(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
<スクロール圧縮機の構成>
図1は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機100の縦断面図である。
スクロール圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器である。
図1に示すように、スクロール圧縮機100は、密閉容器1と、圧縮機構部2と、クランク軸3(シャフト)と、電動機4と、主軸受5と、旋回軸受6と、を備えている。また、スクロール圧縮機100は、前記した構成の他に、オルダムリング7と、バランスウェイト8a,8bと、サブフレーム9と、を備えている。
【0010】
密閉容器1は、圧縮機構部2、クランク軸3、電動機4等を収容する殻状の容器であり、略密閉されている。密閉容器1には、圧縮機構部2や各軸受を潤滑するための潤滑油が封入され、密閉容器1の底部に油溜りR1として貯留されている。密閉容器1は、円筒状の筒チャンバ1aと、この筒チャンバ1aの上側を塞ぐ蓋チャンバ1bと、筒チャンバ1aの下側を塞ぐ底チャンバ1cと、を備えている。
【0011】
密閉容器1の蓋チャンバ1bには、吸込パイプP1が差し込まれて固定されている。吸込パイプP1は、圧縮機構部2の吸込口J1に冷媒を導く管である。また、密閉容器1の筒チャンバ1aには、吐出パイプP2が差し込まれて固定されている。吐出パイプP2は、圧縮機構部2で圧縮された冷媒をスクロール圧縮機100の外部に導く管である。
【0012】
圧縮機構部2は、クランク軸3の回転に伴って、ガス状の冷媒を圧縮する機構である。圧縮機構部2は、固定スクロール21と、旋回スクロール22と、フレーム23と、を備え、密閉容器1内の上部空間に配置されている。
【0013】
固定スクロール21は、旋回スクロール22とともに圧縮室S1を形成する部材である。固定スクロール21は、フレーム23の上側に設置され、このフレーム23にボルト(図示せず)で締結されている。
図1に示すように、固定スクロール21は、台板21aと、固定ラップ21bと、を備えている。
【0014】
台板21aは、平面視で円形状を呈する肉厚の部材である。なお、固定ラップ21bに対して旋回ラップ22bが旋回する領域S2(固定ラップ21bの底面部)を確保するために、固定ラップ21bの内側の線と外側の線の間が下面視で上側に所定に凹んでいる。また、吸込パイプP1を介して冷媒が導かれる吸込口J1が、台板21aに設けられている。
【0015】
固定ラップ21bは、渦巻状を呈し(
図4も参照)、前記した領域S2において台板21aから下側に延びている。なお、台板21aの下面(領域S2の径方向外側の部分の下面)と、固定ラップ21bの歯先と、は略面一になっている。また、台板21aの下面を、固定スクロール21の鏡板面21f(
図4も参照)という。この鏡板面21fには、環状の背圧溝G3(
図4も参照)の他、円弧状の第1溝G1(
図4も参照)や第2溝G2(
図4も参照)が設けられているが、これらの詳細については後記する。
【0016】
旋回スクロール22は、その移動(旋回)によって、固定スクロール21との間に圧縮室S1を形成する部材であり、固定スクロール21とフレーム23との間に設けられている。旋回スクロール22は、円板状の鏡板22aと、この鏡板22aに立設される渦巻状の旋回ラップ22b(
図3も参照)と、クランク軸3の偏心部3bに嵌合される筒状のボス部22cと、を備えている。
図1に示すように、旋回ラップ22bが鏡板22aの上側に延びている一方、ボス部22cは鏡板22aの下側に延びている。
【0017】
旋回ラップ22bは、固定ラップ21bとともに圧縮室S1を形成する部材である。すなわち、渦巻状の固定ラップ21bと、渦巻状の旋回ラップ22bと、が噛み合うことで、固定ラップ21bと旋回ラップ22bとの間に複数の圧縮室S1が形成されるようになっている。なお、圧縮室S1は、ガス状の冷媒を圧縮する空間であり、旋回ラップ22bの外線側・内線側にそれぞれ形成される。また、固定スクロール21の台板21aの中心付近には、吐出口J2が設けられている。吐出口J2は、圧縮室S1で圧縮された冷媒を圧縮機構部2の上側の空間S3に導く開口である。
【0018】
フレーム23は、固定スクロール21を支持する部材である。フレーム23は、概ね回転対称な形状を呈し、密閉容器1の筒チャンバ1aの内周壁に溶接等で固定されている。フレーム23には、クランク軸3が挿通される挿通孔H1が設けられている。
【0019】
旋回スクロール22とフレーム23との間には、背圧室S4が設けられている。背圧室S4は、旋回スクロール22の背面側(鏡板22aからボス部22cが延びている側)の空間である。つまり、旋回スクロール22とフレーム23との間の空間が背圧室S4である。
【0020】
なお、圧縮室S1の容積の縮小に伴ってガス状の冷媒が圧縮されると、固定スクロール21から旋回スクロール22を引き離そうとする下向きの力が生ずる。仮に、固定スクロール21から旋回スクロール22が引き離された場合、固定ラップ21bの歯先が旋回スクロール22から離れ、また、旋回ラップ22bの歯先が固定スクロール21から離れて圧縮室S1から冷媒が漏れるため、スクロール圧縮機100の効率の低下を招く。
