(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記T細胞集団をヒト化抗CD28抗体断片とさらに接触させ、前記抗CD28抗体断片が、配列番号7のCDR1領域、配列番号8のCDR2領域および配列番号9のCDR3領域を含む重鎖可変ドメインと、配列番号10のCDR1領域、配列番号11のCDR2領域および配列番号12のCDR3領域を含む軽鎖可変ドメインとを含み、前記抗CD28抗体断片が、前記抗CD3抗体断片が結合する粒子と同じまたは別々の粒子に結合されている、請求項1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様では、本発明は、抗原CD3に特異的なヒト化抗体またはその断片であって、配列番号1のCDR1領域、配列番号2のCDR2領域および配列番号3のCDR3領域を含む重鎖可変ドメインと、配列番号4のCDR1領域、配列番号5のCDR2領域および配列番号6のCDR3領域を含む軽鎖可変ドメインとを含む、抗体またはその断片を提供する。前記ヒト化抗体またはその断片の様々な実施形態を本明細書で開示する。前記CDRは、FR1、FR2、FR3およびFR4領域を含むフレームワーク配列に埋め込むことができる。配列の順番は、FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4であってもよい。前記ヒト化抗体またはその断片の重鎖可変ドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4を含んでいてもよく、前記フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4は配列番号16のフレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である。前記ヒト化抗体またはその断片の軽鎖可変ドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4を含んでいてもよく、前記フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4は配列番号17のフレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0016】
前記重鎖可変ドメインおよび前記軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域は、逆突然変異を有さないヒト化バリアントと比較して抗体またはその断片の親和性を増加させるためにアミノ酸置換(逆突然変異)を含んでいてもよい。さらに、逆突然変異は、タンパク質構造の安定化または脱安定化によって製造することができる抗体の量に影響を及ぼすことができる。好ましくは、前記重鎖可変ドメインは配列番号16のアミノ酸を含み、前記軽鎖可変ドメインは配列番号17のアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗体またはその断片は、親マウス抗CD3抗体クローンOKT3またはその断片と比較したとき、CD3抗原に少なくとも20%、30%、50%、70%、90%、100%または100%を上回る親和性でCD3抗原に特異的に結合する。
【0017】
別の態様では、本発明は、T細胞のポリクローナル刺激のための方法であって、T細胞集団とヒト化抗CD3抗体またはその断片とを接触させることを含み、前記ヒト化抗CD3抗体およびその断片が配列番号1のCDR1領域、配列番号2のCDR2領域および配列番号3のCDR3領域を含む重鎖可変ドメインと、配列番号4のCDR1領域、配列番号5のCDR2領域および配列番号6のCDR3領域を含む軽鎖可変ドメインとを含み、前記抗体またはその断片が粒子に結合されている、方法を提供する。前記粒子は、500nmから10μmまでの範囲のサイズの固相表面を備えたビーズであってもよい。あるいは、前記粒子はナノマトリックスであってもよく、このナノマトリックスは、a)可動性ポリマー鎖のマトリックス、およびb)可動性ポリマー鎖の前記マトリックスに付着させた前記抗体またはその断片を含み、ナノマトリックスのサイズは1から500nmである。
【0018】
前記抗CD3抗体またはその断片は、抗CD28抗体またはその断片と組み合わせて使用されてもよい。前記抗28CD抗体またはその断片はヒト化されていてもよい。前記抗CD28抗体またはその断片は本明細書で開示したヒト化クローン15E8であってもよい。前記抗CD28抗体またはその断片は、配列番号7のCDR1領域、配列番号8のCDR2領域および配列番号9のCDR3領域を含むヒト化重鎖可変ドメインと、配列番号10のCDR1領域、配列番号11のCDR2領域および配列番号12のCDR3領域を含むヒト化軽鎖可変ドメインとを含んでいてもよい。前記抗CD28抗体またはその断片は粒子に結合されていてもよい。
【0019】
前記抗CD28抗体またはその断片のCDRは、FR1、FR2、FR3およびFR4領域を含むフレームワーク配列に埋め込むことができる。配列の順番は、FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4であってもよい。前記ヒト化抗体またはその断片のヒト化重鎖可変ドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4を含んでいてもよく、前記フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4は配列番号26または配列番号24のフレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0020】
前記ヒト化抗CD28抗体またはその断片のヒト化軽鎖可変ドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4を含んでいてもよく、前記フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4は配列番号25のフレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0021】
前記ヒト化抗CD28重鎖可変ドメインおよび前記ヒト化抗CD28軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域は、逆突然変異を有さないヒト化バリアントと比較して抗体またはその断片の親和性を増加させるためにアミノ酸置換(逆突然変異)を含んでいてもよい。さらに、逆突然変異は、タンパク質構造を安定化または脱安定化することによって、生産することができる抗体の量に影響を及ぼすことがある。好ましくは、軽鎖可変ドメインは、逆突然変異としてアミノ酸置換D74A(アスパラギン酸74からアラニン)およびS93P(セリン93からプロリン、IMGT命名法に従う)を含む。好ましくは、前記ヒト化重鎖可変ドメインは配列番号26または配列番号24のアミノ酸を含み、前記ヒト化軽鎖可変ドメインは配列番号25のアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗体またはその断片は、親マウス抗CD28抗体クローン15E8またはその断片と比較したとき、CD28抗原に少なくとも20%、30%、50%、70%、90%、100%または100%を上回る親和性でCD28抗原に特異的に結合する。
【0022】
ナノマトリックスの1成分として、CD3およびCD28それぞれに特異的な抗体またはその断片を可動性ポリマー鎖の同じまたは異なるマトリックスに結合することができ、これらは同じマトリックス(例えば、CD3およびCD28に特異的な抗体またはその断片を両方有するマトリックス)または別々のマトリックス(例えば、1マトリックスがCD3に特異的な抗体またはその断片を有し、別のマトリックスがCD28に特異的な抗体またはその断片を有する)に位置していてもよい。同じマトリックスに位置するとき、CD3およびCD28に特異的な抗体またはその断片のモル比は変動してもよく、例えば、100:1、10:1、3:1、1:1、1:3、1:10および1:100(抗CD3:抗CD28)比が有用であり得る。
【0023】
T細胞のポリクローナル刺激の前記方法は、閉鎖系無菌細胞培養系(閉鎖系細胞試料処理系)において実施することができる。
【0024】
別の態様では、本発明は、治療に適用するために本発明の方法によって得られた細胞組成物を提供する。
【0025】
さらなる態様では、本発明は、細胞の可逆的タグ付けのために抗CD3抗体またはその断片の使用であって、前記抗CD3抗体またはその断片は配列番号1のCDR1領域、配列番号2のCDR2領域および配列番号3のCDR3領域を含むヒト化重鎖可変ドメインと、配列番号4のCDR1領域、配列番号5のCDR2領域および配列番号6のCDR3領域を含むヒト化軽鎖可変ドメインとを含み、前記抗体またはその断片はタグに結合されている、使用を提供する。
【0026】
本発明はまた、細胞の可逆的タグ付けのために抗原CD28またはその断片と組み合わせた前記抗CD3抗体またはその断片の使用であって、前記抗CD28抗体またはその断片は、配列番号7のCDR1領域、配列番号8のCDR2領域および配列番号9のCDR3領域を含むヒト化重鎖可変ドメインと、配列番号10のCDR1領域、配列番号11のCDR2領域および配列番号12のCDR3領域を含むヒト化軽鎖可変ドメインとを含み、前記抗体またはその断片はタグに結合されている、使用を提供する。
【0027】
