(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インバータに用いられるスイッチング素子の素材は、ワイドバンドギャップ半導体であることを特徴とする、請求項1から5の何れか1項に記載の軌間可変電車の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係る軌間可変電車の制御装置及び当該制御装置によって制御される軌間可変電車の推進制御システムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る軌間可変電車の構成を示す図である。実施の形態1に係る軌間可変電車100は、
図1に示すように、軌間が異なる線路101aと線路101bとを直通運転する電気車である。軌間可変電車100は、
図1に示すように、車体の幅方向に互いに対向して配置される4対の車輪102a〜102dと、車輪102a〜102dの各対の回転中心となる4つの車軸103a〜103dと、4つの車軸103a〜103dのそれぞれに対応付けて設けられた4台の主電動機104a〜104dと、主電動機104a〜104dのトルク及び速度を制御するための制御装置200とを備える。ここで、4台の主電動機104a〜104dのトルクとは、主電動機104a〜104dの各々に出力させるトルクを意味する。また、4台の主電動機104a〜104dの速度とは、主電動機104a〜104dの各々が回転する速度を意味する。なお、軌間可変電車100は複数の車両が連なる列車であってもよく、主電動機104a〜104dのうちの一部が、別の車両に搭載される構成であってもよい。
【0011】
また、軌間可変電車100は、
図1に示すような軌間変換装置106を通過する間に、各対の車輪102a〜102dの車軸方向の間隔を変換するための図示しない機構を備える。
【0012】
軌間変換装置106は、線路101aの通常走行区間と線路101bの通常走行区間との間に設けられる。以下、軌間変換装置106を含む区間を軌間変換区間と称する。軌間変換装置106は、軌間変換区間を通過する車体を下方から支持する車体支持部107と、軌間変換区間を通過中の車輪102a〜102dを案内するガイドレール108とを備える。
【0013】
車体支持部107は、車体の荷重が軌間変換区間を通過中の車輪102a〜102dにかからないように車体を下方から支持する。これにより、車輪102a〜102dのうち、軌間変換区間を通過中の車輪は、線路101a,101bのレールと非接触となり、宙に浮いた状態となる。車体支持部107は、軌間可変電車100の長さ方向に、4対の車輪102a〜102dを宙に浮かせるだけの長さを有する。
【0014】
ガイドレール108は、軌間変換区間を通過中の車輪102a〜102dと当接して当該車輪102a〜102dを車軸方向に移動させる。軌間変換区間を通過中の車輪102a〜102dは、軌間可変電車100の進行とともにガイドレール108に沿って移動する。その結果、軌間変換区間を通過中の車輪102a〜102dは、車軸方向に移動する。したがって、軌間可変電車100が軌間変換装置106を通過することによって、軌間可変電車100の進行方向に応じて、車輪102a〜102dの各対の車軸方向の間隔を広げたり、狭めたりすることができる。
【0015】
具体的に説明すると、軌間可変電車100が同図の矢印で示す進行方向へ進み、線路101aの通常走行区間から軌間変換装置106へ進入したとする。すると、軌間可変電車100が車体支持部107により支持され、その結果、車体の荷重が、軌間変換区間を通過中の車輪102a及び102bにかからない状態となる。この場合、車輪102a及び102bがガイドレール108と当接することによって、車輪102a及び102bの各対の車軸方向の間隔は、軌間可変電車100の進行に伴って次第に狭くなる。車輪102c及び102dの各対の車軸方向の間隔も同様に、軌間可変電車100の進行に伴って次第に狭くなる。そのため、軌間可変電車100が同図の矢印で示す進行方向へ進むことによって、車輪102a〜102dの各対の車軸方向の間隔を狭めることができる。軌間可変電車100が同図の矢印とは逆の方向へ進行した場合、上記とは逆に、車輪102a〜102dの各対の車軸方向の間隔は、広がることになる。
【0016】
本実施の形態に係る制御装置200は、軌間可変電車100に搭載される制御装置である。
図2には一例として、1台のインバータ2が複数台の主電動機104a〜104dを駆動制御する構成を示す。なお、制御装置200において、1台のインバータ2が駆動制御する主電動機は、1台であってもよいし、2台以上の複数であってもよい。
【0017】
主電動機の種別には、大別して誘導機と同期機の2種類がある。同期機の場合、電動機に印加する電圧と回転速度とが同期していなければならないという原理上、1台のインバータにつき、1台の電動機を駆動するシステムとするのが一般的である。一方で、誘導機の場合は、1台のインバータで複数台の電動機を駆動するシステムとすることが多い。