【0021】
そこで、固定スクロール21から旋回スクロール22が引き離されることを抑制するために、旋回スクロール22の背面側の中央付近(ボス部22cの径方向内側)に吐出圧力に略等しい空間(符号は図示せず)を設けるとともに、前記した背圧室S4を設けるようにしている。なお、背圧室S4の圧力は、通常、スクロール圧縮機100の吸込圧力と吐出圧力との間の所定の中間圧力になっている。これによって、旋回スクロール22を固定スクロール21に適度に押し付ける上向きの力を生じさせている。
【0022】
なお、背圧室S4に含まれる「背圧」という文言は、背圧室S4の圧力の高さを特に限定するものではない。背圧室S4の圧力は、吸込圧力と吐出圧力との間の値になることが多いが、場合によっては、一時的に吐出圧力に略等しくなることもある。
【0023】
図1に示すクランク軸3(シャフト)は、電動機4の回転子4bと一体で回転する軸であり、上下方向に延びている。
図1に示すように、クランク軸3は、主軸部3aと、この主軸部3aから上側に延びる偏心部3bと、主軸部3aの下端に設置される給油ピース3cと、を備えている。
主軸部3aは、電動機4の回転子4bに同軸で固定され、この回転子4bと一体で回転する。偏心部3bは、主軸部3aに対して偏心しながら回転する軸であり、前記したように、旋回スクロール22のボス部22cに嵌合している。そして、偏心部3bが偏心しながら回転することで、旋回スクロール22が旋回するようになっている。
【0024】
給油ピース3cは、密閉容器1の油溜りR1から潤滑油を吸い上げる部分であり、主軸部3aの下端に設置されている。なお、容積型ポンプや遠心ポンプ等が給油ピース3cに設けられるようにしてもよい。また、クランク軸3は、潤滑油が流れる給油路3dを有している。そして、密閉容器1に油溜りR1として貯留されている潤滑油が、給油路3dを介して上昇するようになっている。なお、次に説明する主軸受5や旋回軸受6等にも潤滑油が供給されるように、給油路3dは所定に分岐している。
【0025】
電動機4は、クランク軸3を回転させる駆動源であり、フレーム23とサブフレーム9との間に設置されている。
図1に示すように、電動機4は、固定子4aと、回転子4bと、を備えている。固定子4aは、筒チャンバ1aの内周壁に固定されている。回転子4bは、固定子4aの径方向内側で回転自在に配置されている。回転子4bには、その中心軸線Z1と同軸となるようにクランク軸3が圧入等で固定されている。
【0026】
主軸受5は、フレーム23に対して主軸部3aの上部を回転自在に軸支するものであり、フレーム23の孔(符号は図示せず)の周壁面に設けられている。
旋回軸受6は、旋回スクロール22のボス部22cに対して偏心部3bを回転自在に軸支するものであり、ボス部22cの内周壁に設けられている。
【0027】
オルダムリング7は、偏心部3bの偏心回転を受けて、旋回スクロール22を自転させることなく旋回させる輪状部材である。オルダムリング7は、旋回スクロール22の下面に設けられた溝(図示せず)、及び、フレーム23に設けられた溝(図示せず)に装着されている。
【0028】
バランスウェイト8a,8bは、スクロール圧縮機100の振動を抑制するための部材である。
図1の例では、主軸部3aにおいて回転子4bの上側に一方のバランスウェイト8aが設置され、また、回転子4bの下面に他方のバランスウェイト8bが設置されている。
サブフレーム9は、主軸部3aの下部を回転自在に軸支する部材である。
図1に示すように、サブフレーム9は、電動機4の下側に配置された状態で、密閉容器1に固定されている。サブフレーム9には、クランク軸3が挿通される孔(符号は図示せず)が設けられている。また、サブフレーム9の孔の周壁面には、副軸受9aが設けられている。
【0029】
電動機4の駆動でクランク軸3が回転すると、これに伴って、旋回スクロール22が旋回する。そうすると、次々に形成される圧縮室S1が縮小し、ガス状の冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は、固定スクロール21の吐出口J2を介して、圧縮機構部2の上側の空間S3に吐出される。このように空間S3に吐出された冷媒は、圧縮機構部2と密閉容器1との間の流路(図示せず)を介してモータ室S5に導かれ、さらに、吐出パイプP2を介して外部に吐出される。
【0030】
また、密閉容器1の底に油溜りR1として貯留されている潤滑油は、クランク軸3の給油路3dを介して上昇し、副軸受9aや主軸受5、旋回軸受6等を潤滑する。また、給油路3dの上端の開口(符号は図示せず)に達した潤滑油は、後記する旋回スクロール22の連通孔H2(
図2も参照)に導かれる。次に、固定スクロール21や旋回スクロール22の詳細な構成について説明しつつ、潤滑油の流れについても説明する。
【0031】
図2は、スクロール圧縮機が備える旋回スクロール22の縦断面図である。
図2に示すように、旋回スクロール22の鏡板22aには、1つの連通孔H2が横方向(鏡板22aの上面・下面に対して平行な方向)に設けられている。
図2の例では、円板状の鏡板22aの径方向に連通孔H2が設けられているが、横方向において、径方向とは異なる方向に連通孔H2が設けられていてもよい。
【0032】
連通孔H2は、クランク軸3の給油路3d(
