特許第6987681号(P6987681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987681
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】全熱交換素子及び全熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/08 20060101AFI20211220BHJP
   F24F 7/08 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   F28F3/08 301A
   F24F7/08 101A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-50187(P2018-50187)
(22)【出願日】2018年3月16日
(65)【公開番号】特開2019-158319(P2019-158319A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】福田 由美
(72)【発明者】
【氏名】米津 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】アルベサール 恵子
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖
(72)【発明者】
【氏名】今田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】八木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 伸行
【審査官】 藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−150323(JP,A)
【文献】 特開2016−196914(JP,A)
【文献】 特開昭57−099335(JP,A)
【文献】 特開2015−194323(JP,A)
【文献】 特開昭55−121399(JP,A)
【文献】 特開2015−094530(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0257550(US,A1)
【文献】 特開2008−014623(JP,A)
【文献】 特開平06−194093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 3/08
F24F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質部材と、当該多孔質部材上に設けられ、配向した平均直径が1nm〜10nm、平均長さが0.5μm〜10μmの繊維状無機粒子膜とを備える全熱交換シート;及び前記全熱交換シートの前記膜上に接触して配置され、複数の第1の直線状流路を形成する断面波形の流路部材;を含む全熱交換ユニットを備え、
複数の前記全熱交換ユニットは、当該全熱交換ユニットの前記多孔質部材と当該全熱交換ユニットに隣接する全熱交換ユニットの前記断面波形の流路部材を互いに当接して積層して積層構造体を構成し、
前記積層構造体は、前記全熱交換シートを挟んで隣接する複数の前記第1の直線状流路と、前記多孔質部材に前記断面波形の流路部材を当接することにより形成された複数の第2の直線状流路とが互いに交差し、かつ
前記第1の直線状流路は、前記膜の前記繊維状無機粒子の配向方向に対して45〜90°の角度で交差する全熱交換素子。
【請求項2】
前記多孔質部材の平均細孔径は、0.15μmm以上50μm以下である請求項1に記載の全熱交換素子。
【請求項3】
前記多孔質部材の体積気孔率は、20%以上70%以下である請求項1又は2に記載全熱交換素子。
【請求項4】
前記多孔質部材は、セルロース、カーボン又は樹脂を含む請求項1〜3いずれか1項に記載の全熱交換素子。
【請求項5】
前記繊維状無機粒子は、ベーマイト又は擬ベーマイトを含む請求項1〜4いずれか1項に記載の全熱交換素子。
【請求項6】
前記流路部材は、断面が三角波形である請求項1〜5いずれか1項に記載の全熱交換素子。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の全熱交換素子を備えた全熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、全熱交換素子及び全熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