図2の例では、主電動機104a〜104dは誘導機である。
【0018】
軌間可変電車100に搭載される制御装置(以下、単に「制御装置」と称する)200は、
図2に示すように、直流電源1と、4台の主電動機104a〜104dのトルクを一括制御するインバータ2と、インバータ2の出力電圧を制御する電圧制御部3と、を備える。また、電圧制御部3は、トルク指令演算部30、電流指令演算部31、すべり周波数演算部32、電圧指令演算部33、電流フィードバック制御部34、電流処理部35、基準周波数演算部36、位相演算部37及びゲート指令部38を備える。制御装置200には、位置検出部109からの位置情報と、4台の主電動機104a〜104dに流れる電流の合計値を検出するために設けられた電流センサ118からの検出情報と、図示を省略した運転台からの運転指令とが入力される。また、制御装置200には、電動機の電気周波数に換算された列車速度が入力される。列車速度としては、列車情報管理システムが管理している速度情報、又は従輪に取り付けられた図示しない車速センサからの速度情報が例示される。なお、
図2では、列車速度の換算処理は制御装置200の外部で行われるものとしたが、制御装置200の中で換算処理が行われても何ら問題ない。
【0019】
また、以下の説明では、主電動機104a〜104dのトルクを制御する際に、検出した静止座標系における三相電流値、すなわちU相電流i
u、V相電流i
v、及びW相電流i
wを、直交2軸回転座標系、すなわちdq軸座標系における磁束軸成分の電流値であるd軸電流i
d及びトルク軸成分の電流であるq軸電流i
qに分解して制御を行うベクトル制御を例示するが、本発明がベクトル制御以外にも適用できることは言うまでもない。
【0020】
トルク指令演算部30は、運転指令に含まれるノッチ情報に基づいて、主電動機104a〜104dの1台あたりに発生すべきトルクの指令値であるトルク指令値τ
*を演算する。また、トルク指令演算部30には、後述する位置検出部109から出力される位置情報と、列車速度とが入力される。トルク指令演算部30における、位置情報と列車速度の役割については後述する。電流指令演算部31は、トルク指令値τ
*、及び後述する基準周波数f
nに基づいて、主電動機104a〜104dに流すd軸電流指令i
d*及びq軸電流指令i
q*を演算する。なお、電流指令演算部31が演算するd軸電流指令i
d*及びq軸電流指令i
q*は、1台の主電動機に流す電流指令でもよいし、4台の主電動機に流す電流指令でもよい。
【0021】
すべり周波数演算部32は、電流指令演算部31からのd軸電流指令i
d*及びq軸電流指令i
q*に基づいて、主電動機104a〜104dに付与すべきすべり周波数である、すべり周波数指令f
sを演算する。電圧指令演算部33は、d軸電流指令i
d*及びq軸電流指令i
q*に基づくd軸電圧指令v
d0、並びに、d軸電流指令i
d*及びq軸電流指令i
q*に基づくq軸電圧指令v
q0を演算する。電流処理部35は、後述する位相演算部37が演算した制御位相角θ
i、並びに、電流センサ118が検出したU相電流i
u、V相電流i
v及びW相電流i
wに基づいて、d軸電流i
d及びq軸電流i
qを演算する。
【0022】
電流フィードバック制御部34は、電流指令演算部31からのd軸電流指令i
d*及びq軸電流指令i
q*、並びに、電流処理部35からのd軸電流i
d及びq軸電流i
qに基づいて、電流フィードバック制御のためのd軸電圧指令に対する補正量(以下「d軸補正量」と称する)Δv
d0及びq軸電圧指令に対する補正量(以下「q軸補正量」と称する)Δv
q0を演算する。電圧指令演算部33が演算したd軸電圧指令v
d0と、電流フィードバック制御部34が出力するd軸補正量Δv
d0とは加算され、インバータ2に付与する補正後のd軸電圧指令v
d*となる。また、電圧指令演算部33が演算したq軸電圧指令v
q0と、電流フィードバック制御部34が出力するq軸補正量Δv
q0とは加算され、インバータ2に付与する補正後のq軸電圧指令v
q*となる。
【0023】
位置検出部109は、位置情報を出力する装置又はセンサからの出力に基づき、4つの車軸103a〜103dの位置情報を演算し、演算結果をトルク指令演算部30に出力する。なお、位置情報を出力する装置又はセンサとしては、ATS(Automatic Train Stop)の地上子、又は、GPS(Global Positioning System)の受信機が例示される。
【0024】
車軸103a〜103dのそれぞれには、
図2に示すように、回転センサ50a〜50dが設けられている。回転センサ50a〜50dは、車軸103a〜103dにおける各々についての回転周波数を計測して基準周波数演算部36に出力する。なお、本実施の形態において、回転センサ50a〜50dが計測する回転周波数の情報は、主電動機104a〜104dにおける各々についての回転周波数f
m1〜f
m4とする。
【0025】
