(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0020】
(実施の形態1)
以下、実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
〈車載用前照灯の構成例〉
図1は、本実施の形態1による前照灯における光学系の一例を示す概略説明図である。
図2は、
図1の前照灯が有する空間光変調器の各画素毎に位相を付加した例を示す説明図である。
図3は、
図2の空間光変調器によって光の位相が変調されている例を示す説明図である。
【0022】
前照灯は、自動車などに搭載される車載用前照灯であり、
図1に示すように、前照灯部35および前照灯制御部36を有する。前照灯部35は、レーザ光源1、レンズ2、空間光変調器3、蛍光体4、および投射レンズ5を有する。
【0023】
前照灯制御部36は、前照灯部35の照射パターンを制御することによって様々な配光パターンを生成させる。なお、前照灯制御部36の構成については、
図7にて後述する。
【0024】
図1において、例えばレーザ光源1は、青色のレーザ光を照射するレーザ光源であり、レーザ光源1を出射したレーザ光10は、レンズ2を介して、空間光変調器3に入射する。
【0025】
空間光変調器3は、例えば
図2に示すように、2次元配列された複数の画素を有し、入射したレーザ光10の位相を画素毎に変調する位相変調型の空間光変調器である。画素毎に位相が付加され、例えば(i,j)の画素には、
図2に示すように、Δφi,jの位相が付加される。
【0026】
図3(a)は、各画素に位相を付加する前の状態を表しており、入射光の波面が平坦であれば、出射光の波面25は平坦のままとなる。一方、
図3(b)に示すように、各画素に対して所定の位相を付加することで、レーザ光10の波面25を所望の形状に変換することが可能となる。
【0027】
光ビームは、波面に垂直な方向に伝搬するために、波面形状を制御することにより、光の伝搬特性を制御することができる。その結果、所定の距離離れた場所における光ビームの照射パターンを所望の形状に制御することが可能となる。
【0028】
なお、各画素が付加する位相量は、例えば各画素に対する電圧の制御などによって調整する。空間光変調器3としては、例えば液晶を1辺あたり数百から数千程度の2次元画素として配置して、画素毎に電圧が制御され、その電圧に応じて液晶分子の配向を変えることで位相を変調する液晶型の空間光変調器を用いる。
【0029】
なお、前照灯部35の光学系は、反射型の空間光変調器3を用いた構成としてもよい。
【0030】
図4は、反射型の空間光変調器を用いた前照灯部における構成の一例を示す説明図である。
【0031】
この場合、反射型の空間光変調器3としては、
図4に示すように、例えばSilicon Light Machines社のPlanar Light Valveのように、シリコン基板上に微細な構造体を1辺あたり、数百から数千程度の規模で2次元画素として配置し、各画素に対応した構造体が表面に対して垂直に動くことにより所定画素の位相を変調する空間光変調器を用いる。あるいは、シリコン基板上に液晶を配置するLCOS(Liquid Crystal On Silicon)と呼ばれる空間光変調器を用いる。
【0032】
このように、空間光変調器3は、メカ機構を設けずに位相変調可能なソリッドステートの変調器である。これにより、機構部品の磨耗や消耗などの発生がなく、それに伴う前照灯の動作不具合などの発生を低減することができる。
【0033】
図1において、レーザ光10は、空間光変調器3の位相変調によって回折光6aと0次光7aに分離する。ここで、0次光とは、透過型の空間光変調器の場合は位相変調を受けず、そのまま透過する光である。また、反射型の空間光変調器の場合は、位相変調を受けず、そのまま反射する光のことである。なお、空間光変調器3に入射するレーザ光10は、平行光に限定されず、収束光や発散光であってもよい。
【0034】
回折光6aと0次光7aとに分離した青色のレーザ光は、蛍光体4を所定の照射パターンにて照射して、この照射箇所が励起され、例えば励起された箇所からは黄色のスペクトルを有する蛍光が発生する。
【0035】
一部の回折光6aならびに一部の0次光7aは、蛍光体4を通過して、これらのレーザ光と蛍光体4とから発生する蛍光が混ざり合うことで白色光となり、該白色光が前照灯として利用され、投射レンズ5を介して前照灯の前方に投射される。
【0036】
ここでは、便宜上、回折光6aによって生じる白色光を白色光6b、0次光7aによって生じる白色光を白色光7bと記載する。
【0037】
