【実施例】
【0094】
[実施例1]マウスモノクローナル抗体の作製
マウスモノクローナル抗体は、Kohlerら(Nature 256:495−497、1975)のハイブリドーマ法により作製し得る。IGF−I受容体アゴニスト抗体は、マウスにヒトIGF−I受容体を発現させた細胞を用いて免疫して、標準的なハイブリドーマ技術を使用して作製した。全ての動物実験は、施設の規則に従って実施した。マウスから採取した脾臓由来の細胞とマウスミエローマ細胞株(P3U1)との融合による標準的な方法を使用して実施した。ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含有する培地を使用してハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマの培養液を用いて、IGF−I受容体を発現させた細胞を用いたCell ELISAによる結合性評価、及びPathHunter(登録商標)によるIGF−I受容体の細胞内チロシンキナーゼの活性化の評価を実施し、陽性ハイブリドーマ含有ウェルを選択した。このウェルに含まれるハイブリドーマを限界希釈法によってシングルクローン化した。このシングルクローン化した陽性ハイブリドーマを無血清培養して、培養液中からプロテインAカラム(Ab−Capcher、プロテノバ)を使用してモノクローナル抗体を精製した。このモノクローナル抗体を使用して、ヒト筋芽細胞増殖活性評価によりIGF−I受容体アゴニスト抗体であるIGF11−16を見出した。
【0095】
[実施例2]抗体アイソタイプの決定
IGF−I受容体アゴニスト抗体の抗体アイソタイプを決定するために、抗体のアイソタイプに特異的な抗体を用いて、ELISAを実施した。PBSにて2000倍希釈した抗マウスIgG抗体(TAGO、6150)を、50μL/ウェルで96ウェルプレート(Nunc、MaxiSorp)に添加し、4℃で一晩静置した。96ウェルプレートを3%BSA/PBSに置換したものをELISAに使用した。IGF−I受容体アゴニスト抗体を、抗マウスIgG抗体を固定化させた96ウェルプレートに30μL/ウェルで添加し、室温にて1.5時間反応させた。洗浄液にて洗浄した後、マウスIgGの各種アイソタイプに特異的に反応する抗体、抗マウスIgG1抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1070−04)、抗マウスIgG2a抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1080−04)、抗マウスIgG2b抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1090−04)及び抗マウスIgG3抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1100−04)、を30μL/ウェルで添加し、室温にて1時間反応させた。基質(PNPP)を100μL/ウェルで添加し、室温にて45分間反応させ、吸光度405−550nmを算出した。吸光度405−550nmの値を結合活性として評価した。
IGF11−16は、抗マウスIgG1抗体に反応性を示すことから、抗体のアイソタイプはIgG1であった。
【0096】
[実施例3]抗体の配列の決定
IGF−I受容体アゴニスト抗体の軽鎖及び重鎖の遺伝子配列を決定するために、SMARTer(登録商標) RACE法を実施した。抗体を産生するハイブリドーマ由来のRNAから開始及び終始コドンを含む抗体の重鎖及び軽鎖の遺伝子の断片をSMARTer(登録商標) RACE法により取得し、その塩基配列を決定した。ハイブリドーマ由来のTotal RNAを鋳型としてSMARTer(登録商標) RACE 5’/3’ Kit(634859、Clontech)を用いて、1st strand cDNAを合成した後、PCR反応によりcDNAを増幅させた。そのcDNAを鋳型として、キットに付属のユニバーサル配列に対するプライマーと、抗体の重鎖及び軽鎖にそれぞれ特異的なプライマーを用いてPCR反応を行った。マウス抗体の軽鎖(kappa)はAccession番号BC080787、マウス抗体のIgG1はLT160966を参照してプライマーを設計した。マウス抗体の軽鎖に対するプライマーの塩基配列は、ggtgaagttgatgtcttgtgagtggを設計し、マウス抗体の重鎖に対するプライマーの塩基配列は、gctcttctcagtatggtggttgtgcを設計し、それぞれを実験に用いた。得られたPCR産物は5‘RACE PCR産物としてTAクローニングに用いた。
【0097】
TAクローニングでは、5‘RACE PCR産物を電気泳動して目的とする分子量を含むcDNAをQIAEX II Gel Extraction Kit(20021、Qiagen)を用いて精製した。精製後のcDNAはTaKaRa−Taq(R001A、Takara)を用いて72℃、5分間反応させることにより5’及び3‘末端にアデニンを付加させた。そのcDNAをTOPO(登録商標) TA クローニング(登録商標) キット(450641、Thermo fisher)を用いて添付のプロトコールに従い、Topoisomerase I−activated pCR(登録商標)II−TOPO(登録商標) vector(以下、TOPO vector)にクローニングした。目的のcDNAがクローニングされたTOPO vectorを大腸菌TOP10に形質転換させ、カナマイシン50μg/mL含有の寒天培地で培養した。TOPO vectorへの目的とするcDNAの挿入はコロニーPCRにより確認した。クローニングしたcDNAの塩基配列を同定した。同様に3’RACE PCR産物の塩基配列を同定し、抗体の遺伝子の全長配列を決定した。IGF11−16の軽鎖の全長遺伝子配列を配列番号27に、全長アミノ酸配列を配列番号28に、IGF11−16の重鎖の全長遺伝子配列を配列番号29に、全長アミノ酸配列を配列番号30に示す。また、IGF11−16のCDR−H1は配列番号3、CDR−H2は配列番号4、CDR−H3は配列番号5、CDR−L1は配列番号6、CDR−L2は配列番号7、CDR−L3は配列番号8、重鎖可変領域は配列番号9、軽鎖可変領域は配列番号10に示す。