図1参照)を介して流れる高圧の潤滑油を固定スクロール21(
図1参照)側に導く流路である。この連通孔H2は、例えば、鏡板22aの周壁面から径方向内側に所定の切削加工を行うことで形成される。
図2に示す密栓N1は、連通孔H2の外周側の端部を封止する部材である。
図2に示すように、連通孔H2の上流側(径方向内側)は、上下方向の比較的短い流路H3を介して、ボス部22cの径方向内側の空間に連通している。また、連通孔H2の下流側(径方向外側)は、第1孔H4に連通している他、第2孔H5にも連通している。
【0033】
第1孔H4は、高圧の潤滑油を円弧状の第1溝G1(
図4参照)に導く流路であり、上下方向に設けられている。第2孔H5は、高圧の潤滑油を円弧状の第2溝G2(
図4参照)に導く流路であり、上下方向に設けられている。そして、クランク軸3の給油路3d(
図1参照)から流出する潤滑油の一部が、
図2に示す流路H3、連通孔H2、及び第1孔H4を順次に介して、第1溝G1(
図4参照)に導かれるとともに、第2孔H5を介して、第2溝G2(
図4参照)にも導かれるようになっている。つまり、連通孔H2は、給油路3dに連通するとともに、第1孔H4及び第2孔H5の両方に連通している。なお、第2孔H5は、第1孔H4よりも径方向外側に設けられている。
【0034】
図3は、スクロール圧縮機が備える旋回スクロール22の斜視図である。
前記したように、旋回スクロール22は、円板状の鏡板22aと、渦巻状の旋回ラップ22bと、筒状のボス部22cと、を備えている。旋回スクロール22の鏡板22aの周壁面において、第1孔H4(
図2参照)及び第2孔H5(
図2参照)に対応する箇所には、連通孔H2の外周側の端部を塞ぐ密栓N1が設けられている。また、鏡板22aの上面には、第1孔H4の開口J4が設けられるとともに、第2孔H5の開口J5が設けられている。
図3に示すように、第2孔H5の開口J5は、第1孔H4の開口J4よりも径方向外側に設けられている。そして、旋回スクロール22の旋回に伴って、第1孔H4の開口J4、及び第2孔H5の開口J5が所定に移動するようになっている。
【0035】
前記したように、背圧室S4(
図1参照)の背圧によって、旋回スクロール22を固定スクロール21に押し付ける力が作用する。しかしながら、例えば、高圧縮比の運転条件において、旋回スクロール22を固定スクロール21に押し付ける力が大きくなりすぎると、固定スクロール21と旋回スクロール22との摺動面で、摩擦損失の増加や焼付きが生じる可能性がある。そこで、次に説明する環状の背圧溝G3(
図4参照)や円弧状の第1溝G1(
図4参照)を固定スクロール21の鏡板面21f(
図4参照)において、固定ラップ21bの外側に設けるようにしている。また、詳細については後記するが、旋回スクロール22の揺動が生じた場合に備えて、固定スクロール21の鏡板面21f(
図4参照)に円弧状の第2溝G2(
図4参照)を設けるようにしている。
【0036】
図4は、スクロール圧縮機が備える固定スクロール21の下面図である。
前記したように、固定スクロール21は、渦巻状の固定ラップ21bが台板21aに設けられた構成になっている。
図4に示すように、固定スクロール21の鏡板面21fの周縁付近には、環状の背圧溝G3が設けられている。この背圧溝G3は、旋回スクロール22(
図1参照)とフレーム23(
図1参照)との間の背圧室S4(
図1参照)に連通する溝である。
図4の例では、円形状の鏡板面21fの中心付近を基準(円の中心)とする円形状の溝として、背圧溝G3が形成されている。
【0037】
そして、旋回スクロール22(
図1参照)の旋回中、背圧室S4の圧力に略等しい圧力の潤滑油が背圧溝G3に導かるようになっている。より詳しく説明すると、環状の背圧溝G3と、旋回スクロール22の鏡板22a(
図1参照)の上面と、の間の隙間に背圧室S4から潤滑油が入り込む。これによって、旋回スクロール22が固定スクロール21を押し上げる力が過大になることを抑制できる他、背圧溝G3の潤滑油がシールの役割を果たして、圧縮された冷媒が空間S3(
図1参照)から流入することを抑制できる。
【0038】
図4に示すように、固定スクロール21の鏡板面21fには、第1溝G1と、第2溝G2と、が設けられている。これらの第1溝G1及び第2溝G2は、環状の背圧溝G3の径方向内側に設けられ、例えば、背圧溝G3の中心付近を基準(円弧の中心)とする所定の円弧状に形成されている。一方、旋回スクロール22(
図2参照)には、前記したように、クランク軸3(シャフト)の給油路3d(
図1参照)からの潤滑油を固定スクロール21の鏡板面21f側に導く第1孔H4(
図2参照)及び第2孔H5(
図2参照)が設けられている。
【0039】
図4に示す第1溝G1は、旋回スクロール22(
図1参照)の移動(旋回)に伴って、この旋回スクロール22の第1孔H4(
図2参照)に間欠的に連通する溝である。第1溝G1は、例えば、旋回スクロール22を固定スクロール21の鏡板面21fに対して傾ける力(遠心力やガス荷重の合力)が作用した場合に、旋回スクロール22の鏡板22a(
図1参照)が固定スクロール21の鏡板面21fに最も強く当たる領域(偏荷重領域ともいう)を含むように設けられている。具体的には、第1溝G1は、円形状の鏡板面21fの中心付近を基準(円の中心)として、中心角が90°以上かつ180°以下の円弧状に形成されている。なお、第1溝G1の周方向での中心付近に、前記した偏荷重領域が位置するようにしてもよい。
