(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987364
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】光学用キャップ部品
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20211213BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20211213BHJP
C03C 4/10 20060101ALI20211213BHJP
C03C 3/12 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/01 Z
C03C4/10
C03C3/12
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-150521(P2020-150521)
(22)【出願日】2020年9月8日
(62)【分割の表示】特願2017-21009(P2017-21009)の分割
【原出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2020-204618(P2020-204618A)
(43)【公開日】2020年12月24日
【審査請求日】2020年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-215161(P2016-215161)
(32)【優先日】2016年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
【審査官】
嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/112392(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0206906(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0016995(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102721662(CN,A)
【文献】
特開2015−151300(JP,A)
【文献】
特開2016−088761(JP,A)
【文献】
特開昭62−003042(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/024498(WO,A1)
【文献】
シュリンクフィッタを用いた光学レンズの超精密接合,精密工学会誌,日本,2001年,Vol. 67, No. 10,pp. 1615-1620
【文献】
N.MANIKANDAN, et al.,"Thermal and optical properties of TeO2-ZnO-BaO glasses",Journal of Non-Crystalline Solids,NL,Elsevier B.V.,2012年02月02日,Volume 358, Issue 5,Page 947-951,ISSN:0022-3093, DOI:10.1016/j.jnoncrysol.2012.01.003
【文献】
高温アルカリテルライト系ガラス融体の密度、表面張力及び粘度,日本鉄鋼協会講演論文集 材料とプロセス,日本,日本鉄鋼協会,2007年03月20日,第20巻、第1号,第122頁
【文献】
今岡稔, 山崎敏子,"3成分系ガラス化範囲−5−b−族元素を含むテルライト系",東京大学生産技術研究所報告,日本,東京大学生産技術研究所,1976年07月21日,第26巻,第1号,1-46頁,ISSN:0040-9006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−G01N 21/958
C03C 4/10
C03C 3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
CAplus/REGISTRY(STN)
Scitation
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ形状の赤外光透過ガラスからなる窓材と、
先端側及び基端側に開口部を有する筒状の側壁部を備えている金属またはセラミックスからなるキャップ部材とを備え、
窓材がキャップ部材の先端側の開口部を覆うように固定されており、
キャップ部材の熱膨張係数が、0〜300℃の範囲で250×10−7以下であり、
赤外線透過ガラスの熱膨張係数が、0〜300℃の範囲で220×10−7以下であり、
キャップ部材の熱膨張係数が窓材の熱膨張係数より高く、キャップ部材と窓材の熱収縮率差によって、キャップ部材が窓材を締め付け、窓材を固定していることを特徴とする
光学用キャップ部品。
【請求項2】
赤外光透過ガラスがテルライト系ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の光学用キャップ部品。
【請求項3】
テルライト系ガラスが、組成として、モル%で、TeO2 30〜90%、ZnO 0〜40%、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0〜30%、R’2O(R’はLi、Na及びKから選択される少なくとも1種) 0〜30%を含有することを特徴とする請求項2に記載の光学用キャップ部品。
【請求項4】
