(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明によると、演奏を行っていない期間において消費電力を抑えることができる。しかし、当該発明では、演奏操作器に対して行った操作をトリガとしてスタンバイ状態からの復帰を行うため、復帰時にタイムラグが生じるという問題がある。機器が省電力状態から復帰する場合、電源回路が安定するまでに時間がかかるため、この間に演奏操作が行われても、正常な音声を出力することができない。すなわち、一旦省電力状態となると、直ちに演奏が始められないという課題があった。
【0007】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、省電力状態からの復帰を迅速に開始する電気楽器システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電気楽器システムは、楽器から発せられた音声信号を送信する楽音送信手段と、前記音声信号を受信する楽音受信手段と、を含むシステムである。
楽音送信手段は、電気楽器や電子楽器に接続され、当該楽器から発せられた音声信号を外部に送信する装置である。また、楽音受信手段は、送信された音声信号を受信し、処理する装置である。楽音受信手段は、アンプのように音声信号を増幅する装置であってもよいし、エフェクターのように音声信号に加工を施す装置であってもよい。
楽音送信手段および楽音受信手段は、通常の動作モード(第一のモード)と、より消費電力が小さい動作モード(第二のモード)とを切り替え可能に構成される。演奏を行っていない期間において動作モードを第二のモードに切り替えることで、全体の消費電力を抑えることができる。
【0009】
前記楽音送信手段は、楽器の揺動を検出する検出手段と、前記第一のモードにおいて、前記音声信号を前記楽音受信手段に送信し、前記第二のモードにおいて、前記検出手段が楽器の揺動を検出した場合に、検出情報を前記楽音受信手段に送信する送信手段と、を有する。
また、前記楽音受信手段は、前記音声信号または前記検出情報を受信する受信手段と、前記第一のモードにおいて前記受信した音声信号を処理し、かつ、前記第二のモードにおいて前記検出情報を受信した場合に、前記第二のモードを解除して前記第一のモードへ移行する制御手段と、を有する。
【0010】
このように、楽音送信手段は、第一のモードにある場合に、楽器から発せられた音声信号を送信し、第二のモードにある場合に、楽器の揺動に基づいて、楽音受信手段を第一のモードに移行させるための検出情報を送信する。検出手段によって、楽器の揺動を検知することで、演奏を開始するよりも前のタイミングで楽音受信手段を省電力状態から復帰させることができる。すなわち、省電力状態から復帰した後で直ちに演奏を開始することができるようになる。
【0011】
また、前記検出手段は、前記楽器の揺動を、加速度センサの出力値に基づいて検出することを特徴としてもよい。
【0012】
加速度を検出することで、例えば、「楽器を持ち上げる」「楽器を構える」といった、演奏を行うための予備的な行為を検知することができる。
【0013】
また、前記楽音受信手段は、前記検出情報を受信してから、所定の時間が経過するまでの間、音声をミュートする処理を行うことを特徴としてもよい。
また、前記所定の時間は、少なくとも、一部の電子部品につき、印加電圧を所定値以下まで下げた状態から、所定値以上の状態へ回復するのに必要な時間であることを特徴としてもよい。
【0014】
省電力状態から復帰する際に一時的に音声をミュートすることで、電子部品への電圧の印加に伴って発生するノイズを抑えることができる。
【0015】
また、前記検出情報は、前記楽音送信手段とペアリングされた前記楽音受信手段の識別子を含み、前記制御手段は、受信した検出情報に含まれる前記識別子が自己の識別子と一致した場合に、前記第二のモードを解除して前記第一のモードへ移行することを特徴としてもよい。
【0016】
楽音送信手段が、ペアリング状態にある楽音受信手段(すなわち、省電力状態から復帰させるべき楽音受信手段)の識別子を保持して送信することで、楽音受信手段は、省電力状態から復帰すべきか否かを正確に判定することができる。
【0017】