【0098】
[実施例4]IGF−I受容体に対する結合活性(ELISA)
ヒト(配列番号2、NP_000866)、モルモット(配列番号11、XP_003475316)、カニクイザル(配列番号12、NP_001248281)、ウサギ(配列番号13、XP_017193273)、ラット(配列番号14、NP_494694)及びマウス(配列番号15、NP_034643)のIGF−I受容体に対するIGF−I受容体アゴニスト抗体の結合活性を検討するために、各種IGF−I受容体を発現させた細胞を用いてCell ELISAを実施した。
【0099】
P3U1細胞にリポフェクション法によりヒト(配列番号16)、モルモット(配列番号17)、カニクイザル(配列番号18)、ウサギ(配列番号19)、ラット(配列番号20)及びマウス(配列番号21)のIGF−I受容体遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermofisher)を導入した。リポフェクション後に一晩以上培養させたP3U1細胞を0.8×10
5cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ―D―リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定した。3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0100】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて10nMに調製されたIGF11−16抗体溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間30分反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を50μL添加して反応を開始させた。約20分後に各ウェルに50μLの0.5M硫酸を添加して450及び550nmの吸光度を測定し、吸光度450−550nmを算出した。IGF−I受容体遺伝子を含まないベクターを導入した細胞(Mock細胞、配列番号22)に対する吸光度450−550nmの値を1として、結合活性を算出した(表1)。
【0101】
【表1】
【0102】
IGF11−16は、ヒト、モルモット、カニクイザル及びウサギのIGF−I受容体を発現させた細胞では、Mock細胞と比較して、結合活性を5倍以上上昇させた。一方、IGF11−16のラット及びマウスのIGF−I受容体を発現させた細胞に対する結合活性は、Mock細胞と同程度であり、上昇させなかった。これらのことからIGF11−16は、ヒト、モルモット、カニクイザル及びウサギのIGF−I受容体に結合するが、ラット及びマウスのものには結合しないことが示された。
【0103】
[実施例5]インスリン受容体に対する結合活性(ELISA)
インスリン受容体に対するIGF−I受容体アゴニスト抗体の結合活性を検討するために、ヒトインスリン受容体を発現させた細胞を用いてCell ELISAを実施した。
【0104】
HEK293T細胞にリポフェクション法によりヒトのインスリン受容体遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermofisher)を導入した。リポフェクション後のHEK293T細胞を0.8×10
5cells/ウェル(約180μL/ウェル)で96ウェルプレート(ポリ―D―リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定した。3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0105】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗体溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液(Tween含有トリス緩衝液)にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗マウスIgG抗体ALPコンジュゲート溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(PNPP)を100μL添加して反応を開始させた。約30分後に405及び550nmの吸光度を測定し、吸光度405−550nmを算出した。IGF−I受容体の遺伝子及びインスリン受容体の遺伝子を含まないベクターを導入した細胞(Mock細胞、配列番号22)に対する吸光度405−550nmの値を1として、結合活性を算出した(表2)。
【0106】
【表2】
【0107】
IGF11−16の0.5nM及び5nMは、ヒトIGF−I受容体を発現させた細胞を固定化したELISAでは、吸光度405−550nmを、Mock細胞と比較して約3倍以上まで上昇させた。一方、ヒトインスリン受容体を発現させた細胞を固定化したELISAでは、IGF11−16の0.5nM及び5nMは、吸光度405−550nmを1.5倍以上上昇させなかった。このことから、IGF11−16は、インスリン受容体と比較して、IGF−I受容体により強く結合した。
【0108】
[実施例6]IGF−I受容体の結合部位の解析(ELISA)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のIGF−I受容体に対するエピトープを同定するために、IGF−I受容体の各種ドメインを、IGF−I受容体と類似構造を有するインスリン受容体のドメインと置換した変異体に対するIGF−I受容体アゴニスト抗体の結合性を測定した。
【0109】
