(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のアンテナ素子を含むアンテナアレイと、複数のパルス信号を連続的に生成する信号生成器と、前記複数のパルス信号の各々を複数チャンネルの分配信号に分配し、前記分配信号を前記複数のアンテナ素子に供給することでレーダビームを外部空間に放射させ、かつ前記複数のアンテナ素子でそれぞれ受信された反射エコー信号を合成して受信信号を得る送受信回路とを備えたレーダシステムにおいて、レーダ諸元に従って動作する信号処理装置であって、
前記分配信号の振幅及び位相を時分割で制御することにより複数の励振分布を前記アンテナアレイに順次形成させる励振分布制御部と、
前記複数の励振分布にそれぞれ対応する複数の受信信号が前記送受信回路から入力されると、前記複数の受信信号に基づき、前記複数の励振分布にそれぞれ対応する複数のクラッタ電力特性の測定量を算出するクラッタ測定部と、
大気分布の推定量、前記レーダ諸元の設定値、及び前記複数の励振分布を示すデータを用いて、前記複数のクラッタ電力特性の推定量を算出する電波伝搬解析部と、
前記複数のクラッタ電力特性の当該測定量と当該推定量との間の誤差量の大きさを小さくするように前記大気分布の推定量を修正することにより前記大気分布の推定量を更新する大気分布更新部と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の信号処理装置であって、前記大気分布更新部及び前記電波伝搬解析部は、所定の最適化アルゴリズムに基づく反復演算を実行することにより前記大気分布の推定量を収束させることを特徴とする信号処理装置。
請求項1から請求項9のうちのいずれか1項に記載の信号処理装置であって、前記複数のクラッタ電力特性の各々は、距離に対する信号電力の分布と周波数に対する信号電力の分布との少なくとも一方を含むことを特徴とする信号処理装置。
請求項1から請求項11のうちのいずれか1項に記載のレーダ信号処理装置と、前記アンテナアレイと、前記信号生成器と、前記送受信回路とを備えることを特徴とするレーダシステム。
複数のアンテナ素子を含むアンテナアレイと、複数のパルス信号を連続的に生成する信号生成器と、前記複数のパルス信号の各々を複数チャンネルの分配信号に分配し、前記分配信号を前記複数のアンテナ素子に供給することでレーダビームを外部空間に放射させ、かつ前記複数のアンテナ素子でそれぞれ受信された反射エコー信号を合成して受信信号を得る送受信回路と、信号処理プログラムを記憶する記憶媒体と、前記記憶媒体から読み出された当該信号処理プログラムを実行するプロセッサとを備えたレーダシステムにおける前記信号処理プログラムであって、
前記信号処理プログラムは、
前記分配信号の振幅及び位相を時分割で制御することにより複数の励振分布を前記アンテナアレイに順次形成させるステップと、
前記複数の励振分布にそれぞれ対応する複数の受信信号が前記送受信回路から入力されると、前記複数の受信信号に基づいて複数のクラッタ電力特性の測定量を算出するステップと、
大気分布の推定量、レーダ諸元の設定値、及び前記複数の励振分布を示すデータを用いて、前記複数のクラッタ電力特性の推定量を算出するステップと、
前記複数のクラッタ電力特性の当該測定量と当該推定量との間の誤差量の大きさを小さくするように前記大気分布の推定量を修正することにより前記大気分布の推定量を更新するステップと
を前記プロセッサに実行させることを特徴とする信号処理プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る種々の実施の形態について詳細に説明する。なお、図面全体において同一符号を付された構成要素は、同一構成及び同一機能を有するものとする。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のレーダシステム1の概略構成を示すブロック図である。本実施の形態のレーダシステム1は、最大探知距離、送信周波数、送信電力、アンテナ利得、受信感度、送信パルス数、パルス繰り返し間隔(Pulse Repetition Interval,PRI)及び送信パルス幅といった種々のレーダ諸元に従って動作するパルスレーダシステムである。後述するようにレーダシステム1は、外部空間の電波伝搬特性に応じてレーダ諸元を適応的に調整することができる。
【0012】
図1に示されるようにレーダシステム1は、信号処理装置10、信号生成器21、送受切換器22、電力分配合成器23、アナログ信号処理回路24、A/D変換器(ADC)25、信号の振幅及び位相を調整するための調整回路30、サーキュレータ41
1,41
2,…,41
M、送信用の可変電力増幅器42
1,42
2,…,42
M、サーキュレータ43
1,43
2,…,43
M、受信用の電力増幅器44
1,44
2,…,44
M、及び、アンテナアレイ50を備えて構成されている。ここで、Mは、送信チャンネル数を示す3以上の整数であり、受信チャンネル数は送信チャンネル数と同一である。本実施の形態では、送信チャンネル数は3チャンネル以上であるが、これに限定されるものではなく、送信チャンネル数が2チャンネルでもよい。
【0013】
アンテナアレイ50は、空間的に配列されたM個のアンテナ素子51
1,51
2,…,51
Mを含んで構成されている。アンテナ素子51
1,51
2,…,51
Mは、たとえば、直線状、平面状または曲面状に配列されていればよい。
【0014】
本実施の形態の送受信回路は、信号生成器21、送受切換器22、電力分配合成器23、アナログ信号処理回路24、A/D変換器25、調整回路30、サーキュレータ41
1〜41
M、可変電力増幅器42
1〜42
M、サーキュレータ43
1〜43
M及び電力増幅器44
1〜44
Mによって構成されている。
【0015】
以下、
図1を参照しつつ、本実施の形態の送受信回路の構成について説明する。
【0016】
信号生成器21は、信号処理装置10から供給されたパルス制御信号Scに従って動作し、マイクロ波帯などの高周波帯のパルス信号を連続的に生成する機能を有する。パルス信号は、ほぼ矩形の波形を有し、所定のパルス繰り返し周期で繰り返し出力される。このようなパルス信号は送受切換器22に出力される。
【0017】
送受切換器(デュプレクサ)22は、信号生成器21から入力された各パルス信号を電力分配合成器23のみに出力し、電力分配合成器23から入力された高周波信号をアナログ信号処理回路24のみに出力する非相反回路である。
【0018】
電力分配合成器23は、送受切換器22から各パルス信号が入力されると、当該各パルス信号をMチャンネル(M個の送信チャンネル)の分配信号に分配し、当該分配信号を調整回路30に並列に出力する電力分配器として機能する。逆に、調整回路30からMチャンネル(M個の受信チャンネル)の高周波信号が並列に入力されると、電力分配合成器23は、当該Mチャンネルの高周波信号を合成して合成信号を生成し、当該合成信号を送受切換器22に出力する電力合成器として機能する。
【0019】
調整回路30は、可変位相調整器31
1,31
2,…,31
Mと、当該可変位相調整器31
1,31
2,…,31
Mに接続されたM個の可変振幅調整器32
1,32
2,…,32
Mとを有している。調整回路30は、アンテナアレイ50全体の励振分布を制御するために使用される。励振分布については後述する。
【0020】
