(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザ発振器の励起開始からレーザパルスの立ち上がりまでの経過時間であるビルドアップ時間と、レーザパルスのパルスエネルギによって決まるパルスエネルギ依存物理量との正常な対応関係を記憶する記憶部と、
評価対象のレーザ発振器の励起開始時点を示す情報、及び前記評価対象のレーザ発振器から出力されたレーザパルスの光強度の時間変化の測定結果を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部で取得された情報に基づいて、前記ビルドアップ時間及び前記パルスエネルギ依存物理量を算出し、前記ビルドアップ時間の算出値と前記パルスエネルギ依存物理量の算出値とを、前記記憶部に記憶されている前記正常な対応関係と比較して、前記評価対象のレーザ発振器の動作の正常性を判定する判定部と
を有する評価装置。
前記判定部は、前記ビルドアップ時間の算出値と前記パルスエネルギ依存物理量の算出値との対応関係が、前記記憶部に記憶されている前記正常な対応関係に含まれないとき、警報を発出する請求項1に記載の評価装置。
前記記憶部に記憶されている前記正常な対応関係、及び前記ビルドアップ時間の算出値と前記パルスエネルギ依存物理量の算出値との対応関係を表示装置に表示させる表示制御部を、さらに有する請求項1または2に記載の評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1〜
図6を参照して、実施例によるレーザ装置の評価装置及び評価方法について説明する。
図1は、実施例による評価装置を組み込んだ評価対象のレーザ装置の概略図である。レーザ発振器10が、制御装置20から発振指令信号S0を受けてパルスレーザビームを出力する。レーザ発振器10として、種々のパルスレーザ発振器、例えば、パルス発振する炭酸ガスレーザ発振器を用いることができる。レーザ発振器10は、光共振器、放電電極、放電電極駆動回路等を含む。
【0012】
レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームが、第1光学系11を通過し、ベンディングミラー12で反射され、第2光学系13を通過して、ステージ14に保持された加工対象物15に入射する。加工対象物15は、例えばプリント配線基板であり、パルスレーザビームによって穴明け加工が行われる。
【0013】
ベンディングミラー12に入射したパルスレーザビームの一部はベンディングミラー12を透過して光検出器21に入射する。光検出器21は、入射したレーザパルスを検出し、レーザパルスの光強度に応じた電気信号である検出信号S1を出力する。光検出器21として、パルス波形の変化に追従することが可能な応答速度を持つ赤外線センサ、例えばテルル化カドミウム水銀センサ(MCTセンサ)等を用いることができる。
【0014】
第1光学系11は、ビームエキスパンダ、非球面レンズ、アパーチャ等を含む。ビームエキスパンダは、レーザビームのビーム径及び広がり角を変化させる。非球面レンズは、ビームプロファイルをガウシアン形状からトップフラット形状に変化させる。アパーチャは、ビーム断面形状を整形する。
【0015】
第2光学系13は、ビーム走査器、fθレンズ等を含む。ビーム走査器は、例えば一対のガルバノミラーを含み、制御装置20からの指令によりレーザビームを二次元方向に走査する。fθレンズは、ビーム走査器で走査されたレーザビームを加工対象物15の表面に集光する。なお、アパーチャの位置を加工対象物15の表面に縮小投影する構成としてもよい。
【0016】
ステージ14は、水平な保持面に加工対象物15を保持し、加工対象物15を水平面内の二方向に移動させることができる。制御装置20が、ステージ14の移動を制御する。ステージ14には、例えばXYステージが用いられる。
【0017】
評価装置30が、制御装置20から送信された発振指令信号S0、及び光検出器21から与えられる検出信号S1に基づいて、レーザ装置の動作の正常性を評価する。評価装置30は、レーザ装置の動作の正常性の評価結果を表示装置26に表示する。さらに、評価装置30は、レーザ装置の動作が異常であると判定した場合、警報発出装置25から警報を発出する。
【0018】
図2は、制御装置20(
図1)からレーザ発振器10(