ヒトIGF−I受容体(NP_000866)の細胞外ドメインをインスリン受容体の細胞外ドメインで置換させた置換体、又は、ヒトインスリン受容体(NP_000199)の細胞外ドメインをIGF−I受容体の細胞外ドメインで置換した、以下の4つの置換体を作製した。
(置換体1)ヒトインスリン受容体のL1ドメインからL2ドメインまでを、ヒトIGF−I受容体のL1ドメインからL2ドメインに置換した置換体、hIGFIR[L1−L2]/hINSR。
(置換体2)ヒトIGF−I受容体のL1ドメインからL2ドメインまでを、ヒトインスリン受容体のL1ドメインからL2ドメインに置換した置換体、hINSR[L1−L2]/hIGFIR。
(置換体3)ヒトIGF−I受容体のL1ドメインを、ヒトインスリン受容体のL1ドメインに置換した置換体、hINSR[L1]/hIGFIR。
(置換体4)ヒトIGF−I受容体のL2ドメインを、ヒトインスリン受容体のL2ドメインに置換した置換体、hINSR[L2]/hIGFIR。
【0110】
P3U1細胞にリポフェクション法により、上記4種のヒトIGF−I受容体の置換体の遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermofisher)を導入した。(置換体1)のhIGFIR[L1−L2]/hINSRの遺伝子を配列番号23に、(置換体2)のhINSR[L1−L2]/hIGFIRの遺伝子を配列番号24に、(置換体3)のhINSR[L1]/hIGFIRの遺伝子を配列番号25に、(置換体4)のhINSR[L2]/hIGFIRの遺伝子を配列番号26に示す。リポフェクション後に一晩以上培養したP3U1細胞を0.8×10
5cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ−D−リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定した。3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0111】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて10nMに調製された抗体溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間30分反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて5nMに調製された抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を50μL添加して反応を開始させた。約20分後に0.5M硫酸を50μL添加して反応を停止し、450及び550nmの吸光度を測定し、吸光度450−550nmを算出した。各置換体の遺伝子を含まないベクターを導入した細胞(Mock細胞)に対する吸光度450−550nmの値を1として、結合活性を算出した(表3)。
【0112】
【表3】
【0113】
IGF11−16は、hIGFIR[L1−L2]/hINSR、hINSR[L1]/hIGFIR及びhINSR[L2]/hIGFIRを発現させた細胞を固定化したELISAでは、吸光度450−550nmをMock細胞に対して5倍以上上昇させた。一方、hINSR[L1−L2]/hIGFIRを発現させた細胞に対するIGF11−16の結合活性は、弱かった。このことからIGFI1−16は、IGF−I受容体のCRドメインに結合することが示された。
【0114】
[実施例7]IGF11−16のエピトープの決定
IGF11−16のエピトープであるCRドメインから、さらに詳細なエピトープを同定するために、IGF11−16のIGF−I受容体に対する結合性の種差から結合配列を推定した。
図1に、それぞれの種におけるIGF−I受容体のCRドメインのアミノ酸配列を示す。
【0115】
IGF11−16は、ヒト、モルモット及びウサギのIGF−I受容体に結合するが、マウス及びラットのIGF−I受容体には結合しない。このことから、IGF−I受容体のCRドメインのアミノ酸配列のうち、ヒト、モルモット及びウサギに共通して、マウス及びラットとは異なるアミノ酸配列を、IGF11−16のエピトープとして推定した。
【0116】
IGF11−16がIGF−I受容体のCRドメインのどの部位のアミノ酸に結合するのかを決定するために、CRドメインの各種アミノ酸置換体に対する結合性をELISAにより測定した。
【0117】
CRドメインのうち、IGF11−16との結合が推定されるアミノ酸配列を変異させたIGF−I受容体を発現させた細胞を用いてCell ELISAを実施した。
【0118】
CRドメインの各種アミノ酸置換体は、以下の3種を用いた。また、陽性対照として野生型のヒトIGF−I受容体、陰性対照として野生型のラットIGF−I受容体をpEF1発現ベクター(Thermofisher)に組込んだものを用いた。各種IGF−I受容体の発現量は、IGF−I受容体の細胞内ドメインに付加したFLAGタグ(AspTyrLysAspAspAspAspLys)に対するFLAG M2抗体の反応性を指標とした。
(CRドメインの置換体1)ヒトIGF−I受容体(NP_000866、配列番号2)のアミノ酸配列、245番目及び247番目のアスパラギン酸及びアラニンを、それぞれアスパラギン及びトレオニンに置換させた。
(CRドメインの置換体2)ヒトIGF−I受容体(NP_000866、配列番号2)のアミノ酸配列、294番目のグルタミン酸を、アスパラギン酸に置換させた。
(CRドメインの置換体3)ヒトIGF−I受容体(NP_000866、配列番号2)のアミノ酸配列、315番目及び316番目のグリシン及びセリンを、それぞれセリン及びトレオニンに置換させた。
【0119】
HEK293T細胞を9×10
6cells/ウェルでポリ―D−リジンコートされた10cmディッシュに播種した。翌日に各プラスミドDNAをリポフェクション法により細胞に導入した。その翌日に0.25%トリプシン/EDTAを用いてHEK293T細胞を剥がして、培養液にて懸濁した。HEK293T細胞を0.8×10
5cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ―D−リジンコート)に添加して、37℃、5%CO
2の条件で一晩インキュベートした。96ウェルプレートから培地を除去して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定し、ブロッキングバッファー(3%BSA/PBS/アジ化ナトリウム)に置換したものをELISAに使用した。
【0120】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて1nMに調製されたIGF11−16抗体又はFLAG M2抗体溶液を各ウェルに50μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに50μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を100μL添加して反応を開始させた。約30分後に0.5M硫酸を100μL添加して、反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。吸光度450nmの値を結合活性として評価した。
【0121】
結果を
図2に示す。CRドメインの各置換体を発現させた細胞に対するFLAG M2抗体の反応性は同等であり、CRドメインの各置換体の発現量はほぼ同じレベルであることが確認された。IGF11−16は、CRドメインに変異を導入していない、野生型のヒトIGF−I受容体に対して、吸光度450nmの値を2以上まで上昇させ、結合活性の亢進を示した。CRドメインの置換体1及び2に対して、IGF11−16は、吸光度450nmの値を2以上まで上昇させ、結合活性の亢進を示した。一方、CRドメインの置換体3の吸光度450nmの値は約1であり、陰性対照であるラットIGF−I受容体の吸光度と同程度であり、結合性は認められなかった。これらのことから、IGF11−16の、IGF−I受容体のCRドメインに対する結合活性は、IGF−I受容体の315番目及び316番目のアミノ酸が重要であることが示された。
【0122】
以上の結果から、IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対する結合部位は、315番目及び316番目のGly(グリシン)とSer(セリン)の近傍と推定された。一般的に抗体の認識配列はアミノ酸8残基(6から10残基の平均値)であること、及びIGF11−16の交差反応性(ラットのIGF−I受容体に対する結合性なし、ウサギ及びヒトのIGF−I受容体に対する結合性を有する)から、IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対する結合部位の推定配列は、ProSerGlyPheIleArgAsnGly
*Ser
*GlnSerMetと考えられた(Gly
*Ser
*は、315番目及び316番目のアミノ酸配列を示す)。
【0123】
[実施例8]表面プラズモン共鳴法によるIGF−I受容体に対する結合親和性
薬剤のIGF−I受容体に対する結合特性(結合速度及び解離速度)を検討するために、表面プラズモン共鳴(SPR)法により測定した。
【0124】
センサーチップCM3(GE)に、anti−His monoclonal antibodyを、Amine Coupling Kit(BR−1000−50、GE)及びHis Capture Kit(28−9950−56、GE)を使用して固定した。固定条件は、NHS/EDC 7分、50μg/mL anti−His monoclonal antibody 3分、Ethanolamin 7分、Target:≧3000RUで実施した。アナライトは、各濃度の薬剤を使用した。リガンドは、リコンビナントヒトIGF−I受容体ヒスチジンタグ(305−GR−050、R&D SYSTEMS、以下IGF−IR−His)を使用した。陰性対照は、Purified Mouse IgG2a、κ、Isotype Ctrl、Clone:MG2a−53(401502、BioLegend、以下ctrl IgG2a)を使用した。
【0125】
Anti−His monoclonal antibodyの固定化されたセンサーチップCM3を、Biacore T200に設置し、反応温度を36℃に設定し、ランニングバッファー(HBS−EP+、BR−1006−69、GE)を流速30μL/分で流した。リガンドの結合量を約100RUとなるように設定して、IGF−IR−Hisを0.5〜2×10
−8mol/Lで添加して、anti−His monoclonal antibodyに補足させた。10nmol/LのCtrl IgG2aを1分間反応させ、HBS−EP+を流速30μL/分で10分以上流した。アナライト及びHBS−EP+を、フローセル(1及び2)及びフローセル(3及び4)にそれぞれ添加して反応させた。
【0126】
反応条件は、結合時間、600秒及び乖離時間、600秒に設定した。反応終了後、再生用バッファー1(0.2%SDS)、再生用バッファー2(100 mmol/L Tris−HCl(pH8.5)、1mol/L NaCl、15mmol/L MgCl
2)及び再生用バッファー3(10mmol/L グリシン−HCl(pH1.5))で、それぞれ1分間、流速30μL/分で洗浄した。Biacore T200 Evaluation software(ver2.0)を使用して、1:1 BindingのModelで解析し、解離速度定数(ka、1/Ms)、結合速度定数(kd、1/s)及び解離定数(KD、M)を算出した。結果を表4に示す。
【0127】
【表4】
【0128】
IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対するkaは、IGF−Iの約1/5であり、結合速度は遅かった。一方、IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対するkdは、測定機器の測定下限より低値であり、IGF−Iの1/1000より低値であることから、解離速度は非常に遅く、IGF11−16はIGF−I受容体に結合すると解離しづらいことが示された。IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対するKDは、IGF−Iの1/50より低値であり、強い結合強度を示した。IGF11−16はIGF−Iと比較してIGF−I受容体に対して強い結合活性を有することが示された。
【0129】
[実施例9]PathHunter(登録商標)によるIGF−I受容体あるいはインスリン受容体の活性化作用
IGF−I受容体アゴニスト抗体のIGF−I受容体に対する活性化作用を検出するために、PathHunter(登録商標)IGF1R Functional Assay(DiscoverX)を用いてIGF−I受容体の下流シグナルの活性化を測定した。
【0130】
IGF−I受容体及びIGF−I受容体の細胞内のチロシンキナーゼと結合するSH2ドメインを持つアダプタープロテインSHC1−Enzyme Acceptor(EA)融合タンパク質を、細胞内に強制発現させた細胞株を用いた。IGF−I受容体アゴニスト抗体のインスリン受容体に対する活性化作用を検出するために、PathHunter(登録商標)INSR Functional Assay(DiscoverX)を用いてインスリン受容体の下流シグナルの活性化を測定した。インスリン受容体及びインスリン受容体の細胞内のチロシンキナーゼと結合するSH2ドメインを持つアダプタープロテインPLCG1−EA融合タンパク質を、細胞内に強制発現させた細胞株を用いた。これらの細胞株は、IGF−I受容体あるいはインスリン受容体へのリガンド結合によって受容体の二量体化が起こり、続いて受容体がリン酸化されることにより、SH2ドメインを持つアダプタープロテインがリクルートされ、受容体シグナル伝達複合体が形成され、空間的に隣接したチロシンキナーゼとEAの結合が促され、活性型β−ガラクトシダーゼが再構成される。このβ−ガラクトシダーゼ活性による加水分解された基質の化学発光シグナルのレベルを測定することにより、受容体型チロシンキナーゼに対する薬剤の作用を同定することが可能である。
【0131】
IGF−I受容体あるいはインスリン受容体を発現させた細胞を、ポリ―D―リジンコートあるいはコラーゲン―Iコートされた96ウェルプレート(Black/clearあるいはWhite/clear)に、90μL/ウェル(2×10
4cells/ウェルあるいは5×10
3cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベートした。翌日、各濃度の薬剤を10μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベートした。その翌日、培養上清を30μLで取り、15μLの基質溶液を添加して、60分間反応させ、ルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。IGF−I受容体の活性化は、溶媒のみを処置した群の活性を100%として算出した。結果を表5に示す。
【0132】
【表5】
【0133】
インスリン受容体の活性化は、溶媒のみを処置した群の活性を100%として算出した。結果を表6に示す。
【0134】
【表6】
【0135】
IGF−I受容体を発現させた細胞株を用いて、薬剤のIGF−I受容体の活性化を測定した。IGF−I受容体を発現させた細胞株では、IGF−I及びIGF11−16はコントロールと比較してIGF−I受容体の活性化作用を示した。
【0136】
インスリン受容体を発現させた細胞株を用いて、薬剤のインスリン受容体の活性化を測定した。インスリン受容体を発現させた細胞株では、インスリンによるインスリン受容体の活性化作用を示した。また、IGF−Iは、インスリン受容体を濃度依存的に活性化し、50nMでは有意な活性化作用を示した。一方、IGF11−16はインスリン受容体を活性化しなかった。
【0137】
IGF−Iは、インスリン受容体にも反応性を示すことが知られている。また、インスリン受容体の活性化は血糖低下作用を惹起することも知られている。IGF11−16は、IGF−I受容体に特異的に作用し、インスリン受容体を介する血糖低下作用を有さないことが示された。
【0138】
[実施例10]ヒト筋芽細胞における細胞増殖活性
IGF−I受容体アゴニスト抗体のヒト筋芽細胞に対する増殖活性を検討するため、ヒト筋芽細胞に薬剤を添加して、4日後の細胞内のATP量を測定した。
【0139】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を、SkBM−2(Lonza、CC−3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(2×10
3cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベートした。細胞播種の翌日に各種薬剤を25μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO
2の条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter−Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後にルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。溶媒のみを添加した群の活性を100%として算出した。結果を表7に示す。
【0140】
【表7】
【0141】
IGF−I及びIGF11−16は、コントロール抗体(FLAG M2、シグマアルドリッチ)と比較して、細胞増殖活性を亢進させた。
【0142】