前記タグは、粒子(例えば、ビーズ)、標識(例えば、蛍光色素、同位体標識または磁性体)、分子(例えば、核酸、タンパク質またはペプチド)または表面(例えば、培養皿またはマイクロタイタープレート)であってもよい。標識法は、前記抗体またはその断片の抗原への1価結合を可能にし、抗体またはその断片の動力学的特性によって抗体−抗原複合体の解離を引き起こすことによって解決することができる。
【0028】
CD3またはCD28に特異的な抗体またはその断片はそれぞれ、融合タンパク質であってもよい。融合の例には、ポリヒスチジン配列、ビオチン化配列、ビオチン模倣ペプチド、蛍光タンパク質、ポリ−グリシン−セリンなどのリンカー配列およびキメラ抗原受容体が含まれる。
【0029】
CD3またはCD28に特異的な抗体またはその断片はそれぞれ、アミノ酸置換、挿入および欠失を含有していてもよい。CD3またはCD28に特異的な抗体またはその断片はそれぞれ、化学的に修飾されていてもよい。例には、蛍光色素、タンパク質、磁性粒子への結合およびビオチン化などの当業界で公知の化学的修飾が含まれる。
【0030】
一態様では、本発明は、本明細書で開示したCD3抗原に特異的なヒト化抗体またはその断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、本明細書で開示したCD3抗原に特異的な抗体またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む発現系および前記抗体またはその断片を発現する宿主細胞を提供する。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、本明細書で開示した抗体またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
【0033】
定義
他に規定しなければ、本明細書で使用した技術用語および科学用語は、本発明が属する業界の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書では、用語「抗体」は、限定はしないが、標的抗原を特異的に認識(すなわち、結合)するモノクローナルおよびポリクローナル抗体(完全長抗体を含む)、多重特異性抗体(例えば、2重特異性抗体)、抗体断片、イムノアドヘシンおよび抗体−イムノアドヘシンキメラを含む抗体構造の様々な形態を包含するために、広義に使用される。本発明による抗体は、本発明による特有の特性が保持されている限り、好ましくはヒト化抗体、キメラ抗体、またはさらに遺伝子操作された抗体である。「抗体断片」は、完全長抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合領域を含む。抗体断片の例には、Fab(抗原結合性断片)、scFv(短鎖可変断片)、シングルドメイン抗体、ダイアボディ、dsFv、Fab’、ダイアボディ、単鎖抗体分子;および抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。scFv抗体は、例えば、Ahmad等(2012年)Clin Dev Immunol.2012年、980250に記載されている。用語「ヒト化抗体」とは、フレームワークおよび/またはCDRが親イムノグロブリンと比較して異なる種のイムノグロブリンのCDRを含むように修飾された抗体を意味する。好ましい実施形態では、齧歯類(例えば、マウス)CDRをヒト抗体のフレームワーク領域にグラフトして「ヒト化抗体」を調製する(一例は、Riechmann等(1988年)Nature 332、323〜327頁に挙げられている)。ヒト化抗体はCDRを提供するドナー抗体と同じ、または類似の抗原に結合する。ヒト化イムノグロブリンのアクセプターフレームワークは、ドナーフレームワークから得たアミノ酸による置換の数が限られていてもよい。ヒト化分子は、抗原結合またはその他のイムノグロブリン機能に実質的に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換をさらに有することができる。保存的置換は全般的に、(a)置換領域のポリペプチド主鎖の構造、例えば、シートまたはヘリックス立体構造、(b)標的部位の分子の電荷または疎水性、および/または(c)側鎖の嵩高さを維持する。
【0034】
本明細書では、抗体配列に関する用語「親(parent)」および「親の(parental)」は、ヒト化される抗体配列を意味する。したがって、親抗体は、通常、齧歯類由来のヒト化される非ヒト抗体クローンである。本発明のCD3抗原に特異的なマウス抗体クローンOKT3は親抗体の一例である。
【0035】
本明細書では、用語「抗原」は、1つまたは複数の抗体の産生を惹起する物質を含むものとする。各抗体は、鍵と鍵穴が合うのと同様の相互作用によって特異的抗原に結合する。物質は、外部環境由来であってもよく、または体内で形成されてもよい。用語「抗原」には、限定はしないが、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、脂質、炭水化物およびそれらの組み合わせ、例えば、グリコシル化タンパク質または糖脂質が含まれる。抗原は、細胞表面または細胞内部にあってもよい。好ましくは、抗原は細胞の細胞表面にある。好ましくは、CD3抗原はほ乳類CD3抗原である。最も好ましくは、CD3抗原はヒトCD3抗原である。好ましくは、CD28抗原はほ乳類CD28抗原である。最も好ましくは、CD28抗原はヒトCD28抗原である。
【0036】
抗体またはその断片の抗原結合ドメインに関して、用語「に特異的に結合する」または「に特異的な」とは、特異的抗原、すなわち、抗CD3抗体またはその断片の場合はCD3を認識して結合するが、試料中のその他の抗原は実質的に認識せず、結合もしない抗原結合ドメインを意味する。1種の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインは、別の種の抗原にも結合することができる。この異種間反応性は、抗原結合ドメインが特異的であるという定義に反しない。抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインは、抗原の様々な対立遺伝子型(対立形質バリアント、スプライスバリアント、アイソフォームなど)にも結合することができる。この交差反応性は、抗原結合ドメインが特異的であるという定義に反しない。
【0037】
用語「ドメイン」とは、タンパク質の残部とは独立した3次元構造を保持するタンパク質構造を意味する。場合によっては、ドメインは別々の機能特性を有し、機能を損失することなく別のタンパク質に添加、別のタンパク質から除去または移動することができる。
【0038】
用語「親和性」とは、分子の1結合部位(例えば、抗体の結合腕)とその結合相手(例えば、抗原)との間の非共有的相互作用の合計の強度を意味する。他に指示しなければ、本明細書では、「結合親和性」とは、結合対(例えば、抗原結合タンパク質とその抗原)のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を意味する。分子Xのその相手Yに対する親和性は一般的に、平衡解離定数(K
D)によって表される。親和性は、当業界で公知の一般的な方法(例えば、Biacore
TM測定法)によって測定することができる。
【0039】
本明細書では、「可変ドメイン」または「可変領域」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変ドメイン(VH))とは、抗体の抗原への結合に直接関与する軽鎖および重鎖ドメインの対のそれぞれを意味する。用語「可変ドメイン」とは、カッパ型のイムノグロブリン軽鎖の可変ドメインおよびラムダ型のイムノグロブリン軽鎖の可変ドメインの両方を意味する。
【0040】
本明細書では、「定常ドメイン」または「定常領域」(軽鎖の定常ドメイン(CL)、重鎖の定常ドメイン(CH))とは、抗体のCLドメイン(軽鎖の場合)およびCH1、ヒンジ、CH2、CH3および/またはCH4ドメイン(重鎖の場合)を含むドメインを意味する。重鎖の定常領域は、アイソタイプが異なる抗体では異なる。組換え抗体またはその断片では、様々なアイソタイプのCH1、ヒンジ、CH2、CH3およびCH4ドメインおよびそれらの断片を一緒にすることができる。CH1、ヒンジ、CH2、CH3およびCH4ドメインはまた、様々な種から選択することができる。ヒト化Fab断片では、定常ドメインは好ましくはヒト定常ドメイン、より好ましくはヒトCLおよびヒトIgG1CH1である。
【0041】
可変軽鎖および重鎖ドメインは同じ一般構造を有し、各ドメインには、配列が広く保存され、3つの「高頻度可変領域」(または相補性決定領域、CDR)が連結した4つのフレームワーク領域(FR)が含まれる。抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインは、NからC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。各鎖のCDRは、フレームワーク領域によって3次元構造を保持し、その他の鎖のCDRと一緒に抗原結合部位を形成する。本明細書では、抗体配列へのCDRおよびFR領域の割り当ては、FR−IMGTおよびCDR−IMGTとも呼ばれるIMGT定義(http://www.imgt.org)によって決定される。例えば、KabatおよびChothiaによるFRおよびCDR領域のその他の定義があり、FRおよびCDR領域の連結部位のアミノ酸の位置の割り当てに少し差が生じることがあり、したがって、CDRの長さが少し異なる。本発明による抗体は、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4サブクラスから選択されるヒト由来のFc部分を含んでいてもよい。好ましくは、ヒト由来のFc部分はIgG1またはIgG4サブクラスである。Fc部分はアミノ酸置換、挿入および欠失を含有していてもよい。例えば、Fcガンマ受容体結合に関与するアミノ酸残基は、この相互作用を増加、最小化または消失させるためにその他のアミノ酸残基で置換されていてもよい。