可変位相調整器31
1〜31
Mは、信号処理装置10から供給された位相制御信号Pcに従って動作し、電力分配合成器23から入力されたMチャンネルの分配信号の位相を、それぞれ割り当てられた移相量(位相回転量)Δθ
1〜Δθ
MだけシフトさせてMチャンネル(M個の送信チャンネル)の移相信号を生成し、当該移相信号を可変振幅調整器32
1〜32
Mに出力することができる。移相量Δθ
1〜Δθ
Mは、位相制御信号Pcによって個別に制御される。たとえば、可変位相調整器31
1〜31
Mは、M個の可変移相器により構成可能であるが、これに限定されるものではない。
【0021】
可変振幅調整器32
1〜32
Mは、信号処理装置10から供給された振幅制御信号Acに従って動作し、可変位相調整器31
1〜31
Mから入力されたMチャンネルの移相信号の振幅を、それぞれ割り当てられた利得β
1〜β
Mで減衰させてMチャンネル(M個の送信チャンネル)の振幅調整信号を生成し、当該振幅調整信号をサーキュレータ41
1〜41
Mに出力することができる。利得β
1〜β
Mは、振幅制御信号Acによって個別に制御される。たとえば、可変振幅調整器32
1〜32
Mは、M個の可変減衰器(variable attenuators)により構成可能であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
サーキュレータ41
1〜41
Mは、可変振幅調整器32
1〜32
Mから入力されたMチャンネルの振幅調整信号を、それぞれ可変電力増幅器42
1〜42
Mのみに出力し、受信用の電力増幅器44
1〜44
Mから入力されたMチャンネル(M個の受信チャンネル)の高周波信号を調整回路30のみに出力する非相反回路である。
【0023】
可変電力増幅器42
1〜42
Mは、信号処理装置10から供給された利得制御信号TAcに従って動作し、サーキュレータ41
1〜41
Mから入力されたMチャンネルの振幅調整信号の振幅を、それぞれ割り当てられた利得g
1〜g
Mで増幅させてMチャンネル(M個の送信チャンネル)の励振信号を生成し、当該励振信号をサーキュレータ43
1〜43
Mに出力することができる。利得g
1〜g
Mは、利得制御信号TAcによって個別に制御される。
【0024】
サーキュレータ43
1〜43
Mは、可変電力増幅器42
1〜42
Mから入力されたMチャンネルの励振信号を、それぞれアンテナ素子51
1〜51
Mのみに出力し、アンテナ素子51
1〜51
Mから入力されたMチャンネル(M個の受信チャンネル)の高周波信号を電力増幅器44
1〜44
Mのみに出力する非相反回路である。
【0025】
アンテナ素子51
1〜51
Mは、サーキュレータ43
1〜43
Mから入力された励振信号によって励振されてレーダビームを外部空間に放射する。当該レーダビームは、外部空間内に存在する目標だけでなく、地表面、海表面、雨粒及び雲粒などの、目標以外の物体で反射され得る。目標以外の物体で発生する不要な反射エコーは、クラッタと呼ばれている。
【0026】
アンテナ素子51
1〜51
Mは、レーダビームに対応する反射エコーを外部空間から受信すると、それぞれMチャネル(M個の受信チャンネル)の反射エコー信号をサーキュレータ43
1〜43
Mに出力する。サーキュレータ43
1〜43
Mは、当該反射エコー信号を電力増幅器44
1〜44
Mのみに出力する。電力増幅器44
1〜44
Mは、当該反射エコー信号を増幅してMチャンネルの増幅信号をそれぞれサーキュレータ41
1〜41
Mに出力する。サーキュレータ41
1〜41
Mは、電力増幅器44
1〜44
Mから入力された増幅信号をそれぞれ可変振幅調整器32
1〜32
Mのみに出力する。
【0027】
可変振幅調整器32
1〜32
Mは、サーキュレータ41
1〜41
Mから入力されたMチャンネルの増幅信号の振幅を調整してMチャンネルの振幅調整信号を生成し、当該振幅調整信号を可変位相調整器31
1〜31
Mに出力することができる。可変位相調整器31
1〜31
Mは、可変振幅調整器32
1〜32
Mから入力された振幅調整信号の位相を調整してMチャンネルの移相信号を生成し、当該Mチャンネルの移相信号を電力分配合成器23に出力する。電力分配合成器23は、可変位相調整器31
1〜31
Mから入力されたMチャンネルの移相信号を合成して合成信号を生成し、当該合成信号を送受切換器22に出力する。そして、送受切換器22は、当該合成信号をアナログ信号処理回路24のみに出力する。
【0028】
アナログ信号処理回路24は、入力された合成信号を、当該合成信号の周波数よりも低い周波数(中間周波数またはベースバンド周波数)のアナログ信号に変換する周波数変換機能と、当該アナログ信号を位相検波してアナログ受信信号を生成する位相検波機能とを有している。アナログ受信信号は、同相信号成分と直交信号成分とからなる複素信号である。アナログ信号処理回路24は、アナログ受信信号をA/D変換器25に出力する。
【0029】
A/D変換器25は、当該アナログ受信信号をディジタル受信信号S(h)に変換し、当該ディジタル受信信号S(h)を信号処理装置10に供給する。ディジタル受信信号S(h)は、同相信号成分と直交信号成分とからなる複素信号である。ここで、ディジタル受信信号S(h)の変数hは、1〜Hの範囲内の整数を表すパルスヒット番号であり、Hは正整数である。以下、ディジタル受信信号S(h)を単に「受信信号S(h)」という。
【0030】
アンテナアレイ50には、各パルス信号ごとに励振分布が形成される。本明細書において、励振分布とは、アンテナ素子51
1〜51
Mの位置に関する励振振幅分布及び励振位相分布の組合せをいう。本実施の形態では、アンテナアレイ50に励振分布E
1,…,E
Hが順次形成されると、当該励振分布E
1,…,E
Hにそれぞれ対応する受信信号S(1),…,S(H)が得られる。励振分布の詳細については後述する。
【0031】
次に、実施の形態1の信号処理装置10の構成について説明する。
【0032】
図1に示されるように信号処理装置10は、レーダ諸元に基づいてレーダシステム1の動作を制御するレーダ制御部11と、調整回路30における移相量Δθ
1〜Δθ
M及び利得β
1〜β
Mを時分割で制御することでアンテナアレイ50に複数の励振分布を順次形成させる励振分布制御部12と、受信信号S(1)〜S(H)に基づいて外部空間に存在する目標を検出する目標検出部16と、受信信号S(1)〜S(H)に基づいて複数のクラッタ電力特性の測定量を算出するクラッタ測定部17と、外部空間における電波伝搬特性を推定する伝搬環境推定部18とを備えて構成されている。
【0033】
レーダ制御部11は、レーダ諸元の設定値が格納された内部メモリ(データ記憶部)11mを有し、当該設定値に基づいてレーダシステム1の動作を制御することができる。たとえば、レーダ制御部11は、利得制御信号TAcを可変電力増幅器42
1〜42
Mに供給することにより送信電力を制御することができる。また、レーダ制御部11は、パルス制御信号Scを信号生成器21に供給することにより、パルス繰り返し間隔(PRI)、送信パルス幅、及びアンテナ指向方向ごとの送信パルス数を制御することができる。
【0034】
ここで、アンテナ指向方向とは、アンテナアレイ50の最大放射方向を意味するものとする。アンテナ指向方向は、可変位相調整器31
1〜31
Mの移相量Δθ
1〜Δθ
