【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 認知症の早期診断・早期治療のための医療機器開発プロジェクト」「QSMとVBMのハイブリッド撮像・解析による認知症の早期診断MRI」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
KIM, Hahnsung et al.,Robust Susceptibility Weighted Imaging using Single-Slab 3D GRASE with Removal of Background Phase Variation,Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 21,2013年04月26日,p. 2514
【文献】
FANG, Jinsheng et al.,Background field removal using a region adaptive kernel for quantitative susceptibility mapping of human brain,J. Magn. Reson.,2017年05月10日,Vol. 281,pp. 130-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を適用する実施形態の一例を説明する。以下、実施形態を説明するための全図において、特に断らない限り、同一機能を有するものは同一符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、以下の記述により本発明が限定されるものではない。
【0014】
≪MRI装置の全体構成≫
図1は、本実施形態に係るMRI装置の外観図である。
図1(a)は、ソレノイドコイルで静磁場を生成するトンネル型磁石を用いた水平磁場方式のMRI装置100である。
図1(b)は、開放感を高めるために磁石を上下に分離したオープン型の垂直磁場方式のMRI装置120である。また、
図1(c)は、
図1(a)と同じトンネル型磁石を用い、磁石の奥行を短くし、かつ、斜めに傾けることによって、開放感を高めたMRI装置130である。なお、本実施形態において、MRI装置の構成は、特に限定されるものではなく、
図1に示す何れの構成であってもよいし、公知の構成であってもよい。
【0015】
以下、特に区別する必要がない場合は、MRI装置100で代表する。MRI装置100において、MRI装置100の静磁場方向をz方向、z方向に垂直な2方向のうち、測定対称である被検体101を載置するベッド面に平行な方向をx方向、他方向をy方向とする。
【0016】
図2は、本実施形態に係るMRI装置の概略構成を示すブロック図である。
図2に示すように、MRI装置100は、被検体101が配置される空間に静磁場を生成する静磁場生成磁石102と、被検体101に高周波磁場を送信する送信用高周波コイル(送信部)105と、高周波磁場の送信により被検体101から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル(受信部)106と、核磁気共鳴信号に位置情報を付加する傾斜磁場を印加する傾斜磁場印加部103と、送信部105、受信部106、及び傾斜磁場印加部103を制御するとともに、核磁気共鳴信号に対して演算処理を行う計算機109と、計算機109により演算処理された画像を表示する表示部110と、を備える。
更に、MRI装置100は、シムコイル104、送信機107、受信機108、外部記憶装置111、傾斜磁場用電源部112、シム用電源部113、シーケンス制御装置114、入力装置115、などを備える。
【0017】
静磁場生成磁石102は、被検体101が配置される空間に静磁場を生成する磁石であり、MRI装置の構成に応じて、種々の形態を採用することができる。傾斜磁場印加部103は、核磁気共鳴信号に空間的な位置情報を付加するために、被検体101が配置される空間において、x方向、y方向、z方向の各方向に傾斜磁場を印加するコイルである。各方向に印加される傾斜磁場(x方向傾斜磁場、y方向傾斜磁場、z方向傾斜磁場)は、例えば、位相エンコード傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場、スライス傾斜磁場である。
【0018】
シムコイル104は、被検体101が配置される空間に生成される静磁場の不均一性を打ち消して除去するなど、静磁場分布を調整するために使用される電流コイルである。送信部105は、被検体101の水素原子核を励起させる高周波磁場を、被検体101に送信する送信用高周波コイルである。受信部106は、高周波磁場の送信により被検体101から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイルである。なお、送信部105と受信部106とは、別々の構成としてもよいし、兼用する構成としてもよい。
