎傷害の治療に好適する効果的療法を対象に投与すること、を含み、対象が、基準レベルと比較して上昇したレベルの式(I)の化合物またはその塩を有する。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0125】
急性腎傷害(AKI)は、腎臓への血流を遅らせる状態、腎臓への直接損傷および/または尿管閉塞などの種々の状態が原因となり得る。腎臓への血流を低下させる状態には、限定されないが、血液または体液損失、血圧薬物、心臓発作、心臓疾患、感染症、肝不全、アスピリン、イブプロフェン(アドビル、モトリン IB、など)、ナプロキセン(アリーブ、など)または関連薬物の使用、重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)、重度の火傷および重度の脱水が挙げられる。腎臓に直接損傷を引き起こし得る疾患、状態および薬剤には、限定されないが、腎臓中またはそのまわりの静脈および動脈中の血餅、腎臓中の血流を塞ぐコレステロール沈着物、糸球体腎炎、腎臓中の小さなフィルター(糸球体)の炎症、溶血性尿毒症症候群、赤血球の未成熟破壊から生じる状態、感染症、ループス、糸球体腎炎の原因となる免疫系障害、薬物、例えば、特定の化学療法剤、抗生物質、画像検査中に使用される染料および骨粗鬆症および高血中カルシウムレベル(高カルシウム血症)の治療に使用されるゾレドロン酸(リクラスト、ゾメタ)、多発性骨髄腫、プラズマ細胞の癌、強皮症、皮膚および結合組織に影響を及ぼす一連の希少疾患、血栓性血小板減少性紫斑病、希少血液障害、アルコール、重金属およびコカインなどの毒素、ならびに血管炎、血管の炎症が挙げられる。尿路閉塞を引き起こし、AKIに繋がり得る疾患および状態には、限定されないが、膀胱癌、尿路中の血餅、子宮頸癌、結腸癌、前立腺腫大、腎結石、膀胱を制御する神経に関連する神経損傷および前立腺癌が挙げられる。
【0126】
AKIは、根底にある原因に対する効果的療法で治療される場合が多い。特定の実施形態では、AKIは、化学療法剤などの薬物が原因であり、対象のAKIを治療する方法には、対象に対する薬物の投与を中止すること、または対象に投与する薬物(例えば、化学療法剤)の投与量を減らすことが含まれる。
【0127】
特定の実施形態では、AKIは、高血圧または糖尿病が原因であり、対象のAKIを治療する方法には、第12および第13の実施形態中で上記した高血圧または糖尿病に対する効果的療法を投与することが含まれる。
【0128】
特定の実施形態では、対象のAKIの治療方法には、生活習慣改善、例えば、食事改善および/または身体活動もしくは運動の増加が含まれる。食事改善には、低塩分食、低カリウム含量食の選択および/または毎日タンパク質摂取量の制限が含まれる。
【0129】
特定の実施形態では、AKIは、透析または腎移植により治療される。
【0130】
第16の実施形態では、本発明は、患者の推定糸球体濾過量(eGFR)を計算する方法を提供し、該方法は、(1)対象から得た生物試料中の、式(I)の化合物またはその塩のレベルを決定するステップ、および(2)化合物の測定したレベルを利用するアルゴリズムを用いて、eGFRを計算するステップ、を含み、アルゴリズムは外因性濾過マーカーを用いて測定されたGFRを用いて開発される。任意に好適な方法を化合物のレベルの決定のために使用できる。一実施形態では、化合物のレベルは、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせを用いて、決定される。
【0131】
特定の実施形態では、eGFRは、腎機能の評価に関連する1つまたは複数の追加のバイオマーカーを用いて計算される。一実施形態では、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、ミオイノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン、S−アデノシルホモシステイン、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリジン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、トリプトファン、クレアチニン、尿酸塩、3−インドキシル硫酸、および硫酸p−クレゾールから選択される。別の実施形態では、eGFRアルゴリズムは、血清シスタチンCレベルをさらに利用する。さらに別の実施形態では、eGFRアルゴリズムは、年齢、性別および人種からなる群より選択される1種または複数の人口統計学的パラメーターをさらに利用する。
【0132】
第17の実施形態では、第2〜第16の実施形態に記載の方法に対し、式(I)の化合物は、式(II):
により表されるかまたはその塩である。
【0133】
第18の実施形態では、第2〜第16の実施形態に記載の方法に対し、化合物のレベルは、タンデム型液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS/MS)により決定される。
【0134】
第19の実施形態では、第2〜第18の実施形態に記載の方法は、決定されたレベルの化合物を数学モデルで使用して腎機能を評価することを含む。
【0135】
第20の実施形態では、第2〜第19の実施形態に記載の方法は、生物試料を分析して、腎機能の評価に関連する1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定することをさらに含む。1つまたは複数のバイオマーカーは、次のバイオマーカーからなる群より選択され得る:プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、ミオイノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン、S−アデノシルホモシステイン、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリジン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、トリプトファン、クレアチニン、尿酸塩、3−インドキシル硫酸、および硫酸p−クレゾールおよびこれらの組み合わせ。
