特許第6987136号(P6987136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987136
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】抗IGF−I受容体抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20211213BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20211213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20211213BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20211213BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20211213BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20211213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211213BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 38/27 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 5/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C07K16/28ZNA
   C12N5/077
   C12N15/13
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/08
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K45/00
   A61K38/28
   A61K38/27
   A61P1/04
   A61P1/00
   A61P1/16
   A61P1/18
   A61P3/00
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P5/02
   A61P9/00
   A61P9/10
   A61P15/00
   A61P17/02
   A61P17/06
   A61P19/10
   A61P19/08
   A61P21/00
   A61P21/04
   A61P25/00
   A61P31/18
   A61P43/00 111
   A61P37/06
   A61P37/04
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P5/14
【請求項の数】42
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2019-521238(P2019-521238)
(86)(22)【出願日】2018年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2018020581
(87)【国際公開番号】WO2018221521
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-106529(P2017-106529)
(32)【優先日】2017年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】江口 広志
(72)【発明者】
【氏名】田野倉 章
(72)【発明者】
【氏名】高木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】山村 聡
(72)【発明者】
【氏名】並木 直子
【審査官】 中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−538012(JP,A)
【文献】 SOOS, MA., et al.,A panel of monoclonal antibodies for the type I insulin-like growth factor receptor. Epitope mapping,J. Biol. Chem.,1992年,vol.267, no.18,p.12955-12963
【文献】 XIONG, L., et al.,Growth-stimulatory monoclonal antibodies against human insulin-like growth factor I receptor,Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,1992年,vol.89, no.12,p.5356-5360
【文献】 JONES, RA., et al.,Transgenic overexpression of IGF-IR disrupts mammary ductal morphogenesis and induces tumor formatio,Oncogene,2007年,vol.26, no.11,p.1636-1644
【文献】 CALZONE, FJ., et al.,Epitope-specific mechanisms of IGF1R inhibition by ganitumab,PLoS ONE,2013年,vol.8, issue 2,e55135
【文献】 社団法人日本生化学会編, 新生化学実験講座18細胞培養技術, 1995年7月, 株式会社東京化学同人, p.83,88-9
【文献】 RUNNELS, HA., et al.,Human monoclonal antibodies to the insulin-like growth factor 1 receptor inhibit receptor activation,Adv. Ther.,2010年,vol.27, issue 7,p.458-475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する天然型ヒトIGF−I受容体に特異的に結合し、配列番号2に記載のアミノ酸配列における315番目及び316番目に相当するアミノ酸残基を含む結合部位に結合すると共に、ヒト由来細胞の増殖誘導活性を有する、抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項2】
ヒト由来細胞の増殖誘導活性が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する天然型ヒトIGF−Iと同程度以上である、請求項1に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項3】
ヒト由来細胞の増殖誘導活性のin vitroにおけるEC50値が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する天然型ヒトIGF−Iに対して1/20以下である、請求項1又は2に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項4】
培養下のヒト由来細胞に接触させた場合における、当該培養細胞との接触時間に対する当該培養細胞の増殖誘導作用の持続性が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する天然型ヒトIGF−Iと比べて改善されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項5】
ヒト由来細胞の増殖誘導活性のin vitro におけるEC50値が、0.1nmol/L以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項6】
脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する活性を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項7】
脊椎動物が、ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、ラット、もしくはマウスを含む非ヒト動物、又はヒトIGF−I受容体を発現させた非ヒト動物である、請求項6に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項8】
脊椎動物由来細胞の増殖を誘導する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導しないことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項9】
in vitroにおける脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を示すEC50値の100倍以上の用量においても分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導しないことを特徴とする、請求項8に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項10】
脊椎動物由来細胞がヒト又はヒト以外の哺乳動物に由来する筋芽細胞である、請求項8又は9に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項11】
脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において、当該脊椎動物の血糖値を低下させないことを特徴とする、請求項6から10のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項12】
脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する有効用量に対して10倍以上の用量においても、当該脊椎動物の血糖値を変動させないことを特徴とする、請求項11に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項13】
IGF−I受容体のCRドメインの配列におけるProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetを含むエピトープに結合する、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項14】
サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ニワトリ、マウス、又はラットのIGF−I受容体にも特異的に結合し、各動物細胞のIGF−I受容体のCRドメインの配列におけるProSerGlyPheIleArgAsnX12GlnSerMet(X1はGly又はSer、X2はSer又はThr)を含むエピトープに結合すると共に、各動物細胞の増殖誘導活性を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項15】
ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、ラット、又はマウスを含む非ヒト動物のIGF−I受容体と交差反応性を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項16】
当該抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体の抗原抗体反応は、解離平衡定数(KD)が1×10-8M以下の親和性強度を有することを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項17】
当該抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、1)〜4)のうち少なくとも一つの特徴を有する、請求項13から16のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
1)脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を有する。
2)脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する活性を有する。
3)脊椎動物由来細胞の増殖を誘導する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導しない。
4)脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において、当該脊椎動物の血糖値を変動させない。
【請求項18】
抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、1)〜4)の少なくとも一つの特徴を有する、請求項13から17のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
1)IGF−Iによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する。
2)脊椎動物におけるIGF−Iに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する。
3)IGF−Iによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みに影響しない。
4)脊椎動物におけるIGF−Iに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する用量において、当該脊椎動物の血糖値を変動させない。
【請求項19】
抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、Fab、scFv、Diabodyもしくは二重特異性抗体、又はそれらの誘導体である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項20】
重鎖可変領域のCDR−1(CDR−H1)配列として配列番号3又は配列番号3のいずれか1か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR−2(CDR−H2)配列として配列番号4又は配列番号4のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR−3(CDR−H3)配列として配列番号5又は配列番号5のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR−1(CDR−L1)配列として配列番号6又は配列番号6のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR−2(CDR−L2)配列として配列番号7又は配列番号7のいずれか1か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、及び
軽鎖可変領域のCDR−3(CDR−L3)配列として配列番号8又は配列番号8のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
を含むアミノ酸配列からなる請求項1から19のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項21】
免疫グロブリンのフレームワーク配列をさらに含む、請求項20に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項22】
免疫グロブリンのフレームワーク配列が、ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、マウスもしくはラットを含む非ヒト動物の免疫グロブリンの各クラスにおけるフレームワーク配列である、請求項21に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項23】
重鎖可変領域として配列番号9又は配列番号9と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び軽鎖可変領域として配列番号10又は配列番号10と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなる請求項1から22のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項24】
ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、マウスもしくはラットを含む非ヒト動物の免疫グロブリンの各クラスにおける定常領域をさらに含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体をコードするポリヌクレオチド配列からなる核酸分子。
【請求項26】
請求項25に記載の核酸分子を少なくとも一つ含むクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項27】
宿主細胞に請求項26に記載のベクターが導入された組換え体細胞。
【請求項28】
請求項27に記載の組換え体細胞を培養し、前記組換え体細胞から産生される当該抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体を精製する工程を含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体の製造方法。
【請求項29】
請求項1から24のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、請求項25に記載の核酸分子、請求項26に記載のベクター、あるいは請求項27に記載の組換え体細胞を含む医薬組成物。
【請求項30】
請求項1から24のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、請求項25に記載の核酸分子、請求項26に記載のベクター、あるいは請求項27に記載の組換え体細胞以外の活性成分をさらに含む、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
活性成分が成長ホルモン又はそのアナログ、インスリン又はそのアナログ、IGF−II又はそのアナログ、抗ミオスタチン抗体、ミオスタチンアンタゴニスト、抗アクチビンIIB型受容体抗体、アクチビンIIB受容体アンタゴニスト、可溶性アクチビンIIB型受容体又はそのアナログ、グレリン又はそのアナログ、フォリスタチン又はそのアナログ、ベータ2アゴニスト、及び選択的アンドロゲン受容体モジュレーターから1つ以上選択される、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
活性成分がコルチコステロイド、制吐薬、オンダンセトロン塩酸、グラニセトロン塩酸、メトロクロプラミド(metroclopramide)、ドンペリドン、ハロペリドール、シクリジン、ロラゼパム、プロクロルペラジン、デキサメタゾン、レボメプロマジン、トロピセトロン、癌ワクチン、GM−CSF阻害薬、GM−CSF DNAワクチン、細胞に基づくワクチン、樹状細胞ワクチン、組換えウイルスワクチン、熱ショックタンパク質(HSP)ワクチン、同種腫瘍ワクチン、自己腫瘍ワクチン、鎮痛薬、イブプロフェン、ナプロキセン、トリサリチル酸コリンマグネシウム、オキシコドン塩酸、抗血管形成薬、抗血栓薬、抗PD−1抗体、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、抗PD−L1抗体、アテゾリズマブ、抗CTLA4抗体、イピリムマブ、抗CD20抗体、リツキシマブ、抗HER2抗体、トラスツズマブ、抗CCR4抗体、モガムリズマブ、抗VEGF抗体、ベバシズマブ、抗VEGF受容体抗体、可溶性VEGF受容体断片、抗TWEAK抗体、抗TWEAK受容体抗体、可溶性TWEAK受容体断片、AMG 706、AMG 386、抗増殖薬、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害薬、αvβ3阻害薬、αvβ5阻害薬、p53阻害薬、Kit受容体阻害薬、ret受容体阻害薬、PDGFR阻害薬、成長ホルモン分泌阻害薬、アンジオポエチン阻害薬、腫瘍浸潤マクロファージ阻害薬、c−fms阻害薬、抗c−fms抗体、CSF−1阻害薬、抗CSF−1抗体、可溶性c−fms断片、ペグビソマント、ゲムシタビン、パニツムマブ、イリノテカン、及びSN−38からなる群より選択される成分を含む、請求項30又は31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
請求項1〜24に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、請求項25に記載の核酸分子、請求項26に記載のベクター、及び請求項27に記載の組換え体細胞の内、いずれか一つ以上を含む、IGF−Iに関連した状態の治療又は予防に用いられる医薬。
【請求項34】
IGF−Iに関連した状態が、廃用性筋萎縮、低身長症、糖尿病性腎症、慢性腎不全、ラロン症、肝硬変、肝線維化、老化、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、神経疾患、脳卒中、脊髄損傷、心血管保護、糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、嚢胞性線維症、創傷治癒、筋強直性ジストロフィー、エイズ筋減弱症、HIVに伴う脂肪再分布症候群、火傷、クローン病、ウェルナー症候群、X連鎖性複合免疫不全症、難聴、神経性無食欲症及び未熟児網膜症、ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、シルバー・ラッセル症候群、特発性低身長、肥満、多発性硬化症、線維筋痛症、潰瘍性大腸炎、低筋肉量、心筋虚血及び低骨密度から選択される、請求項33に記載の医薬。
【請求項35】
非ヒト動物に投与される動物用医薬である、請求項33又は34に記載の医薬。
【請求項36】
当該動物用医薬が、筋肉量及び/又は体長の増大、成長の促進、乳汁産生量の増大、繁殖の促進、又は老化の予防の目的で投与される、請求項35に記載の医薬。
【請求項37】
非ヒト動物が、モルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、又はニワトリである、請求項35又は36に記載の動物用医薬。
【請求項38】
