(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項8又は9記載の電気穿孔法システムにおいて、前記コントローラは、前記不均一な電場における標的電位勾配に基づいて前記電気パルスパラメータを計算するよう構成されており、サッカロースをベースとするキャリヤ溶液が使用され、
電流調節されるパルス送給用に、サッカロースのタイプ及び濃度に基づいて電流振幅が決定され、
電圧調整されるパルス送給用に、サッカロースのタイプ及び濃度に基づいて電圧振幅を決定される、電気穿孔法システム。
請求項8から11のいずれか一項記載の電気穿孔法システムであって、前記コントローラは、1つ又はそれ以上の電気パルスのパルスシーケンス及び前記パルスシーケンスのための電気パルスパラメータを決定し、各電極が前記電気穿孔プローブの長手方向に沿って形成されている少なくとも2つの連続する電極の線形的アレイを含む前記電気穿孔プローブが印加されるとき、1つ又はそれ以上のアノード及び1つ又はそれ以上のカソードとして前記電気穿孔プローブの前記少なくとも2つの電極を駆動させて前記電気穿孔プローブに沿って間隔を置いて配置された異なるアノード及びカソード領域を生じさせ、物理的な前記電極のアレイのジオメトリが、前記パルスシーケンスと組み合わされることで、電気穿孔法処置のための前記電気穿孔プローブの電極近傍における生物組織内の標的領域に電場勾配を有する不均一な電場を生成するよう構成されており、前記アノード及びカソード領域のそれぞれにおいて、前記アノード及びカソードの間のギャップが、前記アノード及びカソードの間を通過する電流によって発生する電場を合焦させて、前記生物組織に誘導される前記電場が前記アノード及びカソードの間の位置に直交する最も高い電場強度となり、これにより、前記電極のアレイのジオメトリが、前記アレイに沿って電場強度に変化を生じさせて前記生物組織における処置領域を空間的に標的とするように前記電場の不均一性を制御する、電気穿孔法システム。
請求項12記載の電気穿孔法システムであって、前記パルスシーケンスのための前記電気パルスパラメータは、キャリヤ溶液特性に基づいて決定され、前記コントローラは、前記不均一な電場における標的電位勾配に基づいて前記電気パルスパラメータを計算するよう構成されている、電気穿孔法システム。
請求項12から14のいずれか一項記載の電気穿孔法システムであって、さらに、電気穿孔プローブ構成、標的処置領域、及びキャリヤ溶液に基づいて、1つ又はそれ以上のパルスシーケンス及び電気パルスパラメータに対して電気穿孔法処置の成果をモデル化するよう構成されている、電気穿孔法システム。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態は緊急使用のための電気穿孔法システムを提供する。本発明の実施形態は、
図1に示すように、電気穿孔処置のために生物組織内に一時的に挿入するよう構成した互いに隣接する少なくとも2つの電極を有する電気穿孔プローブ110と、及びプローブに電気的に接続したパルス発生器120であって、1つ又はそれ以上の電気パルスシーケンスを使用して電気穿孔プローブを駆動させ、プローブにより電流伝送してプローブ電極近傍の生物組織に不均一な電場を誘導する、該パルス発生器120と、を備えている電気穿孔法システム100を提供する。
【0029】
本願発明者達の関連研究において、先にDNA及び他の分子送達のために細胞の「近接場電気穿孔法(close-field electroporation)」(CFE)について記載した(Pinyon et al. Science Translational Medicine, April, 2014)。CFEは、物理的に隣接する電極間に局所的に電流を通過させて電場をアレイから放射させ、細胞を電場に曝露させることによって達成することができ、これは、標的細胞が電極間に配置され、したがって、直流電流経路内に配置される該電極間に電流を通過させるのではない。後者は、「開放場電気穿孔法(open-field electroporation)」と記述することができる。ピニョン氏らの研究において、蝸牛インプラント人工内耳補綴として具現化された電極アレイが蝸牛へのDNA送達に使用された。これは体外でなされ、この場合、DNAは蝸牛の鼓室階液空間内に注入され、また次いで蝸牛インプラントをその空間内に挿入し、少数の電気パルスをアレイに印加し、この結果、アレイに隣接する間葉細胞への電気穿孔法に基づく遺伝子送達を生じた。この後、蝸牛インプラントを取り外し、組織を組織培地に数日間配置した。次に形質導入細胞をグリーン蛍光発光タンパク質(GFP)レポーター発現に基づいて画像化し、この発現は、ネイキッド(プラスミド)DNA遺伝子カセットによって行った。CFE遺伝子送達が、同一の手順−遺伝子送達用アレイの緊急挿入及びその後のアレイの長期移植−を用いて生体内で実証され、このアレイの長期移植において、遺伝子送達は移植時に行われ、またアレイは蝸牛内に留置され、その後の聴神経に対する普通の電気刺激用に使用された。
【0030】
この研究の過程において、本願発明者達は、近接場(close field)電気穿孔法は、アレイ近傍の細胞がトランスフェクションを達成でき、この場合、開放場(open field)電気穿孔法を用いて同じ個数の細胞のトランスフェクションを達成するのに必要とされるよりも少ない累積電荷用いてトランスフェクションを達成できることを発見した。さらに、本願発明者達は、細胞電気穿孔の効率は電場内の電極の位置に関連して変動することを発見した。これらの発見の他に、本願発明者達は、電場が均一な領域に比べると、電場が不均一な領域で向上したトランスフェクションを確認した。さらに、本願発明者達は、治療剤用のキャリヤ溶液の特性も細胞電気穿孔法の効率に影響し得ることを発見した。これら発見を利用して、本願発明者達は電気穿孔法用の電場特性を制御する技術を開発し、これにより標的化した組織領域での予測可能な細胞トランスフェクションができるようにした。本願発明者達が開発したシステム及び方法は、アレイ構成、刺激パルスパターン特性、及びキャリヤ溶液特性のうち任意な1つ若しくはそれ以上を含む変数を利用して、電気穿孔法処置プロセス用の電場特性を制御する。
【0031】
電気穿孔法のための電場制御
本発明の電気穿孔法は電極アレイに隣接する細胞を標的化し、この場合、電場は電流源(アノード)と電流戻り側(カソード)との組合せにより電極周りに形付けされる。
図4a、5a、6a、7a及び8aは、8個の電極アレイにおけるアノード及びカソードの異なる構成からの結果としてマッピングされた電場電位の例を示し、また
図4b、5b、6b、7b及び8bは、各アレイ構成の電気穿孔法実施後の結果として生じた細胞形質転換の分布を示す。アレイにおける8個の電極は、以下の組合せのアノード及びカソードとして構成した。
【0032】
すなわち、
縦列−4個の並置カソード及びそれに続く4個の並置アノードであり、すべての素子は300μm離間させ、全長5mmとし(
図4a〜cに示す);
交互−300μm以内で離間させてカソード及びアノードを交互配置し、全長5mmとし(
図5a〜cに示す);
1+2−単一アノード及び単一カソードを300μm以内で離間させ(
図6a〜cに示す);
1+5−単一アノード及び単一カソードを2.45mm離間させ(
図7a〜cに示す);
1+8−単一アノード及び単一カソードを4.55mm離間させた(
図8a〜cに示す)。
【0033】
図4b、5b、6b、7b及び8bは、アレイ構成の電気穿孔法介在遺伝子送達に対する効果の比較を示し、すべてのアレイ構成は40V、10パルス、50ms持続時間、及び1パルス/秒のパラメータセットを有するパルスシーケンスを用いて駆動した。すべてのアレイ構成は有意な細胞形質導入を生じたが、アノードとカソードとの間の間隔、並びにアノードとカソードの数及びパターンにおける変動が存在して、アレイ構成に起因する形質転換効率に対する有意な効果があった。1+2アレイ駆動構成は、〜(ほぼ)1mmの直径で中心をアクティブ電極とする細胞の球形形状の場を生ずる結果となった(
図6b参照)。交互アレイ駆動構成は、トランスフェクト細胞場に対して線形的バイアスを生じ、このバイアスは、
図5b及び5cに示すようにアレイの長さにわたり延在する(〜5mm;81.8±11.3GFP−陽性細胞)。1+5及び1+8のアレイ駆動構成は、低密度分布を有するより少ない平均形質転換細胞数を生じた(
図7b及び8b参照)。縦列構成のトランスフェクション効率は、任意な他の構成よりも著しく高いものであり(
図4b及び4c参照)、そのパターンは、4個のアノードと4個のカソードとの合流ポイントであるアレイ中間ポイント付近を中心とする球形形状であった。本願発明者達の試験によれば、効率的細胞形質導入を達成するのに必要な電荷送給は、少なくともアノード及びカソードを互いに二極子(バイポール)として組み合わせたとき(「縦列」構成)であることを示した。
【0034】
図4a、5a、6a、7a及び8aは、比較のために、各アレイ構成に関してマッピングした電場を示し、電場電位は、
図3に示すように100msの4Vパルス300をアレイに印加した終了時に測定した。
図3は、さらに、縦列アレイ構成を用いて0.5Vきざみのステップで4Vまで(100msの持続時間)記録した電場電位のトレース310を示す。「縦列」構成は、「交互」構成で結線した同数の電極と比較すると、著しく高い形質導入効率を可能にした。この研究は、さらに、より少ないバイポーラ電極構成はより低い効率である(1+2、1+5、1+8)ことを実証した。「縦列」アレイ構成が予期していなかったほどの細胞形質導入効率を示すことの理由は、電場合焦のジオメトリ(
図4a参照)に寄与する。縦列アレイ400は、アノードとカソードとの接合部410のゼロポイントから辿って最も高い電場輪郭密度を呈する(
図4a参照)。これとは反対に、同数の電極を利用するものの、交互アレイ構成500はアレイ510の端部をピークとしてアレイに沿って分散したより低い電場密度勾配を有した(
図5a参照)。球形のGFP陽性細胞在域が「縦列」アレイのゼロポイント付近を中心にしていることを考慮すると(
図4b及び4c;
図4aにおける電極4と電極5との間におけるポイント410に直交する)、データは、電気穿孔法及びDNA取り込みを駆動するのは電位の絶対段階的変化よりも、細胞にわたり存在する電場であることを示している。他のアレイ構成における細胞分布は、測定された電場との同様な関連性を示し、GFP陽性細胞の数が1+2>1+5>1+8の順で低下することは、電極に対する電場の広がりと相関付けされた。
【0035】
アレイ周りの電場は、形質転換細胞の空間的マッピングと密接に相関付けされた。したがって、細胞形質導入は絶対電圧よりも細胞にわたる電位勾配に依存するものであった。このことは、0.9%生理食塩水溶液を用いての縦列構成に対する輪郭マップで最も明らかであり、このマップにおいて、電場のゼロ領域は電極4と電極5との間でアレイに直交する方向に推移する(
図4a参照)。電場輪郭ラインはこのライン周りで最も急峻であり、形質導入された細胞マップに対応する球形形状を維持する。電位測定値の大きさは縦列アレイの両側端部で最大であるが、より均一である。バイポーラ電極の離間距離が増加するにつれて電場密度は減退し、このことは
図6b、
図7b、
図8bそれぞれにおける1+2、1+5及び1+8のアレイの結果を比較することによって明らかである。
【0036】
各アレイ構成の比較結果をさらに統計的に解析した。
図9は、核局在化したGFP蛍光発光の統計的比較を示し、異なる電極アレイ構成(表示した)に関する形質導入の例から各アレイ構成におけるアレイに隣接して形質転換した細胞を示す。ボックスプロットは、形質転換した細胞のデータ(1グループにつきn=4)でオーバーレイされた中央値(実線)、平均(破線)、25%及び75%の境界を示す。
図10は、
図9の細胞形質転換の比較を示す。すべての駆動構成は、比較対照(control)グループと比較して有意な細胞形質転換を生じ、最も少ない数の形質転換は1+8構成からであった。
【0037】
図11は、縦列アレイ駆動構成を用いて、培地内において40V、5パルス、48時間でのパルス持続時間と形質転換した細胞数との間の相関関係を示す。
図12は、縦列アレイ構成のためのパルス持続時間及びパルス数に関する比較結果を示す。1パルスに対して0.1ms以外のすべてのパルス持続時間は、有意な電気穿孔法介在細胞形質転換を生じた(P<0.004;ランク付けされたANOVA;1パルスに対するホルム−シダック(Holm-Sidak)多重比較;5パルス、0.1msに対する237マン−ホイットニー(Mann-Whitney)順位和検定;P=0.026;1グループにつきn=6)。細胞形質導入は100msのパルス持続時間で最大となった。5パルスは、1パルスよりも著しく高い形質導入を生じた(2ウェイランク付けANOVA、パルス数とパルス持続時間との間における有意な相互作用を示す10ms〜400ms;P<0.001)。単一パルスでは40ms(38.3±5.1細胞)、100ms(51.7±7.8細胞;n=6)、及び400ms(49.2±6.9細胞;n=6)間で相違はなかった(P>0.05;ホルム−シダック多重比較)ものの、5パルス処置では、40ms(147.2±12.4細胞)及び100ms(211.7±16.6細胞)のパルス持続時間は、他の持続時間(それぞれP=0.003;P<0.001)よりも著しく高い細胞形質転換を生じた。5パルスでの400msの持続時間は、結果として最大(38.3±10.2細胞;1グループにつきn=6)から5.5倍の減退を生じた(P<0.001;ランク付けした2ウェイANOVA、ホルム−シダック多重比較)。このことは、電解毒性(以下に詳述する)に起因するものと考えられる。本願発明者達による試験によれば、2×40msパルス又は5×40msパルスにつき、50msと1sとの間におけるパルス離間は細胞形質導入のレベルに対して何ら効果をもたらさなかった。
