【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物(1)にて発表 ・刊行物名 2017年総合大会講演論文集(DVD論文集) ・発行者 一般社団法人 電子情報通信学会 ・発行日 2017年3月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2.集会(1)にて発表 ・集会名 2017年電子情報通信学会総合大会 ・場所 名城大学 天白キャンパス(愛知県名古屋市) ・開催日 2017年3月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 3.刊行物(2)にて発表 ・刊行物名 電子情報通信学会技術研究報告(信学技報), vol.117,No.2,AP2017−11,pp.55−58 ・発行者 一般社団法人 電子情報通信学会 ・発行日 2017年4月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 4.集会(2)にて発表 ・集会名 電子情報通信学会 アンテナ・伝播研究会(A・P) ・場所 大阪大学 豊中キャンパス(大阪府豊中市) ・開催日 2017年4月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る生体検知装置の実施形態について、以下、図面を参照しつつ説明する。上述した特許文献1と同様に、本発明に係る生体検知装置1は、偽造物による「なりすまし」行為を防止するために、被検体となる人体の検知対象部位が生体であるか否かを判定するものであって、主に指紋認証や静脈認証等の生体認証装置と併用されるものである。本発明に係る生体検知装置1は、
図1に示すように、CSRR(Complementary Split Ring Resonator:補対型(相補型)スプリットリング共振器)が配置されたBPF(Band Pass Filter:帯域通過フィルタ、以下ではCSRR−BPFとする)2と、検知対象部位をCSRR−BPF2に近接または当接させた際の電磁波応答特性を測定する測定部3と、測定部3によって測定された電磁波応答特性を用いて、生体判定のための演算処理等を行うコンピュータ4とを備えている。本発明に係るCSRR−BPF2は、
図2及び
図3に示すように、CSRRが同軸上に2組配置された構造を有することを特徴としている。CSRRは、大小2つのスプリットリング共振器(SRR)が内側と外側とでスプリット部が逆になるように同軸上に配置されたものであって、
図3に示すように、SRR21とSRR22のペアが1組のCSRR23であり、SRR24とSRR25のペアが1組のCSRR26である。各CSRRにおいては、外側と内側のSRRの幅及びその2つのSRR間の幅が等しく、また、スプリットの幅も等しくなっている。例えば、CSRR23の場合では、a13、a14及びa15の寸法が等しく、また、a9及びa12の寸法が等しい。また、本実施形態では、
図1に示すようにCSRR−BPF2を1つだけ配置した例を示しているが、複数配置することで、被検体の複数の検知対象部位の電磁波応答特性を同時に測定できるようにしたり、複数の被検体の検知対象部位の電磁波応答特性を同時に測定できるようにしてもよい。
【0023】
CSRR−BPF2は、被検体(人体)の検知対象部位の得たい情報に応じて所定の中心周波数に設計されるものであって、近接する媒質の影響を強く受けるCSRRを有している。CSRRに媒質を近接させると、その媒質の影響でCSRR−BPF2近傍の電磁界の分布が変化するため、その媒質の深さ方向に対する電磁界の応答、つまり電磁波応答特性を得ることが出来る。
【0024】
