(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
固体ロケットモータは、固体推進薬、点火装置、モータケース、排気ノズルなどで構成される。
このうちモータケースは、固体推進薬を内部に収容する圧力容器であり、中空円筒形の円筒部と、その前後に設けられたドーム部とを有する。モータケースの円筒部とドーム部は、通常一体的に製造される。
【0003】
一方、円筒部とドーム部を別々に製造し、結合してモータケースを完成する場合がある。かかるモータケースを以下「分割型モータケース」と呼ぶ。
分割型モータケースは、例えば特許文献1,2に開示されている。
【0004】
特許文献1は、モータケースの円筒部の後端内側にノズルの円筒形部分を挿入し、その抜け止めにキー部材を用いている。
特許文献2は、モータケースの円筒部の後端内側に機軸を中心とする雌ねじを設け、これとドーム部の外側に設けた雄ねじとを螺合して結合している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の分割型モータケースでは、円筒部とドーム部の結合手段として、キー部材、ねじ部材、又は接着材を用いていた。
【0007】
固体推進薬の着火により、モータケースの内部は、高温かつ高圧となり、分割型モータケースの結合部分には、機軸方向に大荷重が作用する。また、高温と高圧により、円筒部とドーム部の結合部分が変形する。
そのため円筒部とドーム部の結合手段は、これらの過酷な環境に対応できる必要がある。
【0008】
結合手段がキー部材の場合、ノズルの円筒形部分の変形を抑えるため、円筒形部分を厚くする必要がある。また、結合手段がねじ部材の場合、機軸を中心とする大径のねじを用いる必要がある。そのため、キー部材やねじ部材の場合、結合部分が大型化し、かつ重量が大きくなる。
また結合手段として接着材を用いる場合、その強度特性の安定性や信頼性が低く、かつ経年変化の影響も大きい。
【0009】
また、従来の分割型モータケースは、所望の円筒部とドーム部にそれぞれ適した治具を準備し、それぞれ1つずつ別々に製造していた。そのため、製造コストが高かった。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、安定性及び信頼性の高い結合手段で円筒部とドーム部を結合することができ、軽量化、高性能化、及び低コスト化が可能である分割型モータケース
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、
軸線を中心とする中空円筒形の円筒部と、
前記円筒部の端部に外縁が着脱可能に結合されその内側を塞ぐドーム部と、を備え、
前記ドーム部は、前記軸線の一方向に突出する鏡板部と、
前記鏡板部の半径方向外方端部に固定され前記軸線に沿って外方に延びる中空円筒形のスカート部と、を有し、
前記鏡板部は、一体に成型された鏡板と内部インシュレータを有しており、
前記円筒部は、前記端部に前記スカート部の外面に密着して嵌合する中空円筒形の嵌合内面を有し、
さらに、前記円筒部の前記端部と前記スカート部とを貫通して挟持する結合ファスナと、
前記スカート部の前記外面と前記嵌合内面の間を気密にシールするシール部材とを備え、内部に固体推進薬を収納する分割型モータケースの製造方法であって、
(A)前記円筒部と、前記円筒部の前端部に外縁が固定されその内側を塞ぐ前方ドーム部とが一体に成型された1対の前側モータケースを、前記円筒部の後端部を連結した状態で一体に成型し、次いで、前記後端部で切断する第1ステップと、
(B)1対の前記鏡板部を、内部インシュレータの外縁を連結した状態で一体に成型し、次いで、前記外縁で切断する第2ステップと、
(C)前記前側モータケースの前記後端部に、前記ドーム部の前記外縁を結合する第3ステップと、を有する、分割型モータケースの製造方法が提供される
。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明によれば、結合ファスナ(例えば、ボルトとナット、リベット)が、スカート部と円筒部端部(外殻端部)とを貫通して挟持する。これにより、結合されたスカート部と円筒部端部により、スカート部の先端部に作用する機軸方向荷重(スラスト力)を円筒部にスムースに伝達することができる。
