(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記砥石を回転させる動力を発生する第1モータからの出力データと前記砥石の回転速度を検出する回転速度センサからの回転速度データとに基づいて前記ワークの加工開始点を抽出することを含む
請求項9に記載の加工物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0012】
以下の説明においては、3次元直交座標系を設定し、3次元直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向とし、所定面内においてX軸と直交するY軸と平行な方向をY軸方向とし、X軸及びY軸と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。また、X軸を中心とする回転又は傾斜方向をθX方向とし、Y軸を中心とする回転又は傾斜方向をθY方向とし、Z軸を中心とする回転又は傾斜方向をθZ方向とする。所定面はXY平面であり、本実施形態においては水平面と平行である。Z軸方向は鉛直方向である。
【0013】
[工作機械]
図1は、本実施形態に係る工作機械100の一例を模式的に示す平面図である。
図2は、本実施形態に係る工作機械100の一例を模式的に示す側面図である。本実施形態において、工作機械100は研削装置である。
【0014】
図1及び
図2に示すように、工作機械100は、ワークWと接触してワークWを加工する工具1と、工具1を回転させる第1回転装置10と、ワークWを回転させる第2回転装置20と、工具1をX軸方向に移動する駆動装置30と、工具1をY軸方向に移動する駆動装置40と、制御装置50とを備える。
【0015】
ワークWは、工作機械100に加工される加工対象物である。ワークWは、円柱状の部材である。工作機械100は、ワークWを加工して、カムシャフト又はクランクシャフトを製造する。
【0016】
工具1は、研削用の砥石である。工具1は、ワークWを接触した状態で回転することによりワークWを研削する。
【0017】
第1回転装置10は、Y軸と平行な回転軸AXを中心に工具1を回転させる。第1回転装置10は、工具1を回転可能に支持する支持機構11と、工具1を回転させる動力を発生する第1モータ12とを有する。支持機構11及び第1モータ12は、X軸方向に移動可能なステージ部材13に支持される。
【0018】
第2回転装置20は、Y軸と平行な回転軸BXを中心にワークWを回転させる。第2回転装置20は、ワークWの一方の端部を回転可能に支持する支持機構21と、ワークWの他方の端部を回転可能に支持する支持機構22と、ワークWを回転させる動力を発生する第2モータ23とを有する。支持機構21及び支持機構22は、ベース部材2に支持される。
【0019】
駆動装置30は、工具1の回転軸AXと直交するX軸方向に工具1を移動する。X軸方向は、工具1の送り方向である。駆動装置30は、ステージ部材13をX軸方向に移動することによって工具1をX軸方向に移動する。駆動装置30は、工具1をX軸方向に移動する動力を発生する第3モータ31を有する。第3モータ31は、直動モータを含む。第3モータ31は、リニアモータである。なお、第3モータ31が回転モータを含み、第3モータ31によって作動するボールねじ機構により工具1がX軸方向に移動してもよい。ステージ部材13が−X方向に移動することにより、工具1が−X方向に移動してワークWに押し当てられる。
【0020】
駆動装置40は、Y軸方向に工具1を移動する。駆動装置40は、ステージ部材13をY軸方向に移動することによって工具1をY軸方向に移動する。駆動装置40は、工具1をY軸方向に移動する動力を発生する第4モータ41を有する。第4モータ41は、直動モータを含む。第4モータ41は、リニアモータである。なお、第4モータ41が回転モータを含み、第4モータ41によって作動するボールねじ機構により工具1がY軸方向に移動してもよい。ステージ部材13は、駆動装置30及び駆動装置40を介してベース部材2に支持される。
【0021】
制御装置50は、コンピュータシステムを含む。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサと、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む記憶装置と、入出力インターフェース装置とを有する。