検知対象部位としては、例えば、静脈認証や指紋認証を行う人体指等がある。人体指は中心である骨の周りを筋肉、脂肪、及び皮膚が層状化された構造であると考えられる。各層の体積比を用いて近似的な均一媒質となる人体指を定義することで、その比誘電率と導電率を基に人体指の表皮深さを算出すると、6GHzでは約10mm、10GHzでは約5mm、16GHzでは約2.5mmとなり、高周波になるにつれて人体指の深さ方向に浸透する電磁界は減衰する。従って、静脈認証と併用する生体検知装置1のCSRR−BPF2を設計する場合、静脈認証は3次元分布する血管パターンを認証情報とし、偽装物はその血管パターンを模した立体的な構造物であると考えられるため、人体指全体の特徴を反映した電磁波応答特性を取得できる低周波側を中心周波数とするのが有効であると考えられる。一方で、指紋認証と併用するCSRR−BPF2を設計する場合、指紋認証は人体指先端の表面の紋様を認証情報とし、偽装物はその紋様を模した薄膜で、それを人体指の表面に装着して使用すると考えられるため、人体指の表面の特徴を反映した電磁波応答特性を取得できる高周波側を中心周波数とするのが有効であると考えられる。また、検知対象部位は指だけに限らず、他の部位でもよく、その場合、その部位で適切な特性を得ることができる周波数を中心周波数としてCSRR−BPF2を設計すればよい。
【0025】
本実施形態では、特許文献1と同様に、指紋認証と併用する生体検知装置1を想定し、中心周波数を10GHzとしてCSRR−BPF2を設計した。その構造を
図2に示す。
図2(a)は上面側から見た図であり、
図2(b)は底面側から見た図である。また、
図3は、
図2におけるCSRR−BPF2の一部を拡大した図であって、
図3(a)は
図2(a)における二点鎖線で囲ったA部を示した図であり、
図3(b)は
図2(b)における二点鎖線で囲ったB部を示した図である。上述のように、10GHzにおける人体指の表皮深さは約5mmで、人体指の厚さを約10mmと仮定したときにその半分程度となるため、中心周波数を10GHzで設計したCSRR−BPF2では、人体指の表面から半分程度までの深さ方向の構造の影響を反映した電磁波応答特性を取得できると考えられる。人体指は層状構造であるため、人体指の半分までの深さまでの電磁波応答特性であっても、表面の皮膚から脂肪、筋肉、そして中心の骨までが含まれるため、これらの人体指特有の構造の影響が反映された電磁波応答特性が取得することが期待できる。従って、中心周波数を10GHzで設計したCSRR−BPF2は、表面部分の影響を比較的強く受けつつ、人体指特有の影響も反映した電磁波応答特性を取得できるため、指紋認証と併用するのに適する。
【0026】
このCSRR−BPF2は、例えば、特許文献1のCSRR−BPFと同様に、基板として誘電体基板であるガラス硬化性PPO樹脂R−4726(比誘電率ε
γ=3.4、誘電正接tanδ=0.005、基板厚:1.0mm)を用いることが出来る。この誘電体基板の表面には両面に銅箔が張り付けられており、
図2に示すように伝送線路とCSRR構造を切削することで作製できる。
図2及び
図3のハッチングを施している部分が銅箔である。また、本実施形態における中心周波数を10GHzとして設計したCSRR−BPF2の各部の寸法の一例は、
図2及び
図3において、a1=26.0mm、a2=19.5mm、a3=10.6mm、a4=4.8mm、a5=10.6mm、a6=7.35mm、a7=4.8mm、a8=7.35mm、a9=0.4mm、a10=0.2mm、a11=0.2mm、a12=0.4mm、a13=0.4mm、a14=0.4mm、a15=0.4mm、a16=0.3mm、a17=0.2mm、a18=0.2mm、a19=0.2mm、b1=11.6mm、b2=11.6mm、b3=8.55mm、b4=2.4mm、b5=8.55mm、b6=0.4mm、b7=1.2mm、b8=1.2mm、b9=1.6mm、b10=1.6mmである。電磁波応答特性を測定する際、CSRR−BPF2のCSRR部を検知対象部位で覆う必要があるが、従来の特許文献1に記載されているCSRRが2組直列に配置された構造を有するCSRR−BPFの場合は、本実施形態と同様に中心周波数が10GHzの設計では、2組のCSRRの端から端までの長さが6.3mmであるのに対して、本実施形態では、1か所の4.8mm四方の正方形の中に2組のCSRRが収まっており、従来よりもCSRR部つまり載置領域は24%の削減となっている。載置領域の削減は、CSRR−BPF2に媒質を近接させた際の影響の差異を局所的に取得することを可能とし、媒質の密着不足に起因する誤検知の低減と検知精度の向上につながる。
【0027】
また、CSRR−BPF2の両端に設けられるポートP1及びP2には、コネクタ(不図示)がそれぞれ設けられており、