0.00005、0.0005、0.005、0.05、0.5、5、50及び500nMのIGF11−16は、ヒト筋芽細胞の増殖活性を濃度依存的に亢進させた。IGF11−16及びIGF−Iの筋芽細胞増殖活性のEC
50は、それぞれ0.004nM及び0.61nMであり、IGF11−16は100倍以上強い活性を示した。
【0143】
非特許文献35に記載された16−13抗体、及び26−3抗体は、溶媒コントロール(アジ化ナトリウムを含む)に比べて、顕著な細胞増殖活性は認められず、IGF11−16の活性と比較して弱いものであった。
【0144】
[実施例11]モルモット筋芽細胞における細胞増殖活性
モルモット筋芽細胞(Cell Applications)を、SkBM−2(Lonza、CC−3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(4×10
3cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベートした。細胞播種の翌日に各種薬剤を25μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO
2の条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter−Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後にルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。
【0145】
0.00005、0.0005、0.005、0.05、0.5、5、50及び500nMのIGF11−16は、モルモット筋芽細胞の増殖活性を、濃度依存的に亢進させた。IGF11−16及びIGF−IのEC
50は、それぞれ0.004nM及び0.76nMであり、IGF11−16は100倍以上強い活性を示した。
【0146】
[実施例12]IGF−Iとの作用持続性のin vitro比較
IGF11−16とIGF−Iの作用持続性を比較するために、IGF11−16又はIGF−Iを添加した18時間後に培地を交換して、IGF11−16及びIGF−Iを除去した条件でヒト筋芽細胞の増殖活性を測定した。
【0147】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を、SkBM−2(Lonza、CC−3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(2×10
3cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベートした。細胞播種の翌日にIGF11−16又はIGF−Iを25μL/ウェルで添加し、添加18時間後に、IGF11−16又はIGF−Iの入っていない培地あるいはそれらを含有する培地と交換した。37℃、5%CO
2の条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter−Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後にルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。溶媒のみを添加したコントロール群に対する割合(コントロール群、0%)を細胞増殖活性として算出した。結果を
図3に示す。
【0148】
IGF−Iの1nM及び5nMを4日間添加した群では、細胞増殖活性を、それぞれ39%及び75%に上昇させた。IGF−Iの1nM及び5nMを18時間添加してwashoutした群の細胞増殖活性は、それぞれ8%及び10%であり、4日間添加した群と比較した活性は、1/5より低くなり、顕著な作用の低下を示した。
【0149】
IGF11−16の0.5nMを4日間添加した群では、細胞増殖活性を、49%に上昇させた。IGF11−16の0.5nMを18時間添加してwashoutした群の細胞増殖活性は30%であり、4日間添加した群と比較した活性は、6割以上が保持されていた。
【0150】
薬剤添加後にwashoutしたIGF11−16の0.5nM処置群とIGF−Iの1nM及び5nM処置群の細胞増殖活性を比較すると、IGF11−16の方が統計学的に有意に強い活性を示した。これらのことから、IGF11−16は、薬剤のwashout後もヒト筋芽細胞の増殖活性を維持して、IGF−Iと比較して、強力な作用を有することが示された。IGF11−16はwashout後も細胞増殖活性を維持したことから、IGF−Iの作用とは異なり、IGF11−16はIGF−I受容体と強力に結合し、IGF−I受容体の持続的な活性化作用を有することが示された。
【0151】
[実施例13]ヒト分化筋細胞におけるグルコース取込み
IGF11−16のグルコース取込み作用を検討するために、ヒト分化筋細胞を用いて、放射標識された3H−2−Deoxy Glucoseの取込み量を測定して、IGF−Iの作用と比較した。
【0152】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を24ウェルプレート(Costar、3526)に0.5mL/ウェル(2×10
4cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベートした。細胞がコンフルエントの状態になるまで培地(SkBM−2(Lonza、CC−3246)にFBS(Lonza、CC−4423W)、L−Glutamine(Lonza、CC−4422W)、Dexamethasone(Lonza、CC−4421W)、rhEGF(Lonza、CC−4420W)及びGA−1000(Lonza、CC−4419W)を添加した)を交換した。コンフルエントとなったHSMM細胞を0.5mL/ウェルの分化用の培地(DMEM/F12(1:1)(Gibco、11320)に2%Horse Serum(Sigma、H1270)、50U/mL Penicillin、50 μg/mL Streptomycin(Gibco、15070−063)を含む)に交換して37℃、5%CO