なお、主電動機の回転周波数と、車軸の回転周波数とは、ギア比によって換算できることは言うまでもない。また、主電動機の回転周波数には、回転子の機械的な回転速度を表す機械周波数と、機械周波数を固定子回路の電気量の周波数に換算した電気周波数の2種類があるが、両者は主電動機の極対数によって容易に換算できる。したがって以下の説明では、車輪、車軸、及び車軸に接続される主電動機の機械周波数と電気周波数は、それぞれ定数で換算できるものとして扱い、厳密な区別をしない。また、車輪の回転周波数は、車輪径を用いて換算すると直線運動における速度に換算される。逆に、列車速度は車輪径を用いて換算すると、回転運動における回転周波数に換算される。したがって、以下の説明では、主電動機、車軸及び車輪の回転周波数のことを、単に「速度」又は「回転速度」と表現する場合がある。
【0026】
基準周波数演算部36は、回転センサ50a〜50dからの回転周波数の情報に基づいて基準周波数f
nを演算する。基準周波数f
nの算出方法については、f
m1〜f
m4の平均値を基準周波数とすることが一般的である。基準周波数演算部36が演算した基準周波数f
nと、すべり周波数演算部32が演算したすべり周波数指令f
sとは加算され、インバータ周波数f
iとして位相演算部37に付与される。インバータ周波数f
iは、インバータ2の出力電圧の周波数である。
【0027】
なお、
図2では回転センサ50a〜50dによって主電動機104a〜104dの回転周波数を取得する構成を例示したが、d軸電圧指令v
d0及びq軸電圧指令v
q0と、d軸電流i
d及びq軸電流i
qとを用いて、主電動機104a〜104dの回転周波数を推定する、速度推定器を備える構成としてもよい。このような、いわゆる速度センサレス制御の構成においては、主電動機104a〜104dの個々の速度を判別することはできず、主電動機104a〜104dの代表速度が1通りのみ演算される。この場合は、速度推定器の出力を、そのまま基準周波数f
nとすればよい。
【0028】
位相演算部37は、インバータ周波数f
iに基づいて制御位相角θ
iを演算する。制御位相角θ
iは、静止座標系と回転座標系とで座標変換を行う際に参照される位相角であり、インバータ周波数f
iを積分することで求めることができる。
【0029】
ゲート指令部38は、位置検出部109から出力される位置情報に基づき、インバータ2の電圧出力のオンとオフとを切り替える。以下、インバータ2が電圧を出力している状態をゲートオン、インバータ2が電圧の出力を停止している状態をゲートオフと呼称する。
【0030】
次に、トルク指令演算部30の詳細な動作について、
図3〜
図6を用いて説明する。
図3は、実施の形態1に係るトルク指令演算部の構成例を示すブロック図である。
【0031】
図3において、トルク指令演算部30は、モード切替判定部30a、軌間変換時トルクパターン生成部30b、通常走行時トルクパターン生成部30c、及びトルク指令値選択部30dを有する。
【0032】
モード切替判定部30aは、位置検出部109によって演算された4つの車軸103a〜103dの位置情報に基づき、トルク指令値τ
*の演算方法を切り替える。具体的には、車軸103a〜103dのうち、少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあるとき、列車速度と基準周波数との差の情報に基づいて、軌間変換時トルクパターン生成部30bに保持される軌間変換時トルクパターンを参照してトルク指令値を出力する。一方、車軸103a〜103dのすべてが軌間変換区間の外部にあるときは、基準周波数と運転指令に含まれるノッチ情報とに基づいて、通常走行時トルクパターン生成部30cに保持される通常走行時トルクパターンを参照してトルク指令値τ
*を出力する。
【0033】
軌間変換時トルクパターン生成部30bは、列車速度と基準周波数との差を引数として、軌間変換時トルクパターンを生成する。軌間変換時トルクパターンは、トルク指令値を出力するルックアップテーブルである。軌間変換時トルクパターンの例としては、
図4または
図5に示すようなトルクパターンが挙げられる。
図4または
図5において、横軸は列車速度と基準周波数との差を表し、縦軸はトルク指令値の大きさを表している。
【0034】
図4のトルクパターンでは、列車速度と基準周波数f
nとの差の絶対値が第1の値f
1を超えるとトルク指令値の絶対値がτ1に制限されるようになっているが、列車速度と基準周波数f
nとの差の絶対値が第1の値f
1を超えるまでは、当該絶対値が大きいほど、大きなトルク指令値が出力されるようになっている。したがって、列車速度に対して基準周波数f
nが小さい場合には、正のトルク指令値が生成されて主電動機104a〜104dは加速し、車軸103a〜103dの回転速度が大きくなって基準周波数f
nも大きくなり、やがては列車速度に一致する。また、列車速度に対して基準周波数f
nが大きい場合には、負のトルク指令値が生成されて主電動機104a〜104dは減速し、車軸103a〜103dの回転速度が小さくなって基準周波数f
nも小さくなり、やがて列車速度に一致する。
【0035】