【0022】
[制御システム]
次に、本実施形態に係る工作機械100の制御システム200の一例について説明する。
図3は、本実施形態に係る制御システム200の一例を示す機能ブロック図である。
【0023】
図3に示すように、制御システム200は、制御装置50と、回転軸AXを中心に工具1を回転させる動力を発生する第1モータ12と、工具1の回転速度を検出する回転速度センサ14と、工具1をX軸方向に移動させる動力を発生する第3モータ31と、X軸方向における工具1の位置を検出する位置センサ32と、回転軸BXを中心にワークWを回転させる動力を発生する第2モータ23と、ワークWの回転角度を検出する回転角度センサ24と、ワークWの設計データであるCAD(Computer Aided Design)データを保持するCADデータ保持部60と、を備える。
【0024】
制御装置50は、ワークW及び工具1の状態量データが入力される状態量データ取得部51と、工具1の動特性を示す装置動特性モデル及びワークWの目標形状を示すワークモデルを含むシミュレーションモデルから状態量推定データを算出する状態量推定データ算出部52と、状態量データと状態量推定データとに基づいてワークWの加工状態を示す加工状態データを算出する加工状態算出部53と、を備える。
【0025】
また、制御装置50は、加工状態算出部53で算出された加工状態データを出力する出力部54と、加工状態算出部53で算出された加工状態データに基づいて工具1による加工条件を制御する加工制御部55と、記憶部56と、を備える。
【0026】
シミュレーションモデルは、関数又はマップ等に基づいて予め設定され、記憶部56に記憶されている。
【0027】
状態量とは、工具1又は工具1と接触するワークWの状態によって一義的に定まる量をいう。本実施形態において、状態量データは、第1モータ12の出力データd1、回転速度センサ14によって検出される工具1の回転速度データd2、第3モータ31の出力データd3、位置センサ32によって検出されるX軸方向における工具1の位置データd4、第2モータ23の出力データd5、及び回転角度センサ24によって検出されるワークWの回転角度データd6を含む。
【0028】
第1モータ12の出力データd1は、第1モータ12のトルクを含む。出力データd1は、第1モータ12から出力される電流値に基づいて導出される。出力データd1は、状態量データ取得部51に出力される。
【0029】
回転速度センサ14は、例えばロータリーエンコーダを含み、工具1の回転速度を示す回転速度データd2を検出する。回転速度データd2は、状態量データ取得部51に出力される。
【0030】
第3モータ31の出力データd3は、第3モータ31の推力を含む。出力データd3は、第3モータ31から出力される電流値に基づいて導出される。出力データd3は、状態量データ取得部51に出力される。
【0031】
位置センサ32は、例えばリニアエンコーダを含み、X軸方向における工具1の位置を示す位置データd4を検出する。本実施形態において、位置センサ32は、第3モータ31の移動量を検出することによって、工具1の位置データd4を検出する。位置データd4は、状態量データ取得部51に出力される。
【0032】
第2モータ23の出力データd5は、第2モータ23のトルクを含む。出力データd5は、第2モータ23から出力される電流値に基づいて導出される。出力データd5は、状態量データ取得部51に出力される。
【0033】
回転角度データ24は、例えばロータリーエンコーダを含み、ワークWの回転角度を示す回転角度データd6を検出する。回転角度データd6は、状態量データ取得部51に出力される。
【0034】
CADデータ保持部60は、CADデータd7を保持する。CADデータd7は、ワークWの目標形状データ及びワークWの物性データを含む。ワークWの目標形状データは、回転軸BXと直交するワークWの断面形状データを含む。
【0035】
状態量データ取得部51は、状態量データとして、出力データd1、回転速度データd2、出力データd3、位置データd4、出力データd5、及び回転角度データd6を取得する。なお、状態量データは、出力データd1、回転速度データd2、出力データd3、位置データd4、出力データd5、及び回転角度データd6に限定されない。状態量データは、例えば、クーラント流量を含んでもよい。
【0036】