IGF−I又はIGF−IIのIGF−I受容体への作用に起因する疾患の治療又は予防に用いられる、請求項3337のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項39】
IGF−I又はIGF−IIのIGF−I受容体への作用に起因する疾患が、肝臓がん、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー−モリソン症候群、ベックウィズ−ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、慢性甲状腺炎、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎ならびにベーチェット病からなる群より選択される疾患である、請求項38に記載の医薬。
【請求項40】
脊椎動物由来の細胞をin vitroで培養する方法であって、培養の過程で当該脊椎動物由来の細胞を、請求項1から24のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、請求項25に記載の核酸分子、請求項26に記載のベクター、及び請求項27に記載の組換え体細胞のいずれか一つ以上と接触される工程を含む、培養方法。
【請求項41】
当該接触の工程が、脊椎動物由来の細胞の増殖促進又は分化誘導の目的で行われる、請求項40に記載の培養方法。
【請求項42】
抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が固相に吸着又は固定されている、請求項40又は41に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗IGF−I受容体抗体に関する。具体的には、脊椎動物のIGF−I受容体に特異的に結合する抗IGF−I受容体抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
1.IGF−I
IGF−Iは、インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor)であり、主に肝臓から分泌され、IGF−I受容体に作用することにより、各種臓器で種々の生理機能を発現する。このことからIGF−Iは、種々の疾患への治療が期待される。IGF−Iは、プロインスリンのアミノ酸配列と比較して、約40%と高い相同性を有することから、インスリン受容体にも結合して、インスリン様の作用を発現することがある(非特許文献1)。また、IGF−I受容体は、インスリン受容体のアミノ酸配列と比較して、約60%と高い相同性を有することから、両受容体はヘテロ二量体を形成することがある(非特許文献1)。なお、インスリンは、インスリン受容体に作用することにより、強力な血糖低下作用を発現することから、血糖降下薬として治療に用いられている。
【0003】
2.IGF−I受容体
IGF−I受容体はα鎖及びβ鎖で構成され、L1、CR、L2、Fn1、Fn2及びFn3の6つの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む膜貫通タンパク質である(非特許文献2)。IGF−I受容体の細胞内ドメインは、チロシンキナーゼを有する。細胞外ドメインであるCR(cysteine−rich domain)は、IGF−IがIGF−I受容体に結合した時の当該受容体の立体構造の変化に伴う、細胞内のチロシンキナーゼの活性化に関与する。IGF−I受容体は、ホモ二量体複合体(ホモ型)を形成して、IGF−Iが結合すると、受容体キナーゼを活性化することにより信号を送る。また、インスリン受容体とのヘテロ二量体複合体(ヘテロ型)を形成して、インスリン又はIGF−Iが結合すると、受容体キナーゼを活性化することにより信号を送る(非特許文献3、4)。
【0004】
3.IGF−Iの生理作用
IGF−Iは、身長や体重増加等の成長促進作用、及び糖代謝促進や血糖低下作用等のインスリン様代謝作用が明らかにされている。ヒト組換えIGF−Iであるメカセルミンは、インスリン受容体異常症の高血糖、高インスリン血症、黒色表皮腫及び多毛といった症状を改善することが認められている。また、成長ホルモン抵抗性低身長症の成長障害を改善することが認められている(非特許文献5)。
IGF−Iの成長促進作用として、IGF−Iはヒト軟骨細胞のDNA合成能を亢進させることが知られている。また、IGF−Iの投与は、下垂体摘除ラットの体重を増加させ、大腿骨骨長を伸長させる(非特許文献5)。
【0005】
4.IGF−Iの筋肉量増加作用
IGF−Iを介した細胞増殖活性の亢進は、IGF−I受容体の持続的な活性化が必要である(非特許文献6)。IGF−I受容体を過剰発現させた動物では筋肉量が増加している(非特許文献7)。また、IGF−I/IGFBP3の持続投与は、大腿骨近位部骨折患者の握力を亢進させ、介助なしでの座位からの立ち上がり能力を改善させる(非特許文献8)。高齢のヒト及びマウスの筋肉中のIGF−I濃度は、若齢と比較して低下することが知られているが(非特許文献9、10)、IGF−Iを筋組織特異的に強制発現させた高齢マウスでは、野生型マウスと比較して、筋肉量が改善した(非特許文献11)。
【0006】
5.筋肉量を増加させる先行品
グレリン受容体の作動薬であるアナモレリンは、廃用性筋萎縮症であるカケキシアの臨床試験において、除脂肪量を増加させた。一方、副作用として、吐き気及び血糖値の上昇が認められる(非特許文献12)。
ミオスタチンは、アクチビン受容体II(ActRII)に作用して、Akt/mTORを阻害する、骨格筋形成の負の制御因子である(非特許文献13〜15)。抗ミオスタチン抗体であるLY2495655は、全人工股関節置換術を実施した患者及び高齢者の筋肉量を増加させる(非特許文献16、17)。
また、抗ActRII抗体であるビマグルマブは、神経筋疾患患者の筋肉量を増加させる(非特許文献18)。しかし、骨格筋の形成を促進させ、治療のために使用できる薬は現在のところ存在しない。
【0007】
6.成長を促進させる先行品
ヒト組換えGH製剤(成長ホルモン製剤)はGH受容体を活性化し、IGF−Iを分泌させ、成長促進効果が認められる。一方、1日1回投与の皮下注射剤のため、服薬コンプライアンス(投与忘れなど)に起因した成長効果の低下が認められている(非特許文献19)。GH製剤の動態を改善し、週1回又は2週に1回投与の持続型GH製剤が開発中である。
しかし、服薬コンプライアンスを改善し、成長促進作用を有する、治療のために使用できる薬は現在のところ存在しない。さらに、GH製剤は、GH受容体活性化に対する感受性が低下した、GH受容体異常、又はGH治療に抵抗性を有する患者に対して、成長効果の低下が認められている(非特許文献20)。
IGF−Iは、GH受容体の下流で作用することから、GH受容体活性化に対する感受性が低下した患者に対しても成長促進作用を有する唯一の治療薬である。しかし、IGF−I製剤は1日2回投与の注射剤であり、服薬コンプライアンスが悪いだけでなく、副作用として低血糖が認められている(非特許文献21)。IGF−Iの服薬コンプライアンス、及び低血糖を改善させ、治療のために使用できる薬剤は現在のところ存在しない。
【0008】
7.IGF−Iの血糖低下作用
IGF−Iのインスリン様作用として、血糖低下作用が知られている。IGF−Iは、ラット筋肉由来細胞においてグルコース取込み作用を亢進させる(非特許文献5)。また、IGF−Iの投与は、ラットの血糖値を低下させる(非特許文献5)。
IGF−Iによる血糖低下作用は、臨床上の副作用として低血糖を惹起させることが報告されている(非特許文献21)。さらに、IGF−Iは、ヒトへの投与により低血糖を起こすことから、治療開始時は、低用量から順次適当量を投与し、投与後の血糖値等を含む各種臨床所見の観察が必要となる(非特許文献5)。
IGF−Iは、IGF−I受容体の下流シグナルであるAktのリン酸化の亢進を介して血糖低下作用を発現する。Aktの活性型変異体は、3T3−L1細胞のグルコース取込みを亢進させる(非特許文献22)。一方、Akt2を欠損させたマウスは、血糖値が上昇した(非特許文献23)。また、ラット筋肉由来細胞においてAkt阻害剤は、インスリン刺激によるグルコース取込みを阻害する(非特許文献24)。さらに、IGF−Iは、血糖低下作用に関与するインスリン受容体を活性化させることが知られている。これらのことから、IGF−Iによる血糖低下作用には、Aktの過剰な活性化及びインスリン受容体の活性化が関与することが考えられる。
【0009】
8.IGF−Iの短い血中半減期
IGF−Iの血中半減期は、短いため治療では頻回投与が必要となる。実際に、ヒト組換えIGF−Iであるメカセルミンは、血中半減期が約11時間から16時間であり、低身長症の治療では1日1回から2回の投与が必要である(非特許文献5)。
血中のIGF−Iの約70から80%はIGFBP3と結合している。IGF−Iの遊離体が生理活性を示す。IGFBP3との結合は、IGF−Iの血中半減期を約10時間から16時間に維持している(非特許文献1)。
IGF−IとIGFBP3の配合剤であるIPLEXは、血中半減期が約21時間から26時間とIGF−Iと比較して長く、1日1回の投与を可能にした薬剤である(非特許文献23)。しかし、IPLEXは市場から撤退している。
IGF−Iの動態を改善させたPEG化IGF−Iも開発が試みられたが、治療に用いられている薬剤は存在しない(特許文献1)。
【0010】
9.IGF−Iの作用により期待される治療効果
IGF−Iは多種の臓器に作用し、その生理機能は多岐にわたることが知られている(非特許文献21)。
IGF−Iは、中枢神経系において、IGF−I受容体の活性化を介して、ミトコンドリアの保護及び抗酸化作用による神経保護作用があることが報告されている(非特許文献26、27)。IGF−Iは、傷害後の神経突起の形成を促進させる(非特許文献28)。
IGF−Iは、成長促進の主要な因子である(非特許文献29、30)。実際に、ヒト組換えIGF−Iであるメカセルミンは、低身長症の治療薬として臨床で用いられている。
IGF−Iは、肝硬変の治療に有用であると考えられている。肝硬変は、肝障害又は慢性肝疾患から病態進展したものであり、肝臓の線維化を伴う疾患である。肝硬変モデル動物において、IGF−Iの投与は、肝臓の線維化を抑制した(非特許文献31)。
IGF−Iは、腎臓の発達、機能にも関与することが知られている。腎臓のメサンギウム細胞において、IGF−Iは、糖毒性による酸化ストレス及びアポトーシスに対して保護作用がある(非特許文献32)。IGF−Iは、腎症の治療薬として期待される。
【0011】
IGF−Iの投与により改善が期待される病態には、低身長症、ラロン症、肝硬変、肝線維化、老化、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、神経疾患、脳卒中、脊髄損傷、心血管保護、糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、腎症、骨粗しょう症、嚢胞性線維症、創傷治癒、筋強直性ジストロフィー、エイズ筋減弱症、HIVに伴う脂肪再分布症候群、火傷、クローン病、ウェルナー症候群、X連鎖性複合免疫不全症、難聴、神経性無食欲症及び未熟児網膜症がある(非特許文献21)。
IGF−Iは、その多彩な生理作用から、種々の疾患の治療薬として期待される。しかし、副作用である血糖低下作用、及び短い半減期による複数回の投与が臨床で用いるための課題である。
【0012】
10.IGF−I受容体アゴニスト抗体
抗体製剤は、一般的に半減期が長く、月に1回から2回の投与で有効性を示す。IGF−I受容体アゴニスト抗体は、in vitroでの受容体活性化作用が報告されているが、in vivoにおいてIGF−I受容体に対するアゴニスト活性を示した抗体の報告は無い(非特許文献33〜37)。
抗体3B7及び抗体2D1は、in vitroにおいて細胞のDNA合成を亢進する(非特許文献34)。
抗体11A1、11A4、11A11及び24−57は、in vitroにおいてIGF−I受容体のチロシンのリン酸化を亢進する(非特許文献35)。
抗体16−13、17−69、24−57、24−60、24−31、及び26−3は、in vitroにおいて細胞のDNA合成、及びグルコース取込みの亢進作用を有することが示されており、これらの抗体は血糖低下作用を有する可能性がある(非特許文献36,37)。
【0013】
しかしながら、これまで初代培養細胞、その中でもヒト筋芽細胞を使用したin vitroでの細胞増殖活性を示したIGF−I受容体アゴニスト抗体の報告は無く、ましてやin vivoでの筋肉量増加作用を示すIGF−I受容体アゴニスト抗体は無かった。
【0014】
11.IGF−I受容体アンタゴニスト抗体
IGF−I受容体に結合する抗体はIGF−IとIGF−I受容体の結合を阻害するアンタゴニスト作用を利用して、悪性腫瘍等の治療への応用が試みられている。しかしながら、既存のIGF−I受容体アンタゴニスト抗体は単独治療において高血糖等の副作用が多いだけでなく(非特許文献38)、他の抗癌剤との併用により高血糖の発現率が上昇することから(非特許文献39)、治療への適用は限定的なものになるものと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】「神経筋障害の処置のためのPEG化IGF−I変異体の使用」、特表2011-518778号公報(国際公開第2009/121759号)、2011年
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Ohlsson, C., et al., The role of liver-derived insulin-like growth factor-I. Endocr Rev, 2009. 30(5): p. 494-535.
【非特許文献2】Kavran, J.M., et al., How IGF-I activates its receptor. Elife, 2014. 3.
【非特許文献3】Bailyes, E.M., et al., Insulin receptor/IGF-I receptor hybrids are widely distributed in mammalian tissues: quantification of individual receptor species by selective immunoprecipitation and immunoblotting. Biochem J, 1997. 327 ( Pt 1): p. 209-15.
【非特許文献4】Pandini, G., et al., Insulin/insulin-like growth factor I hybrid receptors have different biological characteristics depending on the insulin receptor isoform involved. J Biol Chem, 2002. 277(42): p. 39684-95.
【非特許文献5】オーファンパシフィック, IF. 2015.
【非特許文献6】Fukushima, T., et al., Phosphatidylinositol 3-kinase (PI3K) activity bound to insulin-like growth factor-I (IGF-I) receptor, which is continuously sustained by IGF-I stimulation, is required for IGF-I-induced cell proliferation. J Biol Chem, 2012. 287(35): p. 29713-21.
【非特許文献7】Schiaffino, S. and C. Mammucari, Regulation of skeletal muscle growth by the IGF-I-Akt/PKB pathway: insights from genetic models. Skelet Muscle, 2011. 1(1): p. 4.
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【非特許文献39】de Bono J.S., et al.,Phase II randomized study of figitumumab plus docetaxel and docetaxel alone with crossover for metastaticcastration-resistant prostate cancer. Clin Cancer Res., 2014.20(7):p.1925−34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、脊椎動物のIGF−I受容体に特異的に結合する、抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体を提供することを目的とする。また本発明は、IGF−I受容体を介して、筋肉量又は成長板軟骨の厚さを増加させ、血糖値を低下させない抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]脊椎動物のIGF−I受容体に特異的に結合し、脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を有する、抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[2]脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性が、天然型IGF−Iと同程度以上である、[1]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[3]脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性のin vitroにおけるEC50値が、天然型IGF−Iに対して1/20以下である、[1]又は[2]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[4]培養下の脊椎動物由来細胞に接触させた場合における、当該培養細胞との接触時間に対する当該培養細胞の増殖誘導作用の持続性が、天然型IGF−Iと比べて改善されている、[1]から[3]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[5]天然型IGF−Iが配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するヒトIGF−Iである、[2]から[4]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[6]脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性のin vitro におけるEC50値が、0.1nmol/L以下である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[7]脊椎動物に非経口投与されることによって、当該脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する活性を有する、[1]から[6]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[8]脊椎動物へ1週間に1回以下の頻度で投与する、[1]から[7]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[9]脊椎動物が、ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌもしくはニワトリを含む非ヒト動物、さらにはヒトIGF−I受容体を発現させた非ヒト動物である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[10]脊椎動物由来細胞の増殖を誘導する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導しないことを特徴とする、[1]から[9]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[11]in vitroにおける脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を示すEC50値の100倍以上の用量においても分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導しないことを特徴とする、[10]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[12]脊椎動物由来細胞がヒト又はヒト以外の哺乳動物に由来する筋芽細胞である、[10]又は[11]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[13]脊椎動物に非経口投与され、当該脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において、当該脊椎動物の血糖値を低下させないことを特徴とする、[7]から[12]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[14]脊椎動物に非経口投与され、当該脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する有効用量に対して10倍以上の用量においても、当該脊椎動物の血糖値を変動させないことを特徴とする、[13]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[15]IGF−I受容体のCRドメインに結合する、[1]〜[14]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[16]IGF−I受容体のCRドメインに結合し、IGF−I又はIGF−IIとIGF−I受容体の結合を阻害する、抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[17]IGF−I受容体のCRドメインの配列におけるProSerGlyPheIleArgAsnXGlnSerMet(XはGly又はSer、XはSer又はThr)を含むエピトープ又はその近傍に結合することを特徴とする、[15]又は[16]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[18]IGF−I受容体のCRドメインの配列におけるProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetを含むエピトープ又はその近傍に結合することを特徴とする、[17]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[19]ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌもしくはニワトリを含む非ヒト動物のIGF−I受容体と交差反応性を有する、[1]から[18]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[20]当該抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体の抗原抗体反応は、解離平衡定数(KD)が1×10−8M以下の親和性強度を有することを特徴とする、[1]から[19]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[21]当該抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、1)〜4)のうち少なくとも一つの特徴を有する、[16]から[20]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
