(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、マトリックス樹脂と、形状異方性の第1熱伝導性フィラーを含むフィラー成形体と、第2熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性シートである。フィラー成形体はバインダー樹脂と第1熱伝導性フィラーを含み、第1熱伝導性フィラーは、前記フィラー成形体の厚み方向に配向しており、前記第1熱伝導性フィラーは、熱伝導性シート内においても、熱伝導性シートの厚み方向に配向している。これにより、熱伝導性が高い熱伝導性シートを得ることができる。尚、熱伝導性フィラーは熱伝導性粒子ともいう。
【0010】
形状異方性を有する第1熱伝導性フィラーは、板状及び針状から選ばれる少なくとも一つの形状のフィラーが好ましい。板状は扁平状及び鱗片状などとも呼ばれている。針状は棒状及び繊維状などとも呼ばれている。これらの形状のフィラーは、所定方向に配向しやすい。具体的には、フィラー成形体の調製過程において、シート又はブロック中、板状フィラーはその主面が、シート又はブロックの主面の面方向に配向されやすく、例えば、シート又はブロックの主面と実質的に平行に配置されやすく、針状フィラーは、その長手方向が、シート又はブロックの主面の面方向に配向されやすく、例えば、シート又はブロックの主面と実質的に平行に配置されやすい。そのため、シートまたはブロックを、例えばその主面の長手方向と直行する直線に沿って、シートまたはブロックの厚み方向(シートまたはブロックの最も短い辺と同じ方向)に切断して得られたフィラー成形体の前記切断面と直交する面であって、且つ、前記シートまたはブロックの前記主面と直交する面(前記シートまたはブロックの前記主面とは異なる面)において、板状フィラーは、フィラー成形体の厚み方向(フィラー成形体の最も短い辺と同じ方向)に配向し、例えば、板状フィラーの長手方向がフィラー成形体の厚み方向と実質的に同方向となりやすい。
【0011】
針状フィラーについては、フィラー成形体の厚み方向に配向し、例えば、針状フィラーの長手方向が、フィラー成形体の厚み方向と実質的に同方向となりやすい。形状異方性を有する第1熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素及びアルミナから選ばれる少なくとも一つが好ましい。これらのフィラーは熱伝導性が高く、電気絶縁性も高いからである。
【0012】
前記マトリックス樹脂及びバインダー樹脂は、同一又は異なった種類の熱硬化性樹脂であるのが好ましい。熱硬化性樹脂は、耐熱性が高く、寸法安定性も高いからである。熱硬化性樹脂としては、シリコーンポリマー、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等がある。これらの中でも、マトリックス樹脂及びバインダー樹脂は、いずれもシリコーンポリマーが好ましい。
【0013】
フィラー成形体には、さらに球状及び不定形から選ばれる少なくとも一つの熱伝導性フィラーを含まれていると好ましい。これにより、フィラー成形体内において形状異方性を有する第1熱伝導性フィラー同士の隙間を埋め、熱伝導性をさらに高めることができる。
【0014】
前記第2熱伝導性フィラーは、好ましくは球状及び不定形から選ばれる少なくとも一つの熱伝導性フィラーであることにより、熱伝導性シート内においてフィラー成形体同士の隙間を埋め、熱伝導性シートの熱伝導性を高くすることができる。
【0015】
前記熱伝導性シートの熱伝導率は、高ければ高いほど好ましいが、例えば、1.5W/m・K以上が好ましく、より好ましくは2.0W/m・K以上、さらに好ましくは11W/m・K以上である。
【0016】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、次の工程を含む。
(1)バインダー樹脂と形状異方性の第1熱伝導性フィラーの混合物(I)を押圧加工することにより、前記第1熱伝導性フィラーが、シートまたはブロックの主面方向に配向したシートまたはブロックを形成する工程1
(2)前記バインダー樹脂を硬化した後、前記シートまたは前記ブロックをその厚み方向にカットして、フィラー成形体の厚み方向に第1熱伝導性フィラーが配向したフィラー成形体とする工程2
(3)前記フィラー成形体とマトリックス樹脂と第2熱伝導性フィラーとを混合し、得られた混合物(II)をシート状に成形した後、前記マトリックス樹脂を硬化する工程3
【0017】
本発明の熱伝導性シートの製造方法によれば、フィラー成形体を含むので、磁場配向製法や積層スライス製法を用いなくても、大きなサイズの熱伝導性シートを製造できる。故に、本発明の熱伝導性シートの製造方法によれば、熱伝導性の高い熱伝導性シートを、効率よく合理的に製造できる。ここで大きなサイズ(広い面積)とは、長さ100mm以上、幅100mm以上をいう。好ましくは長さ300mm以上、幅400mm以上である。熱伝導性シートの厚さは、従来公知の熱伝導性シートの厚さと同じでよいが、例えば、0.3mm以上 5.0mm以下が好ましい。
【0018】
前記工程1における、前記混合物(I)の押圧加工は、プレス及び圧延から選ばれる少なくとも一つが挙げられる。
【0019】
前記工程3における、前記混合物(II)のシート状物への成形は、プレス及び圧延から選ばれる少なくとも一つが、大きなサイズ(広い面積)のシートの形成の観点から好ましい。とくにロール圧延であれば、連続成形も可能である。
【0020】
バインダー樹脂及びマトリックス樹脂の硬化は、硬化剤として有機過酸化物を用いた硬化又は白金族系金属触媒を使用する付加反応硬化の何れの硬化でも良く、結果的に熱硬化でき、かつ電気的に安定した熱伝導性又は体積固有抵抗が得られる方法を選択する。
【0021】
フィラー成形体のバインダー樹脂としてシリコーンポリマーを選択する場合、前記工程1において前記混合物(I)には下記の成分a〜成分c(ただし、成分cは成分c1及び成分c2のうちのいずれか一方)が含まれていると好ましい。
