特許第6987278号(P6987278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6987278大腸癌のバイオマーカとしてのBMMF1 REPタンパク質の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987278
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】大腸癌のバイオマーカとしてのBMMF1 REPタンパク質の使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20211213BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211213BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20211213BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   G01N33/574 A
   G01N33/53 P
   G01N33/53 D
   C12Q1/02
   !C07K16/18ZNA
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-562839(P2020-562839)
(86)(22)【出願日】2019年1月25日
(65)【公表番号】特表2021-513658(P2021-513658A)
(43)【公表日】2021年5月27日
(86)【国際出願番号】EP2019051868
(87)【国際公開番号】WO2019149633
(87)【国際公開日】20190808
【審査請求日】2020年9月1日
(31)【優先権主張番号】18154190.5
(32)【優先日】2018年1月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512113803
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】ブント, ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ツア ハウゼン, ハラルド
(72)【発明者】
【氏名】ド ヴェリエ, エセル−ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】テスマー, クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ハイケンヴェルダー, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー, アヒム
(72)【発明者】
【氏名】ブルク−ケルナー, アメリ
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−522869(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/149633(WO,A1)
【文献】 特表2019−536006(JP,A)
【文献】 Corinna Whitley,Novel Replication-Competent Circular DNA Molecules from Healthy Cattle Serum and Milk and Multiple Sclerosis-Affected Human Brain Tissue,Genome Announcements,2014年,Vol.2 No.4,Page.e00849-14
【文献】 Kim Y. C. Fung,Blood-Based Protein Biomarker Panel for the Detection of Colorectal Cancer,PLOS ONE,2015年03月20日,Vol.10 No.3,Page.e0120425
【文献】 Timo Bund,Analysis of chronic inflammatory lesions of the colon for BMMF Rep antigen expression and CD68 macrophage interactions,Proc Nat Acad Sci USA,2021年,Vol.118 No.12,Page.e2025830118
【文献】 Turgay Kilic,Structural analysis of a replication protein encoded by a plasmid isolated from a multiple sclerosis patient,Acta Cryst,2019年,Vol.75 No.5,Page.498504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
G01N 33/53
C12Q 1/02
C07K 16/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸癌のバイオマーカとしての、牛肉及び牛乳因子グループ1(BMMF1)Repタンパク質の使用。
【請求項2】
前記Repタンパク質が、MSBI1ゲノムにコードされたRepタンパク質(MSBI1 Rep)、MSBI2ゲノムにコードされたRepタンパク質(MSBI2 Rep)、CMI1ゲノムにコードされたRepタンパク質(CMI1 Rep)、CMI2ゲノムにコードされたRepタンパク質(CMI2 Rep)又はCMI3ゲノムにコードされたRepタンパク質(CMI3 Rep)である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
配列番号2又は配列番号3に含まれるエピトープに結合する抗Rep抗体によって、対象からのサンプル中のRepタンパク質を検出するステップを含む、前記対象における大腸癌(CRC)の診断又は素因を提供するための方法。
【請求項4】
前記Repタンパク質に特異的な抗体が、配列番号1のアミノ酸1〜136、137〜229及び230〜324からなる群より選択されるアミノ酸配列内にあるエピトープに結合する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
対象からのサンプルが、癌性結腸組織、癌性結腸組織を取り囲む周囲組織及び良性結腸ポリープからなる群から選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、CD68陽性細胞が抗CD68抗体によってサンプル中で検出される、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
配列番号2又は配列番号3に含まれるエピトープに結合する抗Rep抗体によって大腸癌患者の腫瘍周囲領域からのサンプル中のRepタンパク質を検出するステップと、各抗体について、大腸癌特異的患者生存時間の一般的指標として役立つ免疫組織学的スコアを提案する染色細胞の割合及び強度を決定するステップと、を含む大腸癌患者の生存時間に関する予後スコアを提供するための方法。