【0042】
本発明による抗体は、その断片であってもよい。抗体断片は、アミノ酸置換、挿入および欠失を含有していてもよい。例えば、ポリヒスチジン配列が任意のFab断片鎖に挿入、または付加されていてもよく、これによって抗ヒスチジン抗体を使用したアフィニティークロマトグラフィーおよび/または免疫学的検出を使用した精製が可能になる。本発明による抗体の特徴は、定常ドメインがヒト由来であることが好ましい。このような定常ドメインは当業界では周知で、例えば、Kabatによって記載されている。
【0043】
本明細書では、用語「CD3抗原」は、T細胞表面糖タンパク質CD3としても知られているCD3タンパク質を意味し、用語「CD28抗原」は、T細胞特異的表面糖タンパク質CD28としても知られているCD28タンパク質を意味する。
【0044】
本明細書では、用語「IMGT命名法」は、IMGT(ImMunoGeneTics Information system(登録商標)、www.imgt.org;Giudicelli等(2005年)Nucleic Acids Res.33、D256〜D261)による抗体配列のナンバリング方式を示す。
図2Aおよび2Bは、抗CD28抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインのIMGT命名法を示した例である。
【0045】
本明細書では、用語「IGKV」は、イムノグロブリンカッパ可変領域遺伝子の略語として使用される。用語「IGHV」は、イムノグロブリン重鎖可変領域遺伝子の略語として使用される。
【0046】
本明細書では、用語「CDRグラフト」とは、第1の抗体またはその断片のCDR領域を取り出して、第2の抗体またはその断片またはその断片のフレームワークにこれらを移す方法を意味し、受け入れるフレームワーク(アクセプターフレームワーク)は、第1の抗体のフレームワーク(ドナーフレームワーク)と同一ではない。
【0047】
本明細書では、用語「フレームワーク」および「フレームワーク領域」は、重鎖および軽鎖可変領域の両方のドメインFR1、FR2、FR3およびFR4を含む抗体またはその断片のアミノ酸配列、すなわち、CDR領域を含まない可変ドメインを意味する。したがって、用語「生殖系列フレームワーク」および「生殖系列フレームワーク領域」とは、ヒト生殖系列抗体遺伝子によってコードされるCDR領域を含まない可変抗体ドメインを意味する。
【0048】
本明細書では、アミノ酸配列に関する(タンパク質およびポリペプチドの)用語「同一性」とは、タンパク質鎖の比較のために使用される。2つの配列間の「配列同一性」の計算は、以下の通りに実施する。配列は、最適な比較目的のために整列させる(例えば、最適なアラインメントのために第1および第2のアミノ酸1つまたは両方にギャップを導入することができ、非相同配列は比較目的のために無視することができる)。最適なアラインメントは、FASTA36ソフトウェアパッケージ(http://faculty.virginia.edu/wrpearson/fasta/)において「ssearch36」プログラムを使用して、Blossum 50 scoring matrixでギャップ開始ペナルティ−10、ギャップ伸長ペナルティ−2で最良のスコアとして決定する。対応するアミノ酸位置のアミノ酸残基を次に比較する。第1の配列の位置が第2の配列の対応する位置の同じアミノ酸残基によって占有されているとき、これらの分子はその位置において同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、配列によって共有される同一の位置の数の関数である。
【0049】
本明細書では、用語「逆突然変異」とは、ヒト化抗体配列のフレームワーク領域におけるアミノ酸置換を意味する。これは通常、ヒト化後に抗原に対する抗体の親和性を増加させるために実施する。逆突然変異の候補となる残基には、例えば、CDRグラフト後のヒト化抗体および親非ヒト化抗体における様々なアミノ酸の位置、ならびにCDRグラフト後のヒト化抗体および抗体コンセンサス配列における様々なアミノ酸の位置が含まれる。通常、候補残基は、抗体の結合特性に重要で、および/または抗原結合ループの主鎖立体構造を決定するフレームワーク領域の部位にある。
【0050】
CDRとは異なり、構造フレームワーク領域(FR)におけるより実質的な変化は、抗体の結合特性に有害な影響を及ぼすことなく実施することができる。FRの変化には、限定はしないが、非ヒト由来フレームワークのヒト化または抗原接触もしくは結合部位の安定化に重要なある種のフレームワーク残基の操作、例えば、定常領域のクラスもしくはサブクラスの変化、Fc受容体結合などのエフェクター機能を変化させることができる特定のアミノ酸残基の変化(Lund等(1991年)J.Immunol.147、2657〜2662頁;Morgan等(1995年)Immunology 86、319〜324頁)または定常領域を得る種の変化が含まれる。
【0051】
本発明の抗体は典型的に、組換えによって発現するポリペプチドである。抗体はキメラポリペプチドであってもよく、用語「キメラポリペプチド」とは、普通ならば近接して生じない2つまたは3つ以上のペプチド断片の並立によって生じる人工的な(非天然の)ポリペプチドを意味する。Fab分子の場合、用語「キメラFab」とは、様々な由来の可変および定常領域の組み合わせ、例えば、マウス由来の可変領域およびヒト由来の定常領域の組み合わせを意味する。Fabバリアント「chCD3_mut Fab」は、キメラFabの一例である。
【0052】
本明細書では、用語「細胞の陽性選択」および「細胞の濃縮」は同義の意味を有し、組織を含む細胞集団からの細胞の亜集団の単離を意味する。細胞の陽性選択に適した方法には、遠心分離、濾過、磁気細胞分離、および蛍光細胞分離が含まれる。
【0053】
本明細書では、用語「細胞の除去」とは、所望しない細胞から所望する細胞を分離する陰性選択の方法を意味する。本明細書で使用した細胞試料には、PBMCなどの血液由来の細胞、細胞培養由来の細胞、または使用前に分離することができる脳もしくは骨などの組織由来の細胞を含めることができる。細胞の除去に適した方法には、遠心分離、濾過、磁気細胞分離、および蛍光細胞分離が含まれる。本明細書では、用語「CD3発現」および「CD3陽性」(CD3+)細胞は同義の意味を有し、CD3抗原を発現する細胞を示す。したがって、本明細書では、用語「CD3非発現」および「CD3陰性」(CD3−)細胞は同義の意味を有し、CD3抗原を検出可能な状態では発現しない細胞を示す。
【0054】
ヒト化重鎖可変ドメインのCDR1領域、CDR2領域およびCDR3領域のアミノ酸配列ならびにヒト化軽鎖可変ドメインのCDR1領域、CDR2領域およびCDR3のアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示される。重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号13および配列番号14に示される。
【0055】
本発明による抗体またはその断片は、組換え手段によって産生することが好ましい。このような方法は従来技術で広く知られており、原核細胞および真核細胞における、好ましくは非ほ乳類細胞におけるタンパク質発現およびその後の抗体ポリペプチド(完全な抗体またはその断片)の単離を含む。抗体ポリペプチドの精製は、薬学的に許容される純度まで実施することができる。タンパク質発現のために、軽鎖および重鎖またはそれらの断片をコードする核酸は、標準的方法によって発現ベクターまたはウイルス形質導入ベクターに挿入することができる。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母、バチルスまたは大腸菌などの適切な原核または真核宿主細胞で実施し、抗体は細胞から(上清から、または完全なもしくは部分的な細胞溶解後に)回収する。抗体の組換え体産生は、当業界では周知である。
【0056】
用語「治療上有効な量」とは、治療上の利益をもたらす量を意味する。
【0057】
用語「単離された」は、天然の状態から変化させるか、または取り出すことを意味する。例えば、細胞の単離された集団とは、このような細胞を濃縮し、天然に生じる状態において前記単離された細胞に通常随伴するその他の細胞から分離することを意味する。細胞の単離された集団とは、細胞の同種集団である実質的に精製された細胞の集団を意味する。
【0058】
本明細書では、用語「T細胞刺激」および「T細胞活性化」は同義の意味を有し、T細胞増殖および早期T細胞活性化マーカー、特にCD25およびCD69の発現が特徴の細胞応答を意味する。
【0059】