状態量推定データ算出部52は、工具1の動特性を示す装置動特性モデルから状態量推定データとして加工抵抗変動を算出する。また、状態量推定データ算出部52は、CADデータd7に基づいて、ワークWの目標形状を示すワークモデルから状態量推定データとして工具1とワークWの接触角変動又は接触位置変動を算出する。
【0037】
装置動特性モデルは、工具1のモデリング及びシステム同定により算出される。モデリングとは、対象物の振る舞いを特徴付ける数学モデルを構築する処理をいう。モデリングにより、対象物は単純化された数学的表現に変換される。工具1について、例えば、質量成分、ダンパ成分、及びバネ成分を有する装置動特性モデルが算出される。
【0038】
システム同定とは、先に行われたモデリングの正しさを実験によって検証する処理をいう。システム同定においては、例えば工具1に様々な周波数の入力信号を実験的に入力し、工具1から出力される振幅又は位相を計測する処理が実施される。また、システム同定においては、工具1に様々な周波数の入力信号を入力したとき、工具1の速度を計測する処理が実施される。システム同定により、モデリングの正しさが実験的に検証される。
【0039】
システム同定の結果に基づいて、工具1の動特性を示す動特性データが導出される。工具1の動特性データは、工具1の質量成分、ダンパ成分、及びバネ成分を含む。また、工具1の動特性データは、工具1の外形及び寸法のような工具1に係る既知データを含む。
【0040】
ワークモデルは、CADデータに基づいて算出される。ワークモデルは、加工におけるワークWの目標形状データを含む。ワークWの目標形状データは、回転軸BXと直交するワークWの断面形状データを含む。また、ワークモデルは、ワークWの弾性率のようなワークWの物性データを含む。また、ワークモデルは、ワークWの動特性データを含む。ワークWの動特性データは、例えばワークWの質量成分、ダンパ成分、及びバネ成分を含む。ワークモデルが算出されることにより、例えば外力が作用したときのワークWの撓み量変動が算出される。
【0041】
また、状態量推定データ算出部52は、複数のカルマンフィルタ52Cを含み、1組の入出力データから複数の状態量データを抽出することができる。状態量推定データ算出部52は、例えば第1モータ12からの出力データd1と回転速度センサ14からの回転速度データd2に基づいて、状態量推定データとして、工具1の研削抵抗、ワークWの加工開始点、及び工具1の摩耗量などを抽出することができる。
【0042】
加工状態算出部53は、状態量データ取得部51で取得された状態量データと状態量推定データ算出部52でシミュレーションモデルを用いて算出された状態量推定データとに基づいて、ワークWの加工状態を示す加工状態データを算出する。加工状態算出部53に供給される状態量データは、状態量推定データ算出部52のカルマンフィルタ52Cによって抽出された状態量推定データを含む。また、加工状態算出部53に供給される状態量データは、第1モータ12から供給される出力データd1、回転速度センサ14から供給される回転速度データd2、第3モータ31から供給される出力データd3、位置センサ32から供給される位置データd4、第2モータ23から供給される出力データd5、及び回転角度センサ24から供給される回転角度データd6を含む。
【0043】
状態量推定データ算出部52は、第1モータ12の出力データd1及び工具1の回転速度データd2とシミュレーションモデルとに基づいて、工具1の加工抵抗を算出する。本実施形態において、工具1の加工抵抗は、工具1の研削抵抗である。シミュレーションモデルに出力データd1が入力されると、工具1とワークWとが接触していない空転状態における工具1の回転速度データが算出される。状態量推定データ算出部52は、出力データd1及びシミュレーションモデルに基づいて算出された空転状態の工具1の回転速度データと、回転速度センサ14によって検出された回転速度データd2との差に基づいて、工具1の加工抵抗を算出することができる。
【0044】
なお、工具1の加工抵抗は、状態量推定データ算出部52のカルマンフィルタ52Cによって抽出された研削抵抗でもよい。
【0045】
また、加工状態算出部53は、加工抵抗とワークモデルとに基づいてワークWの撓み量を示す撓み量変動データを算出することができる。加工抵抗は、ワークWに作用する負荷と等価である。本実施形態において、ワークWに作用する負荷は、ワークWに作用する研削力である。上述のように、ワークモデルは、ワークWの断面形状データ及びワークWの物性データを含む。加工状態算出部53は、ワークモデルに作用する負荷とワークモデルとに基づいて、ワークWの撓み量変動データを算出することができる。
