(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987389
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】RuCu固溶体ナノ粒子及びその製造方法並びに触媒
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20211213BHJP
C22C 5/04 20060101ALI20211213BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20211213BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20211213BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20211213BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20211213BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20211213BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20211213BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20211213BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20211213BHJP
【FI】
B22F1/00 K
C22C5/04
B22F1/00 C
C22C9/00
B22F1/00 L
B22F9/24 B
B22F9/24 E
B22F1/02 B
B01J37/18
B01J23/89 A
B01J37/04 102
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-503356(P2018-503356)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017008007
(87)【国際公開番号】WO2017150580
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-38761(P2016-38761)
(32)【優先日】2016年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「元素間融合技術の確立と理論予測に基づく固溶型ナノ合金の構築」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩和
(72)【発明者】
【氏名】黄 博
【審査官】
中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/045570(WO,A1)
【文献】
特開2015−034347(JP,A)
【文献】
特開2007−239053(JP,A)
【文献】
Maurizio LENARDA et al.,X-Ray diffraction and x-ray photoelectron spectroscopy study of Ru-Cu/SiO2 system prepared by low te,Journal of Materials Research,Vol.11, No.2,1996年02月,p.325-331
【文献】
MARTYNOVA et al.,Low temperature systhesis of Ru-Cu alloy nanoparticles with the compositions in the miscibility gap,Journal of Solid State Chemistry,2014年04月,Vol. 212,p. 42-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−9/30
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RuとCuが原子レベルで固溶化し、Ruを20〜80モル%、Cuを80〜20モル%含む、RuCu固溶体ナノ粒子。
【請求項2】
水素処理により還元された、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のRuCu固溶体ナノ粒子を構成要素として含む触媒。
【請求項4】
請求項3に記載の触媒を担体に担持してなる担持触媒。
【請求項5】
担体が酸化物類を含む担体である、請求項4に記載の担持触媒。
【請求項6】
排ガス浄化用触媒である、請求項4又は5に記載の担持触媒。
【請求項7】
下記の工程1〜2を含む、RuとCuが原子レベルで固溶化し、Ruを20〜80モル%、Cuを80〜20モル%含む、RuCu固溶体ナノ粒子の製造方法
工程1:150〜270℃の還元剤溶液を調製する工程
工程2:Ru化合物、Cu化合物を含む溶媒溶液を前記還元剤溶液に少量ずつ加える工程。
【請求項8】
さらに、以下の工程3を含む、請求項7に記載の方法
工程3:工程2で得られたRuCu固溶体ナノ粒子を水素処理する工程。
【請求項9】
前記還元剤溶液又は溶媒溶液に保護剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