図1に示すように、同軸ケーブル5を介して、測定部3に接続されている。また、摩耗等によるCSRRの段差の平坦化、及び銅箔の腐食防止のために、CSRR−BPF2上に厚さ0.2mm程度のポリプロピレンフィルムを設置するようにしてもよい。
【0028】
測定部3は、例えば、ベクトルネットワークアナライザ等で構成されるものであって、測定のための電磁波を発生させてCSRR−BPF2に入射し、検知対象部位をCSRR−BPF2に近接または当接させた際の電磁波応答特性を測定する。電磁波応答特性としては、本実施形態のようにCSRR−BPF2の入出力端子がP1とP2の2ポートの場合、ポートP1に入射してポートP2へ通過する通過特性S21と、ポートP2に入射してポートP1へ通過する通過特性S12と、ポートP1に入射してポートP1へ反射する反射特性S11と、ポートP2に入射してポートP2へ反射する反射特性S22との4つを取得することが出来る。
【0029】
測定部3で測定される電磁波応答特性の測定値は、コンピュータ4へと入力される。コンピュータ4は、入力された電磁波応答特性の測定値を用いて、検知対象部位が生体であるか否かの生体判定のための演算処理等を行うものであり、例えば、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)6と、記憶部7と、演算処理部8と、表示部10と、操作部11等を備えている。またこれら各部は、
図1に示すように、システムバス12に接続され、このシステムバス12を介して種々のデータ等が入出力されて、CPU6の制御の下、種々の処理が実行される。
【0030】
記憶部7は、測定部3から入力される電磁波応答特性の測定値を記憶することが可能であり、また、検知対象部位が生体であるか否かの生体判定を行うための処理プログラム等を格納している。本実施形態では記憶部7を備えているが、他の外部のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を用いてもよい。
【0031】
演算処理部8は、記憶部7に格納される処理プログラムに基づいて、CPU6の制御の下、検知対象部位が生体であるか否かの判定を行うための演算処理等を行うものである。演算処理部8の評価値算出部81で、検知対象部位の電磁波応答特性の測定値と、生体の基準値とを用いて評価値を算出し、その算出された評価値に基づいて演算処理部8の生体判定部82で検知対象部位が生体であるか否かの判定を行う。
【0032】
表示部10は、例えば、液晶ディスプレイ等から構成されるものであって、生体判定結果等を表示するものである。表示部10の代わりに、または、表示部10と共に音声により生体判定結果を知らせるようにしてもよい。操作部11は、マウスやキーボード等で構成されており、操作者が種々のデータ及び操作指令等の入力を行うために使用されるものである。尚、表示部10と操作部11をタッチパネルとして一体的に構成してもよい。
【0033】
以下、この生体検知装置1による生体検知処理の流れについて説明する。まず、検知対象となる被検体が検知対象部位をCSRR−BPF2に近接または当接させる。その際、CSRR−BPF2のCSRR部を検知対象部位で覆うようにする。そして測定部3によって所定の周波数帯域における電磁波応答特性S(f)を測定する。本実施形態では、指紋認証用に中心周波数を10GHzで設計したCSRR−BPF2を用い、検知対象部位は右手人差し指の第1関節から先の部分とし、電磁波応答特性には3GHz〜16GHzにおける通過特性S21の絶対値|S21|を用いる。ただそれに限らず検知対象部位にはどの指を用いてもよいし、指紋認証用でなければ指でない部分でもよい。その場合は得たい情報に応じた中心周波数でCSRR−BPF2を設計すればよい。また、電磁波応答特性は通過特性|S21|に限らず、他の通過特性|S12|、反射特性|S11|または反射特性|S22|を用いるようにしてもよい。また、これらの複数を用いるようにしてもよい。また、電磁波応答特性を測定する周波数帯域についても、設計したCSRR−BPF2の特性に応じて変更してもよい。
【0034】
測定部3によって測定された電磁波応答特性の測定値S(f)は、コンピュータ4へと入力される。コンピュータ4の演算処理部8の評価値算出部81では、入力された測定値S(f)と、生体の電磁波応答特性の基準値T(f)とを用いて評価値を算出する。