【0038】
これらの結果は、パルス持続時間が細胞形質導入プロセスに重要な決定因子であり、100ms付近が最適であることを実証している。漸増する電圧ステップで電場内の電位の直接測定は、白金電極のファラデー容量に起因してピークから幾分初期減衰を示す(
図3参照)。2Vより高い電圧(>2V)で継続する電位/電場は100msまでで(〜100ms)定常状態に近づく展開を示す。このことは、細胞にわたり継続される電圧勾配が効率的なミクロ域電気穿孔法に必要とされるというコンセプトに適合し得る。本願発明者達が記録した電場(
図4a、5a、6a、7a及び8aに示す)は、これら実験における電場測定用に使用される隔絶した電圧センサがDNA取り込み(遺伝子電気泳動転写)に関連した印加電圧で記録するのに適さないため、発生した電場の相対的表現を示す。しかし、2.5Vより高い電圧では、(第2アノードに近接する)電場における電位測定は増加する電圧につれて線形的に増大し、4Vで最大で継続する電位が「縦列」構成におけるアノード及びカソードの末端部に直ぐ隣接して〜±250mVに接近した。遺伝子送達に効率的である20Vパルスまでを外挿すると、電場におけるこの位置でサンプリングした即時電圧は、±2250mVに近似しそうである。「縦列」アレイにおいて、GFP陽性細胞の電場の有効径はアレイの50%(2.5mm)までであり(〜50%)、このことは、電場が〜1125mV/2.5mm=4.5V/cmであることを示している。したがって、細胞レベルにおいて、有効全細胞電場勾配が〜450μV/μmである。当然のことながら、誘導される電場は不均一であり、したがって、例えば、V/cm又は我々にとってのμV/μm等で簡単に測定することはできない。本願発明者達は、したがって、輪郭グラフを用いて表された電場の電圧又は電位をサンプリングしたものであり、これらグラフからは、電場強度の推定値はアレイに対する位置に依存ものであることが明らかである。
【0039】
本願発明者達は、さらに、形質転換した細胞の数は増大するパルス振幅で著しく増加することを示した。
図13は、縦列電極駆動構成の電気穿孔法での細胞形質転換に対する電圧振幅の効果を示す。電気穿孔法は電圧を変化させて持続時間40msの10パルスを1/sのパルス繰り返し数で遂行した。40V振幅は10V振幅よりも40倍を超えるほどの多くの形質転換を生じた(196.7±18.5対10Vでの5.9±1.1及び20Vでの32.3±6.3;1グループにつきn=9)。6つの比較対照実験では形質転換細胞は検出されなかった(GFPプラスミド、電気穿孔法無し)。GFP陽性HEK293細胞の在域周縁は、40Vグループに対し密度を推定するよう決定された(29±2細胞/mm
2、n=6)。HEK293細胞の全体密度は、DAPI蛍光発光法を用いて確立した(5097±333細胞/mm
2)。したがって、形質導入効率は、周縁近くに収まることを反映して約0.6%であった。
図13の結果から明らかなように、増加する電圧でトランスフェクト細胞数を増加させる細胞トランスフェクションを信頼性高く達成するのに10V近辺が必要である。
【0040】
図14は、縦列電極構成での形質導入効率に対するパルス数の効果を示す。電気穿孔法はパルス数を変化させて持続時間40msの20V及び40Vのパルスを用いて遂行した。40Vではすべてのパルス数(1、3、5、10,20、40)が比較対照(電気穿孔法無し)よりも著しく多くの形質導入を生ずる結果となったが、この場合、ランク付けANOVA、多重比較対比較対照グループ(ホルム−シダック法;1パルスより多い場合でP<0.001;1パルスでP=0.031;1グループにつきn=6、ただし5パルスグループは除く(n=9))、5、10及び20パルスが最大値(147〜170細胞)をもたらしたが、これら処理(ANOVA、ホルム−シダック比較)間では有意な相違はなかった。20Vで3、5、10及び20パルスのセットは比較対照(電気穿孔法無し)よりも著しく多くの形質導入を生ずる結果となったが、この場合、ランク付けANOVA、多重比較対比較対照グループ(ホルム−シダック法;P<0.003;1グループにつきn=6)。GFP陽性細胞のピーク数は10パルスに対し平均して22であった。20V及び40V双方に関して40パルスではトランスフェクト細胞数に減退があった。さらに、本願発明者達は、電極アレイ位置に近接して、細胞透過性及び細胞毒性のマーカーであるヨウ化プロピジウムの蛍光発光を観測した。この発見は、細胞形質転換の落ちこぼれが、おそらくガス発生に関連する細胞単分子層の電気分解による機械的崩壊に関与していることを示唆し、このことは、電気穿孔法シーケンス後の電極表面における微細気泡として明らかとされた。このことから、より高い電荷送給は行わなかった。
【0041】
本願発明者達は、
図9〜14において、トランスフェクト細胞数はアレイ構成、電圧、及びパルスパラメータによって制御できることを示した。本願発明者達による研究は、効率的な細胞形質導入を達成するのに必要な電荷送給は、少なくともアレイがアノード及びカソードを組み合わせて二極子(バイポール)として構成されるときであることを示した。「縦列」構成によれば、「交互」構成で結線した同数の電極と比較すると、著しく高い形質導入効率を可能にした。この研究は、さらに、より少ないバイポーラ電極構成はより低い効率である(1+2、1+5、1+8)ことを実証した。「縦列」アレイ構成が予期していなかったほどの細胞形質導入効率を示すことの理由は、電場合焦のジオメトリに寄与する。「縦列」アレイは、他の構成に比較すると、電極に隣接する位置で最も高い電場を生ずることを示した。球形のGFP陽性細胞在域が「縦列」アレイの電極4と電極5との間におけるポイントに直交するゼロポイント近辺を中心にしていることを考慮すると、このことは、電気穿孔法及びDNA取り込みを駆動するのは電位の絶対段階的変化よりも、細胞にわたり存在する電場であることを示している。したがって、予測可能な電場を生ずるよう電極アレイを構成することによれば、電気穿孔法処置のため組織内における細胞の特定領域を標的化することができる。よって電気穿孔法の刺激信号における電気的パラメータを制御することを用いて、標的化された領域でのトランスフェクト細胞数に影響を及ぼすことができる。このようにして、本願発明者達は、電気穿孔法処置の予測可能な制御(「ダイアルアップ」制御と称する)を可能にする方法及びシステムを開発し、また遺伝子電気泳動転写の使用可能性を実証した。
【0042】
当然のことながら、生きている患者の電気穿孔法処置に関しては、印加する電気刺激パラメータ(すなわち、電圧及び電流)は有害な処置副作用を回避する必要があり得る。さらに、電気刺激の「安全な」パラメータは患者間で変動し得るものであり、例えば、処置している組織のタイプ、身体領域、患者年齢(すなわち、高齢者又は幼児)、患者の健康状態、他の処置との潜在的干渉、外科手術器具又はインプラント(すなわち、ペースメーカー)のうち任意な1つ若しくはそれ以上に基づいて変動し得る。
【0043】
電気穿孔法は、低効率、電極の組織内への配置からの外傷、及びDNA取り込みを可能にするのに要する一般的な高電圧に起因して、治療的遺伝子送達には問題が多いと依然としてみなされている。このことは、標的器官及び組織に影響を及ぼす有害刺激として考えられ、またDNAの安定性に衝撃を与える恐れもある。単一細胞レベルにおける電気穿孔プロセスの研究は、トランスフェクション効率が電場に関して電気穿孔効率に対する異なる関係性に従うことを明らかにした。例えば、懸濁したチャイニーズハムスター卵巣由来の(CHO)細胞を用いた研究は、200V/cmの電場強度が電気穿孔法にとって十分であるが、レポーター導入遺伝子発現に基づくトランスフェクションには400V/cmが必要であることを実証した。骨格筋へのDNA取り込みにおける研究は、短い持続時間の「高電圧勾配」(800V/cm)パルス及び長い持続時間の「低電圧勾配」(8V/cm)パルスを組み合せて、それぞれDNAを原形質膜に透過可能化及び電気泳動させるのに役立つことを示した。蛍光発光標識付けしたDNAを用いる研究は、細胞が電場にわたる両側で透過可能化されるとともに、(TOTO-1の標識付けされた)プラスミドDNAのみがカソード側で細胞に進入したことを示している。細胞膜の透過可能化は電圧パルスの短時間域(一般的にはμs〜msの範囲)で生ずるとともに、細胞における完全性の回復は分単位で生ずる。このことは本発明者による試験のヨウ化プロピジウム蛍光発光画像化で一貫しており、画像化は電気穿孔法実施後30分で行われ、また形質導入された細胞の細胞膜完全性が回復することを示した。パルス振幅は、細胞膜が透過可能となる割合及び電気穿孔された細胞膜面積に影響を及ぼし、パルス持続時間及びパルス数が透過可能性の度合いに影響を及ぼす。透過可能化プロセスは、キャパシタンス時定数よりも速く起こる細胞膜への電荷再分配をさせる電場に依存する。このように、細胞ジオメトリは決定的な重要性を有し、哺乳類動物の細胞はより小さいバクテリア細胞よりも低い電圧を必要とする。いずれにせよ、印加電圧は電気穿孔法遺伝子送達には〜200mV又はそれ以上の膜透過電位を生ぜしめるのを必要とすることが提案された。膜透過電位におけるこのような一過的変化を達成するためには、一般的に細胞懸濁液及び組織トランスフェクションのためのマクロ域で高い電場強度が必要となる(例えば、〜1.2kV/cm、4mm電極ギャップでは480Vに相当する)。生理食塩水キャリヤ溶液を用いる本発明者のデータは、電気穿孔法及び遺伝子送達に必要な電場電位が、アレイベースのミクロ域電気穿孔法(近接場電気穿孔)で、マクロ域電気穿孔法(開放場電気穿孔)で必要とされるよりも〜100倍も低い印加電圧を用いて達成できることを示している。このことは、鶏胚神経発達研究における、ミクロ域1+5アレイ構成に近似する極めて近接並置した電極対(1mm被曝、4mm離間、25Vでの3〜5×50msパルス)でのDNA電気泳動転写用に報告された印加電圧の減少で一貫している。本願発明者の電場電位測定によれば、電場圧縮及びひいては電気泳動転写はアノードとカソードとの離間量が生体工学的アレイ内で最小化されるにつれて増大することを示している。
【0044】
蝸牛インプラント及び深部脳刺激装置のような移植可能な生体工学的補綴を利用する臨床的方策は、それらの性質によって「近接場」電気穿孔法を相補的遺伝子治療に組み込むことに適している。本願発明者達は、さらに、制御下での及び/又はカスタマイズした電気穿孔法処置を遂行する、緊急処置用のプローブ、制御システム及び方法論を助言した。これは、ウイルス・ベクター又はリポフェクションのような他の手法で現在得られるよりも、より一層安全かつより標的化された遺伝子による能力増強をもたらす潜在力がある。幾つかの実施形態において、電極アレイベースの遺伝子送達は既存の生体工学的神経補綴の適用を介して可能とする。さらに、カスタム化した電極アレイを開発して細胞の形質導入される在域の形状及び範囲の制御を拡大することも考えられる。
【0045】
電気穿孔法の成果を制御する重要なパラメータは、パルス強度(電圧)、パルス持続時間、パルス数、パルス間インターバル、物理的アレイ構成、アレイにおける電極の極性、キャリヤ溶液組成及びDNA濃度である。これらパラメータを制御することにより、電場制御が可能となり、またひいては電気穿孔法の成果の領域及び密度の制御が可能となり、例えば、電極近傍の標的細胞領域への遺伝子送達制御(「ダイアルアップ」制御とも称する)を可能にする。本発明の実施形態は、実際にはこれらパラメータを適用して、電気穿孔法用に制御した不均一な電場を誘導するよう、とくに、電極アレイに直交する方向に電場勾配を生ずるよう構成した電気穿孔法システムを提供する。電場ジオメトリを制御することにより、アレイに対する特定領域内の細胞を処置用に標的化することができる。電場ジオメトリに対する重要な影響はアレイ構成である。電気穿孔法のパルスパラメータ(すなわち、強度、パルス幅、パルス間インターバル、及びパルス数)を制御することにより、標的化された領域でのトランスフェクト細胞数を制御し、この標的領域では、キャリヤ溶液組成及びDNA濃度が電場ジオメトリに影響することが見出された。
【0046】
潜在的な組織ダメージに関しては、本願発明者達が行った研究においては、最も高い電荷送給が、ガス発生に起因してHEK293細胞単層に対する電気泳動アクション及び有意な物理的崩壊を生ずる結果となった。このことは、生理食塩水における〜25mC/cm
2の最小有効電荷送給として推定された白金電極のファラデー電流限界の結果であり、生理食塩水においては可逆的電荷送給のための白金電極の疑似容量は〜210μC/cm
2である。したがって、白金のような不活性電極であっても、細胞に対する起こり得る電気化学的ダメージは、比較的長いパルス持続時間、高い電圧及び長いパルス列を使用するときに要因となる場合があり、pHの潜在的変化が水の還元によるアノードにおけるH
+の生成及びアノードにおけるO
2又はCl
2のガス、及びOH