2でインキュベートして筋細胞への分化を開始した。分化開始から約6日後の細胞をヒト分化筋細胞としてグルコース取込みの実験に使用した。
【0153】
ヒト分化筋細胞を0.5mL/ウェルのStarvation用の培地(1g/L グルコース含有DMEM(Gibco、11885)に0.1%BSA Fatty Acid free(生化学工業、82−002−5)、50U/mL Penicillin、50ug/mL Streptomycin(Gibco、15070−063)を含む)に交換して37℃、5%CO
2で一晩インキュベートした。翌日、0.5mL/ウェルのStarvation用の培地に交換して37℃、5%CO
2で2時間インキュベートした。ウェルを1mL/ウェルのPBSで洗浄した後、0.5mL/ウェルの各種薬剤を含む処置培地を添加して37℃、5%CO
2で2時間インキュベートした。処置培地は、グルコース取込み用のバッファー(20mmol/L HEPES(DOJINDO、342−01375)、150mmol/L NaCl(SIGMA、S5150)、5mmol/L KCl(Wako、163−03545)、5mmol/L MgSO4(Wako、131−00405)、1.2mmol/L KH
2PO
4(Wako、169−04245)、25mmol/L CaCl
2(Fluka、21114)及び2mmol/L pyruvate(Wako、190−14881)となるように注射用水にて溶解して、NaOHでpHを7.4に調整)を用いて、最終濃度0.1mmol/L glucose、0.1%BSA、3H−2−Deoxy Glucose(1uCi/mL)、各濃度のヒト組換えIGF−I又はIGF−I受容体アゴニスト抗体となるように調製した。ウェルに1mL/ウェルの冷却したPBSを添加し、3回洗浄することによりグルコース取込みを終了させた。ウェルに0.25mL/ウェルの1N NaOHを添加して細胞を溶解した。細胞溶解液を、3mLの液体シンチレーターULTIMA GOLD(PerkinElmer Japan)をあらかじめ添加したバイアルに全量添加して撹拌した。液体シンチレーションカウンターにて3Hの放射活性(DPM)を3分間測定した。無処置群(コントロール群)のグルコース取込み量(DPM)の平均値を100%として処置群のグルコース取込み率を算出した。結果を
図4に示す。
【0154】
IGF−Iの0.8、4、20及び100nMは、濃度依存的、且つ有意にグルコース取込みを亢進させた。一方、IGF11−16は、100nMまで有意な作用を示さなかった。これらのことからIGF11−16は、ヒト分化筋細胞でのグルコース取込み作用は極めて弱いと考えられた。
【0155】
[実施例14]in vivo薬効(モルモットにおける筋肉量増加作用)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のin vivoでの薬効を確認するために、モルモットにIGF11−16を単回投与して、2週間後の筋肉量を測定して、IGF−Iを持続投与した時の作用と比較した。筋肉量増加作用とは、モルモットの筋肉重量をコントロール群と比べて5%以上増加させることとする。
【0156】
IGF11−16(0.03、0.1又は0.3mg/kg)を、正常モルモットの皮下あるいは静脈内に単回投与した。陽性対照としてヒト組換えIGF−I(メカセルミン)を、浸透圧ポンプ(アルゼット)を使用して皮下に埋め込み、1mg/kg/日となるように持続投与した。薬剤投与の2週間後、モルモットを麻酔下で放血致死させ、長趾伸筋の重量を測定した。結果を
図5に示す。
【0157】
IGF11−16の0.03、0.1及び0.3mg/kgを静脈内投与した群(iv)は、溶媒のみを処置したコントロール群と比較して、用量依存的、且つ有意に筋肉量を増加させた。また、IGF11−16の0.3mg/kgを皮下投与した群(sc)でも、コントロール群と比較して、有意な筋肉量の増加を示した。
【0158】
IGF11−16の0.03から0.3mg/kgの単回投与群の筋肉増加量は、ヒト組換えIGF−Iを1mg/kg/日で持続投与した群(infusion)と同程度であった。このことから、IGF11−16は、静脈内あるいは皮下への単回投与により、in vivoでも薬効を有することが示された。
【0159】
IGF11−16は、単回投与により、IGF−Iの持続投与と同等の薬効を有することが示された。臨床でのIGF−I(メカセルミン)の用法用量は1日1回から2回である。一方、in vivoにおいてIGF11−16は2週に1回の投与でIGF−Iの持続投与と同等の有効性を示すことから、IGF−Iと比較して持続性に優れることが示された。
【0160】
[実施例15]in vivo血糖低下作用(モルモットにおける血糖低下作用)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のin vivoでの血糖低下作用の有無を確認するために、モルモットにIGF11−16を単回投与して、継時的に血糖値を測定して、IGF−Iの単回投与時の血糖低下作用と比較した。血糖低下作用とは、血糖値を50mg/dL以下に低下させる、又は低血糖症状を起こす作用とする。
【0161】
IGF−Iをモルモットに単回皮下投与して、血糖低下作用を検討した。モルモットを12時間絶食させ、ヒト組換えIGF−I(メカセルミン)を、0.3、1、3及び10mg/kgで単回皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与1、2、4、8、10及び24時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を
図6に示す。
【0162】
IGF−Iは、0.3mg/kgから有意な血糖低下作用を示し、1mg/kg以上では低血糖症状が認められ、3mg/kg以上では死亡例が認められた。
【0163】