本明細書では、用語「CDRが変異したバリアント」とは、6個のCDR領域の1つの中に少なくとも1つのアミノ酸置換、挿入または欠失を含む抗体またはその断片のバリアントを意味する。抗CD3クローンOKT3の重鎖可変ドメインのCDR3における位置114(IMGT命名法)のシステインからセリンへのアミノ酸置換は、CDRが変異したバリアントの一例である。したがって、本明細書では、用語「CDRが変異していないバリアント」とは、6個のCDR領域の1つの中にアミノ酸置換、挿入または欠失を含まない抗体またはその断片のバリアントを意味する(すなわち、元のCDR領域を使用する)。
【0060】
本明細書では、用語「タグ」とは、抗原結合分子、例えば、抗体またはその断片のその他の分子、例えば、粒子、蛍光色素、ビオチンのようなハプテンまたは培養皿およびマイクロタイタープレートなどの大きな表面へのカップリングを意味する。場合によっては、例えば、抗原結合分子が培養皿などの大きな表面にカップリングされる場合、カップリングによって抗原結合分子は直接固定される。その他の場合、このカップリングによって、間接的に固定され、例えば、磁気ビーズに直接または間接的に(例えば、ビオチンを介して)カップリングされた抗原結合分子は、前記ビーズが磁場に保持されると固定される。他の場合では、抗原結合分子のその他の分子へのカップリングは、直接または間接的な固定を引き起こさないが、本発明による細胞の濃縮、分離、単離および検出を可能にし、例えば、抗原結合分子が蛍光色素にカップリングされる場合、例えば、FACソーティングのようなフローサイトメトリー法または蛍光顕微鏡によって、強く標識された細胞、弱く標識された細胞および標識されていない細胞を区別することが可能である。
【0061】
本明細書では、用語「粒子」とは、コロイド粒子、小球体、ナノ粒子またはビーズなどの固相を意味する。このような粒子の作製方法は当業界ではよく知られている。粒子は磁気粒子であってもよい。粒子は、溶液もしくは懸濁液中にあってもよく、または本発明で使用する前に、凍結乾燥状態であってもよい。その後、本発明では、処理する試料と接触させる前に凍結乾燥した粒子を便利な緩衝液で再構成する。
【0062】
用語「可動性ポリマー鎖のマトリックス」および「可動性マトリックス」は、本明細書では同義の意味を有する。これらのポリマーは、可動性(運動性)の、好ましくは可動性(運動性)の高い鎖から構成されるので、マトリックスは抗体またはその断片などの刺激剤のための付着点として固い表面を有さないことが特徴で、通例は柔軟性がなく、固定された硬い表面を有する現在使用されているビーズまたは小球体とは非常に対照的である。結果として、可動性ポリマー鎖のマトリックスを含むナノマトリックスは柔軟で、細胞の表面の形状に調節することができる。さらに、結果として、このナノマトリックスは、水性溶液中におけるナノマトリックスの全体積の大部分(すなわち、50%超)、好ましくは80%超、より好ましくは90%超、最も好ましくは99%超が可動性ポリマー鎖から構成されるナノマトリックスである。
【0063】
マトリックスは、細胞に非毒性のポリマー性、好ましくは生分解性または生体適合性の不活性材料から構成される。マトリックスは、鎖の水和作用によって水性溶液中で最大移動度が得られる親水性ポリマー鎖から構成されることが好ましい。可動性マトリックスは、それに付着させる薬剤に関わりなく、ナノマトリックスの唯一の、または少なくとも主要な成分である。
【0064】
可動性マトリックスは、コラーゲン、精製したタンパク質、精製したペプチド、多糖類、グリコサミノグリカンまたは細胞外マトリックス組成物であってもよい。多糖類には、例えば、セルロースエーテル、デンプン、アラビアゴム、アガロース、セファロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、ペクチン、キサンタン、グアガム、デンプンまたはアルギン酸を含めることができる。その他のポリマーには、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリクアテルニウムポリマー、ポリホスファゼン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ブロックコポリマーまたはポリウレタンを含めることができる。好ましくは、可動性マトリックスはデキストランのポリマーである。
【0065】
薬剤は、当業界において公知で利用可能な様々な方法によって可動性マトリックスに付着させるかまたはカップリングすることができる。付着は、共有結合または非共有結合、静電的または疎水的であってもよく、例えば、化学的、機械的、酵素的または薬剤が細胞を刺激することができるその他の手段を含む様々な付着手段によって実現してもよい。例えば、細胞表面構造に対する抗体はまず、マトリックスに付着させてもよく、またはアビジンもしくはストレプトアビジンは、ビオチン化した薬剤に結合させるためにマトリックスに付着させてもよい。細胞表面構造に対する抗体は、直接、または、例えば抗アイソタイプ抗体を介して間接的にマトリックスに付着させてもよい。別の例には、抗体を結合させるためにマトリックスに付着させたタンパク質Aもしくはタンパク質G、またはその他の非特異的抗体結合分子に使用が含まれる。間接的結合の別の例には、抗ヒスチジン抗体もしくはその断片またはポリヒスチジンタグを結合することができる金属キレート基のいずれかを有する粒子と組み合わせた、ポリヒスチジンタグを含む抗体または断片の融合タンパク質が含まれる。あるいは、薬剤は、マトリックスへの架橋結合などの化学的手段によって、マトリックスに付着させることができる。
【0066】
本明細書では、「磁気粒子」における用語「磁気」とは、当業者に周知の方法で調製することができる磁気粒子の全サブタイプ、特に、強磁性粒子、超常磁性粒子および常磁性粒子を意味する。「強磁性」材料は、磁場に強く影響を受けやすく、磁場を取り除いても磁気特性を保持することができる。「常磁性」材料は、弱い磁化率のみを有し、磁場を取り除くと迅速にその弱い磁気を失う。「超常磁性」材料は、高い磁化率を有し、すなわち、磁場に置くと強く磁気を帯びやすいが、常磁性材料のように迅速に磁気を失う。
【0067】
本明細書では、用語「標識」とは、例えば、標識を検出、追跡、分離、単離、除去または定量するために使用することができる、標的に直接または間接的に付着した検出可能な分子を意味する。標的は、単一の細胞または細胞集団、細胞表面構造、炭水化物、タンパク質およびペプチドであってもよい。標識の例には、蛍光、磁気および同位体標識が含まれる。場合によっては、標識は標的自体の一部であってもよい。
【0068】
本明細書では、用語「細胞の可逆的タグ付け」とは、細胞を標識または粒子などのタグを使用して最初にタグ付けする方法を意味する。場合によっては、タグを組み合わせて使用してもよい。次に、細胞を、例えば、培養、活性化、増殖、選別、単離または分析して処理することができる。その後、タグを細胞から除去する。抗体およびその断片の場合、タグは、前記抗体またはその断片の抗原への1価結合をその段階で可能にすることによって除去または解除し、多価結合を引き起こさず、抗体またはその断片の動力学的特性によって抗原およびタグ付けした抗体の解離を引き起こす。
【0069】
用語「閉鎖系試料処理系」および「閉鎖系の無菌(細胞培養)系」は同義に使用することができる。本明細書では、用語「閉鎖系細胞試料処理系」とは、新たな材料の導入、例えば、形質転換および形質導入などの培養方法の実施、ならびに細胞の増殖、分化、活性化および/または分離などの細胞培養ステップの実施の間の細胞培養汚染の危険性を低下させるいかなる閉鎖系も意味する。このような系は、GMPまたはGMP様条件(「無菌」)下での操作を可能にし、臨床的に適用可能な細胞組成物を生じる。本明細書では、例としてCliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、Germany)を閉鎖系細胞試料処理系として使用する。この系は、国際公開第2009/072003号パンフレットに開示されている。本発明の方法をCliniMACS(登録商標)Prodigyへの使用に制限するものではない。
【0070】
実施形態
本発明の抗体またはその断片は、本明細書で開示した様々な実施形態で提示し、前記項目で詳細に記載することができる。抗原CD3に特異的なヒト化抗体またはその断片のこれらの実施形態全てに共通するのは、ヒト化重鎖および軽鎖可変ドメインそれぞれにおいて配列番号1から配列番号6で示したCDR1からCDR6の存在である。
【0071】
本発明の一実施形態では、抗体またはその断片は、親抗体クローンOKT3とは異なるCDR配列(例えば、IMGT、Chothia、またはKabatCDR)を有する。マウス親抗体クローンとは異なるCDR配列には、CDRの長さが3〜4個のアミノ酸の場合、1個もしくは2個のアミノ酸の置換、またはCDRの長さが5〜7個のアミノ酸の場合、1、2、3もしくは4個のアミノ酸の置換、またはCDRの長さが10個もしくはそれ以上のアミノ酸の場合、CDRの配列中の1、2、3、4、5、6もしくは7個のアミノ酸の置換などのアミノ酸変化が含まれる。置換されるアミノ酸は、類似の電荷、疎水性または立体化学的特性を有し得る。本発明の一部の実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。本発明のその他の実施形態では、アミノ酸置換は、非保存的置換である。このような置換は、当業者の技能の範囲内である。置換したCDRを含有する抗体またはその抗体断片は、CD3抗原に結合する抗体を同定するためにスクリーニングすることができる。本発明の一実施形態では、本明細書で開示したヒト化抗体またはその断片は、CD3発現(CD3+)細胞を含む試料からCD3発現細胞を濃縮(陽性選択)するために使用することができる。好ましい実施形態では、試料は、CD3発現細胞およびCD3非発現細胞(その他の細胞)を含む。濃縮に適した方法は当業界では周知で、限定はしないが、FACS(登録商標)などのフローサイトメトリーまたはMACS(登録商標)などの磁気細胞分離が含まれる。濃縮したCD3発現細胞は、サイトカイン発現もしくは受容体シグナル伝達などのさらに様々な分析で使用することができるか、またはこれらのCD3発現細胞を含む医薬組成物で使用することができる。濃縮したCD3発現細胞は、それらを必要とする患者に適用する前に治療有効量までインビトロで増殖させることができる。
