特許第6987638号(P6987638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6987638クレブシエラ・ニューモニエのガラクタンベースのO抗原をターゲティングする抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987638
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】クレブシエラ・ニューモニエのガラクタンベースのO抗原をターゲティングする抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/12 20060101AFI20211220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20211220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20211220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20211220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20211220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211220BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20211220BHJP
   A61K 39/108 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20211220BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20211220BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C07K16/12ZNA
   C12N15/13
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/08
   A61K39/108
   A61P31/04
   G01N33/569 F
   C12Q1/02
【請求項の数】25
【全頁数】64
(21)【出願番号】特願2017-543737(P2017-543737)
(86)(22)【出願日】2015年11月3日
(65)【公表番号】特表2018-508208(P2018-508208A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】EP2015075583
(87)【国際公開番号】WO2016131503
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2018年11月2日
(31)【優先権主張番号】15155448.2
(32)【優先日】2015年2月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514264606
【氏名又は名称】エックスフォー・ファーマシューティカルズ(オーストリア)ゲーエムべーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】スジャルト,ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】ナギー,ガボール
(72)【発明者】
【氏名】グアシャラ,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ビスラム,ゼフラ
(72)【発明者】
【氏名】ナギー,エスター
(72)【発明者】
【氏名】ルカシェヴィッチ,ヨランタ・カタジーナ
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 Infect. Immun.,1994年,Vol. 62,p. 1282-1288
【文献】 Infect. Immun.,1992年,Vol. 60,p. 1771-1778
【文献】 J. Endotoxin Res.,2001年,Vol. 7,p. 119-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00 − 16/46
C12N 15/00 ー 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のリポ多糖(LPS) O抗原構造体のガラクタン−IIIエピトープを特異的に認識する単離された抗体であって、エピトープはガラクタン−III反復単位に内包されており、該ガラクタン−III反復単位が式(I)
【化1】
の分枝ガラクトースホモポリマーである、上記抗体。
【請求項2】
ガラクタン−Iエピトープに対比してガラクタン−IIIエピトープに優先的に結合するか、あるいはガラクタン−Iエピトープと交差反応せず、ここで、該ガラクタン−Iエピトープはクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のLPS O2a抗原構造体のガラクタン−I反復単位に内包されており、該ガラクタン−I反復単位が式(II)
【化2】
の線状ガラクトースホモポリマーである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ガラクタン−IIIエピトープが多剤耐性(MDR)クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、特にMDRクローンST258のものである、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
ガラクタン−IIIエピトープを発現しているクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)株のエンドトキシンを中和し、10−7M未満、好ましくは10−8M未満、よりいっそう好ましくは10−9M未満のKdでガラクタン−IIIエピトープに結合する親和性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
完全長モノクローナル抗体、その抗体フラグメントであって結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含むもの、または結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質であり、特に抗体がランダム化または人工アミノ酸配列を含む非天然抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
少なくとも抗体重鎖可変領域(VH)及び抗体軽鎖可変領域(VL)を含む抗体であって、該抗体重鎖可変領域は、CDR1、CDR2、及びCDR3と表示されるVH CDR配列を含み、該抗体軽鎖可変領域(VL)は、CDR4、CDR5、及びCDR6と表示されるVL CDR配列を含み、
該抗体のVH CDR配列が、以下のグループi)〜iv):
i)
a)SEQ ID 1のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 2のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 3のアミノ酸配列からなるCDR3;
ii)
a)SEQ ID 4のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 5のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 6のアミノ酸配列からなるCDR3;
iii)
a)SEQ ID 7のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 8のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 9のアミノ酸配列からなるCDR3;
ならびに
iv)
a)SEQ ID 10のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 11のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 12のアミノ酸配列からなるCDR3;
からなる群より選択され、
該抗体のVL CDR配列が、以下のグループv)〜viii):
v)
a)SEQ ID 13のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 14のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 15のアミノ酸配列からなるCDR6;
vi)
a)SEQ ID 16のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
vii)
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 20のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
ならびに
viii)
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
からなる群より選択される、上記抗体
ある、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
図2に示すVH配列のいずれかから選択されるVHアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
図2に示すVL配列のいずれかから選択されるVLアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の抗体。
【請求項9】
a)表1に挙げるいずれかの抗体のCDR1〜CDR6配列;または
b)図2に示すいずれかの抗体のVHおよびVL配列
を含む、
請求項6〜8のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
a)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 1のCDR1配列;および
b.SEQ ID 2のCDR2配列;および
c.SEQ ID 3のCDR3配列;および
d.SEQ ID 13のCDR4配列;および
e.SEQ ID 14のCDR5配列;および
f.SEQ ID 15のCDR6配列;
b)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 4のCDR1配列;および
b.SEQ ID 5のCDR2配列;および
c.SEQ ID 6のCDR3配列;および
d.SEQ ID 16のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
c)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 7のCDR1配列;および
b.SEQ ID 8のCDR2配列;および
c.SEQ ID 9のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
d)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
e)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 4のCDR1配列;および
b.SEQ ID 5のCDR2配列;および
c.SEQ ID 6のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
ならびに
f)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
からなる群から選択される
求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
対象における感染を制限するかまたはその感染から生じる病状を軽減するのに有効な量の抗体を対象に投与することを含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の感染または定着のリスクをもつかまたはそれを伴う対象の処置に使用するための、好ましくは原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎のいずれかを治療または予防するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体を含み、場合により医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含有する、好ましくは非経口または粘膜用の配合物を含む医薬製剤。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体を含む、対象においてクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の感染もしくは定着、または原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎もしくは髄膜炎などの関連疾患を診断するための診断用組成物。
【請求項14】
対象が免疫無防備状態もしくは免疫抑制状態の患者またはその接触者である、請求項13に記載の診断用組成物。
【請求項15】
下記の構成要素
a)抗体;および
b)さらなる診断試薬;
c)ならびに場合により、抗体および診断試薬のうち少なくとも1つを固定化するための固相
を含む、組成物またはキット状パーツ中に抗体およびさらなる診断試薬を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体の診断用製剤。
【請求項16】
さらなる診断試薬が、抗体と、および/または抗体がそれの抗原に結合した反応生成物と、特異的に反応する診断用の標識または試薬である、請求項15に記載の診断用製剤。
【請求項17】
a)請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体を用意し、そして
b)その抗体が被験対象の生体試料中のガラクタン−IIIエピトープと特異的に免疫反応するかどうかを検出し、それによりクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の感染または定着をエクスビボで判定する
ことを含む、対象においてクレブシエラ・ニューモニエ株により起きたクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を決定する方法。
【請求項18】
生体試料が、体液または組織試料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体をコードする、単離された核酸。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体のVHおよび/またはVLを含むタンパク質を発現するコード配列を含む、発現カセットまたはプラスミド。
【請求項21】
請求項20に記載の発現カセットまたはプラスミドを含む、宿主細胞。
【請求項22】
請求項21に記載の宿主細胞をその抗体を産生する条件下で培養または維持する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体を製造する方法。
【請求項23】
a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体と請求項1に定めたガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、抗体とエピトープの陽性反応によりその抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法。
【請求項24】
a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体と請求項1に定めたガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、ガラクタン−Iエピトープと対比して、ガラクタン−III抗体とエピトープの特異的な陽性反応により、その抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法。
【請求項25】
a)請求項23または24に従って同定した候補抗体を用意し;そして
b)候補抗体と同じエピトープ結合特異性を備えた、モノクローナル抗体、またはヒト化もしくはヒト型の候補抗体、またはその誘導体を製造する
ことを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝染性多剤耐性クレブシエラ・ニューモニエ(肺炎杆菌)(Klebsiella pneumoniae)ST258の大部分に関連するユニークなガラクタンベースのO抗原構造体を特異的に認識するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
クレブシエラ・ニューモニエは、著しい罹患率および死亡率をもたらす尿路感染症、肺炎および敗血症に関与する重大な腸内細菌系病原体である。多剤耐性(MDR)菌株が最近出現して世界的に拡散しており、それに対する治療選択肢は限られている。
【0003】
リポ多糖(LPS)は、クレブシエラ・ニューモニエなどのグラム陰性細菌の外膜の外葉(outer leaflet)の主成分である。LPSは、構造的および機能的に異なる3つの主要部分をもつ:i)リピドA,それはエンドトキシンとしても知られている、ii)コア−オリゴ糖、およびiii)O抗原,それはオリゴ糖ブロックの反復単位で構築されている。
【0004】
クレブシエラ・ニューモニエO抗原は多様な構造の表面抗原であり、種々のOタイプを規定する。現在認識されている7つのOタイプのうち最も一般的な血清型はO1およびO2であると思われ、それらは合わせてすべての分離株の大部分(すなわち、>50%)が発現していると報告された(1;2)。O1およびO2抗原は両方とも、ガラクトースポリマー、すなわちガラクタンから構成されている。O2抗原(後記のO2acと区別するために、O2aまたはO2abとしても知られる)は、いわゆるガラクタン−I 二糖のリピートで構成されている(参照:図3)。これに対し、O1およびO2ac抗原は、ガラクタン−Iのほかに下記のように別個の追加構造を含む:LPSコア近接部分はガラクタン−Iのリピートで構成され、それにガラクタン−II(O1の場合、異なるガラクトースホモポリマー)または非ガラクタン反復単位(O2acの場合)がキャッピングしている。
【0005】
ガラクタン−I O−サブユニットを共有する血清型は、この構造体の合成および輸出をコードする類似性の高いrfb遺伝子座を保有する。ガラクタン−Iをコードするオペロンのヌクレオチド配列は部分的に決定されている(3)。その遺伝子座は6つの遺伝子を含む7.3kbの長さであると記載されている。クレブシエラ・ニューモニエO1、大腸菌(E. coli)K−12またはチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)のラフ型変異体(rough mutant)にクローン化rfb遺伝子座を補充すると、ガラクタン−I O抗原リピートからなるスムーズLPS(smooth LPS)の産生を回復した。これは、ガラクタン−I O抗原側鎖の産生にはこれら6つの遺伝子が必須かつ十分であることを示唆する(3)。種々のO2クレブシエラ属(Klebsiella)菌株におけるD−ガラクタン−Iの構造修飾がKellyらにより公表された(5)。それにもかかわらず、これらの修飾の遺伝学的バックグラウンドは依然として解明されないままである。ガラクタン−II反復単位(すなわち、ガラクタン−Iまたは本明細書に提示するガラクタン−IIIをキャッピングしているもの)をコードする遺伝学的決定因子が最近記載された(4)。重要な点は、これらの遺伝子は、ガラクタン−Iユニットをガラクタン−IIIに変換するのに関与する遺伝学的決定因子とは無関係なことである。したがって、O1血清型の菌株は、血清型を決定する表面存在ガラクタン−II反復単位を発現するほかに、リピドA−コアとガラクタン−IIリピートとを架橋するガラクタン−Iまたはガラクタン−IIIのいずれかの反復単位を発現する可能性がある。
【0006】
最近出現したクレブシエラ・ニューモニエの多剤耐性(MDR)菌株は、著しい割合のクレブシエラ・ニューモニエ感染症の原因である。MDR菌株は大部分のクラスの臨床関連抗生物質に対する耐性を発生させたので、それに対抗する治療選択肢は著しく限定されつつある。したがって、別の治療選択肢、たとえばモノクローナル抗体(mAb)による受動免疫化は将来に対する大きな有望性をもつ。
【0007】
クレブシエラ・ニューモニエの新たなターゲットが求められている。特に、免疫適性(immunorelevant)でありかつ療法および診断薬の開発に使用できるターゲットを同定する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hansen DS, Mestre F, Alberti S, et al. Klebsiella pneumoniae lipopolysaccharide O typing: revision of prototype strains and O-group distribution among clinical isolates from different sources and countries. J Clin Microbiol 1999 Jan;37(1):56-62.
【非特許文献2】Trautmann M, Ruhnke M, Rukavina T, et al. O-antigen seroepidemiology of Klebsiella clinical isolates and implications for immunoprophylaxis of Klebsiella infections. Clin Diagn Lab Immunol 1997 Sep;4(5):550-5.
【非特許文献3】Clarke BR, Whitfield C. Molecular cloning of the rfb region of Klebsiella pneumoniae serotype O1:K20: the rfb gene cluster is responsible for synthesis of the D-galactan I O polysaccharide. J Bacteriol 1992 Jul;174(14):4614-21.
【非特許文献4】Hsieh PF, Wu MC, Yang FL, et al. D-galactan II is an immunodominant antigen in O1 lipopolysaccharide and affects virulence in Klebsiella pneumoniae: implication in vaccine design. Front Microbiol 2014;5:608.
【非特許文献5】R.F.Kelly, M.B.Perry, L.L.MacLean, C.Whitfield. Structures of the O-antigens of Klebsiella serotypes 02 (2a,2e), 02 (2a,2e,2h), and 02 (2a,2f,2g) members of a family of related D-galactan O-antigens in Klebsiella spp. Journal of Endotoxin Research 1995;2:131-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、クレブシエラ・ニューモニエ感染症の予防または治療に使用するための、クレブシエラ・ニューモニエ、特にMDR株に対する抗体であって、病原体をターゲティングするための改善された適合率を備えた抗体を提供することである。さらに、クレブシエラ・ニューモニエ細菌、たとえばMDR株を、迅速に信頼性をもって診断できる手段および方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は本発明の主題により解決される。
本発明によれば、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のリポ多糖(LPS) O抗原構造体のガラクタン−IIIエピトープを特異的に認識する単離された抗体であって、エピトープはガラクタン−III反復単位に内包されており、そのガラクタン−III反復単位が式(I)
【0011】
【化1】
【0012】
の分枝ガラクトースホモポリマーである、上記抗体を提供する。
具体的には、ガラクタン−IIIエピトープは少なくとも2、または少なくとも3、4もしくは5つのgal−III反復単位を含むO抗原構造体に内包されている。
【0013】
特定の側面によれば、この抗体はガラクタン−Iエピトープに対比してガラクタン−IIIエピトープに優先的に結合するか、あるいはガラクタン−Iエピトープと交差反応せず、ここで、ガラクタン−I(gal−I)エピトープはクレブシエラ・ニューモニエのLPS O2a抗原構造体のガラクタン−I反復単位に内包されており、そのガラクタン−I反復単位は式(II)
【0014】
【化2】
【0015】
の線状ガラクトースホモポリマーである。