また、
図5のトルクパターンでは、列車速度と基準周波数f
nとの差の絶対値が第2の値f
2を超えるとトルク指令値の絶対値が一定値τ2になるようになっているが、列車速度と基準周波数f
nとの差の絶対値が第2の値f
2を超えるまでは、トルク指令値がゼロとなる不感帯が設けられ、トルク指令値が出力されないようになっている。このように、トルク指令値がゼロとなる不感帯を設けると、列車速度が微小変化したときに、トルク指令値が小刻みに変化するのを防ぐ効果がある。特に、列車速度の情報の分解能が低い場合に効果を発揮する。この場合も、
図4のトルクパターンを用いたときと同様に、車軸103a〜103dの回転速度は、列車速度にほぼ一致する。
【0036】
また、
図6は、実施の形態1に係るトルク指令演算部の別の構成例を示すブロック図である。
図6のブロック図は、軌間変換時トルクパターン生成部30bの代わりに、速度制御器30eを備えた点で、
図3と異なる。速度制御器30eの代表的なものとして、PI(Proportional Integral)補償器と称される比例積分補償器が挙げられる。
図4と
図5に示すようなルックアップテーブルを用いた方法は、車軸103a〜103dの速度が振動的になるといった懸念がある。そこで、列車速度と基準周波数との差を速度制御器30eに入力し、速度制御のためのフィードバックループを構成することで、種々の外乱の影響を抑え、車軸103a〜103dの空転速度を列車速度と一致させる制御をより正確に行うことができる。
【0037】
上述のようにトルク指令値の演算方法を切り替えることは、言い換えると、車軸の位置情報に基づいて、主電動機のトルク制御と速度制御を切り替えているのと等しい。すなわち、インバータの制御対象である車軸のうちの少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあるときは、車軸の回転速度を列車速度と一致させる速度制御を行い、インバータの制御対象である車軸のすべてが軌間変換区間の外部にあるときは、運転指令に基づいてトルク制御を行い、車輪の駆動力を列車の推進に寄与させる。
【0038】
図7は、3つの車両109a〜109cからなる軌間可変電車100が、軌間変換区間を通過するときの、ある時点での動作状態を説明する模式図である。
図7において、
図2と同一又は同等の構成部には同一符号を付している。また、電圧制御部3b,3cへの入力信号について、電圧制御部3aと同一の部分は図示を省略している。また、各車輪に付しているA1〜A4、B1〜B4及びC1〜C4の符号は、
図7では、車軸を意味している。さらに、
図7において、白抜きの車軸はトルク制御されている車軸を表し、ハッチングされている車軸は速度制御されている車軸を表している。
【0039】
図7において、インバータ2bの制御対象である車軸B1〜B4は、すべてが軌間変換区間の内部にあり、空転している。したがって、電圧制御部3bは、車軸B1〜B4の回転速度が、列車速度と一致するように速度制御を行う。電圧制御部3cについても、電圧制御部3bと同様である。一方、インバータ2aの制御対象である車軸A1〜A4は、すべて軌間変換区間の外部にあり軌道と接している。したがって、電圧制御部3aは、運転指令に基づくトルク制御を行い、車軸A1〜A4は駆動力が列車の推進に寄与するように制御される。
【0040】
図8は、3つの車両109a〜109cからなる軌間可変電車100が、軌間変換区間を通過するときの、ある時点での動作状態を説明する別の模式図である。
図8では、1台のインバータにつき、図示を省略した2台の主電動機に接続される車軸が制御される構成となっている点が、
図7と異なる。
図8において、
図2及び
図7と同一又は同等の構成部には同一符号を付して、重複する説明は省略する。また、電圧制御部3a2,3b1,3b2,3c1,3c2への入力信号について、電圧制御部3a1と同一の部分は図示を省略している。
【0041】
図8において、インバータ2b1の制御対象である車軸B1,B2は軌間変換区間の内部にあり空転している。したがって、電圧制御部3b1は車軸B1,B2の回転速度が列車速度と一致するように速度制御を行う。電圧制御部3b2,3c1についても同様であり、電圧制御部3b2は、インバータ2b2を制御して、車軸B3及びB4の回転速度が列車速度と一致するように速度制御を行い、電圧制御部3c1は、インバータ2c1を制御して、車軸C1及びC2の回転速度が列車速度と一致するように速度制御を行う。一方、インバータ2a1,2a2,2c2については、それぞれのインバータの制御対象である車軸がすべて軌間変換区間の外部にあるので、運転指令に基づくトルク制御を行う。よって、車軸A1〜A4及び車軸C3,C4は、駆動力が列車の推進に寄与するように制御される。
【0042】
上記の通り、実施の形態1における電圧制御部3の動作は、1台のインバータが制御する主電動機の台数によらない。また、1台のインバータの制御対象である複数の車軸が、複数の車両にわたって配置される構成であってもよい。さらには、インバータと、その制御対象である車軸とが、別々の車両に配置される構成であってもよい。