【0040】
そして、旋回スクロール22(
図1参照)の移動に伴って、第1溝G1が第1孔H4(
図2参照)に間欠的に連通し、吐出圧力に略等しい高圧の潤滑油が第1溝G1に導かれるようになっている。これによって、旋回スクロール22の鏡板22a(
図1参照)が固定スクロール21の鏡板面21f(
図1参照)に強く当たりやすい領域(第1溝G1の付近)に高圧の潤滑油が入り込む。その結果、第1溝G1において、旋回スクロール22を固定スクロール21から引き離す力が作用するため、旋回スクロール22及び固定スクロール21の一方から他方へのスラスト荷重(押付力)が過大になることを抑制できる。
【0041】
図4に示す第2溝G2は、旋回スクロール22(
図1参照)の移動(旋回)に伴って、この旋回スクロール22の第2孔H5(
図2参照)に間欠的に連通する溝である。前記したように、固定スクロール21の鏡板面21fに第1溝G1や背圧溝G3を設けることで、固定スクロール21及び旋回スクロール22の一方から他方へのスラスト荷重を適正範囲に収めるようにしているが、あらゆる運転条件で旋回スクロール22が揺動しないようにするのが困難なこともある。
【0042】
そこで、第1実施形態では、旋回スクロール22が揺動した場合、第2溝G2の高圧の潤滑油が、環状の背圧溝G3を介して背圧室S4(
図1参照)に流入するようにしている。このように、吐出圧力に等しい高圧の潤滑油が背圧室S4に流入することで、背圧室S4の圧力が一時的に上昇する。その結果、旋回スクロール22を固定スクロール21に対して押し上げる力が上昇するため、旋回スクロール22の揺動を抑制できる。
【0043】
図4の例では、固定スクロール21の台板21aの中心付近を基準(円弧の中心)とする円弧状の第2溝G2が、第1溝G1と背圧溝G3との間に設けられている。つまり、第2溝G2と背圧溝G3との間の距離L2aは、第1溝G1と背圧溝G3との間の距離L1aよりも短くなっている。このように、第1溝G1に対して分離している第2溝G2を、第1溝G1よりも径方向外側に設けている点が、第1実施形態の主な特徴の一つである。なお、第2溝G2と背圧溝G3との間の「距離」とは、第2溝G2と背圧溝G3とを最短で結ぶ線分の長さをいう(他の距離L1a等についても同様)。
【0044】
前記したように、第2溝G2と背圧溝G3との間の距離が比較的短いため、旋回スクロール22が揺動して傾いた場合に、第2溝G2に存在する高圧の潤滑油のほとんどが背圧溝G3に流れ込む。前記したように、第2溝G2の潤滑油の圧力は、吐出圧力に略等しく、また、背圧溝G3の潤滑油の圧力よりも高圧である。このように高圧の潤滑油が背圧溝G3に流れ込むことで、背圧室S4(
図1参照)の圧力が一時的に上昇するため、旋回スクロール22の揺動を抑えることができる。
【0045】
また、固定スクロール21の鏡板面21fの内側の縁21faと第1溝G1との間の距離L1bは、鏡板面21fの内側の縁21faと第2溝G2との間の距離L2bよりも短くなっている。このように、鏡板面21fの内側の縁21faと第1溝G1との間の距離が比較的短いため、固定スクロール21の鏡板面21fと、旋回スクロール22の鏡板22a(
図1参照)との間の微小な隙間を介して、第1溝G1に存在する高圧の潤滑油が圧縮室S1(
図1参照)に適度に供給される。これによって、固定ラップ21b(
図1参照)や旋回ラップ22b(
図1参照)等が潤滑されるため、摩耗や焼付きを抑制できる。また、円弧状の第1溝G1に存在する高圧の潤滑油は、固定スクロール21と旋回スクロール22との間のシールの役割も果たすため、スクロール圧縮機100の高効率化を図ることができる。ちなみに、冷媒の圧縮途中では、圧縮室S1の圧力は吐出圧力(第1溝G1の潤滑油の圧力)よりも低く、また、背圧室S4の圧力よりもさらに低い。
【0046】
次に、第2溝G2の周方向の長さについて説明する。
図4に示すように、円弧状の第2溝G2の周方向の長さが、円弧状の第1溝G1の周方向の長さよりも短いことが好ましい。このような構成によれば、第2溝G2に高圧の潤滑油が過剰に流れ込むことを抑制し、ひいては、固定スクロール21から旋回スクロール22を引き離そうとする力を適度に抑えることができる。また、円弧状の第2溝G2の周方向の長さが、円弧状の第1溝G1の周方向の長さの半分よりも短いことがさらに好ましい。このような構成によれば、第2溝G2に存在する高圧の潤滑油の量を適度に抑制できる。
【0047】
また、円弧状の第2溝G2の中心角θ1(台板21aの中心を基準とする仮想的な扇形の中心角)は、10°以上かつ30°以下であることが好ましい。このような構成によれば、第2溝G2と旋回スクロール22の鏡板22a(
図1参照)との間の円弧状の隙間の容積を適度に抑えることができる。したがって、固定スクロール21から旋回スクロール22を引き離そうとする力が過剰になることを抑制できる。
【0048】
また、第1溝G1と第2溝G2とは、径方向で少なくとも部分的に重なっている。
図4の例では、第2溝G2の略全域が、第1溝G1に径方向で重なっている。このような構成にする理由について、
図5の部分拡大図を用いて説明する。