−の生成から生ずる。組織の(ジュール)加熱も電気穿孔に関連し、細胞温度を上昇させる、また潜在的にDNAを不安定にすることの双方を招く。生体工学的アレイベースの遺伝子治療用途の翻訳は、電極アレイに隣接する細胞にダメージを与えかねない電荷送給レベル以下で達成することが必要である。上記で実証されたように、標的領域で電場勾配を生ずるよう電気穿孔法アレイジオメトリを構成することによって、既知の方法よりも少ない電荷送給を用いて効果的な電気穿孔法の成果を可能にし得る。アレイ構成及び送給パルスパターンの組合せは、必要とされる処置毎に計算することができ、また利用可能な向上した効率は潜在的な組織ダメージを与えるリスクを軽減することができる。
【0047】
本願発明者達は、さらに、治療剤用キャリヤ溶液の特性並びにDNAの特性も発生した電場特性及び電気穿孔法成果の効率に影響を及ぼすことがあり得ることを示した。とくに、本願発明者達は、サッカロースキャリヤ溶液の使用によって、生理食塩水ベースの溶液と比べると、アレイ近傍の電場に対する向上した耐性及び修正を生ずる、またひいてはアレイ近傍の電場強度を修正することができる。したがって、キャリヤ溶液は、電気穿孔法処置を調整するパラメータを制御するよう決定するときの変数として処理できる他のパラメータである。本願発明者達は、DNAを含むサッカロースキャリヤ溶液の使用により、遺伝子電気泳動転写用に最小有効電荷を10
3も減少することができ(〜25μC/cm
2、この場合、電極におけるガス発生は見えなかった)、これは15mAでの10μsパルスを使用する実施例(
図27参照)で明らかである。
【0048】
キャリヤ溶液組成は、アレイに対して電気穿孔法刺激パルスの調節した電流送給により発生した電場強度にとくに影響し、したがって、電気穿孔法及び細胞内への遺伝子電気泳動転写に影響を及ぼすことができる。キャリヤ溶液の選択も電圧調節した条件下での電気穿孔法成果に影響を及ぼし得る。
【0049】
細胞電気穿孔法及び遺伝子電気泳動転写は、一般的に制御した振幅の電圧パルス(一定電圧電源)を用いて行う。本発明の実施形態において、スクロース溶液はDNA用キャリヤとして使用し、一定電流源により細胞内への近接場遺伝子電気泳動転写を達成した。スクロース溶液によれば、制御した遺伝子送達のための効率が向上した細胞電気穿孔及びDNA電気泳動転写を達成するのに十分な振幅及び持続時間で電極アレイに外部から電場(電圧)を発生するのに必要な電流の著しい減少を可能にすることが分かった。例えば、10%濃度(等浸透圧)のスクロースを使用することに起因する向上した電極アレイにわたる耐性は、生理食塩水ベースの溶液に対してほぼ10倍であることを示した。このことは、電圧パルス依存電気穿孔法に要する電流を〜30倍に相当するほども減少した。このことは、体外でのHEK293細胞単層モデルの実施例及び蝸牛及び脳における体内モデルの双方で遺伝子電気泳動転写に有効であることが分かった。
【0050】
調節した電流条件の下での電気穿孔法に対するキャリヤ溶液の影響を
図23〜25につき以下に詳述し、これら図は、通常の基準生理食塩水溶液と比較し、サッカロースキャリヤ溶液を変化させて一定電流制御の下で局所的電場の測定値結果を示す。
図23は、100ms持続時間の一定電流パルスの範囲に関して電極アレイへの印加電圧(Vappl)に対するキャリヤ溶液組成の効果を示す。パルス測定値は〜95msである。蝸牛インプラントアレイは、4個のアノード組み及び4個のカソード組みにして結線した(縦列構成)。
【0051】
本願発明者達は、電極アレイにおける電流及び電圧を記録し、また基準アースに対して電極に隣接する電場内の電圧測定のためカスタマイズした隔絶増幅器(電流モニタリングシステム)を用いた。アレイの電極及び測定プローブの双方は白金で構成した。本願発明者達は、スクロース又はグルコース及び生理食塩水、並びにこれらの組合せを含む溶液の濃度が変化する溶液を用いた。一定電流は、デジタイマー(Digitimer)DS5による隔絶した一定電流刺激装置を用いて送給した。電流パルスは、アクソン・インスツルメンツ(Axon Instruments)社の1440インタフェースを用い、クランペックス(Clampex)社のソフトウェアで制御した。電流パルスは、100μs〜100msの間で変化させ、また可変振幅は50mAにまで至るものであった。デジタイマーDS5の刺激装置からの電流及び電圧の出力は、このインタフェース(5チャンネルのチャンネルあたり100kHzのサンプリングレート)を介して電極アレイにおける印加電流、電圧、及びカスタムビルトの電極モニタリングシステムによる電場内ポイントの電圧の独立的測定値とともに記録した。
【0052】
これら試験用に使用したアレイは、コクリア(Cochlear)社製8ノードアレイ(コクリア社部品番号Z60274)であり、これは350μm幅の白金リングを有し、尖端を有する4個の電極をアノードとして組にし、次の4個の電極をカソードとして組にし、上述したように、「縦列」構成にしてある。試験は、
図23に示すように、スクロース(5%、10%、15%)及びグルコース(5.3%)の溶液(0.5mMのNaOHで緩衝させ;マイクロ浸透圧計(フィスケ社モデル210)で計測したオスモル濃度はそれぞれ:154、326、520,315mOsm)は、所定の一定電流パルス用の通常生理食塩水(0.9%NaCl;296mOsm)又は生理食塩水(0.45%)及びスクロース(5%)の組合せ(310mOsm)と比較すると、アレイ電極における電圧(V
applied)の大きな増大を生じた。
【0053】
サッカロースをベースとするすべてのキャリヤ溶液は、1mAの電流での有効遺伝子電気泳動転写の範囲内における電圧(〜10V)を生ずることは重要である。このことを達成するには、生理食塩水をベースとする溶液は>20mAの電流を必要とした。3連測定に基づいて、一元配置分散分析(ANOVA)による統計分析は、初期的に最も近似して適合する測定電圧(V
applied)である1mAが印加したデータを比較することによって行った。キャリヤ溶液間で統計的に有意な相違があった(P<0.001);ホルム−シダック対の比較(α=0.05で有意)は、以下の表1に示すように、生理食塩水(saline/sal)含有溶液よりも高い印加電圧をすべてのサッカロースキャリヤ溶液で発生したことを示した。
【0055】
1mA、100ms電流パルス中のV
applied(ボルトで測定);グループ間変動P<0.001、ホルム−シダック対比較での一元配置ANOVA。
【0056】
図23のグラフに示すように、1mAレベルにおけるスクロース又はグルコースの5〜10%間で有意なV
applied(平均=11.48V)の差はなかった。しかし、2mA×100msパルス2320に基づくV
appliedの分析は、
図23から明らかな相違を解明した(平均±s.e.m;5%スクロース=21.5±0.05V;5.3%グルコース=22.9±0.52V;10%スクロース=23.4±0.42V;15%スクロース=27.2±0.03V;P<0.05);ここで10%スクロース及び5.3グルコースのみが区別可能であった(P=0.336)。サッカロースベースのキャリヤに関しては、電流が増加してのV
appliedにおける増加は、ほぼオームの法則に従ったもので、線形回帰最良適合(R
2>0.98)を用いてそれぞれに対応する傾斜から抵抗を計算することができ:0.9%生理食塩水=299Ω;0.45%生理食塩水+5%スクロース=480Ω;5%スクロース=6.30kΩ;10%スクロース=7.16kΩ;15%スクロース=8.50kΩ;5.3%グルコース=6.94kΩであった。
【0057】
1mA×100msパルスに対する電場解析は、蝸牛インプラントアレイの尖端状アノードからの第2アノードに対して直交する方向に〜500μmの基準ポイントから取得した。これらデータは、サッカロースがある電極(Vappl)における電圧上昇は、電場電位(Vf)をより高める結果となることを示した。
図24のグラフは、一定電流パルスにおけるキャリヤ溶液選択のため、測定した誘導電場結果プロットを示す。
図24において、プロット2410は15%スクロースキャリヤ溶液2415の測定結果であり、プロット2420は10%スクロースキャリヤ溶液2425の測定結果であり、プロット2430は5.3%グルコースキャリヤ溶液2435の測定結果であり、プロット2440は5%スクロースキャリヤ溶液2445の測定結果であり、プロット2450は5%スクロース+0.45%NaClキャリヤ溶液2455の測定結果であり、及びプロット2460は0.9%NaClキャリヤ溶液2465の測定結果である。これらの結果は、サッカロースが、一定電流パルスにおいて生理食塩水ベースのキャリヤ溶液よりも、より大形の生体工学的アレイで誘導した電場電圧を駆動することを示している。測定電場電圧(Vf)2410、2420、2430、2440は、NaCl2455、2465を含む溶液よりも、サッカロースキャリヤ溶液2415、2425、2435、2445で著しく高い。電圧は、4個のアノード組と4個のカソード組を結線した蝸牛インプラントアレイの第2アノード電極に対して直交する方向に〜500μmの位置で測定した。
【0058】
以下の表2は、2.5mA電流パルスに関して一元配置ANOVAに基づく電場電圧の比較を示す。
【表2】
【0059】
1mA、100ms電流パルス中のV
applied(ボルトで測定);グループ間変動P<0.001、ホルム−シダック対比較での一元配置ANOVA。
【0060】
図25は、生体工学的アレイのアノード2に隣接する電場で測定した電位(Vf)のグラフであり、サッカロースベース及びNaClベースのキャリヤ溶液でのアレイに印加した電圧(Vappl)からの結果である。
図25に示すように、Vappl対Vfのプロット2510は、サッカロースベースのキャリヤの成長関数が所定印加電圧に関するNaCl含有キャリヤのプロット2520よりもほぼ1/3だけ高いことを示した。15%スクロースに関して、Vfは0.179×Vappl(線形回帰最良適合R
2=0.995)だけ増加したが、0.9%NaClではVf成長関数は0.119×Vappl(R
2=0.978)であった。
【0061】
図25は、サッカロースベースのキャリヤでの印加電圧が、所定印加電圧に対して電場(Vf)でサンプリングした電圧のポイント測定値に基づいて、NaCl含有キャリヤ溶液よりも、ほぼ33%大きい電場強度を発生したことを示している。短い破線ライン2520は、0.9%NaClキャリヤ(Vf=-0.293+0.119×Vappl)からのデータに基づく線形回帰最良適合として外挿されたものであり、長い破線ライン2510は、15%スクロースキャリヤ(Vf=-0.751+0.179×Vappl)に関する最良適合である。印加電圧は、2.5mA、5mA、10mA、20mAでの一定電流パルス(100ms)を用いて得られた。
【0062】
これらデータは、生理食塩水ベースのキャリヤ溶液で生体工学的アレイに印加される電圧から外挿することによって推察されるよりも高い近接場電位がサッカロースキャリヤで生じることを示している。このことは、電気穿孔法成果を達成するのに要する電場が、生理食塩水ベースの溶液よりもサッカロースベースのキャリヤ溶液を使用する場合に、より低い電圧及び電流刺激を用いて誘導し得ることを示した。さらに、サッカロースのタイプ及び濃度は、誘導される電場電圧にも影響する。
【0063】
一定電圧パルスとの比較のため、近接場遺伝子電気泳動転写用に一定電流パルスを用いて更なる試験を行った。この研究の結果を
図26〜28に示す。この研究は、生体工学的電極アレイ及びサッカロースキャリヤ対生理食塩水溶液を用いて遺伝子電気泳動転写用の電流パルスパラメータを確立し、また一定電圧パルスを用いる遺伝子電気泳動転写とこれらデータを比較した。むき出しのGFPレポータープラスミドDNA(2μg/μl)を使用して、縦列構成で結線した8ノード蝸牛インプラントアレイを用いるカバースリップ上で融合性HEK293細胞の遺伝子電気泳動転写の読出しを行った。
【0064】
図26は、一定電流パルスを用いて、形質導入したHEK293細胞の面積における生理食塩水対スクロースのキャリヤ溶液比較を示す。注目したいのは、100ms持続時間の3×5mA、900msパルス間隔のパルスを0.9%(通常)生理食塩水で使用することにより1.0±0.4mm
2(平均±s.e.m、n=3)のGFP陽性細胞の平均在域を生じたことである。キャリヤ溶液として10%スクロースを用いる同一パルスパラメータは、平均面積13.9±0.6mm
2(P=0.0000165、両側t検定)を生ずる結果となり、これは同一電流振幅でより強い電場を生ずることを反映している。
【0065】
デュアルパルスモードを使用することの効果は、100μs離間量での大きい振幅の3つの短い(100μs)電気穿孔パルス(生理食塩水では50mA、10%スクロースでは15mA)、それに続いてより小さい電流振幅の3×100msの遺伝子電気泳動転写パルス(生理食塩水キャリヤに関しては5mA、15mA、25mA;スクロースキャリヤでは5mA及び25mA)を用いて調査した。
図26は、3つの短い電気穿孔パルスによる包接がスクロースキャリヤの存在下での形質導入細胞面積を著しく増大するが、生理食塩水キャリヤではそれがなかったことを示している。本願発明者達は、最大限に得られる電気穿孔印加電圧がスクロース溶液でより高かったからだと考えている。例えば、上述したように10%スクロースキャリヤでの3×100ms×5mAパルスから生ずる面積13.9mm
2を、3×100μs×15mA、次に3×100ms×5mA(n=2)を使用した場合の32.5±9.9mm
2と比較する。電気穿孔した細胞の最大面積88.1±9.9mm
