(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性樹脂部材における、前記熱可塑性エラストマーの含有量が50質量%以上99質量%以下であり、前記酸変性ポリマーの含有量が1質量%以上50質量%以下である請求項5に記載の複合構造体。
前記熱可塑性エラストマーに占める、前記ウレタン系熱可塑性エラストマーの含有量が70質量%以上100質量%未満であり、前記アミド系熱可塑性エラストマーの含有量が0質量%超え30質量%以下である請求項8または9に記載の複合構造体。
前記熱可塑性樹脂部材が酸変性ポリマーをさらに含み、前記熱可塑性樹脂部材中の前記酸変性ポリマーの含有量が前記ウレタン系熱可塑性エラストマーと前記アミド系熱可塑性エラストマーの合計100質量部に対して1質量部以上35質量部以下である請求項8乃至10のいずれか一項に記載の複合構造体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る複合構造体を構成する各構成要素およびその調製方法、さらに、複合構造体の特徴について説明する。なお、文中の数字の間にある「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0016】
本実施形態に係る複合構造体は、金属部材と、上記金属部材に接合された熱可塑性樹脂部材と、を備える複合構造体であって、上記金属部材は少なくとも上記熱可塑性樹脂部材が接合する金属表面に微細凹凸構造を有し、JIS K6253に準拠してタイプAデュロメーターにより測定される、上記熱可塑性樹脂部材の硬度がA60以上A95以下の範囲にあり、上記熱可塑性樹脂部材の酸価が1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。
本実施形態によれば、金属部材が少なくとも熱可塑性樹脂部材と接合する金属表面に微細凹凸構造を有し、さらに熱可塑性樹脂部材の硬度および酸価が上記範囲を満たすことによって、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度に優れた複合構造体を実現することができる。
また、本実施形態に係る複合構造体は、接合強度に見合った弾性と耐酸性の両者に優れることから、複合構造体を各種のパッキン材として好適に用いることもできる。さらに本実施形態に係る複合構造体は、酸性雰囲気化で処理したとしても樹脂の崩壊を最小限に抑えられるという特徴を持つ場合がある。
【0017】
この理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。まず、熱可塑性樹脂部材の硬度が上記上限値以下であることによって、熱可塑性樹脂部材の硬さが適度となり、金属部材表面に形成された微細凹凸構造内に熱可塑性樹脂部材が侵入しやすくなり、また熱可塑性樹脂部材の硬度が上記下限値以上であることによって、微細凹凸構造内に侵入した熱可塑性樹脂部材の機械的強度を向上できると考えられる。すなわち、熱可塑性樹脂部材の硬度が上記範囲内であることにより、微細凹凸構造内への熱可塑性樹脂部材の侵入量と、熱可塑性樹脂部材の強度とのバランスが適度となり、金属部材と熱可塑性樹脂部材とのアンカー効果が最適化され、接合強度を向上できると考えられる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂部材の酸価が上記範囲内であることによって、上記アンカー効果に
よる物理的な接合力に加え、樹脂部材が含有する酸基と金属部材との間にイオン的な相互作用が発生する結果、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度を向上できると考えられる。
以上のような相互作用によって、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度に優れた複合構造体を実現することができると考えられる。
すなわち、本実施形態によれば、金属部材と熱可塑性樹脂部材とが、接着剤を用いることなく直接、強固に接合された複合構造体を得ることができる。このような複合構造体の応用例としては、一方の金属製片割れ(第1金属部材)の周縁部に熱可塑性樹脂部材からなるパッキンが接合した複合構造体に対して、他方の金属製片割れ(第2金属部材)を上記パッキンを介して押圧一体化して外郭が形成された電子機器用筐体が挙げられる。
このような電子機器用筐体は、金属部材に対するパッキンの接合性に優れ、また第1金属部材に溝を形成させた後、この溝にパッキン装着する作業が省かれるため、従来技術のようなパッキン装着作業時の煩雑さを低減することができる。
【0019】
<金属部材>
〔金属部材の金属種〕
本実施形態において、上記金属部材を構成する金属の種類としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンおよびチタン合金からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのうち、より好ましくは鉄、ステンレス、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金であり、さらに好ましくはステンレス、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金である。
【0020】
上記金属部材は、金属材料を切断、プレス等による塑性加工;打ち抜き加工;切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって所定の形状に加工された後に、後述の表面粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0021】
〔金属部材表面の微細凹凸構造〕
本実施形態に係る金属部材は、少なくとも熱可塑性樹脂部材が接合する金属表面に微細凹凸構造をする。
【0022】
本実施形態に係る金属部材において、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度をより一層向上させる観点から、JIS B0601:2001に準拠して測定される、上記微細凹凸構造が形成された上記金属表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RS
m)が好ましくは10nm〜500μm、より好ましくは30nm〜200μm、特に好ましくは50nm〜150μmである。
また、本実施形態に係る金属部材において、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度をより一層向上させる観点から、JIS B0601:2001に準拠して測定される、上記微細凹凸構造が形成された上記金属表面の十点平均粗さ(R
zjis)が好ましくは10nm〜300μm、より好ましくは10nm〜100μm、さらに好ましくは30nm〜50μm、特に好ましくは50nm〜30μmである。
【0023】
以下、金属部材表面の粗化処理の工程について説明する。
金属部材表面に微細凹凸構造を付与する方法は、得られる微細凹凸構造の形状から大別して以下の3種類の方法がある。
【0024】
第一の方法は侵食性水溶液または侵食性懸濁液に金属部材を浸漬する方法である。この方法で得られた金属部材は、電子顕微鏡で観察すると、表面が無数の凹凸部で覆われた形となっており、例えば、凹凸部の粗さ曲線要素の平均長さ(RS
m)は10nm〜300μm、十点平均粗さ(R
zjis)は10nm〜30μmである。
第二の方法は陽極酸化法によって金属部材を粗化処理する方法である。この方法で得られた金属部材は、表面は主として金属酸化物層となっており、しかもその表面層は、例えば、無数の数平均内径10〜200nmの開口部で覆われている。
第三の方法は、例えばダイヤモンド砥粒研削またはブラスト加工等の機械的切削によって作製した凹凸を有する金型パンチをプレスすることにより金属部材表面に凹凸を形成する方法や、サンドブラスト、ローレット加工、レーザー加工等により金属部材表面に凹凸形状を作製する方法である。この方法で得られた金属部材表面の凹部の幅は、例えば1〜100μmである。
【0025】
これらのうち、第一の方法である侵食性水溶液または侵食性懸濁液に金属を浸漬して得たものが、金属材料を広範囲にわたってまとめて処理することができることから好ましい。
【0026】
微細凹凸構造を形成する方法としては、NaOH等の無機塩基水溶液および/または塩酸、硝酸等の無機酸水溶液に金属部材を浸漬する方法;陽極酸化法により金属部材を処理する方法、国際公開第2009/31632号パンフレットに開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属部材を浸漬する方法;特許5129903号に記載されているように金属部材(マグネシウム合金)をクエン酸に浸漬させたのち過マンガン酸カリウム水溶液で処理する方法等が挙げられる。これらの方法は、使用する金属部材の金属種や、凹凸形状によって適宜使い分けて採用される。
【0027】
<熱可塑性樹脂部材>