【0136】
特定の実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個またはそれを超える追加のバイオマーカーのレベルが、第20の実施形態に記載の方法で決定される。
【0137】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、トリプトファン、フェニルアセチルグルタミン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、キヌレニン、ミオイノシトール、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0138】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、トリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0139】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、トリプトファン、フェニルアセチルグルタミン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0140】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、N−アセチルトレオニン、ミオイノシトール、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0141】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、N−アセチルトレオニン、ミオイノシトール、キヌレニン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0142】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびミオイノシトールからなる群より選択される。
【0143】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法において、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、ミオイノシトール、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0144】
特定の実施形態では、第20の実施形態に記載の方法は、生物試料を分析して、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、トリプトファン、フェニルアセチルグルタミン、およびクレアチニンのレベルを決定することをさらに含む。
【0145】
本発明の化合物および1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定することにより、記載の方法でより大きい感度および特異度を可能にし得る。例えば、生物試料中の2種のバイオマーカーのペアワイズ分析または特定のバイオマーカー(および非バイオマーカー化合物)のレベルの比により、腎機能の評価および腎機能の評価支援でより大きい感度および特異度を可能にし得る。
【0146】
単純比較(例えば、マニュアル比較)を含む種々の技術を用いて、式(I)または(II)の化合物および/または1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを腎機能基準レベルと比較し得る。また、1種または複数の統計解析(例えば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、相関分析、ランダムフォレスト、Tスコア、Zスコア)を用いて、または数学モデル(例えば、アルゴリズム、統計モデル)を用いて、生物試料中の式(I)または(II)の化合物および/または1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを基準レベルと比較し得る。例えば、単一のアルゴリズムまたは複数のアルゴリズムを含む数学モデルを用いて、対象の腎機能を評価し得る。
【0147】
本方法の結果は、対象における腎機能の評価に有用な他の方法および測定(またはそれらの結果)と一緒に使用され得る。例えば、臨床パラメーター、例えば、BUN、SCr、および/または尿中アルブミン測定値など、腎機能マーカー、例えば、β−2ミクログロブリン、β−TRACE、2−C−マンノピラノシルトリプトファンなど、さらには患者情報、例えば、CKD家族歴または他のリスク因子などは、バイオマーカーと共に使用可能である。
【0148】
特定の実施形態では、本発明の化合物および/または1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルは、対象がAKIもしくはCKDの指標となり得る腎機能障害を有する腎機能レベルおよび/または可能性を示す数値スコア(「腎機能スコア」)を医師に提供するために、数学的または統計的なモデルまたは式中で使用可能である。スコアは、バイオマーカーおよび/またはバイオマーカーの組合せに対する基準レベルが臨床的に有意に変化することに基づく。基準レベルは、アルゴリズムから誘導可能であるか、またはGFR低下の指標から計算可能である。対象の腎機能スコアを決定する方法は、対象の腎機能スコアを決定するために、試料中の1つまたは複数の腎機能バイオマーカーのレベルを1つまたは複数のバイオマーカーの腎機能基準レベルと比較することを含み得る。方法は、次のリストから選択され得る任意の数のバイオマーカーを採用し得る:プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、ミオイノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン、S−アデノシルホモシステイン、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリジン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、トリプトファン、クレアチニン、尿酸塩、3−インドキシル硫酸、および硫酸p−クレゾール。回帰分析などの統計的手法を含む任意の方法により、複数のバイオマーカーを腎機能と相関付けることが可能である。
