(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6987419
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】製鋼方法
(51)【国際特許分類】
C21B 15/00 20060101AFI20211220BHJP
C22B 5/16 20060101ALI20211220BHJP
C22B 1/08 20060101ALI20211220BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20211220BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20211220BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20211220BHJP
C22B 5/12 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
C21B15/00
C22B5/16
C22B1/08
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/22
C22B5/12
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2021-119239(P2021-119239)
(22)【出願日】2021年7月20日
【審査請求日】2021年7月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保 裕也
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2016/0102375(US,A1)
【文献】
特開昭48−081719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 15/00
C22B 1/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアガス、及び塩化水素ガスを含む混合ガスを雰囲気ガスとして、鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程と、
前記反応生成物を所定の温度で加熱し、揮発物と残留物とに分離する工程と、を備える
製鋼方法。
【請求項2】
前記鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程は、
前記鉄鉱石に粉末状の塩化アンモニウムを混合して混合物を生成する工程と、
該混合物を所定の温度で加熱する工程と、を有する
請求項1に記載の製鋼方法。
【請求項3】
前記鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程は、
前記鉄鉱石と粉末状の塩化アンモニウムとを所定の温度で加熱する工程を有する
請求項1に記載の製鋼方法。
【請求項4】
前記混合ガスの雰囲気温度が300℃〜500℃である
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の製鋼方法。
【請求項5】
前記鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程により得られた前記揮発物を、水素またはアンモニアを還元剤として還元処理する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の製鋼方法。
【請求項6】
前記反応生成物を所定の温度で加熱し、揮発物と残留物とに分離する工程は、
前記反応生成物を800℃以上の加熱温度で加熱する工程を有する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の製鋼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼方法に関する。詳しくは、省エネルギーかつ簡易な方法により、鉄鉱石から鉄鋼を効率的に製造することができる製鋼方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼の製造は、鉄鉱石を原材料として高炉、転炉を使用する方法、或いは鉄くずなどスクラップを原材料とする電気炉による方法がある。このうち我が国においては、高炉、転炉による鉄鋼の生産量が全体の約7割を占めている。
【0003】