【0043】
また、本実施の形態において、軌間可変電車100には複数のインバータ2が搭載されており、それぞれのインバータ2に対応する数だけの電圧制御部3が搭載され、軌間可変電車の推進制御システムをなしている。そして、あるインバータ2の制御対象である車軸が軌間変換区間の内部にあるときでも、少なくとも一つのインバータ2については、当該インバータの制御対象である車軸のすべてが軌間変換区間の外部にあるように配置されている。例えば、軌間可変電車100が
図7に示す構成の場合、軌間変換区間の長さは車軸A4と車軸C1との間の距離よりも短い。また、軌間可変電車100が
図8に示す構成の場合、軌間変換区間の長さは車軸A2と車軸C3との間の距離よりも短い。すなわち、常に少なくとも一つの車軸は、駆動力が列車の推進に寄与するように制御できる状態にある。したがって、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過する途中で停止してしまった場合にも、軌間可変電車100を再び加速させて、軌間変換区間を通過することができる。また、このように、軌間可変電車100の速度が軌間変換区間を通過する途中で変化する場合にも、軌間変換区間の内部にある車軸の回転速度は列車速度と一致するように制御されるので、車軸が軌間変換区間を脱出するときに、当該車軸の車輪とレールとの摩擦も抑制される。
【0044】
ここで、車軸A1〜A4、車軸B1〜B4及び車軸C1〜C4のうち、軌間変換区間の内部にあるものと、外部にあるものが混在する場合の挙動について補足する。
【0045】
図7において、インバータ2cの制御対象である車軸のうち、車軸C1,C2は軌間変換区間の内部にあり空転している。一方、車軸C3,C4については軌間変換区間の外部にあって線路101のレールと接しており、なおかつ車両109cの荷重がかかっている。したがって、車軸C3,C4の回転速度は、当該車軸C3,C4の車輪が粘着の限界を超えて空転を起こさない限りは、列車速度と一致している。
【0046】
例えば、
図7に示す状態で、列車速度がわずかに増加したとき、車軸C3,C4の回転速度は列車速度に同期して増加する。一方、車軸C1,C2の回転速度は、列車速度に比べて小さくなる。そうすると、基準周波数f
nは、車軸C3,C4の回転周波数より小さく、車軸C1,C2の回転周波数より大きくなる。その結果、基準周波数f
nが変化したことによって、車軸C1,C2に対応する主電動機のすべり周波数が増加する。また、トルク指令演算部30が正のトルク指令値を演算するので、車軸C1,C2が加速される。このとき、車軸C3,C4にも、車両109cを加速又は減速させる駆動力が発生する。しかしながら、車軸C1〜C4のすべてが軌間変換区間の内部にある時点から上記の制御が継続されていれば、車軸C1〜C4のそれぞれの回転速度に大きな差が生じることはないので、車体の振動及び乗り心地の悪化といった問題の発生は抑止できる。ただし、列車速度を速度制御の目標値とすることから、列車速度に関する情報の分解能はできるだけ高く、更新周期はできるだけ短い方が望ましい。
【0047】
なお、軌間可変電車の各車軸には、機械ブレーキ、及び機械ブレーキを制御する制御装置(以下、両者をまとめて「ブレーキ制御装置」と称する)が備えられる。通常走行時、走行状態の車両又は列車が減速する際には、インバータ及び主電動機による回生ブレーキと、機械ブレーキとが併用される。
【0048】
ここで、軌間可変電車における何れかの車軸が軌間変換区間の内部にあるとき、当該車軸に対して機械ブレーキが作動すると問題が生じる。軌間変換区間の内部で、車輪が空転することは既に述べた通りである。つまり、軌間変換区間の内部で空転している車軸には車体の荷重がかかっておらず、車輪とレールとの摩擦による粘着力も発生しないため、機械ブレーキが作動すると、容易に車軸及び車輪の回転がロックしてしまうと考えられる。
【0049】
一方、実施の形態1による制御装置は、車軸の回転速度と列車速度とを一致させる速度制御を行うことを述べた。機械ブレーキによって車軸の回転がロックした状態で、主電動機の速度制御が行われると、インバータが主電動機に発生させるトルクと、機械ブレーキが発生するトルクとが干渉してしまう。したがって、軌間変換区間の内部にある車軸に対しては、機械ブレーキが作動しないようにすることが望ましい。
【0050】
以上より、実施の形態1に係る制御装置は、インバータの制御対象である車軸のうちの少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあるとき、当該インバータの電圧制御部は、車軸の回転速度が列車速度と一致するように、主電動機の速度制御を行う。この制御により、軌間変換区間の内部で空転している車軸の回転速度と列車速度との差が生じるのを抑制し、車輪とレールとが摩擦により損耗するのを抑制することができる。
【0051】