Ruを52〜75モル%、Cuを48〜25モル%を含む、請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RuCu固溶体ナノ粒子及びその製造方法並びに触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素は自動車排ガス処理、水素化などの高機能触媒、あるいはメッキなどに使用されているが、産出量が少なく高価である。このため、白金族元素の使用量を低減しうる技術が求められている。また、環境規制が厳格化しているため、有害元素の使用量を低減しうる技術が求められている。元素間融合により電子構造を最適化した「人工元素」を作製することでこれらの問題を解決できるが、実用化するためには合成手法の確立が必要不可欠である。白金族元素であるRuは有機合成反応用の触媒をはじめとして、家庭用燃料電池エネファームでの一酸化炭素被毒触媒、アンモニア合成触媒、NOx等の排ガス浄化触媒、白金フリーな燃料電池電極触媒等、多岐にわたり利用されている極めて有用でかつ希少な触媒である。最近ではコンピュータやDVD用のハードディスク容量を増大させるためのメモリ材料としても利用されている。
【0003】
ルテニウム(Ru)と銅(Cu)は、合金状態図では液体の状態でも固溶しない(原子レベルで混じらない)合金系である。
【0004】
特許文献1〜3は、RuとCuの合金を例示しているが、RuとCuは液体の状態でも固溶しないので、その合金は固溶体ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-072981
【特許文献2】特開2013-049005
【特許文献3】WO2013/021944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規なRuCu固溶体ナノ粒子及びその製造方法並びに触媒を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Ru化合物とCu化合物を還元することによりRuCu固溶体ナノ粒子が得られることを見出した。本発明の好ましい1つの実施形態において、RuCu固溶体ナノ粒子は、RuとCuがいずれもfccの構造になる条件下で製造することができ、その場合には面心立方構造(fcc)を含むRuCu固溶体ナノ粒子が得られる。
【0008】
本発明は、以下のRuCu固溶体ナノ粒子及びその製造方法並びに触媒を提供するものである。
項1. RuとCuが原子レベルで固溶化した、RuCu固溶体ナノ粒子。
項2. Ruを5〜95モル%、Cuを95〜5モル%を含む、項1に記載のナノ粒子。
項3. Ruを20〜80モル%、Cuを80〜20モル%を含む、項1に記載のナノ粒子。
項4. 水素処理により還元された、項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子。
項5. 項1〜4のいずれか1項に記載のRuCu固溶体ナノ粒子を構成要素として含む触媒。
項6. 項5に記載の触媒を担体に担持してなる担持触媒。
項7. 担体が酸化物類を含む担体である、項6に記載の担持触媒。
項8. 排ガス浄化用触媒である、項6に記載の担持触媒。
項9. 下記の工程1〜2を含む、RuとCuが原子レベルで固溶化した、RuCu固溶体ナノ粒子の製造方法
工程1:150〜270℃の還元剤溶液を調製する工程
工程2:Ru化合物、Cu化合物を含む溶媒溶液を前記還元剤溶液に少量ずつ加える工程。
項10. さらに、以下の工程3を含む、項9に記載の方法
工程3:工程2で得られたRuCu固溶体ナノ粒子を水素処理する工程。
項11. 前記還元剤溶液又は溶媒溶液に保護剤を含む、項9に記載の方法。
項12. 前記保護剤がポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、セルロース誘導体及びアルギン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項11に記載の方法。
項13. 前記保護剤がポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(PVP)又はポリエチレングリコールである、項11に記載の方法。
項14. 前記還元剤がアルコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、水酸基が3個以上の多価アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項9に記載の方法。
項15. 前記還元剤が、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項9に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、RuCu固溶体ナノ粒子を液相中での化学的還元法により製造することができる。RuとCuが原子レベルで固溶化したRuCuに関する先行文献はなく新規な物質であり、自動車、化学、電池等エネルギー関連、CO酸化、水素化反応などの触媒として有用である。
【0010】
RuCu固溶体は、Rhと同様な性質を有することが期待され、Rhの使用量を低減することに役立つ。
【0011】
RuCu固溶体ナノ粒子の表面にある酸化物を水素処理により還元すると、触媒活性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】Ru
