(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第一実施形態]
以下、添付図面に従って本発明に係る医用画像処理装置及び医用画像処理方法の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0014】
図1は医用画像処理装置1のハードウェア構成を示す図である。医用画像処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)2、主メモリ3、記憶装置4、表示メモリ5、表示装置6、コントローラ7、入力装置8、ネットワークアダプタ10がシステムバス11によって信号送受可能に接続されて構成される。医用画像処理装置1は、ネットワーク12を介して医用画像撮影装置13や医用画像データベース14と信号送受可能に接続される。ここで、「信号送受可能に」とは、電気的、光学的に有線、無線を問わずに、相互にあるいは一方から他方へ信号送受可能な状態を示す。
【0015】
CPU2は、各構成要素の動作を制御する装置である。CPU2は、記憶装置4に格納されるプログラムやプログラム実行に必要なデータを主メモリ3にロードして実行する。記憶装置4は、CPU2が実行するプログラムやプログラム実行に必要なデータを格納する装置であり、具体的にはハードディスク等である。各種データはLAN(Local Area Network)等のネットワーク12を介して送受信される。主メモリ3は、CPU2が実行するプログラムや演算処理の途中経過を記憶するものである。
【0016】
表示メモリ5は、液晶ディスプレイ等の表示装置6に表示するための表示データを一時格納するものである。入力装置8は、操作者が医用画像処理装置1に対して操作指示を行う操作デバイスであり、具体的にはキーボードやマウス等である。マウスはトラックパッドやトラックボールなどの他のポインティングデバイスであっても良い。コントローラ7は、マウスの状態を検出して、表示装置6上のマウスポインタの位置を取得し、取得した位置情報等をCPU2へ出力するものである。ネットワークアダプタ10は、医用画像処理装置1をLAN、電話回線、インターネット等のネットワーク12に接続するためのものである。
【0017】
医用画像撮影装置13は、被検体の断層画像等の医用画像を取得する装置である。医用画像撮影装置13は、例えば、X線CT装置であり、
図2を用いて後述する。医用画像データベース14は、医用画像撮影装置13によって取得された医用画像を記憶するデータベースシステムである。
【0018】
図2を用いて医用画像撮影装置13の一例であるX線CT装置100の全体構成を説明する。なお、
図2において、横方向をX軸、縦方向をY軸、紙面に垂直な方向をZ軸とする。X線CT装置100は、スキャナ200と操作ユニット300を備える。スキャナ200は、X線管211、検出器212、コリメータ213、駆動部214、中央制御部215、X線制御部216、高電圧発生部217、スキャナ制御部218、寝台制御部219、コリメータ制御部221、プリアンプ222、A/Dコンバータ223、寝台240などを有する。
【0019】
X線管211は寝台240上に載置された被検体210にX線を照射する装置である。X線制御部216から送信される制御信号に従って高電圧発生部217が発生する高電圧がX線管211に印加されることによりX線管211から被検体にX線が照射される。
【0020】
コリメータ213はX線管211から照射されるX線の照射範囲を制限する装置である。X線の照射範囲は、コリメータ制御部221から送信される制御信号に従って設定される。
【0021】
検出器212は被検体210を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置である。検出器212はX線管211と対向配置され、X線管211と対向する面内に多数の検出素子が2次元に配列される。検出器212で計測された信号はプリアンプ222で増幅された後、A/Dコンバータ223でデジタル信号に変換される。その後、デジタル信号に対して様々な補正処理が行われ、投影データが取得される。
【0022】
駆動部214はスキャナ制御部218から送信される制御信号に従って、X線管211と検出器212とを被検体210の周囲で回転させる。X線管211と検出器212の回転とともに、X線の照射と検出がなされることにより、複数の投影角度からの投影データが取得される。投影角度毎のデータ収集単位はビューと呼ばれる。2次元に配列された検出器212の各検出素子の並びは、検出器212の回転方向がチャネル、チャネルに直交する方向が列と呼ばれる。投影データはビュー、チャネル、列によって識別される。