【0046】
また、加工状態算出部53は、第3モータ31に出力される制御指令データと、算出されたワークWの撓み量変動データとに基づいて、ワークWの形状誤差変動を算出する。
【0047】
図4は、本実施形態に係る第3モータ31に出力された制御指令データとワークWの撓み量との関係を示す模式図である。制御指令データに基づいて、ワークWに対する指令切り込み量が算出される。ワークWの目標切り込み量を示す指令切り込み量は、第3モータ31の目標作動量を含む。ワークWに作用する研削力に応じてワークWが撓んだ場合、ワークWが工具1から逃げることとなる。その結果、ワークWの実際の切り込み量を示す実切り込み量は、指令切り込み量よりも撓み量に応じた量だけ少なくなる。すなわち、ワークWに作用する切削力によりワークWが撓んだ場合、指令切り込み量よりも少ない量だけしかワークWが加工されないこととなり、目標形状に対してワークWに形状誤差が発生する。そして、ワークWの目標形状や加工条件などによってワークWに作用する研削力が変動するような場合においては、ワークWの撓み量,すなわち、目標形状に対するワークWの形状誤差が変動する。
【0048】
したがって、加工状態算出部53は、第3モータ31に出力された制御指令データと、算出されたワークWの撓み量変動データとに基づいて、CADデータによって規定される目標形状に対するワークWの形状誤差変動を算出することができる。
【0049】
また、状態量推定データ算出部52は、回転角度データd6とワークモデルとに基づいて、ワークWと工具1との接触位置Cを算出する。接触位置Cは、ワークWが工具1によって加工される加工点を示す。
【0050】
図5は、本実施形態に係るワークWと工具1との関係を示す模式図である。工具1は回転軸AXを中心に回転し、ワークWは回転軸BXを中心に回転する。ワークWは、カムシャフト又はクランクシャフトに加工される。回転軸BXと直交する断面において、ワークWは非円形である。回転軸AXと直交する断面において、工具1は実質的に円形である。
【0051】
回転する非円形のワークWと回転する円形の工具1とが接触する場合、ワークWの回転に伴って、工具1と接触するワークWの接触位置Cと回転軸BXとの距離は変化する。
【0052】
上述のように、ワークモデルは、回転軸BXと直交するワークWの断面形状データを含む。そのため、回転軸BXを中心とする回転方向におけるワークWの回転角度が分かれば、工具1と接触するワークWの接触位置Cが導出される。状態量推定データ算出部52は、回転角度データd6とワークモデルとに基づいて、ワークWと工具1との接触位置Cを算出することができる。
【0053】
また、加工状態算出部53は、第3モータ31の出力データd3及びX軸方向における工具1の位置データd4に基づいて、ワークWの表面の凹凸を算出する。
【0054】
工具1の回転軸AXが変動し、工具1が振れ回る現象が発生する可能性がある。工具1が振れ回ると、工具1においてビビリ振動が発生し、工具1及びワークWの少なくとも一方がX軸方向に微振動する。ビビリ振動が発生すると、ワークWの表面に微細な凹凸が形成されてしまう。
【0055】
ビビリ振動が発生すると、工具1をX軸方向に移動する第3モータ31の出力データd3が変動する。したがって、加工状態算出部53は、第3モータ31の出力データd3に基づいて、加工状態データとして、ビビリ振動の発生の有無、及びビビリ振動の力を示すビビリ力[N]を算出することができる。また、加工状態算出部53は、位置センサ32によって検出されるX軸方向における工具1の位置データd4に基づいて、加工状態データとして、ビビリ振動の振幅を示すビビリ量[μm]を算出することができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、状態量データ取得部51に取得された出力データd3から工具1の回転速度に対応する周波数帯域の出力データd3がフィルタリング処理により抽出される。加工状態算出部53は、抽出された出力データd3に基づいて、ビビリ力を算出する。同様に、状態量データ取得部51に取得された位置データd4から工具1の回転速度に対応する周波数帯域の位置データd4がフィルタリング処理により抽出される。加工状態算出部53は、抽出された位置データd4に基づいて、ビビリ量を算出する。なお、工具1の回転速度に対応する周波数帯域は、工具1の回転速度データd2から算出される。