2は、3×100μs×15mA、次に3×50ms×25mA(n=3)で10%スクロースキャリヤ溶液を使用して達成されたが、これは、生理食塩水での最大デュアルパルスプロトコール(3×100μs×50mA、次に3×50ms×25mA(n=3))で生じた7.5±0.5mm
2(n=3)(P=0.00002073)の面積と比較された。
【0066】
短い(100μs)の電気穿孔パルスの効果は、対パルスプロトコールとは別個に検査した。この試験結果を
図27及び28に示し、これら図はHEK293細胞におけるプラスミド遺伝子電気泳動転写での100μs電気穿孔パルスの有効性を示す。トランスフェクト細胞の面積は、増加する電流パルス振幅とともに徐々に増大する。3つの一定電流パルスは、100μsパルス内期間だけ離間するものであった。10mA及び15mAのパルス振幅は、1mAパルスよりも著しく多くの遺伝子発現を生ずる結果となった(ランク付けANOVA及びダン事後対比較(Dunn’s posthoc pairwise comparisons))。
図27は、HEK293細胞によるGFP発現の蛍光発光画像を示すA〜Dの写真セットである。
図28は、トランスフェクト細胞面積を示すボックスプロット(95%信頼限界での25%及び75%のデータ境界;個別データのオーバーレイ;破線は平均を示し、中央値は実線で示される)である。試験は、GFPレポータープラスミドDNA(2μg/μl)を使用して10%スクロースキャリヤ内で行った。電気パルスは、縦列構成で結線した8ノード蝸牛インプラントアレイに印加した。電流は、デジタイマーDS5一定電流刺激装置によりアナログコントローラのインタフェースに送給した。
【0067】
この場合100μsインターバルで離間する3×100μsパルスだけを、1mA、5mA、10mA、15mAのそれぞれで使用した。10%スクロースキャリヤにおいて1mAパルスは効果がなかった(平均=0.0009±0.0003mm
2;P=0.0648〜両側1サンプルt検定、n=3)が、5〜15mAパルスはGFP陽性HEK293細胞の徐々に大きくなる面積を生じた(
図28参照)、すなわち、0.769±0.077mm
2(5mA;P=0.000172、両側1サンプルt検定、n=6)から12.329±1.972mm
2(15mA;P=0.00306、両側1サンプルt検定、n=5)の範囲で徐々に大きくなった。これらデータによれば、一定電流電源(50mA)の最大出力までにいたる100μsプレパルスは、ms単位のパルスデータ(
図26参照)と比べると、生理食塩水キャリヤにおける遺伝子電気泳動転写効率には影響しないことが顕著である。この結果によれば、さらに、3×100μs×15mAパルスで得られるトランスフェクト細胞面積(〜12.33±1.927mm
2)は、5mAでの3×100msパルスで得られる面積に匹敵するものであった(13.87±0.325、n=3)(P=0.570,両側t検定はこれらの条件間に有意な相違を示さない)。10%スクロースキャリヤにおける等価遺伝子発現を達成するためのパルス列の電荷転移における差は相当大きく(3×100ms×5mAの条件での1.5×10
-3C対3×100μs×15mAの条件での4.5×10
-6C)、より高い電流レベルが遺伝子電気泳動転写に必要な総電荷の大幅な減少をもたらす。
【0068】
最大電流振幅(50mA)は、通常の生理食塩水内で縦列構成した8ノード蝸牛インプラントアレイに〜35Vを送給することができ、この印加電圧は10%スクロースキャリヤで得られた(
図31参照)。ここで、TRIS緩衝液(n=5;3×100ms×50mA)を含む通常の生理食塩水(0.9%NaCl(n=4))において一定電流で電極に印加した35Vの効果を、10%スクロースキャリヤ(3×100ms×5mA、n=5)の使用に対して比較した。両側t検定は、印加電圧の整合にも関わらず、スクロースキャリヤ使用での形質導入細胞の有意な(P=0.0103)面積増加を示し、このことは、溶液抵抗の変化から電極電圧における増加を越えて遺伝子電気泳動転写を向上させるスクロースの効果を示唆するものであった。電気泳動転写の比較結果を
図29〜31に示す。
図29及び30は、縦列構成した8ノード蝸牛インプラントアレイに印加した35Vを生ずるのに整合した一定電流パルスを用いて生理食塩水(0.9%NaCl)及び10%スクロースで形質導入したGFP陽性HEK293細胞の面積実施例の写真である。
図29は生理食塩水キャリヤを用いて35V100msパルスでの電気泳動転写成果の写真であり、
図30は10%スクロースキャリヤ溶液を用いて35V100msパルスでの電気泳動転写成果の写真である。電流パルスは3×100ms(
図29のNaClキャリヤでは50mA及び
図30のスクロースキャリヤでは5mA)であった。各関心対象領域は4.85mm
2であり、電極アレイの位置は符号2910、3010でマーク付けする。
図30におけるスクロースキャリヤでの形質導入細胞がより大きい面積であることに留意されたい。
図31は、縦列構成アレイで35V印加電圧に整合する一定電流を用いての形質導入されたHEK293細胞面積に関する生理食塩水(0.9%NaCl)キャリヤ溶液vs10%スクロースキャリヤ溶液のグラフィカル比較である。統計的比較は両側t検定を使用した。
【0069】
本願発明者達は、スクロースキャリヤ及び生理食塩水キャリヤを用いてDNA有り及び無しでの電場を比較する試験も行った。蝸牛インプラントアレイ(8ノード縦列構成)を使用したこの試験は顕微鏡ステージ上で撮像し、また電場電圧(Vf)は、浴内のPt電極を基準とする、絶縁Pt電極を有する隔絶電圧増幅器を用いて電極位置2(尖端から2番目のアノード)に直交する方向に0.5mmの位置でサンプリングした。Vfは、100ms電流パルスの電極アレイに印加される振幅が変化する範囲で測定した。電極における電圧(Vappl)は一定電流電源(デジタイマーDS5)からの出力として測定した。Vappl及びVfは、キャリヤ溶液内に含まれるサケの精子DNA(サーモ・フィッシャー社;2μg/μl、平均2kB断片)の有り及び無しについて比較した。
【0070】
この試験結果は、DNAをサッカロースキャリヤ溶液に添加することにより抵抗を減少させるが、一方で生理食塩水キャリヤに添加されるDNAは抵抗を増大させることを実証した。抵抗(印加電圧での電流フローに基づく)の測定値を以下の表3に示し、また抵抗の効果は、
図32で印加電圧(Vappl)vs電流データの傾斜の差として明らかである。
【0072】
キャリヤ溶液はすべて0.5mMのNaOHによるpH調整を含む。「*」はネッパジーン社製Napagene CU1を用いての直接測定値を示し、他の測定値は線形回帰最良適合(R
2=0.89−1.0)の傾斜を介してのものである。一定電流パルス(100ms)はデジタイマーDS5刺激装置を介して縦列アレイに印加した。
【0073】
図32及び33は、通常生理食塩水(0.9%)及び10%スクロース(双方とも0.5mMのNaOHで緩衝している)におけるサケ精子DNA(2μg/μl)のVappl及びVfに対する効果を示す。
図32は、サケ精子DNA(2μg/μl)の有り及び無しでのスクロースvs生理食塩水に対し電流パルス入力を変化させて縦列アレイで達成された印加電圧のプロットを示す。
図33は、アノード2の側方0.5mmの位置で測定した、異なる縦列アレイに印加した電圧によって発生した電場電圧を示す。スクロースキャリヤ及び生理食塩水キャリヤはサケ精子DNA(2μg/μl)の有り及び無しで比較した。
図33は10%スクロースキャリヤ、DNAの有無に関係なく、印加電圧(Vapplied)が似たようなVfを発生することを示す(Vf for10% sucr + DNA=-0.237+(0.209*Vappl-10%sucr+DNA;R
2=0.993); Vf 10% sucr without DNA=-0.214+(0.208*Vappl 10%sucr;R
2=0.997))。DNA有りの0.9%生理食塩水の場合、最良適合は、0.147V/Vの傾斜をもたらす(Vf sal+DNA=-0.336+(0.147*Vapp saline+DNA;R
2=1.0))一方で、DNA無しでは傾斜は0.0958V/Vである(Vf saline without DNA=-0.193+(0.0958*Vapp sal no DNA;R
2=0.989))。
【0074】
スクロースを用いてのアレイに沿う電場のラスター測定
10%スクロースキャリヤ(DNA無し)のVfは、5V一定電圧パルス(100ms;AMシステム2200刺激装置)を用いて縦列アレイの長さに沿って測定した(
図34及び35参照)。
図34は、アレイに沿って規則的インターバルで測定した電場(Vf)のサンプリング構成を示す画像である。この画像は、蝸牛インプラントアレイの長さに沿った様々な位置におけるVfサンプリング電極をオーバーレイして示す合成画像である。
図35は、表面に対して0.5mmの距離でアレイに沿って測定した電場でサンプリングした電圧(Vf)のラスター走査を示す。電場強度は、アレイの中間領域で最も高い(
図35において、電圧vsアレイに沿う距離における最も急峻な変化として明らかである)。電極1〜4は、アノードの組として組み合わせ、電極5〜8は、カソードの組として組み合わせた(縦列アレイ構成)。グルコース、スクロース及び通常生理食塩水のキャリヤ溶液は、DNA有り及び無しで比較する。10%スクロースキャリヤ溶液(DNA無し)の電場マップは40Vパルス(100ms)を用いて
図36のように示される。このことは、縦列アレイの組にしたアノード及びカソード間におけるゼロ位置付近の電場圧縮を際立たせる。
【0075】
図35に示すように、5.3%グルコース又は10%スクロースでの電場強度は、0.9%生理食塩水よりも高い。DNA(2μg/μl)の存在は、すべてのキャリヤに対して顕著に電場強度を増強する。サッカロースキャリヤ溶液での共通印加電圧(Vappl=5V)に対する電場強度の増加は、GFP陽性HEK293細胞面積における目立った増加に比例し、このことは生理食塩水キャリヤと比較したこれらキャリヤで明らかである。最大電場強度(
図35における2mmと3.5mmとの間でのプロット勾配)は:5.3%グルコース+DNA=6.4V/cm(最大Vf変化=1.785-(0.640V/mm*最大電場位置));10%スクロース+DNA=8.86V/cm(最大Vf変化=2.269-(0.886V/mm*最大電場位置));0.9%生理食塩水+DNA=4.46V/cm(最大Vf変化=1.304-(0.446V/mm*最大電場位置))であった。DNAを含むキャリヤに起因する電場強度のランク順序は、10%スクロース>5.3%スクロース>0.9生理食塩水である。
【0076】
図36は、40ボルト印加電圧(AMシステム2200一定電圧刺激装置)を用いて10%スクロースキャリヤ溶液(DNA無し)における縦列構成電極アレイの右側(片側)の2D電場マップを示す。Y軸はアノード4とカソード1との間のゼロポイントに対するアレイに沿う位置である。電極アレイは長さ5.5mmであり、上側領域はアノードとして組にした4個の電極(+ve)からなり、底部半分はカソードとして組にした4個の電極(-ve)を有する。電場の最も強い領域3610は、アレイの中間領域であるアレイのゼロポイント(y軸における位置0)に直交する。
【0077】
図37〜40は、生体内での生体工学的アレイをベースとする遺伝子電気泳動転写のために一定電流パルス及びスクロースキャリヤ溶液を使用することの使用可能性を実証している。
図37は、モルモット背部脳幹(孤束核領域)におけるニューロン群のGFP蛍光発光による体内画像セットであり、縦列構成で結線した生体工学的アレイとともに10%スクロースキャリヤ溶液を用いて取得した。プラスミドレポーターDNAは、pCBA-eGFP(2μg/μl)であった。組織は、一定電流パルスである3×100mA×100msパルス(Vappl=35v)を用いて遺伝子電気泳動転写後7日間定着(4%パラホルムアルデヒド)させてから画像化した。
【0078】
図38及び39は、スクロースキャリヤでの蝸牛遺伝子送達の体内画像である(GFP標識付けした鼓室階を内張りする間葉細胞)。DNAは、pCBA-eGFP(2μg/μl)であった。組織は、10%スクロースキャリヤとともに縦列構成で結線した生体工学的アレイによる遺伝子電気泳動転写後4日間4%パラホルムアルデヒドで定着させてから画像化した。半側切断した蝸牛を4週間かけて脱灰した。これら図は、鼓室階の基底回転部分を内張りするGFP陽性モルモット蝸牛間葉細胞(グリーン)を示す。一定電流電源(デジタイマーDS5刺激装置)を介して、
図38におけるデータのための実験は3×2mA×100msパルス(Vappl=20V)を使用し、また
図39におけるデータのための実験は3×1mA×100msパルス(Vappl=12V)を使用した。
【0079】
上述したように、電場ジオメトリを制御することは電気穿孔法処置用の領域の空間的標的化を可能にし、また電気穿孔パルスによって誘導される電場強度Vfはトランスフェクト細胞の数を制御する。キャリヤ溶液及びDNA濃度の選択により電場強度を変化させることができ、また電場ジオメトリに影響を及ぼすことができる。とくに、サッカロースベースのキャリヤ溶液は、電気穿孔刺激パルス駆動に、生理食塩水ベースのキャリヤ溶液におけるよりも低い電流及び電圧振幅を使用して細胞トランスフェクションを達成できることを示した。したがって、細胞トランスフェクションを達成するために送給される累積電荷はキャリヤ溶液の選択によって減少することができる。このことは、処置中の電気機械的有害性のリスクが減少し、また刺激パルス送給要件を少なくするという利点を持つことができる。制御した電気穿孔を提供するシステム及び方法の実施形態を以下により詳細に説明する。