たとえば、本発明の抗体は、gal−III抗原を含むO抗原構造体を特異的に認識または結合するgal−III特異的抗体である。代表的抗体、またはそのような抗体のバリアントを、図1および2に挙げる。バリアントを提示する目的のために、それらの抗体を本明細書中で親抗体と呼び、それらのCDRまたはフレームワーク配列を本明細書中で親CDRまたは親フレームワーク配列と呼ぶ。
【0016】
特定の側面によれば、抗体は、たとえば異なる由来の組換えCDRおよびフレームワーク配列を含み、その際、CDRおよびフレームワーク配列のうち少なくとも1つはヒト、ヒト化、キメラ、ネズミまたは親和性成熟(affinity matured)配列を含み、好ましくはその際フレームワーク配列はいずれかの免疫グロブリンアイソタイプ、特にIgG抗体のものである。
【0017】
具体的には、本発明の抗体はgal−IIIおよびgal−Iエピトープの結合に対して交差特異的であり、クレブシエラ・ニューモニエのO2抗原のgal−I抗原構造体に対比してgal−III抗原構造体に優先的に、たとえばgal−I抗原と比較してgal−IIIを結合する方が高い親和性で、結合する。特定の態様によれば、抗体はgal−I抗原と比較してgal−IIIの結合について少なくとも2倍大きい親和性をもつ;具体的には、少なくとも2倍の差、または少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、またはさらには少なくとも10倍の差、たとえば親和性(アフィニティー)(affinity)および/またはアビディティー(avidity)の差。たとえば、gal−I抗原よりgal−III抗原を優先的に結合するKd差は、イムノアッセイ、好ましくはイムノブロッティング、ELISAまたは他の免疫学的方法により判定して、少なくとも0.5もしくは1 log、またはさらには少なくとも2 log、もしくは少なくとも3 logの差である。
【0018】
本発明の抗体は、具体的にはさらに、他のいずれのクレブシエラ・ニューモニエ抗原とも交差反応しないことを特徴とし、および/または抗体は他のいずれかのクレブシエラ・ニューモニエ抗原に、より低い親和性で結合する;たとえば、その際、他のクレブシエラ・ニューモニエ抗原(gal−IIIまたはgal−I抗原以外のもの)よりgal−III抗原を優先的に結合するKd差は、少なくとも2 log、好ましくは少なくとも3 logである。
【0019】
具体的には、機能活性バリアントは機能活性CDRバリアントであり、それは親CDR配列中に少なくとも1つの点変異を含み、親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の配列同一性をもつアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0020】
特定のバリアントはたとえば親抗体のヒト化バリアントであり、その際、親CDR配列はヒトまたはヒト化フレームワーク配列に内包され、場合により親またはヒト化抗体の安定性、特異性および親和性を改善するために点変異の導入によりそれぞれの親CDR配列の1、2、3または4個のアミノ酸残基がさらに変異していてもよい。
【0021】
具体的には、そのようなバリアントのVHまたは重鎖(HC)配列がそれぞれ他のバリアントのVHおよびHC配列により置換されていてもよく、特にその際、他のバリアントは同じ親抗体の他のいずれかのバリアントである。
【0022】
具体的には、そのようなバリアントのVLまたは軽鎖(LC)配列がそれぞれ他のバリアントのVLおよびLC配列により置換されていてもよく、特にその際、他のバリアントは同じ親抗体の他のいずれかのバリアントである。
【0023】
具体的には、ガラクタン−IIIエピトープは多剤耐性(MDR)クレブシエラ・ニューモニエ、より具体的にはMDRクローンST258により発現される。具体的には、ガラクタン−IIIエピトープは多剤耐性(MDR)クレブシエラ・ニューモニエのものである。
【0024】
特定の態様によれば、抗体は、ガラクタン−IIIエピトープを10−7M未満、好ましくは10−8M未満、よりいっそう好ましくは10−9M未満のKdで結合する親和性をもつ。
【0025】
親和性成熟により製造された親抗体のバリアント(本明細書中で親和性成熟バリアントと呼ぶ)は、親抗体と比較してKd差が少なくとも1 log、または2 log、または3 logの増大した結合親和性をもつ可能性がある。親和性成熟バリアントは、一般にgal−III抗原を10−8M未満、または10−9M未満のKdで結合する親和性をもつ。親抗体が10−8M未満、または10−9M未満のKdの親和性をもち、かつ親抗体が親和性成熟を受けているならば、親和性成熟バリアントはそれぞれ10−9M未満および10−10M未満のKdの、よりいっそう高い親和性をもつ可能性がある。
【0026】
特定の側面によれば、抗体は中和抗体である。具体的には、抗体はインビトロまたはインビボ検出法により判定して、ガラクタン−IIIエピトープを発現しているクレブシエラ・ニューモニエ株のエンドトキシン(すなわち、LPS)を中和する。具体的には、抗体は特定のLPS分子のエンドトキシン作用をインビトロで中和する。
【0027】
具体的には、抗体はガラクタン−IIIエピトープを発現しているクレブシエラ・ニューモニエ株のエンドトキシンを中和し、その際、中和力価は少なくとも、Kabatの命名法に従った下記のものを含む基準抗体(たとえば、基準抗体2D8−A10)の力価である:
a)SEQ ID 10のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 11のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 12のアミノ酸配列からなるCDR3;および
d)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
e)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
f)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6。
そのようなCDR配列はKabatのナンバリングシステムに従って表示されている。
【0028】
以下において、別に指示しない限り、Kabatに従ってナンバリングした、すなわちKabat命名法(参照:Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, U.S.Department of Health and Human Services. (1991))に従って定めたCDR配列、特に表1に挙げたCDR配列について述べる。本発明および特許請求の範囲が、同じ抗体およびCDRであるけれども異なるナンバリングおよび表示をもつCDR領域、すなわち、IMGTシステム(The international ImMunoGeneTics, Lefranc et al., 1999, Nucleic Acids Res. 27: 209-212)に従って定義されたCDR領域をも包含するはずであることは十分に理解される。
【0029】
具体的には、本発明の抗体がターゲティングするクレブシエラ・ニューモニエ株は、追加グリコシルトランスフェラーゼ(gtr)遺伝子が内包されたrfbgal−I遺伝子座を特徴とする。
【0030】
特定の側面によれば、抗体はMDRクレブシエラ・ニューモニエのクローンST258、特にガラクタン−IIIエピトープを発現している株を認識する。
特定の態様は、完全長モノクローナル抗体、その抗体フラグメントであって結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含むもの、または結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質のいずれかである抗体について述べる;具体的には、その際、抗体はランダム化または人工アミノ酸配列を含む非天然抗体である。
【0031】
具体的には、抗体はネズミ、リャマ、ウサギ、ヤギ、ウシ、キメラ、ヒト化またはヒト抗体、重鎖抗体、Fab、Fd、scFvおよび一本鎖抗体、たとえばVH、VHHまたはVL、好ましくはヒトIgG抗体またはネズミIgG抗体からなる群から選択される抗体である。
【0032】
具体的には、抗体はモノクローナル抗体である。
特定の態様によれば、抗体は少なくとも、表1に挙げるCDR1〜CDR3配列を特徴とする抗体重鎖可変領域またはドメイン(VH)(それらはKabatのナンバリングシステムに従って表示されている)のいずれか、またはその機能活性CDRバリアントを含む。
【0033】
特定の側面によれば、本発明は、本明細書に添付する図面に詳述する代表的(親)抗体、およびそのような親抗体のさらなる抗体バリアント、特に本質的に親抗体(図2のVHおよびVLアミノ酸配列により形成される特異的結合部位あるいは表1の各CDR配列を特徴とするもの)と同じエピトープに結合するバリアントを含むものを提供する。そのような抗体は、たとえば親抗体の各CDRまたは抗体配列を修飾することにより得られる機能活性バリアント抗体であってもよい。本明細書に記載する抗体配列であって、たとえば点変異によるバリエーションを受ける配列はいずれも“親”配列とみなされることは十分に理解されされる。
【0034】
例に記載する抗体はネズミ由来またはそのヒト化形態である。ヒト化および場合により親和性成熟により得られるバリアントは、周知の手法で工学操作されたものであってもよい。これらのバリアント抗体はターゲット抗原に結合し、よって機能活性であるとみなされる。たとえばそれぞれのFRまたはCDR配列中に修飾をもつバリアントVHまたはVLドメインであって、機能活性であるもの、たとえば親抗体と同じエピトープに結合し、または同じ結合部位を含み、または同じ結合特性をもつものを使用できる。本明細書に記載する抗体のあるFRまたはCDR配列を、他の抗体、たとえば表1に挙げた抗体のものと交換することもできる。
【0035】
具体的には、本発明の抗体は、図1(表1)に示す抗体重鎖可変領域のCDR配列のいずれかもしくはその機能活性CDRバリアント、および/または図2に示すVH配列から選択されるいずれかのVHアミノ酸配列もしくはその機能活性バリアント、たとえば抗体重鎖(HC)またはVHアミノ酸配列を含む;それは、CDR1、2および3、すなわちCDR1配列1、4、7もしくは10のいずれか;および/またはCDR2配列2、5、8もしくは11のいずれか;および/またはCDR3配列3、6、9もしくは12のいずれかを含む;あるいはVH配列19、21、23または25のいずれかを含む。
【0036】
具体的には、抗体は下記のものである:
A)グループメンバーi)〜iv)からなるグループから選択される抗体
i)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 1のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 2のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 3のアミノ酸配列からなるCDR3;
ii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 4のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 5のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 6のアミノ酸配列からなるCDR3;
iii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 7のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 8のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 9のアミノ酸配列からなるCDR3;
iv)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 10のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 11のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 12のアミノ酸配列からなるCDR3;
または
B)Aのグループメンバーのいずれかである親抗体の機能活性バリアントであって、親抗体のCDR1、CDR2またはCDR3のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む抗体。
【0037】
具体的には、機能活性バリアントは機能活性CDRバリアントであり、それは親CDR配列中に少なくとも1つの点変異を含み、親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の配列同一性をもつアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0038】
具体的には、抗体は図2に示すいずれかのVH配列から選択されるVHアミノ酸配列を含む。
特定の態様によれば、抗体はさらに、抗体軽鎖可変領域またはドメイン(VL)を含み、それは表1に挙げるCDR4〜CDR6配列(それらはKabatのナンバリングシステムに従って表示されている)のいずれか、またはその機能活性CDRバリアントを含む。
【0039】
具体的には、本発明の抗体は図1(表1)に示す抗体軽鎖可変領域のCDR配列のいずれかもしくはその機能活性CDRバリアント、および/または図2に示すVL配列のいずれかから選択されるVLアミノ酸配列もしくはその機能活性バリアント、たとえば抗体軽鎖(LC)またはVLアミノ酸配列を含む;それは、CDR4、5および6、すなわちCDR4配列13、16もしくは19のいずれか;および/またはCDR5配列14、17もしくは20のいずれか;および/またはCDR6配列3、6、9もしくは12のいずれかを含む;あるいはVH配列15または18のいずれかを含み、あるいはVL配列20、22、24または26のいずれかを含む。
【0040】
具体的には、抗体は下記のものである:
i)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 13のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 14のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 15のアミノ酸配列からなるCDR6;
ii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 16のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
iii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 20のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
iv)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
または
B)Aのグループメンバーのいずれかである親抗体の機能活性バリアントであって、親抗体のCDR4、CDR5またはCDR6のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む抗体。
【0041】
具体的には、機能活性バリアントは機能活性CDRバリアントであり、それは親CDR配列中に少なくとも1つの点変異を含み、親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の配列同一性をもつアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0042】
具体的には、抗体は下記を特徴とするVLドメイン:
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4、またはそのCDR4の機能活性CDRバリアント;および
b)SEQ ID 20のアミノ酸配列からなるCDR5、またはそのCDR5の機能活性CDRバリアント;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6、またはそのCDR6の機能活性CDRバリアント;
を、好ましくは本明細書に記載するいずれかのVH配列との組合わせで含む。
【0043】
具体的には、抗体は図2に示すVL配列のいずれかから選択されるVLアミノ酸配列を含む。
具体的には、抗体はVHおよびVLの両方のアミノ酸配列、ならびに場合によりさらに完全長抗体または抗体フラグメント、特に完全長抗体またはFabフラグメントのいずれかのフレームワーク配列を含む。
【0044】
具体的には、抗体は下記のものを含む:
a)表1に挙げるいずれかの抗体のCDR1〜CDR6配列;または
b)図2に示すいずれかの抗体のVHおよびVL配列;または
c)a)〜c)の配列を特徴とする親抗体の機能活性バリアント:
好ましくは、その際、
i.機能活性バリアントは、親抗体のCDR1〜CDR6のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む;および/または
ii.機能活性バリアントは、VHおよびVL配列のいずれかのフレームワーク領域に少なくとも1つの点変異を含む;
さらに
iii.機能活性バリアントは、親抗体と同じエピトープを結合する特異性を有する;および/または
iv.機能活性バリアントは、親抗体のヒト、ヒト化、キメラもしくはネズミおよび/または親和性成熟バリアントである。
【0045】
具体的には、抗体は下記のものからなる群から選択される:
a)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 1のCDR1配列;および
b.SEQ ID 2のCDR2配列;および
c.SEQ ID 3のCDR3配列;および
d.SEQ ID 13のCDR4配列;および
e.SEQ ID 14のCDR5配列;および
f.SEQ ID 15のCDR6配列;
b)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 4のCDR1配列;および
b.SEQ ID 5のCDR2配列;および
c.SEQ ID 6のCDR3配列;および
d.SEQ ID 16のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
c)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 7のCDR1配列;および
b.SEQ ID 8のCDR2配列;および
c.SEQ ID 9のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
d)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
e)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 4のCDR1配列;および
b.SEQ ID 5のCDR2配列;および
c.SEQ ID 6のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
f)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
または以上のいずれかの機能活性CDRバリアントであって、gal−III抗原を10−8M未満、好ましくは10−9M未満、好ましくは10−10M未満、好ましくは10−11M未満のKdで結合する親和性を備えたもの、たとえばピコモル濃度範囲の親和性を備えたもの。
【0046】
具体的には、抗体は表1に挙げるいずれかのCDR配列の機能活性CDRバリアントを含み、その際、機能活性CDRバリアントは少なくとも下記のものを含む:
a)親CDR配列における1、2もしくは3つの点変異;および/または
b)親CDR配列の4つのC末端もしくは4つのN末端もしくは4つの中心アミノ酸位置のいずれかにおける1もしくは2つの点変異;および/または
c)親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性;
好ましくは、機能活性CDRバリアントは4または5個のアミノ酸からなるいずれかのCDR配列中に1または2つの点変異を含む。
【0047】
具体的には、機能活性バリアント抗体は本発明の少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む。具体的には、少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む機能活性バリアント抗体は、親抗体と同じエピトープを結合する特異性をもつ。
【0048】
具体的には、機能活性バリアントはCDRバリアントであり、たとえばそれは、少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、80%または90%の配列同一性をもつアミノ酸配列を備えたCDR、より具体的にはCDRループ配列を含む。
【0049】
特定の側面によれば、少なくとも1つの点変異は1以上のアミノ酸のアミノ酸置換、欠失および/または挿入のいずれかである。
具体的には、機能活性バリアントはアミノ酸配列中の、好ましくはCDR中の、少なくとも1つの点変異において親抗体と異なり、その際、各CDRアミノ酸配列中の点変異の数は0、1、2または3である。
【0050】
具体的には、抗体はそのような抗体から各CDR配列またはCDR変異体を用いて誘導され、それには機能活性CDRバリアント、たとえば1つのCDRループ内に、たとえばアミノ酸5〜18個の長さのCDR内に、たとえばアミノ酸5〜15個またはアミノ酸5〜10個のCDR領域内に、1、2または3つの点変異を含むものが含まれる。あるいは、機能活性CDRバリアントを含む抗体を得るために、1つのCDRループ内に、たとえばアミノ酸5個未満の長さのCDR内に、1〜2つの点変異があってもよい。特定のCDR配列、たとえばCDR2またはCDR5配列は、短くてもよい。特定の態様によれば、機能活性CDRバリアントは4または5個未満のアミノ酸からなるいずれかのCDR配列中に1または2つの点変異を含む。
【0051】
特定の側面によれば、本発明の抗体はCDRおよびフレームワーク配列を含み、その際、CDRおよびフレームワーク配列のうち少なくとも1つはヒト、ヒト化、キメラ、ネズミまたは親和性成熟配列を含み、好ましくはフレームワーク配列はIgG抗体のもの、たとえばIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4サブタイプのもの、またはIgA1、IgA2、IgD、IgEもしくはIgM抗体のものである。
【0052】
特定の抗体は、たとえば親抗体の製造適性または耐容性を改善するために、たとえば低い免疫原ポテンシャルをもつ改善された(変異)抗体を提供するために、フレームワーク変異抗体として、たとえば親抗体と比較してCDR配列および/またはフレームワーク配列のいずれかに変異をもつヒト化抗体として、提供される。
【0053】
たとえば抗体の親和性を改善するために、および/または親抗体がターゲティングするエピトープと同じエピトープをターゲティングするかまたはその近くにあるエピトープをターゲティングする(エピトープシフト)ために、さらなる特定の抗体はCDR変異抗体として提供される。
【0054】
したがって、改善されたバージョンを工学的に作製するために、表1または図2に挙げるいずれかの抗体を親抗体として使用できる。
特定の側面によれば、本発明の抗体は図1(表1)に挙げるCDR組合わせを含むが、ただし、その抗体はなお機能活性である。
【0055】
具体的には、本発明の抗体は表1に挙げるいずれかの抗体のCDR1〜6を含む。しかし、別態様によれば、抗体は異なるCDR組合わせを含むことができ、たとえばその際、抗体は表1に挙げるように少なくとも1つのCDR配列、たとえば1つの抗体の1、2、3、4、5または6つのCDR配列、および表1に挙げるいずれかの抗体と異なる抗体の少なくとも1つのさらなるCDR配列を含む。特定の例によれば、抗体は1、2、3、4、5または6つのCDR配列を含み、その際、CDR配列は1より多い抗体、たとえば2、3、4、5または6つの異なる抗体のCDRの組合わせである。たとえば、好ましくは表1に挙げるいずれかの抗体のCDR1〜3のうち1、2または3つすべて、および同じ抗体または表1に挙げる他のいずれかの抗体のCDR4〜6のうち1、2または3つすべてを含むようにCDR配列を組み合わせることができる。
【0056】
たとえば、好ましくは少なくとも表1に挙げるいずれかの抗体、たとえば8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、もしくは2D8−A10と表示されるいずれかの抗体のCDR1〜3、および/または表1に挙げるいずれかの(他の)抗体、たとえば5A4−A7と表示される抗体の少なくともCDR4〜6、または少なくともそれのCDR4およびCDR6配列をそれのCDR5の機能活性CDRバリアントと組み合わせたものを含むように、CDR配列を組み合わせることができる。特定の態様によれば、本発明の抗体は表1に挙げるいずれかの抗体、たとえば、8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、または2D8−A10と表示されるいずれかの抗体のCDR1〜6を含む。しかし、さらなる特定の側面によれば、抗体は異なるCDR組合わせを含むことができる;たとえば表1に挙げる抗体、たとえば8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、または2D8−A10と表示されるいずれかの抗体が、異なる抗体の少なくとも1つのCDR配列、たとえば1、2、3、4、5または6つのCDR配列、たとえば表1に挙げるいずれかの抗体のうちいずれか異なる抗体のCDR配列を含むことができる。たとえば、抗体は1、2、3、4、5または6つのCDR配列を含み、その際、CDR配列は1より多い抗体、たとえば2、3、4、5または6つの異なる抗体のCDRの組合わせである。異なる抗体のCDR配列を含む代表的抗体を図2に示す。