高炉、転炉を用いて鉄鉱石から鉄鋼を生産する工程においては、まず、高炉の炉頂から金属材料となる鉄鉱石と、還元剤となるコークスを交互に入れ、高炉羽口から熱源としての微粉炭と酸素を吹き込む。酸素を吹き込んだ部分では燃焼による酸化反応が起こり、この熱で高炉内の温度が上昇することで鉄鉱石が溶融し、銑鉄が生成される。その後、転炉において銑鉄から酸素、及び不純物を除去することで純鉄が得られる。
【0004】
従来の高炉、転炉を用いた製鋼方法では、炭素を大量に含むコークスを必要とすることから、一酸化炭素や二酸化炭素の発生量が大きくなる。鉄鋼生産に伴って排出される二酸化炭素は地球温暖化の原因にもなるため、鉄鋼生産におけるエネルギーの低減、及び二酸化炭素排出量の削減は鉄鋼業界において喫緊の課題となっている。
【0005】
以上のような課題について、例えば特許文献1には、高炉におけるコークスの還元材比を削減するために、LNGなどの炭化水素系ガスを吹き込む高炉の操業方法が開示されている。特許文献1によれば、LNGを利用することで、鉄鋼の生産工程で使用するコークスを削減でき、間接的に高炉で発生する二酸化炭素の排出量を低減することができるものとなっている。
【0006】
また、特許文献2には、建設現場等で発生する木材の廃棄物やバイオマスをコークスの補助燃料として高炉の羽口から吹き込み、コークスの使用量の削減を図る技術が開示されている。化石燃料であるコークスの代用として、或いはその一部としてバイオマスを用いることができ、これによりコークスの使用量の削減を図ることができるため、特許文献1と同様に高炉における二酸化炭素の排出量を低減することができるとともに、バイオマスを高炉のエネルギー源として使用することで資源の有効活用を図ることができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−233332号公報
【特許文献2】特開2004−183005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した特許文献1に開示がされているように、コークスの代用としてLNGを使用することで、製鋼工程において排出される二酸化炭素量は低減できるが、LNGは長期備蓄が困難であるとともに、製造や輸送に多大なコストとエネルギーが必要となる。従って、LNGの調達・輸送・保管に際して排出される二酸化炭素の排出量を考慮すると、必ずしもコークスの代用となり得るものではない。
【0009】
また、特許文献2の技術では、バイオマスは含水率が高く、かつ発熱量が低いため、バイオマスが配合された混合物は発熱量が低下するおそれがある。また、バイオマスは酸素を含有しており、バイオマスを加熱すると、水や二酸化炭素が発生する。高炉内では、この水や二酸化炭素がコークスと反応して、化石燃料由来の二酸化炭素が発生し、さらにはコークスの使用量が増大してしまことも懸念される。従って、現状においてはバイオマスを高炉のエネルギー源として利用するには、技術的に未だ確立されていないというのが実情である。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、省エネルギーかつ簡易な方法により、鉄鉱石から鉄鋼を効率的に製造することができる製鋼方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明の製鋼方法は、アンモニアガス、及び塩化水素ガスを含む混合ガスを雰囲気ガスとして、鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程を備える。
【0012】
以上のように、アンモニアガスと塩化水素ガスとを含む混合ガスを雰囲気ガスとして鉄鉱石と反応させることで、鉄鉱石に含まれる一部の成分(例えば鉄、マグネシウム、マンガン)は混合ガスと選択的に反応して塩になり、それ以外の成分(例えばアルミナ、二酸化ケイ素、リン)は反応せずに酸化物の状態が維持される。このうち、混合ガスとの反応により生成された塩化物は低温揮発性、易溶解性のため、揮発、及び水溶液浸出により鉄鉱石に含まれる各成分を選択分離することが可能となる。
【0013】
即ち、鉄鉱石と混合ガスとの反応により、鉄鉱石を構成する成分から鉄のみを選択的に低温で揮発させ、純度の高い鉄を揮発物として効率的に回収することができる。従って、従前の製鋼工程のように、融点降下による鉄鉱石の溶融、或いは溶銑からの不純物を除去する目的で使用する副原料である石灰(CaO)の使用量を大幅に削減することができるため、製鋼工程を簡素化することができるとともに、製鋼工程で発生する二酸化炭素の排出量を大幅に低減することが可能となる。