【請求項8】
配列番号1、8、10〜12及び14で表される、牛肉及び牛乳因子グループ1(BMMF1)Repタンパク質、それらのフラグメント又はそれらの改変体からなる、大腸癌の診断又は素因を提供するためのバイオマーカ。
【請求項9】
配列番号2又は配列番号3に含まれるエピトープに結合する抗Rep抗体を含む大腸癌の診断試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸癌(CRC)のバイオマーカとしてのDNA複製関連(Rep)タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で何千人もの人々が結腸癌と診断されており、その多くは最終的にこの病気で死亡している。患者は典型的には結腸切除手術を受けた後、放射線療法又は全身化学療法を受け、この療法は腫瘍の肉眼的特性及び腫瘍ステージに基づいている。結腸外科的切除術後に化学療法を受けている一部の患者では無再発5年生存率が改善されるが、他の患者ではこの統計値は改善されない。
【0003】
大腸癌(CRC)は、米国における癌死の第2の主要な原因である。大腸癌患者のほとんどは、予測バイオマーカの欠如及び現在のスクリーニング方法の不便さに起因するスクリーニング率の不良により、後期に診断される。より早期の検出を増強するために、早期の検出及びCRCの病因へのさらなる洞察を容易にするバイオマーカが必要とされている。
【0004】
CRCは、結腸又は直腸における制御不能な細胞増殖の結果として進行したがんである。これらの悪性腫瘍は、遺伝的変化が正常から癌性増殖への移行を促進する既存の良性腺腫の結果として発症する可能性がある。エピジェネティックな事象は、この移行の重要なメカニズムとして認識されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Fungら、2015に記載されているような大腸癌の検出のための血液ベースのタンパク質バイオマーカパネルは、予測可能性に関して所望の結果を未だもたらしていない。したがって、残念ながら、予後及び診断の両方の目的のために使用され得るCRCのバイオマーカは存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願において、本発明者らは、図1に示される結腸癌発生のモデルを作製した。
【0007】
本発明者らは、離乳期間中の牛乳製品による母乳栄養の代替、又は一般的に乳製品又は牛肉製品の摂取のいずれかによる生後1ヶ月以内のBMMF(牛肉及び牛乳因子)剤の取り込みが、結腸におけるBMMF抗原による新生児の早期感染につながることを見出した。母体の抗体(移行抗体)の減少と、しばしば観察される生後ごく初期の新生児の免疫寛容の誘導に関連した免疫系の弱さに基づき、これらの剤は結腸の免疫応答を直接逃れるか、又はこれらの剤に対する免疫寛容の状況が誘導されるかのいずれかであろう。その後数年から数十年のうちに、宿主の免疫系に依存して、結腸粘膜固有層内に蓄積するBMMF抗原が増える。この蓄積はまた、BMMFに対する受容体に相当する特定の分子の取り込みによって誘発され得る。これらの分子は牛の産物の消費によっても取り込まれ、宿主細胞表面の受容体に代謝される。感染の限局的拡散と共に、BMMFの持続的な取り込みによって一定レベルの抗原量に到達すると、宿主免疫応答は慢性及び局所炎症の状態を誘導し、活性酸素種(ROS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(Cox−2)の安定した増加を生じ、これはROSによって誘導された周囲の細胞におけるランダムな突然変異の同時固定を伴う脱調節細胞増殖の確率を劇的に増加させる。
【0008】
Ki67(Ki67=増殖マーカー)IHC染色に基づく入手可能な結果は、特に陰窩の終点に近接して位置し、陰窩の遠位内腔部に向かって移動する上皮幹細胞に由来する基底上皮細胞が、結腸癌の腫瘍形成及び発生に対する基本的必要条件として突然変異の確率論的発現を可能にする本質的に高い増殖を特徴づけることを示している(図2)。したがって、BMMFは固有層内の慢性炎症の誘発に対する特異的かつ局所的な誘因であり、ROSの増加を導き、それは周囲の上皮細胞における増殖及び突然変異を誘導し、結腸癌の前駆体としてポリープの形成を最終的に導く。
【0009】
詳細には、11対のドナー組織サンプル(それぞれ腫瘍組織及び周囲組織)及び異なるドナーに由来する結腸ポリープ組織の4つのサンプルの選択物を、マウスモノクローナル抗Rep抗体でのIHC染色に供した。11個の腫瘍及び周囲サンプルに関して、11個の組織のうち9個が、少なくとも2個の抗Rep抗体で強い特異的抗体染色を示した。例示的に、抗Rep抗体(例えば、抗体10−3)による染色は、腫瘍ならびに周囲組織における組織サンプル4798、4799、4802、4806、4809及び4813におけるタンパク質標的の特異的検出を示す。一般に、染色強度は周囲組織の方が高く、周囲組織ではより小さなサイズの強く染色された細胞質集塊が結腸組織のリーベルキューンの特徴的なクリプト間の固有層内の細胞の明瞭な島内に集中している(全ての写真は陰窩の上皮細胞の環状配列の中心に結腸液に接触する陰窩の(内側の)内腔とリーベルキューンのクリプト全体に渡る切れ目を示している;図2)。腫瘍組織の染色はまた、主に腫瘍組織内の間質細胞の細胞質領域内で、より小さいサイズの凝集体の強い染色を示す。連続切断の染色に4種類の異なる抗Rep抗体を用いることにより、結腸ポリープの粘膜固有層にも同じ凝集体様構造が見える。結腸周囲組織及び結腸ポリープの両者ともに、最も高いRep特異的抗体検出を有する領域は、CD68陽性細胞について最も高い検出レベルを有する領域と相関する。これは、Rep特異的抗原の局在化が炎症性アイランド、すなわち、特に高レベルの炎症性単球、循環マクロファージ、又は組織マクロファージを有する領域と一致することを示している。
【0010】
本出願に追加的に示されるように、腫瘍周囲組織及び腫瘍組織のRepIRSスコア(IRS、免疫反応性スコア)の比較は、分析されたCRC患者の腫瘍周囲組織におけるRep検出の有意な増加を確認する。
【0011】
本発明者らは、癌誘発のためには結腸陰窩間の粘膜固有層内のBMMF抗原の量が慢性局所炎症の誘発に重要であり、拡散ROS/NOSの誘発は最終的に、鍵となる突然変異の発現によって初期ポリープ/腫瘍前駆細胞に変わる可能性のある隣接陰窩の分裂幹細胞及び娘細胞においてランダムな突然変異を誘発すると結論した。したがって、腫瘍周囲のBMMFレベルとCD68陽性マクロファージの強度の相関が観察可能であるはずである。実際、対応するCRC患者内のCD68検出のためのIRS値に対するRep検出のためのIRS値を試験することによって、Rep及びCD68検出の有意な相関が観察され、これは、Repのより高い検出レベルがCD68検出のより高いレベルと相関することを示す。