【0023】
寝台制御部219は寝台240の動作を制御し、X線の照射と検出がなされる間、寝台240を静止させたままにしたり、Z軸方向に等速移動させたりする。寝台240を静止させたままのスキャンはアキシャルスキャン、寝台240を移動させながらのスキャンはらせんスキャンとそれぞれ呼ばれる。
【0024】
中央制御部215は以上述べたスキャナ200の動作を、操作ユニット300からの指示に従って制御する。次に操作ユニット300について説明する。操作ユニット300は、再構成処理部31、画像処理部32、記憶部34、表示部36、入力部38などを有する。
【0025】
再構成処理部31は、スキャナ200で取得された投影データを逆投影処理することにより、再構成画像を生成する。画像処理部32は再構成画像を診断に適した画像にするため、様々な画像処理を行う。記憶部34は投影データや再構成画像、画像処理後の画像を記憶する。表示部36は再構成画像や画像処理後の画像を表示する。入力部38は投影データの取得条件(管電圧、管電流、スキャン速度等)や再構成画像の再構成条件(再構成フィルタ、FOVサイズ等)を操作者が設定する際に用いられる。
【0026】
なお、操作ユニット300が
図1に示した医用画像処理装置1であってもよい。その場合、は、画像処理部32がCPU2に、記憶部34が記憶装置4に、表示部36が表示装置6に、入力部38が入力装置8に、それぞれ相当することになる。
【0027】
図3を用いて本実施形態の要部について説明する。なおこれらの要部は、専用のハードウェアで構成されても良いし、CPU2上で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明では本実施形態の要部がソフトウェアで構成された場合について説明する。
【0028】
本実施形態は、原画像取得部301、局所バイアス成分第一抽出部302、低周波成分画像生成部303、局所バイアス成分第二抽出部304、コントラスト強調画像算出部305を備える。また記憶装置4には、X線CT装置100で生成された再構成画像や投影データが記憶される。以下、各構成部について説明する。
【0029】
原画像取得部301は、画像処理の対象となる原画像を取得する。原画像は記憶装置4に記憶される再構成画像であっても良いし、ネットワークアダプタ10を介して医用画像撮影装置13や医用画像データベース14から取得される再構成画像であっても良い。また、原画像取得部301が記憶装置4や医用画像撮影装置13や医用画像データベース14から投影データを取得し、取得された投影データから再構成画像を生成し、生成された再構成画像を原画像として取得してもよい。
【0030】
局所バイアス成分第一抽出部302は、原画像である再構成画像内の局所的なバイアス成分を抽出し、局所バイアス成分画像を生成する。局所バイアス成分画像とは、対象画素に近接する画素の画素値と対象画素の画素値との差異が所定の閾値より小さい画素を集合化し、集合内の画素の画素値を代表値に置換した画像である。多くの場合、代表値には集合内の画素の画素値の平均値が用いられる。
【0031】
図4に局所バイアス成分画像の例を、原画像である再構成画像とともに示す。
図4(a)が再構成画像、
図4(b)が局所バイアス成分画像である。また、
図4(c)は両画像上の画素値のプロファイルの例であり、
図4(d)は再構成画像の生成に用いられたファントムの外観である。
図4(d)に示したファントムは、水のCT値に近いCT値を有する低コントラスト構造物を水中に同心円上に配したファントムである。低コントラスト構造物は外径及び長さが異なる円柱形状を有する。
【0032】
図4(c)の2つのプロファイルの比較より、局所バイアス成分画像は再構成画像中の細かな変動成分が除かれた画像であり、低コントラスト構造物の外形を示す画像とみなせる。すなわち、再構成画像内の局所的なバイアス成分を画像化したものが局所バイアス成分画像である。なお、局所バイアス成分画像はノイズが低減されるものの、低コントラスト構造物内の細かな変動成分も除かれてしまうので、診断に適さない。
【0033】