【0049】
図5は、
図4の領域K1を部分的に拡大して、第1孔の開口J4の移動軌跡M4、及び第2孔の開口J5の移動軌跡M5を示した説明図である。
なお、
図5では、旋回スクロール22の上面に設けられた第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4を一点鎖線で示し、また、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5を破線で示している。
前記したように、クランク軸3の給油路3d(
図1参照)からの高圧の潤滑油が、第1孔H4(
図2参照)を介して、第1溝G1に間欠的に供給される。また、クランク軸3の給油路3d(
図1参照)からの高圧の潤滑油が、第2孔H5(
図2参照)を介して、第2溝G2に間欠的に供給される。
【0050】
図5の例では、旋回スクロール22(
図2参照)の旋回に伴い、第1孔H4(
図2参照)の開口J4が円形状の移動軌跡M4で移動して元の位置に戻ってくるまでに、第1孔H4と第1溝G1とが2回連通する。これによって、第1孔H4を介して、第1溝G1に適量の潤滑油が供給される。同様に、第2孔H5(
図2参照)の開口J5が円形状の移動軌跡M5で移動して元の位置に戻ってくるまでに、第2孔H5と第2溝G2とが2回連通する。これによって、第2孔H5を介して、第2溝G2に適量の潤滑油が供給される。
【0051】
なお、第1溝G1や第2溝G2に供給された高圧の潤滑油は、これらの第1溝G1や第2溝G2に留まり続けるわけではなく、固定スクロール21の鏡板面21fと旋回スクロール22(
図1参照)の鏡板22aとの間の微小な隙間を介して流出する。そこで、前記したように、開口J4,J5のそれぞれの1回当たりの移動で潤滑油が2回供給されるようにしている。また、第2溝G2と背圧溝G3との間の距離を比較的狭くすることで、通常の運転時にも、第2溝G2から背圧溝G3を介して、背圧室S4(
図1参照)に潤滑油が供給されやすくなる。これによって、背圧室S4に設けられたオルダムリング7等(
図1参照)を十分に潤滑できる。
【0052】
図5の例では、円弧状の第2溝G2の周方向の長さが、第2孔H5の開口J5の円形状の移動軌跡M5の径よりも長くなっている。そして、円弧状の第2溝G2と、第2孔H5の開口J5の円形状の移動軌跡M5と、が2箇所で交差している。このような構成によれば、開口J5の1回当たりの移動で潤滑油が2回供給されるため、1回だけの供給に比べて、固定スクロール21の第2溝G2に十分な量の潤滑油を供給できる。
【0053】
また、前記したように、第2溝G2は、第1溝G1に径方向で重なっている。これによって、第1溝G1に間欠的に連通する第1孔H4と、第2溝G2に間欠的に連通する第2孔H5と、を径方向で並ぶように形成できる(
図2、
図3も参照)。その結果、クランク軸3の給油路3d(
図1参照)から第1孔H4(
図2参照)及び第2孔H5(
図2参照)のそれぞれに潤滑油を導く連通孔H2(
図2参照)の数が1つですむ。したがって、旋回スクロール22に切削加工等で連通孔H2を形成する作業の手間や時間を削減できる。
【0054】
さらに、第2溝G2が第1溝G1に径方向で重なっているため、第1溝G1及び第2溝G2のうち、一方に存在する高圧の潤滑油が、他方に存在する高圧の潤滑油に対して、いわば壁のように作用する。その結果、第1溝G1の高圧の潤滑油は、背圧溝G3よりも、圧縮室S1(
図1参照)の方に供給されやすくなる。一方、第2溝G1の高圧の潤滑油は、圧縮室S1(
図1参照)よりも、背圧溝G3の方に供給されやすくなる。
なお、
図4では、周方向において、第1溝G1の一端(吸込口J1側の端部)付近に第2溝G2が設けられる例を示しているが、これに限らない。例えば、周方向において、第1溝G1の反対側の端部付近に第2溝G2が設けられてもよいし、また、第1溝G1の周方向での中央付近に第2溝G2が設けられてもよい。いずれの場合でも、旋回スクロール22が揺動して傾いたときに、第2溝G2から背圧溝G3に高圧の潤滑油が供給されるからである。
【0055】
<効果>
第1実施形態によれば、固定スクロール21の鏡板面21fに設けられた円弧状の第1溝G1(
図4参照)に高圧の潤滑油が供給される。これによって、旋回スクロール22の鏡板22aが第1溝G1の付近で固定スクロール21に強く当たることを抑制できる。
また、第2溝G2と背圧溝G3との間の距離L2a(
図4参照)が、第1溝G1と背圧溝G3との間の距離L1a(
図4参照)よりも短くなっている。これによって、旋回スクロール22が揺動して傾いた場合でも、第2溝G2から背圧溝G3を介して、背圧室S4(
図1参照)に高圧の潤滑油が供給される。その結果、背圧室S4の圧力が一時的に高くなり、旋回スクロール22の揺動を速やかに抑制して、適正な運転状態に戻すことができる。つまり、旋回スクロール22の転覆に伴う効率の低下を防止できる。これによって、広範囲の運転条件において、スクロール圧縮機100の信頼性の確保と、性能の向上(高効率化)と、を両立させることができる。
【0056】
また、第1溝G1と第2溝G2とが径方向で少なくとも部分的に重なっているため、第1孔H4及び第2孔H5の両方に連通する連通孔2(