【0019】
送信機107は、シーケンス制御装置114によって制御され、送信部105へと送信する高周波磁場を生成する。受信機108は、シーケンス制御装置114によって制御され、受信部106によって受信された核磁気共鳴信号を検波し、複素信号を計算機109へと送信する。なお、送信部105と受信部106とは、別々の構成としてもよいし、兼用する構成としてもよい。
【0020】
計算機109は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、記憶装置などを備える情報処理装置であり、計算機109には、表示部110、外部記憶装置111、入力装置115などが接続される。計算機109は、記憶装置に記憶される制御プログラムを読み出して、ワークエリアに展開し、当該制御プログラムを実行することで、MRI装置100全体の動作を制御するとともに、各種演算処理を行う。なお、計算機109は、MRI装置100の一部であってもよいし、MRI装置100から独立した情報処理装置であって、MRI装置100とデータの送受信が可能な情報処理装置であってもよい。更に、計算機109が実現する各種機能のうち、全部または一部の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(field-programmable gate array)などのハードウェアによって実現されていてもよい。
【0021】
表示部110は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、等で構成される。表示部110は、計算機109から取得したデータに基づいて、ディスプレイ画面上に、演算結果、各種画像などを表示する。表示部110は、例えば、後述する局所位相分布、定量的磁化率分布、磁化率強調画像などをディスプレイ画面上に表示する。
【0022】
外部記憶装置111は、記憶装置とともに、計算機109が行う各種演算処理に使用されるデータ、演算処理中に生成されるデータ、各種演算処理により取得されるデータ、入力装置115を介して入力される各種条件、各種パラメータ、などを記憶する。
【0023】
傾斜磁場用電源部112は、傾斜磁場印加部103の駆動用電源であり、シーケンス制御装置114からの制御指示に基づいて、傾斜磁場印加部103の駆動を制御する。シム用電源部113は、シムコイル104の駆動用電源であり、シーケンス制御装置114からの制御指示に基づいて、シムコイル104の駆動を制御する。
【0024】
シーケンス制御装置114は、送信機107、受信機108、傾斜磁場用電源部112、シム用電源部113、などMRI装置100の各部の動作を制御する。例えば、シーケンス制御装置114は、外部記憶装置111や記憶装置に記憶される設定情報(例えば、後述のパルスシーケンスと呼ばれるタイムチャート)に基づいて、高周波磁場の印加タイミング、傾斜磁場(x方向傾斜磁場、y方向傾斜磁場、z方向傾斜磁場)の印加タイミング、核磁気共鳴信号の受信タイミング、などを制御する。
【0025】
入力装置115は、操作者による入力操作を受け付ける機能を備えており、例えば、キーボード、カメラ、マウス、タッチパネル、音声入力を受け付けるマイク、などで構成される。入力装置115は、計算機109が行う各種演算処理や計測処理などに必要な各種条件、各種パラメータ、などを操作者が入力するためのインタフェースである。なお、各種条件、各種パラメータ、などは、予め設定しておくことも可能であるし、操作者が入力装置115を介して適宜設定することも可能である。
【0026】
≪計算機の構成≫
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る計算機109の構成について説明する。本実施形態では対象組織として被検体101の脳を適用する場合を一例に挙げて説明する。
【0027】
ここで、計算機109の構成の説明に先立ち、SHARP法を用いた一般的な背景位相除去処理の概要について説明する。
まず、MRI装置は、Gradient Echo法を用いて、任意のエコー時間(高周波磁場を送信してから核磁気共鳴信号を受信するまでの時間)で撮像された複素画像から位相分布Pを算出する。そして、MRI装置は、位相分布Pに生じている−π〜+πの範囲に折り返された位相を補正する位相折り返し補正処理を行う。
位相折り返し補正処理後の位相分布(総位相分布)P
totalは、対象組織の形状などに起因する背景位相分布P
bkgr、生体組織間の磁化率差に起因する局所位相分布P
localを用いて、式(1)で表される。
【数1】
そして、MRI装置は、任意画素における画素値と、その画素を中心とした所定の半径を有する球(カーネル)内の画素における画素値の平均とが略等しいという平均値の性質を用いて、総位相分布P
totalから、背景位相分布P
bkgrと局所位相分布P
localとを分離する。
背景位相分布P
bkgrは、平均値の性質によって、式(2)を満たす。
【数2】