【0080】
システムの実施形態によれば、DNA、治療分子又は他の薬剤のより効率的なトランスフェクションを可能にする。本発明の実施形態は、電気穿孔法を実施するための1つ又はそれ以上の標的領域で不均一な直交電場を生ずるよう構成した電気穿孔プローブ及びシステムを企図する。このシステムの実施形態によれば、細胞がむき出しのDNAを取り込むことができるパラメータ内に電場を合焦させることができる。
【0081】
システム実施形態の概観
本発明電気穿孔法システムの簡単な実施形態を
図1のブロック図に示す。システム100は、電気穿孔プローブ110及びパルス発生器120を備える。電気穿孔プローブ110は、生物組織内に一時的に挿入するよう構成し、また少なくとも2つの互いに隣接する電極を有する。好適には、アノード及びカソードとして駆動される隣接する電極の各対間における間隔は1mm未満とし、電極対間に高い電場勾配を誘導できるようにする。
【0082】
パルス発生器120は、プローブに電気的に接続し、また1つ又はそれ以上の電気パルスのシーケンスを使用して電気穿孔プローブを駆動し、プローブ経由で電流を伝送し、またプローブ電極近傍の生物組織に不均一な電場を誘導させるようにする。パルス発生器120は電圧又は電流のいずれかを制御して、制御した大きさ及び持続時間の1つ又はそれ以上のパルスのシーケンスをプローブ110に供給することができる。パルス発生器は、単一のパルス列を発生する単一発生源には限定しない。例えば、電場を整形するよう種々の電極に同時に作動させられる多重の電流源及びシンクとすることができる。
【0083】
電場の形状は、電極の物理的構成、パルス発生器によって電極を駆動するための極性によって影響を受ける。さらに、パルス持続時間、パルスの大きさ、パルス数及びキャリヤ溶液を変化させることにより、細胞形質転換の数に影響を及ぼす。パルス持続時間、パルスの大きさ及びパルス数は、処置用に供給される治療剤キャリヤ溶液、及び所望の処置成果に基づいて制御することができる。したがって、プローブの電極アレイ構成を変化させ、またどのようにアレイ素子(電極)をパルス発生器によって駆動するかによって、電場の形状を制御し、電気穿孔法実施のための特定組織を標的化することができる。電気穿孔プローブは、様々な構成を有し、それぞれが異なる形状の電場を生ずる使用に適合するよう製造することができる。したがって、プローブは、特定臨床用途に又は特定患者にさえも適合するよう調整することができる。プローブ電極アレイの物理的構成は電場制御の一態様であり、構成の他の態様はアノード及びカソードとしての電極接続である。幾つかの実施形態において、パルス発生器又は電気穿孔コントローラは、電極アレイ素子を選択的にアノード及びカソードとして構成し得る。
【0084】
電場及び駆動パルスの制御によれば、電場のサイズ及び形状の点で見た形質導入した細胞の空間的在域、及び在域内における形質導入細胞の密度を調節することができる。換言すれば、本発明の実施形態は、局所指向遺伝子送達の「ダイアルアップ」制御を可能にする。遺伝子送達制御における他の変数はキャリヤ溶液である。当然のことながら、幾つかの用途において、キャリヤ溶液は遺伝子治療処置を決定するときの変数であり得るもので、キャリヤ溶液選択は臨床医が選択できるものである。しかし、当然のことながら、キャリヤ溶液は、例えば、製造業者が予め選択し得るもので、またキャリヤ溶液オプションのうち1つ又は少数のみ臨床医が選択に利用可能なものとすることができる。DNA送達に適した電気穿孔法システムの実施形態の例において、プローブ電極及び駆動パルスは、アレイに直交する方向に不均一な電場であって、50μV/μm〜1500μV/μmの範囲にわたる電場勾配を有する電場を発生するよう構成する。他の電気穿孔用途では、例えば、異なるタイプの細胞及び治療剤に適した異なる標的電場パラメータを有することができ、またすべてのこのようなバリエーションも本発明の範囲内にあると考えられる。本発明の電気穿孔法システムの実施形態は、プローブ構成及び駆動パラメータを変更して標的化された不均一パラメータを有する電場を生ずるようにすることによって、異なるタイプの処置及び標的細胞に適するよう構成することができる。駆動パラメータは、使用すべきキャリヤ溶液に基づいて選択することもできる。システムは、分子転移を可能にするよう細胞膜を一過的に透過可能にする合焦した電場を生成することによって、様々な分子を細胞に送達するよう作用する。
【0085】
プローブ/電極アレイ構成の詳細
システムの態様は、電極アレイの空間的構成に対して制御可能な様態で細胞の電気穿孔を生じさせることが可能な整形した電場を実現するよう生物組織に挿入できる電極のアレイを備えるインタフェース又はプローブ110である。本発明の電気穿孔プローブ110は、遺伝子送達又は他の治療分子送達の目的のため細胞の一過的電気穿孔から生物組織内に一時的に挿入するよう設計する。
【0086】
実施形態は、非移植型「電気穿孔遺伝子送達プローブ」(EGD-P)を提供する。このプローブは、2つ又はそれ以上の電極のアレイからなり、パルス発生器(電圧又は電流源)からの電気パルスによって急性的駆動されるとき、プローブに隣接する細胞の電気穿孔を可能にする。好適には、電極間の離間量は1mm未満である。試作品プローブの例を
図2aに示し、その概略図を
図2bに示す。電気穿孔プローブは、組織内に挿入するよう物理的に接続し、また分子、とくにDNAを近接場電気穿孔法送達するために、1つ又はそれ以上の電極から他の電極に電流を導通させることによって発生する電場を合焦するよう構成した2つ又はそれ以上の電極を有する。試作品プローブ210は、プローブ210の末端側先端部に形成した電極アレイ220を有するカニューレによって覆った2つの導電性絶縁ワイヤを有する。
図2bは電極アレイ構成をより詳細に示す概略図である。2つの絶縁ワイヤ230はプローブの長さに沿って先端部まで貫通する。ワイヤの部分240に沿って絶縁を電極から除去する。
図2bに示すように、絶縁は、プローブの長手方向に並置する各ワイヤの部分から除去し、隣接する電極対を形成することができる。図示の実施形態において、電極対は、電極間は1mm未満の離間量で約2mm長さの区域として形成する。電極対の数及び間隔は、標的処置域エリアに応じて選択することができる。とくに、この実施形態は、アレイ内のアノード極とカソード極との間にミリメートル未満の離間量を使用し、電極対領域における処置域を標的とする。プローブの長さに沿って多重電極対を使用してプローブに沿う標的処置領域に延在させることができる。この実施形態において、各ワイヤは異なる極性を使用して駆動し、一方のワイヤに沿う電極がアノードとなり、他方のワイヤの電極がカソードとなるようにする。例えば、これらワイヤは、パルス発生器の正端子及び負端子にそれぞれ電気的に接続する。
【0087】
この実施形態において、カニューレは、治療剤(DNA、薬剤、又は他の分子)の送達にも使用でき、電極の領域において、カニューレは治療剤送達を可能にし、また電流経路を生ずるよう穴開けする。電気的絶縁特性を有するカニューレ又は他の材料によって覆った電極の場合、プローブの電気伝導度は、電極に関連するポートの物理的特性又は材料特性によって制御することができる。当然のことながら、この実施形態によれば、電極間における電気穿孔法のための標的エリアに治療剤を送達でき、またアレイにより生ずる電場の整形に寄与する。幾つかの実施形態において、治療剤送達は、電気穿孔法に関連して制御することができる。電極のプローブアレイ構成によれば、形質転換細胞の在域の形状及び密度を制御することができる。このデバイスは、「ダイアルアップ」細胞内治療剤送達を可能にし、局所的遺伝子治療に理想的である。
【0088】
当然のことながら、組織内に挿入するよう設計したプローブ部分の寸法は、侵襲性が最小限の処置を可能にする極めて細い直径(例えば、図示の試作品で200μm未満)を有することができる。プローブは、さらに、組織内への挿入を支援する物理的特性を有する、例えば、制御した配置を可能にするとともに、生物組織に適合可能であるという剛性及び可撓性のバランスを有する構成とすることもできる。このデバイスは組織に対して順応性があり、したがって、その物理的特性ゆえに組織内への挿入を可能にするとともに所望形状を維持する、又は組織内の機械的応力に応答して組織内標的細胞集団近傍にアレイ内電極を位置決めできる形状をとることができる。カニューレは、治療剤溶液を送達するよう構成し、また溶液特性、例えば、分子サイズ、溶液粘性等によって制約される。幾つかの実施形態において、治療剤溶液は、プローブ経由での送達に適するよう選択することができる。例えば、低粘性溶液は、何らかのタイプの処置(例えば、新生児向け、小児科向け、又は神経学的処置)用に選択して、より細い小型プローブを使用できるようにする。これには、スクロースキャリヤにおける等浸透圧性グルコースのようなより粘性が低いサッカロースがあり得る。
【0089】
プローブは、組織内に挿入するよう物理的に連結され、また分子、とくにDNAを近接場電気穿孔法送達するために、1つ又はそれ以上の電極から他の電極に電流を導通させることによって発生する電場を合焦するよう構成した2つ又はそれ以上の電極を有する。好適な実施形態において、電極アレイは、電場が、電極表面から150μmの距離における基準電位に無関係に、50μV/μm〜1500μV/μmの範囲にわたる電場勾配を有する電場を確立するよう構成する。好適な実施形態において、電極は、最少で互いに隣接する2つの電極から構成し、電極寸法は、代表的には長さ1mm及び周長<1mmとする。
【0090】
プローブ電極は、線形的アレイとして構成する、又は表面にわたり分散させて2次元アレイ若しくは3次元アレイを形成するようにし、例えば、それぞれ平面状、湾曲/共形表面に形成することができる。2又は3次元アレイ構成は、さらに、それぞれが電極対を担持する複数個の線形的プローブを使用して設けることができる。一実施形態において、2次元アレイは、移植中にアレイ形状を組織に適合できるよう可撓性シート上に形成することができる。
【0091】
電場整形は、電極アレイ内のアノード及びカソードの構成を変化させる結線によって調節することができ、この場合、電極は、より小さい物理的寸法(<1mm長さ/周長>50μm長さ/周長)にすることができる。例えば、DNAによる細胞の形質転換は、ベクター内で、比較的密な間隔で交互配置したアノード及びカソード電極を用いて線形的アレイで並列的に達成することができるとともに、線形的アレイに直交する方向に延在する形質転換細胞の球形形状在域は、細長いアノード及びカソードを用いて、又はアノード及びカソードを組にした互いに隣接する電極セットを駆動し、また電極間に局所的に電流を導通させることによって達成することができる。
【0092】
電気穿孔遺伝子送達プローブ(EGD-P)は、医療用デバイスの等級としてみなされ、生物組織、生体内、又は細胞及び組織培地条件のような広範囲の種類にわたって急性的な遺伝子送達を行うための生物学的インタフェースとして設計される範囲の電極アレイプローブを確立する。臨床的使用に関しては、急性的に使用され、この場合、パッケージ化された消耗品として組織、例えば脳内の標的領域に挿入され、またアレイ内電極のサブセットから局所的にアレイ内電極の他のサブセットに電流を導通させる(又は代案として異なる電圧を印加する)ことによって、プローブ近傍の細胞に対する電気穿孔及び電気泳動のアクションを行わせ、この結果、これら細胞の細胞膜をよぎって治療的DNAの転移を生ずる結果となるようにすることができる。
【0093】
電場整形は、電極アレイ内のアノード及びカソードの構成を変化させる結線によって調節することができ、この場合、電極は、より小さい物理的寸法(<1mm長さ/周長>20μm長さ/周長)にすることができる。例えば、DNAによる細胞の形質転換は、ベクター内で、交互配置したアノード及びカソード電極を用いて線形的アレイで並列的に達成することができるとともに、線形的アレイに直交する方向に延在する形質転換細胞の球形形状在域は、アノード及びカソードを離間させ、また組にした電極間に局所的に電流を導通させることによって達成することができる。
【0094】
実施形態において、EGD-Pデバイスは、線形的な、2D又は3Dの構成のいずれかで、数個(2つ又はそれ以上)の電極からなるものとする。2次元アレイ及びモデル化した電場の実施例を
図16に示す。
【0095】
実施形態において、電極アレイは導電性ヒドロゲル材料から形成され、これら材料は低伝導性エリア(絶縁体)によって離間する。導電性ヒドロゲルは、導電性ポリマーの層でコーティングされている金属(代表的には白金)基板上で製造され、次にヒドロゲルに成長し、相互貫入するネットワークを生成することができる。しかし、他のヒドロゲル実施形態も本発明の範囲内として考えられる。導電性ノードは電気的連続性を有し、ノードに電位を供給され、これらノードがともに(組として)駆動され、多重ノードへの局所的電流の戻り(リターン)を同時に生ずるときアレイ内の位置周りに電場を合焦する。
【0096】
実施形態において、プローブは、遺伝子送達が組織内細胞の標的領域向けに調整されるよう電極アレイの結合を特別に構成することで製造することができる。例えば、上述のような線形的アレイは、電極の絶縁にギャップを設けた絶縁ワイヤを使用して形成することができる。他の実施形態において、電極は、標的領域形状用の所定構成を有するよう基板上に印刷又は成長させることができる。他の実施形態において、電極は、ワイヤ、絶縁、露出及び相互接続構成のネットワークを用いて、標的電場形状及び勾配を達成するよう設計して形成することができる。