【0014】
また、鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程は、鉄鉱石に粉末状の塩化アンモニウムを混合して混合物を生成する工程と混合物を所定の温度で加熱する工程とを有する場合には、熱分解(NH
4Cl→HCl+NH
3)で発生する塩化水素ガスの温度は300℃以上となり高い反応活性があるため、鉄鉱石に含まれる酸化物のうち鉄が低温揮発性の塩化物(沸点略300℃)となって揮発し、その他の所定の成分は塩化アンモニウムと迅速に反応し、易溶解性の塩化物に変化させることができる。
【0015】
また、鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離する工程は、鉄鉱石と粉末状の塩化アンモニウムとを所定の温度で加熱する工程を有する場合には、前記の通り、熱分解(NH
4Cl→HCl+NH
3)で発生する塩化水素ガスの温度は300℃以上となり高い反応活性があるため、鉄鉱石に含まれる酸化物のうち鉄が低温揮発性の塩化物(沸点略300℃)となって揮発する。さらに、その他の酸化物であるマグネシウムやマンガンは塩化アンモニウムと迅速に反応し、易溶解性の塩化物に変化させることができる。
【0016】
また、混合ガスの雰囲気温度が300℃〜500℃である場合には、鉄鉱石に含まれる酸化物のうち鉄、マグネシウム、及びマンガンは混合ガスと迅速に反応して塩化物となり、それ以外の成分(例えばアルミナ、二酸化ケイ素、リン)は酸化物の状態が維持される。このうち低温揮発性となっている鉄は揮発が促進され、マグネシウムやマンガンは易溶解性の反応生成物となる。さらに、混合ガスによる反応後の反応生成物を水溶液浸出することで、例えば鉄鉱石の成分のうち、混合ガスとの反応で易溶解性となっているマグネシウム、マンガン、及びリンの一部は浸出液として回収され、その他の成分であるアルミナ、二酸化ケイ素、或いはリンの一部は残渣として回収することができる。
【0017】
なお、混合ガスの雰囲気温度が300℃未満の温度領域である場合には、混合ガスによる反応が促進されないため、鉄鉱石に含まれる鉄が完全に揮発せず、鉄鉱石からの鉄の回収率が悪化する虞がある。また、鉄以外の酸化物であるマグネシウムやマンガンについても混合ガスとの反応が促進されないため易溶解性の塩化物に変化し難くなり、反応生成物から各成分を選択的に分離することができない虞がある。
【0018】
また、混合ガスの雰囲気温度が500℃よりも高い温度領域である場合には、混合ガスに含まれるアンモニアガスが熱分解により水素ガスと窒素ガスとに分解される。このとき、塩化水素ガスの存在下において水素ガスが還元剤となり、酸化物は塩化物に変化するものと推定されが、その場合、アンモニアガスの存在下における低温反応のメリットを享受することができない。また、未反応のアンモニアガス、及び塩化水素ガスは固体の塩化アンモニウムとして再利用することができるが、仮にアンモニアガスの代替として水素ガスを還元剤として使用する場合には、水素ガスは回収が困難であり再利用に不向きである。従って、低温反応、及び反応剤の再利用による処理コストの低減という観点からも、混合ガスの雰囲気温度としてはアンモニアガスが熱分解しない程度の上限温度(約500℃)に抑制することが好ましい。
【0019】
また揮発物を、水素またはアンモニアを還元剤として還元処理する場合には、揮発により塩化物となって回収された鉄を還元することで、純度の高い鉄鋼を得ることができる。
【0020】
また、反応生成物を水溶液で浸出し、浸出液と残渣に固液分離する工程を有する場合には、鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分のうち、アルミナ、二酸化ケイ素、或いはリンの一部は残渣となり、それ以外の易溶解性の塩化物であるマンガン、マグネシウム、或いはリンの一部は浸出液として固液分離することができる。これにより、鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分をさらに選択的に分離して回収することが可能となる。
【0021】
また、反応生成物を800℃以上の加熱温度で加熱し、揮発物と残留物とに分離する工程を有する場合には、反応生成物のうち低温揮発性のマンガンやマグネシウムを揮発物として回収し、それ以外の主な成分であるアルミナ、二酸化ケイ素、或いはリンを残留物として回収することができる。
【0022】