【0035】
生体の電磁波応答特性の基準値T(f)は、評価値算出部81で算出され、本実施形態では、測定値S(f)と同様の測定条件で事前に複数回測定して記憶部7に記憶させておいた被検体の検知対象部位の電磁波応答特性の測定値を用いて、それらを周波数毎に平均化したものを基準値T(f)として算出する。この時、基準値T(f)の標準偏差σ(f)も同時に算出する。基準値T(f)の算出には、決まった一定回数の電磁波応答特性の測定値を用いてもよいが、用いる測定値の数が増えるほど基準値T(f)の信頼性が上がって誤検知の低減につながると考えられるので、生体判定を行う毎に、生体判定後に生体であると判定された場合、その測定値S(f)を記憶部7に記憶させて、次回以降の基準値T(f)の算出に用いる測定値に加えていってもよい。その際、例えば、指紋認証と併用する場合、指紋認証で指紋が一致したと判定された後に生体検知装置1によって生体であるか否かの判定が行われると考えられるので、その指紋データに電磁波応答特性の測定値を紐づけして記憶部7に記憶させる等しておいてもよい。また、ここでは基準値T(f)は電磁波応答特性の測定値を平均値化したものを用いているが、それに限定されず、中央値等の他の統計値を用いてもよい。また、ここでは基準値T(f)の算出に、事前に測定しておいた被検体の検知対象部位の測定値を用いているが、検知対象部位以外の部位、例えば検知対象部位が右手人差し指であれば、その他の中指や薬指等の電磁波応答特性の測定値を用いてもよい。この場合は、記憶部7に基準値T(f)算出のための測定値を記憶させておかずに、CSRR−BPF2を複数配置して、検知対象部位の電磁波応答特性S(f)の測定と同時に、基準値T(f)に用いる非検知対象部位の電磁波応答特性を測定できるようにして基準値T(f)を算出するようにしてもよい。また、被検体とは異なる複数人の検知対象部位の電磁波応答特性を事前に測定して測定値を記憶部7に記憶させておき、それらの測定値を用いて基準値T(f)を算出してもよい。ただ、判別精度を向上させるためには、本実施形態のように同一被検体の同一検知対象部位の電磁波応答特性の測定値を用いて基準値T(f)を算出することが好ましい。
【0036】
評価値算出部81では、評価値として下記の式(1)で表される第1の評価値αを算出する。ここで、k(f)は式(2)で表される基準値T(f)と測定値S(f)の差を基準値T(f)の標準偏差σ(f)で割った一致性指数であり、w
v(k(f))は式(3)で表される一致性指数k(f)に応じた重み付けを行う重み関数であり、pは所定のしきい値であり、w
f(f)は周波数毎の重み付けを行う重み関数であり、f
Lは使用する周波数帯域における下限、f
Hは上限である。まず、式(2)及び式(3)によって一致性の重みw
v(k(f))が算出される。一致性の重み関数w
v(k(f))は0から1までの値をとり、1に近いほど測定値S(f)が基準値T(f)に近いことを示す関数であって、測定値S(f)と基準値T(f)との差が、基準値T(f)の標準偏差σ(f)のp倍の範囲内であれば、一致性があるとして一致性の重みw
v(k(f))=1とし、それを超えると一致性がないとしてw
v(k(f))=0とする。同一被検体の同一検知対象部位であっても電磁波応答特性の測定値は完全に一致することはなく、測定時の発汗状態等の被検体のコンディションや検知対象部位のCSRR−BPF2への近接のさせ方等によって一定の分散を持つ。従って、測定値S(f)が、基準値T(f)と同一の被検体の同一の検知対象部位によるものであったとしても、基準値T(f)から離れた値となることがあり、どの程度離れた範囲までの値を基準値T(f)と同一であるとみなすかを決めるのがしきい値pである。本実施形態においてはp=2.7を用いる。この値は、基準値T(f)の算出に用いる複数回の被検体の検知対象部位の電磁波応答特性の測定値が正規分布に従うとした場合、測定値S(f)が基準値T(f)と同一の被検体及び検知対象部位であれば、その測定値S(f)は99.3%の確率でw
