特許第6987689号(P6987689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987689
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】荷重測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 25/00 20060101AFI20211220BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20211220BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20211220BHJP
   G01L 1/26 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   G01L25/00 B
   G01N3/00 C
   G01N3/08
   G01L1/26 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-68374(P2018-68374)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-178955(P2019-178955A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長澤 馨
(72)【発明者】
【氏名】貫井 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】茂野 俊
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第105136576(CN,A)
【文献】 実開昭59−131034(JP,U)
【文献】 特開2006−90967(JP,A)
【文献】 実開昭57−159136(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L25/00
G01L 1/00− 1/26
G01L 5/00− 5/28
G01N 3/00− 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルばねの荷重を測定する荷重測定装置であって、
前記コイルばねのコイル両端を、相互間の軸線に対して把持する一対の把持部と、
前記一対の把持部を相対的に近接又は離間するように駆動可能な駆動部と、
前記コイルばねのコイル両端を把持し一対の把持部に作用する荷重を、前記把持した初期位置での前記コイルばねの前記軸線に対する傾斜による撓みの初期荷重を含めて測定可能な荷重測定部と、
前記駆動部を制御すると共に前記荷重測定部から前記荷重を取得する制御部とを備え、
前記制御部は、前記一対の把持部に前記コイルばねを把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、前記初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、前記初期荷重がゼロになった位置を開始位置として前記一対の把持部に相対的な離間を行わせ前記引張り時の荷重を測定させる、
ことを特徴とする荷重測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷重測定装置であって、
前記制御部は、前記一対の把持部の相対的な近接及び離間を繰り返すことで、前記開始位置からの測定を行わせる、
ことを特徴とする荷重測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の荷重測定装置であって、
前記引張り時の荷重は、マイクロメートル単位の変位に対して測定され、
前記近接及び離間の繰り返し時の各近接又は離間がマイクロメートル単位の微小動作である、
ことを特徴とする荷重測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の荷重測定装置であって、
前記コイルばねは、密着ばねであり、
前記制御部は、前記開始位置において前記初期位置に対する前記一対の把持部の相対的な近接又は離間による変位量をゼロとし、前記開始位置からの前記一対の把持部の相対的な離間による変位量と測定された荷重との関係を取得し、この関係において前記変位量の増加に対する前記荷重の増加が一定とみなされる直線領域の一次関数f(x)=ax+bを求め、前記求めた一次関数f(x)の切片bを前記密着ばねの初張力として判断する、
ことを特徴とする荷重測定装置。
【請求項5】
コイルばねの荷重を測定する荷重測定方法であって、
前記コイルばねのコイル両端を、一対の把持部により相互間の軸線に対して把持し、
前記コイルばねのコイル両端を把持し一対の把持部に作用する荷重を、前記把持した初期位置での前記コイルばねの前記軸線に対する傾斜による撓みの初期荷重を含めて測定し、