IGF11−16をモルモットに単回皮下投与して、血糖低下作用を検討した。モルモットを12時間絶食させ、IGF11−16を、10、30及び100mg/kgで単回皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与2、4、8、10及び24時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を
図7に示す。
【0164】
IGF11−16は、溶媒のみを投与したコントロール群と比較して、100mg/kg投与群でも、血糖値に有意な差を認めなかった。このことから、IGF11−16の皮下投与は、血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことが示された。
【0165】
IGF11−16をモルモットに単回静脈内投与して、血糖低下作用を検討した。モルモットを12時間絶食させ、IGF11−16を、0.1、1.5、6及び20mg/kgで静脈内投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与0.5、1、2、4、8及び24時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を
図8に示す。
【0166】
IGF11−16は、溶媒のみを投与したコントロール群と比較して、20mg/kg投与群でも、血糖値に有意な差を認めなかった。このことから、IGF11−16は静脈内投与でも、血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことが示された。
【0167】
IGF11−16は、皮下及び静脈内のいずれの投与法でも、IGF−Iのような顕著な血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことから、IGF−Iの副作用である低血糖を克服した、薬剤としての可能性が示された。
【0168】
[実施例16]in vivo薬効(モルモットにおける成長促進効果)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のin vivoでの骨に対する薬効を確認するために、IGF−Iを持続投与、及び成長ホルモン(GH)を1日1回反復投与した時の作用と比較した。下垂体を摘出されたモルモットにIGF11−16を単回投与して、2週間後の脛骨の長さ、及び成長板軟骨の厚さを、成長促進効果の指標として測定した。IGF11−16(0.3mg/kg及び1mg/kg)を、下垂体摘出モルモットに単回皮下投与した。比較対照としてヒト組換えIGF−I(メカセルミン)を、浸透圧ポンプ(アルゼット)を使用して皮下に埋め込み、1mg/kg/日となるように持続投与した。また、別の比較対照としてヒト組換えGH(ジェノトロピン(登録商標))を、1mg/kgの用量で、1日1回、反復皮下投与した。薬剤投与の2週間後、モルモットを麻酔下で放血致死させ、脛骨近位部の成長板軟骨の厚さ、及び脛骨の長さを測定した。結果を
図9及び
図10に示す。
【0169】
IGF11−16の0.3mg/kg及び1mg/kgを皮下投与した群(IGF11−16)は、下垂体摘出モルモットに溶媒のみを処置したコントロール群(vehicle)と比較して、用量依存的、且つ有意に成長板軟骨の厚さ、及び脛骨の長さを伸展させ、成長促進効果が認められた。
IGF11−16の0.3mg/kgの単回投与群の成長促進効果は、ヒト組換えIGF−Iを1mg/kg/日で持続投与した群(IGF−I)と同程度であった。また、IGF11−16の1mg/kgの単回投与群の成長促進効果は、ヒト組換えGHを1mg/kg/日で反復投与した群(GH)と同程度であった。このことから、IGF11−16は、単回投与により、IGF−Iの持続投与、及びGHの1日1回の反復投与と同等の薬効を有することが示された。臨床でのヒト組換えIGF−I(メカセルミン)及びヒト組換えGH(ジェノトロピン(登録商標))の用法用量は、それぞれ1日1回から2回の皮下注射、及び週6回から7回の皮下注射である。一方、in vivoにおいてIGF11−16は2週に1回の投与でIGF−Iの持続投与、及びGHの1日1回反復投与と同等の有効性を示すことから、IGF−I及びGHと比較して持続性に優れることが示された。
【0170】
[実施例17]IGF−IとIGF11−16の血中動態
IGF−Iの血中動態
モルモットを12時間絶食させ、ヒト組換えIGF−Iを、0.3、1、3及び10mg/kgで皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与1、2、4、8、10及び24時間後に採血して、血漿中のヒトIGF−I濃度をELISA(DG100、R&D)により測定した。結果を
図11に示す。
【0171】
血漿中のIGF−I濃度は投与用量に依存して上昇し、投与24時間後の血漿中のIGF−I濃度はピーク時の約50%以下にまで低下していた。0.3mg/kg投与群の投与24時間後のIGF−I濃度は測定下限以下であった。また、10mg/kg投与群は投与4時間以降に低血糖のため死亡したため血漿を採取できなかった。
【0172】
IGF11−16の血中動態
モルモットを12時間絶食させ、IGF−I受容体アゴニスト抗体を、0.3、1、3、10、30及び100mg/kgで皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させ、24時間後に再給餌した。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与2、4、8、10、24、48及び72時間後に採血して、血漿中のIGF11−16濃度をELISAにより測定した。結果を
図12に示す。
血漿中のIGF11−16濃度は投与用量に依存して上昇し、投与48時間以降も血漿中のIGF11−16濃度は投与24時間後と比較して約50%以上を維持していた。IGF11−16の血中動態はIGF−Iと比較して持続性に優れていることが示された。