なお、実施の形態1に係る制御装置において、インバータの制御対象である車軸のすべてが軌間変換区間の外部にあるとき、当該インバータの電圧制御部は、運転指令に基づき主電動機のトルク制御を行うことが好ましい。この制御により、当該車軸の駆動力を軌間可変電車の推進に寄与させることができる。
【0052】
実施の形態2.
実施の形態1では、インバータ2の制御対象となる車軸の速度制御を行う具体的な方法として、車軸の位置情報に基づいてトルク指令演算部30の演算処理を切り替える方法を述べた。しかしながら、実施の形態1の方法では、軌間変換時トルクパターンの調整、又は速度制御器の制御ゲインの調整が必要となる。そこで、実施の形態2では、主電動機が誘導電動機である場合に、より簡便な方法で主電動機の速度制御を行う方法を述べる。
【0053】
図9は、実施の形態2に係る制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態2に係る制御装置200は、
図2に示す実施の形態1に係る制御装置200の構成において、位相演算部37の前段に周波数選択部39を備えた点で、実施の形態1と異なる。その他の構成は、
図2に示す実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
次に、実施の形態2における、周波数選択部39の動作について述べる。周波数選択部39は、位置検出部109から、4つの車軸103a〜103dの位置情報を取得する。そして、周波数選択部39は、車軸103a〜103dのうち少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあるとき、列車速度を電動機の電気周波数に換算した周波数換算列車速度を、インバータ周波数f
iとして出力する。また、周波数選択部39は、車軸103a〜103dのすべてが軌間変換区間の外部にあるとき、基準周波数演算部36から出力される基準周波数f
nと、すべり周波数演算部32から出力されるすべり周波数指令f
sとを加算した結果を、インバータ周波数f
iとして出力する。
【0055】
次に、周波数選択部39を上述のように動作させる意義を述べる。軌間変換区間において、車軸が空転することは前述の通りである。このとき、空転している車軸に対応する主電動機は、車輪がレールに接しているときと比べて負荷トルクが大幅に小さくなっている。摩擦及び風損を無視すると、空転する車軸に対応する主電動機の負荷トルクは、ほぼゼロに等しい。負荷トルクがゼロの誘導電動機は、回転子の回転周波数と、印加する電圧の周波数とが一致し、すべり周波数がゼロの状態で回転する。したがって、周波数選択部39が周波数換算列車速度をインバータ周波数f
iとして出力すると、軌間変換区間の内部で空転している車軸の回転速度は、列車速度とほぼ等しい速度に制御されることとなる。つまり、実施の形態1と同様に、軌間変換区間の内部で空転している車軸の回転が、列車速度を目標値として速度制御される。
【0056】
図7において、インバータ2bの制御対象である車軸B1〜B4は、すべてが軌間変換区間の内部にあり、空転している。したがって、電圧制御部3bの周波数選択部39は、周波数換算列車速度をインバータ周波数fiとして出力する。その結果、車軸B1〜B4の回転速度が列車速度と一致するように速度が制御される。電圧制御部3cについても、電圧制御部3bと同様である。一方、インバータ2aの制御対象である車軸A1〜A4は、すべて軌間変換区間の外部にあり軌道と接している。したがって、電圧制御部3aの周波数選択部39は、基準周波数fnとすべり周波数指令fsとを加算した結果を、インバータ周波数fiとして出力する。その結果、車軸A1〜A4は駆動力が列車の推進に寄与するようにトルクが制御される。
【0057】
ここで、車軸A1〜A4、車軸B1〜B4及び車軸C1〜C4のうち、軌間変換区間の内部にあるものと、外部にあるものが混在する場合の挙動について補足する。
【0058】
図7において、インバータ2cの制御対象である車軸のうち、車軸C1,C2は軌間変換区間の内部にあり空転している。一方、車軸C3,C4については軌間変換区間の外部にあって、車軸C3,C4の車輪は線路101のレールと接している。そして、車軸C1〜C4に対応する主電動機には、インバータ2cから同じ電圧が印加されている。
【0059】
レールと接している車輪の回転速度は、車輪が粘着の限界を超えて空転している場合を除いて、列車速度と一致している。したがって、車軸C3,C4に対応する主電動機は、周波数換算列車速度と等しい周波数で回転しており、さらに周波数換算列車速度と等しい周波数の電圧が印加されている。結果として、車軸C3,C4に対応する主電動機についてはすべり周波数がゼロの状態が実現し、トルクが発生しない。
【0060】
図9に示す実施の形態2に係る制御装置200のブロック図において、トルク指令演算部30の入力信号及び出力信号とは、
図2に示す実施の形態1に係る制御装置200のブロック図と同等の構成としている。上述の通り、周波数選択部39が周波数換算列車速度をインバータ周波数f
iとして出力している間は、すべり周波数指令f