蛍光体4の励起箇所が白色光の生成する源となるため、蛍光体4を励起する回折光6aと0次光7aが蛍光体4上に照射した照射パターンを白色光の光源形状と仮想的にみなすことができる。
【0038】
図1では、蛍光体4を例えば投射レンズ5の略バックフォーカス位置に配置しているため、蛍光体4に照射された回折光6aと0次光7aの照射パターンが仮想的に白色光源の形状に相当し、この形状が投射レンズ5を介して前照灯の前方に投影される。
【0039】
つまり、蛍光体4に照射される回折光6aと0次光7aとの照射パターンを変更することによって、前照灯の前方に投影される配光パターンを変更することができる。
【0040】
なお、蛍光体4を投射レンズ5の略バックフォーカス位置に配置すると記載したが、投射レンズ5が単レンズの場合、像面湾曲が大きく発生することがある。蛍光体4上に照射した照射パターンを投射レンズ5を介して前照灯の前方に鮮明に投影するためには、蛍光体4を平面の形状ではなく、像面湾曲に倣った湾曲の形状にすることが望ましい。
【0041】
そこで、例えば蛍光体4を平面ではなく湾曲形状にして、該湾曲形状の上に回折光6aと0次光7aとを照射する構成としてもよい。
【0042】
また、
図1において、前照灯部35の光学系構成は、全て透過型の光学部品を用いた構成としているが、透過型の光学系構成に限定されるものではなく、例えば空間光変調器3として反射型の変調器を用いた反射型の光学系構成としてもよい。あるいは蛍光体4も反射板と組み合わせて、反射型の光学系構成としてもよい。
【0043】
〈配光パターン例〉
図5は、
図1の前照灯が有する蛍光体上の照射パターンおよび配光パターンの一例を示す説明図である。
【0044】
図5(a)は、蛍光体4に照射される回折光6aおよび0次光7aの照射パターンを示したものであり、
図5(b)は、投射レンズ5を介して前照灯の前方に投影される白色光6bおよび白色光7bの配光パターンを示したものである。
【0045】
なお、
図5(a)は、回折光6aと0次光7aとの照射パターンを楕円形状に示しているが、この照射パターンは、楕円形状に限定されず、前照灯の配光パターンに合わせて他の形状としてもよい。その際は、0次光7aが所望の形状となるように、空間光変調器3に入射するレーザ光10の形状を事前に整形するための光学部品を別途、搭載してもよい。
【0046】
例えば
図5(a)に示すように、蛍光体4において回折光6aを0次光7aに対して鉛直方向下側に照射すると、蛍光体4上における照射パターンは、投射レンズ5の光軸との交点50に対して像が反転して投影される。
【0047】
前照灯の前方には、
図5(b)に示すように、回折光6aによって生じる白色光6bが0次光7aによって生じる白色光7bよりも鉛直方向の上側、つまり遠方を照射することになる。
【0048】
図6は、
図5の他の例を示す説明図である。
図6(a)は、
図5(a)の他の照射パターン例を示したものであり、
図6(b)は、
図5(b)の前照灯の前方に投影される白色光6bおよび白色光7bの他の配光パターン例を示したものである。
【0049】
蛍光体4上における照射パターンは、空間光変調器3による位相変調を調整することによって、例えば
図6(a)に示すように、回折光6aを分割した照射パターンに変更することができる。
【0050】
蛍光体4上における照射パターンを、
図5(a)から例えば
図6(a)に変更することにより、
図6(b)に示すように、前照灯の前方において先行車両20へのグレアを回避した配光パターンを実現することができる。
【0051】
前述したとおり、空間光変調器3は、2次元配列された複数の画素を有し、入射したレーザ光の位相を画素毎に変調することができる。つまり、各画素に適切な位相差を付加することで、空間光変調器3は、所望の0次光と回折光を生成する位相ホログラムの役割を果たす。
【0052】
よって、ホログラフィの原理を用いることにより、蛍光体4に照射する回折光6aおよび0次光7aの照射量や照射パターンを変更することが可能となる。
【0053】
空間光変調器3がレーザ光に付加する位相分布は、蛍光体4上において回折光6aと0次光7aが所望の照射パターンおよび照射量となるように、例えばCGH(Computer-generated Hologram)の分野で用いられている反復フーリエ変換法などによって、空間光変調器3が付加すべき位相分布を事前に算出する。
【0054】
そして、算出した位相分布に基づいて、空間光変調器3に入射するレーザ光の位相を画素毎に変調する。この際、空間光変調器3に入射するレーザ光の初期的な位相分布を考慮して、算出された位相分布から前述の初期的な位相分布を差し引いた分布を空間光変調器3がレーザ光に付加するようにしてもよい。