図1)に送信される発振指令信号S0、及び光検出器21(
図1)から評価装置30(
図1)に与えられる検出信号S1の波形を示すグラフである。
【0019】
時刻t0において発振指令信号S0が立ち上がると、レーザ発振器10は、放電電極への高周波電力の供給を開始する。放電電極への高周波電力の供給を開始することにより、レーザ発振器10のレーザ媒質の励起が開始される。すなわち、発振指令信号S0の立ち上がりが、レーザ発振器10の発振指令に相当し、発振指令信号S0の立ち上がり時点が、レーザ発振器10の励起開始の時点に相当する。
【0020】
励起開始の時刻t0から遅れて、時刻t1においてレーザパルスが立ち上がる。レーザパルスの立ち上がりに対応して、検出信号S1も立ち上がる。励起開始の時刻t0からレーザパルスの立ち上がりの時刻t1までの経過時間をビルドアップ時間t
BUということとする。レーザパルスの立ち上がり時点に、ゲインスイッチングによる極短時間のピーク波形が現れ、その後ほぼ一定の光強度が維持される。ほぼ一定の光強度が維持される部分を、パルス波形の主部ということとする。
【0021】
時刻t2において発振指令信号S0が立ち下がると、レーザ発振器10は、放電電極への高周波電力の供給を停止する。放電電極への高周波電力の供給を停止すると、レーザ発振器10のレーザ媒質の励起が行われなくなる。すなわち、発振指令信号S0の立ち下がりが、レーザ発振器10の励起停止の指令を意味する。レーザ発振器10の励起が停止されると、レーザ発振器10から出力されるレーザパルスの強度が徐々に低下する。
【0022】
検出信号S1の1つのパルス波形を時間で積分した値は、1パルス当たりのエネルギ(パルスエネルギ)によって決まる。本明細書において、パルスエネルギによって決まるこの積分値を、「パルスエネルギ依存物理量」ということとする。
【0023】
ゲインスイッチングによる極短時間のピーク波形の時間幅は、全体のパルス幅に比べて十分短いため、パルス波形からゲインスイッチングによる極短時間のピーク波形を除いた部分の積分値を、パルスエネルギ依存物理量として採用してもよい。また、励起停止後のテール部分の時間幅も、レーザパルスのパルス幅に比べて十分短く、かつテール部分の光強度は、時間の経過とともに急激に低下するため、テール部分を除いたパルス波形の積分値をパルスエネルギ依存物理量として採用してもよい。このように、パルス波形の主部の積分値をパルスエネルギ依存物理量として採用してもよい。
【0024】
ビルドアップ時間t
BUは、レーザ発振器10の放電電極に投入する高周波電力(励起強度)に依存し、励起強度が大きくなるに従って、ビルドアップ時間t
BUが短くなる。パルス波形の主部の光強度も励起強度に依存し、励起強度が大きくなるに従ってパルス波形の主部の光強度が高くなる。このため、ビルドアップ時間t
BUとパルスエネルギ依存物理量との関係は、ビルドアップ時間t
BUが長くなるに従ってパルスエネルギ依存物理量が小さくなるという傾向を示す。
【0025】
図3は、ビルドアップ時間t
BUと、パルスエネルギによって決まるパルスエネルギ依存物理量との関係を示す散布図である。横軸はビルドアップ時間t
BUをリニアスケールで表し、縦軸はパルスエネルギによって決まるパルスエネルギ依存物理量をリニアスケールで表す。レーザ発振器10の動作が正常であるときに、励起強度をレーザ発振器10の定格電力の範囲内で変化させてビルドアップ時間t
BUとパルスエネルギ依存物理量とのデータを収集し、これらのデータを散布図にプロットすると、プロットされた点は、正常な対応関係を示す範囲50内に位置する。正常な対応関係を示す範囲50は、ビルドアップ時間t
BUが長くなるに従ってパルスエネルギ依存物理量が小さくなる方向に傾斜した直線に沿う細長い形状を示す。
【0026】
レーザ発振器10の動作が異常であるときに取得されたパルス波形に基づいて求められたビルドアップ時間t
BUの算出値とパルスエネルギ依存物理量の算出値とに対応する散布図上の位置は、正常な対応関係を示す範囲50から外れる。
【0027】
算出値に対応する位置が、正常な対応関係を示す範囲50よりもビルドアップ時間t
BUが長くなる方向、またはパルスエネルギ依存物理量が大きくなる方向に外れた場合には、レーザ発振器10の発振モードが異常であると推定される。例えば、発振モードが高次モードになっていることが疑われる。
【0028】