前記一対の把持部に前記コイルばねを把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、前記初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、
前記初期荷重がゼロになった位置を開始位置として前記一対の把持部に相対的な離間を行わせ前記引張り時の荷重を測定する、
ことを特徴とする荷重測定方法。
【請求項6】
請求項5記載の荷重測定方法であって、
前記一対の把持部の相対的な近接及び離間を繰り返すことで、前記開始位置からの測定を行わせる、
ことを特徴とする荷重測定方法。
【請求項7】
請求項6記載の荷重測定方法であって、
前記引張り時の荷重は、マイクロメートル単位の変位に対して測定され、
前記近接及び離間の繰り返し時の各近接又は離間がマイクロメートル単位の微小動作である、
ことを特徴とする荷重測定方法
【請求項8】
請求項5〜7の何れか一項に記載の荷重測定方法であって、
前記コイルばねは、密着ばねであり、
前記開始位置において前記初期位置に対する前記一対の把持部の相対的な近接又は離間による変位量をゼロとし、
前記開始位置からの前記一対の把持部の相対的な離間による変位量と測定された荷重との関係を取得し、
この関係において前記変位量の増加に対する前記荷重の増加が一定とみなされる直線領域の一次関数f(x)=ax+bを求め、前記求めた一次関数f(x)の切片bを前記密着ばねの初張力と判断する、
ことを特徴とする荷重測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばね等の弾性部材の引張り時の荷重を測定する荷重測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、引張りばねの特性を検査する場合においては、引張りばねの両端を引張り、この引張り時の荷重を測定することがある。
【0003】
一般的な引張りばねの場合は、特許文献1等のように、両端にフックが設けられているため、このフックを利用して引張りを行うことができ、容易に荷重の測定を行うことが可能となる。
【0004】
一方、特殊な引張りばねや引張りばね以外の用途の密着ばね(密着ばね等)の場合は、両端にフックを有していないことがあり、一般的な引張りばねと同様にして荷重の測定を行うことはできない。このような密着ばね等の荷重を測定する装置は従来存在しないが、例えば、引張試験のようにチャック等の一対の把持部により密着ばね等の両端を把持して荷重を測定することが可能である。
【0005】
しかし、密着ばね等は、製造誤差等により、外径が一端から他端まで厳密に一定ではないことが多い。このため、密着ばね等は、一方の把持部に一端を把持させた状態では、把持部間の軸線に対して傾斜するのが自然な姿勢となることがある。
【0006】
この場合、密着ばね等は、その両端を把持部に把持させると撓み、把持部に初期荷重を作用させることになるので、荷重の測定に誤差が生じるという問題があった。
【0007】
このような問題は、密着ばね等に限らず、弾性部材の荷重を測定する場合に広く発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭57−38820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、弾性部材の引張り時の荷重を測定する場合に、一対の把持部に弾性部材を把持した状態での初期荷重により測定誤差が生じる点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、弾性部材の引張り時の荷重を測定する場合に、一対の把持部に弾性部材を把持した状態での初期荷重による測定誤差を防止するため、コイルばねの荷重を測定する荷重測定装置であって、前記コイルばねのコイル両端を、相互間の軸線に対して把持する一対の把持部と、前記一対の把持部を相対的に近接又は離間するように駆動可能な駆動部と、前記コイルばねのコイル両端を把持し一対の把持部に作用する荷重を、前記把持した初期位置での前記コイルばねの前記軸線に対する傾斜による撓みの初期荷重を含めて測定可能な荷重測定部と、前記駆動部を制御すると共に前記荷重測定部から前記荷重を取得する制御部とを備え、前記制御部は、前記一対の把持部に前記コイルばねを把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、前記初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、前記初期荷重がゼロになった位置を開始位置として前記一対の把持部に相対的な離間を行わせ前記引張り時の荷重を測定させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、弾性部材の引張り時の荷重を測定する荷重測定方法であって、前記弾性部材を一対の把持部により把持し、前記弾性部材を把持した状態から前記一対の把持部に作用する荷重を測定し、