図2参照)を設けることが可能になる。つまり、クランク軸3の給油路3dから第1孔H4及び第2孔H5に高圧の潤滑油を導く連通孔H2(
図2参照)の数が1つですむ。したがって、切削加工等で連通孔H2を形成する作業の工数や時間を削減し、ひいては、スクロール圧縮機100の製造コストを削減できる。
【0057】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、固定スクロール21A(
図6参照)の鏡板面21fにおいて、第2孔H5(
図2参照)の開口J5(
図2参照)に常時連通する凹部E2(
図6参照)が設けられている点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他の構成(スクロール圧縮機100の全体的な構成等:
図1参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0058】
図6は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機が備える固定スクロール21Aの下面図である。
図6に示すように、固定スクロール21Aの鏡板面21fにおいて、第1溝G1の径方向外側には、第2溝GA2に連通する凹部E2が設けられている。なお、第2溝GA2の周方向の長さは、第1実施形態(
図4参照)の場合よりも短くなっている。ただし、第2溝GA2及び凹部E2の領域全体の周方向の長さは、第1実施形態の第2溝G2の周方向の長さと同様である。
【0059】
図6の例では、円弧状の第2溝GA2の一端側(吸込口J1に近い方の端部側)に凹部E2が設けられている。この凹部E2は、旋回スクロール22(
図2参照)の第2孔H5(
図2参照)に常時連通する部分である。凹部E2は、鏡板面21fから上側に凹んでおり、下面視で円形状を呈している。
【0060】
なお、凹部E2の周方向の位置は、
図6の例に限定されるものではない。次に説明するように、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の円形の移動軌跡M5(
図7参照)が凹部E2の領域S6(
図7参照)に含まれるのであれば、第2溝GA2の他端側に凹部E2が設けられてもよく、また、第2溝GA2の周方向の中央付近に凹部E2が設けられてもよい。また、第2溝GA2の他、円形状の凹部E2も、径方向で第1溝G1に重なっている。このような配置にする理由について、
図7を用いて説明する。
【0061】
図7は、
図6の領域K2を部分的に拡大して、第1孔の開口J4の移動軌跡M4、及び第2孔の開口J5の移動軌跡M5を示した説明図である。
図7に示すように、固定スクロール21Aの鏡板面21fにおいて、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5が、凹部E2の領域S6に含まれている。なお、
図7の例では、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4は、第1溝G1と部分的に重なっている一方、凹部E2の領域S6には含まれてはいない。
【0062】
このような構成によれば、旋回スクロール22(
図2参照)が移動(旋回)しているとき、第2孔H5(
図2参照)が凹部E2及び第2溝GA2に常時連通する。これによって、凹部E2及び第2溝GA2に単位時間当たりに供給される高圧の潤滑油の量を第1実施形態よりも多くすることができる。
【0063】
<効果>
第2実施形態によれば、スクロール圧縮機の駆動中、第2孔H5が凹部E2及び第2溝GA2に常時連通する。したがって、旋回スクロール22(
図1参照)が揺動して傾いた場合に、背圧溝G3(
図6参照)を介して背圧室S4(
図1参照)に流入する高圧の潤滑油の量を第1実施形態よりも多くして、旋回スクロール22(
図1参照)を速やかに適正な状態に戻すことができる。
【0064】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、固定スクロール21B(
図8参照)の鏡板面21fに設けられた凹部E3(
図9参照)が、第2孔H5(
図2参照)の開口J5(
図9参照)に間欠的に連通するとともに、第1孔H4(
図2参照)の開口J4(
図9参照)にも間欠的に連通する点が、第2実施形態とは異なっている。なお、その他の構成については、第2実施形態と同様である。したがって、第2実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0065】
図8は、第3実施形態に係るスクロール圧縮機が備える固定スクロール21Bの下面図である。
図8に示すように、固定スクロール21Bの鏡板面21fにおいて、固定ラップ21bの径方向外側には、第2溝GB2に連通する凹部E3が設けられている。なお、凹部E3と第1溝G1との間の距離が、第2実施形態(
図6参照)の場合よりも短くなっている。また、円形の凹部E3の径が、第2実施形態(
図6参照)の場合よりも短くなっている。また、第2溝GB2の他、円形状の凹部E3も、径方向で第1溝G1に重なっている。
【0066】
図9は、
図8の領域K3を部分的に拡大して、第1孔の開口J4の移動軌跡M4、及び第2孔の開口J5の移動軌跡M5を示した説明図である。