【0057】
特に、
i.抗体G3−77は、抗体9H9−H7のVH−CDR配列(CDR1、2および3);および抗体5A4−A7のVL−CDR配列(CDR4、5および6)を含む;
ii.抗体G3−78は、抗体9H9−H7のVH−CDR配列(CDR1、2および3);および抗体5A4−A7のVL−CDR配列(CDR4、5および6)を含む;
iii.抗体G3−97は、抗体2D8−A10のVH−CDR配列(CDR1、2および3);および抗体5A4−A7のVL−CDR配列(CDR4、5および6)を含む。
【0058】
特定の態様によれば、抗体は抗原結合部分としてVHドメインのみを含み、よってCDR1〜3を含み、各VLドメインを含まない。
本発明において特に、CDR1、2および3とナンバリングされたCDRはVHドメインの結合領域を表わし、CDR4、5および6はVLドメインの結合領域を表わすと解釈される。
【0059】
特定の側面によれば、本発明の抗体は図2に示すいずれかのVHおよびVLアミノ酸配列の組合わせ、またはVHおよびVLアミノ酸配列のそのような組合わせにより形成される結合部位を含む。あるいは、2つの異なる抗体の免疫グロブリンドメインの組合わせを使用できるが、ただしその抗体はなお機能活性である。たとえば、1抗体のVH配列を他の抗体のVL配列と組み合わせることができる。さらなる特定の態様によれば、図2に提示するいずれかのフレームワーク領域を、本明細書に記載するいずれかのCDR配列および/またはVH/VL組合わせに対するフレームワークとして使用できる。
【0060】
特定の側面によれば、本発明の抗体は図2に示すいずれかのVHおよびVLアミノ酸配列の組合わせ、またはそのようなVHおよびVLアミノ酸配列の組合わせにより形成される結合部位を含む。
【0061】
本発明の抗体は場合により、そのような図2のアミノ酸配列を含み、適切なシグナル配列またはリーダー配列を含むかまたは含まないと解釈される。
特定の側面によれば、図2の配列はそれぞれ定常領域において末端が伸長または欠失していてもよい;たとえば、1個以上のC末端アミノ酸の欠失。
【0062】
図2は、8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、2D8−A10、G3−43、G3−46、G3−77、G3−78、およびG3−97と呼ばれる親抗体の種々のVH配列および種々のVL配列を示し、親抗体それぞれのいずれかのVH/VL組合わせ、よって一連の種々のVH/VL組合わせ、たとえば図9に示すものを支持する。したがって、親抗体の特定のバリアントは、1つの親抗体のVH配列および他の親抗体のVL配列、またはそのようなVHおよびVL配列の機能活性バリアント、たとえば同じ親抗体に由来する機能活性バリアントを含むことができる。
【0063】
特に、図2は、8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、2D8−A10、G3−43、G3−46、G3−77、G3−78、およびG3−97と呼ばれる親抗体の種々のVH配列および種々のVL配列を示す。たとえば、1つの親抗体のVH配列と他の親抗体のVL配列を組み合わせる81種類の異なるVH/VL組合わせが可能であり、いずれかのVHまたはVL配列が親配列の機能活性バリアント、たとえばいずれかのCDR変異および/またはフレームワーク変異を含むバリアントであれば、より多数のバリアントが可能である。
【0064】
図2のVHおよびVL配列に含まれるCDR配列は、図1に挙げるそれぞれのCDR配列と同一である。
本発明はさらに、本発明のいずれかの抗体、たとえば表1に挙げる抗体、または図2に示すいずれかのVHまたはVLアミノ酸配列の組合わせを含む抗体、またはそのようなVHおよびVLアミノ酸配列の組合わせにより形成される結合部位を含む抗体である親抗体の機能活性抗体バリアントを製造する方法を提供し、その方法は、いずれかのフレームワーク領域(FR)または定常ドメインまたは相補性決定領域(CDR1〜CDR6)において少なくとも1つの点変異を工学的に形成してバリアント抗体を得ること、および具体的にはgal−IIIエピトープを10−6M未満、好ましくは10−7M未満、または10−8M未満、または10−9M、さらには10−10M未満、または10−11M未満のKdで、たとえばピコモル濃度範囲の親和性で結合する親和性によりバリアント抗体の機能活性を判定することを含む。機能活性を判定すると、さらなる使用のために、および場合により組換え体製造方法による製造のために、機能活性バリアントを選択する。
【0065】
特定の側面によれば、バリアント抗体は親抗体と同じエピトープを結合する。
さらなる特定の側面によれば、バリアント抗体は親抗体と同じ結合部位を含む。
機能活性バリアント抗体は、VHまたはVL配列のいずれかにおいて異なるか、あるいは共通のVHおよびVL配列を共有し、それぞれのFRに修飾を含む可能性がある。親抗体から変異形成により誘導されるバリアント抗体は、当技術分野で周知の方法により製造できる。
【0066】
代表的な親抗体を後記の実施例のセクションならびに図1(表1)および図2に記載する。具体的には、抗体は表1または図2に挙げる配列を特徴とする親抗体の機能活性誘導体である。1以上の修飾CDR配列をもつバリアント、および/または1以上の修飾FR配列(たとえば、FR1、FR2、FR3またはFR4の配列)もしくは修飾された定常ドメインをもつバリアントを工学的に作製できる。
【0067】
たとえば、機能活性バリアント抗体は変異形成、具体的には親和性成熟および/またはヒト化により得ることができる。バリアント抗体は親抗体の共通のCDR配列CDR1〜6または共通のVHおよびVL配列をなお共有することができるけれども、それぞれのFRまたはCDR配列における修飾をもつ機能活性であるバリアント抗体または抗体ドメインを製造することも可能である。
【0068】
親抗体の代表的バリアント抗体は、CDR1〜CDR6のいずれかに少なくとも1つの点変異、および/またはFR配列のいずれかに少なくとも1つの点変異を含み、好ましくはその抗体は親抗体と同じエピトープを結合する特異性をもつ。
【0069】
ある側面において、本発明はそのような機能活性バリアント抗体、好ましくはモノクローナル抗体、最も好ましくはヒト化またはヒト抗体であって、重鎖および軽鎖を含み、軽鎖もしくはVL可変領域またはそれぞれのCDRが、親抗体、すなわち8D5−1G10もしくは4D5−D4と表示される抗体または表1もしくは図2に挙げる他の抗体から、少なくとも1つのFRまたはCDR配列の修飾により誘導されたアミノ酸配列を含むものを提供する。
【0070】
本発明はさらに、対象における感染を制限するかまたはその感染から生じる病状を軽減するのに有効な量の抗体を対象に投与することを含む、クレブシエラ・ニューモニエの感染または定着のリスクをもつかまたはそれを伴う対象の処置に使用するための、好ましくは原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎のいずれかを治療または予防するための、本発明の抗体を提供する。
【0071】
したがって、本発明はさらに、対象における感染を制限するかまたはその感染から生じる病状を軽減するのに有効な量の抗体を対象に投与することを含む、クレブシエラ・ニューモニエの感染または定着のリスクをもつかまたはそれを伴う対象を処置する方法、好ましくは原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎のいずれかを治療または予防する方法である。
【0072】
その抗体は、具体的には致死的なエンドトキセミア(内毒素血症)を中和することができる。そのような機能活性は適宜なインビボモデル(精製LPSで攻撃したもの)において判定できる。
【0073】
具体的には、抗体はgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエ、特にMDRクレブシエラ・ニューモニエ、好ましくはMDRクレブシエラ・ニューモニエST258に対する殺細菌活性を提供することができる。
【0074】
特定の側面によれば、本発明の抗体を用いる免疫療法は、たとえば種々の動物モデルにおいて判定して生細菌攻撃に対し効果的に防御できる。
前記抗体は、具体的には、補体仲介殺菌によりgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエに対して有効な可能性があり、たとえばインビトロ血清殺細菌アッセイ(serum bactericidal assay)(SBA)により判定して、たとえば対照試料(抗体無添加または無関係な対照mAbを添加)より少なくとも20%高い殺細菌を伴う。
【0075】
前記抗体は、具体的には、抗体仲介食作用によりgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエに対して有効な可能性があり、たとえばインビトロ オプソニン食作用殺菌アッセイ(opsonophagocytotic killing assay)(OPK)により判定して、たとえば対照試料(抗体無添加または無関係な対照mAbを添加)より少なくとも20%高い装入細菌取込みまたは20%低い最終CFUカウントを伴う。
【0076】
前記抗体は、具体的には、エンドトキシン機能を中和することによりgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエに対して有効であり、たとえばインビトロLALアッセイ、またはtoll様受容体4(TLR4)レポーターアッセイにより判定して、たとえば対照試料(抗体無添加または無関係な対照mAbを添加)と比較して少なくとも20%のエンドトキシン活性低減を伴う。
【0077】
さらなる特定の側面によれば、抗体はヒトおよび非ヒト動物の両方を含めた動物においてターゲットである病原体を中和し、インビボで、好ましくは原発性および続発性の
菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎のいずれかのモデルにおいて発病を阻害する。
【0078】
中和力価を判定するための基準(陽性対照)として、実施例のセクションに記載するいずれかの抗体を使用できる。好ましくは、本発明の抗体の中和力価は本明細書において2D8−A10と呼ぶ抗体のCDR1〜6配列を特徴とする抗体、特に実施例に記載するキメラIgG1抗体と同等であるかまたはそれより高い。
【0079】
本発明はさらに、本発明の抗体を含み、場合により医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含有する、医薬製剤(好ましくは非経口または粘膜用の配合物を含む)を提供する。
【0080】
そのような医薬組成物は、その抗体を唯一の有効物質として、または他の有効物質もしくは有効物質のカクテルとの組合わせで、たとえば少なくとも2または3種類の異なる抗体の組合わせまたはカクテルで含有することができる。
【0081】
本発明によれば、本発明の抗体は具体的には医療、診断または分析用として提供される。
本発明はさらに、診断の目的のための、具体的には対象におけるクレブシエラ・ニューモニエ(特にST258)の感染もしくは定着、または関連疾患、たとえば原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎もしくは髄膜炎の診断のための、本発明の抗体の使用を提供する。
【0082】
具体的には、対象はヒト、特に免疫無防備状態もしくは免疫抑制状態の患者、またはその接触者(contact)である。
具体的には、抗体は本発明に従って対象の生体試料を抗体と接触させることによりその対象におけるgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着をエクスビボで判定するのに使用するために提供され、その際、抗体の特異的な免疫反応が感染または定着を決定する。
【0083】
具体的には、生体試料は体液または組織試料、好ましくは血液試料、糞便試料、皮膚試料、尿試料、脳脊髄液、および呼吸器検体、たとえば気管内吸引物、胸膜液、肺穿刺液、鼻スワブもしくは喀痰、または以上のいずれかに由来するクレブシエラ・ニューモニエ分離株からなる群から選択される試料である。具体的には、体液の試料を特異的免疫反応について検査し、その試料は尿、血液、血液分離物または血液培養物、吸引物、喀痰、挿管対象の洗浄液、および糞便からなる群から選択される。
【0084】
具体的には、生体試料を処理して生体試料に由来するクレブシエラ・ニューモニエ分離株を調製し、その分離株をさらにそれのgal−III遺伝子型もしくは表現型、および/またはgal−III抗原の発現レベルについて解明することができる。細菌分離株を調製するための好ましい調製方法は、細菌の富化および培養工程を採用するものである。
【0085】
具体的には、場合により、マトリックス効果を低減しかつ検査の特異度および感度を増大させるために富化または精製する調製工程に従って生体試料を処理して、試料中のgal−IIIレベルを直接決定する。調製工程には、標準的培養法、たとえば限定ではなく、微生物学実験室でルーティンに実施される標準的な増殖培地における血液培養および固体寒天上での検体培養(表現型決定−すなわち耐性記録(antibiogram)を含む)に従って生物学的検体を培養する工程が含まれる。細菌をCFU拡大のために種々の培地(標準培地および/または化学的に規定した培地;高栄養素、低栄養素、限定増殖培地組成)で継代培養して、病原因子(virulence factor)の発現を増大させることができる。細菌懸濁液を調製し、標準緩衝液中で洗浄して、潜在的なマトリックス効果を排除することができる。
【0086】
具体的には、イムノアッセイ、好ましくはELISA、CIA、RIA、IRMA、凝集アッセイ、免疫クロマトグラフィー、ディップスティックアッセイ(dipstick assay)およびウェスタンブロットのいずれか、または質量分析、核磁気共鳴(NMR)、またはgal−III発現の指標となる対応するDNAもしくはRNAを決定する方法、特に、好ましくは核酸ハイブリダイゼーションアッセイもしくは核酸増幅アッセイを用いてgtr遺伝子に特異的な核酸配列を決定する方法のうち少なくとも1つにより、gal−III抗原を決定する。
【0087】
具体的には、本発明に従った診断使用は、臨床検体から回収した純粋なクレブシエラ・ニューモニエ培養物に由来するクレブシエラ・ニューモニエの血清型をインビトロで決定して、その細菌がgal−III Oタイプのものであるか否かを判定することを表わす。
【0088】
本発明はさらに、下記の構成要素
a)抗体;および
b)さらなる診断試薬;
c)ならびに場合により、抗体および診断試薬のうち少なくとも1つを固定化するための固相
を含む、組成物またはキット状パーツ中に抗体およびさらなる診断試薬を含む、本発明の抗体の診断用製剤を提供する。
【0089】
診断用製剤は、場合により組成物またはキット状パーツ中に本発明の抗体およびさらなる診断試薬を含む。
診断キットは、好ましくは生体試料におけるgal−III発現を判定するための必須成分をすべて含み、場合により一般的または非特異的的な物質または成分、たとえば水、緩衝液または賦形剤を含まない。貯蔵安定キットは、好ましくは少なくとも6か月間、より好ましくは少なくとも1または2年間、貯蔵できる。それは乾燥した(たとえば、凍結乾燥した)成分から構成されてもよく、および/または保存剤を含有してもよい。
【0090】
好ましい診断キットは、パッケージまたはプレパッケージされたユニットとして提供され、それはたとえば構成要素が1つのパッケージのみに収容され、それによりルーティン実験が容易になる。そのようなパッケージは、たとえば一連の生体試料の検査を実施するのに適した1回以上の検査に必要な試薬を収容することができる。キットはさらに、適切には標準または基準対照としてのgal−III抗原製品を収容することができる。
【0091】
診断用組成物は、生体試料との反応混合物中にそのまま使用できる試薬、またはそのような試薬の保存形態、たとえば凍結乾燥;瞬間凍結(たとえば、液体窒素中における)、超低温貯蔵(−70℃および−80℃)、低温貯蔵(−20℃および5℃)および制御された室温(15℃〜27℃)での貯蔵;標準的試料貯蔵、たとえばグリセロールストック(glycerol-stock)、組織パラフィンブロック、(口腔)スワブ、および他の標準的な生体試料貯蔵など、貯蔵安定形態であってもよく、それらの保存形態の試薬を再構成または調製して、そのまま使用できる試薬を得ることができる。そのようなそのまま使用できる試薬は、一般に水溶液、具体的には(生理的)緩衝状態のもの(たとえば、EDTA緩衝化、リン酸緩衝液、HBSS、クエン酸緩衝液など)の形態である。
【0092】
具体的には、さらなる診断試薬は、抗体と、および/または抗体がそれの抗原に結合した反応生成物と、特異的に反応する試薬である。対象においてクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を診断またはモニタリングするイムノアッセイを実施するために、適宜な診断試薬を使用するのが適切である。適宜な診断試薬は、本発明の抗体および/または抗体−抗原免疫複合体に特異的に結合する溶媒、緩衝液、色素、抗凝固剤、リガンドであってもよい。
【0093】
具体的には、本発明は本発明の抗体の診断用製剤を提供し、それは場合により、標識を備えた抗体、および/または標識を備えたさらなる診断試薬、たとえば抗体を、または抗体と各ターゲット抗原との免疫複合体を特異的に認識する試薬、ならびに/あるいは抗体および診断試薬のうち少なくとも1つを固定化するための固相を収容している。
【0094】
抗体または診断試薬を直接または間接的に標識することができる。間接標識は、gal−III抗原に対する抗体または診断試薬との複合体を形成する標識された結合剤を含むことができる。
【0095】
標識は一般に、アッセイにおいて検出できる分子または分子の一部である。代表的な標識は発色団、蛍光色素、または放射性分子である。ある態様において、抗体または診断試薬を検出可能な標識にコンジュゲートさせる;それには、それら自体が検出可能である分子(たとえば、蛍光性部分、電気化学的標識、金属キレートなど)、および間接的に、検出可能な反応生成物の産生によって検出できる分子(たとえば酵素、たとえば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、またはそれ自体が検出可能である特異的結合分子(たとえば、ビオチン、ジゴキシゲニン、マルトース、オリゴヒスチジン、2,4−ジニトロベンゼン、ヒ酸フェニル、ssDNA、dsDNAなど)によって検出できる分子が含まれる。
【0096】
好ましい診断用製剤またはアッセイは、たとえば検査すべき試料から得られるgal−IIIタイプの細菌の、抗体による凝集を検査するために、固相、たとえばラテックスビーズ、金粒子などに固定化した本発明の抗体を含む。
【0097】
本発明はさらに、
a)本発明による抗体を用意し、そして
b)その抗体が被験対象の生体試料中のガラクタン−IIIエピトープと特異的に免疫反応するかどうかを検出し、それによりクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を診断する
ことを含む、対象においてクレブシエラ・ニューモニエ株により起きたクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を診断する方法を提供する。
【0098】
そのような診断は、具体的にはMDRクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着の症例、特にgal−IIIタイプのMDRクレブシエラ・ニューモニエに対する診断に適用される。場合により、診断アッセイは、gal−III抗原とgal−I抗原を識別できるように、gal−IIIおよび/またはgal−Iを結合する異なる特異性および/または親和性を備えた2種類の異なる抗体を伴うことができる。
【0099】
特定の側面によれば、本発明は、本発明の診断薬または本発明の診断法によりクレブシエラ・ニューモニエ、特にMDRクレブシエラ・ニューモニエによる対象の感染を判定するためのコンパニオン診断薬を提供して、そのような感染症に対する療法薬による処置、たとえば本発明の抗体による処置などの免疫療法を用いる処置の基礎を提供する。
【0100】
特定の側面によれば、本発明は、生菌の量が限られている場合にたとえば臨床検体からの遊離LPSを決定することにより、クレブシエラ・ニューモニエ、特にMDRクレブシエラ・ニューモニエによる対象の感染を診断するための高感度ベッドサイド診断薬を提供する。そのようなアッセイの感度は具体的には100ng未満、好ましくは10ng未満のLPSである。
【0101】
本発明はさらに、本発明のいずれかの抗体をコードする、単離された核酸を提供する。
本発明はさらに、本発明の抗体のVHおよび/またはVLを含むタンパク質を発現するコード配列を含む、発現カセットまたはプラスミドを提供する。
【0102】
本発明はさらに、本発明の発現カセットまたはプラスミドを含む宿主細胞を提供する。
本発明はさらに、本発明の抗体を製造する方法であって、その抗体を産生する条件下で本発明の宿主細胞を培養または維持する方法を提供する。
【0103】
特に好ましいものは、宿主細胞が
− 抗体軽鎖を発現するコード配列を内包する本発明のプラスミドまたは発現カセット;および
− 抗体重鎖を発現するコード配列を内包する本発明のプラスミドまたは発現カセット
を含む、宿主細胞およびそのような宿主細胞を用いる製造方法である。
【0104】
さらなる側面によれば、本発明は、本発明の抗体を製造する方法であって、
a)非ヒト動物をクレブシエラ・ニューモニエのgal−III抗原で免疫化し、そして抗体を産生するB細胞を分離し;
b)分離したB細胞から不死化細胞系を形成し;
c)それらの細胞系をスクリーニングして、gal−III抗原および場合により(たとえば、gal−Iと比較してgal−IIIに対する優先的結合を判定する場合には)gal−I抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する細胞を同定し;そして
d)モノクローナル抗体、またはモノクローナル抗体と同じエピトープ結合特異性を備えたヒト化抗体もしくはヒト型抗体、またはその誘導体を製造する
ことを含む方法を提供する。
【0105】
本発明はさらに、
a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体とガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、抗体とエピトープの陽性反応によりその抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法を提供する。
【0106】
本発明はさらに、
a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体とガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、ガラクタン−Iエピトープと対比した、抗体とガラクタン−IIIエピトープの特異的な陽性反応により、その抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法を提供する。
【0107】
本発明はさらに、
a)本発明に従って同定した候補抗体を用意し;
b)候補抗体と同じエピトープ結合特異性を備えた、モノクローナル抗体、またはヒト化もしくはヒト型の候補抗体、またはその誘導体を製造する
ことを含む、本発明の抗体を製造する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1図1.表1:8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、および2D8−A10と呼ばれる抗体のCDR配列(Kabat命名法);図1で用いる命名法は下記の意味をもつ:VH CDR1=CDR1VH CDR2=CDR2VH CDR3=CDR3VL CDR4=CDR4=VL CDR1VL CDR5=CDR5=VL CDR2VL CDR6=CDR6=VL CDR3
図2-1】図2.下記のもののVHおよびVL配列: ・表1のCDR配列およびフレームワーク配列を含むキメラ抗体(マウス可変ドメインをもつ)8E3−E5、9H9−H7、5A4−A7、および2D8−A10 ・ヒト化抗体G3−43、G3−46、G3−77、G3−78、G3−97G3−43 VH: (VH 5A4−A7のCDR配列を含む)G3−43 VL: (VL 5A4−A7のCDR配列を含む)G3−46 VH: (VH 5A4−A7のCDR配列を含む)G3−46 VL: (VL 5A4−A7のCDR配列を含む)G3−77 VH: (VH 9H9−H7のCDR配列を含む)G3−77 VL: (VL 5A4−A7のCDR配列を含む)G3−78 VH: (VH 9H9−H7のCDR配列を含む)G3−78 VL: (VL 5A4−A7のCDR配列を含む)G3−97 VH: (VH 2D8−A10のCDR配列を含む)G3−97 VL: (VL 5A4−A7のCDR配列を含む)VHのFR配列: FR1(CDR1に対してN末端に位置する)、FR2(CDR1とCDR2の間に位置する)、FR3(CDR2とCDR3の間に位置する)およびFR4(CDR3に対してC末端に位置する)VLのFR配列: FR1(CDR4に対してN末端に位置する)、FR2(CDR4とCDR5の間に位置する)、FR3(CDR5とCDR6の間に位置する)およびFR4(CDR6に対してC末端に位置する)
図2-2】同上。