また、前記楽音送信手段は、前記楽器および楽音受信手段と接続を行うためのフォーンプラグを有し、前記楽音受信手段は、前記楽音送信手段と接続を行うためのフォーンジャックを有し、前記楽音送信手段は、前記楽音受信手段が有するフォーンジャックと接続された場合に、前記楽音受信手段に対して前記ペアリングを要求することを特徴としてもよい。
【0018】
このように、ペアリングは、楽器と楽音送信手段とを接続するための物理的な端子を利用して行ってもよい。かかる構成によると、楽音送信手段を楽器に挿入した場合と、楽音受信手段に挿入した場合とで動作を切り替えることができる。
【0019】
また、前記楽音受信手段は、前記フォーンジャックのRing端子に電圧を印加し、前記楽音送信手段は、前記フォーンプラグのRing端子に印加された電圧に基づいて、前記楽音受信手段との接続を検知することを特徴としてもよい。
また、前記楽音受信手段は、前記フォーンジャックのRing端子に信号を送信し、前記楽音送信手段は、前記フォーンプラグのRing端子から受信した信号に基づいて、前記楽音受信手段との接続を検知することを特徴としてもよい。
【0020】
かかる構成によると、楽音送信手段がRing端子に電圧が印加されているか否か、または、Ring端子によって信号が送信されているか否かを判定することで、楽音受信手段に接続されているか、楽器に接続されているかを判定することができる。すなわち、煩雑な操作を行うことなくペアリングを開始させることができる。
【0021】
また、前記楽音受信手段は、前記要求に応じて、前記Ring端子を介して自己の識別子を送信し、前記楽音送信手段は、前記送信された識別子を、前記ペアリングされた前記楽音受信手段の識別子として記憶することを特徴としてもよい。
【0022】
このように、Ring端子を介して識別子を送信することで、ペアリング先となる楽音送信手段に対して識別子を確実に伝送することができる。なお、識別子の送信には、任意のシリアル通信規格等を用いることができる。
【0023】
また、前記検出情報は、固定された第一の周波数によって無線送信され、前記音声信号は、前記楽音送信手段と前記楽音受信手段とをペアリングした際に決定された第二の周波数によって無線送信されることを特徴としてもよい。
【0024】
第一の周波数は、検出情報の送信のみに用いる固定された周波数とすることができる。これに対し、第二の周波数は、例えば、所定の周波数帯から空きチャネルをスキャンすることで動的に決定される周波数とすることができる。かかる構成によると、検出情報の監視回路を簡素化することができ、省電力状態における消費電力をより抑えることができる。
【0025】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む電気楽器システムとして特定することができる。また、前記電気楽器システムの制御方法として特定することもできる。また、前記制御方法を実行させるためのプログラムとして特定することもできる。上記処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本実施形態に係る電気楽器システムは、電子楽器が出力した音声信号を無線によって送信するトランスミッタ10と、無線送信された音声信号を受信し、増幅して出力するギターアンプ20と、を含んで構成される。
【0028】
図1(A)に、本実施形態に係る電気楽器システムの全体構成図を示す。
トランスミッタ10は、演奏操作器を有する携帯型の電子楽器(本実施形態では電子ギター30)と接続され、当該電子楽器が出力した音声信号を無線によって送信する携帯型の装置(本発明における楽音送信手段)である。
図1(B)は、トランスミッタ10の外観を示した図である。図示したように、トランスミッタ10は、3極の接続端子を有するフォーンプラグによって電子楽器と接続することができる。トランスミッタ10は、電子楽器が有する音声出力端子(フォーンジャック)に挿入された状態で、当該電子楽器から音声信号を取得し、無線によって送信する。なお、本実施形態では、トランスミッタ10が接続される電子楽器は、2極の接続端子(SleeveおよびTip)を有するものを想定する。Ring端子の使用法については後述する。
【0029】
電子ギター30は、複数の弦と、弦の振動を検出するピックアップを有しており、弦の振動をピックアップによって検出し、電気信号(音声信号)に変換して出力する。電子ギター30は、フォーンジャックを介して音声信号をトランスミッタ10に出力する。出力された音声信号は、トランスミッタ10によって変調および無線送信され、ギターアンプ20(本発明における楽音受信手段)によって受信および復調される。ギターアンプ20によって復調された音声信号は増幅され、スピーカから出力される。