【0057】
出力部54は、加工状態算出部53で算出された加工状態データを出力する。出力部54は、工具1による加工において加工状態データを出力する。すなわち、出力部54は、ワークWの加工中においてワークWの加工状態データをリアルタイムで出力する。
【0058】
加工制御部55は、加工状態算出部53によって算出された加工状態データに基づいて、工具1による加工条件を制御する。本実施形態において、加工制御部55は、加工状態算出部53によって算出された加工状態データに基づいて、第1モータ12、第3モータ31、及び第2モータ23の少なくとも一つをフィードバック制御する。
【0059】
[加工物の製造方法]
次に、本実施形態に係る加工物の製造方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る加工物の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態においては、工作機械100を用いてワークWから加工物であるカムシャフト又はクランクシャフトが製造される。
【0060】
ワークWが支持機構21及び支持機構22に支持される。第1回転装置10により工具1が回転軸AXを中心に回転し、第2回転装置20によりワークWが回転軸BXを中心に回転する。工具1が回転しワークWが回転している状態で、工具1とワークWとが接触するように、駆動装置30により工具1が−X方向に移動される。
【0061】
ワークWと工具1とが接触し工具1によりワークWが加工されている状態で、状態量データ取得部51は、第1モータ12の出力データd1、回転速度センサ14によって検出される工具1の回転速度データd2、第3モータ31の出力データd3、位置センサ32によって検出されるX軸方向における工具1の位置データd4、第2モータ23の出力データd5、及び回転角度センサ24によって検出されるワークWの回転角度データd6を含む状態量データを取得する(ステップS10)。
【0062】
状態量推定データ算出部52は、工具1の動特性を示す装置動特性モデル及びワークWの目標形状を示すワークモデルを含むシミュレーションモデルから状態量推定データを算出する(ステップS20)。
【0063】
加工状態算出部53は、状態量データ取得部51で取得された状態量データと状態量推定データ算出部52で算出された状態量推定データとに基づいて、ワークWの加工状態を示す加工状態データを算出する(ステップS30)。
【0064】
本実施形態においては、状態量推定データ算出部52において、第1モータ12の出力データd1及び工具1の回転速度データd2とシミュレーションモデルとに基づいて、工具1の加工抵抗が算出される。なお、状態量推定データ算出部52のカルマンフィルタ52Cが、第1モータ12の出力データd1から工具1の加工抵抗を抽出してもよい。
【0065】
工具1の加工抵抗が導出された後、加工状態算出部53は、加工抵抗とワークモデルとに基づいて、ワークWの撓み量変動データを算出する。加工抵抗は、ワークWに作用する負荷と等価である。また、ワークモデルは、ワークWの目標形状データ、ワークWの物性データ、及びワークWの動特性データを含む。加工状態算出部53は、ワークWに作用する負荷とワークモデルとに基づいて、ワークWの撓み量変動を示す撓み量変動データを算出することができる。
【0066】
ワークWの撓み量変動データが算出されることにより、
図4を参照して説明したように、指令切り込み量に対する実切り込み量が算出される。実切り込み量が算出されることにより、CADデータによって規定される目標形状に対するワークWの形状誤差変動が算出される。加工状態算出部53は、加工状態データとして、目標形状に対するワークWの形状誤差変動を示す誤差データを算出することができる。
【0067】
また、
図5を参照して説明したように、状態量推定データ算出部52は、ワークWの回転角度データd6と工具1の位置データd4とワークモデルとに基づいて、ワークWと工具1との接触位置Cを算出することができる。接触位置Cは、ワークWが工具1と接触する加工点を示す。加工状態算出部53は、接触位置Cを算出することにより、ワークWのどの部位がどれくらい加工されているかを把握することができる。換言すれば、加工状態算出部53は、回転軸BXを中心とする回転方向におけるワークWの複数の部位のそれぞれについての目標形状に対する形状誤差変動を算出することができる。