図3図3.クレブシエラ・ニューモニエO1、O2abおよびO2ac O抗原側鎖の構造図および糖鎖組成。本発明に基づいて、すべての場合、ガラクタン−Iサブユニットをガラクタン−IIIサブユニットに置き換えることができる。
図4-1】図4.配列決定されたクレブシエラ・ニューモニエ株のrfb(wb)オペロンの長さ(A)、およびガラクタン−Iをコードする異なるrfb(wb)遺伝子座の遺伝子機構の比較図(B)。黒として表わした遺伝子はClarke et al. (3)により記載されたものを示す。中空矢印はgtr様遺伝子を表わし、それに対し2つのrfb(wb)バリアント間の灰色矢印は保存されていない仮定グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子を表わす。
図4-2】同上。
図5図5.修飾ガラクタン−I(本明細書中でガラクタン−IIIと呼ぶ)反復単位の構造(5)。
図6図6.O1、O2およびO2acのrfb(wb)オペロン中のgtr様遺伝子を検出するPCR反応の結果。約2kbサイズのアンプリコンによりgtr様遺伝子の欠如が確認されるが、約5kbのアンプリコンによりwbbOとhisIの間のgtr様遺伝子の存在が示唆される。
図7図7.D−ガラクタンIII分子を認識するmAb 9H9−H7を用いたイムノブロット。
図8図8.アイソジェン(isogenic)(同質遺伝子)菌株パネルから精製したLPSを用いたイムノブロットにより、gtr遺伝子の存在下でのmAbの反応性が確認される。
図9図9.試験したヒト化mAbのVHおよびVLの組成。ヒト化mAbのCDR領域は指示したキメラ親に由来する。指示したCDR領域をヒトフレームワーク配列中へグラフトした。ヒト化mAbの結合特性が保持されていることを、フローサイトメトリーにより測定したgal−III発現クレブシエラ・ニューモニエの表面染色により確認した(最終欄)。
図10図10.GalN感作した菌血症マウスモデルにおいてキメラ(パネルA)またはヒト化(パネルB)ガラクタン−III特異的mAb(それぞれ1または2μg/マウスの投与量)により誘導された、後続のクレブシエラ・ニューモニエ生菌による致死的攻撃に対する防御。グラフはマウス5匹ずつのグループを用いた2つの別個の実験の結果を合わせたものを示す。
図11図11.濃度1μg/mlのヒト化gal−III特異的mAbのエンドトキシン中和力価。本文中の詳述を参照されたい。
図12図12.選択したヒト化および親キメラgal−III特異的mAbにより示されるエンドトキシン中和力価の用量測定。ベンチマークとしてポリミキシンBによる中和を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0109】
本明細書中で用いる用語“抗体”は、抗体ドメイン(免疫グロブリンの重鎖および/または軽鎖の定常および/または可変ドメインであると解釈される)を含むかまたはそれらからなり、リンカー配列を含むかまたは含まない、ポリペプチドまたはタンパク質を表わすものとする。ポリペプチドは、抗体ドメイン構造体の少なくとも2つのベータ鎖がループ配列により連結したものからなるベータ−バレル構造を含むならば、抗体ドメインであると解釈される。抗体ドメインは天然構造のものであってもよく、あるいはたとえば抗原結合特性または他のいずれかの特性、たとえば安定性または機能特性、たとえばFc受容体であるFcRnおよび/またはFcガンマ受容体への結合を改変するために、変異形成または誘導体化により修飾されていてもよい。
【0110】
本明細書中で用いる抗体は、1以上の抗原またはそのような抗原の1以上のエピトープを結合する特異的結合部位をもち、具体的には下記のものがそれに含まれる:単一の可変抗体ドメイン、たとえばVH、VLもしくはVHHのCDR結合部位;あるいは可変抗体ドメイン対、たとえばVL/VH対、VL/VHドメイン対と定常抗体ドメインを含む抗体、たとえばFab、F(ab’)、(Fab)、scFv、Fv、または完全長抗体の結合部位。
【0111】
本明細書中で用いる用語“抗体”は、特に、下記のものを含むかまたはそれらからなる抗体フォーマットを表わすものとする:単一の可変抗体ドメイン、たとえばVH、VLまたはVHH;あるいは可変および/または定常抗体ドメインの組合わせであって連結配列またはヒンジ領域を含むかまたは含まないもの:これには可変抗体ドメイン対、たとえばVL/VH対、VL/VHドメイン対と定常抗体ドメインを含む抗体、たとえば重鎖抗体、Fab、F(ab’)、(Fab)、scFv、Fv、または完全長抗体、たとえばIgGタイプ(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体が含まれる。用語“完全長抗体”は、少なくとも天然抗体モノマーに一般的にみられるFcドメインおよび他のドメインの大部分を含むいずれかの抗体分子を表わすために使用できる。この句は本明細書中で特定の抗体分子が抗体フラグメントではないことを強調するために用いられる。
【0112】
用語“抗体”は、具体的には単離された形態の抗体を含むものとし、それらは他の抗体、すなわち異なるターゲット抗原に対する抗体または異なる構造アレンジメントの抗体ドメインを含む抗体を実質的に含まない。ただし、単離された抗体は、単離された抗体と、たとえば少なくとも1種類の他の抗体、たとえば異なる特異性をもつモノクローナル抗体または抗体フラグメントとの組合わせを含有する組合わせ製剤に含まれていてもよい。
【0113】
用語“抗体”は、ヒト種を含む動物、たとえばヒト、ネズミ、ウサギ、ヤギ、リャマ、ウシおよびウマを含む哺乳類、または鳥類、たとえばニワトリに由来する抗体に適用されるものとし、この用語は特に、動物由来の配列、たとえばヒトの配列をベースとする組換え抗体を含むものとする。
【0114】
用語“抗体”はさらに、異なる種に由来する配列、たとえばネズミおよびヒトに由来する配列を含む、キメラ抗体に適用される。
抗体に関して用いる用語“キメラ”は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列それぞれの一部が特定の種に由来するかまたは特定のクラスに属する抗体中の対応する配列に対して相同であり、これに対しその鎖の残りのセグメントは他の種またはクラスにおける対応する配列に対して相同である抗体を表わす。一般に、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は哺乳類のある種に由来する抗体の可変領域を模倣し、これに対し定常部は他の種に由来する抗体の配列と相同である。たとえば、非ヒト宿主生物由来の容易に入手できるB細胞またはハイブリドーマを用いて現在既知の供給源から可変領域を誘導し、たとえばヒト細胞製剤に由来する定常領域と組み合わせることができる。
【0115】
用語“抗体”は、さらにヒト化抗体に適用できる。
抗体に関して用いる用語“ヒト化”は、実質的に非ヒト種の免疫グロブリンに由来する抗原結合部位をもち、その分子の残りの免疫グロブリン構造はヒト免疫グロブリンの構造および/または配列をベースとする分子を表わす。抗原結合部位は、定常ドメインに融合した完全可変ドメイン、または相補性決定領域(CDR)のみが可変ドメイン中の適宜なフレームワーク領域にグラフトしたもののいずれを含むこともできる。抗原結合部位は、野生型、またはたとえば1以上のアミノ酸置換により修飾されたもの、好ましくはヒト免疫グロブリンにいっそう近似するように修飾されたものであってもよい。ある形態のヒト化抗体はすべてのCDR配列を保存している(たとえば、マウス抗体由来の6つのCDRすべてを含むヒト化マウス抗体)。他の形態は元の抗体に対して変異した1以上のCDRをもつ。
【0116】
用語“抗体”はさらに、ヒト抗体に適用される。
抗体に関して用いる用語“ヒト”は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域をもつ抗体を含むと解釈される。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(たとえば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異形成により、またはインビボでの体細胞変異により、導入された変異)を、たとえばCDR中に含むことができる。ヒト抗体には、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または1以上のヒト免疫グロブリンについてトランスジェニックな動物から単離された抗体が含まれる。
【0117】
用語“抗体”は、具体的にはいかなるクラスまたはサブクラスの抗体にも適用される。それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体を主要クラスの抗体IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMに配属することができ、これらのうち幾つかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、たとえばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2に分類できる。
【0118】
この用語はさらに、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、具体的には組換え抗体に適用され、この用語には、組換え手段により製造、発現、作製または単離されたすべての抗体および抗体構造体、たとえば動物、たとえばヒトを含めた哺乳類に由来する抗体であって、異なる由来の遺伝子または配列を含むもの、たとえばネズミ、キメラ、ヒト化抗体、またはハイブリドーマ由来の抗体が含まれる。さらなる例は、その抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、または抗体もしくは抗体ドメインの組換えコンビナトリアルライブラリーから単離された抗体、または抗体遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを伴う他のいずれかの手段により製造、発現、作製または単離された抗体を表わす。
【0119】
用語“抗体”は抗体の誘導体、特に機能活性誘導体をも表わすと解釈される。抗体誘導体は、1以上の抗体ドメインもしくは抗体のいずれかの組合わせ、および/または融合タンパク質、すなわち抗体のいずれかのドメインを1以上の他のタンパク質、たとえば他の抗体のいずれかの位置に融合させたもの、たとえばCDRループ、受容体ポリペプチド、ただしリガンド、足場タンパク質、酵素、トキシンなどをも含む結合構造体であると解釈される。抗体の誘導体は、種々の化学的手法、たとえば共有結合、静電相互作用、ジスルフィド結合などにより他の物質に会合または結合させることによって得ることができる。抗体に結合した他の物質は、脂質、炭水化物、核酸、有機もしくは無機の分子、またはそのいずれかの組合わせ(たとえば、PEG、プロドラッグまたは薬物)であってもよい。特定の態様において、抗体は生物学的に許容できる化合物との特異的な相互作用を可能にする追加タグを含む誘導体である。ターゲットへの抗体の結合に対するタグの負の影響が無いかまたは耐容できる限り、本発明に使用できるタグに関する特別な制限はない。適切なタグの例には、His−タグ、Myc−タグ、FLAG−タグ、Strep−tag、カルモジュリン−タグ、GST−タグ、MBP−タグ、およびS−タグが含まれる。他の特定の態様において、抗体は標識を含む誘導体である。本明細書中で用いる用語“標識”は、“標識した”抗体を作製するために抗体に直接または間接的にコンジュゲートさせた検出可能な化合物または組成物を表わす。標識はそれ自体が検出可能であってもよく(たとえば放射性同位体標識または蛍光標識)、あるいは酵素標識の場合は基質である化合物または組成物の化学変化を触媒し、それが検出可能であってもよい。
【0120】
本明細書に記載する好ましい誘導体は抗原結合に関して機能活性であり、好ましくは、たとえばSBA、OPKまたはLALアッセイで判定してクレブシエラ・ニューモニエと戦う効力、あるいは細菌攻撃に対して防御し、またはエンドトキセミアを中和する効力をもつ。
【0121】
具体的には、本発明の抗体から誘導した抗体は、gal−III抗原への差示結合、たとえばgal−III抗原の特異的または選択的な結合において機能活性である、少なくとも1つまたはそれ以上のCDR領域またはそのCDRバリアントを含むことができる。
【0122】
親抗体または親抗体配列、たとえば親CDRまたは親FRから誘導された抗体は、本明細書において特に、たとえばインシリコ(in silico)または組換え工学あるいは化学的な誘導体化または合成により得られた変異体またはバリアントであると解釈される。
【0123】
用語“抗体”は抗体のバリアントをも表わすと解釈され、それには親CDR配列の機能活性CDRバリアントを含む抗体、および親抗体の機能活性バリアント抗体が含まれる。
具体的には、本発明の抗体から誘導される抗体は少なくとも1つまたはそれ以上のCDR領域またはそのCDRバリアント、たとえば重鎖可変領域の少なくとも3つのCDRおよび/または軽鎖可変領域の少なくとも3つのCDRを含み、CDRもしくはFR領域のうち少なくとも1つまたはHCもしくはLCの定常領域に少なくとも1つの点変異をもち、機能活性であり、たとえばgal−III抗原を特異的に結合することができる。
【0124】
用語“バリアント”は特に、たとえば定常ドメインにおいて抗体の安定性、エフェクター機能もしくは半減期を工学操作するために、または可変ドメインにおいてたとえば当技術分野で利用できる親和性成熟法により抗原結合特性を改善するために、たとえば変異形成法、特に特定の抗体におけるアミノ酸配列もしくは領域の欠失、交換、挿入配列導入、またはアミノ酸配列の化学的誘導体化により得られた、変異抗体または抗体フラグメントなどの抗体を表わすものとする。既知のいずれかの変異形成法を使用でき、それには希望する位置においてたとえばランダム化法により得られる点変異が含まれる。ある場合には、位置はランダムに、たとえば抗体配列をランダム化するために可能なアミノ酸または選択した好ましいアミノ酸のいずれかについて選択される。用語“変異形成”は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を変更するために当技術分野で認識されているいずれかの手法を表わす。好ましいタイプの変異形成には、エラープローンPCR(error prone PCR)変異形成、飽和変異形成(saturation mutagenesis)、または他の部位特異的変異形成が含まれる。
【0125】
用語“バリアント”は、具体的には機能活性バリアントを包含するものとする。
本明細書中で用いる、CDR配列の“機能活性バリアント”という用語は、“機能活性CDRバリアント”であると解釈され、本明細書中で用いる、抗体の“機能活性バリアント”という用語は、“機能活性抗体バリアント”であると解釈される。機能活性バリアントは、この配列(親抗体または親配列)を1以上のアミノ酸の挿入、欠失または置換により修飾することから得られる配列、あるいはアミノ酸配列中の1以上のアミノ酸残基またはヌクレオチド配列内のヌクレオチドを、すなわち配列の一端または両端の、たとえばCDR配列においてN末端および/またはC末端の1、2、3または4個のアミノ酸、および/または中心の1、2、3または4個のアミノ酸(すなわち、CDR配列の中央)を化学的に誘導体化することから得られる配列であって、その修飾がこの配列の活性に影響しないもの、特に損なわないものを意味する。選択したターゲット抗原に対する特異性をもつ結合部位の場合、これが変化する可能性、たとえば特定のエピトープに対する微細な特異性、親和性(アフィニティー)、アビディティー、KonまたはKoff速度などが変化する可能性はあるけれども、抗体の機能活性バリアントはなお前決定した結合特異性をもつであろう。たとえば、具体的には親和性成熟抗体は機能活性バリアント抗体であると解釈される。したがって、親和性成熟抗体における修飾されたCDR配列は機能活性CDRバリアントであると解釈される。
【0126】
具体的には、本発明の抗体の機能活性バリアントはクレブシエラ・ニューモニエのgal−III抗原を結合する効力および他の抗原と対比してgal−III抗原に優先的に結合する特異性または選択性をもち、たとえばクレブシエラ・ニューモニエのgal−IIIに結合し、gal−I抗原には結合しないか、またはgal−I抗原を有意には結合せず、および/またはクレブシエラ・ニューモニエの他の抗原には結合しない。
【0127】
機能活性バリアントは、たとえば親抗体の配列を変化させることにより得ることができる;たとえば、表1および図2に挙げるいずれかの抗体におけると同じ結合部位を含むけれども結合部位以外の領域に修飾を伴う抗体、またはそのような親抗体から結合部位内ではあるけれども抗原結合性を損なわない修飾により誘導される抗体であって、好ましくは親抗体と実質的に同じ生物活性または改善すらされた活性を備えた抗体;それには、クレブシエラ・ニューモニエのgal−III抗原を特異的または選択的に結合する能力、たとえばクレブシエラ・ニューモニエのgal−IIIに結合し、gal−I抗原には結合しないか、またはgal−I抗原を有意には結合せず、および/またはクレブシエラ・ニューモニエの他の抗原には結合しない能力が含まれる。場合により、機能活性バリアントはさらにSBAアッセイにおける中和効力および/または補体仲介殺菌効力を含み、および/または場合によりさらにOPKアッセイにおける抗体仲介食作用の効力を含み、および/または場合によりさらにLALアッセイにおけるエンドトキシン中和機能を含み、たとえばターゲットである(MDR)クレブシエラ・ニューモニエに対する特異的結合アッセイまたは機能試験により判定して実質的に同じ生物活性を備えている。
【0128】
本明細書中で用いる用語“実質的に同じ生物活性”は、匹敵する抗体または親抗体について判定した活性の少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、たとえば少なくとも100%、または少なくとも125%、または少なくとも150%、または少なくとも175%、またはたとえば200%に及ぶ活性である実質的に同じ活性、またはよりいっそう高い活性により示される活性を表わす。
【0129】
本明細書に記載する好ましいバリアントまたは誘導体は抗原結合に関して機能活性であり、好ましくはクレブシエラ・ニューモニエのgal−III抗原を特異的に結合する効力をもち、他の抗原には結合せず、たとえばクレブシエラ・ニューモニエのgal−IIIに結合し、gal−I抗原には結合しないかまたはgal−I抗原を有意には結合せず、あるいはgal−Iと対比してgal−III抗原を優先的に結合し、あるいはgal−I株に対して形成された現在のポリクローナルタイピング血清と比較してgal−IIIをより高い親和性で結合する。好ましいバリアントは少なくとも2 log、好ましくは少なくとも3 logのKd値の差でクレブシエラ・ニューモニエの他の抗原には結合せず、場合によりさらにSBAアッセイにおいてたとえばその抗体を含まない対照試料と対比して有意の細菌数低減を達成する補体仲介殺菌効力を含み、および/または場合によりさらにOPKアッセイにおいてたとえばその抗体を含まない対照試料と対比して有意の細菌数低減を達成する抗体仲介食作用の効力を含み、および/または場合によりさらにLALまたはTLR4シグナル伝達アッセイにおいてたとえばその抗体を含まない対照試料と対比して有意のエンドトキシン活性低減を達成するエンドトキシン中和機能を含み、たとえばターゲットであるクレブシエラ・ニューモニエに対する特異的結合アッセイまたは機能試験により判定して実質的に同じ生物活性を備えている。種々のアッセイにおける有意の活性低減は、一般に少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%、最大で約100%(±1%)の完全低減に及ぶ低減を意味する。
【0130】
好ましい態様において、親抗体の機能活性バリアントは
a)親抗体の生物活性フラグメントであり、そのフラグメントは親分子の配列の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%、最も好ましくは97%、98%または99%を含む;
b)親抗体から少なくとも1個のアミノ酸の置換、付加および/または欠失により誘導され、その機能活性バリアントは親分子またはそれの一部に対して配列同一性をもつ;たとえば少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、よりさらに好ましくは少なくとも90%、よりいっそう好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%、98%または99%の配列同一性をもつ抗体;および/または
c)親抗体またはその機能活性バリアント、およびさらにそのポリペプチドまたはヌクレオチド配列に対してヘテロロガス(非相同)である少なくとも1個のアミノ酸またはヌクレオチドからなる。
【0131】
本発明の好ましい一態様において、本発明による抗体の機能活性バリアントは本質的に前記のバリアントと同一であるが、それが異なる種の相同配列に由来するという点において、それぞれそれのポリペプチドまたはヌクレオチド配列と異なる。これらは天然のバリアントまたはアナログと呼ばれる。
【0132】
用語“機能活性バリアント”には、天然の対立遺伝子バリアント、および変異体または他のいずれかの非天然バリアントも含まれる。当技術分野で知られているように、対立遺伝子バリアントは(ポリ)ペプチドの別形態であって、そのポリペプチドの生物学的機能を本質的に変化させない1個以上のアミノ酸の置換、欠失または付加をもつことを特徴とする。
【0133】
機能活性バリアントは、ポリペプチドまたはヌクレオチド配列における配列変更により、たとえば1以上の点変異により得ることができ、その際、本発明の組合わせに用いた場合にその配列変更は変化していないポリペプチドまたはヌクレオチド配列の機能を保持または改善する。そのような配列変更には(保存的)置換、付加、欠失、変異および挿入を含めることができるが、これらに限定されない。
【0134】
特定の機能活性バリアントはCDRバリアントである。CDRバリアントは、CDR領域に少なくとも1個のアミノ酸により修飾されたアミノ酸配列を含み、その際、その修飾はアミノ酸配列の化学変化または部分的変更であってもよく、その修飾によりバリアントは非修飾配列の生物学的特性を保持したままである。CDRアミノ酸配列の部分的変更は、1個ないし数個のアミノ酸、たとえば1、2、3、4もしくは5個のアミノ酸の欠失もしくは置換によるもの、または1個ないし数個のアミノ酸、たとえば1、2、3、4もしくは5個のアミノ酸の付加もしくは挿入によるもの、または1個ないし数個のアミノ酸、たとえば1、2、3、4もしくは5個のアミノ酸の化学的誘導体化によるもの、あるいはその組合わせであってもよい。アミノ酸残基における置換は、保存的置換、たとえば1個の疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸に置換するものであってもよい。
【0135】
保存的置換は、それらの側鎖および化学的特性において関連性があるアミノ酸のファミリー内で行なわれるものである。そのようなファミリーの例は、塩基性側鎖、酸性側鎖、非極性脂肪族側鎖、非極性芳香族側鎖、非荷電極性側鎖、小型側鎖、大型側鎖などを備えたアミノ酸である。
【0136】
点変異は、特にポリヌクレオチドの工学操作であって、1以上の単一(不連続)または二重のアミノ酸が異なるアミノ酸に置換もしくは交換され、欠失し、または挿入されている点において、工学操作されていないアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列の発現をもたらすものであると解釈される。
【0137】
好ましい点変異は、同じ極性および/または電荷のアミノ酸の交換を表わす。これに関してアミノ酸は64のトリプレットコドンによりコードされる20種類の天然アミノ酸を表わす。これら20種類のアミノ酸は、中性電荷、正電荷および負電荷をもつものに分類できる:
中性”アミノ酸をそれらのそれぞれの3文字および1文字コードならびに極性と共に以下に示す:
アラニン:(Ala,A) 非極性,中性;
アスパラギン:(Asn,N) 極性,中性;
システイン:(Cys,C) 非極性,中性;
グルタミン:(Gln,Q) 極性,中性;
グリシン:(Gly,G) 非極性,中性;
イソロイシン:(Ile,I) 非極性,中性;
ロイシン:(Leu,L) 非極性,中性;
メチオニン:(Met,M) 非極性,中性;
フェニルアラニン:(Phe,F) 非極性,中性;
プロリン:(Pro,P) 非極性,中性;
セリン:(Ser,S) 極性,中性;
トレオニン:(Thr,T) 極性,中性;
トリプトファン:(Trp,W) 非極性,中性;
チロシン:(Tyr,Y) 極性,中性;
バリン:(Val,V) 非極性,中性;および
ヒスチジン:(His,H) 極性,正(10%) 中性(90%)
”に荷電したアミノ酸は下記のものである:
アルギニン:(Arg,R) 極性,正;および
リジン:(Lys,K) 極性,正
”に荷電したアミノ酸は下記のものである:
アスパラギン酸:(Asp,D) 極性,負;および
グルタミン酸:(Glu,E) 極性,負。
【0138】
本明細書に記載する抗体配列およびホモログに関する“アミノ酸配列同一性パーセント(%)”は、最大の配列同一性パーセントが達成されるように配列をアラインさせ、必要であればギャップを導入した後、保存的置換を配列同一性の一部とみなさずに、特定のポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の百分率と定義される。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するのに必要ないずれかのアルゴリズムを含めて、アラインメントを測定するために適切なパラメーターを決定できる。
【0139】