1)脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を有する。
2)脊椎動物に非経口投与することによって、当該脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する活性を有する。
3)脊椎動物由来細胞の増殖を誘導する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導しない。
4)脊椎動物に非経口投与され、当該脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において、当該脊椎動物の血糖値を変動させない。
[22]抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、1)〜4)の少なくとも一つの特徴を有する、[16]から[21]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
1)IGF−Iによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する。
2)脊椎動物に非経口投与することによって、当該脊椎動物におけるIGF−Iに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する。
3)IGF−Iによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みに影響しない。
4)脊椎動物に非経口投与され、当該脊椎動物におけるIGF−Iに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する用量において、当該脊椎動物の血糖値を変動させない。
[23]抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、Fab、scFv、Diabodyもしくは二重特異性抗体、又はそれらの誘導体である、[1]〜[22]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[24]重鎖可変領域のCDR−1(CDR−H1)配列として配列番号3又は配列番号3のいずれか1か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR−2(CDR−H2)配列として配列番号4又は配列番号4のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR−3(CDR−H3)配列として配列番号5又は配列番号5のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR−1(CDR−L1)配列として配列番号6又は配列番号6のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR−2(CDR−L2)配列として配列番号7又は配列番号7のいずれか1か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、及び
軽鎖可変領域のCDR−3(CDR−L3)配列として配列番号8又は配列番号8のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、
を含むアミノ酸配列からなる[1]から[23]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[25]免疫グロブリンのフレームワーク配列をさらに含む、[24]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[26]免疫グロブリンのフレームワーク配列が、ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、マウスもしくはラットを含む非ヒト動物の免疫グロブリンの各クラスにおけるフレームワーク配列である、[25]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[27]重鎖可変領域として配列番号9又は配列番号9と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び軽鎖可変領域として配列番号10又は配列番号10と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなる[1]から[26]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[28]ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、マウスもしくはラットを含む非ヒト動物の免疫グロブリンの各クラスにおける定常領域をさらに含む、[1]から[27]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
[29][1]から[28]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体をコードするポリヌクレオチド配列からなる核酸分子。
[30][29]に記載の核酸分子を少なくとも一つ含むクローニングベクター又は発現ベクター。
[31]宿主細胞に[30]に記載のベクターが導入された組換え体細胞。
[32][31]に記載の組換え体細胞を培養し、前記組換え体細胞から産生される当該抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体を精製する工程を含む、[1]から[28]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体の製造方法。
[33][1]から[28]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、[29]に記載の核酸分子、[30]に記載のベクター、あるいは[31]に記載の組換え体細胞を含む医薬組成物。
[34][1]から[28]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、[29]に記載の核酸分子、[30]に記載のベクター、あるいは[31]に記載の組換え体細胞以外の活性成分をさらに含む、[33]に記載の医薬組成物。
[35]活性成分が成長ホルモン又はそのアナログ、インスリン又はそのアナログ、IGF−II又はそのアナログ、抗ミオスタチン抗体、ミオスタチンアンタゴニスト、抗アクチビンIIB型受容体抗体、アクチビンIIB受容体アンタゴニスト、可溶性アクチビンIIB型受容体又はそのアナログ、グレリン又はそのアナログ、フォリスタチン又はそのアナログ、ベータ2アゴニスト、及び選択的アンドロゲン受容体モジュレーターから1つ以上選択される、[34]に記載の医薬組成物。
[36]活性成分がコルチコステロイド、制吐薬、オンダンセトロン塩酸、グラニセトロン塩酸、メトロクロプラミド(metroclopramide)、ドンペリドン、ハロペリドール、シクリジン、ロラゼパム、プロクロルペラジン、デキサメタゾン、レボメプロマジン、トロピセトロン、癌ワクチン、GM−CSF阻害薬、GM−CSF DNAワクチン、細胞に基づくワクチン、樹状細胞ワクチン、組換えウイルスワクチン、熱ショックタンパク質(HSP)ワクチン、同種腫瘍ワクチン、自己腫瘍ワクチン、鎮痛薬、イブプロフェン、ナプロキセン、トリサリチル酸コリンマグネシウム、オキシコドン塩酸、抗血管形成薬、抗血栓薬、抗PD−1抗体、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、抗PD−L1抗体、アテゾリズマブ、抗CTLA4抗体、イピリムマブ、抗CD20抗体、リツキシマブ、抗HER2抗体、トラスツズマブ、抗CCR4抗体、モガムリズマブ、抗VEGF抗体、ベバシズマブ、抗VEGF受容体抗体、可溶性VEGF受容体断片、抗TWEAK抗体、抗TWEAK受容体抗体、可溶性TWEAK受容体断片、AMG 706、AMG 386、抗増殖薬、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害薬、αvβ3阻害薬、αvβ5阻害薬、p53阻害薬、Kit受容体阻害薬、ret受容体阻害薬、PDGFR阻害薬、成長ホルモン分泌阻害薬、アンジオポエチン阻害薬、腫瘍浸潤マクロファージ阻害薬、c−fms阻害薬、抗c−fms抗体、CSF−1阻害薬、抗CSF−1抗体、可溶性c−fms断片、ペグビソマント、ゲムシタビン、パニツムマブ、イリノテカン、及びSN−38からなる群より選択される成分を含む、[34]又は[35]に記載の医薬組成物。
[37][1]〜[28]に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、[29]に記載の核酸分子、[30]に記載のベクター、及び[31]に記載の組換え体細胞の内、いずれか一つ以上を含む、IGF−Iに関連した状態の治療又は予防に用いられる医薬。
[38]IGF−Iに関連した状態が、廃用性筋萎縮、低身長症、糖尿病性腎症、慢性腎不全、ラロン症、肝硬変、肝線維化、老化、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、神経疾患、脳卒中、脊髄損傷、心血管保護、糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、嚢胞性線維症、創傷治癒、筋強直性ジストロフィー、エイズ筋減弱症、HIVに伴う脂肪再分布症候群、火傷、クローン病、ウェルナー症候群、X連鎖性複合免疫不全症、難聴、神経性無食欲症及び未熟児網膜症、ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、シルバー・ラッセル症候群、特発性低身長、肥満、多発性硬化症、線維筋痛症、潰瘍性大腸炎、低筋肉量、心筋虚血及び低骨密度から選択される、[37]に記載の医薬。
[39]非経口投与される、[37]又は[38]に記載の医薬。
[40]非ヒト動物に投与される動物用医薬である、[37]から[39]のいずれか一項に記載の医薬。
[41]当該動物用医薬が、筋肉量及び/又は体長の増大、成長の促進、乳汁産生量の増大、繁殖の促進、又は老化の予防の目的で投与される、[40]に記載の医薬。
[42]非ヒト動物が、モルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、又はニワトリである、[40]又は[41]に記載の動物用医薬。
[43]IGF−I又はIGF−IIのIGF−I受容体への作用に起因する疾患の治療又は予防に用いられる、[37]〜[42]のいずれか一項に記載の医薬。
[44]IGF−I又はIGF−IIのIGF−I受容体への作用に起因する疾患が、肝臓がん、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー−モリソン症候群、ベックウィズ−ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、慢性甲状腺炎、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎ならびにベーチェット病からなる群より選択される疾患である、[43]に記載の医薬。
[45]脊椎動物由来の細胞をin vitroで培養する方法であって、培養の過程で当該脊椎動物由来の細胞を、[1]から[28]のいずれか一項に記載の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体、[29]に記載の核酸分子、[30]に記載のベクター、及び[31]に記載の組換え体細胞のいずれか一つ以上と接触される工程を含む、培養方法。
[46]当該接触の工程が、脊椎動物由来の細胞の増殖促進又は分化誘導の目的で行われる、[45]に記載の培養方法。
[47]抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が固相に吸着又は固定されている、[45]又は[46]に記載の培養方法。
[48]IGF−I受容体遺伝子のCRドメインに変異が導入された遺伝子組換え動物であって、当該IGF−I受容体のCRドメインが、遺伝子組み換えによって、ProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetのアミノ酸配列を有することを特徴とする、遺伝子組換え動物。
[49]異種のIGF−I受容体遺伝子が導入された遺伝子組換え動物であって、当該動物の内在的に保有するIGF−I受容体のアミノ酸配列に対して、導入されたIGF−I受容体遺伝子のコードするアミノ酸配列のCRドメインにおけるProSerGlyPheIleArgAsnXGlnSerMetの部分の配列のうちX及び/又はXのアミノ酸残基が、当該動物の内在的に保有するIGF−I受容体のアミノ酸配列と一致しないIGF−I受容体遺伝子が導入されている、遺伝子組換え動物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の抗IGF−I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体は、脊椎動物のIGF−I受容体に特異的に結合する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】IGF−I受容体のCRドメインのアミノ酸配列(アミノ酸配列は1文字表記で示す)を、マウス、ラット、ヒト、モルモット及びウサギで、比較した結果を示す図である。
図2】IGF11−16推定エピトープの変異体を用いたELISAの結果を示す図である。
図3】IGF11−16とIGF−Iの薬剤除去後のヒト筋芽細胞の増殖活性を示す図である。
図4】IGF−I及びIGF11−16をヒト分化筋細胞に添加した時のグルコース取込み作用を示す図である。
図5】モルモットにIGF−Iを浸透圧ポンプで持続投与又は、IGF11−16を単回皮下又は静脈内投与し、2週間後の長趾伸筋の重量を示す図である。
図6】絶食条件下のモルモットに、IGF−Iを単回皮下投与したときの血糖値の経時推移を示す図である。
図7】絶食条件下のモルモットに、IGF11−16を単回皮下投与したときの血糖値の経時推移を示す図である。
図8】絶食条件下のモルモットに、IGF11−16を単回静脈内投与したときの血糖値の経時推移を示す図である。
図9】下垂体摘出モルモット(HPX)におけるIGF11−16の成長板軟骨の厚さの亢進作用を示す図である。
図10】下垂体摘出モルモット(HPX)におけるIGF11−16の脛骨の長さの亢進作用を示す図である。
図11】絶食条件下のモルモットに、IGF−Iを単回皮下投与したときの血中動態の経時推移を示す図である。
図12】絶食条件下のモルモットに、IGF11−16を単回皮下投与したときの血中動態の経時推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されない。なお、本明細書において引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許公報を含む全ての文献は、あらゆる目的において、その全体が援用により本明細書に組み込まれる。
【0022】
[IGF]
IGFとはインスリン様成長因子(Insulin−like Growth Factor)のことをいい、IGF−IとIGF−IIが存在する。IGF−I及びIGF−IIは、後述のIGF−I受容体(インスリン様成長因子―I受容体:Insulin−like Growth Factor−I Receptor)に結合して、細胞内に細胞分裂や代謝のシグナルを入れるアゴニスト活性を有する生体内のリガンドである。IGF−I及びIGF−IIは、IGF−I受容体と構造的に類似性のあるインスリン受容体(INSR)にも弱く交差的に結合することが知られている。本明細書では、生理的機能等がよりよく知られているIGF−Iを主に扱うが、IGF−I受容体とリガンドとの結合を介する作用や疾患等の検討を行う場合にはIGF−IとIGF−IIの両者の作用を含めて記載することがある。
【0023】
IGF−IはソマトメジンCとも呼ばれ、70アミノ酸からなる単一ポリペプチドのホルモンである。ヒトのIGF−Iの配列はEMBL−EBIのUniProtKB−アクセッション番号P50919等を参照して入手できるが、配列表の配列番号1に成熟型IGF−Iのアミノ酸配列を示す。この70アミノ酸からなる配列は、多くの種で保存されている。本発明においては、「IGF−I」とのみ記載された場合は、特に断りがない限り、ホルモン活性を有するIGF−Iタンパク質のことを意味する。
【0024】
IGF−Iは肝臓細胞をはじめ生体内の種々の細胞で産生されていて、血液やその他の体液中にも存在する。従って、天然型のIGF−Iは動物の体液や、動物から分離した初代培養細胞や株化細胞等を培養した培養物から精製して得ることができる。また、IGF−Iは成長ホルモンによって細胞での産生が誘導されるため、成長ホルモンが投与された動物の体液や、動物から分離した初代培養細胞や株化細胞等を成長ホルモン存在下で培養した培養物からもIGF−Iを精製することで得られる。また、別の方法として、IGF−Iのアミノ酸配列をコードする核酸分子を発現ベクターに組み込んで大腸菌等の原核生物や酵母、昆虫細胞又は哺乳類由来の培養細胞等の真核細胞の宿主に導入した組換え体細胞や、IGF−I遺伝子を導入したトランスジェニック動物やトランスジェニック植物等を用いて、IGF−Iを製造することも可能である。さらに、ヒトIGF−Iは研究用試薬(Enzo Life Sciences、catalog: ADI−908−059−0100、Abnova、catalog:P3452等)、医薬品(ソマゾン(登録商標)メカセルミン、INCRELEX(登録商標)等)として入手することも可能である。用いるIGF−Iのin vivo及びin vitroでの活性は、World Health OrganizationのNational Institute for Biological Standards and Control(NIBSC)のNIBSC code:91/554のIGF−I標準物質での活性を1国際ユニット/マイクログラムとして比較することで、その比活性を評価することができる。本発明におけるIGF−Iは、当該NIBSC code:91/554のIGF−Iと同等の比活性を有するものとして扱うものとする。
【0025】
[IGF−I受容体]
IGF−I受容体はインスリン様成長因子−I受容体(Insulin−like Growth Factor−I Receptor)のことをいう。本明細書において「IGF−I受容体」は、特に断りがない限り、IGF−I受容体タンパク質を意味する。IGF−I受容体はα鎖とβ鎖からなるサブユニットが2つ会合した構造のタンパク質である。配列番号2に示したヒトIGF−I受容体のアミノ酸配列においては、そのアミノ酸配列のうち、31番目から735番目のアミノ酸配列からなる部分がα鎖に相当し、β鎖は740番目以降の配列に相当する。IGF−I受容体のα鎖はIGF−Iの結合部分を有し、β鎖は膜貫通型の構造であり、細胞内へのシグナルを伝える働きをする。IGF−I受容体のα鎖は、L1、CR、L2、FnIII−1及びFnIII−2a/ID/FnIII−2bのドメインに分かれる。配列番号2に示したヒトIGF−I受容体のアミノ酸配列においては、31番目から179番目の部分がL1ドメイン、180番目から328番目の部分がCRドメイン、329番目から491番目の部分がL2ドメイン、492番目から607番目の部分がFnIII−1ドメイン及び608番目から735番目までがFnIII−2a/ID/FnIII−2bドメインに相当する。中でもCR(cysteine−rich domain)ドメインは、IGF−IがIGF−I受容体に結合した時の当該受容体の立体構造の変化に伴う、β鎖の細胞内チロシンキナーゼの活性化に関与する。ヒトのIGF−I受容体のアミノ酸配列は、EMBL−EBIのUniProtKB−アクセッション番号P08069等から参照することが可能であるが、配列表の配列番号2にも示す。
【0026】
IGF−I受容体は生体内の組織や細胞の広い範囲で発現していることが知られており、IGF−Iによる細胞増殖の誘導や細胞内シグナルの活性化等の刺激を受ける。特に筋芽細胞はIGF−IのIGF−I受容体を介する作用を、細胞増殖活性を指標として評価可能である。このことから筋芽細胞は、IGF−I受容体に結合する抗体の作用を解析する上で有用である。また、ヒトやその他の脊椎動物のIGF−I受容体のアミノ酸配列をコードする核酸分子を発現ベクターに組み込んで、昆虫細胞又は哺乳類由来の培養細胞等の真核細胞の宿主に導入した組換え体細胞において、その細胞膜上に導入された核酸がコードするIGF−I受容体を発現させることで、ヒトやその他の脊椎動物のIGF−I受容体を発現した細胞を人工的に製造することが可能である。当該IGF−I受容体発現細胞は抗体の結合性の解析や細胞内へのシグナルの伝達等の検討に用いることができる。
【0027】
[抗IGF−I受容体抗体]