【0149】
腎機能スコアを用いて、正常(すなわち、腎機能障害なし)から、軽度低下、中低度低下、重度低下、または末期腎不全まで、の腎機能の範囲内に対象を配置することが可能である。腎機能スコアの非限定的使用例としては、腎機能の評価、GFRの推定、腎機能の分類、CKD発症に対する感受性、AKI発症に対する感受性、CKDの診断およびステージ、腎機能スコアの定期的決定およびモニターによるCKD進行のモニター、腎移植患者の腎機能状態のモニター、治療的介入に対する反応の測定、薬効の評価、ならびに治療薬および/またはコントラスト造影剤に対する耐容性の測定が挙げられる。
【0150】
特定の実施形態では、本明細書に記載の本発明の方法において、生物試料は血液、血漿、血清、唾液または尿である。一実施形態では、生物試料は血漿である。別の実施形態では、生物試料は血清である。
【0151】
特定の実施形態では、本明細書に記載の本発明の方法において、生物試料は、糸球体濾過量の直接測定を可能にする薬剤による治療の前に、対象から取得される。
【0152】
特定の実施形態では、本明細書に記載の本発明の方法において、対象はヒトである。
【0153】
特定の実施形態では、本明細書に記載の本発明の方法において、対象は、腎機能障害の症状がないか、腎機能障害に関する既知のリスク因子を有さない。他の実施形態では、対象は、慢性腎疾患の発症に関するリスク因子(例えば、60歳を超える年齢、高血圧、糖尿病、心血管疾患、CKDの家族歴)を示す。特定の実施形態では、対象は、以前に高血圧または糖尿病と診断されたことがある。特定の実施形態では、対象は慢性腎疾患の家族歴を有する。特定の実施形態では、対象は、腎機能障害の症状がある。特定の実施形態では、対象は、従来の方法を用いた腎機能評価は困難である。
【0154】
特定の実施形態では、対象は、以下からなる群より選択される:肥満である、非常に痩せている、菜食主義である、慢性疾患を有する、および高齢である。
【0155】
特定の実施形態では、対象は、腎臓提供者となる候補である。
【0156】
特定の実施形態では、対象は、腎臓に対する毒性作用を有し得る薬剤で治療されたことがあるか、または該薬剤による治療について検討中である。一実施形態では、薬剤はコントラスト造影剤である。別の実施形態では、薬剤は、疾患または状態を治療する治療薬、例えば、化学療法剤である。さらに別の実施形態では、薬剤は抗生物質である。
【0157】
特定の実施形態では、本方法を用いて、CKDを有する対象またはCKDを発症する素因を有することが疑われる対象(例えば、CKD家族歴、薬物療法、慢性疾病などに起因してリスクのある対象)の腎機能をモニターし得る。一例では、本発明の化合物を用いて、CKDを有していない対象の腎機能をモニターし得る。例えば、CKDを発症する素因を有することが疑われる対象において、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの発症をモニターし得る。
【0158】
キット
本発明は、生物試料中の式(I)または式(II)の化合物のレベルを測定するためのキットを含む。
【0159】
本発明のキットを用いて、対象の腎機能を評価またはモニターして、腎機能低下を発症する素因の判定、腎機能のレベルに応じた対象の分類、慢性腎疾患の診断またはモニター、対象のGFRの推定を行い得る。
【0160】
特定の実施形態では、本発明のキットは、式(I)の化合物またはその塩を含む。一実施形態では、本発明のキットは、式(II)の化合物またはその塩を含む。
【0161】
特定の実施形態では、本発明のキットは、式(I)の化合物またはその塩ならびに生物試料中の式(I)の化合物のレベルを測定するための説明書を含む。一実施形態では、キットは、式(II)の化合物またはその塩ならびに生物試料中の式(II)の化合物のレベルを測定するための説明書を含む。
【0162】
特定の実施形態では、本発明のキットは、標識化合物(例えば、内部標準)または生物試料中の式(I)または式(II)の化合物を検出できる物質を含み得る。
【0163】
特定の実施形態では、本発明のキットは、標識化合物(例えば、内部標準)または生物試料中の式(I)または式(II)の化合物を検出できる物質および生物試料中の式(I)または(II)の化合物レベルを測定するための説明書を含み得る。
【0164】
一実施形態では、上記キット中の内部標準は、式(I)または式(II)の標識化合物である。一実施形態では、上記キット中の内部標準は、N,N,N−トリメチル−L−アラニル−L−プロリン−
13C
3(
13C
3−L,L−TMAP)である。
【0165】
一実施形態では、本発明のキットは、式(I)の非標識化合物またはその塩、内部標準としての式(I)の標識化合物および生物試料中の式(I)の化合物のレベルを測定するための説明書を含む。
【0166】
別の実施形態では、本発明のキットは、式(II)の非標識化合物またはその塩、内部標準としての式(II)の標識化合物および生物試料中の式(II)の化合物のレベルを測定するための説明書を含む。一実施形態では、式(II)の標識化合物は、N,N,N−トリメチル−
13C
3−L−アラニル−L−プロリン(
13C
3−L,L−TMAP)である。
【0167】
別の実施形態では、本明細書に記載の
13C
3−L,L−TMAPは、下記の式により表される。
【0168】
特定の実施形態では、本発明のキットは、標識化合物(例えば、内部標準)または生物試料中の式(I)または式(II)の化合物を検出できる物質および試料中の化合物の量を決定するための手段(例えば、式(I)または式(II)の化合物に対する抗体)を含み得る。
【0169】
特定の実施形態では、生物試料中の式(I)または(II)の化合物の量は、本明細書に記載の本発明のキットを用いて、クロマトグラフィー、質量分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、抗体結合法、イムノブロッティング、免疫組織化学(IHC)、その他の免疫化学的方法、またはこれらの組み合わせにより決定できる。特定の実施形態では、生物試料中の式(I)または(II)の化合物の量は、クロマトグラフィー、質量分析、またはこれらの組み合わせを用いて決定できる。特定の実施形態では、生物試料中の式(I)または(II)の化合物の量は、本発明のキットを用いて、LC−MSにより決定できる。