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材は、JIS K6253に準拠してタイプAデュロメーターにより測定される、硬度(以下、タイプAデュロメーター硬度とも呼ぶ。)がA60〜A95の範囲にあり、且つ熱可塑性樹脂部材の酸価が1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の範囲にあることを特徴としている。
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材のタイプAデュロメーター硬度は、A60〜A95であり、好ましくはA65〜A90、より好ましくはA70〜A85の範囲にある。デュロメーター硬度が上記範囲を満たすことにより熱可塑性樹脂部材の反発応力による十分なシール機能が確保される。なお、タイプAデュロメーター硬度とは、押し込み硬さの一種であり、ゴムやエラストマーで多く使用される測定法であり、測定手順等はJIS K6253に詳細に規定されている。
【0028】
上記熱可塑性樹脂部材はカルボン酸基および/又は酸無水物基を含むことが好ましく、その酸価は、1mgKOH/g〜100mgKOH/gであり、好ましくは1mgKOH/g〜85mgKOH/g、より好ましくは2mgKOH/g〜85mgKOH/g、さらに好ましくは2mgKOH/g〜70mgKOH/g、よりさらに好ましくは2mgKOH/g〜50mgKOH/g、特に好ましくは2mgKOH/g〜30mgKOH/gの範囲にある。なお本実施形態においては、カルボン酸基および/又は酸無水物基は、ポリマー鎖中に化学結合している。
酸価が上記下限値以上であることによって、樹脂部材と金属部材との間の十分な接合強度が担保され、酸価が上記上限値以下であることによって樹脂部材の濁りの発生を抑制できる。例えば、樹脂部材からなるパッキン類をカラリングして意匠性を持たせるためには樹脂は透明に近いことが望ましく、樹脂の濁りは好ましくない。
【0029】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材は、複合体を後述する射出成型法によって製造する際に、金属部材上に射出される熱可塑性樹脂組成物に基本的に同義である。したがって、上記デュロメーター硬度特性と酸価を共に満たす熱可塑性樹脂部材を得ようとする場合は、このようなデュロメーター硬度特性と酸価を備えた熱可塑性樹脂組成物を調製することにより準備すればよい。
【0030】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば熱可塑性樹脂に対して、アクリル酸、メタクリル酸のような不飽和カルボン酸、無水マレイン酸のような酸無水物をグラフト重合させる方法;アクリル酸やメタクリル酸の共存下で熱可塑性樹脂を製造する方法;熱可塑性樹脂に対して、カルボン酸基および/又は酸無水物基を含有する、いわゆる「酸変性ポリマー」をブレンドして上記硬度範囲と酸価範囲を満たすものを調製する方法を挙げることができる。
熱可塑性樹脂がポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の極性基含有ポリマーの場合は、一般的にはカルボン酸基および/又は酸無水物基の化学的導入が反応操作的に難しい、ないし不可能な場合も多いので、通常はブレンド法、すなわち、特定の熱可塑性樹脂を母樹脂として選び、これに酸変性ポリマーを物理ブレンド乃至アロイ化する方法が好ましく採用される。
【0031】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材は、好ましくは熱可塑性エラストマー(以下、TPEと略す場合がある)を含み、より好ましくは熱可塑性エラストマーおよび酸変性ポリマーを含む。これにより、金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度により一層優れた複合構造体を実現することができる。
この理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。まず、熱可塑性樹脂部材に占める熱可塑性エラストマーを構成する、ポリエーテル構造等のソフトセグメント骨格の分子運動がハードセグメントによって局所的に物理拘束されることによって発現する適度な弾性機能が、金属部材表面に形成された微細凹凸構造内への侵入を最適化し、微細凹凸構造内に侵入した熱可塑性樹脂部材の機械的強度の向上に資すると考えられる。すなわち、熱可塑性樹脂部材が、ハードセグメントとソフトセグメントから成る熱可塑性エラストマーを含むことによって、微細凹凸構造内への熱可塑性樹脂部材の侵入量と、熱可塑性樹脂部材の強度とのバランスが最適化されて接合強度の向上をもたらしたと考えられる。
【0032】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材における熱可塑性エラストマーの含有量は50質量%以上であることが好ましい。
また、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材が酸変性ポリマーを含む場合、熱可塑性樹脂部材における、熱可塑性エラストマーの含有量が50質量%以上99質量%以下であり、酸変性ポリマーの含有量が1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、熱可塑性樹脂部材における、熱可塑性エラストマーの含有量が60質量%以上95質量%以下であり、酸変性ポリマーの含有量が5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。ここで、熱可塑性樹脂部材に含まれる熱可塑性エラストマーおよび酸変性ポリマーの合計を100質量%とする。
なお、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材は、その他の添加剤を含んでいてもよく、このような任意添加剤としては、例えば、有機着色剤、無機顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等を挙げることができる。
【0033】
本実施形態に係るTPEとは、ゴムのように加硫をする必要のない弾性体材料で一般にハード成分(硬く剛直な成分)とソフト成分(軟らかくフレキシブルな成分)から構成された材料である。TPEには多くの種類があり、本実施形態で使用されるTPEとしては、例えば、オレフィン系TPE、スチレン系TPE、ポリエステル系TPE、ウレタン系TPEおよびアミド系TPE等を挙げることができる。これらのTPEの中でも接着強度、シール特性、耐酸性、接合面の気密性およびパッキンとしての柔軟性や反発特性の視点から、ウレタン系TPE(以下、熱可塑性ポリウレタン(TPU)と呼ぶ場合がある。)を含むことが好ましく、TPUおよびアミド系TPE(以下、熱可塑性ポリアミド(TPAE)と呼ぶ場合がある。)を共に含むTPEがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材が、TPUおよびTPAEを含んでなる場合、上記熱可塑性樹脂部材中の上記TPUおよび上記TPAEの合計含有量は、例えば60質量%以上100質量%以下、好ましく65質量%以上95質量%以下、より好ましくは70質量%以上95質量%以下である。熱可塑性樹脂部材中に占めるTPUおよびTPAEの合計含有量が60質量%以上であることによって、パッキン等の封止材料に求められる弾性機能を良好にすることができるため好ましい。
【0035】
本実施形態においては、TPEに占めるTPUの含有量は、例えば70質量%以上100質量%未満、好ましくは70質量%以上99質量%以下、より好ましくは75質量%以上98質量%以下であり、上記TPAEの含有量は例えば0質量%超え30質量%以下、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは2質量%以上25質量%以下である。TPEに占めるTPUの含有量を上記下限値以上とすることで、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材の耐酸性を確保でき、またTPEに占めるTPAEの含有量を上記範囲にすることによって、熱可塑性樹脂部材の弾性を向上させるとともに、熱可塑性樹脂部材の微分散化も促進するので金属との接合強度向上、熱可塑性樹脂部材の溶融流動性向上による成形性改善も可能となる。
【0036】
TPUは、例えば、ジイソシアナートと短鎖グリコール(鎖延長剤)からなるハードセグメントと、数平均分子量が1000〜4000程度のポリマーグリコールを主体とするソフトセグメントから構成されるマルチブロックポリマーである。
ジイソシアナートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)に代表される芳香族イソシアナート等が挙げられる。耐候性を要求される用途では、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)等の脂肪族イソシアナート等も適宜用いられる。