(成分a)ポリオルガノシロキサン100重量部
(成分b)第1熱伝導性フィラー:成分a100重量部に対して50〜2500重量部
(成分c)(成分c1)白金族系金属触媒
(成分c2)有機過酸化物:成分a100重量部に対して0.01〜5重量部
【0022】
フィラー成形体のバインダー樹脂としてシリコーンポリマーを選択する場合、前記工程1において前記混合物(I)には下記の成分a〜成分d(ただし、成分cは成分c1及び成分c2のうちのいずれか一方)が含まれていると、熱伝導性向上の観点からより好ましい。
(成分a)ポリオルガノシロキサン100重量部
(成分b)第1熱伝導性フィラー:成分a100重量部に対して50〜2500重量部
(成分c)(成分c1)白金族系金属触媒
(成分c2)有機過酸化物:成分a100重量部に対して0.01〜5重量部
(成分d)球状及び不定形から選ばれる少なくとも一つの熱伝導性フィラー:成分a100重量部に対して10〜500重量部
【0023】
熱伝導性シートのマトリックス樹脂としてシリコーンポリマーを選択する場合、前記工程3において前記混合物(II)には下記の成分A〜成分D(ただし、成分Dは成分D1及び成分D2のうちのいずれか一方)が含まれていると好ましい。
(成分A)ポリオルガノシロキサン100重量部
(成分B)フィラー成形体を成分A100重量部に対して100〜2500重量部
(成分C)第2熱伝導性フィラーを成分A100重量部に対して100〜2500重量部
(成分D)(成分D1)白金族系金属触媒
(成分D2)有機過酸化物:成分A100重量部に対して0.01〜5重量部
【0024】
シリコーンポリマーは、付加硬化型シリコーンポリマー、有機過酸化物硬化型シリコーンポリマーのうちのいずれであってよい。
【0025】
シリコーンポリマーが付加硬化型シリコーンポリマーの場合、バインダー樹脂及びマトリックス樹脂を構成するポリオルガノシロキサンは、後述のベースポリマー成分と架橋剤成分を含み、通常は、A液とB液に分かれて保存されている。例えば、A液とB液の双方に前記ベースポリマー成分が含まれ、A液には、更に硬化触媒、例えば白金族系金属触媒が含まれ、B液には、更に前記架橋剤成分が含まれる。この状態で市販されている。
【0026】
シリコーンポリマーが有機過酸化物硬化型シリコーンポリマーの場合、バインダー樹脂及びマトリックス樹脂を構成するポリオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有することが好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基等が例示される。ポリオルガノシロキサンが有するアルケニル基以外の有機基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等で例示されるアルキル基;フェニル基、トリル基等で例示されるアリール基;β−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフロロプロピル基、3−クロロプロピル基等で例示されるハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。
【0027】
ポリオルガノシロキサンの分子鎖末端などに少量の水酸基を有していてもよい。ポリオルガノシロキサンの分子構造は、直鎖状、分岐を含む直鎖状、環状、網目状のいずれであっても良く、二種以上のポリオルガノシロキサンを併用してもよい。
【0028】
ポリオルガノシロキサンの分子量は特に限定はなく、粘度の低い液状のものから粘度の高い生ゴム状のものまで使用できるが、硬化してゴム状弾性体になるためには25℃での粘度が100mPa・s以上であることが好ましく、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量が200,000〜700,000の範囲の生ゴム状であることがより好ましい。
【0029】
[バインダー樹脂、マトリックス樹脂]
次に、バインダー樹脂及びマトリックス樹脂の各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分
ベースポリマー成分は、好ましくは一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するポリオルガノシロキサンである。このポリオルガノシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基として、ビニル基、アリル基等の、好ましくは炭素原子数2〜8、より好ましくは炭素原子数2〜6の、アルケニル基を一分子中に2個有する。ポリオルガノシロキサンの粘度は25℃で、10〜1000000mPa・s、さらには100〜100000mPa・sであることが、作業性、硬化性などから望ましい。
【0030】
具体的には、好ましくは、下記一般式(化1)で表される1分子中に平均2個以上かつ分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサンを使用する。下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンは、両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状ポリオルガノシロキサンである。尚、この直鎖状ポリオルガノシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0032】
一般式(化1)中、R
1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R
2は互いに同一又は異種のアルケニル基であり、kは、0又は正の整数である。ここで、R