抗体とは、ジスルフィド結合により相互結合された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VHと略される)及び重鎖定常領域を含み、重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。軽鎖の定常領域にはλ鎖及びκ鎖と呼ばれる2種類が存在する。重鎖の定常領域にはγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖及びε鎖が存在し、その重鎖の違いによって、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEという抗体のアイソタイプが存在する。VH及びVL領域は、さらにフレームワーク領域(FR)と称される、より保存されている4つの領域(FR−1、FR−2、FR−3、FR−4)と、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の3つの領域(CDR−1,CDR−2,CDR−3)に細分される。VHは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、FR−1、CDR−1(CDR−H1)、FR−2、CDR−2(CDR−H2)、FR−3、CDR−3(CDR−H3)、FR−4の順番で配列された3つのCDR及び4つのFRを含む。VLはアミノ末端からカルボキシ末端へ、FR−1、CDR−1(CDR−L1)、FR−2、CDR−2(CDR−L2)、FR−3、CDR−3(CDR−L3)、FR−4の順番で配列された3つのCDR及び4つのFRを含む。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
【0028】
本発明における抗体は、抗体の断片及び/又は誘導体であってもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2、Fab、Fv等が挙げられる。抗体の誘導体としては、定常領域部分に人工的にアミノ酸変異を導入した抗体、定常領域のドメインの構成を改変した抗体、1分子あたり2つ以上のFcを持つ形の抗体、重鎖のみ又は軽鎖のみで構成される抗体、糖鎖改変抗体、二重特異性抗体、抗体又は抗体の断片化合物や抗体以外のタンパク質と結合させた抗体コンジュゲート、抗体酵素、ナノボディ、タンデムscFv、二重特異性タンデムscFv、ダイアボディ(Diabody)、VHH等が挙げられる。なお、本発明において単に「抗体」という場合には、別途明記しない限り、抗体の断片及び/又は誘導体も含むものとする。
【0029】
また、モノクローナル抗体とは、古典的には単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体分子をいうが、特定のアミノ酸配列からなるVHとVLの組み合わせを含む単一種類の抗体分子のことをいう。モノクローナル抗体は、その抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子配列を有する核酸分子を得ることも可能であり、そのような核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。また、H鎖、L鎖、それらの可変領域やCDR配列等の遺伝子情報を用いて抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことや、マウス等の動物の抗体からヒト型抗体に改変することによって治療剤に用いるために適した構造の抗体を作製することは、この分野での当業者にはよく知られた技術である。また、抗原を感作する動物として、ヒト抗体遺伝子が導入された非ヒト−トランスジェニック動物を用いることによって、ヒト型のモノクローナル抗体を取得することも可能である。それ以外にも、動物への感作を必要としない方法として、ヒト抗体の抗原結合領域又はその一部を発現するファージライブラリー(ヒト抗体ファージディスプレイ)を用いて、対応する抗原と特異的に結合する抗体や特定のアミノ酸配列からなるファージクローンを取得し、その情報からヒト抗体を作製する技術も当業者であれば適宜行うことができる(例えば、Taketo Tanaka等、Keio J. Med.、60巻、p37−46のレビュー等を参照)。また、ヒト以外の動物に投与する抗体をデザインする場合には、ヒト化の技術と同様に、適宜CDRや可変領域のアミノ酸配列情報を用いて、当業者であればデザインすることが可能である。
【0030】
本発明において「抗原抗体反応」とは、IGF−I受容体に対して、抗体が平衡解離定数(KD)1×10−8M以下の親和性で結合することをいう。本発明の抗体は、IGF−I受容体に対して、通常1×10−8M以下、中でも1×10−9M以下、更には1×10−10M以下のKDで結合することが好ましい。
【0031】
抗体の特異性とは、抗体がある抗原に対して高い抗原抗体反応が起こることをいう。特に、本発明においては、IGF−I受容体特異的抗体とは、IGF−I受容体を発現させた細胞と有意に抗原抗体反応を示す濃度において、IGF−I受容体の一次構造(アミノ酸配列)及び高次構造と高い類似性を有するINSRに対する抗原抗体の反応性がMock細胞に対する反応性の1.5倍以下である場合をいう。
【0032】
抗原抗体反応の測定は、当業者であれば固相又は液相の系での結合測定を適宜選択して行うことが可能である。そのような方法としては、酵素結合免疫吸着法(enzyme−linked immunosorbent assay:ELISA)、酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)、表面プラズモン共鳴法(surface plasmon resonance:SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動法(fluorescence resonance energy transfer:FRET)、発光共鳴エネルギー移動法(luminescence resonance energy transfer:LRET)等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。また、そのような抗原抗体結合を測定する際に、抗体及び/又は抗原を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて抗原抗体反応を検出することも可能である。
【0033】
本発明における抗IGF−I受容体抗体は、アゴニスト抗体とアンタゴニスト抗体の両方を含む。本発明のIGF−I受容体アゴニスト抗体は、単独で作用させた場合、筋芽細胞の増殖活性の亢進作用を有する
【0034】
本発明における、IGF−I受容体の特異的なドメインに強力に結合するIGF−I受容体アゴニスト抗体は、in vitroで筋芽細胞の増殖活性の亢進作用を有する。
【0035】
また、本発明のIGF−I受容体アゴニスト抗体は、筋芽細胞の増殖活性を亢進させる作用濃度、より好ましくは作用濃度より10倍高い濃度、更に好ましくは100倍高い濃度で、in vitroでの分化筋細胞のグルコース取込み亢進作用を有さない。
【0036】
IGF−Iの筋肉量増加作用を示す用量は、著しい血糖低下作用を有するが、本発明のIGF−I受容体アゴニスト抗体は、筋肉量増加作用を示す用量、より好ましくはその用量より10倍以上高い用量でさえも、血糖低下作用を有さない。
【0037】
さらに、モルモットへのIGF−I受容体アゴニスト抗体の単回投与は、IGF−Iを持続投与したときの筋肉量増加作用と、同程度のin vivo活性を有する。また、本発明のIGF−I受容体アゴニスト抗体は、血中半減期が長く、動物への単回投与により筋肉量増加作用を示す。
【0038】
以上のことから、本発明のIGF−I受容体アゴニスト抗体は、IGF−Iで期待される、廃用性筋萎縮及び低身長症等のIGF−I受容体が関連する種々の疾患の治療薬又は予防薬となる可能性を有し、IGF−Iの問題点である、血糖低下作用を克服し、血中半減期を長期化することが可能である。
【0039】
発明のIGF−I受容体アンタゴニスト抗体の態様としては、IGF−I受容体と結合するがIGF−I受容体を活性化させない抗体である。このようなIGF−I受容体の架橋による活性化を起こさないアンタゴニスト抗体の例としては、Fab,scFv等の抗原結合性が1価である抗体、二重特異性抗体のように2価の結合部位を有するがその片側の結合部位のみがIGF−I受容体の特異的ドメインに結合する抗体又は2価の結合部位の距離をリンカー等で変化させた抗体等があるが、これらに限定されるものではない。本発明におけるIGF−I受容体アンタゴニスト抗体において、IGF−I受容体と結合するが、アゴニスト活性を持たない抗体は、抗体とIGF−I受容体との抗原抗体反応を測定する方法によりIGF−I受容体に対する結合性を有すること、筋芽細胞等の細胞での細胞増殖試験により細胞増殖の誘導活性を持たないこと、を確認できる。また、当該IGF−I受容体アンタゴニスト抗体は、in vitroでの分化筋細胞のグルコース取込みやin vivoでの血糖値に対して影響しない。従って、本発明のIGF−I受容体アンタゴニスト抗体は高血糖等の副作用を示さない抗IGF−I受容体抗体として乳癌、大腸癌、サルコーマ、肺癌、前立腺癌、甲状腺癌、ミエローマ等の悪性腫瘍等の治療薬又は予防薬となる可能性を有している。
【0040】
[抗IGF−I受容体抗体の結合]
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、IGF−I受容体のCRドメインをエピトープとし、IGF−I受容体の一次構造(アミノ酸配列)及び高次構造と高い類似性を有するINSRには結合性を有さない。
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、IGF−I受容体のCRドメインに結合することにより、IGF−I受容体が二量体を形成したホモ型の受容体、あるいはIGF−I受容体とINSRが二量体を形成したヘテロ型の受容体を活性化させることが考えられる。
【0041】
[抗IGF−I受容体抗体の配列]
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、脊椎動物のIGF−I受容体に特異的に結合し、細胞増殖の誘導活性を有するものであれば、配列は特に限定されない。
しかしながら、各CDR配列として、特定のアミノ酸配列を有することが好ましい。具体的には以下のとおりである。なお、本発明においてアミノ酸配列の「同一性」(identity)とは、一致するアミノ酸残基の割合を意味し、相同性(similarity)とは、一致又は類似するアミノ酸残基の割合を意味する。相同性及び同一性は、例えばBLAST法(NCBIのPBLASTのデフォルト条件)により決定することができる。
【0042】
ここで「類似するアミノ酸残基」とは、同様の化学的特質(例えば、電荷又は疎水性)を持つ側鎖を有するアミノ酸残基を意味する。類似するアミノ酸残基としては、例えば以下の組合せが挙げられる。
1)脂肪族側鎖を有するアミノ酸残基:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシン残基。
2)脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸残基:セリン及びトレオニン残基。
3)アミド含有側鎖を有するアミノ酸残基:アスパラギン及びグルタミン残基。
4)芳香族側鎖を有するアミノ酸残基:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン残基。
5)塩基性側鎖を有するアミノ酸残基:リシン、アルギニン、及びヒスチジン残基。
6)酸性側鎖を有するアミノ酸残基:アスパラギン酸及びグルタミン酸残基。
7)硫黄含有側鎖を有するアミノ酸残基:システイン及びメチオニン残基。
【0043】
本発明において、重鎖可変領域のCDR−1(CDR−H1)配列として配列番号3(SerTyrTrpMetHis)又は配列番号3のいずれか1か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列が好ましい。また、CDR−H1配列としては配列番号3と80%以上の相同性を有することが好ましい。なお、本発明において、あるアミノ酸配列中の何れかのアミノ酸残基(以下「第1のアミノ酸残基」)が別のアミノ酸残基(以下「第2のアミノ酸残基」)により置換される場合、置換前の第1のアミノ酸残基と置換後の第2のアミノ酸残基とは、構造及び/又は性質が互いに類似するものであることがより好ましい。
【0044】
重鎖可変領域のCDR−2(CDR−H2)配列として配列番号4(GluThrAsnProSerAsnSerValThrAsnTyrAsnGluLysPheLysSer)又は配列番号4のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列が好ましい。また、CDR−H2配列としては配列番号4と82%以上、中でも88%以上、さらに94%以上の相同性を有することが好ましい。
【0045】
重鎖可変領域のCDR−3(CDR−H3)配列として配列番号5(GlyArgGlyArgGlyPheAlaTyr)又は配列番号5のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列が好ましい。また、CDR−H3配列としては配列番号5と75%以上、より好ましくは87%以上の相同性を有することが好ましい。
【0046】
軽鎖可変領域のCDR−1(CDR−L1)配列として配列番号6(ArgAlaSerGlnAsnIleAsnPheTrpLeuSer)又は配列番号6のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列が好ましい。また、CDR−L1配列としては配列番号6と81%以上の相同性、中でも90%以上の相同性を有することが好ましい。
【0047】
軽鎖可変領域のCDR−2(CDR−L2)配列として配列番号7(LysAlaSerAsnLeuHisThr)又は配列番号7のいずれか1か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列が好ましい。また、CDR−L2配列としては配列番号7と85%以上の相同性を有することが好ましい。
【0048】
軽鎖可変領域のCDR−3(CDR−L3)配列として配列番号8(LeuGlnGlyGlnSerTyrProTyrThr)又は配列番号8のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列が好ましい。また、CDR−L3配列としては配列番号8と77%以上、より好ましくは88%以上の相同性を有することが好ましい。
【0049】
特に、本発明の抗IGF−I受容体抗体は、以下のCDR配列の組み合わせを有することが好ましい。
CDR−H1配列として、配列3のアミノ酸配列、
CDR−H2配列として、配列4のアミノ酸配列、
CDR−H3配列として、配列5のアミノ酸配列、
CDR−L1配列として、配列6のアミノ酸配列、
CDR−L2配列として、配列7のアミノ酸配列、及び
CDR−L3配列として、配列8のアミノ酸配列。
【0050】
なお、抗体におけるCDR−H1、CDR−H2、CDR−H3、CDR−L1、CDR−L2、又はCDR−L3の各配列を同定する方法としては、例えばKabat法(Kabat et al.、The Journal of Immunology、1991、Vol.147、No.5、pp.1709−1719)やChothia法(Al−Lazikani et al.、Journal of Molecular Biology、1997、Vol.273、No.4、pp.927−948)が挙げられる。これらの方法は、この領域の当業者にとっては技術常識であるが、たとえばDr. Andrew C.R. Martin‘s Groupのインターネットホームページ(http://www.bioinf.org.uk/abs/)から概要を知ることも可能である。
【0051】
本発明の抗体である免疫グロブリンのフレームワーク配列は、脊椎動物の免疫グロブリンの各クラスにおけるフレームワーク配列であることが好ましい。特に、ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、マウスもしくはラットを含む非ヒト動物の免疫グロブリンの各クラスにおけるフレームワーク配列であることが好ましい。
【0052】
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域として、特定のアミノ酸配列を有することが好ましい。具体的には以下のとおりである。
【0053】
重鎖可変領域として配列番号9、配列番号9のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号9と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列が好ましい。軽鎖可変領域として配列番号10、配列番号10のいずれか1か所又は2か所のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号10と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列が好ましい。特に、本発明の抗IGF−I受容体抗体は、IGF11−16が好ましい。すなわち、重鎖可変領域として配列番号9、軽鎖可変領域として配列番号10の組み合わせの配列を含むことが好ましい。
【0054】
以上の重鎖及び軽鎖の各CDR及び/又は各鎖可変領域のアミノ酸配列に、ヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域及び/又は各定常領域のアミノ酸配列を適宜組み合わせることにより、当業者であれば本発明のヒト化抗IGF−I受容体抗体を設計することが可能である。ヒト化抗体の重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域及び/又は各定常領域のアミノ酸配列は、例えばヒトのIgG、IgA、IgM、IgE、IgDの各クラス又はその変異体から選択することが可能である。
【0055】
本発明の抗IGF−I受容体抗体がIGF−I受容体アゴニスト抗体の場合は、好ましくは、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトIgGクラス又はその変異体、好ましくはヒトIgG4サブクラス、ヒトIgG1サブクラス又はその変異体である。1つの例では、安定化IgG4定常領域は、Kabatの系により、ヒンジ領域の位置241においてプロリンを含む。この位置は、EU付番方式(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest, DIANE Publishing, 1992、Edelman et al.、Proc. Natl. Acad. Sci USA、63、78−85、1969)により、ヒンジ領域の位置228に対応する。ヒトIgG4では、この残基は一般的にセリンであり、セリンのプロリンへの置換で安定化を誘導することができる。1つの例では、IgG1の定常領域にN297A変異を組み入れてFc受容体への結合及び/又は補体を固定する能力をできるだけ抑えることができる。
【0056】
[競合結合]
本発明の抗IGF−I受容体抗体と、IGF−I受容体に対して競合結合する抗体も、本発明の範囲に含まれる。本発明において「競合結合」とは、複数種のモノクローナル抗体が抗原と共存する際に、一方の抗体の抗原への結合が、他方の抗体の抗原への結合により阻害される現象を意味する。一般的には、一定量(濃度)のモノクローナル抗体に対して、別のモノクローナル抗体の量(濃度)を変えて加えていった場合に、前者の一定量のモノクローナル抗体の抗原への結合量が低下する添加量(濃度)を測定することによって測定可能である。その阻害の程度は、IC50又はKiという値で表すことができる。本発明の抗IGF−I受容体抗体と競合結合するモノクローナル抗体とは、本発明の抗IGF−I受容体抗体、例えばIGF11−16抗体を10nMで用いて抗原抗体結合を検出した際に、IC50が通常1000nM以下、中でも100nM以下、更には10nM以下の抗体をいう。競合結合の測定を行う場合、用いる抗体を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて検出することでその測定を行うことも可能である。
【0057】
[交差反応]
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、他の脊椎動物のIGF−I受容体に対して交差反応を有することが好ましい。交差反応とは、その抗体が抗原抗体反応をするIGF−I受容体の動物種(例えばヒト)とは異なる、他の動物種の抗原に対する抗体の結合性を示す。その抗体が抗原抗体反応をするIGF−I受容体の動物種以外である、ヒト、又はモルモット、サル、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌもしくはニワトリを含む非ヒト動物のIGF−I受容体と交差反応性を有することが好ましい。実施例7において抗IGF−I受容体抗体であるIGF11−16抗体は、ヒトIGF−I受容体のCRドメインにおけるProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetの配列と結合することが示された。サル(カニクイザル)、ウサギ、モルモット、ウシ、ヒツジ、ウマ及びイヌのIGF−I受容体の相同的な部分において、このProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetの配列が保存されており、これらの種の間でのIGF−I受容体と結合交差性がある。また、マウス及びラットにおいては、当該相同的な部分のアミノ酸配列がProSerGlyPheIleArgAsnSerThrGlnSerMetとなっており、この部分に結合する抗IGF−I受容体抗体を取得することで、マウスやラット等のIGF−I受容体と結合し、IGF11−16と同様の性状や機能を有する抗体を取得することが可能である。
【0058】
また、本発明の抗IGF−I受容体抗体と交差反応しない動物の種を用いて、その細胞や動物を遺伝子工学的に改変させることにより、本発明の抗IGF−I受容体抗体が交差反応するIGF−I受容体を発現する細胞や動物を作製することも可能である。
【0059】
[脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性、筋肉量及び/又は体長の増加の誘導活性]