前記一対の把持部に前記弾性部材を把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、前記初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、前記初期荷重がゼロになった位置を開始位置として前記一対の把持部に相対的な離間を行わせ前記引張り時の荷重を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る荷重測定装置及び方法は、コイルばねの引張り時の荷重を測定する場合に、一対の把持部にコイルばねを把持したときに作用する初期荷重をゼロにするので、初期荷重による測定誤差を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】荷重測定装置の概略構成図である(実施例)。
図2】密着ばねの荷重と変位との関係の一例を示すグラフである(実施例)。
図3】複数の密着ばねの荷重と変位との関係を示すグラフであり、(A)は、比較例、(B)は、実施例を示す(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
弾性部材の引張り時の荷重を測定する場合に、一対の把持部に弾性部材を把持した状態での初期荷重による測定誤差を防止するという目的を、一対の把持部を弾性部材を把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、初期荷重がゼロになった位置を開始位置として一対の把持部に相対的な離間を行わせて引張時の荷重を測定する荷重測定装置及び方法により実現した。
【0015】
この荷重測定装置及び方法では、一対の把持部の相対的な近接及び離間を繰り返すことで、一対の把持部の開始位置までの相対的な近接又は離間を行わせてもよい。
【0016】
マイクロメートル単位の変位に対する荷重を測定し、近接及び離間を繰り返す時の各近接又は離間がマイクロメートル単位の微小動作であってもよい。 弾性部材を密着ばねとし、荷重測定装置及び方法は、荷重測定を通じて初張力を測定することも可能である。この場合、開始位置において初期位置に対する一対の把持部の相対的な近接又は離間による変位量をゼロとし、開始位置からの一対の把持部の相対的な離間による変位量と測定された荷重との関係を取得し、この関係において変位量の増加に対する荷重の増加が一定とみなされる直線領域の一次関数f(x)=ax+bを求め、求めた一次関数f(x)の切片bを密着ばねの初張力として判断してもよい。
【実施例】
【0017】
[荷重測定装置]
図1は、本発明の一実施例に係る荷重測定装置を示す概略構成図である。
【0018】
荷重測定装置1は、装置ベース3と、一対の把持部5,7と、駆動部9と、荷重測定部11と、制御部13とを備え、弾性部材としての密着ばねSを把持した一対の把持部5,7を相対的に離間させ、それによる引張り時の荷重を測定するものである。
【0019】
また、本実施例の荷重測定装置1は、密着ばねSの荷重の測定を通じ、密着ばねSの初張力を測定する。初張力は、軸方向に隣接するコイル部分Cが相互に接触した状態となっている密着ばねSにおいて、隣接コイル部分C間に接触方向に働く応力である。なお、弾性部材は、密着ばねSに限られるものではなく、部分的に密着ばねとなっている引張りばねやその他の弾性部材とすることも可能である。
【0020】
装置ベース3は、設置場所に設置されるプレート部3aからポール部3bが上下方向に沿って立設されて構成されている。この装置ベース3に対し、一対の把持部5,7と、駆動部9と、荷重測定部11とが設けられている。
【0021】
一対の把持部5,7は、密着ばねSの両端をそれぞれ把持するものである。一対の把持部5,7は、相対的に近接離間可能に構成されており、この近接離間により密着ばねSを引張ることができるようになっている。本実施例において、近接離間の方向は、上下方向となっているが、水平方向等とすることも可能である。
【0022】
第一の把持部5は、装置ベース3のプレート部3a上に固定され、第二の把持部7は、可動部15を介して装置ベース3のポール部3bに可動支持されている。これにより、第二の把持部7が、第一の把持部5に対して近接離間する構成になっている。なお、水平方向に近接離間させる場合等は、双方の把持部5,7を連動させて近接離間する構成にすることも可能である。
【0023】
各把持部5,7は、チャック、特に三爪チャックで構成され、密着ばねSを端部において外周から把持する。なお、把持部5,7は、三爪チャックに限られず、密着ばねSを直接把持できれば、他のチャック或はチャック以外の把持装置とすることも可能である。
【0024】
三爪チャックである把持部5,7は、それぞれ円柱状のチャックベース17に三つの爪部19が径方向に移動可能に支持されている。把持部5,7は、全ての爪部19が密着ばねSの外周に当接することで、密着ばねSを外周から把持する。
【0025】