抗体バリアントは、具体的には、たとえば糖鎖工学により製造された特定のグリコシル化パターンをもつホモログ、アナログ、フラグメント、修飾体またはバリアントであって、機能性であり、機能同等物として作用でき、たとえば特定のターゲットに結合し、機能特性を備えたものを含むと解釈される。
【0140】
本発明の抗体はFcエフェクター機能を示してもよく、示さなくてもよい。作用様式はFcエフェクター機能をもたない中和抗体によって主に仲介されるが、Fcは補体をリクルートし、免疫複合体の形成により循環からターゲット抗原、たとえばトキシンを排除するのを補助する。
【0141】
特定の抗体は活性Fc部分を含まなくてもよく、よって抗体のFc部分を含まないかまたはFcガンマ受容体結合部位を含まない抗体ドメインから構成され、あるいはFcエフェクター機能を低減する修飾、特にADCCおよび/またはCDC活性を無効にするかまたは低減する修飾によりFcエフェクター機能を欠如した抗体ドメインを含む。別の抗体は、Fcエフェクター機能を増大させる修飾、特にADCCおよび/またはCDC活性を増強する修飾を取り込むように工学操作されていてもよい。
【0142】
そのような修飾は、Fcエフェクター機能の低減または増大が達成されるように、変異形成,たとえばFcガンマ受容体結合部位における変異により、または抗体フォーマットのADCCおよび/またはCDC活性を妨げる誘導体もしくは作用剤により行なうことができる。
【0143】
Fcエフェクター機能の有意の低減は、一般にADCCおよび/またはCDC活性により測定して非修飾(野生型)フォーマットの10%未満、好ましくは5%未満のFcエフェクター機能を表わすと解釈される。Fcエフェクター機能の有意の増大は、一般にADCCおよび/またはCDC活性により測定して非修飾(野生型)フォーマットの少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%または50%のFcエフェクター機能増大を表わすと解釈される。
【0144】
抗体配列に関して“糖鎖工学操作された”バリアントという用語は、糖鎖工学操作の結果として改変された免疫原または免疫調節(たとえば、抗炎症)特性、ADCCおよび/またはCDCをもつ、グリコシル化バリアントを表わすものとする。すべての抗体が重鎖定常領域の保存された位置に炭水化物構造を含み、各アイソタイプは異なるアレイのN連結炭水化物構造をもち、それらがタンパク質のアセンブリー、分泌または機能活性に多様に影響を及ぼす。IgG1タイプの抗体は、各CH2ドメインのAsn297に保存されたN連結グリコシル化部位をもつ糖タンパク質である。Asn297に結合した2つの複雑な二アンテナ型(bi-antennary)オリゴ糖はCH2ドメイン間に埋め込まれて、ポリペプチドバックボーンと広範な接点を形成し、それらの存在は抗体がエフェクター機能、たとえば抗体依存性細胞傷害(antibody dependent cellular cytotoxicity)(ADCC)を仲介するために必須である。たとえば、N297をたとえばAに変異させることによりN297のN−グリカンを除去するか、またはT299は、一般に、ADCCが低減した脱グリコシル(aglycosylated)抗体フォーマットを生じる。具体的には、本発明の抗体はグリコシル化もしくは糖鎖工学操作された抗体または脱グリコシル抗体であってもよい。
【0145】
抗体グリコシル化において細胞系間で大きな相異が生じ、異なる培養条件下で増殖させた特定の細胞系には微小な相異すらみられる。細菌細胞における発現は一般に脱グリコシル抗体を生成する。テトラサイクリン調節によるβ(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)、すなわちバイセクティングGIcNAc(bisecting GIcNAc)の形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼの発現を伴うCHO細胞は、改善されたADCC活性をもつと報告された(Umana et al., 1999, Nature Biotech. 17:176-180)。宿主細胞の選択のほかに、抗体の組換え産生に際してグリコシル化に影響を及ぼす要因には、増殖様式、培地配合、培養密度、酸素供給、pH、精製スキームなどが含まれる。
【0146】
用語“抗原結合部位”または“結合部位”は、抗体の抗原結合に関与する部分を表わす。抗原結合部位は、重(“H”)鎖および/または軽(“L”)鎖のN末端可変(“V”)領域、すなわちその可変ドメインのアミノ酸残基により形成される。重鎖および軽鎖のV領域内の“超可変領域”と呼ばれる3つの高度に多様性である範囲が、より保存されたフレームワーク領域として知られるフランキング範囲間に挟まれている。抗原結合部位は結合したエピトープまたは抗原の三次元表面に対して相補的な表面を備えており、超可変領域は“相補性決定領域”、すなわち“CDR”と呼ばれる。CDRに内包されている結合部位を本明細書中では“CDR結合部位”とも呼ぶ。
【0147】
本明細書中で“ターゲット”または“ターゲット抗原”と互換性をもって用いる用語“抗原”は、ターゲット分子全体、またはそのような分子の、抗体の結合部位により認識されるフラグメントを表わすものとする。具体的には、一般に“エピトープ”、たとえばB細胞エピトープまたはT細胞エピトープと呼ばれる、抗原の免疫関連性である下部構造、たとえばポリペプチドまたは炭水化物構造を、そのような結合部位が認識できる。gal−IIIまたはgal−I抗原のような特定の抗原は炭水化物構造体であり、場合により人工的キャリヤー上に付与した単離された抗原として、あるいはそれらの抗原を発現するクレブシエラ・ニューモニエ細胞の形態またはその細胞画分の形態で提供できる。
【0148】
本明細書中で用いる用語“エピトープ”は、特に、抗体の結合部位に対する特異的結合パートナーを完全に構成するかまたは特異的結合パートナーの一部であってもよい分子構造体を表わすものとする。エピトープは炭水化物、ペプチド構造体、脂肪酸、有機物、生化学物質もしくは無機物またはその誘導体、およびそのいずれかの組合わせから構成される可能性がある。エピトープがペプチド構造体、たとえばペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に含まれる場合、それは通常は少なくとも3個のアミノ酸、好ましくは5〜40個のアミノ酸、より好ましくは約10〜20個のアミノ酸を含むであろう。エピトープは線状または立体構造のいずれかのエピトープの可能性がある。線状エピトープはポリペプチドまたは炭水化物鎖の一次配列の単一セグメントから構成される。線状エピトープは連続的でもオーバーラップしていてもよい。
【0149】
立体構造エピトープは、ポリペプチドが折り畳まれて三次構造を形成することによって寄せ集められたアミノ酸または炭水化物から構成され、それらのアミノ酸は線状配列中で必ずしも互いに隣接してはいない。具体的には、ポリペプチド抗原に関して、立体構造または不連続エピトープは、一次配列中では離れていたけれどもポリペプチドが折り畳まれて天然タンパク質/抗原になった際にその分子の表面で調和のとれた構造に組み立てられる2個以上の不連続なアミノ酸残基の存在を特徴とする。
【0150】
本明細書中で用語“エピトープ”は、特に、抗体により認識される単一エピトープ、または少なくとも2つの異なる抗原により共有され、場合により交差反応性抗体により認識される交差反応性エピトープを表わすものとする。
【0151】
用語“発現”は、下記のように解釈される。目的とする発現生成物(たとえば本明細書に記載する抗体)のコード配列および作動可能な状態で連結した制御配列(たとえばプロモーター)を含む核酸分子を、発現の目的に使用できる。これらの配列で形質転換またはトランスフェクトされた宿主は、コードされたタンパク質を産生することができる。形質転換を行なうために、発現系をベクターに含有させることができる;しかし、関連DNAを宿主染色体に組み込むこともできる。具体的には、この用語は、そのベクターにより運ばれて宿主細胞に導入された外来DNAがコードするタンパク質の発現に適した条件下にある宿主細胞および適合するベクターを表わす。
【0152】
コーディングDNAは、特定のポリペプチドまたはタンパク質、たとえば抗体に対するアミノ酸配列をコードするDNA配列である。プロモーターDNAは、コーディングDNAの発現を開始、調節、または他の形で仲介または制御するDNA配列である。プロモーターDNAとコーディングDNAは同じ遺伝子または異なる遺伝子に由来するものであってよく、同じ生物または異なる生物に由来するものであってよい。組換えクローニングベクターはしばしば、クローニングまたは発現のための1以上の複製系、宿主における選択のための1以上のマーカー、たとえば抗生物質耐性、および1以上の発現カセットを含むであろう。
【0153】
本明細書中で用いる“ベクター”は、適切な宿主生物において、クローニングされた組換えヌクレオチド配列、すなわち組換え遺伝子を転写し、それらのmRNAを翻訳するのに必要な、DNA配列と定義される。
【0154】
“発現カセット”は、発現生成物をコードするDNAコーディング配列またはDNAのセグメントであって、既定の制限部位においてベクターに挿入できるものを表わす。カセットの制限部位は、カセットを適正なリーディングフレームに確実に挿入するようにデザインされる。一般に、外来DNAはベクターDNAの1以上の制限部位に挿入され、次いでベクターによって、伝達可能なベクターDNAと一緒に宿主細胞内へ運ばれる。DNAが挿入または付加された、DNAのセグメントまたは配列、たとえば発現ベクターを、“DNA構築体”と呼ぶこともできる。
【0155】
発現ベクターは発現カセットを含み、さらに通常は宿主またはゲノム組込み部位における自己複製のための起点、1以上の選択マーカー(たとえば、アミノ酸合成遺伝子、またはゼオシン、カナマイシン、G418もしくはハイグロマイシンなどの抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子)、多数の制限酵素開裂部位、適切なプロモーター配列および転写ターミネーターを含み、これらの構成要素は作動可能な状態で互いに連結している。本明細書中で用いる用語“ベクター”は、自己複製ヌクレオチド配列およびゲノム組込みヌクレオチド配列を含む。一般的なタイプのベクターは“プラスミド”であり、それは一般に追加(外来)DNAを容易に受け入れることができる二本鎖DNAの自己完結型分子(self-contained molecule)であり、かつ適切な宿主細胞に容易に導入できる。プラスミドベクターは、しばしばコーディングDNAおよびプロモーターDNAを含み、かつ外来DNAの挿入に適した1以上の制限部位をもつ。具体的には、用語“ベクター”または“プラスミド”は、DNAまたはRNA配列(たとえば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入し、それによりその宿主を形質転換し、導入された配列の発現(たとえば、転写および翻訳)を促進することができるビヒクルを表わす。
【0156】
本明細書中で用いる用語“宿主細胞”は、特定の組換えタンパク質、たとえば本明細書に記載する抗体を産生するために形質転換された初代対象細胞およびそのいずれかの子孫を表わすものとする。必ずしもすべての子孫が厳密に親細胞と同一であるとは限らない(環境における故意のまたは意図しない変異または相異のため)が、そのような変異した子孫は最初に形質転換された細胞のものと同じ機能性をその子孫が保持している限りこれらの用語に含まれると解釈すべきである。用語“宿主細胞系”は、組換え遺伝子を発現させて、組換えポリペプチド、たとえば組換え抗体を産生させるために用いる宿主細胞の細胞系を表わす。本明細書中で用いる用語“細胞系”は、特定の細胞タイプの樹立したクローンであって、長期間にわたって増殖する能力を獲得したものを表わす。そのような宿主細胞または宿主細胞系を細胞培養において維持および/または培養して、組換えポリペプチドを産生させることができる。
【0157】
本明細書中で核酸、抗体または他の化合物に関して用いる用語“単離された”または“単離”は、自然状態でそれに付随していたであろう環境から十分に隔離され、それによって“実質的に純粋な”形態で存在する化合物を表わすものとする。“単離された”は、必ずしも他の化合物または物質との人為的もしくは合成による混合物の排除、または基本的活性を妨害しない、たとえば精製不完全のため存在する可能性のある不純物の存在の排除を意味するわけではない。特に、本発明の単離された核酸分子は、自然界に存在しないもの、たとえばコドン最適化した核酸もしくはcDNA、または化学合成したものをも含むものとする。
【0158】
同様に、本発明の単離された抗体は、具体的には、自然界に存在しないもの、たとえば他の抗体または活性物質との組合わせ製剤で提供されるもの(その組合わせは自然界に存在しない)、または天然抗体の最適化もしくは親和性成熟バリアント、または抗体の加工適性を改善するために工学操作されたフレームワーク領域を備えた抗体である。そのような最適化または工学操作により、抗体はその抗体に関して自然界ではみられない1以上の合成配列または特徴を含む。
【0159】
本発明の核酸に関して、用語“単離された核酸”を時に用いる。この用語は、DNAに適用された場合、それが由来する生物の天然ゲノム中でそれが隣接している配列から分離されたDNA分子を表わす。たとえば、“単離された核酸”は、ベクター、たとえばプラスミドベクターもしくはウイルスベクターに挿入された、または原核細胞もしくは真核細胞もしくは宿主生物のゲノムDNAに組み込まれたDNA分子を含むことができる。RNAに適用された場合、用語“単離された核酸”は主に、前記に定義した単離されたDNA分子によりコードされるRNA分子を表わす。あるいは、この用語は、それの自然状態で(すなわち、細胞または組織において)それに付随していたであろう他の核酸から十分に分離されたRNA分子を表わすことができる。“単離された核酸”(DNAまたはRNAのいずれか)はさらに、生物学的手段または合成手段で直接製造され、それの製造中に存在する他の成分から分離された分子を表わすことができる。
【0160】
ポリペプチドまたはタンパク質、たとえば単離された本発明の抗体またはエピトープに関して、用語“単離された”は、具体的には自然状態でそれらに付随する物質、たとえばそれらの自然環境で、または製造がインビトロもしくはインビボで実施される組換えDNA法による場合にはそれらが製造される環境(たとえば、細胞培養)で、それらと共にみられる他の化合物を含まないかまたは実質的に含まない化合物を表わすものとする。単離された化合物に希釈剤または佐剤を配合してもなお実用上の目的では単離されているという可能性がある−たとえば、診断または療法に用いる際にそれらのポリペプチドまたはポリヌクレオチドを医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤と混合することができる。特に、本発明の単離された抗体は単離された純粋な形態で提供され、好ましくは単離された抗体を唯一の活性物質として含む製剤で提供されるので、クレブシエラ・ニューモニエ株に対して形成されたポリクローナル血清製剤とは異なる。ただし、これは単離された抗体を限られた数のさらなる十分に規定された(単離された)抗体を含む組合わせ製剤で提供することを排除しない。単離された抗体を固体、半体または液体キャリヤー、たとえばビーズ上において提供することもできる。
【0161】
用語“中和する”または“中和”は、最も広い意味で用いられ、中和が達成されるメカニズムには関係なく、病原体、たとえばクレブシエラ・ニューモニエが対象に感染するのを阻害するいずれかの分子、または病原体がエンドトキシン産生により感染を促進するのを阻害すること、またはエンドトキシンがそれらの生物活性を発揮するのを阻害することを表わす。中和は、たとえば宿主において粘膜表面におけるクレブシエラ・ニューモニエの定着、無菌状態の身体部位への侵入、および有害な生物学的シグナルの誘発(最悪の場合には敗血症性ショックの誘導)を阻害する抗体により達成できる。
【0162】
厳密な意味で、中和は、特定のLPSがそれのコグネイト受容体(cognate receptor)(たとえば、Toll様受容体−4複合体)に結合してそれにより生物活性を誘発するのを阻害することを意味する。この中和力価は一般に標準アッセイ、たとえばインビトロまたはインビボ中和アッセイ、たとえばLAL試験、またはTLR−4ベースのアッセイで決定され、その際、エンドトキシンの生物活性の阻害はたとえば比色法により測定される。
【0163】
クレブシエラ・ニューモニエを攻撃または中和する抗体は、病原体および病原性反応を妨害し、よって感染を制限もしくは阻止し、および/またはそのような感染から生じる病状を改善し、あるいはクレブシエラ・ニューモニエの病理発生、特に宿主の無菌身体コンパートメント/部位内への播種およびその内部での複製を阻害することができる。これに関して、中和抗体は“防御抗体”であるとも解釈され、これはその抗体が感染物質に対する能動または受動免疫にみられる免疫に関与することを意味する。特に、本明細書に記載する中和または防御抗体は、病原体により誘発される疾患の症状、副作用または進行を阻止し、改善し、治療し、または少なくとも部分的に停止する療法目的のために、たとえば予防または治療のために使用できる。具体的には、防御抗体は、療法適用に伴って、たとえば血清殺細菌活性またはオプソニン食作用活性を誘導することによりクレブシエラ・ニューモニエ生細胞を死滅させ、またはその複製を妨害し、あるいは細菌細胞全体またはそのLPS分子を無菌身体部位から排除する(すなわち、樹立した感染症に投与した場合)ことができる。あるいは、予防的に適用された防御抗体は、上記または他のメカニズムのひとつにより、感染の樹立(すなわち、非無菌部位から無菌の身体コンパートメント内へのクレブシエラ・ニューモニエの拡散)を阻害する。
【0164】
本明細書中で用いる用語“生体試料”は、対象、たとえばヒトから得られるいずれかの材料であって、クレブシエラ・ニューモニエを含有する生体材料を含有するかまたは含有する可能性がある材料を表わすものとする。生体試料は、組織、体液または細胞培養試料であってもよい。本発明に従って使用するための試料の例には、患者試料、たとえば組織または体液、具体的には呼吸器検体、たとえば気管内吸引物、胸膜液、肺穿刺液、鼻スワブもしくは喀痰、血液試料、糞便試料、皮膚および尿試料または脳脊髄液が含まれるが、これらに限定されない。
【0165】
生体試料は一般に、複雑な生体マトリックス、たとえば多数タイプの生体有機小分子を含有する複雑な粘稠な体液、たとえばタンパク性物質に富む粘稠な浸出液を含む。適切な添加剤または抽出法を用いて、試料マトリックスの粘稠成分または固体成分を可溶化および/または破壊することにより試料中のマトリックスに付随する可能性がある非特異的的結合を低減し、および/またはマトリックス粘度を低下させることもできる。マーカーを生物から遊離させ、および/または生体マトリックスを破壊および/または液化する試料調製法を採用できる。分析できる生体マトリックスには、粘液含有試料、たとえば鼻分泌物、喀痰、粘液質、咽頭浸出液、尿道または膣分泌物、およびそのような膜表面の洗浄液が含まれる。
【0166】
適切な試料調製法には、生体マトリックスがアッセイに及ぼす影響を低減する工程が含まれる。そのような工程は、たとえば捕獲、クロマトグラフィー、スピン遠心および透析を含むことができるが、これらに限定されない。
【0167】
対象から得た材料は、細菌分離体の形態、たとえば分離したクレブシエラ・ニューモニエを培養するための細胞培養物または細胞培養産物の形態であってもよい。クレブシエラ・ニューモニエ集団のみを富化するために培地は選択的であってもよく、あるいは非選択的であってもよい。
【0168】
細菌分離株調製は、一般に、クレブシエラ・ニューモニエの増殖を増強する条件に試料を維持してそれにより試料中のクレブシエラ・ニューモニエ集団を富化するインキュベーション工程を伴う。
【0169】
分離株が得られると、たとえばOタイプおよびgal−IIIの発現レベルを決定するために、細菌をさらに生化学的および/または血清学的試験により調べることができる。クレブシエラ・ニューモニエ株を調べるための幾つかのタイピング法がある。これらの方法には一般に、血清型判別、多遺伝子座配列タイピング(multi-locus sequence typing)(MLST)を含む標準的な遺伝関係/系統発生についてのタイピング、またはパルスフィールドゲル電気泳動(Pulsed Field Gel Electrophoresis)(PFGE)が含まれる。
【0170】
本明細書中で用いる用語“ガラクタン−III”(“gal−III”とも呼ばれる)は、ガラクトースポリマーおよび少なくとも1つの式(I)の反復単位を含む構造を含む、クレブシエラ・ニューモニエのLPS O抗原の炭水化物構造体を表わすものとする。そのような反復単位は分枝ガラクトースポリマーを含む;図5を参照。この構造はgal−I抗原のものと類似するが、明らかに異なるものである。Gal−IIIは、本明細書中でgal−I抗原の存在およびgal−III構造体の非存在を特徴とするO2a血清型と類似するけれども明らかに異なる新規な血清型決定因子であると解釈される。
【0171】
gal−IIIを含むそれぞれのO抗原を本明細書中で“gal−III抗原”と呼び、それは本発明のgal−III特異的抗体により認識される“gal−IIIエピトープ”を含む。gal−III抗原はgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエのLPSの外側部分であり、それは1以上の特異的gal−IIIエピトープが内包された炭水化物構造を含む表面アクセス可能な抗原性炭水化物構造体であると解釈される。
【0172】
gal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエの遺伝子型は、具体的にはgtr遺伝子が補足されたrfbgal−I遺伝子座(図4B)、すなわちgal−Iタイプの線状のものと異なる分枝トリ−ガラクトース反復単位の発現に関与する追加gtr遺伝子により伸長したrfb遺伝子座を特徴とする。
【0173】
少なくとも1つのgal−III構造を含むLPS O抗原を特徴とするクレブシエラ・ニューモニエをいずれも本明細書中でgal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエと呼ぶ。gal−III Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエのLPSは、gal−III構造のみ、またはgal−IIIとgal−Iの両方の構造を含む可能性がある。
【0174】
本明細書中で用いる用語“ガラクタン−I”(“gal−I”とも呼ばれる)は、ガラクトースポリマー、および少なくとも1つの式(II)の反復単位を含むけれども式(I)の反復単位を含まない構造を含む、クレブシエラ・ニューモニエのLPS O抗原の炭水化物構造体を表わすものとする。そのような反復単位は線状ガラクトースポリマーを含む。Gal−Iはgal−III抗原を何ら含まないO2a血清型に特徴的である。
【0175】
gal−Iを含むそれぞれのO抗原を本明細書中で“gal−I抗原”と呼び、それは本発明のgal−I特異的抗体により認識される“gal−Iエピトープ”を含む。gal−I Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエの遺伝子型は、具体的にはgtr遺伝子を含まないrfbgal−I遺伝子座を特徴とし、それはgal−IIIタイプの分枝したものとは異なる線状トリ−ガラクトース反復単位の発現に関与する。
【0176】
gal−I抗原はgal−I Oタイプのクレブシエラ・ニューモニエのLPSの外側部分であり、それは1以上の特異的gal−Iエピトープが内包された、gal−III構造を何ら含まない炭水化物構造を含む表面アクセス可能な抗原性炭水化物構造体であると解釈される。
【0177】
本明細書中で用いる“特異的な”結合、認識またはターゲティングは、結合剤、たとえば抗体またはその抗原結合部位が、ヘテロロガスな分子集団中のターゲット抗原またはそれぞれのエピトープに対して明らかな親和性を示すことを意味する。よって、指定した条件下で(たとえば、イムノアッセイ)、結合剤はターゲットgal−III抗原に特異的に結合し、試料中に存在する他の分子に有意量では結合しない。特異的結合は、選択したターゲット同一性、高、中または低親和性(アフィニティー)またはアビディティーに関して、結合が選択的であることを意味する。選択的結合は、通常は結合定数または結合動態が少なくとも10倍の差(少なくとも1 logの差と解釈される)であれば達成され、好ましくはその差は他のターゲットと比較して少なくとも100倍(少なくとも2 logの差と解釈される)、より好ましくは少なくとも1000倍(少なくとも3 logの差と解釈される)である。
【0178】
用語“特異性”は、1以上の分子に結合する結合剤、たとえば交差特異的結合剤に適用されるとも解釈される。少なくとも2つの異なるターゲットまたはそのようなターゲットのエピトープもしくはヌクレオチド配列をターゲティングするか、あるいは少なくとも2つの異なるターゲット上の交差反応性エピトープまたはヌクレオチド配列をターゲティングする好ましい交差特異的(多特異的または交差反応性とも呼ばれる)結合剤は、実質的に類似の結合親和性で、たとえば100倍未満の差もしくは10倍未満の差ですら、または実質的に異なる結合親和性で、たとえば少なくとも10倍もしくは少なくとも100倍の差で、それらのターゲットを特異的に結合する。第1(たとえば、gal−III)および第2(たとえば、gal−I)ターゲットの両方を認識し、第1ターゲットを第2ターゲットより優先的に結合する交差特異的結合剤は、一般に第2ターゲットと対比して第1ターゲットに対して等しい親和性またはより高い親和性を特徴とする;具体的には、その際、第2抗原と対比して第1抗原を優先的に結合する差示結合親和性は、具体的には少なくとも同等または同等より大きく、たとえば少なくとも1.5倍、または少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも4倍、または少なくとも5倍、または少なくとも6倍、または少なくとも7倍、または少なくとも8倍、または少なくとも9倍、または少なくとも10倍高い。そのような差示結合はイムノアッセイ、好ましくはイムノブロッティング、ELISAまたは他の免疫学的方法により判定できる。