【0097】
代案として、アレイは、例えば実施形態において、各電極が選択的に駆動され、また組にされた2つ又はそれ以上の電極セットをアノード又はカソードとして共通に駆動され、所望電場整形を達成するよう構成することができる。実施形態において、このことは、組にした電極をアノード又はカソードとして共通に駆動するよう電気的に接続することによって達成することができ、代案として、各電極を個別に選択的に駆動することができる。電極を組にすることは、電極間の相互接続を生ずるよう、物理的手段、例えば電極ワイヤを物理的に相互に接続することによって、又はプラグインインタフェースを使用することによって達成することができる。例えば、パルス発生器とプローブとの間における相互接続を生ずるよう異なる再使用可能な相互接続モジュールを設け、電極の異なるセットを相互接続して異なる電場形状を達成するようアレイを再構築することができる。このことによれば、電極アレイを有する汎用使い捨てプローブを駆動し得る実施形態が、プローブとパルス発生器との間における異なる相互接続モジュール/ボードを用いて異なるアノード及びカソード構成を使用する(異なる組にする)ことができる。
【0098】
代案として、構成モジュールはコントローラ制御下で電極組の構築を可能にするよう設けることができ、例えば、構成モジュールは、電極をアノード又はカソードとして選択的に接続する切替えボードのように動作することができる。簡単なハードウェア実施形態において、これは直列にした相互動作可能な一連のスイッチとし、これらスイッチは電極毎に1つ設けることができる。他のハードウェア実施形態において、電子的制御が可能な固体(ソリッドステート)スイッチのセットを使用することができ、またこの実施形態は、ソフトウェアベースのコントローラによって構成制御をすることができる。実施形態において、アレイは、発生する電場を制御するよう、アレイにおける電極に印加される極性及びパルスを選択的に制御するコントローラによって構築可能とすることができる。コントローラの更なる詳細を以下に説明する。
【0099】
図40の画像セットは、切替え可能なアレイ構成を有する遺伝子送達プラットフォームを介する分散遺伝子電気泳動転写の使用可能性を示し、これは、体外でのHEK293細胞単分子層に一定電流パルス及びスクロースベースのキャリヤ溶液を使用している。アレイに沿う電流パルスの進行を使用して、GFPレポーター遺伝子送達がアレイの長さに沿って分散され、このとき電極1〜4(アノード)と電極5〜8(カソード)との間で電場を合焦する縦列アレイ構成を使用する。3×100ms×1mA電流パルスが電極1〜8に送給された後(他の研究では2mA又は3mA)、切替えボックスを使用してアクティブアレイを第2フィールド位置(アノードとしての電極9〜12、及びカソード組としての電極13〜16)にシフトし、また特定電流パルスプロトコールを繰り返した。このことにより、4日間の定着後に形質導入HEK293細胞のGFP蛍光発光画像の拡張した領域を生じた。HEK293細胞単分子層はpCBA-eGFPプラスミド(2μg/μl)に曝露させ、遺伝子電気泳動転写は10%スクロースキャリヤ溶液を利用した。
図40に示す実施例において、最初の3電流パルス(3×100ms)は、最も尖端の8個の電極(1;トランスフェクトGFP陽性HEK293細胞の領域を隠さないようアレイの外形は各画像の底部に示す)に送給し、次いで同一輪郭の第2パルス列を隣接(より下側の)8個の電極に送給した。縦列アレイ構成、4個の互いに隣接する組のアノード及び4個の互いに隣接する組のカソードである。電流パルスは、1mA(Vappl=15V)、2mA(Vappl=25V)又は3mA(Vappl=35V)を示した。10%スクロースキャリヤ;一定電流送給のためデジタイマーDS5一定電流刺激装置を使用した。遺伝子電気泳動転写後48時間後に画像化した。これら結果は、組織の予測可能標的領域処置に構成可能アレイの利用可能性を実証している。
【0100】
他の実施形態において、電場整形は、電気穿孔法介在DNA送達に有効な電場の外側の或る距離で、アレイから完全に離れるか、又は標的遺伝子送達域を画定する(遺伝子送達コントローラによって調節される)のに使用されるアレイで作動する電極から或る距離で、個別電極への電流を幾分操作することによって調節することができる(遺伝子送達コントローラによって調節される)。
【0101】
治療分子、治療剤又はDNAの送達
プローブは、例えば、組込みマトリクスからの溶出、又はマイクロ流体チャンバ装填を介する送達のようなコーティングとして、DNA送達能力を有することができる。
【0102】
実施形態において、プローブは非移植型とし、プローブの実施形態を治療剤、分子又はDNAの送達にも使用できる。例えば、EGD-Pは、遺伝子送達を遂行するため電極間に電流を導通させる前に標的組織エリアに放出されるパッケージ詰めしたDNAを含むことができる。遺伝子送達プローブは、治療剤溶液送達のための組込み流体チャンバ(マイクロ流体経路、又はカニューレを含む)を介するDNA又は分子送達能力を有することができる。DNA送達手段は、直接注入、1つ又は多数のオリフィスを有するプローブ内に埋設したカニューレ、マイクロ流体工学、又は材料を介しての拡散(受動的又は電気的ゲート操作)によるものとすることができ、例えば、限定しないが、EGD-Pに一体であるヒドロゲルマトリクス、又は熱膨張によるものとすることができる。プローブからの多重薬剤送達は単一手順での多重電気穿孔法による遺伝子送達アクションを可能とするが、プローブは、非移植型の単一手順デバイス、製造管理および品質管理に関する基準(GMP)認証のもとに効果的に消耗可能な、治療的DNA又はRNA遺伝子を予め装填したカセットとすることができる。移植型生体工学的インタフェースに付随するものとして遺伝子送達に使用するとき、EGD-Pは、移植型電極アレイよりも物理的寸法がより小型になり得る。EGD-Pは、従来の移植した生体工学的インタフェースで使用される白金電極を含むのではなく、ヒドロゲル及び導電性ポリマー材料のような複合材料で大量生産用に製造することができる。治療剤送達手段がヒドロゲルマトリクス又はコーティングである場合、キャリヤ材料は、上述のキャリヤ溶液につき説明した方法論に類似して、標的電場レスポンスを誘導するよう選択することができる。例えば、ヒドロゲルマトリクス組成は、治療剤が放出されて処置が実施されるときアレイ領域の抵抗に影響を与えることができ、この材料組成は、処置パラメータを決定するときの制御可能な変数となり得る。
【0103】
幾つかのプローブ実施形態は、1つより多い薬剤送達構体を有するよう構成することができる。例えば、2種類の異なる薬物を制御した個別送達を可能にする2つのカニューレ、又はカニューレと他の薬物送達方法、すなわち、補充式に薬物を溶出するコーティングとの組合せとして構成する。薬剤送達メカニズムの任意な組合せも本発明の範囲内であると考えられる。当然のことながら、1つより多い流体又は医薬剤送達メカニズムを物理的デバイス内に設けることができ、このような構体は、遺伝子治療剤のみに対する使用には限定されない。例えば、遺伝子治療剤以外の他の化学物質を、送達メカニズムを介して供給することができる。補充式の処置薬物又は抗生物質をプローブ補給により電気穿孔法処置に送給することができる。幾つかの事例において、とくに、DNA又は他の治療剤が存在しないサッカロースキャリヤ溶液を利用するキャリヤ溶液は、電場の整形及び強度への積極的な効果をもたらすことができ、したがって、幾つかの処置において、任意な治療剤の送達とは無関係に標的電場刺激を遂行することのみにサッカロース溶液を送達するのが望ましい場合があり得る。送達システムコントローラは、2つ又はそれ以上の薬剤若しくは他の化学物質/溶液を送達するためのシーケンスを制御するよう構成することができ、2つ又はそれ以上の薬剤若しくは他の化学物質/溶液は、同時に又は順次に送給することができる。薬物/流体送達のシーケンスは、パルス送給シーケンスに同期させることができる。
【0104】
本発明の実施形態は移植型プローブを利用することも考えられる。例えば、移植型プローブは、長期間、例えば数か月間にわたる遺伝子治療処置のコースを利用することができ、物理的外傷を軽減するため、移植型プローブは、例えば、数か月又は数年にわたる処置コース中の複数回使用のために1度移植される。移植型プローブは、治療剤送達機構に接続するよう構成された、コーティング又は電気刺激可能な放出メカニズムでの治療剤を含むことができる。代案として、インプラント、例えば蝸牛インプラントは、通常のインプラント動作の他に電気穿孔プローブとしても動作するよう変更を加えることができる。インプラントは、遺伝子送達プローブとしては一時的にのみ動作し、主にはインプラントの主要機能に従って動作するよう構成することができる。例えば、治療剤送達能力は、移植型デバイスに付加することができ、この付加は、例えば治療剤送達ラインに一時的に接続し得るカニューレを設ける、又は治療剤を電気刺激マイクロ流体放出機構内に組み込むことによって行うことができる。インプラントは、通常動作から遺伝子治療モードに一時的に切り替えて処置を行い、次いで通常機能を再開することができるよう制御し得る。インプラント実施形態において、治療剤キャリヤ溶液は、低振幅の電気穿孔パルスを利用して、電極を遺伝子治療として駆動するとき、電力消費量を低減する及び/又は主機能用に設計したインプラント電極の過負荷を回避することができるよう選択し得る。
【0105】
遺伝子送達プローブは、埋め込んだ又はコーティングした治療分子の制御した又は制御しない放出を可能にする材料を含むことができる。一実施形態において、遺伝子送達プローブは、アレイ内の埋め込み電極をDNA送達用カニューレの周りに巻き付けた絶縁材料シートとして組み付けることができる。DNA送達用のカニューレは長さに沿ってほぼ多孔質とすることができ、また電極(アレイ)シートのラッピングを多孔質にして、中心カニューレから溶液を送達できるようにする。
【0106】
カニューレ有り又は無しのシートアレイは拡張可能であり、反復電気穿孔ユニットは、代表的には電極表面からたかだか5mm程度までの距離に延在する組織量を形質転換するよう構成した電極を備える。
【0107】
実施形態において、プローブは、カニューレ又はマイクロ流体工学的経路のような流体チャンネルを有し、細胞膜を横切る電気穿孔法介在治療分子の送達前に、デバイスから周囲の空間へと治療剤(例えばDNA)移動を可能にする。このことは、多数回の反復薬物送達及び電気穿孔、様々な場所における複数の個別治療剤の送達を可能にし、その場合は、一過的電気穿孔により薬剤を受け取る細胞の標的在域とする。実施形態において、プローブはコントローラによって動作可能な送達アクチュエータを有し、治療剤送達をコントローラによって自動的に制御できるようにする。例えば、このことは、治療剤送達及び電気穿孔パルスの調和したシーケンスをコントローラ内にプログラムして自動実行させることができる。当然のことながら、薬剤送達及び電気穿孔双方の自動制御は、より精細な制御及び処置の最適化をもたらすことができる。このことは、熟練した技術者が処置前に専門医/外科医との相談で所望プログラムを準備することを可能にし、また専門医/外科医がプローブを生物組織内に配置した後には自動制御の下に処置が行われるようにすることができる。
【0108】
代替的実施形態において、プローブはデバイス材料内に封入された治療分子を含むことができ、これによりインタフェース(界面)材料からの治療分子の溶出プロファイルは、電気穿孔前に細胞標的在域内で治療分子の急速平衡を確実にするよう設計する。このことは、ヒドロゲルマトリクスの使用を含み、その分子構造は、治療分子の拡散特性(代表的にはサイズ及び電荷に依存する)に対して所望溶出率を生ずるのに適合させる。このような幾つかの実施形態において、生物組織内へのプローブ配置は、分子放出をトリガすることができる。
【0109】
代替的又は付加的に、分子放出は電極をアクティブ化することによって励起することができる。例えば、実施形態において、デバイスは、ゲート操作薬物送達を含み、この場合、薬物は、連続的な電気バイアス電位によってマトリクス材料(例えば、ヒドロゲル)に保持される又は材料から放出される。分子放出を励起する電極のアクティブ化は、電気穿孔パルスよりも低い電力信号(電流又は電圧制御される)を利用することができ、この信号は、分子を組織に放出するのには十分であるが、任意な他の生物学的効果を引き起こすには不十分である。実施形態において、分子放出信号及び電気穿孔パルスは、臨床的成果を最適化する時間系列決めすることができる。
【0110】
プローブは1回使用の薬物送達及び電気穿孔プローブに用いる消耗品として設計し、また遺伝子電気泳動転写の配置及びタイミングを支援する抵抗測定及び電気生理学的測定の電気的記録能力を持たせることができる。プローブは、理想的にはロボットによる製作を可能にするヒドロゲル成分又は材料から形成し、導電素子(電極)は代表的には500μm
3未満のサイズであり、理想的にはインタフェースの物理的サイズは、遺伝子/薬物送達デバイスの使用後に在域に移植することができる従来式の移植型生体工学的電極アレイ(例えば、蝸牛インプラント)よりも少ない体積を占めるものとする。したがって、EGD-Pは、従来式の電極材料(例えば、白金)、及び手作業組立て/結線を使用することに頼るのではなく、自動化された拡張可能なアレイ生産に関与する。代表的には、PVA/HEP(ヘパリン)のようなヒドロゲル骨格は層状複合材料に結合され、またポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)のような導電性ポリマーをその構造内に及び表面に(電極ノードとして)ドープされる。