1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数が1〜10、更には炭素原子数が1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。R
2のアルケニル基としては、例えば炭素原子数が2〜6、さらには炭素原子数が2〜3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一般式(化1)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する整数である。
【0033】
成分a及び成分Aのポリオルガノシロキサンとしては、一分子中に、例えば、ケイ素原子に結合した、ビニル基、アリル基等の炭素原子数が2〜8、さらには2〜6のアルケニル基を3個以上、通常、3〜30個、好ましくは3〜20個程度有するポリオルガノシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10〜1000000mPa・s、特に100〜100000mPa・sの直鎖状ポリオルガノシロキサンである。
【0034】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(化2)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1〜3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)、少なくとも1個有する直鎖状ポリオルガノシロキサンであって、上記でも述べた通り25℃における粘度が10〜1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状ポリオルガノシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0036】
一般式(化2)中、R
3は互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。R
4は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R
5はアルケニル基であり、l,mは、0又は正の整数である。ここで、R
3の一価炭化水素基としては、炭素原子数が1〜10、さらには1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
【0037】
また、R
4の一価炭化水素基としても、炭素原子数が1〜10、さらには1〜6のものが好ましく、上記R
1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。
【0038】
R
5のアルケニル基としては、例えば炭素原子数が2〜6、さらには2〜3のものが好ましく、具体的には前記一般式(1)のR
2と同じものが例示され、好ましくはビニル基である。
【0039】
l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0040】
(2)架橋剤成分
成分a及びA成分のうちの架橋剤成分は、好ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。架橋剤成分のSiH基とA成分のうちのベースポリマー成分のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は好ましくは2〜1000、より好ましくは2〜300程度のものを使用することができる。
【0041】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも非末端(途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(1)のR
1と同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0042】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記一般式(化3)で表される構造のものが例示できる。
【0044】
上記の式中、R
6は互いに同一又は異種の水素、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基であり、少なくとも2つは水素である。Lは0〜1,000の整数、特には0〜300の整数であり、Mは1〜200の整数である。
【0045】
(3)触媒成分
バインダー樹脂の成分c1及びマトリックス樹脂の成分D1としては、ヒドロシリル化反応に用いられる白金族系金属触媒を用いることができる。白金族系金属触媒は、例えば、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族系金属触媒が挙げられる。
【0046】
白金族系金属触媒の配合量は、成分a又は成分Aであるポリオルガノシロキサンの硬化に必要な量であればよく、好ましくはポリオルガノシロキサンが十分に硬化する量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。白金族系金属触媒は、通常、本発明の熱伝導性シートの製造に使用されるシリコーンポリマー(例えば、2液室温硬化シリコーンポリマー)に含まれるが、更に、成分a又はA成分を十分に硬化させるために、本発明の熱伝導性シートの製造において、前記シリコーンポリマーに追加の白金族系金属触媒を混合してもよい。白金族系金属触媒の前記配合量は、ポリオルガノシロキサン成分に対して金属原子重量換算で、好ましくは0.01〜1000ppmである。
【0047】
尚、白金族金属触媒について「ポリオルガノシロキサンが十分に硬化する量」とは、硬化物の硬さが、ASKER Cで5以上とすることが可能な量である。
【0048】