【0179】
本発明の好ましい抗体は、gal−III抗原(gal−IIIのみ、またはgal−I抗原と対比してgal−IIIを優先的に結合する)を、高い結合親和性(アフィニティー)、特に高いオン速度および/または低いオフ速度で、あるいは高い結合アビディティーで結合する。抗体の結合親和性は、通常は抗原結合部位の半分が占有される抗体濃度により特徴づけられ、これは解離定数(Kd、またはK)として知られる。通常は、結合剤はKd<10−7Mで、ある場合には、たとえば療法目的には、より高い親和性、たとえばKd<10−8M、好ましくはKd<10−9M、よりいっそう好ましくはKd<10−10Mで、高親和性結合剤とみなされる。
【0180】
さらに、特に好ましい態様において、個々の抗原結合親和性は中等度親和性のもの、たとえば少なくとも2つの抗原に結合する場合はたとえば10−6M未満、最大10−8MのKdをもつものである。
【0181】
中等度親和性の結合剤を、必要であれば好ましくは親和性成熟法と組み合わせた本発明に従って提供することができる。
親和性成熟は、ターゲット抗原に対する親和性が増大した抗体を製造する方法である。当技術分野で利用できる親和性成熟ライブラリーを調製および/または使用するいずれか1以上の方法を、本明細書に開示する発明の種々の態様に従って親和性成熟抗体を作製するために採用できる。代表的なそのような親和性成熟の方法および使用、たとえばランダム変異形成、細菌ミューテーター(mutator)株の継代、部位特異的変異形成、変異ホットスポットターゲティング(mutational hotspots targeting)、倹約変異形成(parsimonious mutagenesis)、抗体シャフリング(shuffling)、軽鎖シャフリング、重鎖シャフリング、CDR1および/またはCDR1変異形成、ならびに本明細書に開示する本発明の種々の態様に従った方法および使用を実施できる親和性成熟ライブラリーを調製および使用する方法には、たとえば下記に開示されたものが含まれる: Prassler et al. (2009); Immunotherapy, Vol. 1(4), pp. 571-583; Sheedy et al. (2007), Biotechnol. Adv., Vol. 25(4), pp. 333-352; WO2012/009568; WO2009/036379; WO2010/105256; US2002/0177170; WO2003/074679。
【0182】
アミノ酸変異形成を含めた、または免疫グロブリン遺伝子セグメントにおける体細胞変異の結果としての、抗体の構造変化に伴って、抗原への結合部位のバリアントが生成し、より大きな親和性について選択された。親和性成熟抗体は、親抗体より数log倍大きい親和性を示す可能性がある。単一の親抗体を親和性成熟させることができる。あるいは、ターゲット抗原に対して類似の結合親和性を備えた抗体のプールを親構造体とみなすことができ、それらを変異させて親和性成熟した単一の抗体またはそのような抗体の親和性成熟したプールを得ることができる。
【0183】
本発明による抗体の好ましい親和性成熟バリアントは、少なくとも2倍の結合親和性増大、好ましくは少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、または好ましくは少なくとも100倍の増大を示す。親和性成熟は、親分子のそれぞれのライブラリーを用いる選択活動に際し、中等度の結合親和性をもつ抗体について採用して、結合親和性Kd<10−8Mの特異的ターゲット結合特性をもつ本発明の抗体を得ることができる。あるいは、本発明による抗体の親和性成熟によって親和性をよりいっそう増大させて、10−9M未満、好ましくは10−10M未満、またはさらには10−11M未満、最も好ましくはピコモル濃度範囲のKdに相当する高い値を得ることができる。
【0184】
ある態様において、結合親和性は親和性ELISAアッセイにより決定される。ある態様において、結合親和性はBIAcore、ForteBioまたはMSDアッセイにより決定される。ある態様において、結合親和性は動力学的方法により決定される。ある態様において、結合親和性は平衡/溶解法により決定される。
【0185】
用語“ 同じ特異性をもつ”、“同じ結合部位をもつ”または“同じエピトープを結合する”の使用は、同等のモノクローナル抗体が同じ、または本質的に同じ、すなわち類似の免疫反応(結合)特性を示し、前選択したターゲット結合配列への結合に対して競合することを示す。特定のターゲットに対する抗体分子の相対的特異性は、競合アッセイ、たとえば Harlow, et al., ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988)に記載されたものにより相対的に決定できる。
【0186】
本明細書中で抗体に関して用いる用語“競合する”は、第1抗体またはその抗原結合性部分が第2抗体またはその抗原結合性部分の結合と十分に類似した様式でエピトープに結合し、したがって第1抗体とそれのコグネイトエピトープとの結合の結果が第2抗体の非存在下での第1抗体の結合と比較して第2抗体の存在下で検出可能なほど低減することを意味する。その逆、すなわち第2抗体がそれのエピトープに結合する場合も第1抗体の存在下で検出可能なほど低減する可能性はあるが、必ずしもそうではない。すなわち、第1抗体は第2抗体がそれのエピトープに結合するのを阻害し、第2抗体は第1抗体がそれ自身のエピトープに結合するのを阻害しないという可能性がある。しかし、それぞれの抗体が他方の抗体とそれのコグネイトエピトープとの結合を検出可能なほど(同じ、より大きい、またはより少ない程度であっても)阻害する場合、それらの抗体はそれらの各エピトープ(単数または複数)への結合に対して互いに“競合する”と言われる。gal−III抗原の結合に対して例示抗体のいずれかと競合する抗体は、特に本発明に包含される。
【0187】
競合は、本明細書中で、競合ELISA分析またはForteBio分析により判定して約30%より大きい相対的阻害を意味する。特定の状況で、たとえば意図する抗原結合機能をもつように設計した新規抗体を選択またはスクリーニングするために競合分析を用いる場合、競合の適切なレベルである基準として、相対的阻害のより高い閾値を設定することが望ましいであろう。よって、たとえば、抗体を十分に競合性であるとみなす前に、競合結合について少なくとも40%、または少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%もしくはさらには少なくとも100%の相対的阻害が検出される基準を設定することができる。
【0188】
本明細書中で用いる用語“診断キット”は、1以上の被分析体またはマーカーの測定/検出を実施して疾患または病状を判定し、あるいは疾患または疾患進行を推定するために、組み合わせまたは混合して使用できるキットまたは一組のパーツを表わす。特に、キットは少なくとも検出分子および/または結合剤を収容し、その検出分子および/または結合剤は被分析体もしくはマーカーまたはそのような被分析体もしくはマーカーの反応生成物を特異的に認識する。さらに、種々の試薬またはツールをキットに収容できる。診断キットは、本発明方法を実施するために有用ないずれかの試薬を含むことができ、それには、マイクロビーズまたは平坦なアレイもしくはウェルなどの基材、バイオマーカー単離のための試薬、特定のターゲットに対する検出分子、核酸の配列決定もしくは増幅のためのプライマーなどの試薬、核酸ハイブリダイゼーションのためのアレイ、検出可能な標識、溶媒もしくは緩衝液など、種々のリンカー、種々のアッセイ成分、遮断剤などが含まれる。
【0189】
キットは診断方法に使用するための指示をも含むことができる。そのような指示は、たとえばキットに収容されたデバイス上に、たとえば診断用の生体試料を調製するための、たとえばマーカーを決定する前に細胞および/またはタンパク質含有画分を分離するためのツールまたはデバイス上に提供することができる。キットは貯蔵安定形態で提供するのが好都合であり、たとえば市販のキットは少なくとも6か月の貯蔵寿命を備えている。
【0190】
特定の診断キットは固体支持体をも含み、それは目的とするマーカーに対する検出分子を含むか、あるいはパターン化したアレイ状に検出分子が固定化されており、好ましくは第1マーカーに対する第1結合試薬を収容した第1領域および第2マーカーに対する第2結合試薬を収容した第2領域を含む。
【0191】
特に、サンドイッチフォーマットを使用できる。たとえば、1以上の結合剤を生体試料との接触前に基材にコンジュゲートさせる。1以上の結合剤を検出分子として作用する検出可能な標識にコンジュゲートさせてもよい。他の態様において、1以上の結合剤を検出可能な標識にコンジュゲートさせる。この構成において、1以上の結合剤を生体試料との接触前に基材にコンジュゲートさせて捕獲剤として用いてもよい。さらに、1以上の結合剤を生体試料との接触前に基材にコンジュゲートさせることができ、および/または1以上の結合剤を検出可能な標識にコンジュゲートさせる。そのような場合、1以上の結合剤は捕獲剤と検出剤のいずれかまたは両方として作用することができる。
【0192】
診断キットは具体的にはイムノアッセイに使用するために提供され、その際、検出分子は被分析体またはマーカーに免疫反応により結合する特異的結合剤である。そのような結合剤は、ターゲット抗原に結合する抗体もしくは抗体フラグメントまたは抗体様骨格であってもよい。
【0193】
適切なイムノアッセイは、ELISA、CIA、RIA、IRMA、凝集アッセイ、イムノクロマトグラフィー、ディップスティックアッセイおよびウェスタンブロットのいずれかである。
【0194】
用語“クレブシエラ・ニューモニエ感染”および“クレブシエラ・ニューモニエ定着”は、下記のように解釈される:クレブシエラ・ニューモニエは腸内細菌科(Enterobacteriaceae)のグラム陰性細菌である。それは遍在性細菌であり、ヒト宿主にも一般に腸または上気道に定着できる。日和見病原体であるため、免疫系によって適正に制御されない場合にはそれはこれらの部位から無菌の身体部位に侵入できる。他の場合には無菌状態であるこれらの部位における無制御な細菌複製は炎症を誘発し、それは大部分がクレブシエラ・ニューモニエから放出されるエンドトキシン(すなわち、LPS)分子により仲介される。菌血症の場合、エンドトキシン分子は敗血症性ショックの引き金となる可能性がある。
【0195】
クレブシエラ・ニューモニエ定着は、対象のある部位にそれらを検出できるほど十分に高い濃度のクレブシエラ・ニューモニエ細菌があるけれどもまだその細菌が徴候または症状を引き起こしていないことを意味する。定着は長期間にわたって持続する可能性があり、消散はその生物に対する免疫応答、その部位における他の生物からの競合、および時には抗微生物薬の使用によって影響される。
【0196】
一般に、クレブシエラ・ニューモニエにより引き起こされる菌血症を既知の一般的な抗細菌療法、たとえば抗生物質、ステロイドおよび非ステロイド系の炎症阻害薬による治療で処置するのに成功する可能性がある。本発明は、クレブシエラ・ニューモニエを特異的に認識する抗体を場合により抗細菌または抗炎症療法と組み合わせて用いる新規免疫療法を提供する。クレブシエラ・ニューモニエ感染症を伴う患者を処置するために用いる代表的な抗生物質は、アミノグリコシド類、セファロスポリン類、アミノペニシリン類、カルバペネム類、フルオロキノン類、チゲサイクリン、コリスチンなどである。
【0197】
多剤耐性(MDR)クレブシエラ・ニューモニエは、特に3クラス以上の抗生物質、たとえば下記の薬剤/グループに対して耐性を示す株であると解釈される:ペニシリン類、セファロスポリン類、カルバペネム類、アミノグリコシド類、テトラサイクリン類、フルオロキノン類、ニトロフラントイン、トリメトプリム(およびそれの組合わせ)、ホスホマイシン(fosfomycin)、ポリミキシン類、クロラムフェニコール、アズトレオナム(azthreonam)、またはチゲサイクリン。
【0198】
最近の抗生物質耐性株の出現に伴って、この性質をもつ菌血症の処置が著しくより困難になった。MDRクレブシエラ・ニューモニエ疾患を発症している患者は、クレブシエラ・ニューモニエ疾患を伴わない患者より入院およびICU滞在が長く、死亡率が高く、ヘルスケアコストが大きい。患者にMDRクレブシエラ・ニューモニエが多量に定着している場合、治療よりむしろ防止、すなわちクレブシエラ・ニューモニエ疾患予防により、患者のケアを改善し、院内感染を減らすことができる。
【0199】
クレブシエラ・ニューモニエ疾患は、具体的にはクレブシエラ・ニューモニエ感染により引き起こされる疾患であると解釈される。そのような疾患には、局所性および全身性の疾患が含まれる。重篤な症例は、たとえば原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎である。
【0200】
本明細書中で用いる用語“組換え体”は、“遺伝子工学操作により製造されたもの、またはその結果”を意味するものとする。組換え宿主は具体的には発現ベクターまたはクローニングベクターを含み、あるいはそれは特にその宿主に対して外来であるヌクレオチド配列を用いて組換え核酸配列を収容するように遺伝子工学的に操作されている。組換えタンパク質は、それぞれの組換え核酸を宿主において発現させることにより製造される。本明細書中で用いる用語“組換え抗体”には、組換え手段で製造、発現、作製または単離された抗体、たとえば下記のものが含まれる:(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子またはそれから作製されたハイブリドーマについてトランスジェニックまたは染色体導入(transchromosomal)状態である動物(たとえば、マウス)から単離された抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、たとえばトランスフェクトーマ(transfectoma)から、単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアル−ヒト抗体ライブラリーまたは抗体の抗原結合性配列のライブラリーから単離された抗体、および(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを伴う他のいずれかの手段で製造、発現、作製または単離された抗体。そのような組換え抗体には、たとえば抗体成熟に際して起きる再配列および変異形成を含むように遺伝子工学操作された抗体が含まれる。本発明によれば、当業者がなしうる範囲の一般的な分子生物学、微生物学および組換えDNA手法を採用できる。そのような手法は文献に十分に説明されている。たとえば、Maniatis, Fritsch & Sambrook, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, (1982)を参照。
【0201】
選択的結合は、当技術分野で知られている組換え抗体最適化法によってさらに改善できる。たとえば、本明細書に記載する免疫グロブリン鎖の可変領域の特定領域に、軽鎖シャフリング、デスティネーション変異形成(destinational mutagenesis)、CDR融合(CDR amalgamation)、ならびに選択したCDRおよび/またはフレームワーク領域の特異的変異形成(directed mutagenesis)を含む1以上の最適化方策を施すことができる。
【0202】
本明細書中で用いる用語“対象”は、温血哺乳動物、特にヒトまたは非ヒト動物を表わすものとする。クレブシエラ・ニューモニエはきわめて重大なヒト病原体であり、動物医薬において出現しつつある関心事でもある。それは広範な非ヒト動物種に存在する。よって、用語“対象”は具体的にはイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ、ブタおよび家禽を含めた動物を表わす。特に、本発明の医療用途またはそれぞれの処置方法は、クレブシエラ・ニューモニエ感染に関連する病状の予防または治療を必要とする対象に適用される。対象は、クレブシエラ・ニューモニエ感染のリスクをもつ患者、または初期もしくは後期疾患を含めた疾患に罹患している患者であってもよい。用語“患者”には、予防処置または治療処置を受けるヒトおよび他の哺乳類対象が含まれる。よって、用語“処置”は予防処置および治療処置の両方を含むものとする。
【0203】
対象は、たとえばクレブシエラ・ニューモニエ病状の予防または治療のために処置される。特に、感染またはそのような疾患の発症もしくは疾患再発のリスクをもつ対象、あるいはそのような感染および/またはそのような感染に関連する疾患を伴う対象を処置する。
【0204】
具体的には、用語“予防”は防止措置を表わし、それは発病の防止または発病のリスクを低減するための予防措置を含むものとする。
具体的には、その処置はその状態の原因物質としてのクレブシエラ・ニューモニエの病的発生を妨害することによるものであってもよい。
【0205】
本明細書中で用いる用語“実質的に純粋な”または“精製した”は、少なくとも50%(w/w)、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%の化合物、たとえば核酸分子または抗体を含む調製物を表わすものとする。純度はその化合物に適した方法(たとえば、クロマトグラフィー法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析など)により測定される。
【0206】
本明細書中で化合物、たとえば本発明の抗体の“有効量”または“十分な量”のいずれかと互換性をもって用いる“療法有効量”という用語は、対象に投与した際に、臨床結果を含む有益または希望する結果を及ぼすのに十分な量または活性であり、したがって有効量またはその同義語はそれが適用される状況に依存する。
【0207】
有効量は、そのような疾患または障害を治療、防止または阻害するのに十分な化合物量を意味するものとする。疾患に関して、本明細書に記載する抗体の療法有効量は、具体的には、クレブシエラ・ニューモニエの病的発生、たとえば粘膜表面における付着および定着、無菌身体部位内での無制御な複製、ならびに細菌産物による宿主細胞傷害の阻害が有益である疾患または状態を治療し、調節し、減弱させ、反転させ、または影響を及ぼすために用いられる。
【0208】
そのような有効量に相当する化合物量は、種々の要因、たとえば投与する薬物または化合物、医薬配合物、投与経路、疾患または障害のタイプ、処置される対象または宿主の素姓などに応じて異なるであろうが、それにもかかわらず当業者がルーティンに決定できる。
【0209】
その必要があるヒト対象に投与される本明細書に記載する抗体の療法有効量は、具体的には0.5〜50mg/kg、好ましくは5〜40mg/kgの範囲、よりいっそう好ましくは最大20mg/kg、最大10mg/kg、最大5mg/kgであってもよいが、たとえば急性病状を処置するためにはより高い用量を処方してもよい。効力の高い抗体を用いる場合、用量はこれよりはるかに低くてもよい。そのような場合、有効量は0.005〜5mg/kg、好ましくは0.05〜1mg/kgの範囲であってもよい。
【0210】
さらに、療法有効量の本発明の抗体による対象の治療または防止計画は、単回投与からなることができ、あるいは一連の適用からなることができる。たとえば、抗体を少なくとも年1回、少なくとも半年に1回、または少なくとも月1回、投与することができる。しかし、他の態様において、特定の処置について週に約1回から約1日1回まで、抗体を対象に投与することができる。処置期間の長さは、多様な要因、たとえば疾患の重症度、急性または慢性疾患、患者の年齢、抗体フォーマットの濃度および活性に依存する。治療または予防のために用いる有効量が特定の治療または予防計画のコースにわたって増加または減少する可能性があることも認識されるであろう。投与量の変更が生じる可能性があり、それは当技術分野で知られている標準的な診断アッセイによって明らかになる。ある場合には、長期投与が必要になる可能性がある。
【0211】
gal−IIIに対して高特異的なモノクローナル抗体(mAb)は、MDRクレブシエラ・ニューモニエ、具体的にはST258系列に属するMDR株の同定のための診断試薬としての大きな可能性をもつ。さらに、特にヒト化された場合、これらのmAbはST258−gal−III株により引き起こされるクレブシエラ・ニューモニエ感染症の予防(たとえば、高リスクグループについて)および治療に用いるのに適切である。
【0212】
gal−IIIとgal−Iの炭水化物構造体はきわめて類似し、相異のない抗原であると考えられていた。MDRクレブシエラ・ニューモニエST258株におけるO抗原合成の遺伝学的バックグラウンドは十分に解明されてはいなかった。rfb(wb)クラスター(グリコシルトランスフェラーゼgtrをコードする)に隣接する特定の遺伝子がgal−III Oタイプの菌株のPCRベースの同定の基礎をなすことは意外であった。
【0213】
O抗原因子ガラクタン−Iをコードするrfb遺伝子クラスター内に不均一性の証拠がある。バリアント間にみられるサイズ差は、gtr(グリコシルトランスフェラーゼ)様遺伝子を保有する約3−kbフラグメントの存在または非存在に由来する。バリアントを識別するために開発されたPCR反応により、すべてのO1およびO2クレブシエラ臨床分離株のうち50%以上、およびすべてのST258株のうち80%以上がgtr様遺伝子座を保有することが明らかになった。
【0214】
本発明の抗体がgal−III抗原を特異的に結合できたことは意外であった。マウスをgtr O2株で免疫化すると抗ガラクタン抗体が誘発され、それはgtr遺伝子座で修飾されたガラクタン−I分子(すなわち、ガラクタン−III抗原)のみを認識することが分かった。この修飾の性質は先に血清型O2(2a、2f、2g)の反復単位として記載された同じ分枝ガラクタン構造と同定されたが、これらの構造が抗原的に異なることは見出されていなかった。本発明は、標準的なハイブリドーマ法により作製されたガラクタン−IIIに対して特異的なmAbを初めて提供する。このmAbが生存O2 gtrクレブシエラ分離株(ST258株を含む)の表面に結合する能力を観察した。ガラクタン−III特異的mAbの防御効果が菌血症および内毒素血症のネズミモデルでみられたことは意外であった。防御作用の推定様式はエンドトキシンの中和であり、それはインビトロ機能アッセイにより確認された。
【0215】
MDRクレブシエラ属菌株により引き起こされる感染症の防止および治療のための療法用モノクローナル抗体の開発を目的として、特異的mAbの分子ターゲットは適切にはクレブシエラにおいて限られた不均質性を示すLPS O抗原である。そのようなO−側鎖は嵩高い莢膜多糖によって完全に遮閉されてはいないので、免疫適性であると考えられる。
【0216】
希望する結合特性を備えた抗体が同定されると、そのような抗体(抗体フラグメントを含む)は、たとえばハイブリドーマ法または組換えDNA技術を含めた当技術分野で周知の方法により製造できる。
【0217】
組換えモノクローナル抗体は、たとえば必要な抗体鎖をコードするDNAを単離し、周知の組換え発現ベクター、たとえば抗体配列をコードするヌクレオチド配列を含む本発明のプラスミドまたは発現カセット(単数または複数)を用いて、発現のために組換え宿主細胞にそのコード配列をトランスフェクトすることにより製造できる。組換え宿主細胞は原核細胞または真核細胞、たとえば前記に述べたものであってもよい。
【0218】
特定の側面によれば、ヌクレオチド配列を遺伝子操作に用いて、抗体をヒト化し、または抗体の親和性もしくは他の特性を改善することができる。たとえば、抗体をヒトの臨床試験および処置に用いる場合、免疫応答を避けるために定常領域を工学操作してヒト定常領域にいっそう近似させることができる。抗体配列を遺伝子操作して、gal−IIIターゲットに対してより大きい親和性、およびクレブシエラ・ニューモニエ、具体的にはMDRクローンST258に対してより大きい有効性を得ることが望ましいであろう。抗体に対して1以上のポリヌクレオチド変化を行なってもなおターゲットgal−III抗原に対するそれの結合能力を維持できることは当業者に明らかであろう。
【0219】
種々の手段による抗体分子の製造は一般に十分に理解されている。たとえばUS Patent 6331415 (Cabillyら)には、抗体を組換え製造するための方法が記載され、その場合、重鎖および軽鎖を同時に単一ベクターから、または2つの別個のベクターから、単一の細胞において発現させている。Wibbenmeyer et al., (1999, Biochim Biophys Acta 1430(2):191 -202)およびLee and Kwak (2003, J. Biotechnology 101:189-198)には、プラスミドを用いて別個の宿主細胞培養物中で発現させて別個に製造した重鎖および軽鎖からモノクローナル抗体を製造することが記載されている。抗体の製造に関する他の種々の手法が、たとえばHarlow, et al., ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1988)に提示されている。
【0220】
所望により、本発明の抗体、たとえば 図1または図2のいずれかの抗体を配列決定し、そのポリヌクレオチド配列を次いで発現または増幅のためにベクター中へクローニングすることができる。抗体をコードする配列を宿主細胞においてベクター内に維持し、その宿主細胞を次いで増殖させ、将来の使用のために凍結することができる。細胞培養における組換えモノクローナル抗体の製造は、当技術分野で既知の手段によるB細胞からの抗体遺伝子のクローニングにより実施できる。