δはデルタ関数、ρ
rは半径rの球状カーネル、
Aは畳み込み積分をそれぞれ表す。また、M
shrinkは、被検体101の対象組織を抽出した対象組織抽出画像Mから、球状カーネルρ
rの半径rに応じて縮小されたマスクを表す。
式(2)で表される畳み込み積分
Aは、フーリエ変換行列F、逆フーリエ変換行列F
−1を用いることで、式(3)に変換できる。
【数3】
但し、C=F(δ−ρ
r)
式(3)に式(1)を代入することで、式(4)の関係式が得られる。
【数4】
そして、MRI装置は、総位相分布P
totalから、式(4)の関係式を満たす局所位相分布P
localを算出し、最小二乗処理によって、式(5)で表される局所位相分布P’
localを算出する。
【数5】
即ち、SHARP法を用いた一般的な背景位相除去処理では、マスクM
shrinkの範囲における局所位相分布しか算出することができず、脳内部と脳外部との境界部分(脳表領域)における局所位相分布の算出精度が低下するという問題が生じていた。
【0028】
そこで、本実施形態に係るMRI装置100は、総位相分布を、脳表領域と脳内部の領域とに領域分割し、総位相分布と脳表領域における背景位相分布とを組み合わせることで、脳表領域を含めた脳全体の局所位相分布を算出する。これにより、脳表領域における局所位相分布の算出精度を向上させることができる。以下、これを実現する計算機109の機能構成について説明する。
【0029】
計算機109は、計測制御部310と、画像再構成部320と、局所位相分布算出部330と、所望分布算出部340と、を備える。更に、局所位相分布算出部330は、対象組織抽出部331、位相分布算出部332、位相折り返し補正部333、領域分割部334、背景位相分布算出部335、全領域局所位相分布算出部336と、を備える。
【0030】
計測制御部310は、例えば、Gradient Echo法を用いて、送信部105から被検体101への高周波磁場の送信により、被検体101から発生する任意のエコー時間の核磁気共鳴信号を複素信号として計測する。計測制御部310は、予め設定されたパルスシーケンスに従って、シーケンス制御装置114を制御することで、高周波磁場の印加タイミング、傾斜磁場の印加タイミング、核磁気共鳴信号の受信タイミング、などを制御する。なお、計測制御部310は、血流などの流れの影響を補償する流速補正(Flow Compensation)傾斜磁場パルスを、x方向、y方向、z方向の各方向に印加してもよい。
【0031】
画像再構成部320は、計測制御部310によって計測された複素信号(核磁気共鳴信号)を、例えば、kr軸、kp軸、ks軸を座標軸とする3次元のk空間に配置してフーリエ変換することにより、任意画素の画素値が複素数で表される複素画像を再構成する。画像再構成部320は、k空間に核磁気共鳴信号を充填する際、k空間の座標軸(例えば、kr軸)に平行に、1行ずつ核磁気共鳴信号を充填していく方法を用いてもよいし(Cartesian充填法)、k空間の原点を中心に、角度を変化させながら放射状に核磁気共鳴信号を充填していく方法を用いてもよい(Radial Scan充填法)。
【0032】
局所位相分布算出部330は、画像再構成部320によって再構成された複素画像に基づいて、対象組織の全領域における局所位相分布を算出する。具体的には、対象組織抽出部331が、複素画像から被検体101の対象組織を抽出した対象組織抽出画像Mを生成する。そして、位相分布算出部332が、複素画像から位相分布Pを算出する。そして、位相折り返し補正部333が、位相分布Pの位相折り返しを補正し、総位相分布P
totalを算出する。そして、領域分割部334が、対象組織抽出画像Mに基づいて、総位相分布P
totalを少なくとも2つ以上の領域(例えば、所定領域、所定領域以外の領域)に分割する。そして、背景位相分布算出部335が、所定領域における背景位相分布P
edgeを算出する。そして、全領域局所位相分布算出部336が、総位相分布P
totalと、所定領域における背景位相分布P
edgeとを組み合わせることで、所定領域を含めた対象組織の全領域における局所位相分布P’
localを算出する。
【0033】
所望分布算出部340は、局所位相分布算出部330によって算出された局所位相分布P’
localを用いて、定量的磁化率分布や磁化率強調画像などの所望分布を算出し、当該所望分布を表示部110へと出力する。
【0034】
上述のように、本実施形態に係る計算機109は、複素画像から対象組織のみを抽出し、総位相分布を対象組織の所定領域と所定領域以外の領域とに分割して、所定領域における背景位相分布を算出し、当該背景位相分布を利用して、対象組織の全領域における局所位相分布を算出する。これにより、カーネルの半径に応じて脳表領域で誤差が大きくなり、脳表領域における局所位相分布の算出精度が低下するという従来のSHARP法に生じていた問題点を回避し、脳表領域を含めた脳全体における局所位相分布を高精度に算出することができる。
【0035】