sが無視されるので、すべての電動機のトルクがほぼゼロとなる。つまり、車軸103a〜103dのうち少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあるとき、トルク指令値τ
*の変化は、主電動機104a〜104dに発生するトルクに反映されない。したがって、実施の形態2に係る制御装置200においては、トルク指令演算部30の演算に影響を受けず、トルク指令演算部30の演算については、特に限定されない。
【0061】
以上より、実施の形態2に係る制御装置によれば、1台のインバータで誘導電動機である複数の主電動機を制御する際に、列車速度を電動機の電気周波数に換算した周波数換算列車速度をインバータの出力電圧の周波数とすることで、トルクパターン及び速度制御器などの調整を必要とせず、簡便に主電動機の速度制御を達成できるので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0062】
実施の形態3.
実施の形態1及び実施の形態2では、軌間変換区間の内部で空転している車軸の回転速度が、列車速度と一致するように制御を行った。このようにする目的は、車軸が軌間変換区間から脱出する際に、列車速度と車軸の空転速度との差によって、車輪及びレールの摩擦・損耗が生じるのを防ぐためであった。しかしながら、列車速度が十分に小さく、摩擦・損耗の程度も軽微であると判断されるときは、主電動機の速度制御を継続する必要性は薄い。
【0063】
図10と
図11を用いて、実施の形態3に係る制御装置の動作を説明する。
図10は、実施の形態3に係る制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態3に係る制御装置200は、
図2に示す実施の形態1に係る制御装置200の構成において、ゲート指令部38に列車速度の情報が入力される点で、実施の形態1と異なる。その他の構成は、
図2に示す実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、
図11は、実施の形態3における要部動作を説明するためのフローチャートである。
【0064】
ゲート指令部38は、
図11に示す制御処理、詳細には、インバータ2へのゲート信号出力のオンとオフ、すなわちゲートオンとゲートオフとの切り替え処理(以下「オンオフ切り替え処理」と称する)を実行する。
図11において、ゲート指令部38は、車軸103a〜103dのうちの少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあり(ステップS301,Yes)、列車速度が判定値である第1の速度以下のとき(ステップS302,Yes)、インバータ2のゲート信号出力を停止あるいは停止状態を継続する処理を行い(ステップS303)、
図11のフローを抜ける。
【0065】
また、ゲート指令部38は、車軸103a〜103dのうちの少なくとも一つが軌間変換区間の内部にあり(ステップS301,Yes)、列車速度が第1の速度より大きいとき(ステップS302,No)、インバータ2へのゲート信号出力を開始あるいはゲート信号出力の動作状態を継続する処理を行い(ステップS304)、
図11のフローを抜ける。
【0066】
また、ゲート指令部38は、車軸103a〜103dのすべてが軌間変換区間の外部にあるとき(ステップS301,No)、インバータ2へのゲート信号出力を開始あるいはゲート信号出力の動作状態を継続する処理を行い(ステップS304)、
図11のフローを抜ける。
【0067】
なお、上記のステップS302の判定処理では、列車速度と第1の速度とが等しい場合を“Yes”と判定しているが、“No”と判定してもよい。すなわち、列車速度と第1の速度とが等しい場合を“Yes”又は“No”の何れで判定してもよい。
【0068】
上述のように、ゲート指令部38は、軌間変換動作時におけるインバータ2の動作状態を切り替える処理を行うものであり、
図10には図示されない、その他の機能ブロックによって、インバータ2へのゲート信号出力のオンオフ切り替え処理が行われても何ら問題ない。例えば、機器の異常を検知したとき、又は運転手の判断によって非常停止操作が行われたときのオンオフ切り替え処理は、ゲート指令部38及び
図11のフローに示す処理よりも、優先的に実行されるべきものである。
【0069】
なお、実施の形態3では、列車速度が第1の速度より小さいときにインバータのゲートオフを実行する構成を実施の形態1に係る制御装置200に適用する場合について説明したが、この構成を実施の形態2に係る制御装置200に適用できるのは言うまでもない。
【0070】
以上より、実施の形態3に係る制御装置によれば、列車速度が判定値よりも小さいときにインバータをゲートオフする処理を行うことで、無駄な電力の消費を抑制することができる。また、列車速度が判定値よりも大きいときには、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0071】
実施の形態4.