【0055】
照射パターンを変更するタイミングは、例えば運転者のスイッチ操作などと連携して変更してもよいし、あるいは車内に設置した車載カメラなどによって撮影した周囲の状況に応じて適応的に変更するようにしてもよい。
【0056】
図7は、
図1の前照灯が有する前照灯制御部における構成の一例を示す説明図である。
【0057】
前照灯制御部36は、上述した車載カメラなど連携して前照灯部35の配光を制御する。前照灯制御部36は、撮影部60、画像処理部61、認識部62、配光パターン算出部63、付加位相算出部64、空間光変調器制御部65、レーザ駆動制御部66、およびコントローラ67を有する。
【0058】
コントローラ67は、撮影部60、画像処理部61、認識部62、配光パターン算出部63、付加位相算出部64、空間光変調器制御部65、およびレーザ駆動制御部66の動作をそれぞれ制御する。
【0059】
レーザ駆動制御部66は、コントローラ67の制御に基づいて、
図1の前照灯部35が有するレーザ光源1を駆動させるとともに該レーザ光源1から出射されるレーザ光の強度を制御する。
【0060】
車内に設置された撮影部60、すなわち車載カメラにて撮影された情報は、画像処理部61によって適切に画像処理が施されて、認識部62に送られる。認識部62は、例えば前方車、対向車、歩行者、道路標識や信号などを認識する。
【0061】
配光パターン算出部63は、それらの認識情報に基づいて、例えばグレアを回避する配光パターンなどを算出する。また、配光パターンは、グレア回避に限定されず、例えば認識部62によって認識された歩行者や道路標識などを積極的に照射する配光パターンを算出してもよい。
【0062】
配光パターン算出部63は、周囲の状況に応じて適切な配光パターンを算出する。付加位相算出部64は、配光パターン算出部63が算出した情報に基づいて、空間光変調器3が付加する位相分布を前述した反復フーリエ変換法などを用いて算出する。
【0063】
その後、制御部となる空間光変調器制御部65は、付加位相算出部64によって算出された位相分布に応じて、
図1の前照灯部35の空間光変調器3を制御して前方に白色光を照射させる。
【0064】
ここで、前照灯部35の光学系構成は、
図1に限らず、他の構成であってもよい。
【0065】
〈前照灯の他の構成例〉
図8は、
図1の前照灯部35における他の構成例を示す説明図である。
【0066】
この
図8に示す前照灯部35は、光ファイバ13を通じて、光源部15と投射部16とを分離した構成としている。光源部15は、レーザ光源1およびレンズ11,12を有しており、投射部16は、レンズ2、空間光変調器3、蛍光体4、および投射レンズ5を有する。
【0067】
レンズ11,12は、レーザ光源1から照射されるレーザ光を集光するレンズである。レンズ11,12によって集光されたレーザ光は、光ファイバ13を通じてレンズ2に照射される。
【0068】
レンズ2以降の構成については、
図1と同様であるので説明は省略する。なお、
図8では、2枚のレンズ11,12を有する構成を示しているが、このレンズ枚数については、特に制限はなく、レーザ光を集光するレンズであれば、1枚でも3枚以上でもよい。
【0069】
図8に示しように、光ファイバ13を通じて光源部15と投射部16と分離する構成とすることによって、光源部15の設置の自由度を高くすることができる。例えば、光源部15を温度条件が過酷なエンジンルームに近い位置ではなく、エンジンルームに比べて温度環境がより寛容な車内に設置することができる。これにより、前照灯の信頼性を向上させることができる。
【0070】
以上により、メカ機構を設けることなく、配光パターンを任意に制御することのできる前照灯を実現することができる。それにより、前照灯の信頼性を向上させることができる。
【0071】
(実施の形態2)
〈0次光のロービームエリアの設定例〉
本実施の形態2では、0次光をロービームエリアに設定する技術について説明する。
【0072】
図9は、本実施の形態2における前照灯が照射する配光パターンの一例を示す説明図である。
図10は、
図9の配光パターンの他の例を示す説明図である。
【0073】
本実施の形態2による配光パターンは、
図9に示すように、0次光7aによって生じる白色光7bの照射領域をすれ違い前照灯(以降、便宜上、ロービームと呼ぶ)が照射する領域21内に留めることを特徴としている。なお、前照灯の光学系概略図は、
図1に示したものと同様であるので説明は省略する。
【0074】
つまり、0次光7aによって生じる白色光7bをロービームとして用いる。白色光7bの照射領域を領域21内に留めるためは、例えば