≪計算機における演算処理の流れ≫
次に、
図4乃至
図8を参照して、本実施形態に係る計算機109が行う演算処理の流れについて説明する。
図4は、本実施形態に係る計算機109における演算処理の流れを説明するフローチャートである。
図5は、RSSGシーケンスのパルスシーケンスを説明するための図である。
図6は、本実施形態に係る局所位相分布算出部330における局所位相分布算出処理の流れを説明するフローチャートである。
図7は、本実施形態に係る全領域局所位相分布算出部336で用いる重み画像を説明するための図である。
図8は、本実施形態に係る表示部110に表示される画像の一例を示す図である。
【0036】
[計測:S1001]
ステップS1001において、計算機109は計測処理を行う。
【0037】
操作者が、入力装置115を介して各種パラメータ(例えば、核磁気共鳴信号の数、エコー時間、エコー時間の間隔など)を設定し、計算機109に撮像開始指示が入力されると、計測制御部310は、予め設定されたパルスシーケンスに従って、シーケンス制御装置114を制御する。そして、計測制御部310は、任意のエコー時間の核磁気共鳴信号を複素信号として計測する。
【0038】
ここで、
図5を参照して、計測制御部310が計測に使用するGradient Echo型のパルスシーケンスについて説明する。
図5に示すRSSG(RF-spoiled-Steady-state Acquisition with Rewound Gradient-Echo)シーケンス510は、生体組織間の磁化率差によって生じる局所的な磁場変化に鋭敏なパルスシーケンスである。なお、計測制御部310が計測に使用するシーケンスは、RSSGシーケンス510に限定されるものではない。
【0039】
図5において、RFは高周波磁場を示し、Gsはスライス傾斜磁場を示し、Gpは位相エンコード傾斜磁場を示し、Grはリードアウト傾斜磁場を示している。また、TEはエコー時間を示し、TRは繰り返し時間を示している。更に、501はスライス傾斜磁場パルス、502は高周波磁場パルス、503、508はスライスエンコード傾斜磁場パルス、504、509は位相エンコード傾斜磁場パルス、505、506はリードアウト傾斜磁場パルス、507は核磁気共鳴信号を示している。なお、ハイフン以下の数字は、計測制御部310が行う繰り返しの計測が何回目であるかを示しており、例えば、「−2」は、計測制御部310が行う繰り返しの計測が2回目であることを示している。
【0040】
計測制御部310は、RSSGシーケンス510に従って、シーケンス制御装置114を制御することで、スライス傾斜磁場パルス501、高周波磁場パルス502、スライスエンコード傾斜磁場パルス503、位相エンコード傾斜磁場パルス504、リードアウト傾斜磁場パルス505、リードアウト傾斜磁場パルス506、スライスエンコード傾斜磁場パルス508、位相エンコード傾斜磁場パルス509、などの印加タイミングを適切に制御することで、画像再構成に必要なデータを計測する。
【0041】
図5に示すRSSGシーケンス510では、繰り返し時間TR内に、1つの核磁気共鳴信号507を計測する。
まず、静磁場内に被検体101が配置されると、静磁場強度に応じて被検体101内の水素原子核が、所定の周波数を持つため、送信部105は、被検体101の計測領域に、当該周波数と一致するような高周波磁場パルス502−1を送信し、被検体101の水素原子核を励起させる。この際、傾斜磁場印加部103は、被検体101の計測領域におけるz方向に、スライス傾斜磁場パルス501−1を印加し、被検体101における所定のスライス(3次元画像の撮像位置)での磁化を選択励起させる。
【0042】
なお、計測制御部310は、繰り返しの計測を行う際、高周波磁場パルス502の位相を、所定角度(例えば、117度、122度)ずつ変更する。例えば、繰り返しの計測が1回目の場合、所定角度を117度とし、繰り返しの計測が2回目の場合、角度を117×2度とし、繰り返しの計測が3回目の場合、角度を117×3度とする。これにより、次の高周波磁場パルスを印加する際、余分な信号成分を残すことなく適切な計測を行うことが可能になる。
【0043】
続いて、傾斜磁場印加部103は、被検体101の計測領域におけるz方向に、スライスエンコード傾斜磁場パルス503−1を印加して、磁化の位相に、スライスエンコード方向の位置情報を付加する。また、傾斜磁場印加部103は、被検体101の計測領域におけるx方向に、位相エンコード傾斜磁場パルス504−1を印加して、磁化の位相に、位相エンコード方向の位置情報を付加する。即ち、傾斜磁場印加部103は、核磁気共鳴信号の読み出しに先だって、z方向及びx方向における磁化の位相に、位置情報を付加する。
【0044】
スライスエンコード傾斜磁場パルス503−1は、繰り返し時間TR毎に、磁場強度が変化する。例えば、
図5に示す7本の横線は、異なる強さの傾斜磁場を示しており、上方向の矢印に従って、正の傾斜磁場が強くなることを示している。同様に、位相エンコード傾斜磁場パルス504−1も、繰り返し時間TR毎に、磁場強度が変化する。例えば、