【0030】
図2を参照して、トランスミッタ10のハードウェア構成について説明する。
トランスミッタ10は、CPU(中央処理装置)101、ROM102、RAM103、加速度センサ104、接続部105、無線送信部106を有して構成される。これらの手段は、充電式のバッテリ(不図示)から供給される電力によって駆動される。
【0031】
CPU101は、トランスミッタ10が行う制御を司る演算装置である。
ROM102は、書き換え可能な不揮発性メモリである。ROM102には、CPU101において実行される制御プログラムや、当該制御プログラムが利用するデータ(例えば、演奏が停止してから省電力モードに移行するまでの時間等)が記憶される。
RAM103は、CPU101によって実行される制御プログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが展開されるメモリである。ROM102に記憶されたプログラムがRAM103にロードされ、CPU101によって実行されることで、以降に説明する処理が行われる。
なお、
図2に示した構成は一例であり、図示した機能の全部または一部は、専用に設計された回路を用いて実行されてもよい。また、図示した以外の、主記憶装置および補助記憶装置の組み合わせによってプログラムの記憶ないし実行を行ってもよい。
【0032】
加速度センサ104は、X,Y,Z軸方向のそれぞれについて加速度を取得可能な3軸加速度センサである。加速度センサ104によって、トランスミッタ10の揺動や動き、かかる重力、振動、衝撃等を検知することができる。加速度センサ104が出力した値(センサデータ)は、CPU101によって取得される。
【0033】
接続部105は、トランスミッタ10と電子ギター30を物理的に接続するためのインタフェースである。接続部105は、
図1(B)に示した接続端子を有しており、電子ギター30と接続された場合において、電子ギター30から音声信号を取得可能に構成される。なお、接続部105は、後述するギターアンプ20が有する接続部205とも接続可能に構成される。詳細な構成については後述する。
なお、接続部105が有する接続端子の近傍には電源スイッチが配置されており、プラグを挿入することで電源スイッチが押下され、電源が投入される。
【0034】
無線送信部106は、信号を無線によって送信する無線通信インタフェースである。本実施形態では、無線送信部106は、ギターアンプ20に対して、(1)電子ギター30が出力した音声信号と、(2)ギターアンプ20に対する制御信号の二種類の信号を送信する。
上述した各手段は、バスによって通信可能に接続される。
【0035】
トランスミッタ10は、通常の動作モードと、消費電力を抑えた省電力モードのいずれかによって動作可能に構成される。省電力モードで動作している場合、トランスミッタ10は、省電力モードからの復帰判定や、当該判定に基づいてギターアンプ20を省電力モードから復帰させるために必要な最低限の機能を除き、その機能を休止する。
【0036】
次に、
図3を参照して、ギターアンプ20のハードウェア構成について説明する。
ギターアンプ20は、トランスミッタ10から無線によって送信された音声信号を増幅して出力する装置である。ギターアンプ20は、無線受信部201、CPU202、ROM203、RAM204、接続部205、DSP206、D/Aコンバータ207、増幅器208、スピーカ209を有して構成される。これらの手段は、充電式のバッテリ(不図示)から供給される電力によって駆動される。
【0037】
無線受信部201は、トランスミッタ10から送信された信号を受信する無線通信インタフェースである。本実施形態では、無線受信部201は、トランスミッタ10が有する無線送信部106と無線接続され、(1)電子ギター30が出力した音声信号と、(2)トランスミッタ10から送信された制御信号の二種類の信号を受信する。
【0038】
CPU202は、ギターアンプ20が行う制御を司る演算装置である。具体的には、本明細書で説明する処理、および、ギターアンプ本体に設けられた操作子(不図示)のスキャンや、当該操作子によって設定された値の更新等を行う。