即ち、鉄鉱石を混合ガスと反応させることで、鉄鉱石からは鉄が揮発した残留物である反応生成物が生成される。係る反応生成物を構成する主な酸化物であるマグネシウムやマンガンは混合ガスと反応して塩になることで、易溶解性かつ低温揮発性の塩化物となる。そして反応生成物をさらに800℃以上の加熱温度で加熱することで、これら塩化物は容易に揮発するため揮発物として回収することができる一方で、反応生成物を構成する他の成分(アルミナ、二酸化ケイ素、リン)は残留物として回収することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る製鋼方法は、省エネルギーかつ簡易な方法により、鉄鉱石から鉄鋼を効率的に製造することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る製鋼方法の工程図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る製鋼方法の工程図である。
【
図4】実施例において、混合ガスによる反応後の試験管内の状態を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る製鋼方法について図面等を用いて詳細に説明し、本発明の理解に供する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態に係る製鋼方法の工程図を示す。製鋼方法においては、鉄鉱石と粉末状の塩化アンモニウムを混合し(工程1)、混合物を加熱処理することでアンモニアガスと塩化水素ガスを含む混合ガスを生成し(工程2)、混合ガスを雰囲気ガスとして鉄鉱石を揮発物と反応生成物とに分離し(工程3)、揮発物を還元処理し(工程4)、反応生成物を水溶液浸出により浸出液と残渣に固液分離する(工程5)、一連の工程から主に構成されている。
【0027】
ここで、必ずしも、工程1においては鉄鉱石と塩化アンモニウムを混合する必要はない。例えば、鉄鉱石の近傍に粉末状の塩化アンモニウムを配置し、該塩化アンモニウムを加熱することにより発生した混合ガスを雰囲気ガスとしてもよい。さらにはアンモニアガスと塩化水素ガスを事前に準備しておき、所定の温度に昇温させた状態で外部から鉄鉱石のある反応炉に供給するようにしてもよい。
【0028】
工程2における混合ガスを生成する際の温度条件としては、混合ガスの雰囲気温度が300℃〜500℃の範囲となるように調整する。塩化アンモニウム(NH
4Cl)は加熱により所定温度以上になると、(式1)の熱分解によってアンモニアガス(NH
3)と塩化水素ガス(HCl)が生成される。この反応によって生成される塩化水素ガスは約300℃以上に昇温することができるため、反応性が非常に高くなる。
NH
4Cl→NH
3↑+HCl↑ (式1)
【0029】
鉄鉱石は主にFe
2O
3、MnO、MgO、Al
2O
3、SiO
2、P
2O
5等の酸化物から構成されている。工程3において、鉄鉱石が300℃〜500℃に温度調整された混合ガスに曝されると、前記した鉄鉱石の成分のうち、まずFe
2O
3が低温揮発性(沸点略300℃)の塩化物(FeCl
3)となり揮発しはじめる。
【0030】
そして、鉄鉱石はFeCl
3からなる揮発物と、その他の成分からなる反応生成物に分離される。そして反応生成物のうち、一部の酸化物(MnO、MgO)は混合ガスと選択的に反応し、易溶解性の塩化物(NH
4MnCl
3、NH
4MgCl
3)に変化する。一方、その他の酸化物(Al
2O
3、SiO
2、P
2O
5)については、その大半が混合ガスと反応せずに難溶解性の酸化物のまま存在する。
【0031】
なお、混合ガスの雰囲気温度は前記の通り300℃〜500℃の温度領域が適切となるが、例えば混合ガスの雰囲気温度として300℃未満となる場合には、(式1)の熱分解が生じないため、混合ガスによる反応が促進されない。そのため工程3において鉄鉱石に含まれる鉄が完全に揮発せず、鉄の回収率が悪化する虞がある。また、反応生成物を構成する成分のうち、マグネシウムやマンガンについても混合ガスとの反応が促進されないため、易溶解性の塩化物に変化し難くなり、反応生成物から各成分を選択的に分離することができない虞がある。
【0032】