【0072】
本発明の一実施形態では、本明細書で開示したヒト化抗体またはその断片は、CD3発現細胞を含む試料からCD3発現細胞を除去するために使用することができる。好ましい実施形態では、試料は、CD3発現細胞およびCD3非発現細胞(その他の細胞)を含む。除去に適した方法は当業界では周知で、限定はしないが、FACS(登録商標)などのフローサイトメトリーまたはMACS(登録商標)などの磁気細胞分離が含まれる。
【0073】
例として、MACSR分離(Miltenyi Biotec GmbH、Germany)の原理を本明細書に記載する:CD3抗原に特異的な抗体またはその断片は、リンパ球サブセットの直接または間接的磁気標識のために使用することができる。CD3抗原はT細胞および胸腺細胞上で発現する。まず、CD3発現細胞をCD3マイクロビーズで磁気的に標識し、すなわち、CD3抗体またはその断片を磁気粒子にコンジュゲートする。次に、細胞懸濁液をMACS(登録商標)カラムに添加し、MACS(登録商標)分離器の磁場に置く。磁気標識したCD3発現細胞はカラム上に保持される。標識されていない細胞は通過し、この細胞画分はCD3+細胞が除去されている。磁場からカラムを取り除いた後、磁気を保持しているCD3+細胞は陽性選択細胞画分として溶出することができる。
【0074】
本明細書で開示した抗体またはその断片を使用する細胞の濃縮(陽性選択)および除去の場合のいくつかの適用例は、(a)同種幹細胞移植のため、またはT細胞除去移植片の調製のため、またはその後のCD3非発現細胞(例えば、NKT細胞を含まないNK細胞)の濃縮ための末梢血またはリンパ組織からのヒトCD3+細胞の除去、(b)分析のため、その後の濃縮のため、または養子細胞移植療法(例えば、ドナーリンパ球注入または遺伝子改変T細胞、それぞれ同種移植または自家移植である)のため、末梢血、リンパ組織または組織ホモジェネート(腫瘍組織など)からのヒトCD3+細胞の陽性選択であってもよい。
【0075】
CD3+T細胞サブセットの陽性選択のために、CD3に特異的な抗体またはその断片を、例えば、CD4、CD8、CD25、CD27、CD28、CD45RA、CD45R0、CD56、CD62L、CD95、CCR7、CD127、CD137、CD279、Tim−3および/またはLAG−3などの抗原に特異的な抗体またはその断片と一緒にすることができる。一実施形態では、CD3に特異的な抗体またはその断片は、生きたCD3+T細胞のみが単離されたことを確かめるために、例えば、アネキシンVタンパク質ならびに/または表面抗原CD19および/もしくはCD14および/もしくはCD56に特異的な抗体またはその断片と一緒にすることができる。
【0076】
本発明の一実施形態では、本明細書で開示したCD3に特異的なヒト化抗体またはその断片は、臨床適用のためにナイーブな制御性T細胞を陽性選択するために使用することができる。ナイーブな制御性T細胞(CD3+、CD4+、CD25hi、CD45RA+、CD127dimを特徴とする)を単離するために、末梢血またはリンパ組織を使用して、ヒト化CD3抗体またはその断片をCD4、CD25、CD45RAおよびCD127に特異的な抗体またはその断片と一緒にする。
【0077】
CD3+T細胞およびその他の細胞を一緒に除去するために、CD3に特異的な抗体またはその断片を、例えば、CD4、CD8、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD34、CD38、CD43、CD44、CD56、CD133および/またはCD271などの抗原に特異的な抗体またはその断片と一緒にすることができる。
【0078】
本発明の一実施形態では、T細胞以外の細胞も、T細胞受容体または抗原受容体を有するならば、CD3に特異的な抗体もしくはその断片単独で、またはCD28に特異的な抗体もしくはその断片との組み合わせにより、刺激されうる。好ましい実施形態では、これらの細胞はキメラ抗原受容体(CAR)または外来性T細胞受容体(TCR)を発現する。CARおよび/またはTCRを発現する細胞の例には、T細胞、樹状細胞、間葉幹細胞、NKT細胞およびNK細胞が含まれる。CARおよび/またはTCRの標的分子の例には、細胞表面マーカーCD19、CD20およびCD22が含まれる。
【0079】
本発明の一実施形態では、例えば、形質導入効率(例えば、レンチウイルス形質導入)を高めるために、T細胞は、本明細書で開示した抗CD3抗体もしくはその断片単独で、または本明細書で開示した抗CD28抗体もしくはその断片との組み合わせより刺激される。CD3に特異的な、およびCD28に特異的な抗体またはその断片はそれぞれ、いずれも粒子に結合されていてもよい。
【0080】
本発明の一実施形態では、CD3+T細胞を除去するために、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec)などの閉鎖系細胞試料処理系を使用する。例えば、8E+09全細胞の白血球除去は、滅菌溶接によってClinicMACS Prodigy(登録商標)に装着した管類に連結する。細胞を洗浄し、磁気粒子にカップリングしたCD3に特異的な抗体またはその断片で標識する。標識したT細胞は、制御可能な磁場に設置したカラム(チューブ類の一部)を使用して、磁気濃縮によって細胞の残部から特異的かつ自動的に単離する。単離したT細胞は、濃縮するか(陽性画分)、または廃棄して(陰性画分)、さらに臨床適用のために使用することができる。
【0081】
本発明の一実施形態では、本明細書で開示したCD3抗原に特異的なヒト化抗体またはその断片はタグにカップリングすることができる。前記タグは、磁気粒子または蛍光色素であってもよい。本発明の一実施形態では、本明細書で開示したCD3に特異的なヒト化抗体またはその断片は、CD3発現細胞の蛍光標識のために使用することができる。これはインビトロ(例えば、細胞培養)またはインビボ(例えば、体内)で達成することができる。蛍光標識は、抗体もしくはその断片に直接(例えば、化学結合によって)または間接的に(例えば、ヒト化抗体もしくはその断片のビオチン化およびビオチン化抗体のストレプトアビジン蛍光色素コンジュゲートへの結合によって)付着させることができる。いくつかのバリアントでは、CD3に特異的な前記ヒト化抗体またはその断片は、本明細書で開示したCD28に特異的なヒト化抗体またはその断片と組み合わせて使用されてもよい。
【0082】
本発明の一実施形態では、本明細書で開示したヒト化抗体またはその断片は、インビトロまたはインビボにおいてCD+3T細胞を同定しモニターするために使用することができる。
【0083】
いくつかのバリアントでは、CD3に特異的な前記ヒト化抗体またはその断片は、本明細書で開示したCD28に特異的なヒト化抗体またはその断片と組み合わせて使用されてもよい。
【0084】
本発明の一実施形態では、本明細書で開示したヒト化抗体またはその断片は、細胞の可逆的タグ付けのために使用することができる。前記抗体またはその断片は、標識、例えば、蛍光色素または粒子にコンジュゲートすることができる。細胞は、タグにカップリングされる前記抗体またはその断片の多価結合によってタグ付けされる。タグは、前記抗体またはその断片の多価結合から1価結合への転換によって細胞から除去される。抗原に結合した前記抗体またはその断片の解離は、K
D(平衡解離定数)および/またはK
off(「オフレート定数」)値などの適切な動力学的特性に左右され、細胞から1価で結合した抗体または断片を遊離させる。前記抗体またはその断片の多価結合から1価結合への転換方法には、例えば、特異的切断部位もしくは構造を使用した酵素切断によって、あるいはタグまたは抗体もしくはその断片のいずれかと置換することができる物質を過剰に添加することによる、抗体もしくはその断片からのタグの競合的置換によって(例えば、CD3などの標的抗原を対象とするビオチン化抗体またはその断片に結合した、抗ビオチン抗体蛍光色素コンジュゲートと置換するビオチンで、ビオチン化抗体または断片は抗ビオチン抗体蛍光色素コンジュゲートによって架橋結合している)、抗体もしくはその断片を粒子または標識などのタグから除去することが含まれる。
【0085】
本明細書で開示した抗体またはその断片を使用することによって濃縮および/または分離した細胞組成物は、単独で、または希釈剤および/またはサイトカインなどのその他の成分と組み合わせた医薬組成物として投与してもよい。簡単に説明すると、本発明の医薬組成物は、本明細書で開示した抗体またはその断片を使用することによって濃縮および/または分離した細胞組成物を、薬学的または生理学的に許容される1つまたは複数の担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含んでいてもよい。このような組成物は、中性で緩衝された生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの緩衝液;グルコース、マンノース、スクロースもしくはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤;EDTAもしくはグルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);および保存剤を含んでいてもよい。