一方の把持部5のチャックベース17は、装置ベース3のプレート部3a上に固定されている。他方の把持部7のチャックベース17は、可動部15に支持されている。
【0026】
可動部15は、可動ベース15a、第一及び第二固定片15b,15c、可動片15d、アーム部15eにより構成されている。
【0027】
可動ベース15aは、装置ベース3のポール部3bに可動支持される部材であり、例えば裏面でポール部3bに移動可能に係合する板状体からなる。可動ベース15aの表面には、第一及び第二固定片15b,15cが設けられている。
【0028】
第一及び第二固定片15b,15cは、可動ベース15aの表面に対して水平方向に突出した状態で固定された部材である。本実施例の第一及び第二固定片15b,15cは、可動ベース15aの上下端部に固定された板状体であり、上下方向において相互に対向する。
【0029】
第一固定片15bの上面には、荷重測定部11が支持されている。また、第一固定片15bには、可動部15のアーム部15eをスライド自在に挿通するガイド部15fが設けられている。第二固定片15cは、駆動部9に結合され、駆動部9によって上下駆動される。
【0030】
可動片15dは、第一及び第二固定片15b,15c間で可動ベース15aに対して可動支持されている。可動片15dの下面には、複数のアーム部15eが一体的に設けられている。
【0031】
アーム部15eは、可動片15dの下面から下方に伸び、第一固定片15bのガイド部15fを挿通して下方に突出する。アーム部15eの先端には、第二の把持部7のチャックベース17が取り付けられている。
【0032】
従って、可動部15は、アーム部15eを介して可動片15dで第二の把持部7を支持し、可動片15dを荷重測定部11を挟んで第一固定片15bで受ける構成となっている。
【0033】
駆動部9は、一対の把持部5,7を相対的に近接及び離間するように駆動するものであり、例えばサーボモーターからなる。駆動部9は、制御部13に電気的に接続されて制御される。
【0034】
本実施例の駆動部9は、装置ベース3のポール部3bの上端部に固定されている。駆動部9からは、回転軸9aが下方に突出している。回転軸9aは、ボールねじ等の軸方向駆動機構9bにより、可動部15の第二固定片15cに結合されている。
【0035】
従って、駆動部9は、回転軸9aから駆動力を出力し、軸方向駆動機構9bを介して第二固定片15c、つまり可動部15を上下動させる構成となっている。この上下動により、第二の把持部7が上下動する。
【0036】
荷重測定部11は、密着ばねSを把持している間に、一対の把持部5,7に作用する荷重を測定可能とするものである。本実施例の荷重測定部11は、ロードセル等によって構成されており、可動部15の第一固定片15b上で可動部15の可動片15dを介して入力される荷重を測定する。この荷重測定部11は、制御部13に電気的に接続されており、測定した荷重を制御部13に出力する。
【0037】
制御部13は、情報処理装置からなり、駆動部9を制御すると共に荷重測定部11から荷重を取得する。
【0038】
制御部13は、駆動部9の制御により一対の把持部5,7を相対的に近接又は離間させる。本実施例では、第二の把持部7を第一の把持部5に対して近接離反させる。
【0039】
このとき、制御部13は、一対の把持部5,7の相対的な近接又は離間による変位量を電気的に測定する変位測定部として機能する。ただし、制御部13に接続された変位計を別途設けて、変位測定部を構成することも可能である。また、制御部13は、駆動部9の制御を通じて、荷重を電気的に取得することも可能である。この場合、制御部13が荷重測定部としても機能することになる。
【0040】
制御部13は、一対の把持部5,7に密着ばねSを把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、初期荷重がゼロになった位置を開始位置として一対の把持部5,7に相対的な離間を行わせ引張り時の荷重を測定させる。
【0041】
また、本実施例の制御部13は、一対の把持部5,7の相対的な近接及び離間を繰り返すことで、一対の把持部5,7の開始位置までの相対的な近接又は離間を行わせる。近接及び離間の繰り返し時は、直前の近接又は離間による荷重の変化量に応じて、次の近接又は離間が行われる。
【0042】
また、本実施例の制御部13は、引張り時の荷重の測定を通じ、密着ばねSの初張力を求める。このために、制御部13は、開始位置において初期位置に対する一対の把持部5,7の相対的な近接又は離間による変位量(開始位置までの初期位置からの変位量)をゼロとする。
【0043】
そして、制御部13は、開始位置からの一対の把持部5,7の相対的な離間による変位量と測定された荷重との関係を取得し、取得した関係に基づいて密着ばねSの初張力を求める。
【0044】
図2は、密着ばねの荷重と変位量との関係の一例を示すグラフである。
【0045】