赤外光透過ガラスが、厚み1mmにて波長1〜6μmの範囲で最大透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項5】
窓材の表面に反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項6】
キャップ部材が、側壁部の先端に連なる端壁部を備え、開口部が端壁部の中央に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項7】
側壁部の内径に対する、端壁部の開口部の直径の比率が10%以上であることを特徴とする請求項6に記載の光学用キャップ部品。
【請求項8】
側壁部の基端側に半径方向外方に延出したフランジ部を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項9】
光学センサ用途に使用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ、ガス警報機、ガス濃度測定器等に使用される光学用キャップ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、室内のエアクオリティーが注目され、小型かつ安価でメンテナンス性の優れたガスセンサが求められている。この要求に対して半導体、セラミックス等を用いた様々なガスセンサが開発されている。例えば、CO
2センサには、感度・安定性共に優れた赤外光吸収を利用した光学式センサが使用されている。
【0003】
赤外光吸収を利用した光学式ガスセンサには、受光器にスリーブ状又はキャップ状の金属製ケースが取り付けられており、その上面には開口部が形成され、この開口部を閉塞するように赤外光透過性の窓材が取り付けられている。窓材には、サファイア、フッ化バリウム、シリコン、ゲルマニウム等が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−332585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サファイア、フッ化バリウム、シリコン、ゲルマニウムは結晶材料である為、加工性が低く、通常板状で使用される。窓材に板状の結晶材料を使用した光学式ガスセンサは、感度が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、赤外光吸収を利用した光学式ガスセンサの感度を良好にすることが可能な光学用キャップ部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学用キャップ部品は、レンズ形状の赤外光透過ガラスからなる窓材と、先端側及び基端側に開口部を有する筒状の側壁部を備えているキャップ部材とを備え、窓材がキャップ部材の先端側の開口部を覆うように固定されていることを特徴とする。赤外光透過ガラスは、サファイア、ゲルマニウム、シリコン等の結晶材料よりも加工性に優れており、容易にレンズ形状に成形することが可能である。レンズ形状にすることにより、優れた集光能力を有するため、赤外光吸収を利用した光学式ガスセンサの感度を向上させることが可能となる。なお、本発明における「赤外光透過ガラス」とは、厚み1mmにて波長1〜6μmの範囲で最大透過率が30%以上のガラスを意味する。
【0008】
本発明の光学用キャップ部品は、赤外光透過ガラスがテルライト系ガラスであることが好ましい。石英ガラスやホウケイ酸ガラスは波長3.0μm程度までの赤外光しか透過できないが、テルライト系ガラスは6.0μm程度まで透過可能であり、赤外透過特性に優れている。
【0009】
本発明の光学用キャップ部品は、テルライト系ガラスが、組成として、モル%で、TeO
2 30〜90%、ZnO 0〜40%、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0〜30%、R’
2O(R’はLi、Na及びKから選択される少なくとも1種) 0〜30%を含有することが好ましい。
【0010】
本発明の光学用キャップ部品は、赤外光透過ガラスが、厚み1mmにて波長1〜6μmの範囲で最大透過率が50%以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の光学用キャップ部品は、赤外光透過ガラスが、0〜300℃の範囲で熱膨張係数が250×10
−7/℃以下であることが好ましい。このようにすれば、温度変化による変形を抑制できる。
【0012】
本発明の光学用キャップ部品は、窓材が、キャップ部材に接合材で固定されていることが好ましい。
【0013】
本発明の光学用キャップ部品は、接合材が、ガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することが好ましい。
【0014】
本発明の光学用キャップ部品は、ガラス粉末が、実質的にPbO、ハロゲンを含有しないことが好ましい。ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン単体の他、ハロゲン化物を含む。ハロゲン化物とは、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物のことである。ここで、「実質的にPbO、ハロゲンを含有しない」とは、ガラス組成中のPbO、ハロゲンの含有量が各々1000ppm以下の場合を指す。
【0015】
本発明の光学用キャップ部品は、窓材の表面に反射防止膜が形成されていることが好ましい。このようにすれば、赤外域の光透過率を向上しやすい。