【0086】
好ましくは、本発明の組成物は、静脈内投与用に製剤化する。細胞組成物の対象への投与は、当業界で公知のいかなる便利な方法で実施してもよい。
【0087】
本発明の医薬組成物は、治療する疾患に適切な方法で投与することができる。適切な投薬は、臨床試験によって決定することができる。しかし、投与の量および頻度はまた、患者の状態、ならびに患者の疾患の種類および重症度などの要素によって決定され、影響を受ける。
【実施例1】
【0088】
親マウス抗体OKT3および15E8のインシリコ凝集分析
抗CD3抗体クローンOKT3および抗CD28抗体クローン15E8の重鎖および軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、凝集しやすい配列領域を予測するために当業界で公知のアルゴリズムを使用して分析した。このような領域は、タンパク質の組換え発現を妨害し、タンパク質発現レベルを低下させることが知られている。有用なアルゴリズムには、例えば、PASTA(Walsh等(2014年)Nucleic Acids Res.42、W301〜307)、WALTZ(Maurer−Stroh等(2010年)Nature Methods 7、237〜242頁)およびAGGRESACN(Conchillo−Sole等(2007年)BMC Bioinformatics 8、65〜81頁)が含まれる。アルゴリズムは典型的に、各アミノ酸に数値スコアを割り当て、このスコアは凝集する可能性の指標である。
図1は、マウス親CD3抗体クローンOKT3の重鎖(配列番号13、
図1A)および軽鎖(配列番号14、
図1B)可変ドメインならびにマウス親抗CD28抗体クローン15E8の重鎖(配列番号18、
図1C)および軽鎖(配列番号19、
図1D)可変ドメインへのこのようなスコアの割り当てを示す。スコア0はナシを示し、スコア約>20は中程度を示し、スコア約>50は高度の凝集形成傾向を示す。抗CD3OKT3の場合、凝集しやすい領域は検出されなかった。したがって、抗CD3抗体クローンOKT3の組換え発現は、タンパク質凝集によっては妨害されないことが予測され、したがって、正常な発現レベルおよび生成物力価が予測された。抗CD2815E8の場合、軽鎖は凝集の危険性が高いことが予測され、より低い発現レベルおよび生成物力価が生じる可能性がある。表2に示したように、抗CD28のヒト化バリアントはまた、少なくとも親抗CD28配列と同じ強さで凝集の危険性が高いことが予測される。
【実施例2】
【0089】
ヒト生殖系列フレームワーク配列へのCDRグラフトによる抗CD28抗体クローン15E8のヒト化
CDRおよびIMGT命名法によるアミノ酸残基のナンバリングは、親マウス抗CD28抗体クローン15E8の重鎖および軽鎖配列をIMGT「DomainGapAlign」ツールで処理することによって決定した。得られたナンバリング方式およびCDR定義を
図2Aおよび
図2Bに示し、CDRはまた、配列番号7から配列番号12で記載する。次のステップで、親マウス抗CD28抗体クローン15E8の軽鎖および重鎖のアミノ酸配列をヒト生殖系列V領域(ポリペプチド配列)の参照データベースと比較した。IMGTヒトIG参照ディレクトリセットの現行バージョン(2014年8月)を参照データベースとして使用した。これらの配列には、FR1、CDR1、FR2、CDR2およびFR3が含まれるが、CDR3およびFR4は含まれない。重鎖のCDR3はV領域の小部分、D領域全体およびJ領域の小部分から主に組み立てられる。軽鎖のCDR3はV領域の小部分およびJ領域の小部分から主に組み立てられる。FR4はJ領域から得られる。さらに処理する前に、疑似遺伝子および重複配列をIMGT参照セットから除去した。元の非ヒト重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域と高い同一性を有するヒト生殖系列配列の同定のために、FASTA36パッケージ(http://faculty.virginia.edu/wrpearson/fasta/)の一部であるssearch36プログラムに実装されているSmith−Watermanアルゴリズムを使用することによって、フレームワーク領域FR1、FR2およびFR3ならびにCDR1およびCDR2の同一性を処理したIMGT参照のアミノ酸レベルと比較した。重鎖には、V領域の対立遺伝子IGHV4−4
*08(配列番号27)をCDRグラフトの適切な鋳型として選択した。軽鎖可変ドメインには、V領域の対立遺伝子IGKV4−1
*01(配列番号28)をCDRグラフトの適切な鋳型として選択した。FR−4では、重鎖には対立遺伝子IGHJ4
*01(配列番号33)、軽鎖可変ドメインにはIGKJ4
*01(配列番号34)を鋳型として使用した。さらに、抗CD28抗体配列は、IMGT参照配列、NCBI生殖系列配列およびabYsisウェブサーバー(http://www.bioinf.org.uk/abysis/index.html)を用いたV−BASEを含む総合配列データベースと比較した。前述の鋳型配列の選択は、このように確認した。最後に、選択したヒト生殖系列鋳型配列IGHV4−4
*08およびIGKV4−1
*01のCDR(IMGT定義に従う)を親マウス抗CD28抗体クローン15E8(配列番号7〜12)のCDRと置換し、「抗CD28グラフトVH_final_lMGT」(配列番号29)および「抗CD28グラフトVL_final_lMGT」(配列番号30)を生成した。
【実施例3】
【0090】
CD28に特異的なヒト化抗体バリアントの構造モデリングおよび逆突然変異のためのアミノ酸残基の同定
親マウス抗CD28抗体クローン15E8(配列番号18および配列番号19)とは異なるCDRをグラフトしたヒト生殖系列配列(配列番号29および配列番号30)のフレームワーク領域FR1、FR2およびFR3のアミノ酸残基を同定するために、これらの配列間のペアワイズアラインメントをLALIGNプログラムを使用して行った。CDR領域内のアミノ酸残基(「Vernier残基」)と物理的に相互作用し(水素結合、静電的、疎水性またはその他の相互作用によって)、親マウス抗CD28抗体クローン15E8とヒト鋳型生殖系列配列との間で異なるフレームワーク領域内のアミノ酸残基は、ヒト化抗体の抗原結合および構造強度に重要であり得る。これらの残基は逆突然変異されなければならない、すなわち、CDRをグラフトした配列内のそれぞれのアミノ酸残基は、親マウス抗CD28抗体クローン15E8内の同じ位置の対応するアミノ酸によって置換されなければならない。逆突然変異に適切なアミノ酸残基の同定には、改変する抗体の3次元構造についての知識が必要である。親マウス抗CD28抗体クローン15E8の構造データは利用することができなかったので、親マウス抗CD28抗体クローン15E8と高い配列同一性を有する代わりの抗体を使用した。この目的のために、15E8の軽鎖および重鎖配列のPDBタンパク質データベース(http://www.pdb.org)に対するBLAST検索を実行し、最高のビットスコアおよび最低のE値を示す対応するペプチド配列を有する構造を軽鎖および重鎖用に別々に選択した。重鎖には構造1GIG(鎖A)、軽鎖には構造4BKL(鎖C)をそれぞれ選択した。構造をベースにした分析には、公開されているソフトウェア「Discovery Studio 4.0」(Accelrys)を使用した。最初に、IMGT命名法によるCDRを構造内に定義し、CDRの半径5Å内の全フレームワーク原子を同定した。その後、この手法によって同定した各フレームワークアミノ酸について、ヒト鋳型と親マウス抗CD28抗体クローン15E8との間の保存を調べた。この手法を使用して、CDRと特異的に相互作用し、おそらくCDRの構造を安定化するアミノ酸を同定し、対応するヒトCDをグラフトした生殖系列配列に逆突然変異した。4つの異なるヒト化バリアント、配列番号20および21を含む「huCD28_v1」、配列番号22および23を含む「huCD28_v2」、配列番号24および25を含む「huCD28_v3」ならびに配列番号26および25を含む「huCD28_v4」を設計した。huCD28_v3とhuCD28_v4との間に対するhuCD28_v1とhuCD28_v2との間の主な差は、軽鎖可変ドメインにおける2つの逆突然変異、すなわち、アミノ酸置換D74AおよびS93P(IMGT命名法)である。
【実施例4】
【0091】
DNAベクターのクローニングおよび大腸菌の形質転換
大腸菌におけるCD3およびCD28に特異的な非ヒト化およびヒト化Fab断片それぞれの発現のために、抗CD3クローンOKT3(配列番号14と組み合わせた配列番号13;配列番号14と組み合わせた配列番号15;配列番号17と組み合わせた配列番号16)または抗CD28クローン15E8(配列番号19と組み合わせた配列番号18;配列番号21と組み合わせた配列番号20;配列番号23と組み合わせた配列番号22;配列番号25と組み合わせた配列番号24;配列番号25と組み合わせた配列番号26)のいずれかの非ヒト化およびヒト化重鎖および軽鎖可変ドメイン(VHおよびVLと称する)をコードする合成遺伝子をそれぞれ、ヒトカッパ軽鎖定常領域(CLと称する、配列番号32)のため、およびヒトIgG1重鎖定常領域CH1(配列番号31)のために標準的ソフトウェアツールを使用して設計した。大腸菌発現ベクターへの直接クローニングを容易にするために、適合性のある隣接した制限部位を合成遺伝子配列に付加した。遺伝子合成は、サービス提供会社によって外部で実施した。Fab断片の軽鎖(LC)可変ドメイン(VLおよびCL)をコードする遺伝子配列は、軽鎖のペリプラズム移動のためにphoAシグナル配列を含む。Fab断片の重鎖(HC)可変ドメイン(VHおよびCH1、場合によってポリヒスチジンタグが続く)をコードする遺伝子配列は、重鎖のペリプラズム移動のためにpelBシグナル配列を含む。クローニングは、当業界で公知の標準的技術を使用して実施した。得られた大腸菌発現ベクターを