【0014】
従って、内圧に起因する機軸方向荷重を伝達できる限りで、スカート部と円筒部端部を薄肉化できる。
【0015】
また、スカート部は、中空円筒形なので、薄肉であっても機軸方向の大荷重を円筒部に伝達することができる。
さらに、スカート部の剛性が高いので、内圧に起因する変形を抑えることができ、シール部材によるスカート部と円筒部の間のシール性能を維持することができる。
【0016】
従って、円筒部に、鏡板部の半径方向外方端部に固定されたスカート部を安定性及び信頼性の高い結合手段で結合することができ、軽量化及び高性能化が可能である。
【0017】
また、本発明の方法によれば、1対の前側モータケースと1対のドーム部を、それぞれ一体に成型後に切断して製造するので、低コスト化が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明による分割型モータケース100の実施形態図である。
この図において、分割型モータケース100は、内部に固体推進薬1を収納するモータケースであり、円筒部10、ドーム部20、及びノズル部30を有する。
【0021】
円筒部10は、分割型モータケース100の軸線Z−Zを中心とする中空円筒形である。
【0022】
ドーム部20は、円筒部10の端部(この例では両端部)に外縁(
図3のスカート部24)が着脱可能に結合されその内側を塞ぐ。この例でドーム部20は、円筒部10の前端部に固定された前方ドーム部20Aと、円筒部10の後端部に固定された後方ドーム部20Bとからなる。
なお、前方ドーム部20Aと後方ドーム部20Bは、いずれか一方のみでもよい。以下、区別が必要な場合を除き、両方を単に「ドーム部20」と呼ぶ。
【0023】
ノズル部30は、この例では、後方ドーム部20Bの中心部に固定されている。
なお、ノズル部30の位置はこの位置に限定されず、その他でもよい。またノズル部30は必須ではなくこれを省略してもよい。
【0024】
図2は、
図1のA部拡大図であり、
図3は、
図2の分解図である。
図2、
図3において、ドーム部20は、鏡板部22とスカート部24を有する。
【0025】
鏡板部22は、半球形状であり、軸線Z−Zの一方向(外方、図で右方)に突出する。鏡板部22は、一体に成型された鏡板22aと内部インシュレータ23とからなる。
「一体に成型」とは、同時に一体成型することと、別々に成型したものを一体にすることの両方を意味する。
【0026】
鏡板22aは、好ましくはフィラメントワインディングで製造されたCFRP及びシート状のCFRPからなる。鏡板22aは、鏡板部22に作用する内圧に耐える強度を有し、その力をスカート部24に伝達する。
【0027】
内部インシュレータ23は、鏡板部22の内面に一体に成型されている。内部インシュレータ23は、内部で発生する高温を断熱して鏡板22aの過熱を防止する。
内部インシュレータ23は、高温のガスと粒子に対して耐性の高いEPDM等のゴム配合物に繊維(例えばアラミド繊維)が混ぜ込まれているのがよい。
【0028】
スカート部24は、軸線Z−Zを中心とする中空円筒形であり、鏡板部22の半径方向外方端部に固定され、軸線Z−Zに沿って外方(図で右方)に延びる。スカート部24は、引張強度の高い金属製(例えばチタン合金)であることが好ましい。
この例では、鏡板部22の半径方向外方端部の外面とスカート部24の内面との間に応力緩和ゴム25が接着されている。
【0029】
上述した鏡板部22の構成により、鏡板部22に作用する内圧を、鏡板部22の半径方向外方端部から応力緩和ゴム25を介して、スカート部24の先端部24aに伝達することができる。
スカート部24の先端部24aは、鏡板部22から応力緩和ゴム25を介してラジアル力FRとスラスト力FSを受ける。
スカート部24は、このラジアル力FRとスラスト力FSによる変形と内部応力が許容範囲になるように設定されている。
【0030】
図2、
図3において、円筒部10は、一体に成型された外殻12、内部インシュレータ14、及びシールリング16を有する。
【0031】