【0170】
キットはまた、例えば、緩衝剤、保存剤、または安定化剤を含んでもよい。キットはまた、アッセイして、試験試料と比較できる対照試料または一連の対照試料を含んでもよい。それぞれのキットの要素は通常、個別の容器中に密閉され、全ての種々の容器は、試験する対象が当該小分子に関連する障害を罹患しているかどうか、またはその障害を発症するリスクがあるかどうかを判定するための説明書と一緒に単一のパッケージ中に収容される。
【0171】
第21の実施形態では、本発明のキットは、上記本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)、および対象から得た生物試料中で検出した該化合物のレベルに基づいて対象の腎機能を評価またはモニターするための説明書を含む。
【0172】
第22の実施形態では、本発明のキットは、上記本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)、および対象から得た生物試料中で検出した該化合物のレベルに基づいて対象における腎機能低下を発症する素因を判定するための説明書を含む。
【0173】
第23の実施形態では、本発明のキットは、上記本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)、および対象から得た生物試料中で検出した該化合物のレベルに基づく腎機能のレベルに応じて対象を分類するための説明書を含む。
【0174】
第24の実施形態では、本発明のキットは、上記本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)、および対象から得た生物試料中で検出した該化合物のレベルに基づいて対象の慢性腎疾患(CKD)を診断またはモニターするための説明書を含む。
【0175】
第25の実施形態では、本発明のキットは、上記本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)、および対象から得た生物試料中で検出した該化合物のレベルに基づいて対象の急性腎傷害(AKI)を診断またはモニターするための説明書を含む。
【0176】
第26の実施形態では、本発明のキットは、上記本発明の化合物(例えば、式(I)または(II)の化合物またはその塩)、および対象から得た生物試料中で検出した該化合物のレベルに基づいて対象のGFRを推定するための説明書を含む。
【0177】
特定の実施形態では、第21〜第26の実施形態に記載のキットにおいて、式(I)または(II)の化合物は、同位体標識される。一実施形態では、式(I)または(II)の化合物は、例えば、トリチウム(
3H)または炭素14(
14C)で放射標識される。別の実施形態では、式(I)または(II)の化合物は、重水素化される、炭素13(
13C)もしくは窒素15(
15N)で標識される、またはこれらの組み合わせである。一例では、式(II)の標識化合物は、内部標準として使用できるN,N,N−トリメチル−
13C
3−L−アラニル−L−プロリン(
13C
3−L,L−TMAP)である。
【0178】
本発明はまた、対象の腎機能の評価またはモニター、腎機能低下を発症する素因の判定、腎機能のレベルに応じた対象の分類、慢性腎疾患の診断またはモニター、対象のGFRの推定について上述した、式(I)または(II)の化合物またはその塩(例えば、薬学的に許容可能な塩)に特異的に結合する抗体または抗体断片を含むキットを提供する。特定の実施形態では、本発明のキットは、上記抗体のV
HおよびV
L配列を含むポリペプチドなどの抗体誘導体を含む。一実施形態では、ポリペプチドは、融合タンパク質である。
【0179】
第27の実施形態では、本発明のキットは、上記の抗体、抗体断片または抗体誘導体、および対象から得た生物試料中で検出した化合物のレベルに基づいて対象の腎機能を評価またはモニターするための説明書を含む。
【0180】
第28の実施形態では、本発明のキットは、上記の抗体、抗体断片または抗体誘導体、および対象から得た生物試料中で検出した化合物のレベルに基づいて対象における腎機能低下を発症する素因を判定するための説明書を含む。
【0181】
第29の実施形態では、本発明のキットは、上記の抗体、抗体断片または抗体誘導体、および対象から得た生物試料中で検出した化合物のレベルに基づき、腎機能のレベルに応じて対象を分類するための説明書を含む。
【0182】
第30の実施形態では、本発明のキットは、上記の抗体、抗体断片または抗体誘導体、および対象から得た生物試料中で検出した化合物のレベルに基づいて対象の慢性腎疾患(CKD)を診断またはモニターするための説明書を含む。
【0183】
第31の実施形態では、本発明のキットは、上記の抗体、抗体断片または抗体誘導体、および対象から得た生物試料中で検出した化合物のレベルに基づいて対象の急性腎傷害(AKI)を診断またはモニターするための説明書を含む。
【0184】
第32の実施形態では、本発明のキットは、上記の抗体、抗体断片または抗体誘導体、および対象から得た生物試料中で検出した化合物のレベルに基づいて対象のGFRを推定するための説明書を含む。
【0185】
特定の実施形態では、上記キット(例えば、第21〜第26の実施形態で記載のキット)は、上記化合物以外の1つまたは複数の追加のバイオマーカーを含み、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、腎機能の評価に関連する。本明細書に記載の任意のバイオマーカーを本発明のキットで使用できる。
【0186】
特定の実施形態では、上記キット(例えば、第27〜第32の実施形態で記載のキット)は、1つまたは複数の追加のバイオマーカーを含み、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、腎機能の評価に関連する。本明細書に記載の任意のバイオマーカーを本発明のキットで使用できる。
【0187】