Mを可変に設定することにより電子的に制御されてもよいし、あるいは、アンテナアレイ50を機械的に動かす可動機構を設けることにより機械的に制御されてもよい。
【0035】
さらに、レーダ制御部11は、伝搬環境推定部18で算出された電波伝搬特性の推定量PLに応じてレーダ諸元を可変に調整することが可能である。たとえば、レーダ制御部11は、電波伝搬特性の推定量PLから外部空間内の伝搬損失の空間的な分布を取得することができる。このため、レーダ制御部11は、伝搬損失が大きいと推定されるアンテナ指向方向については、送信電力もしくは送信パルス数を増やし、または、送信電力及び送信パルス数の双方を増やすことで、レーダ諸元を適応的に調整することができる。一方、伝搬損失が小さいと推定されるアンテナ指向方向については、レーダ制御部11は、送信電力もしくは送信パルス数を減らし、または、送信電力及び送信パルス数の双方を減らすことで、レーダ諸元を適応的に調整することができる。
【0036】
励振分布制御部12は、励振分布算出部13及び励振分布設定部14を含んで構成される。励振分布算出部13は、レーダ制御部11から供給されたレーダ諸元の設定値、及びレーダ制御部11により設定されたアンテナ指向方向に基づいて、励振分布E
1〜E
Hを示す励振分布データを導出する。
【0037】
励振分布設定部14は、励振分布データを用いて調整回路30における移相量Δθ
1〜Δθ
M及び利得β
1〜β
Mを時分割で制御することにより、アンテナアレイ50に励振分布E
1〜E
Hを順次形成させることができる。言い換えれば、励振分布設定部14は、移相量Δθ
1〜Δθ
M及び利得β
1〜β
Mを時分割で制御することにより、励振分布E
1〜E
Hを時分割で切り換えることができる。
【0038】
前述のとおり、励振分布E
1〜E
Hの各々は、励振振幅分布と励振位相分布との組合せで構成されている。
図2は、16個のアンテナ素子51
1〜51
16が直線状に等間隔で配列された場合における励振振幅分布の一例を表すグラフである。
図2のグラフにおいて、横軸は、アンテナ素子51
1〜51
16の番号を示し、縦軸は、最大振幅が零となるように規格化された振幅(単位:dB)を示す。また、
図3A及び
図3Bは、16個のアンテナ素子51
1〜51
16が直線状に等間隔で配列された場合における励振位相分布の2つの例を表すグラフである。
図3A及び
図3Bのグラフにおいて、横軸は、アンテナ素子51
1〜51
16の番号を示し、縦軸は、位相(単位:度)を示す。
【0039】
たとえば、
図2の励振振幅分布と
図3Aの励振位相分布との組合せで第1の励振分布E
1を構成することができ、
図2の励振振幅分布と
図3Bの励振位相分布との組合せで第2の励振分布E
2を構成することができる。この場合、第1の励振分布E
1により
図4Aに示されるアンテナパターン(放射パターン)が形成され、第2の励振分布E
2により
図4Bに示されるアンテナパターン(放射パターン)が形成される。
図4A及び
図4Bのグラフにおいて、横軸は、アンテナアレイ50を正面から視た場合を基準にした角度(単位:度)を示し、縦軸は、最大レベルが零となるように規格化されたレベル(単位:dB)を示す。
図4A及び
図4Bのアンテナパターンでは、0度に現れるメインローブと比べると、0度以外の領域に現れるサイドローブレベルは比較的高いことが分かる。このようなアンテナパターンを使用することにより、サイドローブから混入するクラッタ成分を比較的高い利得で受信することができる。
【0040】
励振分布E
1〜E
Hは、当該励振分布E
1〜E
Hを時間平均すれば、メインローブレベルに対してサイドローブレベルが抑圧されたアンテナパターンを形成する励振分布(以下「仮想的な励振分布」という。)が得られるとの条件を満たすように導出される。励振分布E
1〜E
Hによりそれぞれ形成されるアンテナパターンは、いずれも、メインローブレベルに対して比較的高いサイドローブレベルを有する(たとえば、
図4A及び
図4B参照)。このようなアンテナパターンは、サイドローブから混入するクラッタ成分を比較的高い利得で受信するために、クラッタ電力測定用に設けられたものである。
【0041】
これに対し、仮想的な励振分布は、メインローブレベルに対してサイドローブレベルが抑圧されたアンテナパターンを形成するための目標検出用の励振分布である。励振分布E
1〜E
Hにより形成されるアンテナパターンのメインローブレベルに対する最大サイドローブレベルの比率(第1の比率)は、仮想的な励振分布により形成されるアンテナパターンのメインローブレベルに対する最大サイドローブレベルの比率(第2の比率)よりも高くなるように設定されている。
【0042】
仮想的な励振分布は、実際にはアンテナアレイ50に形成されないが、目標検出部16は、受信信号S(1)〜S(H)に対してコヒーレント積分を実行することにより、当該仮想的な励振分布を用いて得られる目標検出結果とほぼ同等の目標検出結果を得ることができる。
【0043】
上記のとおり、
図2の励振振幅分布と
図3Aの励振位相分布との組合せで第1の励振分布E
1を構成することができ、
図2の励振振幅分布と
図3Bの励振位相分布との組合せで第2の励振分布E
2を構成することができる。この場合には、第1の励振分布E
1により
図4Aに示されるアンテナパターンが形成され、第2の励振分布E
2により
図4Bに示されるアンテナパターンが形成される。
図5は、かかる場合に第1の励振分布E
1と第2の励振分布E
2とを時間平均することで得られる仮想的な励振分布により形成されるアンテナパターンを表すグラフである。
図5のグラフにおいて、横軸は、角度(単位:度)を示し、縦軸は、最大レベルが零となるように規格化されたレベル(単位:dB)を示す。
図4A及び
図4Bに示したアンテナパターンと比べると、
図5に示したアンテナパターンでは、メインローブレベルに対してサイドローブレベルが大幅に抑圧されていることが分かる。
【0044】
今、
図3Aの励振位相分布をφ
1(x)と表し、
図3Bの励振位相分布をφ_
2(x)と表すものとする。励振位相分布φ
1(x),φ
2(x)は、共役関係にある。すなわち、jを複素単位とするとき、位相成分exp(jφ
1(x))の複素共役exp(−jφ
1(x))は、位相成分exp(jφ
2(x))と一致し、かつ、位相成分exp(jφ
2(x))の複素共役exp(−jφ
2(x))は、位相成分exp(jφ
1(x))と一致する。
【0045】
図6は、2種類の励振位相分布φ
1(x),φ
2(x)を用いて構成された励振分布E
1〜E
Hの例を表す図である。
図6の例では、励振分布E
1〜E
Hは、同一の励振振幅分布a(x)を有し、共役関係にある励振位相分布φ
1(x),φ
2(x)の対を複数有している。励振分布E
1〜E
Hの各々は、励振振幅分布a(x)と励振位相分布φ
1(x)との組合せ、または、励振振幅分布a(x)と励振位相分布φ
2(x)との組合せのいずれかで構成されている。なお、励振分布E
1〜E
Hが形成される順番は、
図6に示した順番に限定されるものではない。
【0046】
次に、目標検出部16は、励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応する受信信号S(1)〜S(H)に対して時間方向のコヒーレント積分を実行することで、クラッタ成分及び雑音成分が抑圧された積分信号を得ることができる。
【0047】