【0068】
また、加工状態算出部53は、第3モータ31の出力データd3及び工具1の位置データd4に基づいて、ビビリ振動に起因して生成されるワークWの表面の凹凸の深さ及びピッチを算出することができる。
【0069】
すなわち、本実施形態においては、加工状態算出部53は、ワークWの加工中に取得される状態量データに基づいて、ワークWの加工状態データとして、目標形状に対する回転方向におけるワークWの複数の部位のそれぞれについての誤差データ、及びビビリ振動に起因するワークWの表面の凹凸データを算出することができる。
【0070】
また、加工状態算出部53は、状態量推定データである工具1の加工抵抗と、工具1により加工されたワークWの数とに基づいて、工具1の摩耗量を算出し推定することができる。例えば、推定される工具1の加工抵抗(研削抵抗)が静定した後、ワークWを2回転して複数のワークWのそれぞれが粗研削され、それら複数のワークWのそれぞれが粗研削されたときの工具1の摩耗量が取得される。加工状態算出部53は、複数のワークWのそれぞれを粗研削したときの工具1の摩耗量の平均値を示す代表摩耗量を算出する。代表摩耗量は記憶部59に記憶される。加工状態算出部53は、算出した工具1の代表摩耗量と、その工具1を使って加工されたワークWの数とに基づいて、工具1の摩耗量を推定することができる。
【0071】
工具1による加工中において、出力部54は、加工状態算出部53で算出された加工状態データを出力する(ステップS40)。出力部54は、ワークWの加工中においてリアルタイムで加工状態データを出力する。出力部54は、例えば表示装置に加工状態データをリアルタイムに出力する。
【0072】
図7は、本実施形態に係る工作機械100により算出された加工状態データの一例を示す図である。
図7に示すグラフは、表示装置に表示される。
【0073】
図7に示すグラフにおいて、横軸は、ワークWの基準部位を0[°]としたときの回転方向におけるワークWの部位の角度を示す。縦軸は、目標形状に対するワークWのそれぞれの部位の誤差データを示す。
【0074】
図7において、ラインLaは、出力部54から出力された加工状態データを示す。工作機械100において状態量データが取得されることにより、加工状態算出部53は、ワークWの加工中においてワークWの加工状態データをリアルタイムで算出することができる。出力部54は、ワークWの加工中においてワークWの加工状態データをリアルタイムで出力することができる。
【0075】
なお、ラインLbは、工作機械100による加工後の後工程において検査装置で検出されたワークWの誤差データを示す。ラインLaとラインLbとは十分に一致することが分かる。
【0076】
加工制御部55は、工具1を用いるワークWの加工において、加工状態算出部53で算出された加工状態データに基づいて、工具1による加工条件を制御する(ステップS50)。加工制御部55は、加工状態算出部53で算出された加工状態データに基づいて、算出された誤差が0[μm]になるように、第1モータ12、第3モータ31、及び第2モータ23の少なくとも一つをフィードバック制御する。
【0077】
[作用及び効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、ワークWの加工中において取得される状態量データに基づいて、ワークWの加工状態データがリアルタイムで算出される。ワークWの加工状態データは、目標形状に対するワークWの形状誤差変動を示す誤差データを含み、ワークWの加工品質を示す。本実施形態によれば、シミュレーションモデルを用いることにより、状態量データとシミュレーションモデルとに基づいて、ワークWの加工中には直接的には計測できないワークWの加工品質を、演算処理によって仮想的に検査することができる。
【0078】
したがって、従来技術のような、後工程において検査装置を使って加工物を検査する必要が無くなる。大型で高価な検査装置が不要となるため、設備コストを抑制することができる。
【0079】
また、ワークWの加工中に取得される状態量データに基づいてワークWの加工品質がリアルタイムで検査される。そのため、加工品質の検査のための検査時間を別途設けなくても済む。したがって、製造された加工物の全部の加工品質を低コストで検査することができる。そのため、不良な加工品質の加工物の出荷が抑制される。