v(k(f))=1となる範囲に入ることを意味する。このしきい値pの値は、大きくしすぎた場合は偽装物の測定値S(f)を基準値T(f)と一致しているとみなしてしまう確率が上がり、小さくしすぎた場合は生体の測定値S(f)を基準値T(f)と不一致であるとみなしてしまう確率が上がるので、p=2.0から3.0までの値にするのが好ましい。また、本実施形態では一致性の重み関数w
v(k(f))の算出に式(3)を用いたが、それに限らず想定される偽装物の種類や厚さ等によって適切に設定することで判別精度の向上を図ることができる。そして式(1)によって、一致性の重みw
v(k(f))に周波数毎の重みw
f(f)を乗じて使用する周波数帯域で相加平均した値を第1の評価値αとして算出する。ここで、周波数毎の重み付けを行う重み関数w
f(f)は、生体と偽装物とで電磁波応答特性の差異があまり見られない周波数帯において評価値に与える影響を軽減して偽装物による差異を強調するために用いられ、想定される偽装物の種類や厚さ等によって適切に設定することで判別精度の向上を図ることができる。w
f(f)は0から1までの値をとり、例えば、差異を強調したい周波数帯ではw
f(f)=1、差異が小さく評価値に対する影響を無くしたい周波数帯ではw
f(f)=0のようにすればよい。一致性の重み関数w
v(k(f))及び周波数毎の重み関数w
f(f)は共に0から1までの値をとる関数であるため、第1の評価値αも0から1までの値をとる評価値であり、1に近い値となるほど測定値S(f)が生体によるものである可能性が高いことを示す。
【0040】
一方、従来は特許文献1に記載されているように、評価値として類似度を算出して用いていた。類似度(Similarity)は、下記の式(5)によって算出される。ここでS(f)は測定部3で測定した電磁波応答特性の測定値、T(f)は基準値、f
Hは使用する周波数帯域の上限、f
Lは下限であり、上述の第1の評価値αで用いたものと同様である。S
norm(f)は、式(6)で表され、S
norm(f)の最小値と基準値T(f)の最小値が一致するように測定値S(f)を正規化した値であり、D
nは、式(7)で表され、測定値S(f)と基準値T(f)との使用する周波数帯域における最小値の差である。これらの式からも分かるように、類似度は、基準値T(f)の算出に用いる電磁波応答特性の測定値のばらつきが考慮されていないため、極めて薄い偽装物の場合、生体との差異が現れにくい評価値であった。それに対して本発明で算出する第1の評価値αは、上述のように、偽装物の添付がない生体の場合の電磁波応答特性の測定値のばらつきを許容し、一方で偽装物の添付がある場合の電磁波応答特性の測定値の変化を強調抽出する評価値となっているため、極めて薄い偽装物に対しても判別精度が向上している。
【0044】
また、評価値算出部81は、第1の評価値αに加えて、下記の式(4)で表される第2の評価値βを評価値として算出する。第2の評価値βは、特許文献1に記載のように従来評価値として用いられていた下記の式(8)で表される平均差(Mean Difference, MD)に周波数毎の重み関数w
f(f)を導入したものである。平均差は、測定値S(f)と基準値T(f)におけるグラフ曲線の差異を平均的に判定する評価値であり、0に近い値であるほど測定値S(f)は生体によるものである可能性が高く、大きな値であるほど測定値S(f)は偽装物によるものである可能性が高いことを示す。
【0047】
生体判定部82では、評価値算出部81で算出された第1の評価値αと、第2の評価値βとの2つの評価値に基づいて、検知対象部位が生体であるか否かの判定を行う。生体判定部82では、例えば、第1の評価値α及び第2の評価値βに対して、それぞれしきい値を設定しておき、それぞれのしきい値内に第1の評価値αと第2の評価値βが入っているか否かを判定することにより生体であるか否かを判定する。つまり、評価値算出部81で算出された第1の評価値αと第2の評価値βが共にしきい値内にある場合には、検知対象部位が生体であると判定し、それ以外の場合には、検知対象部位が生体でないと判定する。尚、第1の評価値αと第2の評価値βの一方だけを用いて生体判定を行うようにしてもよいが、より判別精度を向上させるためには、第1の評価値αと第2の評価値β等の2つの評価値を用いることが好ましい。
【0048】