図7は、実施の形態1の目標検出部16の構成例を概略的に示すブロック図である。
図7に示される目標検出部16は、受信信号S(1)〜S(H)に対して時間方向のコヒーレント積分を実行して積分信号を算出する積分処理部62と、当該積分信号に基づいて目標の相対速度及び目標の方位などの目標情報TIを算出する目標情報算出部63とを備えて構成されている。目標情報TIは、表示器などの外部機器(図示せず)に供給される。たとえば、時間方向のコヒーレント積分として、高速フーリエ変換(FFT)などの離散フーリエ変換が実行されればよい。
【0048】
受信信号S(1)〜S(H)の各々は、複数の連続するレンジビン(距離ビン)に分割されており、各レンジビンに連続番号(以下「レンジビン番号」という。)が割り当てられている。レンジビン番号をkとすれば、各受信信号S(h)の標本化信号は、S
k(h)と表すことができる。積分処理部62は、各レンジビン番号kごとに、H点の標本化信号S
k(h)(h=1〜H)に対してパルスヒット方向(時間方向)の離散フーリエ変換を施すことで積分信号s
k(f
h)(f
h=1〜H)を得ることができる。ここで、f
hは、周波数ビン番号である。たとえば、目標情報算出部63は、積分信号s
k(f
h)に対して定誤警報確率(Constant False Alarm Ratio,CFAR)処理を実行して目標信号電力を検出し、その検出結果からドップラ周波数に相当する相対速度及び目標との距離を算出することができる。目標検出部16は、目標情報TIを外部機器に供給するとともに、当該検出結果を示すデータをクラッタ測定部17に供給する。
【0049】
図8Aは、積分信号s
k(f
h)の周波数(周波数ビン)対信号電力の関係を概略的に示すグラフであり、
図8Bは、積分信号s
k(f
h)の距離(レンジビン)対信号電力の関係を概略的に示すグラフである。
図8A及び
図8Bには、広い範囲に分布するクラッタ電力CLと狭い範囲に分布する目標信号電力TGとが現れている。目標情報算出部63は、目標信号電力TGのピークにおける周波数(周波数ビン)を目標のドップラ周波数として検出し、当該ドップラー周波数に相当する相対速度を算出することができる。また、目標情報算出部63は、目標信号電力TGのピークにおける距離(レンジビン)を検出することができる。
【0050】
次に、
図1を参照すると、クラッタ測定部17は、受信信号S(1)〜S(H)に基づいて、励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応するクラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hを算出する。具体的には、クラッタ測定部17は、受信信号S(1)〜S(H)それぞれの電力特性から雑音電力を除去し、さらに目標検出部16から供給された検出結果を用いて目標信号電力を除去することで、クラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hを算出することができる。当該測定量MC
1〜MC
Hを示すクラッタ測定データMCが伝搬環境推定部18に供給される。
【0051】
図9Aは、受信信号の距離対クラッタ電力特性を概略的に示すグラフである。
図9Aには、広い範囲に分布するクラッタ電力CL
hと除去された目標信号電力TG
hとが示されている。
図9Bは、受信信号の周波数対クラッタ電力特性を概略的に示すグラフである。
図9Bには、広い範囲に分布するクラッタ電力CL
fと目標信号電力TG
fとが示されている。
図9Bのグラフは、同一の励振分布に対応する受信信号を積分(離散フーリエ変換)することで得ることができる。たとえば、
図6の例において、励振分布E
1,E
3,…,E
H−3,E
H−1は同一なので、励振分布E
1,E
3,…,E
H−3,E
H−1に対応する受信信号S(1),S(3),…,S(H−3),S(H−1)をパルスヒット方向に積分することで周波数対クラッタ電力特性が得られる。また、励振分布E
2,E
4,…,E
H−2,E
Hは同一なので、励振分布E
2,E
4,…,E
H−2,E
Hに対応する受信信号S(2),S(4),…,S(H−2),S(H)をパルスヒット方向に積分することで周波数対クラッタ電力特性が得られる。
【0052】
次に、
図10は、実施の形態1の伝搬環境推定部18の概略構成を示すブロック図である。
図10に示されるように伝搬環境推定部18は、電波伝搬解析部71、大気分布更新部72及び伝搬特性推定部76を備えている。伝搬環境推定部18は、クラッタ測定部17からクラッタ測定データMCの供給を受けている。クラッタ測定データMCは、励振分布E
1,…,E
Hにそれぞれ対応するクラッタ電力特性の測定量MC
1,…,MC
Hを含む情報である。
【0053】
電波伝搬解析部71は、レーダ制御部11から、大気分布の初期推定量(初期大気分布)ADiの供給と、レーダ諸元の設定値及びアンテナ指向方向の双方を含むレーダパラメータRPの供給とを受けるとともに、励振分布制御部12からは、励振分布E
1,…,E
Hをそれぞれ示すデータセットED
1,…,ED
Hからなる励振分布データEDの供給を受けている。また、電波伝搬解析部71は、大気分布更新部72で算出された大気分布の推定量(推定大気分布)ADの供給を受ける。
【0054】
ここで、大気分布とは、気温、湿度または大気屈折率などの大気物理量の空間的な分布を意味する。
図11及び
図12は、大気屈折率の空間的な分布の例を表すグラフである。
図11及び
図12のグラフにおいて、横軸は基準地点からの水平方向の距離を示し、縦軸は高度を示している。これらのグラフでは、表示濃度が大きくなるほど大気屈折率が低くなり、表示濃度が小さくなるほど大気屈折率が高くなる。
【0055】
電波伝搬解析部71は、大気分布の推定量ADとレーダパラメータRPと励振分布データEDとを用いて、励振分布E
1,…,E
Hにそれぞれ対応するクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出することができる。電波伝搬解析部71は、予め用意された計算式を用いてクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出してもよいし、あるいは、予め用意された伝搬環境モデルを用いたシミュレーション計算を実行することによりクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出してもよい。算出された推定量EC
1,…,EC
Hは大気分布更新部72に供給される。
【0056】
大気分布更新部72は、クラッタ電力特性の測定量MC
1,…,MC
Hと推定量EC
1,…,EC
Hとの間の誤差量e
1,…,e
Hの大きさを小さくするように大気分布の推定量ADを修正することにより大気分布の推定量を更新する。当該更新された推定量ADは電波伝搬解析部71に供給される。h番目の誤差量e
hは、h番目の励振分布EC
hに対応するクラッタ電力特性の測定量MC
hと推定量EC
hとの間の差分である。測定量MC
1,…,MC
H、推定量EC
1,…,EC
H及び誤差量e
1,…,e
Hの各々は、ベクトル量で表すことができる。
【0057】
より具体的には、
図10に示されるように大気分布更新部72は比較部73及び大気分布算出部74を含む。比較部73は誤差量e
1,…,e
Hを算出する。大気分布算出部74は、最適化アルゴリズムの更新式に従い、誤差量e