【0016】
本発明の光学用キャップ部品は、キャップ部材が、0〜300℃の範囲で熱膨張係数が250×10
−7/℃以下であることが好ましい。このようにすれば、温度変化による変形を抑制できる。
【0017】
本発明の光学用キャップ部品は、キャップ部材が、側壁部の先端に連なる端壁部を備え、開口部が端壁部の中央に設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明の光学用キャップ部品は、側壁部の内径に対する、端壁部の開口部の直径の比率が10%以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の光学用キャップ部品は、側壁部の基端側に半径方向外方に延出したフランジ部を有することが好ましい。
【0020】
本発明の光学用キャップ部品は、光学センサ用途に使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、赤外光吸収を利用した光学式ガスセンサの感度を良好にすることが可能な光学用キャップ部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光学用キャップ部品を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る光学用キャップ部品を示す模式的断面図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る光学用キャップ部品を示す模式的断面図である。
【
図4】条件1におけるシミュレーションにて用いた光学用キャップ部品の模式的断面図である。
【
図5】条件2におけるシミュレーションにて用いた光学用キャップ部品の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の光学用キャップ部品の実施形態について説明する。
【0024】
(1)第1の実施形態
図1は本発明の第1の実施形態に係る光学用キャップ部品を示す模式的断面図である。
【0025】
本実施形態において、光学用キャップ部品1は、レンズ形状の赤外光透過ガラスからなる窓材2と、キャップ部材3とを備えている。なお、窓材2の直下にはセンサ受光部5が設けられる。キャップ部材3は、両端に開口部を有する側壁部3cを備えている。具体的には、側壁部3cは、先端と基端を有し、先端側に開口部3a、基端側に開口部3bが形成されている。また、側壁部は全長に亘って略同一の内径を有する円筒形状であり、先端側及び基端側の開口部の直径は、側壁部の内径と略同一になっている。窓材2は、キャップ部材3の先端側の開口部3aを覆うように固定されている。
【0026】
窓材2をキャップ部材3に固定する方法としては、低融点ガラス、接着剤、はんだ等の接合材4を窓材2とキャップ部材3の間に塗布する手法が挙げられる。また、窓材2自体を融解させ、キャップ部材3に融着させてもよい。あるいは、キャップ部材3の熱膨張係数が窓材2の熱膨張係数より高い場合、窓材2をキャップ部材3に収納させた後、加熱、冷却することにより、キャップ部材3と窓材2の熱収縮率差によって、キャップ部材3で窓材2を締め付け、窓材2を固定することもできる。
【0028】
(窓材2)
窓材2は、レンズ形状である。そのため、集光能力に優れ、センサ受光部の面積縮小とそれに伴う素子の小型化を可能にし、また、受光強度が向上するためセンサの感度を向上しやすい。なお、レンズ形状は、特に限定されないが、集光能力を考慮すると、両凸形状(例えば球状)、平凸形状、メニスカス形状が好ましい。
【0029】
窓材2は、赤外光透過ガラスからなる。赤外光透過ガラスは、赤外域において良好な光透過率を有しやすいテルライト系ガラスであることが好ましい。
【0030】
テルライト系ガラスは、組成として、モル%で、TeO
2 30〜90%、ZnO 0〜40%、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0〜30%、R’
2O(R’はLi、Na及びKから選択される少なくとも1種) 0〜30%を含有することが好ましい。ガラス組成範囲をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、特に断りがない限り「%」は「モル%」を示す。
【0031】
TeO
2はガラス骨格を形成する成分である。また、ガラス転移点を低下させ、屈折率を高める効果も有する。ガラス転移点が低くなるとプレス性が向上する。屈折率が高くなると、焦点距離が短くなり、光学センサ等を小型化しやすくなる。TeO
2の含有量は30〜90%、40〜80%、特に50〜70%であることが好ましい。TeO
2の含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、TeO
2の含有量が多すぎると、可視域における光透過率が低下し、意匠性等の観点から可視域の光透過率が要求される用途においては使用できない場合がある。
【0032】
ZnOは熱的安定性を高める成分である。ZnOの含有量は0〜40%、10〜35%、特に15〜30%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0033】
RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)は赤外域における光透過率を低下させることなくガラス化の安定性を高める成分である。ROの含有量は0〜30%、1〜25%、2〜20%、特に3〜15%であることが好ましい。ROの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0034】
なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は各々0〜30%、1〜25%、2〜20%、特に3〜15%であることが好ましい。ROのうちBaOが、ガラス化の安定性を高める効果が最も高い。よって、ROとしてBaOを積極的に含有させることにより、ガラス化が容易となる。
【0035】
R’
2O(R’はLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)は可視域における光透過率を向上させる成分である。R’
2Oの含有量は0〜30%、1〜25%、2〜20%、特に3〜15%であることが好ましい。R’
2Oの含有量が多すぎると、化学的耐久性を低下する傾向がある。
【0036】
なお、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの含有量は各々0〜30%、1〜25%、2〜20%、特に3〜15%であることが好ましい。
【0037】
上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0038】
La
2O
3、Gd
2O
3及びY
2O
3は赤外域における光透過率を低下させることなく、液相温度を低下させてガラス化の安定性を高める成分である。La
2O
3+Gd
2O
3+Y
2O
3の含有量は0〜50%、1〜30%、特に1〜15%であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、ガラス転移点も上昇し、プレス成型性が低下しやすくなる。なお、上記成分のなかでLa
2O
3はガラス化の安定性を高める効果が最も高い。よって、La
2O
3を積極的に含有させることにより、ガラス化が容易となる。ここで、「La
2O
3+Gd
2O
3+Y
2O
3」は、La
2O
3、Gd
2O
3及びY
2O
3の含有量の合量を意味する。なお、La
2O
3、Gd
2O
3及びY
2O
3の含有量は各々0〜50%、0〜30%、特に0.5〜15%であることが好ましい。
【0039】
SiO
2、B
2O
3、P
2O
5、GeO
2及びAl
2O
3は赤外域における光透過率を低下させるため、その含有量は各々1%未満とすることが好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0040】
Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Ho、Er、Tm、Dy、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、V、Mo及びBiは、約400〜800nmの可視域における吸収が大きい。よって、これらの成分を実質的に含有しないことにより、可視域の広い範囲にわたり高い光透過率を有するガラスが得られやすくなる。
【0041】
Pb、Cs及びCdは環境に有害な物質であるため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0042】
上記のような組成を有するガラスは、厚み1mmにて波長1〜6μmの範囲で最大透過率が50%以上、60%以上、特に70%以上になりやすい。
【0043】
また、赤外光透過ガラスの熱膨張係数は0〜300℃の範囲で250×10
−7/℃以下、220×10
−7/℃以下、200×10
−7/℃以下、180×10
−7/℃以下、特に160×10
−7/℃以下であることが好ましい。熱膨張係数が大きすぎると、温度変化により変形しやすく、集光能力が低下して、センサの感度が低下するおそれがある。熱膨張係数の下限は特に限定されないが、現実的には、50×10
−7/℃以上である。
【0044】
なお、球面収差は、入射有効径が大きいほど、窓材2への入射角が大きくなるほど大きくなる。焦点距離が同じであれば、屈折率が高いほど窓材2の曲率は小さくなり入射角を小さく出来るため、球面収差は小さくなる。上記のような組成を有するガラスの屈折率は約1.9〜約2.1であり、サファイア、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスの屈折率の約1.5〜約1.8よりも高いため、球面収差が小さくなりやすい。
【0045】
赤外光透過率の向上を目的として、窓材2の表面(光入射面または光出射面)に、反射防止膜を形成してもよい。
【0046】
反射防止膜の構造としては、高屈折率層と低屈折率層が交互に積層された多層膜が挙げられる。反射防止膜を構成する材質としては、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ランタン、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウムまたは酸化アルミニウム等の酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等のフッ素化物、窒化珪素等の窒化物、シリコン、ゲルマニウム、硫化亜鉛等が挙げられる。反射防止膜としては多層膜以外にも酸化ケイ素等からなる単層膜も使用できる。
【0047】
反射防止膜の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が挙げられる。反射防止膜は、窓材2をキャップ部材3に固定させてから形成してもよく、窓材2に反射防止膜を形成した後、窓材2をキャップ部材3に固定してもよい。ただし、後者の場合は固着工程において反射防止膜の剥離が生じやすくなるため、前者の方が好ましい。