本発明のある態様における抗IGF−I受容体抗体は、脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を有する。IGF−I受容体アゴニスト抗体の存在はすでに知られていたものの、初代培養細胞、その中でも筋芽細胞において細胞の増殖誘導活性を示した抗体の報告は無かった。さらに、in vitroにおいてIGF−IのEC50値よりも低用量で細胞の増殖誘導活性を有する抗体の報告もなかった。本発明における脊椎動物由来細胞とは、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に由来する細胞であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類に由来する細胞であり、さらにより好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ又はイヌに由来する細胞である。これらの種に由来する細胞で、IGF−I受容体を発現し、当該IGF−I受容体に本発明の抗IGF−I受容体抗体が交差反応する細胞であれば、本発明の抗IGF−I受容体抗体によって細胞増殖が誘導されうる。また、本発明の抗IGF−I受容体抗体と交差反応性がある種のIGF−I受容体を発現されるように改変された細胞や動物、又は当該改変動物に由来する細胞も、本発明における脊椎動物由来細胞に含まれる。
【0060】
脊椎動物由来細胞のin vitroにおける増殖誘導活性を調べるための細胞としては、初代培養細胞、株化細胞又はそれらの細胞の形質転換体細胞等を用いることが可能である。初代培養細胞とは、生物の臓器や組織から分離された細胞で、通常はある程度の継代数での継代培養が可能であるものをいう。脊椎動物由来の初代培養細胞は、脊椎動物の臓器や組織から酵素処理、物理的方法による分散又はexplant法等の手法で得ることができる。また、脊椎動物から得られた臓器や組織、又はそれらの断片を用いることも可能である。それらの当該初代細胞を調製する臓器や組織としては、好ましくは甲状腺、副甲状腺や副腎等の内分泌組織、虫垂、扁桃腺、リンパ節や脾臓等の免疫組織、気管や肺等の呼吸器、胃、十二指腸、小腸や大腸等の消化器、腎臓や膀胱等の泌尿器、輸精管、睾丸や前立腺等の雄性生殖器、乳房や卵管等の雌性生殖器、心筋や骨格筋等の筋組織等が挙げられ、より好ましくは肝臓、腎臓若しくは消化器又は筋組織等であり、さらにより好ましくは筋組織である。本発明での抗IGF−I受容体抗体の増殖誘導活性を調べるために用いられる当該初代培養細胞としては、IGF−I受容体を発現し、そのIGF−I受容体と結合するIGF−Iによって増殖が誘導される細胞が用いられる。その代表としては、筋組織から分離された初代培養細胞である骨格筋筋芽細胞等が使われる。ヒトや動物由来の初代培養細胞は分譲や市販されているものを入手して使用することも可能であり、ヒト初代培養細胞は、例えばATCC(登録商標)、ECACC、Lonza、Gibco(登録商標)、Cell Applications、ScienCell research laboratories、PromoCell等の機関や会社から入手できる。
【0061】
株化細胞とは生物に由来する細胞が不死化されて一定の性質を保ちながら半永久的に増殖しうる培養細胞をいう。株化細胞には非腫瘍由来のものと、腫瘍由来のものが存在する。本発明の抗IGF−I受容体抗体による増殖誘導活性を調べるための脊椎動物由来の株化細胞としては、IGF−I受容体を発現し、そのIGF−I受容体と結合するIGF−Iによって増殖が誘導される細胞が用いられる。IGF−I受容体を発現し、IGF−Iにより細胞増殖が誘導される株化細胞としては、例えばヒト神経芽細胞腫SH−SY5Y、ヒト表皮角化細胞株HaCaT、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株A549、ヒト結腸腺癌細胞株Caco−2、ヒト肝癌由来細胞株HepG2、ヒト子宮頚部癌細胞株Hela、ヒト子宮頚部癌細胞株SiHa、ヒト乳がん細胞株MCF7、ヒト多能性胎生期癌NTERA−2やヒト骨肉腫細胞株U−2−OS等があるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
また、本発明の抗IGF−I受容体抗体による増殖誘導を調べる細胞としては、初代培養細胞や株化細胞の形質転換体細胞も挙げられる。そのような形質転換細胞としては、初代培養細胞から作製したiPS細胞やそのiPS細胞から分化誘導した細胞や組織等が挙げられる。また、他の形質転換細胞としては、初代培養細胞や株化細胞に遺伝子を導入し一過的又は持続的に発現させた細胞も当該形質転換細胞に含まれる。当該細胞に導入して発現させる遺伝子としては、ヒト又は他の種のIGF−I受容体の遺伝子を含んでもよい。
【0063】
脊椎動物由来の細胞における本発明の抗IGF−I受容体抗体による細胞増殖誘導を調べる方法としては、細胞数計測、DNA合成量の測定、代謝酵素活性の変化量の測定等が挙げられる。細胞数計測の方法は、血球算定盤を用いた方法やコールターカウンター等の細胞数計測装置を用いた方法があり、DNA合成量を測定する方法としては、[3H]−チミジンや5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)の取込みによる測定方法、代謝酵素活性の変化量をみる方法としては、MTT法、XTT法やWST法等があるが、当業者であれば適宜その他の方法等でも実施することができる。細胞増殖誘導活性は、試験に用いる培養細胞に対して、本発明の抗IGF−I受容体抗体を反応させた場合の方が、当該抗体を反応させていない場合よりも細胞の増殖が上昇していることで判定できる。この場合、当該誘導活性の対照として、同条件で本来のIGF−I受容体のリガンドであるIGF−Iを反応させた測定を行うと、その活性の評価に便利である。
【0064】
試験を行う培養細胞に対して、本発明の抗IGF−I受容体抗体及びIGF−Iをそれぞれの濃度を変化させて反応させたときに、最大の増殖活性の50%を示すときの濃度をEC50値として示す。ヒト骨格筋筋芽細胞を用いて増殖活性を評価した場合、好ましくは本発明の抗IGF−I受容体抗体の細胞増殖誘導活性はIGF−Iと同等のEC50値であり、より好ましくは本発明の抗IGF−I受容体抗体のEC50値はIGF−Iの1/10以下であり、さらに好ましくは1/20以下であり、さらにより好ましくは本発明の抗IGF−I受容体抗体のEC50値はIGF−Iの1/50以下である。また、ヒト骨格筋筋芽細胞を用いて増殖活性を評価した場合、本発明の抗IGF−I受容体抗体のEC50値は、好ましくは0.5nmol/L以下であり、より好ましくは0.3nmol/L以下であり、さらに好ましくは0.1nmol/L以下である。
【0065】
脊椎動物由来細胞のin vivoにおける増殖誘導活性を調べる方法としては、当該脊椎動物に非経口的に本発明の抗IGF−I受容体抗体を投与して、投与された個体全体、又は投与された個体における臓器又は組織の重量、大きさ、細胞数等の変化を計測するか、当該脊椎動物細胞を移植された動物を用いて、当該移植を受けた個体において当該移植された脊椎動物細胞を含む移植片の重量、大きさ、細胞数等の変化を計測することで調べることができる。個体全体での計測では、体重、体長、四肢周囲長等の測定や、インピーダンス法による体組成測定、クレアチニン、身長係数等が用いられる。個体での臓器や組織、又は移植片の計測については、ヒト以外の動物では直接目的の臓器、組織又は移植片を回収し、重量、大きさや含まれる細胞数の算定等が行われる。また、非侵襲的に個体の臓器、組織又は移植片を計測する方法としては、X線撮影像やCT、MRIによる画像解析、同位元素や蛍光物質によるトレーサーを用いた造影法等が用いられる。対象となる組織が骨格筋である場合には、筋力の変化等が指標となる。その他、当業者であれば適宜その他の方法を用いることで、本発明の抗IGF−I受容体抗体の脊椎動物由来細胞のin vivoにおける増殖誘導活性に対する作用を調べることができる。本発明の抗IGF−I受容体抗体のin vivoにおける細胞増殖誘導活性を調べるためには、本発明の抗IGF−I受容体抗体を投与した個体と、本発明の抗IGF−I受容体抗体以外の抗体又は別の対照物質を投与された個体との間で、上に示した方法等での計測等を行った結果を比較することで評価することができる。
【0066】
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、細胞に接触させた時間に対して、増殖誘導する作用が天然型IGF−Iに対して長いため、持続性が改善されたという特徴を有する。実施例12でのin vitroでの細胞増殖誘導活性において、天然型IGF−Iは細胞に接触させた後でIGF−Iを含まない培地で洗浄すると細胞増殖誘導活性が消失してしまうのに対して、本発明の抗IGF−I受容体抗体であるIGF11−16抗体は、細胞に接触させた後IGF11−16抗体を含まない培地で洗浄した場合でも細胞の増殖誘導活性が持続していた。また、実施例16において、IGF−Iと本発明の抗IGF−I受容体抗体であるIGF11−16抗体の血中動態を比較しているが、天然型IGF−Iは動物への投与後24時間までに約50%以上が血中から消失するのに対して、IGF11−16抗体は動物に投与された後、48時間後でも60%以上が血中に存在することから、長期間にわたって血中に存在していることが示された。これらのことから、本発明の抗IGF−I受容体抗体は、in vitro及びin vivoにおいて長い細胞増殖誘導効果を示すことがわかる。
【0067】
また、本発明の抗IGF−I受容体抗体のin vivoでの効果としては、筋肉量及び/又は体長の増大効果が挙げられる。IGF−Iは骨格筋において上述の筋芽細胞の増殖や分化に作用するほか、筋線維を太くする作用もあり、そのような総合的な作用として筋肉量を増大させる効果があると考えられている。本発明の抗IGF−I受容体抗体もIGF−Iと同様に動物に投与することによって、当該動物の筋肉量を増大させる効果を有する。IGF−I受容体アゴニスト抗体の作用として、in vivoで筋肉の増大作用
を有することが示されたのは、本発明の抗IGF−I受容体抗体が初めてである。
【0068】
本発明の抗IGF−I受容体抗体による筋肉量の増大効果を計測する方法としては、個体全体での計測では、体重、体長、四肢周囲長等の測定や、インピーダンス法による体組成測定、クレアチニン、身長係数等が用いられ、また、CT、MRIによる画像解析、同位元素や蛍光物質によるトレーサーを用いた造影法等の方法が用いられるほか、筋力の変化等も指標になる。また、ヒト以外の動物では直接筋肉を採取してその重量や大きさを計測する方法等も可能である。筋肉量の増加の効果は、本発明の抗IGF−I受容体抗体を投与された個体と当該抗体を投与されなかった個体での筋肉量の増加を比較すること、又は、一つの個体で本発明の抗IGF−I受容体抗体を投与する前と投与した後での筋肉量の比較を行うことで評価することができる。筋肉量の増加の効果は、本発明の抗IGF−I受容体抗体が投与により筋肉量の増加の差が見られれば、その効果を知ることができるが、本発明の抗IGF−I受容体抗体が投与された個体と投与されなかった個体、又は、本発明の抗IGF−I受容体抗体が投与される前と後で、好ましくは103%以上、より好ましくは104%以上の筋肉量の差が認められることで本発明の抗IGF−I受容体抗体の投与による効果を判断することが可能である。IGF−Iは骨の成長にも関与し、体長(ヒトの場合は身長)を増大させる働きもある。したがって、本発明の抗IGF−I受容体抗体も、動物に投与することによって体長を増大させる効果を有する。本発明の抗IGF−I受容体抗体による体長増大の効果は、個体の体重、体長、四肢周囲長等の測定によって計測することが可能である。
【0069】
[脊椎動物由来細胞でのグルコース取込み及び/又は動物での血糖値に対する作用]
本発明のある態様における抗IGF−I受容体抗体は、脊椎動物由来の分化筋細胞での細胞内へのグルコースの取込み作用及び/又は脊椎動物での血糖値に影響を及ぼさない特徴を有する。IGF−IはIGF−I受容体へのアゴニスト作用の一部として細胞へのグルコースの取込みの上昇や血糖値の降下作用を起こすことが知られているが、IGF―I受容体アゴニスト抗体として機能する本発明での抗IGF−I受容体抗体では細胞での増殖誘導活性のin vitroにおけるEC50値の100倍以上の用量においても分化筋細胞でのグルコース取込みを誘導せず、動物に非経口的に投与した場合に筋肉量の増加を誘導する有効用量のさらに10倍以上でも血糖値を変動させないという性状を示すことは予想外の効果である。また、IGF―I受容体アンタゴニスト抗体としての性状としても、脊椎動物由来細胞の分化筋細胞でのグルコース取込み及び/又は脊椎動物での血糖値に影響を及ぼさないという特徴は、従来のIGF−I受容体アンタゴニスト抗体をヒトの治療で用いる際の未充足の課題であった高血糖等を回避するうえで有利な効果である。本発明における脊椎動物由来細胞とは、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に由来する細胞であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類に由来する細胞であり、さらにより好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ又はイヌに由来する細胞である。また、本発明の抗IGF−I受容体抗体と交差反応性を有する脊椎動物種由来のIGF−I受容体あるいは結合性を有するように変異を導入したIGF−I受容体を発現されるように改変された細胞や動物、又は当該改変動物に由来する細胞も、本発明における脊椎動物由来細胞に含まれる。
【0070】
本発明での抗IGF−I受容体抗体の脊椎動物由来細胞のin vitroにおける細胞内へのグルコース取込みに影響を及ぼさない特徴を調べるための細胞としては、初代培養細胞、株化細胞又はそれらの細胞の形質転換体細胞等を用いることが可能である。初代培養細胞とは、生物の臓器や組織から分離された細胞で、通常はある程度の継代数での継代培養が可能であるものをいう。脊椎動物由来の初代培養細胞は、脊椎動物の臓器や組織から酵素処理、物理的方法による分散又はexplant法等の手法で得ることができる。当該初代細胞を調製する臓器や組織としては、好ましくは甲状腺、副甲状腺や副腎等の内分泌組織、虫垂、扁桃腺、リンパ節や脾臓等の免疫組織、気管や肺等の呼吸器、胃、十二指腸、小腸や大腸等の消化器、腎臓や膀胱等の泌尿器、輸精管、睾丸や前立腺等の雄性生殖器、乳房や卵管等の雌性生殖器、心筋や骨格筋等の筋組織等が挙げられ、より好ましくは肝臓、腎臓もしくは消化器又は筋組織等であり、さらにより好ましくは筋組織である。
【0071】
本発明での抗IGF−I受容体抗体の細胞内へのグルコース取込みに影響を及ぼさない特徴を調べるために用いられる当該初代培養細胞としては、IGF−I受容体を発現し、そのIGF−I受容体と結合するIGF−Iによって細胞内へのグルコース取込みが誘導される細胞が用いられる。その代表としては、筋組織から分離された初代培養細胞である骨格筋筋芽細胞を分化させた、分化筋細胞が挙げられる。
【0072】
本発明の分化筋細胞とは、分化した筋細胞をいい、完全に分化が終わっていないものも含まれる。なお、本発明における「分化筋細胞」は、便宜上、分化開始から約6日後の細胞を、分化筋細胞という。ヒトや動物由来の初代培養細胞は分譲や市販されているものを入手して使用することも可能であり、ヒト初代培養細胞は、例えばATCC(登録商標)、ECACC、Lonza、Gibco(登録商標)、Cell Applications、ScienCell research laboratories、PromoCell等の機関や会社から入手できる。
【0073】
株化細胞とは生物に由来する細胞が不死化されて一定の性質を保ちながら半永久的に増殖しうる培養細胞をいう。株化細胞には非腫瘍由来のものと、腫瘍由来のものが存在する。本発明の抗IGF−I受容体抗体による細胞内へのグルコース取込みに及ぼす影響を調べるための脊椎動物由来の株化細胞としては、IGF−I受容体を発現し、そのIGF−I受容体と結合するIGF−Iによって細胞内へのグルコース取込みが誘導される細胞が用いられる。IGF−I受容体を発現し、IGF−Iにより細胞内へのグルコース取込みが誘導される細胞としては、例えば骨格筋細胞、脂肪細胞、表皮角化細胞等があるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
また、本発明の抗IGF−I受容体抗体による細胞内へのグルコース取込みに及ぼす影響を調べる細胞としては、初代培養細胞や株化細胞の形質転換体細胞も挙げられる。そのような形質転換細胞としては、初代培養細胞から作製したiPS細胞やそのiPS細胞から分化誘導した細胞等が挙げられる。また、他の形質転換細胞としては、初代培養細胞や株化細胞に遺伝子を導入し、一過的又は持続的に発現させた細胞も当該形質転換細胞に含まれる、当該細胞に導入して発現させる遺伝子としては、ヒト又は他の種のIGF−I受容体の遺伝子を含んでもよい。
【0075】
脊椎動物由来の細胞における本発明の抗IGF−I受容体抗体によるグルコース取込みに及ぼす影響を調べる方法としては、細胞内グルコース濃度の測定、グルコース類縁トレーサー物質の細胞内取込み量の測定、グルコーストランスポーターの変化の測定等が挙げられる。グルコース濃度の測定方法は、酵素法等の吸光度測定法があり、グルコース類縁トレーサー物質の細胞内取込み量を測定する方法としては、[3H]−2’−デオキシグルコースの取込み量の測定、グルコーストランスポーターの変化をみる方法としては、細胞免疫染色法、ウエスタンブロット等があるが、当業者であれば適宜その他の方法等でも実施することができる。細胞内へのグルコース取込みに及ぼす影響は、試験に用いる培養細胞に対して、本発明の抗IGF−I受容体抗体を反応させた場合の細胞内へのグルコース取込みが、当該抗体を反応させていない場合と同程度であることで判定できる。この場合、当該誘導活性の対照として、同条件で本来のIGF−I受容体のリガンドであるIGF−Iを反応させた測定を行うと、その活性の評価に便利である。
【0076】
試験を行う培養細胞に対して、本発明の抗IGF−I受容体抗体及びIGF−Iをそれぞれの濃度を変化させて反応させたときに、無処置群の細胞内へのグルコース取込みを100%とした場合のグルコース取込み量として示す。ヒト分化筋細胞を用いてグルコース取込み量を評価した場合、好ましくは本発明の抗IGF−I受容体抗体のグルコース取込み量は同一濃度のIGF−Iのグルコース取込み量以下であり、より好ましくは本発明の抗IGF−I受容体抗体のグルコース取込み量は無処置群の110%以下であり、さらに好ましくは本発明の抗IGF−I受容体抗体のグルコース取込み量は無処置群と同等の100%である。また、ヒト分化筋細胞を用いてグルコース取込み量を評価した場合、本発明の抗IGF−I受容体抗体を100nmol/L添加した場合のグルコース取込み量は好ましくは110%以下であり、より好ましくは105%以下であり、さらに好ましくは95から100%である。
【0077】
脊椎動物由来細胞のin vivoにおけるグルコース取込みを調べる方法としては、当該脊椎動物に非経口的に本発明の抗IGF−I受容体抗体を投与して投与された個体における臓器又は組織中のグルコース含量等の変化を計測することで調べることができる。個体全体での計測では、血糖値等の測定や、糖化蛋白質を指標としたヘモグロビンA1C等が用いられる。個体での臓器や組織中のグルコース取込み量等の測定においては、ヒト以外の動物においては直接目的の臓器又は組織を回収し、グルコース含量又はトレーサーの算定等が行われる。また、非侵襲的に個体の臓器又は組織中のグルコース取込みを測定する方法としては、X線撮影像やCT、MRIによる画像解析、同位元素や蛍光物質によるトレーサーを用いた造影法等が用いられる。対象となる組織が骨格筋である場合には、グルコースクランプ等も指標となる。その他、当業者であれば適宜その他の方法を用いることで、本発明の抗IGF−I受容体抗体の脊椎動物由来細胞のin vivoにおけるグルコース取込みに及ぼす影響を調べることができる。
【0078】
また、本発明の抗IGF−I受容体抗体は脊椎動物に非経口投与された場合、当該脊椎動物の筋肉量の増加を誘導する有効用量に対して、同一用量、好ましくは10倍以上の用量においても、当該脊椎動物の血糖値を変動させないことを特徴とする。本発明での抗IGF−I受容体抗体の脊椎動物での血糖値の変化を調べるための動物としては、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に属する動物であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類に属する動物であり、さらにより好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ又はイヌである。また、本発明の抗IGF−I受容体抗体と交差反応性がある種のIGF−I受容体を発現されるように改変された動物も、本発明での抗IGF−I受容体抗体の脊椎動物での血糖値の変化を調べるための動物に含まれる。血糖値の測定は、観血的方法としては比色法や電極法等が用いられ、検出のための酵素にはグルコースオキシダーゼ法(GOD法)、グルコースデヒドロゲナーゼ法(GDH法)等があり、非観血的方法としては光学的測定法等があるが、当業者であれば適宜その他の方法も選択することができる。血糖値はヒトの場合、空腹時血糖値の正常域は100mg/dLから109mg/dLである。血糖値に対する薬剤投与による有害事象は(有害事象共通用語規準 v4.0)、血糖値が77mg/dL−55mg/dLの範囲より低値となる場合は低血糖、109mg/dL−160mg/dLの範囲より高値となる場合は高血糖と定義されている。薬剤投与による血糖値に及ぼす影響がないとは、薬剤投与後の血糖値が55mg/dLより上で160mg/dL未満の範囲内となること、より好ましくは77mg/dLより上で109mg/dL未満の範囲内となることである。但し、血糖値は投与する動物によって正常値やその変動の幅がことなり、またヒトであっても投与時の血糖値が必ずしも正常値の範囲であるとは限らないことから、本発明において脊椎動物の血糖値を変動させないとは、本発明の抗IGF−I受容体抗体を投与された脊椎動物の血糖値が好ましくは30%以内、より好ましくは20%以内、さらにより好ましくは10%以内の変化であることをいう。
【0079】
[抗IGF−I受容体抗体の製法]