1,…,e
Hの大きさが小さくなるように大気分布の推定量を修正することにより、大気分布の更新された推定量を算出することができる。たとえば、誤差量e
1,…,e
Hの大きさとしては、二乗平均誤差が算出されればよい。更新された推定量ADは、電波伝搬解析部71に供給される。
【0058】
電波伝搬解析部71及び大気分布更新部72は、大気分布の推定量ADが収束するまで、最適化アルゴリズムに基づく反復演算を実行することが可能である。たとえば、最適化アルゴリズムとしては、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)、粒子群最適化(Particle Swarm Optimization)、最急降下法(Steepest−Descent Algorithm)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
図11は、大気分布の初期推定量ADiの一例を表し、
図12は、大気分布の収束した推定量ADの一例を表している。
図12に示した大気分布は、ダクトが発生したことを想定した大気分布である。
【0059】
大気分布の推定量ADが収束すると、電波伝搬解析部71は、当該収束した推定量ADを伝搬特性推定部76に供給する。伝搬特性推定部76は、当該収束した推定量ADに基づいて外部空間の電波伝搬損失分布を電波伝搬特性として推定することができる。具体的には、伝搬特性推定部76は、予め用意された計算式を用いて電波伝搬特性の推定量PLを算出することが可能である。電波伝搬特性の推定量PLは、レーダ制御部11に供給される。レーダ制御部11は、電波伝搬特性の推定量PLに応じてレーダ諸元を可変に調整することが可能である。電波伝搬特性を計算する手法には様々な手法が存在する。たとえば、放物型方程式(Parabolic Equation)を用いた計算法、FDTD(Finite Difference Time Domain)解析法、またはレイトレーシング法が存在するが、これら手法に限定されるものではない。電波伝搬特性を計算可能な手法であれば、その手法は特に限定されるものではない。
【0060】
図13は、電波伝搬特性の推定量PLの一例を示すグラフである。
図13のグラフにおいて、横軸は基準地点からの水平方向の距離を示し、縦軸は高度を示している。このグラフでは、表示濃度が大きくなるほど伝搬損失が小さくなり、表示濃度が小さくなるほど伝搬損失が大きくなる。
【0061】
図14は、実施の形態1に係る電波伝搬特性を算出するための手順の例を概略的に示すフローチャートである。
図14を参照すると、目標検出部16は、入力された受信信号S(1)〜S(H)に基づく目標検出処理を実行する(ステップST31)。すなわち、目標検出部16は、受信信号S(1)〜S(H)に対して時間方向のコヒーレント積分を実行することにより、クラッタ成分及び雑音成分が抑圧された積分信号を算出する。目標検出部16は、さらに、当該積分信号に基づいて目標のドップラ周波数及び目標との距離を検出し、その検出結果を示すデータをクラッタ測定部17に供給する。
【0062】
ステップST31の後、クラッタ測定部17は、受信信号S(1)〜S(H)に基づいて、第1〜第Hの励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応する第1〜第Hのクラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hを算出する(ステップST32)。具体的には、上述のとおり、クラッタ測定部17は、受信信号S(1)〜S(H)それぞれの電力特性から雑音電力を除去し、さらに、目標検出部16から供給された検出結果を用いて目標信号電力を除去することで、クラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hを算出することができる。
【0063】
その後、電波伝搬解析部71は、大気分布の推定量ADを大気分布の初期推定量ADiに設定する(ステップST34)。そして、電波伝搬解析部71及び大気分布更新部72は、最適化アルゴリズムに基づく反復演算を実行することにより大気分布の推定量ADを更新する(ステップST35,ST37,ST39,ST41)。
【0064】
すなわち、ステップST35では、電波伝搬解析部71は、大気分布の推定量AD、レーダパラメータRP及び励振分布データEDを用いて、励振分布E
1,…,E
Hにそれぞれ対応する第1〜第Hのクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出する。第1〜第Hのクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hは、大気分布更新部72の比較部73に供給される。
【0065】
比較部73は、入力されたクラッタ電力特性の測定量MC
1,…,MC
Hと推定量EC
1,…,EC
Hとの間の誤差量e
1,…,e
1を算出する(ステップST37)。次いで、大気分布算出部74は、最適化アルゴリズムの更新式に従い、誤差量e
1,…,e
1の大きさが小さくなるように大気分布の推定量ADを修正することにより大気分布の推定量ADを更新する(ステップST39)。
【0066】
その後、電波伝搬解析部71は、最適化アルゴリズムに基づく反復演算を終了するか否かを判定する(ステップST41)。たとえば、反復演算の回数が上限値に到達した場合、あるいは、誤差量e
1,…,e
1の大きさが所定の収束条件を満たす場合には、電波伝搬解析部71は反復演算を終了すると判定することができる(ステップST41のYES)。たとえば、所定の収束条件としては、誤差量e
1,…,e
1の大きさ(たとえば、二乗平均誤差)が所定回数連続して一定値以下となるという条件が挙げられる。
【0067】
反復演算を終了しないと判定した場合(ステップST41のNO)、電波伝搬解析部71は、ステップST39で算出された大気分布の推定量ADとレーダパラメータRPと励振分布データEDとを用いて、第1〜第Hのクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出する(ステップST35)。その後、ステップST37,ST39が実行される。
【0068】
反復演算を終了するとの判定がなされた場合(ステップST41のYES)、伝搬特性推定部76は、最後に更新された大気分布の推定量ADに基づいて、外部空間の電波伝搬損失分布を電波伝搬特性の推定量PLとして推定する(ステップST42)。電波伝搬特性の推定量PLはレーダ制御部11に供給される。
【0069】
以上に説明したように実施の形態1の信号処理装置10は、複数の励振分布E
1〜E
Hをアンテナアレイ50に順次形成させて受信信号S(1)〜S(H)を得る。クラッタ測定部17は、当該受信信号S(1)〜S(H)に基づいて、励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応する複数のクラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hを算出する。電波伝搬解析部71は、大気分布の推定量AD、レーダ諸元の設定値及び励振分布データEDを用いて、励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応する複数のクラッタ電力特性の推定量EC