外殻12は、好ましくはフィラメントワインディングで製造されたCFRP及びシート状のCFRPからなる。外殻12は、内部で発生する高圧及びスカート部24から伝達されるスラスト力FSに耐え、その変形と内部応力が許容範囲になるように設定されている。
【0032】
内部インシュレータ14は、外殻12の内面に一体に成型されている。内部インシュレータ14は、内部で発生する高温を断熱して外殻12の過熱を防止する。
内部インシュレータ14は、内部インシュレータ23と同様に、高温のガスと粒子に対して耐性の高いEPDM等のゴム配合物に繊維(例えばアラミド繊維)が混ぜ込まれているのがよい。
【0033】
外殻12は、その端部(以下、「外殻端部12a」)に中空円筒形の嵌合内面13を有する。嵌合内面13は、スカート部24の外面に密着して嵌合する。
【0034】
シールリング16は、嵌合内面13の軸方向内端部に設けられている。シールリング16は、内面が軸線Z−Zに平行に形成され、円筒部10に一体に成型されている。シールリング16は、引張強度の高い金属製(例えばチタン合金)であることが好ましい。
シールリング16は、シール部を構成する部品である。シールリング16は、シール性を保持するために表面に凹凸のないフラット面を有する。また、シールリング16は、質量、腐食などの特別な条件を満たす限りで金属材料が好ましい。
【0035】
分割型モータケース100は、さらに、結合ファスナ32とシール部材34を備える。
【0036】
この例において、スカート部24は、シールリング16の内面と嵌合する先端部24aと、先端部24aにシール部材34を収容するシール溝24bと、を有する。
【0037】
シール部材34は、例えばOリングであり、スカート部24の外面と嵌合内面13の間を気密にシールする。
【0038】
結合ファスナ32は、例えばボルトとナット又はリベットであり、円筒部10の端部(外殻端部12a)とスカート部24とを半径方向に貫通して挟持する。結合ファスナ32は、半径方向に貫通する貫通穴に対し隙間がほとんどなく設定されている。これにより、内圧に起因する機軸方向荷重(スラスト力FS)は、外殻端部12aとスカート部24の間の摩擦力と結合ファスナ32に作用するせん断力により円筒部10に伝達される。
【0039】
上述した分割型モータケース100の構成により、結合ファスナ32(例えば、ボルトとナット、リベット)が、スカート部24と外殻端部12aとを貫通して挟持する。この構成により、結合されたスカート部24と外殻端部12aにより、スカート部24の先端部24aに作用する機軸方向荷重(スラスト力FS)を円筒部10にスムースに伝達することができる。
【0040】
従って、内圧に起因する機軸方向荷重を伝達できる限りで、スカート部24と円筒部端部を薄肉化できる。
【0041】
また、スカート部24が金属製であり剛性が高いので、内圧に起因する変形を抑えることができ、シール部材34によるスカート部24と円筒部10の間のシール性能を維持することができる。
【0042】
従って、円筒部10に、ドーム部20の半径方向外方端部に固定されたスカート部24を安定性及び信頼性の高い結合手段で結合することができ、軽量化及び高性能化が可能である。
【0043】
図4は、本発明による分割型モータケース100の製造方法のフロー図である。また、
図5は、成形工程の説明図であり、
図6は、結合工程の説明図である。
【0044】
図4において、本発明の製造方法は、第1ステップS1、第2ステップS2、第3ステップS3からなる。
【0045】
第1ステップS1は、S11〜S14の各ステップ(工程)からなる。
ステップS11では、1対の前側モータケース40に適合する第1マンドレル42を準備する。
前側モータケース40は、円筒部10と、円筒部10の前端部に外縁が固定されその内側を塞ぐ前方ドーム部20Aとが一体に成型されたモータケースの部分である。この場合、円筒部10と前方ドーム部20Aは、一体であるのがよい。
【0046】
図5(A)において、第1マンドレル42は、互いに連結された部分マンドレル42a,42b,42cからなる。
【0047】