種々の実施形態では、1つまたは複数のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、ミオイノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン、S−アデノシルホモシステイン、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリジン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、トリプトファン、クレアチニン、尿酸塩、3−インドキシル硫酸、および硫酸p−クレゾールからなる群より選択される。一実施形態では、追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、トリプトファン、フェニルアセチルグルタミン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、キヌレニン、ミオイノシトール、およびクレアチニンからなる群より選択される。別の実施形態では、追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、トリプトファン、フェニルアセチルグルタミン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0188】
特定の実施形態では、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、N−アセチルトレオニン、ミオイノシトール、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0189】
特定の実施形態では、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、N−アセチルトレオニン、ミオイノシトール、キヌレニン、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0190】
特定の実施形態では、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、2−C−マンノピラノシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびミオイノシトールからなる群より選択される。
【0191】
特定の実施形態では、1つまたは複数の追加のバイオマーカーは、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、ミオイノシトール、およびクレアチニンからなる群より選択される。
【0192】
特定の実施形態では、本発明のキットは、上記の本発明の化合物(式(I)または(II)の化合物またはその塩)、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、トリプトファン、フェニルアセチルグルタミンおよびクレアチニンを含む。
【0193】
調製方法
March,Advanced Organic Chemistry,3rd edition,John Wiley & Sons,1985またはGreene and Wuts Protective groups in organic synthesis 2nd edition,John Wiley & sons 1991に記載のもの、およびRichard Larock,comprehensive organic transformations,4th edition,VCH publishers Inc,1989にあるものなどの好適な合成方法に関する文献を参照できる。
【0194】
一実施形態では、式(I)の化合物は、式(III):
の化合物またはその塩を、メチル化試薬と反応させることにより調製できる。
【0195】
別の実施形態では、本発明は、式(II)の化合物の調製方法を提供し、該方法は、式(IV):
の化合物またはその塩を、メチル化試薬と反応させることを含む。
【0196】
別の実施形態では、式(I)の化合物は、式(V):
の化合物またはその塩を、メチル化試薬と反応させることにより調製できる。式中、R
1はHでありR
2はCH
3であるか、またはR
1およびR
2は両方ともCH
3である。
【0197】
別の実施形態では、式(II)の化合物は、式(VI):
の化合物またはその塩を、メチル化試薬と反応させることにより調製できる。式中、R
1はHでありR
2はCH
3であるか、またはR
1およびR
2は両方ともCH
3である。
【0198】
特定の実施形態では、上記方法におけるメチル化試薬は、CH
3Xまたは(CH
3)
2SO
4であり、式中、XはCl、Br、IまたはOSO
2CF
3である。別の実施形態では、メチル化試薬は、ヨードメタン(CH
3I)である。
【0199】
特定の実施形態では、上記の方法におけるメチル化反応は、塩基の存在下で実施される。任意の好適な塩基を使用できる。代表的塩基には、限定されないが、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0200】
一実施形態では、上記の方法におけるメチル化反応は、酸化銀の存在下で実施される。
【0201】
別の実施形態では、上記の方法におけるメチル化反応は、炭酸カリウムの存在下で実施される。
【0202】
特定の実施形態では、上記の方法におけるメチル化反応は、水と有機溶媒の混合物中、または100%の水中で実施される。任意の好適な有機溶媒を使用可能であり、これには、限定されないが、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。例えば、メチル化反応は、メタノールと水の混合物中で実施される。メタノールの、水に対する体積比は、1:10〜10:1、1:5〜5:1、5:1〜1:1、4:1〜1:1とすることができる。一実施形態では、メタノールの水に対する体積比は、約4:1である。
【実施例】
【0203】
材料と方法
試薬と測定器