また、混合ガスの温度領域が500℃よりも高い場合には、混合ガスに含まれるアンモニアガスが熱分解により水素ガスと窒素ガスに分解される。このとき、塩化水素ガスの存在下において水素ガスが還元剤となり、酸化物は塩化物に変化するものと推定されるが、その場合アンモニアガスの存在下における低温反応のメリットを享受することができない。また、未反応のアンモニアガス、及び塩化水素ガスは固体の塩化アンモニウムとして再利用することができるが、仮にアンモニアガスの代替として水素ガスを還元剤として使用する場合には、水素ガスは回収が困難であり再利用に不向きである。従って、低温反応、及び反応剤の再利用による処理コストの低減という観点からも、混合ガスの雰囲気温度としてはアンモニアガスが熱分解しない程度の上限温度(約500℃)に抑制する必要がある。
【0033】
工程4においては、工程3で揮発物として回収したFeCl
3を還元剤により還元処理することで、純度の高い鉄(鉄鋼)を得ることができる。ここで、工程4においては、還元剤としては水素(H
2)、又はアンモニア(NH
3)を使用して、以下の(式2)、(式3)の反応式に基づいて還元処理される。
FeCl
3(s)+3/2H
2(g)=Fe(s)+3HCl(g) (式2)
FeCl
3(s)+NH
3=Fe(s)+3HCl(g)+1/2N
2(g) (式3)
【0034】
なお、還元処理の方法としては、前記したものに限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、FeCl
3を一旦純粋なFe
2O
2に酸化した後に、水素(H
2)、又はアンモニア(NH
3)を使用して還元するようにしてもよい。
【0035】
還元処理に用いる還元剤の使用量としては、被還元物であるFeCl
3に対して略1〜1.5倍の還元剤を投入することが好ましく、また還元処理の反応温度としては、水素による還元の場合が略500℃以上、アンモニアによる還元の場合が略650℃以上で還元反応が促進されると考えられる。但し、これらの反応条件は一例であり、これらの条件に限定されるものではなく、反応条件については適宜変更できるものとする。
【0036】
工程5においては、工程3で得られた反応生成物を水溶液により浸出して浸出液と残渣に分離する。なお、水溶液浸出において使用する水溶液としては特に限定されるものではないが、例えば水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、或いは薄い酸(塩酸または硝酸)等から適宜選択することができるものとする。
【0037】
反応生成物は、鉄成分が揮発した残留物であり、MnO、MgO、Al
2O
3、SiO
2、P
2O
5から構成される。このうち、MnO、MgOは前記した通り混合ガスとの反応により易溶解性の塩化物(NH
4MnCl
3、NH
4MgCl
3)に変化するが、残余の成分のうちAl
2O
3、SiO
2は混合ガスとの反応が起こらず、難溶解性の酸化物の状態が維持される。そのため、反応生成物を水溶液で浸出することにより、反応生成物はMnO、MgOから構成される浸出液と、Al
2O
3、SiO
2から構成される残渣に分離することができる。
【0038】
なお、反応生成物中のP
2O
5は鉄鉱石中における形態によっては、難溶解性物質、或いは易溶解性物質の何れの形態ともなり得る。そのため、水溶液浸出をした場合に、難溶解性物質の場合には残渣に含まれ、易溶解性物質の場合には浸出液中に含まれることになる。
【0039】
工程5により得られた成分のうち、マンガンは不純物が除去されており、浸出液からマンガンのみを抽出することで、純度の高いマンガンを得ることができる。抽出されたマンガンは、例えばフェロマンガンとして製鋼工程における副原料として使用することができるため、マンガンの有効活用を図ることができる。
【0040】
また、工程5により得られた成分のうち、アルミナや二酸化ケイ素についても不純物が除去されており、残渣はそのまま土木資材等として使用することで、資源の有効活用を図ることができる。
【0041】
さらに、工程5により得られた成分のうち、残渣中のリンは、例えば高濃度の酸(pH1前後)を用いて浸出させることで、不純物の少ないリン酸水溶液を得ることができる。また、残渣中の固体であるリンをそのまま肥料として使用することや、或いは高温還元のうえ黄リンを製造し、様々な用途に使用することが可能である。
【0042】
[第2の実施形態]
次に本発明の第2の実施形態について説明する。
図2は本発明の第2の実施形態に係る製鋼方法の工程図を示す。第2の実施形態においては、工程1から工程4までは第1の実施形態と共通し、工程5のみが異なる。即ち、第1の実施形態においては、工程3で得られた反応生成物を水溶液浸出することで、鉄鉱石のうち反応生成物を残渣と浸出液とに分離した。一方、第2の実施形態においては、反応生成物を所定の加熱温度(例えば800℃以上)で高温加熱することで、反応生成物に含まれる成分を揮発物と残留物に分離する構成となっている。