短鎖グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンタルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビスヒドロキシエチルハイドロキノン、及びそれらの混合物等が挙げられる。
ポリマーグリコールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)に代表されるポリエーテルポリオール、アジピン酸と脂肪族または芳香族グリコールとの縮合系であるポリエステルポリオール、ε−カプロラクトンを開環重合したポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0037】
ジイソシアナート成分、短鎖グリコールおよびポリマーグリコールとしてどのような成分を用いるかによって、TPUはエーテル系、アジペートエステル系、カプロラクトン系、カーボネート系等に分類されているが、本実施形態において、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材のタイプAデュロメーター硬度がA60〜A95の範囲を満たす限り、上記したTPUを制限なく使用することができる。本実施形態に係る複合構造体を酸性雰囲気下に晒す場合はエーテル系TPUまたはエステル系TPUが好んで用いられ、エーテル系TPUがより好ましく用いられる。
【0038】
種々のTPUが多くの企業から様々の商標名で市販されており、例えば、大日精化工業社のRESAMINE P(商標)、DICコベストロポリマー社のPANDEX(商標)、東ソー社のミラクトラン(商標)、ダウケミカル社のPELLETHANE(商標)、B.F.グッドリッチ社のESTANE(商標)、及びバイエル社のDESMOPAN(商標)等が市販されている。これらの市販品を制限なく使用することができる。
【0039】
TPAEとは、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料であって、ハードセグメントを構成するポリマーの主鎖にアミド結合(−CONH−)を有するものを意味する。TPAEとしては、例えば、JIS K6418:2007に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー等や、特開2004−346273号公報に記載のポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。
【0040】
上記TPAEとしては、例えば、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステルまたはポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。また、TPAEはハードセグメントおよびソフトセグメントの他に、ジカルボン酸等の鎖長延長剤を用いてもよい。上記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、例えば、ω−アミノカルボン酸やラクタムによって生成されるポリアミドを挙げることができる。
【0041】
上記ω−アミノカルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等の炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、例えば、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω−エナントラクタム、2−ピロリドン等の炭素数5〜20の脂肪族ラクタム等を挙げることができる。
上記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタムまたはウデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドを好ましく用いることができる。
【0042】
また、上記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテルが挙げられ、上記ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアニモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができる。
【0043】
上記ハードセグメントと上記ソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、が好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが特に好ましい。
【0044】
上記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリアミド)の数平均分子量としては、溶融成形性の観点から、300〜15000が好ましい。また、上記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性および低温柔軟性の観点から、200〜6000が好ましい。更に、上記ハードセグメント(x)およびソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50〜90:10が好ましく、50:50〜80:20が更に好ましい。
【0045】
上記TPAEは、上記ハードセグメントを形成するポリマーおよびソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0046】
上記TPAEとしては、例えば、アルケマ社のペバックス33シリーズ(例えば、7233、7033、6333、5533、4033、MX1205、3533、2533)、宇部興産(株)の「UBESTA XPA」シリーズ(例えば、XPA9063X1、XPA9055X1、XPA9048X2、XPA9048X1、XPA9040X1、XPA9040X2等)、ダイセル・エポニック(株)の「ベスタミド」シリーズ(例えば、E40−S3、E47−S1、E47−S3、E55−S1、E55−S3、EX9200、E50−R2)等を用いることができる。
【0047】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材は、酸変性ポリマーをさらに含む。本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材中の酸変性ポリマーの含有量は、上記TPUと上記TPAEの合計100質量部に対して好ましくは1質量部以上35質量部以下、より好ましくは3質量部以上30質量%以下、さらに好ましくは5質量部以上25質量%以下である。
本発明者らは、後述する実施例においても触れるように、酸変性ポリマーを上記下限値以上含有させることによって、熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性が向上することを確認している。例えば、本実施形態に係る複合構造体を射出成形で製造する場合、スプルー、ランナー、ゲートを経由してキャビティ内に流入した溶融樹脂組成物は、キャビティ内を移動してキャビティ内に充満する。この過程で溶融樹脂組成物の温度降下があったとしても、酸変性ポリマー含有熱可塑性樹脂組成物は樹脂流動性が確保されている。そのため、酸変性ポリマー含有熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、溶融樹脂の移動距離が長い金型を使用した場合であっても高い接合強度を備えた複合構造体を得ることが可能となる。
TPUとTPAEを含んでなる熱可塑性樹脂組成物が酸変性ポリオレフィンを含むことによって溶融流動性が向上する理由は定かではない。ただし、本発明者らはTPUに酸変性ポリオレフィンをブレンドすることによって、TPU中のウレタン層の微分散化が促進されることをモルフォロジー観察によって確認しており、おそらくこの微分散化現象によって樹脂組成物中の極性基(酸基)が効率よく非局在化して金属表面との接触点を増加させる結果として、樹脂−金属間の接合強度向上につながったものと考えている。TPUがエーテル結合を含むエーテル系TPUの場合では、エーテル基と相溶性のあるアミド結合を含有するTPAEの共存によって微分散化は更に促進され、接合強度向上のみならず、樹脂流動性の向上をももたらしたと考えている。
【0048】
本実施形態に係る酸変性ポリマーとは、例えば、カルボン酸および/又はカルボン酸無水物基を含有するポリマーである。本実施形態において酸変性ポリマーとしては、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分起因の骨格を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましく用いられる。
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分としては、エチレンや、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のα−オレフィンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。中でも、密着性や耐水性等の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテンが特に好ましい。