酸化銀、炭酸カリウム、ヨードメタン、および質量分析グレード(98%)ギ酸を、Sigma−Aldrichから、HPLCグレードのメタノールおよび水をFisher Scientificから、重水(99.8%)をAcrosから、L−アラニル−L−プロリンを東京化成工業株式会社から入手した。Fisher Scientificのボルテックス混合機を混合に使用し、Sorvall Legend Micro 21R微量遠心機を1.5mLエッペンドルフチューブの遠心分離に使用した。Corningラボラトリースターラーを用いて化学反応を撹拌した。ヒト血漿(K2−EDTA)を、Bioreclamationから取得し、−80℃で貯蔵した。Argonaut SPE DRY(商標)96 DUALエバポレーターを用いて溶媒を蒸発させた。
【0204】
クロマトグラフィー
二成分溶媒マネージャー、冷凍保存試料マネージャー(12℃に設定)およびカラムマネージャー(40℃に設定)を備えたWaters Acquity UPLCシステムを、逆相カラム(Waters ACQUITY UPLC(登録商標)BEH C18、1.7μm、2.1x100mm)を用いて、液体クロマトグラフィー用として使用した。移動相Aは水中の0.1%ギ酸とし、移動相Bはメタノール中の0.1%ギ酸とした。重水素交換実験では、代わりに、移動相Aを重水中の0.1%ギ酸とした。直線勾配溶離は、0%移動相Bで保持2.00分間の初期条件で実施した。次に、移動相Bを0.50分で98%に増加させ、0.90分間維持した。次の注入に対する平衡のために移動相Bを0.10分で0%に戻した。流量を350μL/分で、総実行時間は4.50分であった。各試料について、ループ固定で分取量5.0μLの最終試料溶液を注入した。溶出液を質量分析計のエレクトロスプレー源に直接導入した。強力なニードル洗浄液を未希釈メタノール、弱いニードル洗浄液をメタノールと水の混合物(0.5:99.5)とした。シール洗浄液をメタノールと水の混合物(10:90)とした。
【0205】
質量分析
この調査では、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI−II)プローブを備えたThermo Scientific Orbitrap Elite質量分析計をポジティブモードで使用した。測定器は、Orbitrap Elite(商標)2.7およびXCalibur(商標)2.2ソフトウェアにより制御した。加熱エレクトロスプレー源を次のように設定した。ヒーター温度:430℃、シースガス:30、および補助ガス流量:12、スイープガス:0、イオンスプレー電圧:4.20kV、キャピラリー温度:350℃、およびS−レンズ RFレベル:65%。30,000の解像度を使用して、m/z 100〜300の質量範囲で、フルスキャンFTMS(フーリエ変換質量分析)スペクトルを収集した。全てのMSフラグメンテーション実験で、0.250の活性化Qおよび10.0msの活性化時間と共に、15,000の解像度を使用した。MS
2実験の正規化衝突エネルギーは31.0eVで、1.0m/zの単離幅およびm/z 60〜240のスキャン範囲であった。m/z 229.1547/142.0860(または重水素交換では、230.1610/143.0925)のMS
3実験では、正規化衝突エネルギーは第1と第2段目のフラグメンテーションに対しそれぞれ31.0および25.0eVで、両段でm/z 2.0の単離幅、m/z 50〜240のスキャン範囲であった。m/z 229.1547/170.0810(または重水素交換では、230.1610/171.0878)のMS
3実験では、正規化衝突エネルギーは第1と第2段目のフラグメンテーションに対しそれぞれ31.0および30.0eVであった。単離幅は、第1段と第2段のフラグメンテーションに対しそれぞれ、m/z 3.0および2.0で、スキャン範囲は、m/z 50〜240であった。m/z 229.1547/142.0860/114.0911(または重水素交換では、230.1610/143.0925/115.0976)のMS
4実験では、正規化衝突エネルギーは第1〜第3段目のフラグメンテーションに対しそれぞれ31.0、20.0、および20.0eVであった。単離幅は、全3段に対し、m/z 2.0で、スキャン範囲は、m/z 50〜240であった。
【0206】
実施例1.N,N,N−トリメチル−L−アラニル−L−プロリン(TMAP)の合成
方法1.磁気攪拌子を備えた4mLのガラスバイアルに、L−アラニル−L−プロリン(20.0mg、0.108mmol)、酸化銀(100mg、0.432mmol)、および1.0mLのメタノール/水(4:1)を加えた。室温下、混合物をマグネチックスターラで撹拌し、75μLのヨードメタン(171mg、1.2mmol)を加えた。バイアルを緩くキャッピングし、混合物を室温下、暗所で一晩撹拌した。得られた混合物を、40℃の穏やかな窒素流下で蒸発乾固させた。水(1.0mL)を残留物に加え、混合物を2分間超音波処理した。次に、混合物を1.5mLのエッペンドルフチューブに移し、室温で14,000rpmで10分間遠心分離した。透明な上清を水中の0.1%ギ酸で10,000倍に希釈し、LC/MS分析のために試料バイアルに移した。N,N,N−トリメチル−
13C
3−L−アラニル−L−プロリン(
13C
3−L,L−TMAP)を合成するために、ヨードメタンをヨードメタン−
13Cで置換したこと以外は、同じ合成手順を用いた。
【0207】
図18Aおよび18Bは、
13C標識したTMAP(
13C
3−L,L−TMAP)の
13C−NMRスペクトルを、非標識TMAPと比較して示す。
図19Aおよび19Bは、
13C標識したTMAP(
13C
3−L,L−TMAP)の質量スペクトルを、非標識TMAPと比較して示す。
【0208】
方法2.磁気攪拌子を備えた4mLのガラスバイアルに、L−アラニル−L−プロリン(20.0mg、0.108mmol)、炭酸カリウム(50.0mg、0.362mmol)、および1.0mLのメタノール/水(4:1)を加えた。室温下、溶液混合物をマグネチックスターラで撹拌し、75μLのヨードメタン(171mg、1.2mmol)を加えた。バイアルを緩くキャッピングし、混合物を室温下、暗所で一晩撹拌した。得られた混合物を、40℃の穏やかな窒素流下で蒸発乾固させた。残留物を1.0mLの水に溶解した。溶液を水中の0.1%ギ酸で10,000倍に希釈し、LC/MS分析のために試料バイアルに移した。
【0209】