図1の空間光変調器3に入射するレーザ光の入射形状が所望の形状となるような開口絞りを、光路中に配置すればよい。
【0075】
ロービームの配光は、前方車や対向車に対するグレア回避を配慮した配光のため、夜間においては、ロービームを常に点灯していてもグレアの問題は生じない。一方、仮に
図10(a)に示すように、0次光によって生じる白色光7bの配光がロービーム照射の領域21を超えて、走行用前照灯(以降、便宜上、ハイビームと呼ぶ)の照射する領域内を照射可能な構成とした場合、前方車または対向車のグレア回避を行う必要が生じた時は、0次光を限りなく小さくするように空間光変調器3による位相変調を設定する必要がある。言い換えれば、空間光変調器3に入射するレーザ光の回折効率をほぼ100%にする必要がある。
【0076】
しかしながら一般的に、空間光変調器の画素ギャップや位相変調の階調数に伴う量子化誤差などの影響によって、所望の位相分布を忠実にレーザ光に付加できないことがある。所望の位相分布を付加できないと、回折効率が低下してしまい、0次光の強度が想定した値よりも大きくなる場合がある。
【0077】
そのため、0次光を限りなく小さくするように空間光変調器3によって位相変調を行ったとしても、例えば
図10(b)に示すように、不要な0次光の強度が無視できなくなる場合が生じて、0次光によって生じる白色光7bが対向車30や前方車を照射してしまい、グレアとなる恐れが生じる。
【0078】
そこで、万が一、0次光の強度が想定した値よりも大きくなってしまった場合でも、グレアの問題を回避することができるように、0次光7aによって生じる白色光7bが照射される照射領域をロービーム照射領域内に留める構成としている。
【0079】
このような構成とすることにより、ハイビーム照射領域内に到達する光は、回折光6aによって生じる白色光6bのみになる。そのため、前方車や対向車へのグレアを回避する際は、回折光6aが発生しないように回折効率をほぼゼロとすればよく、これは空間光変調器3による位相変調を行わないことにより可能である。
【0080】
このような構成とすれば、万が一、空間光変調器3の故障によって、位相変調ができなくなくなった場合においても、0次光7aによって生じる白色光7bがロービーム照射領域を照射しているため、機能安全の観点でも有効となる。
【0081】
なお、
図6においては、白色光7bの照射領域がロービーム照射の領域21の領域よりも小さくなっているが、これに限定されず、領域21内を全て埋める形で照射しても構わない。
【0082】
さらに、ロービームが照射する領域内の光度は、例えば欧州の法規(ECE112)の6.2.4項などに記載された各測定点に対応した光度を満足するような配光であればよい。
【0083】
以上により、前照灯の信頼性をより向上させることができる。
【0084】
(実施の形態3)
〈照射角度の制御例〉
本実施の形態3においては、前照灯における照射角度の制御技術について説明する。
【0085】
図11は、本実施の形態33による前照灯が有する蛍光体上の照射パターンおよび配光パターンの一例を示す説明図である。
【0086】
なお、前照灯の光学系概略図は、
図1に示したものと同様であり、異なる点は、
図1の蛍光体4に照射される回折光6aおよび0次光7aの照射パターンである。
【0087】
図11(a)は、
図1の蛍光体4に照射される回折光6aおよび0次光7aの照射パターンを示したものであり、
図11(b)は、
図1の投射レンズ5を介して前照灯の前方に投影される白色光6bおよび白色光7bの配光パターンを示したものである。
【0088】
この場合、蛍光体4において回折光6aを0次光7aに対して水平方向脇に照射する。すなわち、
図11(a)に示すように、0次光7aの右側に回折光6aを照射する。
【0089】
前述したように、蛍光体4上における照射パターンは投射レンズ5の光軸との交点50に対して像が反転して投影される。よって、前照灯の前方においては、
図11(b)に示すように、回折光6aによって生じる白色光6bを、0次光7aによって生じる白色光7bよりも水平方向外側、つまり照射角度範囲を拡大して照射することが可能となる。
【0090】
これによって、水平方向の広範囲において光量が増加し、運転者の水平方向視認性を向上することができる。
【0091】
照射角度範囲を拡大するタイミングは、例えば運転者の所定の操作と連携してもよいし、あるいは車内に設置した車載カメラ、すなわち
図7の撮影部60が捉えた周囲の状況に応じて自動的に行ってもよい。
【0092】
図12は、
図11の配光パターンの具体例を示した説明図である。
【0093】