ROM203は、書き換え可能な不揮発性メモリである。ROM203には、CPU202において実行される制御プログラムや、当該制御プログラムが利用するデータ(例えば、ギターアンプ20とトランスミッタ10が無線通信を行う際の周波数やチャネルリスト、ギターアンプ20のIDなど)が記憶される。
RAM204は、CPU202によって実行される制御プログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが展開されるメモリである。ROM203に記憶されたプログラムがRAM204にロードされ、CPU202によって実行されることで、以降に説明する処理が行われる。
なお、
図3に示した構成は一例であり、図示した機能の全部または一部は、専用に設計された回路を用いて実行されてもよい。また、図示した以外の、主記憶装置および補助記憶装置の組み合わせによってプログラムの記憶ないし実行を行ってもよい。
【0039】
接続部205は、ギターアンプ20とトランスミッタ10とを物理的に接続するためのインタフェースである。接続部205は、
図1(B)に示した接続端子を挿入可能なフォーンジャックを有している。接続部205が有するフォーンジャックにトランスミッタ10を挿入することで、トランスミッタ10とギターアンプ20との間で、互いを紐付けるための情報交換(以降、ペアリングと称する)が行われる。
【0040】
なお、接続部205が有するフォーンジャックは3極の接続端子を有しており、Ring端子に所定の電圧(例えば5V)が印加されている。当該電圧を検出することで、トランスミッタ10は、接続先がギターアンプ20であるか、電子ギター30であるかを判別することができる。また、当該電圧を利用して、トランスミッタ10は内蔵されたバッテリーの充電を行うことができる。
【0041】
DSP206は、デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサである。本実施形態では、DSP206は、CPU202の制御下で、音声信号の処理に特化した処理を行う。具体的には、無線受信部201を介して取得した信号をデコードして音声信号を取得し、必要に応じて効果の付与などを行う。
DSP206から出力された音声信号は、D/Aコンバータ207によってアナログ信号に変換され、増幅器208によって増幅された後、スピーカ209から出力される。
【0042】
ギターアンプ20も、通常の動作モードと、消費電力を抑えた省電力モードのいずれかによって動作可能に構成される。省電力モードで動作している場合、ギターアンプ20は、トランスミッタ10から送信された制御信号に基づいて省電力モードからの復帰を行うために必要な最低限の機能を除き、その機能を休止する。省電力モードでは、待機時に必要のないハードウェア(例えば、DSP206やD/Aコンバータ207、増幅器208等)の電源が遮断される。
【0043】
図4は、トランスミッタ10(CPU101)によって実行される処理を機能ブロックによって表した図である。なお、モードの説明については後述する。
【0044】
加速度検出部111は、加速度センサ104から得たセンサデータに基づいて、X,Y,Z軸方向のそれぞれについて加速度を取得する。取得した加速度は、後述するモード管理部114および制御信号送信部113へ送信される。
音声信号送信部112は、演奏モードにおいて、接続部105を介して電子ギター30から音声信号を取得し、取得した音声信号を、無線送信部106を介してギターアンプ20へ無線送信する。
制御信号送信部113は、加速度検出部111が取得した加速度に基づいて、ウェイクアップ信号を生成し、無線送信部106を介してギターアンプ20へ無線送信する。
モード管理部114は、加速度検出部111が取得した加速度に基づいて、演奏モードとスタンバイモードを切り替える。また、ギターアンプ20との接続を監視し、演奏モードとペアリングモードを切り替える。
ペアリング部115は、ペアリングモードにおいて、ギターアンプ20との間でペアリングを行うための情報を交換する。
【0045】
図5は、ギターアンプ20(CPU202)によって実行される処理を機能ブロックによって表した図である。
音声信号受信部211は、演奏モードにおいて、トランスミッタ10から送信された音声信号を、無線受信部201を介して受信する。受信した音声信号はDSP206へ送信される。