【0049】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、不飽和ジカルボン酸のハーフエステルやハーフアミド等のように、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物を用いることができる。中でもポリオレフィン樹脂への導入のし易さの点から、(無水)マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。なお、「(無水)〜酸」とは、「〜酸または無水〜酸」を意味する。すなわち、(無水)マレイン酸とは、マレイン酸または無水マレイン酸を意味する。
【0050】
不飽和カルボン酸とオレフィン成分との共重合形態は限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられるが、重合のし易さの点から、グラフト共重合が好ましい。
【0051】
本実施形態において、酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体;エチレン/プロピレン/(無水)マレイン酸共重合体、エチレン/1−ブテン/(無水)マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1−ブテン/(無水)マレイン酸共重合体等のエチレン/α−オレフィン/(無水)マレイン酸共重合体;プロピレン/1−ブテン/(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン/オクテン/(無水)マレイン酸共重合体等のプロピレン/α−オレフィン/(無水)マレイン酸共重合体;エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/(無水)マレイン共重合体;エチレン/(無水)マレイン酸共重合体;プロピレン/(無水)マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
本実施形態に係る酸変性ポリオレフィン樹脂には、必要に応じて上記以外の他の構成単位が含まれていてもよい。他の構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール;2−ヒドロキシエチルアクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;スチレン;置換スチレン;ハロゲン化ビニル類;ハロゲン化ビリニデン類;一酸化炭素;二酸化硫黄等が挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。これらの他の構成単位の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂の全体を100質量%としたとき、10質量%以下であることが好ましい。
なお、本実施形態においては酸変性ポリマーとして、リビングアニオン重合で得られる下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル系ブロック共重合体も制限なく用いることもできる。
−[a]−[b]−[a]− (1)
(式中、[a]はメチルメタクリレート重合体ブロックであり、[b]はアルキル基の炭素数が0〜12であるアルキル(メタ)アクリレート重合体ブロックである)。なお、本実施形態において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0053】
様々な酸変性ポリマーが市販されており、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製の酸変性ポリオレフィン樹脂であるニュクレル(登録商標)シリーズ、そのアイオノマー樹脂であるハイミラン(登録商標)シリーズ、クラレ社製のアクリル系ブロック共重合体であるクラリティ(登録商標)シリーズ、三菱化学社製の酸変性ポリオレフィン樹脂であるモディック(登録商標)シリーズ、三井化学社製の酸変性ポリプロピレンであるアドマー(登録商標)シリーズ、日本ポリエチレン社製の酸変性ポリエチレン樹脂であるレクスパール(登録商標)シリーズ、アルケマ社製の無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であるボンダイン(登録商標)シリーズ等が挙げられる。これらの酸変性ポリマーの、JIS K0070規定の方法で測定される酸価は概ね1〜1000mgKOH/gであるので、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材または熱可塑性樹脂組成物の酸価が所望の範囲になるように、熱可塑性樹脂と1種または2種以上の酸変性ポリマーとを適宜ブレンド(アロイ化)すればよい。
【0054】
熱可塑性樹脂組成物を調製する方法は、例えば、熱可塑性樹脂と、酸変性ポリマーと、さらに必要に応じて任意添加成分と、をバンバリーミキサー、ヘンシャルミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機等の公知の混合装置を用いて、ドライブレンドまたは溶融混合する公知方法を制限なく用いることができる。
【0055】
<複合構造体>
本実施形態に係る複合構造体は、上記金属部材と、上記金属部材に接合された熱可塑性樹脂部材と、を備える。より詳細には、本実施形態に係る複合構造体は、上述した熱可塑性樹脂部材を形成する原料成分である熱可塑性樹脂組成物を、上記金属部材の表面に形成された特定の微細凹凸構造部(表面粗化処理された部分)に侵入させて接合することにより得られる。
【0056】
一般的な従来技術においては、金属部材とエラストマー部材とからなる複合構造体を製造する場合、エラストマー部材については、予め架橋性エラストマーを架橋処理するとともに賦形して得られるエラストマー部材と金属部材とを接着剤を用いて接合させている。当該方法では、両部材間の接合は、接着剤を介在した化学的な結合力に基づくものであるため強度が比較的低くなる傾向があり、また、外的な要因、例えば水分や光等の影響により、接着剤成分が劣化すると、接合強度は著しく低下することが懸念材料として挙げられる。
【0057】
一方、本実施形態においては、熱可塑性樹脂組成物、好ましくは熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物が適度な硬度と酸価を持つため、熱可塑性樹脂組成物が金属部材表面に形成された微細凹凸構造部に容易に侵入することができ、さらにその状態において樹脂骨格に化学結合した極性基(例えば、カルボキシル基や水酸基)が金属部材表面とイオン結合的な相互作用を発生させることが予想される。すなわち、物理的な結合力(アンカー効果)に加えてより化学的な相互作用が発現するので、接合強度を高くすることが可能になる。
【0058】
(複合構造体の製造方法)
複合構造体は、上記粗化処理を行った金属部材に対して、熱可塑性樹脂組成物を所望の熱可塑性樹脂部材の形状になるように成形しながら接合させることにより製造できる。
【0059】
金属部材上に熱可塑性樹脂部材を接合一体化する方法としては、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の各種の公知成形方法を制限なく採用できる。これらの中でも、複合構造体の製造方法としては、生産性の視点から射出成形法が好ましく、具体的には、金属部材を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、熱可塑性樹脂組成物を金型に射出する射出成形法により製造することが好ましい。具体例としては次のような方法を挙げることができる。
【0060】
まず、射出成形用の金型を用意し、その金型を開いてその一部に金属部材を設置する。その後、金型を閉じ、熱可塑性樹脂組成物の少なくとも一部が金属部材の表面の粗化された領域と接するように、上記金型内に熱可塑性樹脂組成物を射出して固化する。その後、金型を開き離型することにより、複合構造体を得ることができる。
【0061】
また、上記射出成形の際には、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)を用いることが好ましい。高速ヒートサイクル成形を採用することにより、金属と樹脂間の接合強度を高められるからである。具体的には、熱可塑性樹脂組成物の射出開始から保圧完了までの間、金型の表面温度を250〜300℃の温度に維持し、その後、金型の表面温度170〜230まで冷却する方法を例示できる。
【0062】