52Cu
48固溶体ナノ粒子のEDS分析結果
【
図4】Ru
41Cu
59固溶体ナノ粒子のEDS分析結果
【
図5】Ru
52Cu
48固溶体ナノ粒子の高分解能TEM像
【
図6】Ru
52Cu
48固溶体ナノ粒子の三元触媒(NO-CO-C
3H
6浄化反応)活性
【
図7】Ru
52Cu
48固溶体ナノ粒子のCO酸化触媒活性。Ru
52Cu
48固溶体ナノ粒子はfcc−Ruナノ粒子と同等の高いCO酸化活性を有し、Ruの48%がCuに置換されるため、触媒コストは半減する。
【
図8】前処理後のRu
52Cu
48固溶体ナノ粒子のCO酸化触媒活性。前処理されたRu
52Cu
48固溶体ナノ粒子は、fcc−Ruナノ粒子よりもさらに高いCO酸化活性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
RuCu固溶体ナノ粒子は、面心立方構造(fcc)から構成されてもよく、六方最密充填構造(hcp)から構成されてもよく、fccとhcpが混ざった結晶構造であってもよい。RuCu固溶体ナノ粒子の結晶構造におけるfccの比率は0%以上、0.1%以上、1%以上、3%以上、5%以上であってもよく、100%以下、99.9%以下、99%以下、97%以下、95%以下であってもよい。固溶体ナノ粒子の結晶構造におけるhcpの比率は0%以上、0.1%以上、1%以上、3%以上、5%以上であってもよく、100%以下、99.9%以下、99%以下、97%以下、95%以下であってもよい。本発明の好ましい1つの実施形態において、RuCu固溶体ナノ粒子はfccを含み、本発明の他の好ましい実施形態において、RuCu固溶体ナノ粒子はfccが主構造である。
【0014】
RuCuナノ粒子が固溶体であることは、粉末X線回折(XRPD)測定、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)観察、エネルギー分散型X線分光分析(EDS)などにより行うことができる。
【0015】
RuCu固溶体ナノ粒子が表面酸化されることがあるが、水素などを用いて還元処理すると、触媒活性を高めることができる。
【0016】
本発明の固溶体ナノ粒子において、RuとCuの割合は、例えばRuを5〜95モル%、Cuを95〜5モル%;好ましくはRuを10〜90モル%、Cuを90〜10モル%;より好ましくはRuを15〜85モル%、Cuを85〜15モル%;さらに好ましくはRuを20〜80モル%、Cuを80〜20モル%、特に好ましくはRuを25〜75モル%、Cuを75〜25モル%含む。
【0017】
本発明のナノ粒子の平均粒径は、1〜50nm程度、好ましくは1〜30nm程度、より好ましくは1〜20nm程度、さらに好ましくは1〜15nm程度、特に好ましくは1〜10nm程度、最も好ましくは1〜6nm程度である。平均粒径が小さいと触媒性能が高くなるために好ましい。固溶体ナノ粒子の平均粒径は、TEMなどの顕微鏡写真により確認することができる。固溶体ナノ粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円体状、ロッド状、柱状、リン片状など任意の形状であってよい。
【0018】
本発明のRuCu固溶体ナノ粒子は優れた性能を示す触媒として利用することができる。触媒として利用するにあたってのナノ粒子の形態に特に制限はないが、担体に担持した担持触媒としての利用が好ましい。使用する担体は特に制限はないが、具体的には酸化物類、窒化物類、炭化物類、単体炭素、単体金属などが担体として挙げられ、中でも酸化物類、単体炭素が好ましく、酸化物類が特に好ましい担体である。酸化物類としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、ニオビアなどの酸化物や、シリカ−アルミナ、チタニア−ジルコニア、セリア−ジルコニア、チタン酸ストロンチウムなどの複合酸化物などが挙げられる。単体炭素としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、活性炭素繊維などが挙げられる。窒化物類としては、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化タングステン、窒化モリブデン、窒化チタン、窒化ニオブが挙げられる。炭化物類としては、炭化ケイ素、炭化ガリウム、炭化インジウム、炭化アルミニウム、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化チタン、炭化ニオブ、炭化ホウ素が挙げられる。単体金属としては、鉄、銅、アルミニウムなどの純金属及びステンレスなどの合金が挙げられる。
【0019】
担体担持された固溶体ナノ粒子は、担体をRu化合物とCu化合物を含む溶液、及び/又は還元剤溶液に添加して反応を行うことにより調製することができる。
【0020】
RuCu固溶体ナノ粒子は、加熱した還元剤溶液にRu化合物、Cu化合物を溶媒中に含む溶液を滴下、噴霧などにより少量ずつ加えることで調製することができる。
【0021】
還元剤溶液の温度は150〜270℃程度、好ましくは170〜250℃程度、より好ましくは180〜230℃程度に加熱し、ここにRu化合物、Cu化合物、必要に応じてさらに保護剤を含む溶媒溶液を添加して反応させ、RuCu固溶体ナノ粒子を沈殿物として得ることができる。
【0022】