制御信号受信部212は、スタンバイモードにおいて、トランスミッタ10から送信されたウェイクアップ信号を、無線受信部201を介して受信する。
モード管理部213は、受信したウェイクアップ信号に基づいて、演奏モードとスタンバイモードを切り替える。また、トランスミッタ10との接続を監視し、演奏モードとペアリングモードを切り替える。また、自装置のモードに応じて、装置の電源制御を行う。
ペアリング部214は、ペアリングモードにおいて、トランスミッタ10との間でペアリングを行うための情報を交換する。
【0046】
次に、ギターアンプ20およびトランスミッタ10が行う処理の詳細について説明する。
ギターアンプ20およびトランスミッタ10は、ペアリングを行うためのモード(ペアリングモード)と、演奏を行うためのモード(演奏モード)と、省電力モード(スタンバイモード)の三つの状態に遷移可能に構成される。
【0047】
ここではまず、ペアリングモードについて説明する。電子ギター30とギターアンプ20を連携させるためには、ギターアンプ20と、電子ギター30に挿入されるトランスミッタ10とをペアリングする必要がある。本実施形態では、トランスミッタ10が有するフォーンプラグを、ギターアンプ20が有するフォーンジャックに挿入することで、トランスミッタ10およびギターアンプ20がそれぞれペアリングモードに切り替わる。
【0048】
図6は、トランスミッタ10とギターアンプ20がそれぞれ行う処理のフローチャート図である。なお、以下の説明において、トランスミッタ10が行う処理の実行主体はCPU101であり、ギターアンプ20が行う処理の実行主体はCPU202である。
【0049】
まず、ギターアンプ20が行う処理について説明する。
ステップS11Aにて、ギターアンプ20が、接続部205が有するフォーンジャックにプラグ(フォーンプラグ)が挿入されているか否かを取得する。フォーンジャックにプラグが挿入されているか否かは、電気的に検出することができる。この結果、プラグが挿入されていると判定された場合、ペアリングモードへ移行し、挿入されていないと判定された場合、演奏モードへ移行する(ステップS12A)。
【0050】
次に、トランスミッタ10が行う処理について説明する。
ステップS11Bにて、トランスミッタ10が、接続部105が有するフォーンプラグのRing端子に印加されている電圧を取得する。ここで、Ring端子に所定の電圧が印加されている場合、ギターアンプ20に挿入されていると判定し、ペアリングモードへ移行する。電圧が印加されていない場合、電子ギター30に挿入されていると判定し、演奏モードへ移行する(ステップS12B)。なお、電子ギター30をはじめとする電子楽器は、Ring端子自体が存在しないため、トランスミッタ10が電子楽器に挿入されている場合、電圧は常に0Vとなる。
【0051】
次に、ペアリングモードにおける処理フローについて、
図7を参照して説明する。
ペアリングモードが開始されると、ギターアンプ20が、無線受信部201の受信周波数を第一の周波数に変更する(ステップS21A)。本実施形態において、第一の周波数とは、音声信号以外の制御信号を送受信するための制御用の周波数である。
同様に、トランスミッタ10が、無線送信部106の送信周波数を第一の周波数に変更する(ステップS21B)。
第一の周波数は固定であり、ROM102およびROM203に予め記憶されている。
【0052】
次に、トランスミッタ10が、ペアリングを要求する制御信号(ペアリング要求)を、第一の周波数を用いてギターアンプ20に送信する(ステップS22A)。ギターアンプ20は、ペアリング要求を受信するまで待機する(ステップS22B)。
【0053】
ギターアンプ20は、ペアリング要求を受信すると、無線受信部201を用いて所定の周波数帯に設定された複数のチャネルをスキャンして空きチャネルを検出し、当該空きチャネルの周波数を、第二の周波数としてRAM204に一時的に記憶する(ステップS23)。本実施形態において、第二の周波数とは、音声信号を送信するための周波数である。第二の周波数は可変であり、ペアリングを行った際に、複数の所定のチャネルの中からギターアンプ20によって選択される。なお、スキャンを行う対象のチャネルは、予めROM203に記憶されている。複数のチャネルの中から空きチャネルを検出することで、トランスミッタ10とギターアンプ20の組が複数ある場合であっても混線を防ぐことができる。
【0054】