空調装置の一つである全熱交換器は、換気の際に調温調湿された室内の還気空気から熱(顕熱)と湿気(潜熱)を室内に導入される外気空気に戻す働きをする装置である。全熱交換器は、換気による熱のロスが少なくなるため、省エネに有効と考えられている。
【0003】
従来の全熱交換素子は第1の流路と第2の流路を交互にかつ交差して複数積層し、これらの第1、第2の流路の間に湿気を戻す働きをする全熱交換シートで仕切った構造を有する。このような全熱交換素子は、第1、第2の流路の間に介在した全熱交換シートで外気と還気の混合を抑制しながら、第1の流路を流れる例えば還気中の熱と湿気を全熱交換シートを透過して第2の流路を流れる外気に移行して還気と外気の間で熱と湿気を交換する。
【0004】
全熱交換シートは、湿気を透過させるシート状の不織布に吸湿材料を塗布したものが知られている。吸湿性材料は、例えばセラミックス多孔質部材又はゼオライト等の多孔質粒子、或いはナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム等の塩化物や臭化物からなる潮解性物質を含浸、担持させたものが知られている。しかしながら、セラミックス多孔質部材又はゼオライト等の多孔質粒子では基材の孔を埋めない程度の少量しか塗布することができず、高性能化が難しい。また、潮解性物質は水を吸着し続けることで溶出し、性能が経時的に劣化する。
【0005】
また、湿度透過性の高い樹脂を不織布と複合化した、高い湿度交換効率を実現した全熱交換シートも知られている。しかしながら、樹脂を備えた全熱交換シートは真夏の厨房等の高温になる場所では性能を維持できずに劣化することが懸念されている。
【0006】
一方、特許文献1には「蓄熱サイクルと放熱サイクルを交互に繰り返し、還気と外気の間で全熱エネルギーの授受を行う全熱交換・換気ユニット二式からなる全熱交換器であって、全熱交換エレメント、送風機、ダクト及びこれらを駆動・制御する制御システムから構成され、全熱交換エレメントは内部に熱媒体通気層を収容保持し、熱媒体通気層は固体の微細な熱媒体素材が偏在することなく分散分布し、細線状ないし細繊維状で通気方向と垂直に配置される構造を有し、熱媒体の熱容量の値がサイクル毎に授受される全熱エネルギーを収容しうる値の100〜120%の範囲内にある全熱交換器。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−094530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施形態は、水蒸気と水蒸気を除く気体(例えば空気等)の高い分離性能を示し、かつ全熱交換時における強度劣化を抑制した優れた耐久性を有する全熱交換素子及び全熱交換器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る全熱交換素子は、多孔質部材と、多孔質部材上に設けられ、配向した繊維状粒子を含む膜とを備える全熱交換シート;及び全熱交換シートの膜上に接触して配置され、複数の第1の直線状流路を形成する断面波形の流路部材;を含む全熱交換ユニットを備える。複数の全熱交換ユニットは、全熱交換ユニットの多孔質部材と全熱交換ユニットに隣接する全熱交換ユニットの断面波形の流路部材を互いに当接し、積層して積層構造体を構成している。積層構造体は、全熱交換シートを挟んで隣接する複数の第1の直線状流路と、多孔質部材に断面波形の流路部材を当接することにより形成された複数の第2の直線状流路とが互いに交差し、かつ第1の直線状流路は、膜の繊維状粒子の配向方向に対して45〜90°の角度で交差する。
【0010】
また、実施形態によると前記全熱交換素子を備えた全熱交換器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る全熱交換素子を示す斜視図である。
図2図1の全熱交換素子に組み込まれる全熱交換ユニットを示す斜視図である。
図3図2の全熱交換ユニットの分解斜視図である。
図4】繊維状粒子の配向方向を説明するための図である。
図5図1の全熱交換素子を備え、夏場の全熱交換を説明するための実施形態に係る全熱交換器を示す概略図である。