図12(a)は、車両が交差点に差し掛かる前の照射状態を示したものであり、
図12(b)は、
図12(a)に続いて、車両が交差点に差し掛かる際に水平方向の照射範囲を拡大した状態を示したものである。
【0094】
図12(a)では、0次光7aによって生じる白色光7bを照射している。ここで、車内に設置した車載カメラによって交差点を認識して車両が交差点に差し掛かる際は、回折光6aによって生じる白色光6bを照射して、
図12(b)に示すように水平方向の照射範囲を拡大する。
【0095】
これにより、交差点内を走行する際の視認性を向上させることができ、歩行者などを認識しやすくすることができる。
【0096】
なお、照射範囲を拡大するタイミングは、ハンドルの操舵角と連携して、ハンドルの切れ角が所定の角度以上の場合に拡大するようにしてもよい。
【0097】
図13は、
図12の配光パターンの他の例を示した説明図である。
【0098】
図13(a)は、側道に歩行者80がおり、車両が該歩行者に近づく方向に走っている状態における配光パターンの例を示している。
図13(b)は、側道の歩行者を認識した際における配光パターンの例を示している。
【0099】
図13(a)に示すように車両が走行している場合において、車内に設置した車載カメラによって歩行者80を認識した際は、回折光6aによって生じる白色光6bを照射して、
図13(b)に示すように、水平方向の照射範囲を拡大する。これによって、側道の歩行者の視認性を向上させることができる。
【0100】
なお、
図11では、回折光6aによって生じる白色光6bを道路脇に照射する例について示したが、照射パターンは、これに限定されるものではない。例えば歩行者や道路標識などを積極的に照射するため、対応する蛍光体4上の位置に回折光6aが照射するように、空間光変調器3が付加する位相分布を変化させることも可能である。
【0101】
以上により、前照灯の信頼性を向上させながら、安全性を高めることができる。
【0102】
(実施の形態4)
〈レーザ強度と回折効率の設定〉
本実施の形態4においては、レーザ光源1から出射するレーザ光の出射強度を投射レンズ5から投射される配光のパターンに応じて変更するものである。なお、前照灯については、前記実施の形態1の
図1と同様であるので説明は省略する。
【0103】
図14は、本実施の形態4による前照灯が有する蛍光体上の照射パターンおよび配光パターンの一例を示す説明図である。
【0104】
この場合、例えば
図14(a)に示すように、蛍光体4において1つの0次光7aと該0次光7aの下方に5つの回折光6aのビームスポットを照射する。これによって、
図14(b)に示すように、これらのビームスポットによって生じる白色光6bと白色光7bが前照灯の前方に投射される。
【0105】
なお、蛍光体4に照射される照射パターンは、
図14(a)に限定されず、必要に応じてビームスポットの形状や数を変更してもよい。
【0106】
ここで、
図14(b)に示した符号6bと符号7bに隣接する括弧内の数値は、白色光6bと白色光7bとのそれぞれの光量に対応する値を示している。つまり、前照灯の前方に投射される全光量は、括弧内の数値を合計した100という量が投射されていることになる。
【0107】
続いて、
図14(b)に示す状態から例えば対向車30が現れて、該対向車30へのグレア回避をする必要が生じたとする。この場合、前照灯制御部36は、空間光変調器3による位相変調を変化させて、蛍光体4において例えば
図14(c)に示すように、回折光6aのビームスポットを1つ減らして、4つの回折光6aのビームスポットを照射する。
【0108】
この時、グレア回避のために消灯した領域以外の点灯領域の明るさが変化すると、運転者にとっては違和感を生じるため、点灯領域の明るさは、ほぼ同じ明るさを保っていることが望ましい。
【0109】
よって、
図14(d)に示すように、白色光6bと白色光7bとのそれぞれの光量は、
図14(c)に示した各々の領域の光量と同じ程度に設定することが望ましい。つまり、
図14(d)において、前照灯の前方に投射される全光量は、括弧内の数値を合計した90という量が投射されていることになる。
【0110】
よって、グレア回避のために一部の領域を消灯すると、前照灯の前方に投射する全光量は100から90と減少させることができる。言い換えれば、レーザ光源1から出射するレーザ光の出射強度を減少させることができる。
【0111】
レーザ駆動制御部66は、前照灯の前方に投射する配光パターンを部分的に消灯する際に、レーザ光源1から出射するレーザ光の出射強度を減少させる。
【0112】
また、回折効率に着目してみると、