なお、ステップS23で行った第二の周波数の決定は、ペアリング要求を受信する前のタイミングで開始してもよい。この場合、第二の周波数を決定するためのスキャン中にペアリング要求が受信されうるため、混信が生ずるおそれがある。これを避けるためには、スキャンの対象である周波数帯と第一の周波数を十分離すか、スキャン結果に対して第一の周波数の影響を補正する等の対応を行うことが好ましい。
【0055】
次に、ギターアンプ20が、Ring端子への電圧の印加を停止し、シリアル通信路のセットアップを行う(ステップS24A)。同様に、トランスミッタ10も、シリアル通信路のセットアップを行う(ステップS24B)。
本ステップ以降において、トランスミッタ10およびギターアンプ20は、Ring端子およびSleeve端子を信号線とするI2C通信を行うことでペアリングに必要な情報の交換を行う。なお、本実施形態では、シリアル通信規格としてI2Cを利用するが、SPIやUART等を利用してもよい。
【0056】
シリアル通信路が形成されると、ギターアンプ20が、当該シリアル通信路を介して、ペアリング要求に対する応答として、自装置のID(ギターアンプの個体ごとに一意な識別子)と、決定した第二の周波数をトランスミッタ10に送信する(ステップS25A)。
なお、ステップS25Aでは、送信したデータをトランスミッタ10が受信するまで繰り返しリトライが実行される。
トランスミッタ10は、当該情報がギターアンプ20から送信されるまで待機する(ステップS25B)。トランスミッタ10が、ペアリング要求に対する応答を受信すると、送信されたギターアンプ20のIDと第二の周波数をRAM103に記憶し(ステップS26)、その後、ペアリングが完了した旨の信号をギターアンプ20へ送信する(ステップS27B)。ギターアンプ20は、当該信号がトランスミッタ10から送信されるまで待機し(ステップS27A)、その後、第二の周波数を記憶する(ステップS28)。
【0057】
以上に説明した処理によって、ギターアンプ20とトランスミッタ10のペアリングが完了する。ペアリングが完了すると、音声信号を送受信するための第二の周波数が、ギターアンプ20とトランスミッタ10によって共有された状態となる。また、トランスミッタ10が、対応するギターアンプ20のIDを取得した状態となる。
ペアリングが完了すると、ギターアンプ20とトランスミッタ10は、シリアル接続を切断し、初期状態に移行する。
【0058】
次に、演奏モードにおける処理フローについて、
図8を参照して説明する。
演奏モードが開始されると、ギターアンプ20が、無線受信部201の受信周波数を第二の周波数に設定する(ステップS31A)。また、トランスミッタ10が、無線送信部106の送信周波数を第二の周波数に設定する(ステップS31B)。
次いで、トランスミッタ10が、電子ギター30から入力された音声信号を変調し、第二の周波数で送信する(ステップS32B)。送信された信号はギターアンプ20によって受信され、復調される。復調された音声信号は増幅され、スピーカから出力される(ステップS32A)。
なお、ステップS32Aでは、送信されたパケットが所定のフォーマットであるか判定を行い、正当なものである場合に限って処理を進めるようにしてもよい。
【0059】
次に、ギターアンプ20とトランスミッタ10のそれぞれが、スタンバイモードへ移行するか否かを判定する。
ステップS33Aでは、ギターアンプ20が、連続して使用されていない時間を計測し、計測した時間が所定の値を越えた場合に、スタンバイ条件を充足したと判定する。例えば、音声信号を受信していない(および、本体操作が行われていない)場合に、所定の時間ごとにカウントアップし、かつ、音声信号を受信した(および、本体操作が行われた)タイミングでクリアされるカウンタを用い、当該カウンタが所定の値を越えた場合に、スタンバイ条件を充足したと判定する。なお、所定の値は、ROM203に記憶されていてもよいし、ユーザ入力に基づいて設定してもよい。
【0060】
ステップS33Aにおいてスタンバイ条件が充足された場合、ギターアンプ20は、スタンバイモードへの移行を行う。具体的には、無線受信部201の受信周波数を第一の周波数に切り替え、ウェイクアップ信号の受信に必要な機能(本体操作が行われたことを判定する機能を含む)以外の機能を停止する。これにより、CPU202の実行が低電力モードに切り替わり、不要なハードウェアブロックへの給電が停止する。