【0111】
コントローラ
電気穿孔法システムの実施形態を
図1に例として示し、プローブ110と、手動制御し得る、又は固定パルスシーケンスを生ずるよう構成することさえできるパルス発生器120とを有する。例えば、すべての患者に同一パラメータを使用する専用臨床用途向けに設計したシステムにおいて、パルス発生器はパルスのセットシーケンスを送給するよう構成することができる。各患者に対して、新しい使い捨てプローブをパルス発生器に接続し、標的組織内に挿入し、この発生器を作動させて標的にパルスを供給し、プローブは取り外し、また廃棄する。このような簡単な実施形態は、日常的な一般処置に適用可能であり、例えば、このような処置は、日常的な皮膚学処置に適合できるよう開発された。
【0112】
しかし、システムは多くの異なるタイプの処置、とくに、処置のカスタマイズ及び高度な制御が望ましい遺伝子治療処置に適用可能であると、本願発明者達は考えている。上述したように、このシステムの実施形態は、パルス発生を制御する、また幾つかの実施形態では薬剤送達を制御するよう構成したコントローラを有することができる。実施形態は、さらに、導通電流又は印加電圧が時分割多重化され、一連の電気穿孔イベントがアレイに沿う様々な部位で短期間にわたり発生されるようにすることができる。
【0113】
コントローラは、さらに、アレイ構成を制御するようにもできる。コントローラは、所望電場を生ずるのに必要なパラメータのセッティング及び制御を容易にするようシステム内に設けることができる。実施形態において、コントローラは、パルス発生器を備え、また電流を遺伝子送達プローブに送給するよう構成する。電流制御モード及び電圧制御モードの双方は異なるコントローラ実施形態向けに考えられ、又は実施形態は選択的に電圧制御モード又は電流制御モードで動作できるようにする。コントローラは、遺伝子送達プローブ内におけるアノード及びカソードの予め構築した電極構成に電流を供給することができる、又はアレイ内電極構成は手動で若しくはコントローラを介して切り替えることができる。
【0114】
パルス発生器を組み込むコントローラは、遺伝子送達プローブ周りに所定電場勾配を達成するのに十分な電圧をアレイ電極に供給することができる。コントローラは、さらに、治療分子送達の制御を含むことができる。コントローラは、治療剤のキャリヤ溶液に基づいてパルス発生器のパラメータを調整するよう構成することができる。例えば、キャリヤ溶液タイプは、オペレータによってコントローラに入力することができる。代案として、コントローラは、キャリヤ溶液特性の決定に基づいて処置パルスパラメータを、例えば、治療剤送達モジュールの化学的センサ又は動作特性の測定を介して調整するように構成することができる。実施形態において、コントローラは、処置環境(体内又は体外)に配置したプローブの動作特性を測定するよう構成することができる。実施形態において、コントローラは、体内におけるアレイ及びキャリヤ溶液の見掛けの抵抗を決定する処置前検査を行い、電気穿孔パルスを印加した後の電圧を予測するよう構成することができる。例えば、コントローラは、既知の電流又は電圧の低振幅パルスを短い持続時間で発生するようパルス発生器をトリガすることができ、また測定した電圧及び電流の特性に基づいて見掛けの抵抗を決定することができる。見掛けの抵抗は、治療剤溶液組成、アレイを包囲する治療剤溶液(DNA濃度及びキャリヤ)の量、アレイを包囲する組織の治療剤溶液に対する浸透性及び組織の特性によって影響を受けることがあり得る。幾つかの実施形態において、キャリヤ溶液のみ(例えば、DNA又は他の治療剤無し)を供給して、処置用の組織の体内電気的特性を局所的に変化させ、所望の電気穿孔成果を達成するのに必要な電荷を少なくすることができる。コントローラは、測定した抵抗特性が処置用に公差範囲外にある場合、処置パルスパラメータを自動的に調整するよう構成することができる。例えば、予期した抵抗よりも高い場合、コントローラは、制御した電流源パルス発生器に対する駆動パルス電流振幅を減少することができる。抵抗が予期したのより低い場合、これに応じて駆動パルス振幅を増大させることができる。この調整の目的は、処置フェーズ中にアレイを駆動して、処置成果を達成するのに必要な標的電場特性を得るにある。抵抗測定は、さらに、電気穿孔パルスシーケンスをトリガするのにも使用し、例えば、抵抗は、処置を開始するために、治療剤溶液(及び随意に、付加的キャリヤ溶液)の適正量が送給された時点−すなわちアレイの抵抗が閾値に達した又は飽和を示す変化が止んだ時点を決定するようモニタリングすることができる。このようにして、アレイ抵抗測定からのフィードバックによる前処置は、処置成果の信頼性を向上することができる。
【0115】
コントローラを有するシステム実施形態のブロック図を
図15に示し、このシステム1500は、上述のようなプローブ及び電極1510と、コントローラ1530とを備える。このブロック図において、コントローラはパルス発生器1520を含むものとして示すが、パルス発生器は別個の機器ピースとすることができる。図示の実施形態は随意的な特徴部を有し、例えば、上述のようなアレイ構成を制御できる構成モジュール1540、プローブを介する治療剤送達を制御する治療剤送達モジュール1550、ユーザー・インタフェース1560、並びに処置パラメータ1580及び処置ログ1590のようなデータを記憶するメモリ1570を有する。
【0116】
実施形態において、コントローラは、システムの完全機能性を備える、又はデータ接続を介する専用ハードウェアコンポーネントを制御ことができるコンピュータシステムを用いて実現する。コントローラのハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアにおける任意なあり得る構成も本発明の範囲内であると考えられる。実施形態において、コントローラの機能性は、専用ハードウェアデバイスを用いて実現することができ、例えば、コントローラの機能性を得るよう変更したパルス発生器バージョン、ハードウェア論理ASIC(特定用途向け集積回路)又はFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)を含む専用ハードウェアデバイス、コントローラ機能性を実装するファームウェア及びソフトウェアを使用することができる。専用システムの利点は、市販のソフトウェアプラットフォーム及びオペレーティング・システムから独立したものであり、規制認可を取得する点、及びシステム使用を意図した目的に律則する点で有利であり得る。しかし、この実施形態の欠点は、システム開発及び継続するメンテナンスのコストがかさみ、技術分野における新しい技術又は発展の利点を受ける融通性に欠けることである。
【0117】
代案として、コントローラの機能性は、コンピュータシステム上、例えば、パーソナルコンピューター、サーバー、タブレット上で実行可能なソフトウェアプログラムとして提供することができ、また独立したパルス発生器及び他の随意的なハードウェア、例えば、薬剤送達アクチュエータに制御命令を供給するよう構成することができる。市販のコンピュータハードウェアを用いて実行可能なソフトウェアベースのコントローラ実施形態は、専門医にユーザー・インタフェース1560を提供し、電気穿孔法処置のためのパラメータ1580を入力し、この入力をメモリ1570に記憶して、パルス発生器1520、並びに電気穿孔処置送達中に随意的に、構成モジュール1540及び薬剤送達モジュール1550を駆動するのに使用することができる。実施形態において、標的処置領域パラメータ及びキャリヤ溶液パラメータを解析し、適切なアレイ構成を決定し、また各適切なアレイ構成に対する標的処置領域を達成するよう上述の関係性に基づいて計算した少なくとも1つのパルスシーケンスを画定するコントローラを備えることができる。薬剤送達をコントローラによって制御できる実施形態において、コントローラは、さらに、処置パルスシーケンスにおける薬剤送達作動を計算及び画定することもできる。アレイ構成をコントローラによって制御できる実施形態において、コントローラは、さらに、構成モジュールによって実現するためのアレイ構成を画定する。アレイ構成が固定アレイ構成の選択に依存する実施形態において、選択したプローブアレイ構成は専門医/外科医/臨床医がコントローラに入力するか、又はコントローラがプローブ選択に関する推奨を出力するかのいずれかとすることができる。処置要件を満足するのに適正となるように、アレイ及びパルスシーケンスにおける1つよりも多い組合せを決定する場合、可能性のある組合せは、選択できるよう外科医/専門医/臨床医に出力することができる。
【0118】
コントローラの幾つかの実施形態において、処置をモデル化するソフトウェアを設けることができる。幾つかの実施形態において、モデリングに利用されるデータには患者の画像データ(すなわち、MRI又はCTスキャン)があり、モデル化した処置在域を患者データに関連付けて考慮することができる。モデリングデータは、治療剤キャリヤ溶液のための選択肢も含むことができる。例えば、モデリングにより所望処置成果を安全に達成するための変数、又は最適キャリヤ溶液パラメータを決定する。代案として、利用可能なキャリヤ溶液選択肢の数が限定されている場合、各選択肢に対する潜在的成果のモデル化は専門医/外科医/臨床医がなす決定を容易にする。
【0119】
当然のことながら、計画処置に関連して用意されるシステム機能性は複雑であり、また精緻なソフトウェアモデルを利用して物理的処置装置を駆動する必要データを決定することができる。しかし、処置を物理的に実行するのに必要な実際のデータは極めて単純なものとすることができ、例えば、画定したアレイ構成(固定アレイでもあり得る)、調時パルスシーケンス及び随意的に選択した薬剤溶液の送達を制御する信号とすることができる。このようにして、コントローラは、単に物理的処置機器を駆動するシーケンスデータを出力することができる。
【0120】
パルス発生器1520の実施形態は、電圧駆動又は電流駆動のモードで動作することができる。実施形態において、パルス発生器は、コントローラから独立したそれ自体の電源を有するスタンドアロン独立ユニットとする。パルス発生器は、コントローラとデータ通信して、コントローラがパルスシーケンスでパルス発生器をプログラムできるようにする。代案として、パルスシーケンスは、コントローラによって計算し、また手動プログラミング又はデータ転送(例えば、直接接続、無線接続、又は携帯型固体メモリデバイスのような物理的媒体を介して)によってパルス発生器にロードすることができ、パルス発生器が治療剤送達用のコントローラとは独立して動作できるようにする。パルス発生器をコントローラから隔絶することは幾つかのシステムにとって安全要件となり得るもので、とくに、パルス発生器を用いて動作する使い捨てプローブを可能にすることは、すでに認可されており、人間での臨床使用で利用可能である。幾つかの実施形態において、このことは、プローブの独立した規制認可を市販の規制認可を受けているパルス発生器と関連して使用することを可能にする。
【0121】
他の実施形態
本発明の実施形態において、電流のすべて又は大部分はアレイに戻る。幾つかの実施形態において、電流操縦は、電流の大部分を何らかの遠位外部戻り電極に転向させることを含む。上述のすべての構成に適用可能であるが、アレイとは別個の付加的遠位戻り電極を使用して、印加電流のある割合部分を戻し、電場及び細胞の結果として生ずる形質転換在域の局所的整形状態を変化させることができる。このことは、局所場(近接場:close-field)と非近接場(far-field)のバランシング技術の使用によって、又はモデリング並びに体外及び体内試験の双方の組合せで知らされることによって電流経路を動的に制御することができる。電流経路は、アレイの電極内に主に戻る。電流操縦は、幾分の外部電流拡散を調節する外部コントローラ及び回路を介するものを含むことができる。
【0122】
図20は、2D電極アレイ2010に電場合焦するための電流操縦における準単極制御の概略図を示す。電流源及びシンク2020aは、2D電極アレイから標的細胞形質導入域に対して遠い1つ又はそれ以上の単極戻り電極2030に転向される電流割合を制御する。
【0123】
図21は、アレイ内の電極構成に依存する電流操縦の例を示す。単極2110は、普通の開域電流経路を反射するとともに、6極構成2120及び準単極構成2130は、隣接電極のアレイに関連する電場合焦をもたらし、主電極アレイ構造内には標的細胞集団が介在しない。準単極電流操縦2130の場合、電流の大部分は隣接電極アレイに対して遠位の電極に転向する。
【0124】
図22は、
図22に示す電流源電極(アノード)の六角形配列によって包囲される中心戻り電極のようなアレイ内における隣接電極への電流の単極戻りを含む漸増(titrated)電場合焦における刺激戦略の例を示す。準単極(QMP:quasi-monopolar)電流制御は、形質導入用に標的とした細胞域の遠位側の電極に制御分路を含む。6極構成モデルは拡縮可能なアレイ内に拡散する電流を分配した。
【0125】
実施形態において、プローブは切替え可能な電極チャンネルを有し、幾つかのチャンネルは、一過的電気刺激用に使用し、また他のチャンネルは、デバイスの機能的に指向付けされた位置決め目的のため隔絶した機器を介する記録用(例えば、CNS送達の場合に脳領域から記録する−移植型脳深部電気刺激電極アレイの位置付け用に一般的に利用される手順)に使用することができる。このデバイスは刺激/記録プローブと、1回の手順における近接場電気穿孔モード多重時間との間で構成することができる。