低周波成分画像生成部303は原画像である再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像を複数の周波数帯に分解し、分解された周波数帯のうち最も低い周波数帯の成分からなる低周波成分画像を生成する。局所バイアス成分画像が構造物の外形を示す画像とみなせるので、再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像は、再構成画像中の細かな変動成分を表す画像となる。診断により有用な情報は低コントラスト構造物の内部を表す低周波成分であるので、ここでは差分画像を周波数分解し低周波成分からなる低周波成分画像を生成する。低周波成分画像の一例を
図5(a)に示す。なお周波数分解が行われる際に用いられる遮断周波数は、診断目的に応じて適宜設定される。
【0034】
局所バイアス成分第二抽出部304は、低周波成分画像内の局所的なバイアス成分を抽出し、局所バイアス成分低周波画像を生成する。入力画像に再構成画像と低周波成分画像との違いがあるものの、入力画像内の局所的なバイアス成分を抽出する処理は局所バイアス成分第一抽出部302と同じである。
【0035】
局所バイアス成分低周波画像の一例を
図5(b)に示す。また
図5(c)に低周波成分画像と局所バイアス成分低周波画像の両画像上の画素値のプロファイルの例を示す。
図5(c)の2つのプロファイルの比較より、局所バイアス成分低周波画像は低周波成分画像のノイズが除かれた画像であるとみなせる。
【0036】
コントラスト強調画像算出部305は局所バイアス成分低周波画像に信号強調ゲインを掛けて局所バイアス成分画像に加算することによりコントラスト強調画像を算出する。局所バイアス成分画像をI1、局所バイアス成分低周波画像をI2、信号強調ゲインをgとするとコントラスト強調画像Iは次式で表される。
【0038】
局所バイアス成分画像I1は低コントラスト構造物の外形を示す画像であり、局所バイアス成分低周波画像I2は低コントラスト構造物の内部を表す低周波成分を示す画像からノイズが除かれた画像であるので、両者を加算して得られるコントラスト強調画像Iは低コントラスト構造物の診断に適した画像となる。また、診断目的に応じて信号強調ゲインgが調整されることにより、コントラスト強調画像Iはより診断に適した画像となる。
【0039】
図6を用いて、以上の構成部を備える医用画像処理装置1が実行する処理の流れを説明する。
【0040】
(S6-1)
原画像取得部301が原画像として再構成画像を取得する。再構成画像は記憶装置4から取得されても良いし、ネットワークアダプタ10を介して医用画像撮影装置13や医用画像データベース14から取得されても良い。また記憶装置4や医用画像撮影装置13、医用画像データベース14から取得される投影データから生成される再構成画像を原画像として取得しても良い。
【0041】
(S6-2)
局所バイアス成分第一抽出部302が再構成画像内の局所的なバイアス成分を抽出し、局所バイアス成分画像を生成する。局所バイアス成分画像の生成には、例えばTotal Variation (TV)フィルタやNon-Local Means (NLM)フィルタを用いても良い。
【0042】
まず、TVフィルタを用いる例について説明する。再構成画像の画素数をJ、画素のインデックスをjとおき、j番目の画素の画素値をx
jとおくと、再構成画像の画素値はJ次元のベクトルx={x
1,…,x
j,…,x
J }とおける。TVフィルタを適用して得られる画像zは次式によって表される。
【0044】
ここで、y は計算のためのJ次元の変数ベクトルであり、Dはデータフィデリティ項に係る加重係数を対角成分に持つJ×J の対角行列である。Dは単位行列であっても良い。また、||x-y||
D2=(x-y)
T D(x-y)である。右辺第一項は、得られる画像zが元の画像xから離れすぎないように作用する。||・||
TVはTVノルムである。右辺第二項は、得られる画像z中の過剰な振動成分を抑制するように作用する。つまり、第一項と第二項とは互いに逆行する作用を有する。βはゼロ以上の任意のパラメータであり、第一項と第二項とのバランスを調整するために用いられる。
【0045】
数2において、βは第二項に含まれるので、βが大きいほど第二項の影響が強くなり、平滑化効果が大きくなる。平滑化効果が大き過ぎると得られる画像zがぼやけ、βが小さ過ぎると平滑化効果が不十分になる。例えばβ=0とした場合、得られる画像zは元の画像xのままであり平滑化が全くなされない。βは、元の画像xに含まれるノイズに応じて適正な値に設定されることが望ましい。ここでは、画素値が既知であって一様な領域を含むファントム、例えば水を封入した円筒形状のファントムをスキャンして再構成画像を生成し、生成された再構成画像xが診断に適した平滑化画像zになるようなβを数2に基づいて算出する。