【0012】
患者の生存期間に対する、大腸癌患者の腫瘍周囲領域におけるRep検出の予後スコアを検定するために、「Rep低値」と「Rep高値」にグループ化した患者データに基づいてカプラン・マイヤー曲線を算出した。大腸癌患者におけるRep高値は、例えば、図13図14に示すように、患者の全生存期間の有意な減少と相関する。実験はRep検出と患者の生存の負の相関を示し、大腸癌組織におけるRep検出の予後スコアを強調するハザード比4.7と相関することを示している。「Rep低値」とスコア化された患者は5年及び10年生存確率が92%であるのに対し、「Rep高値」の患者は5年後74%、10年後65%と有意に生存確率が低下し、20〜30%の減少を示している。
【0013】
本発明者らはまた、Repタンパク質が検体中に存在する任意のこのような抗体に結合することを可能にする条件下で、抗Repタンパク質抗体を含むことが疑われる血清検体とRepタンパク質を接触させることによって、結腸癌患者の抗体レベルを試験した。本発明者らは、血清反応性が健康な対照と比較して、結腸癌患者において減少することを認識した。
【0014】
これまでに、18種の、異なるが部分的に関連するDNA分子のスペクトルが、異なる試験材料(ウシ血清、乳、1つの多発性硬化症患者の剖検の脳組織)から単離された(Funk,Gunst et al.2014,Gunst, zur Hausen et al.2014,Lamberto,Gunst et al.2014,Whitley,Gunst et al.2014;WO2015/062726A2;WO2016/005054A2)。18分離物を、それらの分子特性に従って、4つの異なる群BMMF1〜BMMF4に分けた(zur Hausenら、2017)。これらのグループのうち3つは、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)及びサイクロバクター属(Psychrobacter)プラスミドと顕著な程度の類似性を明らかにした。第4のグループは、ジェミサーキュラーウイルス(Gemycirularviridae)の代表である3つの分離物から構成された。推定Rep遺伝子は、利用可能な配列とのインシリコ比較により得られたBMMFのDNA配列の一部として同定された。rep遺伝子において隣接するプライマーを使用する増幅はウシ血清からの完全及び部分環状DNAゲノムの単離を導いた(Funkら、2014)。これは、特定の環状一本鎖DNAゲノムの存在について、市販の乳製品からのサンプルに拡張された。14の異なる単離物(約1100〜3000ヌクレオチド)の全長環状一本鎖DNA分子をクローニングし、配列決定した(Whitleyら、2014; Gunstら、2014;Funkら、2014;Lambertoら、2014)。ヒト脳及び血清(すべて多発性硬化症患者由来)からさらに4つの分離物を得た(Whitleyら、2014;Gunstら、2014;Lambertoら、2014)。
【0015】
これらの分離物の中で、伝達性海綿状脳症(TSE)関連分離物Sphinx1.76(1758bp;受入番号HQ444404)に密接に関連する2つのDNA分子が、MS患者の脳組織から分離された。(Manuelidis L.2011))これらの分離物はMSBI1.176(MSBI、多発性硬化症脳分離物)(1766bp)及びMSBI2.176(1766bp)であり、それぞれ「MSBI1ゲノム」及び「MSBI2ゲノム」と命名された。MSBI1.176は、Sphinx1.76の配列と98%の配列類似性を共有する。分離物の大きなオープンリーディングフレーム(ORF)は、それらの間で高い類似性を共有する推定DNA複製タンパク質をコードする。もう1つの一般的な特徴は、イテロンのようなタンデムリピートの存在である。この反復領域のアラインメントは、コアにおける単一ヌクレオチドの変異を示す。このイテロン様反復は、Repタンパク質の結合部位を構成し得る。分離物の配列はEMBL Databankに登録番号LK931491(MSBI1.176)及びLK931492(MSBI2.176)(Whitley C.et al.2014)で寄託されており、WO2016/005054A2に整列及び記載されている。
【0016】
牛乳からさらに分離物を入手した。これらの牛乳分離物(CMI)は、それぞれ「CMI1ゲノム」、「CMI2ゲノム」及び「CMI3ゲノム」と命名されたCMI1.252、CMI2.214及びCMI3.168であった。分離物の配列は登録番号LK931487(CMI1.252)、LK931488(CMI2.214)及びLK931489(CMI3.168)でEMBL Databankに寄託されており、WO2016/005054A2に整列及び記載されている。
【0017】
本発明者らは、CMIゲノム及びMSBIゲノムの両方が、転写されたRNAの有意な産生を示し、これにコードされたRepタンパク質が結腸癌アイランド及びポリープ周辺の周囲組織において発現されることを見出した。本発明者らは、コードされたRepタンパク質(MSBI1 Rep、MSBI2 Rep、CMI1 Rep、CMI2 Rep、CMI3 Rep)が結腸癌のバイオマーカとなることを見出した。DNA複製関連タンパク質(RepB)として、Repタンパク質はDNA結合活性を有し、エピソーム又はウイルスDNA分子の複製の開始に必須であり得る。Repタンパク質は自己オリゴマー化及び凝集の顕著な可能性を示し、これは、インビボ及びインビトロにおける原核生物系内で記載されている(Giraldo,Moreno−Diaz de la Espina et al.2011,Torreira,Moreno−Del Alamo et al.2015)。
【0018】
本発明者らは、Repタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製した。特定の実施形態において、抗Rep抗体は、図3に例示されるRepタンパク質のエピトープに結合する。特に好ましい抗体は、配列番号1のアミノ酸1〜136、137〜229及び230〜324からなる群より選択されるアミノ酸配列内のエピトープに結合する。例えば、抗体は、配列番号2又は配列番号3に含まれるエピトープに結合する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、結腸癌発生のための提案されたモデルを示す。
図2図2は、Ki67IHC染色(利用可能なオンラインデータ)に基づく結果を示す。特に、陰窩の終点に近接して位置し、陰窩の遠位内腔部に向かって移動する上皮幹細胞に由来する基底上皮細胞は、結腸癌の腫瘍形成及び発生に対する基本的要求として突然変異の確率論的発現を可能にする本質的に高い増殖を特徴づけることが分かるであろう。
図3図3は、産生された抗体の特徴及びRep内のエピトープの局在化を示す。
図4図4は、結腸癌組織及び取り囲む非癌性周囲組織への抗体10−3(C群抗Rep抗体)の使用により得られたIHCデータを示す。患者の指定:#4799、#4809、#4798、#4802、#4813及び#4806