算出値に対応する位置が、正常な対応関係を示す範囲50よりもビルドアップ時間t
BUが短くなる方向、またはパルスエネルギ依存物理量が小さくなる方向に外れた場合には、第1光学系11(
図1)に異常が発生していると推定される。例えば、第1光学系11内の光学部品の透過率の低下が疑われる。なお、光検出器21自体の異常も疑われる。
【0029】
算出値に対応する位置が、正常な対応関係を示す範囲50を、ビルドアップ時間t
BUが長くなりパルスエネルギ依存物理量が小さくなる方向に延伸した領域に位置する場合には、レーザ発振器10内に異常が発生していると推定される。例えば、レーザ発振器10の光共振器内の増幅度の低下、損失の増大等が発生していると推定される。このことから、光共振器のミスアライメント、励起エネルギ供給源の異常、光共振器を構成するミラーの損傷等が疑われる。
【0030】
図4は、実施例による評価装置30のブロック図である。評価装置30は、判定部31、記憶部32、データ取得部33、及び表示制御部34を含む。判定部31、データ取得部33、及び表示制御部34の機能は、例えばコンピュータがプログラムを実行することにより実現される。
【0031】
記憶部32は、ビルドアップ時間t
BUとパルスエネルギ依存物理量との正常な対応関係を記憶する。例えば、記憶部32は、散布図(
図3)における正常な対応関係を示す範囲50を記憶する。
【0032】
データ取得部33は、評価対象のレーザ発振器10の励起開始時点(
図2の時刻t0)を示す情報を制御装置20から取得する。例えば、データ取得部33は、制御装置20から入力される発振指令信号S0の立ち上がりを検出することにより、発振指令信号S0の立ち上がり時刻を取得する。発振指令信号S0の立ち上がり時刻が、励起開始時点を示す情報に相当する。さらに、データ取得部33は、光検出器21から検出信号S1を受信することにより、レーザ発振器10から出力されたレーザパルスの光強度の時間変化の測定結果を取得する。
【0033】
判定部31は、データ取得部33で取得された情報に基づいて、ビルドアップ時間t
BU及びパルスエネルギ依存物理量を算出する。さらに、ビルドアップ時間t
BUの算出値と、パルスエネルギ依存物理量の算出値とを、記憶部32に記憶されている正常な対応関係と比較して、レーザパルスの正常性を判定する。具体的には、ビルドアップ時間t
BUの算出値とパルスエネルギ依存物理量の算出値との対応関係が、記憶部32に記憶されている正常な対応関係に含まれないとき、レーザパルスが異常であると判定する。
【0034】
より具体的には、判定部31は、ビルドアップ時間t
BUの算出値とパルスエネルギ依存物理量の算出値とに対応する散布図(
図3)上の位置が、正常な対応関係を示す範囲50の外側であれば、レーザパルスが異常であると判定する。また、判定部31は、ビルドアップ時間t
BUの算出値とパルスエネルギ依存物理量の算出値とに対応する散布図(
図3)上の位置が、正常な対応関係を示す範囲50の内側であれば、レーザパルスは正常であると判定する。
【0035】
判定部31は、異常と判定されたレーザパルスの出現頻度を求める。出現頻度は、例えば、ある時間内に出力されたレーザパルスの総数に対する異常なレーザパルスの個数の比で定義される。異常なレーザパルスの出現頻度が閾値を越えると、判定部31は、レーザ装置の動作が異常であると判定する。
【0036】
さらに、判定部31は、レーザ装置の動作が異常であると判定したとき、警報発出装置25を動作させて警報を発出する。例えば、警報発出装置25はスピーカであり、判定部31はスピーカから警報音を出力させる。さらに、判定部31は、レーザ装置の動作が異常であると判定したとき、表示制御部34に異常の状態を表示する指令を送信する。
【0037】
表示制御部34は、判定部31からの指令に基づいて、レーザ装置の動作の異常状態を示す情報を表示装置26に表示する。
【0038】
図5は、レーザ装置の動作の異常状態を示す情報が表示されている表示装置26の正面図である。ビルドアップ時間t
BUを一方の軸(横軸)に対応させ、パルスエネルギ依存物理量を他方の軸(縦軸)に対応させた散布図が、表示装置26の表示画面に表示されている。この散布図に、ビルドアップ時間t
BUとパルスエネルギ依存物理量との正常な対応関係を示す範囲50が示されている。さらに、評価時間内に取得したビルドアップ時間t