【0046】
なお再構成画像xに含まれるノイズはファントムの大きさやスキャン条件によって変わるので、ファントムの大きさやスキャン条件毎にβの値を算出し、これらの条件とβの値とを対応させて記憶装置4に記憶させる。そのうえで本ステップを実行する際に、該当するスキャン条件や被検体210の大きさに対応するβの値を記憶装置4から読み出し、数2にて使用する。例えばスキャン条件の一つである管電圧が80、100、120、140kVの4種類からなる場合、各管電圧に対応する適切なβを予め算出して記憶装置4に記憶させておき、再構成画像を取得するときの管電圧が120kVであれば120kVに対応するβを読み出して使用する。
【0047】
次にNLMフィルタを用いる例について説明する。再構成画像の画素値をJ次元のベクトルx={x
1,…,x
k,…,x
J }とすると、NLMフィルタを適用して得られる画像y
jは次式によって表される。
【0053】
なお、u
jはj番目の画素を中心とした矩形のカーネル内に含まれる画素の画素値を要素とするベクトルであり、aはGaussianカーネルの標準偏差である。また、hは任意のパラメータであって、TVフィルタのβと同様の作用を有し、設定方法及び使用方法はβと同様で良いので詳細な説明については省略する。なお、上記矩形のカーネルの大きさは任意に設定でき、例えば7×7程度のカーネルを定数として用いる。
【0054】
(S6-3)
低周波成分画像生成部303が再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像を周波数分解し低周波成分画像を生成する。周波数分解には、実空間におけるGaussianピラミッドやフーリエ変換を用いた分解方法などを用いることができる。Gaussianピラミッドを用いる場合、例えば遮断周波数を0.15lp/mmとしたGaussianフィルタを差分画像に適用することで低周波成分画像を生成する。
【0055】
(S6-4)
局所バイアス成分第二抽出部304が低周波成分画像から局所バイアス成分低周波画像を抽出する。局所バイアス成分抽出処理はS6-2と同様であるが、TVフィルタのβあるいはNLMフィルタのhにはS6-2とは異なる値が用いられる。これは、S6-2の入力が再構成画像であったのに対し、本ステップの入力は低周波成分画像であり、両者の画像では画素値の変動の大きさが異なるためである。但し、βあるいはhの要件はS6-2と同様であるため、S6-2に記載した手順のうち、入力画像を再構成画像から低周波成分画像へ入れ替えた上で適正なβあるいはhを予め算出し、記憶装置4に記憶させて使用する。
【0056】
(S6-5)
コントラスト強調画像算出部305がコントラスト強調画像を算出する。コントラスト強調画像の算出には数1が用いられる。算出されたコントラスト強調画像は、表示装置6に表示される。
【0057】
図7に表示画面700の一例を示す。表示画面700は、原画像表示部701、ゲイン設定部702、選択ゲイン表示部703、最小ゲイン表示部704、最大ゲイン表示部705、コントラスト強調画像表示部706を有する。以下、各部について説明する。
【0058】
原画像表示部701には原画像、例えば再構成画像が表示される。ゲイン設定部702は信号強調ゲインの設定に用いられるスライダーである。操作者がマウス等を用いてゲイン設定部702を水平方向に移動させることにより、信号強調ゲインの値が変化する。選択ゲイン表示部703には、設定された信号強調ゲインの値が表示される。操作者は選択ゲイン表示部703の数値により信号強調ゲインの値を確認できる。
【0059】
最小ゲイン表示部704と最大ゲイン表示部705には設定可能な信号強調ゲインの最小値と最大値が表示される。設定可能な信号強調ゲインの最小値と最大値は、再構成条件等に応じて算出される。例えば、肺野用の再構成フィルタが選択された場合、腹部用の再構成フィルタが選択された場合に比べて再構成画像上のノイズ並びにコントラスト強調画像上のノイズが大きくなる傾向がある。そこで、腹部用の再構成フィルタに比べ肺野用の再構成フィルタのときの信号強調ゲインの範囲を広く設定するようにしても良い。
【0060】