【0061】
ステップS33Bでは、トランスミッタ10が、電子ギター30が連続して使用されていない時間を計測し、計測した時間が所定の値(例えば、5分、30分など)を越えた場合に、スタンバイ条件を充足したと判定する。電子ギター30が使用されていないことは、例えば、加速度センサ104が検出した加速度に基づいて判定することができる。
【0062】
例えば、加速度センサ104が出力した加速度を軸ごとに時系列で取得し、軸ごとに得られた加速度の差分値の自乗和を求めたうえで、当該自乗和が閾値を超えた場合に、電子ギター30が使用されていると判定してもよい。判定に用いる閾値は、例えば、重力加速度に基づいた値とすることができる。かかる構成によると、電子ギター30が静止状態(使用および演奏されていない状態)にあるか否かを判定することができる。
【0063】
例えば、自乗和が閾値を超えていない場合に所定の時間ごとにカウントアップし、自乗和が閾値を超えたタイミングでクリアされるカウンタを用い、当該カウンタが所定の値を越えた場合に、スタンバイ条件を充足したと判定してもよい。なお、本例では加速度センサ104の出力を利用したが、ギターアンプ20と同様に、音声信号を受信していない時間をカウントしてもよい。なお、所定の値は、ROM102に記憶されていてもよいし、ユーザ入力に基づいて設定してもよい。
【0064】
ステップS33Bにおいてスタンバイ条件が充足された場合、トランスミッタ10は、スタンバイモードへの移行を行う。具体的には、無線送信部106の送信周波数を第一の周波数に切り替え、スタンバイモードからの復帰判定に必要な機能以外の機能を停止する。これにより、CPU101の実行が低電力モードに切り替わり、不要なハードウェアブロックへの給電が停止する。
【0065】
ステップS33AおよびS33Bにてスタンバイ条件が充足されなかった場合、処理はステップS32A(S32B)に遷移し、音声信号の伝送が継続される。なお、本例では音声信号の伝送を継続したが、例えば、トランスミッタ10が電子ギター30から抜去された場合など、演奏が継続していないことが明らかな場合、モードを初期状態に戻すようにしてもよい。
【0066】
次に、スタンバイモードにおける処理フローについて、
図9を参照して説明する。
まず、トランスミッタ10の処理について説明する。
スタンバイモードにおいて、トランスミッタ10は、加速度センサ104の出力値を周期的に取得し(ステップS51)、当該出力値に基づいて揺動が発生したことを検知する(ステップS52)。これにより、電子ギター30の使用が再開されたか否かを判定する。
【0067】
本ステップでは、例えば、加速度センサ104が出力した軸ごとの加速度を取得し、取得した加速度を、当該軸ごとに設定された閾値と比較した結果に基づいて、使用再開を判定することができる。より具体的には、加速度センサ104が取得した軸ごとの加速度が、当該軸ごとに設定された閾値を下回る状態から上回る状態に変化した場合、または、閾値を上回る状態から下回る状態に変化した場合に、使用が再開されたと判定してもよい。
使用再開を判定するための閾値は、固定値であってもよいし、スタンバイモードに移行する直前に検出された加速度に基づいて設定された値であってもよい。
【0068】
また、電子ギター30の使用再開は、加速度の変化に基づいて判定してもよい。例えば、加速度センサ104が出力した加速度を軸ごとに時系列で取得し、軸ごとに得られた加速度(または加速度の合計)の変化が所定値以上である場合に、電子ギター30の使用が再開されたと判定してもよい。
【0069】
電子ギター30の使用が再開されたと判定された場合、トランスミッタ10は、第一の周波数を用いて、ウェイクアップ信号として、RAM103に記憶されている(すなわち、ペアリングされている)ギターアンプ20のIDを送信する(ステップS53)。
なお、本ステップでは、必ずしもギターアンプ20からの応答を待つ必要はない。例えば、所定の期間(例えば1秒間)において、ウェイクアップ信号を複数回送信したのちに処理を進めるようにしてもよい。
【0070】
次に、スタンバイモードにおいてギターアンプ20が行う処理について説明する。