密着ばねSでは、図2のように、荷重と変位量との関係である荷重−変位曲線が得られる。この荷重−変位曲線では、引張開始当初、初張力により変位量の増加に対する荷重の増加量が大きい立ち上がり領域Rが現れ、荷重が初張力を越える辺りから変位量の増加に対する荷重の増加量が小さくなってくる。そして、変位量の増加に対する荷重の増加量が一定とみなされる直線領域Lが現れる。
【0046】
本実施例では、この直線領域Lの一次関数f(x)=ax+bを求め、求めた一次関数f(x)の切片bを密着ばねの初張力として判断する。なお、一次関数f(x)の傾きaは、ばね定数である。図2の例では、aが26.253、bが76.356(N)となっている。
【0047】
[荷重測定方法]
本実施例では、荷重測定装置1を用いた荷重測定方法の一例について、荷重測定装置1の動作と共に説明する。ただし、荷重測定方法は、荷重測定装置1を用いなくても、密着ばねSを把持した一対の把持部5,7を離間させつつ荷重が測定可能な他の装置等によっても実現できる。
【0048】
本実施例の荷重測定方法では、作業者が荷重測定装置1の一対の把持部5,7により密着ばねSの両端を把持させる。把持の際は、第二の把持部7を上下動させて初期位置に配置しておき、これにより密着ばねSの両端面を把持部5,7のチャックベース17に突き当て、この状態で把持部5,7の各爪部19を密着ばねSの外周に当接させる。
【0049】
こうして密着ばねSを把持すると、そのときから荷重測定部11により荷重が測定される。把持した直後の初期位置では、荷重がゼロであることが想定されるが、密着ばねSの場合、上記のとおり密着ばねSが傾斜により撓んで把持部5,7に初期荷重を作用させることがある。
【0050】
この初期荷重が密着ばねSの引張り時の荷重に影響する。特に、図2のように、マイクロメートル単位の微小な変位に対する荷重を測定する場合、マイクロメートル単位の僅かな傾斜が引張り時の荷重に大きく影響する。
【0051】
そこで、本実施例の荷重測定方法では、荷重の測定前に、この初期荷重をゼロにする。すなわち、制御部13は、一対の把持部5,7に密着ばねSを把持した初期位置において、ゼロを超える荷重が測定されたか否かを判断する。
【0052】
測定された場合は、初期荷重がゼロになるまで、制御部13が駆動部9を制御して一対の把持部5,7を初期位置に対して相対的に近接又は離間させる。このとき、一度の近接又は離間により初期荷重をゼロにすることが困難であるため、近接及び離間を繰り返す。
【0053】
具体的には、まず一対の把持部5,7を初期荷重に基づいて相対的に近接又は離間させ、そのときの変位量と荷重の増加量を測定する。そして、測定された変位量と荷重の増加量に基づき、さらに一対の把持部5,7を相対的に近接又は離間させる。これを初期荷重がゼロになるまで繰り返す。
【0054】
従って、直前の近接又は離間による荷重の変化量に応じて、次の近接又は離間が行われることになる。なお、本実施例では、マイクロメートル単位の微小な変位に対する荷重を測定することから、近接、離間の繰り返しの各近接又は離間をマイクロメートル単位の微小動作とする。ただし、各近接又は離間の大きさは、測定対象物の荷重と変位量との関係に応じて、適宜変更することが可能である。
【0055】
初期荷重がゼロにされた後は、制御部13が初期位置に対する一対の把持部5,7の相対的な近接又は離間による変位量をゼロとする。これは、初期荷重がゼロになったことをトリガーにすればよい。
【0056】
この初期荷重及び変位量がゼロとなった位置を開始位置として、制御部13は、一対の把持部5,7に相対的な離間を行わせ、引張り時の荷重を測定する。このとき、荷重と共に変位量の測定も行われる。
【0057】
こうして測定した荷重と変位量から荷重−変位曲線を取得することができる。取得された荷重−変位曲線に基づいて、制御部13は、変位量の増加に対する荷重の増加が一定とみなされる直線領域Lの一次関数f(x)=ax+bを求め、求めた一次関数f(x)の切片bを密着ばねSの初張力と判断する。
【0058】
これは、密着ばねSの荷重−変位曲線が、理論上、初張力を切片とした一次関数で示されることから、密着ばねSから得られた荷重−変位曲線の直線領域Lより求めた一次関数f(x)の切片bを初張力とみなすことができるためである。
【0059】
なお、直線領域Lは、終点が直線領域Lであることは明らかであるから、始点のサーチをすることで判断が可能である。始点のサーチは、荷重−変位曲線の傾き等に基づいた適宜の計算手法によって行うことが可能である。例えば、荷重−変位曲線の傾きが徐々に小さくなるときの減少量が閾値以下となった点等として始点を判断することが可能である。一次関数f(x)は、回帰分析等の適宜の計算手法によって求めることが可能である。
【0060】
こうして、本実施例の荷重測定方法は、密着ばねSの荷重を精度よく測定することを通じて、初張力を精度よく測定することを可能とする。
【0061】
なお、密着ばねSの荷重及び初張力の精度のよい測定は、サンプリング周期を短くすることにも起因している。サンプリング周期を短くすると、密着ばねSの荷重の測定精度を向上できるが、密着ばねSの引張開始当初に、初張力の測定において妨げとなる荷重−変位曲線の立ち上がり領域Rが測定されることになる。