以上が本実施形態に係る生体検知装置1による生体検知処理の流れであるが、以下、従来の特許文献1に記載の生体検知装置からの改良点である、本発明に係る生体検知装置1のCSRR−BPF2、及び評価値算出部81で算出する第1の評価値αと第2の評価値βによって、従来と比べてどれだけ判別精度が向上するか評価するための実験を行ったのでその結果を示す。
【0049】
まず、本発明に係るCSRRが2組同軸上に配置された構造を有するCSRR−BPF2についての実験結果を示す。本発明のCSRR−BPF2の構造は
図2及び
図3に示す通りである。従来のCSRRが2組直列に配置された構造を有するCSRR−BPFでは、検知対象部位の電磁波応答特性を測定する際に、直列に並んだ2組のCSRRの両方を検知対象部位で覆うようにしなければならなかったが、本発明に係るCSRR−BPF2では2組のCSRRが1か所に配置されているため、検知対象部位で覆いやすくなっている。また、上述したように、本発明の中心周波数を10GHzで設計したCSRRが2組同軸上に配置された構造を有するCSRR−BPF2(同軸型10GHzCSRR−BPF2)のCSRR部の寸法は4.8mm四方であるのに対して、従来の中心周波数を10GHzで設計したCSRRが2組直列に配置された構造を有するCSRR−BPF(直列型10GHzCSRR−BPF)では2組のCSRR部の端から端までの寸法は6.3mmであり、検知対象部位の載置領域は約24%の削減となった。
【0050】
また、本発明の同軸型10GHzCSRR−BPF2と従来の直列型10GHzCSRR−BPFの通過特性|S21|の測定結果を
図4に示す。実線が本発明の同軸型10GHzCSRR−BPF2の測定結果であり、帯域幅はおおよそ4GHz〜16GHzの12GHzである。点線が従来の直列型10GHzCSRR−BPFの測定結果であり、帯域幅はおおよそ8GHz〜12GHzの4GHzである。動作周波数帯が広域化していることが分かる。
【0051】
さらに、本発明の同軸型10GHzCSRR−BPF2及び従来の直列型10GHzCSRR−BPFを用いた生体検知実験の結果を
図5に示す。20名の被検体に対して、人体指として偽装物の添付のない右手人差し指を用いて1名につき10回ずつ測定し、偽装指として偽装物である人体指表面部の皮膚の電気定数を模擬した厚さ0.3mmの皮膚ファントムをシート状に加工したものを右手人差し指に貼り付けて1名につき5回ずつ測定した。ここで、評価値算出部81で算出する評価値には、従来の類似度と平均差を用いた。これは本発明によるCSRR−BPF2によってどれだけ判別精度が向上するかを従来のものと比較評価するためである。また基準値T(f)には全被検体の人体指の5回の測定値を平均化した値を用い、検知対象の測定値S(f)には基準値T(f)の算出に用いなかった5回の人体指の測定値と偽装指の測定値を使用した。また、
図4より本発明の同軸型10GHzCSRR−BPF2は16GHzにおいて通過特性|S21|が最小であったため、類似度の算出に使用する最小値を検索する周波数帯域を5〜16GHzとして計算した。本発明及び従来のどちらもCSRR−BPFの表面に厚さ0.2mmのポリプロピレンフィルムを配置して測定を行った。
図5(a)が本発明の同軸型10GHzCSRR−BPF2による結果であり、縦軸に類似度、横軸に平均差をとり、中抜きのプロットが人体指、黒塗りのプロットが偽装指を示す。
図5(b)が従来の直列型10GHzCSRR−BPFによる結果であり、縦軸に類似度、横軸に平均差をとり、中抜きのプロットが人体指、黒塗りのプロットが偽装指を示す。
図5を見ると、本発明の同軸型10GHzCSRR−BPF2の方が、従来の直列型10GHzCSRR−BPFよりも人体指と偽装指のプロットが分離されていることが分かるが、より定量的に評価を行うため、偽装物を生体と判定する割合(False Acceptance Rate, FAR)を0%とした際の生体を偽装物と判定する割合(False Rejection Rate, FRR)と、FRRを0%とした際のFARと、FARとFRRが等しくなる値(Equal Error Rate, EER)を用いて評価した。その結果を以下の表1に示す。ここで、FARを0%とした際のFRRというのは、測定に用いた偽装指を全て受け入れないしきい値を設けた際に、人体指が受け入れられない割合を示す。