本発明における抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明における抗体は、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体(ミルスタイン(Milstein)等、ネイチャー(Nature)(England)1983年10月6日発行、305巻5934号、p.537〜540)であることができる。例えば、ポリクローナル抗体は配列番号2のIGF−I受容体のペプチドを抗原として哺乳動物に感作し、当該動物の血清等から回収することができる。また、ペプチドを抗原として用いる場合には、BSAやKLH等のキャリアタンパク質やポリリジン等に結合させた形態での抗原を用いることができる。また抗原として用いるペプチドの具体的例としては、配列番号2の部分配列であるProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetを用いることができるが、これに限定されるものではない。当該発明におけるモノクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞等と細胞融合させることにより得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から回収することができる。そのようなモノクローナル抗体の取得方法としては、実施例1に記載されており、それによって得られたモノクローナル抗体としては配列番号9のVHアミノ酸配列、配列番号10のVLアミノ酸配列を有するモノクローナル抗体(IGF11−16)が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0080】
得られたモノクローナル抗体は、その抗体のタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子配列を有する核酸分子を得ることも可能であり、そのような核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。当該抗体の遺伝子情報、例えばH鎖、L鎖、それらの可変領域やCDR配列等の情報を用いて、抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことや、マウス等の動物の抗体からヒト型抗体に改変することによって、治療剤に用いるために適した構造の抗体を作製することは、この分野での当業者にはよく知られた技術である。また、抗原を感作する動物としてヒト抗体遺伝子が導入された非ヒト−トランスジェニック動物を用いることによって、ヒト型のモノクローナル抗体を取得することも可能である。それ以外にも、動物への感作を必要としない方法として、ヒト抗体の可変領域又はその一部を発現するファージライブラリー(ヒト抗体ファージディスプレイ)を用いて、対応する抗原と特異的に結合する抗体や特定のアミノ酸配列からなるファージクローンを取得し、その情報からヒト抗体を作製する技術も当業者であれば適宜行うことができる(例えば、Taketo Tanaka等、Keio J.Med.、60巻、p37−46のレビュー等を参照)。
【0081】
また、前述のモノクローナル抗体を製造する方法としては、それぞれ取得したい抗体を産生するハイブリドーマを培養し、得られた培養上清から常法によって抗体を精製して取得することができる。また、別の製造方法としては、取得したい抗体を産生するハイブリドーマやヒト抗体ファージディスプレイで得られたファージクローン等から抗体をコードする遺伝子、より詳細には免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子を取得して、当該遺伝子を発現するためのベクターを作製し、宿主細胞(哺乳類細胞、昆虫細胞、微生物等)に導入して、当該抗体を産生させることも可能である。このとき、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子について、望む形質を導入するための遺伝子改変を実施すること、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖の可変領域又はCDR領域の構造情報を用いてヒト型化抗体、抗体キメラタンパク質、低分子抗体やスキャフォールド抗体を作製することは、公知の技術を用いることで当業者であれば実施することができる。また、抗体の性能の向上や副作用の回避を目的に、抗体の定常領域の構造に改変を入れることや、糖鎖の部分での改変を行うことも、当業者によく知られた技術によって適宜行うことができる。
【0082】
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。具体的に、本発明の抗IGF−I受容体抗体は、通常はモノクローナル抗体(Milstein et al.、Nature、1983、Vol.305、No.5934、pp.537−540)であるところ、斯かるモノクローナル抗体は、例えば以下の手法で作製することが可能である。
【0083】
例えば、本発明の抗IGF−I受容体抗体の免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列をコードする核酸分子を作製する。ここで、斯かる核酸分子を各種のベクター又はプラスミドに導入することにより、当該核酸分子を含むベクター又はプラスミドを作製してもよい。次いで、前記の核酸分子、ベクター、又はプラスミドで宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、若しくは植物細胞等の真核細胞、又は細菌細胞が挙げられる。次に、この形質転換された宿主細胞を、本発明の抗IGF−I受容体抗体を産生するための適切な条件下で培養する。ここで、必要に応じ、得られた本発明の抗IGF−I受容体抗体を宿主細胞から単離してもよい。これらの手順に用いられる各種の手法は、何れも当業者には周知である。
【0084】
また、動物への感作を用いる方法としては、抗原を感作する動物としてヒト抗体遺伝子が導入された非ヒト−トランスジェニック動物を用い、IGF−I受容体及び/又はその部分ペプチド等を感作させ、免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞等と細胞融合させることにより得られたハイブリドーマをクローニングして、得られた培養上清から常法によって抗体を精製して回収することにより得ることができる。そのようなモノクローナル抗体の取得方法としては、例えば国際公開第2013/180238号に記載されている。
【0085】
それ以外にも、所望のヒト化抗体の可変領域又はその一部を発現するファージライブラリー(ヒト抗体ファージディスプレイ)を用いて、対応する抗原と特異的に結合する抗体や特定のアミノ酸配列からなるファージクローンを取得し、その情報からヒト化抗体を作製する技術を用いることもできる(例えば、Taketo Tanaka et al.、The Keio Journal of Medicine、Vol.60、pp.37−46のレビュー等を参照)。
【0086】
ここで、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子について、望む形質を導入するための遺伝子改変を行ったり、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖の可変領域又はCDR領域の構造情報を用いたりすることにより、抗体キメラタンパク質、低分子抗体、スキャフォールド抗体等を作製することは、当業者であれば公知の技術を用いて実施可能である。また、抗体の性能の向上や副作用の回避を目的に、抗体の定常領域の構造に改変を入れることや、糖鎖の部分での改変を行うことも、当業者によく知られた技術によって適宜行うことができる。
【0087】
[抗IGF−I受容体抗体を含有する薬]
本発明の抗IGF−I受容体抗体は、IGF−Iに関連した状態又はIGF−I受容体への作用に起因する疾患の治療薬又は予防薬として利用可能である。具体的には、IGF−Iに関連した状態又はIGF−I受容体アゴニスト抗体での治療又は予防の対象となる疾患としては、廃用性筋萎縮、低身長症、肝硬変、肝線維化、糖尿病性腎症、慢性腎不全、ラロン症、老化、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、心血管保護、糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、嚢胞性線維症、筋強直性ジストロフィー、エイズ筋減弱症、HIVに伴う脂肪再分布症候群、クローン病、ウェルナー症候群、X連鎖性複合免疫不全症、難聴、神経性無食欲症及び未熟児網膜症、ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、シルバー・ラッセル症候群、特発性低身長、肥満、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、低筋肉量、心筋虚血、低骨密度、IGF−I受容体アンタゴニスト抗体での治療又は予防の対象となる疾患としては、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー−モリソン症候群、ベックウィズ−ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、全身性エリテマトーデス、慢性甲状腺炎、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、及びベーチェット病が挙げられる。特に、本発明の抗IGF−I受容体抗体は廃用性筋萎縮及び/又は低身長症の治療薬又は予防薬としての使用が好ましい。また、本発明の抗IGF−I受容体抗体は投与によって血糖値の変動を生じさせない点において優れている。
【0088】
本発明の抗IGF−I受容体抗体を含有する薬は、本発明の抗IGF−I受容体抗体の他に、医薬的に許容される担体及び/又はその他の添加剤を含有する、医薬組成物の形態として製剤化してもよい。医薬的に許容される担体及び/又はその他の添加剤を用いての製剤は、例えばUniversity of the Sciences in Philadelphia、“Remington: The Science and Practice of Pharmacy、20th EDITION”,Lippincott Williams & Wilkins、2000に記載の方法で実施することが可能である。このような治療剤又は予防剤の一つの形態としては、無菌の水性液又は油性液に溶解、懸濁、又は乳化することによって調製された液剤あるいは凍結乾燥剤として供される。このような、希釈剤としての溶剤又は溶解液として、水性液としては注射用蒸留水、生理食塩水等が挙げられ、それに加えて浸透圧調節剤(例えば、D−グルコース、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウム等)が添加される場合、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50)等が併用される場合もある。また、溶剤又は溶解液としては油性液が用いられる場合もあり、当該油性液の例としてはゴマ油、大豆油等があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等が併用される場合もある。このような製剤においては、適宜、緩衝剤(例えば、リン酸塩類緩衝剤、酢酸塩類緩衝剤)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びそれらの塩等)、着色剤(例えば、銅クロロフィル、β−カロチン、赤色2号、青色1号等)、防腐剤(例えばパラオキシ安息香酸エステル、フェノール、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等)、増粘剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそれらの塩等)、安定化剤(例えば人血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール等)、矯臭剤(例えばメントール、柑橘香料等)の添加剤が用いられる場合がある。別の形態として、粘膜適用用治療剤又は予防剤もあげられ、この製剤においては粘膜への吸着性、滞留性等を付与することを主な目的として、添加剤として粘着剤、粘着増強剤、粘稠剤、粘稠化剤等(例えば、ムチン、カンテン、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ローカストビンガム、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアゴム、キトサン、プルラン、ワキシースターチ、スクラルフェート、セルロース、及びその誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、又はその塩、ポリグリセリン脂肪酸エステル等)が含有される場合もある。しかしながら、生体に供与される治療剤又は予防剤の形態及び溶剤や添加剤はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば適宜選択できる。
【0089】
本発明の抗IGF−I受容体抗体を含有する薬は、本発明の抗IGF−I受容体抗体の他に、既存の他の薬物(活性成分)を含んでいてもよい。また、本発明の抗IGF−I受容体抗体を含む薬を、既存の他の薬物と組み合わせ、キットの形態としてもよい。IGF−I受容体アゴニスト抗体と組み合わせる活性成分として、成長ホルモン又はそのアナログ、インスリン又はそのアナログ、IGF−II又はそのアナログ、抗ミオスタチン抗体、ミオスタチンアンタゴニスト、抗アクチビンIIB型受容体抗体、アクチビンIIB受容体アンタゴニスト、可溶性アクチビンIIB型受容体又はそのアナログ、グレリン又はそのアナログ、フォリスタチン又はそのアナログ、ベータ2アゴニスト、及び選択的アンドロゲン受容体モジュレーターが挙げられる。また、IGF−I受容体アンタゴニスト抗体と組み合わせる活性成分として、コルチコステロイド、制吐薬、オンダンセトロン塩酸、グラニセトロン塩酸、メトロクロプラミド(metroclopramide)、ドンペリドン、ハロペリドール、シクリジン、ロラゼパム、プロクロルペラジン、デキサメタゾン、レボメプロマジン、トロピセトロン、癌ワクチン、GM−CSF阻害薬、GM−CSF DNAワクチン、細胞に基づくワクチン、樹状細胞ワクチン、組換えウイルスワクチン、熱ショックタンパク質(HSP)ワクチン、同種腫瘍ワクチン、自己腫瘍ワクチン、鎮痛薬、イブプロフェン、ナプロキセン、トリサリチル酸コリンマグネシウム、オキシコドン塩酸、抗血管形成薬、抗血栓薬、抗PD−1抗体、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、抗PD−L1抗体、アテゾリズマブ、抗CTLA4抗体、イピリムマブ、抗CD20抗体、リツキシマブ、抗HER2抗体、トラスツズマブ、抗CCR4抗体、モガムリズマブ、抗VEGF抗体、ベバシズマブ、抗VEGF受容体抗体、可溶性VEGF受容体断片、抗TWEAK抗体、抗TWEAK受容体抗体、可溶性TWEAK受容体断片、AMG 706、AMG 386、抗増殖薬、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害薬、αvβ3阻害薬、αvβ5阻害薬、p53阻害薬、Kit受容体阻害薬、ret受容体阻害薬、PDGFR阻害薬、成長ホルモン分泌阻害薬、アンジオポエチン阻害薬、腫瘍浸潤マクロファージ阻害薬、c−fms阻害薬、抗c−fms抗体、CSF−1阻害薬、抗CSF−1抗体、可溶性c−fms断片、ペグビソマント、ゲムシタビン、パニツムマブ、イリノテカン、及びSN−38が挙げられる。配合される抗IGF−I受容体抗体以外の薬物の用量としては、通常の治療に用いられる用量で行うことができるが、状況に応じて増減することも可能である。
【0090】
本発明における治療剤又は予防剤は、症状の改善を目的として、非経口的に投与することができる。非経口投与の場合には、例えば経鼻剤とすることができ、液剤、縣濁剤、固形製剤等を選択できる。また別の非経口投与の形態としては、注射剤とすることができ、注射剤としては、皮下注射剤、静脈注射剤、点滴注射剤、筋肉注射剤、脳室内注射剤又は腹腔内注射剤等を選択することができる。またその他の非経口投与に用いる製剤としては、坐剤、舌下剤、経皮剤、経鼻剤以外の経粘膜投与剤等も挙げられる。更に、ステントや血管内栓塞剤に含有もしくは塗布する態様で、血管内局所投与することもできる。
【0091】
本発明における治療剤又は予防剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間、又は当該医薬組成物に含有される活性成分の種類等により異なるが、通常成人1人あたり、1回につき主剤を0.1mgから1gの範囲で、好ましくは0.5mgから300mgの範囲で、1週から4週間に1回、もしくは1か月から2か月に1回投与することができる。従って、好ましくは1週間に1回以下の頻度で投与することができる。しかし、投与量及び投与回数は種々の条件により変動するため、前記投与量及び回数よりも少ない量及び回数で充分な場合もあり、また前記の範囲を超える投与量及び投与回数が必要な場合もある。
【0092】
[ヒト以外の動物での用途]
本発明のある態様における抗IGF−I受容体抗体は、ヒト以外の動物での畜産用途又は獣医学的用途に用いることができる。本発明の抗IGF−I受容体抗体を畜産用途又は獣医学的用途で用いることができる動物としては、好ましくはヒト以外の哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に属する動物であり、より好ましくはヒト以外の哺乳類又は鳥類に属する動物であり、さらにより好ましくは、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ又はイヌから選択される動物である。現在、ウシ成長ホルモンやブタ成長ホルモンがウシでの乳汁産生量の増大や子ブタの成長促進のために使われているが、これらの作用は成長ホルモンによって発現が誘導されるIGF−Iの作用によるものと考えられている(h. JiangとX. Ge、Journal of Animal Science、Vol.92、pp21−29、2014)。従って、本発明の抗IGF−I受容体抗体は、そのアゴニスト作用を利用することで、同様に動物の乳汁産生の亢進や、胎児や出生後の動物の成長促進等に用いることができる。その他、本発明の抗IGF−I受容体抗体を用いることができる用途の例としては、動物における筋肉量の増量又は脂肪重量に対する筋肉重量比の増大、摂取飼料の体組織への効率的変換、繁殖効率増大や種保存のための生殖能力の増強、動物における外傷や消耗性疾患での消耗的症状の治療等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、本発明の抗IGF−I受容体抗体は、別の態様であるアンタゴニスト作用を利用することで、動物での悪性腫瘍の治療、繁殖頻度の制御、個体の成長の制御やその他の用途にも用いることができる。本発明における抗IGF−I受容体抗体を用いる場合、投与する動物に合わせて抗体のフレームワークや定常領域のアミノ酸配列を改変して免疫原性を低下させる等、当業者であれば適宜その構造を改変したうえで用いることも可能である。
【0093】
[抗IGF−I受容体抗体を用いた細胞培養方法]
脊椎動物由来細胞をin vitroにおいて維持、増殖及び/又は分化させるための細胞培養技術において、IGF−I又はその誘導体が多く用いられており、細胞培養用の試薬として市販されている。IGF−Iは安定性の問題等から長期の培養においては時間が経つにつれて効果が減弱する可能性があり、安定的な細胞培養を行うためには適宜濃度を調節する等の対応が必要になる。また、IGF−Iは細胞へのグルコースの取込みを誘導することから、細胞内グルコース濃度の上昇によって細胞の代謝や特性の変化が誘導されたり、培地中のグルコース濃度が減少して培養環境が変化する可能性がある。本発明の抗IGF−I受容体抗体はIGF−Iと比較して安定性が高く、細胞に接触してからの細胞増殖を誘導する時間が長く、IGF−Iより低濃度で細胞増殖誘導活性を示し、かつ、細胞内へのグルコース取込みを誘導しないという特徴を持つ。本発明の抗IGF−I受容体抗体は、細胞培養においてその培地に適量を添加して使用されるほか、培養を行う容器の固相に吸着又は固定して用いることが可能で、それによって使用量を削減したり、固相に付着する細胞に対して有効に細胞増殖誘導を行うことができる。本発明における脊椎動物由来細胞とは、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に由来する細胞であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類に由来する細胞であり、さらにより好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ又はイヌに由来する細胞である。また、当該細胞としては、初代培養細胞、株化細胞又はそれらの細胞の形質転換体細胞、遺伝子組み換え動物に由来する細胞等を用いることが可能である。さらに、本発明の抗IGF−I受容体抗体を用いた培養の対象としては、脊椎動物又はその遺伝子改変動物に由来する臓器や組織等も含まれる。本発明の抗IGF−I受容体抗体は、細胞を用いた物質生産のための培養や、細胞自体を用いる細胞医療・再生医療での培養工程で用いることができる。
【実施例】
【0094】
[実施例1]マウスモノクローナル抗体の作製
マウスモノクローナル抗体は、Kohlerら(Nature 256:495−497、1975)のハイブリドーマ法により作製し得る。IGF−I受容体アゴニスト抗体は、マウスにヒトIGF−I受容体を発現させた細胞を用いて免疫して、標準的なハイブリドーマ技術を使用して作製した。全ての動物実験は、施設の規則に従って実施した。マウスから採取した脾臓由来の細胞とマウスミエローマ細胞株(P3U1)との融合による標準的な方法を使用して実施した。ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含有する培地を使用してハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマの培養液を用いて、IGF−I受容体を発現させた細胞を用いたCell ELISAによる結合性評価、及びPathHunter(登録商標)によるIGF−I受容体の細胞内チロシンキナーゼの活性化の評価を実施し、陽性ハイブリドーマ含有ウェルを選択した。このウェルに含まれるハイブリドーマを限界希釈法によってシングルクローン化した。このシングルクローン化した陽性ハイブリドーマを無血清培養して、培養液中からプロテインAカラム(Ab−Capcher、プロテノバ)を使用してモノクローナル抗体を精製した。このモノクローナル抗体を使用して、ヒト筋芽細胞増殖活性評価によりIGF−I受容体アゴニスト抗体であるIGF11−16を見出した。
【0095】
[実施例2]抗体アイソタイプの決定