図5図5は、患者#4809の結腸腫瘍を取り囲む周囲組織に対する抗Rep抗体3−6及び10−3(C群抗Rep抗体)及び市販の抗CD68抗体の使用によって得られたIHCデータを示す。
図6図6は、抗Rep抗体群A及びC抗体(抗体1−5、3−6、10−3及び11−5)ならびに結腸良性ポリープを取り囲む周囲組織に対する市販の抗CD68抗体の使用によって得られたIHCデータを示す。
図7図7は、抗Rep抗体による大腸癌患者の腫瘍組織領域の免疫組織化学染色におけるIRS値の分布を示す。
図8図8は、抗Rep抗体を有する大腸癌患者の腫瘍周囲組織領域の免疫組織化学染色におけるIRS値の分布を示す。
図9図9は、抗CD68抗体を有する大腸癌患者の腫瘍組織領域の免疫組織化学的染色のためのIRS値の分布を示す。
図10図10は、抗CD68抗体を有する大腸癌患者の腫瘍周囲組織領域の免疫組織化学的染色のためのIRS値の分布を示す。
図11図11は、大腸癌患者の腫瘍周囲及び腫瘍組織のIRS値の表示である。
図12図12は、Rep検出のIRS値を、CD68陽性率に対してプロットし、これを7つのレベル(0〜6)に分類した結果を示す。
図13図13は、大腸癌患者の生存率を「Rep低値」(IRS値0〜1.9)と「Rep高値」(IRS値2〜6)に分類したカプラン・マイヤー表示である。
図14図14は、「Rep低値」(IRS値0〜1.9)と「Rep高値」(IRS値2〜6)に群分けした大腸癌患者のカプラン・マイヤー生存曲線のCox相関に基づく腫瘍周囲大腸癌患者組織におけるRep検出の予後ハザード比を表示したものである。
図15図15は、大腸癌患者の生存率を「CD68低値」(IRS値0〜2.9)と「CD68高値」(IRS値3〜6)に分類したカプラン・マイヤー表示である。
図16図16は、抗BMMF−Rep抗体5−2による免疫染色後の、典型的なCRC患者(腫瘍周辺部及び腫瘍)並びに個人ドナーの4つのポリープの組織ライセートにおけるBMMF−Rep抗原の免疫検出の結果を示す。100ngのアフィニティー精製したMSBI1.176Repタンパク質を陽性対照として負荷した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、Repタンパク質が、結腸癌を発症する高められたリスクのためのバイオマーカとなり得、そしてCRC患者の全生存予後を決定するためのマーカーとして有用であるという教示を提供する。
【0021】
「結腸癌」と「大腸癌」(CRC)という用語は互換的に使われる。大腸癌は、結腸又は直腸における制御不能な細胞増殖の結果として進化した癌である。これらの悪性腫瘍は、既存の良性アデノーマの遺伝子変化が正常から癌性増殖への移行を促進する結果として発症する可能性がある。「結腸癌」又は「大腸癌」という用語は、この疾患の前段階、初期段階又は後期段階、及びそれに由来する転移を意味する。
【0022】
異なる実施形態では、本発明はまた、将来の疾患リスクを評価するための、健康な結腸組織(癌診断のない個体由来の組織又は疾患についての特定のヒント)の系統的試験を包含し得る。これは、本発明が大腸癌を発症する素因を決定するのにも適していることを意味している。
【0023】
本明細書で使用される「Repタンパク質」は、DNA複製関連タンパク質(RepB)を指す。Repタンパク質はDNA結合活性を含み、エピソーム/ウイルスDNA分子の複製の開始に必須であり得る。一般に、Repタンパク質は、小さなSphinxゲノムの群からのRepタンパク質を指す(Whitleyら、2014)。特に、Repタンパク質はMSBI1ゲノムコードRepタンパク質(MSBI1 Rep)、MSBI2ゲノムコードRepタンパク質(MSBI2 Rep)、CMI1ゲノムコードRepタンパク質(CMI1 Rep)、CMI2ゲノムコードRepタンパク質(CMI2 Rep)又はCMI3ゲノムコードRepタンパク質(CMI3 Rep)である。好ましくは、MSBI1 Repタンパク質は、受入番号LK931491の下でEMBLデータバンクに寄託されたMSBI1.176によってコードされ、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有し、又はRepタンパク質は、受入番号LK931492の下でEMBLデータバンクに寄託されたMSBI2.176によってコードされるMSBI2であり、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する(Whitley, Gunst et al. 2014)。別の好ましい実施形態において、CMI1 Repタンパク質は、受入番号LK931487の下でEMBLデータバンクに寄託されたCMI1.252によってコードされ、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する。別の好ましい実施形態において、CMI2 Repタンパク質は、受入番号LK931488の下でEMBLデータバンクに寄託されたCMI2.214によってコードされ、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する。別の好ましい実施形態において、CMI3 Repタンパク質は、受入番号LK931489の下でEMBLデータバンクに寄託されたCMI3.168によってコードされ、配列番号12に示されるアミノ酸配列を有する。特に好ましい実施形態において、Repタンパク質は、配列番号1の1〜229のアミノ酸から本質的になるBMMF1ゲノムの間で保存されたN末端領域、及び配列番号1のアミノ酸230〜324から本質的になるMSBI1.176に特異的なC末端可変領域を含む。N末端保存領域は、配列番号1の1〜136のアミノ酸から本質的になる推定上の第1のDNA結合ドメインと、配列番号1の137〜229のアミノ酸から本質的になる第2の推定上のDNA結合ドメインとを含む。C末端ドメインは、任意の公知のタンパク質とほとんど配列相同性を示さず、そしてアミノ酸230〜324からなる。
【0024】