図5に示す7本の横線は、異なる強さの傾斜磁場を示しており、上方向の矢印に従って、正の傾斜磁場が強くなることを示している。
【0045】
なお、
図5では、スライスエンコード傾斜磁場パルス503−1及び位相エンコード傾斜磁場パルス504−1における磁場強度が、7通りに変化する場合を一例に挙げて説明しているが、これに限定されるものではない。
【0046】
続いて、傾斜磁場印加部103は、被検体101の計測領域におけるy方向に、ディフェーズ用のリードアウト傾斜磁場パルス505−1を印加して、画素内における磁化の位相を分散させる。そして、傾斜磁場印加部103は、被検体101の計測領域におけるy方向に、リードアウト傾斜磁場パルス506−1を印加して、磁化の位相に、リードアウト方向の位置情報を付加する。これにより、計測制御部310は、繰り返し時間TR内に、1つの核磁気共鳴信号507を計測することが可能になる。
【0047】
最後に、傾斜磁場印加部103は、被検体101の計測領域におけるz方向に、リフェーズ用のスライスエンコード傾斜磁場パルス508−1を印加し、更に、被検体101の計測領域におけるx方向に、リフェーズ用の位相エンコード傾斜磁場パルス509−1を印加して、ディフェーズされた画素内における磁化の位相を収束させる。
【0048】
スライスエンコード傾斜磁場パルス508−1は、繰り返し時間TR毎に、磁場強度が変化する。例えば、
図5に示す7本の横線は、異なる強さの傾斜磁場を示しており、下方向の矢印に従って、負の傾斜磁場が強くなることを示している。同様に、位相エンコード傾斜磁場パルス509−1も、繰り返し時間TR毎に、磁場強度が変化する。例えば、
図5に示す7本の横線は、異なる強さの傾斜磁場を示しており、下方向の矢印に従って、負の傾斜磁場が強くなることを示している。
【0049】
計測制御部310は、上述の手順を、高周波磁場パルス502の位相、スライスエンコード傾斜磁場パルス503、508の強度、位相エンコード傾斜磁場パルス504、509の強度、などを変化させながら繰り返し行い、画像再構成に必要とされる核磁気共鳴信号507を計測する。なお、RSSGシーケンス510により得られる複素画像の絶対値成分は、エコー時間TEが短く設定されるとT1(縦緩和時間)強調画像となり、エコー時間TEが長く設定されると画素内の位相分散を反映したT2
*(見かけの横緩和時間)強調画像となる。本実施形態では、エコー時間TEを長く設定し、T2
*強調画像の撮像を行う。
【0050】
[画像再構成:S1002]
ステップS1002において、計算機109は画像再構成処理を行う。
【0051】
画像再構成部320は、ステップS1001で計測された核磁気共鳴信号を、k空間上に配置してフーリエ変換することにより、複素画像を再構成する。撮像方法としては、特に限定されるものではなく、カーテシアン撮像、ノンカーテシアン撮像、マルチエコーエコープラナーイメージング法、などの公知の方法を適用することができる。
【0052】
[局所位相分布算出処理:S1003]
ステップS1003において、計算機109は局所位相分布算出処理を行う。
【0053】
ここで、
図6を参照して、局所位相分布算出処理の流れについて詳細に説明する。局所位相分布算出部330は、ステップS1002で再構成された複素画像に基づいて、対象組織の全領域における局所位相分布を算出する。
【0054】
ステップS1101において、対象組織抽出部331は、画像再構成部320によって構成された複素画像の絶対値成分(絶対値画像)における画素値の大きさに基づいて、被検体101の対象組織を抽出した対象組織抽出画像Mを算出する。対象組織抽出部331は、例えば、判別分析法などの公知の方法を用いて、絶対値画像の画素値のヒストグラムから、ノイズ成分と信号成分とを分離し、被検体101の対象組織を抽出した対象組織抽出画像M(例えば、脳内部の画素値を1、脳外部の画素値を0とした画像)を算出する。なお、対象組織抽出部331は、例えば、領域拡大(Region Growing)法などの公知の方法を用いて、複素画像から磁化率分布の算出に不要な領域(例えば、皮下脂肪などの領域)を除去して、磁化率分布の算出に必要な領域である対象組織の実質領域のみを抽出した対象組織抽出画像Mを算出してもよい。
【0055】
ステップS1102において、位相分布算出部332は、画像再構成部320によって再構成された複素画像の偏角成分に基づいて、位相分布Pを算出する。
【0056】
ステップS1103において、位相折り返し補正部333は、例えば、領域拡大法など公知の方法を用いて、ステップS1102で算出された位相分布Pに生じている−π〜+πの範囲に折り返された位相を補正し、総位相分布P
totalを算出する。
【0057】
ステップS1104において、領域分割部334は、ステップS1101で算出された対象組織抽出画像Mに基づいて、総位相分布P