本実施形態においては、射出発泡成形により複合構造体を形成させてもよい。射出発泡成形の方法として、化学発泡剤を樹脂に添加する方法や、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する方法、あるいは、窒素ガスや炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入するMuCell射出発泡成形法があるが、いずれの方法でも樹脂部材が発泡体である複合構造体を得ることができる。また、いずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、成形品の形状によってはコアバックを利用したりすることも可能である。
【0063】
(複合構造体の用途)
本実施形態に係る複合構造体は、生産性が高く、形状制御の自由度も高いので、様々な用途に展開することが可能である。
【0064】
例えば、防水パッキン、真空パッキン、圧力機器用パッキン等のシール部材が接合した電子機器用筐体;応力緩和部材;携帯機器用部材;太陽電池用部材;リチウムイオン電池用部材;住建設用部材;自動車用部材;航空宇宙用部材等が挙げられる。
【0065】
より具体的には、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ハードディスクドライブ、デジカメ、腕時計等の携帯機器用の防水シール材が接合した電子機器用筐体;洗濯機、ポット等の家電用防水シール材;燃料電池ガスケット;リチウムイオン電池用パッキン等が挙げられる。
【0066】
(電子機器用筐体)
本実施形態に係る複合構造体は電子機器用筐体に好適に用いることができる。
本発明の第一の実施形態に係る電子機器用筐体は、本実施形態に係る複合構造体を備える電子機器用筐体であって、該電子機器用筐体は第1金属部材1(一方の金属製片割れとも呼ぶ。)および第2金属部材2(他方の金属製片割れとも呼ぶ。)を有し、第1金属部材1の周縁部に熱可塑性樹脂部材からなるパッキン3が接合しており、第2金属部材2がパッキン3を介して第1金属部材1と一体化することによって外郭が形成されている。
すなわち、本実施形態に係る電子機器用筐体においては、第1金属部材1と第1金属部材1の周縁部に接合された熱可塑性樹脂部材からなるパッキン3とを備える複合構造体の嵌合面11と、他方の第2金属部材2の第1金属部材1と一体化される嵌合面21とが、上記パッキン3を圧縮するように押圧されて第1金属部材1および第2金属部材2を嵌合一体化している(
図15参照)。
第一の実施形態に係る電子機器用筐体は、3つ以上の金属製片割れから構成されていてもよい。
【0067】
本実施形態においては、第1金属部材1の周縁部に接合されるパッキン3は、上記周縁部に設けられた凹型溝12を埋める形で周設される。凹型溝12の深さをd
1とした場合、パッキンの高さhは、d
1<h<5×d
1を満たすことが好ましい。嵌合面11と対になる嵌合面21にも、凹型溝22が凹設されており、両嵌合面を鏡像対称となるように嵌合させ、押圧一体化することによって本実施形態に係る電子機器用筐体を得ることができる。通常は、凹型溝22の開口部幅(w
2)は、凹型溝12の開口部幅(w
1)の1.0倍〜1.5倍の範囲にあり、また凹型溝22の深さ(d
2)は、凹型溝12の深さ(d
1)よりも浅いことが好ましい。
【0068】
本発明の第二の実施形態に係る電子機器用筐体は、本実施形態に係る複合構造体を備える電子機器用筐体であって、該電子機器用筐体は金属部材およびプラスチック部材を有し、上記金属部材の周縁部に上記熱可塑性樹脂部材からなるパッキンが接合しており、記第金属部材が上記パッキンを介して上記プラスチック部材と一体化することによって外郭が形成されている。
【0069】
第二の実施形態においては、金属部材の周縁部に接合されるパッキンは、上記周縁部に設けられた凹型溝を埋める形で周設され、その凹型溝の深さとパッキンの高さは上記第一の実施形態に同様である。プラスチック部材又はプラスチック部材上に、必要に応じて設けられる凹型溝両嵌合面を鏡像対称となるように嵌合させ、押圧一体化することによって第二の実施形態に係る電子機器用筐体が得られる。
【0070】
上記第一および第二実施形態に係る電子機器用筐体の一方の片割れとして、熱可塑性樹脂部材からなるパッキン接合体を用いる場合は、パッキンのJIS K6262に規定される、圧縮率25%、試験温度25℃、試験時間22hrの圧縮永久ひずみは、通常80%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。
【0071】
上記パッキンを圧縮するように両片割れを嵌合面が対面するように押圧して、その後、公知の手段で固定化することによって電子機器用筐体が作製される。公知の固定化手段としては、二つの片割れの任意の部分に設けられたツメ部をスナップフィットする方法やネジ止め等の機械的嵌合手段を採用することが望ましい。このような機械的に固定化された場合では、電子機器用筐体に収納された電子機器類の予期せぬ故障への対応、電子機器類の定期点検のために、筐体を両片割れに分解・再嵌合する場合にも容易に対応できるからである。
【0072】
(ノート型パソコンのクッション材)
本実施形態に係る複合構造体はノート型パソコンのクッション材に好適に用いることができる。ノート型パソコンは通常、パソコン本体部と、ヒンジ装置を介して連結された蓋部からなり、本体部表面にはキーボードが配列され、蓋部には表示器が組み込まれている。ノート型パソコンは蓋体の開閉がヒンジ装置を通して行われるが、使用者の意に反して強く閉じてしまった場合、外圧によってノート型パソコンの蓋部が強く押圧された場合、あるいはノート型パソコン本体を落下してしまった場合は、蓋部に組み込まれた表示器のガラスパネル破損を引き起こす。このトラブルを防ぐために本実施形態に係る複合構造体をクッション材として用いる方法は有用である。具体的には、蓋体の少なくても表面周縁部に配置されたアルミニウム合金またはマグネシウム合金部に熱可塑性樹脂部材からなるパッキンを接合させ、このパッキンで例えばガラス表面の周囲を包み込むようにした複合構造体は、蓋体の開閉時や強い衝撃が加えられた際のクッション材として機能して、ノート型パソコンの保護に役立つ。
【0073】
上記ノート型パソコンの蓋部に、クッション材としての熱可塑性樹脂部材からなるパッキン接合体を用いる場合は、パッキンのJIS K6262に規定される、圧縮率25%、試験温度25℃、試験時間22hrの圧縮永久ひずみは、通常80%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。
【0074】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を含む。
【0075】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を含む。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明の実施形態を実施例により説明するが、本実施形態はこれらに限定され
るものではない。
【0077】
<本実施例で用いた各種分析・特性評価方法>
(金属部材表面の、十点平均粗さ(R
zjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RS
m)の測定)
特に断らない限り、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用し、JIS B0601:2001(対応ISO4287)に準拠して測定される表面粗さのうち、十点平均粗さ(R
zjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RS
m)をそれぞれ測定した。なお、測定条件は以下のとおりである。
・触針先端半径:5μm
・基準長さ:0.8mm
・評価長さ:4mm
・測定速度:0.06mm/sec
測定は、金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部についておこなった。
【0078】
(熱可塑性樹脂部材の硬度測定)
JIS K6253に準拠してタイプAデュロメーターを用いて、測定開始5秒後のA硬度を測定した。
【0079】
(熱可塑性樹脂部材の酸価測定)
塩化メチレン:ジメチルスルホキシド=1:1(質量比)の混合溶媒に、精秤した熱可塑性樹脂部材の試料を溶解させて試料溶液を得た。次いで、JIS K0070に規定された方法に準拠して熱可塑性樹脂部材の酸価を測定した。すなわち上記試料溶液を、予め標定されたN/10水酸化カリウムのアルコール溶液(特級水酸化カリウム7gにイオン交換水5gを添加し、1級エチルアルコールで1L(リットル)とし、N/10塩酸と1%フェノールフタレイン溶液にて力価=Fを標定したもの)で滴定し、その中和量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0080】
(引張せん断強度評価)
各実施例・比較例で製造した複合構造体サンプル(ダンベル試験片)の引張せん断接合強度を評価した。引張せん断強度の評価には、板状の金属部材101(幅18mm×長さ45mm×厚み2mm)の端部103(0.5cm
2)部分に熱可塑性樹脂部材102(幅10mm×長さ50mm×厚み3mm)が接合した試験片を用いた。引っ張り試験機として、モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)を使用し、引張試験機に、試験片を収容した専用の治具105を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除することにより引張せん断強度(MPa)を得た(