1〜EC
Hを算出する。大気分布更新部72は、推定量EC
1〜EC
Hと測定量MC
1〜MC
Hとの間の誤差量e
1,…,e
1の大きさを小さくするように大気分布の推定量ADを更新することができる。このように、複数の励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応する複数のクラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
H及び推定量EC
1〜EC
Hに基づいて大気分布の推定量ADが更新されるので、受信信号中の表面エコー成分のみに依存せずに大気分布を高精度に推定することが可能である。伝搬特性推定部76は、更新された推定量ADに基づいて電波伝搬特性の推定量PLを高精度に算出することができる。
【0070】
特に、複数の励振分布E
1〜E
Hにより形成されるアンテナパターンのサイドローブレベルを比較的高くすることによって、サイドローブから混入するクラッタ成分を高い利得で受信することができる。このため、クラッタ電力特性の測定精度の向上が可能となり、ひいては大気分布の推定精度が向上する。この場合でも、上記した仮想的な励振分布(複数の励振分布E
1〜E
Hを時間平均することで得られる励振分布)により形成されるアンテナパターンのサイドローブレベルが十分に低くなるように複数の励振分布E
1〜E
Hを設定することができる。それ故、目標検出部16は、受信信号S(1)〜S(H)に対して時間方向のコヒーレント積分を実行することで、クラッタ成分が抑圧された積分信号を得ることができる。したがって、目標検出精度の低下を回避することができる。
【0071】
なお、上記した信号処理装置10の機能の全部または一部は、たとえば、DSP(Digital Signal Processor),ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field−Programmable Gate Array)などの半導体集積回路を有する単数または複数のプロセッサにより実現可能である。あるいは、信号処理装置10の機能の全部または一部は、ソフトウェアまたはファームウェアのプログラムコードを実行する、CPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)などの演算装置を含む単数または複数のプロセッサで実現されてもよい。あるいは、DSP,ASICまたはFPGAなどの半導体集積回路と、CPUまたはGPUなどの演算装置との組み合わせを含む単数または複数のプロセッサによって信号処理装置10の機能の全部または一部を実現することも可能である。
【0072】
図15は、実施の形態1の信号処理装置10のハードウェア構成例である信号処理装置80の概略構成を示すブロック図である。
図15に示される信号処理装置80は、プロセッサ81、入出力インタフェース回路84、メモリ82、記憶装置73及び信号路85を備えている。信号路85は、プロセッサ81、入出力インタフェース回路84、メモリ82及び記憶装置83を相互に接続するためのバスである。入出力インタフェース回路84は、入力されたディジタル受信信号S(h)をプロセッサ81に転送する機能を有し、プロセッサ81から転送されたパルス制御信号Sc,振幅制御信号Ac,位相制御信号Pc及び利得制御信号TAcを外部に出力する機能を有している。
【0073】
メモリ82は、プロセッサ81がディジタル信号処理を実行する際に使用されるワークメモリと、当該ディジタル信号処理で使用されるデータが展開される一時記憶メモリとを含む。たとえば、メモリ82は、フラッシュメモリ及びSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)などの半導体メモリで構成されればよい。また、記憶装置83は、プロセッサ81がCPUまたはGPUなどの演算装置を含む場合には、当該演算装置で実行されるべきソフトウェアまたはファームウェアの信号処理プログラムのコードを格納する記憶媒体として利用可能である。たとえば、記憶装置83は、フラッシュメモリまたはROM(Read Only Memory)などの不揮発性の半導体メモリで構成されればよい。
【0074】
なお、
図15の例では、プロセッサ81の個数は1つであるが、これに限定されるものではない。互いに連携して動作する複数個のプロセッサを用いて信号処理装置10のハードウェア構成が実現されてもよい。
【0075】
実施の形態2.
次に、本発明に係る実施の形態2について説明する。
図16は、本発明に係る実施の形態2のレーダシステム1Aの概略構成を示すブロック図である。上記のとおり、実施の形態1のレーダシステム1は、クラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hに基づいて大気分布及び電波伝搬特性を推定する。これに対し、実施の形態2のレーダシステム1Aは、クラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hに加えて、衛星測位システムから得た航法信号の受信電力特性の測定量MNに基づいて大気分布及び電波伝搬特性を推定する。これにより、レーダシステム1Aと測位衛星との間の空間(たとえば、レーダシステム1Aの設置位置よりも高い高度)における大気分布及び電波伝搬特性を推定することが可能となる。
【0076】
図16に示されるレーダシステム1Aの構成は、実施の形態1のレーダシステム1の信号処理装置10に代えて信号処理装置10Aを有し、かつ測位衛星システムを利用するために受信アンテナ52、航法信号受信器54及び航法信号処理回路55を有する点を除いて、実施の形態1のレーダシステム1の構成と同じである。
【0077】
本実施の形態の信号処理装置10Aの構成は、レーダ制御部11に代えてレーダ制御部11Aを有し、かつ伝搬環境推定部18に代えて伝搬環境推定部18Aを有する点を除いて、実施の形態1の信号処理装置10の構成と同じである。
【0078】
実施の形態1のレーダ制御部11と同様に、本実施の形態のレーダ制御部11Aは、レーダ諸元の設定値が格納された内部メモリ(データ記憶部)11mを有し、当該設定値に基づいてレーダシステム1Aの動作を制御することができる。また、レーダ制御部11Aは、伝搬環境推定部18Aで算出された電波伝搬特性の推定量PLに応じてレーダ諸元を可変に調整することができる。
【0079】
さらにレーダ制御部11Aは、大気分布の初期推定量(初期大気分布)ADi及びレーダパラメータRPを伝搬環境推定部18Aに供給するとともに、衛星測位システムを構成する少なくとも1基の測位衛星の主要諸元及び軌道情報を示す測位衛星データGPを伝搬環境推定部18Aに供給する。レーダパラメータRPは、受信アンテナ52のアンテナ利得などの測位信号受信系のパラメータも含む。測位衛星の主要諸元としては、測位衛星の送信電力及び送信利得が挙げられる。測位衛星の軌道情報は、当該測位衛星の天空上の位置を示す情報である。軌道情報の中に、測位衛星とレーダシステム1との間の距離情報が含まれていてもよい。衛星測位システムとしては、全地球航法衛星システム(GNSS)または準天頂衛星システム(QZSS)が利用可能である。
【0080】