ステップS12では、第1マンドレル42の外周面に内部インシュレータ14と1対のシールリング16を成型する。この際、内部インシュレータ14とシールリング16は一体に成型する。
【0048】
次いで、ステップS13では、内部インシュレータ14とシールリング16の外周面にフィラメントワインディングにより製造されたCFRP及びシート状のCFRPにより圧力容器と継手部を施工する。ここで、「施工する」とは、CFRP材(生材)を巻き付け、その後熱負荷等により硬化・成型させることを意味する。
【0049】
次いで、ステップS14では、
図5(A)の矢印で示す後端部で切断する。この後端部は、
図3の外殻12の右端面に相当する。
【0050】
上述した第1ステップS1により、円筒部10と、円筒部10の前端部に外縁が固定されその内側を塞ぐ前方ドーム部20Aとが一体に成型された1対の前側モータケース40を、円筒部10の後端部を連結した状態で一体に成型し、次いで、後端部で切断する。なお切断部分は、
図3に示すように成形する。
この第1ステップS1により、1対の前側モータケース40を同時に製造することができる。
【0051】
第2ステップS2は、S21〜S26の各ステップ(工程)からなる。
ステップS21では、1対のドーム部20に適合する第2マンドレル44を準備する。
図5(B)において、第2マンドレル44は、単一のマンドレルであるが、単一でなくてもよい。
【0052】
次いで、ステップS22では、第2マンドレル44の外周面に内部インシュレータ23を一体に成型する。
次いで、ステップS23では、内部インシュレータ23の外周面にCFRPからなる鏡板22aを、フィラメントワインディング及び積層で一体に成型する。
【0053】
次いで、ステップS24では、鏡板22aの外周面に1対の応力緩和ゴム25を一体に成型する。
次いで、ステップS25では、応力緩和ゴム25の外周面に1対のスカート部24を接合する。
次いで、ステップS26では、
図5(B)の矢印で示す内部インシュレータ23及び鏡板22aの外縁で切断する。この外縁は、
図3の内部インシュレータ23の左端面に相当する。
【0054】
なお、第2ステップS2のステップS24〜S26の代わりに、ステップS27,S28であってもよい。
ステップS27では、
図5(C)の矢印で示す内部インシュレータ23及び鏡板22aの外縁で切断する。この外縁は、
図3の内部インシュレータ23の左端面に相当する。
次いで、ステップS28では、
図5(D)のように、鏡板22aの外周面に1対の応力緩和ゴム25と1対のスカート部24を接着する。
【0055】
上述した第2ステップS2により、1対のドーム部20を、内部インシュレータ23の外縁を連結した状態で一体に成型し、次いで、外縁の連結位置で切断する。なお切断部分は、
図3に示すように成形する。
この第2ステップS2により、1対のドーム部20を同時に製造することができる。
【0056】
第3ステップS3では、前側モータケース40の後端部に、ドーム部20の外縁を結合する。
すなわち、
図6(A)に示すように、第1ステップS1で製造した前側モータケース40と、第2ステップS2で製造したドーム部20とを準備し、
図6(B)に示すように連結し、
図2に示すように結合ファスナ32を用いて結合する。
上述した方法によれば、1対の前側モータケース40と1対のドーム部20を、それぞれ一体に成型後に切断して製造するので、円筒部とドーム部にそれぞれ適した治具を準備し、それぞれ1つずつ別々に製造する場合と比較して、低コスト化が可能となる。
【0057】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
Z−Z 軸線、1 固体推進薬、10 円筒部、12 外殻、
12a 外殻端部、13 嵌合内面、14 内部インシュレータ、
16 シールリング、20 ドーム部、20A 前方ドーム部、
20B 後方ドーム部、22 鏡板部、22a 鏡板、
23 内部インシュレータ、24 スカート部、24a 先端部、
24b シール溝、25 応力緩和ゴム、30 ノズル部、
32 結合ファスナ、34 シール部材、40 前側モータケース、
42 第1マンドレル42a,42b,42c 部分マンドレル、
44 第2マンドレル、100 分割型モータケース