図6図1の全熱交換素子を備え、冬場の全熱交換を説明するための実施形態に係る全熱交換器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係る全熱交換素子及び全熱交換器について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下等の方向を示す用語は、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0013】
図1は、実施形態に係る全熱交換素子を示す斜視図、図2図1の全熱交換素子に組み込まれる全熱交換ユニットを示す斜視図、図3図2の全熱交換ユニットの分解斜視図である。
【0014】
全熱交換素子1は、複数、例えば5つの全熱交換ユニット11を積層した構造を有する。
【0015】
全熱交換ユニット11は、所望の幅と長さを有する矩形状の全熱交換シート21と例えば断面三角波形の流路部材31とを備えている。全熱交換シート21は、多孔質基材22と当該多孔質基材22の一方の面に設けられた膜23とを備えている。膜23は、図3に示すように全熱交換シート21の幅方向に沿う矢印X方向に配向した繊維状粒子24を含む。断面三角波形の流路部材31は、全熱交換シート21と同幅の断面三角波形及び同波形に対して直角方向に全熱交換シート21と同長さ、延出した形状を有する。断面三角波形の流路部材31は、膜23表面に接して配置され、当該膜23と流路部材31の各波とで囲まれた三角柱をなす複数の第1の直線状流路41を形成している。第1の直線状流路41は、膜23の繊維状粒子24の配向方向(図3の矢印X方向)に対して当該直線状流路41の長手方向(図3のY方向)が45〜90°の角度、例えば90°の角度、で交差している。
【0016】
このような構造を有する5つの全熱交換ユニット11は、反転させ、交互に90°交差して積層することにより図1に示す全熱交換素子1が構成される。すなわち、5つの全熱交換ユニット11は、当該全熱交換ユニット11の多孔質部材22と当該全熱交換ユニット11に隣接する全熱交換ユニット22の断面三角波形の流路部材31を互いに当接し、流路部材31の長手方向が交互に例えば90°で交差するように積層して積層構造体を構成している。この積層構造体は、全熱交換シート21を挟んで隣接する複数の前記第1の直線状流路41と、多孔質部材22に断面三角波形の流路部材31を当接することにより形成された複数の第2の直線状流路42とが互いに例えば90°で交差している。積層構造体は、最上層の断面三角波形の流路部材31に補強板43を設けることにより全熱交換素子1を構成している。
【0017】
以下、全熱交換素子1の各構成部材を詳述する。
【0018】
全熱交換シート21の多孔質部材22は、好ましい平均細孔径が0.15μm〜50μm、より好ましい平均細孔径が0.5μm〜20μmである。多孔質部材22の材料は、特に限定されないが、例えば多孔質セラミックスから作られる。多孔質部材22は、有機多孔質部材、カーボン繊維成形体、合成繊維及び天然繊維からなる成形体(紙を含む)、または不織布からなる成形体であってもよい。
【0019】
多孔質部材22がセラミックス粒子から作られる場合、当該粒子は板状又は繊維状であることが好ましい。板状又は繊維状の粒子は、断面のアスペクト比で2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
【0020】
多孔質部材22の厚さは、特に限定されないが、好ましい厚さは3μm〜3mm、より好ましい厚さは20μm〜1mmである。多孔質部材22の厚さを3μm未満にすると、ハンドリングの際、たわみなどの変形が生じ、多孔質部材22上の膜23に亀裂などの欠陥が生じるだけでなく、破損する虞がある。多孔質部材22の厚さが3mmを超えると、水蒸気透過速度が遅くなるだけでなく、熱伝導が低下するため、熱交換ロスが生じる虞がある。
【0021】
多孔質部材22は、熱伝導及び強度の観点からその厚さを決定され、300μm〜3mmの厚さが選ばれるが、これに限定されるものではない。
【0022】
多孔質部材22の体積気孔率(多孔質部材3の細孔の体積率)は、20〜70%であることが好ましい。多孔質部材22の体積気孔率を20%未満であると、細孔を通過できる湿気(水蒸気)の量が減少する虞がある。多孔質部材22の体積気孔率が70%を超えると、多孔質部材22の強度が低下して、全熱交換素子1の連続運転を妨げ、またウエットシール性が低下する虞がある。多孔質部材22の体積気孔率は、30〜60%であることがより好ましい。なお、多孔質部材22の体積気孔率や細孔の形状(平均孔径等)は、水銀圧入法により測定した値で示すことができる。