コントラスト強調画像表示部706には算出されたコントラスト強調画像、すなわち画像処理の結果が表示される。コントラスト強調画像は、信号強調ゲインの値が変更される度に更新される。表示画面700を操作する操作者は、ゲイン設定部702を用いて信号強調ゲインの値を設定することにより、算出されるコントラスト強調画像を対話的に表示させることができる。
【0061】
図8に異なる信号強調ゲインを設定した場合のコントラスト強調画像の一例を再構成画像とともに示す。
図8(a)が再構成画像、
図8(b)が信号強調ゲインを比較的小さくした場合のコントラスト強調画像、
図8(c)が信号強調ゲインを比較的大きくした場合のコントラスト強調画像である。信号強調ゲインを変えることにより、低コントラスト構造物の見え方が異なることがわかる。
【0062】
以上説明した処理の流れにより、医用画像に含まれる低コントラスト構造物の信号を抽出して強調することが可能となり、診断に適した医用画像を操作者に提示できるようになる。
【0063】
[第二実施形態]
第一実施形態では、局所バイアス成分画像に局所バイアス成分低周波画像を加重加算してコントラスト強調画像を算出することについて説明した。より詳細な情報を得るには低周波成分画像のみならず、その他の周波数成分もコントラスト強調画像に反映させたほうが望ましい。そこで本実施形態では、低周波成分とともにその他の周波数成分を反映させたコントラスト強調画像について説明する。
【0064】
図9を用いて本実施形態の要部について説明する。なお本実施形態と第一実施形態の違いは、第一実施形態の低周波成分画像生成部303が周波数成分画像生成部903に変わった点と、コントラスト強調画像算出部での処理内容であるので、周波数成分画像生成部903とコントラスト強調画像算出部905について説明する。
【0065】
周波数成分画像生成部903は原画像である再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像を複数の周波数帯に分解する。再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像を算出することと、差分画像を複数の周波数帯に分解し低周波成分画像を生成することは、第一実施形態の低周波成分画像生成部303と同じである。周波数成分画像生成部903では、さらに低周波成分画像とは異なる周波数帯の成分からなる周波数成分画像であるその他の周波数成分画像を生成する。
【0066】
その他の周波数成分画像を生成するには、低周波成分画像生成部303が用いた遮断周波数とは異なる遮断周波数を用いて周波数分解したり、再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像から低周波成分画像を差分したりする。その他の周波数成分画像は低周波成分画像と異なる周波数帯の成分の周波数成分画像であれば、一画像に限らず、複数生成されても良い。生成されたその他の周波数成分画像はコントラスト強調画像算出部905に送信される。
【0067】
コントラスト強調画像算出部905は局所バイアス成分低周波画像に信号強調ゲインを掛けてその他の周波数成分画像とともに局所バイアス成分画像に加算することによりコントラスト強調画像を算出する。局所バイアス成分画像をI1、局所バイアス成分低周波画像をI2、その他の周波数成分画像をI3、信号強調ゲインをgとするとコントラスト強調画像Iは次式で表される。
【0069】
局所バイアス成分画像I1に、局所バイアス成分低周波画像I2が加重加算されるとともにその他の周波数成分画像I3が加算されるので、詳細な情報がさらに反映されたコントラスト強調画像Iはより診断に適した画像となる。
【0070】
図10を用いて、本実施形態の医用画像処理装置1が実行する処理の流れを説明する。なお本実施形態のS6-1、S6-2、S6-4は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0071】
(S10-3)
周波数成分画像生成部903が再構成画像と局所バイアス成分画像との差分画像を周波数分解し低周波成分画像とその他の周波数成分画像を生成する。周波数分解に、Gaussianピラミッドを用いる場合、例えば遮断周波数を0.15lp/mmとしたGaussianフィルタを差分画像に適用して低周波成分画像を生成し、差分画像から低周波成分画像を差分することによりその他の周波数成分画像を生成する。
【0072】
(S10-5)