図3に示す。クローニング手法によって影響を受けたベクター領域は全て、DNA配列決定によって確認した。
【実施例5】
【0092】
大腸菌におけるFab断片の発現
CD3に特異的な、およびCD28に特異的なFabを産生するために、大腸菌W3110細胞を、例えば、配列番号16および配列番号17で記載した重鎖(VH)および軽鎖可変(VL)ドメインを有するヒト化Fabバリアント「huCD3_mut」をコードする「pOPE313 huCD3_mut」などの適切な発現ベクターで形質転換した。形質転換した大腸菌の前培養物を複合培地(ダイズペプトン、酵母抽出物およびNaClを含有し、グルコースを補給)中で、一晩37℃で震盪フラスコにおいて増殖させた。翌朝、複合培地(ダイズペプトン、酵母抽出物およびNaClを含有し、炭素源としてグルコースを補給)を含有する撹拌可能な研究室規模のバイオリアクター(3L)に、該前培養を使用して600nmでの最終光学濃度が0.05になるよう接種した。細胞は、28℃、pH7.0、pO
2が少なくとも30%で増殖させた。誘導前に、バイオリアクターを25℃まで冷却し、その後IPTG0.2mMを添加することによって標的タンパク質発現を誘導した。培養は、25℃で少なくとも20時間継続した。グルコースは、炭素源として常時添加し、pHは7.0に維持した。細胞収集は、6000×gで1時間遠心分離することによって実施した。収集した細胞ペレットは、さらに処理するために−20℃で保存した。
【実施例6】
【0093】
Fab断片の精製
CD3およびCD28に特異的な組換えFabは、実施例5の発酵した大腸菌細胞から、ペリプラズム抽出ステップおよびその後のクロマトグラフィー精製ステップによって精製した。細胞抽出のため、凍結した大腸菌ペレットを、細胞ペレット1g(湿重量)当たりペリプラズム抽出緩衝液(Tris100mM、EDTA10mM)10mLに再懸濁して、常時撹拌しながら少なくとも16時間37℃でインキュベートした。その後、懸濁液を6000×gで1時間遠心分離した。上清は、Fabを含む大腸菌のペリプラズム画分を含有した。細胞ペレットは廃棄した。上清を濾過し、最初の親和性捕捉精製ステップとして、FPLC系の金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(AKTA)用のIMAC樹脂(例えば、ProCatchHis樹脂、Miltenyi Biotec)を充填した適切なクロマトグラフィーカラムに添加した。不純物は、イミダゾール含有緩衝液(5mM)を使用して洗浄した。標的タンパク質は、少なくとも50mMの高濃度のイミダゾールを含有する緩衝液を使用して溶出した。溶出画分を収集し、カチオン交換マトリックス(例えば、SPセファロース)に添加した。溶出は、0.3〜0.5Mの範囲のNaClを含有し、pH範囲6.0〜7.4のリン酸(25mM)をベースにした緩衝液を使用して実施した。Fabを含有する溶出液を収集し、タンパク質含量はBCAアッセイおよびUV吸収(A
280nm)によって定量した。CD3に特異的な精製FabおよびCD28に特異的な精製Fabの一定量を使用するまで−70℃で保存した。場合によっては、Fabは、例えば、PBS/EDTAで再緩衝化した。
図4は、一例として、Fabバリアント「huCD3_mut」の精製工程の様々なステップの試料のクーマシー染色SDSゲルを示す。表1および2には、大腸菌細胞ペレット100gから精製したFabの量を示す。発現および精製工程はどのバリアントについてもほぼ同じだったので、精製したFabの量はFabバリアントの個々の発現レベルの良好な指標である。CD3については、精製後最高量のタンパク質がヒト化Fabバリアント「huCD3_mut」で見いだされ、このことはバリアント「huCD3_mut」の発現レベルはまた、試験したバリアント全ての中で最高であったことを示している。CD28については、精製後最高量のタンパク質がヒト化Fabバリアント「huCD28_v3」で見いだされ、このことはバリアント「huCD28_v3」の発現レベルはまた、試験したバリアント全ての中で最高であったことを示している。
【0094】
【表1】
【0095】
表1は、(大腸菌細胞ペレット100gからの)CD3抗原に特異的な精製Fabバリアントの収量を示す。Fabバリアント「chCD3」の収率を100%に設定した。配列番号はそれぞれ、重鎖および軽鎖可変ドメインの配列を意味する。
【0096】
【表2】
【0097】
表2は、(大腸菌細胞ペレット100gからの)CD28抗原に特異的な精製Fabバリアントの収量を示す。Fabバリアント「chCD28」の収率を100%に設定した。配列番号はそれぞれ、重鎖および軽鎖可変ドメインの配列を意味する。
【実施例7】
【0098】
組換え体CD28抗原を使用したFabバリアントの動力学的定数の決定
CD28抗原に特異的な実施例6のFabバリアントは、表面プラズモン共鳴分光法(Biacore)によって分析した。したがって、組換えCD28抗原(細胞外ドメイン、ほ乳類細胞で発現)を標準アミンカップリングによってCM5チップに固定した。Fabバリアントは、HBS−EP緩衝液(HEPES 0.01M pH7.4、NaCl 0.15M、EDTA 3mM、Surfactant P20 0.005%v/v)において分析物として50μg/mLの濃度で使用した。評価は、BIAevalソフトウェアで、1:1結合物質移動モデルを使用して実施した。表3は、5つのFabバリアントについて測定した動力学的定数:速度定数「k(
on)」および「k(
Off)」および平衡解離定数「K
D」を示す。
【0099】
【表3】
【0100】
表3は、精製したFabバリアントの動力学的定数を示す。[M]で示したK
D値によって決定した、Fabバリアント「chCD28」のCD28抗原に対する親和性を100%に設定した。M、モル濃度;s、秒。
【実施例8】
【0101】
CD3またはCD28抗原を発現する細胞の染色
実施例6の抗CD3FabバリアントのCD3+細胞に対する結合および染色について分析した。PBMC(末梢血単核球)をFabバリアントchCD3_mutまたはhumCD3_mutのいずれか2.5μg/mLでインキュベートした。OKT3−PEコンジュゲート(1.5μg/mL)を陽性対照として使用した。細胞に結合したFabは、抗ポリヒスチジン−PEコンジュゲートでインキュベートした後に検出した。Fabによってさらにインキュベートせずに抗ポリヒスチジン−PEコンジュゲートによってのみ染色した細胞は、陰性対照として使用した。
図5A〜Dは、CD3バリアントのフローサイトメトリー分析のドットプロットを示す。類似の分析を、実施例6の抗CD28FabバリアントのCD28+細胞に対する結合/染色について実施した。PBMC(末梢血単核球)をFabバリアントhuCD28_v1、huCD28_v2、huCD28_v3またはhuCD28_v4のいずれか5μg/mLでインキュベートした。15E8−PEコンジュゲート(3.0μg/mL)を陽性対照として使用した。さらに、細胞を抗CD3−FITCコンジュゲートでインキュベートした。細胞に結合したFabは、抗ポリヒスチジン−PEコンジュゲートでインキュベートした後に検出した。Fabによってさらにインキュベートせずに抗ポリヒスチジン−PEコンジュゲートによってのみ染色した細胞は、陰性対照として使用した。
図5E〜Jは、CD28バリアントのフローサイトメトリー分析のドットプロットを示す。Fabバリアントは全て機能的で、それらのマウス親抗体と類似の染色パターンを示す。
【実施例9】
【0102】
抗CD3Fab、親OKT3抗体、抗CD28Fabおよび親15E8抗体を含むナノマトリックスの作製
実施例6のFabバリアントおよびCD3に特異的、およびCD28に特異的な精製した親マウス抗体それぞれをナノマトリックスの作製のために使用した。デキストランは、可動性ポリマー鎖として使用した。この実施例では、磁気ナノマトリックスを生成し、したがって、MoldayおよびMacKenzieの改変法を使用した。デキストランT40(GE Healthcare)10g、FeCl
3・6H
2O 1.5gおよびFeCl
2・4H
2O 0.64gをH