バインダー樹脂の成分c2及びマトリックス樹脂の成分D2は、有機過酸化物であり、加熱によりラジカルを発生して、A成分、成分aの架橋反応を起こす。有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、ビス(p−メチルベンゾイル)ペルオキシドのようなアシル系過酸化物;ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシドのようなアルキル系ペルオキシド;ならびにtert−ブチルペルベンゾアートのようなエステル系有機過酸化物が例示される。バインダー樹脂における成分c2、マトリックス樹脂における成分D2の配合量は、各々、成分A、成分a100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜4重量部がより好ましい。
【0049】
[第2熱伝導性フィラー]
第2熱伝導性フィラー(成分C)は、成分A100重量部に対して、好ましくは100〜2500重量部添加する。これにより熱伝導性シートの熱伝導率を高く保つことができる。熱伝導性フィラーとしては、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミ、窒化ホウ素、水酸化アルミ及びシリカから選ばれる少なくとも一つが好ましい。形状は球状,鱗片状,多面体状等様々なものを使用できる。アルミナを使用する場合は、純度99.5重量%以上のα−アルミナが好ましい。第2熱伝導性フィラーの比表面積は、0.06〜10m
2/gの範囲が好ましい。比表面積はBET比表面積であり、測定方法はJIS R1626に従う。第2熱伝導性フィラーの平均粒子径は、0.1〜100μmの範囲が好ましい。粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定におけるD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば堀場製作所製社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA−950S2がある。
【0050】
第2熱伝導性フィラーとしては、平均粒子径が異なる少なくとも2種の無機粒子を併用すると好ましい。このようにすると大きな粒子径の間に小さな粒子径の熱伝導性無機粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性が高くなるからである。
【0051】
無機粒子は、R(CH
3)
aSi(OR’)
3−a(Rは炭素数1〜20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1〜4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物で表面処理するのが好ましい。R(CH
3)
aSi(OR’)
3−a(Rは炭素数1〜20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1〜4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)としては、例えば、メチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシランと片末端シラノールシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。平均粒子径2μm以上の粒子は、粒子全体を100重量%としたとき50重量%以上含まれていると好ましい。
【0052】
[その他の成分]
混合物(II)には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラなどの無機顔料、フィラーの表面処理等の目的でアルキルトリアルコキシシランなどが含まれていてもよい。フィラー表面処理を目的とする材料として、アルコキシ基含有シリコーンが挙げられる。
【0053】
図1は本発明の一実施形態の熱伝導性シートの模式的断面図である。すなわち、熱伝導性シート10は、マトリックス樹脂11と、形状異方性の第1熱伝導性フィラーを含むフィラー成形体12と、第2熱伝導性フィラー13を含み、フィラー成形体12はバインダー樹脂14と第1熱伝導性フィラー15を含み、第1熱伝導性フィラー15はフィラー成形体12の厚み方向に配向しており、熱伝導性シート10内においても、第1熱伝導性フィラー15は、熱伝導性シート10の厚み方向に配向している。
【0054】
図3A−Cは本発明の一実施形態におけるフィラー成形体12の製造方法を示す模式的説明図である。まず
図3Aに示すように、バインダー樹脂14と形状異方性の第1熱伝導性フィラー15の混合物(I)を押圧加工することにより、前記第1熱伝導性フィラー15が主面方向に配向したシートを形成する(工程1)。
【0055】
その後、前記シート中のバインダー樹脂14を硬化させ、厚みaのシート状成形体16とする。次に、例えば、
図3Aの点線に沿って、シート状成形体16を厚み方向にカットしてフィラー成形体12とする。このとき、シート状成形体16の厚みをa、幅をcとすると(成形体16はシート状であるからc>a)、厚みaとカット幅bの関係は、a>bとする。a>bの関係であることにより、フィラー成形体12が、熱伝導性シート内において、第1熱伝導性フィラー15が、熱伝導性シートの厚み方向に配向しやすい。
図3Bは、成形体16をカットすることにより得られたフィラー成形体12の斜視図である。
図3Cは同フィラー成形体12の側面図(ab図)である。このようにしてフィラー成形体12を得る。
尚、成形体16をカットする際に、シート状成形体16が壊れることもあるが、フィラー成形体において幅cは保持されていなくてもよい。また、直方体であるフィラー成形体において、その厚みをb(後述の「カット幅b」に対応)とし、シート状成形体16の厚みaに対応する辺を辺aとし、残余の辺を辺dとすると(