totalを、少なくとも2つ以上の領域、即ち、対象組織の所定領域と、対象組織の所定領域以外の領域と、に分割する。対象組織の所定領域とは、例えば、脳内部の画素値を1、脳外部の画素値を0とした画像において、画素値が1である領域と画素値が0である領域との境界部分である脳表領域である。また、対象組織の所定領域以外の領域とは、例えば、脳表領域を除いた脳内部の領域である。なお、脳表領域として定義される領域は、後述のステップS1106において、全領域局所位相分布算出部336が、対象組織の全領域における局所位相分布を算出する際に用いる球状カーネルρ
rの半径r(カーネルサイズ)によって決定される。
【0058】
ステップS1105において、背景位相分布算出部335は、ステップS1103で算出された総位相分布P
totalから、対象組織の所定領域(例えば、脳表領域)における背景位相分布P
edgeを算出する。以下、対象組織の所定領域における背景位相分布P
edgeの算出法について説明する。
【0059】
背景位相分布算出部335は、局所多項式近似処理により、総位相分布P
totalから、対象組織の所定領域における背景位相分布P
edgeを算出する。
背景位相分布算出部335は、局所領域内の任意画素の位置を(x、y、z)とし、式(6)を満たす多項式係数A
k、l、nを算出する。
【数6】
Kはx方向の多項式における次数、Lはy方向の多項式における次数、Nはz方向の多項式における次数をそれぞれ表す。
局所領域内の中心画素の位置を(x
0、y
0、z
0)とすると、対象組織の所定領域における背景位相分布P
edgeは、式(7)により算出できる。
【数7】
背景位相分布算出部335は、対象組織の所定領域における画素の全てに対して、式(7)を実施することにより、背景位相分布P
edgeを算出する。
【0060】
ステップS1106において、全領域局所位相分布算出部336は、総位相分布P
totalと、対象組織の所定領域における背景位相分布P
edgeとを組み合わせて、対象組織の全領域における局所位相分布P’
localを算出する。以下、対象組織の全領域における局所位相分布P’
localの算出法について説明する。
【0061】
全領域局所位相分布算出部336は、制約付き最小二乗処理により、対象組織の全領域における局所位相分布の推定値P’
localを算出する。
【数8】
W
1は脳表領域における重みが小さい重み画像、W
2は脳表領域における重みが大きい重み画像をそれぞれ表す。
式(8)における第一項は、SHARP法と同様、脳内部の領域における、平均値の性質に基づく制約項を表している。平均値の性質における条件を満たす制約項に対しては、脳内部の領域における重みを大きくし、脳表領域における重みを小さくする。
式(8)における第二項は、脳表領域における背景位相分布に基づく制約項を表している。脳表領域における背景位相分布に基づく制約項に対しては、脳表領域における重みを大きくし、脳内部の領域における重みを小さくする。
【0062】
ここで、
図7を参照して、重み画像W
1及び重み画像W
2と式(8)との関係について説明する。
図7(a)は、重み画像W
1の一次元プロファイルを示している。
図7(b)は、重み画像W
2の一次元プロファイルを示している。横軸は位置を示し、縦軸は重みを示している。
【0063】
図7において、領域701と領域702とを合わせた領域は、脳表領域を示し、領域703は、脳表領域を除いた脳内部の領域(脳表領域以外の領域)を示している。同様に、領域704と領域705とを合わせた領域は、脳表領域を示し、領域706は、脳表領域を除いた脳内部の領域(脳表領域以外の領域)を示している。なお、領域701(領域704)及び領域702(領域705)は、球状カーネルρ
rの半径rよりも大きくなるように設定される。
【0064】
図7に示すように、全領域局所位相分布算出部336は、領域701での重みが0となるように設定し、領域703での重みが1となるように設定し、領域701から領域703へと遷移する領域702での重みが0から1の間の値(線形に変化する値)となるように設定する。また、全領域局所位相分布算出部336は、領域704での重みが1となるように設定し、領域706での重みが0となるように設定し、領域704から領域706へと遷移する領域705での重みが0から1の間の値(線形に変化する値)となるように設定する。
【0065】
即ち、全領域局所位相分布算出部336は、重み画像W
1及び重み画像W
2を用いて、脳内部の領域における重みを大きくし、脳表領域における重みを小さくすることで、式(8)に示す平均値の性質に基づく制約項を、SHARP法と同等の精度で算出することができる(式(5)参照)。
また、全領域局所位相分布算出部336は、重み画像W
1及び重み画像W
2を用いて、脳表領域における重みを大きくし、脳内部の領域における重みを小さくすることで、式(8)に示す脳表領域における背景位相分布に基づく制約項を、局所多項式近似処理により算出された脳表領域における背景位相分布に近づけることができる。