【0043】
工程3において鉄鉱石を混合ガスと反応させることで、前記の通り、FeCl
3からなる揮発物と、その他の成分からなる反応生成物に分離される。そして反応生成物のうち、主な酸化物(MnO、MgO)は混合ガスと選択的に反応し、塩化物(NH
4MnCl
3、NH
4MgCl
3)に変化する。一方、その他の酸化物(Al
2O
3、SiO
2、P
2O
5)については混合ガスと反応せずに難溶解性の酸化物のまま存在する。
【0044】
このうち塩化物(NH
4MnCl
3、NH
4MgCl
3)については、易溶解性であるとともに低温揮発性となっているため、反応生成物をさらに800℃以上の加熱温度で加熱することで、これら塩化物は容易に揮発し、塩化物からマンガン、及びマグネシウムを揮発物として回収することができる。一方で、反応生成物を構成する他の成分(アルミナ、二酸化ケイ素、リン)は残留物として回収することができる。
【0045】
なお、加熱温度が800℃未満の場合には、反応生成物に含まれる塩化物の揮発が促進されず、加熱後の残留物に多くの不純物(塩化物)が残存する虞がある。また、加熱温度の上限値は、加熱処理のコストを考慮して適宜変更することができる。
【0046】
ここで、工程5における反応生成物の加熱工程においては、例えば粉末状の塩化アンモニウムを追加投入するようにしてもよい。工程3における反応により、鉄鉱石の成分のうち鉄、マンガン、及びマグネシウムの各成分は塩化物に変化しているため、反応生成物をそのまま高温加熱することで反応生成物に含まれる塩化物は容易に揮発させることができると推定される。一方で、塩化アンモニウムをさらに追加投入することで、未反応物の反応促進を図ることが期待できるとともに、アンモニアが還元剤として作用することで、反応生成物中の塩化物が酸化物に戻ることを抑制する効果も期待できる。
【0047】
次に、本発明の実施例について説明する。
図3は実験設備を模式的に示した図である。実験に供したサンプルとして、粉末状の鉄鉱石0.2g、反応剤として粉末状の塩化アンモニウム2.0gを準備し、それぞれ混合した状態(以下、鉄鉱石と塩化アンモニウムを混合したものを「混合物」という。)で試験管に投入した。
【0048】
図3に示すように、試験管は縦長の円筒型空洞状に形成された石英管内に収容され、係る石英管を筒状の電気管状炉の内部にセットして加熱を開始した。加熱は試験管内に窒素(又は空気)を送り込みながら混合物が設置されている底部を約10分間加熱した。
【0049】
図4はサンプルの加熱終了後の様子を示す外観写真である。加熱により試験管の内面には、再析出した塩化アンモニウムや揮発した塩化鉄が付着している様子が確認できる。
【0050】
加熱後、試験管内に約40mlのイオン交換水を注入しながら揮発物と反応生成物を回収した。このうち、揮発物は水だけでは完全に溶解しなかったため、少量の塩化水素(HCl)を入れることで、その全量が容易に溶解した。また、反応生成物は水溶液で浸出させることで浸出液と残渣に分離することができた。
【0051】
揮発物の溶解液と、反応生成物を水溶液浸出させた浸出液をそれぞれICP発光分光装置により各金属成分のイオン濃度を測定した。
【0053】
表1に示すように、揮発物には鉄以外の不純物は含まれておらず、揮発物から高純度な鉄を回収できることが確認できた。また、浸出液中にはマンガンやリンが溶解していることからも、浸出液から一定量のマンガンやリンを回収することも確認できた。なお、以上の実施例においては鉄の揮発が不十分である可能性もあるが、条件(例えば混合する塩化アンモニウム量)によってはさらに鉄の揮発を促進することができるものと考えられる。
【0054】
以上、本発明に係る製鋼方法は、省エネルギーかつ簡易な方法により、鉄鉱石から鉄鋼を効率的に製造することができる。
【要約】
【課題】省エネルギーかつ簡易な方法により、鉄鉱石から鉄鋼を効率的に製造することができる製鋼方法を提供することを目的とする。
【解決手段】粉末状の塩化アンモニウムを加熱処理して得られたアンモニアガスと塩化水素ガスとを含む混合ガスを雰囲気ガスとして鉄鉱石に反応させると、鉄鉱石に含まれる酸化物成分のうち鉄、マンガン、及びマグネシウムが混合ガスと反応して低温揮発性、及び易溶解性の塩化物になる。このうち、最も沸点の低い鉄は、混合ガスとの反応により容易に揮発する。鉄の揮発により得られた揮発物を回収して還元処理することで、鉄鉱石から純度の高い鉄を容易に回収することができる。
【選択図】
図1