図1および
図2参照)。なお、引張せん断強度は5検体についての測定値の平均値である。
【0081】
(90°ピール強度測定)
引張りせん断強度に用いた試験片と同様の試験片を用いて90°ピール強度測定を行った。試験片の金属部材101を固定し、熱可塑性樹脂部材102の接合部とは反対側の端部を90°ピール強度試験機のチャックに挟み、室温(23℃)にて剥離速度100mm/minで90°方向の剥離強度を測定した(
図4参照)。引っ張り試験機として、モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)を使用した。なお、90°ピール強度は5検体についての測定値の平均値である。
【0082】
(強度測定後の破壊面の観察)
90°ピール強度試験後または引張せん断強度試験後の金属部材101側について、破壊面をルーペ観察した。ただし、ここでの90°ピール強度試験は後述するアルマイト処理前の試験片についての強度試験で得られた破壊面である。
図5〜
図14に示す写真は、金属部材短辺側を上にして、破壊面が写るように配置した写真である。(
図5〜
図12では樹脂部材側の破壊面も撮影した)金属部材側の破壊面が黒色になっている部分は樹脂残りを示し、この部分を母材破壊とした。一方で灰色部分は樹脂残りがないことを示し、この部分は界面破壊と判定した。接合部全体の面積(5mm×10mm=0.5cm
2)に占める黒色部分の面積を計測し、70面積%以上をa判定、50面積%以上70面積%未満をb判定、50面積%未満をc判定とした。aは母材破壊モード優先、cは界面破壊モード優先、bはその中間に破壊モードであることを示す。なお破壊面の観察は5検体について行った。
【0083】
(耐酸性試験)
各実施例・比較例で製造した複合構造体サンプル(ダンベル試験片)に対して、公知の方法で脱脂、アルカリエッチングおよび化学研磨をおこなった後、硫酸水溶液(15質量%)の電解浴中で40分通電(1A/dm
2)し、次いで45℃、10分間染色処理(奥野製薬製レッド染料を用いた)した。次いで、封孔処理(酢酸ニッケル法:95℃、10分間)し、次いで、湯洗後に風乾してアルマイト処理を完結させた。このアルマイト処理後の複合構造体サンプルについても上記と同様にして90°ピール強度を測定し、アルマイト処理前後の強度保持率を算出した。
【0084】
<熱可塑性樹脂組成物の調製>
(熱可塑性樹脂組成物A1の調製)
エーテル系熱可塑性ポリウレタン(TPU)であるレザミンP(グレード名P2275、大日精化工業製)80質量部、エチレン−メタクリル酸共重合体であるニュクレル(グレード名N1525、三井・デュポンポリケミカル社製)20質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物A1を得た。樹脂組成物A1のデュロメーター硬度はA78、酸価は6mgKOH/gであった。
【0085】
(熱可塑性樹脂組成物A2の調製)
エーテル系熱可塑性ポリウレタン(TPU)であるレザミンP(グレード名P2275、大日精化工業製)80質量部、エチレン−メタクリル酸共重合体のZnアイオノマー樹脂であるハイミラン(グレード名1702、三井・デュポンポリケミカル社製)20質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物A2を得た。樹脂組成物A2のデュロメーター硬度はA79、酸価は7mgKOH/gであった。
【0086】
(熱可塑性樹脂組成物A3の調製)
エーテル系熱可塑性ポリウレタン(TPU)であるレザミンP(グレード名P2275、大日精化工業製)80質量部、エチレン−メタクリル酸共重合体であるニュクレル(グレード名N0908C、三井・デュポンポリケミカル社製)20質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物A3を得た。樹脂組成物A3のデュロメーター硬度はA78、酸価は4mgKOH/gであった。
【0087】
(熱可塑性樹脂組成物A4の調製)
エーテル系熱可塑性ポリウレタン(TPU)であるレザミンP(グレード名P8766、大日精化工業製)90質量部、アクリル系ブロック共重合体であるクラリティ(グレード名LA2250、クラレ社製)10質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物A4を得た。樹脂組成物A4のデュロメーター硬度はA77、酸価は3mgKOH/gであった。
【0088】
(熱可塑性樹脂組成物Aの調製)
ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275、大日精化工業製)90質量部、アミド系熱可塑性エラストマーであるペバックス
TM(グレード名2533、アルケマ社製)10質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物Aを得た。樹脂組成物Aのデュロメーター硬度はA73、酸価は0mgKOH/gであった。
【0089】
(熱可塑性樹脂組成物Bの調製)
ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275、大日精化工業製)80質量部、アミド系熱可塑性エラストマーであるペバックス
TM(グレード名2533、アルケマ社製)10質量部、およびエチレン・メタクリル酸共重合体であるニュクレル(グレード名NO35C、三井デュポンポリケミカル社製)10質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物Bを得た。樹脂組成物Bのデュロメーター硬度はA72、酸価は3mgKOH/gであった。
【0090】
(熱可塑性樹脂組成物Cの調製)
ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275、大日精化工業製)85質量部、アミド系熱可塑性エラストマーであるペバックス
TM(グレード名2533、アルケマ社製)5質量部、およびエチレン・メタクリル酸共重合体であるニュクレル(グレード名NO35C、三井デュポンポリケミカル社製)10質量部を配合した。次いで、タンブラーミキサーで十分に混合し、二軸押出機にて190℃で溶融混錬後、押し出してペレット状の樹脂組成物Cを得た。樹脂組成物Cのデュロメーター硬度はA71、酸価は3mgKOH/gであった。
【0091】
<本実施例で用いた表面粗化金属部材>
(表面粗化アルミニウム合金板M1)
JIS H4000に規定された合金番号6063のアルミニウム合金板(45mm×18mm×2mm)を脱脂処理した後、水酸化ナトリウムを15質量%と酸化亜鉛を3質量%含有するアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された処理槽1に3分間浸漬(以下の説明では「アルカリ系エッチング剤処理」と略称する場合がある)後、30質量%の硝酸(30℃)にて、1分間浸漬し、アルカリ系エッチング剤処理をさらに1回繰り返し実施した。次いで、得られたアルミニウム合金板を、塩化第二鉄を3.9質量%と、塩化第二銅を0.2質量%と、硫酸を4.1質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽2に、30℃で5分間浸漬し搖動させた。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分間)を行い、その後乾燥させることによって表面粗化アルミニウム合金板M1を得た。
表面粗化アルミニウム合金板M1の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用し、JIS B0601:2001(対応ISO4287)に準拠して測定される表面粗さのうち、十点平均粗さ(R
zjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RS
m)をそれぞれ測定した。その結果、R
zjis平均値は20μm、RS
mの平均値は102μmであった。なお、R
zjis平均値およびRS
m平均値は、測定場所を変えた6点の測定値の平均値である。
【0092】
(表面粗化マグネシウム合金板M2)
マグネシウム合金板AZ31B(45mm×18mm×2mm)を、65℃の市販マグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160(メルテック製)」の7.5質量%水溶液に5分浸漬した後、水洗した。次いで40℃のクエン酸の1質量%水溶液に4分浸漬させた後、水洗した。その後1質量%の炭酸ナトリウムと1質量%の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液に65℃で5分浸漬した。次いで、65℃の15質量%の水酸化ナトリウム水溶液に5分間浸漬した後、水洗した。その後、40℃の0.25質量%のクエン酸水溶液に1分浸漬した後水洗した。次に、過マンガン酸カリウムを2質量%、酢酸を1質量%、水和酢酸ナトリウムを0.5質量%含む45℃の水溶液に1分浸漬した後、15秒間水洗を行い、90℃の温風乾燥機で乾燥した。このようにして表面粗化マグネシウム合金板M2を得た。