図9に示すように、固定スクロール21Bの鏡板面21fにおいて、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5の一部が、凹部E3の領域S7に含まれている。一方、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5の残りは、凹部E3の領域S7から外れている。空間の制約上、第2実施形態のような常時連通化(開口J5が凹部E2に常時連通している構成:
図7参照)が困難である場合には、
図9のような構成にすることもできる。
【0067】
また、固定スクロール21Bの鏡板面21fにおいて、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4の一部も、凹部E3の領域S7に含まれている。このような構成によれば、第2孔H5(
図2参照)を介して高圧の潤滑油が凹部E3に間欠的に供給される他、第1孔H4(
図2参照)を介して高圧の潤滑油が凹部E3に間欠的に供給される。したがって、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5が凹部E3の領域S7から部分的に外れている構成でも、凹部E3及び第2溝GB2に単位時間当たりに供給される高圧の潤滑油の量を十分に確保できる。
【0068】
<効果>
第3実施形態によれば、スクロール圧縮機の駆動中、第2孔H5(
図2参照)が凹部E3(
図9参照)に間欠的に連通する他、第1孔H4(
図2参照)も凹部E3に間欠的に連通する。したがって、旋回スクロール22(
図1参照)が揺動して傾いた場合に、背圧溝G3(
図8参照)を介して背圧室S4(
図1参照)に流入する高圧の潤滑油の量を第1実施形態よりも多くして、旋回スクロール22(
図1参照)を速やかに適正な状態に戻すことができる。
【0069】
≪第4実施形態≫
第4実施形態では、第1実施形態で説明したスクロール圧縮機100(
図1参照)を備える空気調和機W1(冷凍サイクル装置:
図10参照)について説明する。
【0070】
図10は、第4実施形態に係る空気調和機W1の冷媒回路Q1を含む構成図である。
なお、
図10の実線矢印は、暖房運転時における冷媒の流れを示している。
一方、
図10の破線矢印は、冷房運転時における冷媒の流れを示している。
空気調和機W1は、冷房や暖房等の空調を行う機器である。
図10に示すように、空気調和機W1は、スクロール圧縮機100と、室外熱交換器71と、室外ファン72と、膨張弁73と、四方弁74と、室内熱交換器75と、室内ファン76と、を備えている。
【0071】
図10の例では、スクロール圧縮機100、室外熱交換器71、室外ファン72、膨張弁73、及び四方弁74が、室外機U1に設けられている。一方、室内熱交換器75及び室内ファン76は、室内機U2に設けられている。
【0072】
スクロール圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器であり、例えば、第1実施形態(
図1参照)と同様の構成を備えている。
室外熱交換器71は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室外ファン72から送り込まれる外気と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。
室外ファン72は、室外熱交換器71に外気を送り込むファンである。室外ファン72は、駆動源である室外ファンモータ72aを備え、室外熱交換器71の付近に設置されている。
【0073】
室内熱交換器75は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室内ファン76から送り込まれる室内空気(空調室の空気)と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。
室内ファン76は、室内熱交換器75に室内空気を送り込むファンである。室内ファン76は、駆動源である室内ファンモータ76aを備え、室内熱交換器75の付近に設置されている。
【0074】
膨張弁73は、「凝縮器」(室外熱交換器71及び室内熱交換器75の一方)で凝縮した冷媒を減圧する弁である。なお、膨張弁73によって減圧された冷媒は、「蒸発器」(室外熱交換器71及び室内熱交換器75の他方)に導かれる。
【0075】
四方弁74は、空気調和機W1の運転モードに応じて、冷媒の流路を切り替える弁である。例えば、冷房運転時(
図10の破線矢印を参照)には、冷媒回路Q1において、スクロール圧縮機100、室外熱交換器71(凝縮器)、膨張弁73、及び室内熱交換器75(蒸発器)を順次に介して、冷媒が循環する。一方、暖房運転時(
図10の実線矢印を参照)には、冷媒回路Q1において、スクロール圧縮機100、室内熱交換器75(凝縮器)、膨張弁73、及び室外熱交換器71(蒸発器)を順次に介して、冷媒が循環する。
【0076】
<効果>
第4実施形態によれば、製造コストが低く性能や信頼性の高いスクロール圧縮機100を空気調和機W1が備えている。これによって、空気調和機W1の全体としての製造コストを削減し、また、その性能や信頼性を高めることができる。
【0077】
≪変形例≫