【0023】
全熱交換シート21の膜23は、配向した繊維状無機粒子24を含む。繊維状無機粒子24は、好ましい平均直径が1nm〜10nm、平均長さLが0.5μm〜10μm、より好ましい平均直径が2〜10nm、平均長さが1μm〜3μmである。
【0024】
繊維状粒子24は、特に限定されないが、無機材料であることが好ましい。繊維状無機粒子の例は、アルミニウム、銅、亜鉛、カドミウム等の金属の水酸化物からなるナノファイバー、又はアルミナナノファイバー、シリカナノファイバー等の酸化物ナノファイバー、或いは金属ナノファイバー、カーボンナノファイバーなどを含む。中でもベーマイト又は擬ベーマイトのナノファイバーを含むことが好ましい。
【0025】
全熱交換シート21の膜23は、水溶性吸湿剤を含んでもよい。水溶性吸湿剤を含む膜23は、その細孔内の水溶性吸湿剤が存在することにより水分を吸収し易くする効果の他に、膜23に生じた微細な亀裂内にウエットシールを形成することで気体(空気等)が透過するのを防ぐこともできる。
【0026】
水溶性吸湿剤は、第1族元素や第2族元素のクエン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物塩、酸化物塩、水酸化物塩、硫酸塩等が用いられる。また、膜23にはイオン性液体等のガス吸着液体を備えていてもよい。
【0027】
水溶性吸湿剤は、例えば塩化カルシウム(CaCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸カリウム(KPO)、クエン酸ナトリウム(Na(CO(COO))等)、クエン酸カリウム(K(CO(COO))等)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸リチウム(LiSO)等やこれらの水和物が挙げられる。
【0028】
全熱交換シート21の膜23は、さらに樹脂等の有機物を僅かな量で含んでいてもよい。有機物を含ませることによって、膜の亀裂発生を防止することができる。
【0029】
前述した全熱交換シート21は、例えば次のような方法により作製できる。
【0030】
コールドスプレー法やエアロゾルデポジション法等により多孔質部材22を形成した後、多孔質部材22の一方の面にキャスト法等で繊維状無機粒子を配向させ、当該繊維状無機粒子を含む膜23を形成することにより全熱交換シート21を作製する。
【0031】
また、予め多孔質部材22を準備した後に、多孔質部材22の一方の面にキャスト法等で繊維状無機粒子を配向させ、当該繊維状無機粒子を含む膜23を形成することにより全熱交換シート21を作製する。
【0032】
流路部材31は、例えばパルプを主成分とする紙製シートを波形に加工したもの、又はポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の汎用樹脂、或いはステンレス等の金属から作ることができる。紙は、軽量で成形性に優れるために好ましい。
【0033】
流路部材31の断面波形は、断面三角波形に限らず、断面矩形波形、断面台形波形であってもよい。断面波形は、その山及び谷の形状が略同一、又は同一であることが好ましい。
【0034】
全熱交換シート21の膜23と断面三角波形の流路部材31の各波とで囲まれた第1の直線状流路41は、膜23の繊維状粒子24の配向方向(図3の矢印X方向)に対して当該直線状流路41の長手方向(図2のY方向)が45〜90°の角度で交差させている。
【0035】
ここで、「繊維状粒子の配向方向」は、例えば次のような手法から求めたものとする。これを、図4を参照して説明する。図4は、繊維状粒子の配向方向を説明するための図である。
【0036】
1)図4の(a)に示す全熱交換シート21の膜23表面における微細構造を所定の領域において、SEMで観察して図4の(b)に示すSEM像を得る。
【0037】
2)基準となる直線(基準線)51を図4の(b)に示すSEM像に引き、これと交わる繊維状粒子(もしくは束)の配向方向とのなす角度(鋭角な角度)を数箇所、例えば図4の(b)のように3箇所で求める。
【0038】