具体的には、偽装指の平均差の最小値及び類似度の最大値をしきい値とし、偽装指の平均値の最小値以下かつ類似度の最大値以上の領域に入らない人体指の割合である。また、FRRを0%とした際のFARというのは、測定に用いた人体指を全て受け入れるしきい値を設けた際に、偽装指を受け入れてしまう割合を示す。具体的には、人体指の平均差の最大値及び類似度の最小値をしきい値として、人体指の平均差の最大値以下かつ類似度の最小値以上の領域に入ってしまう偽装物の割合である。これらの指標は低ければ低いほど判別精度が高いことを示す。表1より、本発明による同軸型10GHzCSRR−BPF2の方が従来の直列型10GHzCSRR−BPFよりもFRR(FAR=0%)、FAR(FRR=0%)、EERの全てにおいて有意性のある結果が得られ、判別精度が向上していることが分かる。
【0053】
次に、本発明に係る評価値算出部81で算出する第1の評価値αを評価するための実験の結果を
図6に示す。ここでは本発明の第1の評価値αと、従来の評価値である類似度の比較を行い、第1の評価値αによってどれだけ判別精度が向上するか評価するため、CSRR−BPF2には従来と同様の直列型10GHzCSRR−BPFを用いた。第1の評価値αは上述のように式(1)から式(3)によって算出され、ここではしきい値pはp=2.7、周波数毎の重みw
f(f)は使用する周波数帯域全域においてw
f(f)=1とした。人体指に装着する偽装物としては、22.0mm×14.0mmの寸法に加工した0.5mm厚の皮膚ファントムを使用した。
図6(a)が本発明の第1の評価値αを用いた結果であり、縦軸に第1の評価値αを、横軸に平均差をとった。
図6(b)が従来の評価値である類似度を用いた結果であり、縦軸に類似度、横軸に平均差をとった。
図6の中抜きのプロットは人体指、黒塗りのプロットは偽装指を示す。
図6より、従来の評価値である類似度では、人体指はほぼ1に近い値であるのに対して、偽装指は最大値が0.988で、さらにほとんどが0.9以上の値になっているが、本発明の第1の評価値αでは、人体指はほぼ1に近い値であるのに対して、偽装指は最大値でも0.692となり、非常によく人体指と偽装指の区別が出来ており、判別精度が向上していることが分かる。
【0054】
次に、本発明に係る評価値算出部81で算出する第2の評価値βを評価するための実験の結果を
図7に示す。こちらもCSRR−BPF2には従来の直列型10GHzCSRR−BPFを用いて測定した。上述したように、第2の評価値βは式(4)によって算出され、従来の評価値である平均差に、周波数毎の重みw
f(f)を導入した評価値である。人体指に装着する偽装物としては、22.0mm×14.0mmの寸法に加工したシリコンゴムを使用した。特に0.1mm厚のシリコンゴムを偽装物として用いる場合は、通過特性|S21|の高域において人体指との差異が小さくなる。このため12GHz以下の周波数帯域での偽装物による差異を強調するために、12−16GHzにおいてw
f(f)=0とし、5−12GHzにおいてw
f(f)=1とした。
図7(a)が本発明の第2の評価値βを用いた結果であり、横軸に第2の評価値βを、縦軸には第1の評価値αをとった。
図7(b)が従来の評価値である平均差を用いた結果であり、横軸に平均差を、縦軸には第1の評価値αをとった。
図7を見ただけでは一見差異が分かりづらいので、定量的な評価を行うため、上述したFRRを0%とした際のFAR、及びFARを0%とした際のFRRを用いて評価した。その結果を以下の表2に示す。本発明による第2の評価値βを用いて適切な重みw
f(f)を導入することで、FRR(FAR=0%)が5.2%から1.7%まで改善し、判別精度が向上していることが分かる。
【0056】
以上より、本発明に係る生体検知装置1のCSRR−BPF2、及び評価値算出部81で算出する第1の評価値αと第2の評価値βの全てにおいてそれぞれが、従来の特許文献1に記載の生体検知装置で用いられていたものよりも判別精度の向上に寄与しており、本発明に係る生体検知装置1を用いることで判別精度の高い生体検知を行うことができる。
【0057】
尚、本発明の実施の形態は上述のものに限らず、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが出来る。