1つの好ましい実施形態において、本発明の面心立方構造(fcc)を含むRuCu固溶体ナノ粒子は、fccが主構造であり、fccの比率が50%超、好ましくは60%以上である。fcc以外の結晶構造は六方最密充填構造(hcp)が挙げられる。
【0023】
本明細書において、「RuとCuの固溶体が得られる条件」としては、液相中での化学的還元法が挙げられ、反応温度、還元剤の種類、Ru化合物とCu化合物の種類が挙げられる。
【0024】
還元剤としては、少なくとも1個の水酸基を有し、常圧での沸点が60℃〜300℃、好ましくは100〜270℃、より好ましくは150〜250℃の有機化合物が挙げられ、具体的にはアルコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、水酸基が3個以上の多価アルコールが挙げられる。常圧での沸点が150℃未満の還元剤を使用する場合は、加圧することで所定の反応温度にすることができる。
【0025】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどの炭素数1〜6のアルコールが挙げられる。
【0026】
アルキレングリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコールなどが挙げられる。
【0027】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
水酸基が3個以上の多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0029】
還元剤は反応温度では液体であるので、本明細書では還元剤を還元剤溶液と記載することがある。還元剤は、還元されるRuイオン,Cuイオンに対して1当量以上、好ましくは溶媒を兼ねて過剰量使用する。
【0030】
Ru化合物、Cu化合物を含む溶液の溶媒としては、還元剤を使用してもよく、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、グリコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)、ポリエーテル類(ポリエチレングリコールなど)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒を使用してもよい。Ru化合物、Cu化合物を含む溶媒溶液を一度に加熱した還元剤溶液と混合すると、RuとCuが分離した合金ナノ粒子が生じ得るので、Ru化合物、Cu化合物を含む溶媒溶液は、滴下、噴霧、或いは、ポンプなどを用いチューブ/注射器から一定速度で注入するなどの方法により少しずつ還元剤溶液に添加される。
【0031】
保護剤としては、ナノ粒子の表面を被覆することで凝集を防止するものであり、親水性基を有する有機ポリマーが挙げられ、例えばポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、セルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルカルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルカルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルカルボキシメチルセルロースなど)、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩などが挙げられる。
【0032】
Ru化合物としては、Ru(III)(アセチルアセトナート)
3、Ru(II)オクタノエート二量体、クロロノルボルナジエンRu(I)二量体、ジカルボニルアセチルアセトナートRu(I)などのルテニウム錯体、塩化ルテニウム三水和物(RuCl
3),塩化ルテニウムナトリウム(Na
3RuCl
6),塩化ルテニウム五アミン(III)([Ru(NH
3)
5Cl]Cl
2)などのルテニウム塩が挙げられる。
【0033】
Cu化合物としては、Cu(AcO)、Cu(AcO)
2、CuNO
3、Cu(NO
3)
2、CuCl、CuCl
2、CuSO
4,CuBr,CuBr
2,CuI、CuI
2などが挙げられる。Cuは1価、2価のいずれでもよい。
【0034】
Ru化合物、Cu化合物を含む溶媒溶液におけるRu化合物の濃度は、好ましくは0.01〜1000ミリモル/L、より好ましくは0.1〜50ミリモル/Lである。
【0035】
Ru化合物、Cu化合物を含む溶媒溶液におけるCu化合物の濃度は、好ましくは0.1〜1000ミリモル/L、より好ましくは0.1〜50ミリモル/Lである。
【0036】
本発明のRuCu固溶体ナノ粒子は、水添反応を含めた還元反応、脱水素反応、燃焼も含めた酸化反応、カップリング反応等の化学反応などの触媒として好適である。また、これらの触媒性能を利用することで様々なプロセスや装置等の用途に好適に利用することができる。好適に利用できる用途に特に制限は無いが、例えば、窒素酸化物(NOx)還元反応、一酸化炭素(CO)酸化反応、炭化水素酸化反応、VOC酸化反応などに対する触媒性能を利用する環境・排ガス浄化用途、水素酸化反応、酸素還元反応、水電解などに対する触媒性能を利用する電極用途、不飽和炭化水素類の水添反応や飽和・不飽和炭化水素類の脱水素反応などに対する触媒性能を利用する化学プロセス用途などが挙げられる。中でも特に、自動車、バイク、定常モーターなどの排ガス浄化(特に三元触媒)、水素燃料電池、VOC除去の各用途に、より好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0038】