「Repタンパク質」はまた、配列番号1又は配列番号8のタンパク質のフラグメント及び改変体を包含し、これらは配列番号1又は配列番号8のアミノ酸配列を有するRepタンパク質に特異的な抗Rep抗体に結合し得る。好ましくはこのようなフラグメントは配列番号1又は配列番号8のアミノ酸配列を有するタンパク質の免疫原性フラグメントであり、これらは配列番号1又は配列番号8のRepタンパク質に対する抗Repタンパク質抗体のための少なくとも1つのエピトープを含み、そして好ましくは少なくとも7、8、9、10、15、20、25又は50の連続するアミノ酸を含む。特定の実施形態では、フラグメントがRepタンパク質のドメイン、例えば、N末端保存領域、C末端可変領域、第1又は第2のDNA結合ドメインを含むか、又は本質的にそれらからなる。配列番号1又は配列番号8を有するタンパク質の変異体は配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸欠失、置換又は付加を含み、配列番号1又は配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有し、変異体は、配列番号1又は配列番号8のアミノ酸配列を有するRepタンパク質に特異的な抗Rep抗体に結合することができる。変異体の定義内に含まれるのは、例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸、ペプチド核酸(PNA)などを含む)、置換された結合を有するポリペプチド、ならびに天然に存在するもの及び天然に存在しないもの両方の、当技術分野で公知の他の改変を含有するポリペプチドである。Repタンパク質という用語は、異種アミノ酸配列、リーダー配列、又はタグ配列などを有する融合タンパク質を含む。本発明の特定の実施形態において、タンパク質タグは上記のRepタンパク質(例えば、MSBI1、MSBI2、CMI1、CMI2又はCMI3からなる群より選択されるRepタンパク質)上に遺伝的に移植される。特に、少なくとも1つのタンパク質タグは、配列番号1〜3、8〜12、14のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに結合される。このようなタンパク質タグは、化学物質によって、又は酵素的手段によって除去可能であり得る。タンパク質タグの例は、精製のためのアフィニティー又はクロマトグラフィータグである。例えば、RepタンパクはHis−Tag(配列番号4)、T7−Tag(配列番号5)、FLAG−Tag(配列番号6)及びStrep−II−Tag(配列番号7)からなるグループから選択されるように、Tag配列に融合することができる。His−Tag (配列番号4)、T7−Tag(配列番号5)、FLAG−Tag(配列番号6)、又はStrepII−Tag(配列番号7)。さらに、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体などの蛍光タグを、本発明によるRepタンパク質に付着させることができる。
【0025】
特に好ましい実施形態において、MSBI1ゲノムコード化Repタンパク質(MSBI1 Rep)はヒト細胞株(例えば、HEK−293、HEK293T、HEK293T、HEK293FT、HaCaT、HeLa、SiHa、CaSki、HDMEC、L1236、L428、BJAB、MCF7、Colo678、任意の一次細胞株)ならびにウシ細胞株(例えば、MAC−T)又はマウス細胞株(例えば、GT1−7)における産生のためにコドン最適化される。これは、PCT/EP2017/075774に詳細に記載されている。
【0026】
本発明のRepタンパク質(上記で定義したRep断片及びRep変異体を含む)は、古典的化学合成によって調製することができる。合成は、均一溶液中又は固相中で行うことができる。組換えDNA技術の手段により、ポリペプチドを調製することもできる。
【0027】
本明細書で使用される「対象」は、マウス、ウシ、例えばウシ、サル及びヒトを含む哺乳動物個体又は患者を指す。好ましくは、対象はヒト患者である。
【0028】
本明細書で使用される「抗Rep抗体」は、Repタンパク質に検出可能なレベルで結合する抗体を指し、非Repタンパク質よりも本発明のRepタンパク質により強く親和性である。好ましくは、Repタンパク質に対する抗原親和性がバックグラウンド結合よりも少なくとも2倍大きい。特に、抗Rep抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するMSBI1 Rep又はMSBI2 Repに特異的である。特定の実施形態では、抗体がMSBI1 Rep、MSBI2 Rep、CMI1 Rep、CMI2 Rep及び/又はCMI3 Repに対して交差特異的である。特定の実施形態では、抗Rep抗体がMSBI1 Rep、MSBI2 Rep、CMI1 Rep、CMI2 Rep及び/又はCMI3 Repの少なくとも2つ、好ましくは全てに対して交差特異的である。
【0029】
本発明者らはまた、抗Repタンパク質抗体を含むことが疑われる検体とRepタンパク質を、Repタンパク質が検体中に存在する任意のこのような抗体に結合することを可能にする条件下で接触させることによって、結腸癌患者の抗体レベルを試験した。このような条件は、典型的には過剰のRepタンパク質を使用する生理学的温度、pH及びイオン強度である。検体とのRepタンパク質のインキュベーションに続いて、抗原を含む免疫複合体を検出する。特定の実施形態において、Repタンパク質はシグナル生成化合物(例えば、検出可能な標識)に結合されるか、又はシグナル生成化合物に結合されるさらなる結合剤(例えば、二次抗ヒト抗体)が、免疫複合体を検出するために使用される。
【0030】
抗Rep抗体はタンパク質抗原としてのRepタンパク質に基づくアッセイにおいて検出及び定量され得、これは、試料において疑われる哺乳動物(例えば、ヒト)抗体の標的として役立つ。好ましくは、Repタンパク質は精製され、そして検体は例えば、血清又は血漿であり得る。この方法は、マトリックス上へのRepタンパク質の固定化、続いて、固定化されたRepタンパク質の検体とのインキュベーションを含む。最後に、Repタンパク質と検体の抗体との間に形成された免疫複合体のRep結合抗体を、シグナル生成化合物、例えば、二次HRP−(西洋ワサビ−ペルオキシダーゼ)結合検出抗体に結合した検出結合剤によって定量し、HRP基質に基づく定量を可能にする。このシグナル生成化合物又は標識は、それ自体が検出可能であるか、又は追加の化合物と反応させて検出可能な生成物を生成することができる。
【0031】
イムノアッセイの設計は、非常に多くのバリエーションがあり、そして多くの形式が当該分野で公知である。プロトコールは例えば、固体支持体又は免疫沈降を使用し得る。ほとんどのアッセイはシグナル発生化合物、例えば、標識抗体又は標識Repタンパク質に結合された結合剤の使用を含む;標識は、例えば、酵素、蛍光、化学発光、放射性、又は色素分子であり得る。免疫複合体からのシグナルを増幅するアッセイも知られており、その例は、ビオチン及びアビジン又はストレプトアビジンを利用するアッセイ、ならびにELISAアッセイなどの酵素標識及び酵素媒介免疫アッセイである。
【0032】
イムノアッセイは、不均一又は均一フォーマットであり得、そして標準又は競合型であり得る。標準フォーマット及び競合フォーマットの両方が、当技術分野で知られている。
【0033】
免疫沈降又は凝集アッセイフォーマットにおいて、Repタンパク質と抗Rep抗体との間の反応は、溶液又は懸濁液から沈殿し、沈殿物の可視層又はフィルムを形成するネットワークを形成する。抗Rep抗体が検体中に存在しない場合、目に見える沈殿物は形成されない。
【0034】
さらなる実施形態において、本発明者らは、サンプル中の増加した量のRepタンパク質が結腸癌の診断又は素因と相関する方法を使用した。このような実施形態において、サンプル中のRepタンパク質は、抗Rep抗体によって検出される。