更に、全領域局所位相分布算出部336は、重み画像W
1及び重み画像W
2を用いて、領域702及び領域706における重みを、0から1の間で線形に変化させることで、脳表領域(領域701と領域702とを合わせた領域、領域704と領域705とを合わせた領域)と、脳内部の領域(領域703、領域706)とを、滑らかに接続することができる。
【0066】
なお、全領域局所位相分布算出部336は、式(8)に示すような制約付き最小二乗処理のみならず、式(9)に示すような正則化付最小二乗処理(局所位相分布の正則化項を最小化する条件)を用いて、対象組織の全領域(脳表領域を含めた脳全体)における局所位相分布を算出してもよい。
【0067】
例えば、全領域局所位相分布算出部336は、局所位相分布P
localの画素値のばらつきを考慮した正則化項を挿入して、式(9)を実施することにより、対象組織の全領域における局所位相分布を算出することも可能である。
【数9】
λ
1は、対象組織の所定領域における制約の大きさを調整するための正則化パラメータである。λ
2は、局所位相分布P
localのばらつきを、ある程度許容するための正則化パラメータである。
式(9)における第一項は、SHARP法と同様、脳内部の領域における、平均値の性質に基づく制約項を表している。
式(9)における第二項は、脳表領域における背景位相分布に基づく制約項を表している。
式(9)における第三項は、位相分布から局所位相変化成分を過剰に除去してしまうことを防ぐ役割を持つ正則化項を表している。
【0068】
式(8)及び式(9)より、本実施形態に係る計算機109の演算処理によれば、脳内部の領域における局所位相分布の算出精度は、従来のSHARP法と略同様の算出精度を維持しつつ、脳表領域における局所位相分布の算出精度を、従来と比較して格段に向上させることができることが示された。即ち、本実施形態に係る計算機109の演算処理によれば、脳内部の領域における平均値の性質に基づく制約項及び脳表領域における背景位相分布に基づく制約項から、脳表領域を含めた脳全体の局所位相分布を高精度に算出できることが示された。
【0069】
[所望分布算出:S1004]
S1004において、計算機109は所望分布算出処理を行う。
【0070】
所望分布算出部340は、ステップS1003で算出された局所位相分布P
localを用いて、QSM法やSWI法などにより、定量的磁化率分布、磁化率強調画像などの所望分布を算出する。例えば、所望分布算出部340は、局所磁場算出部と磁化率分布算出部とを備え、QSM法により、定量的磁化率分布を算出する。また、例えば、所望分布算出部340は、マスク作成部と磁化率強調画像作成部とを備え、SWI法により、磁化率強調画像を算出する。以下、所望分布算出部340が行う具体的な処理例として、QSM法を用いた定量的磁化率分布の算出法と、SWI法を用いた磁化率強調画像の算出法について説明する。
【0071】
≪QSM法を用いた定量的磁化率分布の算出法≫
まず、QSM法による定量的磁化率分布の算出法について説明する。QSM法は、局所位相分布P
localが、生体組織間の磁化率差を反映することを利用して、局所位相分布P
localから、局所的な磁場分布を算出し、磁場と磁化率の関係式を用いて定量的磁化率分布を算出する手法である。
【0072】
位置ベクトルをrとすると、生体組織間の磁化率差によって生じる相対的な磁場分布は、式(10)で表される。
【数10】
gはプロトンの核磁気回転比、B
0は静磁場強度をそれぞれ表す。
ここで、局所的な磁場分布は、静磁場に関するマクスウェル方程式より、式(11)で表される。
【数11】
ここで、d(r)は局所磁場分布、c(r)は生体内の磁化率分布、aはベクトル(r’−r)と静磁場方向との為す角度、d(r)は点ダイポール磁場をそれぞれ表す。
即ち、式(11)に示すように、局所磁場分布d(r)は、磁化率分布c(r)と点ダイポール磁場d(r)との畳み込み積分で表すことができる。従って、式(11)の両辺をフーリエ変換することにより、式(11)は、式(12)に変換できる。
【数12】
k=(k
x、k
y、k
z)は、k空間上の位置ベクトルを表す。
D(k)は、局所磁場分布d(r)のフーリエ成分を表す。
D(k)は、点ダイポール磁場d(r)のフーリエ成分を表す。
X(k)は、生体内の磁化率分布c(r)のフーリエ成分を表す。
式(12)に示すように、生体内の磁化率分布c(r)のフーリエ成分X(k)は、局所磁場分布d(r)のフーリエ成分D(k)を、点ダイポール磁場d(r)のフーリエ成分D(k)で除算することによって算出できる。
しかしながら、式(12)は、D(k)=0近傍の領域において、その逆数が発散してしまうため、直接的にX(k)を算出することができない。このD(k)=0近傍の領域はマジックアングル領域と呼ばれ、静磁場方向に対しておよそ54.7度の2倍の頂角を持つ逆双円錐領域となる。
【0073】