【0048】
(キャップ部材3)
キャップ部材3の材質は、金属、セラミックスのいずれでも構わないが、加工性の面を考慮するとハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、SUS等の金属であることが好ましい。
【0049】
キャップ部材の熱膨張係数は0〜300℃において250×10
−7/℃以下、220×10
−7/℃以下、200×10
−7/℃以下、180×10
−7/℃以下、特に160×10
−7/℃以下であることが好ましい。熱膨張係数が大きすぎると、温度変化により変形しやすく、集光能力が低下して、センサの感度が低下するおそれがある。熱膨張係数の下限は特に限定されないが、現実的には、50×10
−7/℃以上である。
【0050】
(接合材4)
接合材4には、化学的耐久性および耐熱性が要求されるため、樹脂系ではなくガラス系であることが好ましい。接合材に用いられるガラスとしては、酸化銀系ガラス、リン酸系ガラス、酸化ビスマス系ガラス、銀リン酸系ガラス等を用いることができる。特に、銀リン酸系ガラスは軟化点が低く、より低温で封着可能であるため、テルライト系ガラス等の熱に弱い窓材の封着に好適である。なお、PbO、ハロゲンは有害であるのでガラス中に実質的に含有しないことが好ましい。
【0051】
接合材4は、上記のガラスからなるガラス粉末に、機械的強度を向上、或いは熱膨張係数を調整するために、耐火性フィラーを含有してもよい。その混合割合は、ガラス粉末50〜100体積%、耐火性フィラー0〜50体積%であり、ガラス粉末70〜99体積%、耐火性フィラー1〜30体積%がより好ましく、ガラス粉末80〜95体積%、耐火性フィラー5〜20体積%が更に好ましい。耐火性フィラーの含有量が多過ぎると、相対的にガラス粉末の割合が少なくなるため、所望の流動性を確保し難くなる。
【0052】
耐火性フィラーは、特に限定されず、種々の材料を選択することができるが、上記のガラス粉末と反応し難いものが好ましい。
【0053】
具体的には、耐火性フィラーとして、NbZr(PO
4)
3、Zr
2WO
4(PO
4)
2,リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英、ウイレマイト、コーディエライト、Sr
0.5Zr
2(PO
4)
3等のNaZr
2(PO
4)
3型固溶体等を使用することができる。尚、これらの耐火性フィラーは、単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。なお、耐火性フィラーの粒径は平均粒子径D50が0.2〜20μm程度のものを使用することが好ましい。
【0054】
接合材4のガラス転移点は300℃以下、特に250℃以下であることが好ましい。さらに、軟化点は350℃以下、特に310℃以下であることが好ましい。ガラス転移点及び軟化点が高過ぎると、焼成温度(封着温度)が上昇して、焼成時に窓材2が変形したり、劣化するおそれがある。なお、ガラス転移点及び軟化点の下限は特に限定されないが、現実的にはガラス転移点は130℃以上、軟化点は180℃以上である。
【0055】
接合材4の30〜150℃の範囲における熱膨張係数は、250×10
−7/℃以下、230×10
−7/℃以下、特に200×10
-7/℃以下であることが好ましい。熱膨張係数が高すぎると、封着する部材との膨張差により、接合材4が剥離し易くなる。なお、熱膨張係数の下限は特に限定されないが、現実的には50×10
−7/℃以上である。
【0056】
次に、接合材4の製造方法について説明する。
【0057】
まず、所望の組成になるように調合した原料粉末を約700〜1600℃で1〜2時間程度、均質なガラスが得られるまで溶融する。次いで、溶融ガラスをフィルム状等に成形した後、粉砕し、分級することにより、ガラス粉末を作製する。なお、ガラス粉末の平均粒子径D50は2〜20μm程度であることが好ましい。必要に応じて、ガラス粉末に各種耐火性フィラー粉末を添加する。このようにして、接合材4を得る。なお、接合材4は、以下に説明するように、例えば所望の形状を有する焼結体(タブレット)の形態で使用することができる。
【0058】
まず、ガラス粉末(あるいはガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合粉末)に有機樹脂や有機溶剤を添加し、スラリーを形成する。その後、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、顆粒を作製する。その際、顆粒は、有機溶剤が揮発する程度の温度(100〜200℃程度)で熱処理される。さらに、作製された顆粒は、所定の寸法に設計された金型に投入され、リング状に乾式プレス成型され、プレス体が作製される。次に、ベルト炉等の熱処理炉にて、このプレス体に残存するバインダーを分解揮発させるとともに、ガラス粉末の軟化点程度の温度で焼結し、焼結体が作製される。また、熱処理炉での焼結は、複数回行われる場合がある。焼結を複数回行うと、焼結体の強度が向上し、焼結体の欠損、破壊等を防止することができる。
【0059】