【0221】
他の側面において、本発明は、本発明の組換え抗体の製造をコードする配列を含む単離された核酸を提供する。
抗体をコードする核酸は、いずれか適切な特性をもち、いずれか適切な特徴またはその組合わせを含むことができる。よって、たとえば抗体をコードする核酸はDNA、RNA、またはそのハイブリッドの形態であってもよく、非天然塩基、修飾されたバックボーン、たとえば核酸の安定性を増強するホスホロチオエートバックボーン、または両方を含むことができる。核酸は有利には、ターゲット宿主細胞(単数または複数)における希望する発現、複製および/または選択を増強する特徴を含む本発明の発現カセット、ベクターまたはプラスミドに収容されていてもよい。そのような特徴の例には、複製起点構成要素、選択遺伝子構成要素、プロモーター構成要素、エンハンサーエレメント構成要素、ポリアデニル化配列構成要素、終止構成要素などが含まれ、その多数の適切な例が知られている。
【0222】
本開示はさらに、本明細書に記載するヌクレオチド配列のうち1以上を含む組換えDNA構築体を提供する。これらの組換え構築体は、開示したいずれかの抗体をコードするDNA分子が挿入されたベクター、たとえばプラスミド、ファージミド(phagemid)、ファージまたはウイルスベクターとの組合わせで用いられる。
【0223】
モノクローナル抗体は、培養細胞系により、たとえば組換え真核(哺乳類または昆虫)または原核(細菌)宿主細胞を培養することにより抗体分子を製造する、いずれかの方法を用いて製造される。モノクローナル抗体を製造するのに適した方法の例には、 Kohler et al. (1975, Nature 256:495-497)のハイブリドーマ法、およびヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, 1984, J. Immunol. 133:3001; およびBrodeur et al., 1987, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, (Marcel Dekker, Inc., New York), pp. 51-63)が含まれる。
【0224】
本発明の抗体は、ハイブリドーマ法を用いて同定または入手できる。そのような方法においては、マウスまたは他の適宜な宿主動物、たとえばハムスターを免疫化して、免疫化に用いたタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するかまたは産生できるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化することができる。次いで、適切な融合剤、たとえばポリエチレングリコールを用いてリンパ球を骨髄腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成することができる。
【0225】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されたモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降により、またはインビトロ結合アッセイ、たとえばラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)により判定する。
【0226】
次いでmAbを、それの特異的なgal−III抗原結合についての、またはおそらくgal−I抗原に対比してgal−III抗原を優先的に結合するそれの差示結合親和性についてのさらなる試験、およびたとえば種々の診断または療法目的での抗体の工学操作のために、ハイブリドーマ上清から精製することができる。
【0227】
Gal−III特異的抗体は、ある場合には単一のgal−III抗原に対するスクリーニングから明らかになる。差示結合するクローンを単離する可能性を高めるためには、種々の抗原に対して系統的にスクリーニングすることによる多重選択圧を適用する。特別なmAb選択方策は、gal−IIIおよびgal−I成分または他のクレブシエラ・ニューモニエ抗原を交互に用いる。
【0228】
希望する選択的結合特性を備えた抗体を同定するためのスクリーニング法は、抗体配列またはその抗原結合性配列をディスプレーするライブラリーを用いるディスプレー技術により行なうことができる(たとえば、ファージ、細菌、酵母もしくは哺乳類の細胞;または核酸情報をそれぞれの(ポリ)ペプチドに翻訳するインビトロディスプレーシステムを使用)。ELISA、ウェスタンブロット法、またはフローサイトメトリーを伴う表面染色に基づいて、たとえば標準アッセイを用いて、反応性を査定することができる。
【0229】
単離された抗原(単数または複数)は、たとえば抗体ライブラリー、たとえば酵母ディスプレーされた抗体ライブラリーから抗体を選択するために使用できる。
たとえば、本発明は具体的にはgal−III特異的抗体を提供し、それらはgal−III抗原を結合する特異性を備えた抗体を同定する方法により、たとえば特異的なディカバリーセレクションスキームにより得られる。したがって、gal−IIIターゲットとの反応性を示す抗体を含む抗体ライブラリーをターゲットとの反応性について選択することができる。
【0230】
本発明はさらに、本明細書に記載する抗体および医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含む医薬組成物を提供する。これらの医薬組成物は本発明に従ってボーラス注射もしくは注入として、または連続注入により投与できる。そのような投与手段を容易にするのに適したキャリヤーは当技術分野で周知である。
【0231】
医薬的に許容できるキャリヤーには、一般に、本発明により提供される抗体または関連の組成物もしくは組合わせと生理的に適合するすべての適切な溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などが含まれる。医薬的に許容できるキャリヤーのさらなる例には、無菌水、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそのいずれかの組合わせが含まれる。
【0232】
そのような1側面において、抗体を希望する投与経路に適した1種類以上のキャリヤーと組み合わせることができ、抗体をたとえばラクトース、スクロース、デンプン、アルカン酸のセルロースエステル、ステアリン酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウム塩およびカルシウム塩、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリジン、ポリビニルアルコールと混合し、場合によりさらに好都合な投与のために打錠またはカプセル封入することができる。あるいは、抗体を生理食塩水、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、エタノール、トウモロコシ油、ラッカセイ油、綿実油、ゴマ油、トラガントゴム、および/または種々の緩衝液に溶解することができる。他のキャリヤー、佐剤、および投与様式は医薬技術分野で周知である。キャリヤーには、制御放出材料または遅延材料、たとえばモノステアリン酸グリセリルもしくはジステアリン酸グリセリル単独もしくはろうを含むもの、または当技術分野で周知である他の材料を含めることができる。
【0233】
さらに他の医薬的に許容できるキャリヤーが当技術分野で知られており、たとえばREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCESに記載されている。液体配合物は液剤、乳剤または懸濁液剤であってもよく、賦形剤、たとえば懸濁化剤、可溶化剤、界面活性剤、保存剤およびキレート化剤を含有することができる。
【0234】
本発明の抗体および1種類以上の療法有効薬剤を配合した医薬組成物が考慮される。希望する純度をもつ前記の免疫グロブリンを任意選択的な医薬的に許容できるキャリヤー、賦形剤または安定剤と混合することにより、凍結乾燥配合物または水性液剤の形態で、本発明の抗体の安定配合物を貯蔵のために調製する。インビボ投与に用いるための配合物は、具体的には無菌、好ましくは無菌水性液剤の形態である。これは、無菌濾過膜による濾過または他の方法によって容易に達成される。本明細書に開示する抗体および他の療法有効薬剤を、免疫リポソームとして配合し、および/またはマイクロカプセルに封入することもできる。
【0235】
本発明の抗体を含む医薬組成物の投与は、経口、皮下、静脈内、鼻腔内、耳内、経皮、粘膜、局所(たとえば、ゲル剤、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤など)、腹腔内、筋肉内、肺内(たとえば、吸入法または肺送達システムを採用)、膣、非経口、直腸または眼内を含めた多様な方法で行なうことができる。
【0236】
非経口投与に用いる代表的配合物には、皮下、筋肉内または静脈内注射に適したもの、たとえば無菌の液剤、乳剤または懸濁液剤が含まれる。
1態様において、本発明の抗体は、たとえば疾患の改変または防止用の単剤療法として対象に投与する唯一の療法有効薬剤である。
【0237】
他の態様において、クレブシエラ・ニューモニエ、具体的にはST258系列に属するMDR株をターゲティングするために、本発明の抗体をさらなる抗体とカクテル中で組み合わせ、たとえば、混合物またはキット状パーツ中で組み合わせ、したがってカクテルは、たとえば疾患改変または防止の併用療法として対象に投与される1種類より多い療法有効薬剤を含有する。
【0238】
さらに、本発明の抗体を1種類以上の他の治療薬または予防薬との組合わせで投与することができ、それには標準処置、たとえば抗生物質、ステロイド系および非ステロイド系の炎症阻害薬、および/または他の抗体ベースの療法、たとえば抗細菌薬または抗炎症薬を用いるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0239】
併用療法は特に標準的な計画を用いるもの、たとえばクレブシエラ・ニューモニエ、具体的にはMDRクローンST258による感染を処置するために用いるものである。これには、抗生物質、たとえばチゲサイクリン、コリスチン、ポリミキシンB、およびベータラクタム類を非ベータラクタム系阻害薬と組み合わせたものを含めることができる。
【0240】
併用療法において、抗体を混合物として、または1種類以上の他の療法計画と併せて、たとえば併用する療法の前、同時または後に投与することができる。
本発明の抗体またはそれぞれの医薬製剤の生物学的性質を、エクスビボで細胞、組織および生物全身実験において解明することができる。当技術分野で知られているように、疾患もしくは疾患モデルに対する処置についての薬物の有効性を測定するために、または薬物の薬物動態、薬力学、毒性および他の特性を測定するために、薬物をしばしばインビボで、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルを含めた動物において試験する。それらの動物を疾患モデルと呼ぶことができる。療法薬はしばしばマウスにおいて試験され、それにはヌードマウス、SCIDマウス、異種移植マウス、およびトランスジェニックマウス(ノックインおよびノックアウトを含む)が含まれるが、これらに限定されない。そのような実験により、適宜な半減期、エフェクター機能、(交差−)中和活性、および/または能動もしくは受動免疫療法に際しての免疫応答性を備えた治療薬または予防薬として用いる抗体の力価を決定するための有意義なデータを得ることができる。いずれかの生物、好ましくは哺乳類を試験に使用できる。たとえば、霊長類であるサルはヒトに対するそれらの遺伝学的類似性のため適切な療法モデルとなることができ、よって被験薬または組成物の有効性、毒性、薬物動態、薬力学、半減期、または他の特性を試験するために使用できる。薬物として承認されるためにはヒトにおける試験が最終的には要求されるので、もちろんこれらの実験も考慮する。よって、本発明の抗体およびそれぞれの療法用組成物をヒトにおいて試験して、それらの治療または予防効果、毒性、免疫原性、薬物動態、および/または臨床特性を判定することができる。
【0241】
以下の定義の主題を本発明の態様とみなす:
1. エピトープがガラクタン−III反復単位に内包されており、そのガラクタン−III反復単位が式(I)
【0242】
【化3】
【0243】
の分枝ガラクトースホモポリマーであるクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のリポ多糖(LPS) O抗原構造体のガラクタン−IIIエピトープを特異的に認識する、単離された抗体。
【0244】
2. ガラクタン−Iエピトープに対比してガラクタン−IIIエピトープに優先的に結合するか、あるいはガラクタン−Iエピトープと交差反応しない抗体であって、ガラクタン−Iエピトープがクレブシエラ・ニューモニエのLPS O2a抗原構造体のガラクタン−I反復単位に内包されており、そのガラクタン−I反復単位が式(II)
【0245】
【化4】
【0246】
の線状ガラクトースホモポリマーである、定義1に記載の抗体。
3. ガラクタン−IIIエピトープが多剤耐性(MDR)クレブシエラ・ニューモニエ、特にMDRクローンST258のものである、定義1または2に記載の抗体。
【0247】
4. 10−7M未満、好ましくは10−8M未満、よりいっそう好ましくは10−9M未満のKdでガラクタン−IIIエピトープを結合する親和性を有する、定義1〜3のいずれか1つに記載の抗体。
【0248】
5. ガラクタン−IIIエピトープを発現しているクレブシエラ・ニューモニエ株のエンドトキシンを中和する、定義1〜4のいずれか1つに記載の抗体。
6. ガラクタン−IIIエピトープを発現しているクレブシエラ・ニューモニエ株のエンドトキシンを中和し、その際、中和力価が少なくとも、Kabatの命名法に従った
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
を含む基準抗体の力価である、定義1〜5のいずれか1つに記載の抗体。
【0249】
7. 菌株が、gtr遺伝子を内包するrfbgal−I遺伝子座を特徴とする、定義5または6に記載の抗体。
8. MDRクレブシエラ・ニューモニエ クローンST258を認識する、定義5〜7のいずれか1つに記載の抗体。
【0250】
9. 完全長モノクローナル抗体、その抗体フラグメントであって結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含むもの、または結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質であり、特に抗体がランダム化または人工アミノ酸配列を含む非天然抗体である、定義1〜4のいずれか1つに記載の抗体。
【0251】
10. ヒト、ヒト化、キメラまたはネズミ由来のものである、定義1〜9のいずれか1つに記載の抗体。
11. モノクローナル抗体である、定義1〜10のいずれか1つに記載の抗体。
【0252】
12. 少なくとも、Kabatのナンバリングシステムに従って表示された表1に挙げるCDR1〜CDR3配列のいずれかまたはその機能活性CDRバリアントを特徴とする抗体重鎖可変領域(VH)を含む、定義1〜11のいずれか1つに記載の抗体。
【0253】
13.
A)グループメンバーi)〜iv)からなるグループから選択される抗体
i)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 1のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 2のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 3のアミノ酸配列からなるCDR3;
ii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 4のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 5のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 6のアミノ酸配列からなるCDR3;
iii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 7のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 8のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 9のアミノ酸配列からなるCDR3;
iv)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 10のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 11のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 12のアミノ酸配列からなるCDR3;
または
B)Aのグループメンバーのいずれかである親抗体の機能活性バリアントであって、親抗体のCDR1、CDR2またはCDR3のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む抗体
である、定義12に記載の抗体。
【0254】
14. 図2に示すVH配列のいずれかから選択されるVHアミノ酸配列を含む、定義12または13に記載の抗体。
15. さらに、Kabatのナンバリングシステムに従って表示された表1に挙げるCDR4〜CDR6配列のいずれかまたはその機能活性CDRバリアントを含む抗体軽鎖可変領域(VL)を含む、定義12〜14のいずれか1つに記載の抗体。
【0255】
16.
A)グループメンバーi)〜iv)からなるグループから選択される抗体
i)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 13のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 14のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 15のアミノ酸配列からなるCDR6;
ii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 16のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
iii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 20のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
iv)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
または
B)Aのグループメンバーのいずれかである親抗体の機能活性バリアントであって、親抗体のCDR4、CDR5またはCDR6のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む抗体
である、定義15に記載の抗体。
【0256】
17. 図2に示すVL配列のいずれかから選択されるVLアミノ酸配列を含む、定義16に記載の抗体。
18.
a)表1に挙げるいずれかの抗体のCDR1〜CDR6配列;または
b)図2に示すいずれかの抗体のVHおよびVL配列
を含み、あるいは
c)a)〜c)の配列を特徴とする親抗体の機能活性バリアントであり、
好ましくは、その際、
i.機能活性バリアントは、親抗体のCDR1〜CDR6のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む;および/または
ii.機能活性バリアントは、VHおよびVL配列のいずれかのフレームワーク領域に少なくとも1つの点変異を含む;
ならびに、さらに
iii.機能活性バリアントは、親抗体と同じエピトープを結合する特異性を有する;および/または
iv.機能活性バリアントは、親抗体のヒト、ヒト化、キメラもしくはネズミおよび/または親和性成熟バリアントである;
定義12〜17のいずれか1つに記載の抗体。
【0257】
19. 表1に挙げるいずれかのCDR配列の機能活性CDRバリアントを含み、機能活性CDRバリアントが下記のうちの少なくとも1つであり:
a)親CDR配列中に1、2または3つの点変異を含む;および/または
b)親CDR配列の4つのC末端または4つのN末端または4つの中心アミノ酸位置のいずれかに1または2つの点変異を含む;および/または
c)親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性を含む;
好ましくは、機能活性CDRバリアントは4または5個未満のアミノ酸からなるいずれかのCDR配列中に1または2つの点変異を含む、
定義1〜18のいずれか1つに記載の抗体。
【0258】
20. 対象における感染を制限するかまたはその感染から生じる病状を軽減するのに有効な量の抗体を対象に投与することを含む、クレブシエラ・ニューモニエの感染または定着のリスクをもつかまたはそれを伴う対象の処置に使用するための、好ましくは原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎のいずれかを治療または予防するための、定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体。
【0259】
21. 定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体を含み、場合により医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含有する、好ましくは非経口または粘膜用の配合物を含む医薬製剤。
【0260】
22. 対象においてクレブシエラ・ニューモニエの感染もしくは定着、または原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎もしくは髄膜炎などの関連疾患を診断するための、定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体の使用。
【0261】
23. 対象が免疫無防備状態もしくは免疫抑制状態の患者またはその接触者である、定義22に記載の使用。
24. 下記の構成要素
a)抗体;および
b)さらなる診断試薬;
c)ならびに場合により、抗体および診断試薬のうち少なくとも1つを固定化するための固相
を含む、組成物またはキット状パーツ中に抗体およびさらなる診断試薬を含む、定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体の診断用製剤。
【0262】
25. さらなる診断試薬が、抗体と、および/または抗体がそれの抗原に結合した反応生成物と、特異的に反応する診断用の標識または試薬である、定義24に記載の診断用製剤。
【0263】
26.
a)定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体を用意し、そして
b)その抗体が被験対象の生体試料中のガラクタン−IIIエピトープと特異的に免疫反応するかどうかを検出し、それによりクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を診断する
ことを含む、対象においてクレブシエラ・ニューモニエ株により起きたクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を診断する方法。
【0264】
27. 生体試料が、体液または組織試料、好ましくは血液試料、糞便試料、皮膚試料、尿試料、脳脊髄液、および呼吸器検体、たとえば気管内吸引物、胸膜液、肺穿刺液、鼻スワブもしくは喀痰、または以上のいずれかに由来するクレブシエラ・ニューモニエ分離株からなる群から選択される試料である、定義26に記載の方法。
【0265】
28. 定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体をコードする、単離された核酸。
29. 定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体のVHおよび/またはVLを含むタンパク質構築体またはタンパク質を発現するコード配列を含む、発現カセットまたはプラスミド。
【0266】
30. 定義29に記載の発現カセットまたはプラスミドを含む宿主細胞。
31. 定義30に記載の宿主細胞をその抗体を産生する条件下で培養または維持する、定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体を製造する方法。
【0267】
32.
a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体と定義1に定めたガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、抗体とエピトープの陽性反応によりその抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法。
【0268】
33.
a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体と定義1に定めたガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、ガラクタン−Iエピトープと対比した、ガラクタン−III抗体とエピトープの特異的な陽性反応により、その抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法。
【0269】
34.