【0080】
また、本実施形態によれば、工具1によるワークWの加工において加工状態データを出力する出力部54が設けられる。これにより、加工状態算出部53で算出された加工状態データは、ワークWの加工中においてリアルタイムで出力される。例えば、加工状態データが表示装置にリアルタイムで出力されることにより、管理者は、表示装置を介して、ワークWの加工品質をリアルタイムで視認することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、加工状態データに基づいて工具1によるワークWの加工条件を制御する加工制御部55が設けられる。加工制御部55は、加工状態算出部53においてリアルタイムで算出された加工状態データに基づいて、ワークWの形状誤差が抑制されるように、工作機械100をフィードバック制御することができる。したがって、ワークWの加工条件が短時間で最適化され、良好な加工品質の加工物が短時間で効率良く製造される。
【0082】
また、本実施形態においては、状態量データとして、工具1を回転させる動力を発生する第1モータ12の出力データd1が取得される。カルマンフィルタ52Cにおいて第1モータ12の出力データd1がデータ処理されることにより、工具1の研削抵抗、ワークWの加工開始点、及び工具1の摩耗量など、様々な状態量データを取得することができる。
【0083】
また、本実施形態においては、状態量データとして、回転速度センサ14によって検出される工具1の回転速度データd2が取得される。これにより、第1モータ12の出力データd1及び工具1の回転速度データd2とシミュレーションモデルとに基づいて、工具1の加工抵抗を算出することができる。工具1の加工抵抗が算出されることにより、ワークWの加工量及びワークWの撓み量変動を推定することができる。
【0084】
また、本実施形態においては、ワークWの撓み量変動データが算出される。これにより、第3モータ31に出力された制御指令データとワークWの撓み量変動データとに基づいて、ワークWの形状誤差変動を示す誤差データを算出することができる。
【0085】
また、本実施形態においては、状態量データとして、ワークWの回転角度データd6が取得される。これにより、回転角度データd2とワークモデルとに基づいて、ワークWと工具1との接触位置Cを算出することができる。
【0086】
また、本実施形態においては、状態量データとして、第3モータ31の出力データd3及び送り方向における工具1の位置データd4が取得される。これにより、第3モータ31の出力データd3及び工具1の位置データd4に基づいて、ビビリ振動に起因するワークWの表面の凹凸データを算出することができる。
【0087】
なお、上述の実施形態においては、加工状態算出部53によって算出された加工状態データに基づいて、工具1による加工条件がフィードバック制御されることとした。例えば、加工状態算出部53によって算出された加工状態データが、加工物(製品)のシリアル番号に対応付けられて記憶部56に記憶されてもよい。例えば、工作機械100によって加工された最終製品である加工物の形状データがタイムスタンプ及び/又はシリアル番号に対応付けられて記憶部56に記憶されてもよいし、あるいは、出力部54を介して外部の管理端末に記憶するように構成してもよい。
【0088】
なお、上述の実施形態においては、工作機械100が、カムシャフトやクランクシャフトを加工する研削装置であることとしたが、研削装置に限定されない。工作機械100は、一般的な円筒研削盤でもよいし、球面研削盤でもよいし、マシニングセンタでもよいし、ワイヤソーでもよい。
【0089】
なお、上述の実施形態においては、制御装置50が工作機械100に設けられることとした。制御装置50は工作機械100とは別の装置でもよい。例えば、
図8に示す加工システム1000のように、制御装置50の機能が工場の管理端末に設けられてもよい。
図8に示す加工システム1000において、工作機械100Cと制御装置50の機能を有する管理端末50Cとは、通信装置1500を介して接続される。管理端末50Cは、通信装置1500を介して、工作機械100Cとデータ通信する。すなわち、上述の実施形態において、状態量データ取得部51、状態量推定データ算出部52、加工状態算出部53、出力部54、加工制御部55、及び記憶部56の少なくとも一つの機能が、工作機械100Cとは別に設けられてもよい。