2O 20mlに溶解し、40℃まで加熱する。撹拌中、4N NaOH 10mlをゆっくり添加し、溶液を70℃まで5分間加熱する。粒子懸濁液を酢酸で中和する。凝集物を除去するため、懸濁液を2000×gで10分間遠心分離し、孔径0.22μmフィルター(Millex GV、Millipore)で濾過する。結合していないデキストランを、高勾配磁場(HGMF)において洗浄することによって除去する。磁気ナノマトリックスのHGMF洗浄は、以下に記載したように組み立て、約0.6テスラ(MACS permanent magnet、Miltenyi Biotec)の磁場に置いたスチールウールカラムで実施する。ナノマトリックス懸濁液10ミリリットルをスチールウール2gの15×40mmカラムに添加する。添加したカラムを酢酸ナトリウム0.05M、30mlで洗浄する。外部磁場からカラムを取り除いた後、磁気ナノマトリックスを酢酸ナトリウム0.05Mで溶出する。ナノマトリックスは茶色い懸濁液を形成する。相対的粒子濃度は、450nmでの吸光度として表す。ナノマトリックスのサイズは、電子顕微鏡および動的光散乱法によって30±20nm(e.m.)および65±20nm(DLS)であることが測定された。ナノマトリックスは、磁化率測定によって測定すると、超常磁性の振る舞いを示す。捕捉したフェライト微結晶のサイズは、磁気測定から約10nmであることが測定された。抗体およびFabは、標準的生体共役反応化学(Bioconjugate Techniques、第2編、Greg T.Hermanson著、Academic Press,Inc.出版、2008年)によって別々のナノマトリックスにコンジュゲートさせた。滅菌濾過後、得られたナノマトリックスをPBS緩衝液/0.3%ポロクサマー188中で−70℃で保存した。結果として、以下のナノマトリックスを作製した:親抗CD3抗体OKT8を含むナノマトリックス、親抗CD28抗体15E8を含むナノマトリックス、抗CD3FabバリアントchCD3_mutを含むナノマトリックス、抗CD3FabバリアントhuCD3_mutを含むナノマトリックス、抗CD28FabバリアントhuCD_v3を含むナノマトリックスおよび抗CD28FabバリアントhuCD3_v4を含むナノマトリックス。
【実施例10】
【0103】
抗CD3タンパク質を含むナノマトリックス単独または抗CD28タンパク質を含むナノマトリックスとの組み合わせによるT細胞の刺激
実施例9の抗体およびFabバリアントを含むナノマトリックスをT細胞の刺激のために使用した。したがって、汎T細胞単離キット、ヒト(Miltenyi Biotec)を使用して、汎T細胞をPBMCから単離した。その後、細胞をカルボキシフルオレセインスクシニミジルエステル(CFSE)で標識し、MACS GMP IL−2(Miltenyi Biotec)200IU/mLを補給したTexMACS GMP培地(Miltenyi Biotec)中でcm
2当たり1E+06細胞の密度で培養した。抗CD3Fabバリアントもしくは完全長抗体(OKT3)のいずれかを含むナノマトリックスを単独で、または抗CD28Fabバリアントもしくは完全長抗体(15E8)それぞれを含むナノマトリックスと様々に組み合わせて使用した。T細胞刺激中の最終濃度は、各抗CD3および抗CD28完全長抗体については500ngタンパク質/mLで、各抗CD3および抗CD28Fabバリアントそれぞれについては333ngタンパク質/mLであった。ナノマトリックスの刺激能力は、48時間細胞培養した後、早期活性化マーカーCD25およびCD69(生きたT細胞中)を検出するためにフローサイトメトリーを使用して測定した。その後細胞をさらに5日間培養し、増殖率(生細胞中)をフローサイトメトリー収集によって測定した。
図6Aは、刺激後にCD25およびCD69の両方を発現するT細胞の頻度を示し、
図6Bは刺激したT細胞の増殖率を示す。各ドットは、1ドナーの試料を表し、横線は中央値を表す。抗CD3単独の場合、ヒト化Fab huCD3_mutを含むナノマトリックスは、親OKT3抗体を含むナノマトリックスよりも、早期活性化マーカーを発現し増殖率も高い細胞を多数誘導した。予測通り、抗CD3タンパク質を含むナノマトリックスを用いずに使用した抗CD28タンパク質を含むナノマトリックスは、CD25およびCD69の検出可能な発現を引き起こさず、細胞増殖の増加も引き起こさなかった。抗CD28抗体15E8を含むナノマトリックスと組み合わせると、huCD3_mut Fabを含むナノマトリックスは、OKT3抗体を含むナノマトリックスと比較してより高い活性化および類似の増殖率をもたらした。抗CD3抗体OKT3を含むナノマトリックスと組み合わせて、huCD28_v3またはhuCD28_v4 Fabのいずれかを含むナノマトリックスはいずれも、15E8抗体を含むナノマトリックスよりも高い活性化および高い増殖率を示し、これらの結果は非常に確実で、再現性があった。FabバリアントhuCD28_v3またはhuCD28_v4のいずれかを含むナノマトリックスとFabバリアントhuCD3_mutを含むナノマトリックスとを組み合わせると、活性化した細胞の高い頻度および高い増殖率の着実な誘導について最高の結果をもたらした。
【実施例11】
【0104】
マウス親OT3および15E8抗体の凝集および二量体形成
精製OKT3(抗CD3)および15E8(抗CD28)抗体はそれぞれ1.0mg/mLおよび0.2mg/mLの濃度で、気候室において密封したガラスバイアルに入れて25℃、相対湿度40%で26週間保存した。いくつかの時点で、保存した抗体の試料は、単量体、二量体および凝集した抗体を区別するために分析用SEC−HPLCによって分析した。
図7Aに示したように、15E8の場合、保存開始時にほんのわずかの凝集形成が存在する。OKT3の場合、直線状から指数関数的な凝集形成が検出され、26週間後には凝集含量が1%に達した。同様の傾向が抗体二量体の形成(すなわち、2つの抗体の二量体)において認めることができ、一方、15E8(
図7B)では、二量体含量は保存中3〜5%の範囲で安定して維持され、二量体含量OKT3は26週間後9%まで連続的に増加した。この時点で、OKT3単量体の含量は90%未満まで減少した。
【実施例12】
【0105】
精製した抗CD3Fabの安定性
実施例6のFabバリアントはPBS/ETDA緩衝液中0.2mg/mLの濃度で37℃で1週間インキュベートした。PBMCをこれらのFabおよびインキュベートしていないFab(参照)力価1μg/mLを使用して染色した。細胞に結合したFabは、抗ポリヒスチジン−PEコンジュゲートでインキュベートした後に検出した。例示したドットプロットは、chCD3Fab(
図8B+C)およびhuCD3_mut Fab(
図8D+E)について示している。
図8B+Dはインキュベートしていない(ストレスを与えていない)Fabを示し、
図8C+Eはインキュベートした(ストレスを与えた)Fabを示す。染色した細胞の蛍光強度中央値(MFI、%)を
図8Aに示す。インキュベートしていないFabでは、各MFIを100%に設定した。CDRが変異していないバリアントのMFIはFabの熱負荷後に35%減少し、一方、両CDR変異バリアント(ヒト化および非ヒト化)のMFI値の減少はずっと少ない(11〜12%)ことが認められる。インキュベートした、およびインキュベートしていないFab分子はまた、非還元SDS−PAGEによって分析した。違いは検出することはできず、試料全ては熱負荷後に同じタンパク質バンドを示し、目に見える変化はなかった。目に見えるタンパク質凝集または分解生成物はなかった。
【実施例13】
【0106】
抗CD3タンパク質を含むナノマトリックスの安定性
抗CD3タンパク質を含むナノマトリックスの安定性を試験するために、実施例9のナノマトリックスを37℃で1週間インキュベートした。その後、これらのインキュベートした試料およびインキュベートしていない参照試料を実施例10で記載したT細胞の刺激のために使用した。再度、刺激して48時間後の早期活性化マーカーCD25およびCD69両方の発現ならびに刺激して1週間後のT細胞の増殖率を分析した。
図9は、マウス親OKT3抗体を含むナノマトリックスと比較したFabバリアントchCD3_mutまたはhuCD3_mutのいずれかを含むナノマトリックスの安定性の増加を例示しており、早期活性化マーカーの発現およびT細胞の増殖率はいずれも熱負荷後にOKT3を含むナノマトリックスの場合は減少するが、一方、Fabバリアントの1つを含むナノマトリックスはいずれも熱負荷後に受ける影響はずっと少ない。FabバリアントhuCD_mut3を含むナノマトリックスは最良の結果を示し、T細胞を効率よく刺激する能力は損失してないか、または損失は最小限である。
【実施例14】
【0107】
抗CD3および抗CD28Fabによる細胞の可逆的タグ付け
実施例6のFabバリアントを細胞の可逆的タグ付けのために使用した。したがって、FabバリアントhuCD3_mut、huCD28_v3またはhuCD28_v4それぞれ1μg/mlをリン酸/EDTA緩衝液中においてPBMCと4℃で10分間インキュベートした。その後、試料を分割した。一部をFabバリアントに結合することができる抗ポリヒスチジン−APCコンジュゲート(Miltenyi Biotec、製造者の指示による力価)で4℃で10分間インキュベートした。リン酸/EDTA緩衝液を添加し、タグ付けした細胞を300×gで5分間遠心分離し、その後フローサイトメトリーによって分析した。その他の部分を最初にリン酸/EDTA緩衝液で洗浄し、次いで抗ポリヒスチジン−APCコンジュゲートでインキュベートし、前述のようにフローサイトメトリーによって分析した。
図10Aおよび10Bは、抗CD3バリアントのフローサイトメトリー分析のドットプロットを示し、
図10C〜10Fは抗CD28バリアントのドットプロットを示す。全Fabバリアントは細胞をタグ付けすることができ(
図10A、10Cおよび10E)、タグは抗ポリヒスチジン蛍光色素コンジュゲートを含む。タグ付けは可逆的で、細胞を洗浄することによって除去することができる(
図10B、10Dおよび10F)。結果はまた、Fabの動力学的特性が特異的および可逆的な細胞のタグ付けに有用な範囲内であることを示している。