コントラスト強調画像算出部905がコントラスト強調画像を算出する。コントラスト強調画像の算出には数6が用いられる。算出されたコントラスト強調画像は、表示装置6に表示される。
【0073】
以上説明した処理の流れにより、医用画像に含まれる低コントラスト構造物の信号を抽出して強調し、さらに詳細な情報を反映することが可能となり、より診断に適した医用画像を操作者に提示できるようになる。
【0074】
[第三実施形態]
第一実施形態では、再構成画像及び低周波成分画像中の画素値の変動成分を除去して局所的なバイアス成分を抽出することについて説明した。画素値の変動成分の大部分はノイズ成分であるが、被検体内の構造物に係る成分も含まれるので、変動成分を除去するにあたり、ノイズ成分の分布を示すノイズマップを利用するとバイアス成分の抽出精度を向上させることができる。そこで本実施形態では、ノイズマップを利用して再構成画像及び低周波成分画像から局所的なバイアス成分を抽出することについて説明する。
【0075】
図11を用いて本実施形態の要部について説明する。なお本実施形態と第一実施形態の違いは、第一実施形態の原画像取得部301がノイズマップ取得部1101を含む点と、局所バイアス成分第一抽出部及び第二抽出部がノイズマップを利用する点である。以下、ノイズマップ取得部1101と局所バイアス成分第一抽出部1102及び第二抽出部1104について説明する。
【0076】
ノイズマップ取得部1101は、原画像である再構成画像内のノイズ成分の分布が画像化されたノイズマップを取得する。ノイズマップは記憶装置4や医用画像撮影装置13、医用画像データベース14に記憶されており、これらから読み出される。また、ノイズマップ取得部1101が、再構成画像の生成に使用された投影データを用いてノイズマップを生成しても良い。ノイズマップの生成に用いられる投影データは、記憶装置4や医用画像撮影装置13、医用画像データベース14から読み出される。取得されたノイズマップは局所バイアス成分第一抽出部1102及び第二抽出部1104に送信される。なお、
図11ではノイズマップ取得部1101が原画像取得部301に含まれる形態を示したが、ノイズマップ取得部1101は原画像取得部301に含まれなくても構わない。
【0077】
局所バイアス成分第一抽出部1102は、ノイズマップを用いて原画像である再構成画像内の局所的なバイアス成分を抽出し、局所バイアス成分画像を生成する。生成された局所バイアス成分画像は、第一実施形態と同様に、低周波成分画像生成部303とコントラスト強調画像算出部305へ送信される。
【0078】
局所バイアス成分第二抽出部1104は、ノイズマップを用いて低周波成分画像内の局所的なバイアス成分を抽出し、局所バイアス成分低周波画像を生成する。生成された局所バイアス成分低周波画像は、第一実施形態と同様に、コントラスト強調画像算出部305へ送信される。
【0079】
図12を用いて、本実施形態の医用画像処理装置1が実行する処理の流れを説明する。なお本実施形態のS6-1、S6-3、S6-5は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0080】
(S12-1)
ノイズマップ取得部1101がノイズマップを取得する。ノイズマップ取得部1101がノイズマップを生成する手順の一例について、以下説明する。まず、再構成画像の生成に使用された投影データを取得する。次に投影データを偶数ビューと奇数ビューとに分離し、分離された投影データ毎の再構成画像を作成する。そして2つの再構成画像の一方から他方を減算することにより、構造物が除去されてノイズ成分が反映された画像を取得する。なお、2つの再構成画像を加算すると全ての投影データを用いて作成される再構成画像となる。最後にノイズ成分が反映された画像中の各画素に対して、対象画素とその近傍画素との画素値を用いて標準偏差を算出し、各画素に対して算出された標準偏差の値をノイズマップとする。
【0081】
(S12-2)
局所バイアス成分第一抽出部1102がノイズマップを用いて再構成画像内の局所的なバイアス成分を抽出し、局所バイアス成分画像を生成する。局所バイアス成分画像の生成には、第一実施形態と同様に、TVフィルタやNLMフィルタを用いることができる。
【0082】
TVフィルタにノイズマップを利用する場合には、数2における対角行列Dの対角成分にノイズマップの値の逆数を当てはめる。具体的には、ノイズマップ中のj番目の画素の値をn
jとおくと、D=diag{1/n
1 ,…,1/n
j ,…,1/n