実施例1〜7
以下の溶液Aと溶液Bを作製した。
【0039】
なお、acacはアセチルアセトネートである。
溶液A:
ポリビニルピロリドン(PVP) 880mg、8mmol
ジエチレングリコール(DEG) 300ml(液体窒素で三回脱気した)
上記2成分を混合し、230℃に加熱した。
溶液B
Ru(acac)
3 717.1mg 1.8mmol(MW398.4)
Cu(OAc)
2・H
2O 439.3mg 2.2mmol(MW199.7)
DEG 30ml
【0040】
窒素気流下、溶液Bを溶液Aに6分間かけて滴下した。溶液Aの温度は230℃に維持した。溶液Bを添加後、直ちに氷浴で冷却し、生じた沈殿を遠心分離で集めた。仕込み比(モル比)はRu:Cu=45:55であるが、得られた固溶体ナノ粒子の組成比はRu
52Cu
48(実施例1)であった。この固溶体ナノ粒子の組成比は、XRDパターンのフィッティングにより格子定数aを算出し、ベガーズ則(a
RuCu= xa
Ru+(100-x)a
Cu)が成り立つと仮定した上で求めた。
【0041】
Ru(acac)
3 とCu(OAc)
2・H
2Oの仕込みのモル比を変えて、上記と同様にしてRu:Cu=33:67(実施例2)、38:62(実施例3)、41:59(実施例4)、55:45(実施例5)、66:34(実施例6)、75:25(実施例7)の固溶体ナノ粒子を得た。この時の仕込み比(モル比)はRu:Cu=30:70(実施例2)、35:65(実施例3)、40:60(実施例4)、60:40(実施例5)、70:30(実施例6)、80:20(実施例7)であった。
【0042】
得られた生成物(RuCu固溶体ナノ粒子))の粉末X線回折パターンをBruker製D8 ADVANCEを用いて測定した。X線としてCuKα線を用いた(
図1)。純粋なfccRu(格子定数 0.38239 nm)と純粋なCu(格子定数 0.36152 nm)の中間に相当する単一の回折パターン(格子定数 0.37282 nm)が観測されたことから、RuとCuが均一に混合した合金粒子が形成されたことが確認された。日立ハイテクノロジーズ製HT7700により観測した生成物の透過型電子顕微鏡(TEM)像を
図2に示す。観測された粒子径の平均値は9.1±1.7nmであった。さらに、得られたRu
52Cu
48固溶体ナノ粒子、Ru
41Cu
59固溶体ナノ粒子のHAADF−STEM−EDS画像及びラインスキャンの結果を
図3、
図4に示す。粉末X線回折パターンのリートベルト解析により、fccが主構造であることがわかった(
図1)。さらに、高分解能TEM像により、fcc構造の111面に対応する格子縞が観察された(
図5)。実施例1で得られたRu
52Cu
48固溶体ナノ粒子の結晶構造は、fccが91.2%、hcpが8.8%であった。
【0043】
HAADF:High Angle Annular Dark Field
STEM:Scanning Transmission Electron Microscopy
EDS:Energy-Dispersive-Spectroscopy
【0044】
試験例1:三元触媒としての触媒活性
実施例1で得られたfcc-Ru
52Cu
48固溶体ナノ粒子(平均粒径9.2±2.5nm)を触媒として用いて、窒素酸化物(NOx)の還元反応、一酸化炭素(CO)の酸化反応に対する触媒活性および炭化水素(C
3H
6)の酸化反応に対する触媒活性を同時に評価した。また、比較のために、公知の触媒であるfcc-Ru/Al
2O
3 (平均粒径7.7±1.4nm)を比較のために使用した。
【0045】
三元触媒としての触媒活性の評価は、固定床流通式の反応装置を用いて行った。具体的には、まず、ペレット状にした触媒200mgを内径7mmの石英製反応管に石英ウールを用いて充填した。この反応管を装置に接続したのち、自動車の排気ガスを模擬した理論空燃比のN
2ベース混合ガス(NO:500ppm、O
2:4050ppm、CO:5000ppm、C
3H
6:400ppm、He:バランスガス)を空間速度が60リットル/(h・g
cat)(総流量 200ml/min)となるように流量を調節して供給した。混合ガスの供給開始時における触媒層の温度は室温であった。混合ガスの供給開始から10℃/minの昇温速度で触媒層の温度を室温から600℃まで上昇させながら、マルチガス分析計(堀場製作所社製 VA−3000)を用い、採取したガスに含まれたNO
x、COおよびC
3H
6の濃度を30秒に1点の間隔で連続して測定した。耐久性評価は600℃まで測定した後、放冷し室温に戻したのち、同様の方法で600℃まで測定することを繰り返し行った。測定結果を
図6に示す。
【0046】
また、触媒量を150mg、反応ガスCO/O
2/N
2=0.5/0.5/49(cc/min)、反応温度を110℃から10℃/minで昇温させてCO酸化反応を行った。結果を
図7に示す。本発明のfcc-RuCuは公知のfcc-Ruと同等の高いCO酸化活性を有し、触媒コストを半減できることが明らかになった。
【0047】
さらに、表面の酸化物を除去するため、本発明のfcc-RuCuおよび公知のfcc-Ruの両サンプルに1気圧の水素ガスを30分間フローする前処理を行い、触媒評価を行うと公知のfcc-Ruに比べて格段に性能が高くなることが分かった(
図8)。