IGF−I受容体アゴニスト抗体の抗体アイソタイプを決定するために、抗体のアイソタイプに特異的な抗体を用いて、ELISAを実施した。PBSにて2000倍希釈した抗マウスIgG抗体(TAGO、6150)を、50μL/ウェルで96ウェルプレート(Nunc、MaxiSorp)に添加し、4℃で一晩静置した。96ウェルプレートを3%BSA/PBSに置換したものをELISAに使用した。IGF−I受容体アゴニスト抗体を、抗マウスIgG抗体を固定化させた96ウェルプレートに30μL/ウェルで添加し、室温にて1.5時間反応させた。洗浄液にて洗浄した後、マウスIgGの各種アイソタイプに特異的に反応する抗体、抗マウスIgG1抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1070−04)、抗マウスIgG2a抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1080−04)、抗マウスIgG2b抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1090−04)及び抗マウスIgG3抗体−ALPコンジュゲート(SBA、1100−04)、を30μL/ウェルで添加し、室温にて1時間反応させた。基質(PNPP)を100μL/ウェルで添加し、室温にて45分間反応させ、吸光度405−550nmを算出した。吸光度405−550nmの値を結合活性として評価した。
IGF11−16は、抗マウスIgG1抗体に反応性を示すことから、抗体のアイソタイプはIgG1であった。
【0096】
[実施例3]抗体の配列の決定
IGF−I受容体アゴニスト抗体の軽鎖及び重鎖の遺伝子配列を決定するために、SMARTer(登録商標) RACE法を実施した。抗体を産生するハイブリドーマ由来のRNAから開始及び終始コドンを含む抗体の重鎖及び軽鎖の遺伝子の断片をSMARTer(登録商標) RACE法により取得し、その塩基配列を決定した。ハイブリドーマ由来のTotal RNAを鋳型としてSMARTer(登録商標) RACE 5’/3’ Kit(634859、Clontech)を用いて、1st strand cDNAを合成した後、PCR反応によりcDNAを増幅させた。そのcDNAを鋳型として、キットに付属のユニバーサル配列に対するプライマーと、抗体の重鎖及び軽鎖にそれぞれ特異的なプライマーを用いてPCR反応を行った。マウス抗体の軽鎖(kappa)はAccession番号BC080787、マウス抗体のIgG1はLT160966を参照してプライマーを設計した。マウス抗体の軽鎖に対するプライマーの塩基配列は、ggtgaagttgatgtcttgtgagtggを設計し、マウス抗体の重鎖に対するプライマーの塩基配列は、gctcttctcagtatggtggttgtgcを設計し、それぞれを実験に用いた。得られたPCR産物は5‘RACE PCR産物としてTAクローニングに用いた。
【0097】
TAクローニングでは、5‘RACE PCR産物を電気泳動して目的とする分子量を含むcDNAをQIAEX II Gel Extraction Kit(20021、Qiagen)を用いて精製した。精製後のcDNAはTaKaRa−Taq(R001A、Takara)を用いて72℃、5分間反応させることにより5’及び3‘末端にアデニンを付加させた。そのcDNAをTOPO(登録商標) TA クローニング(登録商標) キット(450641、Thermo fisher)を用いて添付のプロトコールに従い、Topoisomerase I−activated pCR(登録商標)II−TOPO(登録商標) vector(以下、TOPO vector)にクローニングした。目的のcDNAがクローニングされたTOPO vectorを大腸菌TOP10に形質転換させ、カナマイシン50μg/mL含有の寒天培地で培養した。TOPO vectorへの目的とするcDNAの挿入はコロニーPCRにより確認した。クローニングしたcDNAの塩基配列を同定した。同様に3’RACE PCR産物の塩基配列を同定し、抗体の遺伝子の全長配列を決定した。IGF11−16の軽鎖の全長遺伝子配列を配列番号27に、全長アミノ酸配列を配列番号28に、IGF11−16の重鎖の全長遺伝子配列を配列番号29に、全長アミノ酸配列を配列番号30に示す。また、IGF11−16のCDR−H1は配列番号3、CDR−H2は配列番号4、CDR−H3は配列番号5、CDR−L1は配列番号6、CDR−L2は配列番号7、CDR−L3は配列番号8、重鎖可変領域は配列番号9、軽鎖可変領域は配列番号10に示す。
【0098】
[実施例4]IGF−I受容体に対する結合活性(ELISA)
ヒト(配列番号2、NP_000866)、モルモット(配列番号11、XP_003475316)、カニクイザル(配列番号12、NP_001248281)、ウサギ(配列番号13、XP_017193273)、ラット(配列番号14、NP_494694)及びマウス(配列番号15、NP_034643)のIGF−I受容体に対するIGF−I受容体アゴニスト抗体の結合活性を検討するために、各種IGF−I受容体を発現させた細胞を用いてCell ELISAを実施した。
【0099】
P3U1細胞にリポフェクション法によりヒト(配列番号16)、モルモット(配列番号17)、カニクイザル(配列番号18)、ウサギ(配列番号19)、ラット(配列番号20)及びマウス(配列番号21)のIGF−I受容体遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermofisher)を導入した。リポフェクション後に一晩以上培養させたP3U1細胞を0.8×10cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ―D―リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定した。3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0100】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて10nMに調製されたIGF11−16抗体溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間30分反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を50μL添加して反応を開始させた。約20分後に各ウェルに50μLの0.5M硫酸を添加して450及び550nmの吸光度を測定し、吸光度450−550nmを算出した。IGF−I受容体遺伝子を含まないベクターを導入した細胞(Mock細胞、配列番号22)に対する吸光度450−550nmの値を1として、結合活性を算出した(表1)。
【0101】
【表1】

【0102】
IGF11−16は、ヒト、モルモット、カニクイザル及びウサギのIGF−I受容体を発現させた細胞では、Mock細胞と比較して、結合活性を5倍以上上昇させた。一方、IGF11−16のラット及びマウスのIGF−I受容体を発現させた細胞に対する結合活性は、Mock細胞と同程度であり、上昇させなかった。これらのことからIGF11−16は、ヒト、モルモット、カニクイザル及びウサギのIGF−I受容体に結合するが、ラット及びマウスのものには結合しないことが示された。
【0103】
[実施例5]インスリン受容体に対する結合活性(ELISA)
インスリン受容体に対するIGF−I受容体アゴニスト抗体の結合活性を検討するために、ヒトインスリン受容体を発現させた細胞を用いてCell ELISAを実施した。
【0104】
HEK293T細胞にリポフェクション法によりヒトのインスリン受容体遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermofisher)を導入した。リポフェクション後のHEK293T細胞を0.8×10cells/ウェル(約180μL/ウェル)で96ウェルプレート(ポリ―D―リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定した。3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0105】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗体溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液(Tween含有トリス緩衝液)にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗マウスIgG抗体ALPコンジュゲート溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(PNPP)を100μL添加して反応を開始させた。約30分後に405及び550nmの吸光度を測定し、吸光度405−550nmを算出した。IGF−I受容体の遺伝子及びインスリン受容体の遺伝子を含まないベクターを導入した細胞(Mock細胞、配列番号22)に対する吸光度405−550nmの値を1として、結合活性を算出した(表2)。
【0106】
【表2】

【0107】
IGF11−16の0.5nM及び5nMは、ヒトIGF−I受容体を発現させた細胞を固定化したELISAでは、吸光度405−550nmを、Mock細胞と比較して約3倍以上まで上昇させた。一方、ヒトインスリン受容体を発現させた細胞を固定化したELISAでは、IGF11−16の0.5nM及び5nMは、吸光度405−550nmを1.5倍以上上昇させなかった。このことから、IGF11−16は、インスリン受容体と比較して、IGF−I受容体により強く結合した。
【0108】
[実施例6]IGF−I受容体の結合部位の解析(ELISA)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のIGF−I受容体に対するエピトープを同定するために、IGF−I受容体の各種ドメインを、IGF−I受容体と類似構造を有するインスリン受容体のドメインと置換した変異体に対するIGF−I受容体アゴニスト抗体の結合性を測定した。
【0109】
ヒトIGF−I受容体(NP_000866)の細胞外ドメインをインスリン受容体の細胞外ドメインで置換させた置換体、又は、ヒトインスリン受容体(NP_000199)の細胞外ドメインをIGF−I受容体の細胞外ドメインで置換した、以下の4つの置換体を作製した。
(置換体1)ヒトインスリン受容体のL1ドメインからL2ドメインまでを、ヒトIGF−I受容体のL1ドメインからL2ドメインに置換した置換体、hIGFIR[L1−L2]/hINSR。
(置換体2)ヒトIGF−I受容体のL1ドメインからL2ドメインまでを、ヒトインスリン受容体のL1ドメインからL2ドメインに置換した置換体、hINSR[L1−L2]/hIGFIR。
(置換体3)ヒトIGF−I受容体のL1ドメインを、ヒトインスリン受容体のL1ドメインに置換した置換体、hINSR[L1]/hIGFIR。
(置換体4)ヒトIGF−I受容体のL2ドメインを、ヒトインスリン受容体のL2ドメインに置換した置換体、hINSR[L2]/hIGFIR。
【0110】
P3U1細胞にリポフェクション法により、上記4種のヒトIGF−I受容体の置換体の遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermofisher)を導入した。(置換体1)のhIGFIR[L1−L2]/hINSRの遺伝子を配列番号23に、(置換体2)のhINSR[L1−L2]/hIGFIRの遺伝子を配列番号24に、(置換体3)のhINSR[L1]/hIGFIRの遺伝子を配列番号25に、(置換体4)のhINSR[L2]/hIGFIRの遺伝子を配列番号26に示す。リポフェクション後に一晩以上培養したP3U1細胞を0.8×10cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ−D−リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定した。3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0111】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて10nMに調製された抗体溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間30分反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて5nMに調製された抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに30μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を50μL添加して反応を開始させた。約20分後に0.5M硫酸を50μL添加して反応を停止し、450及び550nmの吸光度を測定し、吸光度450−550nmを算出した。各置換体の遺伝子を含まないベクターを導入した細胞(Mock細胞)に対する吸光度450−550nmの値を1として、結合活性を算出した(表3)。
【0112】
【表3】

【0113】
IGF11−16は、hIGFIR[L1−L2]/hINSR、hINSR[L1]/hIGFIR及びhINSR[L2]/hIGFIRを発現させた細胞を固定化したELISAでは、吸光度450−550nmをMock細胞に対して5倍以上上昇させた。一方、hINSR[L1−L2]/hIGFIRを発現させた細胞に対するIGF11−16の結合活性は、弱かった。このことからIGFI1−16は、IGF−I受容体のCRドメインに結合することが示された。
【0114】
[実施例7]IGF11−16のエピトープの決定
IGF11−16のエピトープであるCRドメインから、さらに詳細なエピトープを同定するために、IGF11−16のIGF−I受容体に対する結合性の種差から結合配列を推定した。図1に、それぞれの種におけるIGF−I受容体のCRドメインのアミノ酸配列を示す。
【0115】
IGF11−16は、ヒト、モルモット及びウサギのIGF−I受容体に結合するが、マウス及びラットのIGF−I受容体には結合しない。このことから、IGF−I受容体のCRドメインのアミノ酸配列のうち、ヒト、モルモット及びウサギに共通して、マウス及びラットとは異なるアミノ酸配列を、IGF11−16のエピトープとして推定した。
【0116】
IGF11−16がIGF−I受容体のCRドメインのどの部位のアミノ酸に結合するのかを決定するために、CRドメインの各種アミノ酸置換体に対する結合性をELISAにより測定した。
【0117】
CRドメインのうち、IGF11−16との結合が推定されるアミノ酸配列を変異させたIGF−I受容体を発現させた細胞を用いてCell ELISAを実施した。
【0118】
CRドメインの各種アミノ酸置換体は、以下の3種を用いた。また、陽性対照として野生型のヒトIGF−I受容体、陰性対照として野生型のラットIGF−I受容体をpEF1発現ベクター(Thermofisher)に組込んだものを用いた。各種IGF−I受容体の発現量は、IGF−I受容体の細胞内ドメインに付加したFLAGタグ(AspTyrLysAspAspAspAspLys)に対するFLAG M2抗体の反応性を指標とした。
(CRドメインの置換体1)ヒトIGF−I受容体(NP_000866、配列番号2)のアミノ酸配列、245番目及び247番目のアスパラギン酸及びアラニンを、それぞれアスパラギン及びトレオニンに置換させた。
(CRドメインの置換体2)ヒトIGF−I受容体(NP_000866、配列番号2)のアミノ酸配列、294番目のグルタミン酸を、アスパラギン酸に置換させた。
(CRドメインの置換体3)ヒトIGF−I受容体(NP_000866、配列番号2)のアミノ酸配列、315番目及び316番目のグリシン及びセリンを、それぞれセリン及びトレオニンに置換させた。
【0119】
HEK293T細胞を9×10cells/ウェルでポリ―D−リジンコートされた10cmディッシュに播種した。翌日に各プラスミドDNAをリポフェクション法により細胞に導入した。その翌日に0.25%トリプシン/EDTAを用いてHEK293T細胞を剥がして、培養液にて懸濁した。HEK293T細胞を0.8×10cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ―D−リジンコート)に添加して、37℃、5%COの条件で一晩インキュベートした。96ウェルプレートから培地を除去して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定し、ブロッキングバッファー(3%BSA/PBS/アジ化ナトリウム)に置換したものをELISAに使用した。
【0120】
ELISAは、0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて1nMに調製されたIGF11−16抗体又はFLAG M2抗体溶液を各ウェルに50μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。0.1%スキムミルク/3%BSA/PBSにて各濃度に調製された抗マウスIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに50μL添加して室温にて約1時間反応させた。洗浄液にて2回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を100μL添加して反応を開始させた。約30分後に0.5M硫酸を100μL添加して、反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。吸光度450nmの値を結合活性として評価した。
【0121】
結果を図2に示す。CRドメインの各置換体を発現させた細胞に対するFLAG M2抗体の反応性は同等であり、CRドメインの各置換体の発現量はほぼ同じレベルであることが確認された。IGF11−16は、CRドメインに変異を導入していない、野生型のヒトIGF−I受容体に対して、吸光度450nmの値を2以上まで上昇させ、結合活性の亢進を示した。CRドメインの置換体1及び2に対して、IGF11−16は、吸光度450nmの値を2以上まで上昇させ、結合活性の亢進を示した。一方、CRドメインの置換体3の吸光度450nmの値は約1であり、陰性対照であるラットIGF−I受容体の吸光度と同程度であり、結合性は認められなかった。これらのことから、IGF11−16の、IGF−I受容体のCRドメインに対する結合活性は、IGF−I受容体の315番目及び316番目のアミノ酸が重要であることが示された。
【0122】
以上の結果から、IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対する結合部位は、315番目及び316番目のGly(グリシン)とSer(セリン)の近傍と推定された。一般的に抗体の認識配列はアミノ酸8残基(6から10残基の平均値)であること、及びIGF11−16の交差反応性(ラットのIGF−I受容体に対する結合性なし、ウサギ及びヒトのIGF−I受容体に対する結合性を有する)から、IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対する結合部位の推定配列は、ProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMetと考えられた(GlySerは、315番目及び316番目のアミノ酸配列を示す)。
【0123】
[実施例8]表面プラズモン共鳴法によるIGF−I受容体に対する結合親和性
薬剤のIGF−I受容体に対する結合特性(結合速度及び解離速度)を検討するために、表面プラズモン共鳴(SPR)法により測定した。
【0124】
センサーチップCM3(GE)に、anti−His monoclonal antibodyを、Amine Coupling Kit(BR−1000−50、GE)及びHis Capture Kit(28−9950−56、GE)を使用して固定した。固定条件は、NHS/EDC 7分、50μg/mL anti−His monoclonal antibody 3分、Ethanolamin 7分、Target:≧3000RUで実施した。アナライトは、各濃度の薬剤を使用した。リガンドは、リコンビナントヒトIGF−I受容体ヒスチジンタグ(305−GR−050、R&D SYSTEMS、以下IGF−IR−His)を使用した。陰性対照は、Purified Mouse IgG2a、κ、Isotype Ctrl、Clone:MG2a−53(401502、BioLegend、以下ctrl IgG2a)を使用した。
【0125】
Anti−His monoclonal antibodyの固定化されたセンサーチップCM3を、Biacore T200に設置し、反応温度を36℃に設定し、ランニングバッファー(HBS−EP+、BR−1006−69、GE)を流速30μL/分で流した。リガンドの結合量を約100RUとなるように設定して、IGF−IR−Hisを0.5〜2×10−8mol/Lで添加して、anti−His monoclonal antibodyに補足させた。10nmol/LのCtrl IgG2aを1分間反応させ、HBS−EP+を流速30μL/分で10分以上流した。アナライト及びHBS−EP+を、フローセル(1及び2)及びフローセル(3及び4)にそれぞれ添加して反応させた。
【0126】
反応条件は、結合時間、600秒及び乖離時間、600秒に設定した。反応終了後、再生用バッファー1(0.2%SDS)、再生用バッファー2(100 mmol/L Tris−HCl(pH8.5)、1mol/L NaCl、15mmol/L MgCl)及び再生用バッファー3(10mmol/L グリシン−HCl(pH1.5))で、それぞれ1分間、流速30μL/分で洗浄した。Biacore T200 Evaluation software(ver2.0)を使用して、1:1 BindingのModelで解析し、解離速度定数(ka、1/Ms)、結合速度定数(kd、1/s)及び解離定数(KD、M)を算出した。結果を表4に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対するkaは、IGF−Iの約1/5であり、結合速度は遅かった。一方、IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対するkdは、測定機器の測定下限より低値であり、IGF−Iの1/1000より低値であることから、解離速度は非常に遅く、IGF11−16はIGF−I受容体に結合すると解離しづらいことが示された。IGF11−16のヒトIGF−I受容体に対するKDは、IGF−Iの1/50より低値であり、強い結合強度を示した。IGF11−16はIGF−Iと比較してIGF−I受容体に対して強い結合活性を有することが示された。
【0129】
[実施例9]PathHunter(登録商標)によるIGF−I受容体あるいはインスリン受容体の活性化作用