J }と表せる。また、この行列Dを使用して、第一実施形態のS6-2と同様に、スキャン条件毎に適正なβを予め算出し、記憶装置に記憶させておく。
【0083】
NLMフィルタにノイズマップを利用する場合には、数4のパラメータh をJ次元のベクトルh={h
1,…,h
j,…,h
J }に置き換え、数4のhに代わりh
jを使用する。このとき、ノイズマップの値n
jと比例低定数αを用いてh
j=αn
jとおくと、S6-2でのhと同様に、αを扱うことができる。
【0084】
(S12-4)
局所バイアス成分第二抽出部1104がノイズマップを用いて低周波成分画像から局所バイアス成分低周波画像を抽出する。ノイズマップを用いた局所バイアス成分抽出処理はS12-2と同様であるが、低周波成分画像は再構成画像に比べて画素値の変動が小さいので、本ステップではノイズマップを補正して用いる。低周波成分画像に再構成画像と同じノイズマップを用いると、過剰なノイズ量で局所バイアス成分を抽出してしまい、平滑化効果が大き過ぎることとなるので、ノイズマップを補正することにより過剰な平滑化効果を防止する。
【0085】
ノイズマップを補正する手順について以下説明する。まず、ノイズマップを複数の周波数帯に分解する。なお、周波数分解に用いられる遮断周波数は、低周波成分画像生成部が用いた遮断周波数と一致させる。次に分解された周波数帯のうち最も低い周波数帯の成分を、補正されたノイズマップとして抽出する。
【0086】
以上説明した処理の流れにより、医用画像に含まれる低コントラスト構造物の信号を抽出して強調することが可能となり、診断に適した医用画像を操作者に提示できるようになる。特に本実施形態によれば、低コントラスト構造物の信号を高精度に抽出できるので、より診断に適した医用画像を操作者に提示できるようになる。
【0087】
[第四実施形態]
第一実施形態では、コントラスト強調画像を算出する際に用いられる信号強調ゲインを操作者が設定することについて説明した。操作者が対話的に信号強調ゲインを設定できる一方で、操作者の操作数を低減するには、信号強調ゲインが自動的に設定されるほうが望ましい。そこで本実施形態では、医用画像処理装置1が信号強調ゲインを算出し設定することついて説明する。
【0088】
図13を用いて本実施形態の要部について説明する。なお本実施形態と第一実施形態の違いは、ゲイン算出部1308が追加される点であるので、ゲイン算出部1308について説明する。
【0089】
ゲイン算出部1308は局所バイアス成分低周波画像に基づいて信号強調ゲインを算出する。局所バイアス成分低周波画像には強調したい低周波成分の情報が含まれているため、局所バイアス成分低周波画像の画素値の最大値と最小値に基づいて信号強調ゲインを決定する。
【0090】
図14を用いて、本実施形態の医用画像処理装置1が実行する処理の流れを説明する。なお本実施形態のS6-1〜S6-5は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0091】
(S14-6)
ゲイン算出部1308が信号強調ゲインを算出する。信号強調ゲインgは、局所バイアス成分低周波画像の画素値の中の正の値の最大値Mと最小値mとを用いて、次式により算出される。
【0093】
ここでγは任意のパラメータである。γの値は、CT値が既知のファントム、例えば
図4(d)に示したファントムをスキャンして得られる再構成画像を用いて、低コントラスト構造物の視認性が最良となるように予め算出され、記憶装置4に記憶される。本ステップでは、記憶装置4に記憶されたγが読み出されて使用される。
【0094】
また
図7に示した表示画面700中の最小ゲイン表示部704と最大ゲイン表示部705に表示される値をそれぞれγmとγMにしても良い。
【0095】
以上説明した処理の流れにより、医用画像に含まれる低コントラスト構造物の信号を抽出して強調することが可能となり、より診断に適した医用画像を操作者に提示できるようになる。
【0096】
なお、本発明の医用画像処理装置及び医用画像処理方法は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【0097】
例えば第三実施形態及び第四実施形態の低周波成分画像生成部303とコントラスト強調画像算出部305を、第二実施形態の周波数成分画像生成部903とコントラスト強調画像算出部905に変形しても良い。また第三実施形態のノイズマップ取得部1101を第四実施形態に追加しても良い。