3)同一画像で数回、同様なことを行って角度を求める。SEM像に引く基準となる直線は、初めに引いた基準直線51と平行に引く。
【0039】
4)同様の操作を全熱交換シート1全体に亘って任意の領域、数箇所で行い、基準直線と配向方向とのなす角度を求める。複数回(測定数:n)の操作で得た角度の平均値aを算出する。
【0040】
5)角度の平均値aと各角度との差を算出し、当該差の絶対値の平均値Aを求め、A>10°となる角度の個数xを求める。個数xと測定数nから1−(x/n)を配向度と定め、当該配向度が0.6(60%)以上のものを「繊維状粒子の配向方向」とする。そのときの配向方向は、基準直線に対して角度aの方向となる。
【0041】
第1の直線状流路41の長手方向と膜23の繊維状粒子24の配向方向との交差角度を45〜90°の角度にすることにより、第1の直線状流路41内に後述する外気又は還気が流通するときに、膜23に亀裂等の欠陥が発生するのを抑制することが可能になる。より好ましい交差角は、50〜90°、さらに好ましい交差角は60〜90°、最も好ましい交差角は70〜90°である。
【0042】
次に、実施形態に係る全熱交換器を詳述する。
【0043】
全熱交換器は、前述した全熱交換素子を備えている。図5は、図1の全熱交換素子を備え、夏場の全熱交換を説明するための実施形態に係る全熱交換器を示す概略図である。すなわち、全熱交換器100は筐体101を備えている。筐体101内には、図1に示す全熱交換素子1が配置されている。筐体101内は、第1〜第4の区画室104a〜104dが全熱交換素子1を囲むように横方向の仕切壁102及び縦方向の隔壁103で区画されている。第1〜第4の区画室104a〜104dは全熱交換素子1の第1、第2の直線状流路(図示せず)の開口端とそれぞれ対向する箇所において、開放されている。第1〜第4の区画室104a〜104dは、それぞれ筐体101の左上部、右上部、左下部及び右下部に配置されている。
【0044】
第1、第3の区画室104a,104bがそれぞれ位置する筐体101の左側壁105aには、それぞれ第1、第3の開口部106a.106cが設けられている。第2、第4の区画室104b,104dがそれぞれ位置する筐体101の右側壁105bには、それぞれ第2、第4の開口部106b,106dが設けられている。第3の区画室104c内の第3の開口部106cが位置する左側壁105aには、第1のファン107aが配置されている。第4の区画室104d内の第4の開口部106cが位置する右側壁105bには、第2のファン107bが配置されている。
【0045】
このような全熱交換素子1を備えた全熱交換器100は、次のような操作により全熱交換がなされる。
<夏場の高温多湿の時期の全熱交換>
第1のファン107aを駆動することにより、室外から矢印に示す外気(還気よりも高温多湿)110aは、第2の開口部106b、第2の区画室104bを通して全熱交換素子1の複数の第1の直線状流路(図示せず)内に図1に示す全熱交換シート21の膜23表面に接触して流通し、さらに第3の区画室104c、第3の開口部106cを通して矢印に示す吸気110bとして室内に導入される。同時に、第2のファン107bを駆動することにより、室内から矢印に示す還気110cは第1の開口部106a、第1の区画室104aを通して全熱交換素子1の複数の第2の直線状流路(図示せず)内に図1に示す全熱交換シート21の多孔質部材22表面に接触して流通し、さらに第4の区画室104d、第4の開口部106dを通して矢印に示す排気110dとして室外に排出される。
【0046】
このような全熱交換素子1において、外気110aは全熱交換素子1の第1の直線状流路(図示せず)に導入されて、図1に示す全熱交換シート21の配向した繊維状粒子24を含む膜23表面に接触して流通され、還気110cは全熱交換シート21を挟んで第1の直線状流路と交差する第2の直線状流路(図示せず)に導入されて、図1に示す全熱交換シート21の多孔質部材22表面に接触して流通される。このとき、外気110aは還気110cに比べて高温多湿であるため、全熱交換素子1において外気110aに含まれる水蒸気及び熱は全熱交換シート21を通して還気110c側に移動される。
<冬場の低温低湿の時期の全熱交換>
図5を用いて説明した夏場の全熱交換に対して、冬場も外気、還気を同様な流路を流通させて全熱交換を行うことができる。また、冬場の全熱交換は、外気及び還気の導入流路、並びに第1、第2のファンによる送気方向をそれぞれ図6に示すように切り替えてもよい。図6は、図1の全熱交換素子を備え、冬場の全熱交換を説明するための実施形態に係る全熱交換器を示す概略図である。