IGF−I受容体アゴニスト抗体のIGF−I受容体に対する活性化作用を検出するために、PathHunter(登録商標)IGF1R Functional Assay(DiscoverX)を用いてIGF−I受容体の下流シグナルの活性化を測定した。
【0130】
IGF−I受容体及びIGF−I受容体の細胞内のチロシンキナーゼと結合するSH2ドメインを持つアダプタープロテインSHC1−Enzyme Acceptor(EA)融合タンパク質を、細胞内に強制発現させた細胞株を用いた。IGF−I受容体アゴニスト抗体のインスリン受容体に対する活性化作用を検出するために、PathHunter(登録商標)INSR Functional Assay(DiscoverX)を用いてインスリン受容体の下流シグナルの活性化を測定した。インスリン受容体及びインスリン受容体の細胞内のチロシンキナーゼと結合するSH2ドメインを持つアダプタープロテインPLCG1−EA融合タンパク質を、細胞内に強制発現させた細胞株を用いた。これらの細胞株は、IGF−I受容体あるいはインスリン受容体へのリガンド結合によって受容体の二量体化が起こり、続いて受容体がリン酸化されることにより、SH2ドメインを持つアダプタープロテインがリクルートされ、受容体シグナル伝達複合体が形成され、空間的に隣接したチロシンキナーゼとEAの結合が促され、活性型β−ガラクトシダーゼが再構成される。このβ−ガラクトシダーゼ活性による加水分解された基質の化学発光シグナルのレベルを測定することにより、受容体型チロシンキナーゼに対する薬剤の作用を同定することが可能である。
【0131】
IGF−I受容体あるいはインスリン受容体を発現させた細胞を、ポリ―D―リジンコートあるいはコラーゲン―Iコートされた96ウェルプレート(Black/clearあるいはWhite/clear)に、90μL/ウェル(2×10cells/ウェルあるいは5×10cells/ウェル)で播種し、37℃、5%COの条件でインキュベートした。翌日、各濃度の薬剤を10μL/ウェルで添加し、37℃、5%COの条件でインキュベートした。その翌日、培養上清を30μLで取り、15μLの基質溶液を添加して、60分間反応させ、ルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。IGF−I受容体の活性化は、溶媒のみを処置した群の活性を100%として算出した。結果を表5に示す。
【0132】
【表5】

【0133】
インスリン受容体の活性化は、溶媒のみを処置した群の活性を100%として算出した。結果を表6に示す。
【0134】
【表6】

【0135】
IGF−I受容体を発現させた細胞株を用いて、薬剤のIGF−I受容体の活性化を測定した。IGF−I受容体を発現させた細胞株では、IGF−I及びIGF11−16はコントロールと比較してIGF−I受容体の活性化作用を示した。
【0136】
インスリン受容体を発現させた細胞株を用いて、薬剤のインスリン受容体の活性化を測定した。インスリン受容体を発現させた細胞株では、インスリンによるインスリン受容体の活性化作用を示した。また、IGF−Iは、インスリン受容体を濃度依存的に活性化し、50nMでは有意な活性化作用を示した。一方、IGF11−16はインスリン受容体を活性化しなかった。
【0137】
IGF−Iは、インスリン受容体にも反応性を示すことが知られている。また、インスリン受容体の活性化は血糖低下作用を惹起することも知られている。IGF11−16は、IGF−I受容体に特異的に作用し、インスリン受容体を介する血糖低下作用を有さないことが示された。
【0138】
[実施例10]ヒト筋芽細胞における細胞増殖活性
IGF−I受容体アゴニスト抗体のヒト筋芽細胞に対する増殖活性を検討するため、ヒト筋芽細胞に薬剤を添加して、4日後の細胞内のATP量を測定した。
【0139】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を、SkBM−2(Lonza、CC−3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(2×10cells/ウェル)で播種し、37℃、5%COの条件でインキュベートした。細胞播種の翌日に各種薬剤を25μL/ウェルで添加し、37℃、5%COの条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter−Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後にルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。溶媒のみを添加した群の活性を100%として算出した。結果を表7に示す。
【0140】
【表7】

【0141】
IGF−I及びIGF11−16は、コントロール抗体(FLAG M2、シグマアルドリッチ)と比較して、細胞増殖活性を亢進させた。
【0142】
0.00005、0.0005、0.005、0.05、0.5、5、50及び500nMのIGF11−16は、ヒト筋芽細胞の増殖活性を濃度依存的に亢進させた。IGF11−16及びIGF−Iの筋芽細胞増殖活性のEC50は、それぞれ0.004nM及び0.61nMであり、IGF11−16は100倍以上強い活性を示した。
【0143】
非特許文献35に記載された16−13抗体、及び26−3抗体は、溶媒コントロール(アジ化ナトリウムを含む)に比べて、顕著な細胞増殖活性は認められず、IGF11−16の活性と比較して弱いものであった。
【0144】
[実施例11]モルモット筋芽細胞における細胞増殖活性
モルモット筋芽細胞(Cell Applications)を、SkBM−2(Lonza、CC−3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(4×10cells/ウェル)で播種し、37℃、5%COの条件でインキュベートした。細胞播種の翌日に各種薬剤を25μL/ウェルで添加し、37℃、5%COの条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter−Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後にルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。
【0145】
0.00005、0.0005、0.005、0.05、0.5、5、50及び500nMのIGF11−16は、モルモット筋芽細胞の増殖活性を、濃度依存的に亢進させた。IGF11−16及びIGF−IのEC50は、それぞれ0.004nM及び0.76nMであり、IGF11−16は100倍以上強い活性を示した。
【0146】
[実施例12]IGF−Iとの作用持続性のin vitro比較
IGF11−16とIGF−Iの作用持続性を比較するために、IGF11−16又はIGF−Iを添加した18時間後に培地を交換して、IGF11−16及びIGF−Iを除去した条件でヒト筋芽細胞の増殖活性を測定した。
【0147】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を、SkBM−2(Lonza、CC−3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(2×10cells/ウェル)で播種し、37℃、5%COの条件でインキュベートした。細胞播種の翌日にIGF11−16又はIGF−Iを25μL/ウェルで添加し、添加18時間後に、IGF11−16又はIGF−Iの入っていない培地あるいはそれらを含有する培地と交換した。37℃、5%COの条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter−Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後にルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。溶媒のみを添加したコントロール群に対する割合(コントロール群、0%)を細胞増殖活性として算出した。結果を図3に示す。
【0148】
IGF−Iの1nM及び5nMを4日間添加した群では、細胞増殖活性を、それぞれ39%及び75%に上昇させた。IGF−Iの1nM及び5nMを18時間添加してwashoutした群の細胞増殖活性は、それぞれ8%及び10%であり、4日間添加した群と比較した活性は、1/5より低くなり、顕著な作用の低下を示した。
【0149】
IGF11−16の0.5nMを4日間添加した群では、細胞増殖活性を、49%に上昇させた。IGF11−16の0.5nMを18時間添加してwashoutした群の細胞増殖活性は30%であり、4日間添加した群と比較した活性は、6割以上が保持されていた。
【0150】
薬剤添加後にwashoutしたIGF11−16の0.5nM処置群とIGF−Iの1nM及び5nM処置群の細胞増殖活性を比較すると、IGF11−16の方が統計学的に有意に強い活性を示した。これらのことから、IGF11−16は、薬剤のwashout後もヒト筋芽細胞の増殖活性を維持して、IGF−Iと比較して、強力な作用を有することが示された。IGF11−16はwashout後も細胞増殖活性を維持したことから、IGF−Iの作用とは異なり、IGF11−16はIGF−I受容体と強力に結合し、IGF−I受容体の持続的な活性化作用を有することが示された。
【0151】
[実施例13]ヒト分化筋細胞におけるグルコース取込み
IGF11−16のグルコース取込み作用を検討するために、ヒト分化筋細胞を用いて、放射標識された3H−2−Deoxy Glucoseの取込み量を測定して、IGF−Iの作用と比較した。
【0152】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を24ウェルプレート(Costar、3526)に0.5mL/ウェル(2×10cells/ウェル)で播種し、37℃、5%COの条件でインキュベートした。細胞がコンフルエントの状態になるまで培地(SkBM−2(Lonza、CC−3246)にFBS(Lonza、CC−4423W)、L−Glutamine(Lonza、CC−4422W)、Dexamethasone(Lonza、CC−4421W)、rhEGF(Lonza、CC−4420W)及びGA−1000(Lonza、CC−4419W)を添加した)を交換した。コンフルエントとなったHSMM細胞を0.5mL/ウェルの分化用の培地(DMEM/F12(1:1)(Gibco、11320)に2%Horse Serum(Sigma、H1270)、50U/mL Penicillin、50 μg/mL Streptomycin(Gibco、15070−063)を含む)に交換して37℃、5%COでインキュベートして筋細胞への分化を開始した。分化開始から約6日後の細胞をヒト分化筋細胞としてグルコース取込みの実験に使用した。
【0153】
ヒト分化筋細胞を0.5mL/ウェルのStarvation用の培地(1g/L グルコース含有DMEM(Gibco、11885)に0.1%BSA Fatty Acid free(生化学工業、82−002−5)、50U/mL Penicillin、50ug/mL Streptomycin(Gibco、15070−063)を含む)に交換して37℃、5%COで一晩インキュベートした。翌日、0.5mL/ウェルのStarvation用の培地に交換して37℃、5%COで2時間インキュベートした。ウェルを1mL/ウェルのPBSで洗浄した後、0.5mL/ウェルの各種薬剤を含む処置培地を添加して37℃、5%COで2時間インキュベートした。処置培地は、グルコース取込み用のバッファー(20mmol/L HEPES(DOJINDO、342−01375)、150mmol/L NaCl(SIGMA、S5150)、5mmol/L KCl(Wako、163−03545)、5mmol/L MgSO4(Wako、131−00405)、1.2mmol/L KHPO(Wako、169−04245)、25mmol/L CaCl(Fluka、21114)及び2mmol/L pyruvate(Wako、190−14881)となるように注射用水にて溶解して、NaOHでpHを7.4に調整)を用いて、最終濃度0.1mmol/L glucose、0.1%BSA、3H−2−Deoxy Glucose(1uCi/mL)、各濃度のヒト組換えIGF−I又はIGF−I受容体アゴニスト抗体となるように調製した。ウェルに1mL/ウェルの冷却したPBSを添加し、3回洗浄することによりグルコース取込みを終了させた。ウェルに0.25mL/ウェルの1N NaOHを添加して細胞を溶解した。細胞溶解液を、3mLの液体シンチレーターULTIMA GOLD(PerkinElmer Japan)をあらかじめ添加したバイアルに全量添加して撹拌した。液体シンチレーションカウンターにて3Hの放射活性(DPM)を3分間測定した。無処置群(コントロール群)のグルコース取込み量(DPM)の平均値を100%として処置群のグルコース取込み率を算出した。結果を図4に示す。
【0154】
IGF−Iの0.8、4、20及び100nMは、濃度依存的、且つ有意にグルコース取込みを亢進させた。一方、IGF11−16は、100nMまで有意な作用を示さなかった。これらのことからIGF11−16は、ヒト分化筋細胞でのグルコース取込み作用は極めて弱いと考えられた。
【0155】
[実施例14]in vivo薬効(モルモットにおける筋肉量増加作用)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のin vivoでの薬効を確認するために、モルモットにIGF11−16を単回投与して、2週間後の筋肉量を測定して、IGF−Iを持続投与した時の作用と比較した。筋肉量増加作用とは、モルモットの筋肉重量をコントロール群と比べて5%以上増加させることとする。
【0156】
IGF11−16(0.03、0.1又は0.3mg/kg)を、正常モルモットの皮下あるいは静脈内に単回投与した。陽性対照としてヒト組換えIGF−I(メカセルミン)を、浸透圧ポンプ(アルゼット)を使用して皮下に埋め込み、1mg/kg/日となるように持続投与した。薬剤投与の2週間後、モルモットを麻酔下で放血致死させ、長趾伸筋の重量を測定した。結果を図5に示す。
【0157】
IGF11−16の0.03、0.1及び0.3mg/kgを静脈内投与した群(iv)は、溶媒のみを処置したコントロール群と比較して、用量依存的、且つ有意に筋肉量を増加させた。また、IGF11−16の0.3mg/kgを皮下投与した群(sc)でも、コントロール群と比較して、有意な筋肉量の増加を示した。
【0158】
IGF11−16の0.03から0.3mg/kgの単回投与群の筋肉増加量は、ヒト組換えIGF−Iを1mg/kg/日で持続投与した群(infusion)と同程度であった。このことから、IGF11−16は、静脈内あるいは皮下への単回投与により、in vivoでも薬効を有することが示された。
【0159】
IGF11−16は、単回投与により、IGF−Iの持続投与と同等の薬効を有することが示された。臨床でのIGF−I(メカセルミン)の用法用量は1日1回から2回である。一方、in vivoにおいてIGF11−16は2週に1回の投与でIGF−Iの持続投与と同等の有効性を示すことから、IGF−Iと比較して持続性に優れることが示された。
【0160】
[実施例15]in vivo血糖低下作用(モルモットにおける血糖低下作用)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のin vivoでの血糖低下作用の有無を確認するために、モルモットにIGF11−16を単回投与して、継時的に血糖値を測定して、IGF−Iの単回投与時の血糖低下作用と比較した。血糖低下作用とは、血糖値を50mg/dL以下に低下させる、又は低血糖症状を起こす作用とする。
【0161】
IGF−Iをモルモットに単回皮下投与して、血糖低下作用を検討した。モルモットを12時間絶食させ、ヒト組換えIGF−I(メカセルミン)を、0.3、1、3及び10mg/kgで単回皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与1、2、4、8、10及び24時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を図6に示す。
【0162】
IGF−Iは、0.3mg/kgから有意な血糖低下作用を示し、1mg/kg以上では低血糖症状が認められ、3mg/kg以上では死亡例が認められた。
【0163】
IGF11−16をモルモットに単回皮下投与して、血糖低下作用を検討した。モルモットを12時間絶食させ、IGF11−16を、10、30及び100mg/kgで単回皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与2、4、8、10及び24時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を図7に示す。
【0164】
IGF11−16は、溶媒のみを投与したコントロール群と比較して、100mg/kg投与群でも、血糖値に有意な差を認めなかった。このことから、IGF11−16の皮下投与は、血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことが示された。
【0165】
IGF11−16をモルモットに単回静脈内投与して、血糖低下作用を検討した。モルモットを12時間絶食させ、IGF11−16を、0.1、1.5、6及び20mg/kgで静脈内投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与0.5、1、2、4、8及び24時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を図8に示す。
【0166】
IGF11−16は、溶媒のみを投与したコントロール群と比較して、20mg/kg投与群でも、血糖値に有意な差を認めなかった。このことから、IGF11−16は静脈内投与でも、血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことが示された。
【0167】
IGF11−16は、皮下及び静脈内のいずれの投与法でも、IGF−Iのような顕著な血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことから、IGF−Iの副作用である低血糖を克服した、薬剤としての可能性が示された。
【0168】
[実施例16]in vivo薬効(モルモットにおける成長促進効果)
IGF−I受容体アゴニスト抗体のin vivoでの骨に対する薬効を確認するために、IGF−Iを持続投与、及び成長ホルモン(GH)を1日1回反復投与した時の作用と比較した。下垂体を摘出されたモルモットにIGF11−16を単回投与して、2週間後の脛骨の長さ、及び成長板軟骨の厚さを、成長促進効果の指標として測定した。IGF11−16(0.3mg/kg及び1mg/kg)を、下垂体摘出モルモットに単回皮下投与した。比較対照としてヒト組換えIGF−I(メカセルミン)を、浸透圧ポンプ(アルゼット)を使用して皮下に埋め込み、1mg/kg/日となるように持続投与した。また、別の比較対照としてヒト組換えGH(ジェノトロピン(登録商標))を、1mg/kgの用量で、1日1回、反復皮下投与した。薬剤投与の2週間後、モルモットを麻酔下で放血致死させ、脛骨近位部の成長板軟骨の厚さ、及び脛骨の長さを測定した。結果を図9及び図10に示す。
【0169】
IGF11−16の0.3mg/kg及び1mg/kgを皮下投与した群(IGF11−16)は、下垂体摘出モルモットに溶媒のみを処置したコントロール群(vehicle)と比較して、用量依存的、且つ有意に成長板軟骨の厚さ、及び脛骨の長さを伸展させ、成長促進効果が認められた。
IGF11−16の0.3mg/kgの単回投与群の成長促進効果は、ヒト組換えIGF−Iを1mg/kg/日で持続投与した群(IGF−I)と同程度であった。また、IGF11−16の1mg/kgの単回投与群の成長促進効果は、ヒト組換えGHを1mg/kg/日で反復投与した群(GH)と同程度であった。このことから、IGF11−16は、単回投与により、IGF−Iの持続投与、及びGHの1日1回の反復投与と同等の薬効を有することが示された。臨床でのヒト組換えIGF−I(メカセルミン)及びヒト組換えGH(ジェノトロピン(登録商標))の用法用量は、それぞれ1日1回から2回の皮下注射、及び週6回から7回の皮下注射である。一方、in vivoにおいてIGF11−16は2週に1回の投与でIGF−Iの持続投与、及びGHの1日1回反復投与と同等の有効性を示すことから、IGF−I及びGHと比較して持続性に優れることが示された。
【0170】
[実施例17]IGF−IとIGF11−16の血中動態
IGF−Iの血中動態
モルモットを12時間絶食させ、ヒト組換えIGF−Iを、0.3、1、3及び10mg/kgで皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与1、2、4、8、10及び24時間後に採血して、血漿中のヒトIGF−I濃度をELISA(DG100、R&D)により測定した。結果を図11に示す。
【0171】
血漿中のIGF−I濃度は投与用量に依存して上昇し、投与24時間後の血漿中のIGF−I濃度はピーク時の約50%以下にまで低下していた。0.3mg/kg投与群の投与24時間後のIGF−I濃度は測定下限以下であった。また、10mg/kg投与群は投与4時間以降に低血糖のため死亡したため血漿を採取できなかった。
【0172】
IGF11−16の血中動態
モルモットを12時間絶食させ、IGF−I受容体アゴニスト抗体を、0.3、1、3、10、30及び100mg/kgで皮下投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させ、24時間後に再給餌した。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与2、4、8、10、24、48及び72時間後に採血して、血漿中のIGF11−16濃度をELISAにより測定した。結果を図12に示す。
血漿中のIGF11−16濃度は投与用量に依存して上昇し、投与48時間以降も血漿中のIGF11−16濃度は投与24時間後と比較して約50%以上を維持していた。IGF11−16の血中動態はIGF−Iと比較して持続性に優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、脊椎動物のIGF−I受容体に特異的に結合し、IGF−I受容体を介して、筋肉量又は成長板軟骨の厚さを増加させ、血糖値を低下させない抗体を提供することができるため、抗IGF−I受容体抗体に関する疾患の治療、予防又は診断に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]