以上、本発明に係るスクロール圧縮機100や空気調和機W1について各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、各実施形態では、第2溝G2(
図4参照)の略全域が径方向で第1溝G1(
図4参照)に重なっている構成について説明したが、これに限らない。すなわち、第1溝G1と第2溝G2とが径方向で少なくとも部分的に重なっている構成であってもよい。
【0078】
また、各実施形態では、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4(
図5参照)の一部が第1溝G1に含まれる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4(
図5参照)の全域が第1溝G1に含まれるようにしてもよい。この場合において、第1孔H4に連通する円形の凹部(図示せず)を設け、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4の全域がこの凹部に含まれるようにしてもよい。つまり、第1溝G1には、第1孔H4の開口J4の移動軌跡M4の少なくとも一部が含まれるようにしてもよい。同様に、第2溝G2には、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5の少なくとも一部が含まれるようにしてもよい。
【0079】
また、各実施形態では、第2溝G2(
図4参照)の数が1つである場合について説明したが、これに限らない。例えば、背圧溝G3までの径方向の距離が略等しい複数の第2溝G2を設けるようにしてもよい。この場合において、複数の第2溝G2に対応付けて、複数の第2孔H5が設けられてもよいし、また、1つの第2孔H5が複数の第2溝G2に交互に連通するようにしてもよい。
【0080】
また、第3実施形態では、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5(
図9参照)の一部が凹部E3(
図9参照)に含まれるとともに、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4(
図9参照)の一部が凹部E3に含まれる構成について説明したが、これに限らない。例えば、凹部E3を特に設けずに、次のような構成にしてもよい。すなわち、第2溝G2には、第2孔H5の開口J5の移動軌跡M5の少なくとも一部が含まれるとともに、第1孔H4の開口J4の移動軌跡M4の少なくとも一部も含まれているようにしてもよい。このような構成でも、第2溝G2に十分な量の潤滑油を供給できる。
【0081】
また、第1実施形態で説明したように、第1溝G1(
図5参照)には、第1孔H4(
図2参照)の開口J4の移動軌跡M4(
図5参照)の少なくとも一部が含まれる一方、第2孔H5(
図2参照)の開口J5の移動軌跡M5(
図5参照)が含まれない構成にしてもよい。このような構成でも、旋回スクロール22が揺動して傾いたとき、第2溝G2から背圧溝G3を介して背圧室S4(
図1参照)に高圧の潤滑油が供給されるため、旋回スクロール22(
図1参照)の揺動を抑えることができる。
【0082】
また、各実施形態は、適宜に組み合わせることができる。例えば、第2実施形態と、第4実施形態とを組み合わせ、次のように構成してもよい。すなわち、第2孔H5(
図2参照)の開口J5に常時連通する凹部E2(
図7参照)が設けられたスクロール圧縮機を備えるとともに(第2実施形態)、室外熱交換器71(
図10参照)や膨張弁73、室内熱交換器75等を備えるように空気調和機を構成してもよい(第4実施形態)。なお、第3実施形態と第4実施形態とを組み合わせることも可能である。
【0083】
また、第4実施形態で説明した空気調和機W1(
図10参照)は、ルームエアコンやパッケージエアコンの他、ビル用マルチエアコンといったさまざまな種類の空気調和機に適用できる。また、第4実施形態では、スクロール圧縮機100を備える空気調和機W1(冷凍サイクル装置)について説明したが、これに限らない。例えば、冷凍機、給湯機、空調給湯装置、チラー、冷蔵庫といった他の「冷凍サイクル装置」にも、第4実施形態を適用できる。
【0084】
また、各実施形態では、スクロール圧縮機100で冷媒を圧縮する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、冷媒以外の所定のガスをスクロール圧縮機100で圧縮する場合にも、各実施形態を適用できる。
【0085】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換を適宜に行うことが可能である。
また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【解決手段】スクロール圧縮機の固定スクロール21の鏡板面21fには、背圧室に連通する環状の背圧溝G3が設けられるとともに、円弧状の第1溝G1及び円弧状の第2溝G2が、背圧溝G3の径方向内側に設けられ、旋回スクロールには、給油路からの潤滑油を固定スクロール21の鏡板面21f側に導く第1孔及び第2孔が設けられ、第1溝G1には、第1孔の開口の移動軌跡の少なくとも一部が含まれ、第2溝G2には、第2孔の開口の移動軌跡の少なくとも一部が含まれ、第1溝G1と第2溝G2とが径方向で少なくとも部分的に重なっている。