図3B参照)、フィラー成形体がd≧a>b又はa≧d>bを満たす形状である限り、シート状成形体16の幅をcが短くなるように、シート状成形体16をカットしてもよい。
【0056】
工程1において、バインダー樹脂と形状異方性の第1熱伝導性フィラーの混合物を押圧加工することにより得られるシート又は、ブロックであってもよい。この場合も、ブロックは、ブロックをカット幅bでカットして得たフィラー成形体12が、c≧a>b又はa≧c>bを満たす形状とする。c≧a>b又はa≧c>bの関係であることにより、フィラー成形体12が、熱伝導性シート内において、第1熱伝導性フィラー15が、熱伝導性シートの厚み方向に配向しやすい。
【実施例】
【0057】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
<熱伝導率>
ASTM D5470準拠の熱抵抗測定方法を用いて熱抵抗値[m
2・K/W]を測定し、X軸に測定厚み、Y軸に熱抵抗値でプロットして、近似線グラフを作成した。この近似線の傾きの逆数を熱伝導率とした。
【0058】
(実施例1)
<フィラー成形体>
1.材料成分
(1)シリコーン成分
シリコーン成分として、ポリオルガノシロキサンを含む2液室温硬化シリコーンポリマーを表1に示す量使用した。A液には、ベースポリマー成分と白金族系金属触媒が含まれており、B液には、ベースポリマー成分と架橋剤成分であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれる。
(2)熱伝導性フィラー
長径700μm短径50μmの板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)と、球状で平均粒子径2μmのアルミナフィラーを表1に示す量使用した。アルミナフィラーは、シランカップリング剤(トリエトキシシラン)により表面処理されており、これによりPt触媒の触媒能である硬化促進が損なわれることを防いだ。尚、前記表面処理は、アルミナフィラー100質量部に対してシランカップリング剤を1質量部添加し、これらが均一になるまで撹拌し、撹拌したアルミナフィラーをトレー等に均一に拡げ100℃で2時間乾燥させることにより行った。
【0059】
2.混合と成形加工
前記シリコーン成分と熱伝導性フィラーを表1に示す量計量し、混合し、コンパウンドとした。次に離型処理をしたPETフィルムで前記コンパウンドを挟み込み、等速ロールで圧延して厚みaが3.0mmのシートに成形し(
図3A参照)、100℃、15分加熱してシリコーンポリマーを硬化した。これにより板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)が、シート状成形体の主面方向に配向した、言い換えると、板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)の主面が、シート状成形体の主面と実質的に平行に配置された、シート状成形体が得られた。
【0060】
【表1】
【0061】
3.シート状成形体のカット
カッターを使用して前記シート状成形体の厚さ(a)方向に平均0.5mm間隔でカットした(
図3A参照)。これにより、タテcが5mm、ヨコaが3mm、厚さbが0.5mmの直方体状のフィラー成形体を作成した(
図3B参照)。このフィラー成形体の側面(ab面)の写真(倍率100倍)は、
図2Aに示すとおりであり、フィラー成形体の厚さb方向に板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)が配向していた。
図2Bは同平面(bc面)の写真(倍率100倍)であり、板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)の平面が観察できる。
【0062】
<熱伝導性シートの製造>
前記フィラー成形体と、硬化によりマトリックス樹脂となるシリコーン成分(2液室温硬化シリコーンポリマー)と、球状アルミナフィラー(第2熱伝導性フィラー)とを表2に示す量計量し、混合し、シート状に成形し、得られたシートを、100℃で15分加熱硬化して、熱伝導性シートを得た。熱伝導性シート中の板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)は、熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、換言すると、熱伝導性シートをその厚さ方向に切断して見える切断面において、板状窒化ホウ素フィラー(第1熱伝導性フィラー)の長手方向は、熱伝導性シートの厚み方向に配向しており、熱伝導性シートの厚み方向と実質的に同方向であった。
なお、アルミナフィラーは、シランカップリング剤(トリエトキシシラン)により表面処理されており、前記表面処理は、アルミナフィラー100質量部に対してシランカップリング剤を1質量部添加し、これらが均一になるまで撹拌し、撹拌したアルミナフィラーをトレー等に均一に拡げ100℃で2時間乾燥させることにより行った。
図1に、この熱伝導性シートの模式的断面図を示す。熱伝導性シートの熱伝導率及び硬さも表2に示す。
【0063】
(比較例1)
フィラー成形体を使用せず、硬化によりマトリックス樹脂となるシリコーン成分と、第1熱伝導性フィラーと、第2の熱伝導性フィラーとを表2に示す量、計量し、混合し、シート状に成形し、得られたシートを100℃、15分で加熱硬化した。比較例1の熱伝導性シートの熱伝導率及び硬さも表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例1及び比較例1に含まれる樹脂成分と熱伝導性フィラーの重量比は同じである。表2から明らかなとおり、実施例1の熱伝導性シートは、熱伝導性シートの厚み方向に板状窒化ホウ素フィラーが配向したフィラー成形体を含んでいるため、比較例1の熱伝導性シートに比べて、熱伝導率が高かった。