方法3.第3の合成手法に対する一般的戦略を以下に示す。保護されたカルボキシル基を有するジペプチドを出発分子として使用し得る。任意の好適なカルボキシル保護基を使用できる(T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,Wiley−Interscience,New York 1999)。一実施形態では、保護基Xは、メチル、エチル、tert−ブチル、またはベンジル基などのアルキル基であってよい。別の実施形態では、保護基は、トリアキルシリル基などのシリル基(例えば、トリメチルシリル基)である。保護基Xの除去は、保護基Xの性質に依存する。一実施形態では、保護基は、酸による処理で除去できる。
【0210】
この一般的戦略の一例では、t−ブチルエステルにより保護されたカルボキシル基を有するジペプチドを使用し得る。保護基の除去に続けてメチル化反応により、以下に示すように、TMAPが生成されることになる。本方法は、より低い極性の出発材料が反応プロセスを容易にするために、より優れた反応収率およびより高い生成物純度の点で有利であり得る。
【0211】
方法4.第4の合成方法に対する一般的戦略を以下に示す。N,N,N−トリメチル−L−アラニンおよび保護されたカルボキシル基を有するL−プロリンを出発分子として使用する。上記の任意の好適なカルボキシル保護基を使用できる。カルボキシル基を活性剤により活性化することにより、カップリング反応を実現し得る。一実施形態では、活性剤はカルボジイミド、ウロニウム、活性エステル、ホスホニウム、2−アルキル−1−アルキルカルボニル−1,2−ジヒドロキノリン、2−アルコキシ−1−アルコキシカルボニル−1,2−ジヒドロキノリン、またはアルキルクロロホルメートである。特定の実施形態では、活性剤は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、またはジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などのカルボジイミドである。別の実施形態では、カルボキシル基は、例えば、SOCl
2、塩化オキサリル、またはその他の好適な試薬を用いて、アシルハライドの形成により活性化できる。保護基Xの除去は、保護基Xの性質に依存する。一実施形態では、保護基は、酸による処理で除去される。
【0212】
この一般的戦略の一例では、N,N,N−トリメチル−L−アラニンおよびt−ブチルエステルにより保護されたカルボキシル基を有するL−プロリンを使用し得る。N,N,N−トリメチル−L−アラニンと、カルボキシル基保護L−プロリンとのカップリングは、EDCまたは任意の他の好適な上記の活性剤により実現し得る。保護基の除去により、TMAPが生成されることになる。
【0213】
方法5.別の例では、出発材料は、N−メチル−L−アラニル−L−プロリン(R
1=HおよびR
2=CH
3)またはN,N−ジメチル−L−アラニル−L−プロリン(R
1=R
2=CH
3)であってよく、方法1で記載の反応条件を使用し得る。
【0214】
実施例2.血漿代謝物化合物Aの構造解明
試料調製
1.5mLエッペンドルフチューブ中に、100μLのヒト血漿(氷上で解凍)および500μLのメタノールを加えた。混合物を2分間ボルテックスし、室温で14,000rpmで5分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、40℃の緩やかな窒素流下で乾燥した。残留物に200μLの0.1%のギ酸を含む水を加え、混合物を1分間ボルテックスし、室温下、14,000rpmで10分間遠心分離した。その後、上清をLC/MS分析のために試料バイアルに移した。
【0215】
構造解明
Orbitrap Elite質量分析計を用いて、高解像度質量スペクトルを取得した。プロトン化擬分子イオンの式は、以前に精密質量測定により、C
11H
21O
3N
2+であると決定された。今回の調査は、抽出イオンクロマトグラムに示すように(
図1)そのピーク形状に大きな強調をすることなく、代謝物化合物Aのより長い保持(1.48分)を達成するように、クロマトグラフィー条件を最適化することにより開始した。擬分子イオンの衝突誘起解離(CID)は、
図2に示すように、7つの娘イオンを生成した。これらは、m/z 170、142、126、124、114.09、114.05、および70である(全て精密質量で収集したが、簡潔にするため以降では省略した)。以前にQ−Exactive質量分析計で収集した代謝物のプロダクトイオンスペクトル(MS
2)は、2つの追加の娘イオン、m/z 96および58を示した(
図3)。主要イオンm/z 142のさらなるフラグメンテーション(MS
3、
図4)により、m/z 70、114.09、およびm/z 96イオンを生成したが、これは、Orbitrap CID MS
2スペクトルでは検出されなかった。m/z 114.05イオンは、m/z 142のフラグメンテーションからは検出されなかったが、その代わりに、m/z 170のフラグメンテーションにより形成された(MS
3、
図5)。m/z 114.09がさらにフラグメンテーションされると(MS
4、
図6)、m/z 70イオンが検出された。
【0216】
これらの断片の理論的説明およびそれらの形成経路により、化合物Aの化学構造を以下に示すように提案可能となった。
【0217】
化合物Aに対し立体化学分析を実施し、式は下記の構造により表されると決定された。
【0218】
化合物Aのプロトン化擬分子イオンからの可能なフラグメンテーション経路はスキーム1に示すように提案される。
スキーム1.可能なフラグメンテーション経路
【0219】
重水素交換による構造検証
化合物Aの提案構造を最初に重水素交換実験により検証した。簡単に説明すると、クロマトグラフィーの移動相を重水素化溶媒に交換し、血漿抽出物を再度分析した。フルスキャン質量スペクトルを取得し、新規のm/z 230.16079イオン(C
11H
20DN
2O
3+の計算値から−0.7ppm外れる)を重水素化化合物Aの主要種として検出し(
図7)、これは、提案した構造の単一の交換可能なプロトンと一致する。m/z 230イオンのプロダクトイオンスペクトル(MS
2)および対応するm/z 143イオンのMS
3スペクトルを
図8および