a)定義32または33に従って同定した候補抗体を用意し;そして
b)候補抗体と同じエピトープ結合特異性を備えた、モノクローナル抗体、またはヒト化もしくはヒト型の候補抗体、またはその誘導体を製造する
ことを含む、定義1〜19のいずれか1つに記載の抗体を製造する方法。
【0270】
本発明を下記の例によってさらに説明するが、本発明はそれらに限定されない。
【実施例】
【0271】
実施例1:新規ガラクタン構造の遺伝学的バックグラウンドの同定:
ガラクタン−I特異的rfb(wbとしても知られる)クラスターの最初の記載(3)以来、幾つかの完全ゲノム配列が得られるようになった。rfbクラスターは常に2つの保存された遺伝子(ugeおよびhisI)の間に組み込まれているので、rfb遺伝子座の厳密なサイズを決定できた。インシリコ分析により2つの異なる長さのrfbオペロンが明らかになった(図4A)。これらの配列の詳細な分析(図4B)により、rfbクラスター内にClarkeら(3)が同定していない追加遺伝子があることが明らかになった。
【0272】
短い方の完全長rfbオペロンですらClarkeらが記載したものより約2kb長く、仮説グリコシルトランスフェラーゼファミリーのタンパク質と注釈される追加遺伝子を含む。この遺伝子が長いrfbオペロンと短いrfbオペロンの間に示す相同性は乏しい。この遺伝子を含まないクローン化したクラスターがガラクタン−I合成を再建すれば(5)、この遺伝子はガラクタン−I発現に必ずしも必要ではないと思われる。
【0273】
長い方の形態のrfb遺伝子座には、反対側のDNA鎖上に1つのオペロンに組織化された3つの遺伝子を含む追加の3kb領域がある。これらの遺伝子は、腸内細菌科の種々のメンバーにおいて可動遺伝子エレメント(mobile genetic element)がしばしば保有するグリコシルトランスフェラーゼファミリーに対する高い配列類似性を示す。この種類の水平伝播されたグリコシルトランスフェラーゼは血清型変換において役割を果たし(6)、あるいは株内および株間での表現型多様性を増大させると考えられる。興味深いことに、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)の場合、同一のgtrクラスターがrfbクラスターと連結していない染色体部位に見出された(未発表所見)。したがって、あるクレブシエラ・ニューモニエ株がこのクラスターをクレブシエラ・オキシトカから水平伝達により獲得した可能性がある。
【0274】
長い方のrfb遺伝子座(すなわち、gtr遺伝子を内包するもの)を保有するO2株から精製したO抗原サブユニットの構造は、ガラクタン−I構造と異なる分枝トリガラクトース反復単位を示した(図5)。この構造は先にO2(2a,2f,2g)と呼ばれるO2サブ血清型としてKellyらにより同定された(5)。それの染色体上に空のベクターまたはそのベクターにgtr遺伝子をクローニングしたもののいずれかをトランス相補した(trans-complemented)短いオペロンを保有するO2株の構造解析により、1−4結合での分枝ガラクトースの付加はgtr遺伝子によりコードされることが分かった(後記の実施例3を参照)。
【0275】
先に公表されていたもの(5)と対照的に、大部分の単位はガラクタン−IIIであるけれどもガラクタン−I反復単位のこの修飾は必ずしも完全に化学量論的ではないことが生化学分析により示された。それにもかかわらず、修飾の化学量論は菌株依存性でありかつ発現調節の影響下にある可能性があり、したがってさらなる調査が必要である。
【0276】
実施例2:ガラクタン−IIIの疫学
クレブシエラ・ニューモニエの臨床分離株におけるrfbクラスター内のgtr様遺伝子を検出するために、保存されたwbbOおよびhisI遺伝子(図4Bを参照)にアニールするプライマーを設計した(下記の表2)。
【0277】
【表1】
【0278】
クレブシエラ・ニューモニエのO1、O2およびO2acプロトタイプ株をgtr様遺伝子の存在について上記プライマーで調べた。ゲノムDNAをそれらの菌株からWizard(登録商標)ゲノムDNA精製キット(Promega)で製造業者の指示に従って精製した。PCR反応を、Phusion(登録商標)ハイフィディリティー(High-Fidelity)PCRマスターミックス(Thermo)で、20pmolのフォワードおよびリバースプライマーならびに0.2μlの精製gDNAを含む20μl混合物中に設定した。PCRをTProfessional TRIOサーモサイクラー(Biometra)において下記のプログラムで実施した:
【0279】
【表2】
【0280】
反応混合物を1%アガロースゲルに装填し、GelRed(商標)(Biotium)で視覚化し、ImageQuant(商標) LAS 4000(GE Healthcare)でイメージを取得した(図6)。
【0281】
PCRにより、gtrおよびgtr分離株をO1およびO2株の両方に検出できることが確認された。臨床分離株内のgtrおよびgtr分離株の頻度を明らかにするために、スクリーニングした45のO1および47のO2臨床分離株を異なる地理的由来からスクリーニングした。O1分離株内には分離された27(60%)のgtrおよび18(40%)のgtr分離株が分離され、O2株内には同定された15(32%)のgtrおよび32(68%)のgtr株が同定された。
【0282】
興味深いことに、多剤耐性KPC(Klebsiella pneumoniae carbapenemase(クレブシエラ・ニューモニエ カルバペネマーゼ))産生−固有クローン(endemic clone)ST258に属する大部分の菌株が、ガラクタン−IIIをコードするオペロン(すなわち、gtr遺伝子を内包する長いrfbgal−I遺伝子座)を保有することが見出された。27のST258分離株をPCRにより分析し、さらにデータベースにおいて得られる224のゲノム配列をインシリコ分析した。これらの菌株のうち合計210(83.6%)が、gtr遺伝子を内包する無傷rfbオペロン(すなわち、ガラクタン−III抗原を発現すると予想されるもの)を保有していた。残りの菌株の多くのゲノムがgtr遺伝子の少なくとも一部を含んでいたが、欠失またはトランスポゾン挿入のため無傷ガラクタン−IIIを発現するとは期待されなかった。
【0283】
ガラクタン−II合成の遺伝学的バックグラウンドが最近記載された(4)ので、O1株と2株をゲノム配列の分析のみにより識別できた。しかし、これらのO1特異的決定因子を保有するST258分離株はなかった。さらに、入手したST258株はいずれもガラクタン−II特異的mAbに反応せず、これらの分離株がO2血清グループのものであることが確認された。
【0284】
これらのデータは、クローン系列ST258がガラクタン−III O抗原の発現と強く関連しており、明らかに大部分のST258株においてガラクタン−IIIが唯一のO側鎖決定因子である(すなわち、ガラクタン−III抗原はガラクタン−IIによりキャッピングされない)ことを示唆する。これにより、ガラクタン−IIIは免疫ベースの診断薬および/または療法薬のための抗体に対する魅力的なターゲットになる。
【0285】
実施例3:ガラクタン−IIIに対して特異的なモノクローナル抗体の作製
ネズミモノクローナルmAbを標準的なハイブリドーマ法により、gtr O2(すなわち、gal−III発現性)菌株で免疫化したマウスを用いて作製した。ガラクタン−III抗原に対して特異性を示した4種類のmAbを選択した。これらのmAbの結合がガラクタン−I分子のgtr仲介修飾により影響を受けるかどうかを調べるために、gtrおよびgtr O1およびO2株から精製したLPS分子のパネルを、イムノブロット法により調べた。抗体を1μg/ml濃度に希釈し、抗マウスIgG二次抗体を1:20,000に希釈した。
【0286】
4種類すべてのmAbが同一の結合パターンを示した。1つの代表的mAb(9H9−H7)について得られた結果を図7に示す。1つの菌株(Kp67,列8)以外は、gtr菌株から得られたすべてのO抗原が強く染色され、これに対しgtr LPS分子はいずれもこのmAbによって(他の3種類によっても)認識されなかった。株Kp67はgtr−遺伝子座についてPCR陽性であると認められたが、それは推定gtr−仲介修飾については表現型陰性であると思われる。銀染色ゲルにおける粗面LPS表現型により(すなわち、検出可能なO抗原の欠如により)示唆されるように(データを示していない)、この矛盾の理由はrfbオペロン内の変異に由来する可能性が最も大きい。
【0287】
さらにこれらのmAbの特異性を確認するために、アイソジェン(同質遺伝子)誘導体のパネルについて免疫反応性を調べた(図8)。予想どおり、O2 gtr株から抽出したLPSへの結合の欠如がみられた(図8,列2)。gtr遺伝子を保有するプラスミドを補充すると、強い結合が検出された(図8,列5および6)。
【0288】
実施例4:バイオレイヤー干渉法(BLI)測定
抗体結合特性をバイオレイヤー干渉法(biolayer interferometry)(BLI)により調べた。ビオチニル化D−ガラクタン III多糖抗原(O2 gtrクレブシエラ・ニューモニエ株から精製)をストレプトアビジンセンサー(ForteBio,Pall Life Sciences)に固定化し、前装填したセンサーへのキメラmAb(10μg/mL)の会合を、1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.05% Tween−20を含有するDPBS中で10分間モニターし、続いて同じ緩衝液中で解離させる(1時間)ことにより、抗体結合を測定した。Data Analysis 7ソフトウェア(ForteBio,Pall Life Sciences)を用いてK、konおよびkoff値を決定した。0.05nm未満の応答値を陰性とみなした。
【0289】
、konおよびkoff値を表3にまとめる。すべてのmAbが精製抗原への強いアビジン結合を示し(K 0.1nM〜10nM)、kon値は類似していた(最低と最高のkon値間でわずか3倍の差)。これに対し、mAb 5A4および9H9のkoff値は2D8および8E3のものより約2桁低い。陰性対照抗原への結合はいずれのmAbについてもみられなかった。
【0290】
【表3】
【0291】
実施例5:クレブシエラ生細胞の表面染色
異なるOタイプをもつ幾つかのクレプシエラ属臨床分離株に対する1つの代表的なmAb(9H9−H7)の表面結合をフローサイトメトリーで調べた(表4)。
【0292】
一夜増殖させた細菌を希釈し、中間対数期(OD600=0.5)まで増殖させ、PBS中で洗浄し、表面染色に用いた。2×10個の細菌を、0.5%のBSA+0.0.1%のナトリウムアジドを含有するPBSに再懸濁し、40μg/mL濃度のmAb 9H9−H7により氷上で30分間染色した。BSAおよびナトリウムアジドを含有するPBS緩衝液中で試料を2回洗浄し、4μg/mLのAlexaFluor 488コンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG二次抗体を含有するPBSに再懸濁し、氷上で30分間インキュベートした。洗浄後、5nM SYTO−62色素を含有するPBSに試料を再懸濁し、氷上で10分間インキュベートした後、i−Cyt Eclipseフローサイトメーターで分析した。
【0293】
フロー結果(表4)は、臨床gtrおよびgtr菌株について得られた結果に基づいて、調べたmAbがガラクタン−III(すなわち、gtr陽性菌株)に対する特異性をもつことを確証する。
【0294】
【表4】
【0295】
さらに、一群のST258株への結合を同様に前記に従ってフローサイトメトリーにより決定した(表5)。調べた菌株のうち8/11が4種類すべてのmAbによって強く染色され、1菌株はラフであることが証明され、残り2つの菌株は型別不能な(non-typeable)LPS構造を示した(データを示していない)。これらの菌株はいずれもガラクタン−II特異的mAbに反応しなかった(上記を参照)。
【0296】
【表5】
【0297】
実施例6:種々のガラクタン−III特異的mAbの機能効力の比較
マウス可変領域(重鎖および軽鎖についてそれぞれVHおよびVL)をヒトIgG1およびカッパ定常領域に遺伝子融合させたキメラmAbを作製した。種々の機能アッセイにおいてインビトロおよびインビボで試験した(下記を参照)後、最良のキメラmAbをヒト化処理した。ヒト化は、ネズミフレームワーク領域から重鎖および軽鎖両方のCDR配列を対応する(インシリコ推定)ヒトフレームワーク内へグラフトさせることにより達成された。その結果、これらのヒト化mAbにおいて唯一のマウス由来配列はCDR領域であり、mAbの残部はヒト配列で構成されている。
【0298】
さらに、ヒト化軽鎖を種々のヒト化重鎖と対合させた(軽鎖シャフリング,図9を参照)。興味深いことに、5A4由来のヒト化軽鎖を含むmAbは有意に、より高い効力を示すと思われ、これらの特定の軽鎖CDR領域はあるmAbの卓越した効力に寄与している可能性があることを示唆する。ヒト化mAbの結合を、フローサイトメトリーにより査定した特定細菌の表面染色により確認した(図9)。
【0299】
実施例7:gal−III特異的mAbのインビボでの防御効力
マウス5匹のグループを、キメラ(図10A)またはヒト化(図10B)ガラクタン−III特異的mAbまたは対照としてのアイソタイプマッチした無関係なmAbで腹腔内受動免疫化した。24時間後、マウスを20mgのGalNの腹腔内投与によりエンドトキシンに感作させ、同時に致死量のクレブシエラ・ニューモニエ株#79で攻撃した。死亡率を毎日観察した。
【0300】
試験したすべてのキメラmAbが、1μg/マウス(約50μg/kgの用量に相当)の低い用量で有意の防御を示した(図10A)。mAb 5A4は卓越した防御効力を示し、それはそれのより高い親和性(実施例4)およびインビトロLPS中和力価(後記の実施例8)と良好に相関する。
【0301】
エンドトキシン中和力価に関して最も有効なヒト化mAb(後記の実施例8を参照)を、同じモデルにおいて試験した。すべてのヒト化mAbが5A4由来の軽鎖CDRを保有していたので、キメラmAb 5A4を防御効力の基準とした。図10Bに示すように、大部分のヒト化mAbの卓越した防御効力が保持されていた。これらのヒト化mabは異なる重鎖CDRをもつ(ただし、軽鎖CDRを共有)ので、軽鎖領域が強い防御効力に有意に寄与すると結論できる。
【0302】
実施例8:エンドトキシンのインビトロ中和
クレブシエラ・ニューモニエO2株の高い血清感受性を考慮して、本発明者らは、前記の防御(実施例7)について殺細菌活性ではなくエンドトキシン中和が主な作用様式の可能性があると提唱した。これを実験で確証するために、ガラクタン−III特異的mAbのエンドトキシン中和力価をインビトロで調べた。
【0303】
市販のレポーター細胞系(HEK−Blue(商標)TLR4,Invivogen)を用い、製造業者の指示に従って、精製LPSにより誘発したToll様受容体4(TLR−4)シグナル伝達を検出した。35μlのmAb(HEK Blue(商標)培地中に希釈)を、融解したばかりの25μlの精製LPSと混合した。O2 gtr LPSは菌株PCM−27由来であった(O2 gtr:K27 Polish Collection of Microbes,ポーランド)。原液を0.4ng/ml濃度でHEK Blue(商標)培地中に調製した。混合物を透明96ウェル−ハーフエリア(half-area)プレートに移し、室温で30分間インキュベートした。50μlのHEK−Blue(商標)細胞懸濁液を添加した(約50,000個の細胞/ウェル)。プレートをアルミニウム箔に包み、37℃、5% COで一夜(16〜18時間)インキュベートした。翌日、630nmで光学濃度を測定し、モック(mock)を上回るレポータータンパク質レベル(分泌型胚性アルカリホスファターゼ(secreted embryonic alkaline phosphatase)−SEAP)を計算した。無抗体対照に対比したSEAP誘導の阻害パーセントを種々のmAb濃度において計算し、プロットした。GraphPad Prism 5.0でlog(阻害薬)対 応答−可変勾配非線形回帰分析を用いて50%阻害濃度(IC50)を計算した。陽性対照としてポリミキシンB(硫酸PMB,FLUKA カタログ#81334)を被験mAbと同様に用いた。陰性対照として、無関係なmAbを含めた。
【0304】
ヒト化mAbの中和力価をそれらの親(ヒト化軽鎖はシャッフルされたので、重鎖に関して)キメラmAbと、1ug/ml mAb用量で比較した(図11)。この用量で、キメラmAb 5A4は他のキメラmAbと対比して卓越した中和力価を示した;これはBLIにより測定した親和性(実施例4)と良好に相関する。興味深いことに、それぞれの重鎖系列のヒト化誘導体のうちあるものは、5A4由来のヒト化軽鎖と対合させた場合にキメラ5A4に匹敵する良好な中和を示した。この所見も、5A4軽鎖CDR配列が改善された中和力価に寄与し、よって前記のインビボ防御(実施例7)に寄与している可能性があることを示唆する。
【0305】
この所見をさらに支持するために、それぞれの系列の最良のヒト化mAbおよびそれらの親キメラmAbを同じインビトロ中和アッセイで調べた。図12に示すように、5A4由来の軽鎖CDRを保有するすべてのmAbがポリミキシンB(エンドトキシン結合特性をもつことが知られている小分子抗生物質)のものより優れた中和力価を示し、これに対し残りのmAbはより高い用量でのみ中和を示した。
参考文献
(1) Hansen DS, Mestre F, Alberti S, et al. Klebsiella pneumoniae lipopolysaccharide O typing: revision of prototype strains and O-group distribution among clinical isolates from different sources and countries. J Clin Microbiol 1999 Jan;37(1):56-62.
(2) Trautmann M, Ruhnke M, Rukavina T, et al. O-antigen seroepidemiology of Klebsiella clinical isolates and implications for immunoprophylaxis of Klebsiella infections. Clin Diagn Lab Immunol 1997 Sep;4(5):550-5.
(3) Clarke BR, Whitfield C. Molecular cloning of the rfb region of Klebsiella pneumoniae serotype O1:K20: the rfb gene cluster is responsible for synthesis of the D-galactan I O polysaccharide. J Bacteriol 1992 Jul;174(14):4614-21.
(4) Hsieh PF, Wu MC, Yang FL, et al. D-galactan II is an immunodominant antigen in O1 lipopolysaccharide and affects virulence in Klebsiella pneumoniae: implication in vaccine design. Front Microbiol 2014;5:608.
(5) R.F.Kelly, M.B.Perry, L.L.MacLean, C.Whitfield. Structures of the O-antigens of Klebsiella serotypes 02 (2a,2e), 02 (2a,2e,2h), and 02 (2a,2f,2g) members of a family of related D-galactan O-antigens in Klebsiella spp. Journal of Endotoxin Research 1995;2:131-40.
(6) Allison GE, Verma NK. Serotype-converting bacteriophages and O-antigen modification in Shigella flexneri. Trends Microbiol 2000 Jan;8(1):17-23.
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のリポ多糖(LPS) O抗原構造体のガラクタン−IIIエピトープを特異的に認識する単離された抗体であって、エピトープはガラクタン−III反復単位に内包されており、該ガラクタン−III反復単位が式(I)
【化5】
の分枝ガラクトースホモポリマーである、上記抗体。
[態様2]ガラクタン−Iエピトープに対比してガラクタン−IIIエピトープに優先的に結合するか、あるいはガラクタン−Iエピトープと交差反応せず、ここで、該ガラクタン−Iエピトープはクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)のLPS O2a抗原構造体のガラクタン−I反復単位に内包されており、該ガラクタン−I反復単位が式(II)
【化6】
の線状ガラクトースホモポリマーである、態様1に記載の抗体。
[態様3]ガラクタン−IIIエピトープが多剤耐性(MDR)クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、特にMDRクローンST258のものである、態様1または2に記載の抗体。
[態様4]ガラクタン−IIIエピトープを発現しているクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)株のエンドトキシンを中和し、10−7M未満、好ましくは10−8M未満、よりいっそう好ましくは10−9M未満のKdでガラクタン−IIIエピトープを結合する親和性を有する、態様1〜3のいずれか1に記載の抗体。
[態様5]完全長モノクローナル抗体、その抗体フラグメントであって結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含むもの、または結合部位を内包する少なくとも1つの抗体ドメインを含む融合タンパク質であり、特に抗体がランダム化または人工アミノ酸配列を含む非天然抗体である、態様1〜4のいずれか1に記載の抗体。
[態様6]少なくとも、Kabatのナンバリングシステムに従って表示された表1に挙げるCDR1〜CDR3配列のいずれかまたはその機能活性CDRバリアントを特徴とする抗体重鎖可変領域(VH)を含む、態様1〜5のいずれか1に記載の抗体。
[態様7]A)グループメンバーi)〜iv)からなるグループから選択される抗体
i)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 1のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 2のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 3のアミノ酸配列からなるCDR3;
ii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 4のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 5のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 6のアミノ酸配列からなるCDR3;
iii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 7のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 8のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 9のアミノ酸配列からなるCDR3;
iv)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 10のアミノ酸配列からなるCDR1;および
b)SEQ ID 11のアミノ酸配列からなるCDR2;および
c)SEQ ID 12のアミノ酸配列からなるCDR3;
または
B)Aのグループメンバーのいずれかである親抗体の機能活性バリアントであって、親抗体のCDR1、CDR2またはCDR3のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む抗体
である、態様6に記載の抗体。
[態様8]図2に示すVH配列のいずれかから選択されるVHアミノ酸配列を含む、態様6または7に記載の抗体。
[態様9]さらに、Kabatのナンバリングシステムに従って表示された表1に挙げるCDR4〜CDR6配列のいずれかまたはその機能活性CDRバリアントを含む抗体軽鎖可変領域(VL)を含む、態様6〜8のいずれか1に記載の抗体。
[態様10]A)グループメンバーi)〜iv)からなるグループから選択される抗体
i)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 13のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 14のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 15のアミノ酸配列からなるCDR6;
ii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 16のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
iii)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 20のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
iv)下記のものを含む抗体
a)SEQ ID 19のアミノ酸配列からなるCDR4;および
b)SEQ ID 17のアミノ酸配列からなるCDR5;および
c)SEQ ID 18のアミノ酸配列からなるCDR6;
または
B)Aのグループメンバーのいずれかである親抗体の機能活性バリアントであって、親抗体のCDR4、CDR5またはCDR6のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む抗体
である、態様9に記載の抗体。
[態様11]図2に示すVL配列のいずれかから選択されるVLアミノ酸配列を含む、態様10に記載の抗体。
[態様12]a)表1に挙げるいずれかの抗体のCDR1〜CDR6配列;または
b)図2に示すいずれかの抗体のVHおよびVL配列
を含み、あるいは
c)a)〜c)の配列を特徴とする親抗体の機能活性バリアントであり、
好ましくは、その際、
i.機能活性バリアントは、親抗体のCDR1〜CDR6のいずれかの少なくとも1つの機能活性CDRバリアントを含む;および/または
ii.機能活性バリアントは、VHおよびVL配列のいずれかのフレームワーク領域に少なくとも1つの点変異を含む;
ならびに、さらに
iii.機能活性バリアントは、親抗体と同じエピトープを結合する特異性を有する;および/または
iv.機能活性バリアントは、親抗体のヒト、ヒト化、キメラもしくはネズミおよび/または親和性成熟バリアントである;
態様6〜11のいずれか1に記載の抗体。
[態様13]表1に挙げるいずれかのCDR配列の機能活性CDRバリアントを含み、機能活性CDRバリアントが下記のうちの少なくとも1つであり:
a)親CDR配列中に1、2または3つの点変異を含む;および/または
b)親CDR配列の4つのC末端または4つのN末端または4つの中心アミノ酸位置のいずれかに1または2つの点変異を含む;および/または
c)親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性を有する;
好ましくは、機能活性CDRバリアントは4または5個未満のアミノ酸からなるいずれかのCDR配列中に1または2つの点変異を含む、
態様1〜12のいずれか1に記載の抗体。
[態様14]a)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 1のCDR1配列;および
b.SEQ ID 2のCDR2配列;および
c.SEQ ID 3のCDR3配列;および
d.SEQ ID 13のCDR4配列;および
e.SEQ ID 14のCDR5配列;および
f.SEQ ID 15のCDR6配列;
b)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 4のCDR1配列;および
b.SEQ ID 5のCDR2配列;および
c.SEQ ID 6のCDR3配列;および
d.SEQ ID 16のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
c)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 7のCDR1配列;および
b.SEQ ID 8のCDR2配列;および
c.SEQ ID 9のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
d)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 17のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
e)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 4のCDR1配列;および
b.SEQ ID 5のCDR2配列;および
c.SEQ ID 6のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
f)下記のものを含む抗体:
a.SEQ ID 10のCDR1配列;および
b.SEQ ID 11のCDR2配列;および
c.SEQ ID 12のCDR3配列;および
d.SEQ ID 19のCDR4配列;および
e.SEQ ID 20のCDR5配列;および
f.SEQ ID 18のCDR6配列;
または以上のいずれかの機能活性CDRバリアントであって、gal−III抗原を10−8M未満のKdで結合する親和性を有するもの、
からなる群から選択される、態様1〜12のいずれか1に記載の抗体。
[態様15]対象における感染を制限するかまたはその感染から生じる病状を軽減するのに有効な量の抗体を対象に投与することを含む、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の感染または定着のリスクをもつかまたはそれを伴う対象の処置に使用するための、好ましくは原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎または髄膜炎のいずれかを治療または予防するための、態様1〜14のいずれか1に記載の抗体。
[態様16]態様1〜14のいずれか1に記載の抗体を含み、場合により医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含有する、好ましくは非経口または粘膜用の配合物を含む医薬製剤。
[態様17]対象においてクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の感染もしくは定着、または原発性および続発性の菌血症、肺炎、尿路感染症、肝膿瘍、腹膜炎もしくは髄膜炎などの関連疾患を診断するための、態様1〜14のいずれか1に記載の抗体の使用。
[態様18]対象が免疫無防備状態もしくは免疫抑制状態の患者またはその接触者である、態様17に記載の使用。
[態様19]下記の構成要素
a)抗体;および
b)さらなる診断試薬;
c)ならびに場合により、抗体および診断試薬のうち少なくとも1つを固定化するための固相
を含む、組成物またはキット状パーツ中に抗体およびさらなる診断試薬を含む、態様1〜14のいずれか1に記載の抗体の診断用製剤。
[態様20]さらなる診断試薬が、抗体と、および/または抗体がそれの抗原に結合した反応生成物と、特異的に反応する診断用の標識または試薬である、態様19に記載の診断用製剤。
[態様21]a)態様1〜14のいずれか1に記載の抗体を用意し、そして
b)その抗体が被験対象の生体試料中のガラクタン−IIIエピトープと特異的に免疫反応するかどうかを検出し、それによりクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の感染または定着を診断する
ことを含む、対象においてクレブシエラ・ニューモニエ株により起きたクレブシエラ・ニューモニエの感染または定着を診断する方法。
[態様22]生体試料が、体液または組織試料、好ましくは血液試料、糞便試料、皮膚試料、尿試料、脳脊髄液、および呼吸器検体、たとえば気管内吸引物、胸膜液、肺穿刺液、鼻スワブもしくは喀痰、または以上のいずれかに由来するクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)分離株からなる群から選択される試料である、態様21に記載の方法。
[態様23]態様1〜14のいずれか1に記載の抗体をコードする、単離された核酸。
[態様24]態様1〜14のいずれか1に記載の抗体のVHおよび/またはVLを含むタンパク質を発現するコード配列を含む、発現カセットまたはプラスミド。
[態様25]態様24に記載の発現カセットまたはプラスミドを含む宿主細胞。
[態様26]態様25に記載の宿主細胞をその抗体を産生する条件下で培養または維持する、態様1〜14のいずれか1に記載の抗体を製造する方法。
[態様27]a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体と態様1に定めたガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、抗体とエピトープの陽性反応によりその抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法。
[態様28]a)抗体または抗体産生細胞を含有する試料を用意し;そして
b)試料中の抗体または試料により産生された抗体と態様1に定めたガラクタン−IIIエピトープとの結合を査定し、その際、ガラクタン−Iエピトープと対比して、ガラクタン−III抗体とエピトープの特異的な陽性反応により、その抗体を候補抗体と同定する
ことを含む、候補抗体を同定する方法。
[態様29]a)態様27または28に従って同定した候補抗体を用意し;そして
b)候補抗体と同じエピトープ結合特異性を備えた、モノクローナル抗体、またはヒト化もしくはヒト型の候補抗体、またはその誘導体を製造する
ことを含む、態様1〜14のいずれか1に記載の抗体を製造する方法。
図1
図2-1】
図2-2】
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図4-1】
図4-2】
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