BUの算出値とパルスエネルギ依存物理量の算出値とからなる複数のデータが散布図上にプロットされている。
図5では、正常な対応関係を示す範囲50よりも上(パルスエネルギ依存物理量が大きい領域)に、多くのデータがプロットされている例が示されている。
【0039】
さらに、表示画面に表示された散布図の正常な対応関係を示す範囲50以外の領域に、異常状態を表す情報が文字で表示されている。例えば、「発振モード異常」、「光学系異常」、「発振器内異常」等の文字が、その異常に対応する散布図内の領域に表示される。
【0040】
図6は、実施例によるレーザ装置の動作の正常性の評価方法の手順を示すフローチャートである。以下、
図6及び
図1を参照しながら、本実施例の評価方法について説明する。
【0041】
まず、制御装置20がレーザ発振器10に発振指令信号S0を送信する(ステップST1)。発振指令信号S0は、評価装置30にも入力される。評価装置30は、光検出器21からの検出信号S1に基づいて、レーザパルスの立ち上がり及びパルス波形を検出する(ステップST2)。評価装置30は、発振指令信号S0及び検出信号S1に基づいて、ビルドアップ時間t
BU及びパルスエネルギ依存物理量を算出する(ステップST3)。算出結果に基づいて、レーザパルスの正常性を判定する(ステップST4)。ステップST1からステップST4までの手順を、評価済のパルス数が所定のパルス数に達するまで繰り返す(ステップST5)。
【0042】
評価済のパルス数が所定のパルス数に達したら、評価済のパルス数の値を初期設定する。その後、レーザ装置の動作の正常性を評価する(ステップST7)。例えば、異常のパルス数の出現頻度に基づいて、レーザ装置の動作の正常性を判定する。異常のレーザパルスの出現頻度が判定閾値を超えている場合、レーザ装置の動作が異常であると判定する。
【0043】
レーザ装置の動作が異常であると判定された場合には、異常時の処理を実行する(ステップST8)。例えば、警報の発出、異常状態の表示等を行う。その後、レーザ加工処理を終了するか否かを判定する(ステップST9)。レーザ装置の動作が正常であると判定された場合には、異常時の処理を実行することなく、レーザ加工処理を終了するか否かを判定する(ステップST9)。
【0044】
レーザ加工処理を継続する場合には、ステップST1からステップST9までの処理を繰り返し実行する。上述のステップST2からステップST9までの処理は、評価装置30が実行する。例えば、加工対象物15(
図1)のレーザ加工が終了したら、レーザ加工処理を終了する。その他に、表示装置26(
図5)に表示された異常の状態をオペレータが見て、オペレータの介在によりレーザ加工処理を終了するようにしてもよい。
【0045】
次に、上記実施例による評価装置の構成を採用することにより得られる優れた効果について説明する。
【0046】
本実施例では、レーザ装置の各部にそれぞれセンサを取り付けることなく、制御装置20から送信される発振指令信号S0と、光検出器21から出力される検出信号S1とに基づいて、レーザ装置の動作の正常性を評価することができる。表示装置26に表示された散布図(
図5)を見て、オペレータが直感的にレーザ装置の動作状態を把握することができる。例えば、
図5に示した例では、レーザ発振器10に発振モードの異常が発生していると、容易に推定することができる。
【0047】
また、上記実施例では、加工対象物15(
図1)のレーザ加工を行いながら、リアルタイムに異常なレーザパルスの発生を検出することができる。異常なレーザパルスの出現頻度を算出する期間を短くすると、早期にレーザ装置の異常を検出することができる。
【0048】
次に、上記実施例の変形例について説明する。上記実施例では、異常なレーザパルスの発生頻度が閾値を超えたら、警報を発出し、表示装置26に異常状態を表示した。警報を発出する閾値よりも上に許容上限値を設定し、異常なレーザパルスの出現頻度が許容上限値を超えたら、レーザ加工を自動的に停止させるようにしてもよい。これにより、不良品の増加を抑制することができる。
【0049】
上記実施例では、
図1に示したように制御装置20とは別に評価装置30を設けたが、制御装置20に評価装置30の機能を持たせてもよい。
【0050】
本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。