航法信号受信器54は、衛星測位システムを構成する少なくとも1基の測位衛星から到来した航法信号を受信アンテナ52を介して受信して受信信号を出力する。航法信号処理回路55は、当該受信信号に信号処理を施すことにより航法信号の受信電力特性の測定量MN(たとえば、受信点における受信電力値)を生成し、当該測定量MNを伝搬環境推定部18Aに供給する。
【0081】
図17は、実施の形態2の伝搬環境推定部18Aの概略構成を示すブロック図である。
図17に示されるように伝搬環境推定部18Aは、電波伝搬解析部71A、大気分布更新部72A及び伝搬特性推定部76を備えている。
【0082】
電波伝搬解析部71Aは、大気分布の推定量AD、レーダパラメータRP及び励振分布データEDを用いて、励振分布E
1,…,E
Hにそれぞれ対応するクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出することができる。また、電波伝搬解析部71Aは、大気分布の推定量AD、レーダパラメータRP及び測位衛星データGPを用いて、当該測位衛星から受信された航法信号の受信電力特性の推定量ENを算出することができる。電波伝搬解析部71Aは、予め用意された計算式を用いて受信電力特性の推定量ENを算出してもよいし、あるいは、予め用意された伝搬環境モデルを用いたシミュレーション計算を実行することにより受信電力特性の推定量ENを算出してもよい。算出された推定量EN,EC
1,…,EC
Hは大気分布更新部72Aに供給される。
【0083】
大気分布更新部72Aは、受信電力特性及びクラッタ電力特性の測定量MN,MC
1,…,MC
Hと推定量EN,EC
1,…,EC
Hとの間の誤差量e
0,e
1,…,e
Hの大きさを小さくするように大気分布の推定量ADを修正することにより大気分布の推定量を更新する。当該更新された推定量ADは電波伝搬解析部71Aに供給される。誤差量e
0は、航法信号の受信電力特性の測定量MNと推定量ENとの間の差分である。測定量MN,MC
1,…,MC
H、推定量EN,EC
1,…,EC
H及び誤差量e
1,…,e
Hの各々は、ベクトル量で表すことができる。
【0084】
より具体的には、
図17に示されるように大気分布更新部72Aは、比較部73A及び大気分布算出部74Aを含む。比較部73Aは誤差量e
0,e
1,…,e
Hを算出する。大気分布算出部74Aは、最適化アルゴリズムの更新式に従い、誤差量e
0,e
1,…,e
Hの大きさが小さくなるように大気分布の推定量(大気分布の初期推定量ADiまたは以前に算出された推定量)を修正することにより、大気分布の更新された推定量を算出することができる。たとえば、誤差量e
0,e
1,…,e
Hの大きさとしては、二乗平均誤差が算出されればよい。更新された推定量ADは電波伝搬解析部71Aに供給される。電波伝搬解析部71A及び大気分布更新部72Aは、大気分布の推定量ADが収束するまで、最適化アルゴリズムに基づく反復演算を実行することが可能である。
【0085】
大気分布の推定量ADが収束すると、電波伝搬解析部71Aは、当該収束した推定量ADを伝搬特性推定部76に供給する。伝搬特性推定部76は、当該収束した推定量ADに基づいて外部空間の電波伝搬損失分布を電波伝搬特性として推定することができる。電波伝搬特性の推定量PLは、レーダ制御部11Aに供給される。レーダ制御部11Aは、電波伝搬特性の推定量PLに応じてレーダ諸元を可変に調整することが可能である。
【0086】
図18は、実施の形態2に係る電波伝搬特性を算出するための手順の例を概略的に示すフローチャートである。
図18を参照すると、目標検出部16は、入力された受信信号S(1)〜S(H)に基づく目標検出処理を実行する(ステップST31)。ステップST31の後、クラッタ測定部17は、受信信号S(1)〜S(H)に基づいて、第1〜第Hの励振分布E
1〜E
Hにそれぞれ対応する第1〜第Hのクラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hを算出する(ステップST32)。
【0087】
その後、電波伝搬解析部71Aは、大気分布の推定量ADを大気分布の初期推定量ADiに設定する(ステップST34)。そして、電波伝搬解析部71A及び大気分布更新部72Aは、最適化アルゴリズムに基づく反復演算を実行することにより大気分布の推定量ADを更新する(ステップST35,ST36,ST38,ST40,ST41)。
【0088】
すなわち、ステップST35では、電波伝搬解析部71Aは、大気分布の推定量AD、レーダパラメータRP及び励振分布データEDを用いて、励振分布E
1,…,E
Hにそれぞれ対応する第1〜第Hのクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出する。第1〜第Hのクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hは、大気分布更新部72の比較部73に供給される。
【0089】
ステップST36では、電波伝搬解析部71Aは、大気分布の推定量AD、レーダパラメータRP及び測位衛星データGPを用いて、当該測位衛星から受信された航法信号の受信電力特性の推定量ENを算出する。
【0090】
次に、比較部73は、入力されたクラッタ電力特性及び受信電力特性の測定量MN,MC
1,…,MC
Hと推定量EN,EC
1,…,EC
Hとの間の誤差量e
0,e
1,…,e
1を算出する(ステップST38)。次いで、大気分布算出部74Aは、最適化アルゴリズムの更新式に従い、誤差量e
0,e
1,…,e
1の大きさが小さくなるように大気分布の推定量ADを修正することにより大気分布の推定量ADを更新する(ステップST40)。
【0091】
その後、電波伝搬解析部71Aは、最適化アルゴリズムに基づく反復演算を終了するか否かを判定する(ステップST41)。たとえば、反復演算の回数が上限値に到達した場合、あるいは、誤差量e
1,…,e
1の大きさが所定の収束条件を満たす場合には、電波伝搬解析部71は反復演算を終了すると判定することができる(ステップST41のYES)。
【0092】
反復演算を終了しないと判定した場合(ステップST41のNO)、電波伝搬解析部71Aは、ステップST40で算出された大気分布の推定量ADとレーダパラメータRPと励振分布データEDとを用いて、第1〜第Hのクラッタ電力特性の推定量EC
1,…,EC
Hを算出する(ステップST35)。また、電波伝搬解析部71Aは、大気分布の推定量AD、レーダパラメータRP及び測位衛星データGPを用いて、航法信号の受信電力特性の推定量ENを算出する(ステップST36)。その後、ステップST38,ST40が実行される。
【0093】
反復演算を終了するとの判定がなされた場合(ステップST41のYES)、伝搬特性推定部76は、最後に更新された大気分布の推定量ADに基づいて、外部空間の電波伝搬損失分布を電波伝搬特性の推定量PLとして推定する(ステップST42)。電波伝搬特性の推定量PLはレーダ制御部11に供給される。
【0094】
以上に説明したように実施の形態2のレーダシステム1Aは、クラッタ電力特性の測定量MC
1〜MC
Hに加えて、航法信号の受信電力特性の測定量MNに基づいて大気分布及び電波伝搬特性を推定することができる。これにより、レーダシステム1Aと測位衛星との間の空間(たとえば、レーダシステム1Aの設置位置よりも高い高度)における大気分布及び電波伝搬特性を推定することが可能となる。
【0095】
実施の形態3.