表面粗化マグネシウム合金板M2の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用し、JIS B0601:2001(対応ISO4287)に準拠して測定される表面粗さのうち、十点平均粗さ(R
zjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RS
m)をそれぞれ測定した。その結果、R
zjis平均値は2μm、RS
mの平均値は150μmであった。なお、R
zjis平均値およびRS
m平均値は、測定場所を変えた6点の測定値の平均値である。
【0093】
<射出成形による複合体の製造方法>
日本製鋼所社製のJ85AD110Hに小型ダンベル金属インサート金型を装着し、金型内に上記方法で得られた表面粗化アルミニウム合金板M1または表面粗化マグネシウム合金板M2を設置した。成形条件として、シリンダー温度190℃、金型温度40℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の成形条件を採用した。また、ゲート形状として溶融樹脂の移動距離の短いピンゲート(以下、I型ピンゲートと略称;
図3(a)参照)または溶融樹脂の移動距離が40mmと長いピンゲート(以下、Z型ピンゲートと略称;
図3(b)参照)のいずれかの金型を用いた。次いで、その金型内に上記熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、複合構造体を作製した。
【0094】
[実施例1]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A1を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E1を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、4.4MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。また破壊面の写真を
図5に示した。
【0095】
[実施例2]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A2を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E2を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、3.9MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。
【0096】
[実施例3]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A3を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E3を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、4.8MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。
【0097】
[実施例4]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A4を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E4を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、7.2MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。
【0098】
[実施例5]
表面粗化マグネシウム合金板M2に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A1を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E5を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、3.8MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。また破壊面の写真を
図7に示した。
【0099】
[実施例6]
表面粗化マグネシウム合金板M2に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A2を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E6を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、4.0MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。
【0100】
[実施例7]
表面粗化マグネシウム合金板M2に、熱可塑性樹脂組成物として上記樹脂組成物A3を射出成形(I型ピンゲート)することによって複合構造体E7を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した結果、4.3MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。
【0101】
[比較例1]
熱可塑性樹脂組成物として樹脂組成物A1の代わりにエーテル系熱可塑性ポリウレタン(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275、大日精化工業製、デュロメーター硬度=A76、酸価=0mgKOH/g)を用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、複合構造体C1を製造した。次いで実施例1と同様な評価試験を行った結果、引張せん断強度(平均値)は、3.1MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもc判定(界面破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。また破壊面の写真を
図6に示した。
【0102】
[比較例2]
熱可塑性樹脂組成物として樹脂組成物A1の代わりにエーテル系熱可塑性ポリウレタン(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275、大日精化工業製、デュロメーター硬度=A76、酸価=0mgKOH/g)を用いた以外は実施例5と同様な操作を行い、複合構造体C2を製造した。次いで実施例5と同様な評価試験を行った結果、引張せん断強度(平均値)は、1.7MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもc判定(界面破壊優先)であった。結果を表1にまとめた。また破壊面の写真を
図8に示した。
【0103】
【表1】
【0104】
[参考例1]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記熱可塑性樹脂組成物Aを、I型ピンゲート金型を用いて射出成形することによって複合構造体R1を作成した。複合構造体R1について前記方法に従いピール強度を測定(平均値)した。その結果、強度(平均値)は、32N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。また破壊面の写真を
図9に示した。また、耐酸性試験後の90°ピール強度(平均値)は、18N/10mm、強度保持率は56%であった。
【0105】
[参考例2]
表面粗化マグネシウム合金板M2に、熱可塑性樹脂組成物として上記熱可塑性樹脂組成物Aを、I型ピンゲート金型を用いて射出成形することによって複合構造体R2を製造した。次いで上記方法に従い引張せん断強度を測定(平均値)した。その結果、接合強度(平均値)は、3.8MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。また破壊面の写真を
図11に示した。
【0106】
[参考例3]
参考例1において、I型ピンゲート金型の代わりにZ型ピンゲート金型を用いた以外は参考例1と全く同様にして複合構造体R3を製造した。次いで上記方法に従いピール強度を測定(平均値)した。その結果、強度(平均値)は、10N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。
【0107】
[実施例8]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記熱可塑性樹脂組成物Bを、Z型ピンゲート金型を用いて射出成形することによって複合構造体E8を製造した。次いで上記方法に従いピール強度を測定(平均値)した。その結果、強度(平均値)は、23N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。また、耐酸性試験後の90°ピール強度(平均値)は、21N/10mm、強度保持率は91%であった。