スタンバイモードにおいて、ギターアンプ20は、第一の周波数によって送信される制御信号を監視し(ステップS41)、自装置のIDを含むウェイクアップ信号を受信したか否かを判定する(ステップS42)。ここで、自装置のIDを含むウェイクアップ信号を受信した場合、スタンバイモードからの復帰処理を行う(ステップS43)。また、無線受信部201の受信周波数を第二の周波数に変更する(ステップS44)。
【0071】
ステップS43では、電源が遮断されていたハードウェアに対して電源の再供給が行われるため、比較的大きなノイズが発生し、スピーカを介して出力されてしまうおそれがある。そこで、状態が完全に復帰するまで、増幅器208に対してミュートをかけるようにしてもよい。例えば、スタンバイモードの復帰処理を開始したタイミングでミュート処理を行い、電源の供給が安定したのちにミュートを解除するようにしてもよい。
例えば、電源波形が安定すること、コンデンサの充電が完了すること、音声バッファのクリアが完了すること、ユーザ設定値の再設定が完了すること等を、ミュート解除の条件にしてもよい。
【0072】
図10は、増幅器208に対してミュート制御を行うための回路を示した図である。
スタンバイモードからの復帰処理開始に先立って、CPUが予めポート2を制御し、SW2を開放しておく。
スタンバイモードからの復帰処理が開始されると、CPUがポート1を制御してSW1を投入し、増幅器208の周辺回路への電源供給を開始させる。また同時に、不図示のタイマを動作させ、時刻のカウントを開始する。
電源端子Vccへの電圧が上昇する間、増幅器208のMute端子へはVcc端子と同じ電圧が印加されるため、増幅器208の音声出力はミュート状態となる。
その後、CPUが、定められた時間(電源端子Vccへの印加電圧が十分に安定するまでの時間)が経過したことを検知すると、ポート2を介してSW2を投入する。これにより、Mute端子がLowとなり、増幅器208のミュート状態が解除される。すなわち、増幅器208へ入力された音声を、接続されたスピーカから発音させる状態にすることができる。
【0073】
スタンバイモードからの復帰は、トランスミッタ10においても同時に行われる(ステップS54)。トランスミッタ10は、スタンバイモードから復帰する際に、無線送信部106の送信周波数を第二の周波数に変更する(ステップS55)。これにより、第二の周波数を介した音声信号の送受信が再開できるようになる。
なお、ステップS55を実行してから初期状態へ戻るまでの間にウェイトを挿入してもよい。これにより、例えば、ギターアンプ20がスタンバイモードから復帰するのに必要な時間だけ待機してから音声信号の送信を開始するといったことが可能になる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る電気楽器システムでは、トランスミッタ10が検出した加速度に基づいて、演奏が再開されることを予測し、トランスミッタ10およびギターアンプ20をスタンバイモードから復帰させる。特に、楽器を持ち上げる、楽器を構えるといった演奏予備行為が行われると、楽器本体が揺動するため、トランスミッタ10が当該揺動を検出してスタンバイモードからの復帰を開始させる。これにより、すぐに演奏を再開させることが可能になる。
【0075】
また、固定された周波数を用いてウェイクアップ信号を送信するため、スタンバイモードにおいて利用する回路を単純化することができ、消費電力をより抑えることができる。
【0076】
さらに、トランスミッタ10と電子楽器を接続する際に用いるフォーンプラグを利用してトランスミッタ10とギターアンプ20を接続するため、簡便な操作でペアリングを行うことができる。特に、Ring端子に電圧を印加することで、トランスミッタへ10が接続先を判別できるようになり、さらに、トランスミッタ10の充電を同時に行うことも可能になる。
【0077】
(変形例)
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。
例えば、実施形態の説明では、楽音受信手段としてギターアンプを例示したが、これ以外の装置を接続してもよい。例えば、エフェクターなどを組み合わせることも可能である。
また、実施形態の説明では、トランスミッタとギターアンプが無線接続される形態を例示したが、接続は有線によるものであってもよい。
また、実施形態の説明では、楽器の揺動を検知するための手段として加速度センサを用いたが、楽器の揺動を検知することができれば、これ以外の手段(例えば、距離センサやジャイロセンサ、他の物理量を取得するセンサ等)を用いてもよい。