図14(b)に示した配光パターンにおいて、回折光6aによって生じる白色光6bの全光量は、括弧内の数値を合計した50という量が投射されている。
【0113】
一方、前照灯の前方に投射される総光量は、前述の通り、100という量が投射されているので、迷光や光束のケラレを無視すると、回折効率は概ね50%と見積もることができる。
【0114】
同様に、
図14(b)に示した配光パターンにおいて回折効率を概算すると、回折光6aによって生じる白色光6bの全光量40に対する総光量90の関係から、44%と見積もられる。
【0115】
つまり、前照灯の前方に投射する配光パターンを部分的に消灯する場合、前述したようにレーザ光源1から出射するレーザ光の出射強度を減少させることができると共に、回折効率も減少させることができる。
【0116】
回折角を保ちながら回折効率を減少させる技術としては、例えば回折格子の場合、格子ピッチを保ちながら格子溝の深さ、言い換えれば位相深さを変えることにより実現することができる。
【0117】
このことを考慮すると、例えば回折効率が最大かつ回折光6aの照射パターンを実現するために、前照灯制御部36は、空間光変調器3がレーザ光に必要な位相分布を例えば反復フーリエ変換法などで先ず算出する。
【0118】
そして、その位相分布に一様な補正係数αを掛けて位相深さを変えた分布を空間光変調器3がレーザ光に付加することによって実現することができる。補正係数αは、回折効率の低減量に応じて適切に設定すればよく、例えば1よりも小さい値とすることにより、回折効率を低減することができる。
【0119】
なお、
図14において記載した括弧内の各々の数値は、説明の便宜上、設定した数値であり、各々の数値は本数値に限定されるものではない。
【0120】
以上によっても、前照灯の信頼性を向上させながら、安全性を高めることができる。
【0121】
(実施の形態5)
〈赤外光の生成〉
本実施の形態5においては、赤外線光を生成する前照灯について説明する。
【0122】
レーザなどの半導体光源は、ハロゲンランプなどに比べて寿命が長く、点消灯起動が早いという利点がある。一方、ハロゲンランプなどには、含まれる赤外光領域のスペクトル成分がほぼ存在しないといった特徴がある。
【0123】
赤外光は、夜間の視認性を高めるナイトビジョン用途の光源として重要な役割を果たすため、白色光生成用のレーザ光源1を搭載し、かつ例えばナイトビジョン用途で赤外光も必要とする場合は、別光源として赤外光源も別途搭載する必要が生じる。光源の数が増加すると、装置の大型化やコストの増加に影響を与えるため、できる限り光源の数は少ない方が望ましい。
【0124】
以下、前照灯による赤外光の生成について説明する。
【0125】
図15は、本実施の形態5による前照灯が有する蛍光体の概略説明図である。
【0126】
なお、前照灯の構成については、前記実施の形態1の
図1とほぼ同様であるが、
図1と異なる点は、蛍光体4の構成である。
【0127】
この場合、蛍光体4は、
図15に示すように、前述した青色レーザの励起によって黄色のスペクトルを蛍光として発する蛍光体4であり、赤外光の蛍光を発する蛍光材料70がドーピングされている。蛍光体4は、第1の蛍光材料であり、蛍光材料70は、第2の蛍光材料である。
【0128】
なお、蛍光材料としては、1つの高エネルギ光子を吸収して、より低エネルギの2つの光子を放出する例えば量子切断蛍光体のような材料を用いることにより、青色レーザの波長帯域から近赤外光の帯域の蛍光71を生成することが可能となる。
【0129】
このような蛍光体4の構成とすることによって、単一の励起用光源と蛍光体4を用いつつ、黄色と近赤外光の蛍光を発生することが可能となる。
【0130】
以上により、単純な構成でありながら、車載用前照灯として利用可能な白色光と近赤外光を生成することが可能となる。
【0131】
また、蛍光体4にて発生する黄色のスペクトルを有する蛍光の発散角と、蛍光体4を通過した青色レーザの発散角が異なる場合には、一部、混ざり合わずに白色光化しない領域が発生する恐れがある。そこで、例えば蛍光体4の直後に波長選択性の光学部品を配置し、青色レーザの発散角を広げて、蛍光の発散角に近づけるような構成としてもよい。
【0132】
以上により、前照灯の信頼性を向上させながら、夜間の安全性を高めることができる。
【0133】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0134】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0135】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。