【0035】
本明細書中で使用される「サンプル」は、癌性結腸組織、癌性結腸組織を取り囲む周囲組織、及び(良性)結腸ポリープを包含する生物学的サンプルをいう。サンプルは、組織培養物又は生検検体などの組織サンプルを包含する。
【0036】
このような方法は、抗Rep抗体によって被験体由来のサンプル中のRepタンパク質を検出する工程を包含する。このような方法において、Repタンパク質は、免疫組織化学的方法又は免疫蛍光顕微鏡法によって組織サンプル中で検出される。
【0037】
特定の実施形態において、抗Rep抗体は、サンプル中のRepタンパク質の検出又は捕捉のために使用される。
【0038】
用語「抗体」は、好ましくは異なるエピトープ特異性を有するプールされたポリクローナル抗体、ならびに別個のモノクローナル抗体調製物から本質的になる抗体に関連する。本明細書で使用される場合、用語「抗体」(Ab)又は「モノクローナル抗体」(Mab)は完全な免疫グロブリン分子、ならびにRepタンパク質に特異的に結合することができる抗体断片(例えば、Fab及びF(ab‘)断片など)を含むことを意味する。Fab及びF(ab‘)フラグメントは、インタクトな抗体のFcフラグメントを欠き、循環からより迅速に取り除かれ、インタクトな抗体よりも非特異的な組織結合が少ないかもしれない。従って、これらのフラグメント、ならびにFAB又は他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物が好ましい。さらに、本発明の目的に有用な抗体には、キメラ、一本鎖、多機能(例えば、二重特異性)及びヒト化抗体又はヒト抗体が含まれる。
【0039】
特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合フラグメントはシグナル生成化合物に結合され、例えば、検出可能な標識を有する。抗体又はその抗原結合フラグメントは、例えば、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤又は酵素で直接的又は間接的に検出可能に標識することができる。当業者は、通常の実験を用いて、抗体に結合するための他の適切な標識を知っているか、又はそれを確認することができる。
【0040】
抗Rep抗体は好ましくは当業者に周知の方法により、配列番号1又は配列番号8のアミノ酸配列又はその断片を有するRepタンパクに対し、産生(生成)される。
【0041】
特定の実施形態において、抗Rep抗体は、小さなSphinxゲノム(抗Small−Sphinx様Rep抗体又は抗SSLRep抗体)の群からのいくつかの又は全ての種類のRepタンパク質に結合することができる本発明の方法において使用される。このような抗SSLRep抗体は、配列番号1のアミノ酸1〜229のRepタンパク質の保存されたN末端領域内のエピトープに結合する。特定の実施形態では、配列番号2(配列番号1のアミノ酸32〜49)又は配列番号3(配列番号1のアミノ酸197〜216)内のエピトープに結合する抗SSLRep型の抗Rep抗体が使用される。配列番号2及び配列番号3のペプチド断片は、小さなSphinxゲノム群由来のRepタンパク質の間で高度に保存されており、それらの親水性のために露出しているようである。抗SSLRep型の抗Rep抗体は、例えばマウス又はモルモットの免疫化によって、配列番号2又は3に示されるアミノ酸配列から本質的になるペプチドによって;又は配列番号1のアミノ酸1〜229の保存されたN末端Repタンパク質領域に由来する、好ましくは少なくとも8〜15アミノ酸を含む他の免疫原性フラグメントによって産生され得る。
【0042】
さらなる実施形態において、MSBI1 Repタンパク質に特異的な抗Rep抗体が使用される。このような抗体は、例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有する全長Repタンパク質でマウス又はモルモットのような哺乳動物を免疫することによって産生され得る。
【0043】
好ましくは、本発明の方法がピコグラムからフェムトグラムまでの範囲までのRepタンパク質を検出することができる抗Rep抗体を使用する。
このような抗Rep抗体群の例を表1に示す:
【0044】
【表1】
【0045】
A群の抗Rep抗体は配列番号3(配列番号1のaa198〜217)に示されるアミノ酸配列内にエピトープを有し、そして小さなSphinxゲノム群のこの保存されたエピトープを含むMSBI1 Rep及びRepタンパク質(例えば、MSBI2、CMI1、CMI4)を検出し得る。免疫蛍光アッセイにおいて、このような抗Rep抗体は特異的なRep局在化パターンを検出し、ここで、主要な局在化は、細胞質及び核膜にわたって均一に分布され;そしてさらなる弱く均一に分布された局在化が核において見られる。このようなA群抗体の例は、実施例においてA群抗体として使用された抗体AB01 523−1−1(抗体1−5とも呼ばれる;DSM ACC3327)である。
【0046】
グループBの抗Rep抗体は配列番号2(配列番号1のaa33〜50)に示されるアミノ酸配列内にエピトープを有し、小さなSphinxゲノムグループ(例えば、MSBI2、CMI1、CMI4)のこの保存されたエピトープを含むMSBI1 Rep及びRepタンパク質を検出することができる。免疫蛍光アッセイにおいて、このような抗Rep抗体は、Repタンパク質の特異的スペックル(細胞質凝集)(しばしば核膜の周辺)を検出する。このようなB群抗体の例はAB02 304−4−(抗体5−2とも呼ばれる;DSM ACC3328)として指定される抗体であり、これは、実施例においてB群抗体として使用された。
【0047】
C群の抗Rep抗体は、MSBI1(配列番号1)の構造エピトープを特異的に検出する。免疫蛍光アッセイにおいて、このような抗Rep抗体は、特異的なRep局在化パターンを検出し、ここで、主要な局在化は、細胞質及び核膜にわたって均一に分布され;そしてさらなる弱く均一に分布された局在化が核において見られる。このようなC群抗体の例は、aa137〜324の配列中にエピトープを有するC群抗体として実施例において使用された抗体MSBI1 381−6−2(抗体3−6とも呼ばれる;DSM ACC3329)である。C群抗体の別の例は、MSBI1 Rep(aa230〜324)のC末端ドメインにおけるエピトープを検出する抗体MBSI1 572−13−19(抗体10−3とも呼ばれる)である。C群抗体の別の例は、MSBI1 Rep(aa1〜136)のN末端ドメインにおけるエピトープを検出する抗体MBSI1 617−1−3(抗体11−5とも呼ばれる)である。
【0048】