次に、本発明に係る実施の形態3について説明する。
図19は、本発明に係る実施の形態3のレーダシステム1Dの概略構成を示すブロック図である。本実施の形態のレーダシステム1Dの構成は、実施の形態1,2とは異なる送受信回路を有する点を除いて、実施の形態2のレーダシステム1Aの構成と同じである。
【0096】
実施の形態1,2のレーダシステム1Aの送受信回路は、信号生成器21、送受切換器22、電力分配合成器23、アナログ信号処理回路24、A/D変換器25、調整回路30、サーキュレータ41
1〜41
M、可変電力増幅器42
1〜42
M、サーキュレータ43
1〜43
M及び電力増幅器44
1〜44
Mによって構成される。
【0097】
これに対し、実施の形態3のレーダシステム1Dの送受信回路は、信号生成器21D、送信ディジタルビームフォーミング部(送信DBF部)19T、受信ディジタルビームフォーミング部(受信DBF部)19R、送信用のD/A変換器(DAC)33
1,33
2,…,33
M、受信用のA/D変換器(ADC)34
1,34
2,…,34
M、可変電力増幅器42
1〜42
M、サーキュレータ43
1〜43
M及び電力増幅器44
1〜44
Mによって構成されている。
【0098】
信号処理装置10Dは、レーダ制御部11A、励振分布制御部12、目標検出部16、クラッタ測定部17、伝搬環境推定部18A、信号生成器21D、送信DBF部19T及び受信DBF部19Rを有する。信号生成器21Dは、信号処理装置10から供給されたパルス制御信号Scに従って動作し、ディジタルパルス信号を連続的に生成する機能を有する。ディジタルパルス信号は、ほぼ矩形の波形を有し、所定のパルス繰り返し周期で繰り返し出力される。このようなディジタルパルス信号は送信DBF部19Tに出力される。
【0099】
送信DBF部19Tは、ディジタルパルス信号の各々をMチャンネル(M個の送信チャンネル)のディジタル分配信号に分配し、当該Mチャンネルのディジタル分配信号をD/A変換器33
1,…,33
Mに出力する。D/A変換器33
1〜33
Mは、当該ディジタル分配信号をMチャンネルのアナログ分配信号に変換し、当該アナログ分配信号を可変電力増幅器42
1〜42
Mに供給する。
【0100】
可変電力増幅器42
1〜42
Mは、信号処理装置10から供給された利得制御信号TAcに従って動作し、D/A変換器33
1〜33
Mから入力されたMチャンネルのアナログ分配信号の振幅を、それぞれ割り当てられた利得g
1〜g
Mで増幅させてMチャンネルの励振信号を生成し、当該励振信号をサーキュレータ43
1〜43
Mを介してアンテナ素子51
1〜51
Mに供給する。実施の形態1,2の場合と同様に、利得g
1〜g
Mは、利得制御信号TAcによって個別に制御される。
【0101】
送信DBF部19Tは、励振分布制御部12から供給された振幅制御信号Acに従って、Mチャンネルのディジタル分配信号の振幅をそれぞれ割り当てられた利得で減衰させる振幅調整機能を有し、励振分布制御部12から供給された位相制御信号Pcに従って、Mチャンネルのディジタル分配信号の位相をそれぞれ割り当てられた移相量(位相回転量)だけシフトさせる位相調整機能を有する。送信DBF部19Tは、このような振幅調整機能及び位相調整機能により、実施の形態1,2の場合と同様の励振分布E
1,…,E
Hをアンテナアレイ50に順次形成させることができる。
【0102】
アンテナ素子51
1〜51
Mは、レーダビームに対応する反射エコーを外部空間から受信すると、それぞれMチャネル(M個の受信チャンネル)の反射エコー信号をサーキュレータ43
1〜43
Mに出力する。サーキュレータ43
1〜43
Mは、当該反射エコー信号を電力増幅器44
1〜44
Mのみに出力する。
【0103】
電力増幅器44
1〜44
Mは、当該反射エコー信号を増幅してMチャンネルのアナログ増幅信号をそれぞれA/D変換器34
1〜34
Mに出力する。A/D変換器34
1〜34
Mは、当該アナログ増幅信号をMチャンネルのディジタル増幅信号に変換し、当該ディジタル増幅信号を受信DBF部19Rに供給する。
【0104】
受信DBF部19Rは、励振分布制御部12から供給された振幅制御信号Ac及び位相制御信号Pcに従って、Mチャンネルのディジタル増幅信号の位相及び振幅を調整し、その結果得られたMチャンネルのディジタル信号を合成することでディジタル受信信号S(h)を生成する機能を有する。当該ディジタル受信信号S(h)は、目標検出部16及びクラッタ測定部17に供給される。
【0105】
本実施の形態のレーダシステム1Dの送受信回路は、送信DBF部19T,受信DBF部19R,D/A変換器33
1〜33
M及びA/D変換器34
1〜34
Mを用いて構成されているので、実施の形態1,2の送受信回路と比べると、部品点数を少なくすることができる。実施の形態3のレーダシステム1Dは、実施の形態1,2の効果と同様の効果を得ることが可能である。
【0106】
以上、図面を参照して本発明に係る種々の実施の形態について述べたが、実施の形態1〜3は本発明の例示であり、実施の形態1〜3以外の様々な実施の形態もありうる。本発明の範囲内において、実施の形態1〜3の自由な組み合わせ、各実施の形態の任意の構成要素の変形、または各実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0107】
たとえば、信号処理装置10A,10Dの各信号処理装置の機能の全部または一部は、たとえば、DSP,ASICまたはFPGAなどの半導体集積回路を有する単数または複数のプロセッサにより実現可能である。あるいは、各信号処理装置の機能の全部または一部は、ソフトウェアまたはファームウェアのプログラムコードを実行する、CPUまたはGPUなどの演算装置を含む単数または複数のプロセッサで実現されてもよい。あるいは、DSP,ASICまたはFPGAなどの半導体集積回路と、CPUまたはGPUなどの演算装置との組み合わせを含む単数または複数のプロセッサによって各信号処理装置の機能の全部または一部を実現することも可能である。
図15に示した信号処理装置80によって各信号処理装置のハードウェア構成が実現されてもよい。