有機樹脂は、粉末同士を結合し、顆粒化するための成分であり、その添加量は、ガラス粉末(あるいはガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合粉末)100質量%に対し、0〜20質量%であることが好ましい。有機樹脂として、アクリル樹脂、エチルセルロ−ス、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル樹脂は、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0060】
ガラス粉末(あるいはガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合粉末)を顆粒化する際に、有機溶媒を添加すれば、スプレードライヤー等で顆粒化しやすくなるとともに、顆粒の粒度を調整しやすくなる。有機溶媒の添加量は、封着材料100質量%に対し、5〜35質量%であることが好ましい。有機溶媒として、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、トルエンは、有機樹脂等の溶解性も良好であり、150℃程度で良好に揮発するため、好ましい。
【0061】
作製された焼結体は、キャップ部材3の開口部3a上に設置され、後に窓材2とキャップ部材3との封着工程に供される。なお、接合材4は、ガラス粉末(あるいはガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合粉末)に溶剤とバインダー等を含有したビークルを添加し、ペーストとして使用しても良い。
【0062】
(2)第2の実施形態
図2は本発明の第2の実施形態に係る光学用キャップ部品を示す模式的断面図である。第1の実施形態に係る光学用キャップ部品との違いは、第2の実施形態では、さらに、側壁部3cの先端側に側壁部3cから連なる環状の端壁部3dを備えており、端壁部3dの中央に存在する開口部3aに窓材2が固定されている点である。端壁部3dを設けることにより、窓材2をキャップ部材3に固定しやすくなる。また、キャップ部材3の機械的強度が向上し、光学用キャップ部品としての信頼性が高くなる。さらに、キャップ部材3と窓材2の光軸を合わせやすくなる。
【0063】
キャップ部材3において、筒状の側壁部3cの直径に対する、端壁部3dの開口部3aの直径の比率は、10%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、特に70%以上であることが好ましい。当該比率が小さすぎると、窓材2に入射する光量が少なくなりやすく、センサの感度が低下しやすくなる。なお、上記効果を得るためには、上記比率の上限は、95%以下、特に90%以下であることが好ましい。
【0064】
(3)第3の実施形態
図3は本発明の第3の実施形態に係る光学用キャップ部品を示す模式的断面図である。第2の実施形態に係る光学用キャップ部品との違いは、第3の実施形態では、さらに、側壁部3cの基端側に側壁部3cから連なる環状のフランジ部3eが外方に向かって延出している点である。このようにすれば、キャップ部材3の機械的強度を向上させることができる。また、キャップ部材3をセンサ本体の設置面に固定しやすくなる。
【0065】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施することができる。
【0066】
下記の条件1と条件2の2通りのパターンにてシミュレーションを行い、窓材2の形態により、集光能力がどれだけ変化するかを調査した。集光能力の指標は、(センサ受光部が受光した光量)/(入射した赤外光の光量)×100(%)とした。なお、入射赤外光はコリメート光とした。
【0067】
図4は、条件1におけるシミュレーションにて用いた光学用キャップ部品の模式的断面図である。
図5は、条件2におけるシミュレーションにて用いた光学用キャップ部品の模式的断面図である。なお、各シミュレーションにおいて、窓材表面での光反射等の損失は無視している。
【0068】
(条件1)
赤外光の入射有効径A 3.5mm
円盤状のセンサ受光部5の直径D 1.0mm
キャップ部材3の基端とセンサ受光部5上面の距離E 6.6mm
窓材2とセンサ受光部5上面の距離C 0.5mm
窓材2 屈折率(nd)2.01の真球状のテルライト系赤外光透過ガラス
窓材2の直径B 6mm
【0069】
(条件2)
赤外光の入射有効径A 3.5mm
円盤状のセンサ受光部5の直径D 1.0mm
キャップ部材3の基端とセンサ受光部5上面の距離E 6.6mm
窓材2 屈折率(nd)2.01の板状のテルライト系赤外光透過ガラス
窓材2の厚みF 1mm
【0070】
シミュレーションした結果、条件1では、(センサ受光部が受光した光量)/(入射した赤外光の光量)×100=100(%)となった。一方、条件2では、(センサ受光部が受光した光量)/(入射した赤外光の光量)×100≒8.1(%)となった。この結果より、本発明の光学用キャップ部品を用いることにより、集光能力が高まり、センサ感度を大幅に向上させることができることが分かる。具体的には、本シミュレーション結果では、レンズ状の窓材を有する光学用キャップ部品を用いた条件1は、板状の窓材を有する光学用キャップ部品を用いた条件2と比較して、約12倍のセンサ感度を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 光学用キャップ部品
2 窓材
3 キャップ部材
3a 開口部
3b 開口部
3c 側壁部
3d 端壁部
3e フランジ部
4 接合材
5 センサ受光部
A 入射有効径
B 窓材の直径
C 窓材とセンサ受光部上面の距離
D センサ受光部の直径
E キャップ部材の基端とセンサ受光部上面の距離
F 窓材の厚み