【0126】
試作品サンプルと試験結果
試作品プローブの詳細を
図17a〜17cに示す。この試作品はカニューレ内に覆った2つの絶縁ワイヤを有する。ワイヤ絶縁を除去する領域でカニューレに溝孔を形成して、流体送達及び電流拡散を可能にする電極を形成する。この試作品において、各ワイヤは異なる極性を有し、これにより、ワイヤに形成された一方の電極はカソードとして作用し、また他方のワイヤに形成された電極はアノードとして作用する。試作品を用いての試験結果を
図18に示す。
【0127】
図18は、
図17a〜17cに示す試作品のカニューレ鞘付け線形的バイポーラ電極構成を用いる近接場電気穿孔法遺伝子送達の使用可能性を示す。このことは、オーバースリップ上の単分子層として成長するヒト胎児腎臓(HEK293)細胞在域における核局在化グリーン蛍光発光タンパク質(nlsGFP)シグナルから明らかである。
図18のA及びBは、電気パルスパラメータが20Vでの2×100msパルスであった例を示す。生理食塩水キャリヤ溶液における裸のDNAプラスミド(CMVp-BDNFx3FLAG-IRES-nlsGFP)を細胞に2μg/μl(20μl)として供給し、遺伝子送達プローブは細胞層の直ぐ上方に位置決めした。形質導入した細胞在域は約2mm
2の広がりを有する(矢印参照)。
図18のCは比較対照を示す(遺伝子送達プローブが所定位置にある状態でDNAは細胞に供給されたが、電気パルスはプローブには印加されなかった)。DNA送達後48時間にわたり細胞培養した。共焦点LSMを用いて488nm励起で撮像した。
【0128】
図19は、縦列構成である線形的電極アレイを用いるモルモットCNSにおける標的化した電気穿孔法遺伝子送達の使用可能性を示す。Aは、4つのニューロンにおける核局在化グリーン蛍光発光タンパク質(nlsGFP)を示している、小脳皮質低温切開片(50μm)を示す(488nm励起共焦点グレースケール画像)。
図19のB及びCは、nlsGFPを発現するニューロン、及びFLAGタグに対する免疫蛍光法使用の組み換え型脳由来神経栄養素(BDNF-3xFLAG)の2重標識付けを示す。中実矢印はGFP及びBDNFを発現する細胞を示し、中空矢印はBDNFを発現するが検出不能nlsGFPシグナルを有する2つの付加的ニューロンを示す(Cはグリーン及びレッド双方のチャンネルを有する)。小脳皮質における小脳虫部領域は、約10秒間にわたって遺伝子カセット(CMVp-BDNFx3FLAG-IRES-nlsGFP)を有するむき出しcDNAプラスミド(2μg/μl)を10μlボーラス注入して得られ、次に8電極アレイを注入トラック内に5mm挿入し、また縦列電極構成を使用しての電気穿孔法を実施し(15Vの2×100msパルス;900ms離間量)、3日間サバイバルした。
図19のD及びEは、それぞれ電気穿孔法遺伝子送達を行うモルモット中脳の中脳水道周囲灰白質領域内のニューロン(50μm低温切開片)に対する、nlsGFP(グリーン蛍光発光)及びオーバーレイしたBDNF(Alexa594nm励起レッド免疫蛍光シグナルを発生する二次抗体を有する抗FLAG一次抗体)の発現を示す。この実験において、プラスミドDNA(2μg/μl)を、定位制御の下で27Gニードルによるマイクロ駆動を用い、下丘経由で中脳内7mm位置に注入した(10μl、500nl/分)。この後DNA注入ニードルを抜き出し、また電極アレイをA〜Cのように挿入することにより電気穿孔法を実施した。電極アレイは、300μm離間量で8個の350μm直径白金リングのラインからなり、互いに隣接する4個の電極はアノードとして組にし、また互いに隣接する他の4個の電極はカソードとして組にし、15Vで2×100msパルスを発生する。
【0129】
上述の試験結果で示されるように、本発明の実施形態は予測可能な遺伝子送達結果をもたらすことができる。本発明は新しい分類の医療デバイスを提供し、この医療デバイスは、生物組織内細胞の標的化電気穿孔法の実施用に合焦電場を発生するよう、使い捨て1回使用インタフェースである意図した臨床用途に供するものである。電場整形電気穿孔法の用途は、どこのまたどのくらい多くの細胞を発現カセットで形質転換するかの「ダイアルアップ」制御を行うことに関して新しい分類の遺伝子送達プラットフォームである。
【0130】
システムの実施形態は、蝸牛を内張りする細胞のような組織内細胞の小(戦略的)集団、又は脳の規定領域におけるニューロンの集団に対する急性「ダイアルアップ」局在化遺伝子送達を可能にする。幾つかの実施形態において、このインタフェースは、非移植型であり、隔絶した電源への外部接続部により給電する1回使用のデバイスである。インタフェースは、マイクロ流体チャンネル、又はヒドロゲル若しくは他の溶出マトリクスからの放散による、又はコーティングによるようなDNA溶液送達能力を有する。
【0131】
この電気穿孔法システムの利点は、プローブが、移植型生体工学的インプラント、例えば、蝸牛インプラント、及び脳深部電気刺激電極アレイのような脳インプラントを移植するのに使用され得る、又は標的組織に独立的に指向付けされる遺伝子送達を行う急性処置デバイスとして作用し得る、又は他の治療分子の指向付け送達であって、薬物送達標的としての細胞局所における制御した一過的透過化を伴う送達を行い得る、非移植型デバイスであるという点にある。
【0132】
幾つかの実施形態において、電気穿孔プローブは非移植型であり、不連続な電気パルス列により標的分子を急性送達するため標的在域に挿入する。このことは、長続きする又は反復的な使用に耐える必要がないため、プローブとして使用される構造の材料及びタイプにおいてより高い融通性を有することができる。さらに、プローブは、規制による又は長期間の安全性、及びインプラントの有効性要件を満たす必要はない。
【0133】
本発明の目的は、生体工学的インプラント手順に付随する1回使用消耗品として、またCNS障害用の局在化遺伝子治療としてのスタンドアロン処置としても、指向付け分子送達用の拡縮可能なアレイに関して形質導入される組織量の「ダイアルアップ」制御を達成することにある。
【0134】
電極は、代表的には導電性ポリマーから作製することができ、またインタフェースの物理的特性は、標的組織又は標的器官内に挿入するのに必要な物理的構成に適合できるものとする。
【0135】
アレイは移植型として設計せず、一般的に生体工学的アレイに使用される白金電極ではなく、EGD-Pデバイスに使用され、好適な構造材料は、ヒドロゲル、導電性又は非導電性ポリマー、及び複合材であり得る。プローブは、サイズ及び電極レイアウト(1次元的、2D又は3D)に関して拡縮可能であり、また電極は、局所的電場を融通性高く合焦するよう、アレイにおいて固定構成として接続及び駆動(組にする)、又は外部から関連コントローラによって組にされる。
【0136】
「近接場(Close-field)」電気穿孔法は、裸のDNAを用いて遺伝子送達の制御可能な標的化を提供し、他のプロセスでは達成できない。例えば、マイクロドメインアレイをベースとする電気穿孔法で達成可能な遺伝子送達の時空間制御によれば、パーキンソン病の可能なウイルス・ベクターをベースとする処置の精緻化をもたらすことができ、この精緻化は、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65)DNA構築物による視床下核の神経化学的調節を標的とする遺伝子治療によって行う。裸のDNA遺伝子カセットの電気穿孔法は、さらに、リポフェクション又はウイルス・ベクター、とくに、アデノウイルスと比較して、炎症反応がないことに起因して、またプラスミドDNA379カセットのサイズが比較的制約を受けないことを理由として、他の遺伝子送達技術に対する明確な利点を有する。
【0137】
本発明の実施形態は、裸のDNAにより制御した細胞形質転換を誘導するのに利用でき、局在化遺伝子送達及びその結果生ずる遺伝子構築物発現が達成される「ダイアルアップ」予測可能性を有する。遺伝子発現の部位及び範囲におけるこの制御は、とくに、治療行為が特定部位で必要とされる脳障害処置のための安全で有効な遺伝子治療手法における重要な要素である。
【0138】
当業者であれば、本発明は、発明の精神及び範囲から逸脱することなく多くの変更を加えることができるは理解されるであろう。
【0139】
特許請求の範囲の請求項において、また本発明の上述した説明において、特定言語表現又は必要な含意に起因して文脈上そうでないと明示する以外は、用語「備える(comprise)」又はその変化形である「備える(comprises)」若しくは「備えている(comprising)」は、包括的な意味で使用される、すなわち、記述された特徴の存在を特定するためのものであり、本発明の様々な実施形態において、他の特徴の存在又は付加を排除するものではないことを意味する。
【0140】
本明細書において任意な従来技術刊行物に言及する場合、このような言及は、刊行物がオーストラリア国又は任意な他の国で従来一般常識の一部をなすとの承認を構成するものではない、と理解されたい。
【実施例】
【0141】
実施例1:体外(インビトロ)HEK293細胞単分子層モデル
この実施例において、本発明は、マイクロ電極アレイ、例えば、蝸牛インプラントアレイにより、スクロースキャリヤとともに使用するとき効率的な電気穿孔法及びDNA電気泳動転写を示した。GFPレポーターを符号化(エンコード)するプラスミドDNA(約2μg/μl)のためのスクロースキャリヤ(10%、pH7.3に調整)をHEK293細胞の単分子層を支持するオーバースリップに供給した。アレイ内の組にした電極に電流を分配することにより電極に発生した電圧の測定値は、生理食塩水溶液(TRIS緩衝生理食塩水及び通常生理食塩水(0.9%NaCl))の使用に比べて所定電流に対して10倍も上昇した。このことは、電気穿孔法実施後18時間の蛍光発光顕微鏡法で検出して、GFPレポーターを符号化するプラスミドの高効率の局在化遺伝子電気泳動転写を生じている結果となった。これとは反対に、生理食塩水キャリヤグループは、相当する電流レベルで無視できるほど僅かな電気泳動転写しか示さなかった。一定電圧の使用で電気泳動転写行ったとき、スクロースキャリヤの使用では、設定電圧を得るのに要した電流が減少したという有意な利点もあった。
【0142】
遺伝子電気泳動転写が電極アレイ近傍の局所的電場強度に大きく依存するため、本発明は、生体工学的アレイを用いての効率的遺伝子送達を得るのに要する電流を少なくする点で重要であり、また一定電圧ではなく、一定電流をスクロースキャリヤとともに使用することは、最小電荷送給で最大遺伝子送達効率を可能にし、ひいては潜在的有害性を最小限にする。この電流調節構成の下で各電気パルスに要する電流減少は、(白金)電極のファラデー容量を越えるとき、水を含む媒体の電気化学的相互作用から生ずる有害生成物の直接的減少と一致する。このことは、電極表面における電解作用を含み、この結果、水の酸素及び水素への分解、並びに酸化還元反応、及び他の直接的熱効果に起因する他の毒物の生成も生ずる。
【0143】
電気穿孔法実施及び遺伝子電気泳動転写用にDNAのキャリヤとしてスクロースを使用する上での他の考察は、スクロースが比較的不動性であることに基づいてスクロースが保護的であると見なせる点であり、したがって、電圧調節した遺伝子送達の下で一過的に穴開けされた細胞における浸透圧応力を緩衝する。本発明で発見されたスクロースの差動効果は、電流送給の注意深い解析なしでは電圧関連モードの下では検出不能である。一方、生体工学的アレイをベースとする近接場電気穿孔法による効率的遺伝子導入の臨界的因子は局在化電場強度である。この区域において、電流送給を利用するスクロースキャリヤは、より少ない電荷送給で遺伝子送達のための必要電場強度を可能にする。本明細書で言及した近接場遺伝子電気泳動転写用の生体工学的アレイは、ミリメートル未満の間隔を有した、ミリメートル未満の2つ又はそれ以上の電極のアレイからなり、これら電極は、アレイの極近傍に電場を合焦できる結合形態となるよう互いに結線する。
【0144】
実施例2:体内(インビボ)モルモット蝸牛DNA電気泳動転写の実施例
この実施例においては、イソフルラン麻酔をかけたモルモットに蝸牛殻切開(cochleostomy)を実施し、GFPレポーターを符号化するプラスミドDNA溶液(2μg/μl)を、キャリヤとしてpH7.3に調整した10%スクロースを用いて蝸牛内に注入した。スクロースキャリヤ溶液の使用により、生理食塩水キャリヤ溶液を用いた場合に従来報告されたほぼ(〜)850Ωの抵抗に対して、アレイの抵抗を10倍もの〜8.5kΩに上昇させた。これらの結果は、互いに隣接する組にした4個のアノード及び互いに隣接する組にした4個のカソードによる「縦列(タンデム)」構成に結線した8ノード生体工学的アレイを用いて達成された。遺伝子電気泳動転写は、1mAでの3×100msパルスによる一定電流プロトコールを用いて実施した。このことは、中央階を内張りする間葉細胞によるGFPレポーターの発現を確立するのに十分なほぼ12ボルトの電極電圧を生じた。これに比較して、キャリヤとしての通常生理食塩水(0.9%)では、得られた電圧は、遺伝子送達のための報告された閾値よりも低い1.2Vであった。同様に、GFP発現は、別個の実験において、印加電流2mAでの6.65kΩを用いて得られ、この場合、ほぼ(〜)25Vの電圧を誘発した。このことを、この生体工学的アレイで生理食塩水を使用した場合のほぼ2.5Vと対比する。