図9に示す。対応する重水素化断片は、171、143、127、115.09、115.06、および71に検出されたが、124および96の断片は変化しないでそのまま残った。全てのこれらのイオンは、元々提案したフラグメンテーション経路(スキーム2参照)中に組み込んでうまく理論的に説明でき、化合物Aの提案した構造の妥当性に対して納得できる証拠が得られた。
【0220】
スキーム2.重水素化類似体の可能なフラグメンテーション経路
【0221】
提案した構造を、合成標準(実施例1参照)に対する直接比較によりさらに確証した。方法1および方法2の両方により調製した合成TMAPは、LC/MSにより、それぞれ、m/z 229.15415(計算値から−2.3ppm外れる)および229.15403(計算値から−2.8ppm外れる)の分子イオンを含む1.44分の溶離液を生成した。方法1により調製された生成物を、化合物Aとのさらなる比較用として選択した。
【0222】
クロマトグラフ条件下で、合成TMAPと化合物Aを共溶出した場合(下段パネル)、合成TMAPの保持時間(
図10の中央パネル)は、(上段パネル)の保持時間と完全に一致した。予想外の成果として、合成TMAPの特徴的なピークの尾引きもまた、化合物Aのものに類似している。合成TMAPのプロダクトイオンスペクトル(MS
2)は、化合物Aのものと、断片およびそれらの相対強度に関し、極めてよく一致した(
図11)。合成TMAPの142および170娘イオンのさらなるフラグメンテーションは、MS
3スペクトルを生成し、これは、それぞれ
図12と13で並べて比較すると、化合物Aのものと基本的に同一である。合成TMAPのm/z 114イオンのMS
4スペクトルは、m/z 70断片を示し、化合物Aのものと一致した(
図14)。さらに、合成TMAPを重水素交換後分析し、得られたMS、MS
2、およびMS
3スペクトルも、
図15〜17に示すように、化合物Aのものに極めてよく一致した。全てのこれらのクロマトグラフおよびMSスペクトルデータは、化合物AがTMAPであることを強く裏付ける。
【0223】
実施例3.腎機能のためのバイオマーカーとしての化合物A
健常および病気の個体由来の多数の血漿および血清試料を分析することにより広範囲な研究を実施した(国際公開第2014/186311号を参照されたい)。結果は、特に中程度のeGFRの患者において、化合物Aの血清レベルが糸球体濾過量(GFR)と統計的に有意に相関することを示している(例えば、国際公開第2014/186311号の表1、2および4を参照されたい)。中程度のeGFRの患者では、従来の診断方法を用いた場合、腎機能の評価およびCKDの診断は断定できない。
【0224】
TMAPのCKD−EPIcr eGFRとの相関は−0.648で、MDRDcr eGFRとの相関は−0.582である。血清クレアチニンのCKD−EPIcr eGFRとの相関は−0.673で、MDRDcr eGFRとの相関は−0.632である。
【0225】
実施例4.化合物AのLC−MS/MS測定
逆相液体クロマトグラフィーを実施して、化合物Aを測定した。二成分溶媒マネージャー、冷凍保存試料マネージャー(12℃に設定)およびカラムマネージャー(40℃に設定)を備えたWaters Acquity UPLCシステムを、逆相カラム(Waters ACQUITY UPLC(登録商標)BEH C18、1.7μm、2.1x100mm)を用いて、液体クロマトグラフィー用として使用した。移動相Aは水中の0.1%ギ酸とし、移動相Bはメタノール中の0.1%ギ酸とした。直線勾配溶離は、0%移動相Bで保持2.00分間の初期条件で実施した。次に、移動相Bを0.50分で98%に増加させ、0.90分間維持した。次の注入に対する平衡のために移動相Bを0.10分で0%に戻した。流量を350μL/分で、総実行時間は4.50分であった。各試料について、ループ固定で分取量5.0μLの最終試料溶液を注入した。溶出液を質量分析計のエレクトロスプレー源に直接導入した。強力なニードル洗浄液を未希釈メタノール、弱いニードル洗浄液をメタノールと水の混合物(0.5:99.5)とした。シール洗浄液をメタノールと水の混合物(10:90)とした。
【0226】
ポジティブモードで動作する加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI−II)プローブを備えたThermo Scientific Orbitrap Elite質量分析計を用いて質量分析を実施した。測定器は、Orbitrap Elite(商標)2.7およびXCalibur(商標)2.2ソフトウェアにより制御した。加熱エレクトロスプレー源を次のように設定した。ヒーター温度:430℃、シースガス:30、および補助ガス流量:12、スイープガス:0、イオンスプレー電圧:4.20kV、キャピラリー温度:350℃、およびS−レンズ RFレベル:65%。30,000の解像度を使用して、m/z 100〜300の質量範囲で、フルスキャンFTMS(フーリエ変換質量分析)スペクトルを収集した。全てのMSフラグメンテーション実験で、0.250の活性化Qおよび10.0msの活性化時間と共に、15,000の解像度を使用した。親イオンのMS
2実験の正規化衝突エネルギーは31.0eVで、1.0m/zの単離幅およびm/z 60〜240のスキャン範囲であった。m/z 229.1547/142.0860のMS
3実験では、正規化衝突エネルギーは第1と第2段目のフラグメンテーションに対しそれぞれ31.0および25.0eVで、両段でm/z 2.0の単離幅、m/z 50〜240のスキャン範囲であった。m/z 229.1547/170.0810のMS
3実験では、正規化衝突エネルギーは第1と第2段目のフラグメンテーションに対しそれぞれ31.0および30.0eVであった。単離幅は、第1段と第2段のフラグメンテーションに対しそれぞれ、m/z 3.0および2.0で、スキャン範囲は、m/z 50〜240であった。m/z 229.1547/142.0860/114.0911のMS
4実験では、正規化衝突エネルギーは第1〜第3段目のフラグメンテーションに対しそれぞれ31.0、20.0、および20.0eVであった。単離幅は、全3段に対し、m/z 2.0で、スキャン範囲は、m/z 50〜240であった。