D群の抗Rep抗体はMSBI1の構造エピトープ(配列番号1)を特異的に検出し、ここで、「D1」として指定される抗体MSBI1 961−2−2(DSM ACC3331)は、MSBI1のC末端ドメイン中の配列番号9(aa281−287)に示されるエピトープを検出する。抗体MSBI1 761−5−1(抗体13とも呼ばれる; DSM ACC3328)が「D2」として指定されるが、MSBI1の3D構造エピトープを検出し、これはインビボ条件下で排他的にアクセス可能であり、ウェスタンブロットではアクセスできない。免疫蛍光アッセイにおいて、このような抗Rep抗体は、Repタンパク質の特異的スペックル(細胞質凝集)(しばしば核膜の周辺)を検出する。
本発明を、以下の実施例によってさらに説明するが、これらに限定されるものではない:
【実施例】
【0049】
実施例1:結腸組織におけるBMMFタンパク質標的の検出
免疫組織化学的検査(IHC)に基づく結腸組織におけるBMMF−Rep関連タンパク質標的の検出には、抗Rep抗体10−3(1:500希釈)、3−6(1:500)、11−5(1:100)及び1−5(1:100)を用いた。ウサギ抗CD68抗体(Cell Signaling Technology Europe BV, Catalogue #76437,1:800)を用いて、単球、循環マクロファージ、組織マクロファージのCD68−特異的染色を行った。結腸組織試料のパラフィン包埋組織切片を、Leica BOND自動IHC染色システム(EDTAエピトープ回収バッファー)上で、それぞれの抗体とインキュベートした。比色染色は、Leica DAB染色キット(Leica biosystems、Abcam社のウサギ抗−マウス二次抗体ab125904(1:500))を用いて行った。染色した組織切片をZeiss光学顕微鏡でデジタル化した。
【0050】
結果
11対のドナー組織サンプル(各腫瘍組織及び周囲組織)及び結腸ポリープ組織の異なるドナー由来の4つのサンプルからの選択物を、マウスモノクローナル抗Rep抗体でのIHC染色に供した。11個の腫瘍及び周囲サンプルに関して、11個の組織のうち9個が、少なくとも2個の抗Rep抗体で強い特異的抗体染色を示した。典型的には、抗体10−3による染色が、腫瘍ならびに周囲組織における組織サンプル4798、4799、4802、4806、4809及び4813におけるタンパク質標的の特異的検出を示す。一般に、染色強度は周囲組織についてより高く、ここで、より小さいサイズの強く染色された細胞質凝集体は結腸組織のリーベルキューンの特徴的なクリプトの間の固有層内の細胞の別個の島内に集中する(すべての写真がリーベルキューンのクリプト全体にわたる横断切断を示し、陰窩の(内部)管腔は、陰窩の上皮細胞のリング様配列の中心において結腸液に接触する)。腫瘍組織の染色はまた、主に腫瘍組織内の間質細胞の細胞質領域内で、より小さいサイズの凝集体の強い染色を示す。逐次的切断の染色に4種類の異なる抗Rep抗体を用いることにより、結腸ポリープの粘膜固有層にも同じ凝集体様構造が見える。両者とも、結腸周囲組織及び結腸ポリープについては、Rep特異的抗体検出の最も高い領域がCD68陽性細胞の検出レベルが最も高い領域と相関しており、特に炎症性単球、循環マクロファージ、又は組織マクロファージのレベルが高い領域におけるRep特異的抗原の局在化を指摘している。
【0051】
IHC結果の確認のために、患者組織材料の一部を、組織ホモジナイザーを用いて8M尿素変性溶解緩衝液中で溶解し、SDS−PAGEに供した。目的の領域を切断し、トリプシン消化し、BMMF1特異的ペプチド標的の存在について質量分析によって分析した。強いIHCシグナルレベルを有する4対(腫瘍及び周囲組織)のセットを、IHCシグナルを有さない1対と一緒に選択した。IHC結果と一致して、4つの強いIHC陽性周囲組織のみが、1つのBMMF1群特異的ペプチド配列の質量スペクトル検出を可能にした。
【0052】
IHCにおける抗体検出の特異性を確認するために、最も強いIHCシグナル検出を有する5つのサンプルからのDNA単離物を、ローリングサークル増幅及びBMMF−グループ1特異的プライマーを用いたPCR及びDNA配列決定に供して、同じ組織材料中のBMMF DNAの存在を分析した。実際、各ドナー内の5つの最も強いIHCサンプル対(腫瘍及び周囲組織)のセットに基づいて、MSBI1特異的DNAが、少なくとも1つの組織型(腫瘍又は周囲組織)から単離された。
【0053】
実施例2:CRC組織マルチアレイ(TMA)の免疫組織化学染色
大腸癌(CRC)患者の組織材料におけるBMMF1 Repタンパク質抗原の検出を、特異的マウスモノクローナル抗BMMF1 Rep抗体によるCRC組織マルチアレイ(TMA)の免疫組織化学染色に基づいて試験した。したがって、合計259人の大腸癌患者を代表するTMAが使用され、全部で患者当たりそれぞれ2つの腫瘍組織スポットと、2つの腫瘍周囲組織領域のスポットが提供された。全患者は2003年と2004年にハイデルベルグの大学病院で治療された。TMAサンプルは、腫瘍疾患ナショナルセンター(NCT、ハイデルベルク、ドイツ)の組織バンクから提供され、当該組織バンクの規定、及びHermann Brenner、Michael Hoffmeister及びJenny Chang−Claude(腫瘍疾患ナショナルセンター(NCT)ハイデルベルク、ドイツ及びハイデルベルグ大学病院の病理学研究所、ドイツ)の許可によるハイデルベルグ大学の倫理委員会の承認に準拠して行った。
【0054】
組織染色
TMAを、EDTAエピトープ回収及び所定の抗体インキュベーションを用いて、BOND MAXマシン(Leica Biosystems)上で完全に自動的に染色した(表2)。検出は、DABクロモゲン及びヘマトキシリン対比染色を含む結合ポリマー精密検出キット(DS9800 Leica DAB Kit)を用いて行った。スライドをデジタルスライドスキャナー(浜松ホトニクス株式会社)でスキャンし、浜松ホトニクスNDPビューアーソフトウェアに基づいて分析した。
【0055】
【表2】
【0056】
BMMFシグナル定量
2名の研究者が以下のスコアリング基準に従って組織スポットを独自にスコアリングした。各抗体について、染色された細胞の割合(陽性)及び強度(I)を決定した。Rep染色では間質染色のみが評価され、腫瘍組織スポット又は腫瘍周囲スポットの陰窩における腫瘍領域における検出されたBMMF抗原の優勢な局在が無視できる程度の染色で示された。Rep染色の陽性(POS)は0が全く陽性組織部分を示さず、1が1〜10%陽性を示し、2が11〜30%を示し、3が染色された凝集体を示す個々の組織スポットの30%を超える、三段階レベルスケールを用いて評価した。CD68/マクロファージ染色について、陽性スコアは陰性組織スポットに対して0と設定され、1は<20%陽性細胞を示し、2は20〜60%を示し、3は陽性細胞の60%以上を示した。強度(I)は一般に次のように等級付けされた:0=反応なし、1=軽度、2=強い染色。統計分析のために、免疫反応性スコアIRSを以下のように計算した:
【0057】
IRS=[(I(検査官1)+I(検査官2))/2]*[(POS(検査官1)+POS(検査官2))/2];最小値=0、最大値=6。
【0058】
概要を表3に示す。259例中、12例は組織の質が悪く、1例は臨床データが欠落していたため除外した。合計で、246人の患者からのデータを、さらなる分析のために処理した。