【0062】
このように荷重−変位曲線の立ち上がり領域Rが測定されるサンプリング周期を採用しても、本実施例の荷重測定方法は、上記のようにして初張力を精度よく測定するができる。
【0063】
[実験結果]
図3は、複数の密着ばねの荷重と変位との関係(荷重−変位曲線)を示すグラフであり、(A)は、比較例、(B)は、実施例を示す。なお、図3の密着ばねは、図2の密着ばねとは初張力が異なるものを用いている。
【0064】
比較例及び実施例は、複数(30本)の密着ばねから得られた荷重−変位曲線をまとめて示している。比較例は、初期荷重をゼロにすることなく測定を行ったものであり、実施例は、上記のとおり初期荷重をゼロにした上で測定を行ったものである。
【0065】
比較例では、初期荷重の影響により、荷重のばらつきが大きく、結果として測定される初張力のばらつきも大きい。一方、実施例では、初期荷重をゼロにしているので、荷重のばらつきが小さく、測定される初張力のばらつきも小さくできた。
【0066】
この結果、図3では、実施例の初張力の測定精度が比較例の約3倍にできている。
【0067】
[実施例の効果]
本実施例の荷重測定装置1は、密着ばねSを把持する一対の把持部5,7と、一対の把持部5,7を相対的に近接及び離間するように駆動可能な駆動部9と、密着ばねSを把持している間に一対の把持部5,7に作用する荷重を測定可能な荷重測定部11と、駆動部9を制御すると共に荷重測定部11から荷重を取得する制御部13とを備えている。制御部13は、一対の把持部5,7に密着ばねSを把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、初期荷重がゼロになった位置を開始位置として一対の把持部5,7に相対的な離間を行わせ引張り時の荷重を測定させる。
【0068】
従って、本実施例では、一対の把持部5,7に密着ばねSを把持したときに作用する初期荷重をゼロにするので、初期荷重による測定誤差を防止することができる。このため、本実施例では、密着ばねSの荷重を精度よく測定することができる。
【0069】
制御部13は、一対の把持部5,7の相対的な近接及び離間を繰り返すことで、一対の把持部5,7の開始位置までの相対的な近接又は離間を行わせるので、容易且つ確実に初期荷重をゼロにすることができる。
【0070】
本実施例では、マイクロメートル単位の変位に対する荷重を測定し、近接及び離間を繰り返す時の各近接又は離間をマイクロメートル単位の微小動作としている。このため、マイクロメートル単位の僅かな密着ばねSの傾きが荷重の測定に大きく影響する場合でも、確実に初期荷重をゼロにすることができ、精度のよい引張時の荷重の測定を実現できる。
【0071】
また、制御部13は、開始位置において初期位置に対する一対の把持部5,7の相対的な近接又は離間による変位量をゼロとし、開始位置からの一対の把持部5,7の相対的な離間による変位量と測定された荷重との関係を取得し、この関係において変位量の増加に対する荷重の増加が一定とみなされる直線領域Lの一次関数f(x)=ax+bを求め、求めた一次関数f(x)の切片bを密着ばねSの初張力として判断する。
【0072】
従って、本実施例では、密着ばねSの荷重を精度よく測定することを通じて、初張力を精度よく測定することを可能とする。
【0073】
本実施例の荷重測定方法は、密着ばねSの荷重を測定する荷重測定方法であって、密着ばねSを一対の把持部により把持し、密着ばねSを把持した状態から一対の把持部5,7に作用する荷重を測定し、一対の把持部5,7に密着ばねSを把持した初期位置に対して相対的に近接又は離間させることで、初期位置で測定された初期荷重をゼロにし、初期荷重がゼロになった位置を開始位置として一対の把持部5,7に相対的な離間を行わせ引張り時の荷重を測定する。
【0074】
また、荷重測定方法は、一対の把持部5,7の相対的な近接及び離間を繰り返すことで、一対の把持部5,7の開始位置までの相対的な近接又は離間を行わせる。
【0075】
本実施例では、マイクロメートル単の変位に対する荷重を測定し、近接及び離間を繰り返す時の各近接又は離間をマイクロメートル単位の微小動作としている。
【0076】
また、荷重測定方法は、開始位置において初期位置に対する一対の把持部5,7の相対的な近接又は離間による変位量をゼロとし、開始位置からの一対の把持部5,7の相対的な離間による変位量と測定された荷重との関係として荷重−変位曲線を取得し、この関係において変位量の増加に対する荷重の増加が一定とみなされる直線領域Lの一次関数f(x)=ax+bを求め、求めた一次関数f(x)の切片bを密着ばねの初張力と判断する。
【0077】
従って、本実施例の荷重測定方法は、荷重測定装置と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 荷重測定装置
5,7 把持部
9 駆動部
11 荷重測定部
13 制御部
S 密着ばね(弾性部材)

図1
図2
図3