【0047】
すなわち、第1のファン107aを駆動することにより、室内から矢印に示す還気110cは第3の開口部106c、第3の区画室104cを通して全熱交換素子1の複数の第1の直線状流路(図示せず)内に図1に示す全熱交換シート21の膜23表面に接触して流通し、さらに第2の区画室104b、第2の開口部106bを通して矢印に示す排気110dとして室外に排出される。同時に、第2のファン107bを駆動することにより、室外から矢印に示す外気(還気よりも低温低湿)110aは第4の開口部106d、第4の区画室104dを通して全熱交換素子1の第2の直線状流路(図示せず)内に多孔質部材22表面に接触して流通し、さらに第1の区画室104a,第1の開口部106aを通して矢印に示す吸気110bとして室内に導入される。
【0048】
このような全熱交換素子1において、還気110cは第1の直線状流路(図示せず)に導入されて、図1に示す全熱交換シート21の配向した繊維状粒子24を含む膜23表面に接触して流通され、外気110aは全熱交換シート21を挟んで第1の直線状流路と交差する第2の直線状流路(図示せず)に導入されて、図1に示す全熱交換シート21の多孔質部材22表面に接触して流通される。このとき、外気110aが還気110cに比べて低温低湿であるため、全熱交換素子1において還気110cに含まれる水蒸気及び熱は全熱交換シート21を通して外気110a側に移動される。
【0049】
このように全熱交換器100に組み込まれた全熱交換素子1は、外気と還気との間で全熱を交換することができる。
【0050】
また、実施形態に係る全熱交換素子1は、当該素子1を構成する全熱交換ユニット11において膜23と流路部材31の各波とで囲まれた複数の第1の直線状流路41の長手方向が膜23の繊維状粒子24の配向方向に対して45〜90°の角度で交差している。その結果、第1の直線状流路41内に外気又は還気が流通するときに、膜23に亀裂等の欠陥が発生するのを抑制することが可能になる。
【0051】
すなわち、流路部材を全熱交換シートの膜表面に流路部材と膜表面とで囲まれる第1の直線状流路が例えば膜の繊維状粒子の配向方向と0°の角度(配向方向と平行)になるように配置すると、第1の直線状流路内に外気又は還気が流通させる間に、その流通圧力が膜の配向方向に沿って作用するため、膜に亀裂が発生する。また、膜の繊維状粒子の配向方向に元々僅かな亀裂が存在する場合、外気又は還気の流通圧力により亀裂が拡大する。膜への亀裂発生は、水蒸気透過速度及び水蒸気の分離率に悪影響を及ぼす。
【0052】
このようなことから、第1の直線状流路41の長手方向が膜23の繊維状粒子24の配向方向に対して45〜90°の角度で交差させることによって、第1の直線状流路41内に外気又は還気が流通させる間に、その流通圧力が膜23の配向方向に交差、対向して配向方向に沿う作用が緩和されるため、膜への亀裂発生を抑制できる。また、膜23の繊維状粒子24の配向方向に元々僅かな亀裂が存在する場合でも、前記流通圧力による亀裂の拡大を抑制できる。その結果、水蒸気透過速度及び水蒸気と水蒸気を除く気体との分離率が高く、かつ全熱交換時における強度劣化を抑制した優れた耐久性を有する全熱交換素子を提供できる。
【0053】
なお、実施形態では全熱交換素子を5つの全熱交換ユニットを積層したが、これに限定されない。例えば、全熱交換ユニットを2〜4つ、又は6つ以上積層して全熱交換素子を構成してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を説明する。
【0055】
(実施例1)
厚さ125μmmのセルロースからなるシート状の多孔質部材の一方の面にダイコーターを用いて平均直径4nm、平均長さ1.4μmのベーマイトナノファイバを塗布し、乾燥して厚さ12μmの膜を形成して全熱交換シートを作製した。SEM観察の結果、全熱交換シートの膜はベーマイトナノファイバが塗布方向に配向していることが観察された。なお、塗布方向に配向されたベーマイトナノファイバは全ベーマイトナノファイバの70%であった。
【0056】