実施の形態4では、実施の形態1〜実施の形態3の電圧制御部3に係る機能をソフトウェアで実現する際のハードウェア構成について、
図12を参照して説明する。なお、ここでいう機能とは、電圧制御部3における、トルク指令演算部30、電流指令演算部31、すべり周波数演算部32、電圧指令演算部33、電流フィードバック制御部34、電流処理部35、基準周波数演算部36、位相演算部37、ゲート指令部38及び周波数選択部39が該当する。
【0072】
上述した機能をソフトウェアで実現する場合には、
図12に示すように、演算を行うCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)300、CPU300によって読みとられるプログラムが保存されるメモリ302及び信号の入出力を行うインタフェース304を含む構成とすることができる。なお、CPU300は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、又はDSP(Digital Signal Processor)などと称されるものであってもよい。また、メモリ302とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性又は揮発性の半導体メモリなどが該当する。
【0073】
具体的に、メモリ302には、制御機能を実行するプログラムが格納されている。CPU300は、インタフェース304を介して、必要な情報の授受を行うことにより、本実施の形態で説明された各種の演算処理を実行する。
【0074】
また、
図12に示すCPU300及びメモリ302は、
図13のように処理回路303に置き換えてもよい。処理回路303は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0075】
最後に、実施の形態1〜実施の形態3の制御装置におけるインバータに用いられるスイッチング素子について説明する。実施の形態1〜実施の形態3のインバータで用いられるスイッチング素子としては、Si(珪素)を素材とする半導体素子(IGBT、MOSFET、ダイオードなど、以下「Si素子」と称する)を用いる構成が一般的である。一方、最近では、Siに代え、近年注目されているSiC(炭化珪素)を素材とする半導体素子(以下「SiC素子」と称する)が注目されている。
【0076】
SiC素子の特徴として、スイッチング時間を従来素子(例えばSi素子)に対して非常に短くする(約1/10以下)ことができる。このため、スイッチング損失が小さくなる。また、SiC素子は導通損失も小さい。このため、定常時の損失も従来素子に比して大幅(約1/10以下)に低減することが可能である。
【0077】
実施の形態1〜実施の形態2に係る手法の特徴として、上述したように、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過するときでもインバータをゲートオンし続ける制御を行う。また、実施の形態3に係る手法についても、列車速度が第1の速度よりも大きいときは、実施の形態1〜実施の形態2と同様にインバータをゲートオンし続ける制御を行う。このため、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過するときにインバータをゲートオフする場合と比べて、スイッチング素子のスイッチング回数が増加する。また、空転車輪を駆動する主電動機の電流は減少するが、励磁電流は流れ続ける。このため、スイッチング損失及び導通損失が小さいSiC素子は、本実施の形態に係る制御装置に用いて好適である。
【0078】
なお、SiCは、Siよりもバンドギャップが大きいという特性を捉えて、ワイドバンドギャップ半導体と称される半導体の一例である。このSiC以外にも、例えば窒化ガリウム系材料、又はダイヤモンドを用いて形成される半導体もワイドバンドギャップ半導体に属しており、それらの特性も炭化珪素に類似した点が多い。したがって、SiC以外の他のワイドバンドギャップ半導体を用いる構成も、本発明の要旨を成すものである。
【0079】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。