【0059】
【表3】
【0060】
統計解析
統計解析は、R−3.5.2(http://www.r−project.org)及びR−studio2016を用いて行った。腫瘍組織と腫瘍周囲組織を比較するために、ウィルコクソンの両側符号付順位検定を行った。免疫染色と臨床データの間の相互依存性は、クラスカル・ウォリス検定を用いて計算した。カプラン・マイヤー法を用いて生存曲線をプロットし、log−rank検定を用いて分析した。ハザード比はCox回帰分析により決定した。P値0.05未満を統計学的に有意とみなした。
【0061】
結果
合計で、n=246の大腸癌患者についてスコア情報を収集した。腫瘍組織領域のRepスコアリングでは、患者組織の49,3%が陽性を示したが、腫瘍周囲組織のスコアリングでは、患者組織の99,1%が陽性を示した。IRS値の対応する分布は、0及び1のIRS値を有する症例の濃縮を伴う腫瘍組織についての非対称分布を示す(図7)。この傾向は、IRS値の濃縮度が3を超える腫瘍周囲スコアリングのIRS値の分布について反転している(図8)。
【0062】
腫瘍部(図9)及び腫瘍周囲組織領域(図10)の染色により得られたシグナルの定量化に関しては、CD68抗体が99%を超える患者で陽性を示し、両症例ともIRS値の均衡した分布を示した。
【0063】
腫瘍周囲組織と腫瘍組織のRepIRSスコアを比較したところ、解析したCRC患者の腫瘍周囲組織ではRep検出が有意に増加していた(p=>2.2e−16)ことが示唆された(図11)。
【0064】
本発明者らは、癌誘発のためには結腸陰窩間の粘膜固有層内のBMMF抗原の量が慢性局所炎症の誘発に重要であり、拡散ROS/NOSの誘発は最終的に、鍵となる突然変異の発現によって初期ポリープ/腫瘍前駆細胞に変わる可能性のある隣接陰窩の分裂幹細胞及び娘細胞においてランダムな突然変異を誘発すると結論した。したがって、腫瘍周囲のBMMFレベルとCD68陽性マクロファージの強度の相関が観察可能であるはずである。実際、対応するCRC患者内でのCD68検出のためのIRS値に対するRep検出のためのIRS値を試験することによって、Rep及びCD68検出の有意な相関が観察され(クラスカル・ウォリス検定によるp=0.00045)、これは、Repのより高い検出レベルがCD68検出のより高いレベルと相関することを示す(図12)。
【0065】
大腸癌患者の腫瘍周囲領域におけるRep検出の予後スコアを患者生存期間で検証するため、n=243例(大腸癌特異的死亡に基づく77件、打ち切り166件)の集合に基づいて、カプラン・マイヤー曲線を算出し、IRS値0〜1.9では「Rep低値」、IRS値2〜6では「Rep高値」に群分けした(図13)。CRC患者におけるRepの高値は、患者の全生存期間の有意な減少と相関する(p=0.0017)。
【0066】
Rep値の上昇はハザード比4.7(95%CI:1−19)と相関し、Rep検出と患者生存率の負の相関(p=0.00475)を示し、大腸癌組織におけるRep検出の予後スコアを強調している(図14)。
【0067】
「Rep低値」と評価された患者は、5年及び10年生存率が92%であるのに対し、「Rep高値」の患者は5年後74%、10年後65%の生存率を示し、これは20〜30%の減少に相当する。「CD68高値」と「CD68低値」のカプラン・マイヤー解析に基づく生存率解析では両生存曲線間に有意差は認められないことから(p=0.271、n.s.)、Rep検出の予後的効果はCD68検出では説明できない(図15)。
【0068】
実施例3:CRC患者の組織溶解物の免疫ブロット法によるBMMFRep抗原の検出
同じ患者(例えば、患者4800P(腫瘍周囲)又は4800T(腫瘍周囲))の腫瘍周囲若しくは腫瘍組織材料、又は4人の個々のドナーの初期ポリープからの組織材料を、SDS−PAGE及び抗BMMFRep抗体、特に抗RepAb5−2(1:250希釈)による免疫検出の前に、シリカビーズを用いた4℃の組織ホモジナイザー中で、プロテアーゼインヒビター(P8340 Sigma−Aldrich)の使用により、8M尿素、100mMのNaHPO、10mMのTris、5mMのDTT、pH8.0中で溶解した。約42kDaの標的バンドは、腫瘍周囲CRC患者サンプル4800については最も強い強度で、4人の個々の患者の初期ポリープの組織溶解物についてはさらに強いバンドで、はっきりと見えた(図16)。
【0069】
実施例4:BMMF RepDNAのPCR増幅
さらに、大腸癌患者の腫瘍周囲組織領域を免疫組織化学的に染色(抗RepAb3−6)し、DNA標本を作製した後にレーザー顕微解剖を行ったところ、検査を行った3人の患者(4799、4808及び4809)すべてにおいてMSBI1.176BMMF DNAの全長が同定された。したがって、切開組織を、サーモミキサーにて750rpmで、Chelexビーズ(Bio−Rad Cat#142−1253)の5%懸濁液25μl、5μgプロテアーゼと共に一晩インキュベートすることによって、切開組織領域から全DNAを調製した。懸濁液を最大速度で10秒間ボルテックスし、次いで99℃のサーモミキサーに8分間入れた。1μlの上清を、phi29DNAポリメラーゼ(New England Biolabs M0269S、10U)、及びExo−Resistant Randomプライマー(サーモフィッシャーサイエンティフィックSO181、25μM)、dNTP(各0.75mM)、50mM Tris−HCl、10mM MgCl、10mM(NHSO、4mM DTT、0.4mg/ml BSA、pH7.5を用いて、ローリングサークル増幅(RCA)した。
【0070】
【表4】
【0071】
RCA後、3μlのRCA反応を、BMMF特異的背中合わせのプライマーNo(Gag gac gaa tta ata tta caa gtc)及びXo(Gtt ctc gct ttt ctt ggt aa)又はNn(gga tta atg cca atg atc c)及びXn(ctt tgc ctg ttt ctc tcg)でのPCRに使用し、各10pmol/50μlの反応を、8μlのdNTP、25μlのGCバッファーI、0.5μlのTAKARA Taqポリメラーゼ(Takara RR02AG)と一緒に、以下のPCRセットアップを用いた。
【0072】
【表5】
【0073】
必要であれば、標的バンドが不適切なバンド強度を示した場合はいつでも、PCR標的をPCR標的のゲル抽出後に、PCR増幅のさらなるサイクルに供した。PCR後、約5ngのDNAを、製造業者のプロトコールに従ってpCR2.1 TAクローニングベクター(TAクローニングキット、Invitrogen K203040)へのクローニングのために使用し、続いてPCRインサートの配列決定を行った。
【0074】
【表6-1】
【0075】
【表6-2】
【0076】
【表6-3】
【0077】
参考文献
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]