【0108】
[実施例9]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記熱可塑性樹脂組成物Cを、I型ピンゲート金型を用いて射出成形することによって複合構造体E9を製造した。次いで上記方法に従いピール強度を測定(平均値)した。その結果、強度(平均値)は、28N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。また、耐酸性試験後の90°ピール強度(平均値)は、25N/10mm、強度保持率は90%であった。破壊面(金属部座右側)の写真を
図13に示した。
【0109】
[実施例10]
表面粗化アルミニウム合金板M1に、熱可塑性樹脂組成物として上記熱可塑性樹脂組成物Cを、Z型ピンゲート金型を用いて射出成形することによって複合構造体E10を製造した。次いで上記方法に従いピール強度を測定(平均値)した。その結果、強度(平均値)は、23N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもa判定(母材破壊優先)であった。また、耐酸性試験後の90°ピール強度(平均値)は、21N/10mm、強度保持率は91%であった。破壊面(金属部材側)の写真を
図14に示した。
【0110】
[比較例3]
熱可塑性樹脂組成物として熱可塑性樹脂組成物Aの代わりにウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275、大日精化工業製)を用いた以外は参考例1と同様な操作を行い、複合構造体C3を製造した。次いで参考例1と同様な90°ピール強度試験を行った。その結果、強度(平均値)は、5.0N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもc判定(界面破壊優先)であった。また破壊面の写真を
図10に示した。なお、耐酸性試験後の90°ピール強度(平均値)は、4.8N/10mm、強度保持率は96%であった。
【0111】
[比較例4]
熱可塑性樹脂組成物として熱可塑性樹脂組成物Aの代わりにウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)であるレザミンP
TM(グレード名P2275)を用いた以外は参考例2と同様な操作を行い、複合構造体C4を製造した。次いで参考例2と同様な評価試験を行った。その結果、接合強度(平均値)は、1.6MPaであった。また5検体の破壊面はいずれもc判定(界面破壊優先)であった。また破壊面の写真を
図12に示した。
【0112】
[比較例5]
比較例3において、I型ピンゲート金型の代わりにZ型ピンゲート金型を用いた以外は比較例3と全く同様にして複合構造体C5を製造した。次いで上記方法に従いピール強度を測定(平均値)した。その結果、強度(平均値)は、2.0N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもc判定(界面破壊優先)であった。
【0113】
[比較例6]
熱可塑性樹脂組成物として熱可塑性樹脂組成物Aの代わりにアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)であるペバックス
TM(グレード名2533、アルケマ社製、デュロメーター硬度=A76、酸価=0mgKOH/g)を用いた以外は参考例1と同様な操作を行い、複合構造体C6を製造した。次いで参考例1と同様な90°ピール強度試験を行った。その結果、強度(平均値)は、28N/10mmであった。また5検体の破壊面はいずれもc判定(界面破壊優先)であった。なお、耐酸性試験後の90°ピール強度(平均値)は、8N/10mm、強度保持率は30%であった
【0114】
【表2】
【0115】
この出願は、2018年8月10日に出願された日本出願特願2018−151598号および2018年11月16日に出願された日本出願特願2018−215777号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0116】
本発明は以下の態様も含む。
【0117】
[1A]
金属部材と、上記金属部材に接合された熱可塑性樹脂部材と、を備える複合構造体であって、
上記金属部材は少なくとも上記熱可塑性樹脂部材が接合する金属表面に微細凹凸構造を有し、
JIS K6253に準拠してタイプAデュロメーターにより測定される、上記熱可塑性樹脂部材の硬度がA60以上A95以下の範囲にあり、
上記熱可塑性樹脂部材の酸価が1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である複合構造体。
[2A]
JIS B0601:2001に準拠して測定される、上記微細凹凸構造が形成された上記金属表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10nm以上500μm以下である上記[1A]に記載の複合構造体。
[3A]
JIS B0601:2001に準拠して測定される、上記微細凹凸構造が形成された上記金属表面の十点平均粗さ(Rzjis)が10nm以上300μm以下である上記[1A]または[2A]に記載の複合構造体。
[4A]
上記熱可塑性樹脂部材が熱可塑性エラストマーを含む上記[1A]乃至[3A]のいずれか一つに記載の複合構造体。
[5A]
上記熱可塑性樹脂部材における上記熱可塑性エラストマーの含有量が50質量%以上である上記[4A]に記載の複合構造体。
[6A]
上記熱可塑性樹脂部材が酸変性ポリマーをさらに含む上記[4A]または[5A]に記載の複合構造体。
[7A]
上記熱可塑性樹脂部材における、上記熱可塑性エラストマーの含有量が50質量%以上99質量%以下であり、上記酸変性ポリマーの含有量が1質量%以上50質量%以下である上記[6A]に記載の複合構造体。
[8A]
上記熱可塑性エラストマーがウレタン系熱可塑性エラストマーを含む上記[4A]乃至[7A]のいずれか一つに記載の複合構造体。
[9A]
上記[1A]乃至[8A]のいずれか一つに記載の複合構造体を備える電子機器用筐体であって、
上記金属部材は第1金属部材および第2金属部材を有し、
上記第1金属部材の周縁部に上記熱可塑性樹脂部材からなるパッキンが接合しており、
上記第2金属部材が上記パッキンを介して上記第1金属部材と一体化することによって外郭が形成されている電子機器用筐体。
【0118】
さらに、本発明は以下の態様も含む。
【0119】
[1B]
金属部材と、上記金属部材に接合された熱可塑性樹脂部材と、を備える複合構造体であって、
上記金属部材は少なくとも上記熱可塑性樹脂部材が接合する金属表面に微細凹凸構造を有し、
上記熱可塑性樹脂部材が、ウレタン系熱可塑性エラストマーおよびアミド系熱可塑性エラストマーを含む複合構造体。
[2B]
上記熱可塑性樹脂部材中の上記ウレタン系熱可塑性エラストマーおよび上記アミド系熱可塑性エラストマーの合計含有量が60質量%以上100質量%以下である上記[1B]に記載の複合構造体。
[3B]
上記熱可塑性エラストマーに占める、上記ウレタン系熱可塑性エラストマーの含有量が70質量%以上100質量%未満であり、上記アミド系熱可塑性エラストマーの含有量が0質量%超え30質量%以下である上記[1B]または[2B]に記載の複合構造体。
[4B]
上記熱可塑性樹脂部材が酸変性ポリマーをさらに含み、上記熱可塑性樹脂部材中の上記酸変性ポリマーの含有量が上記ウレタン系熱可塑性エラストマーと上記アミド系熱可塑性エラストマーの合計100質量部に対して1質量部以上35質量部以下である上記[1B]乃至[3B]のいずれか一に記載の複合構造体。
[5B]
JIS B0601:2001に準拠して測定される、上記微細凹凸構造が形成された上記金属表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10nm以上500μm以下である上記[1B]乃至[4B]のいずれか一つに記載の複合構造体。
[6B]
JIS B0601:2001に準拠して測定される、上記微細凹凸構造が形成された上記金属表面の十点平均粗さ(Rzjis)が10nm以上300μm以下である上記[1B]乃至[5B]のいずれか一つに記載の複合構造体。
[7B]
上記[1B]乃至[6B]のいずれか一つに記載の複合構造体を備える電子機器用筐体であって、
上記電子機器用筐体は第1金属部材および第2金属部材を有し、
上記第1金属部材の周縁部に上記熱可塑性樹脂部材からなるパッキンが接合しており、
上記第2金属部材が上記パッキンを介して上記第1金属部材と一体化することによって外郭が形成されている電子機器用筐体。
[8B]
上記[1B]乃至[6B]のいずれか一に記載の複合構造体を備える電子機器用筐体であって、
上記電子機器用筐体は金属部材およびプラスチック部材を有し
上記金属部材の周縁部に上記熱可塑性樹脂部材からなるパッキンが接合しており、
上記金属部材が上記パッキンを介して上記プラスチック部材と一体化することによって外郭が形成されている電子機器用筐体。