QSM法は、マジックアングル領域の存在により不良条件逆問題(ill-conditioned inverse problem)に帰着されるため、不良条件逆問題を解くための幾つかの解法が提案されている。不良条件逆問題を解く代表的な方法としては、例えば、磁場と磁化率との関係式に基づく制約条件下で、磁場分布から算出した磁化率分布に対して平滑化処理を行うことを繰り返す方法、磁場分布及び点ダイポール磁場のk空間上の演算により磁化率分布を算出するTKD(Truncated-based K-space Division)法、TKD法で算出した磁化率分布と閾値処理により微細構造を抽出した磁化率分布とを繰り返し演算により合成するIterative SWIM(Susceptibility Weighted Imaging and Mapping)法、正則化付最小二乗法を用いたMEDI(Morphology enabled dipole inversion)法、などが挙げられる。なお、所望分布算出部340は、これらの何れの方法を用いてもよい。
【0074】
≪SWI法を用いた磁化率強調画像の算出法≫
次に、SWI法による磁化率強調画像の算出法について説明する。SWI法は、局所位相分布P
localから、磁化率分布を強調する磁化率強調マスクを作成し、計測した強度画像(絶対値画像)に、磁化率強調マスクを乗算することで、磁化率強調画像を算出する手法である。
【0075】
所望分布算出部340は、所定の磁化率強調マスクを作成し、この磁化率強調マスクを、所定回数乗算する。その後、所望分布算出部340は、任意のエコー時間の絶対値画像に、当該磁化率強調マスクを乗算することで、磁化率強調画像を算出する。磁化率強調画像とは、磁化率の高い所が暗くなり、磁化率の低い所が明るくなる画像である。操作者は、当該画像に基づいて、磁化率が高くなっているか、或いは低くなっているかを判断することができる。なお、所望分布算出部340は、公知のさまざまな手法を用いて、磁化率強調画像を算出することが可能であり、SWI法に限定されるものではない。
【0076】
[画像表示:S1005]
S1005において、計算機109は画像表示処理を行う。
【0077】
計算機109は、ステップS1004で算出された定量的磁化率分布や磁化率強調画像を、表示部110のディスプレイ画面上に表示させる。また、計算機109は、ステップS1004で算出された各種データを外部記憶装置111或いは記憶装置に記憶させ、所望の表示装置に、定量的磁化率分布や磁化率強調画像を表示させることも可能である。
【0078】
ここで、
図8を参照して、MRI装置100の表示部110に表示される画像の一例について説明する。
【0079】
図8(a)は、本実施形態に係る計算機109によって演算処理が施された画像(磁化率強調画像)であり、
図8(b)は、
図8(a)の領域801における拡大図である。
図8(c)は、従来の計算機によって演算処理が施された画像(磁化率強調画像)であり、
図8(d)は、
図8(c)の領域802における拡大図である。
【0080】
図8(a)及び
図8(b)に示す画像と
図8(c)及び
図8(d)に示す画像とを比較すると、
図8(a)及び
図8(b)に示す画像では、脳表領域が鮮明に撮像されている一方で、
図8(c)及び
図8(d)に示す画像では、脳表領域が太い実線で囲まれたように撮像されていることがわかる。即ち、本実施形態に係る計算機109は、従来の計算機と比較して、太い実線で囲まれた領域の分だけ、より多くの情報を算出できることがわかる。
【0081】
従って、操作者は、脳全体における生体組織の構造や組成などを診断する場合、
図8(c)及び
図8(d)に示す画像を用いるよりも、
図8(a)及び
図8(b)に示す画像を用いることで、より適切な診断を行うことができる。更に、操作者は、くも膜下出血や脳梗塞など、脳の表面に発生した病気を診断する場合、
図8(a)及び
図8(b)に示す画像を用いることで、正確な診断を行うことができる。即ち、本実施形態に係る計算機109が所定の演算処理を行うことで、操作者は、脳表領域において信頼性の高い画像を取得することができる。
【0082】
以上、上述の各処理を行うことで、本実施形態に係る計算機109が行う演算処理が終了する。なお、上述の
図4及び
図6に示すフローは一例であり、その一部を省略することや、別の処理を追加することが可能であることは勿論である。
【0083】
本実施形態に係るMRI装置によれば、計算機109が、複素画像から、例えば脳領域を抽出し、総位相分布を脳表領域と脳内部の領域とに分割して、脳表領域における背景位相分布を算出し、総位相分布と該背景位相分布とを組み合わせることで、脳全体の局所位相分布を算出する。これにより、脳表領域を含めた脳全体の局所位相分布を高精度に算出するMRI装置を実現することができる。
【0084】
更に、本実施形態に係るMRI装置によれば、高精度な局所位相分布を用いて、定量的磁化率分布や磁化率強調画像を算出することができる。これにより、操作者は、鮮明な領域が拡張された画像を取得することができるため、MRI装置の信頼性を高められる。