次いで、断面三角波形の流路部材を全熱交換シートの膜表面に接して配置し、当該膜と流路部材の各波とで囲まれた三角柱をなす複数の第1の直線状流路を形成して全熱交換ユニットを作製した。この全熱交換ユニットにおいて、第1の直線状流路は、膜のベーマイトナノファイバの配向方向に対して当該直線状流路の長手方向が45°の角度で交差させた。つづいて、全熱交換シートの多孔質部材の表面に断面三角波形の流路部材を当該流路部材の長手方向が膜の表面側に配置した流路部材の長手方向と平行になるように配置して評価用全熱交換セルを組立てた。この全熱交換セルは、全熱交換シートの多孔質部材の表面に断面三角波形の流路部材を配置することにより多孔質部材表面と流路部材の各波とで囲まれた三角柱をなす複数の第2の直線状流路が形成され、第1、第2の直線状流路は、互いに平行になっている。また、第1、第2の直線状流路のピッチ、高さは既存の全熱股間素子に準じる形状とした。
【0057】
実施例1の評価用全熱交換セルの水蒸気透過速度Vs及び水蒸気分離率αを以下の方法により測定した。
【0058】
1)水蒸気透過速度Vsの測定方法
全熱交換セルを恒温恒湿槽内に設置し、その第1の直線状流路の一端に高湿側ダクトを接続した。第1の直線状流路の高湿側ダクトの接続端と反対側に位置する第2の直線状流路の一端に低湿側ダクトを接続した。高湿側ダクトにはファンを介装し、低湿側ダクトには熱交換器が介装した。
【0059】
ファンの駆動により、高湿空気を第1の直線状流路に高湿ダクトを通して供給した。一方、恒温恒湿槽の外部から露点−110℃の窒素を第2の直線状流路に低湿側ダクトを通して供給した。当該窒素が低湿側ダクトを流通する間に、熱交換器で熱交換されて等温にし、乾燥窒素とすることにより、当該乾燥窒素を第2の直線状流路に供給した。すなわち、高湿空気と乾燥窒素は対向流として全熱交換セルの第1、第2の直線状流路にそれぞれ供給した。このとき、第1、第2の直線状流路での通過風速は全熱交換素子の評価時と同一になるようにした。
【0060】
低湿側ダクトの出口において、排気空気の温度、湿度、酸素濃度を測定し、水蒸気透過速度を算出した。
【0061】
2)水蒸気の分離率α
本来、JIS規格に準じて二酸化炭素の透過量を把握する必要があるが、二酸化炭素と酸素では窒素中のガス拡散係数がほぼ同じであることから、本測定では低湿側ダクトの出口からの酸素の透過(濃度)をCOの透過の代わりとし、水蒸気の分離率を算出した。
また、セルのピッチ、流路高さは既存の全熱交モジュールに準じる形状とし、通過風速がモジュール評価時と同一になるようにした。高湿空気と低湿空気は対向流で供給した。
【0062】
その結果、水蒸気透過速度Vsは62g/m2/h/kPa、分離率αは30であった。
(実施例2)
第1の直線状流路を全熱交換シートの膜のベーマイトナノファイバの配向方向に対して90°の角度で交差させた以外、実施例1と同様な評価用全熱交換セルを組立て、実施例1と同様な水蒸気透過速度及び水蒸気の分離率αを算出した。
【0063】
その結果、水蒸気透過速度Vsは62g/m2/h/kPa、分離率αは60であった。
【0064】
(比較例1)
第1の直線状流路を全熱交換シートの膜のベーマイトナノファイバの配向方向に対して0°の角度(配向方向と平行)にした以外、実施例1と同様な評価用全熱交換セルを組立て、実施例1と同様な水蒸気透過速度及び水蒸気の分離率αを算出した。
【0065】
その結果、水蒸気透過速度Vsは61g/m2/h/kPa、分離率αは10であった。
【0066】
また、評価後に全熱交換シートの膜表面をSEMにて観察したところ、ベーマイトナノファイバ同士が裂ける、亀裂が認められた。
【0067】
(比較例2)
第1の直線状流路を全熱交換シートの膜のベーマイトナノファイバの配向方向に対して20°の角度で交差させた以外、実施例1と同様な評価用全熱交換セルを組立て、実施例1と同様な水蒸気透過速度及び水蒸気の分離率αを算出した。
【0068】
その結果、水蒸気透過速度Vsは61g/m2/h/kPa、分離率αは15であった。
【0069】
また、評価後に全熱交換シートの膜表面をSEMにて観察したところ、ベーマイトナノファイバ同士が裂ける、亀裂が認められた。
【0070】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1…全熱交換素子、11…全熱交換ユニット、21…全熱交換シート、22…多孔質部材、23…膜、24…繊維状粒子、31…流路部材、100…全熱交換器、110a…,外気、110b…吸気、110c…還気、110d…排気。
図1
図2
図3
図4
図5
図6